説明

移植機

【課題】適切なタイミングで均一に薬剤を散布することによって、効率良くかつ経済的な薬剤散布装置を備えた移植機を提供する。
【解決手段】薬剤散布装置40は、苗供給装置の固定コンベア31前部に配設されている。薬剤散布装置40と略々同じ位置において、固定コンベア31のコンベアフレーム31a,31aには回転センサ60と、回転センサ60に苗箱を押し付けて当接させる押接板61とが対向して取付けられている。苗箱に載置された予備苗が苗供給装置の転動ローラ34上を搬送され、押接板61によって苗箱と回転センサ60とが当接すると、予備苗の位置及び搬送速度が検出される。回転センサ60によって予備苗の位置及び搬送速度が検出されると、予備苗が薬剤散布装置40の下部に位置しているときのみ、その搬送速度に合わせて薬剤が散布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体に、植付部の苗のせ台に向けて苗を供給する苗供給装置を配設した田植機等の移植機に係り、詳しくは苗供給装置に薬剤散布装置を配設した移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植付部の苗のせ台上に薬剤散布装置を配設し、該薬剤散布装置をモータにより横方向に駆動し、苗のせ台上の苗に、その全条分に亘って薬剤を散布する移植機が案出されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−86824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記苗のせ台上に薬剤散布装置を設けるものは、薬剤散布装置を横スライドさせる機構が必要であり、構造が複雑で高価になると共に、モータ等の横スライド駆動機構を含めて植付部に配置する関係上、移植機が後荷重となり、移植機の前後バランスが後バランスになっている。
【0005】
また、近時、本出願人は、走行機体に、その前部から苗のせ台に向けて苗を供給する苗供給装置を設け、苗のせ台に苗を補給する場合、移植機の前方を畦に臨ませ、補助オペレータが苗供給装置に苗を載せて該苗供給装置により苗を後方に搬送し、該搬送された苗を走行機体上でオペレータが苗のせ台に移載する移植機を提案している。
【0006】
上記苗供給装置に、該苗供給装置による苗のせ台への苗供給に連動して駆動される薬剤散布装置を設けることも提案している(特願2006−177030号;本出願時未公開)。該薬剤散布装置は、苗供給装置に連動して駆動されるため、上記苗供給装置により間をあけて搬送される苗と苗との間にも薬剤散布装置は連続して薬剤を散布し、薬剤が無駄になると共に、必要以上に薬剤を散布する等、正確で適切な薬剤散布が困難である。
【0007】
そこで、本発明は、走行機体に配置した苗供給装置に、薬剤散布装置を配設したものでありながら、薬剤を搬送苗に合わせて適切に散布することにより、上述した課題を解決した移植機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、走行機体(2)の後方に、苗のせ台(21)を有する植付部(20)を配置すると共に、前記走行機体(2)に、苗を前記苗のせ台(21)方向に向けて搬送する苗供給装置(30)を配してなる、移植機において、
前記苗供給装置(30)に、該苗供給装置(30)により搬送される苗に薬剤を散布する薬剤散布装置(40)を配設し、かつ該薬剤散布装置(40)に対応する位置に苗が有るか否かを検出すると共に該苗の前記苗供給装置(30)による搬送速度を検出する検出手段(60,63)を配設し、
前記薬剤散布装置(40)は、前記検出手段(60,63)からの信号に基づき薬剤の散布量を制御してなる、
ことを特徴とする移植機にある。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記苗供給装置(30)は、苗(A)を苗箱(B)又はスクレーパ(C)に載置した状態で搬送し、
前記検出手段(60)は、前記苗箱(B)又はスクレーパ(C)に当接して回転する回転センサ(60)である、
請求項1記載の移植機にある。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記検出手段は、ドップラー効果により苗の有無及び搬送速度を検出する超音波センサ(63)である、
請求項1記載の移植機にある。
【0011】
なお、括弧内の符号等は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によると、検出手段によって、薬剤散布装置に対応する位置に苗があるか否かを検知することによって、苗が薬剤散布装置に対応した位置にあるときのみ薬剤を散布することができる。また、検出手段によって、苗の搬送速度も同時に検出しており、苗に均一に薬剤を散布することができる。これにより、効率よくかつ経済的に薬剤を苗に散布していくことができる。
【0013】
請求項2に係る発明によると、苗箱もしくはスクレーパと当接して回転する回転センサを検出手段とすることによって、シンプルな構造でかつ安価に苗の位置及び搬送速度を検出することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によると、超音波センサを検出手段とすることによって、スクレーパ等に苗が載置されていたとしても、確実に苗の位置及びその搬送速度を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る移植機としての乗用田植機1について図面に基づいて説明をする。
【実施例1】
【0016】
乗用田植機1は、図1及び図2に示すように前輪3及び後輪4によって支持されている走行機体2を有している。走行機体2の前方中央部にはボンネット5に覆われたエンジンが搭載されており、その両側にはフロントステップ6が形成されている。また、ボンネット5の後方には、ステアリングハンドル8等を有する運転操作部10が配設されており、該運転操作部10の床面はフロントステップ6から繋がるステップ11によって覆われている。運転操作部10の後方では機体カバー13上に運転席12が配設されており、該機体カバー13には左右両側に前記ステップ6よりも一段高く且つ平坦に構成した苗供給用ステップ14が設けてある。また、走行機体2の両側には、苗を搬送、載置する苗供給装置30が配設されており、作業者は上記苗供給用ステップ14に立ち、補助者が畦際から苗供給装置30に供給する予備苗を受け取って、後述する植付作業機20の苗のせ台21に載置することができる。
【0017】
走行機体2の後方には昇降リンク15を介して上述の植付作業機(植付部)20が昇降自在に設けられており、植付部20は後方に向けて下降傾斜するように設けられた苗のせ台21と、植付伝動ケース23の両側に回転自在に取付けられたロータリーケース24及び苗のせ台21より一株ずつ苗を掻き取って植えつける複数のプランタ25からなる植付機構26とを備え、上記植付伝動ケース23の下方には田面を整地すると共に植付け高さを一定にするための田面の高さを検知するフロート28が配設されている。
【0018】
上記苗供給装置30は、固定コンベア31と、前方コンベア32と、後方コンベア33とからなり、各コンベア31,32,33のコンベアフレーム31a,32a,33a間には複数の転動ローラ34・・・が配設されている。固定コンベア31は、走行機体2から延設された取付けステー16によって固定されており、該固定コンベア31の前部には取付けブラケット35を介して上記前方コンベア32が連結され、固定コンベア31の後方には取付けブラケット36を介して後方コンベア33が連結されている。
【0019】
該苗供給装置30は、全体として前高後低に構成されており、上記複数の転動ローラ34によって、苗を機体前方側から後方側へと搬送するローラコンベアとなっていると共に、前方コンベア32及び後方コンベア33を固定コンベア31の上方に折り返して予備苗のせ台としても使用することができる。
【0020】
次に薬剤散布装置40について説明する。図4に示すように、薬剤散布装置40は、左右一対からなる支持フレーム42a,42bと、薬剤を収容する薬剤タンク41と、薬剤を散布する散布部43とからなり、固定コンベア31の前部に取付けられている。なお、薬剤とは、殺虫剤や抗菌剤等の狭義の薬剤に限らず、苗の生長を促進する意味で肥料なども含み、その形態も粉状、粒状もしくは液状など、どのようなものでもよい。
【0021】
上記薬剤タンク41は、上部に薬剤を供給する薬剤供給口41aが設けられ、下方になるに従って幅が狭まる漏斗形状となっており、その両側面には矩形の細長いプレートからなる取付けプレート47a,47bが設けられている。該薬剤タンク41の下部には貯留されている薬剤を散布部43へと供給する排出口41bが形成され、散布部43は、薬剤を散布する散布ローラ44と、該散布ローラ44を駆動させる散布モータ45から構成されている。なお、上述の薬剤供給口41aには蓋体41cが設けられ、薬剤タンク41内の薬剤の飛散を防止している。
【0022】
上記散布モータ45は取付けプレート47bの下部に取付けられており、散布モータ45の出力軸と連結した散布ローラ軸46が両取付けプレート47a,47b間に軸支されていると共に、該散布ローラ軸46には散布ローラ44が嵌挿されている。散布ローラ44は、排出口41bの横幅と略々同一長さの筒状部材であり、その外周面には薬剤の形状に適した溝が形成され、上記排出口41bと軽く接触する位置もしくは薬剤が漏れない程度の間隙を設けた位置に配設されている。
【0023】
また、散布ローラ44の下端には散布された薬剤が周囲に飛散することを防止するため、末広がり状に形成された飛散防止カバー41dが設けられていると共に、該飛散防止カバー41dには予備苗搬送方向に沿って軽微に湾曲した板状部材54が機体後方に延設されている。
【0024】
一方、固定コンベア31のコンベアフレーム31a,31aの側面には昇降アクチュエータ50と、昇降補助ロッド52が対向して取付けられている。該昇降アクチュエータ50によって上下動する昇降ロッド51には、上述した支持フレーム42aがボルト42cによって取付けプレート47aに連結され、昇降補助ロッド52には、他方の支持フレーム42bに固設されたホルダ42dが上下動自在に嵌合している。また、上記他方の支持フレーム42bは上方に長く延びており、薬剤供給装置40の操作部48を介して取付けプレート47bと連結している。これにより、薬剤散布装置40は固定コンベア31に昇降自在に取付けられている。
【0025】
なお、コンベアフレーム31a,31aには支持フレーム42a,42bの昇降を案内するガイドプレート55,55が設けられ、支持フレーム42a,42b間には苗を掻き分ける分草体53が設けられている。
【0026】
また、上記操作部48には、インバータモータからなる上記散布モータ45を始動させるメインスイッチ48aと、薬剤の散布量を調整する散布量調節ダイヤル48bとが設けられている。
【0027】
次に本発明の要部である上記薬剤散布装置40のセンサについて説明する。図1に示すように、薬剤散布装置40の前方には光電管からなる予備苗Aの高さを検知する苗高さ検出センサ62がコンベアフレーム31aに設けられている。また、図3及び4に示すように薬剤散布装置40と略々同じ位置には、苗箱Bの側面と当接して予備苗Aの有無及びその搬送速度を検知する回転センサ(検出手段)60と、苗箱Bを該回転センサ60に押し当てる押接板61とがコンベアフレーム31a上に対向して設けられている。
【0028】
これらのセンサ60,62は、図7(a)に示すように制御部70に接続されており、センサ60,62の出力に基づいて昇降アクチュエータ50及び散布モータ45を作動させ、薬剤散布装置40を適切な高さに昇降させると共に、予備苗Aが通過したときのみ、適切な量の薬剤を散布させている。
【0029】
なお、本実施例において回転センサ60によって苗箱Bの位置及び搬送速度を検出したが、一つのセンサによって苗箱Bの位置及び搬送速度の検出をしなくてもよく、例えば押接板61によって苗箱Bの位置を検知し、回転センサ60によって苗箱Bの搬送速度を検出したり、転動ローラ34の回転もしくは画像センサによって苗箱Bの搬送速度を検出したりしてもよい。また、予備苗Aを載置するものとして苗箱を代表として記載しているが、スクレーパ等でもよい。
【0030】
以下に、実施例1に係る乗用田植機の作用について説明する。
【0031】
作業者は、苗を補給するにあたり、薬剤散布装置40のメインスイッチ48aを入りにして薬剤散布装置40を起動させ、散布量調節ダイヤル48bによって薬剤の散布量を調整する。そして乗用田植機1を畦に対して略々直行するように近接させると、畦上の補助者から苗供給装置30に苗箱Bに載せられた予備苗Aを供給してもらう。
【0032】
該補助者によって苗供給装置30に載置された苗箱Bは、該苗供給装置30の傾斜に沿って転動ローラ上を機体後方へと搬送されていき、苗高さ検出センサ62によって予備苗Aの高さを検知される。予備苗Aの高さが検知されると制御部70は昇降アクチュエータ50を作動させ、予備苗Aに適した高さに薬剤散布装置40を昇降させる。
【0033】
その後、苗箱Bは薬剤散布装置40の下部付近に差し掛かると、押接板61によって回転センサ60に押し当てられる。該回転センサ60は、苗箱Bと当接すると、ローラが回転して苗箱Bが薬剤散布装置40の下部にあることを検出すると共に、その搬送速度も併せて検出する。
【0034】
回転センサ60からの情報が入力されると制御部70は、苗箱Bの搬送速度に対応した速度で散布モータ45を回転させ、散布量調節ダイヤル48bによって設定された薬剤散布量を、均等に予備苗Aに散布する。この時、予備苗Aは分草体53によって分草されており、薬剤を予備苗間に適切に散布することができる。
【0035】
その後、苗箱Bが薬剤散布装置40を通り過ぎ、回転センサ60と苗箱Bとが当接しなくなると薬剤の散布が止まり、再度苗箱Bが搬送されて回転センサ60と当接すると薬剤の散布が再開する。
【0036】
上記のように乗用田植機1を構成したことによって、乗用田植機1は、回転センサ60が苗箱Bと当接し、苗箱Bが薬剤散布装置40の下部に位置しているかどうかを検知することによって、予備苗Aが薬剤散布装置40の下方にあるときのみ正確に薬剤を散布することができる。また、回転センサ60は苗の搬送速度も検出しており、苗に均一に薬剤を散布することができる。これにより効率よくかつ経済的に薬剤を散布することができる。
【0037】
更に、苗高さ検出センサ62によって昇降アクチュエータ50を作動させ、予備苗Aの高さに合わせて薬剤散布装置40を昇降させることによって、適切な薬剤の散布が可能になり、また予備苗Aの水分によって散布ローラ44が湿ることもない。
【実施例2】
【0038】
図5,6及び図7(b)は、本発明の実施例2に係る乗用田植機1の薬剤散布装置40を示すものである。この実施例は、実施例1における検出手段である回転センサ60を超音波センサ(検出手段)63に変更したものであり、以下に実施例1の構成と相違する部分について説明する。
【0039】
図5及び図6に示すように、薬剤散布装置40と略々同じ位置には、送信機63a、受信機63bからなる超音波センサ63がコンベアフレーム31aに取付けられている。該超音波センサ63は、予備苗Aに超音波を照射してその位置を検知すると共に、予備苗Aが搬送されている場合にはドップラー効果によって反射波の周波数が変化し、この周波数を測定することによって、予備苗Aの搬送速度も検出している。
【0040】
図7(b)に示すように、上記超音波センサ63は制御部70に接続されており、検出された予備苗Aの位置及び搬送速度に基づいて、制御部70は散布モータ45を制御し、予備苗Aが薬剤散布装置40の下部に位置しているときのみ、その搬送速度に合わせて薬剤を散布する。
【0041】
上記のように構成したことにより、図6に示すように予備苗AがスクレーパCに載置されていても確実に予備苗Aの位置及び搬送速度を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る乗用田植機の側面図。
【図2】図1の乗用田植機の平面図。
【図3】本発明の第1の実施例に係る薬剤散布装置を示す平面図。
【図4】本発明の第1の実施例に係る薬剤散布装置を示す正面図。
【図5】本発明の第2の実施例に係る薬剤散布装置を示す平面図。
【図6】本発明の第2の実施例に係る薬剤散布装置を示す正面図。
【図7】(a)本発明の第1の実施例に係る乗用田植機のブロック図、(b)本発明の第2の実施例に係る乗用田植機のブロック図。
【符号の説明】
【0043】
2 走行機体
20 植付作業機(植付部)
21 苗のせ台
30 苗供給装置
40 薬剤散布装置
60 回転センサ(検出手段)
63 超音波センサ(検出手段)
A 苗(予備苗)
B 苗箱
C スクレーパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後方に、苗のせ台を有する植付部を配置すると共に、前記走行機体に、苗を前記苗のせ台方向に向けて搬送する苗供給装置を配してなる、移植機において、
前記苗供給装置に、該苗供給装置により搬送される苗に薬剤を散布する薬剤散布装置を配設し、かつ該薬剤散布装置に対応する位置に苗が有るか否かを検出すると共に該苗の前記苗供給装置による搬送速度を検出する検出手段を配設し、
前記薬剤散布装置は、前記検出手段からの信号に基づき薬剤の散布量を制御してなる、
ことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記苗供給装置は、苗を苗箱又はスクレーパに載置した状態で搬送し、
前記検出手段は、前記苗箱又はスクレーパに当接して回転する回転センサである、
請求項1記載の移植機。
【請求項3】
前記検出手段は、ドップラー効果により苗の有無及び搬送速度を検出する超音波センサである、
請求項1記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−106237(P2009−106237A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284105(P2007−284105)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】