説明

移植機

【課題】フロートを不要にして植付作業機の軽量化や小型化を可能にするものでありながら、植付作業機の植付深さや整地装置の作用深さを調節できるようにする。
【解決手段】走行機体1の後部に昇降自在に連結され、圃場に苗を植付ける植付作業機7と、該植付作業機7の前部に設けられ、苗植付位置の前方で整地を行う整地装置14とを備える乗用田植機であって、整地装置14の後部に上下回動自在に設けられ、圃場面に追従して上下回動するリヤカバー22と、該リヤカバー22の回動角に基づいて植付作業機7の対地高さを検出するリヤカバーセンサ23と、該リヤカバーセンサ23の検出値に基づいて植付作業機7を昇降制御する制御部28とを備えると共に、整地装置14を植付作業機7に対して昇降自在に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用田植機などの移植機に関し、特に、植付作業機の前部に整地装置を備える移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、乗用田植機などの移植機は、圃場に苗を植付ける植付作業機の下部に上下揺動自在なフロートを備えており、該フロートの浮沈に基づいて植付深さを検出すると共に、検出した植付深さに基づいて植付作業機を昇降制御することにより、苗の植付深さを自動的に調整している。
【0003】
また、植付作業機の前部に整地ロータなどの整地装置を備える移植機も知られている(例えば、特許文献1参照)。このような移植機では、植付けと同時に整地ができるので、植付精度や作業効率の向上を図ることができ、特に、機体旋回によって田面が荒れやすい枕地では、整地装置による整地効果が顕著であり、植付精度を大幅に改善することができる。
【特許文献1】特開2004−65111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような移植機では、フロートや整地装置によって植付作業機の重量が増大するので、移植機全体の重量アップを招来するという問題がある。また、植付作業機の前部に整地装置を設ける場合、フロートとの干渉を避ける必要があるので、スペースの圧迫が生じ、レイアウトが制限されるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、走行機体の後部に昇降自在に連結され、圃場に苗を植付ける植付作業機と、該植付作業機の前部に設けられ、苗植付位置の前方で整地を行う整地装置とを備える移植機であって、前記整地装置の後部に上下回動自在に設けられ、圃場面に追従して上下回動するカバー体と、該カバー体の回動角に基づいて植付作業機の対地高さを検出する対地高さ検出手段と、該対地高さ検出手段の検出値に基づいて植付作業機を昇降制御する植付深さ制御手段とを備えると共に、整地装置及び/又はカバー体を、植付作業機に対して昇降自在に支持したことを特徴とする。このようにすると、フロートによる植付深さ検出が不要になるので、フロートを省くことができる。これにより、植付作業機の軽量化や小型化が図れるだけでなく、フロートによるスペースの圧迫を解消し、整地装置などのレイアウトが容易になる。しかも、整地装置及び/又はカバー体は、植付作業機に対して昇降自在に支持されているので、整地装置やカバー体の昇降位置を変更することにより、植付作業機の植付深さや整地装置の作用深さを調節することが可能になる。
また、前記植付深さ制御手段は、基準値に対する検出値の偏差に応じて植付作業機を昇降制御すると共に、基準値を調節する基準値調節手段を備えることを特徴とする。このようにすると、作業条件(例えば、圃場の硬軟)に応じて植付深さ制御の基準値を調節し、植付作業機を上昇ぎみに制御したり、下降ぎみに制御することができるだけでなく、整地装置の作用深さも変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は乗用田植機の走行機体であって、該走行機体1は、機体前部に搭載されるエンジン(図示せず)、エンジン動力を変速するトランスミッション(図示せず)、トランスミッションから出力される走行動力を左右の前輪2に伝動するフロントアクスルケース(図示せず)、トランスミッションから出力される走行動力を左右の後輪3に伝動するリヤアクスルケース4、機体上に設けられる運転席5などを備えて構成されている。
【0007】
走行機体1の後部には、昇降リンク機構6を介して植付作業機7が昇降自在に連結されている。走行機体1と昇降リンク機構6との間には、昇降シリンダ8が介設されており、該昇降シリンダ8の伸縮に応じて植付作業機7の昇降動作が行われる。図2に示すように、植付作業機7は、昇降リンク機構6の後端部に連結される作業機フレーム9、その上方に傾斜姿勢で設けられる苗載台10、作業機フレーム9から後方に延出する複数の植付伝動ケース11、各植付伝動ケース11の後端部に設けられる植付機構12などを備えて構成されており、伝動軸13を介してトランスミッションから入力した植付動力によって、苗載台10の横送り動作や植付機構12の苗植付動作を行う。
【0008】
苗を植付ける圃場は、予め代掻き作業が行われており、平坦化された田面に対して植付機構12が苗を植付けるが、植付作業機7は、走行機体1の後方で植付作業を行う関係上、車輪跡などによる田面の荒れによって植付精度が低下する可能性がある。特に、機体旋回が行われる枕地は、車輪跡による田面の荒れが顕著であり、植付精度が低下しやすい箇所である。そこで、このような問題に対処するために、植付作業機7の前部には、整地装置14が設けられる。この整地装置14は、側面視における後輪3の後方位置で整地作業を行うことにより、車輪跡による田面の荒れなどを改善し、植付精度を高めることができ、特に、枕地において改善効果が顕著である。
【0009】
整地装置14は、リヤアクスルケース4側から伝動軸15を介して動力を入力する入力ケース16、該入力ケース16から左右に延出するロータ軸17、該ロータ軸17に一体的に設けられる整地ロータ18、該整地ロータ18の上方を覆うロータカバー19、ロータ軸17を回転自在に軸支する左右一対の軸支部(図示せず)、該軸支部から上方に延出する左右一対のロータフレーム21などを備えて構成され、リヤアクスルケース4側から入力した動力で整地ロータ18を所定方向に回転させることにより、圃場の整地を行う。
【0010】
ロータカバー19の後端部には、対地高さ検知カバー及び均平カバーに兼用されるリヤカバー(カバー体)22が上下回動自在に設けられている。即ち、リヤカバー22は、先端側が圃場面に接地し、圃場面に追従して上下回動するので、その回動角に基づいて植付作業機7の対地高さを検出することが可能になる。例えば、本実施形態では、ロータカバー19上にポテンショメータからなるリヤカバーセンサ(対地高さ検出手段)23を設けると共に、該リヤカバーセンサ23を、検知ロッド24及び検知アーム25を介してリヤカバー22に連結することにより、リヤカバー22の回動角を検出するようにしている。このようにすると、フロートによる従来の植付深さ検出を行うことなく、リヤカバーセンサ23の検出値に基づいて植付作業機7を自動的に昇降制御し、植付作業機7の植付深さを一定に維持することが可能になる。その結果、フロートを省いて植付作業機7の軽量化や小型化が図れるだけでなく、フロートによるスペースの圧迫を解消し、整地装置14などのレイアウトが容易になる。
【0011】
植付作業機7の前面部には、整地装置14のロータフレーム21を上下摺動自在に支持する左右一対のガイド部材26が設けられている。ガイド部材26とロータフレーム21との間には、昇降モータ(電動シリンダ)27が介設され、該昇降モータ27の駆動に応じて整地装置14が昇降される。つまり、整地装置14は、植付作業機7に対して昇降自在に支持されているので、整地装置14の昇降位置を変更することにより、植付作業機7の植付深さを調節することが可能になる。尚、本実施形態では、整地ロータ18とリヤカバー22を一体的に昇降させるが、いずれか一方を昇降させるようにしてもよく、この場合には、整地ロータ18とリヤカバー22の相対的な位置変更により、植付作業機7の植付深さや整地装置14の作用深さを調節することが可能になる。
【0012】
図3に示すように、走行機体1には、マイクロコンピュータ(CPU、ROM、RAM、I/Oなどを含む)を用いて構成される制御部28が設けられている。制御部28の入力側には、前述したリヤカバーセンサ23の他に、整地装置14の昇降位置を検出する昇降位置センサ29、植付深さを設定する植付深さ設定ボリューム30、圃場の硬軟を設定する圃場感度設定ボリューム(基準値調節手段)31などが接続されており、また、制御部28の出力側には、前述した昇降モータ27の他に、昇降シリンダ用電磁切換バルブ32の上昇ソレノイド32aや下降ソレノイド32bが接続されている。そして、制御部28は、ROMに書き込まれたプログラムに従い、植付深さ制御(植付深さ制御手段)を実行する。植付深さ制御は、リヤカバーセンサ23の検出値を基準値に一致させるべく、植付作業機7を自動的に昇降制御することによって、植付作業機7の植付深さ(対地高さ)を一定に保つ制御機能であり、以下、植付深さ制御の具体的な制御内容について、フローチャートを参照して説明する。
【0013】
図4に示すように、植付深さ制御では、まず、各センサの検出値を読み込み(S1)、その後、昇降位置センサ29の検出値と、植付深さ設定ボリューム30の設定値とが一致しているか否かを判断する(S2)。この判断結果がNOである場合は、昇降位置センサ29の検出値が植付深さ設定ボリューム30の設定値よりも大きいか否かを判断し(S3)、該判断結果がYESの場合は、昇降モータ27を下降側に駆動させる一方(S4)、判断結果がNOの場合は、昇降モータ27を上昇側に駆動させる(S5)。例えば、図5に示すように、植付深さ設定ボリューム30を浅側に設定操作すると、整地装置14が植付作業機7に対して下降するので、リヤカバーセンサ23の回動角を一定に保つように植付作業機7を昇降制御すると、相対的に植付作業機7の対地高さが上昇し、植付深さが浅側に変更されることになる。また、図6に示すように、植付深さ設定ボリューム30を深側に設定操作すると、整地装置14が植付作業機7に対して上昇するので、リヤカバーセンサ23の回動角を一定に保つように植付作業機7を昇降制御すると、相対的に植付作業機7の対地高さが下降し、植付深さが深側に変更されることになる。
【0014】
また、植付深さ制御では、リヤカバーセンサ23の検出値と、圃場感度設定ボリューム31の設定値とが一致しているか否かを判断する(S6)。この判断結果がNOである場合は、リヤカバーセンサ23の検出値が圃場感度設定ボリューム31の設定値よりも大きいか否かを判断し(S7)、該判断結果がYESの場合は、昇降シリンダ8を下降側に動作させる一方(S8)、判断結果がNOの場合は、昇降シリンダ8を上昇側に動作させる(S9)。つまり、圃場感度設定ボリューム31の操作に応じてリヤカバーセンサ23の基準値が調節されるので、例えば、図7に示すように、圃場感度設定ボリューム31を軟い側に設定操作すると、植付作業機7を上昇ぎみに昇降制御することができ、また、図8に示すように、圃場感度設定ボリューム31を硬い側に設定操作すると、植付作業機7を下降ぎみに昇降制御することが可能になる。また、リヤカバーセンサ23の基準値を調節することにより、整地装置14の作用深さも変更可能となる。
【0015】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、走行機体1の後部に昇降自在に連結され、圃場に苗を植付ける植付作業機7と、該植付作業機7の前部に設けられ、苗植付位置の前方で整地を行う整地装置14とを備える乗用田植機であって、整地装置14の後部に上下回動自在に設けられ、圃場面に追従して上下回動するリヤカバー22と、該リヤカバー22の回動角に基づいて植付作業機7の対地高さを検出するリヤカバーセンサ23と、該リヤカバーセンサ23の検出値に基づいて植付作業機7を昇降制御する制御部28とを備えるので、フロートによる植付深さ検出を不要にし、フロートを省くことができる。これにより、植付作業機7の軽量化や小型化が図れるだけでなく、フロートによるスペースの圧迫を解消し、整地装置14などのレイアウトが容易になる。
【0016】
しかも、整地装置14(リヤカバー22)は、植付作業機7に対して昇降自在に支持されているので、整地装置14の昇降位置を変更することにより、植付作業機7の植付深さを調節することができる。
【0017】
また、制御部28は、基準値に対する検出値の偏差に応じて植付作業機7を昇降制御するにあたり、圃場感度設定ボリューム31の操作に応じて基準値を調節するので、作業条件(例えば、圃場の硬軟)に応じて植付深さ制御の基準値を調節することにより、植付作業機7を上昇ぎみに制御したり、下降ぎみに制御することができるだけでなく、整地装置14の作用深さも変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】乗用田植機の全体側面図である。
【図2】植付作業機及び整地装置の側面図である。
【図3】制御部の入出力を示すブロック図である。
【図4】植付深さ制御の制御手順を示すフローチャートである。
【図5】植付深さ設定ボリュームを浅側に設定した状態を示す植付作業機及び整地装置の側面図である。
【図6】植付深さ設定ボリュームを深側に設定した状態を示す植付作業機及び整地装置の側面図である。
【図7】圃場感度設定ボリュームを軟い側に設定した状態を示す整地装置の側面図である。
【図8】圃場感度設定ボリュームを硬い側に設定した状態を示す整地装置の側面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 走行機体
7 植付作業機
14 整地装置
18 整地ロータ
19 ロータカバー
22 リヤカバー
23 リヤカバーセンサ
27 昇降モータ
28 制御部
29 昇降位置センサ
30 植付深さ設定ボリューム
31 圃場感度設定ボリューム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に昇降自在に連結され、圃場に苗を植付ける植付作業機と、該植付作業機の前部に設けられ、苗植付位置の前方で整地を行う整地装置とを備える移植機であって、
前記整地装置の後部に上下回動自在に設けられ、圃場面に追従して上下回動するカバー体と、該カバー体の回動角に基づいて植付作業機の対地高さを検出する対地高さ検出手段と、該対地高さ検出手段の検出値に基づいて植付作業機を昇降制御する植付深さ制御手段とを備えると共に、整地装置及び/又はカバー体を、植付作業機に対して昇降自在に支持したことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記植付深さ制御手段は、基準値に対する検出値の偏差に応じて植付作業機を昇降制御すると共に、基準値を調節する基準値調節手段を備えることを特徴とする請求項1記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−167040(P2007−167040A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372961(P2005−372961)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】