移動目標検出装置
【課題】地上面を低速度で移動する移動目標をより確実に検出することができる移動目標検出装置を得る。
【解決手段】所定の観測時間差を有する第1の観測地点及び第2の観測地点における観測時期を設定する観測時期設定手段20と、アンテナから取得された2枚のSAR画像を格納するデータ格納部40a、40bと、データ格納部に格納された2枚のSAR画像間の位相差をそれぞれ算出する位相差算出手段50a、50bと、第1の観測地点の位相差から、移動目標の第1の位置および移動速度を特定するとともに、移動目標が移動速度で第2の観測地点まで移動した際の第2の位置を推定する移動目標位置推定手段60と、第1の位置における位相差と、第2の位置における位相差とが、ともに所定閾値よりも大きい場合に、移動目標を真の移動目標と判断する移動目標検出手段80とを備える。
【解決手段】所定の観測時間差を有する第1の観測地点及び第2の観測地点における観測時期を設定する観測時期設定手段20と、アンテナから取得された2枚のSAR画像を格納するデータ格納部40a、40bと、データ格納部に格納された2枚のSAR画像間の位相差をそれぞれ算出する位相差算出手段50a、50bと、第1の観測地点の位相差から、移動目標の第1の位置および移動速度を特定するとともに、移動目標が移動速度で第2の観測地点まで移動した際の第2の位置を推定する移動目標位置推定手段60と、第1の位置における位相差と、第2の位置における位相差とが、ともに所定閾値よりも大きい場合に、移動目標を真の移動目標と判断する移動目標検出手段80とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速で移動する移動目標を高精度に検出する移動目標検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダは、指向性を有するアンテナから電磁波を放射し、目標からの散乱波を観測する。このとき、目標からの散乱波と同時に、地表面からの不要反射(以下、「クラッタ」と称する)が観測される。このため、反射の小さな目標を検出することは、容易でない。そこで、例えば、反射の小さい移動目標を観測する場合には、ドップラー効果を利用して、地表面からのクラッタを抑圧し、移動目標を検出する方法が用いられている。
【0003】
ところが、レーダプラットフォームが移動する場合には、アンテナビームの角度方向の拡がりに応じて、クラッタのドップラー周波数も拡がってしまう。このため、低速で移動する移動目標の信号と、クラッタの信号との分別が困難な場合が発生する。
【0004】
そこで、アンテナ開口をアンテナの移動方向に分割して、連続する2パルス間において等価的にアンテナが静止している状況を作り出し、クラッタを抑圧する技術(Ground Moving Target Indicator:以下、「GMTI」と称する)が考案されている。
【0005】
図12は、従来の移動目標検出装置を用いて移動目標を観測するときの一例を示す観測ジオメトリである。図12における移動目標検出装置は、レーダプラットフォーム1に搭載され、レンジ方向に移動する移動目標2を観測する。移動目標検出装置には、送受信アンテナ3が備えられている。
【0006】
なお、図12において、送受信アンテナ3のアンテナ開口面は、レーダプラットフォーム1の進行方向に平行となっている。また、送受信アンテナ3のビームは、アンテナ開口面に対して垂直となっている。さらに、送受信アンテナ3のビームは、図12に示すような、フットプリント4となっている場合を例に挙げて説明する。また、以下においては、2次元平面を仮定して動作を説明するが、これらの仮定を満足しない場合においても、容易に拡張して考えることが可能である。
【0007】
図13は、送受信アンテナ3の開口を分割した様子を示す図である。図13において、第1の送信パルスは、電気的位相中心位置5aにおいて送信される。また、第1の送信パルスは、5bにおいて受信される。このため、第1の送信パルスの送受信の電気的位相中心位置は、5aと5bの中間点α(図13の破線)とみなすことができる。同様に、第2の送信パルスは、電気的位相中心位置6aにおいて送信される。また、第2の送信パルスは、6bにおいて受信される。このため、第2の送信パルスの送受信の電気的位相中心位置も、6aと6bの中間点α(図13の破線)とみなすことができる。
【0008】
従って、第1及び第2のアンテナ開口で受信されるデータの電気的位相中心位置は、中間点αで等価的に同一とみなすことができる。すなわち、第1及び第2の送信パルスによる観測は、空間的に静止した位置(中間点α)から行われるとみなすことができる。
【0009】
このような観測を一定回数繰り返すことによって取得された2つの受信信号のそれぞれを、第1及び第2のデータ格納部にそれぞれ蓄積する。また、蓄積されたそれぞれの受信信号を画像再生処理部へ送り、2枚分のレーダ画像を再生する。なお、レーダ画像の再生原理及び手順は、合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:以下「SAR」と称する)の画像再生処理として、一般的に広く知られており、説明は省略する。
【0010】
上述で説明したように、2枚のレーダ画像は、空間的には同一の位置から観測されたデータとみなすことができるが、観測した時刻が1パルス間隔分ずれていることが特徴である。これにより、地表面の静止目標は、2つの画像再生処理の結果に基づいて同一の信号として現れる。一方、移動目標の反射波は、第1及び第2のパルス間に移動した分の位相回転が生じる。
【0011】
この特性を利用して、複素データ差分処理や複素相関処理による2枚のレーダ画像の差分又は複素相関を算出する。これにより、移動目標からの信号と、静止目標からのクラッタとの信号に差異が生じ、移動目標を検出することができる。
【0012】
例えば、第1及び第2のアンテナで取得したクラッタの信号のデータが完全に一致している場合、複素データの差分は、原点に分布する。同様に、第1及び第2のアンテナで取得したクラッタの信号のデータが完全に一致している場合、複素相関を算出した結果は、実軸上に分布する。一方、移動目標の信号は、複素データ差分処理及び複素関数処理に関わらず、複素平面上に分布する。
【0013】
そこで、従来技術の1つとして、例えば、以下のものが挙げられる。
2枚のレーダ画像間の位相差、及び移動目標とクラッタとの信号の強度比(Signal to Clutter Ratio:以下、「SCR」と称する)を2つの変数として、次式(1)において与えられた誤警報確率Pfaの下で、検出確率を最大化する閾値Pthを算出する。そして、確率密度P(η、ψ)が閾値Pth以下のものを移動目標であるとして検出する移動目標検出装置が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0014】
【数1】
【0015】
なお、上式(1)のP(η、ψ)は、クラッタの複素平面上での確率密度分布を与える式である。また、上式(1)のηは、受信信号の振幅である。さらに、上式(1)のψは、位相角である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】C.H.Gierull著、「Statistical Analysis of Multilook SAR Interferograms for CFAR Detection of Ground Moving Targets」、IEEE TRANSACTIONS ON GEOSCIENCE AND REMOTE SENSING、2004年4月、VOL.42、NO.4、p.691−701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
従来技術では、2枚のレーダ画像が空間的には同一の位置から観測されたデータではあるが、観測した時刻が1パルス間隔分ずれているという特性を利用して、移動目標の検出を行っていた。しかしながら、受信信号の振幅や位相は、風の影響による樹木などの揺らぎ、あるいは受信機の熱雑音によって変動する。このため、空間的に同一の位置からクラッタを観測した場合においても、完全に同一な信号を受信することが困難な場合があった。
【0018】
例えば、第1のアンテナにより受信された信号の画像再生結果と、第2のアンテナにより受信された信号の画像再生結果との差分を算出した場合、クラッタ信号が完全に一致していれば、原点に分布する。しかし、上述で説明したような変動要因により、完全に同一な信号を受信できない場合には、クラッタ信号おいても複素平面上に分布する。
【0019】
図14は、静止目標であるクラッタ信号が、移動目標と同様に複素平面上に分布した場合を示す分布図である。図14に示すように、低速度で移動する目標の場合には、空間的に同一の位置から観測された2枚のレーダ画像間の位相差が小さい。このため、低速度で移動する移動目標の信号(図14中のA)がクラッタ信号(図14中のB)に埋もれてしまう。この結果、従来技術では、低速度で移動する移動目標を検出することが困難であるといった問題点があった。
【0020】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、地上面を低速度で移動する移動目標をより確実に検出することができる移動目標検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る移動目標検出装置は、プラットフォームの移動方向に分割可能な開口を持つアンテナに対して、所定の観測時間差を有する第1の観測地点及び第2の観測地点における観測時期を設定する観測時期設定手段と、第1の観測地点及び第2の観測地点のそれぞれに対応してアンテナから取得された2枚のSAR画像を格納するデータ格納部と、第1の観測地点及び第2の観測地点のそれぞれに対応して、データ格納部に格納された2枚のSAR画像間の位相差をそれぞれ算出する位相差算出手段と、位相差算出手段によって算出された第1の観測地点の位相差から、移動目標の第1の位置および移動速度を特定するとともに、移動目標が移動速度で第2の観測地点まで移動した際の第2の位置を推定する移動目標位置推定手段と、第1の位置における位相差と、第2の位置における位相差とが、ともに所定閾値よりも大きい場合に、移動目標を真の移動目標と判断する移動目標検出手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る移動目標検出装置よれば、所定の観測時間差を有する少なくとも2箇所以上の地点での観測結果に基づいて、移動目標であるか否かを判断することにより、地上面を低速度で移動する移動目標をより確実に検出することができる移動目標検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置を用いて、地表面を移動する移動目標を観測する場合の説明図である。
【図2】図1の移動目標検出装置の内部構成図である。
【図3】移動目標がアジマス方向へのずれが生じない場合を画素で示す図である。
【図4】移動目標がアジマス方向へのずれが生じた場合を画素で示す図である。
【図5】位相差分布算出手段によって算出された結合位相差分布を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る移動目標検出装置の内部構成図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る移動目標検出装置の内部構成図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る移動目標検出装置の内部構成図である。
【図9】本発明の実施の形態5に係る移動目標検出装置の内部構成図である。
【図10】レンジ方向に速度を有する移動目標を一般的な合成開口処理により画像化した結果を示す図である。
【図11】移動目標がアジマス方向へ速度を持っている場合と、移動目標がアジマス方向へ速度を持っていない場合とを示す図である。
【図12】従来の移動目標検出装置を用いて移動目標を観測するときの一例を示す観測ジオメトリである。
【図13】送受信アンテナの開口を分割した様子を示す図である。
【図14】静止目標であるクラッタ信号が、移動目標と同様に複素平面上に分布した場合を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置を用いて、地表面を移動する移動目標を観測する場合の説明図である。従来技術では、1つの観測地点において一定回数繰り返し行った観測結果に基づいて、移動目標の検出を行っていた。これに対して、本実施の形態1では、2箇所以上の複数の観測地点においてそれぞれ一定回数繰り返し行った観測結果に基づいて、移動目標の検出を行うことを技術的特徴としている。
【0026】
なお、本実施の形態1においては、説明を容易にするため、図1に示すように、2箇所の観測地点である観測1と観測2とで実施したSAR−GMTI処理による検出結果を用いて、移動目標検出を行う場合について説明する。しかしながら、本実施の形態1における移動目標検出は、このような図1の構成に限定されるものではない。3箇所以上の観測地点により得られる複数個のSAR−GMTI処理による検出結果を用いて移動目標検出を行ってもよい。
【0027】
移動目標検出装置10は、図1に示すように、観測1及び観測2の2箇所において、地表面を移動する移動目標を観測する。なお、本実施の形態1における移動目標は、レンジ方向にのみ一定の速度(低速)で移動しているものとする。また、地表面には、植生も配置されているものとする。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態1における移動目標検出装置10の内部構成図である。図2における移動目標検出装置10は、観測時期設定手段20、送受信アンテナ30、データ格納部40a、40b、位相差算出手段50a、50b、移動目標位置推定手段60、位相差分布算出手段70、移動目標検出手段80及び出力データ格納部90を備えている。なお、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内の各手段・各部は、概略、以下のように機能する。
【0029】
観測時期設定手段20は、観測1及び観測2の2箇所におけるレーダ送受信時期の指令信号を、送受信アンテナ30に対して出力する。なお、観測1と観測2のレーダ送受信時期(観測時間差)は、移動目標の移動速度に応じて設定する。
【0030】
送受信アンテナ30は、観測時期設定手段20からの指令信号に基づいて、観測1及び観測2の2箇所におけるレーダの送受信を実施する。なお、観測1及び観測2のそれぞれにおいて一定回数繰り返し観測を行うための、送受信アンテナ30の機能・動作は、先の図13で説明した従来技術と同様であり、説明を省略する。
【0031】
データ格納部40aには、観測1において送受信アンテナ30により取得された2枚のSAR画像が格納される。また、データ格納部40bには、観測2において送受信アンテナ30により取得された2枚のSAR画像が格納される。
【0032】
位相差算出手段50aは、データ格納部40aに格納された2枚のSAR画像間の位相差を算出する。また、位相差算出手段50bは、データ格納部40bに格納された2枚のSAR画像間の位相差を算出する。
【0033】
移動目標位置推定手段60は、位相差算出手段50aによって算出された2枚のSAR画像間の位相差に基づいて、移動目標の速度を算出する。さらに、移動目標位置推定手段60は、算出した移動目標の速度と、観測1におけるSAR−GMTI処理の結果とに基づいて、観測2における移動目標の位置を推定する。
【0034】
位相差分布算出手段70は、位相差算出手段50a、50bにおいて算出されたそれぞれの位相差に基づいて、結合位相差分布を算出する。
【0035】
移動目標検出手段80は、位相差分布算出手段70によって算出された結合位相差分布と、所定の閾値との比較に基づいて、移動目標を検出し、検出結果を出力データ格納部90に格納させる。
【0036】
次に、図2に示したような本実施の形態1における移動目標検出装置10の一連動作について、より具体的に説明する。なお、レーダ画像の再生原理及び手順は、SARの画像再生処理として広く知られているため、説明を省略する。
【0037】
位相差算出手段50a、50bは、データ格納部40a、40bのそれぞれに格納されている2枚のSAR画像の位相差φを、次式(2)に基づいて算出する。
φ(m、n)=∠(Z1(m、n)Z2*(m、n)) (2)
【0038】
上式(1)のZ1(m、n)は、1枚目のSAR画像の位置(m、n)が持つデータ値である。また、上式(1)のZ2(m、n)は、2枚目のSAR画像の位置(m、n)が持つデータ値である。また、上式(1)の∠は、複素数の位相角をとる演算子である。さらに、上式(1)の*は、複素共役である。
【0039】
なお、予め2回のSAR−GMTI処理用データの位相差を使用者が算出し、データ格納部40a、40bに格納することで、本処理は不要となる。
【0040】
次に、移動目標位置推定手段60は、位相差算出手段50aによって算出された2枚のSAR画像間の位相差から移動目標のレンジ方向の速度を算出する。なお、移動目標の移動速度と2枚のSAR画像間の位相差とには、次式(3)の関係がある。
ψ=4πVTp/λ (3)
【0041】
上式(3)のVは、移動目標のスラントレンジ方向の速度である。また、上式(3)のTpは、開口分割処理によりアロングトラック方向に分割された2枚の送受信アンテナ30の1回目及び2回目の観測間隔である。さらに、上式(3)のλは、波長である。
【0042】
ここで、上式(3)の移動目標のスラントレンジ方向の速度Vは、移動目標のグランドレンジ方向の速度Vgndと、次式(4)の関係がある。
Vgnd=V/sinθ (4)
ここで、上式(4)のθは、観測オフナディア角である。このため、上式(3)において、スラントレンジ方向の速度Vの代わりに、上式(4)の速度Vgndを用いてもよい。
【0043】
さらに、移動目標位置推定手段60は、スラントレンジ方向の移動目標の速度Vと、観測1におけるSAR−GMTI処理の観測データ及び観測2におけるSAR−GMTI処理の観測データ取得の観測時間差とから、観測2におけるSAR−GMTI処理によって得られる移動目標の観測位置の推定値Yを、次式(5)に基づいて推定する。
Y=VΔt (5)
【0044】
上式(5)のΔtは、観測1におけるSAR−GMTI処理用データの観測時刻と、観測2におけるSAR−GMTI処理用データの観測時刻との観測間隔(観測時間差)である。
【0045】
ここで、観測2で得られたSAR−GMTI処理の結果における移動目標の検出位置を図3、4に示す破線で囲まれた領域内で探索する。なお、破線の大きさは、観測1における移動目標の位相差から算出される移動速度と、予め決められている観測1及び観測2における観測時間差により決定される。
【0046】
移動目標は、スラントレンジ方向に一定の速度(低速)で移動している場合、観測1におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の位置(画素)と、観測2におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の位置(画素)との間では、アジマス方向へのずれは発生しない(図3における破線で囲まれた領域参照)。従って、観測2における移動目標の位置は、上式(5)にスラントレンジ方向の移動目標の速度Vを適用して算出される位置(図3(b)の斜線部分に相当)に現れることが予想される。
【0047】
なお、観測1及び観測2の間に、移動目標がスラントレンジ方向に加速度を持っており、移動速度が変化した場合、観測1におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の位置(画素)と、観測2におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の位置(画素)との間では、アジマス方向へのずれが発生する(図4における破線で囲まれた領域参照)。この際には、レンジ方向とアジマス方向とを加えた範囲(図4の破線部)を探索することで、観測1及び観測2における移動目標の位置を特定できる。
【0048】
このように、観測1におけるSAR−GMTI処理結果に基づいて観測2における移動目標の範囲を予測し、予測した範囲内において、観測1及び観測2におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の信号同士を関連付けることが可能となる。信号同士を関連付ける方法としては、例えば、探索範囲内に含まれる信号の相関を算出し、相関値が最大となる点を観測1及び観測2におけるそれぞれの移動目標の位置として特定する方法などが挙げられる。
【0049】
次に、位相差分布算出手段70は、移動目標位置推定手段60によって特定された観測1における移動目標の画素の位相差φ1と、観測2における移動目標の画素の位相差φ2とを用いて、結合位相差分布P12を算出する。より具体的には、この結合位相差分布P12は、図5に示すように、位相差φ1をY軸、位相差φ2をX軸としてプロットすることで得られる。
【0050】
このとき、植生などによってランダムな位相差が生じた場合には、観測1及び観測2におけるSAR−GMTI処理データの位相差が無相関となる。従って、結合位相差分布P12には、図5に示すように、原点を中心とするクラッタ領域が分布する。
【0051】
一方、移動目標が一定の速度で移動する場合には、観測1及び観測2における位相差が同じ位相差として観測される。従って、結合位相差分布P12としては、図5における「移動目標」で示した位置、すなわち、観測1における位相差φ1と観測2における位相差φ2がほぼ同じ値となる位置に分布する。
【0052】
次に、移動目標検出手段80は、結合位相差分布P12に対して予め設定された閾値Pthによる閾値処理を実施する。ここで、閾値Pthは、検出した移動目標の速度から算出した位相差の√2倍の値として設定することができ、図5に示した結合位相差分布P12において、この閾値Pthは、半径Pthの円として表すことができる。
【0053】
そして、移動目標検出手段80は、観測1における位相差φ1と観測2における位相差φ2がほぼ同じ値となり、かつP12>Pthであった場合(すなわち、位相差φ1と位相差φ2が、ともに検出した移動目標の速度から算出した位相差よりも大きい場合に相当)、移動目標であると判断する。一方、移動目標検出手段80は、P12≦Pthであった場合、移動目標ではないと判断する。そして、移動目標検出手段80は、検出結果を出力データ格納部90に出力する。なお、図示されていないが、表示部は、出力データ格納部90からの出力データに基づいて、検出結果を表示する。
【0054】
以上のように、実施の形態1によれば、所定の観測時間差を有する少なくとも2箇所以上の地点での観測結果に基づいて、移動目標であるか否かを判断している。これにより、移動目標の信号とクラッタ信号とを明確に識別でき、地上面を低速度で移動する移動目標を、より確実に検出することができる。
【0055】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、移動目標を検出するための閾値として、検出した移動目標の位相差に基づく値を設定する場合について説明した。これに対して、本発明の実施の形態2では、クラッタの位相差分布の理論値を用いて予め設定した誤警報確率を満たす閾値を算出し、移動目標を検出するための閾値を設定する場合について説明する。
【0056】
図6は、本発明の実施の形態2に係る移動目標検出装置10の内部構成図である。先の実施の形態1における図2の移動目標検出装置10と比較すると、本実施の形態2における図6の移動目標検出装置10は、コヒーレンス算出手段100a、100b及び閾値算出処理手段110をさらに備えている点が異なっている。なお、他の構成は、先の実施の形態1と同様であり、説明を省略する。
【0057】
ここで、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内のコヒーレンス算出手段100a、100b及び閾値算出処理手段110は、概略、以下のように機能する。
【0058】
コヒーレンス算出手段100a、100bは、データ格納部40a、40bのそれぞれに格納されている2枚のSAR画像間のコヒーレンスを算出する。
【0059】
閾値算出処理手段110は、コヒーレンス算出手段100a、100bによって算出されたそれぞれのコヒーレンスに基づいて、位相差分布の結合確率密度を算出する。また、閾値算出処理手段110は、予め設定した誤警報確率を満足する閾値を、結合確率密度に基づいて算出する。
【0060】
次に、本実施の形態2で新たに追加されたコヒーレンス算出手段100a、100b及び閾値算出処理手段110を中心に、本実施の形態2における移動目標検出装置の動作を、以下に説明する。
【0061】
まず、コヒーレンス算出手段100a、100bは、SAR−GMTI処理を実施のするために、データ格納部40a、40bのそれぞれに格納されている2枚のSAR画像間のコヒーレンスを、次式(6)に基づいて算出する。
【0062】
【数2】
【0063】
上式(6)のNは、ウィンドの大きさであり、コヒーレンスを推定するために用いる画素数に相当する。また、上式(6)のδは、振幅である。さらに、上式(6)のθは、偏角である。
【0064】
なお、コヒーレンスは、2枚のSAR画像が同一軌道で取得されるという条件下において、地表面に変化がない場合には、1に近い値となる。一方、その条件下において、地表面に変化がある場合には、1よりも小さい値となる。
【0065】
次に、閾値算出処理手段110は、コヒーレンス算出手段100a、100bによって算出された2枚のSAR画像処理データ間のコヒーレンスから算出される位相差分布から、クラッタの結合確率密度を算出する。そして、予め設定された誤警報確率を満足するような移動目標を検出するための閾値を算出する。
【0066】
ここで、一様な領域においての2枚のSAR画像間の位相差は、複素相関(コヒーレンス)を用いて、次式(7)のように表される(例えば、J.S.Lee、K.W.Hoppel、S.A.Mango、andA.R.Miller著、「Intensity and Phase Statistics of Multilook Polarimetric and Interferometric SAR Imagery」、IEEE TRANSACTIONS ON GEOSCIENCE AND REMOTE SENSING、1994年1月、VOL.32、NO.5、p.1017−1028参照)。
【0067】
【数3】
【0068】
上式(7)のδは、2枚のSAR画像のコヒーレンスである。また、上式(7)のKは、マルチルック数である。また、上式(7)のβは、δcos[φ−θ]である。また、上式(7)のΓは、ガンマ関数である。さらに、上式(7)のFは、ガウスの超幾何関数である。
【0069】
観測1及び観測2におけるSAR−GMTI処理用データにおいて、観測される植生などのようにランダムな位相差が分布する移動目標の場合、観測1及び観測2におけるSAR−GMTI処理間の位相差の結合確率密度分布は、観測1における位相差分布と、観測2における位相差分布とを、完全に独立としてみなすことができる。従って、結合確率密度関数は、次式(8)のように、各SAR−GMTI処理間の位相差分布の積で表すことができる。
P12[φ1、φ2]=P1[φ1]P2[φ2] (8)
【0070】
上式(8)のφ1は、1回目(観測1)のSAR−GMTI処理に用いる2枚のSAR画像間の位相差である。また、上式(8)のφ2は、2回目(観測2)のSAR−GMTI処理に用いる2枚のSAR画像間の位相差である。
【0071】
ここで、上式(7)と、予め設定された誤警報確率Pfaとに基づいて、検出確率が最大となる閾値Pthを、次式(9)から算出する。
【0072】
【数4】
【0073】
そして、移動目標検出手段80は、閾値算出処理手段110によって算出されたPthに基づいて、閾値処理を実施する。移動目標検出手段80は、P12[φ1、φ2]>Pthであった場合、移動目標であると判断する。一方、移動目標検出手段80は、P12[φ1、φ2]≦Pthであった場合、移動目標ではないと判断する。
【0074】
以上のように、実施の形態2によれば、クラッタの位相差分布の理論値を用いて、予め設定した誤警報確率を満たす閾値を算出し、移動目標の検出を行っている。これにより、先の実施の形態1よりも、より確実に地上面を低速度で移動する移動目標を検出することができる。
【0075】
実施の形態3.
先の実施の形態2では、予め設定した誤警報確率と各SAR−GMTI処理用データである2枚のSAR画像間のコヒーレンスから閾値を理論的に算出し、移動目標を検出する場合について説明した。これに対して、本実施の形態3では、位相差分布を算出した直後に、予め移動目標検出処理を粗く実施し、静止目標を早い段階で排除することで、処理も高速化を図る場合について説明する。
【0076】
図7は、本発明の実施の形態3に係る移動目標検出装置10の内部構成図である。先の実施の形態2における図6の移動目標検出装置10と比較すると、本実施の形態3における図7の移動目標検出装置10は、移動目標検出処理手段120a、120bをさらに備えている点が異なっている。なお、他の構成は、先の実施の形態2と同様であり、説明を省略する。
【0077】
ここで、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内の移動目標検出処理手段120a、120bは、概略、以下のように機能する。
【0078】
移動目標検出処理手段120a、120bは、それぞれ位相差算出手段50a、50bによって算出された2枚のSAR画像間の位相差を指標として、閾値処理を実施することにより、移動目標を検出する。
【0079】
次に、本実施の形態3で新たに追加された移動目標検出処理手段120a、120bを中心に、本実施の形態3における移動目標検出装置の動作を、以下に説明する。
【0080】
移動目標検出処理手段120aは、位相差算出手段50aによって算出された2枚のSAR画像の位相差を指標として、予め設定された閾値Pthに基づいて移動目標を検出する。同様に、移動目標検出処理手段120bは、位相差算出手段50bによって算出された2枚のSAR画像の位相差を指標として、予め設定された閾値Pthに基づいて移動目標を検出する。
【0081】
このときの判断方法は、先の実施の形態1における移動目標検出手段80によるものと同等である。すなわち、移動目標検出処理手段120a、120bは、P12>Pthであった場合、移動目標であると判断する。一方、移動目標検出処理手段120a、120bは、P12≦Pthであった場合、移動目標ではないと判断する。なお、閾値Pthの値は、低めに設定することで、より低速の移動目標を検出することができる。
【0082】
以上のように、実施の形態3によれば、それぞれの観測地点において、位相差分布を算出した直後に、予め移動目標検出処理を粗く実施し、静止目標を早い段階で排除することができる。これにより、移動目標を事前に絞り込むことができ、移動目標の検出処理の高速化を図ることができる。
【0083】
なお、上述の実施の形態3では、2枚のSAR画像間の位相差を指標として、予め設定された閾値Pthに基づいて、移動目標を検出する場合について説明したが、必ずしもこのような構成に限定されるものではない。例えば、非特許文献1に記載されているようなSCRを指標とし目標検出など、移動目標を粗く推定できれば、どのような手法を用いることも可能である。
【0084】
実施の形態4.
先の実施の形態3では、複数回のSAR−GMTI処理の結果を統合する前に、粗く移動目標検出を実施し、移動候補を絞った処理を行う場合について説明した。これに対して、本実施の形態4では、本来、固定目標であるものを移動目標として誤検出してしまう場合の対策について説明する。
【0085】
ビルなどの建造物の場合、レーダ装置の観測誤差により生じる僅かな位相差により、本来は固定目標であっても、移動目標として検出してしまう可能性があった。そこで、本実施の形態4では、複数回のSAR−GMTI処理において、常に同一画素に含まれる目標については、僅かな位相差があった場合にも、静止目標として判断し、誤検出の低減を図っている。
【0086】
図8は、本発明の実施の形態4に係る移動目標検出装置10の内部構成図である。先の実施の形態3における図7の移動目標検出装置10と比較すると、本実施の形態4における図8の移動目標検出装置10は、目標位置判定手段130をさらに備えている点が異なっている。なお、他の構成は、先の実施の形態3と同様であり、説明を省略する。
【0087】
ここで、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内の目標位置判定手段130は、概略、以下のように機能する。
【0088】
目標位置判定手段130は、移動目標検出手段80によって検出された移動目標の位置を判定し、検出した移動目標が受信信号の高い静止目標であるか否かを判定する。
【0089】
次に、本実施の形態4で新たに追加された目標位置判定手段130を中心に、本実施の形態4における移動目標検出装置の動作を、以下に説明する。
【0090】
先の実施の形態1〜3における移動目標検出手段80による、観測1及び観測2においてのSAR−GMTI処理用データである2枚のSAR画像間の位相差分布の結合確率に基づく検出結果には、移動目標の他にも、構造物などのSCRの非常に高いデータが含まれる可能性がある。
【0091】
従って、低速目標を検出しようとした場合、建造物などの高SCR目標は、観測機器の熱雑音などの僅かな観測誤差の影響で、移動目標検出処理手段120a、120b及び移動目標検出手段80においても、移動目標として検出されてしまう。
【0092】
そこで、目標位置判定手段130は、移動目標検出手段80の結果に基づいて、移動目標と検出された目標の2枚のSAR−GMTI処理結果の画素の位置を評価する。すなわち、目標位置判定手段130は、目標の位置がレンジ方向に変化しているか否かを判断することで、建造物等の静止目標を識別する。
【0093】
このとき、目標位置判定手段130は、移動目標であれば、目標の位置がレンジ方向へ変化するので、移動目標であると判定する。一方、目標位置判定手段130は、構造物などの完全に停止している目標であれば、目標の位置が変化することはないので、静止目標であると判定する。
【0094】
以上のように、実施の形態4によれば、移動目標と検出された目標の2枚のSAR−GMTI処理結果の画素の位置を評価し、位置が変化しているか否かを判断している。これにより、本来静止目標である目標を移動目標であると誤検出することを防止でき、先の実施の形態1〜3よりも、より確実に地上面を低速度で移動する移動目標を検出することができる。
【0095】
実施の形態5.
先の実施の形態1〜4では、レンジ方向のみに移動する移動目標の検出を行う移動目標検出装置について説明した。これに対して、本発明の実施の形態5では、アジマス方向への速度を有する移動目標についても検出を行う移動目標検出装置について説明する。
【0096】
ここで、本発明における実施の形態5では、取得時間の異なる2枚のSAR画像から地表面に生じた変化を抽出する技術の1つであるCCD(Coherent Change Detection)を組み合わせることにより、移動目標検出及び変化抽出処理を同時に実施する。これにより、アジマス方向への速度を有する移動目標の検出についても実施することができる。
【0097】
なお、本発明における実施の形態5では、変化抽出の方法としてCCDを例に挙げて説明するが、これに限定されない。例えば、2枚のSAR画像から変化を抽出する手法であれば、輝度変化などによる変化抽出方法を用いてもよい。
【0098】
図9は、本発明の実施の形態5に係る移動目標検出装置10の内部構成図である。先の実施の形態4における図8の移動目標検出装置10と比較すると、本実施の形態5における図9の移動目標検出装置10は、コヒーレンス算出手段100c、画像データ選択部140、変化抽出処理手段150、アジマスずれ補正手段160及び変化目標検出処理手段170をさらに備えている。なお、他の構成は、先の実施の形態4と同様であり、説明を省略する。
【0099】
ここで、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内の画像データ選択部140、変化抽出処理手段150、アジマスずれ補正手段160及び変化目標検出処理手段170は、概略、以下のように機能する。なお、新たに追加されているコヒーレンス算出手段100cの構成・機能は、先の実施の形態1〜4のコヒーレンス算出手段100a、100bと同様であるため、説明を省略する。
【0100】
画像データ選択部140は、観測1及び観測2において取得された2枚のSAR−GMTI処理用データを、それぞれの観測の中から1枚選択する。なお、本発明における実施の形態5では、図13において受信1に相当する受信アンテナで観測されたデータを例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。観測1及び観測2のデータのどちらか一方を選択するのであれば、どの組み合わせを用いてもよい。
【0101】
変化抽出処理手段150は、コヒーレンス算出手段100cにおいて算出されたコヒーレンスマップに基づいて、変化領域を抽出する。
【0102】
移動目標がレンジ方向に移動した場合、画像再生処理の結果、結像する位置がアジマス方向にずれた位置に結像する。アジマスずれ補正手段160は、このアジマス方向へのずれを補正する。
【0103】
変化目標検出処理手段170は、移動目標として検出されたデータと、CCDにより検出された地形変化とから、2回の観測(観測1及び観測2)における変化目標を検出する。
【0104】
次に、本実施の形態5で新たに追加された変化抽出処理手段150、アジマスずれ補正手段160及び変化目標検出処理手段170を中心に、本実施の形態5における移動目標検出装置の動作を、以下に説明する。
【0105】
まず、変化抽出処理手段150は、コヒーレンス算出手段100cにおいて算出された2枚のSAR画像間のコヒーレンスマップに対して、予め設定された閾値を用いて閾値処理することにより、変化領域を抽出する。
【0106】
ここで、閾値の設定方法は、誤警報確率に基づいて設定することができる(例えば、Mark Preiss、Doug Gray、andNick Stacy著、「A Change Detection Technique for Repeat Pass Interferometric SAR」、IEEE Geoscience and Remote Sensing Symposium Proceedings、2003. IGARSS、03.2003、2、21−25参照)。
【0107】
なお、本発明の実施の形態5では、閾値の設定方法を誤警報確率に基づいて設定する方法を例に挙げて説明するが、これに限定されない。使用者が任意に設定した閾値を用いてもよい。また、本処理では、コヒーレンスの低い領域を変化領域として抽出するものであれば、どのような方法を用いても構わない。
【0108】
ここで、レンジ方向に速度を有する移動目標を、一般的な合成開口処理により画像化した結果は、図10のようになる。この図10に示すように、結像位置が本来の位置から、レンジ速度に応じてアジマス方向にずれることが知られている。
【0109】
そこで、アジマスずれ補正手段160は、この結像位置のずれを、推定された移動目標の位相差から算出されるレンジ方向の推定速度と、変化抽出において変化のあった領域とを用いて補正する。
【0110】
レンジ方向に速度を有する移動目標のアジマス方向への結像位置のずれは、次式(10)のように表される(例えば、大内 和夫著、「リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎」、東京電気大学出版局、2004年参照)。
X=−(R0/Vsat)V (10)
【0111】
上式(10)のR0は、アジマス時刻t=0[sec]のときの移動目標とアンテナとの距離である。また、上式(10)のVsatは、レーダプラットフォームの移動速度である。なお、アジマス時刻は、合成開口時間をTaとした場合、
−Ta/2≦t≦Ta/2
で与えられる。
【0112】
このように、アジマスずれ補正手段160は、上式(10)を用いて、検出された移動目標の検出位置を補正することができる。
【0113】
ここで、図11に示すように、検出された移動目標は、変化抽出処理手段150及びアジマスずれ補正手段160において得られた移動目標からの受信信号と、移動目標が移動したことによる地表面の変化との両端が同じ位置に観測されているならば、アジマス方向への速度を持っていないことがわかる。
【0114】
一方、移動目標がアジマス方向に速度を持っていた場合には、移動目標の検出結果と、CCDによる変化抽出結果の位置にずれが生じることがわかる。
【0115】
変化目標検出処理手段170は、このような特性を利用して、移動目標のアジマス方向の速度を推定する。移動目標のアジマス方向の速度は、アジマス方向のずれを補正した移動目標の位置と、変化抽出処理の結果の終端との距離差を観測1及び観測2の間の観測時間で割ることで推定する。従って、移動目標のアジマス速度や、観測1及び観測2の間の目標の軌跡を追跡することができる。
【0116】
以上のように、実施の形態5によれば、移動目標検出及び変化抽出処理を行うことにより、アジマス方向への速度を有する移動目標の検出についても行うことができる。この結果、移動目標のアジマス速度や観測1及び観測2の間の目標の軌跡を追跡することができる。
【符号の説明】
【0117】
10 移動目標検出装置、20 観測時期設定手段、30 送受信アンテナ、40a、40b データ格納部、50a、50b 位相差算出手段、60 移動目標位置算出手段、70 位相差分布算出手段、80 移動目標検出手段、90 データ出力部、100a、100b、100c コヒーレンス算出手段、110 閾値算出処理手段、120a、120b 移動目標検出処理手段、130 目標位置判定手段、140 画像データ選択部、150 変化抽出処理手段、160 アジマスずれ補正手段、170 変化目標検出処理手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速で移動する移動目標を高精度に検出する移動目標検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダは、指向性を有するアンテナから電磁波を放射し、目標からの散乱波を観測する。このとき、目標からの散乱波と同時に、地表面からの不要反射(以下、「クラッタ」と称する)が観測される。このため、反射の小さな目標を検出することは、容易でない。そこで、例えば、反射の小さい移動目標を観測する場合には、ドップラー効果を利用して、地表面からのクラッタを抑圧し、移動目標を検出する方法が用いられている。
【0003】
ところが、レーダプラットフォームが移動する場合には、アンテナビームの角度方向の拡がりに応じて、クラッタのドップラー周波数も拡がってしまう。このため、低速で移動する移動目標の信号と、クラッタの信号との分別が困難な場合が発生する。
【0004】
そこで、アンテナ開口をアンテナの移動方向に分割して、連続する2パルス間において等価的にアンテナが静止している状況を作り出し、クラッタを抑圧する技術(Ground Moving Target Indicator:以下、「GMTI」と称する)が考案されている。
【0005】
図12は、従来の移動目標検出装置を用いて移動目標を観測するときの一例を示す観測ジオメトリである。図12における移動目標検出装置は、レーダプラットフォーム1に搭載され、レンジ方向に移動する移動目標2を観測する。移動目標検出装置には、送受信アンテナ3が備えられている。
【0006】
なお、図12において、送受信アンテナ3のアンテナ開口面は、レーダプラットフォーム1の進行方向に平行となっている。また、送受信アンテナ3のビームは、アンテナ開口面に対して垂直となっている。さらに、送受信アンテナ3のビームは、図12に示すような、フットプリント4となっている場合を例に挙げて説明する。また、以下においては、2次元平面を仮定して動作を説明するが、これらの仮定を満足しない場合においても、容易に拡張して考えることが可能である。
【0007】
図13は、送受信アンテナ3の開口を分割した様子を示す図である。図13において、第1の送信パルスは、電気的位相中心位置5aにおいて送信される。また、第1の送信パルスは、5bにおいて受信される。このため、第1の送信パルスの送受信の電気的位相中心位置は、5aと5bの中間点α(図13の破線)とみなすことができる。同様に、第2の送信パルスは、電気的位相中心位置6aにおいて送信される。また、第2の送信パルスは、6bにおいて受信される。このため、第2の送信パルスの送受信の電気的位相中心位置も、6aと6bの中間点α(図13の破線)とみなすことができる。
【0008】
従って、第1及び第2のアンテナ開口で受信されるデータの電気的位相中心位置は、中間点αで等価的に同一とみなすことができる。すなわち、第1及び第2の送信パルスによる観測は、空間的に静止した位置(中間点α)から行われるとみなすことができる。
【0009】
このような観測を一定回数繰り返すことによって取得された2つの受信信号のそれぞれを、第1及び第2のデータ格納部にそれぞれ蓄積する。また、蓄積されたそれぞれの受信信号を画像再生処理部へ送り、2枚分のレーダ画像を再生する。なお、レーダ画像の再生原理及び手順は、合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:以下「SAR」と称する)の画像再生処理として、一般的に広く知られており、説明は省略する。
【0010】
上述で説明したように、2枚のレーダ画像は、空間的には同一の位置から観測されたデータとみなすことができるが、観測した時刻が1パルス間隔分ずれていることが特徴である。これにより、地表面の静止目標は、2つの画像再生処理の結果に基づいて同一の信号として現れる。一方、移動目標の反射波は、第1及び第2のパルス間に移動した分の位相回転が生じる。
【0011】
この特性を利用して、複素データ差分処理や複素相関処理による2枚のレーダ画像の差分又は複素相関を算出する。これにより、移動目標からの信号と、静止目標からのクラッタとの信号に差異が生じ、移動目標を検出することができる。
【0012】
例えば、第1及び第2のアンテナで取得したクラッタの信号のデータが完全に一致している場合、複素データの差分は、原点に分布する。同様に、第1及び第2のアンテナで取得したクラッタの信号のデータが完全に一致している場合、複素相関を算出した結果は、実軸上に分布する。一方、移動目標の信号は、複素データ差分処理及び複素関数処理に関わらず、複素平面上に分布する。
【0013】
そこで、従来技術の1つとして、例えば、以下のものが挙げられる。
2枚のレーダ画像間の位相差、及び移動目標とクラッタとの信号の強度比(Signal to Clutter Ratio:以下、「SCR」と称する)を2つの変数として、次式(1)において与えられた誤警報確率Pfaの下で、検出確率を最大化する閾値Pthを算出する。そして、確率密度P(η、ψ)が閾値Pth以下のものを移動目標であるとして検出する移動目標検出装置が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0014】
【数1】
【0015】
なお、上式(1)のP(η、ψ)は、クラッタの複素平面上での確率密度分布を与える式である。また、上式(1)のηは、受信信号の振幅である。さらに、上式(1)のψは、位相角である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】C.H.Gierull著、「Statistical Analysis of Multilook SAR Interferograms for CFAR Detection of Ground Moving Targets」、IEEE TRANSACTIONS ON GEOSCIENCE AND REMOTE SENSING、2004年4月、VOL.42、NO.4、p.691−701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
従来技術では、2枚のレーダ画像が空間的には同一の位置から観測されたデータではあるが、観測した時刻が1パルス間隔分ずれているという特性を利用して、移動目標の検出を行っていた。しかしながら、受信信号の振幅や位相は、風の影響による樹木などの揺らぎ、あるいは受信機の熱雑音によって変動する。このため、空間的に同一の位置からクラッタを観測した場合においても、完全に同一な信号を受信することが困難な場合があった。
【0018】
例えば、第1のアンテナにより受信された信号の画像再生結果と、第2のアンテナにより受信された信号の画像再生結果との差分を算出した場合、クラッタ信号が完全に一致していれば、原点に分布する。しかし、上述で説明したような変動要因により、完全に同一な信号を受信できない場合には、クラッタ信号おいても複素平面上に分布する。
【0019】
図14は、静止目標であるクラッタ信号が、移動目標と同様に複素平面上に分布した場合を示す分布図である。図14に示すように、低速度で移動する目標の場合には、空間的に同一の位置から観測された2枚のレーダ画像間の位相差が小さい。このため、低速度で移動する移動目標の信号(図14中のA)がクラッタ信号(図14中のB)に埋もれてしまう。この結果、従来技術では、低速度で移動する移動目標を検出することが困難であるといった問題点があった。
【0020】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、地上面を低速度で移動する移動目標をより確実に検出することができる移動目標検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る移動目標検出装置は、プラットフォームの移動方向に分割可能な開口を持つアンテナに対して、所定の観測時間差を有する第1の観測地点及び第2の観測地点における観測時期を設定する観測時期設定手段と、第1の観測地点及び第2の観測地点のそれぞれに対応してアンテナから取得された2枚のSAR画像を格納するデータ格納部と、第1の観測地点及び第2の観測地点のそれぞれに対応して、データ格納部に格納された2枚のSAR画像間の位相差をそれぞれ算出する位相差算出手段と、位相差算出手段によって算出された第1の観測地点の位相差から、移動目標の第1の位置および移動速度を特定するとともに、移動目標が移動速度で第2の観測地点まで移動した際の第2の位置を推定する移動目標位置推定手段と、第1の位置における位相差と、第2の位置における位相差とが、ともに所定閾値よりも大きい場合に、移動目標を真の移動目標と判断する移動目標検出手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る移動目標検出装置よれば、所定の観測時間差を有する少なくとも2箇所以上の地点での観測結果に基づいて、移動目標であるか否かを判断することにより、地上面を低速度で移動する移動目標をより確実に検出することができる移動目標検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置を用いて、地表面を移動する移動目標を観測する場合の説明図である。
【図2】図1の移動目標検出装置の内部構成図である。
【図3】移動目標がアジマス方向へのずれが生じない場合を画素で示す図である。
【図4】移動目標がアジマス方向へのずれが生じた場合を画素で示す図である。
【図5】位相差分布算出手段によって算出された結合位相差分布を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る移動目標検出装置の内部構成図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る移動目標検出装置の内部構成図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る移動目標検出装置の内部構成図である。
【図9】本発明の実施の形態5に係る移動目標検出装置の内部構成図である。
【図10】レンジ方向に速度を有する移動目標を一般的な合成開口処理により画像化した結果を示す図である。
【図11】移動目標がアジマス方向へ速度を持っている場合と、移動目標がアジマス方向へ速度を持っていない場合とを示す図である。
【図12】従来の移動目標検出装置を用いて移動目標を観測するときの一例を示す観測ジオメトリである。
【図13】送受信アンテナの開口を分割した様子を示す図である。
【図14】静止目標であるクラッタ信号が、移動目標と同様に複素平面上に分布した場合を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置を用いて、地表面を移動する移動目標を観測する場合の説明図である。従来技術では、1つの観測地点において一定回数繰り返し行った観測結果に基づいて、移動目標の検出を行っていた。これに対して、本実施の形態1では、2箇所以上の複数の観測地点においてそれぞれ一定回数繰り返し行った観測結果に基づいて、移動目標の検出を行うことを技術的特徴としている。
【0026】
なお、本実施の形態1においては、説明を容易にするため、図1に示すように、2箇所の観測地点である観測1と観測2とで実施したSAR−GMTI処理による検出結果を用いて、移動目標検出を行う場合について説明する。しかしながら、本実施の形態1における移動目標検出は、このような図1の構成に限定されるものではない。3箇所以上の観測地点により得られる複数個のSAR−GMTI処理による検出結果を用いて移動目標検出を行ってもよい。
【0027】
移動目標検出装置10は、図1に示すように、観測1及び観測2の2箇所において、地表面を移動する移動目標を観測する。なお、本実施の形態1における移動目標は、レンジ方向にのみ一定の速度(低速)で移動しているものとする。また、地表面には、植生も配置されているものとする。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態1における移動目標検出装置10の内部構成図である。図2における移動目標検出装置10は、観測時期設定手段20、送受信アンテナ30、データ格納部40a、40b、位相差算出手段50a、50b、移動目標位置推定手段60、位相差分布算出手段70、移動目標検出手段80及び出力データ格納部90を備えている。なお、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内の各手段・各部は、概略、以下のように機能する。
【0029】
観測時期設定手段20は、観測1及び観測2の2箇所におけるレーダ送受信時期の指令信号を、送受信アンテナ30に対して出力する。なお、観測1と観測2のレーダ送受信時期(観測時間差)は、移動目標の移動速度に応じて設定する。
【0030】
送受信アンテナ30は、観測時期設定手段20からの指令信号に基づいて、観測1及び観測2の2箇所におけるレーダの送受信を実施する。なお、観測1及び観測2のそれぞれにおいて一定回数繰り返し観測を行うための、送受信アンテナ30の機能・動作は、先の図13で説明した従来技術と同様であり、説明を省略する。
【0031】
データ格納部40aには、観測1において送受信アンテナ30により取得された2枚のSAR画像が格納される。また、データ格納部40bには、観測2において送受信アンテナ30により取得された2枚のSAR画像が格納される。
【0032】
位相差算出手段50aは、データ格納部40aに格納された2枚のSAR画像間の位相差を算出する。また、位相差算出手段50bは、データ格納部40bに格納された2枚のSAR画像間の位相差を算出する。
【0033】
移動目標位置推定手段60は、位相差算出手段50aによって算出された2枚のSAR画像間の位相差に基づいて、移動目標の速度を算出する。さらに、移動目標位置推定手段60は、算出した移動目標の速度と、観測1におけるSAR−GMTI処理の結果とに基づいて、観測2における移動目標の位置を推定する。
【0034】
位相差分布算出手段70は、位相差算出手段50a、50bにおいて算出されたそれぞれの位相差に基づいて、結合位相差分布を算出する。
【0035】
移動目標検出手段80は、位相差分布算出手段70によって算出された結合位相差分布と、所定の閾値との比較に基づいて、移動目標を検出し、検出結果を出力データ格納部90に格納させる。
【0036】
次に、図2に示したような本実施の形態1における移動目標検出装置10の一連動作について、より具体的に説明する。なお、レーダ画像の再生原理及び手順は、SARの画像再生処理として広く知られているため、説明を省略する。
【0037】
位相差算出手段50a、50bは、データ格納部40a、40bのそれぞれに格納されている2枚のSAR画像の位相差φを、次式(2)に基づいて算出する。
φ(m、n)=∠(Z1(m、n)Z2*(m、n)) (2)
【0038】
上式(1)のZ1(m、n)は、1枚目のSAR画像の位置(m、n)が持つデータ値である。また、上式(1)のZ2(m、n)は、2枚目のSAR画像の位置(m、n)が持つデータ値である。また、上式(1)の∠は、複素数の位相角をとる演算子である。さらに、上式(1)の*は、複素共役である。
【0039】
なお、予め2回のSAR−GMTI処理用データの位相差を使用者が算出し、データ格納部40a、40bに格納することで、本処理は不要となる。
【0040】
次に、移動目標位置推定手段60は、位相差算出手段50aによって算出された2枚のSAR画像間の位相差から移動目標のレンジ方向の速度を算出する。なお、移動目標の移動速度と2枚のSAR画像間の位相差とには、次式(3)の関係がある。
ψ=4πVTp/λ (3)
【0041】
上式(3)のVは、移動目標のスラントレンジ方向の速度である。また、上式(3)のTpは、開口分割処理によりアロングトラック方向に分割された2枚の送受信アンテナ30の1回目及び2回目の観測間隔である。さらに、上式(3)のλは、波長である。
【0042】
ここで、上式(3)の移動目標のスラントレンジ方向の速度Vは、移動目標のグランドレンジ方向の速度Vgndと、次式(4)の関係がある。
Vgnd=V/sinθ (4)
ここで、上式(4)のθは、観測オフナディア角である。このため、上式(3)において、スラントレンジ方向の速度Vの代わりに、上式(4)の速度Vgndを用いてもよい。
【0043】
さらに、移動目標位置推定手段60は、スラントレンジ方向の移動目標の速度Vと、観測1におけるSAR−GMTI処理の観測データ及び観測2におけるSAR−GMTI処理の観測データ取得の観測時間差とから、観測2におけるSAR−GMTI処理によって得られる移動目標の観測位置の推定値Yを、次式(5)に基づいて推定する。
Y=VΔt (5)
【0044】
上式(5)のΔtは、観測1におけるSAR−GMTI処理用データの観測時刻と、観測2におけるSAR−GMTI処理用データの観測時刻との観測間隔(観測時間差)である。
【0045】
ここで、観測2で得られたSAR−GMTI処理の結果における移動目標の検出位置を図3、4に示す破線で囲まれた領域内で探索する。なお、破線の大きさは、観測1における移動目標の位相差から算出される移動速度と、予め決められている観測1及び観測2における観測時間差により決定される。
【0046】
移動目標は、スラントレンジ方向に一定の速度(低速)で移動している場合、観測1におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の位置(画素)と、観測2におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の位置(画素)との間では、アジマス方向へのずれは発生しない(図3における破線で囲まれた領域参照)。従って、観測2における移動目標の位置は、上式(5)にスラントレンジ方向の移動目標の速度Vを適用して算出される位置(図3(b)の斜線部分に相当)に現れることが予想される。
【0047】
なお、観測1及び観測2の間に、移動目標がスラントレンジ方向に加速度を持っており、移動速度が変化した場合、観測1におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の位置(画素)と、観測2におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の位置(画素)との間では、アジマス方向へのずれが発生する(図4における破線で囲まれた領域参照)。この際には、レンジ方向とアジマス方向とを加えた範囲(図4の破線部)を探索することで、観測1及び観測2における移動目標の位置を特定できる。
【0048】
このように、観測1におけるSAR−GMTI処理結果に基づいて観測2における移動目標の範囲を予測し、予測した範囲内において、観測1及び観測2におけるSAR−GMTI処理結果による移動目標の信号同士を関連付けることが可能となる。信号同士を関連付ける方法としては、例えば、探索範囲内に含まれる信号の相関を算出し、相関値が最大となる点を観測1及び観測2におけるそれぞれの移動目標の位置として特定する方法などが挙げられる。
【0049】
次に、位相差分布算出手段70は、移動目標位置推定手段60によって特定された観測1における移動目標の画素の位相差φ1と、観測2における移動目標の画素の位相差φ2とを用いて、結合位相差分布P12を算出する。より具体的には、この結合位相差分布P12は、図5に示すように、位相差φ1をY軸、位相差φ2をX軸としてプロットすることで得られる。
【0050】
このとき、植生などによってランダムな位相差が生じた場合には、観測1及び観測2におけるSAR−GMTI処理データの位相差が無相関となる。従って、結合位相差分布P12には、図5に示すように、原点を中心とするクラッタ領域が分布する。
【0051】
一方、移動目標が一定の速度で移動する場合には、観測1及び観測2における位相差が同じ位相差として観測される。従って、結合位相差分布P12としては、図5における「移動目標」で示した位置、すなわち、観測1における位相差φ1と観測2における位相差φ2がほぼ同じ値となる位置に分布する。
【0052】
次に、移動目標検出手段80は、結合位相差分布P12に対して予め設定された閾値Pthによる閾値処理を実施する。ここで、閾値Pthは、検出した移動目標の速度から算出した位相差の√2倍の値として設定することができ、図5に示した結合位相差分布P12において、この閾値Pthは、半径Pthの円として表すことができる。
【0053】
そして、移動目標検出手段80は、観測1における位相差φ1と観測2における位相差φ2がほぼ同じ値となり、かつP12>Pthであった場合(すなわち、位相差φ1と位相差φ2が、ともに検出した移動目標の速度から算出した位相差よりも大きい場合に相当)、移動目標であると判断する。一方、移動目標検出手段80は、P12≦Pthであった場合、移動目標ではないと判断する。そして、移動目標検出手段80は、検出結果を出力データ格納部90に出力する。なお、図示されていないが、表示部は、出力データ格納部90からの出力データに基づいて、検出結果を表示する。
【0054】
以上のように、実施の形態1によれば、所定の観測時間差を有する少なくとも2箇所以上の地点での観測結果に基づいて、移動目標であるか否かを判断している。これにより、移動目標の信号とクラッタ信号とを明確に識別でき、地上面を低速度で移動する移動目標を、より確実に検出することができる。
【0055】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、移動目標を検出するための閾値として、検出した移動目標の位相差に基づく値を設定する場合について説明した。これに対して、本発明の実施の形態2では、クラッタの位相差分布の理論値を用いて予め設定した誤警報確率を満たす閾値を算出し、移動目標を検出するための閾値を設定する場合について説明する。
【0056】
図6は、本発明の実施の形態2に係る移動目標検出装置10の内部構成図である。先の実施の形態1における図2の移動目標検出装置10と比較すると、本実施の形態2における図6の移動目標検出装置10は、コヒーレンス算出手段100a、100b及び閾値算出処理手段110をさらに備えている点が異なっている。なお、他の構成は、先の実施の形態1と同様であり、説明を省略する。
【0057】
ここで、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内のコヒーレンス算出手段100a、100b及び閾値算出処理手段110は、概略、以下のように機能する。
【0058】
コヒーレンス算出手段100a、100bは、データ格納部40a、40bのそれぞれに格納されている2枚のSAR画像間のコヒーレンスを算出する。
【0059】
閾値算出処理手段110は、コヒーレンス算出手段100a、100bによって算出されたそれぞれのコヒーレンスに基づいて、位相差分布の結合確率密度を算出する。また、閾値算出処理手段110は、予め設定した誤警報確率を満足する閾値を、結合確率密度に基づいて算出する。
【0060】
次に、本実施の形態2で新たに追加されたコヒーレンス算出手段100a、100b及び閾値算出処理手段110を中心に、本実施の形態2における移動目標検出装置の動作を、以下に説明する。
【0061】
まず、コヒーレンス算出手段100a、100bは、SAR−GMTI処理を実施のするために、データ格納部40a、40bのそれぞれに格納されている2枚のSAR画像間のコヒーレンスを、次式(6)に基づいて算出する。
【0062】
【数2】
【0063】
上式(6)のNは、ウィンドの大きさであり、コヒーレンスを推定するために用いる画素数に相当する。また、上式(6)のδは、振幅である。さらに、上式(6)のθは、偏角である。
【0064】
なお、コヒーレンスは、2枚のSAR画像が同一軌道で取得されるという条件下において、地表面に変化がない場合には、1に近い値となる。一方、その条件下において、地表面に変化がある場合には、1よりも小さい値となる。
【0065】
次に、閾値算出処理手段110は、コヒーレンス算出手段100a、100bによって算出された2枚のSAR画像処理データ間のコヒーレンスから算出される位相差分布から、クラッタの結合確率密度を算出する。そして、予め設定された誤警報確率を満足するような移動目標を検出するための閾値を算出する。
【0066】
ここで、一様な領域においての2枚のSAR画像間の位相差は、複素相関(コヒーレンス)を用いて、次式(7)のように表される(例えば、J.S.Lee、K.W.Hoppel、S.A.Mango、andA.R.Miller著、「Intensity and Phase Statistics of Multilook Polarimetric and Interferometric SAR Imagery」、IEEE TRANSACTIONS ON GEOSCIENCE AND REMOTE SENSING、1994年1月、VOL.32、NO.5、p.1017−1028参照)。
【0067】
【数3】
【0068】
上式(7)のδは、2枚のSAR画像のコヒーレンスである。また、上式(7)のKは、マルチルック数である。また、上式(7)のβは、δcos[φ−θ]である。また、上式(7)のΓは、ガンマ関数である。さらに、上式(7)のFは、ガウスの超幾何関数である。
【0069】
観測1及び観測2におけるSAR−GMTI処理用データにおいて、観測される植生などのようにランダムな位相差が分布する移動目標の場合、観測1及び観測2におけるSAR−GMTI処理間の位相差の結合確率密度分布は、観測1における位相差分布と、観測2における位相差分布とを、完全に独立としてみなすことができる。従って、結合確率密度関数は、次式(8)のように、各SAR−GMTI処理間の位相差分布の積で表すことができる。
P12[φ1、φ2]=P1[φ1]P2[φ2] (8)
【0070】
上式(8)のφ1は、1回目(観測1)のSAR−GMTI処理に用いる2枚のSAR画像間の位相差である。また、上式(8)のφ2は、2回目(観測2)のSAR−GMTI処理に用いる2枚のSAR画像間の位相差である。
【0071】
ここで、上式(7)と、予め設定された誤警報確率Pfaとに基づいて、検出確率が最大となる閾値Pthを、次式(9)から算出する。
【0072】
【数4】
【0073】
そして、移動目標検出手段80は、閾値算出処理手段110によって算出されたPthに基づいて、閾値処理を実施する。移動目標検出手段80は、P12[φ1、φ2]>Pthであった場合、移動目標であると判断する。一方、移動目標検出手段80は、P12[φ1、φ2]≦Pthであった場合、移動目標ではないと判断する。
【0074】
以上のように、実施の形態2によれば、クラッタの位相差分布の理論値を用いて、予め設定した誤警報確率を満たす閾値を算出し、移動目標の検出を行っている。これにより、先の実施の形態1よりも、より確実に地上面を低速度で移動する移動目標を検出することができる。
【0075】
実施の形態3.
先の実施の形態2では、予め設定した誤警報確率と各SAR−GMTI処理用データである2枚のSAR画像間のコヒーレンスから閾値を理論的に算出し、移動目標を検出する場合について説明した。これに対して、本実施の形態3では、位相差分布を算出した直後に、予め移動目標検出処理を粗く実施し、静止目標を早い段階で排除することで、処理も高速化を図る場合について説明する。
【0076】
図7は、本発明の実施の形態3に係る移動目標検出装置10の内部構成図である。先の実施の形態2における図6の移動目標検出装置10と比較すると、本実施の形態3における図7の移動目標検出装置10は、移動目標検出処理手段120a、120bをさらに備えている点が異なっている。なお、他の構成は、先の実施の形態2と同様であり、説明を省略する。
【0077】
ここで、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内の移動目標検出処理手段120a、120bは、概略、以下のように機能する。
【0078】
移動目標検出処理手段120a、120bは、それぞれ位相差算出手段50a、50bによって算出された2枚のSAR画像間の位相差を指標として、閾値処理を実施することにより、移動目標を検出する。
【0079】
次に、本実施の形態3で新たに追加された移動目標検出処理手段120a、120bを中心に、本実施の形態3における移動目標検出装置の動作を、以下に説明する。
【0080】
移動目標検出処理手段120aは、位相差算出手段50aによって算出された2枚のSAR画像の位相差を指標として、予め設定された閾値Pthに基づいて移動目標を検出する。同様に、移動目標検出処理手段120bは、位相差算出手段50bによって算出された2枚のSAR画像の位相差を指標として、予め設定された閾値Pthに基づいて移動目標を検出する。
【0081】
このときの判断方法は、先の実施の形態1における移動目標検出手段80によるものと同等である。すなわち、移動目標検出処理手段120a、120bは、P12>Pthであった場合、移動目標であると判断する。一方、移動目標検出処理手段120a、120bは、P12≦Pthであった場合、移動目標ではないと判断する。なお、閾値Pthの値は、低めに設定することで、より低速の移動目標を検出することができる。
【0082】
以上のように、実施の形態3によれば、それぞれの観測地点において、位相差分布を算出した直後に、予め移動目標検出処理を粗く実施し、静止目標を早い段階で排除することができる。これにより、移動目標を事前に絞り込むことができ、移動目標の検出処理の高速化を図ることができる。
【0083】
なお、上述の実施の形態3では、2枚のSAR画像間の位相差を指標として、予め設定された閾値Pthに基づいて、移動目標を検出する場合について説明したが、必ずしもこのような構成に限定されるものではない。例えば、非特許文献1に記載されているようなSCRを指標とし目標検出など、移動目標を粗く推定できれば、どのような手法を用いることも可能である。
【0084】
実施の形態4.
先の実施の形態3では、複数回のSAR−GMTI処理の結果を統合する前に、粗く移動目標検出を実施し、移動候補を絞った処理を行う場合について説明した。これに対して、本実施の形態4では、本来、固定目標であるものを移動目標として誤検出してしまう場合の対策について説明する。
【0085】
ビルなどの建造物の場合、レーダ装置の観測誤差により生じる僅かな位相差により、本来は固定目標であっても、移動目標として検出してしまう可能性があった。そこで、本実施の形態4では、複数回のSAR−GMTI処理において、常に同一画素に含まれる目標については、僅かな位相差があった場合にも、静止目標として判断し、誤検出の低減を図っている。
【0086】
図8は、本発明の実施の形態4に係る移動目標検出装置10の内部構成図である。先の実施の形態3における図7の移動目標検出装置10と比較すると、本実施の形態4における図8の移動目標検出装置10は、目標位置判定手段130をさらに備えている点が異なっている。なお、他の構成は、先の実施の形態3と同様であり、説明を省略する。
【0087】
ここで、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内の目標位置判定手段130は、概略、以下のように機能する。
【0088】
目標位置判定手段130は、移動目標検出手段80によって検出された移動目標の位置を判定し、検出した移動目標が受信信号の高い静止目標であるか否かを判定する。
【0089】
次に、本実施の形態4で新たに追加された目標位置判定手段130を中心に、本実施の形態4における移動目標検出装置の動作を、以下に説明する。
【0090】
先の実施の形態1〜3における移動目標検出手段80による、観測1及び観測2においてのSAR−GMTI処理用データである2枚のSAR画像間の位相差分布の結合確率に基づく検出結果には、移動目標の他にも、構造物などのSCRの非常に高いデータが含まれる可能性がある。
【0091】
従って、低速目標を検出しようとした場合、建造物などの高SCR目標は、観測機器の熱雑音などの僅かな観測誤差の影響で、移動目標検出処理手段120a、120b及び移動目標検出手段80においても、移動目標として検出されてしまう。
【0092】
そこで、目標位置判定手段130は、移動目標検出手段80の結果に基づいて、移動目標と検出された目標の2枚のSAR−GMTI処理結果の画素の位置を評価する。すなわち、目標位置判定手段130は、目標の位置がレンジ方向に変化しているか否かを判断することで、建造物等の静止目標を識別する。
【0093】
このとき、目標位置判定手段130は、移動目標であれば、目標の位置がレンジ方向へ変化するので、移動目標であると判定する。一方、目標位置判定手段130は、構造物などの完全に停止している目標であれば、目標の位置が変化することはないので、静止目標であると判定する。
【0094】
以上のように、実施の形態4によれば、移動目標と検出された目標の2枚のSAR−GMTI処理結果の画素の位置を評価し、位置が変化しているか否かを判断している。これにより、本来静止目標である目標を移動目標であると誤検出することを防止でき、先の実施の形態1〜3よりも、より確実に地上面を低速度で移動する移動目標を検出することができる。
【0095】
実施の形態5.
先の実施の形態1〜4では、レンジ方向のみに移動する移動目標の検出を行う移動目標検出装置について説明した。これに対して、本発明の実施の形態5では、アジマス方向への速度を有する移動目標についても検出を行う移動目標検出装置について説明する。
【0096】
ここで、本発明における実施の形態5では、取得時間の異なる2枚のSAR画像から地表面に生じた変化を抽出する技術の1つであるCCD(Coherent Change Detection)を組み合わせることにより、移動目標検出及び変化抽出処理を同時に実施する。これにより、アジマス方向への速度を有する移動目標の検出についても実施することができる。
【0097】
なお、本発明における実施の形態5では、変化抽出の方法としてCCDを例に挙げて説明するが、これに限定されない。例えば、2枚のSAR画像から変化を抽出する手法であれば、輝度変化などによる変化抽出方法を用いてもよい。
【0098】
図9は、本発明の実施の形態5に係る移動目標検出装置10の内部構成図である。先の実施の形態4における図8の移動目標検出装置10と比較すると、本実施の形態5における図9の移動目標検出装置10は、コヒーレンス算出手段100c、画像データ選択部140、変化抽出処理手段150、アジマスずれ補正手段160及び変化目標検出処理手段170をさらに備えている。なお、他の構成は、先の実施の形態4と同様であり、説明を省略する。
【0099】
ここで、詳細は、後述するが、移動目標検出装置10内の画像データ選択部140、変化抽出処理手段150、アジマスずれ補正手段160及び変化目標検出処理手段170は、概略、以下のように機能する。なお、新たに追加されているコヒーレンス算出手段100cの構成・機能は、先の実施の形態1〜4のコヒーレンス算出手段100a、100bと同様であるため、説明を省略する。
【0100】
画像データ選択部140は、観測1及び観測2において取得された2枚のSAR−GMTI処理用データを、それぞれの観測の中から1枚選択する。なお、本発明における実施の形態5では、図13において受信1に相当する受信アンテナで観測されたデータを例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。観測1及び観測2のデータのどちらか一方を選択するのであれば、どの組み合わせを用いてもよい。
【0101】
変化抽出処理手段150は、コヒーレンス算出手段100cにおいて算出されたコヒーレンスマップに基づいて、変化領域を抽出する。
【0102】
移動目標がレンジ方向に移動した場合、画像再生処理の結果、結像する位置がアジマス方向にずれた位置に結像する。アジマスずれ補正手段160は、このアジマス方向へのずれを補正する。
【0103】
変化目標検出処理手段170は、移動目標として検出されたデータと、CCDにより検出された地形変化とから、2回の観測(観測1及び観測2)における変化目標を検出する。
【0104】
次に、本実施の形態5で新たに追加された変化抽出処理手段150、アジマスずれ補正手段160及び変化目標検出処理手段170を中心に、本実施の形態5における移動目標検出装置の動作を、以下に説明する。
【0105】
まず、変化抽出処理手段150は、コヒーレンス算出手段100cにおいて算出された2枚のSAR画像間のコヒーレンスマップに対して、予め設定された閾値を用いて閾値処理することにより、変化領域を抽出する。
【0106】
ここで、閾値の設定方法は、誤警報確率に基づいて設定することができる(例えば、Mark Preiss、Doug Gray、andNick Stacy著、「A Change Detection Technique for Repeat Pass Interferometric SAR」、IEEE Geoscience and Remote Sensing Symposium Proceedings、2003. IGARSS、03.2003、2、21−25参照)。
【0107】
なお、本発明の実施の形態5では、閾値の設定方法を誤警報確率に基づいて設定する方法を例に挙げて説明するが、これに限定されない。使用者が任意に設定した閾値を用いてもよい。また、本処理では、コヒーレンスの低い領域を変化領域として抽出するものであれば、どのような方法を用いても構わない。
【0108】
ここで、レンジ方向に速度を有する移動目標を、一般的な合成開口処理により画像化した結果は、図10のようになる。この図10に示すように、結像位置が本来の位置から、レンジ速度に応じてアジマス方向にずれることが知られている。
【0109】
そこで、アジマスずれ補正手段160は、この結像位置のずれを、推定された移動目標の位相差から算出されるレンジ方向の推定速度と、変化抽出において変化のあった領域とを用いて補正する。
【0110】
レンジ方向に速度を有する移動目標のアジマス方向への結像位置のずれは、次式(10)のように表される(例えば、大内 和夫著、「リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎」、東京電気大学出版局、2004年参照)。
X=−(R0/Vsat)V (10)
【0111】
上式(10)のR0は、アジマス時刻t=0[sec]のときの移動目標とアンテナとの距離である。また、上式(10)のVsatは、レーダプラットフォームの移動速度である。なお、アジマス時刻は、合成開口時間をTaとした場合、
−Ta/2≦t≦Ta/2
で与えられる。
【0112】
このように、アジマスずれ補正手段160は、上式(10)を用いて、検出された移動目標の検出位置を補正することができる。
【0113】
ここで、図11に示すように、検出された移動目標は、変化抽出処理手段150及びアジマスずれ補正手段160において得られた移動目標からの受信信号と、移動目標が移動したことによる地表面の変化との両端が同じ位置に観測されているならば、アジマス方向への速度を持っていないことがわかる。
【0114】
一方、移動目標がアジマス方向に速度を持っていた場合には、移動目標の検出結果と、CCDによる変化抽出結果の位置にずれが生じることがわかる。
【0115】
変化目標検出処理手段170は、このような特性を利用して、移動目標のアジマス方向の速度を推定する。移動目標のアジマス方向の速度は、アジマス方向のずれを補正した移動目標の位置と、変化抽出処理の結果の終端との距離差を観測1及び観測2の間の観測時間で割ることで推定する。従って、移動目標のアジマス速度や、観測1及び観測2の間の目標の軌跡を追跡することができる。
【0116】
以上のように、実施の形態5によれば、移動目標検出及び変化抽出処理を行うことにより、アジマス方向への速度を有する移動目標の検出についても行うことができる。この結果、移動目標のアジマス速度や観測1及び観測2の間の目標の軌跡を追跡することができる。
【符号の説明】
【0117】
10 移動目標検出装置、20 観測時期設定手段、30 送受信アンテナ、40a、40b データ格納部、50a、50b 位相差算出手段、60 移動目標位置算出手段、70 位相差分布算出手段、80 移動目標検出手段、90 データ出力部、100a、100b、100c コヒーレンス算出手段、110 閾値算出処理手段、120a、120b 移動目標検出処理手段、130 目標位置判定手段、140 画像データ選択部、150 変化抽出処理手段、160 アジマスずれ補正手段、170 変化目標検出処理手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットフォームの移動方向に分割可能な開口を持つアンテナに対して、所定の観測時間差を有する第1の観測地点及び第2の観測地点における観測時期を設定する観測時期設定手段と、
前記第1の観測地点及び前記第2の観測地点のそれぞれに対応して前記アンテナから取得された2枚のSAR画像を格納するデータ格納部と、
前記第1の観測地点及び前記第2の観測地点のそれぞれに対応して、前記データ格納部に格納された前記2枚のSAR画像間の位相差をそれぞれ算出する位相差算出手段と、
前記位相差算出手段によって算出された前記第1の観測地点の位相差から、移動目標の第1の位置および移動速度を特定するとともに、前記移動目標が前記移動速度で前記第2の観測地点まで移動した際の第2の位置を推定する移動目標位置推定手段と、
前記第1の位置における位相差と、前記第2の位置における位相差とが、ともに所定閾値よりも大きい場合に、前記移動目標を真の移動目標と判断する移動目標検出手段と
を備えることを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動目標検出装置において、
前記移動目標検出手段は、所望の移動速度から算出した位相差を前記所定閾値として用いることを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の移動目標検出装置において、
前記第1の観測地点及び前記第2の観測地点のそれぞれに対応して、前記データ格納部に格納された前記2枚のSAR画像間の複素相関を算出するコヒーレンス算出手段と、
前記第1の観測地点及び前記第2の観測地点のそれぞれに対応して算出された前記複素相関から理論的な結合確率密度を算出し、予め設定された誤警報確率を満たす閾値を前記結合確率密度に基づいて算出する閾値算出処理手段と
をさらに備え、
前記移動目標検出手段は、前記閾値算出処理手段によって算出された前記閾値を前記所定閾値として用いる
ことを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の移動目標検出装置において、
前記位相差算出手段により算出されたそれぞれの位相差の中で、所定の低速度から算出した位相差以下のものを削除し、前記移動目標としての検出対象から除外する移動目標検出処理手段をさらに備えることを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の移動目標検出装置において、
前記移動目標検出手段により前記真の移動目標であると判断された移動目標について、前記第1の観測地点と前記第2の観測地点での検出位置を比較し、両者の位置偏差が所定値以下である場合には、静止目標であると判断し、真の移動目標から除外する目標位置判定手段をさらに備えることを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の移動目標検出装置において、
前記第1の観測地点に対応して前記データ格納部に格納された前記2枚のSAR画像の中から1枚を選択するとともに、前記第2の観測地点に対応して前記データ格納部に格納された前記2枚のSAR画像の中から1枚を選択する画像データ選択部と、
前記画像データ選択部により選択された2枚のSAR画像間の複素相関を算出する第2のコヒーレンス算出手段と、
前記第2のコヒーレンス算出手段により算出された前記複素相関の分布から、変化の生じた領域を抽出する変化抽出処理手段と、
前記移動目標のレンジ方向の移動速度と、前記変化抽出処理手段によって抽出された前記変化領域とに基づいて、前記移動目標検出手段により真の移動目標と判断された移動目標に対してアジマス方向のずれを補正するアジマスずれ補正手段と、
前記観測時期設定手段によって設定された前記観測時期と、前記アジマスずれ補正手段による補正後の前記真の移動目標の位置と、前記変化抽出処理手段によって抽出された前記変化領域とに基づいて、前記真の移動目標のアジマス方向の速度を推定する変化目標検出処理手段と
をさらに備えることを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項1】
プラットフォームの移動方向に分割可能な開口を持つアンテナに対して、所定の観測時間差を有する第1の観測地点及び第2の観測地点における観測時期を設定する観測時期設定手段と、
前記第1の観測地点及び前記第2の観測地点のそれぞれに対応して前記アンテナから取得された2枚のSAR画像を格納するデータ格納部と、
前記第1の観測地点及び前記第2の観測地点のそれぞれに対応して、前記データ格納部に格納された前記2枚のSAR画像間の位相差をそれぞれ算出する位相差算出手段と、
前記位相差算出手段によって算出された前記第1の観測地点の位相差から、移動目標の第1の位置および移動速度を特定するとともに、前記移動目標が前記移動速度で前記第2の観測地点まで移動した際の第2の位置を推定する移動目標位置推定手段と、
前記第1の位置における位相差と、前記第2の位置における位相差とが、ともに所定閾値よりも大きい場合に、前記移動目標を真の移動目標と判断する移動目標検出手段と
を備えることを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動目標検出装置において、
前記移動目標検出手段は、所望の移動速度から算出した位相差を前記所定閾値として用いることを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の移動目標検出装置において、
前記第1の観測地点及び前記第2の観測地点のそれぞれに対応して、前記データ格納部に格納された前記2枚のSAR画像間の複素相関を算出するコヒーレンス算出手段と、
前記第1の観測地点及び前記第2の観測地点のそれぞれに対応して算出された前記複素相関から理論的な結合確率密度を算出し、予め設定された誤警報確率を満たす閾値を前記結合確率密度に基づいて算出する閾値算出処理手段と
をさらに備え、
前記移動目標検出手段は、前記閾値算出処理手段によって算出された前記閾値を前記所定閾値として用いる
ことを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の移動目標検出装置において、
前記位相差算出手段により算出されたそれぞれの位相差の中で、所定の低速度から算出した位相差以下のものを削除し、前記移動目標としての検出対象から除外する移動目標検出処理手段をさらに備えることを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の移動目標検出装置において、
前記移動目標検出手段により前記真の移動目標であると判断された移動目標について、前記第1の観測地点と前記第2の観測地点での検出位置を比較し、両者の位置偏差が所定値以下である場合には、静止目標であると判断し、真の移動目標から除外する目標位置判定手段をさらに備えることを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の移動目標検出装置において、
前記第1の観測地点に対応して前記データ格納部に格納された前記2枚のSAR画像の中から1枚を選択するとともに、前記第2の観測地点に対応して前記データ格納部に格納された前記2枚のSAR画像の中から1枚を選択する画像データ選択部と、
前記画像データ選択部により選択された2枚のSAR画像間の複素相関を算出する第2のコヒーレンス算出手段と、
前記第2のコヒーレンス算出手段により算出された前記複素相関の分布から、変化の生じた領域を抽出する変化抽出処理手段と、
前記移動目標のレンジ方向の移動速度と、前記変化抽出処理手段によって抽出された前記変化領域とに基づいて、前記移動目標検出手段により真の移動目標と判断された移動目標に対してアジマス方向のずれを補正するアジマスずれ補正手段と、
前記観測時期設定手段によって設定された前記観測時期と、前記アジマスずれ補正手段による補正後の前記真の移動目標の位置と、前記変化抽出処理手段によって抽出された前記変化領域とに基づいて、前記真の移動目標のアジマス方向の速度を推定する変化目標検出処理手段と
をさらに備えることを特徴とする移動目標検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−286404(P2010−286404A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141448(P2009−141448)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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