説明

移動農機

【課題】移動農機である乗用田植機による圃場での植付作業において、乗用田植機で畔際を後進する際に、乗用田植機の作業機である植付作業機と畔とが接触することを防止する移動農機を提供する。
【解決手段】乗用田植機1の後進操作の検出時に、後進操作前に操舵角センサより検出されたステアリングハンドルの操舵角が旋回領域に位置する場合には(S601)、植付作業機の高さ位置が設定されている場合であっても、植付作業機を第1位置(H1)にまで上昇させる(S608)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、機体後方に作業機を昇降自在に設けた乗用田植機などの移動農機に係り、詳しくは、作業機の昇降制御に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、移動農機として、植付作業機を機体後方に昇降自在に連結し、圃場を走行しながらこの植付作業機によって苗を植付けて行く乗用田植機が広く知られており、このような乗用田植機は、後進時に植付作業機が破損することを防止するために、乗用田植機の後進操作に連動して自動的に植付作業機を最上昇高さ位置まで上昇させるバックアップ制御機能を有している。
【0003】
従来、このバックアップ制御時に植付作業機を最上昇位置まで上昇させると、乗用田植機を駐車する場合などに、植付作業機が運転者の後方視野を遮ってしまうため、バックアップ制御時での植付作業機の上昇位置を最上昇位置よりも低い位置に設定できることができる乗用田植機が案出されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4073805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、バックアップ制御に植付作業機を設定高さまで上昇させないようにすると、バックアップ時においても運転者の後方視野を確保することができると共に、植付作業と上昇位置と距離が短くなり、作業効率の向上を期待することができる。
【0006】
ところで、大型の乗用田植機の場合、枕地に苗を植付ける際に圃場の角部に位置合わせしてから苗を植付けて行く。
【0007】
しかしながら、上記畔際での旋回の後の後進時においても、植付作業機の上昇位置が通常の上昇位置よりも低く設定されていると、植付作業機が畔と接触してしまう虞があった。
【0008】
そこで、本発明は、乗用田植機に備えられた操舵角センサで、乗用田植機のステアリングハンドルの操舵角を検出し、その検出した操舵角から乗用田植機の後進操作が畔際での後進であるのかを判別して、植付作業機の上昇高さ位置を選択することにより、上記の課題を解決した移動農機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前後の走行輪(3,5)に支持された走行機体(2)と、該走行機体の後方に昇降自在に取付けられた作業機(12)と、を備え、前記走行機体(2)の後進を検出すると、前記作業機(12)を自動的に上昇させると共に、この作業機(12)の上昇高さを、第1位置(H1)と、該第1位置(H1)よりも低い第2位置(H2)と、に選択可能な移動農機において、
前記走行機体(2)の旋回動作直後の前記走行機体(2)の後進を検出した場合には、前記作業機(12)を、前記第1位置に上昇させる制御部(53)を、備えた、ことにある。
【0010】
また、前記走行機体(2)の後進を検出する後進センサ(46)と、
前記走行機体(2)の前輪(3)を操向操作するステアリングハンドル(7)の操舵角を検出する操舵角センサ(52)と、を備え、
前記制御部(53)は、前記ステアリングハンドル(7)の操舵角に、前記走行機体(2)の方向を微調整する方向修正領域と、この方向修正領域よりも操舵角の大きな領域である旋回領域とを設定し、
前記操舵角センサ(52)が検出した前記ステアリングハンドル(7)の操舵角に基づいて、前記後進センサ(46)が検出した前記走行機体(2)の後進が、前記走行機体(2)の旋回直後の後進であるかどうかを判断する、と好適である。
【0011】
また、前記制御部(53)は、前記走行機体(2)の前進時に、前記操舵角の検出した操舵角が前記旋回領域に位置する場合、前記作業機(2)を上昇させると共に、この作業機(12)の上昇高さを、前記第1位置(H1)と前記第2位置(H2)とに変更可能に構成した、ことにある。
【0012】
なお、上記括弧内の符号等は図面を参照するためのものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によると、移動農機の旋回動作直後に移動農機の後進が検出されると作業機を第1位置へと上昇させる構成としたので、例えば、移動農機である乗用田植機での作業において、運転者が植付作業機の高さ位置を第2位置に固定したままで、旋回操作後に乗用田植機を畔際の作業開始位置まで後進させたとしても、植付作業機は第1位置へ上昇させられるので植付作業機を畔に接触させることを防止することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によると、走行機体に備えた後進センサ及び操舵角センサで、移動農機の後進及びステアリングハンドルの操舵角を検出すると共に、制御部でステアリングハンドルの操舵角を方向修正領域と、旋回領域とに設定して、検出された操舵角に基づいて移動農機の後進が移動農機の旋回直後の後進であるかを判断するという構成にしたので、運転者による移動農機のステアリングハンドルの操作が、旋回操作によるものか、方向修正によるものなのかを高い精度で判別することができると共に、移動農機の後進が旋回の直後に行われたものであるかを高い精度で判断することができる。
【0015】
請求項3に係る発明によると、移動農機の前進時に、旋回領域に位置する操舵角が検出された場合に、作業機を上昇させると共に、作業機の上昇高さを変更可能に構成したので、作業機の上昇高さを変更することで、作業機が上昇位置から作業位置へ戻る時間を短縮することができるため、植付作業の作業効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る乗用田植機の側面図。
【図2】本発明の実施形態に係る乗用田植機の油圧制御機構の側面図。
【図3】本発明の実施形態に係る乗用田植機の運転操作部の拡大斜視図。
【図4】(A)は本発明の実施形態に係る乗用田植機の運転操作機構の構造を示す図、(B)は本発明の実施形態に係る乗用田植機の主変速レバーのレバーガイドの平面図。
【図5】本発明の実施形態に係る乗用田植機の操向連携機構の構造を示す図。
【図6】本発明の実施形態に係る乗用田植機の制御部を示すブロック図。
【図7】本発明の実施形態に係る乗用田植機の作業機制御を示すフローチャート図。
【図8】本発明の実施形態に係る植付作業機の作業機操作制御を示すフローチャート図。
【図9】本発明の実施形態に係る植付作業機の旋回時昇降制御を示すフローチャート図。
【図10】本発明の実施形態に係る植付作業機の後進時昇降制御を示すフローチャート図。
【図11】本発明の実施形態に係る植付作業機の後進時昇降制御を示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に沿って、本発明に係る移動農機である乗用田植機の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下の説明中において、その方向は作業者(以下、運転者も含む)が運転席に着座した状態を基準とする。
【0018】
始めに本実施形態に係る乗用田植機1の構成について説明する。図1に示すように乗用田植機1は、圃場を走行するための前後の走行輪3,5に支持された走行機体2の前方に、乗用田植機1の動力源としてのエンジン(図示せず)がボンネット6に覆われて搭載されており、ボンネット6の後方には、乗用田植機1を操向操作するためのステアリングハンドル7及び運転座席9などから構成される運転操作部10が設けられている。また、運転操作部10の後方である走行機体2の後部には昇降リンク11を介して植付作業機12が昇降自在に連結されて構成されている。
【0019】
植付作業機12は、植付ける苗を載せるための苗のせ台13や、圃場面を滑走して圃場の凹凸を検出するフロート15などから構成されており、油圧シリンダ11aの伸縮作動によって植付作業機12が昇降されるように構成されている。
【0020】
ついで、油圧シリンダ11aを伸縮動作させるための油圧制御機構の構成について説明する。運転座席9の下部のカバー内には、油圧シリンダ11aの伸縮作動を制御するための油圧バルブである油圧コントロールバルブ17が配置されている。図2に示すように油圧コントロールバルブ17は、側面視略矩形状の作動アーム23を有し、作動アーム23の近傍には、植付クラッチを断接するクラッチアーム20が設けてられており、クラッチアーム20及び油圧コントロールバルブ17を作動させる作動アーム23は作業機操作カム21によって連動して操作されるように構成されている。作業機操作カム21は作業機操作カムモータ19によって回転駆動すると共に、その回転位置を作業機操作カムポテンショ22によって検出されている。
【0021】
即ち、後述する植付作業機12の操作具である十字操作レバー35の上下方向への傾倒操作に応じて、作業機操作カム21を、植付クラッチが切断され、かつ植付作業機12が上昇位置となる上げポジションと、植付クラッチが切断され、かつ植付作業機12が停止状態となる固定ポジションと、植付クラッチが切断され、かつ植付作業機12が下降位置となる下げポジションと、植付クラッチが接続され、かつ植付作業機12が下降位置となる植付ポジションと、の何れかの位置に作業機操作カムモータ19によって設定することによって、植付作業機12の昇降及び植付クラッチの断接が操作されている。
【0022】
ついで、本実施形態である乗用田植機の運転操作部10について図面3乃至図5に基づいて詳しく説明する。図3に示すように、乗用田植機1を操縦するためのステアリングハンドル7はステアリングコラム27内のステアリングシャフト(図示せず)の端部に取り付けられており、ステアリングコラム27はステアリングコラムカバー29に覆われている。
【0023】
そして、ステアリングコラムカバー29の前方には、乗用田植機1の計器類を表示するための表示部30が設けられている。また、ステアリングコラムカバー29の左側には、作業時の植付作業機の高さ位置を選択可能にするための旋回時低位置スイッチ32及び後進時低位置スイッチ31が設けられている。旋回時低位置スイッチ32の前方には植付作業機12の高さ位置を調節するための上昇量調節ダイアル33が左右回転自在で設けられている。
【0024】
即ち、旋回時低位置スイッチ32は、旋回時において通常、最上昇位置まで上昇される植付作業機12の高さ位置を、作業者が設定した任意の高さに設定するためのスイッチであり、後進時低位置スイッチ31は、後進時において通常、最上昇位置まで上昇される植付作業機12の高さ位置を、作業者が設定した高さに設定するためのスイッチである。そして、これら旋回時低位置スイッチ32及び後進時低位置スイッチ31がオンされた際の植付作業機12の高さ位置は、上述した上昇量調節ダイアル33によって設定できるようになっている。なお、上記上昇量調節ダイアル33は、植付作業機12の高さ位置を、例えば下降位置から最上昇位置までの間で設定できるようになっており、作業者によって設定される高さ位置は、最上昇位置よりも低くなるように設定される。
【0025】
また、ステアリングコラムカバー29の右側には、上述した植付作業機12の昇降操作、及び圃場に走行基準線を引くための線引きマーカの振出し操作など行うための十字操作レバー35が上下及び前後に揺動可能な状態で設けられている。
【0026】
ここで、十字操作レバー35について簡単に説明すると、例えば、植付作業機12が作業位置にあり、且つ植付クラッチが入っている状態で、十字操作レバー35が上方向に1回操作されると植付クラッチが切状態となり、再び上方向に操作されると植付作業機が上昇する。逆に、植付作業機12が上昇して停止している状態から下方向に1回操作されると植付作業機12は下降し、再び下方向に操作されると植付クラッチ入となる。また、十字操作レバー35前後に揺動操作することで、左右のマーカの振出し操作を行うことができる。なお、十字操作レバー35による植付作業機12操作制御についての詳細は後述する。
【0027】
ついで、図4に示す乗用田植機1のステアリング機構及び、変速レバー機構を詳しく説明する。図4(A)に示すように乗用田植機1のステアリング機構は、ステアリングコラム27の上端部にステアリングハンドル7が取付けられており、ステアリングコラム27の略中央には、ステアリングコラム27を支持固定するための部材である支持ステー37が、一端部にレバーガイド36が設けられて取付けられている。更に、ステアリングコラム27の下端部には手動の低トルクを油圧によって大きなトルクへと変換するためパワーステアリング装置39が取付けられて構成されている。
【0028】
ステアリングハンドル7の側方には、運転者が、乗用田植機1の走行を変速操作するための主変速レバー40がレバーガイドを貫通させて配置されている。主変速レバーの構成としては、図4(A)に示すように、主変速レバー40の一端部に、運転者が主変速レバーを握り易くするためのレバーノブ40aが取付けられており、他端部には主変速レバー40を回動自在に支持するための支持部材であるブラケット40bが取付けられていると共に、主変速レバー40の複数個所が屈曲されて構成されている。
【0029】
上記主変速レバー40に取付けられたブラケット40bは、支持部材であるプレート41の一端部に形成された軸受部42に左右回動自在に支持されている。このプレート41は、略中央に軸受部43が設けられているのと共に、軸受部42側が屈曲させられて側面視略へ字形状に形成されて構成されている。そして軸受部43は、ステアリングコラム27とパワーステアリング装置との接合面に一端が固定されていると共に、屈曲されて側面視略L字形状に形成された、支持部材であるブラケット45の他端部に設けられた軸部48に嵌合されて、プレート41はブラケット45によって前後回動自在で支持されている。
【0030】
上述のように、主変速レバー40は、プレート41、及びブラケット45で支持されることで前後左右に揺動自在で構成されている。また、上記主変速レバーの一端部に取付けられたブラケット40bの上側には、後進操作を検出するための後進センサである後進操作検出スイッチ46が、スイッチのON、OFFを切換えるための接触部47が形成されて配設されている。
【0031】
図4(B)は、主変速レバー40による前進及び後進動作の切り換え操作を行うためのレバーガイド36の平面図を示したものである。レバーガイド36には、前後に揺動可能な可動領域を有する前進レンジ36aと、同じく前後に揺動可能な可動領域を有する後進レンジ36bとが、左右にオフセットされて左右に揺動可能な可動領域を有するニュートラルレンジ36cの両端にそれぞれ連結されていると共に、前進レンジ36a、後進レンジ36b及びニュートラルレンジ36cのそれぞれは切り欠いて一体形成されている。
【0032】
上記後進操作検出スイッチ46は、後進操作検出スイッチ46に設けられた接触部47と主変速レバー40の端部に取付けられたブラケット40bの端部とが接触することで後進操作が検出される構成となっている。そして、本実施形態では、運転者が、主変速レバー40を後進レンジに入れるために、ニュートラルレンジ36cにおいて主変速レバー40を前進レンジ36aから後進レンジ36b側へと移動させると、同時に、主変速レバー40の一端部に接合されたブラケット自体もプレート41の軸受部42を軸として回動する。すると、ブラケット40bと後進操作検出スイッチ46に設けられた接触部47にブラケット一端部が接触して後進操作が検出される。したがって、主変速レバー40が後進レンジ36bにある時には、常時、後進操作検出スイッチ46がON状態となる。
【0033】
図5に示すように、エンジンからの動力を圃場面に伝える乗用田植機1の後輪5は、サイドクラッチ49R,49Lによってエンジンからの動力伝達がそれぞれ断接可能に構成されている。サイドクラッチ49R,49Lは、操向連携機構50を介してステアリングハンドル7操作に連動するように構成されている。
【0034】
そして、上述のようにステアリングハンドル7が操作されると、ステアリングコラム27内のステアリングシャフトが回転し、それと連動してピットマンアーム51が、操作軸51aを中心として左右に回動する。そして、図示はしていないが、ピットマンアーム51に連結されたタイロッド及びタイロッドに連結されたナックルアームがピットマンアーム51の回動に連動して揺動することで、前輪も左右に回動する構成となっている。
【0035】
ピットマンアーム51の操作軸51aには、ステアリングハンドル7の操舵角を検出するための操舵角センサ(以下、ステアリングハンドル操舵角センサという)52が取り付けられている。ステアリングハンドル操舵角センサ52が、ステアリングハンドル7の基準操舵角(乗用田植機1の直進時における操作軸51aの位置)である操作軸51aの位置からの回転角である操舵角を検出し、その検出された操舵角が、旋回領域か方向修正領域かの何れの領域に位置するかで、乗用田植機1のステアリングハンドル7の操作が旋回か方向修正かを検出する構成となっている。
【0036】
より詳しくは、ピットマンアーム51の操作軸51aの全回転領域を、制御部53で設定した角度によって乗用田植機1を方向転換するための旋回領域と、乗用田植機1の走行方向を微調整するための方向修正領域との二つに分割し、そしてステアリングハンドル操舵角センサ52によって検出されたピットマンアーム51の操作軸51aの回転角が、設定した角度以上の大きさの場合には、回転角である操舵角が旋回領域にあるとして、ステアリングハンドル操作を旋回操作として検出する一方で、ステアリングハンドル操舵角センサ52によって検出されたピットマンアーム51の操作軸51aの回転角が、設定した角度以下の大きさの場合には、方向修正領域にあるとしてステアリングハンドル操作を方向修正として検出する構成となっている。
【0037】
本発明に係る乗用田植機1の制御部のブロック図が図6に示してあり、制御部53はマイクロコンピュータによって構成されている。制御部53の入力側には、作業準備スイッチ55、作業機操作スイッチ上側56、作業機操作スイッチ下側57、マーカスイッチ前側59、マーカスイッチ後側60、作業機操作カムポテンショ22、後進操作検出スイッチ46、後進時低位置スイッチ31、旋回時低位置スイッチ32、及び上昇量調節ダイアル33が接続されている他、植付作業機12の走行機体2に対する相対的な昇降高さを検出するためのリフト角ポテンショ61と、運転者の操作によるステアリングハンドル7の操舵角を検出するためのステアリングハンドル操舵角センサ52、が接続されて、それぞれの信号が制御部53に入力されるように構成されている。また、出力側には作業機操作カムモータ19、右側のマーカモータ62、そして左側のマーカモータ63が接続され、それぞれ入力側からの信号に基づき制御部53を介して制御される。
【0038】
上記制御部53を構成するマイクロコンピュータには、後進操作検出スイッチ46によって乗用田植機1の後進操作が検出された時に、ステアリングハンドル操舵角センサ52により検出された操舵角から、その後進操作が畔際での後進操作であるのかを判別する後進操作判別手段66と、後進操作判別手段66により判別された場所に設定された高さ位置まで植付作業機12を上昇及び下降させる作業機昇降指令手段67を有して構成されている。
【0039】
ついで本実施形態に係る乗用田植機1の植付作業機12の昇降制御の作用について図7乃至図11に基づいて説明する。図7は乗用田植機1における制御のメインフローを示すものであって、運転者による操作によりそれぞれ異なる制御が行われる構成となっている。
【0040】
図7に示すように、運転者によって乗用田植機1のイグニッションがONにされると、乗用田植機1の制御部53は植付作業機12を制御することができる状態となる(図のスッテプ1。以下、単にS○という)。そして、乗用田植機1のエンジンを始動して、圃場へ移動した後に植付作業機12を作動させて植付作業が行われる。
【0041】
圃場の植付作業開始位置までの移動時においては、植付作業機12と地面との接触を避けるために植付作業機12は上昇状態にある。そこで乗用田植機1を植付作業開始位置に停止させた後、植付作業を始めるために、運転者は植付作業機12の操作具である十字操作レバー35を操作して、植付作業機12を植付作業位置まで降下させる。そしてこの際、植付作業機12は作業機操作制御(S4)によって制御されることになる。
【0042】
そこで、まず作業機操作制御の作用について説明する。植付作業開始位置で、運転者が十字操作レバー35を上方への操作する(図8のS402)。その時に植付作業機12が「植付状態」となっている場合には(S403,S404,S405)、作業機操作カムモータ19を作動させて作業機操作カム21を下降ポジションとし、植付作業機12は自動昇降制御の下降位置とされる(S406)。
【0043】
一方、植付作業機12の自動昇降による降下中に(S404,S410)、運転者によって十字操作レバー35の上方への操作が行われた場合は、植付作業機12の下降動作が停止し(S412)、反対に、植付作業機12が植付けクラッチが切断された状態で下降位置にある時に(S410)、十字操作レバー35の上方への操作が行われた場合には(S402)、植付作業機12が上昇する(S405,S410,S411)。
【0044】
また、上記のように圃場の作業開始位置に停止させた後、運転者によって作業準備スイッチが入れられ(S413)、且つ植付作業機12が「植付状態」ではない時に(S414,S415,S416)、十字操作レバー35の下方への操作が行われた場合(S401)、作業機操作カムモータ19を作動させて作業機操作カム21を下降ポジションとし、植付作業機12は自動昇降制御の下降位置とされる(S417)。
【0045】
反対に、作業準備スイッチがOFFで(S413)、且つ植付作業機12が停止中に(S418)、運転者によって十字操作レバー35の下方への操作が行われた場合(S401)、植付作業機12は自動昇降制御の下降位置とされる(S418,S419,S424)。一方、植付作業機12の上昇動作中に(S418)、作業者により十字操作レバー35の下方への操作が行われた場合には(S401)、植付作業機12の上昇動作が停止する(S420)。
【0046】
更に、植付作業機12が、植付作業位置にある時に(S421)、運転者により十字操作レバー35の下方への操作が行われた場合は(S401)、作業機操作カムモータ19を作動させて作業機操作カム21を植付ポジションとして、植付クラッチが入れられ植付作業機12は「植付状態」となる(S422)。なお、植付作業機12が作業位置へ下降中は「植付クラッチ入待ち状態」となる(S423)。
【0047】
但し、十字操作レバー35の上方への操作及び、下方への操作が行われない場合には、「植付クラッチ入待ち状態」となり、そして「作業機下降動作停止」となると植付作業機12は植付クラッチが接続されて「植付状態」となる(S407,S408,S409)。ここで、「植付クラッチ入待ち状態」とは、十字操作レバー35で植付クラッチの入操作はされているが、植付作業機12が圃場での作業高さまで降下していない状態を意味するものである。
【0048】
運転者は、上述のように乗用田植機1を作業開始位置まで移動して、植付作業機12を植付作業開始位置に降下させた後に、乗用田植機1の走行開始と共に、植付作業を開始する。そして、植付作業は、圃場の畔際から畔際までを往復しながら行われる。この際、作業者は、乗用田植機1が畔際まで近づくと乗用田植機1を旋回させるためのステアリングハンドル操作を行う。この時、乗用田植機1に備えたステアリングハンドル操舵角センサ52により検出された操舵角が、旋回領域に位置する場合には(S3)、植付作業機12は旋回時昇降制御で制御されることになる(S5)。
【0049】
ついで、旋回時昇降制御の作用について説明する。畔際において運転者が乗用田植機1のステアリングハンドル7を切って旋回操作すると(S3)、それに連動して植付作業機12は自動的に第1位置まで上昇させられる(図9のS504,S506,S507,S508)。
【0050】
なお、本実施形態における第1位置とは最上昇位置(図中はH1で表示)であり、第2位置とは最上昇位置よりも低く且つ、運転者によって設定された位置である(図中はH2で表示)。
【0051】
但し、この時、運転者が植付作業機12の上昇の高さ位置を設定していた場合において、旋回時低位置スイッチ、作業準備スイッチが入っていた場合は(S501,S502)、旋回操作時の植付作業機12の高さ位置が、設定された位置よりも低い位置にある場合には(S503)、植付作業機12が設定された高さ位置まで上昇させられ(S504)、旋回操作時既に植付作業機12が設定された高さ位置にある場合には、その位置のまま旋回が行われる(S505)。
【0052】
そして、乗用田植機1で行う植付作業の最終工程として、圃場の畔際の枕地に沿って植付け作業を行うが、その作業を始めるために圃場角部にある植付作業開始位置へ、植付作業機12を合わせる必要がある。その位置合わせは、圃場の角部にある作業開始位置付近まで畔際に沿いながら乗用田植機1で前進して行き、そして、作業開始位置付近で乗用田植機1のステアリングハンドル7を操作して乗用田植機1を畔際に沿って方向転換させた後に、乗用田植機1を後進させることで、その位置合わせが行われる(S2)。その際、植付作業機12は図10に示すように後進時昇降制御で制御されることになる(S6)。
【0053】
ついで、後進時昇降制御の作用について説明する。上述のように、運転者が、圃場角部の植付作業開始位置に植付作業機12の位置合わせを行うために、ステアリングハンドル7の操作直後にレバーガイド36の後進レンジ36bに主変速レバーを入れると、後進センサである後進操作検出スイッチ46によって後進操作が検出される。そして、後進操作検出時にステアリングハンドル操舵角センサによって検出された操舵角が旋回領域に位置する場合には(S601)、旋回動作直後の後進操作として、後進操作判別手段64により畔際での後進と判断される。すると、運転者が植付作業機12の高さ位置を設定(H2)して作業を行っていたとしても、作業機昇降指令手段67の上昇指令によって、後進操作の検出と同時に植付作業機12は、最上昇位置(H1)まで上昇させられる(S605,S608)。ただし、既に植付作業機12が最上昇位置にある場合には(S606)、そのままの位置で後進する(S607)。なお、本実施形態においては、1度、植付作業機が上昇させられると、十字操作レバー35などの植付作業機12の操作具による人為的による下降操作でなければ下降しない構成となっている。
【0054】
また、ステアリングハンドル操舵角センサ52により検出された乗用田植機1のステアリング操舵角が走行機体の方向の微調整を行うための方向修正領域にある場合には(S601)、後進操作判別手段66により畔際以外での後進と判断される。そして、運転者が植付作業機12の高さ位置を設定して植付作業を行っていた場合は(S602,S603)、植付作業機12の高さ位置を設定位置(H2)のままで後進する(S609,S610)。ただし、植付作業機12が設定位置よりも低い位置の場合には、設定位置まで上昇させられる(S604,S608)。なお、運転者によって、第2位置に設定されていなかった場合には通常のバックアップ制御によって、後進操作と連動して植付作業機12は最上昇位置(H1)まで上昇させられる。
【0055】
上述したように、乗用田植機1の旋回動作直後に後進が検出されると、植付作業機12は第1位置へと上昇させられるので、乗用田植機1での作業において、運転者が植付作業機12の高さ位置を第2位置(H2)に固定して作業を行っていても、旋回操作後に乗用田植機1を畔際の作業開始位置まで後進すると、植付作業機12は第1位置(H2)へ上昇させられるので植付作業機を畔に接触させることを防止することができる。
【0056】
また、乗用田植機1に備えた後進操作検出スイッチ46及びステアリングハンドル操舵角センサ52で、乗用田植機1の後進及びステアリングハンドルの操舵角を検出すると共に、制御部53でステアリングハンドル7の操舵角を方向修正領域と、旋回領域とに設定して、検出された操舵角に基づいて乗用田植機1の後進が移動農機の旋回直後の後進であるかを判断するので、運転者によるステアリングハンドル操作が、旋回操作によるものか、方向修正によるものなのかを高い精度で判別することができて、移動農機の後進が旋回の直後に行われたものであるかを高い精度で判断することができる。
【0057】
更に、乗用田植機1の前進時に、旋回領域に位置する操舵角が検出された場合に、作業機を上昇させると共に、植付作業機12の上昇高さを運転者が任意の高さへと変更可能である。これにより、植付作業機12の上昇高さを低い位置に設定すれば、植付作業機12の上昇位置と作業位置との距離を短くすることができるので、植付作業機12が作業位置へ戻る時間を短縮することができて、植付作業の作業効率の向上を図ることができる。
【0058】
また、旋回時のオートリフト制御と後進時のバックアップ制御において、ステアリングハンドル7操作の操舵角の検出を1つ操舵角センサで行う構成としたことにより製造コストを抑えることができる。
【0059】
また、後進時に上昇させられた植付作業機12は、1度上昇すると人為的操作以外は下降しないという構成にしたことによって、不測の下降を防止し、障害物との衝突を防止することができる。
【0060】
また、旋回時昇降制御時に植付作業機の高さ位置を設定していない場合には、旋回操作に連動して、植付作業機12は最上昇位置(H1)まで上昇させられるという構成としたが、これに限らず、最上昇位置より低い位置まで上昇させられるという構成としてもよい。
【0061】
また、本実施形態における後進時昇降制御において、運転者が植付作業機12の高さ位置を設定していない場合には、植付作業機12を最上昇位置(H1)まで上昇させられるという構成としたが、これに限らず、最上昇位置より低い位置まで上昇させるという構成としてもよい
【0062】
なお、本実施形態における後進時昇降制御において、植付作業機12の高さ位置が設定された位置(H2)よりも低い位置にある場合には、植付作業機12を設定された高さ位置(H2)まで上昇させられるという構成としたが、これに限らず、最上昇位置(H1)まで上昇させられるという構成にしてもよい。
【0063】
また、本実施形態における後進時昇降制御において、旋回操作直後に後進操作が運転者により行われた時は、植付作業機12を最上昇位置(H1)まで上昇させるという構成としたが、これに限らず、最上昇位置より低い位置まで上昇させられるという構成としてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、ステアリングハンドル操舵角を検出するステアリングハンドル操舵角センサ52を旋回時と後進時で共用する構成としたが、これを個々別々のステアリンハンドル操舵角センサで検出する構成としてもよい。
【0065】
また、本実施形態では、ステアリングハンドル操舵角センサ52はピットマンアーム51の操作軸51aの回転角から操舵角を検出する構成としたが、ステアリングシャフトの回転角から検出する構成としてもよい。
【0066】
また、本実施形態では、後進操作の検出時のステアリングハンドル操舵角センサ52によって検出された操舵角が位置する領域から、後進操作判別手段66によって畔際での後進操作であるかを判別する構成としたが、これに限らず、ステアリングハンドル操舵角センサにより検出された操舵角を記憶しておき、後進操作検出時に記憶された後進操作時以前の操舵角から後進操作判別手段によって、畔際での後進操作であるかを判別する構成にしてもよい。
【0067】
また、本実施形態では主変速レバーから乗用田植機1の後進操作を検出するという構成としたが、これに限らず、車軸の回転によって検出するという構成としてもよい。
【0068】
更に、本実施形態では乗用型の田植機を例として説明したが、トラクタなどの他の移動農機に本発明を適用しても当然に良い。
【0069】
[他の実施形態]
また、本発明の他の実施形態における後進時昇降制御の作用ついて説明する。本実施形態は、植付作業機12の後進時昇降制御において、運転者が植付作業機12の上昇の高さ位置を設定していた場合(第2位置、図中、H2で表示)での昇降制御の点で異なる。以下、上述の実施形態との相違点のみを説明する(S611〜S614までは上述の実施形態と同一なので省略する)。同一構成及び作用の部材については、同一の名称及び参照符号を用いる。
【0070】
図11に示すように、ステアリングハンドル操舵角センサ52により検出されたステアリング操舵角が、方向修正領域にある場合には、後進操作判別手段66によりその後の後進操作は畔際以外での後進操作と判断される。そして、運転者が植付作業機12の高さ位置を設定して(H2)植付作業を行っていた場合であって、後進操作が行われた時には、植付作業機12の高さ位置が既に設定位置の高さにある場合はそのままで後進するが(S621)、植付作業機12が設定位置(H2)よりも高い位置にあった場合には(S619)、ステアリングハンドル7の戻し操作に連動して自動的に設定位置まで下降させられる(S620)構成となっている。
【0071】
上述のように、後進時に最上昇位置まで上昇させられた植付作業機12を、作業者のステアリングハンドル7の戻し操作に連動して作業者の設定した高さ位置(H2)まで下降させるという構成にしたことによって、植付作業機12を下降操作することなく後進時の後方の視覚を確保することができるため作業効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0072】
2 走行機体
3 走行輪(前輪)
5 走行輪(後輪)
7 ステアリングハンドル
12 作業機(植付作業機)
46 後進センサ(後進操作検出スイッチ)
52 操舵角センサ(ステアリングハンドル操舵角センサ)
53 制御部
H1 第1位置
H2 第2位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後の走行輪に支持された走行機体と、該走行機体の後方に昇降自在に取付けられた作業機と、を備え、前記走行機体の後進を検出すると、前記作業機を自動的に上昇させると共に、この作業機の上昇高さを、第1位置と、該第1位置よりも低い第2位置と、に選択可能な移動農機において、
前記走行機体の旋回動作直後の前記走行機体の後進を検出した場合には、前記作業機を、前記第1位置に上昇させる制御部を、備えた、
ことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
前記走行機体の後進を検出する後進センサと、
前記走行機体の前輪を操向操作するステアリングハンドルの操舵角を検出する操舵角センサと、を備え、
前記制御部は、前記ステアリングハンドルの操舵角に、前記走行機体の方向を微調整する方向修正領域と、この方向修正領域よりも操舵角の大きな領域である旋回領域とを設定し、
前記操舵角センサが検出した前記ステアリングハンドルの操舵角に基づいて、前記後進センサが検出した前記走行機体の後進が、前記走行機体の旋回直後の後進であるかどうかを判断する、
請求項1記載の移動農機。
【請求項3】
前記制御部は、前記走行機体の前進時に、前記操舵角の検出した操舵角が前記旋回領域に位置する場合、前記作業機を上昇させると共に、この作業機の上昇高さを、前記第1位置と前記第2位置とに変更可能に構成した、
請求項2に記載の移動農機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−200161(P2012−200161A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65053(P2011−65053)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】