説明

移植腎の拒絶の早期認識のためのポリペプチドマーカー

分子量および泳動時間(CE時間)についての値によって特徴づけられるポリペプチドマーカーがマーカー1ないし242(頻度マーカー)から選択される、試料中の少なくとも一つのポリペプチドマーカーの存在または非存在を測定する段階を含み、またはマーカー243ないし767(振幅マーカー)から選択される少なくとも一つのポリペプチドマーカーの振幅を測定する段階を含む、腎臓移植(NTx)後の拒絶を認識するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植腎の拒絶の早期認識のための被験者由来の試料中の一種類以上のペプチドマーカーの存在または非存在の使用および、一または複数のペプチドマーカーの存在または非存在が腎臓移植(NTx)後の拒絶の存在を示す移植腎の拒絶の早期認識のための方法に関する。
【0002】
腎臓移植はドイツで最も高頻度に実施されている臓器移植である。にもかかわらず、新しい腎臓のための待ち時間は約6〜8年である。腎臓移植(NTx)が実施された後の治療の目的は、可能な限り長期にわたる機能の維持、および移植片の拒絶の防止である。平均して、さまざまな合併症のためにNTx後に腎臓の10〜15%が失われる。したがって、その時が来たら拒絶の開始の認識が極めて重要であり、なぜなら移植片を失わないためには即時の医薬的介入が必要だからである。
【0003】
驚くべきことに、被験者に由来する試料中の特定のペプチドマーカーが、移植腎の拒絶を認識するために使用されうることが現在見出されている。
【0004】
そのため、本発明は、移植腎の拒絶を認識するための、被験者に由来する試料中の少なくとも一つのポリペプチドマーカーの存在または非存在および振幅の使用に関し、前記ポリペプチドマーカーは表1に示す通りの分子量および泳動時間によって特徴づけられるポリペプチドマーカー1ないし767から選択される。

表1:移植腎の拒絶を認識するためのポリペプチドマーカーおよびその分子量(Da)および泳動時間(CE時間(分)):





【0005】
本発明を用いて、拒絶を非常に早期に診断することが可能である。したがって、開始しつつある拒絶は薬物によって早期に治療されうる。本発明はさらに、一部非侵襲的な、または最小限に侵襲的な操作だけで、低い費用で迅速なおよび信頼性の高い拒絶の認識を可能にする。
【0006】
泳動時間は、たとえば、実施例に項目2として示される通り、キャピラリー電気泳動(CE)によって測定される。この実施例では、長さ90cmおよび内径(ID)50μmおよび外径(OD)360μmのガラスキャピラリーが付加電圧25または30kVにて操作される。移動相溶媒として30%メタノール、0.5%ギ酸または20%アセトニトリルおよび0.25Mギ酸を含む水が使用される。
【0007】
CE泳動時間は変動しうることが知られている。にもかかわらず、ポリペプチドマーカーが溶出される順序は典型的には使用される任意のCE系について記載の条件下で同一である。泳動時間にそれにもかかわらず起こりうる何らかの差のバランスを取るために、系は泳動時間が正確に知られている標準物質を用いて正規化されうる。これらの標準物質は、たとえば、実施例に記載されるポリペプチドでありうる(実施例の項目3を参照)。
【0008】
表1から2に示されるポリペプチドの特徴づけは、たとえばノイホフ(Neuhoff)ら(Rapid communications in mass spectrometry,2004,Vol.20,pages 149−156)によって詳細に記載されている方法である、キャピラリー電気泳動−質量分析(CE−MS)を用いて測定された。各測定間または異なる質量分析計間の分子量の変動は、較正が正確である場合には相対的に小さく、典型的には(0.1%の範囲内、好ましくは(0.05%の範囲内、より好ましくは±0.03%である。
【0009】
本発明に記載のポリペプチドマーカーは、タンパク質またはペプチド、またはタンパク質またはペプチドの分解産物である。それらは、たとえば、グリコシル化、リン酸化、アルキル化またはジスルフィド架橋といった翻訳後修飾によって、または、たとえば分解の範囲内の他の反応によって、化学的に修飾されうる。加えて、ポリペプチドマーカーはまた、試料の精製中に化学的に変化、たとえば、酸化されうる。
【0010】
ポリペプチドマーカーを決定するパラメーター(分子量および泳動時間)から進んで、対応するポリペプチドの配列を同定することが先行技術で公知の方法によって可能である。
【0011】
本発明に記載のポリペプチド(表1から4を参照)が、移植片の拒絶の始まりを診断するのに用いられる。「診断」とは、症状または現象を疾患または傷害に割り当てることによって知識を得る過程を意味する。この場合には、拒絶が特定のポリペプチドマーカーの存在または非存在、または振幅の差から結論される。このように、本発明に記載のポリペプチドマーカーが被験者由来の試料において測定され、その存在または非存在およびシグナル強度/振幅が、拒絶の存在を結論することを可能にする。ポリペプチドマーカーの存在または非存在および振幅は、先行技術で公知である任意の方法によって測定されうる。使用されうる方法が下記に例示される。
【0012】
ポリペプチドマーカーは、その測定値が少なくともその閾値と同じ高さであるならば、存在するとみなされる。測定値がより低いならば、ポリペプチドマーカーは存在しないとみなされる。閾値は測定法の感度(検出限界)によって決定されうるかまたは経験的に定義されうる。
【0013】
本発明に関連して、好ましくはある分子量について試料の測定値がブランク試料(たとえば、緩衝液または溶媒のみ)の測定値より少なくとも2倍高いならば、閾値を超えるとみなされる。
【0014】
一または複数のポリペプチドマーカーが、その存在または非存在が測定される方法で用いられ、存在または非存在が拒絶を示す(頻度マーカー番号1ないし242;表2)。このように、ポリペプチドマーカー番号1から5といった、典型的には腎臓移植(NTx)および拒絶後の患者(疾患)に豊富であるが、腎臓移植(NTx)後の拒絶無しの被験者(対照)ではより少ないポリペプチドマーカーがある。加えて、拒絶の無い被験者に豊富であるが、拒絶を有する被験者にはより少ないかまたは存在しない、たとえば、番号6から15(表2)のようなポリペプチドマーカーがある。

表2:移植腎の拒絶の認識のためのポリペプチドマーカー(頻度マーカー)、その分子量および泳動時間、およびNTx後の拒絶有りの患者の群および対照群すなわちNTx後の拒絶無しの患者における係数としてその存在および非存在(1=100%,0=0%;実施例に記載の通り試料処理および測定)。


【0015】
頻度マーカー(存在または非存在の測定)に加えてまたは代替的に、表3 および 4に記載の振幅マーカーもまた移植腎の拒絶の診断に使用されうる(番号243−767)。振幅マーカーは、存在または非存在が決定的でなく、シグナルの高さ(振幅)がそのシグナルが両方の群で存在するかどうかを決定するような方法で使用される。別々に濃縮された試料または異なる測定法間の比較可能性を達成するためには二つの正規化法が可能である:
【0016】
最初の方法では、試料のすべてのペプチドシグナルは総振幅100万カウントに対して正規化される。したがって、各マーカーそれぞれの平均振幅は百万分率(ppm)として示される。この方法によって得られた振幅マーカーを表3に示す(番号243−627)。加えて、代替的な正規化法によって他の振幅マーカーを定義することが可能である:
【0017】
この場合は、試料のすべてのペプチドシグナルは共通の正規化係数が掛けられる。そのようにして、各試料のペプチド振幅と試料中の既知のポリペプチドの参照値との直線回帰が作製される。回帰直線の傾きは相対濃度にちょうど相当し、およびこの試料についての正規化係数として用いられる。この方法によって特徴づけられるマーカーを表4に示す。
【0018】
使用したすべての群は、信頼性のある平均振幅を得るために、少なくとも19、好ましくは 少なくとも20の個別の患者または対照試料から成る。診断についての決定(移植腎の拒絶またはそうでない)は、対照群または拒絶群における平均振幅と比較して患者試料中の各ポリペプチドマーカーの振幅がどのくらい高いかの関数として行われる。振幅が拒絶群の平均振幅により対応すれば、移植腎の拒絶が考慮されるべきであり、および振幅が対照群の平均振幅により対応すれば、拒絶は考慮されるべきでない。より正確な定義は、マーカー番号247(表3)によって与えられる。本マーカーの平均振幅は移植腎が拒絶されている場合に顕著に上昇する(654ppmに対し拒絶無し群では75ppm)。ここで、患者試料中のこのマーカーについての値が0ないし75ppmであるかまたはこの範囲を最大20%超える、すなわち、0ないし90ppmであるならば、この試料は拒絶無しの対照群に属する。その値が654ppmまたは最大20%下回るまたはより高い、すなわち、523ないし非常に高値であるならば、腎臓移植後の拒絶が考慮されるべきである。
表3:振幅マーカー(ppm正規化)



表4:振幅マーカー(正規化機能を有する)

【0019】
一種類以上のポリペプチドマーカーの存在または非存在または振幅が測定される試料が由来する被験者は、NTx後の拒絶に罹患することのできる任意の対象、たとえば、動物またはヒトでありうる。好ましくは、被験者は哺乳類であり、および非常に好ましくは、被験者はヒトである。
【0020】
本発明の好ましい一実施形態では、一つのポリペプチドマーカーだけでなく、マーカーの組み合わせがNTx後の拒絶に用いられ、NTx後の拒絶の存在がそれらの存在または非存在および振幅の差から結論される。複数のポリペプチドマーカーを比較することによって、患者または対照における典型的な存在確率からのいくつかの個別の変動から生じる全体結果の偏りが低減または回避されうる。
【0021】
本発明に記載の一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在が測定される試料は、被験者の体から得られる任意の試料でありうる。試料は、被験者の状態についての情報(NTx後の拒絶またはそうでない)を提供するのに適したポリペプチド組成を有する試料である。たとえば、試料は血液、尿、滑液、組織液、耐分泌物、汗、脳脊髄液、リンパ液、腸液、胃液または膵液、胆汁、涙液、組織試料、精子、膣液または糞便試料でありうる。好ましくは、試料は液体試料である。
【0022】
好ましい一実施形態では、試料は尿試料または血液試料であり、および前記血液試料は(血液)血清または(血液)血漿試料でありうる。
【0023】
尿試料は先行技術で公知の通り採取されうる。好ましくは、中間尿試料が本発明に関連して用いられる。たとえば、尿試料はカテーテルによって、またはWO 01/74275に記載の排尿器具によってもまた、採取されうる。
【0024】
血液試料は先行技術で公知の方法によって、たとえば、静脈、動脈または毛細管から採取されうる。通常は、血液試料は静脈血をシリンジを用いて、たとえば、被験者の腕から採取することによって得られる。「血液試料」の語は、血漿または血清といった、さらなる精製および分離方法によって血液から得られた試料を含む。
【0025】
試料中のポリペプチドマーカーの存在または非存在および振幅は、ポリペプチドマーカーの測定に適した先行技術で公知の任意の方法によって測定されうる。そのような方法は当業者に公知である。原則的に、ポリペプチドマーカーの存在または非存在および振幅は、質量分析のような直接的方法、または、たとえばリガンドを用いるような間接的方法によって測定されうる。
【0026】
必要であればまたは望ましければ、被験者由来の試料、たとえば尿試料は、任意の適当な方法で前処理することができ、および、一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在および振幅が測定される前にたとえば精製または分離されうる。処理は、たとえば、精製、分離、希釈または濃縮を含みうる。方法は、たとえば、遠心分離、ろ過、限外ろ過、透析、沈澱、または、アフィニティ分離またはイオン交換クロマトグラフィーによる分離といったクロマトグラフィー法、または電気泳動分離でありうる。その具体例は、ゲル電気泳動、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)、キャピラリー電気泳動、金属アフィニティクロマトグラフィー、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)、レクチンを用いるアフィニティクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相および逆相HPLC、陽イオン交換クロマトグラフィーおよび表面への選択的結合である。これらの方法のすべてが当業者に公知であり、および当業者はその方法を、使用する試料および一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在を測定するための方法の関数として選択することができる。
【0027】
本発明の一実施形態では、試料は、測定される前に、キャピラリー電気泳動によって分離され、超遠心分離によって精製されおよび/または限外ろ過によって特定の分子サイズのポリペプチドマーカーを含む画分へと分割される。
【0028】
好ましくは、ポリペプチドマーカーの存在または非存在および振幅を測定するために質量分析法が用いられ、試料の精製または分離がその方法の上流で実施されうる。現在用いられている方法と比較して、質量分析は、試料の多数の(>100)ポリペプチドが単一の分析によって測定されうるという長所を有する。任意の種類の質量分析計が使用されうる。質量分析によって、10fmolのポリペプチドマーカー、すなわち、0.1ngの10kDaタンパク質を、複雑な混合物中で約(0.01%の測定精度でルーチンとして測定することが可能である。質量分析計では、イオン生成部が適当な分析装置と連結されている。たとえば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)インターフェイスは主に液体試料中のイオンを測定するのに用いられ、一方、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)法はマトリクスと結晶化した試料由来のイオンを測定するのに用いられる。生成したイオンを分析するためには、四重極、イオントラップまたは飛行時間(TOF)分析器が使用されうる。
【0029】
エレクトロスプレーイオン化(ESI)では、溶液中に存在する分子は、特に高電圧(たとえば、1〜8kV)の影響下で噴霧され、荷電した小滴を形成し、小滴は溶媒の蒸発からさらに小さくなる。最後に、いわゆるクーロン爆発が遊離イオンの形成を引き起こし、遊離イオンはその後分析および検出されうる。
【0030】
TOFによるイオンの分析では、イオンに等量の運動エネルギーを与える一定の加速電圧が加えられる。その後、各イオンが肥厚チューブを通じて特定の漂流距離を移動するのに要する時間が非常に正確に測定される。等量の運動エネルギーでは、イオンの速度は質量に依存するため、したがって質量が測定されうる。TOF分析器は非常に高いスキャン速度を有し、およびしたがって非常に高い分解能に達する。
【0031】
ポリペプチドマーカーの存在および非存在の測定のための好ましい方法は、気相イオンスペクトル法、たとえばレーザー脱離/イオン化質量分析、MALDI−TOF MS、SELDI−TOF MS(表面増強レーザー脱離/イオン化)、LC−MS(液体クロマトグラフィー/質量分析)、2D−PAGE/MSおよびキャピラリー電気泳動−質量分析(CE−MS)を含む。上記のすべての方法が当業者に公知である。
【0032】
特に好ましい方法が、キャピラリー電気泳動が質量分析と組み合わされるCE−MSである。この方法は、たとえば、独国特許出願DE 10021737に、カイゼル(Kaiser)ら(J Chromatogr A,2003,Vol.1013: 157−171,および Electrophoresis,2004,25: 2044−2055)に、およびウィトケ(Wittke)ら(Journal of Chromatography A,2003,1013: 173−181)にある程度詳細に記載されている。CE−MS技術は、試料の数百のポリペプチドマーカーの存在および振幅を同時に短時間内におよび少量で高感度で測定することを可能にする。試料が測定された後、測定されたポリペプチドマーカーのパターンが作成される。このパターンは、患者または健常者の参照パターンと比較されうる。大部分の場合で、NTx後の拒絶を認識するためには、限ら@0032
れた数のポリペプチドマーカーを使用するので十分である。ESI−TOF MS装置にオンラインで連結されたCEを含むCE−MS法がさらに好ましい。
【0033】
CE−MSのためには、揮発性溶媒の使用が好ましく、および本質的に塩を含まない条件下で最も良く働く。適した溶媒の例は、アセトニトリル、メタノールなどを含む。溶媒は、水で希釈されうるかまたは、分析物、好ましくはポリペプチドをプロトン化するために弱酸(たとえば、0.1%ないし1%ギ酸)と混合されうる。
【0034】
キャピラリー電気泳動を用いて、分子を電荷およびサイズによって分離することが可能である。中性粒子は電流を加える際に電気浸透流動の速度で泳動し、一方で陽イオンは正極に向かって加速し、および陰イオンは遅延する。電気泳動におけるキャピラリーの長所は、体積に対する表面の比が有利なことにあり、これは電流フローの間に生じるジュール熱の良好な損失を可能にする。これは今度は高電圧(通常は最大30kV)の付加を可能にし、およびそのようにして高い分離性能および短い分析時間を可能にする。
【0035】
キャピラリー電気泳動では、典型的には50ないし75μmの内径を有するシリカガラスキャピラリーが通常用いられる。使用される長さは30ないし100cmである。加えて、キャピラリーは通常はプラスチック被覆シリカガラス製である。キャピラリーは、未処理、すなわち内表面上の親水基を曝露しているか、または内表面が被覆されているかの両方でありうる。疎水性コーティングは分解能を改善するために使用されうる。電圧に加えて、圧力もまた加えることができ、圧力は典型的には0ないし1psiの範囲内である。圧力もまた、実施中にのみ加えることができるか、または途中で変化させることができる。
【0036】
ポリペプチドマーカーの測定のための好ましい方法では、試料のマーカーはキャピラリー電気泳動を用いて分離され、次いで直接にイオン化され、および検出のために連結された質量分析計へオンラインで移送される。
【0037】
本発明に記載の方法では、NTx後の拒絶を認識するためにいくつかのポリペプチドマーカーを使用することが有利である。特に、たとえば、マーカー1、2および3;1、2および4;などといった、少なくとも3種類のポリペプチドマーカーが使用されうる。
【0038】
より好ましいのは、少なくとも4、5または6種類のマーカーの使用である。
【0039】
さらにより好ましいのは、少なくとも10種類のマーカー、たとえば、マーカー1から10の使用である。
【0040】
非常に好ましいのは、表1および2に列記された767種類のマーカーすべての使用である。
【0041】
いくつかのマーカーが用いられる場合にNTx後の拒絶の存在の確率を測定するためには、当業者に公知である統計的手法が使用されうる。たとえば、ワイシンガー(Weissinger)らによって記載されたランダムフォレスト法(Kidney Int.,2004,65: 2426−2434)が、S−プラスといったコンピュータープログラムを用いることによって使用されうる。
【実施例】
【0042】
1.試料調製
NTx後の拒絶を認識するためのポリペプチドマーカーを検出するために、尿を用いた。尿はNTx後の拒絶を有する患者から、およびNTx後の拒絶無しの患者(対照群)から採取された。
【0043】
両方の群の患者についての移植時点での臨床データを下記の表5に示す:

表5:使用された患者の群についての移植中の臨床データ

【0044】
以降のCE−MS測定のために、アルブミンおよび免疫グロブリンといった、より高濃度で患者の尿に含まれるタンパク質は限外ろ過によって分離除去されなければならなかった。したがって、尿700μlを取り、および700mlのろ過緩衝液(2M尿素、10mMアンモニア、0.02%SDS)と混合した。この1.4mlの試料量を限外ろ過した(20kDa、ザルトリウス社(Sartorius)ドイツ、ゲッチンゲン(Gottingen))。限外ろ過は3000rpmにて遠心分離機で、限外ろ液1.1mlが得られるまで実施された。
【0045】
得られたろ液1.1mlを次いで脱塩のためにPD−10カラム(アマシャム・バイオサイエンス社(Amersham Bioscience)、スウェーデン、ウプサラ(Uppsala))に加え、および0.01%NH4OH水溶液2.5mlで溶出し、および溶出液を続いて凍結乾燥した。CE−MS測定のために、ポリペプチドをその後、水(HPLCグレード、メルク社(Merck))20μlで再懸濁した。
【0046】
2.CE−MS測定
CE−MS測定は、ベックマン・コールター社のキャピラリー電気泳動システム(P/ACE MDQシステム;Beckman Coulter Inc.,米国フラートン(Fullerton))およびブルカーESI−TOF質量分析計(micro−TOFMS、ブルカー・ダルトニクス社(Bruker Daltonik)、ドイツ、ブレーメン)を用いて実施された。
【0047】
CEキャピラリーはベックマン・コールター社から調達され、およびID/OD50/360μmおよび長さ90cmであった。CE分離のための移動相は、20%アセトニトリルおよび0.25Mギ酸を含む水から成った。MSでの「シース流」用には、0.5%ギ酸を含む30%イソプロパノールが流速2μl/分にて用いられた。CEおよびMSの連結はCE−ESI−MSスプレイヤー・キット(アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies)、ドイツ、ワルドブロン(Waldbronn))によって実現された。
【0048】
試料を注入するには、1ないし最大6psiの圧力が加えられ、および注入の持続時間は99秒であった。これらのパラメーターを用いて、試料約150nlがキャピラリーに注入され、これは、キャピラリー体積の約10%に相当する。キャピラリー中の試料を濃縮するためにスタッキング法が用いられた。このように、試料が注入される前に、1M NH3溶液が7秒間(1psiにて)注入され、および試料が注入された後に、2Mギ酸溶液が5秒間注入された。分離電圧(30kV)が加えられた後、分析物はこれらの溶液の間で自動的に濃縮された。
【0049】
以降のCE分離は圧力法を用いて実施された:0psiにて40分、次いで0.1psiにて2分、0.2psiにて2分、0.3psiにて2分、0.4psiにて2分、および最後に0.5psiにて32分。分離実行の合計時間はしたがって80分であった。
【0050】
MSの側で可能な限り良好なシグナル強度を得るために、ネブライザーガスは可能な最低値に設定された。エレクトロスプレーを生じるためにスプレーニードルに加えられた電圧は3700〜4100Vであった。質量分析計でのその他の設定は、取扱説明書に従ってペプチド検出用に最適化された。スペクトルは質量範囲m/z400からm/z3000に渡って記録され、および3秒毎に蓄積された。
【0051】
3.CE測定用標準
CE測定を点検および較正するために、選択された条件下での記載のCE泳動時間によって特徴づけられる下記のタンパク質またはポリペプチドが用いられた:
タンパク質/ポリペプチド CE泳動時間
アプロチニン(シグマ社(SIGMA)、ドイツ・タウフキルヒェン(Taufkirchen)、品番A1153) 9.2分
リボヌクレアーゼ(シグマ社、ドイツ・タウフキルヒェン、品番R4875)10.9分
リゾチーム(シグマ社、ドイツ・タウフキルヒェン、品番L7651) 8.9分
"REV"、配列:REVQSKIGYGRQIIS 15.6分
"ELM"、配列:ELMTGELPYSHINNRDQIIFMVGR 23.4分
"KINCON"、配列:TGSLPYSHIGSRDQIIFMVGR 20.0分
"GIVLY"配列:GIVLYELMTGELPYSHIN 36.8分
【0052】
タンパク質/ポリペプチドはそれぞれ10pmol/μl水の濃度にて使用された。"REV"、 "ELM"、 "KINCON"および"GIVLY"は合成ペプチドである。
【0053】
ペプチドの分子量およびMSで見られる各荷電状態のm/z比を下記の表に列記する:


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量および泳動時間(CE時間)について下記の値によって特徴づけられるポリペプチドマーカーがマーカー1ないし242(頻度マーカー)から選択される、試料中の少なくとも一つのポリペプチドマーカーの存在または非存在を測定する段階を含み、またはマーカー243ないし767(振幅マーカー)から選択される少なくとも一つのポリペプチドマーカーの振幅を測定する段階を含む、腎臓移植(NTx)後の拒絶を認識するための方法:





【請求項2】
マーカー1ないし242の測定された存在または非存在の評価が下記の参照値を用いて実施される、請求項1に記載の方法:


【請求項3】
マーカー243ないし767の振幅の評価が下記の参照値を用いて実施される、請求項1に記載の方法:



または、

【請求項4】
請求項1で定義される少なくとも2種類または少なくとも3種類または少なくとも5種類または少なくとも10種類またはすべてのポリペプチドマーカーが用いられる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
被験者由来の試料が尿試料または血液試料(血清または血漿試料)である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
キャピラリー電気泳動、HPLC、気相イオンスペクトル法および/または質量分析が、一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在を検出するのに用いられる、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
キャピラリー電気泳動が、ポリペプチドマーカーの分子量が測定される前に実施される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
質量分析が、一または複数のポリペプチドマーカーの存在または非存在を検出するのに用いられる、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
CE時間が、20%アセトニトリル・0.25Mギ酸水溶液が移動溶媒として用いられる付加電圧25kVにて長さ90cmおよび内径(ID)50μmのガラスキャピラリーに基づく点で特徴づけられる、請求項1から8のうち少なくとも一つに記載の方法。
【請求項10】
NTx後の拒絶を認識するための、分子量および泳動時間について下記の値によって特徴づけられるマーカー番号1ないし767から選択される少なくとも一つのポリペプチドマーカーの使用:





【請求項11】
以下から選択される少なくとも3つのマーカーを含むマーカーの組み合わせ。






【公表番号】特表2008−545130(P2008−545130A)
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518827(P2008−518827)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063635
【国際公開番号】WO2007/000466
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(506074808)モザイクヴェス ディアグノシュティクス アンド テラポイティクス アクチェン ゲゼルシャフト (6)
【Fターム(参考)】