説明

移動速度測定方法及び移動速度測定方式

【課題】限られた周波数帯域において,しかも単調な周期性信号を使って,移動局と固定局の間,或いは移動局間の相対的な移動速度を直接測定することを可能とする。
【解決手段】無線局1の送信手段103が周波数f1 の第1の波と周波数f2 の第2の波を無線局2に送信し,無線局2の周波数シフト手段202が,受信したそれぞれの波の周波数をシフトし,第1の波から周波数f3 の第3の波を,第2の波から周波数f4 の第4の波を生成し,送信手段203がそれぞれの波を無線局1に送信し,無線局1の周波数シフト手段105が,第1の波〜第4の波の,相異なる2組の2つの波を用い,それぞれ周波数をシフトして,周波数差が第1の無線局と第2の無線局間の相対移動速度に起因するドップラー効果で決められる第5の波と第6の波を生成し,測定手段106が,第5の波と第6の波の周波数差に基づいて,無線局1と無線局2間の相対移動速度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,移動通信の分野において,移動局と固定局の間,又は,移動局間の相対移動速度を,電波を用いて測定するためのものである。
【背景技術】
【0002】
相手局と自局の間の相対移動速度の測定には,(1)相手局から送信された電波を受信して,そのときのフェージングの変動回数(受信信号が平均受信レベルと交差する回数)を測定する方法(例えば,特許文献1参照),(2)受信信号から相手局と自局のキャリア周波数の差を測定しておき,そのキャリア周波数の差の「広がり幅」をもとに移動速度を求める方法(例えば,同じ特許文献1参照)とが考えられている。
【特許文献1】特開平11−98071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記(1)のフェージングの変動回数を測定する方法は,伝搬環境によってフェージングの起こり方が異なり,例えば,マルチパスが多い大都市で車の往来の激しい所とマルチパスが少ない郊外地で車があまり来ない所では,明らかに変動回数に差があり,そのために,フェージングの変動回数をもとにした相対移動速度の測定には,大きな測定誤差を伴うものであった。
【0004】
他方(2)の受信信号から相手局と自局のキャリア周波数の差を測定する方法は,どの程度ドップラー効果で周波数がシフトしたかを測定するために,高安定なクリスタルが必要であり,それでも実現性に課題があった。例えば,1〜2GHz程度のキャリアを有する携帯電話システムでは,時速60km/hで端末が移動する場合,最大ドップラー周波数として,
d =キャリア周波数×無線局の相対速度/電波伝搬速度
=(1〜2)×109 ×60/(60×60×300000)
=56〜111Hz
程度になる。
【0005】
しかしながら,0.1×10-6程度の高安定度のクリスタルでも,1〜2GHz×0.1×10-6=100〜200Hz程度の周波数誤差を伴うため,クリスタルの周波数がシフトしたのかドップラー効果でシフトしたのかの区別がつかず,ドップラー周波数の測定が困難であった。
【0006】
そこで,この方法では,絶えず変動する受信周波数の広がり幅から,ドップラー効果による周波数シフトを求める方法が考えられるが,この場合にも,電波伝搬環境によってドップラー効果の起こり方が異なるため,測定誤差が大きくなって,やはり移動速度を精度よく求めることは困難であった。特に,この方法は,電波が一方向だけから到来するような場合には,一方向に周波数がシフトしたままで,広がり幅の測定ができないため,ドップラー効果による周波数の測定が不可能であった。
【0007】
また,上記(1)及び(2)の方法は,ともにフェージングの影響を取り除いて,十分な測定精度を得るまでに,非常に長い時間を必要とするものであった。
【0008】
本発明は,従来の移動速度測定方法の問題点を解決して,クリスタルの安定度に影響されずにドップラー効果による周波数シフトの値を正確に求めることができる相対移動速度の測定方法及び測定方式の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は,上記課題を解決し,限られた周波数帯域において,しかも単調な波形(例えば,正弦波)で,移動局と固定局の間,あるいは移動局間の相対的な移動速度の測定を可能にするものである。このため,本発明は,周波数の異なる2つの波を送信し,相手局において2つの波を受信すると,それぞれ周波数シフトして折り返し,折り返してきた2つの波と相手局へ送信した2つの波を用いて,相手局で周波数シフト時に付加された周波数の不確定成分の影響を受けないように相殺した新たな2つの波を生成し,このとき,新たな2つの波の周波数差はドップラー効果による影響分だけとなるようにして,それらの周波数差を測定することを最も主要な特徴とする。
【0010】
図1は,本発明の概要を説明するための図である。本発明においては,無線局1の第1の発振手段101から周波数f1 の第1の波を発振して,第2の発振手段102から周波数f2 (f2 ≠f1 )の第2の波を発振して,送信手段103からそれぞれの波を無線局2に送信する。
【0011】
無線局2の受信手段201は,第1の波及び第2の波を受信する。そして,周波数シフト手段202は,それぞれの波の周波数を所定の周波数シフト用の波によりシフトする。この周波数シフト手段202による周波数の処理により,第1の波から周波数f3 の第3の波が生成され,第2の波から周波数f4 (f4 ≠f3 )の第4の波が生成される。送信手段203は,生成された第3の波及び第4の波を無線局1に送信する。
【0012】
周波数シフト手段202によって周波数f1 ,f2 の波をシフトするのは,送信手段203によって無線局2から無線局1へ送信する波が,無線局2の受信手段201によって受信され,無線局1からの波と混同してしまわないようにするためである。
【0013】
無線局1の受信手段104が第3の波及び第4の波を受信すると,周波数シフト手段105は,第1の波と第2の波と第3の波と第4の波の,相異なる2組の2つの波を用いて,それぞれ周波数をシフトすることにより,周波数差が第1の無線局と第2の無線局間の相対移動速度に起因するドップラー効果で決められる第5の波と第6の波を生成する。この第5の波と第6の波の生成方法としては,次のいずれを用いてもよい。
【0014】
(1)第1の波と第2の波を入力して周波数をシフトする周波数シフト手段により第5の波を生成し,第3の波と第4の波を入力して周波数をシフトする他の周波数シフト手段により第6の波を生成する。
【0015】
(2)第1の波と第3の波を入力して周波数をシフトする周波数シフト手段により第5の波を生成し,第2の波と第4の波を入力して周波数をシフトする他の周波数シフト手段により第6の波を生成する。
【0016】
(3)第1の波と第4の波を入力して周波数をシフトする周波数シフト手段により第5の波を生成し,第2の波と第3の波を入力して周波数をシフトする他の周波数シフト手段により第6の波を生成する。
【0017】
上記(1)〜(3)のいずれの方法を用いても,無線局2で周波数シフト手段202によって周波数シフト時に付加された周波数の不確定成分の影響を受けないように相殺した新たな2つの波を生成できる。しかも,このとき,第5の波と第6の波の周波数差はドップラー効果による影響分だけとなるようにして,それらの周波数差を測定することが可能である。
【0018】
測定手段106は,生成された第5の波と第6の波の周波数差に基づいて,無線局1と無線局2の間の相対移動速度を求める。
【発明の効果】
【0019】
本発明は,自局と相手局のキャリア周波数の安定度に関係なく,ドップラー効果によって周波数がシフトした分を直接求める方法であるから,一方向からのみ連続して到来するような波であっても,短時間で正確な測定が可能になる。特に,1〜2GHz程度以上の,キャリア周波数が高く,ドップラー効果によってシフトした周波数の値とキャリア周波数そのものの安定度が不十分なためにシフトした周波数の値とが同程度であっても,本発明はなんら問題なく,ドップラー効果の影響によって周波数のシフトした分を測定することが可能である。
【0020】
本発明は,単調な周期性信号のドップラー効果を測定する方法を用いているため,周波数帯域を広げることなく,電波で直接,移動局と固定局,あるいは移動局間の相対移動速度の測定が可能であるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
〔第1の実施の形態〕
本発明の第1の実施の形態は,第1の無線局と第2の無線局の間の相対移動速度を測定する方式であって,第1の無線局と第2の無線局は,それぞれ以下に述べる手段を備える。
【0022】
第1の無線局は,
第1の波を発振する第1の発振手段と,
第2の波を発振する第2の発振手段と,
第1の波を電波として送信する第1の送信手段と,
第2の波を電波として送信する第2の送信手段とを備え,
第1の波と第2の波を第2の無線局へ送信する。
【0023】
第2の無線局は,
送信された第1の波を受信する第1の受信手段と,
送信された第2の波を受信する第2の受信手段と,
周波数シフト用の波を発振する第3の発振手段と,
第1の受信手段で受信した第1の波と周波数シフト用の波を入力して,周波数をシフトして第3の波を出力する第1の周波数シフト手段と,
第2の受信手段で受信した第2の波と周波数シフト用の波を入力して,周波数をシフトして第4の波を出力する第2の周波数シフト手段と,
第3の波を送信する第3の送信手段と,
第4の波を送信する第4の送信手段とを備え,
第3の波と第4の波を第1の無線局へ送信する。
【0024】
さらに,第1の無線局は,
第3の波を受信する第3の受信手段と,
第4の波を受信する第4の受信手段と,
第1の発振手段から得られた第1の波,第2の発振手段から得られた第2の波,第3の受信手段から得られた第3の波,及び第4の受信手段から得られた第4の波を入力して,それぞれの周波数をシフトするマルチ周波数シフト手段と,
マルチ周波数シフト手段の処理結果に従って,第1の無線局と第2の無線局の間の相対的移動によって生じるドップラー効果による周波数シフトを測定するドップラー周波数シフト測定手段と,
測定したドップラー周波数シフトを相対移動速度に変換する変換手段を備え,
第1の無線局と第2の無線局の相対移動速度を測定する。
【0025】
〔第2の実施の形態〕
本発明の第2の実施の形態は,上記第1の実施の形態において,
第1の無線局における前記マルチ周波数シフト手段は,
第3の受信手段で受信した第3の波と第4の受信手段で受信した第4の波を入力して,周波数をシフトする第3の周波数シフト手段と,
第1の発振手段から得られた第1の波と第2の発振手段から得られた第2の波を入力して,周波数をシフトする第4の周波数シフト手段とを備え,
前記ドップラー周波数シフト測定手段は,
第3の周波数シフト手段出力と第4の周波数シフト手段出力を入力してドップラー周波数シフトを取り出すための周波数シフト抽出手段を備える。
【0026】
〔第3の実施の形態〕
また,本発明の第3の実施の形態は,上記第1の実施の形態において,
第1の無線局における前記マルチ周波数シフト手段は,
第3の受信手段で受信した第3の波と第1の発振手段から得られた第1の波を入力して,周波数をシフトする第5の周波数シフト手段と,
第4の受信手段で受信した第4の波と第2の発振手段から得られた第2の波を入力して,周波数をシフトする第6の周波数シフト手段とを備え,
前記ドップラー周波数シフト測定手段は,
第5の周波数シフト手段出力と第6の周波数シフト手段出力を入力してドップラー周波数シフトを取り出すための周波数シフト抽出手段を備える。
【0027】
〔第4の実施の形態〕
また,本発明の第4の実施の形態は,上記第1の実施の形態において,
第1の無線局における前記マルチ周波数シフト手段は,
第3の受信手段で受信した第3の波と第2の発振手段から得られた第2の波を入力して,周波数をシフトする第7の周波数シフト手段と,
第4の受信手段で受信した第4の波と第1の発振手段から得られた第1の波を入力して,周波数をシフトする第8の周波数シフト手段とを備え,
前記ドップラー周波数シフト測定手段は,
第7の周波数シフト手段出力と第8の周波数シフト手段出力を入力してドップラー周波数シフトを取り出すための周波数シフト抽出手段を備える。
【0028】
〔第5の実施の形態〕
また,本発明の第5の実施の形態は,上記第1〜第4の実施の形態において,
第1の無線局の第1の送信手段と第2の送信手段とを共通に使用する第1の共通送信手段を設け,第1の波と第2の波を合成して,第1の共通送信手段によって送信する。
【0029】
〔第6の実施の形態〕
また,本発明の第6の実施の形態は,上記第1〜第5の実施の形態において,
第2の無線局の第1の受信手段と第2の受信手段とを共通に使用する第1の共通受信手段を設け,第1の無線局から送信された第1の波と第2の波を第1の共通受信手段によって受信し,その出力を,分離して使用する。
【0030】
〔第7の実施の形態〕
また,本発明の第7の実施の形態は,上記第1〜第6の実施の形態において,
第2の無線局の第3の送信手段と第4の送信手段とを共通に使用する第2の共通送信手段を設け,第3の波と第4の波を合成して,第2の共通送信手段によって送信する。
【0031】
〔第8の実施の形態〕
また,本発明の第8の実施の形態は,上記第1〜第7の実施の形態において,
第1の無線局の第3の受信手段と第4の受信手段とを共通に使用する第2の共通受信手段を設け,第3の波と第4の波を第2の共通受信手段によって受信し,その出力を,分離して使用する。
【0032】
以下,図面を参照しながら,お互いに移動している無線局1と無線局2について,電波のドップラー効果を測定することにより,無線局1と無線局2の相対移動速度を測定する本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0033】
図2は,本発明の実施例1を示す図である。無線局1と無線局2は相対移動速度Vdで移動しているものとする。無線局1においては,周波数f1 の波を発振する発振器3と周波数f2 の波を発振する発振器4がある。それぞれの発振器出力は,発振器3の出力が,増幅器5とアンテナ6からなる第1の送信機より送信されて,発振器4の出力が,増幅器7とアンテナ8からなる第2の送信機より送信される。ここで,
・アンテナ6から送信される電波の周波数はf1
・アンテナ8から送信される電波の周波数はf2
である。
【0034】
無線局2において,アンテナ6から送信された波は,アンテナ9,受信増幅器10,帯域通過フィルタ11からなる第1の受信機により受信され,他方,アンテナ8から送信された波は,アンテナ12,受信増幅器13,帯域通過フィルタ14からなる第2の受信機により受信される。このとき,それぞれのアンテナで受信する波はドップラー効果の影響を受けてシフトしており,
・アンテナ9で受信した電波の周波数はf1 +fd1
・アンテナ12で受信した電波の周波数はf2 +fd2
である。
【0035】
ここで,fd1,fd2はドップラー効果によってシフトした周波数の値であり,電波の伝搬速度を光速cとすると,
d1=Vd×f1 /c …(1)
d2=Vd×f2 /c …(2)
である。
【0036】
本発明の実施例では,発振器15で周波数シフト用の波(周波数Δf)を発振させておき,それぞれ受信した波を周波数シフト手段16及び19によって周波数をシフトする。ここでは,説明を簡単にするために,始めに,f1 >f2 >Δf>0 の場合について述べる。
【0037】
周波数シフト手段16は,ミキサー17と低域通過フィルタ18から構成され,帯域通過フィルタ11の出力の周波数について,減算する方向(MIX−DOWN:以下同様)にシフトする。すなわち,周波数シフト手段16の出力の周波数は,
3 =f1 +fd1−Δf …(3)
である。
【0038】
周波数シフト手段19はミキサー20と低域通過フィルタ21から構成され,帯域通過フィルタ14の出力の周波数について,減算する方向にシフトする。すなわち,周波数シフト手段19の出力の周波数は,
4 =f2 +fd2−Δf …(4)
である。
【0039】
周波数シフト手段16の出力は増幅器22,アンテナ23からなる第3の送信機によって送信され,他方,周波数シフト手段19の出力は増幅器24,アンテナ25からなる第4の送信機によって送信される。
【0040】
ここで,
・アンテナ23から送信される電波の周波数はf3 =f1 +fd1−Δf …(5)
・アンテナ25から送信される電波の周波数はf4 =f2 +fd2−Δf …(6)
である。
【0041】
無線局1においては,アンテナ23から送信された波は,アンテナ26,受信増幅器27,帯域通過フィルタ28からなる第3の受信機により受信され,他方,アンテナ25から送信された波は,アンテナ29,受信増幅器30,帯域通過フィルタ31からなる第4の受信機により受信される。
【0042】
このとき,それぞれのアンテナで受信する波はドップラー効果の影響を受けてシフトしており,
・アンテナ26で受信した電波の周波数はf3 +fd3
・アンテナ29で受信した電波の周波数はf4 +fd4
である。
【0043】
ここで,fd3,fd4はドップラー効果によってシフトした周波数の値であり,
d3=Vd×f3 /c=(f1 +fd1−Δf)Vd/c …(7)
d4=Vd×f4 /c=(f2 +fd2−Δf)Vd/c …(8)
である。
【0044】
無線局1では,発振器3で発振した周波数f1 の波と発振器4で発振した周波数f2 の波と帯域通過フィルタ28の出力の周波数f3 +fd3の波と帯域通過フィルタ31の出力の周波数f4 +fd4の波をマルチ周波数シフト手段32へ入力し,その結果を使って,無線局1と無線局2の相対移動速度を求める。
【0045】
図2に示す実施例1の場合,マルチ周波数シフト手段32は,2つの周波数シフト手段33及び34からなる。周波数シフト手段33は,ミキサー35と低域通過フィルタ36からなり,帯域通過フィルタ28の出力の周波数と帯域通過フィルタ31の出力の周波数について,減算する方向にシフトする。
【0046】
その結果,周波数シフト手段33の出力の周波数は,
5 =(f3 +fd3)−(f4 +fd4
=(f1 −f2 )+(f1 −f2 )(2+Vd/c)Vd/c …(9)
となる。
【0047】
周波数シフト手段34は,ミキサー37と低域通過フィルタ38からなり,周波数f1 の波と周波数f2 の波の差の周波数の波,
6 =f1 −f2 …(10)
を得る。
【0048】
無線局間の相対移動速度の測定手段として,周波数シフト手段39及び速度表示手段42が使われる。まず,式(9)と式(10)とを比べると,周波数f5 と周波数f6 の差をとるとドップラー効果による影響分だけが残ることが分かる。そこで,実施例1では,この影響分を取り出すために,周波数シフト手段33の出力と周波数シフト手段34の出力を周波数シフト手段39へ入力している。
【0049】
周波数シフト手段39は,ミキサー40と低域通過フィルタ41からなり,周波数f5 の波と周波数f6 の波の差の周波数の波,
7 =f5 −f6
=(f1 −f2 )(2+Vd/c)Vd/c …(11)
を得る。ここでは,ドップラー周波数シフト抽出手段として,周波数シフト手段39によって,f5 とf6 の差の周波数を求めたが,例えば,周波数カウンターを使って,それぞれf5 の周波数とf6 の周波数を求めて,演算手段によって,これらの差の周波数を求めても良い。他の実施例でも同様である。
【0050】
速度表示手段42によって,周波数シフト手段39の出力の周波数を求めて,f7 ×c/{2(f1 −f2 )}なる演算を行い,表示することにより,次の測定結果を得る。
・相対移動速度の測定結果=Vd{1+Vd/(2c)}≒Vd …(12)
図2の本発明の実施例1では,周波数シフト手段16,19,33,34の周波数に関してシフトする極性は,いずれも減算する方向(MIX−DOWN)にシフトしたが,それぞれの周波数シフト手段でシフトする極性について,それ以外に複数の組み合わせが可能である。
【0051】
1 >f2 >Δf>0の場合について,周波数シフト手段39の出力の周波数とそれぞれの周波数シフト手段の極性の関係例を表1に示す。「加算」は周波数の絶対値が大きくなる方向(MIX−UP)にシフトする意味であり,減算は周波数の絶対値が減少する方向(MIX−DOWN)にシフトする意味である。
【0052】
【表1】

【0053】
1 >Δf>f2 >0の場合について,周波数シフト手段39の出力の周波数とそれぞれの周波数シフト手段の極性の関係例を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
Δf>f1 >f2 >0の場合について,周波数シフト手段39の出力の周波数とそれぞれの周波数シフト手段の極性の関係例を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表1〜3を見ると,f7 の周波数は,(f1 +f2 )(2+Vd/c)Vd/cになる場合と,(f1 −f2 )(2+Vd/c)Vd/cになる場合とがある。相対移動速度を求めるには,前者の場合,f7 にc/{2(f1 +f2 )}をかけ,後者の場合,f7 にc/{2(f1 −f2 )}をかける。いずれも,Vd/cを十分小さい値と見て無視すれば,その演算結果は実用上Vdと等しくなることが分かる。
【実施例2】
【0058】
図3は,この発明の実施例2を示す図である。図2と図3の差異は,図2のマルチ周波数シフト手段32において,第1の波と第2の波(送信波どうし)をミキシングして得た波と,第3の波と第4の波(受信波どうし)をミキシングして得た波を比べてドップラー効果の影響を求めたが,図3ではマルチ周波数シフト手段43において,第1の波と第3の波(送信波と受信波)をミキシングして得た波と,第2の波と第4の波(もう一方の送信波と受信波)をミキシングして得た波を比べてドップラー効果の影響を測定する。
【0059】
図3の無線局1においても,図2の場合と同様に,アンテナ6及びアンテナ8から送信される波の周波数は,それぞれf1 及びf2 である。
【0060】
図3の無線局2においては,それぞれの波がドップラー効果の影響を受けて受信され,図2の場合と同様に,
・アンテナ9で受信した電波の周波数はf1 +fd1
・アンテナ12で受信した電波の周波数はf2 +fd2
である。fd1とfd2は,それぞれ,式(1)及び式(2)で与えられる。
【0061】
この場合も,説明を簡単にするために,始めは,f1 >f2 >Δf>0の場合について述べる。図3に示す本発明の実施例2においても,無線局2は図2の実施例1の場合と全く同様に,2つの周波数f1 +fd1とf2 +fd2とは,Δfだけ減算する方向にシフトして,
・アンテナ23から送信される電波の周波数はf3 =f1 +fd1−Δf …(13)
・アンテナ25から送信される電波の周波数はf4 =f2 +fd2−Δf …(14)
である。
【0062】
このとき,無線局1のそれぞれのアンテナ26及び29で受信する波はドップラー効果の影響を受けてシフトしており,
・アンテナ26で受信した電波の周波数はf3 +fd3
・アンテナ29で受信した電波の周波数はf4 +fd4
である。
【0063】
ここで,fd3,fd4はドップラー効果によってシフトした周波数の値であり,
d3=Vd×f3 /c=(f1 +fd1−Δf)Vd/c …(15)
d4=Vd×f4 /c=(f2 +fd2−Δf)Vd/c …(16)
である。
【0064】
無線局1では,発振器3で発振した周波数f1 の波と発振器4で発振した周波数f2 の波と帯域通過フィルタ28の出力の周波数f3 +fd3の波と帯域通過フィルタ31の出力の周波数f4 +fd4の波をマルチ周波数シフト手段43へ入力し,その結果を使って,無線局1と無線局2の相対移動速度を求める。
【0065】
図3に示す実施例2の場合,マルチ周波数シフト手段43は,2つの周波数シフト手段44及び45からなる。周波数シフト手段44は,ミキサー46と低域通過フィルタ47からなり,帯域通過フィルタ28の出力の周波数と発振器3の出力の周波数f1 について,減算する方向にシフトする。その結果,周波数シフト手段44の出力の周波数は,
8 =f1 −(f3 +fd3) …(17)
となる。
【0066】
周波数シフト手段45は,ミキサー48と低域通過フィルタ49からなり,帯域通過フィルタ31の出力の周波数と発振器4の出力の周波数f2 について,減算する方向にシフトする。その結果,周波数シフト手段45の出力の周波数は,
9 =f2 −(f4 +fd4) …(18)
となる。
【0067】
実施例2では,無線局間の相対移動速度の測定手段として,周波数シフト手段39及び速度表示手段42が使われる。周波数シフト手段39では,周波数シフト手段44の出力と周波数シフト手段45の出力を入力して,f8 とf9 の差を求めて,ドップラー効果の影響分を取り出している。
【0068】
10=f9 −f8
=(f1 −f2 )(2+Vd/c)Vd/c …(19)
を得る。
【0069】
以下,実施例1の場合と同様に,速度表示手段42によって,周波数シフト手段39の出力の周波数を求めて,f10×c/{2(f1 −f2 )}なる演算を行い,表示することにより,次の測定結果を得る。
・相対移動速度の測定結果=Vd{1+Vd/(2c)}≒Vd …(20)
図3の本発明の実施例2では,周波数シフト手段16,19,44,45の周波数に関してシフトする極性は,いずれも減算する方向(MIX−DOWN)にシフトしたが,それぞれの周波数シフト手段でシフトする極性について,それ以外に複数の組み合わせが可能である。
【0070】
1 >f2 >Δf>0の場合について,周波数シフト手段39の出力の周波数とそれぞれの周波数シフト手段の極性の関係例を表4に示す。「加算」は周波数の絶対値が大きくなる方向(MIX−UP)にシフトする意味であり,減算は周波数の絶対値が減少する方向(MIX−DOWN)にシフトする意味である。
【0071】
【表4】

【0072】
1 >Δf>f2 >0の場合について,周波数シフト手段39の出力の周波数とそれぞれの周波数シフト手段の極性の関係例を表5に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
Δf>f1 >f2 >0の場合について,周波数シフト手段39の出力の周波数とそれぞれの周波数シフト手段の極性の関係例を表6に示す。
【0075】
【表6】

【0076】
表4〜6を見ると,実施例1と同様に,f10の周波数は,(f1 +f2 )(2+Vd/c)Vd/cになる場合と,(f1 −f2 )(2+Vd/c)Vd/cになる場合とがある。相対移動速度を求めるには,前者の場合,f10にc/{2(f1 +f2 )}をかけ,後者の場合,f10にc/{2(f1 −f2 )}をかける。いずれも,Vd/cを十分小さい値と見て無視すれば,その演算結果は実用上Vdと等しくなることが分かる。
【実施例3】
【0077】
図4は,この発明の実施例3を示す図である。図3の場合と同様に,無線局2の帯域通過フィルタ11と14の出力の周波数は,f1 +fd1とf2 +fd2(fd1とfd2は,それぞれ式(1)及び式(2)で与えられる。)であるが,周波数シフト手段50及び53において,2つの周波数f1 +fd1及びf2 +fd2はΔfだけ加算する方向にシフトされる。
【0078】
周波数シフト手段50はミキサー51と高域通過フィルタ52から構成され,帯域通過フィルタ11の出力の周波数とΔfを加算する方向にシフトする。周波数シフト手段53はミキサー54と高域通過フィルタ55から構成され,帯域通過フィルタ14の出力の周波数とΔfについて,加算する方向にシフトする。その結果,
・アンテナ23から送信される電波の周波数はf3 =f1 +fd1+Δf …(21)
・アンテナ25から送信される電波の周波数はf4 =f2 +fd2+Δf …(22)
である。
【0079】
このとき,無線局1のそれぞれのアンテナ26及び29で受信する波はドップラー効果の影響を受けてシフトしており,
・アンテナ26で受信した電波の周波数はf3 +fd3
・アンテナ29で受信した電波の周波数はf4 +fd4
である。
【0080】
ここで,fd3,fd4はドップラー効果によってシフトした周波数の値であり,
d3=Vd×f3 /c=(f1 +fd1+Δf)Vd/c …(23)
d4=Vd×f4 /c=(f2 +fd2+Δf)Vd/c …(24)
である。
【0081】
無線局1では,発振器3で発振した周波数f1 の波と発振器4で発振した周波数f2 の波と帯域通過フィルタ28の出力の周波数f3 +fd3の波と帯域通過フィルタ31の出力の周波数f4 +fd4の波をマルチ周波数シフト手段56へ入力し,その結果を使って,無線局1と無線局2の相対移動速度を求める。
【0082】
図4に示す実施例3の場合,マルチ周波数シフト手段56は,2つの周波数シフト手段57及び58からなる。周波数シフト手段57は,ミキサー59と高域通過フィルタ60からなり,帯域通過フィルタ28の出力の周波数と発振器4の出力の周波数f2 について,加算する方向にシフトする。その結果,周波数シフト手段57の出力の周波数は,
11=f2 +(f3 +fd3) …(25)
となる。
【0083】
周波数シフト手段58は,ミキサー61と高域通過フィルタ62からなり,帯域通過フィルタ31の出力の周波数と発振器3の出力の周波数f1 について,加算する方向にシフトする。その結果,周波数シフト手段58の出力の周波数は,
12=f1 +(f4 +fd4) …(26)
となる。
【0084】
実施例3でも,無線局間の相対移動速度の測定手段として,周波数シフト手段39及び速度表示手段42が使われる。周波数シフト手段39では,周波数シフト手段57の出力と周波数シフト手段58の出力を入力して,f11とf12の差を求めて,ドップラー効果の影響分を取り出している。周波数f11の波と周波数f12の波の差の周波数の波は,
13=f11−f12
=(f1 −f2 )(2+Vd/c)Vd/c …(27)
を得る。
【0085】
以下,実施例2の場合と同様に,速度表示手段42によって,周波数シフト手段39の出力の周波数を求めて,f13×c/{2(f1 −f2 )}なる演算を行い,表示することにより,次の測定結果を得る。
・相対移動速度の測定結果=Vd{1+Vd/(2c)}≒Vd …(20)
図4の本発明の実施例3では,周波数シフト手段50,53,57,58の周波数に関してシフトする極性は,いずれも加算する方向(MIX−UP)にシフトしたが,それぞれの周波数シフト手段でシフトする極性について,それ以外に複数の組み合わせが可能である。
【0086】
1 >f2 >Δf>0の場合について,周波数シフト手段39の出力の周波数とそれぞれの周波数シフト手段の極性の関係例を表7に示す。「加算」は周波数の絶対値が大きくなる方向(MIX−UP)にシフトする意味であり,減算は周波数の絶対値が減少する方向(MIX−DOWN)にシフトする意味である。
【0087】
【表7】

【0088】
1 >Δf>f2 >0の場合について,周波数シフト手段39の出力の周波数とそれぞれの周波数シフト手段の極性の関係例を表8に示す。
【0089】
【表8】

【0090】
Δf>f1 >f2 >0の場合について,周波数シフト手段39の出力の周波数とそれぞれの周波数シフト手段の極性の関係例を表9に示す。
【0091】
【表9】

【0092】
表7〜9を見ると,実施例1,実施例2と同様に,f13の周波数は,(f1 +f2 )(2+Vd/c)Vd/cになる場合と,(f1 −f2 )(2+Vd/c)Vd/cになる場合とがある。相対移動速度を求めるには,前者の場合,f13にc/{2(f1 +f2 )}をかけ,後者の場合,f13にc/{2(f1 −f2 )}をかける。いずれも,Vd/cを十分小さい値と見て無視すれば,その演算結果は実用上Vdと等しくなることが分かる。
【実施例4】
【0093】
図5は,本発明の実施例4である。この実施例では,図2の第1の送信機と第2の送信機に相当する増幅器5,アンテナ6と増幅器7,アンテナ8を,図5の加算器63,及び増幅器64とアンテナ65からなる第1の共通送信手段で構成して,図2の第1の受信機と第2の受信機に相当するアンテナ9,受信増幅器10,帯域通過フィルタ11とアンテナ12,受信増幅器13,帯域通過フィルタ14を,アンテナ66,受信増幅器67,帯域通過フィルタ11,14からなる第1の共通受信手段で構成している。
【0094】
さらに,図2の第3の送信機と第4の送信機に相当する増幅器22,アンテナ23と増幅器24,アンテナ25を,図5の加算器68,及び増幅器69とアンテナ70からなる第2の共通送信手段で構成しており,図2の第3の受信機と第4の受信機に相当するアンテナ26,受信増幅器27,帯域通過フィルタ28とアンテナ29,受信増幅器30,帯域通過フィルタ31を,図5のアンテナ71,受信増幅器72,帯域通過フィルタ28,31からなる第2の共通受信手段で構成している。
【0095】
本発明の実施例1〜実施例3では,周波数f1 とf2 が非常に離れている場合にそれぞれ,周波数毎に専用の増幅器を用いた例であるが,お互いの周波数f1 とf2 が近いときには,増幅器を共通に使用可能であり,経済的である。また,増幅器を共通化した場合,増幅器による遅延時間のバラツキが,別々に構成される場合に比べて,軽減されるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の概要を説明する図である。
【図2】本発明の実施例1を示す図である。
【図3】本発明の実施例2を示す図である。
【図4】本発明の実施例3を示す図である。
【図5】本発明の実施例4を示す図である。
【符号の説明】
【0097】
1,2 無線局
3,4,15 発振器
5,7,22,24,64,69 増幅器
6,8,9,12,23,25,26,29,65,66,70,71 アンテナ
10,13,27,30,67,72 受信増幅器
11,14,28,31 帯域通過フィルタ
16,19,33,34,39,44,45,50,53,57,58,105,
202 周波数シフト手段
17,20,35,37,40,46,48,51,54,59,61 ミキサー
18,21,36,38,41,47,49 低域通過フィルタ
52,55,60,62 高域通過フィルタ
32,43,56 マルチ周波数シフト手段
42 速度表示手段
63,68 加算器
101 第1の発振手段
102 第2の発振手段
103,203 送信手段
104,201 受信手段
106 測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線局と第2の無線局間の相対移動速度を測定する方法であって,
前記第1の無線局から周波数の異なる第1の波および第2の波を電波として送信し,
前記第2の無線局では,前記第1の無線局から送信された第1の波および第2の波を受信し,所定の周波数シフト用の波により前記第1の波および第2の波の周波数をそれぞれシフトすることにより第3の波および第4の波を生成し,その第3の波および第4の波を電波として送信し,
前記第1の無線局では,前記第2の無線局から送信された第3の波および第4の波を受信し,前記第1の波と第2の波と第3の波と第4の波の,相異なる2組の2つの波を用いて,それぞれ周波数をシフトすることにより,周波数差が前記第1の無線局と第2の無線局間の相対移動速度に起因するドップラー効果で決められる第5の波と第6の波を生成し,前記第5の波と第6の波の周波数差に基づいて,前記第1の無線局と第2の無線局間の相対速度を測定する
ことを特徴とする移動速度測定方法。
【請求項2】
第1の無線局と第2の無線局間の相対移動速度を測定する方式であって,
前記第1の無線局は,
周波数の異なる第1の波および第2の波を電波として送信する送信手段と,
前記第2の無線局から送信された第3の波および第4の波を受信する受信手段と,
前記第1の波と第2の波と第3の波と第4の波の,相異なる2組の2つの波を用いて,それぞれ周波数をシフトすることにより,周波数差が前記第1の無線局と第2の無線局間の相対移動速度に起因するドップラー効果で決められる第5の波と第6の波を生成する周波数シフト手段と,
前記第5の波と第6の波の周波数差に基づいて,前記第1の無線局と第2の無線局間の電波の相対移動速度を測定する測定手段とを備え,
前記第2の無線局は,
前記第1の無線局から送信された第1の波および第2の波を受信する受信手段と,
所定の周波数シフト用の波により前記第1の波および第2の波をシフトして前記第3の波および第4の波を生成する周波数シフト手段と,
前記第3の波および第4の波を電波として送信する送信手段とを備える
ことを特徴とする移動速度測定方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−53054(P2006−53054A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235108(P2004−235108)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(597059465)東京レーダー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】