移動目標検出装置
【課題】演算処理規模の増加を抑えつつ、結像度の高いSAR画像を得ることができる移動目標検出装置を提供する。
【解決手段】合成開口を分割するマルチルック処理によって得られた複数の画像間の差を用いた移動目標検出処理により移動目標存在領域を抽出し、該抽出した移動目標存在領域のマルチルック間の移動ベクトルとマルチルック間の観測時間差とにより速度ベクトルを算出し、該算出した速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出する補正値処理部5と、補正値処理部で算出された補正値を用いて補正された参照信号を生成する参照信号処理部6と、参照信号処理部からの補正された参照信号を用いて移動目標存在領域に対する合成開口画像を算出し、この合成開口全体の合成開口画像と合成する処理部1〜4、7を備える。
【解決手段】合成開口を分割するマルチルック処理によって得られた複数の画像間の差を用いた移動目標検出処理により移動目標存在領域を抽出し、該抽出した移動目標存在領域のマルチルック間の移動ベクトルとマルチルック間の観測時間差とにより速度ベクトルを算出し、該算出した速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出する補正値処理部5と、補正値処理部で算出された補正値を用いて補正された参照信号を生成する参照信号処理部6と、参照信号処理部からの補正された参照信号を用いて移動目標存在領域に対する合成開口画像を算出し、この合成開口全体の合成開口画像と合成する処理部1〜4、7を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動目標を検出する移動目標検出装置に関し、特に合成開口レーダ(SAR;Synthetic Aperture Radar)を用いて移動目標を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動目標検出装置の1つとして、移動しながらマイクロ波を目標に照射し、その反射波を解析することにより、目標を検出する合成開口レーダ装置(以下、「SAR装置」と略する場合もある)が知られている。このSAR装置において行われるSAR処理は、参照信号と送受信信号との相関をとることにより、目標を高分解能で画像化する処理である。
【0003】
ここで、SARの原理について説明する。図9は、SARのモデルを示し、移動体に搭載されたSAR装置でマイクロ波を送受信してSAR処理を行うことにより目標を検出する状態を示している。
【0004】
送受信信号をe(t)とし、AZ(アジマス)圧縮用の参照信号をr(t)とすると、AZ圧縮後の信号s(t)は、次式で算出できる(例えば、非特許文献1参照)。
【数1】
【0005】
ここで、
e(t) ;送受信信号
E(f) ;e(t)のフーリエ変換
r(t) ;参照信号
R(f) ;r(t)のフーリエ変換
s(t) ;SAR画像
S(f) ;s(t)のフーリエ変換
FFT[ ] ;フーリエ変換
FFT-1[ ];逆フーリエ変換
* ;複素共役
t ;時間
f ;周波数
参照信号r(t)は、次式で表すことができる。
【数2】
【0006】
この(5)式において、βはドップラー率であり、次式で表される。
【数3】
【0007】
ここで、
V ;飛翔速度
Rc ;飛翔経路と直交する目標までのスラントレンジ
λ ;波長
SAR処理では、飛翔経路や機体動揺がある場合には、例えばオートフォーカス(例えば、非特許文献2参照)等による参照信号の補正が必要である。図10は、このような参照信号の補正を行うSAR装置の機能的な構成を示すブロック図である。このSAR装置は、第1FFT部1、第2FFT部2、乗算部3、IFFT部4、補正値処理部5および参照信号処理部6から構成されている。
【0008】
第1FFT部1は、式(1)に示すように、図示しない受信機から入力される送受信信号e(t)をフーリエ変換し、信号E(f)として乗算部3に送る。第2FFT部2は、式(2)に示すように、参照信号処理部6から送られてくる信号r(t)をフーリエ変換し、信号R(f)として乗算部3に送る。
【0009】
乗算部3は、式(3)に示すように、第1FFT部1から送られてくる信号E(f)と第2FFT部2から送られてくる信号R(f)を乗算し、信号S(f)としてIFFT部4に送る。IFFT部4は、式(4)に示すように、乗算部3から送られてくる信号S(f)を逆フーリエ変換する。このIFFT部4における逆フーリエ変換により得られた信号s(t)は、SAR画像として外部に出力されるとともに、補正値処理部5に送られる。
【0010】
補正値処理部5は、IFFT部4から送られてくる信号s(t)に基づき参照信号を補正するための補正値を生成し、参照信号処理部6に送る。参照信号処理部6は、補正値処理部5から送られてくる補正値にしたがって参照信号を補正し、信号r(t)として第2FFT部2に送る。
【0011】
以上のように構成されるSAR装置においては、補正後の参照信号を用いてSAR処理を実施すれば、飛翔経路や動揺による誤差が補正されたSAR画像を得ることができる。
【0012】
ところで、固定目標の場合は、上述した補正で目標を画像化できるが、移動目標の場合は、目標が移動速度を有するため、参照信号と送受信信号(目標信号)とに不一致が生じるため、目標の結像度が低下する。この対策として、目標の移動速度を観測し、速度に応じて参照信号を補正することが行われている。この場合、(5)式で示した参照信号を補正する必要があるが、この補正を行うためには、移動目標の速度ベクトルが必要である。
【0013】
この速度ベクトルを求める方法としては、図11に示すような、マルチルック間の移動を観測する方法が知られている(非特許文献4参照)。この方法では、速度ベクトルは、マルチルック間の所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値の移動量から求められた移動ベクトルとマルチルック間の観測時間差とにより求められる。
【非特許文献1】大内、“リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎“、東京電機大学出版局(2003) pp.176−178
【非特許文献2】大内、“リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎“、東京電機大学出版局(2003) pp.210−217
【非特許文献3】大内、“リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎“、東京電機大学出版局(2003) pp.218−223
【非特許文献4】M.Kirscht,”ESTIMATION OF VELOCITY,SHAPE,AND POSITION OF MOVING OBJECTS WITH SAR”,the Fourth International Airborne Remote Sensing Conference and Exhibition/21st Canadian Symposium on Remote Sensing,Ottawa,Ontario,Canada,21-24 June(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した従来のSAR装置において、移動目標を検出するために、参照信号を補正するための速度ベクトルを全開口で算出すると、演算規模が増えるという問題がある。また、移動目標にはドップラー効果が生じるため、SAR画像で移動目標の位置ずれが生じるという問題がある。
【0015】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、演算処理規模の増加を抑えつつ、結像度の高いSAR画像を得ることができる移動目標検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、合成開口を分割するマルチルック処理によって得られた複数の画像間の差を用いた移動目標検出処理により移動目標存在領域を抽出し、該抽出した移動目標存在領域のマルチルック間の移動ベクトルとマルチルック間の観測時間差とにより速度ベクトルを算出し、該算出した速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出する補正値処理部と、補正値処理部で算出された補正値を用いて補正された参照信号を生成する参照信号処理部と、参照信号処理部からの補正された参照信号を用いて移動目標存在領域に対する合成開口画像を算出し、この合成開口全体の合成開口画像と合成する処理部とを備えたことを特徴とする。
【0017】
また、請求項2記載の発明は、請求項2記載の発明において、補正値処理部は、移動目標の速度ベクトルを、マルチルック間の移動目標存在領域で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値、または、複数のピーク値の位置の平均位置または重心位置から算出した移動量とマルチルック間の観測時間差とにより算出することを特徴とする。
【0018】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の発明において、補正値処理部は、さらに、移動目標の速度ベクトルから、ドップラーシフトによる移動目標の画像の位置ずれ量を算出し、処理部は、さらに、合成開口処理を行うことにより得られた画像に対して、補正値処理部で算出された位置ずれ量に基づき、該画像における移動目標の位置ずれを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明によれば、移動目標を検出するために用いられる参照信号を補正するための速度ベクトルは、移動目標存在領域内でのみ算出すればよいので、演算規模を小さくすることができる。また、速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出し、この算出された補正値を用いて補正された参照信号を用いて合成開口処理を行うので、結像度の高いSAR画像を得ることができる。
【0020】
また、請求項2記載の発明によれば、移動目標の速度ベクトルを、マルチルック間の移動目標存在領域で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値、または、複数のピーク値の位置の平均位置または重心位置から算出した移動量とマルチルック間の観測時間差とにより算出するので、移動目標の正確な速度ベクトルを求めることができる。
【0021】
また、請求項3記載の発明によれば、移動目標の速度ベクトルから、ドップラーシフトによる移動目標の画像の位置ずれ量を算出し、この算出した位置ずれ量に基づき、合成開口処理を行うことにより得られた画像における移動目標の位置ずれを補正するので、移動目標に生じるドップラー効果を排除して、正確な位置に移動目標が含まれるSAR画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例1に係る移動目標検出装置の機能的な構成を示すブロック図である。この移動目標検出装置は、図10に示した従来のSAR装置に画像出力部7が追加されて構成されている。この画像出力部7は、IFFT部4から順次に送られてくる合成開口全体のSAR画像と移動目標存在領域(詳細は後述する)のSAR画像とを合成して出力する。
【0024】
次に、本発明の実施例1に係る移動目標検出装置の動作を、移動目標検出処理を中心に、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0025】
移動目標検出処理では、まず、マルチルック処理が行われる(ステップS11)。すなわち、補正値処理部5は、図3(a)に示すような合成開口全体を、複数のルック(図示した例ではルック1〜ルック3の3個)に分割し、図3(b)に示すような、複数の画像を得る。なお、図3では、マルチルック処理で3個のルックに分割する例を示しているが、分割数は任意である。各ルックにおける固定目標の位置は一定であるが、移動目標の位置は、各ルックにおいて変化している。
【0026】
次いで、MTI(Moving Target Indicator;移動目標検出)処理が行われる(ステップS12)。すなわち、補正値処理部5は、図3(c)に示すように、周知のMTI技術を用いてマルチルック間の強度差をとることにより、固定目標を取り除く。これにより、移動目標のみが存在する画像が生成される。
【0027】
次いで、移動目標存在領域の抽出が行われる(ステップS13)。すなわち、補正値処理部5は、ステップS12で生成された複数の画像の論理積をとり、移動目標の粗画像を抽出する。そして、この抽出した粗画像の周囲の所定領域を、図3(d)に示すように、移動目標存在領域とする。
【0028】
次いで、移動ベクトルおよび速度ベクトルが算出される(ステップS14)。すなわち、補正値処理部5は、ステップS13で抽出した移動目標存在領域において、マルチルックの画像を用いて、移動目標存在領域のマルチルック間の移動ベクトルを算出し、さらに、この算出した移動ベクトルのマルチルック間の観測時間差により速度ベクトルを算出する。この移動ベクトルの算出については、実施例2において詳細に説明する。
【0029】
次いで、参照信号の補正値が算出される(ステップS15)。すなわち、補正値処理部5は、ステップS14において速度ベクトルが算出されると、その速度ベクトルのクロスレンジ方向(AZ軸方向)の成分Vazを求め、補正値として参照信号処理部6に送る。参照信号処理部6は、上述した(5)式および(6)式の代わりに、次式を用いて、参照信号r(t)を求める。
【数4】
【0030】
この(7)式において、ドップラー率βは、次式で表される。
【数5】
【0031】
次いで、SAR処理が行われる(ステップS16)。具体的には、移動目標存在領域の送受信信号に対して、次の処理が行われる。すなわち、送受信信号e(t)を第1FFT部1でフーリエ変換することにより得られた信号E(t)と、ステップS15の処理によって参照信号処理部6から送られてくる参照信号r(t)を第2FFT部2でフーリエ変換することにより得られた信号R(f)とが乗算器3で乗算され、この乗算により得られた信号S(f)をIFFT部4において逆フーリエ変換することにより得られた信号s(f)が、移動目標存在領域のSAR画像として出力される。
【0032】
一方、上記ステップS11〜S16の処理と並行して、合成開口の全体について、次の処理が行われる。すなわち、まず、所定の方法により参照信号の補正値が算出される(ステップS21)。次いで、ステップS21で算出された補正値を用いて、SAR処理が行われる(ステップS22)。これらステップS21およびS22の処理は、従来のSAR装置における処理と同じである。これにより、合成開口全体の画像が、移動目標補正前のSAR画像として出力される。
【0033】
次いで、SAR画像が合成される(ステップS17)。すなわち、画像出力部7は、図4に示すように、IFFT部4から順次に送られてくる、ステップS21およびS22の処理により得られた合成開口全体のSAR画像(移動目標補正前のSAR画像)の中の移動目標存在領域に対応する部分を、ステップS11〜S16の処理により得られた移動目標存在領域のSAR画像で置き換えることにより合成する。この画像出力部7で合成された画像が、SAR画像として外部に出力される。以上により、移動目標検出処理は終了する。
【0034】
以上説明したように、本発明の実施例1に係る移動目標検出装置によれば、移動目標を検出するために用いられる参照信号を補正するための速度ベクトルは、移動目標存在領域内でのみ算出すればよいので、演算規模を小さくすることができる。また、速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出し、この算出された補正値を用いて補正された参照信号を用いて合成開口処理を行うので、結像度の高いSAR画像を得ることができる。
【実施例2】
【0035】
本発明の実施例2に係る移動目標検出装置は、補正値処理部5で行われる移動ベクトルおよび速度ベクトルの算出を具体化したものである。
【0036】
移動目標の移動ベクトルは、図5に示すように、マルチルック間の移動目標存在領域内で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値を算出し、これらの最大値の移動量により求めることができる。
【0037】
また、移動目標の移動ベクトルは、図6に示すように、複数のルックの各々の移動目標存在領域内で所定のスレショルドを越える複数のM個のピークを抽出し、その平均位置または重心位置の移動量により求めることができる。
【0038】
この際、各ルックにおける平均位置Raは、次式で求めることができる。
【数6】
【0039】
ここで、
Rm ;m番目のピークの位置ベクトル(m=1〜M)
また、重心位置Rgは、次式で求めることができる。
【数7】
【0040】
ここで、
Am ;強度(m=1〜M)
以上説明したように、本発明の実施例2に係る移動目標検出装置によれば、マルチルック間の移動目標存在領域で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値、または、複数のピーク値の位置の平均位置または重心位置から算出した移動量とマルチルック間の観測時間差とにより算出するで、移動目標の正確な速度ベクトルを求めることができる。
【実施例3】
【0041】
本発明の実施例3に係る移動目標検出装置は、上述した実施例1に係る移動目標検出装置において、さらに、ドップラーシフトによる目標のクロスレンジ方向(AZ軸方向)の位置ずれを補正するものである。
【0042】
図7は、本発明の実施例3に係る移動目標検出装置の機能的な構成を示すブロック図である。この移動目標検出装置は、図1に示した実施例1に係る移動目標検出装置の補正値処理部5の機能が変更されて補正値処理部5aに置き換えられ、画像出力部7の機能が変更されて画像出力部7aに置き換えられて構成されている。
【0043】
補正値処理部5aは、IFFT部4から送られてくる信号s(t)に基づき参照信号を補正するための補正値を生成して参照信号処理部6に送るとともに、ドップラーシフトによるクロスレンジ方向の位置ずれを算出し、クロスレンジ方向の位置ずれとして画像出力部7aに送る。
【0044】
クロスレンジ方向の位置ずれは、移動目標のレーダに対するレンジ方向の速度をvrとすると、次式により与えられる(非特許文献3参照)。
【数8】
【0045】
ここで、
ΔX ;ドップラーシフトによるクロスレンジ方向の位置ずれ
V ;飛翔速度
Rc ;飛翔経路と直交する目標までのスラントレンジ
vr ;移動目標のレーダに対するレンジ方向の速度
速度vrは、実施例1または実施例2において算出される速度ベクトルのレンジ方向の成分から求めることができる。
【0046】
したがって、移動目標について、(11)式の移動量分だけ、クロスレンジ方向に逆方向にずらせば、位置ずれを補正できる。
【0047】
画像出力部7aは、画像出力部7は、IFFT部4から順次に送られてくる合成開口全体のSAR画像と移動目標存在領域のSAR画像とを合成する他に、補正値処理部5aから送られてくるクロスレンジ方向の位置ずれ補正値に応じてSAR画像を補正して出力する。具体的には、移動目標について、(11)式の移動量分だけ、クロスレンジ方向に逆方向にずらして位置ずれを補正する。
【0048】
次に、本発明の実施例3に係る移動目標検出装置の動作を、移動目標検出処理を中心に、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、以下では、図2のフローチャートに示した実施例1に係る移動目標検出装置で行われる処理と同一の処理を行うステップには、図2に示した符号と同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0049】
移動目標検出処理では、まず、マルチルック処理が行われる(ステップS11)。次いで、MTI処理が行われる(ステップS12)。次いで、移動目標存在領域の抽出が行われる(ステップS13)。次いで、移動ベクトルおよび速度ベクトルが算出される(ステップS14)。次いで、SAR処理が行われる(ステップS16)。次いで、距離ずれの補正が行われる(ステップS31)。すなわち、画像出力部7aは、補正値処理部5aから送られてくるクロスレンジ方向の位置ずれ補正値に応じて、移動目標をクロスレンジ方向にずらして位置ずれを補正する。
【0050】
一方、上記ステップS11〜16の処理と並行して、合成開口の全体について、次の処理が行われる。すなわち、まず、参照信号の補正値が算出される(ステップS21)。次いで、ステップS21で算出された補正値を用いて、SAR処理が行われる(ステップS22)。次いで、SAR画像が合成される(ステップS17)。すなわち、画像出力部7は、ステップS21およびステップS22の処理により得られた合成開口全体のSAR画像(移動目標補正前のSAR画像)の中の移動目標存在領域のSAR画像を、ステップS11〜S16およびステップS31の処理により得られた移動目標存在領域のSAR画像で置き換えることにより合成して出力する。以上により、移動目標検出処理は終了する。
【0051】
以上説明したように、本発明の実施例3に係る移動目標検出装置によれば、移動目標にはドップラー効果が生じるため、SAR画像で移動目標の位置ずれが生じるという問題を解消できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、移動目標の鮮明な画像を高速で取得することが要求される移動目標検出装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例1に係る移動目標検出装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る移動目標検出装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例1に係る移動目標検出装置で行われるマルチルック処理および移動目標存在領域の抽出処理を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1に係る移動目標検出装置で行われるSAR画像の合成処理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例2に係る移動目標検出装置で行われる移動ベクトルおよび速度ベクトルの算出処理を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例2に係る移動目標検出装置で行われる移動ベクトルおよび速度ベクトルの他の算出処理を説明するための図である。
【図7】本発明の実施例3に係る移動目標検出装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例3に係る移動目標検出装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】従来の合成開口レーダ装置で行われるSARの原理を説明するためのモデルを示す図である。
【図10】従来の合成開口レーダ装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図11】従来の合成開口レーダ装置で行われるマルチルック間の移動を観測する方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0054】
1 第1FFT部
2 第2FFT部
3 乗算部
4 IFFT部
5、5a 補正値処理部
6 参照信号処理部
7、7a 画像出力部
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動目標を検出する移動目標検出装置に関し、特に合成開口レーダ(SAR;Synthetic Aperture Radar)を用いて移動目標を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動目標検出装置の1つとして、移動しながらマイクロ波を目標に照射し、その反射波を解析することにより、目標を検出する合成開口レーダ装置(以下、「SAR装置」と略する場合もある)が知られている。このSAR装置において行われるSAR処理は、参照信号と送受信信号との相関をとることにより、目標を高分解能で画像化する処理である。
【0003】
ここで、SARの原理について説明する。図9は、SARのモデルを示し、移動体に搭載されたSAR装置でマイクロ波を送受信してSAR処理を行うことにより目標を検出する状態を示している。
【0004】
送受信信号をe(t)とし、AZ(アジマス)圧縮用の参照信号をr(t)とすると、AZ圧縮後の信号s(t)は、次式で算出できる(例えば、非特許文献1参照)。
【数1】
【0005】
ここで、
e(t) ;送受信信号
E(f) ;e(t)のフーリエ変換
r(t) ;参照信号
R(f) ;r(t)のフーリエ変換
s(t) ;SAR画像
S(f) ;s(t)のフーリエ変換
FFT[ ] ;フーリエ変換
FFT-1[ ];逆フーリエ変換
* ;複素共役
t ;時間
f ;周波数
参照信号r(t)は、次式で表すことができる。
【数2】
【0006】
この(5)式において、βはドップラー率であり、次式で表される。
【数3】
【0007】
ここで、
V ;飛翔速度
Rc ;飛翔経路と直交する目標までのスラントレンジ
λ ;波長
SAR処理では、飛翔経路や機体動揺がある場合には、例えばオートフォーカス(例えば、非特許文献2参照)等による参照信号の補正が必要である。図10は、このような参照信号の補正を行うSAR装置の機能的な構成を示すブロック図である。このSAR装置は、第1FFT部1、第2FFT部2、乗算部3、IFFT部4、補正値処理部5および参照信号処理部6から構成されている。
【0008】
第1FFT部1は、式(1)に示すように、図示しない受信機から入力される送受信信号e(t)をフーリエ変換し、信号E(f)として乗算部3に送る。第2FFT部2は、式(2)に示すように、参照信号処理部6から送られてくる信号r(t)をフーリエ変換し、信号R(f)として乗算部3に送る。
【0009】
乗算部3は、式(3)に示すように、第1FFT部1から送られてくる信号E(f)と第2FFT部2から送られてくる信号R(f)を乗算し、信号S(f)としてIFFT部4に送る。IFFT部4は、式(4)に示すように、乗算部3から送られてくる信号S(f)を逆フーリエ変換する。このIFFT部4における逆フーリエ変換により得られた信号s(t)は、SAR画像として外部に出力されるとともに、補正値処理部5に送られる。
【0010】
補正値処理部5は、IFFT部4から送られてくる信号s(t)に基づき参照信号を補正するための補正値を生成し、参照信号処理部6に送る。参照信号処理部6は、補正値処理部5から送られてくる補正値にしたがって参照信号を補正し、信号r(t)として第2FFT部2に送る。
【0011】
以上のように構成されるSAR装置においては、補正後の参照信号を用いてSAR処理を実施すれば、飛翔経路や動揺による誤差が補正されたSAR画像を得ることができる。
【0012】
ところで、固定目標の場合は、上述した補正で目標を画像化できるが、移動目標の場合は、目標が移動速度を有するため、参照信号と送受信信号(目標信号)とに不一致が生じるため、目標の結像度が低下する。この対策として、目標の移動速度を観測し、速度に応じて参照信号を補正することが行われている。この場合、(5)式で示した参照信号を補正する必要があるが、この補正を行うためには、移動目標の速度ベクトルが必要である。
【0013】
この速度ベクトルを求める方法としては、図11に示すような、マルチルック間の移動を観測する方法が知られている(非特許文献4参照)。この方法では、速度ベクトルは、マルチルック間の所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値の移動量から求められた移動ベクトルとマルチルック間の観測時間差とにより求められる。
【非特許文献1】大内、“リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎“、東京電機大学出版局(2003) pp.176−178
【非特許文献2】大内、“リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎“、東京電機大学出版局(2003) pp.210−217
【非特許文献3】大内、“リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎“、東京電機大学出版局(2003) pp.218−223
【非特許文献4】M.Kirscht,”ESTIMATION OF VELOCITY,SHAPE,AND POSITION OF MOVING OBJECTS WITH SAR”,the Fourth International Airborne Remote Sensing Conference and Exhibition/21st Canadian Symposium on Remote Sensing,Ottawa,Ontario,Canada,21-24 June(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した従来のSAR装置において、移動目標を検出するために、参照信号を補正するための速度ベクトルを全開口で算出すると、演算規模が増えるという問題がある。また、移動目標にはドップラー効果が生じるため、SAR画像で移動目標の位置ずれが生じるという問題がある。
【0015】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、演算処理規模の増加を抑えつつ、結像度の高いSAR画像を得ることができる移動目標検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、合成開口を分割するマルチルック処理によって得られた複数の画像間の差を用いた移動目標検出処理により移動目標存在領域を抽出し、該抽出した移動目標存在領域のマルチルック間の移動ベクトルとマルチルック間の観測時間差とにより速度ベクトルを算出し、該算出した速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出する補正値処理部と、補正値処理部で算出された補正値を用いて補正された参照信号を生成する参照信号処理部と、参照信号処理部からの補正された参照信号を用いて移動目標存在領域に対する合成開口画像を算出し、この合成開口全体の合成開口画像と合成する処理部とを備えたことを特徴とする。
【0017】
また、請求項2記載の発明は、請求項2記載の発明において、補正値処理部は、移動目標の速度ベクトルを、マルチルック間の移動目標存在領域で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値、または、複数のピーク値の位置の平均位置または重心位置から算出した移動量とマルチルック間の観測時間差とにより算出することを特徴とする。
【0018】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の発明において、補正値処理部は、さらに、移動目標の速度ベクトルから、ドップラーシフトによる移動目標の画像の位置ずれ量を算出し、処理部は、さらに、合成開口処理を行うことにより得られた画像に対して、補正値処理部で算出された位置ずれ量に基づき、該画像における移動目標の位置ずれを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明によれば、移動目標を検出するために用いられる参照信号を補正するための速度ベクトルは、移動目標存在領域内でのみ算出すればよいので、演算規模を小さくすることができる。また、速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出し、この算出された補正値を用いて補正された参照信号を用いて合成開口処理を行うので、結像度の高いSAR画像を得ることができる。
【0020】
また、請求項2記載の発明によれば、移動目標の速度ベクトルを、マルチルック間の移動目標存在領域で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値、または、複数のピーク値の位置の平均位置または重心位置から算出した移動量とマルチルック間の観測時間差とにより算出するので、移動目標の正確な速度ベクトルを求めることができる。
【0021】
また、請求項3記載の発明によれば、移動目標の速度ベクトルから、ドップラーシフトによる移動目標の画像の位置ずれ量を算出し、この算出した位置ずれ量に基づき、合成開口処理を行うことにより得られた画像における移動目標の位置ずれを補正するので、移動目標に生じるドップラー効果を排除して、正確な位置に移動目標が含まれるSAR画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例1に係る移動目標検出装置の機能的な構成を示すブロック図である。この移動目標検出装置は、図10に示した従来のSAR装置に画像出力部7が追加されて構成されている。この画像出力部7は、IFFT部4から順次に送られてくる合成開口全体のSAR画像と移動目標存在領域(詳細は後述する)のSAR画像とを合成して出力する。
【0024】
次に、本発明の実施例1に係る移動目標検出装置の動作を、移動目標検出処理を中心に、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0025】
移動目標検出処理では、まず、マルチルック処理が行われる(ステップS11)。すなわち、補正値処理部5は、図3(a)に示すような合成開口全体を、複数のルック(図示した例ではルック1〜ルック3の3個)に分割し、図3(b)に示すような、複数の画像を得る。なお、図3では、マルチルック処理で3個のルックに分割する例を示しているが、分割数は任意である。各ルックにおける固定目標の位置は一定であるが、移動目標の位置は、各ルックにおいて変化している。
【0026】
次いで、MTI(Moving Target Indicator;移動目標検出)処理が行われる(ステップS12)。すなわち、補正値処理部5は、図3(c)に示すように、周知のMTI技術を用いてマルチルック間の強度差をとることにより、固定目標を取り除く。これにより、移動目標のみが存在する画像が生成される。
【0027】
次いで、移動目標存在領域の抽出が行われる(ステップS13)。すなわち、補正値処理部5は、ステップS12で生成された複数の画像の論理積をとり、移動目標の粗画像を抽出する。そして、この抽出した粗画像の周囲の所定領域を、図3(d)に示すように、移動目標存在領域とする。
【0028】
次いで、移動ベクトルおよび速度ベクトルが算出される(ステップS14)。すなわち、補正値処理部5は、ステップS13で抽出した移動目標存在領域において、マルチルックの画像を用いて、移動目標存在領域のマルチルック間の移動ベクトルを算出し、さらに、この算出した移動ベクトルのマルチルック間の観測時間差により速度ベクトルを算出する。この移動ベクトルの算出については、実施例2において詳細に説明する。
【0029】
次いで、参照信号の補正値が算出される(ステップS15)。すなわち、補正値処理部5は、ステップS14において速度ベクトルが算出されると、その速度ベクトルのクロスレンジ方向(AZ軸方向)の成分Vazを求め、補正値として参照信号処理部6に送る。参照信号処理部6は、上述した(5)式および(6)式の代わりに、次式を用いて、参照信号r(t)を求める。
【数4】
【0030】
この(7)式において、ドップラー率βは、次式で表される。
【数5】
【0031】
次いで、SAR処理が行われる(ステップS16)。具体的には、移動目標存在領域の送受信信号に対して、次の処理が行われる。すなわち、送受信信号e(t)を第1FFT部1でフーリエ変換することにより得られた信号E(t)と、ステップS15の処理によって参照信号処理部6から送られてくる参照信号r(t)を第2FFT部2でフーリエ変換することにより得られた信号R(f)とが乗算器3で乗算され、この乗算により得られた信号S(f)をIFFT部4において逆フーリエ変換することにより得られた信号s(f)が、移動目標存在領域のSAR画像として出力される。
【0032】
一方、上記ステップS11〜S16の処理と並行して、合成開口の全体について、次の処理が行われる。すなわち、まず、所定の方法により参照信号の補正値が算出される(ステップS21)。次いで、ステップS21で算出された補正値を用いて、SAR処理が行われる(ステップS22)。これらステップS21およびS22の処理は、従来のSAR装置における処理と同じである。これにより、合成開口全体の画像が、移動目標補正前のSAR画像として出力される。
【0033】
次いで、SAR画像が合成される(ステップS17)。すなわち、画像出力部7は、図4に示すように、IFFT部4から順次に送られてくる、ステップS21およびS22の処理により得られた合成開口全体のSAR画像(移動目標補正前のSAR画像)の中の移動目標存在領域に対応する部分を、ステップS11〜S16の処理により得られた移動目標存在領域のSAR画像で置き換えることにより合成する。この画像出力部7で合成された画像が、SAR画像として外部に出力される。以上により、移動目標検出処理は終了する。
【0034】
以上説明したように、本発明の実施例1に係る移動目標検出装置によれば、移動目標を検出するために用いられる参照信号を補正するための速度ベクトルは、移動目標存在領域内でのみ算出すればよいので、演算規模を小さくすることができる。また、速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出し、この算出された補正値を用いて補正された参照信号を用いて合成開口処理を行うので、結像度の高いSAR画像を得ることができる。
【実施例2】
【0035】
本発明の実施例2に係る移動目標検出装置は、補正値処理部5で行われる移動ベクトルおよび速度ベクトルの算出を具体化したものである。
【0036】
移動目標の移動ベクトルは、図5に示すように、マルチルック間の移動目標存在領域内で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値を算出し、これらの最大値の移動量により求めることができる。
【0037】
また、移動目標の移動ベクトルは、図6に示すように、複数のルックの各々の移動目標存在領域内で所定のスレショルドを越える複数のM個のピークを抽出し、その平均位置または重心位置の移動量により求めることができる。
【0038】
この際、各ルックにおける平均位置Raは、次式で求めることができる。
【数6】
【0039】
ここで、
Rm ;m番目のピークの位置ベクトル(m=1〜M)
また、重心位置Rgは、次式で求めることができる。
【数7】
【0040】
ここで、
Am ;強度(m=1〜M)
以上説明したように、本発明の実施例2に係る移動目標検出装置によれば、マルチルック間の移動目標存在領域で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値、または、複数のピーク値の位置の平均位置または重心位置から算出した移動量とマルチルック間の観測時間差とにより算出するで、移動目標の正確な速度ベクトルを求めることができる。
【実施例3】
【0041】
本発明の実施例3に係る移動目標検出装置は、上述した実施例1に係る移動目標検出装置において、さらに、ドップラーシフトによる目標のクロスレンジ方向(AZ軸方向)の位置ずれを補正するものである。
【0042】
図7は、本発明の実施例3に係る移動目標検出装置の機能的な構成を示すブロック図である。この移動目標検出装置は、図1に示した実施例1に係る移動目標検出装置の補正値処理部5の機能が変更されて補正値処理部5aに置き換えられ、画像出力部7の機能が変更されて画像出力部7aに置き換えられて構成されている。
【0043】
補正値処理部5aは、IFFT部4から送られてくる信号s(t)に基づき参照信号を補正するための補正値を生成して参照信号処理部6に送るとともに、ドップラーシフトによるクロスレンジ方向の位置ずれを算出し、クロスレンジ方向の位置ずれとして画像出力部7aに送る。
【0044】
クロスレンジ方向の位置ずれは、移動目標のレーダに対するレンジ方向の速度をvrとすると、次式により与えられる(非特許文献3参照)。
【数8】
【0045】
ここで、
ΔX ;ドップラーシフトによるクロスレンジ方向の位置ずれ
V ;飛翔速度
Rc ;飛翔経路と直交する目標までのスラントレンジ
vr ;移動目標のレーダに対するレンジ方向の速度
速度vrは、実施例1または実施例2において算出される速度ベクトルのレンジ方向の成分から求めることができる。
【0046】
したがって、移動目標について、(11)式の移動量分だけ、クロスレンジ方向に逆方向にずらせば、位置ずれを補正できる。
【0047】
画像出力部7aは、画像出力部7は、IFFT部4から順次に送られてくる合成開口全体のSAR画像と移動目標存在領域のSAR画像とを合成する他に、補正値処理部5aから送られてくるクロスレンジ方向の位置ずれ補正値に応じてSAR画像を補正して出力する。具体的には、移動目標について、(11)式の移動量分だけ、クロスレンジ方向に逆方向にずらして位置ずれを補正する。
【0048】
次に、本発明の実施例3に係る移動目標検出装置の動作を、移動目標検出処理を中心に、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、以下では、図2のフローチャートに示した実施例1に係る移動目標検出装置で行われる処理と同一の処理を行うステップには、図2に示した符号と同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0049】
移動目標検出処理では、まず、マルチルック処理が行われる(ステップS11)。次いで、MTI処理が行われる(ステップS12)。次いで、移動目標存在領域の抽出が行われる(ステップS13)。次いで、移動ベクトルおよび速度ベクトルが算出される(ステップS14)。次いで、SAR処理が行われる(ステップS16)。次いで、距離ずれの補正が行われる(ステップS31)。すなわち、画像出力部7aは、補正値処理部5aから送られてくるクロスレンジ方向の位置ずれ補正値に応じて、移動目標をクロスレンジ方向にずらして位置ずれを補正する。
【0050】
一方、上記ステップS11〜16の処理と並行して、合成開口の全体について、次の処理が行われる。すなわち、まず、参照信号の補正値が算出される(ステップS21)。次いで、ステップS21で算出された補正値を用いて、SAR処理が行われる(ステップS22)。次いで、SAR画像が合成される(ステップS17)。すなわち、画像出力部7は、ステップS21およびステップS22の処理により得られた合成開口全体のSAR画像(移動目標補正前のSAR画像)の中の移動目標存在領域のSAR画像を、ステップS11〜S16およびステップS31の処理により得られた移動目標存在領域のSAR画像で置き換えることにより合成して出力する。以上により、移動目標検出処理は終了する。
【0051】
以上説明したように、本発明の実施例3に係る移動目標検出装置によれば、移動目標にはドップラー効果が生じるため、SAR画像で移動目標の位置ずれが生じるという問題を解消できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、移動目標の鮮明な画像を高速で取得することが要求される移動目標検出装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例1に係る移動目標検出装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る移動目標検出装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例1に係る移動目標検出装置で行われるマルチルック処理および移動目標存在領域の抽出処理を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1に係る移動目標検出装置で行われるSAR画像の合成処理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例2に係る移動目標検出装置で行われる移動ベクトルおよび速度ベクトルの算出処理を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例2に係る移動目標検出装置で行われる移動ベクトルおよび速度ベクトルの他の算出処理を説明するための図である。
【図7】本発明の実施例3に係る移動目標検出装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例3に係る移動目標検出装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】従来の合成開口レーダ装置で行われるSARの原理を説明するためのモデルを示す図である。
【図10】従来の合成開口レーダ装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図11】従来の合成開口レーダ装置で行われるマルチルック間の移動を観測する方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0054】
1 第1FFT部
2 第2FFT部
3 乗算部
4 IFFT部
5、5a 補正値処理部
6 参照信号処理部
7、7a 画像出力部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成開口を分割するマルチルック処理によって得られた複数の画像間の差を用いた移動目標検出処理により移動目標存在領域を抽出し、該抽出した移動目標存在領域のマルチルック間の移動ベクトルとマルチルック間の観測時間差とにより速度ベクトルを算出し、該算出した速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出する補正値処理部と、
前記補正値処理部で算出された補正値を用いて補正された参照信号を生成する参照信号処理部と、
前記参照信号処理部からの補正された参照信号を用いて移動目標存在領域に対する合成開口画像を算出し、この合成開口全体の合成開口画像と合成する処理部と、
を備えたことを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項2】
前記補正値処理部は、移動目標の速度ベクトルを、マルチルック間の移動目標存在領域で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値、または、複数のピーク値の位置の平均位置または重心位置から算出した移動量とマルチルック間の観測時間差とにより算出することを特徴とする請求項1記載の移動目標検出装置。
【請求項3】
前記補正値処理部は、さらに、移動目標の速度ベクトルから、ドップラーシフトによる移動目標の画像の位置ずれ量を算出し、
前記処理部は、さらに、合成開口処理を行うことにより得られた画像に対して、前記補正値処理部で算出された位置ずれ量に基づき、該画像における移動目標の位置ずれを補正することを特徴とする請求項1または請求項2記載の移動目標検出装置。
【請求項1】
合成開口を分割するマルチルック処理によって得られた複数の画像間の差を用いた移動目標検出処理により移動目標存在領域を抽出し、該抽出した移動目標存在領域のマルチルック間の移動ベクトルとマルチルック間の観測時間差とにより速度ベクトルを算出し、該算出した速度ベクトルに基づきクロスレンジ方向の参照信号の補正値を算出する補正値処理部と、
前記補正値処理部で算出された補正値を用いて補正された参照信号を生成する参照信号処理部と、
前記参照信号処理部からの補正された参照信号を用いて移動目標存在領域に対する合成開口画像を算出し、この合成開口全体の合成開口画像と合成する処理部と、
を備えたことを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項2】
前記補正値処理部は、移動目標の速度ベクトルを、マルチルック間の移動目標存在領域で所定のスレショルドを越える複数のピーク値の最大値、または、複数のピーク値の位置の平均位置または重心位置から算出した移動量とマルチルック間の観測時間差とにより算出することを特徴とする請求項1記載の移動目標検出装置。
【請求項3】
前記補正値処理部は、さらに、移動目標の速度ベクトルから、ドップラーシフトによる移動目標の画像の位置ずれ量を算出し、
前記処理部は、さらに、合成開口処理を行うことにより得られた画像に対して、前記補正値処理部で算出された位置ずれ量に基づき、該画像における移動目標の位置ずれを補正することを特徴とする請求項1または請求項2記載の移動目標検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−256447(P2008−256447A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97462(P2007−97462)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]