説明

移動体

【課題】中空型セルを備えた燃料電池を搭載した車両等の移動体において、中空型セルに酸化剤ガスである空気を効率よく供給し、エネルギー変換効率に優れた移動体を提供する。
【解決手段】燃料電池を搭載した移動体であって、燃料電池は、中空電解質膜の内面に燃料極及び該中空電解質膜の外面に空気極が設けられ且つ少なくとも一方の端部が開放された中空型セル6を、2つ以上含むセルスタック7を備えており、中空型セルの空気極に供給する空気を、移動体の外気から取り込む吸気孔8と、移動体の外部に排出する排気孔9と、吸気管10と、排気管11と、吸気管10及び/又は排気管11に配置され、且つ、吸気孔8から排気孔9に至る空気の流れを形成可能な少なくとも1つの送風機12と、を備え、吸気孔8から取り込まれた空気を、非圧縮状態で中空型セル6の外面に設けられた空気極に接触させる移動体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空型セルを備える燃料電池を搭載した移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。電解質として固体高分子電解質を用いる固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池では、水素を燃料とした場合、アノード(燃料極)では(1)式の反応が進行する。
2 → 2H+ + 2e- …(1)
(1)式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード(空気極)に到達する。そして、(1)式で生じたプロトンは、水と水和した状態で、固体高分子電解質膜内を水素極側から空気極側に、電気浸透により移動する。
【0004】
また、酸素(空気)を酸化剤とした場合、空気極では(2)式の反応が進行する。
2H+ + (1/2)O2 + 2e- → H2O …(2)
空気極で生成した水は、主としてガス拡散層を通り、外部へと排出される。
このように、燃料電池では、水以外の排出物がなく、クリーンな発電装置である。
【0005】
従来、固体高分子電解質型燃料電池としては主に、平面状の固体高分子電解質膜の一面に燃料極及び他面に空気極となる触媒層を設けるとともに、得られた平面状の膜・電極接合体の両側にさらにそれぞれガス拡散層を設け、さらに平面状のセパレータで挟んだ平型の単セルが開発されてきた。このような平型の単セルは、複数積層して燃料電池スタックとして用いられる。
固体高分子電解質型燃料電池の出力密度向上のため、固体高分子電解質膜としては非常に膜厚の薄いプロトン伝導性高分子膜が用いられている。この膜厚はすでに100μm以下のものが主流であり、さらなる出力密度向上のためにさらに薄い電解質膜を用いたとしても、単セルの厚みを現在のものより劇的に薄くすることはできない。同様に、触媒層、ガス拡散層及びセパレータ等についてもそれぞれ薄膜化が進んでいるが、それらすべての部材の薄膜化によっても、単位体積当たりの出力密度の向上には限界がある。従って、小型化の要求に対しても、今後充分に応えられなくなることが予想される。
【0006】
また、前記セパレータには、通常、腐食性に優れたシート状のカーボン材料が用いられている。セパレータは、このカーボン材料自体が高価である上に、平面状の膜・電極接合体の面全体に均一に燃料ガス及び酸化剤ガスを行き渡らせるためのガス流路溝を、微細加工により形成するため、非常に高価なものとなっている。その結果、燃料電池の製造原価を押し上げていた。
以上の問題の他にも、平型の単セルには、前記ガス流路から燃料ガス及び酸化剤ガスが漏れ出さないように幾層にもスタックされた単セルの周縁を確実にシールすることが技術的に難しいこと、平面状の膜・電極接合体のたわみや変形に起因して発電効率が低下してしまうことなど、多くの問題がある。
【0007】
近年、中空状の電解質膜の内面側と外面側にそれぞれ電極を設けた中空型セルを基本的な発電単位とする固体高分子電解質型燃料電池が開発されている(例えば、特許文献1〜特許文献4等)。
このような中空型セルを有する燃料電池は、その中空内をガス流路とするため、平型で使用されるセパレータに相当する部材が必要ない。そして、その内面と外面とにそれぞれ異なった種類のガスを供給して発電するので、特別にガス流路を形成する必要もない。従って、その製造においては、コストの低減が見込まれる。しかも、セルが3次元形状であるので、平型の単セルに比べて体積に対する比表面積が大きくとれ、体積当たりの発電出力密度の向上が見込める。
【0008】
【特許文献1】特開平7−296840号公報
【特許文献2】特開2000−299118号公報
【特許文献3】特開2004−319113号公報
【特許文献4】特開2004−158335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、中空型セルを備えた燃料電池に関して、上記特許文献1〜特許文献4以外にも多くの技術が研究、開発されている。しかしながら、車両等の移動体に燃料電池を搭載し、燃料電池から得られる電気を動力として用いる際の具体的な搭載形態等については充分考慮されておらず、中空型セルの利点を充分に活かした移動体がない。
【0010】
本発明は以上のような実情を鑑みて成し遂げられたものであり、中空型セルを備えた燃料電池を搭載した車両等の移動体において、中空型セルに酸化剤ガスである空気を効率よく供給し、エネルギー変換効率に優れた移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の移動体は、燃料電池を搭載した移動体であって、前記燃料電池は、中空電解質膜の内面に燃料極及び該中空電解質膜の外面に空気極が設けられ且つ少なくとも一方の端部が開放された中空型セルを、2つ以上含むセルスタックを備えており、
前記中空型セルの空気極に供給する空気を、該移動体の外気から取り込む吸気孔と、
前記吸気孔から取り込まれて前記中空型セルの空気極に供給された空気を、該移動体の外部に排出する排気孔と、
前記吸気孔から取り込まれた空気を前記中空型セルの空気極に誘導する吸気管と、
前記中空型セルの空気極に供給された空気を前記排気孔に誘導する排気管と、
前記吸気管及び/又は前記排気管に配置され、且つ、前記吸気孔から前記排気孔に至る空気の流れを形成可能な少なくとも1つの送風機と、を備え、
前記吸気孔から取り込まれた空気を、非圧縮状態で前記中空型セルの外面に設けられた空気極に接触させることを特徴とするものである。
【0012】
従来、燃料電池において、充分な量の酸素を空気極に供給するために、酸化剤である空気はコンプレッサー等を用いて圧縮された状態で供給されてきた。一般的に、中空電解質膜の外側に空気極が設けられた中空型セルを備える燃料電池は、平型のセルを備える燃料電池と比較して、空気を供給するガス流路構造等の違いから空気供給の際の圧力損失が小さく、また、セルの構造上、単位体積当りの電極面積を大きくすることができる。
【0013】
本発明者らは、以上のような中空型セルを備えた燃料電池における空気供給特性の高さと電極面積の大きさを生かすことによって、移動体におけるエネルギー変換効率を向上させることが可能であるという知見を得た。そして、移動体に搭載された中空型セルの外面(空気極)に、移動体の外気から取り込んだ空気、典型的には走行風を、コンプレッサーを用いずに非圧縮状態で接触させても、移動体の動力源として充分な電力が得られ、必要に応じて、ファン等の送風機による気流の形成を行うことで、移動体の運転条件に対応した移動体の駆動が可能であることを見出した。
【0014】
本発明の移動体は、コンプレッサーを用いない又はコンプレッサーの使用頻度を減らすことが可能であるため、コンプレッサーの圧縮空気を供給する燃料電池を搭載した移動体と比較して、コンプレッサーを稼動させるのに必要な電力を削減したり、コンプレッサーの小型化、コンプレッサー搭載分の移動体の小型化や軽量化等が可能であるため、発電効率に優れている。また、コンプレッサーでは困難だった低圧、低流量の空気供給が可能であるため、燃料電池の細やかな作動制御や発電効率の高い低電流域での発電が達成できる。
また、本発明の移動体は、吸気孔から排気孔に至る空気の流路の少なくとも1箇所に送風機を設けており、必要に応じて該送風機を作動させて吸気孔から排気孔に至る気流を形成することによって、吸気孔からの空気の取り込み効率を高めることが可能であることから、吸気孔から取り込まれる空気量を制御することができ、空気極への空気供給量のコントロールが可能である。しかも、送風機の設置により、吸気孔の開口方向の自由度が高くなるという利点もある。前記送風機は、吸気孔からセルスタックへと流れる空気流の抵抗の低さ、また、均一な空気流の形成等の観点から、少なくとも前記排気管に設けられていることが好ましい。
【0015】
前記吸気孔からより効率的に空気を取り込むことが可能であることから、前記吸気孔から前記排気孔に至る空気の流路は、前記移動体が前方に移動する際に生じる該移動体に対して相対的な気流である走行風が、前記吸気孔に流入して前記中空型セルの空気極に接触し、前記排気孔から排出可能な構造を有していることが好ましい。移動体の移動により生じる走行風を有効利用することで、効率よく外気を取り込むことが可能となる。
【0016】
前記吸気管にエアフィルタを設ける場合、吸気孔から取り込まれた外気からほこり等が進入するのを防止することができる。
【0017】
中空型セルの外面における空気流の流量の調整等が可能となることから、前記排気管に背圧弁が設けられていることが好ましい。背圧弁を備える構造の場合、前記吸気孔の断面積が、前記排気孔の断面積を大きくすることで、背圧弁による空気流の流量の調整がより容易となる。
【0018】
吸気孔から取り込まれた空気を、セルスタックを構成する複数の各中空型セルに効率よく供給する観点から、前記セルスタックは、前記中空型セルの外面に接触する空気の流通方向の垂直面に対する投影面積が、該空気の流通方向の平行面に対する投影面積よりも大きくなるように、前記中空型セルが配列されていることが好ましい。
【0019】
同様に、吸気孔から取り込まれた空気を、セルスタックを構成する複数の各中空型セルに効率よく供給するためには、空気の流通方向に対する中空型セルの配列形態が重要であり、このような観点から、例えば、前記セルスタックにおいて、前記中空型セルは、該中空型セルの外面に接触する空気の流通方向に対してその軸方向が非平行となるように配置されていることが好ましく、特に、前記中空型セルは、該中空型セルの外面に接触する空気の流通方向に対してその軸方向が略垂直となるように配置されていることが好ましい。
【0020】
さらに、同様の観点から、前記セルスタックにおいて、2つ以上の前記中空型セルは、該中空型セルの外面に接触する空気の流通方向に対して千鳥配置されていることが好ましい。
【0021】
また、同様に、空気極への空気の供給効率の観点から、前記セルスタックは、前記中空型セルの外面に接触する空気の流通方向の垂直面に対する投影面積が、前記吸気孔の断面積よりも小さいことが好ましい。
【0022】
本発明の移動体は、前記移動体のアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、前記中空型セルの空気極に供給されている空気供給量を検出する空気供給量検出手段と、記アクセル開度検出手段からの情報に基づいて前記空気極に供給される空気の要求量を決定し、該空気要求量に対する前記空気供給量の不足分を算出して、前記空気極に該空気要求量が供給されるように、空気不足分に応じて前記送風機を作動させる送風機制御手段と、を備えることによって、燃料電池に要求される出力に応じた空気要求量を中空型セルに供給することが可能である。
このとき、具体的には、前記空気供給量検出手段が、前記吸気管及び/又は前記排気管に設けられたガス流量計、或いは、前記移動体の速度を検出する速度検出器、の少なくとも一つを備える場合、空気の流量及び/又は移動体の速度から空気供給量を検出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の移動体は、外気から取り込んだ空気を圧縮せずに燃料電池に供給するため、コンプレッサーを用いて圧縮した空気を燃料電池に供給する場合と比較して、コンプレッサー稼動分、エネルギー効率を向上させることができ、また、コンプレッサー搭載分の軽量化及び小型化も可能である。さらには、コンプレッサーでは困難であった低圧、低流量の空気供給が可能であるため、燃料電池のより複雑で細やかな運転制御や発電効率の高い低電流域での運転を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の移動体は、燃料電池を搭載した移動体であって、前記燃料電池は、中空電解質膜の内面に燃料極及び該中空電解質膜の外面に空気極が設けられ且つ少なくとも一方の端部が開放された中空型セルを、2つ以上含むセルスタックを備えており、
前記中空型セルの空気極に供給する空気を、該移動体の外気から取り込む吸気孔と、前記吸気孔から取り込まれて前記中空型セルの空気極に供給された空気を、該移動体の外部に排出する排気孔と、前記吸気孔から取り込まれた空気を前記中空型セルの空気極に誘導する吸気管と、前記中空型セルの空気極に供給された空気を前記排気孔に誘導する排気管と、前記吸気管及び/又は前記排気管に配置され、且つ、前記吸気孔から前記排気孔に至る空気の流れを形成可能な少なくとも1つの送風機と、を備え、
前記吸気孔から取り込まれた空気を、非圧縮状態で前記中空型セルの外面に設けられた空気極に接触させることを特徴とする。
【0025】
以下、図1〜6を用いて、本発明の移動体について説明していく。図1〜6は、移動体や燃料電池の構造を容易に理解可能とするため、構成部材・構成要素を適宜省略して示している。
【0026】
尚、下記の実施形態においては、燃料として水素ガス、酸化剤として空気(酸素)を用いた固体高分子型燃料電池を中心に説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
また、本発明において移動体とは、自動車、電車、二輪車、船舶、航空機等、動力源を備え、自走可能なものである。また、移動体は、搭載する燃料電池を動力として移動するものであっても、燃料電池以外の動力源を備え、該動力源のみを動力として、又は、該動力源と燃料電池を動力として移動するものであってもよく、さらには、燃料電池を移動の動力源として使用しないものであってもよい。
【0027】
図1は、本発明の移動体(自動車)の一形態例を示す図であり、図2はセルスタックへの空気供給と水素供給を示す概念図である。
図1及び図2において、移動体100は、複数の中空型セル6(図3〜図4参照)を有するセルスタック7を備えた燃料電池を搭載している。また移動体100は、該セルスタック7を構成する中空型セル6の空気極3に供給する空気を該移動体100の外気から取り込む吸気孔8と、該吸気孔8から取り込まれて中空型セル6の空気極3に供給された空気を該移動体100の外部に排出する排気孔9と、を有している。吸気孔8から取り込まれた空気は吸気管10により中空型セル6の外面(空気極3)に誘導され、該空気極3に供給された空気は排気管11により排気孔9へと誘導される。
【0028】
吸気孔8から、セルスタック7を通過し、排気孔9に至る空気の流路(空気流路)13は、移動体100が前方に移動する際に生じる、移動体100に対して相対的な気流である走行風が、吸気孔8に流入して中空型セル6の空気極3に接触し、排気孔9から排出可能な構造を有している。ゆえに、移動体が前方(図1中の移動方向)に移動する際には、走行風が効率よく吸気孔8から空気流路13内に流入し、中空型セル6へと供給される。
【0029】
さらに、排気管11には送風機(ファン)12が配置されており、必要に応じて、移動体100の移動により発生する気流(走行風)以外を動力として送風機12を駆動させることによって、送風機12の前方(空気流路上流側)の空気が吸い込まれ、該送風機12の後方へ送られて排出孔9から強制的に排出され、空気流路13内に吸気孔8から排気孔9へ流れる気流が形成可能となっている。
【0030】
本発明者らは、中空電解質膜の内側に燃料極及び外側に空気極を設けた中空型セルを備える燃料電池(以下、中空型燃料電池ということがある)が、平型のセルを備える燃料電池(以下、平型燃料電池ということがある)と比較して、空気極に供給される空気の圧力損出が著しく低いこと、及び、単位体積あたりの電極面積を大きくすることが可能であることに着目した。そして、これらの特性から、中空型セルを備える燃料電池は、平型セルを備える燃料電池のように、コンプレッサーを用いて圧縮した空気を圧送しなくても、充分な発電量が得られることを見出した。
【0031】
すなわち、中空型燃料電池は、空気供給における圧力損出が低いことから、非圧縮状態の空気を供給しても空気極に充分量の酸素を供給することが可能であり、単位体積当りの電極面積を大きくとることができることから、電極単位面積当りの発電量が低くても、燃料電池の単位体積当りの発電量としては、充分な性能を得ることが可能である。以上のような中空型燃料電池の特性を充分に生かした本発明では、コンプレッサーを使用しない、コンプレッサーの使用頻度を減らす、又はコンプレッサーの圧縮比を低下させることができるため、コンプレッサーを稼動させる電力の削減、搭載コンプレッサーの小型化、コンプレッサー搭載分の移動体の小型化及び軽量化が可能である。その結果、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0032】
しかも、本発明の移動体によれば、コンプレッサーによる空気供給を行う燃料電池では困難だった、低圧、低流量の空気供給が可能であり、燃料電池の細やかな作動制御や発電効率の高い低電流域での発電を実現することができる。
【0033】
さらに、本発明の移動体は、空気をセルスタックへ導き、移動体外へと排出する空気路(吸気孔から排気孔に至る空気の流路)の少なくとも1箇所に送風機を設けており、必要に応じて該送風機を作動させることによって、吸気孔から排気孔へと流れる空気流を強制的に形成することが可能であることから、吸気孔から取り込まれる空気量を制御することができ、空気極への空気供給量のコントロールが可能である。しかも、送風機の設置により、強制的な空気流の形成が可能であることから、吸気孔の開口方向の自由度が高くなるという利点もある。具体的には、移動体の移動方向と直交するような方向に向かって開口する吸気孔からでも、送風機による空気流の形成作用によって、移動体の外気を吸気孔から取り込むことが可能である。
【0034】
本発明において、「空気を非圧縮状態で中空型セルの外面に接触させる」とは、吸気孔から流入する空気流を、コンプレッサー(圧縮機)を介して吐出圧力を高め且つ圧縮した状態で中空型セルの外面に接触させるのではなく、吸気孔から排気孔へと流れる空気流を、コンプレッサーを介さずに、且つ、中空型セルの外面における気圧が110kPa以下に保持されるように、中空型セルの外面に接触させることである。通常の燃料電池における空気の圧縮率1.5〜2、圧力150kPa以上と比較するとその圧縮率及び圧力は大幅に小さい。典型的には、吸気孔から流入した空気をそのまま中空型セルの外面へ導くことであり、大気の流れである風や、移動体の移動による生じる該移動体に対して相対的な気流である走行風等、吸気孔に自然に流入してくる気流を利用する。吸気孔に自然に流入してくる気流のみでは、空気供給量が不足したとしても、送風機を作動させたり、或いは、背圧弁により排気管の管径を絞り、空気流量を制御する程度で充分に補うことができる。
尚、本発明は、空気極に供給する空気の圧力を高めたり、圧縮することを完全に排除するものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて適宜、圧力の付加、圧縮を行ってよい。コンプレッサーを搭載し、燃料電池に高出力が望まれる時に一時的に使用してもよい。また、ファン等の送風機により、吸気孔から流入して中空型セルの外面を流通する気流を発生させた場合、吸気孔から排気孔に至る空気流路の構造によっては、空気流の圧力が上昇したり、空気流の圧縮が生じる場合もあるが、コンプレッサーによる圧縮空気と比較すると、その圧力及び圧縮率は小さく、また、コンプレッサー作動ほどエネルギーを要しない。
【0035】
また、送風機とは、気流を形成するものであり、コンプレッサーのように気体を圧縮(圧縮率2以上)するものではなく、具体的には、シロッコファン、軸流ファン等のファン(圧縮率1.1以下)等が挙げられる。
【0036】
送風機は、図1のように排気管に設けたり、或いは、吸気管に設けたり、さらには、排気管と吸気管の両方に設けることができる。セルスタックの中空型セルの周囲を流れる空気流の一様性の観点から、送風機は少なくとも排気管に設けることが好ましい。中空型セルの周囲を流れる空気流の一様性が高まることで、セルスタックの発電効率向上、中空型セルの耐久性向上等の効果が得られるからである。また、空気流路におけるセルスタックの下流側に送風機を配置することによって、非作動時の送風機が空気流の抵抗となるのを防止することができる。
吸気管及び排気管それぞれに配置する送風機は1つでも2つ以上でもよい。
【0037】
送風機は移動体が移動している際には、吸気孔から流入する走行風によって空転しているが、燃料電池やバッテリー等、移動体に搭載された動力源により作動させることで、吸気孔から排出孔へ流れる気流を形成することができる。送風機は、運転者の加速意思に従って、或いは、走行風が利用できない移動体停止時等、燃料電池に要求される発電量を実現する空気供給量の制御を必要とする際に、移動体の外気を中空型セルの外面(空気極)へと効率よく供給するため、必要に応じて作動させればよい。
【0038】
送風機の作動(on・off)や、回転数等の具体的な作動は、移動体の運転状態や、運転者の加速意思などに応じて制御することが好ましい。送風機の具体的な制御システムとしては、例えば、以下のようなものが挙げられる。すなわち、移動体のアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、中空型セルの空気極に供給されている空気供給量を検出する空気供給量検出手段と、上記アクセル開度検出手段からの情報に基づいて中空型セルの空気極に供給される空気の要求量を決定し、該空気要求量に対する上記空気供給量の不足分を算出して、空気極に空気要求量が供給されるように、空気不足分に応じて送風機を作動させる送風機制御手段とを備えるものである。
【0039】
アクセル開度は、移動体の運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応しており、運転者の加速意思を表す。ゆえに、アクセル開度を検出することで、運転者の要求駆動力を設定することができ、アクセル開度検出手段の情報に基づいて、要求駆動力を達成する発電量を得るために燃料電池を構成する中空型セルの空気極に供給する必要のある空気量(空気要求量)を決定することができる。一方で、実際に中空型セルの空気極に供給されている空気量を空気供給量検出手段により検出し、上記空気要求量に対する不足分(空気要求量−空気供給量)を算出して、空気要求量が中空型セルの空気極に供給されるように、空気不足分に応じて送風機を作動させることによって、要求駆動力に応じた発電量を実現することができる。
実際に空気極に供給されている空気量を検出する手段(空気供給量検出手段)としては、特に限定されず、例えば、前記吸気管及び/又は排気管に設けられたガス流量計や、移動体の速度を検出する速度検出器が挙げられる。ガス流量計と速度検出器は、それぞれ、他の空気供給量検出手段と組み合わせてもよく、ガス流量計と速度検出器を組み合わせてもよい。
アクセル開度検出手段や、送風機制御手段の具体的構成は限定されず、一般的な手段に準じることができる。
【0040】
本発明の移動体において、走行風が吸気孔に流入して中空型セルの空気極に接触し、排出孔から排出されることを可能とする空気流路の具体的な構造は、移動体の移動により生じる走行風が、吸気孔内に流入し、吸気孔からつながる空気流路上に配置された中空型セルの外面に接触することができれば、特に限定されない。吸気孔からの効率的な走行風の取り込みの観点から、吸気孔が移動体の前方、排気孔が移動体の後方に配置され、吸気孔から排気孔に至る空気流路が、移動体の移動方向に沿って形成されていることが好ましく、典型的には、吸気孔から排気孔までが、略直線状の流路であることが好ましい。このような空気流路は、空気抵抗が小さく、吸気孔から効率よく走行風を取り込むことが可能であり、中空型セルに供給する空気の流量を確保することができる。
【0041】
図1や図2のように、排気管11に背圧弁15を設けることによって、中空型セル6に接触させる空気量(流量)をコントロールすることが可能である。例えば、要求電流が低電流である場合、空気極で必要な酸素量が少ないと共に、空気極で生成する水分量が少ないため、空気極に供給される空気は少量でよく、大流量の空気を接触させると中空型セルから水分を奪い、却って中空型セルの発電性能を低下させるおそれがある。そこで、背圧弁を絞って排気管の径を縮小することで、吸気孔から流入する空気量を調節し、中空型セルに接触する空気の流量を低くすることによって、要求電流を発電しつつ、中空型セルの乾燥を抑制することができる。逆に、要求電流が高電流である場合には、背圧弁を開いて排気管の径を拡大することによって、空気極に多くの酸素を効率よく供給することが可能となる。
【0042】
図1のように排気管に送風機と背圧弁を設ける場合には、送風機が背圧弁の上流側、すなわち、送風機と排気孔の間に背圧弁を設ける。
また、排気管に背圧弁を設ける形態において、吸気孔の断面積を排気孔の断面積より大きくすることで、背圧弁による管径のコントロール性を高めることができる。このとき、吸気孔の断面積と排気孔の断面積の比率は特に限定されず、適宜設定すればよい。
尚、送風機を吸気管と排気管のそれぞれに少なくとも1つずつ配置する場合、吸気管、排気管の送風機の回転数をコントロールことで、排気管に背圧弁を設けた場合と同様の効果を得ることが可能である。具体的には、排気管上に設けた送風機の回転数よりも、吸気管上に設けた送風機の回転数を大きくすることで、セルスタック周囲を流通する空気の流量を低下させることができる。
【0043】
外気の取り込み口となる吸気孔及び排ガスを排出する排気孔は、配置位置、数、断面形状、断面のサイズ等、特に限定されないが、既述したように、吸気孔が移動体の前方、排気孔が移動体の後方に配置され、吸気孔から排気孔に至る空気流路が、移動体の移動方向に沿って形成されていることが好ましい。
移動体の移動時に生じる走行風を効率よく取り込むことが可能であることから、吸気孔は移動体の前方に向かって開口していることが好ましい。このとき、移動体の前方に向かって開口しているとは、吸気孔が移動体の前方方向に対する垂直面と平行でなくてもよく、該垂直面に対して、傾斜角を持って開口していてもよい。同様の観点から、吸気孔は、移動体の前方に設けられていることが好ましいが、移動体の側面や天頂部、底部等であってもよい。走行風を取り込みにくい移動体側面や後部であっても、移動体の側面に吹きつける風や停止時の送風機の作動等によって空気を取り込むことが可能であるため、適宜、必要に応じて、複数箇所に吸気孔を設けることができる。複数箇所への吸気孔の設置は、その流れの方向が定まらない風を、燃料電池の酸化剤として効率的に利用することを可能とする。吸気孔の数は、吸気孔のサイズ、配置位置等によって、適宜決定すればよい。
【0044】
吸気孔のサイズとしては、セルスタック7の中空型セル6外面に接触する空気の流通方向の垂直面に対する投影面積を、該吸気孔8の断面積より小さくすることによって、中空型セルへの空気供給効率を高めることができる。
ここで、セルスタックの中空型セル外面に接触する空気の流通方向とは、空気流路上に配置されたセルスタックに対して吸気孔側から排気孔側へと流れる空気の流れの方向であり、通常は、空気流路におけるセルスタックの吸気孔側正面中央部と排気孔側正面中央部とを結ぶ方向とみなすことができる。また、セルスタックの上記投影面積とは、中空型セルの発電領域が配置された空間の投影面積とする。すなわち、セルスタックには、中空型セルの他、集電部材や冷却部材、中空型セルの保護部材等も備えられ、また、中空型セルには発電に寄与しない部分もあるため、これらを含むセルスタック全体の投影面積ではなく、接触した空気が酸化剤として利用され得る中空型セルの発電量域が配置された空間の投影面積とする。以下、セルスタックの投影面積については同様である。
【0045】
図1や図2のように、吸気管10にエアフィルタ14を設けることによって、外気に含まれる粉塵を除去することができ、中空型セルの劣化を防止することができる。吸気管に設けるエアフィルタとしては、特に限定されず一般的なものを用いることができ、例えば、濾紙やスポンジ等が挙げられる。
また、上記した構成部材以外にも、例えば、排気管に気液分離器や希釈器16(図2参照)等の装置を配置することもできる。気液分離器により、燃料電池の発電により生成した水分や、吸気孔から取り込んだ空気中の水分を排出ガスから分離、回収し、空気流路の吸気側において空気に噴霧することによって、中空型セルに供給される空気を加湿することが可能となる。また、中空型セルの燃料極に供給した水素ガスの未反応分を排気孔から排出する場合には、希釈器によって水素ガス濃度を希釈してから排出することで水素排出における問題を回避することができる。さらには、吸気孔から雨水等が入りこまないように、吸気孔の周囲や吸気管に雨水フィルターを設けてもよい。気液分離器、希釈器、雨水フィルターは、その構造等に特に限定はなく、従来の形態に準じることができる。
【0046】
次に、本発明の移動体に搭載される燃料電池が備える中空型セルの基本構造について説明する。図3及び図4は、本発明の燃料電池に用いられる中空型セルの一形態例を示す概略図である。図3は中空型セルの斜視図、図4は図3の中空型セルの断面図である。
【0047】
図3及び図4において、中空型セル6は、チューブ状の固体高分子電解質膜1、固体高分子電解質膜1の内面側に設けられた燃料極(アノード)2及び外面側に設けられた空気極(カソード)3を有している。さらに、燃料極2の表面には、内部集電材(本実施形態においては燃料極側(負極側)集電材)4として柱状集電材が配置され、空気極3の表面には、外部集電材(本実施形態においては、空気極側(正極側)集電材)5として、らせん状の金属ワイヤ5aと棒状部材5bが配置されている。外部集電材5は、棒状部材5bが隣り合う中空型セル6の間にその軸方向が平行となるように配列され、複数の中空型セル6と複数の棒状部材5bとが金属ワイヤ5aによって編みこまれるようにして一体化されている。また、内部集電材4の表面には、燃料ガスの流路を形成する溝4aが設けられている。
このような構造を有する中空型セルの中空内面(実質的には、内部集電材4の外面に設けた溝4aによって形成された内面側ガス流路に露出した部分)に水素ガス、中空型セルの外面に空気を流通させることで、燃料極及び空気極に燃料又は空気が供給され、発電する。図3において、酸化剤ガスである空気は、中空型セルの軸方向に対してその流通方向が略垂直となっている。尚、本明細書において、略垂直とは、完全な垂直状態以外にも、垂直とみなせる状態(垂直状態±3°)を含む。
【0048】
図3の中空型セル6は、その両端において中空部が開放されているものであって、燃料ガスは一端から中空内へと流入し、他端から流出するようになっているが、本発明における中空型セル6は、中空電解質膜の内面側に反応ガスを十分に供給できるものであるならば、中空部の一端のみが開放され、もう一端は封止されていてもよい。特に、内面側電極として、水素を燃料とする水素極を設ける場合、非反応性成分をほとんど含まない水素ガスを燃料ガスとして中空型セルの中空内に供給できること、また、水素分子の拡散性が高いことから、中空内に供給された反応ガスを消費しきることが可能であるため、一端を封鎖した中空部内であっても反応ガスを十分に供給することができる。中空型セルの一端を封鎖する方法としては、樹脂等を中空の一端に注入する方法が例示できるが、特に限定されるものではない。
【0049】
また、図3及び図4において、中空型セル6はチューブ状の電解質膜を有するものであるが、本発明における中空電解質膜はチューブ状に限られず、中空部を有し、当該中空部に燃料を流入させることで、中空内部に設けられた電極に電気化学反応に必要な反応成分を供給することができるものであればよい。
【0050】
チューブ状の固体高分子電解質膜1の内径及び外径、長さ等は特に限定されるものではないが、チューブ状電解質膜の外径は0.01〜10mmであることが好ましく、0.1〜1mmであることがさらに好ましく、0.1〜0.5mmであることが特に好ましい。チューブ状電解質膜の外径が0.01mm未満のものは現時点では、技術的な問題で製造することが難しく、一方、その外径が10mmを超えるものでは、占有体積に対する表面積があまり大きくならないため、得られる中空型セルの単位体積当たりの出力が充分に得られないおそれがある。
【0051】
電解質膜は、プロトン伝導性の向上の点からは薄いほうが好ましいが、あまりに薄すぎるとガスを隔離する機能が低下し、非プロトン水素の透過量が増大してしまう。しかしながら、従来の平型の燃料電池用単セルを積層した燃料電池と比べると、中空形状を有するセルを多数集めることにより作製された燃料電池では電極面積が大きくとれるので、やや厚みのある膜を用いた場合でも、充分な出力が得られる。かかる観点から、電解質膜としてパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜を用いる場合、電解質膜の厚みは、10〜100μmであり、より好ましくは50〜60μmであり、さらに好ましくは50〜55μmである。
また、上記の外径と膜厚との好ましい範囲から、内径の好ましい範囲は0.01〜10mmであり、より好ましくは0.1〜1mmであり、さらに好ましくは0.1〜0.5mmである。
【0052】
本発明の燃料電池は、中空型セルを有するため、平型のセルを有する燃料電池と比べて単位体積当たりの電極面積を大きくとることができることから、固体高分子電解質膜として、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜ほど高いプロトン伝導性を有していない電解質膜を用いても、単位体積当たりの出力密度の高い燃料電池を得ることができる。固体高分子電解質膜としては、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の他、固体高分子型燃料電池の電解質膜に用いられているような材料を使用することができ、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂以外のフッ素系イオン交換樹脂、スルホン酸基を有するポリスチレン系陽イオン交換膜などのポリオレフィンのような炭化水素を骨格として少なくともスルホン酸基、ホスホン酸基、及び、リン酸基等のプロトン交換基のうちから一種を有するもの、特表平11−503262号公報などに開示されている、ポリベンズイミダゾール、ポリピリミジン、ポリベンゾオキサゾールなどの塩基性高分子に強酸をドープした塩基性高分子と強酸との複合体からなる固体ポリマー電解質等の高分子電解質が挙げられる。
このような電解質を用いた固体高分子電解質膜は、フィブリル状、繊布状、不繊布状、多孔質シートのパーフルオロカーボン重合体で補強することや、膜表面に無機酸化物あるいは金属をコーティングすることにより補強することもできる。また、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜としては、例えば米国デュポン社製ナフィオン(商品名)や旭硝子社製フレミオン(商品名)等の市販品もある。
【0053】
また、本実施形態では電解質膜として、プロトン伝導膜の一種であり、固体高分子電解質膜の一つであるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜を用いて説明しているが、本発明の燃料電池において用いられる電解質膜は特に限定されるものではなく、プロトン伝導性のものであっても、水酸化物イオンや酸化物イオン(O2-)等その他のイオン伝導性のものであってもよい。プロトン伝導性の電解質膜としては、上記したような固体高分子電解質膜に限られず、リン酸水溶液を多孔質の電解質板に含浸させたものや、多孔質性ガラスからなるプロトン伝導体、ハイドロゲル化したリン酸塩ガラス、ナノ細孔を有する多孔質硝子の表面及び細孔内にプロトン伝導性官能基を導入した有機−無機ハイブリットプロトン伝導膜、無機金属繊維強化電解質ポリマー等を用いることができる。
【0054】
電解質膜1の内面及び外面に設けられる各電極2,3は、固体高分子型燃料電池に用いられているような電極材料を用いて形成することができる。通常は、触媒層のみ、若しくは、電解質膜側から順に触媒層とガス拡散層とを積層して構成された電極が用いられる。
触媒層は触媒粒を含み、さらに触媒粒の利用効率を高めるためのプロトン伝導性物質を含んでいてもよく、プロトン伝導性物質としては上記電解質膜の材料として用いられるものを用いることができる。触媒粒としては、触媒成分を炭素質粒子、炭素質繊維のような炭素材料等の導電性材料に担持させた触媒粒が好適に用いられる。本発明の燃料電池は、中空型セルを有するため、平型のセルを有する燃料電池と比べて単位体積当たりの電極面積を大きくとることができることから、白金ほど触媒作用が大きくない触媒成分を用いても、単位体積当たりの出力密度が高い燃料電池を得ることができる。
【0055】
触媒成分としては、燃料極における水素の酸化反応、空気極における酸素の還元反応に対して触媒作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスニウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等の金属、又はそれらの合金から選択することができる。好ましくは、Pt、及びPtと例えばRuなど他の金属とからなる合金である。
【0056】
ガス拡散層としては、炭素質粒子及び/又は炭素質繊維等の炭素材料を主成分とする多孔質導電性材料を用いることができる。炭素質粒子及び炭素質繊維の大きさは、ガス拡散層を製造する際の溶液中における分散性や得られるガス拡散層の排水性等を考慮して適宜最適なものを選択すればよい。ガス拡散層は、生成水など水分の排水性を高める点から、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロカーボンアルコキシアルカン、エチレン−テトラフルオロエチレンポリマー、又はこれらの混合物等を含浸させたり、或いはこれらの物質を用いて撥水層を形成するなどして撥水加工することが好ましい。
尚、中空電解質膜の内面及び外面に設けられる各電極の構成、電極に用いられる材料等は、同じであってもよく、また、異なっていてもよい。
【0057】
チューブ状の電解質膜の内面及び外面に一対の電極を設ける方法としては、特に限定されるものではない。例えば、下記の(1)〜(3)の方法が挙げられる。すなわち、(1)まず、チューブ状の電解質膜を準備する。チューブ状の電解質膜を準備する方法は特に限定されず、市販品のチューブ状に形成された電解質膜を用いることもできる。そして、当該チューブ状電解質膜の内面及び外面に、電解質及び触媒粒を含む溶液を塗布・乾燥して触媒層を形成し、当該二つの触媒層上に炭素質粒子及び/又は炭素質繊維を含む溶液を塗布・乾燥してガス拡散層を形成する方法が挙げられる。また、このとき、電解質膜の内面側に形成したガス拡散層の内面に中空部が存在するように触媒層とガス拡散層を形成する。
【0058】
或いは、(2)まず、炭素質粒子及び/又は炭素質繊維等の炭素材料を含み、チューブ状に形成されたもの(チューブ状炭素質)を内面側電極(燃料極)のガス拡散層として用い、当該ガス拡散層の外面に電解質及び触媒粒を含む溶液を塗布・乾燥して燃料極側触媒層を形成して燃料極を作製し、次に、当該触媒層の外面に電解質を含む溶液を塗布・乾燥して電解質膜層、さらに当該電解質膜層の外面に空気極(外面側電極)の触媒層及びガス拡散層を方法も挙げられる。チューブ状炭素質としては、例えば、炭素質粒子等の炭素材料とエポキシ及び/又はフェノール系樹脂を溶媒に分散させてチューブ状に成形し、熱硬化後、焼成することにより得られる。
或いは、(3)上記(2)の方法において、棒状の内部集電材の周囲に、導電性多孔質シートを巻き付けて内面側電極のガス拡散層とする方法が挙げられる。
【0059】
尚、電解質膜、触媒層、ガス拡散層を形成する際に使用する溶媒は、分散及び/又は溶解する材料に応じて適宜選択すればよく、また、各層を形成する際の塗布方法についても、スプレー法、スクリーン印刷法等種々の方法にから適宜選択することができる。
本発明の燃料電池に用いられる中空形状を有する中空型セルは、上記にて例示した構成に限られず、中空型セルの機能を高めることを目的として触媒層及びガス拡散層以外の層を設けても良い。
【0060】
図3及び図4において、中空型セル6の内面側電極2に接続される内部集電材4は、少なくとも一部において内面側電極の内周面と接する外径を有する柱状集電材であり、その外周面に中空型セルの軸方向(長手方向)に延びる溝4aが形成されている。或いは、内面側電極の内面との間に反応ガスが流通可能な隙間を形成するような形状を有するものも内部集電材として利用可能である。この内面側電極との隙間(溝)が燃料ガスを供給するための中空内ガス流路となる。溝としては、中空型セルの軸方向(長手方向)に延びる溝が少なくとも一本必要であり、必要に応じて、内部集電材の外周面に様々なパターン又は方向性を有する溝が形成される。
また、中空型セルの外面側電極3に接続される外部集電材5は、外面側電極への空気供給量を確保しつつ該電極との接触面積の確保を可能とする金属ワイヤ5aと、金属ワイヤによる集電効率をさらに高める棒状部材5bとを組み合わせることによって、集電効率を高めることが可能である。また、図3や図4のように、棒状部材5bを中空形状とし、その中空5c内に冷却媒体を流通させることによって、中空型セルの冷却を行ってもよい。
【0061】
上記内部集電材又は外部集電材として使用される金属としては、例えば、Al、Cu、Fe、Ni、Cr、Ta、Ti、Zr、Sm、In等の中から選ばれる少なくとも1種以上の金属、又はステンレス鋼などのそれらの合金が好ましい。また、その表面がAu、Pt、導電性樹脂等によりコーティングされていても良い。特に耐蝕性に優れることから、中でもステンレスやチタンが好ましい。ワイヤの太さや巻き方、棒状部材の太さ等は、特に制限されるものではない。
【0062】
内部集電材4,外部集電材5は特に限定されず、電気伝導性材料からなるものであればその形状は任意である。具体的には、柱状、ワイヤ状、棒状の他、線状でも、筒形状でもよく、例えば、スプリング状の金属ワイヤや金属箔、金属シート又はカーボンシート等のシート材料からなるもの等も適用できる。
これら集電材は、必要に応じて、カーボン系接着剤やAgペーストなどの導電性接着材により電極上に固定される。
【0063】
本発明の移動体に搭載される燃料電池は、上記のような中空型セルを備えるものであり、通常は、中空型セル2本以上を並列又は直列に接続したセルスタックを、2つ以上並列又は直列に接続して組み込む。燃料の供給方法、中空型セルの集電・接続方法、セルスタックの集電・接続方法は特に限定されない。
また、複数の中空型セルを備えてなるセルスタックにおいて、中空型セルの配置形態は特に限定されず、適宜設定すればよい。中空型セルの外面に設けられた空気極への空気供給を効率良く行うためには、中空型セルの外面に接触する空気の流通方向の垂直面に対するセルスタックの投影面積が、該空気の流通方向の平行面に対する投影面積よりも大きくなるように、前記中空型セルが配列されていることが好ましい。
【0064】
また、図5に示すように、中空型セルの外面に接触する空気の流通方向に対して、該中空型セルの軸方向が非平行(図5の5A参照)となるように配置することによって、空気極に対する空気供給効率を向上させることができる。特に、空気の流通方向に対して中空型セルの軸方向が略垂直(図5の5B参照)となるようにすることが好ましい。
さらに、セルスタックにおいて、図6の6Aのように、複数の中空型セルを空気の流通方向に千鳥配置することによって、図6の6Bのように空気流通方向に対して直線的に配列する場合と比較して、中空型セルへの空気供給効率を高めることも可能である。千鳥配置の具体的な形態は特に限定されないので適宜設定してよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明にかかる移動体の一形態例を示す図である。
【図2】本発明の移動体におけるセルスタックへの空気供給と水素供給を示す概念図である
【図3】本発明の移動体に搭載される燃料電池のセルスタックを構成する中空型セル(一例)の斜視図である。
【図4】図3の中空型セルの断面図である。
【図5】本発明の移動体に搭載される燃料電池のセルスタックにおける中空型セルの配置形態例を説明する図である。
【図6】本発明の移動体に搭載される燃料電池のセルスタックにおける中空型セルの配置形態例を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
1…中空電解質膜
2…燃料極(内面側電極)
3…空気極(外面側電極)
4…燃料極側集電材(内部集電材)
4a…溝
5…空気極側集電材(外部集電材)
5a…ワイヤ
5b…棒状部材
5c…中空
6…中空型セル
7…セルスタック
8…吸気孔
9…排気孔
10…吸気管
11…排気管
12…送風機
13…空気流路
14…エアフィルター
15…背圧弁
16…希釈器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を搭載した移動体であって、
前記燃料電池は、中空電解質膜の内面に燃料極及び該中空電解質膜の外面に空気極が設けられ且つ少なくとも一方の端部が開放された中空型セルを、2つ以上含むセルスタックを備えており、
前記中空型セルの空気極に供給する空気を、該移動体の外気から取り込む吸気孔と、
前記吸気孔から取り込まれて前記中空型セルの空気極に供給された空気を、該移動体の外部に排出する排気孔と、
前記吸気孔から取り込まれた空気を前記中空型セルの空気極に誘導する吸気管と、
前記中空型セルの空気極に供給された空気を前記排気孔に誘導する排気管と、
前記吸気管及び/又は前記排気管に配置され、且つ、前記吸気孔から前記排気孔に至る空気の流れを形成可能な少なくとも1つの送風機と、
を備え、
前記吸気孔から取り込まれた空気を、非圧縮状態で前記中空型セルの外面に設けられた空気極に接触させることを特徴とする、移動体。
【請求項2】
前記吸気孔から前記排気孔に至る空気の流路は、前記移動体が前方に移動する際に生じる該移動体に対して相対的な気流である走行風が、前記吸気孔に流入して前記中空型セルの空気極に接触し、前記排気孔から排出可能な構造を有している、請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
少なくとも前記排気管に前記送風機が設けられている、請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項4】
前記吸気管にエアフィルタが設けられている、請求項1乃至3のいずれかに記載の移動体。
【請求項5】
前記排気管に背圧弁が設けられている、請求項1乃至4のいずれかに記載の移動体。
【請求項6】
前記吸気孔の断面積が、前記排気孔の断面積よりも大きい、請求項5に記載の移動体。
【請求項7】
前記セルスタックは、前記中空型セルの外面に接触する空気の流通方向の垂直面に対する投影面積が、該空気の流通方向の平行面に対する投影面積よりも大きくなるように、前記中空型セルが配列されている、請求項1乃至6のいずれかに記載の移動体。
【請求項8】
前記セルスタックは、前記中空型セルの外面に接触する空気の流通方向に対してその軸方向が非平行となるように、前記中空型セルが配置されている、請求項1乃至7のいずれかに記載の移動体。
【請求項9】
前記中空型セルは、該中空型セルの外面に接触する空気の流通方向に対してその軸方向が略垂直となるように配置されている、請求項8に記載の移動体。
【請求項10】
前記セルスタックにおいて、前記中空型セルは、該中空型セルの外面に接触する空気の流通方向に対して千鳥配置されている、請求項1乃至9のいずれかに記載の移動体。
【請求項11】
前記セルスタックは、前記中空型セルの外面に接触する空気の流通方向の垂直面に対する投影面積が、前記吸気孔の断面積よりも小さい、請求項1乃至10のいずれかに記載の移動体。
【請求項12】
前記移動体のアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
前記中空型セルの空気極に供給されている空気供給量を検出する空気供給量検出手段と、
前記アクセル開度検出手段からの情報に基づいて前記空気極に供給される空気の要求量を決定し、該空気要求量に対する前記空気供給量の不足分を算出して、前記空気極に該空気要求量が供給されるように、空気不足分に応じて前記送風機を作動させる送風機制御手段と、
を備える、請求項1乃至11のいずれかに記載の移動体。
【請求項13】
前記空気供給量検出手段が、前記吸気管及び/又は前記排気管に設けられたガス流量計、或いは、前記移動体の速度を検出する速度検出器、の少なくとも一つを備える、請求項12に記載の移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−37991(P2009−37991A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203781(P2007−203781)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】