説明

秘密分散法および復元法

【課題】音声信号や光信号に耳障りな雑音を重畳させることなく、秘密情報を可変時間上の任意の位置に容易に埋め込み、秘密分散および復元を可能にする。
【解決手段】メッセージW(n)に対応するF(n)の値Fkを対応表12から求める。透かし情報変換部14は、メッセージW(n)を分散させたメッセージ分散情報W1(n)=Δf1(n)=R(n)、W2(n)=Δf2=R(n)−Fkを出力する。透かし埋め込み部15,16は、タイムスロット分割された音声信号S(n)の周波数f(n)をf(n)+Δf1(n)、f(n)+Δf2(n)に偏移させた分散情報S1(n)、S2(n)を出力する。タイムスロットをつなぎ合わせた信号S1(t)、S2(t)が分散情報1、2となる。メッセージW(n) は分散情報1、2を同時に再生すればうなりとして復元できる。また、周波数差を演算で求めても復元できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、秘密分散法および復元法に関し、特に、メッセージを秘密裡に同一の2つの音声信号に分散して埋め込んで二種類の秘密分散音声信号を生成し、復号する秘密分散法およびその復元法に関する。
【背景技術】
【0002】
秘密分散法としては、画像情報に対する視覚的秘密分散法が非特許文献1で提案されている。ここで提案された方法は、複数の画像を光学的に重ね合わせることで元の画像情報を復元でき、復元に計算が不要であるという特徴がある。
【0003】
その他にも、種々の視覚的秘密分散法が提案されている。例えば、非特許文献2では、濃度パターン法と呼ばれるハーフトーン技術を用いて分散情報に2値擬似濃淡画像を使用する方法が提案されている。この方法では濃淡画像と共に秘密情報を入力し、秘密情報を分配しながら濃度パターン法により2値擬似濃淡画像を2枚同時に生成する。
【0004】
また、視覚的秘密分散法に関する特許文献には、特許文献1、2がある。特許文献1、2で提案された方法では、秘密情報を復元する権限がn枚の分散画像で平等ではなく、復元のためのアクセス構造が任意のグラフに基づいて決められている。n枚の分散画像から2枚の画像を選んで重ね合わせたとき、2頂点の拒離に応じて異なる秘密画像を復元することが可能であり、運用性に優れている。
【0005】
また、非特許文献3では、音声信号へ秘密情報を分散させて埋め込む方法として、同振幅値、同周波数の2つの音声信号の位相を埋め込み情報に応じて反転させる方法が提案されている。これによれば、2つの音声信号を同時に再生させた場合、反転させた位相の影響で音声信号の波の振幅値が2倍になったり0になったりするので、音量の時間的変化として秘密情報を復元できる。
【特許文献1】特開2002−358013号公報
【特許文献2】特開2003−198526号公報
【非特許文献1】M.Noar, A.Shamir,“Visual Cryptography”Proc. Eurocrypt'94, pp.1-12, 1994.
【非特許文献2】岡一博,中村康弘,松井甲子雄,“濃度パターン法を用いたハードコピー画像への署名の埋め込み”,信学論,Vol.J79-D-2,No.9, pp1624-1626, 1996.
【非特許文献3】Y.Desmedt, S.Hou, and J.-J.Quisquater. Audio and optical cryptography. Advances in Cryptology-ASIACRYPT’98, LNCS 1514, Springer-Verlag, pages 392,404, 1998.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2および非特許文献1,2で提案された秘密分散法は、画像情報を対象とする視覚的秘密分散法であり、音声信号や光信号に秘密情報を埋め込むことは考慮されていない。音声信号や光信号は情報伝送に多用されており、これらに秘密情報を埋め込めれば、メッセージを秘密裡に伝送し得る媒体が増大するので秘密分散法の利用が容易になる。
【0007】
非特許文献3で提案された秘密分散法は、音声信号に秘密情報を埋め込むものであるが、秘密情報を音声信号の位相の反転として埋め込んでいる。この方法で秘密情報を単振動の音声信号に埋め込んだ場合、埋め込みにより位相が反転する箇所で高周波成分が発生し、結果としてプツッという耳障りな雑音が重畳されて聞こえるという課題がある。
【0008】
また、単振動でない一般的な音楽の音声信号に秘密情報を埋め込んだ場合、振幅値が0でない任意の瞬間に位相(振幅値)を反転させて秘密情報を埋め込むと、同様に、その箇所の音声信号に雑音が重畳されて聞こえるため、可変時間上の任意の位置に秘密情報を埋め込むことができないという課題がある。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決し、音声信号や光信号に耳障りな雑音を重畳させることなく、可変時間上の任意の位置に容易に秘密情報を埋め込み、復元できる秘密分散法および復元法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、メッセージを復元可能に分散させることで該メッセージの漏洩を防ぐ秘密分散法において、前記メッセージを分散させたメッセージ分散情報に応じて周波数偏移Δf1およびΔf2を設定し、音声信号を任意長のタイムスロットに分割し、分割されたタイムスロットごとに音声信号の周波数fを、f1=f+Δf1およびf2=f+Δf2に偏移させて二種類の秘密分散音声信号を生成する点に第1の特徴がある。
【0011】
また、本発明は、1つのメッセージ分散情報に対して|Δf1−Δf2|を所定の固定値とするΔf1対応の値とΔf2対応の値の組を複数用意しておき、それらの組のうちからランダムに1組を選択して二種類の秘密分散音声信号の生成に使用する点に第2の特徴がある。
【0012】
また、本発明は、音声信号をサブバンド分割し、特定のサブバンドの音声信号に対して第1または第2の特徴の秘密分散法を実行し、その後、サブバンド合成することにより二種類の秘密分散音声信号を生成する点に第3の特徴がある。
【0013】
また、本発明は、上記第1または第2の特徴の秘密分散法により生成された秘密分散音声信号を時間同期させて同時に再生し、時間的に変化するうなりの有無、またはうなり周波数の違いによってメッセージを復元する点に第4の特徴がある。
【0014】
また、本発明は、上記第3の特徴の秘密分散法により生成された秘密分散音声信号よりメッセージを復元するに際し、秘密分散法が実行されたサブバンドの音声信号を時間同期させて同時に再生し、その際の再生速度を変更可能にした点に第5の特徴がある。
【0015】
なお、本発明では、秘密分散法により生成された秘密分散音声信号における周波数差を求めることによりメッセージを復元することもできる。また、音声信号に代えて光信号を用いることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、音声信号を任意長のタイムスロットに分割し、分割されたタイムスロットごとの同一の音声信号の相対的な周波数偏移としてメッセージを埋め込むので、二種類の秘密分散音声信号の生成が容易である。また、うなり現象を聴取したり周波数差を求めることにより容易に元のメッセージを復元できる。
【0017】
また、メッセージを音声信号の周波数の偏移として埋め込むので、周波数が偏移する箇所での振幅値変化は、メッセージの埋め込み前と同様であり、その箇所の音声信号に耳障りな雑音が重畳されることがない。
【0018】
また、タイムスロットの区切り方には自由度があり、タイムスロット長は任意に設定できるので、任意の可変時間上にメッセージを埋め込むことができる。
【0019】
さらに、1つのメッセージに対して、同じうなり周波数を生成する第1および第2の操作量の組を複数用意しておき、それらの組のうちからランダムに1組を選択して二種類の秘密分散音声信号の生成に使用するようにすることにより、生成された単一の分散情報からは元のメッセージの特徴を全く類推できないようにメッセージを埋め込むことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を説明する。図1は、本発明による秘密分散法が適用された第1の実施形態であるエンコーダを示すブロック図である。以下ではメッセージを音声信号に埋め込む例を説明するが、音声信号に代えて光信号を用いることもできる。
【0021】
同図に示すように、音声信号S(t)をタイムスロット分割部11に入力し、タイムスロット分割された各音声信号S(n)(n=1,2,・・・)を透かし埋め込み部15、16に入力する。ここで、あるタイムスロット分割されたスロットの音声信号S(n)の周波数をf(n)とする。なお、音声信号S(t)は、単振動のものでも、一般的な音楽のように単振動でないものでもよい。
【0022】
また、メッセージW(n)={0,1,・・・,p}とF(n)の値Fk(k=0,1,・・・,p)の対応テーブル12を予め作成しておく。図2は、対応テーブル12の例であり、メッセージW(n)=0,1,・・・,pに対してF(n)の値Fk=F0,F1,・・・,Fpがそれぞれ格納されている。
【0023】
メッセージW(n)は、p=1の場合、バイナリ{0,1}であり、p>1の場合、多値となる。ここで、Fkは各メッセージW(n)に対して設定された定数であり、後述から明らかなように、うなり周波数を表す。W(n)=kの時のうなり周波数はFkである。
【0024】
メッセージW(n)に対応するF(n)の値Fkを対応表12から求め、透かし情報変換部14に入力する。透かし情報変換部14には、乱数生成部13からの乱数系列R(n)も入力する。
【0025】
メッセージW(n)を分散させたメッセージ分散情報をW1(n)、W2(n)とすると、透かし情報変換部14は、各メッセージW(n)に対しW1(n)=Δf1(n)、W2(n)=Δf2(n)と定義される2つのメッセージ分散情報W1(n)、W2(n)を出力する。ここで、Δf1(n)、Δf2(n)は、音声信号S(n)に与える周波数偏移を表す。
【0026】
メッセージ分散情報W1(n)、W2(n)は、W(n)=kの時、W1(n)=Δf1(n)=R(n)、W2(n)=Δf2=R(n)−Fkである。例えば、W(n)=0の時、W1(n)=Δf1(n)=R(n)、W2(n)=Δf2=R(n)−F0であり、W(n)=1の時、W1(n)=Δf1(n)=R(n)、W2(n)=Δf2=R(n)−F1であり、W(n)=pの時、W1(n)=Δf1(n)=R(n)、W2(n)=Δf2(n)=R(n)−Fpである。ここで、メッセージW(n)の復元法によっては、後述する理由により、0≦|Fk|≦10Hz(k=0,1,・・・,p)程度が好ましい。
【0027】
透かし情報変換部14からの2つのメッセージ分散情報W1(n)=Δf1(n)、W2(n)=Δf2をそれぞれ、透かし埋め込み部15、16に入力する。透かし埋め込み部15は、タイムスロット分割された音声信号S(n)の周波数f(n)をf(n)+Δf1(n)に偏移させた分散情報S1(n)を出力し、透かし埋め込み部16は、音声信号S(n)の周波数f(n)をf(n)+Δf1(n)に偏移させた分散情報S2(n)を出力する。
【0028】
入力されるメッセージW(n)をタイムスロット分割された各音声信号S(n)に埋め込む上記の処理を連続して実行し、タイムスロットをつなぎ合わせた連続信号S1(t)、S2(t)を分散情報1、2として生成する。
【0029】
以上にようにして生成された分散情報1(S1(t))、2(S2(t))を時間同期して同時に再生すればうなりの有無、あるいはうなりの変化として聴覚によりメッセージを復元できる。また、分散情報1、2の周波数差を演算により求めればうなり周波数の時間的な変化としてメッセージを復元できる。
【0030】
0≦|Fk|≦10Hz(k=0,1,・・・,p)程度が好ましいとしたのは、分散情報1、2を時間同期して同時に再生して聴取する場合に、うなりとして聴取できるようにするためである。つまり分散情報1、2の周波数差が余り大きいと別々の音声として聴取されてしまうことになるからである。なお、分散情報1、2の周波数差を演算により求めてメッセージを復元する場合には、上記のような制限はないが、音声信号の周波数偏移は音高変化として現れるので、音高変化の許容値に応じて設定する。
【0031】
本実施形態において、メッセージW(n) の各値でのうなり周波数Fkは互いに他と重ならない一定範囲を指定してもよい。また、指定された一定範囲内からメッセージW(n)の埋め込み時に定数Fkを決定してもよい。
【0032】
例えば、バイナリ(2値)のメッセージW(n)が埋め込まれる場合、うなり周波数の違いではなく、うなりの有無により復元できる。すなわち、まず、FO=0、1≦|F1|≦10を設定し、次に、1≦|F1|≦10から任意の定数F1を選択すれば、うなりが聴取されない時(F0=0)とうなりが聴取される時(1≦|F1|≦10)が現れ、うなりの有無でバイナリのメッセージを復元できる。
【0033】
W(n)=k(k=0,1,・・・,p)とし、(p+1)値情報を埋め込む場合、Δf1(n)=(Fk・b)/a、Δf2(n)=−((a−b)・Fk)/aとするのもよい。ここで、a,bは0≦b≦a、a≠0を満たす乱数とする。これによれば、乱数R(n)を足さずにΔf1(n)、Δf2(n)を生成でき、それらの絶対値は最大|Fk|となるので、音声信号の周波数のずれを|Fk|に抑えることができる。
【0034】
また、Δf1=R(n)、Δf2=R(n)−FkとΔf1=R(n)−Fk、Δf2=R(n)を適宜のタイムスロットで切り替えて用いるようにしてもよい。また、上記で−Fkと記述した部分は+Fkとしてもよく、さらに、適宜のタイムスロットでFkに対する符号を+−に切り替えるようにしてもよい。これらのいずれの場合でも、うなり周波数|Fk|が得られる。
【0035】
上記のようにして生成された分散情報1、2を時間同期して同時に再生して聴取すればうなりとしてメッセージを復元できるが、周波数差を演算により求めてもよい。
【0036】
図3は、演算によりメッセージを復元するデコーダの実施形態を示すブロック図である。同図に示すように、まず、分散情報1(S1(t))と分散情報2(S2(t))をタイムスロット分割部21、22に入力し、タイムスロットごとの分散情報S1(n)、S2(n)を生成する。
【0037】
次に、分散情報S1(n)、S2(n)の周波数f1(n)、f2(n)の差分値F(n)=|f1(n)−f2(n)|を演算部23で演算する。その後、各F(n)の値FkとW(n)の関係を示すテーブル24を参照してFkに対応するメッセージW(n)を復元する。
【0038】
例えば、メッセージW(n)がバイナリ(2値)のとき、Fk=0でW(n)=0、F>0でW(n)=1のテーブルが用意されているとすると、f1(n)=f2(n)であればF(n)=0となるので、W(n)=0が復元される。また、f1(n)≠f2(n)であればF(n)>0となるので、W(n)=1が復元される。このようにしてバイナリ情報の系列を生成することによりメッセージW(n)を復元できる。
【0039】
図4は、本発明による秘密分散法が適用された第2の実施形態であるエンコーダを示すブロック図である。第1の実施形態では1つのメッセージW(n)の値kに対して1つの秘密分散パターン、つまりR(n)とR(n)−Fkからなるパターンを与えているが、本実施形態では、1つのメッセージW(n)の値に対して複数の秘密分散パターンの組を準備し、それらの組をランダムに切り替える。これにより、生成された単一の分散情報からは元のメッセージの特徴を全く類推できないようにメッセージを埋め込むことが可能になる。ただし、埋め込まれるメッセージW(n)の集合が2(k=0,1,2,・・・,m)とW(n)=0のみから構成されている必要がある。
【0040】
図4において、2つの分散情報S1(n)、S2(n)を生成する場合、第1の音声信号に対する操作量をX1、第2の音声信号に対する操作量をX2とするとき、メッセージW(n)に対して、
W(n)=|X1−X2|
なる制約条件を持たせる。このとき、上記制約条件を満たすX1とX2の組は無数に存在するが、本実施形態では、以下の(1)〜(3)の手順に従って(X1,X2)組を生成する。
(1)W(n)=iとする。ここで、iは0または2(k=0,1,2,・・・,m)の自然数である。ただし、kはm以下の非負整数、mは非負整数である。
(2)X1は0以上2(m+1)−1の非負整数であり、W(n)=2を埋め込む場合、X1をm+1ビットの2進数表現したとき、2進数表現されたX1の下位から(k+1)ビット目を反転して得られる数値をX2とし、(X1,X2)組を作成する。また、X=0を埋め込む場合にはX2=X1を出力し、(X1,X2)組を作成する。このようにして作成した(X1,X2)組は上記制約条件W(n)=|X1−X2|を満たしており、X1とX2の集合は等しくなっている(集合{X1}=集合{X2})。
(3)予めW(n)と(X1,X2)組の対応テーブル32を作っておく。1つのW(n)の値に対し、(X1,X2)組は2(m+1)個存在している。
【0041】
次に、以下の(4)〜(5)の手順に従い、乱数を用いて(X1,X2)組を選択し、タイムスロット分割部31でスロット分割された音声信号S(n)に埋め込む。
(4)F(n)=|Δf1(n)−Δf2(n)|とする。F(n)は実際に聴取されるうなり周波数である。W1(n)=Δf1(n)、W2(n)=Δf2(n)と定義する。
【0042】
図4においてW(n)を埋め込みたいとき、W(n)と(X1,X2)組の対応テーブル32を参照し、W(n)に対応する2(m+1)個の(X1,X2)組の侯補を調べ、該候補を透かし情報変換部34に出力する。
【0043】
透かし情報変換部34は、乱数生成部33からの一様乱数を用いて(X1,X2)組を1個ランダムに選択し、任意の定数a,bに対するメッセージ分散情報W1(n)=Δf1(n)=a・X1+b、W2(n)=Δf2(n)=a・X2+bを計算する。ただし、a,bは|a|<10/(2(m+1)−1)、b=−a・(2(m+1)−1)/2の周辺の値に設定するのが好ましい。これは、第1の実施形態と同様に、うなりとして聴取されるという理由による。
(5)メッセージ分散情報W1(n)=Δf1(n)、W2(n)=Δf2(n)をそれぞれ、透かし埋め込み部35、36に入力する。透かし埋め込み部35、36は、スロット分割された音声信号S(n)の周波数f(n)をf(n)+Δf1(n)、f(n)+Δf2(n)に偏移させた分散情報S1(n)、S2(n)をそれぞれ出力する。
【0044】
入力されるメッセージW(n)をタイムスロット分割された各音声信号S(n)に埋め込む上記の処理を連続して実行し、タイムスロットをつなぎ合わせた連続信号S1(t)、S2(t)を分散情報1、2として生成する。
【0045】
以下に、第2の実施形態の具体例を説明する。いずれの具体例も、W(n)=|X1−X2|を満たす。また、X1とX2の集合は等しく、各W(n)に対し2(m+1)個の(X1,X2)組が存在する。また、X1が一様な出現確率の乱数であるとすれば、X2の各値の出現確率はメッセージW(n)に依存せず一様となるので、X2からW(n)を判別するのは極めて困難になる。また、X1も一様乱数であるので、X1からW(n)を判別するのは極めて困難である。
【0046】
まず、m=0の場合、メッセージW(n)={0,1}となり、図5(a)に示す(X1,X2)組を一様乱数で選択することで秘密分散できる。つまり、この場合、(X1,X2)組の候補は、W(n)=1に対して(0,1),(1,0)、W(n)=0に対して(0,0),(1,1)となり、これらから1つの(X1,X2)組を2個の乱数を使用して選択する。
【0047】
また、m=1の場合、メッセージW(n)={0,1,2}となり、図5(b)に示す(X1,X2)組を一様乱数で選択することで秘密分散できる。つまり、この場合、(X1,X2)組の候補は、W(n)=2に対して(0,2),(1,3),(2,0),(3,1)、W(n)=1に対して(0,1),(1,0),(2,3),(3,2)、W(n)=0に対して(0,0),(1,1),(2,2),(3,3)となり、これらから1つの(X1,X2)組を4個の乱数を使用して選択する。
【0048】
また、m=2の場合、メッセージW(n)={0,1,2,4}となり、図5(c)に示す(X1,X2)組を一様乱数で選択することで秘密分散できる。つまり、この場合、(X1,X2)組の候補は、W(n)に対して(0,4),(1,5),(2,6),(3,7),(4,0),(5,1),(6,2),(7,3)、W(n)に対して(0,2),(1,3),(2,0),(3,1),(4,6),(5,7),(6,4),(7,5)、W(n)=1に対して(0,1),(1,0),(2,3),(3,2),(4,5),(5,4),(6,7),(7,6)、W(n)=0に対して(0,0),(1,1),(2,2),(3,3),(4,4),(5,5),(6,6),(7,7)となり、これらから1つの(X1,X2)組を8個の乱数を使用して選択する。
上記第2の実施形態により生成された分散情報1、2は、第1の実施形態と同様に、それらを時間同期して同時に再生することにより、うなりの有無、あるいはうなり周波数の変化として聴覚によりメッセージを復元できる。また、図3に示す構成により、分散情報1、2の周波数差を演算により求めてもメッセージを復元できる。ここで、聴取されるうなり周波数F(n)は、F(n)=|f1(n)−f2(n)|=|Δf1(n)−Δf2(n)|=|a(X1(n)−X2(n))|=|a ・W(n)|=|a|・|W(n)|となり、W(n)=F(n)/|a|の対応テーブルによりメッセージW(n)を復元できる。
【0049】
例えば、m=1で、a=2、b=−3とすると、W(n)=0のときF(n)=0、、W(n)=1のときF(n)=2、W(n)=2のときF(n)=4が求められる。W(n)=F(n)/2の対応テーブルを参照することで、W(n)=0,1,2が復元できる。このとき、Δf1={−3,−1,1,3}、Δf2={−3,−1,1,3}の集合の要素はメッセージによらず一様確率で出現する。
【0050】
また、2進数表現すると、W(n)=0のとき、(X1,X2)=(00,00),(01,01),(10,10),(11,11)、W(n)=1のとき、(X1,X2)=(00,01),(01,00),(10,11),(11,10)、W(n)=2のとき、(X1,X2)=(00,10),(01,11),(10,00),(11,01)となる。ここで、W(n)=0を埋め込むときX1=X2であり、W(n)=2を埋め込むとき、X2はX1の下位1ビット目を反転させたものになっており、W=2を埋め込むとき、X2はX1の下位2ビット目を反転させたものになっている。
【0051】
図6は、本発明による秘密分散法が適用された第3の実施形態であるエンコーダを示すブロック図である。本実施形態は、同図に示すように、音声信号S(t)をタイムスロット分割部41に入力し、タイムスロット分割された各音声信号S(n)(n=1,2,・・・)をさらに周波数帯域分割部42で複数のサブバンド音声信号Sf1(n),Sf2(n),・・・,Sfj(n)に周波数帯域分割する。
【0052】
次に、ある特定の周波数帯域のサブバンド音声信号Sfj(n)を透かし埋め込み部43、44に入力し、該サブバンド音声信号Sfj(n)に対してメッセージW(n)を埋め込む。つまり、透かし埋め込み部43、44は、メッセージW(n)が分割されたメッセージ分散情報W1(n)、W2(n)をサブバンド音声信号Sfj(n)に埋め込み、分散情報1と分散情報2をそれぞれ生成する。透かし埋め込み部43、44でのメッセージW(n)の埋め込みは、第1の実施形態または第2の実施形態と同様でよい。
【0053】
これにより生成された分散情報1、2を合成部45、46にそれぞれ入力する。メッセージW(n)が埋め込まれないサブバンド音声信号は、そのまま分散情報1、2として合成部45、46に入力する。
【0054】
合成部45、46は、周波数帯域分割部42から直接の分散情報1、2および透かし埋め込み部43、44を介して入力される分散情報1、2を合成することで分散信号1、2を生成する。
【0055】
周波数帯域分割部42は、例えば、入力音声信号S(t)を低周波帯域、いくつかの中間周波帯域、高周波帯域にサブバンド分割する。透かし埋め込み部43、44は、聴覚感度の低い低周波帯域に秘密情報W(n)を秘密分散して埋め込み、合成部45、46は、分散情報1と分散情報2の各々をサブバンド合成する。
【0056】
本実施形態によれば、聴覚感度の低い低周波帯域に秘密情報W(n)を埋め込むことができるので、元の音声の聴取に対する影響を低減できる。また、メッセージを聴覚的に復元する時には、数倍速再生することにより低周波帯域に埋め込まれた情報を聴覚特性の良い帯域に持ってくることができる。また、分散信号1、2に対しタイムスロット分割、周波数帯域分割した後、メッセージが埋め込まれた帯域の音声信号に対して、図3と同様の処理を行ってもメッセージを復元できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による秘密分散法が適用された第1の実施形態であるエンコーダを示すブロック図である。
【図2】メッセージW(n)とF(n)の値Fkの対応テーブルの例を示す図である。
【図3】秘密分散されたメッセージを演算により復元するデコーダの実施形態示すブロック図である。
【図4】本発明による秘密分散法が適用された第2の実施形態であるエンコーダを示すブロック図である。
【図5】第2の実施形態を具体的に説明するための説明図である。
【図6】本発明による秘密分散法が適用された第3の実施形態であるエンコーダを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0058】
11,21,22,31,41・・・タイムスロット分割部、12,24,32・・・対応テーブル、13,33・・・乱数生成部、14,34・・・透かし情報変換部、15,16,35,36,43,44・・・透かし埋め込み部、23・・・周波数差演算部、42・・・周波数帯域分割部、45,46・・・合成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッセージを復元可能に分散させることで該メッセージの漏洩を防ぐ秘密分散法において、
前記メッセージを分散させたメッセージ分散情報に応じて周波数偏移Δf1およびΔf2を設定し、
音声信号を任意長のタイムスロットに分割し、分割されたタイムスロットごとに音声信号の周波数fを、f1=f+Δf1およびf2=f+Δf2に偏移させて二種類の秘密分散音声信号を生成することを特徴とする秘密分散法。
【請求項2】
乱数を使用してΔf1とΔf2を乱雑化し、かつ|Δf1−Δf2|が所定の固定値となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の秘密分散法。
【請求項3】
前記所定の固定値が複数あることを特徴とする請求項2に記載の秘密分散法。
【請求項4】
1つのメッセージ分散情報に対して|Δf1−Δf2|を所定の固定値とするΔf1対応の値とΔf2対応の値の組を複数用意しておき、それらの組のうちからランダムに1組を選択して二種類の秘密分散音声信号の生成に使用することを特徴とする請求項1に記載の秘密分散法。
【請求項5】
音声信号をサブバンド分割し、特定のサブバンドの音声信号に対して請求項1または4に記載の秘密分散法を実行した後、サブバンド合成することにより二種類の秘密分散音声信号を生成することを特徴とする秘密分散法。
【請求項6】
請求項1または4に記載の秘密分散法により生成された秘密分散音声信号を時間同期させて同時に再生し、時間的に変化するうなりの有無、またはうなり周波数の違いによってメッセージを復元することを特徴とする復元法。
【請求項7】
請求項1または4に記載の秘密分散法により生成された二種類の秘密分散音声信号における周波数差を求めることによりメッセージを復元することを特徴とする復元法。
【請求項8】
請求項5に記載の秘密分散法により生成された秘密分散音声信号よりメッセージを復元するに際し、秘密分散法が実行されたサブバンドの音声信号を時間同期させて同時に再生し、その際の再生速度を変更可能にしたことを特徴とする復元法。
【請求項9】
請求項5に記載の秘密分散法が実行されたサブバンドの音声信号における周波数差を求めることによりメッセージを復元することを特徴とする復元法。
【請求項10】
音声信号に代えて光信号を用いることを特徴とする請求項1,4,5のいずれかに記載の秘密分散法。
【請求項11】
音声信号に代えて光信号が用いられていることを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載の復元法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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