説明

移動体高精度速度計測装置及び方法

【課題】GPS受信機から得られるドップラー速度情報の良否を判定し、高精度及び高信頼の速度をリアルタイムに出力する装置及び方法を提供すること。
【解決手段】移動体高精度速度計測装置10は、移動体の加速度及び角速度からストラップダウン演算により速度を算出し、GPS搬送波のドップラーシフト量から移動体のドップラー速度を測定し、ドップラー速度から良否係数を算出する。次に、遅延させたドップラー速度と、フィードバックさせたリアルタイム補間速度との同期化を行い、同期化されたドップラー速度とリアルタイム補間速度との誤差量を算出し、算出した誤差量に良否係数を乗算し、良否係数を乗算した誤差量からリアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算する。そして、ストラップダウン演算により算出した速度に、カルマンフィルタによって推定演算された調整量を融合してリアルタイム補間速度を算出し、出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体高精度速度計測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球上の位置を測定するシステムとして、GPS(Global Positioning System)と呼ばれる全地球測位システムが知られている。GPSシステムでは、GPS受信機が地球の上空にある人工衛星から電波を受信し、受信した電波の時刻差から現在位置を即座に測定する。このようなGPS受信機を使用すれば、移動体の速度を計測することができる。
【0003】
GPS受信機を使用した移動体の速度を計測する方法には、(1)GPS受信機が算出した位置情報を微分することで速度を得る方法や、(2)衛星の移動と移動体の移動とによるGPS搬送波のドップラーシフト量からドップラー速度を算出する方法等がある。通常、(1)の方法は、単独測位時の位置精度は十数m、DGPS(Differential GPS)使用時で数十cm程度であることから、良質な精度がでない。
【0004】
(2)の方法は、高精度な速度計測が可能であるが、計測のための条件が限定されている。例えば、木々やビル群等によってGPS衛星からの信号が反射されてマルチパスの影響を受けた際、受信機内部のPLL(PLL:Phase−locked loop 位相同期回路)のロックが外れてしまうことにより、速度出力に大きなノイズが重畳するので、マルチパスの影響が大きい場所では高精度な速度計測が望めない。また、(2)の方法は、衛星信号の瞬断時は速度計測をすることができない。
【0005】
例えば、図7は、公道において移動する車の速度を、GPS受信機からのドップラー速度によって示す図である。図7に示すように木立の影響により速度出力はノイズ量が増し、さらに高架橋等を通過するとGPSからの衛星信号が途絶えてしまうため、速度出力はゼロとなってしまう。以上から公道のような様々な電波障害が起こる状況下において、ドップラー速度のみを利用して高精度に速度を計測することは、難しかった。
【0006】
このような問題に対して、例えば、特許文献1に開示された速度計測装置は、GPSによるドップラー速度と、IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)による速度とをカルマンフィルタで融合し、DOP(衛星精度指標)を使用することでGPS信号の良否を判定し、ドップラー速度を出力するか、IMUによる速度を出力するかを切り替えることで高精度な速度を出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−175730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、DOP値は、あくまで衛星の配置状況(幾何学的配置)による精度指標であり、マルチパスの影響を判定しうる指標ではない。また、DOPとドップラー速度との相関性は小さく、ドップラー速度の精度指標としての信頼性は小さい。さらに、DOP値は衛星配置状況から算出されるので、DOPの変化は、瞬時ではない。このため、特許文献1に開示された速度計測装置は、ビル群や木立等によるマルチパスの影響が多大に考えられる場所において、マルチパス等によるドップラー速度の瞬時ノイズを判別することはできない。
【0009】
そこで、GPS受信機から得られるドップラー速度情報の良否を判定し、高精度及び高信頼の速度をリアルタイムに出力する装置及び方法が求められている。
【0010】
本発明は、GPS受信機から得られるドップラー速度情報の良否を判定し、高精度及び高信頼の速度をリアルタイムに出力する移動体高精度速度計測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、以下のような解決手段を提供する。
【0012】
(1) 移動体の速度を計測する移動体高精度速度計測装置であって、IMUを使用して前記移動体の加速度及び角速度を計測する加速度計測手段と、前記加速度計測手段によって計測された前記移動体の加速度及び角速度からストラップダウン演算により速度を算出し、算出した速度に基づいてリアルタイム補間速度を算出するストラップダウンナビゲータ手段と、GPS受信機を使用してGPS搬送波のドップラーシフト量から前記移動体のドップラー速度を測定する速度測定手段と、前記速度測定手段によって測定された前記ドップラー速度から算出した加速度と、前記加速度計測手段によって計測された加速度との差分を算出し、算出した差分に基づいて係数を算出する良否係数算出手段と、前記良否係数算出手段によって前記係数が算出されるための時間だけ、前記速度測定手段によって測定された前記ドップラー速度を演算に用いる時間を遅延させる遅延処理手段と、前記遅延処理手段によって遅延させた前記ドップラー速度と、前記ストラップダウンナビゲータ手段からフィードバックさせた前記リアルタイム補間速度との同期化を行い、同期化された前記ドップラー速度と前記リアルタイム補間速度との誤差量を算出する同期化処理手段と、前記同期化処理手段によって算出された前記誤差量に、前記良否係数算出手段によって算出された前記係数を乗算する良否係数乗算手段と、前記良否係数乗算手段によって前記係数が乗算された誤差量から前記リアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算するカルマンフィルタ手段と、を備え、前記ストラップダウンナビゲータ手段は、前記ストラップダウン演算により算出された速度に、前記カルマンフィルタ手段によって推定演算された前記調整量を融合して前記リアルタイム補間速度を算出する、移動体高精度速度計測装置。
【0013】
(1)の構成によれば、本発明に係る移動体高精度速度計測装置は、IMUを使用して移動体の加速度及び角速度を計測し、計測した移動体の加速度及び角速度からストラップダウン演算により速度を算出し、算出した速度に基づいてリアルタイム補間速度を算出する。次に、移動体高精度速度計測装置は、GPS受信機を使用してGPS搬送波のドップラーシフト量から移動体のドップラー速度を測定し、測定したドップラー速度から算出した加速度と、計測した加速度との差分を算出し、算出した差分に基づいて係数を算出する。次に、移動体高精度速度計測装置は、係数が算出されるための時間だけ、測定したドップラー速度を演算に用いる時間を遅延させ、遅延させたドップラー速度と、フィードバックさせたリアルタイム補間速度との同期化を行い、同期化されたドップラー速度とリアルタイム補間速度との誤差量を算出する。次に、移動体高精度速度計測装置は、算出した誤差量に、算出した係数を乗算し、係数を乗算した誤差量からリアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算する。そして、移動体高精度速度計測装置は、ストラップダウン演算により算出された速度に、カルマンフィルタによって推定演算された調整量を融合してリアルタイム補間速度を算出する。
【0014】
すなわち、移動体高精度速度計測装置は、GPS受信機を使用して得られたドップラー速度による加速度を、IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)によって計測された加速度によって良否判定して良否判定係数を算出し、ストラップダウン演算によって算出された速度に基づいて算出されたリアルタイム補間速度をフィードバックさせて、算出されたドップラー速度とフィードバックさせたリアルタイム補間速度との誤差量に良否判定係数を乗算した調整された誤差量を算出し、調整された誤差量からリアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算し、ストラップダウン演算により算出された速度に、カルマンフィルタによって推定演算された調整量を融合してリアルタイム補間速度を算出する。よって、移動体高精度速度計測装置は、カルマンフィルタに入力する誤差量を調整することで、GPS受信機から算出されるドップラー速度のノイズ量を小さくし、リアルタイムに速度を算出することができる。したがって、移動体高精度速度計測装置は、木々やビル群等によってGPS衛星からの信号が反射されてマルチパスが発生する状況下であっても、高精度及び高信頼の速度をリアルタイムに出力することができる。
【0015】
(2) IMUとGPS受信機と備え、移動体の速度を計測する移動体高精度速度計測装置が実行する方法であって、前記IMUを使用して前記移動体の加速度及び角速度を計測する加速度計測ステップと、計測された前記移動体の加速度及び角速度からストラップダウン演算によりリアルタイム補間速度を算出するストラップダウンナビゲータステップと、前記GPS受信機を使用してGPS搬送波のドップラーシフト量から前記移動体のドップラー速度を測定する速度測定ステップと、測定された前記ドップラー速度から算出した加速度と、計測された加速度との差分を算出し、算出した差分に基づいて係数を算出する良否係数算出ステップと、前記係数が算出されるための時間だけ、前記ドップラー速度を演算に用いる時間を遅延させる遅延処理ステップと、遅延させた前記ドップラー速度と、前記ストラップダウンナビゲータステップからフィードバックさせた前記リアルタイム補間速度との同期化を行い、同期化された前記ドップラー速度と前記リアルタイム補間速度との誤差量を算出する同期化処理ステップと、算出された前記誤差量に、算出された前記係数を乗算する良否係数乗算ステップと、前記係数が乗算された誤差量から前記リアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算するカルマンフィルタステップと、を含み、前記ストラップダウンナビゲータステップは、前記ストラップダウン演算により算出された速度に、前記カルマンフィルタステップによって推定演算された前記調整量を融合して前記リアルタイム補間速度を算出する、方法。
【0016】
したがって、(2)に係る方法は、(1)と同様に、木々やビル群等によってGPS衛星からの信号が反射されてマルチパスが発生する状況下であっても、高精度及び高信頼の速度をリアルタイムに出力することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る移動体高精度速度計測装置は、GPS受信機から得られるドップラー速度情報の良否を判定し、リアルタイムに高精度な速度を出力することができる。特に、木々やビル群等によってGPS衛星からの信号が反射されてマルチパスが発生するようなところであっても、移動体高精度速度計測装置は、GPS受信機から得られるドップラー速度からノイズの影響を小さくして、移動体の高精度な速度をリアルタイムに出力することができる。その結果、移動体高精度速度計測装置は、公道であっても移動体の高精度な速度を安定して出力することができる。さらに、衛星信号瞬断時であっても、移動体高精度速度計測装置は、IMUを使用して補間して、高精度な速度を安定して出力することができる。また、移動体高精度速度計測装置は、リアルタイム出力が可能なため、他センサとの同時計測時に同期処理が不要であり、また出力遅れが問題となる車両制動試験等においても2次処理を行う必要がなく、移動体高精度速度計測装置の原信号を利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である移動体高精度速度計測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置における処理内容を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置によって出力されるリアルタイム補間速度と、GPS受信機によるドップラー速度とを示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置によって出力されるリアルタイム補間速度の立ち上がりと、GPS受信機から出力されるドップラー速度の立ち上がりとを示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置によって出力されるリアルタイム補間速度と、GPS受信機から出力されるドップラー速度と、光学式速度計測装置から出力される速度とを示す図である。
【図7】公道において移動する車の速度を、GPS受信機からのドップラー速度によって示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態である移動体高精度速度計測装置10の構成を示すブロック図である。移動体高精度速度計測装置10は、加速度計測部11と、ストラップダウンナビゲータ部12と、速度測定部13と、良否係数算出部14と、遅延処理部15と、同期化処理部16と、良否係数乗算部17と、カルマンフィルタ部18とを備える。
【0021】
加速度計測部11は、IMU102を使用して移動体の加速度及び角速度を計測する。IMU102は、3軸のジャイロと3方向の加速度計から構成され、3次元の角速度と加速度とを求める。なお、IMU102は、計測の信頼性向上のために、さらに複数のセンサを搭載してもよい。
【0022】
ストラップダウンナビゲータ部12(自律航法アルゴリズム)は、加速度計測部11によって計測された移動体の加速度及び角速度からストラップダウン演算により速度を算出し、算出した速度に、後述するカルマンフィルタ部18によって推定演算された調整量を融合してリアルタイム補間速度を算出し、算出したリアルタイム補間速度を出力すると共に、カルマンフィルタ部18へフィードバックさせる。
【0023】
速度測定部13は、GPS受信機101を使用してGPS搬送波のドップラーシフト量から移動体のドップラー速度を測定する。例えば、GPS受信機101とGPS衛星との距離が、遠ざかる又は近づくと、GPS受信機101が受信する搬送波の位相は、連続的に変化し、周波数が低くなったり高くなったりする。速度測定部13は、この周波数の変化量からGPS受信機101が出力するドップラー速度を取得する。
【0024】
良否係数算出部14は、速度測定部13によって測定されたドップラー速度から算出した加速度と、加速度計測部11によって計測された加速度との差分を算出し、算出した差分に基づいて係数(図1におけるβ)を算出する。例えば、良否係数算出部14は、座標変換処理部(図示せず)によって、IMU102によって計測された加速度を、ストラップダウンナビゲータ部12により演算された現在の姿勢角に基づき座標変換し、GPS受信機101が出力したドップラー速度と同座標系の加速度に変換する。そして、良否係数算出部14は、ドップラー速度を微分した加速度と、座標変換した加速度との差分を算出し、算出した差分を二乗し、二乗した差分についてエンベロープ処理を行う。次に、良否係数算出部14は、エンベロープ処理を行った後の差分を示す関数の逆関数を求め、求めた逆関数に基づいて、係数を算出する。すなわち、良否係数算出部14は、求めた逆関数に基づいて、ドップラー速度がノイズを含んでいないと判断した場合に良判定を行い、ノイズを含んでいると判断した場合に否判定を行い、判定を数値化した良否係数を算出する。例えば、良否係数=1−速度変動判定−α×ドップラー精度指標、により良否係数を算出してもよい。ここで、速度変動判定はドップラー速度がノイズを含むと判定された割合、αは所定の値、ドップラー速度精度指標はGPS衛星の配置に関する指標や、観測衛星数等のGPS受信機から得られる情報に基づいて統計的に算出した指標である。このように算出された良否係数は、カルマンフィルタ部18に入力する誤差量を調整する係数である。
【0025】
遅延処理部15は、良否係数算出部14によって係数が算出されるための時間だけ、速度測定部13によって測定されたドップラー速度を演算に用いる時間を遅延させる。すなわち、遅延処理部15は、後述する、ドップラー速度による誤差量を算出するための演算を、良否係数算出部14によって係数が算出される時間だけ遅延させる。
【0026】
同期化処理部16は、遅延処理部15によって遅延させたドップラー速度と、ストラップダウンナビゲータ部12からフィードバックさせたリアルタイム補間速度との同期化を行い、同期化されたドップラー速度とリアルタイム補間速度との誤差量(図1におけるδx)を算出する。
【0027】
良否係数乗算部17は、同期化処理部16によって算出された誤差量に、良否係数算出部14によって算出された係数を乗算する。
【0028】
カルマンフィルタ部18は、良否係数乗算部17によって係数が乗算された誤差量からリアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算する。例えば、カルマンフィルタ部18は、入力された誤差量と、1ステップ前の推定演算し記憶した調整量とから、今回の調整量(ろ波推定値)を算出する反復推定器(反復推定型フィルタ)である。
【0029】
このように、移動体高精度速度計測装置10は、速度測定部13によって測定されたドップラー速度とフィードバックされたリアルタイム補間速度とを同期させて算出した誤差量にドップラー速度の良否係数を乗算し、乗算して調整した誤差量からカルマンフィルタ部18によって推定演算された調整量と、加速度計測部11によって計測された加速度及び角速度からストラップダウン演算により算出された速度と、を融合してリアルタイム補間速度を算出し、算出したリアルタイム補間速度を出力すると共にフィードバックさせる。
【0030】
図2は、本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。移動体高精度速度計測装置10は、CPU(Central Processing Unit)1010、バスライン1005、通信I/F1040、メモリ1050、表示器1022、GPS受信機101及びIMU102を備える。
【0031】
CPU1010は、移動体高精度速度計測装置10を統括的に制御する部分であり、メモリ1050に記憶された各種プログラムを適宜読み出して実行することにより、上述したハードウェアと協働し、本発明に係る各種機能を実現している。
【0032】
メモリ1050は、適宜読み出して実行されるプログラムを記憶し、プログラムの実行によって作成される種々の情報を記憶する。例えば、メモリ1050は、ストラップダウンナビゲータ部12によってフィードバックされるリアルタイム補間速度や、カルマンフィルタ部18によって推定演算される調整量等を記憶する。
【0033】
ここで、表示器1022は、移動体高精度速度計測装置10による演算処理結果、例えば、算出したリアルタイム補間速度や、算出過程のドップラー速度等を表示したりするものであり、液晶表示装置(LCD)等のディスプレイ装置を含む。
【0034】
また、通信I/F1040は、移動体高精度速度計測装置10を専用ネットワークを介してホストコンピュータ等と接続できるようにするためのネットワーク・アダプタである。通信I/F1040は、ホストコンピュータ等に、算出されたリアルタイム補間速度を出力するための接続インターフェースである。
【0035】
GPS受信機101は、無線通信に必要なアンテナ及びアンテナ信号処理回路等を含んで構成される。GPS受信機101は、複数のGPS衛星から電波を受信し、受信したGPS搬送波のドップラーシフト量からドップラー速度を算出し、出力する。
【0036】
IMU102は、移動体の加速度及び角速度を計測し出力する。IMU102は、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)であって、3軸のジャイロと3方向の加速度計によって、運動を司る3軸の角度(又は角速度)と加速度とを検出する。
【0037】
図3は、本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置10における処理内容を示すフローチャートである。なお、本処理は、例えば、プログラム開始指令を受け付けて開始し、プログラム終了指令により終了する。
【0038】
ステップS101において、CPU1010は、ストラップダウンナビゲータ部12の初期設定(初期速度、初期位置、初期姿勢角)、カルマンフィルタ部18の初期設定(誤差共分散行列の初期化)を行う。その後、CPU1010は、処理をステップS102に移す。
【0039】
ステップS102において、CPU1010(加速度計測部11)は、IMU102によって加速度及び角速度を計測する。その後、CPU1010は、処理をステップS103に移す。
【0040】
ステップS103において、CPU1010(ストラップダウンナビゲータ部12)は、ステップS102において計測された加速度及び角速度からストラップダウン演算により速度を算出し、カルマンフィルタ部18からの調整量を融合させて、リアルタイム補間速度を算出し、出力すると共にフィードバックさせる。その後、CPU1010は、処理をステップS104に移す。
【0041】
ステップS104において、CPU1010(速度測定部13)は、GPS受信機101が出力したドップラー速度を取得する。より具体的には、CPU1010は、GPS受信機101が受信したGPS搬送波のドップラーシフト量から算出したドップラー速度を取得する。その後、CPU1010は、処理をステップS105に移す。
【0042】
ステップS105において、CPU1010(良否係数算出部14)は、ドップラー速度から良否係数を算出する。より具体的には、CPU1010は、ステップS103において算出したドップラー速度を微分した加速度と、IMU102が計測した加速度との差分を算出し、算出した差分を二乗し、二乗した差分についてエンベロープ処理を行う。そして、CPU1010は、エンベロープ処理を行った後の差分を示す関数の逆関数を求め、求めた逆関数に基づいて、ドップラー速度の信頼性(ドップラー速度がノイズを含んでいないと判定した場合に良、ノイズを含んでいると判定した場合に否)に対する判定の結果を示す良否係数(β)を算出する。その後、CPU1010は、処理をステップS106に移す。
【0043】
ステップS106において、CPU1010(遅延処理部15、同期化処理部16)は、フィードバックされたリアルタイム補間速度と、ドップラー速度とを同期させ、誤差量を算出する。より具体的には、CPU1010は、ステップS104において算出されたドップラー速度による誤差量を算出するための演算を、ステップS105において良否係数が算出される時間だけ遅延させ、遅延させたドップラー速度とフィードバックされたリアルタイム補間速度とを同期させて誤差量(δx)を算出する。その後、CPU1010は、処理をステップS107に移す。
【0044】
ステップS107において、CPU1010(良否係数乗算部17)は、誤差量に良否係数を乗算する。より具体的には、CPU1010は、ステップS106において算出した誤差量(δx)に、ステップS105において算出した良否係数(β)を乗算して、調整された誤差量(βδx)を算出する。その後、CPU1010は、処理をステップS108に移す。
【0045】
ステップS108において、CPU1010(カルマンフィルタ部18)は、調整された誤差量(βδx)からリアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算する。その後、CPU1010は、処理をステップS102に移す。
【0046】
図4は、本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置10によって出力されるリアルタイム補間速度と、GPS受信機101によるドップラー速度とを示す図である。図4(a)は、縦軸を速度とし横軸を時間としたグラフに、GPS受信機101によるドップラー速度を表した図である。同様に、図4(b)は、縦軸を速度とし横軸を時間としたグラフに、移動体高精度速度計測装置10によって出力されるリアルタイム補間速度を表した図である。
【0047】
図4(a)に示すように、木々やビル群等によってGPS衛星からの信号が反射されてマルチパスが発生する場合、GPS受信機101によるドップラー速度は、マルチパスによるノイズによる速度を含んで出力される。一方、図4(b)に示すように、GPS受信機101によるドップラー速度がマルチパスによるノイズを含んでいても、移動体高精度速度計測装置10は、ノイズの影響を小さくし、非常に滑らかな波形によって移動体の速度を出力する。
【0048】
図5は、本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置10によって出力されるリアルタイム補間速度の立ち上がりと、GPS受信機101から出力されるドップラー速度の立ち上がりとを示す図である。図5(a)は、移動体高精度速度計測装置10が出力した速度と、GPS受信機101によるドップラー速度と、ドップラー速度を1Hzのローパス処理をした速度との比較を示す図である。図5(b)は、図5(a)の一部(破線による円によって囲まれた部分)を拡大した図である。
【0049】
図5(b)に示すように、マルチパスによるノイズを含むドップラー速度と、マルチパスによるノイズを含むドップラー速度をローパス処理によってノイズ除去した速度とに比較して、移動体高精度速度計測装置10が出力する速度は、ノイズ除去のための演算による出力遅れを小さくして、リアルタイム性を実現している。
【0050】
図6は、本発明の一実施形態に係る移動体高精度速度計測装置10によって出力されるリアルタイム補間速度と、GPS受信機101から出力されるドップラー速度と、光学式速度計測装置から出力される速度とを示す図である。ここで、光学式速度計測装置は、路面の不規則な模様から、特定の間隔(例えば、2.3mm)によるクシ型構造の特殊受光素子によって特定の間隔の反射ムラだけを抽出し、抽出した反射ムラの計数値に特定の間隔をかけて算出した高精度の速度を出力する。
【0051】
図6が示すように、移動体高精度速度計測装置10は、マルチパスによるノイズを含むドップラー速度におけるノイズの影響を小さくし、リアルタイムに移動体の速度を出力し、出力した速度は、光学式速度計測装置による高精度の速度と同様である。
【0052】
本実施形態によれば、移動体高精度速度計測装置10は、IMU102を使用して移動体の加速度及び角速度を計測し、計測した移動体の加速度及び角速度からストラップダウン演算により速度を算出し、算出した速度に基づいてリアルタイム補間速度を算出する。次に、移動体高精度速度計測装置10は、GPS受信機101を使用してGPS搬送波のドップラーシフト量から移動体のドップラー速度を測定し、測定したドップラー速度から算出した加速度と、計測した加速度との差分を算出し、算出した差分に基づいて係数を算出する。次に、移動体高精度速度計測装置10は、係数が算出されるための時間だけ、測定したドップラー速度を演算に用いる時間を遅延させ、遅延させたドップラー速度と、フィードバックさせたリアルタイム補間速度との同期化を行い、同期化されたドップラー速度とリアルタイム補間速度との誤差量を算出する。次に、移動体高精度速度計測装置10は、算出した誤差量に、算出した係数を乗算し、係数を乗算した誤差量からリアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算する。そして、移動体高精度速度計測装置10は、ストラップダウン演算により算出した速度に、カルマンフィルタによって推定演算された調整量を融合してリアルタイム補間速度を算出し、算出したリアルタイム補間速度を出力すると共にフィードバックさせる。したがって、移動体高精度速度計測装置10は、木々やビル群等によってGPS衛星からの信号が反射されてマルチパスが発生する状況下であっても、高精度及び高信頼の速度をリアルタイムに出力することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
10 移動体高精度速度計測装置
11 加速度計測部
12 ストラップダウンナビゲータ部
13 速度測定部
14 良否係数算出部
15 遅延処理部
16 同期化処理部
17 良否係数乗算部
18 カルマンフィルタ部
101 GPS受信機
102 IMU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の速度を計測する移動体高精度速度計測装置であって、
IMUを使用して前記移動体の加速度及び角速度を計測する加速度計測手段と、
前記加速度計測手段によって計測された前記移動体の加速度及び角速度からストラップダウン演算により速度を算出し、算出した速度に基づいてリアルタイム補間速度を算出するストラップダウンナビゲータ手段と、
GPS受信機を使用してGPS搬送波のドップラーシフト量から前記移動体のドップラー速度を測定する速度測定手段と、
前記速度測定手段によって測定された前記ドップラー速度から算出した加速度と、前記加速度計測手段によって計測された加速度との差分を算出し、算出した差分に基づいて係数を算出する良否係数算出手段と、
前記良否係数算出手段によって前記係数が算出されるための時間だけ、前記速度測定手段によって測定された前記ドップラー速度を演算に用いる時間を遅延させる遅延処理手段と、
前記遅延処理手段によって遅延させた前記ドップラー速度と、前記ストラップダウンナビゲータ手段からフィードバックさせた前記リアルタイム補間速度との同期化を行い、同期化された前記ドップラー速度と前記リアルタイム補間速度との誤差量を算出する同期化処理手段と、
前記同期化処理手段によって算出された前記誤差量に、前記良否係数算出手段によって算出された前記係数を乗算する良否係数乗算手段と、
前記良否係数乗算手段によって前記係数が乗算された誤差量から前記リアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算するカルマンフィルタ手段と、
を備え、
前記ストラップダウンナビゲータ手段は、前記ストラップダウン演算により算出された速度に、前記カルマンフィルタ手段によって推定演算された前記調整量を融合して前記リアルタイム補間速度を算出する、移動体高精度速度計測装置。
【請求項2】
IMUとGPS受信機と備え、移動体の速度を計測する移動体高精度速度計測装置が実行する方法であって、
前記IMUを使用して前記移動体の加速度及び角速度を計測する加速度計測ステップと、
計測された前記移動体の加速度及び角速度からストラップダウン演算により速度を算出し、算出した速度に基づいてリアルタイム補間速度を算出するストラップダウンナビゲータステップと、
前記GPS受信機を使用してGPS搬送波のドップラーシフト量から前記移動体のドップラー速度を測定する速度測定ステップと、
測定された前記ドップラー速度から算出した加速度と、計測された加速度との差分を算出し、算出した差分に基づいて係数を算出する良否係数算出ステップと、
前記係数が算出されるための時間だけ、前記ドップラー速度を演算に用いる時間を遅延させる遅延処理ステップと、
遅延させた前記ドップラー速度と、前記ストラップダウンナビゲータステップからフィードバックさせた前記リアルタイム補間速度との同期化を行い、同期化された前記ドップラー速度と前記リアルタイム補間速度との誤差量を算出する同期化処理ステップと、
算出された前記誤差量に、算出された前記係数を乗算する良否係数乗算ステップと、
前記係数が乗算された誤差量から前記リアルタイム補間速度に対する調整量を、カルマンフィルタによって推定演算するカルマンフィルタステップと、を含み、
前記ストラップダウンナビゲータステップは、前記ストラップダウン演算により算出された速度に、前記カルマンフィルタステップによって推定演算された前記調整量を融合して前記リアルタイム補間速度を算出する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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