移動型X線撮影装置
【課題】X線イメージインテンシファイアを使用した移動型のコーンビームX線CT装置において、装置の撮影位置に依らずに、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、解像度低下の無いコーンビームCT像を提供する。
【解決手段】X線源11と、X線イメージインテンシファイア12iを用いたX線検出器12と、X線検出器12から出力されるX線画像データに基づいて被検体の投影画像を生成する画像生成手段(画像再構成手段200)と、X線検出器12の位置を検出して位置情報を出力する位置検出手段(8,320,330)と、その位置情報に基づいて、X線検出器12の位置に対応する幾何学補正量に従って投影画像の幾何学的歪みを補正する歪補正手段240と、を備える。
【解決手段】X線源11と、X線イメージインテンシファイア12iを用いたX線検出器12と、X線検出器12から出力されるX線画像データに基づいて被検体の投影画像を生成する画像生成手段(画像再構成手段200)と、X線検出器12の位置を検出して位置情報を出力する位置検出手段(8,320,330)と、その位置情報に基づいて、X線検出器12の位置に対応する幾何学補正量に従って投影画像の幾何学的歪みを補正する歪補正手段240と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線イメージインテンシファイアを使用した移動型のX線撮影装置に係り、特に、X線撮影を行う場合に、装置の撮影位置に依らずに、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、解像度低下の無い投影画像を生成することのできる、移動型X線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線イメージインテンシファイアを使用したX線撮影では、X線イメージインテンシファイアのX線入射面が曲面であること、そしてX線入射面で生成される光電子を加速し増倍する過程で電子の軌道が外部電磁場により曲げられる影響により、X線イメージインテンシファイアで撮影される2次元X線画像は図2のような幾何学的歪みを含んだものとなることが知られている。このX線イメージインテンシファイアの内部構造と外部電磁場に起因するX線画像の幾何学的歪みを、図3のようにホール位置が既知のホールを複数個、格子状に開けた平板(ホールチャート30)をX線イメージインテンシファイアのX線入射面の前面に固定して撮影し、ホールチャート30の撮影画像(図2)からホールの座標を抽出し、幾何学的歪みの無い場合のホールの座標と対応させる座標変換テーブルを生成することにより、補正する方法が下記の特許文献1において開示されている。
【0003】
また、X線イメージインテンシファイアを2次元X線検出器として使用し、その回転撮影データから3次元的CT像を生成するコーンビームCT再構成演算を行う際に、回転中心軸投影等の撮影幾何学パラメータを較正する方法が、下記の特許文献2において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特登録3356356号公報
【特許文献2】特登録3548306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の外部電磁場は、地磁気と、周辺の電気機械から発生する電磁場、及び電磁場発生源とX線イメージインテンシファイア周辺との間に存在する金属などの影響を合成したものとなっている。X線イメージインテンシファイアは外部電磁場の影響を受ける構造となっているため、その周囲に金属による磁気シールドが施されているが、X線入射面方向に対しては入射X線の減衰を抑えるため十分な磁気シールドがされないのが通常である。そのため、X線イメージインテンシファイアを、移動型のX線撮影装置に搭載して使用する場合、X線イメージインテンシファイアの向きや位置ごとに、外部電磁場の影響が異なり、撮影画像の幾何学的歪みは異なるものとなる。
【0006】
公知の技術は、撮影装置が移動しない、またはX線イメージインテンシファイアの画像の幾何学的歪みが装置の位置により変化しないことを前提としているか、あるいはX線イメージインテンシファイアが予め想定された固定位置の回転軌道を動くことを前提としており、固定の軌道上で上記座標変換テーブルを複数枚用意しておくことにより解決していた。
【0007】
そのため、X線イメージインテンシファイアを移動型のX線撮影装置に搭載する場合における幾何学的歪みの補正については考慮されていなかった。
【0008】
本発明の目的は、X線イメージインテンシファイアを使用した移動型のX線撮影装置において、装置の撮影位置に依らずに、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、解像度低下の無い投影画像を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、外部の電磁波信号を受信し、その電磁波信号から装置の位置を計算して、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、解像度低下の無い投影画像を生成することのできる、移動型X線撮影装置を提供する。
【0010】
より詳しくは、本発明に係る移動型X線撮影装置は、任意の位置に移動させてX線撮影が可能な移動型X線撮影装置であって、被検体にX線を照射するX線源と、前記X線源に対向して配置され、前記被検体を透過した前記X線を検出して電気信号に変換するX線イメージインテンシファイアを用いたX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器とを対向配置したまま回転移動させる回転手段と、前記X線検出器から出力されるX線画像データに基づいて前記被検体の投影画像を生成する画像生成手段と、前記X線検出器の位置を検出して位置情報を出力する位置検出手段と、前記位置情報に基づいて、前記X線検出器の位置に対応する幾何学補正量に従って前記被検体の投影画像の幾何学的歪みを補正する歪補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
前記幾何学補正量は、前記X線検出器の幾何学的歪みを補正するために撮影するマーカーの投影点と、前記幾何学的歪みを補正した後の投影画像における、前記マーカーの投影点の配列方向と回転中心軸の投影とのずれ角度と、前記幾何学的歪みと前記ずれ角度とを補正した後の投影画像における、前記X線源が描く円軌道を含む平面の投影座標値と、回転中心軸の投影座標値、とを含んでもよい。
【0012】
また、前記幾何学補正量は、前記マーカーの投影点に基づいて生成される、前記X線検出器の幾何学的歪みを補正するための、座標変換テーブルと、前記幾何学的歪みを補正した後の投影画像における、前記マーカーの投影点の配列方向と回転中心軸の投影とのずれ角度と、前記幾何学的歪みと前記ずれ角度とを補正した後の投影画像における、前記X線源が描く円軌道を含む平面の投影座標値と、回転中心軸の投影座標値、とを含んでもよい。
【0013】
また、前記幾何学補正量は、前記座標変換テーブルを、前記マーカーの投影点の配列方向と回転中心軸の投影とのずれ角度について、回転補正した座標変換テーブルと、前記幾何学的歪みと前記ずれ角度とを補正した後の投影画像における、前記X線源が描く円軌道を含む平面の投影座標値と、回転中心軸の投影座標値、とを含んでもよい。
【0014】
前記幾何学補正量は、前記回転補正した座標変換テーブルを、前記X線源が描く円軌道を含む平面の投影座標値と、回転中心軸の投影座標値が、前記幾何学的歪みと前記ずれ角度とを補正した後の投影画像の、中心にくるように平行移動したテーブルでもよい。
【0015】
更に、上記座標変換テーブルは、縦横の画素数を、数分の1に間引いたテーブルとして保存されており、前記歪補正手段時に復元して使用してもよい。
【0016】
また、上記マーカーの投影点、または上記座標変換テーブルは、投影画像の枚数分、または投影画像の枚数を数分の1に間引いた枚数分だけ、保存してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、X線イメージインテンシファイアを使用した移動型のX線撮影装置において、装置の撮影位置に依らずに、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、解像度低下の無い投影画像を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用されるコーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置を示す概略構成図である。
【図1a】本発明が適用されるコーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置を示す概略構成図である。
【図2】X線イメージインテンシファイア固有の幾何学的歪みを表す図である。
【図3】ホールチャート30を示す図である。
【図4】ホールチャート30の回転撮影像と、ホールチャート30の取り付けずれ角度bを示す図である。
【図5】ホールチャート30の取り付けずれ角度bを補正した歪補正後の画像を示す図である。
【図6】本発明が適用される移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における動作を示すフローチャートである。
【図6a】本発明が適用される移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における動作を示すフローチャートである。
【図6b】本発明が適用される移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における動作を示すフローチャートである。
【図6c】本発明が適用される移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における動作を示すフローチャートである。
【図7】歪補正データ群230のデータ形式を示す概略図である。
【図7a】歪補正データ群230のデータ形式を示す概略図である。
【図7b】歪補正データ群230のデータ形式を示す概略図である。
【図7c】歪補正データ群230のデータ形式を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を用いて本発明に係る移動型X線撮影装置の実施の形態について詳説する。本発明の実施形態を説明する全図において、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
<<第一実施形態>>
まず、本発明が適用される移動型X線撮影装置の概略的な構成について説明する。
【0021】
図1は、コーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置1の概略構成図であり、被検体2に対してX線を照射し、被検体2のX線透過像を撮影してX線画像データを得る撮影部10と、撮影部10の各構成要素を制御したり、X線画像データに基づいて被検体2の3次元的X線CT像を再構成したりする制御演算部20と、画像を表示する表示装置80とを備える。
【0022】
図1aは、図1とは異なる回転動作をする場合の装置構成図である。図1は、紙面に平行な方向に回転中心軸4が有り、X線源11と2次元X線検出器12が回転中心軸4を中心に旋回するようになっているのに対し、図1aに示す移動型X線撮影装置1は、回転中心軸4が紙面と垂直な方向に存在し、X線源11と2次元X線検出器12が紙面と平行な面内をスライド回転するようになっている点が異なっている。
【0023】
(撮影部10)
撮影部10は、寝台14と、該寝台14に横臥された被検体2にX線を照射するX線源11と、該X線源11に対向して設置され被検体2を透過したX線を検出することによりX線画像データを出力する2次元X線検出器12と、散乱X線を遮断するためのX線グリッド5と、X線源11と2次元X線検出器12を機械的に接続するC型アーム13と、検査室、手術室に装置を移動するための車輪9と、外部の電磁波信号を受信するための電磁波受信機8とを備える。
【0024】
X線源11は、X線を発生するX線管11tと、X線管11tからのX線の照射視野を円錐または四角錐状に制御するコリメータ11cとを備える。
【0025】
2次元X線検出器12は、X線透過像を可視光像に変換するX線イメージインテンシファイア12iと、X線イメージインテンシファイア12iの像を結像する光学レンズ12dと、光学レンズ12dにより結像されたX線イメージインテンシファイア12iの可視光像を撮影するCCDテレビカメラ12cとの、組み合わせからなる。この形態の2次元X線検出器12の撮影視野は、通常は円形であるが、コリメータ11cで矩形状にコリメートしたり、多辺形いかなる形状の撮影視野のものであってもよい。
【0026】
C型アーム13は、被検体2の撮影に際して、所定の投影角度毎に回転中心軸4を中心として回転移動する。これにより、上記X線源11と2次元X線検出器12とは対向配置したまま、ほぼ同一の平面上にある円軌道を回転移動し、X線撮影を行う。この回転移動については、画像再構成演算に使用される撮影幾何学パラメータが存在する。撮影幾何学パラメータに、X線源11が描く円軌道を含む面である回転軌道面(ミッドプレーン)3と、回転中心軸4、及びX線イメージインテンシファイア12iの画像の歪みを補正する座標変換テーブルを生成するためのホールチャート30を取り付ける際の、ホールの配列方向と回転中心軸4とのずれ角度(図4の角度b。特許文献2では、「座標ねじれ角」と表現されている)がある。
【0027】
また、上記の電磁波受信機8は、人工衛星6が発信する電波信号や、室内に取り付けられた赤外線発信機7から発射される赤外線を受信できるようになっている。電波信号を発信する人工衛星6として、GPS(Global Positioning System)や、GLONASS(Global Navigation Satellite System)や、Galileoなどと呼ばれる、複数の衛星から成る人工衛星システムが航行されており、各々人工衛星の位置情報と電波の発信時刻とを発信している。合計4ヶ所以上からの電磁波信号を受信することにより、受信機(X線イメージインテンシファイア)の位置を計算することができる。
【0028】
(制御演算部20)
制御演算部20は、撮影部10の各構成要素を制御する撮影部制御手段100と、撮影部10が出力するX線画像データを収集して格納する画像収集手段110と、収集されたX線画像データに基づいて3次元的X線CT像を再構成する再構成手段200と、再構成手段200が生成した3次元的X線CT像を表示する画像表示手段120と、装置を移動し本発明の特徴である外部の電磁波信号を受信し該電磁波信号に基づいてX線イメージインテンシファイアの位置を計算する撮影系位置制御手段300と、撮影系位置制御手段300が計算したX線イメージインテンシファイアの位置に対応する歪補正データを歪補正データ群230から読み込む歪補正データ読込手段222と、を備える。
【0029】
(撮影部制御手段100)
撮影部制御手段100は、C型アーム13の、回転中心軸4の回りの回転移動を制御する撮影系回転制御手段101と、X線管11tに流す管電流のON、OFF等を制御するX線照射制御手段102と、寝台14の位置を制御して被検体2の位置を調整するための寝台制御手段103と、2次元X線検出器12によるX線透過像の撮影を制御する検出系制御手段104と、を備える。なお、上記C型アーム13の回転方向は、紙面に平行な方向に回転中心軸4が有りX線源11と2次元X線検出器12が回転中心軸4を中心に旋回するようになっていても(図1)、回転中心軸4が紙面と垂直な方向に存在しX線源11と2次元X線検出器12が紙面と平行な面内をスライド回転するようになっていても(図1a)、またはその両方の回転動作を備えるものであってもよい。
【0030】
(再構成手段200)
再構成手段200は、前処理手段210と、X線イメージインテンシファイアの位置に対応する歪補正テーブルを生成する歪補正テーブル生成手段220と、該歪補正テーブルを使用して幾何学的画像歪みを補正する歪補正手段240と、フィルタリング手段270と、逆投影手段280と、を備える。
【0031】
前処理手段210は、画像収集手段110が収集したX線透過像を、X線吸収長の分布像に変換する。本実施の形態では、まず、被検体2及び寝台14を撮影視野内に配置しない状態で予め撮影した空気のX線透過像の各画素データに対して自然対数変換演算を施す。次に、被検体2を寝台14に載せた状態で撮影したX線透過像の各画素データに対して自然対数変換演算を施す。そして、上記2つの自然対数変換演算を施したX線透過像の差分を取ることにより、被検体2及び寝台14のX線吸収長の分布像を得る。
【0032】
歪補正テーブル生成手段220は、本発明の特徴である手段であり、後述する撮影系位置計算手段330によりX線イメージインテンシファイアの撮影位置を計算し、後述する歪補正データ読込手段222によりX線イメージインテンシファイアの位置に対応する幾何学補正量を読み込み、読み込んだ幾何学補正量に基づいて歪補正テーブルを生成する。
【0033】
歪補正手段240は、歪補正テーブル生成手段220が生成した歪補正テーブルに基づいて、上記X線吸収長の分布像の幾何学的歪みを補正し、幾何学的歪みが補正された投影データ250を生成する。投影データ250は、以下のX線CT像を生成するための入力データとして使用する他に、幾何学的歪みの無い撮影画像であるので、それ自身患者の投影画像として画像表示手段120により表示装置80に表示したり、例えば患者画像データベース130に保存したりする。
【0034】
フィルタリング手段270は、X線CT再構成演算におけるフィルタリング処理を行う。
【0035】
逆投影手段280は、フィルタリング処理後の投影データを用いて、3次元コーンビームCT再構成演算を行い、3次元的CT像(以下「再構成CT像290」という)を生成する。生成した再構成CT像290は、画像表示手段120により表示装置80に表示する。再構成CT像290の出力は、通常はアキシャル断面像を積層したものとして行われ、例えば患者画像データベース130に保存される。
【0036】
(歪補正データ読込手段222と歪補正データ群230)
歪補正データ読込手段222は、後述する撮影系位置計算手段330で計算される、X線イメージインテンシファイアの位置に対応する幾何学補正量を、歪補正データ群230の中から、最も位置の近い一つの回転軌道、または位置の近接する複数の回転軌道を選び、読み込む。
【0037】
歪補正データ群230には、X線イメージインテンシファイア12iの各位置における、歪補正データと上記の撮影幾何学パラメータのセットから構成される、幾何学補正量が入っており、図7、図7a、図7b、図7cに示すように、検査室や手術室等の撮影室の部屋番号を示す部屋Noと、その部屋の中でのX線イメージインテンシファイアの位置を示すXYZ−Positionごとに、データベースで管理されている。
【0038】
以下、上記の幾何学補正量について、図を用いながら説明する。
【0039】
図4は、ホールチャート30の回転撮影像31を示す。21(v軸)は回転中心軸4の2次元X線検出器12への投影、3(u軸)は回転軌道面、22(v’軸)はホール配列方向の縦軸、23(u’軸)はホール配列方向の横軸を表し、u軸とv軸、u’軸とv’軸はそれぞれ直交している。図4にあるホールチャート30の回転撮影像31は、X線イメージインテンシファイア固有の幾何学的画像歪み(図2)と、ホール配列方向の縦軸22(v’軸)と回転中心軸の投影21(v軸)とのずれ角度26(b)(特許文献2では、「座標ねじれ角」と表現されている)とを、合成したものになっている。まず、特許文献1の方法でホール座標25を抽出し、X線イメージインテンシファイア固有の幾何学的画像歪み(図2)を補正するための座標変換テーブルを作成する。そして、例えば特許文献2の方法で、ホールチャート30を取り付けた際のずれ角度26(b)(「座標ねじれ角」)と、回転中心軸投影21、回転軌道面3の、合計3つの撮影幾何学パラメータを計算する。
【0040】
以上をまとめると、X線イメージインテンシファイア12iの画像の歪みを補正し、コーンビームX線CT像を生成するために必要な、幾何学補正量は、上記のホール座標25と、3つの撮影幾何学パラメータ(回転中心軸投影21と、回転軌道面3、及びホールチャート30の取り付けずれ角度26)となる。これら4つの幾何学補正量を、部屋Noと、X線イメージインテンシファイアのXYZ−Position、回転方向(旋回/スライド回転)及び回転角度(旋回角度αまたはスライド角度β)ごとにデータベース化し、歪補正データ群230に保存する。歪補正データ群230のデータ形式の例を図7、図7a−7cに示す。上記の幾何学補正量のうち、前者のホール座標25は、X線イメージインテンシファイアの幾何学的画像歪みが外部電磁場の変化及びX線イメージインテンシファイアの向きにより回転軌道の間でも変化する量であるため、回転方向及び回転角度ごとに投影枚数分、存在する。一方、後者の撮影幾何学パラメータは、回転撮影の間、共通の値を持つ。
【0041】
また、上記の幾何学補正量の保存方法には、以下に示す通り、幾通りかの形態が考えられる。
【0042】
第1の形態は、座標変換テーブルを生成するための元データであるホール座標25と、3つの撮影幾何学パラメータという形で、幾何学補正量を保存し、後の歪補正テーブル生成手段220の中で歪補正テーブル228を生成する(歪補正テーブル228を生成する具体的なステップについては、図6を用いて説明する)、形態である。ホールチャート30に存在するホールの数は高々数百個であるため、この形態が最も保存する幾何学補正量のデータ量を小さくできる。
【0043】
第2の形態は、座標変換テーブルと3つの撮影幾何学パラメータという形で、幾何学補正量を保存する形態である。
【0044】
第3の形態は、座標変換テーブルをホールチャート30の取り付けずれ角度26(b)を補正する角度−bだけ回転し、残り2つの撮影幾何学パラメータ(回転中心軸投影21と、回転軌道面3)とともに、保存する形態である。
【0045】
第4の形態は、回転補正した座標変換テーブルを、さらに回転中心軸投影21と回転軌道面3が投影画像の中心にくるように、平行移動したテーブル(「歪補正テーブル228」と呼ぶ。図5、図6参照。)までを生成し、幾何学補正量として保存する形態である。
【0046】
上記、第2−第4の形態は、後述する図6で説明する歪補正テーブル228を生成する演算の一部を、または全部を、予め実行した状態で幾何学補正量を保存することになるため、再構成演算時の演算時間の短縮を期待できる。しかし、上記の座標変換テーブルを、X線イメージインテンシファイアの各位置ごとに、投影枚数分だけ保存することを考えると、そのデータ量は膨大なものとなる可能性がある。そのような場合に、特に第2−第4の形態において、座標変換テーブルの縦横の画素数を、数分の1に間引いたテーブルに縮小して、歪補正データ群230に保存しておき、歪補正手段240における歪補正演算実行時に復元する方法を用いる方法をとることで、幾何学補正量のデータ量を小さくすることができる。
【0047】
また、X線イメージインテンシファイアの幾何学的画像歪みは、一つの回転撮影の間でも変化するがその変化は穏やかに変化すると考えられるので、第1−第4の形態において、投影方向について数枚束ね、投影枚数を数分の1に間引いた枚数分だけ、ホール投影点25または座標変換テーブルを保存するようにすることにより、幾何学補正量のデータ量を削減することも可能である。
【0048】
なお、撮影装置の位置が同じであっても、C型アーム13の角度方向、X線イメージインテンシファイア12iが向いている方向により、X線イメージインテンシファイア12iに入り込む外部電磁場が異なり、幾何学的画像歪みは異なるものとなる。しかし、C型アーム13の角度方向、及びX線イメージインテンシファイア12iの向きは装置の内部情報であるため、撮影部制御手段100により検知できる。例えば、X線イメージインテンシファイアの位置を示すXYZ−Positionに加えて、C型アーム13の2軸方向の角度情報を追加する事で、補正データを区別する事ができる。
【0049】
そして、歪補正データ群230に入れる幾何学補正量は、装置搬入時に、撮影を行う可能性のある各部屋及び各位置で、予め、ホールチャート30の回転撮影像31を撮影しホール座標25を抽出してから、上記、第1−第4いずれかの形態で保存しておく。以後、装置または周辺機器の配置の変更がある時、及び数ヶ月または一年程度の期間ごとに更新する。
【0050】
(撮影系位置制御手段300)
撮影系位置制御手段300は、本装置を移動するための撮影系移動手段310と、人工衛星6が発信する電波信号や、室内に取り付けられた赤外線発信機7から発射される赤外線を受信する電磁波信号受信手段320と、該電磁波信号に基づいてX線イメージインテンシファイアの位置を計算する撮影系位置計算手段330とを備える。
【0051】
人工衛星6の電波信号を用いて、受信機(X線イメージインテンシファイア)の位置を計算する方法には、人工衛星6が発信する位置情報と電波の発信時刻情報だけを用いる民生用に広く用いられている方法(単独測位方式)と、人工衛星6からの電波情報に加え地上の基地局からの電波を受信し位置計測精度を補正する方法(DGPS測位方式)、さらに受信した電波の位相差を計測し位置計測精度を向上させる(RTK測位方式)など、様々ある。それぞれの測位方式において位置計測精度の誤差は、現在の衛星システムにおいては、単独測位方式で10m程度、DGPS測位方式で数m程度、RTK測位方式で数cm程度となっているが、位置計測精度に反比例するように、電磁波受信機8は高価なものとなる。
【0052】
また、室内の四隅に赤外線発信機7を設置し、発射される赤外線を受信して、その赤外線の方向からX線イメージインテンシファイアの位置を計算することも可能である。
【0053】
人工衛星6の電波信号は、位置計測精度の誤差量10m程度を許容するのであれば民生用の安価な電磁波受信機8を使用できるため、人工衛星6の電波信号は撮影室の同定に使用し、撮影室内でのX線イメージインテンシファイアのXYZ−Position計測には、室内の四隅に取り付けた赤外線発信機7の信号を使用するのが、一つの効率的な実施形態である。
【0054】
人工衛星6からの電波信号は、撮影室が地下にあったり、シールドルームに囲まれていたりする場合には、受信できない場合もある。このような場合に、赤外線発信機7の赤外線信号に、部屋Noを識別する信号を混ぜたり、4つの赤外線発信機7を部屋ごとに異なる位置関係に配置したりする事で、赤外線信号単独で、部屋Noと、その部屋内のX線イメージインテンシファイアのXYZ−Positionの、両方を計測するシステムを構築することも可能である。
【0055】
上記のコーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置1の仕様例は次のとおりである。X線源11と回転中心軸4との距離は600mm、回転中心軸4とX線イメージインテンシファイア12iのX線入射面との距離は300mm、X線イメージインテンシファイア12iのX線入射面は直径300mmの円形、CCDテレビカメラ12cの標準走査モードは毎秒60フレーム、走査線数512本、あるいは毎秒30フレーム、走査線数1024本で、光学レンズ12dにより結像されたX線イメージインテンシファイア12iの可視光像を撮影する。CCDテレビカメラ12cが撮影した2次元X線画像は、ビデオ信号に変換した後にA/D変換され、512×512あるいは1024×1024のデジタル画像として画像収集手段110に記録される。撮影系回転制御手段101は、2次元X線検出器12を、被検体2の左手の方向(−100度)から天井方向(0度)を通過し、被検体2の右手方向(+100度)まで移動させる。これにより、200度の投影角度にわたる被検体2のX線透過像111を撮影する。C型アーム13の回転速度の代表例は1秒当たり40度で、スキャン時間は例えば5秒である。
【0056】
次に、図6のフローチャートを用い、本発明の特徴である移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における実際の動作について具体的に説明する。以下、上記の幾何学補正量の保存形態が「第1の」の場合について説明する。なお、幾何学補正量の保存形態が「第2」「第3」及び「第4」の場合は、それぞれ、下記の「ステップS225」「ステップS225−ステップS226」及び「ステップS225−ステップS227」を省略することができる。「第2」の場合の処理の流れは図6aに、「第3」の場合の処理の流れは図6bに、「第4」の場合の処理の流れは図6cに示す。
【0057】
移動型X線撮影装置1におけるコーンビームCT撮影では、撮影に先立ち、ステップS221が実行される。
【0058】
(ステップS221)
電磁波信号受信手段320により、人工衛星6や、室内に取り付けられた赤外線発信機7などから、外部の位置情報を有する電磁波信号を受信し、撮影系位置計算手段330により、撮影時刻でのX線イメージインテンシファイアの位置を計算する。
【0059】
(ステップS222)
ステップS221により計算した、X線イメージインテンシファイア12iの位置に対応する幾何学補正量(ホール座標、ホール配列ずれ角度、回転軌道面、回転中心軸投影)を、歪補正データ群230から読み込む。
【0060】
なおこのときに、読み込む幾何学補正量は、X線イメージインテンシファイア12iの位置との距離が最も近い幾何学補正量を1セット読み込む場合と、撮影装置(X線イメージインテンシファイア12i)と同じ撮影室内にある幾何学補正量を複数セット読み込み、以下のステップS225−ステップS227において、測定点との距離に反比例する重みを掛算する高精度化処理を付加し、歪補正テーブル228を生成する方法とが考えられるが、そのどちらにするかは装置の初期設定により設定する。
【0061】
(ステップS223)
撮影系回転制御手段101はC型アーム13の回転を開始する。回転加速期間を経たのち、X線照射制御手段102はX線管11tからX線を照射し、検出系制御手段104は2次元X線検出器12による撮像を開始する。X線管11tから照射されたX線は、被検体2を透過した後、2次元X線検出器12に取り込まれる。CCDテレビカメラ12cを標準走査モード、毎秒30フレームで撮影する場合は、投影角度間隔1.33度で、5秒間に150枚のX線透過像を取得する。200度の回転撮影が完了すると、X線照射制御手段102はX線管11tのX線照射を終了し、撮影系回転制御手段101は回転減速期間を経たのち回転を停止する。
【0062】
再構成手段200は、以上のような撮影に並行し、あるいは撮影終了後に画像収集手段110からX線透過像111を読み出す。
【0063】
(ステップS224)
前処理手段210は、X線透過像111と、予め撮影された空気のX線透過像とに基づいて、被検体2及び寝台14のX線吸収長分布像221を生成する。
【0064】
(ステップS225)
ステップS222が読み込んだ、ホールチャート30の回転撮影像31上のホール座標25から、座標変換テーブルを生成する。
【0065】
(ステップS226)
ステップS225が生成した座標変換テーブルを、ホール配列ずれ角度26だけ回転し、補正する。
【0066】
(ステップS227)
ステップS226により回転補正した座標変換テーブルを、回転軌道面3及び回転中心軸投影21の、投影画像中心からの変位だけ平行移動し、歪補正テーブル228を生成する。
【0067】
(ステップS240)
歪補正手段240が、ステップS225−ステップS227により生成した歪補正テーブル228に基づいて、X線吸収長分布像221の幾何学的歪みを補正し、投影データ250を生成する。生成した投影データ250は、患者画像データベース130に保存する。
【0068】
保存した投影データ250は、画像表示手段120により表示したり、以下のステップS270−ステップS280において、フィルタリングパラメータと、逆投影領域を変化させて、再構成CT像290を生成する(「オフライン再構成処理」と呼ばれる)の演算を行う際に、用いられる。
【0069】
(ステップS270)
フィルタリング手段270により、X線CT再構成におけるフィルタリング処理を行う。
【0070】
(ステップS280)
逆投影手段280により、逆投影演算を行い、被検体2の再構成CT像290を生成する。生成した再構成CT像290は、画像表示手段120により表示したり、患者画像データベース130に保存する。
【0071】
患者画像データベース130に保存した画像は、3次元表示装置(図示しない)に送られ、任意断面表示や、3次元陰影表示するために使用される。
【0072】
なお、上記のステップS226−ステップS227の時点で、回転軌道面3と回転中心軸投影21の変位の平行移動、あるいはホール配列ずれ角度の補正及び回転軌道面3と回転中心軸投影21の変位補正の両方、を行わずに、ステップS280の逆投影演算において参照する投影データ250の座標原点を変更、あるいは回転することにより行うことも可能である。
【0073】
以上、本発明を実施例を用い説明してきたが、これまでの各実施例で説明した構成はあくまで一例であり、本発明は、技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。
【0074】
また、本実施形態では、移動型X線CT装置を例に説明をしたが、X線CT装置に限らず、X線イメージインテンシファイアを用いた投影像(透視/撮影)を生成するための移動型X線撮影装置においても同様に適用することができる。移動型X線撮影装置の場合においても、X線イメージインテンシファイアの開口面(X線の入射面)の向きによって投影像に現れる歪み量が異なるため、位置情報に加え、開口面の向きにも幾何学的補正量を対応付けて管理、保存するとより好ましい。
【0075】
また、上記実施形態では、X線イメージインテンシファイアを用いることに起因した歪補正を行う移動型X線CT装置について説明したが、X線イメージインテンシファイアを用いていないX線検出器であっても地磁気や周辺電磁場の影響により投影画像に歪みが生じる移動型X線撮影装置に対し、本発明を適用することにより撮影位置の位置情報に基づいて歪補正を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、X線イメージインテンシファイアを使用した移動型のX線撮影装置において、装置の撮影位置に依らずに、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、幾何学的歪みの無い撮影画像を生成することができる。特に、コーンビームX線CT撮影を行う場合に、解像度低下の無いコーンビームX線CT像を提供することができ、頭部、腹部等の造影撮影、並びに歯顎、腰椎、四肢の整形外科撮影の診断性能を向上させることが期待できる。
【符号の説明】
【0077】
1…コーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置、2…被検体、3…回転軌道面(ミッドプレーン)、4…回転中心軸、5…X線グリッド、6…人工衛星、7…赤外線発信機、8…電磁波受信機、9…車輪、10…撮影部、11…X線源、11t…X線管、11c…コリメータ、12…2次元X線検出器、12i…X線イメージインテンシファイア、12d…光学レンズ、12c…CCDテレビカメラ、13…C型アーム、14…寝台、20…制御演算部、21…回転中心軸投影、22…ホール配列方向の縦軸、23…ホール配列方向の横軸、25…ホール座標、26…ホール配列ずれ角度、27…回転軌道面3と回転中心軸投影21、30…ホールチャート、31…ホールチャートの回転撮影像、32…X線イメージインテンシファイア固有の幾何学的画像歪み、33…ホール配列ずれ角度26を補正した歪補正後の画像、80…表示装置、100…撮影部制御手段、101…撮影系回転制御手段、102…X線照射制御手段、103…寝台制御手段、104…検出系制御手段、110…画像収集手段、111…X線透過像、120…画像表示手段、130…患者画像データベース、200…再構成手段、210…前処理手段、211…X線吸収長分布像、220…歪補正テーブル生成手段、222…歪補正データ読込手段、230…歪補正データ群、240…歪補正手段、250…投影データ、270…フィルタリング手段、280…逆投影手段、290…再構成CT像、300…撮影系位置制御手段、310…撮影系移動手段、320…電磁波信号受信手段、330…撮影系位置計算手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線イメージインテンシファイアを使用した移動型のX線撮影装置に係り、特に、X線撮影を行う場合に、装置の撮影位置に依らずに、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、解像度低下の無い投影画像を生成することのできる、移動型X線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線イメージインテンシファイアを使用したX線撮影では、X線イメージインテンシファイアのX線入射面が曲面であること、そしてX線入射面で生成される光電子を加速し増倍する過程で電子の軌道が外部電磁場により曲げられる影響により、X線イメージインテンシファイアで撮影される2次元X線画像は図2のような幾何学的歪みを含んだものとなることが知られている。このX線イメージインテンシファイアの内部構造と外部電磁場に起因するX線画像の幾何学的歪みを、図3のようにホール位置が既知のホールを複数個、格子状に開けた平板(ホールチャート30)をX線イメージインテンシファイアのX線入射面の前面に固定して撮影し、ホールチャート30の撮影画像(図2)からホールの座標を抽出し、幾何学的歪みの無い場合のホールの座標と対応させる座標変換テーブルを生成することにより、補正する方法が下記の特許文献1において開示されている。
【0003】
また、X線イメージインテンシファイアを2次元X線検出器として使用し、その回転撮影データから3次元的CT像を生成するコーンビームCT再構成演算を行う際に、回転中心軸投影等の撮影幾何学パラメータを較正する方法が、下記の特許文献2において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特登録3356356号公報
【特許文献2】特登録3548306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の外部電磁場は、地磁気と、周辺の電気機械から発生する電磁場、及び電磁場発生源とX線イメージインテンシファイア周辺との間に存在する金属などの影響を合成したものとなっている。X線イメージインテンシファイアは外部電磁場の影響を受ける構造となっているため、その周囲に金属による磁気シールドが施されているが、X線入射面方向に対しては入射X線の減衰を抑えるため十分な磁気シールドがされないのが通常である。そのため、X線イメージインテンシファイアを、移動型のX線撮影装置に搭載して使用する場合、X線イメージインテンシファイアの向きや位置ごとに、外部電磁場の影響が異なり、撮影画像の幾何学的歪みは異なるものとなる。
【0006】
公知の技術は、撮影装置が移動しない、またはX線イメージインテンシファイアの画像の幾何学的歪みが装置の位置により変化しないことを前提としているか、あるいはX線イメージインテンシファイアが予め想定された固定位置の回転軌道を動くことを前提としており、固定の軌道上で上記座標変換テーブルを複数枚用意しておくことにより解決していた。
【0007】
そのため、X線イメージインテンシファイアを移動型のX線撮影装置に搭載する場合における幾何学的歪みの補正については考慮されていなかった。
【0008】
本発明の目的は、X線イメージインテンシファイアを使用した移動型のX線撮影装置において、装置の撮影位置に依らずに、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、解像度低下の無い投影画像を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、外部の電磁波信号を受信し、その電磁波信号から装置の位置を計算して、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、解像度低下の無い投影画像を生成することのできる、移動型X線撮影装置を提供する。
【0010】
より詳しくは、本発明に係る移動型X線撮影装置は、任意の位置に移動させてX線撮影が可能な移動型X線撮影装置であって、被検体にX線を照射するX線源と、前記X線源に対向して配置され、前記被検体を透過した前記X線を検出して電気信号に変換するX線イメージインテンシファイアを用いたX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器とを対向配置したまま回転移動させる回転手段と、前記X線検出器から出力されるX線画像データに基づいて前記被検体の投影画像を生成する画像生成手段と、前記X線検出器の位置を検出して位置情報を出力する位置検出手段と、前記位置情報に基づいて、前記X線検出器の位置に対応する幾何学補正量に従って前記被検体の投影画像の幾何学的歪みを補正する歪補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
前記幾何学補正量は、前記X線検出器の幾何学的歪みを補正するために撮影するマーカーの投影点と、前記幾何学的歪みを補正した後の投影画像における、前記マーカーの投影点の配列方向と回転中心軸の投影とのずれ角度と、前記幾何学的歪みと前記ずれ角度とを補正した後の投影画像における、前記X線源が描く円軌道を含む平面の投影座標値と、回転中心軸の投影座標値、とを含んでもよい。
【0012】
また、前記幾何学補正量は、前記マーカーの投影点に基づいて生成される、前記X線検出器の幾何学的歪みを補正するための、座標変換テーブルと、前記幾何学的歪みを補正した後の投影画像における、前記マーカーの投影点の配列方向と回転中心軸の投影とのずれ角度と、前記幾何学的歪みと前記ずれ角度とを補正した後の投影画像における、前記X線源が描く円軌道を含む平面の投影座標値と、回転中心軸の投影座標値、とを含んでもよい。
【0013】
また、前記幾何学補正量は、前記座標変換テーブルを、前記マーカーの投影点の配列方向と回転中心軸の投影とのずれ角度について、回転補正した座標変換テーブルと、前記幾何学的歪みと前記ずれ角度とを補正した後の投影画像における、前記X線源が描く円軌道を含む平面の投影座標値と、回転中心軸の投影座標値、とを含んでもよい。
【0014】
前記幾何学補正量は、前記回転補正した座標変換テーブルを、前記X線源が描く円軌道を含む平面の投影座標値と、回転中心軸の投影座標値が、前記幾何学的歪みと前記ずれ角度とを補正した後の投影画像の、中心にくるように平行移動したテーブルでもよい。
【0015】
更に、上記座標変換テーブルは、縦横の画素数を、数分の1に間引いたテーブルとして保存されており、前記歪補正手段時に復元して使用してもよい。
【0016】
また、上記マーカーの投影点、または上記座標変換テーブルは、投影画像の枚数分、または投影画像の枚数を数分の1に間引いた枚数分だけ、保存してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、X線イメージインテンシファイアを使用した移動型のX線撮影装置において、装置の撮影位置に依らずに、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、解像度低下の無い投影画像を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用されるコーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置を示す概略構成図である。
【図1a】本発明が適用されるコーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置を示す概略構成図である。
【図2】X線イメージインテンシファイア固有の幾何学的歪みを表す図である。
【図3】ホールチャート30を示す図である。
【図4】ホールチャート30の回転撮影像と、ホールチャート30の取り付けずれ角度bを示す図である。
【図5】ホールチャート30の取り付けずれ角度bを補正した歪補正後の画像を示す図である。
【図6】本発明が適用される移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における動作を示すフローチャートである。
【図6a】本発明が適用される移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における動作を示すフローチャートである。
【図6b】本発明が適用される移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における動作を示すフローチャートである。
【図6c】本発明が適用される移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における動作を示すフローチャートである。
【図7】歪補正データ群230のデータ形式を示す概略図である。
【図7a】歪補正データ群230のデータ形式を示す概略図である。
【図7b】歪補正データ群230のデータ形式を示す概略図である。
【図7c】歪補正データ群230のデータ形式を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を用いて本発明に係る移動型X線撮影装置の実施の形態について詳説する。本発明の実施形態を説明する全図において、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
<<第一実施形態>>
まず、本発明が適用される移動型X線撮影装置の概略的な構成について説明する。
【0021】
図1は、コーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置1の概略構成図であり、被検体2に対してX線を照射し、被検体2のX線透過像を撮影してX線画像データを得る撮影部10と、撮影部10の各構成要素を制御したり、X線画像データに基づいて被検体2の3次元的X線CT像を再構成したりする制御演算部20と、画像を表示する表示装置80とを備える。
【0022】
図1aは、図1とは異なる回転動作をする場合の装置構成図である。図1は、紙面に平行な方向に回転中心軸4が有り、X線源11と2次元X線検出器12が回転中心軸4を中心に旋回するようになっているのに対し、図1aに示す移動型X線撮影装置1は、回転中心軸4が紙面と垂直な方向に存在し、X線源11と2次元X線検出器12が紙面と平行な面内をスライド回転するようになっている点が異なっている。
【0023】
(撮影部10)
撮影部10は、寝台14と、該寝台14に横臥された被検体2にX線を照射するX線源11と、該X線源11に対向して設置され被検体2を透過したX線を検出することによりX線画像データを出力する2次元X線検出器12と、散乱X線を遮断するためのX線グリッド5と、X線源11と2次元X線検出器12を機械的に接続するC型アーム13と、検査室、手術室に装置を移動するための車輪9と、外部の電磁波信号を受信するための電磁波受信機8とを備える。
【0024】
X線源11は、X線を発生するX線管11tと、X線管11tからのX線の照射視野を円錐または四角錐状に制御するコリメータ11cとを備える。
【0025】
2次元X線検出器12は、X線透過像を可視光像に変換するX線イメージインテンシファイア12iと、X線イメージインテンシファイア12iの像を結像する光学レンズ12dと、光学レンズ12dにより結像されたX線イメージインテンシファイア12iの可視光像を撮影するCCDテレビカメラ12cとの、組み合わせからなる。この形態の2次元X線検出器12の撮影視野は、通常は円形であるが、コリメータ11cで矩形状にコリメートしたり、多辺形いかなる形状の撮影視野のものであってもよい。
【0026】
C型アーム13は、被検体2の撮影に際して、所定の投影角度毎に回転中心軸4を中心として回転移動する。これにより、上記X線源11と2次元X線検出器12とは対向配置したまま、ほぼ同一の平面上にある円軌道を回転移動し、X線撮影を行う。この回転移動については、画像再構成演算に使用される撮影幾何学パラメータが存在する。撮影幾何学パラメータに、X線源11が描く円軌道を含む面である回転軌道面(ミッドプレーン)3と、回転中心軸4、及びX線イメージインテンシファイア12iの画像の歪みを補正する座標変換テーブルを生成するためのホールチャート30を取り付ける際の、ホールの配列方向と回転中心軸4とのずれ角度(図4の角度b。特許文献2では、「座標ねじれ角」と表現されている)がある。
【0027】
また、上記の電磁波受信機8は、人工衛星6が発信する電波信号や、室内に取り付けられた赤外線発信機7から発射される赤外線を受信できるようになっている。電波信号を発信する人工衛星6として、GPS(Global Positioning System)や、GLONASS(Global Navigation Satellite System)や、Galileoなどと呼ばれる、複数の衛星から成る人工衛星システムが航行されており、各々人工衛星の位置情報と電波の発信時刻とを発信している。合計4ヶ所以上からの電磁波信号を受信することにより、受信機(X線イメージインテンシファイア)の位置を計算することができる。
【0028】
(制御演算部20)
制御演算部20は、撮影部10の各構成要素を制御する撮影部制御手段100と、撮影部10が出力するX線画像データを収集して格納する画像収集手段110と、収集されたX線画像データに基づいて3次元的X線CT像を再構成する再構成手段200と、再構成手段200が生成した3次元的X線CT像を表示する画像表示手段120と、装置を移動し本発明の特徴である外部の電磁波信号を受信し該電磁波信号に基づいてX線イメージインテンシファイアの位置を計算する撮影系位置制御手段300と、撮影系位置制御手段300が計算したX線イメージインテンシファイアの位置に対応する歪補正データを歪補正データ群230から読み込む歪補正データ読込手段222と、を備える。
【0029】
(撮影部制御手段100)
撮影部制御手段100は、C型アーム13の、回転中心軸4の回りの回転移動を制御する撮影系回転制御手段101と、X線管11tに流す管電流のON、OFF等を制御するX線照射制御手段102と、寝台14の位置を制御して被検体2の位置を調整するための寝台制御手段103と、2次元X線検出器12によるX線透過像の撮影を制御する検出系制御手段104と、を備える。なお、上記C型アーム13の回転方向は、紙面に平行な方向に回転中心軸4が有りX線源11と2次元X線検出器12が回転中心軸4を中心に旋回するようになっていても(図1)、回転中心軸4が紙面と垂直な方向に存在しX線源11と2次元X線検出器12が紙面と平行な面内をスライド回転するようになっていても(図1a)、またはその両方の回転動作を備えるものであってもよい。
【0030】
(再構成手段200)
再構成手段200は、前処理手段210と、X線イメージインテンシファイアの位置に対応する歪補正テーブルを生成する歪補正テーブル生成手段220と、該歪補正テーブルを使用して幾何学的画像歪みを補正する歪補正手段240と、フィルタリング手段270と、逆投影手段280と、を備える。
【0031】
前処理手段210は、画像収集手段110が収集したX線透過像を、X線吸収長の分布像に変換する。本実施の形態では、まず、被検体2及び寝台14を撮影視野内に配置しない状態で予め撮影した空気のX線透過像の各画素データに対して自然対数変換演算を施す。次に、被検体2を寝台14に載せた状態で撮影したX線透過像の各画素データに対して自然対数変換演算を施す。そして、上記2つの自然対数変換演算を施したX線透過像の差分を取ることにより、被検体2及び寝台14のX線吸収長の分布像を得る。
【0032】
歪補正テーブル生成手段220は、本発明の特徴である手段であり、後述する撮影系位置計算手段330によりX線イメージインテンシファイアの撮影位置を計算し、後述する歪補正データ読込手段222によりX線イメージインテンシファイアの位置に対応する幾何学補正量を読み込み、読み込んだ幾何学補正量に基づいて歪補正テーブルを生成する。
【0033】
歪補正手段240は、歪補正テーブル生成手段220が生成した歪補正テーブルに基づいて、上記X線吸収長の分布像の幾何学的歪みを補正し、幾何学的歪みが補正された投影データ250を生成する。投影データ250は、以下のX線CT像を生成するための入力データとして使用する他に、幾何学的歪みの無い撮影画像であるので、それ自身患者の投影画像として画像表示手段120により表示装置80に表示したり、例えば患者画像データベース130に保存したりする。
【0034】
フィルタリング手段270は、X線CT再構成演算におけるフィルタリング処理を行う。
【0035】
逆投影手段280は、フィルタリング処理後の投影データを用いて、3次元コーンビームCT再構成演算を行い、3次元的CT像(以下「再構成CT像290」という)を生成する。生成した再構成CT像290は、画像表示手段120により表示装置80に表示する。再構成CT像290の出力は、通常はアキシャル断面像を積層したものとして行われ、例えば患者画像データベース130に保存される。
【0036】
(歪補正データ読込手段222と歪補正データ群230)
歪補正データ読込手段222は、後述する撮影系位置計算手段330で計算される、X線イメージインテンシファイアの位置に対応する幾何学補正量を、歪補正データ群230の中から、最も位置の近い一つの回転軌道、または位置の近接する複数の回転軌道を選び、読み込む。
【0037】
歪補正データ群230には、X線イメージインテンシファイア12iの各位置における、歪補正データと上記の撮影幾何学パラメータのセットから構成される、幾何学補正量が入っており、図7、図7a、図7b、図7cに示すように、検査室や手術室等の撮影室の部屋番号を示す部屋Noと、その部屋の中でのX線イメージインテンシファイアの位置を示すXYZ−Positionごとに、データベースで管理されている。
【0038】
以下、上記の幾何学補正量について、図を用いながら説明する。
【0039】
図4は、ホールチャート30の回転撮影像31を示す。21(v軸)は回転中心軸4の2次元X線検出器12への投影、3(u軸)は回転軌道面、22(v’軸)はホール配列方向の縦軸、23(u’軸)はホール配列方向の横軸を表し、u軸とv軸、u’軸とv’軸はそれぞれ直交している。図4にあるホールチャート30の回転撮影像31は、X線イメージインテンシファイア固有の幾何学的画像歪み(図2)と、ホール配列方向の縦軸22(v’軸)と回転中心軸の投影21(v軸)とのずれ角度26(b)(特許文献2では、「座標ねじれ角」と表現されている)とを、合成したものになっている。まず、特許文献1の方法でホール座標25を抽出し、X線イメージインテンシファイア固有の幾何学的画像歪み(図2)を補正するための座標変換テーブルを作成する。そして、例えば特許文献2の方法で、ホールチャート30を取り付けた際のずれ角度26(b)(「座標ねじれ角」)と、回転中心軸投影21、回転軌道面3の、合計3つの撮影幾何学パラメータを計算する。
【0040】
以上をまとめると、X線イメージインテンシファイア12iの画像の歪みを補正し、コーンビームX線CT像を生成するために必要な、幾何学補正量は、上記のホール座標25と、3つの撮影幾何学パラメータ(回転中心軸投影21と、回転軌道面3、及びホールチャート30の取り付けずれ角度26)となる。これら4つの幾何学補正量を、部屋Noと、X線イメージインテンシファイアのXYZ−Position、回転方向(旋回/スライド回転)及び回転角度(旋回角度αまたはスライド角度β)ごとにデータベース化し、歪補正データ群230に保存する。歪補正データ群230のデータ形式の例を図7、図7a−7cに示す。上記の幾何学補正量のうち、前者のホール座標25は、X線イメージインテンシファイアの幾何学的画像歪みが外部電磁場の変化及びX線イメージインテンシファイアの向きにより回転軌道の間でも変化する量であるため、回転方向及び回転角度ごとに投影枚数分、存在する。一方、後者の撮影幾何学パラメータは、回転撮影の間、共通の値を持つ。
【0041】
また、上記の幾何学補正量の保存方法には、以下に示す通り、幾通りかの形態が考えられる。
【0042】
第1の形態は、座標変換テーブルを生成するための元データであるホール座標25と、3つの撮影幾何学パラメータという形で、幾何学補正量を保存し、後の歪補正テーブル生成手段220の中で歪補正テーブル228を生成する(歪補正テーブル228を生成する具体的なステップについては、図6を用いて説明する)、形態である。ホールチャート30に存在するホールの数は高々数百個であるため、この形態が最も保存する幾何学補正量のデータ量を小さくできる。
【0043】
第2の形態は、座標変換テーブルと3つの撮影幾何学パラメータという形で、幾何学補正量を保存する形態である。
【0044】
第3の形態は、座標変換テーブルをホールチャート30の取り付けずれ角度26(b)を補正する角度−bだけ回転し、残り2つの撮影幾何学パラメータ(回転中心軸投影21と、回転軌道面3)とともに、保存する形態である。
【0045】
第4の形態は、回転補正した座標変換テーブルを、さらに回転中心軸投影21と回転軌道面3が投影画像の中心にくるように、平行移動したテーブル(「歪補正テーブル228」と呼ぶ。図5、図6参照。)までを生成し、幾何学補正量として保存する形態である。
【0046】
上記、第2−第4の形態は、後述する図6で説明する歪補正テーブル228を生成する演算の一部を、または全部を、予め実行した状態で幾何学補正量を保存することになるため、再構成演算時の演算時間の短縮を期待できる。しかし、上記の座標変換テーブルを、X線イメージインテンシファイアの各位置ごとに、投影枚数分だけ保存することを考えると、そのデータ量は膨大なものとなる可能性がある。そのような場合に、特に第2−第4の形態において、座標変換テーブルの縦横の画素数を、数分の1に間引いたテーブルに縮小して、歪補正データ群230に保存しておき、歪補正手段240における歪補正演算実行時に復元する方法を用いる方法をとることで、幾何学補正量のデータ量を小さくすることができる。
【0047】
また、X線イメージインテンシファイアの幾何学的画像歪みは、一つの回転撮影の間でも変化するがその変化は穏やかに変化すると考えられるので、第1−第4の形態において、投影方向について数枚束ね、投影枚数を数分の1に間引いた枚数分だけ、ホール投影点25または座標変換テーブルを保存するようにすることにより、幾何学補正量のデータ量を削減することも可能である。
【0048】
なお、撮影装置の位置が同じであっても、C型アーム13の角度方向、X線イメージインテンシファイア12iが向いている方向により、X線イメージインテンシファイア12iに入り込む外部電磁場が異なり、幾何学的画像歪みは異なるものとなる。しかし、C型アーム13の角度方向、及びX線イメージインテンシファイア12iの向きは装置の内部情報であるため、撮影部制御手段100により検知できる。例えば、X線イメージインテンシファイアの位置を示すXYZ−Positionに加えて、C型アーム13の2軸方向の角度情報を追加する事で、補正データを区別する事ができる。
【0049】
そして、歪補正データ群230に入れる幾何学補正量は、装置搬入時に、撮影を行う可能性のある各部屋及び各位置で、予め、ホールチャート30の回転撮影像31を撮影しホール座標25を抽出してから、上記、第1−第4いずれかの形態で保存しておく。以後、装置または周辺機器の配置の変更がある時、及び数ヶ月または一年程度の期間ごとに更新する。
【0050】
(撮影系位置制御手段300)
撮影系位置制御手段300は、本装置を移動するための撮影系移動手段310と、人工衛星6が発信する電波信号や、室内に取り付けられた赤外線発信機7から発射される赤外線を受信する電磁波信号受信手段320と、該電磁波信号に基づいてX線イメージインテンシファイアの位置を計算する撮影系位置計算手段330とを備える。
【0051】
人工衛星6の電波信号を用いて、受信機(X線イメージインテンシファイア)の位置を計算する方法には、人工衛星6が発信する位置情報と電波の発信時刻情報だけを用いる民生用に広く用いられている方法(単独測位方式)と、人工衛星6からの電波情報に加え地上の基地局からの電波を受信し位置計測精度を補正する方法(DGPS測位方式)、さらに受信した電波の位相差を計測し位置計測精度を向上させる(RTK測位方式)など、様々ある。それぞれの測位方式において位置計測精度の誤差は、現在の衛星システムにおいては、単独測位方式で10m程度、DGPS測位方式で数m程度、RTK測位方式で数cm程度となっているが、位置計測精度に反比例するように、電磁波受信機8は高価なものとなる。
【0052】
また、室内の四隅に赤外線発信機7を設置し、発射される赤外線を受信して、その赤外線の方向からX線イメージインテンシファイアの位置を計算することも可能である。
【0053】
人工衛星6の電波信号は、位置計測精度の誤差量10m程度を許容するのであれば民生用の安価な電磁波受信機8を使用できるため、人工衛星6の電波信号は撮影室の同定に使用し、撮影室内でのX線イメージインテンシファイアのXYZ−Position計測には、室内の四隅に取り付けた赤外線発信機7の信号を使用するのが、一つの効率的な実施形態である。
【0054】
人工衛星6からの電波信号は、撮影室が地下にあったり、シールドルームに囲まれていたりする場合には、受信できない場合もある。このような場合に、赤外線発信機7の赤外線信号に、部屋Noを識別する信号を混ぜたり、4つの赤外線発信機7を部屋ごとに異なる位置関係に配置したりする事で、赤外線信号単独で、部屋Noと、その部屋内のX線イメージインテンシファイアのXYZ−Positionの、両方を計測するシステムを構築することも可能である。
【0055】
上記のコーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置1の仕様例は次のとおりである。X線源11と回転中心軸4との距離は600mm、回転中心軸4とX線イメージインテンシファイア12iのX線入射面との距離は300mm、X線イメージインテンシファイア12iのX線入射面は直径300mmの円形、CCDテレビカメラ12cの標準走査モードは毎秒60フレーム、走査線数512本、あるいは毎秒30フレーム、走査線数1024本で、光学レンズ12dにより結像されたX線イメージインテンシファイア12iの可視光像を撮影する。CCDテレビカメラ12cが撮影した2次元X線画像は、ビデオ信号に変換した後にA/D変換され、512×512あるいは1024×1024のデジタル画像として画像収集手段110に記録される。撮影系回転制御手段101は、2次元X線検出器12を、被検体2の左手の方向(−100度)から天井方向(0度)を通過し、被検体2の右手方向(+100度)まで移動させる。これにより、200度の投影角度にわたる被検体2のX線透過像111を撮影する。C型アーム13の回転速度の代表例は1秒当たり40度で、スキャン時間は例えば5秒である。
【0056】
次に、図6のフローチャートを用い、本発明の特徴である移動型X線撮影装置1のコーンビームCT撮影における実際の動作について具体的に説明する。以下、上記の幾何学補正量の保存形態が「第1の」の場合について説明する。なお、幾何学補正量の保存形態が「第2」「第3」及び「第4」の場合は、それぞれ、下記の「ステップS225」「ステップS225−ステップS226」及び「ステップS225−ステップS227」を省略することができる。「第2」の場合の処理の流れは図6aに、「第3」の場合の処理の流れは図6bに、「第4」の場合の処理の流れは図6cに示す。
【0057】
移動型X線撮影装置1におけるコーンビームCT撮影では、撮影に先立ち、ステップS221が実行される。
【0058】
(ステップS221)
電磁波信号受信手段320により、人工衛星6や、室内に取り付けられた赤外線発信機7などから、外部の位置情報を有する電磁波信号を受信し、撮影系位置計算手段330により、撮影時刻でのX線イメージインテンシファイアの位置を計算する。
【0059】
(ステップS222)
ステップS221により計算した、X線イメージインテンシファイア12iの位置に対応する幾何学補正量(ホール座標、ホール配列ずれ角度、回転軌道面、回転中心軸投影)を、歪補正データ群230から読み込む。
【0060】
なおこのときに、読み込む幾何学補正量は、X線イメージインテンシファイア12iの位置との距離が最も近い幾何学補正量を1セット読み込む場合と、撮影装置(X線イメージインテンシファイア12i)と同じ撮影室内にある幾何学補正量を複数セット読み込み、以下のステップS225−ステップS227において、測定点との距離に反比例する重みを掛算する高精度化処理を付加し、歪補正テーブル228を生成する方法とが考えられるが、そのどちらにするかは装置の初期設定により設定する。
【0061】
(ステップS223)
撮影系回転制御手段101はC型アーム13の回転を開始する。回転加速期間を経たのち、X線照射制御手段102はX線管11tからX線を照射し、検出系制御手段104は2次元X線検出器12による撮像を開始する。X線管11tから照射されたX線は、被検体2を透過した後、2次元X線検出器12に取り込まれる。CCDテレビカメラ12cを標準走査モード、毎秒30フレームで撮影する場合は、投影角度間隔1.33度で、5秒間に150枚のX線透過像を取得する。200度の回転撮影が完了すると、X線照射制御手段102はX線管11tのX線照射を終了し、撮影系回転制御手段101は回転減速期間を経たのち回転を停止する。
【0062】
再構成手段200は、以上のような撮影に並行し、あるいは撮影終了後に画像収集手段110からX線透過像111を読み出す。
【0063】
(ステップS224)
前処理手段210は、X線透過像111と、予め撮影された空気のX線透過像とに基づいて、被検体2及び寝台14のX線吸収長分布像221を生成する。
【0064】
(ステップS225)
ステップS222が読み込んだ、ホールチャート30の回転撮影像31上のホール座標25から、座標変換テーブルを生成する。
【0065】
(ステップS226)
ステップS225が生成した座標変換テーブルを、ホール配列ずれ角度26だけ回転し、補正する。
【0066】
(ステップS227)
ステップS226により回転補正した座標変換テーブルを、回転軌道面3及び回転中心軸投影21の、投影画像中心からの変位だけ平行移動し、歪補正テーブル228を生成する。
【0067】
(ステップS240)
歪補正手段240が、ステップS225−ステップS227により生成した歪補正テーブル228に基づいて、X線吸収長分布像221の幾何学的歪みを補正し、投影データ250を生成する。生成した投影データ250は、患者画像データベース130に保存する。
【0068】
保存した投影データ250は、画像表示手段120により表示したり、以下のステップS270−ステップS280において、フィルタリングパラメータと、逆投影領域を変化させて、再構成CT像290を生成する(「オフライン再構成処理」と呼ばれる)の演算を行う際に、用いられる。
【0069】
(ステップS270)
フィルタリング手段270により、X線CT再構成におけるフィルタリング処理を行う。
【0070】
(ステップS280)
逆投影手段280により、逆投影演算を行い、被検体2の再構成CT像290を生成する。生成した再構成CT像290は、画像表示手段120により表示したり、患者画像データベース130に保存する。
【0071】
患者画像データベース130に保存した画像は、3次元表示装置(図示しない)に送られ、任意断面表示や、3次元陰影表示するために使用される。
【0072】
なお、上記のステップS226−ステップS227の時点で、回転軌道面3と回転中心軸投影21の変位の平行移動、あるいはホール配列ずれ角度の補正及び回転軌道面3と回転中心軸投影21の変位補正の両方、を行わずに、ステップS280の逆投影演算において参照する投影データ250の座標原点を変更、あるいは回転することにより行うことも可能である。
【0073】
以上、本発明を実施例を用い説明してきたが、これまでの各実施例で説明した構成はあくまで一例であり、本発明は、技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。
【0074】
また、本実施形態では、移動型X線CT装置を例に説明をしたが、X線CT装置に限らず、X線イメージインテンシファイアを用いた投影像(透視/撮影)を生成するための移動型X線撮影装置においても同様に適用することができる。移動型X線撮影装置の場合においても、X線イメージインテンシファイアの開口面(X線の入射面)の向きによって投影像に現れる歪み量が異なるため、位置情報に加え、開口面の向きにも幾何学的補正量を対応付けて管理、保存するとより好ましい。
【0075】
また、上記実施形態では、X線イメージインテンシファイアを用いることに起因した歪補正を行う移動型X線CT装置について説明したが、X線イメージインテンシファイアを用いていないX線検出器であっても地磁気や周辺電磁場の影響により投影画像に歪みが生じる移動型X線撮影装置に対し、本発明を適用することにより撮影位置の位置情報に基づいて歪補正を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、X線イメージインテンシファイアを使用した移動型のX線撮影装置において、装置の撮影位置に依らずに、X線イメージインテンシファイアの画像の歪みを補正し、幾何学的歪みの無い撮影画像を生成することができる。特に、コーンビームX線CT撮影を行う場合に、解像度低下の無いコーンビームX線CT像を提供することができ、頭部、腹部等の造影撮影、並びに歯顎、腰椎、四肢の整形外科撮影の診断性能を向上させることが期待できる。
【符号の説明】
【0077】
1…コーンビームCT機能を備えた移動型X線撮影装置、2…被検体、3…回転軌道面(ミッドプレーン)、4…回転中心軸、5…X線グリッド、6…人工衛星、7…赤外線発信機、8…電磁波受信機、9…車輪、10…撮影部、11…X線源、11t…X線管、11c…コリメータ、12…2次元X線検出器、12i…X線イメージインテンシファイア、12d…光学レンズ、12c…CCDテレビカメラ、13…C型アーム、14…寝台、20…制御演算部、21…回転中心軸投影、22…ホール配列方向の縦軸、23…ホール配列方向の横軸、25…ホール座標、26…ホール配列ずれ角度、27…回転軌道面3と回転中心軸投影21、30…ホールチャート、31…ホールチャートの回転撮影像、32…X線イメージインテンシファイア固有の幾何学的画像歪み、33…ホール配列ずれ角度26を補正した歪補正後の画像、80…表示装置、100…撮影部制御手段、101…撮影系回転制御手段、102…X線照射制御手段、103…寝台制御手段、104…検出系制御手段、110…画像収集手段、111…X線透過像、120…画像表示手段、130…患者画像データベース、200…再構成手段、210…前処理手段、211…X線吸収長分布像、220…歪補正テーブル生成手段、222…歪補正データ読込手段、230…歪補正データ群、240…歪補正手段、250…投影データ、270…フィルタリング手段、280…逆投影手段、290…再構成CT像、300…撮影系位置制御手段、310…撮影系移動手段、320…電磁波信号受信手段、330…撮影系位置計算手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の位置に移動させてX線撮影が可能な移動型X線撮影装置であって、
被検体にX線を照射するX線源と、
前記X線源に対向して配置され、前記被検体を透過した前記X線を検出して電気信号に変換するX線イメージインテンシファイアを用いたX線検出器と、
前記X線検出器から出力されるX線画像データに基づいて前記被検体の投影画像を生成する画像生成手段と、
前記X線検出器の位置を検出して位置情報を出力する位置検出手段と、
前記位置情報に基づいて、前記X線検出器の位置に対応する幾何学補正量に従って前記被検体の投影画像の幾何学的歪みを補正する歪補正手段と、
を備えることを特徴とする移動型X線撮影装置。
【請求項2】
X線撮影を行う撮影室内の複数の測定点において得た前記歪補正データを、その歪補正データの測定点の位置情報に対応づけて保存する歪補正データ保存手段と、
前記X線検出器の位置情報に基づいて、前記X線検出器からの距離が最も近い測定点で得られた前記歪補正データを、前記歪補正データ保存手段から読み込む歪補正データ読込手段と、を更に備え、
前記歪補正手段は、前記歪補正データ読込手段が読み込んだ歪補正データに基づいて補正を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型X線撮影装置。
【請求項3】
X線撮影を行う撮影室内の複数の測定点において得た前記歪補正データを、その歪補正データの測定点の位置情報に対応づけて保存する歪補正データ保存手段と、
前記X線検出器の位置情報に基づいて、前記X線検出器からの距離が近い順に少なくとも2つの測定点で得られた歪補正データを、前記歪補正データ保存手段から読み込む歪補正データ読込手段と、を更に備え、
前記歪補正手段は、前記歪補正データ読込手段が読み込んだ各歪補正データに対し、前記X線検出器から各測定点までの距離に反比例する重みを掛け算した歪補正データに基づいて補正を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型X線撮影装置。
【請求項4】
前記幾何学補正量は、前記移動型X線撮影装置が撮影を行う撮影室を表す識別子と、前記撮影室内での前記X線検出器の位置と、に対応づけられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型X線撮影装置。
【請求項5】
前記X線源と前記X線検出器とを対向配置したまま回転させる回転手段と、
前記被検体の投影画像に基づいて再構成演算を行い、前記被検体のX線CT像を再構成する画像再構成手段と、を更に備え、
前記幾何学補正量は、前記移動型X線撮影装置が撮影を行う撮影室を表す識別子と、前記撮影室内での前記X線検出器の位置、回転軸、及び回転角度に対応づけられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型X線撮影装置。
【請求項1】
任意の位置に移動させてX線撮影が可能な移動型X線撮影装置であって、
被検体にX線を照射するX線源と、
前記X線源に対向して配置され、前記被検体を透過した前記X線を検出して電気信号に変換するX線イメージインテンシファイアを用いたX線検出器と、
前記X線検出器から出力されるX線画像データに基づいて前記被検体の投影画像を生成する画像生成手段と、
前記X線検出器の位置を検出して位置情報を出力する位置検出手段と、
前記位置情報に基づいて、前記X線検出器の位置に対応する幾何学補正量に従って前記被検体の投影画像の幾何学的歪みを補正する歪補正手段と、
を備えることを特徴とする移動型X線撮影装置。
【請求項2】
X線撮影を行う撮影室内の複数の測定点において得た前記歪補正データを、その歪補正データの測定点の位置情報に対応づけて保存する歪補正データ保存手段と、
前記X線検出器の位置情報に基づいて、前記X線検出器からの距離が最も近い測定点で得られた前記歪補正データを、前記歪補正データ保存手段から読み込む歪補正データ読込手段と、を更に備え、
前記歪補正手段は、前記歪補正データ読込手段が読み込んだ歪補正データに基づいて補正を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型X線撮影装置。
【請求項3】
X線撮影を行う撮影室内の複数の測定点において得た前記歪補正データを、その歪補正データの測定点の位置情報に対応づけて保存する歪補正データ保存手段と、
前記X線検出器の位置情報に基づいて、前記X線検出器からの距離が近い順に少なくとも2つの測定点で得られた歪補正データを、前記歪補正データ保存手段から読み込む歪補正データ読込手段と、を更に備え、
前記歪補正手段は、前記歪補正データ読込手段が読み込んだ各歪補正データに対し、前記X線検出器から各測定点までの距離に反比例する重みを掛け算した歪補正データに基づいて補正を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型X線撮影装置。
【請求項4】
前記幾何学補正量は、前記移動型X線撮影装置が撮影を行う撮影室を表す識別子と、前記撮影室内での前記X線検出器の位置と、に対応づけられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型X線撮影装置。
【請求項5】
前記X線源と前記X線検出器とを対向配置したまま回転させる回転手段と、
前記被検体の投影画像に基づいて再構成演算を行い、前記被検体のX線CT像を再構成する画像再構成手段と、を更に備え、
前記幾何学補正量は、前記移動型X線撮影装置が撮影を行う撮影室を表す識別子と、前記撮影室内での前記X線検出器の位置、回転軸、及び回転角度に対応づけられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動型X線撮影装置。
【図1】
【図1a】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図1a】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【公開番号】特開2010−178914(P2010−178914A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25154(P2009−25154)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
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