説明

移動体、及びその制御方法

【課題】高い操作性を有する移動体、及びその制御方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様にかかる移動体1は、搭乗者が搭乗する搭乗席8と、搭乗席8を支持する車台13と、車台13を移動させる車輪6と、搭乗席の座面に加わる力に応じて、ヨー軸周りのモーメント、ピッチ軸周りのモーメント、及びロール軸周りのモーメントに対応する計測信号を出力するセンサと、ピッチ軸周りのモーメントに基づいて、並進成分を算出する並進成分算出部55と、ロール軸周りのモーメントに基づいて、旋回成分を算出する旋回成分算出部54と、ヨー軸周りのモーメントに基づいて、その場旋回成分を算出するその場旋回成分算出部56と、並進成分と旋回成分とその場旋回成分とを合成して、移動機構を駆動するための指令値を算出する合成部57、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体、及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、搭乗者を搭乗させた状態で移動する移動体が開発されている(特許文献1、2)。例えば、特許文献1〜3では、搭乗者が搭乗する搭乗面(座面)に力センサ(圧力センサ)を設けている。そして、力センサからの出力によって、車輪を駆動している。すなわち、力センサが操作手段となって、入力が行われている。
【0003】
特許文献1の移動体では、進みたい方向に体重をかけることで移動している。例えば、前方に進みたい場合、搭乗者が上体を前方に傾ける。すなわち、搭乗者が前傾姿勢になる。そして、前傾姿勢になると搭乗席に加わる力が変化する。そして、この力及びモーメントを力センサで検出する。力センサの検出結果によって、球状タイヤを駆動している。特許文献1の図14には、搭乗者が搭乗席に座った状態で、倒立振子制御を行っている。特許文献2には、車椅子型の移動体が開示されている。この移動体には、椅子とフットレストが設けられている。
【0004】
また、特許文献3には、利用者の動作を能動的に検知して、それに応じて自律的に動作する移動体が開示されている。例えば、複数の圧力センサによって、利用者の重心を計算している。この重心位置に応じて、車椅子形状の移動体が動作している(図2)。
【0005】
さらに、特許文献4では、2足歩行型の移動体を動作させるためのインタフェイス装置が開示されている。このインタフェイス装置は、椅子型形状を有している。そして、椅子の背面と座面に複数の力センサを設けている。4つの力センサによって、搭乗者の骨盤旋回を検知して、歩行意思を推定している。そして、力センサによって推定された歩行意志に応じて両脚を駆動している。また、このインタフェイス装置には、足置き台が設けられている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−282160号公報
【特許文献2】特開平10−23613号公報
【特許文献3】特開平11−198075号公報
【特許文献4】特開平7−136957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3では、実際に移動体に搭乗している搭乗者の姿勢によって、移動している。これにより、実際に移動している環境に応じた操作が可能になる。例えば、搭乗者は、以下のように操作を行うことができる。前進したい場合、搭乗者が前方に上体を移動させる。すなわち、搭乗者が前傾姿勢になる。すると、重心位置が前方になって、力センサに加わる力が変化する。これにより、センサが前進入力を検知する。反対に、後方に移動したい場合は、搭乗者が後傾姿勢になる。すると、重心位置が後方になり、後傾入力が検知される。また、左右に移動する場合は、搭乗者が左右方向に重心を移動する。これにより、左右の旋回入力が検知される。このように、旋回入力、前進入力、後退入力に応じて移動することができる。
【0008】
例えば、特許文献2では、4つの圧力センサを設けている。そして、前後の圧力センサの荷重差に応じて、前進入力、又は後退入力を行っている。また、左右の圧力センサへの荷重差に応じて、左右の旋回入力を行っている。そして、前進入力又は後退入力に、旋回入力が組み合わされることで、斜め方向への移動が可能となる。
【0009】
また、特許文献4では、座部と背もたれ部に2つのセンサを設けている。そして、4つのセンサに加えられる力を検出して、力の方向を検知している。そして、搭乗者の腰椎を中心とした回転運動を検出することで、歩行動作を検出している。具体的には、腰部の腰椎を中心とした回旋方向に応じて、前に出す足を決めている。すなわち、腰部の回旋方向を反転させることで、右足と左足が交互に前に出ることになる。
【0010】
しかしながら、上記の特許文献では、その場で旋回することができない。すなわち、力センサで、その場旋回成分の入力を検知することができない。従って、搭乗者が、その場で旋回したい場合でも、旋回半径が大きくなってしまうという問題点がある。
【0011】
このように、従来の移動体では、搭乗者の意図通りに、操作することができないという問題点がある。
【0012】
本発明は、高い操作性を有する移動体、及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様に係る移動体は、搭乗者が搭乗する搭乗部と、前記搭乗部を支持する本体部と、前記本体部を移動させる移動機構と、前記搭乗部の搭乗面に加わる力に応じて、ヨー軸周りのモーメント、ピッチ軸周りのモーメント、及びロール軸周りのモーメントに対応する計測信号を出力するセンサと、前記ピッチ軸周りのモーメントに基づいて、並進成分を算出する並進成分算出部と、前記ロール軸周りのモーメントに基づいて、旋回成分を算出する旋回成分算出部と、前記ヨー軸周りのモーメントに基づいて、その場旋回成分を算出するその場旋回成分算出部と、前記並進成分と前記旋回成分と前記その場旋回成分とを合成して、前記移動機構を駆動するための指令値を算出する合成部と、を備えるものである。これにより、ヨー軸周りのモーメントから、その場旋回成分を算出することができるため、より操作性を向上することができる。
【0014】
本発明の第2の態様に係る移動体は、上記の移動体であって、前記ピッチ軸周りのモーメントの値に応じて、前記合成部で合成される前記その場旋回成分の値を制限することを特徴とするものである。これにより、搭乗者の腰のひねりに応じて、その場旋回成分が制限されるため、搭乗者が意図しない方向に、移動体が移動するのを防ぐことができる。よって、操作性をより向上することができる。
【0015】
本発明の第3の態様に係る移動体は、上記の移動体であって、前記搭乗者が後傾姿勢となって後退入力を操作した場合では、前記搭乗者が前傾姿勢となって前進入力を操作した場合よりも、前記その場旋回成分の値が制限されていることを特徴とするものである。これにより、後退するときに搭乗者が後方を確認した場合でも、搭乗者の意図する方向に移動体が移動する。よって、操作性をより向上することができる。
【0016】
本発明の第4の態様に係る移動体の制御方法は、搭乗者が搭乗する搭乗部と、前記搭乗部を支持する本体部と、前記本体部を移動させる移動機構と、を備える移動体の制御方法であって、前記搭乗部の搭乗面に加わる力に応じて、ヨー軸周りのモーメント、ピッチ軸周りのモーメント、及びロール軸周りのモーメントに対応する計測するステップと、前記計測するステップで計測されたピッチ軸周りのモーメントに基づいて並進成分を算出し、前記計測するステップで計測された前記ロール軸周りのモーメントに基づいて、旋回成分を算出し、前記計測するステップで計測された前記ヨー軸周りのモーメントに基づいて、その場旋回成分を算出し、前記並進成分と前記旋回成分と前記その場旋回成分とを合成して、前記移動機構を駆動するための指令値を算出するステップと、を備えるものである。これにより、ヨー軸周りにモーメントから、その場旋回成分を算出することができるため、より操作性を向上することができる。
【0017】
本発明の第5の態様に係る移動体の制御方法は、上記の制御方法であって、前記ピッチ軸周りのモーメントの値に応じて、前記その場旋回成分の値を制限することを特徴とするものである。これにより、搭乗者の腰のひねりに応じて、その場旋回成分が制限されるため、搭乗者が意図しない方向に、移動体が移動するのを防ぐことができる。よって、操作性をより向上することができる。
【0018】
本発明の第6の態様に係る移動体の制御方法は、上記の制御方法であって、前記搭乗者が後傾姿勢となって後退入力を操作した場合では、前記搭乗者が前傾姿勢となって前進入力を操作した場合よりも、前記その場旋回成分の値が制限されていることを特徴とするものである。これにより、後退するときに搭乗者が後方を確認した場合でも、搭乗者の意図する方向に移動体が移動する。よって、操作性をより向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い操作性を有する移動体、及びその制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る小型車両の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0021】
発明の実施の形態1.
実施形態1に係る移動体1について、図1、図2を用いて説明する。図1は、移動体1の構成を模式的に示す正面図であり、図2は、移動体1の構成を模式的に示す側面図である。なお、図1、及び図2には、XYZの直交座標系が示されている。Y軸が移動体1の左右方向を示し、X軸が移動体1の前後方向を示し、Z軸が鉛直方向を示している。従って、X軸がロール軸に対応し、Y軸がピッチ軸、Z軸がヨー軸となる。図1、2において、+X方向が移動体1の前方向であるとして説明する。
【0022】
図1に示すように移動体1は、搭乗部3、及び車台13を有している。車台13は、移動体1の本体部であり、搭乗部3を支持している。車台13は、車輪6、フットレスト10、筐体11、制御計算部51、バッテリ52等を備えている。車輪6は、前輪601と後輪602から構成されている。ここでは、1つの前輪601と2つの後輪602からなる3輪型の移動体1を説明する。
【0023】
搭乗部3は、搭乗席8、及び力センサ9を有している。そして、搭乗席8の上面が座面8aとなる。すなわち、座面8aの上に、搭乗者が乗った状態で移動体1が移動する。座面8aは平面でもよいし、臀部の形に合わせた形状となっていてもよい。さらに、搭乗席8に背もたれを設けてもよい。乗り心地を向上するために、搭乗席8にクッション性を持たせてもよい。移動体1が水平面上にある場合、座面8aが水平になっている。力センサ9は、搭乗者の体重移動を検知する。すなわち、力センサ9は、搭乗席8の座面8aに加わる力を検出する。そして、力センサ9は、座面8aに加わる力に応じた計測信号を出力する。力センサ9は、搭乗席8の下側に配置される。すなわち、車台13と搭乗席8の間に、力センサ9が配設されている。
【0024】
力センサ9としては、例えば、6軸力センサを用いることができる。この場合、図3に示すように、3軸方向の並進力(SFx、SFy、SFz)と各軸周りのモーメント(SMx、SMy、SMz)を計測する。これらの並進力とモーメントは、力センサ9の中心を原点に取った値である。移動体1のセンサ処理部に出力する計測信号をモーメント(Mx、My、Mz)とし、それらのモーメントの制御座標原点を図2に示す(a、b、c)とすると、Mx、My、Mzは、それぞれ以下のように表すことができる。
Mx=SMx+c・SFy−b・SFz
My=SMy+a・SFz−c・SFx
Mz=SMz+b・SFx−a・SFy
なお、図3は、各軸を説明するための図である。力センサ9として、モーメント(Mx、My、Mz)を計測できるものであればよい。各軸周りのモーメント(SMx、SMy、SMz)を計測できる3軸力センサを制御座標原点に配置して、Mx,My、Mzを直接計測してもよい。また、1軸の力センサを3つ設けてもよい。さらには、歪みゲージや、ポテンショを用いたアナログジョイスティックなどでもよい。すなわち、直接的又は間接的に3軸周りのモーメントを計測できるものであればよい。そして、力センサ9は、3つのモーメント(Mx、My、Mz)を計測信号として出力する。
【0025】
移動体1の本体部分となる車台13には、車輪6、フットレスト10、筐体11、制御計算部51、及びバッテリ52等が設けられている。筐体11は、箱形状を有しており、前方下側が突出している。そして、この突出した部分の上にフットレスト10が配設されている。フットレスト10は、搭乗席8の前方側に設けられている。従って、搭乗者が搭乗席8に搭乗した状態では、搭乗者の両足がフットレスト10上に乗せられている。
【0026】
筐体11には、駆動モータ603、制御計算部51、及びバッテリ52が内蔵されている。バッテリ52は、駆動モータ603、制御計算部51、及び力センサ9などの各電気機器に電源を供給する。
【0027】
筐体11には、車輪6が回転可能に取り付けられている。ここでは、円盤上の車輪6が3つ設けられている。車輪6の一部は、筐体11の下面よりも下側に突出している。従って、車輪6が床面と接触している。2つの後輪602は、筐体11の後部に設けられている。後輪602は、駆動輪であり、駆動モータ603によって回転する。すなわち、駆動モータ603が駆動することによって、後輪602がその車軸周りに回転する。後輪602は、左右両側に設けられている。なお、後輪602には、その回転速度を読み取るためのエンコーダが内蔵されている。左の後輪602の車軸と、右の後輪602の車軸は、同一直線上に配置されている。
【0028】
また、車輪6には前輪601が含まれている。そして、1つの前輪601が筐体11の前部中央に設けられている。従って、Y方向において、2つの後輪602の間に、前輪601が配設されている。X方向において、前輪601の車軸と後輪602の車軸との間に、搭乗席8が設けられている。前輪601は、従動輪(補助輪)であり、移動体1の移動に応じて回転する。すなわち、後輪602の回転によって移動する方向、及び速度に応じて、前輪601が回転する。このように、後輪602の前に補助輪である前輪601を設けることで、転倒を防ぐことができる。前輪601は、フットレスト10の下方に設けられている。
【0029】
制御計算部51はCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信用のインタフェイスなどを有する演算処理装置である。また、制御計算部51は、着脱可能なHDD、光ディスク、光磁気ディスク等を有し、各種プログラムや制御パラメータなどを記憶し、そのプログラムやデータを必要に応じてメモリ(不図示)等に供給する。もちろん、制御計算部51は、物理的に一つの構成に限られるものではない。制御計算部51には、力センサ9からの出力に応じて駆動モータ603の動作を制御するための処理を行う。
【0030】
次に、移動体1を移動させるための制御系について、図4を用いて説明する。図4は、移動体1を移動させるための制御系の構成を示すブロック図である。まず、力センサ9によって、座面8aにかかる力を検出する。ここでは、上記の通り、力センサ9は、計測信号であるモーメントMx、My、Mzをセンサ処理部53に出力する。センサ処理部53は、力センサ9からの計測信号に対して処理を行う。すなわち、力センサ9から出力される計測信号に対応する計測データに対して、演算処理を行う。これにより、制御計算部51に入力される入力モーメント値(Mx'、My'、Mz')が算出される。なお、センサ処理部53は、力センサ9に内蔵されていてもよく、制御計算部51に内蔵されていてもよい。
【0031】
このように、力センサ9で計測されたモーメント(Mx、My、Mz)が各軸周りの入力モーメント値(Mx'、My'、Mz')に変換される。そして、入力モーメント値が各後輪602を動作させるために入力される入力値となる。このように、センサ処理部53は、各軸毎に入力値を算出する。入力モーメント値の大きさは、モーメントの大きさに応じて決まる。入力モーメント値の符号は、計測されたモーメントによって決まる。すなわち、モーメントが正の場合、入力モーメント値も正となり、モーメントが負の場合、入力モーメント値も負となる。例えば、モーメントMxが正の場合、入力モーメント値Mx'も正となる。従って、この入力モーメント値が搭乗者の意図する操作に対応する入力値となる。
【0032】
制御計算部51は、入力モーメント値に基づいて、制御計算を行う。これにより、駆動モータ603を駆動するための指令値が算出される。すなわち、制御計算部51は、入力値に基づく指令値を各駆動モータ603に出力する。この制御計算部51は、図4に示すように、旋回成分算出部54と、並進成分算出部55と、その場旋回成分算出部56と、合成部57と、変更部58と、を有している。
【0033】
旋回成分算出部54には、入力モーメント値Mx'が入力される。旋回成分算出部54は、この入力モーメント値Mx'に基づいて、指令値の旋回成分を算出する。すなわち、入力モーメント値Mx'に対して所定の演算処理を行って、ロール軸周りの入力モーメント値Mx'を旋回成分に変換する。例えば、旋回成分には、左右の後輪602の回転速度が含まれている。従って、旋回成分算出部54は、入力モーメント値Mx'に対して単位変換を行い、回転速度を導出する。このように、ロール軸周りの入力モーメント値Mx'が移動体1に対する旋回入力となる。
【0034】
同様に、並進成分算出部55は、入力された入力モーメント値My'に基づいて、指令値の並進成分を算出する。すなわち、入力モーメント値My'に対して所定の演算処理を行って、ピッチ軸周りの入力モーメント値My'を並進成分に変換する。例えば、並進成分には、左右の後輪602の回転速度が含まれている。従って、並進成分算出部55は、入力モーメント値My'に対して単位変換を行い、回転速度を導出する。このように、ピッチ軸周りの入力モーメント値My'が移動体1に対する並進入力となる。そして、入力モーメント値My'が正の場合、前進入力となり。負の場合、後退入力となる。
【0035】
さらに、その場旋回成分算出部56は、入力された入力モーメント値Mz'に基づいて、指令値のその場旋回成分を算出する。すなわち、入力モーメント値Mz'に対して所定の演算処理を行って、ヨー軸周りの入力モーメント値Mz'をその場旋回成分に変換する。例えば、その場旋回成分には、左右の後輪602の回転速度が含まれている。従って、その場旋回成分算出部56は、入力モーメント値Mz'に対して単位変換を行い、回転速度を導出する。このように、ヨー軸周りの入力モーメント値Mz'が移動体1に対するその場旋回入力となる。
【0036】
なお、並進成分は、2つの後輪602を同じ方向に同じ回転速度で回転させるための成分である。2つの後輪602が同じ方向に同じ速度で回転することで、移動体1が直進する。旋回成分、及びその場旋回成分が0で、並進成分のみの場合、2つの後輪602が同じ方向に同じ速度で回転する。この場合の回転方向は、入力モーメント値My'の符号によって、決まる。すなわち、モーメントMyが正の場合、後輪602が前方向に回転し、負の場合、後輪が後方向に回転する。そして、後輪602の回転速度は、入力モーメント値My'の大きさによってきまる。すなわち、計測されたモーメントMyに応じて、並進成分が算出される。搭乗者が前傾姿勢、又は後傾姿勢になることで、モーメントMyが入力される。そして、このモーメントMyが入力モーメント値My'に変換される。なお、入力モーメント値My'の絶対値が大きいほど、並進成分の絶対値が大きくなる。
【0037】
旋回成分は、2つの後輪602を同じ方向に、異なる回転速度で回転させるための成分である。旋回成分に応じて、2つの後輪602が同じ方向に異なる速度で回転する。2つの後輪602の回転速度の差が、入力モーメント値Mx'によって決まる。換言すると、現在の移動方向からの相対的な移動方向は、入力モーメント値Mx'に応じて変化する。旋回成分によって舵角が決まる。例えば、搭乗者の重心位置の方向に、移動体1が移動するようになる。搭乗者が腰を左右に曲げることで、モーメントMxが入力される。そして、このモーメントMxが入力モーメント値Mx'に変換される。従って、モーメントMxに基づいて、旋回成分が算出される。なお、入力モーメント値Mx'が大きいほど、旋回成分が大きくなる。なお、入力モーメント値Mx'の絶対値が大きいほど、旋回成分の絶対値が大きくなる。
【0038】
その場旋回成分は、2つの後輪602を反対方向に、同じ回転速度で回転させるための成分である。すなわち、2つの後輪602が同じ回転速度で反対方向に回転することで、移動体1がその場で旋回する。従って、旋回成分、及び並進成分が0で、その場旋回成分のみの場合、2つの後輪602が反対方向に同じ回転速度で回転する。この場合の回転方向は、入力モーメント値Mz'の符号によって、決まる。例えば、モーメントMzが正の場合、入力モーメント値Mz'も正の値となる。すると、右回りのその場旋回を行い、右の後輪602が前方向、左の後輪602が後方向に回転する。反対にモーメントMzが負の場合、入力モーメント値Mz'も負の値となる。よって、左回りのその場旋回を行い、左の後輪602が前方向、右の後輪602が後方向に回転する。
【0039】
搭乗者が腰をひねることで、ヨー軸周りのモーメントMzが検出される。センサ処理部53が、モーメントMzを入力モーメント値Mz'に変換する。このように、ヨー軸周りのモーメントMzに基づいて、その場旋回成分を算出している。なお、入力モーメント値Mz'の絶対値が大きいほど、その場旋回成分の絶対値が大きくなる。
【0040】
並進成分、旋回成分、その場旋回成分の各成分には、例えば、左右の後輪602の回転速度が含まれている。もちろん、並進成分では、左右の後輪602の回転速度が同じ値になる。旋回成分では、左右の後輪602の回転速度が同じ方向で異なる値になる。その場旋回成分では、左右602の後輪の回転速度が反対方向で同じ値になる。そして、合成部57は、並進成分、旋回成分、その場旋回成分を合成する。これにより、目標回転速度が算出される。具体的には、右の後輪602の回転速度を算出するために、並進成分、旋回成分、その場旋回成分のそれぞれに含まれる右の後輪602の回転速度を足し合わせる。同様に、左の後輪602についても、並進成分、旋回成分、その場旋回成分のそれぞれに含まれる左の後輪602の回転速度を足し合わせる。これにより、左右の後輪602に対する目標回転角度が算出される。
【0041】
より具体的には、旋回成分では、右の回転速度が10であり、左の回転速度が20であるとする。また、その場旋回成分では、右の回転速度が−5であり、左の回転速度が5であるとする。この場合、旋回成分とその場旋回成分とを合成すると、右の回転速度が5となり、左の回転速度が25となる。ここでは、前方向の回転を正の値、後方向の回転を負の値とする。なお、回転速度の単位は任意の単位である。さらに、並進成分では、左右の回転速度が20とすると、最終的な目標回転速度は、右で25、左で45となる。このように、各成分の回転速度を左右の後輪602毎に合算する。これにより、左右それぞれの後輪602に対して、目標回転速度を算出することができる。なお、合成する際に、各成分の値に対して適当なゲインを乗じてもよい。さらに、モーメントを入力モーメント値に変換する際におけるゲイン、あるいは、入力モーメント値を各成分に変換する際における、ゲインを変えてもよい。すなわち、モーメントMx、My、Mzから各成分を算出するためのゲインを成分毎に、変えてもよい。
【0042】
そして、制御計算部51は、目標回転速度に応じた指令値を出力する。左右の後輪602に対する指令値は、駆動モータ603に出力される。なお、本実施形態では、左右の後輪602が駆動輪であるため、2つの駆動モータ603が図示されている。そして、一方の駆動モータ603が右の後輪602を回転させ、他方の駆動モータ603が左の後輪602を回転させる。駆動モータ603は、指令値に基づいて後輪602を回転させる。すなわち、駆動モータ603は、駆動輪である後輪602を回転させるためのトルクを与える。もちろん、駆動モータ603は、減速機などを介して、後輪602に回転トルクを与えてもよい。例えば、制御計算部51から、指令値として指令トルクが入力された場合、その指令トルクで、駆動モータ603が回転する。これにより、後輪602が回転して、移動体1が所望の方向に、所望の速度で移動する。もちろん、指令値は、トルクに限らず、回転速度、回転数であってもよい。
【0043】
さらに、駆動モータ603にはそれぞれ、エンコーダ603aが内蔵されている。このエンコーダ603aは、駆動モータ603の回転速度等を検出する。そして、検出された回転速度は、制御計算部51に入力される。制御計算部51は、現在の回転速度と、目標となる回転速度とに基づいてフィードバック制御を行う。例えば、目標回転速度と現在回転速度との差分に、適当なフィードバックゲインを乗じて、指令値を算出する。もちろん、左右の駆動モータ603に出力される指令値は、異なる値であってもよい。すなわち、前方、又は後方に直進する場合は、左右の後輪602の回転速度が同じになるように制御し、左右に旋回する場合は、左右の後輪602が、同じ方向で異なる回転速度になるよう制御する。また、その場旋回する場合は、左右の後輪602が反対方向に回転するように制御する。
【0044】
例えば、搭乗者が前傾姿勢になると、搭乗席8にピッチ軸周りの力が加わる。すると、力センサ9が+Myのモーメントを検出する(図3参照)。この+Myのモーメントによって、センサ処理部53は、移動体1を並進させるための入力モーメント値My'を算出する。同様に、センサ処理部53は、Mxに基づいて入力モーメント値Mx'を算出し、Mzに基づいて、入力モーメント値Mz'を算出する。すなわち、センサ処理部53は、計測値を入力モーメント値に変換する。これらは、それぞれの独立に算出される。すなわち、Mx'は、Mxのみによって決まり、My'は、Myのみによって決まり、Mz'は、Mzのみのよって決まる。このように、Mx'、My'、Mz'はそれぞれ独立している。
【0045】
制御計算部51が、入力モーメント値から並進成分、旋回成分、その場旋回成分に変換する。そして、合成部57が3つの成分を合成する。合成部57が算出した合成値とエンコーダの読み値に基づいて、指令値を算出する。これにより、左右の後輪602が所望の回転速度で回転する。同様に、右方向に曲がる場合は、搭乗者が右側に体重移動する。すなわち、腰を左右に曲げる。これにより、搭乗席にロール軸周りの力が加わり、力センサ9が+Mxのモーメントを検出する。この+Mxのモーメントによって、センサ処理部53は、移動体1を右方向に旋回させるための入力モーメント値Mx'を算出する。すなわち、移動体1が移動する方向に対応する舵角が求められる。そして、入力モーメント値に応じて、制御計算部51が指令値を算出する。この指令値に応じて、左右の後輪602が異なる回転速度で回転する。すなわち、左側の後輪602が右側の後輪602よりも速い回転速度で回転する。
【0046】
また、その場旋回する場合は、搭乗者が腰をねじる。これにより、搭乗席にヨー軸周りの力が加わり、力センサ9が+Mzのモーメントを検出する。この+Mzのモーメントによって、センサ処理部53は、移動体1を右周りにその場旋回させるための入力モーメント値Mz'を算出する。そして、入力モーメント値に応じて、制御計算部51が指令値を算出する。この指令値に応じて、左右の後輪602が同じ回転速度で反対に回転する。
【0047】
このように、My'に基づいて、前後方向の並進移動に対する成分が求められる。すなわち、左右の後輪602を同じ方向に同じ回転速度で駆動するための並進成分の値が決定する。従って、My'、すなわち、Myが大きいほど、移動体1の移動速度が速くなる。Mx'に基づいて、移動方向、すなわち、舵角に対する成分が求められる。すなわち、左右の後輪602の回転速度差が決定される。従って、Mx'、すなわち、Mxが大きいほど、左右の後輪602の回転速度の違いが大きくなる。
【0048】
Mz'に基づいて、その場旋回に対する成分が求められる。すなわち、左右の後輪602を反対方向に回転させて、その場旋回するための成分が求められる。従って、Mz'、すなわち、Mzが大きいほど、左右の後輪602における反対方向の回転速度が大きくなる。例えば、Mz'が正の場合、上側から見て、左周りにその場旋回するその場旋回成分の値が算出される。すなわち、右側の後輪602が前方に回転し、左側の後輪602が同じ回転速度で後方に回転することとなる。
【0049】
そして、それぞれの入力モーメント値Mx'、My'、Mz'に基づいて算出された3つの成分を合成して、2つの後輪602を駆動するための指令値を算出する。これにより、左右の後輪602に対する指令値がそれぞれ算出される。駆動トルクや回転速度などが指令値として算出される。すなわち、入力モーメント値Mx'、My'、Mz'に対応する成分毎に算出された値を合成することで左右の後輪602に対する指令値が算出される。このように、計測されたモーメントMx、My、Mzに基づいて、入力モーメント値Mx'、My'、Mz'が算出される。そして、算出された入力モーメント値Mx'、My'、Mz'によって、移動体1が移動する。ここでは、図5に示すように、各軸周りに対する入力モーメント値Mx'、My'、Mz'から、並進成分、旋回成分、その場旋回成分が求められる。搭乗者の体重移動によるモーメントMx、My、Mzによって、移動体1の移動方向、及び移動速度が決定する。
【0050】
このように、搭乗者の動作によって、移動体1を移動させるための入力が行われる。すなわち、搭乗者の姿勢変化によって、各軸周りのモーメントが検出される。そして、これらのモーメントの計測値に基づいて、移動体1が移動する。これにより、搭乗者が、移動体1を簡便に操作することができる。すなわち、ジョイスティックやハンドルなどの操作が不要となり、体重移動のみでの操作が可能となる。また、モーメントMzに基づいて、その場旋回成分を算出している。これにより、左右の後輪602の回転速度の差が大きくなるため、小回りが効くようになる。よって、旋回半径を小さくすることができる。搭乗者の意図する移動が可能になり、操作性を向上することができる。また、モーメントMzのみを入力することで、その場での旋回が可能になる。これにより、高い操作性を有する移動体1を提供することができる。
【0051】
並進成分、旋回成分、その場旋回成分は、それぞれ独立して算出されている。すなわち、並進成分は、入力モーメント値My'、すなわち、ピッチ軸周りのモーメントMyのみに依存し、旋回成分は、入力モーメント値Mx'、すなわち、ロール軸周りのモーメントMxのみに依存し、その場旋回成分は、入力モーメント値Mz'、すなわち、ヨー軸周りのモーメントMzのみに依存している。そして、独立する3つの成分を合成している。これにより、簡便に指令値を算出することができる。
【0052】
さらに、本実施の形態では、図4に示すように、変更部58が設けられている。変更部58は、制御計算部51内に設けられている。変更部58は、その場旋回成分算出部56における演算処理を変更する。すなわち、変更部58が、入力モーメント値をその場旋回成分に変換する際の変換式を変更する。この変更部58の処理について説明する。
【0053】
変更部58には、ピッチ軸周りの入力モーメント値My'が入力されている。変更部58は、ピッチ軸周りの入力モーメント値My'に基づいて、その場旋回成分算出部56における処理を変更する。具体的には、入力モーメント値My'の値が正である場合と、負である場合とで、処理を切換えている。すなわち、搭乗者が前傾姿勢となって前方向に移動する場合と、搭乗者が後傾姿勢となって後方向に移動する場合とで、処理が変更される。
【0054】
例えば、真後ろに直進しようとする場合、搭乗者が後傾姿勢となって、負の入力モーメント値My'を入力する。さらに、搭乗者は、確認のため、後ろを振り向く。すなわち、後方に障害物などがないかを確認するために、腰を腰椎周りに回転させて、顔を後方に向ける。すると、搭乗者が後方に直進しようとしていても、力センサ9によって、ヨー軸回りのモーメントMzが検出されてしまう。このように、真後ろに後退しようとする場合、搭乗者が後傾姿勢になるだけでなく、腰部が回転してします。これにより、負のモーメントMyとともに、モーメントMzが検出されてしまう。図6に示すように、入力モーメント値My'だけでなく、入力モーメント値Mz'を入力してしまう。後退入力だけでなく、その場旋回入力(Mz')が入力されてしまうので、実際には、斜め後方に移動してしまう。
【0055】
変更部58では、後退入力時に、その場旋回入力がなされるのを防ぐために、その場旋回成分算出部56における処理を変更している。具体的には、入力モーメント値My'が負の場合、その場旋回入力(Mz')をキャンセルする。すなわち、変更部58は、入力モーメント値My'が負であるか、正であるかを判定する。そして、入力モーメント値My'が負の場合、変更部58は。その場旋回成分算出部56に変更信号を出力する。その場旋回成分算出部56は、変更信号が入力されたら、その場旋回成分を0とする。すなわち、その場旋回成分算出部56は、回転速度が0となるその場旋回成分を合成部57に出力する。これにより、その場旋回成分が0となった状態で、合成部57が合成処理を行う。換言すると、合成部57は、並進成分と旋回成分のみを合成する。
【0056】
もちろん、入力モーメント値My'ではなく、ヨー軸周りのモーメントMyが変更部58に入力されていてもよい。すなわち、変更部58は、モーメントMyの値に応じて、前進入力か後退入力かを判別すればよい。そして、変更部58は、この判別結果に応じた変更信号をその場旋回成分算出部56に出力する。これにより、その場旋回成分算出部56は、前進入力か後退入力かに応じて、制御モードを切換える。すなわち、その場旋回成分算出部56は、ヨー軸周りのモーメントMyが正か負かに応じて、その場旋回成分の算出処理を変更する。ヨー軸周りのモーメントMyが正の場合、通常の演算処理でその場旋回成分を算出し、負の場合、モーメントMyの値によらず、その場旋回成分を0とする。これにより、搭乗者が後方を確認しながら、真直ぐ後退することができる。搭乗者の意図する移動が可能になり、操作性を向上することができる。もちろん、入力モーメント値Mx'による旋回入力は、後退時の位置合わせのため、受け付けられている。このように、搭乗者が後傾姿勢となる後退入力場合は、その場旋回成分が無効となるように制御モードを切換える。
【0057】
なお、後退入力が入力された場合であっても、その場旋回成分を完全に0としなくてもよい。すなわち、後退入力時におけるその場旋回成分が前進入力時におけるその場旋回成分よりも小さくなるような演算処理をその場旋回成分算出部56が行えばよい。絶対値の等しい入力モーメント値Mz'が入力された場合において、後退入力時のその場旋回成分が、前進入力時のその場旋回成分よりも小さくなる。これにより、直進後退からの進行方向のずれを小さくすることができる。よって、操作者の意図に近い移動を行うことができ、操作性を向上することができる。例えば、その場旋回成分算出部56における演算処理を変更部58からの変更信号に応じて、制御モードを切換えればよい。そして、合成部57で合成された合成値に対するその場旋回成分の寄与度が、前進入力時よりも後退入力時の方が弱くなっていればよい。すなわち、指令値に対する入力モーメント値Mz'の影響が小さくなっていればよい。
【0058】
このように、入力モーメント値Mz'が負の場合では、入力モーメント値Mz'が正の場合と比べて、その場旋回成分の値が制限される。すなわち、ピッチ軸周りのモーメントMyの値に応じて、合成部57で合成される際のその場旋回成分の値が制限される。なお、制御モードの切換える際のしきい値は0としたが、任意の値をしきい値としてもよい。例えば、後退入力がある一定以上大きくなったときに、その場旋回成分を制限してもよい。
【0059】
次に、本実施の形態にかかる移動体1の制御方法について、図8を用いて説明する。図8は、移動体1の制御方法を示すフローチャートである。図8では、指令値を出力する1サイクルの制御を示している。
【0060】
まず、力センサ9によって、モーメントMx、My、Mzを測定する(ステップS101)。そして、センサ処理部53が、モーメントMx、My、Mzに基づいて、入力モーメント値Mx'、My'、Mz'を算出する(ステップS102)。すなわち、モーメントMx、My、Mzを入力モーメント値Mx'、My'、Mz'に変換する。
【0061】
次に、入力モーメント値My'が正であるか否かを判定する(ステップS103)。すなわち、搭乗者が前傾姿勢となり前進入力を行っているか、後傾姿勢となって後退入力を行っているかを判別する。そして、入力モーメント値My'が正である場合(ステップS103のY)、入力モーメント値Mx'を旋回成分に変換し、入力モーメント値My'を並進成分に変換し、入力モーメント値Mz'をその場旋回成分に変換する(ステップS104)。すなわち、入力モーメント値My'が正であれば、前進入力が行われていると判定して、通常の制御モードで、各成分を算出する。これにより、並進成分、及び旋回成分とともに、その場旋回成分が算出される。
【0062】
一方、入力モーメント値My'が負である場合(ステップS103のN)、入力モーメント値Mx'を旋回成分に変換し、入力モーメント値My'を並進成分に変換する(ステップS105)。すなわち、入力モーメント値Mz'の値に関わらず、その場旋回成分を0として算出する。このように、入力モーメント値My'が負であれば、後退入力が行われていると判定して、その場旋回成分を無効化する制御モードで、各成分を算出する。なお、各成分の算出は、並行して行われてもよく、順番に行われてもよい。
【0063】
そして、合成部57が各成分を合成する(ステップS106)。すなわち、各成分に対応する後輪602の回転速度を足し合わせる。これにより、左右の後輪602のそれぞれに対して、目標回転速度が算出される。ここで、入力モーメント値Mz'が正の場合、旋回成分、並進成分、及びその場旋回成分の3つの成分が合成される。一方、入力モーメント値Mz'が負の場合、旋回成分、並進成分の2つの成分のみが合成される。すなわち、その場旋回成分が0になっているため、合成部57で算出される合成値に対する入力モーメント値Mz'の寄与度が0となる。
【0064】
次に、ステップS106で合成された合成値に基づいて、指令値を出力する(ステップS107)。例えば、目標回転速度と、エンコーダの読み値の差分に対して、適当なフィードバックゲインを乗じて、指令値を算出する。これにより、例えば、回転トルクなどの指令値が算出される。そして、左右の後輪602を駆動するために、駆動モータ603に指令値を出力する。ここでは、右の駆動モータ603と、左の駆動モータ603にそれぞれ、指令値が入力されている。そして、車輪6が回転して、移動体1が搭乗者の意図する方向に移動する。
【0065】
入力モーメント値My'が負の場合、その場旋回成分が0となっている。従って、後退入力時では、入力モーメント値Mx'が0になっていると、移動体1が真直ぐ後退する。一方、入力モーメント値My'が正の場合、その場旋回成分が考慮されて指令値が算出される。これにより、小回りがきくようになり、旋回半径を小さくすることができる。よって、搭乗者が意図する移動を行うことができ、操作性を向上することができる。
【0066】
また、本発明は、車輪型の移動体1に限らず、歩行型の移動体においても適用可能である。あるいは、全方向車輪などを用いた移動体1であってもよい。すなわち、車台13などの本体部を床面に対して移動させる移動機構が設けられているものであればよい。また、変更部58からの変更信号に応じて、その場旋回成分を算出するための演算処理を切換えてなくてもよい。例えば、後方を撮影するカメラとそのカメラの画像をモニタするディスプレイがある場合、その場旋回成分を常時、有効としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態1にかかる移動体を模式的に示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態1にかかる移動体を模式的に示す側面図である。
【図3】各軸周りの動作を説明するための図である。
【図4】移動体を移動させるための制御系を示すブロック図である。
【図5】移動体に対する入力とその移動方向の関係を示す上面図である。
【図6】後進時における移動体への入力とその移動方向の関係を示す上面図である。
【図7】実施形態1にかかる移動体の制御方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0068】
1 移動体
2 フレーム部
3 搭乗部
6 車輪
601 前輪
602 後輪
603 駆動モータ
603a エンコーダ
8 搭乗席
8a 座面
9 力センサ
10 フットレスト
11 筐体
13 車台
51 制御計算部
52 バッテリ
53 センサ処理部
54 旋回成分算出部
55 並進成分算出部
56 その場旋回成分算出部
57 合成部
58 変更部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者が搭乗する搭乗部と、
前記搭乗部を支持する本体部と、
前記本体部を移動させる移動機構と、
前記搭乗部の搭乗面に加わる力に応じて、ヨー軸周りのモーメント、ピッチ軸周りのモーメント、及びロール軸周りのモーメントに対応する計測信号を出力するセンサと、
前記ピッチ軸周りのモーメントに基づいて、並進成分を算出する並進成分算出部と、
前記ロール軸周りのモーメントに基づいて、旋回成分を算出する旋回成分算出部と、
前記ヨー軸周りのモーメントに基づいて、その場旋回成分を算出するその場旋回成分算出部と、
前記並進成分と前記旋回成分と前記その場旋回成分とを合成して、前記移動機構を駆動するための指令値を算出する合成部と、を備える移動体。
【請求項2】
前記ピッチ軸周りのモーメントの値に応じて、前記合成部で合成される前記その場旋回成分の値を制限することを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記搭乗者が後傾姿勢となって後退入力を操作した場合では、前記搭乗者が前傾姿勢となって前進入力を操作した場合よりも、前記その場旋回成分の値が制限されていることを特徴とする請求項2に記載の移動体。
【請求項4】
搭乗者が搭乗する搭乗部と、
前記搭乗部を支持する本体部と、
前記本体部を移動させる移動機構と、を備える移動体の制御方法であって、
前記搭乗部の搭乗面に加わる力に応じて、ヨー軸周りのモーメント、ピッチ軸周りのモーメント、及びロール軸周りのモーメントに対応する計測するステップと、
前記計測するステップで計測されたピッチ軸周りのモーメントに基づいて並進成分を算出し、
前記計測するステップで計測された前記ロール軸周りのモーメントに基づいて、旋回成分を算出し、
前記計測するステップで計測された前記ヨー軸周りのモーメントに基づいて、その場旋回成分を算出し、
前記並進成分と前記旋回成分と前記その場旋回成分とを合成して、前記移動機構を駆動するための指令値を算出するステップと、を備える移動体の制御方法。
【請求項5】
前記ピッチ軸周りのモーメントの値に応じて、前記その場旋回成分の値を制限することを特徴とする請求項4に記載の移動体の制御方法。
【請求項6】
前記搭乗者が後傾姿勢となって後退入力を操作した場合では、前記搭乗者が前傾姿勢となって前進入力を操作した場合よりも、前記その場旋回成分の値が制限されていることを特徴とする請求項5に記載の移動体の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−63684(P2010−63684A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233593(P2008−233593)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術総合研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】