説明

種々の環境下での保護に供する環境および熱バリア皮膜

種々の環境下における保護に供する物品(100)及び方法が提供される。物品(100)は、第1の熱膨張係数を有する固体基板(102)と、第2の熱膨張係数を有する酸化マグネシウム系層(106)と、固体基板(102)及び酸化マグネシウム系層(106)間に配置された接着コート(104)とから成る。接着コート(104)は、実質的に第1及び第2の熱膨張係数の中間にある第3の熱膨張係数を有し、固体基板(102)及び酸化マグネシウム系層(106)間の熱的適合性を助成する。更に、酸化マグネシウム系層(106)は、実質的に非孔性であり、それによって、固体基板(102)への気体、粒状物質、スチーム及び流体の侵入を制限する気密シールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的に、米国エネルギー省により付与された承認番号DEFG−0203ER83620の政府支援下になされたものである。政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【0002】
この出願は、2006年1月25日出願の米国仮特許第60/762,352号、名称「環境バリア皮膜」の優先権を主張する。
【0003】
本発明は、金属基板用環境バリア皮膜に関し、より詳しくは、高温、腐食また脆化環境下で金属またはセラミックを保護するための環境バリア皮膜に関する。
【背景技術】
【0004】
一体ガス化結合サイクル(「IGCC」)システムは、非常に効率的かつ環境に好適な発電を実現する途方もない可能性を有する。更に、IGCCシステムは、捕捉および貯蔵による二酸化炭素排出量低減のための最低コスト長期オプションを提供すると考えられる。
【0005】
IGCC技術は、ガス化プロセスを、ガスタービン結合サイクルユニットと結合して、低排気の高効率運転を引き出すことができる。重油残渣、高硫黄含量石炭、更にはバイオマスさえも、上記ガス化プロセスで使用可能な供給原料と成る。これらから製造される合成ガス(あるいは「シンガス(syngas)」)は、ガスタービンを駆動して、発電を行うために使用され、一方で、得られた排ガスは、水蒸気(スチーム)の発生に使用される。スチームは、スチームタービンの駆動に使用され、スチームタービンは、更なる発電を行う。
【0006】
IGCC出力および作動効率は、システム作動温度に伴って増加する。第1の発電IGCCシステムは、低温プロセスを使用して、合成ガスを、非常に純粋なレベルまで洗浄することができる一方、出力及び作動効率を最大限に高めるように設計された第2の発電システムは、不純物除去で非効率である傾向がある。高温合成ガス環境での次善の材料性能および安定性が、今日、IGCCシステムの広い普及に対する主な障害となっている。
【0007】
IGCCシステムで使用されるタービンは、典型的には、天然ガス、即ち最も純粋な気体燃料で作動するように設計されている。結果として、硫黄、ナトリウム、カリウム及び他の炭がら不純物等の微量不純粒状物質が、ブレード材の損傷の可能性を高めている。かかる汚染物は、タービンブレードに付着し、これを浸食し、脆化し、及び/又は腐食する可能性があり、ひいては、ブレード交換及びこれに伴う作動ダウン時間の両方の意味で作動コストの増加、並びに作動効率の低下を生じる。
【0008】
環境バリア皮膜(「EBC」)は、厳しい環境で熱的および環境的攻撃に曝された合金成分を保護するために開発されている。EBCは、ガスタービンシステム、燃料電池およびプラズマ及びガス改質システムにおける合金成分の保護に有用であり、また、化学、石油化学、触媒、医療、地方自治、エアフォイルおよび他の工業で応用可能である。かかる皮膜は、しかしながら、熱サイクルおよびEBCとベース合金との間の熱的こう配の結果として、亀裂および層剥離を被る。更に、公知のEBCは、気体及び水蒸気の侵入を許容する本質的な多孔性を示す傾向があり、これら気体及び水蒸気の一方または両方は、皮膜破損の原因となる可能性がある。これらの問題は、度々、IGCCシステムにおいて顕著化し、このシステムでは、EBCは、高温、湿還元環境および石炭由来合成ガスに典型的な不純物に曝される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に鑑み、高性能環境バリア皮膜が、種々の環境下で、合金成分を保護するために要求されている。有利には、かかる環境バリア皮膜は、還元酸化環境における改良耐腐食性、ベース合金との高接着性、ベース合金との高熱機械的および熱化学的適合性、周囲ガス及び熱ガスへの曝露に対する高熱化学的および熱機械的安定性、及び低製造コストを示す。かかる環境バリア皮膜は、本明細書中で開示され、請求の範囲に記載される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、従来技術の現状に応じて、特に、現存の環境バリア皮膜によって依然十分に解決されない従来技術の問題及び要求に従って開発された。従って、種々の環境で高性能保護が可能な環境バリア皮膜が開発された。
【0011】
本発明に従った一実施形態において、高温水性環境下で耐腐食性を示す保護皮膜を有する物品は、固体基板、少なくとも1つの酸化マグネシウム系層、及びこれらの間に配置された接着層から成る。一実施形態において、基板は、金属である。他の実施形態において、基板は、セラミックでもよい。基板および酸化マグネシウム系層間には、熱膨張係数こう配が設けられ、それらの熱的適合性を促進する。より詳しくは、金属基板は、第1の熱膨張係数を有し、酸化マグネシウム系層は、第2の熱膨張係数を有し、接着層は、第1及び第2の熱膨張係数の実質的に中間の第3の熱膨張係数を有することができる。
【0012】
ある種の実施形態においては、金属基板は、鉄系金属、非鉄系金属、ステンレス鋼、合金、スーパー合金又はハイネス230(Haynes230;登録商標)スーパー合金から成る。金属基板は、化学的エッチング、機械的粗面化、サンドブラスト及び/又は予備酸化の処理を行うことにより、接着層への物理的接着性を改良された接着面を有していてもよい。
【0013】
酸化マグネシウム系層は、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ジルコニウム、酸化セシウム、酸化チタニウム、酸化鉄または酸化アルミニウム等のドーパントを含んでいてもよい。これらドーパントは、約0モル%から約20モル%の濃度で存在することができる。
【0014】
ある種の実施形態においては、酸化マグネシウム系層は、気密シールを提供する、トップコート及びトップコートの下側に隣接配置された1つ以上の中間層を有していてもよい。中間層は、実質的に、酸化マグネシウムから成る。トップコートは、接着コート及びトップコート間における熱膨張係数こう配およびベース酸化物MgOの耐変態性を付与する濃度で、ドーパントを含有することができる。幾つかの実施形態では、トップコートは、セリウム投与酸化マグネシウム、イットリア投与酸化マグネシウム、アルミニウム投与酸化マグネシウム、ジルコニウム投与酸化マグネシウム、鉄投与酸化マグネシウム、ニッケル投与酸化マグネシウム又は単一酸化マグネシウムを有していてもよい。
【0015】
一実施形態においては、中間層は、酸化マグネシウムマイクロ粒子を含む第1の中間層およびその第1の中間層の下側に隣接配置された、酸化マグネシウムナノ粒子を含む第2の中間層から成る。全酸化マグネシウム系層は、約1ミクロン〜約200ミクロンの深さを有し、そして実質的に非孔性であってもよい。
【0016】
接着層は、酸化ランタン投与酸化マグネシウム、酸化セリウムマグネシウム、酸化チタニウム投与酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化チタニウム、酸化アルミニウム、酸化ニッケル投与酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄投与酸化マグネシウム、酸化銅投与酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム投与酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム投与酸化マグネシウム、酸化セシウム投与酸化マグネシウム、酸化アルミニウム投与酸化マグネシウム、酸化チタニウム投与酸化マグネシウム、及び/又はニッケル投与酸化マグネシウムを含んでいてもよい。接着層は、焼結以前の未処理(green)液又は未処理(green)材料の形状であってもよく、硝酸塩溶液、コロイダル懸濁液または上記金属酸化物のスラリーの形状でもよく、また、更に、結着剤または界面活性剤を含んでいてもよい。
【0017】
また、本発明によれば、高温水性環境における腐食からセラミック又は金属基板を保護する方法が提供される。一実施形態においては、前記方法は、第1の熱膨張係数を有する金属基板を提供する工程と、第2の熱膨張係数を有する1つ以上の酸化マグネシウム系層を提供する工程と、実質的に第1及び第2の熱膨張係数の中間にある第3の熱膨張係数を有する接着層を選択する工程とから成る。前記方法は、更に、金属基板を、例えば、浸漬コーティング、刷毛塗り、スプレー、スピンコーティング又は湿潤等の方法によって、接着層材料の懸濁液で被覆する工程を含む。幾つかの実施形態においては、前記方法は、また、接着層を焼結する工程を含む。次いで、酸化マグネシウム系層の懸濁液が、同様に、浸漬コーティング、刷毛塗り、スプレー、スピンコーティング又は湿潤等の方法によって、接着層に塗布され、そしてある種の実施形態では、塗布された層を、焼結する。
【0018】
ある種の実施形態においては、本発明の実施形態に従った金属基板をコーティングする工程が、更に、金属基板及び接着層間の物理的接着性を高める金属基板接着面を調製する工程を含んでいてもよい。上記接着面は、基板表面を、化学的エッチング、機械的粗面化、サンドブラスト、化学的洗浄、超音波処理および/または予備酸化して調製してもよい。
【0019】
本発明の特徴および長所は、以下の記載および添付請求の範囲から、より十分に明確となり、以下に述べる本発明の実施によって習得されることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の高性能環境バリア皮膜は、種々の環境下で、合金成分を保護でき、還元酸化環境における改良耐腐食性、ベース合金との高接着性、ベース合金との高熱機械的および熱化学的適合性、周囲ガス及び熱ガスへの曝露に対する高熱化学的および熱機械的安定性、及び低製造コストを達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の利点を容易に理解するため、上記で要約された本発明を、添付図面に例示された特定の実施形態を参照して、より詳細に説明する。これら図面は、単に本発明の典型的な実施形態を示し、それ故、その権利範囲を限定するものではないことを理解したうえで、本発明の更なる特殊性および詳細に関し、添付図面を使用して、記載および説明する。
【0022】
容易に理解されるように、図面において一般的に記載および例示された本発明の要素は、広範囲の種々の異なる形態で、配置および設計可能である。即ち、図面に示すような、本発明に従った物品の実施形態に関する以下のより詳細な記載は、特許請求の範囲で述べられる本発明の権利範囲を限定するものでななく、単に、本発明に従って現在企図された実施形態のある種の実施例を示すものである。ここに記載される実施形態は、図面を参照することにより、最も明瞭に理解される。図面を通じ、同様の部分は、同様の符号により示す。
【0023】
本発明で使用される用語「熱膨張係数」又は「CTE」は、線熱膨張係数、即ち、材料の温度変化に対する材料の分数線形寸法変化の数学的比率を示し、(度々)ppm/℃の換算で報告されている。用語「酸化マグネシウム系層」は、酸化マグネシウムを主成分として含む組成物を示す。
【0024】
図1及び2を参照すると、本発明の実施形態に従った物品100は、固体基板102、接着層104及び酸化マグネシウム系層106から成る。固体基板102は、金属、セラミック又は他の耐熱性(heat−tolerant)材料から形成することができる。金属基板102は、鉄系または非鉄系金属、ステンレス鋼、合金、スーパー合金又はハイネス230(Haynes230;登録商標)スーパー合金等のニッケル系スーパー合金等から形成されてもよい。金属基板102は、実質的に、平板状であってもよく、また、如何なる二次元または三次元幾何構造を有していてもよい。幾つかの実施形態では、金属基板102は、ガスタービン、スチームタービン又は一体ガス結合システムにおける金属要素から構成することもできる。他の実施形態では、金属基板102は、化学、石油化学、触媒、医療、地方自治、エアフォイル、燃料電池および従来公知の高温腐食環境に曝される他の分野または工業で使用される金属要素から成ることもできる。
【0025】
ある種の実施形態では、金属基板102は、接着層104を受容するための少なくとも1つの接着面108を有することができる。接着面108は、化学的エッチング、機械的粗面化、サンドブラスト、予備酸化または従来公知の他の手段によって、接着層104を受容するように調整することができる。他の実施形態では、接着面108は、化学的洗浄または超音波処理によって調整しりことができる。通常、基板は、油分、屑及び塵によって汚染されているため、皮膜を塗布する前に洗浄又は調整する必要がある。一実施形態では、この洗浄又は調整は、基板表面を、化学的に洗浄することによって達成される。化学的洗浄は、基板を、石けん浴液に加熱および撹拌しながら浸せきすることによって行われる。浴は、約50℃に加熱することができる。撹拌は、汚染物の除去に役立つ。石けん浴は、また、超音波浴に配置してもよい。超音波浴は、また、撹拌を助成し、そして同時に基板からの粒子および屑の除去に役立つ。洗浄後、基板を、アルコール又は清浄水のいずれかでリンスする。基板は、アルコール又は水で洗浄することが好ましい。他の実施形態では、基板は、超音波浴内に置かれる。超音波浴は、上述の接着面調整および/または洗浄法を行った際に残留する可能性のある残留液等の、基板上に存在し得る如何なる液を除去するためにも役立つ。当業者によって認識されるように、通常のリンスでは、残留洗浄液が、基板上に残るのに対し、超音波処理または超音波洗浄では、このような残留液を残さない。
【0026】
このように、本発明の基板102と接着層104との物理的接着性を高めて、基板102からの接着層104の剥落または剥離の発生を低減する。
【0027】
基板102と接着層104との境界面110aは、更に、それらの間に保護酸化物スケール112を形成することによって安定化させることができる。保護酸化物スケール112は、それぞれ粒状境界面110aに向かって、基板102から外側へ拡散するカチオン、及び接着層104から内側へ拡散する酸素によって形成される。しかしながら、この化学的相互作用は、基板102及び接着層104の両方の本質的特性に依存する。従って、保護酸化物スケール112が、基板102と接着層104との境界面110aの安定化にどの程度作用するかは、基板102及び接着層104の両方の化学的組成に依存する。
【0028】
1つの理論に限定されるものではないが、幾つかの場合には、特定の基板102および適当な接着層104の選択には、基板102が、鉄系かまたは非鉄系かの判定を要求されると考えられる。ニッケル系スーパー合金等の非鉄金属の場合、酸化ニッケル又は酸化銅等の接着層104は、化学的相容性、溶解度および基板102との熱膨張係数の適合性に基づいて使用される。接着層104と基板102間の化学反応が、約400℃〜約1200℃の温度において空気、アルゴン、窒素または水素雰囲気で焼結中に起こる場合、例えば、Ni−Cr−NiO−MO(但し、MO=金属酸化物)型化学/相が、主として基板102と接着層104との境界面110aに形成され、安定な酸化物スケールが生起される。この酸化物スケールは、約1000℃を超える温度等の高温で攻撃的なタービン又は腐食条件に曝された場合、境界面110aを平衡状態に保持することができる。
【0029】
他方で、基板102が、ステンレス鋼等の鉄またはクロミウム主成分合金から成る場合、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化セリウム又は酸化ランタン投与酸化マグネシウム等の接着層104材料が、化学的相容性、溶解度および基板102との熱膨張係数の適合性に基づいて好適である。接着層104と鉄系基板102間の反応が、約400℃〜約1200℃の温度において空気、アルゴン、窒素または水素雰囲気で焼結中に起こる場合、例えば、金属酸化物ドーパント投与酸化マグネシウム含有Fe−Cr−Fe型相が、主として基板102と接着層104との境界面110aに形成され、安定な酸化物スケールが生起される。この酸化物スケールは、約1000℃を超える温度等の高温で攻撃的なタービン又は腐食条件に曝された場合、境界面110aを平衡状態に保持することができる。
【0030】
ある種の実施形態では、以下で詳述するように、接着層104は、(1)金属基板102の接着面108に安定な酸化物スケール112を形成し、(2)金属基板102内の元素と強い化学結合を生じ、(3)接着層104と酸化マグネシウム系層間に、良好に接着された境界面110bを形成し、そして(4)金属基板102と接着層104間に、境界面応力の発生を抑制する熱膨張こう配を付与する酸化物系アンダー層から成ることができる。前述したように、可能な接着層104用候補材料としては、例えば、酸化セリウム投与酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化チタニウム及び酸化アルミニウムが挙げられる。
【0031】
幾つかの実施形態では、接着層104は、更に、約10モル%までの濃度で、ドーパントを含んでいてもよい。即ち、幾つかの実施形態では、接着層104は、例えば、酸化ニッケル投与酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム投与酸化マグネシウム、酸化セリウム投与酸化マグネシウム、酸化アルミニウム投与酸化マグネシウム、又はニッケル投与酸化マグネシウムから成ることができる。接着層104を塗布するために使用される懸濁液は、更に、ポリビニルブテロール等の結着剤および/または「イゲパル(Igepal)CO520」等の界面活性剤を含んでいてもよい。懸濁液またはスラリーのキャリア液は、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、トルエン、プロパノール等の有機溶媒を含むか、又は水系溶媒を含んでいてもよい。
【0032】
接着層104は、未処理(グリーン)形態、硝酸塩ゾル、コロイダル懸濁液またはスラリーの形態をとることができる。ある種の実施形態では、以下に図4及び6を参照して詳述するように、接着層材料104は、金属基板102をその接着層材料104で浸漬コーティング、刷毛塗り、スプレー、スピンコーティング又は湿潤することによって、金属基板102に塗布することができる。接着層104は、空気、アルゴン、窒素または水素等の不活性環境で焼結されて、付着酸化物接着層104を形成してもよい。
【0033】
ある種の実施形態では、本発明に従った物品100は、緻密な酸化マグネシウム系層106の下側に、付着多孔性接着層104を有する。酸化マグネシウム系層106の厚みは、層毎に決定し得る。幾つかの実施形態では、また、以下に図1及び2を参照して詳述するように、酸化マグネシウム系層106は、実質的に非孔性であり、金属基板102への接着層104を通じた液侵入を制限する気密シールを提供することができる。
【0034】
酸化マグネシウム系層106は、また、周囲ガスに対する熱化学的安定性を付与することができる。例えば、石炭及びフライアシュ中のナトリウム、硫黄、アンモニア、及び他のアルカリ及びアルカリ性不純物成分は、石炭由来合成ガスを、ガスタービンの駆動に利用するIGCCシステムにおける、主たる腐食剤成分である。例えば、シリカおよび珪酸塩は、ナトリウムと容易に二成分および三成分化合物を形成し、それ故、IGCCシステムで環境バリア皮膜として不適であるが、他方、酸化マグネシウム二成分酸化物は、ナトリウムと安定な化合物を形成しない。石炭ガス燃料および灰分不純物中の粒子を以下の表に列記する。
【0035】
【表1】

【0036】
更に、酸化マグネシウム系組成物は、100%までの相対湿度を有する湿還元酸化環境における優れた安定性を示すことができる。石炭由来合成ガスの主構成成分は、水素(H)、水(HO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、そして硫黄およびアンモニアである。一般的に理解されるように、酸化物安定性の主たる関心事は、HO及びCOによる脆化および腐食に起因するものである。図3a及び3bにグラフで示すように、熱力学的計算は、いかに示す反応に関し石炭由来合成ガス内で遭遇するのと同様なHO及びCO条件下での酸化マグネシウムの安定性を示している。
【0037】
【化1】

【0038】
図3a及び3bに示すように、酸化マグネシウムとHOとCOとの反応におけるMg(OH)及びMgCOの両方の反応の自由エネルギーは、温度上昇に伴って、そしてHO及びCO各々の分圧の低下に伴って、増加する。言い換えれば、酸化マグネシウムの安定性は、温度上昇に伴って、そしてHO及びCOの各分圧の低下に伴って、向上する。典型的には、合成ガス組成は、約5〜約20%のHO、及び約2〜約15%のCOを含有する。図3a及び3bに示すように、酸化マグネシウムは、これらの条件下で非常に高い安定性を示すと期待される。従って、本発明の酸化マグネシウム系層106は、IGCC合成ガス環境で、実質的に安定に存在することができる。
【実施例】
【0039】
実施例1(合成ガスへの熱化学的曝露):
MgO系EBCをハイネス230合金上にセットして、湿合成ガス及び500ppmHS中で化学的安定性試験を開始した。試験は、1000℃で1000時間行われた。この試験は、ハイネス230スーパー合金のMgO系皮膜の有効性を示すために行われた。
【0040】
試験においては、湿合成ガスに連続的に曝露した後、合金クーポン片の重量変化を調べる。湿合成ガスに曝露した被覆クーポン片は、一つケースでは、0.5%未満の重量増加を示し、殆どのケースでは、0.4%未満の重量増加を示した。そのままのクーポン片(サンドブラスト、酸化処理済みで入手したもの)は、MgO系皮膜合金に比して、重量が増加していた。MgOとの硫化反応の痕跡は、観察されなかった。この皮膜は、また、石油化学応用分野での炭化水素分子の酸化のための耐コークス化剤として使用可能である。
【0041】
実施例2(石炭ガス燃料構成成分へのMgO被覆合金の曝露):
石炭ガス不純物中でのMgO系皮膜の予備腐食安定性評価を行った。石炭ガス燃料及び灰分不純物中に典型的に存在するSiO(50.25wt%)、Al(24.95wt%)、Fe(8.7wt%)、CaO(10.38wt%)、NaCO(3.62wt%)及びKCO(2.1wt%)等の幾つかの成分前駆体を、濃ペースト状に混合し、MgO被覆合金試料に塗布し、1000℃で250時間、湿合成ガスの石炭灰分に曝露した。試験後、被覆合金試料の断面評価を行った。EBC被覆合金は、0.20重量%以上の重量増加を示す生合金に比較して、重量増加は殆どゼロであった。SEM観測では、生合金は劣化を示したのに対し、EBC被覆合金は、如何なる有害な反応も生じなかった。
【0042】
実施例3(合成ガス中での被覆合金の熱サイクル):
一方が、MgOのナノ粒子を使用して被覆され、他方がMgOのミクロン粒子を使用して被覆された2つの合金クーポン片を、調製した。これら2つのクーポン片を、生合金クーポン片と共に、湿合成ガス環境において室温〜1000℃の温度で、40回、熱サイクルに供した。NiO及びMgOこう配皮膜のCTEは、合金のCTEと良好に調和したので、両NiO(接着コート)系MgO皮膜とも、試験後に剥離傾向を示さなかった。
【0043】
ある種の実施形態では、酸化マグネシウム系層106は、金属基板102と酸化マグネシウム系層106間の接着性を向上させかつ熱的こう配を付与するため、及び/又は従来のセラミックよりも低温で熱化学的な安定性を向上させるため、並びに、酸化マグネシウム系層106の焼結を助成し、耐変態性により酸化マグネシウムの靭性を高めるために、1つ以上のドーパントを含んでいてもよい。従って、酸化マグネシウム系層106は、焼結補助剤および耐変態助剤を、本明細書を通じて記載されるドーパントの形状で含んでいてもよい。好適なドーパントとしては、例えば、セリウム、イットリウム、アルミニウム、ジルコニウム、鉄、ニッケル、チタニウム、又は他の好適な従来公知のドーパントが挙げられる。
【0044】
本発明の酸化マグネシウム系層106は、以下で図5及び7を参照してより詳細に記載されるように、接着層104を浸漬コーティング、刷毛塗り、スプレー、スピンコーティング又は湿潤することによって、塗布することができる。酸化マグネシウム系層106は、また、例えば、約900℃〜約1300℃の範囲の高温で不活性環境下で焼結してもよい。
【0045】
幾つかの実施形態では、基板102、接着層104及び酸化マグネシウム系層106の各々に対応する熱膨張係数(CTE)に、実質的にこう配を設け、広い温度範囲での熱サイクルを可能とする。この場合、斯かる熱サイクルは、劣化および破壊を起こさず、基板102からの接着層104の分離または接着層104からの酸化マグネシウム系層106の剥離を被ることがない。一実施形態では、例えば、基板102と層104との熱膨張こう配を、約室温〜約1300℃に温度範囲にわたって熱サイクルが可能であるように設定する。
【0046】
ある種の実施形態では、基板102が、第1のCTEを有し、酸化マグネシウム系層106が、第2のCTEを有し、接着層104が、第3のCTEを有してもよい。この場合、第3のCTEは、第1及び第2のCTEの実質的に中間にある。幾つかの例では、隣接する組成物層102,104、106に相当するCTE間の差は、約1/2(0.5)〜1ppm/℃の範囲に設定することができる。このように、基板102、接着層104及び酸化マグネシウム系層106のCTEを近接してこう配を設けることによって、層102,104、106間の境界面110a及び110bで温度変化に起因して起こりえる応力を、緩和することができる。
【0047】
図4A及び4Bを参照すると、酸化マグネシウム系層106の幾つかの実施態様は、トップコート400及び少なくとも1つの中間コート402a、402bから成ることができる。トップコート400は、基板102への接着層104を通じた液侵入を制限する気密シールを提供することができる。1つ以上の中間コート402a、402bは、トップコート400の下側に隣接して配置され、金属基板102とトップコート400間の熱こう配および化学的適合性を最適化し、酸化マグネシウム系層106が高密度を示すことを可能とする。酸化マグネシウム系層106の高密度によって、気体または粒子の進入通路を断ち、腐食環境からの物品100の保護を向上させ、更に、作動条件下での耐摩耗性を向上させる。ある種の実施形態では、トップコート400は、主たる成分(必ずしも唯一の成分ではないが)として、酸化マグネシウムを有していてもよく、他方、中間コート402a、402bは、本質的に酸化マグネシウムから成ることができる。
【0048】
一実施形態では、図4Aに示すように、物品100は、金属基板102と、接着層104と、トップコート400及び中間コート402から成る酸化マグネシウム系層106とから成る。接着層104は、酸化ニッケルからなり、一方、トップコート400及び中間コート402は、両方共、酸化マグネシウムから成る。しかしながら、トップコート400は、酸化マグネシウムナノ粒子からなり、一方、中間コート402は、酸化マグネシウムマイクロ粒子から成る。本願を通じて使用される「ナノ粒子」又は「ナノサイズ粒子」は、約1nm〜約100nmの平均径を有する粒子を意味し、また、本願を通じて使用される「マイクロ粒子」、「ミクロン粒子」、「ミクロンサイズ粒子」又は「マイクロサイズ粒子」は、約0.1μm〜約20μmの平均径を有する粒子を意味する。用語「ナノ」、「マイクロ」及び「ミクロン」は、上述の範囲を意味する。別の実施形態では、図4bに示すように、物品は、金属基板102と、接着層104と、トップコート400、第1の中間コート402a及び第2の中間コート402bから成る酸化マグネシウム系層とから成る。トップコート400は、セリウム投与酸化マグネシウムのナノ粒子からなり、第1の中間コート402aは、酸化マグネシウムのナノ粒子からなり、第2の中間コート402bは、酸化マグネシウムのマイクロ粒子から成る。本発明では、その他の実施態様も可能である。例えば、ある種の実施形態では、トップコート400は、イットリウム投与酸化マグネシウム、アルミニウム投与酸化マグネシウム、ジルコニウム投与酸化マグネシウム、鉄投与酸化マグネシウム、ニッケル投与酸化マグネシウム、チタニウム投与酸化マグネシウム及び/又は他の従来公知の酸化マグネシウム系組成物から成ることができる。中間コート402a、402bの組成及び粒径は、また、変更することできる。例えば、第1の中間コートは、主にナノサイズ粒子とある程度のマイクロサイズ粒子からなり、第2の中間コートは、主にマイクロサイズ粒子とある程度のナノサイズ粒子からなってもよく、又はこの逆でもよい。
【0049】
図5を参照すると、本発明のある種の実施態様に従った金属基板102の保護方法は、金属基板102を提供する工程502と、1つ以上の酸化マグネシウム系層106を提供する工程502と、金属基板102及び酸化マグネシウム系層106間に熱膨張こう配を与える接着層104を選択する工程504とから成ることができる。上記方法は、更に、金属基板102を、接着層104で被覆する工程506、及び酸化マグネシウム系層106を、接着層104に塗布する工程508を含んでいてもよい。
【0050】
上記物品100に関して述べたと同様に、金属基板102は、鉄系又は非鉄系金属、合金、スーパー合金または他の好適な従来公知の金属基板102から成ることができる。また、上記物品100で述べたと同様に、金属基板102は、第1の熱膨張係数を有し、酸化マグネシウム系層106は、第2の熱膨張係数を有し、接着層104は、第1及び第2の熱膨張係数間の実質的に中間である第3の熱膨張係数を有することができる。1つを超える酸化マグネシウム系層106を、接着層104に塗布する場合、各酸化マグネシウム系層106は、いずれも、金属基板102と層106間に熱膨張こう配を付与する特定の熱膨張係数を有することができる。
【0051】
しかしながら、熱膨張係数は、材料の温度依存固有特性であるので、第3の熱膨張係数は、図6に示すように約周囲温度〜約1300℃の温度範囲における第1及び第2の熱膨張係数の中間であることができる。例えば、皮膜を圧縮応力下に置くハイネス金属の線熱膨張係数は、より高くなる。中間コート層を形成することによって、これら皮膜組成は、金属基板102と酸化マグネシウム系層106間に熱膨張こう配を付与することにより、特定温度範囲において応力を除去することができる。
【0052】
特定のEBC組成物および特定合金組成物に関する下層の接着層の選択は、基板の化学組成に依存する。1つの理論に限定する訳ではないが、ある場合に、特定合金組成物の選択のための基本的な基準は、合金/金属組成物の化学性が、鉄系であるかまたは非鉄系であるかにに基づくと考えられている。Ni、Fe及びCrがリッチであるNi系スーパー合金の場合、NiO及びCuO等の接着コート材料は、合金との化学的適合性、溶解度およびCTE適合性に基づいて選択されていた。接着層材料と合金との反応が、400℃〜1200℃の温度で、空気、アルゴン、窒素または水素雰囲気で焼結中に起こると、Ni−Cr−NiO−MO型相が、主として金属と接着コートとの境界面に形成され、その境界面に安定な酸化物スケールが生起される。この酸化物スケールは、高温(>1000℃)において攻撃的なタービン又は腐食条件に曝された場合、境界面を平衡状態に保持する。SEM/EDS顕微鏡を用いた表面分析に基づき、CuO又はNiO接着コート上に形成されたミクロン粒子から成るMgO皮膜は、合金表面に対し最も良好な接着性を示した。
【0053】
ステンレス鋼等のFe及びCrが優勢な合金上では、NiO、Fe、CeO及びLa等の接着コート材料は、合金との化学的適合性、溶解度およびCTE適合性に基づいて選択されていた。接着層材料とステンレス鋼(Feリッチ組成物)との反応が、400℃〜1200℃の温度で、空気、アルゴン、窒素または水素雰囲気で焼結中に起こる場合、例えば、Fe−Cr−Fe型相が、主として金属と接着コートとの境界面に形成され、安定な酸化物スケールがその境界面に生起される。この酸化物スケールは、高温(>1000℃)において攻撃的なタービン又は腐食条件に曝された場合、境界面を平衡状態に保持する。スーパー合金の熱膨張は、14〜16ppmの範囲であり、1300℃までの熱安定性を示す。マイルドスチール(ステンレス)の熱膨張は、12〜14ppmの範囲であり、1000℃までの熱安定性を示す。
【0054】
図7を参照すると、本発明の方法に従った金属基板102を被覆する工程506は、金属基板102の接着面を調整する工程700と、基板102を、接着層104で被覆する工程702と、そして幾つかの実施態様では、接着層104を焼結する工程704とから成ることができる。金属基板102の接着面を調整する工程700は、上記接着面に、化学的エッチング、機械的粗面化、サンドブラスト又は予備酸化の処理を行うか、又は従来公知の他の手段によって接着面を調整して、基板102と接着層間の物理的接着性を向上させる工程を含むことができる。金属基板102の調整接着面は、次いで、基板102を接着層104により浸漬コーティング、刷毛塗り、スプレー、スピンコーティング又は湿潤することによって、接着層で被覆されてもよい(工程702)。幾つかの実施態様では、未処理(グリーン)接着層104は、浸漬コーティングによって接着層104を塗布可能なスラリーあるいは溶剤系又は水系懸濁液からなり、その結果、非平板状、チーブ状、三次元状または他の複合幾何構造を有する基板102上への接着層104の塗布が容易に成る。接着層104は、次いで、例えば、約600℃〜約1300℃の焼結温度で焼結する(工程704)ことができる。
【0055】
酸化マグネシウム系層106を、接着層104に塗布する工程508は、接着層104を、例えば、浸漬コーティング、刷毛塗り、スプレー、スピンコーティング又は従来公知の他の方法により、酸化マグネシウム系層106で湿潤する工程706を含むことができる。基板102の被覆工程702と同様に、浸漬コーティングにより接着層104を酸化マグネシウム系層106で湿潤する工程706は、非平板状、チーブ状、三次元状または他の複合幾何構造を有する基板102を湿潤する工程706を容易にすることができる。一実施形態では、酸化マグネシウム系層106は、100〜200ミクロンの深さを有してもよい。他の実施形態では、酸化マグネシウム系層106は、3〜6ミクロンの深さを有してもよい。更に他の実施形態では、酸化マグネシウム系層106は、10〜20ミクロンの深さを有してもよい。
【0056】
接着層104を酸化マグネシウム系層106で湿潤する工程706は、更に、複数の多層酸化マグネシウム系層106を、層毎に、接着層104に連続的に塗布して、緻密な高純度ミクロ構造を形成する工程を含んでいてもよい。一実施形態では、接着層104に、複数の多層酸化マグネシウム系層106を連続的に浸漬コーティングして、残留応力を減少しながら、より緻密な皮膜の形成を容易にする。この実施形態では、酸化マグネシウム系層106の品質、厚さ、均一性およびグリーン接着性は、溶液中の保持時間、懸濁液粘度、浸漬面および引出し速度によって決定することができる。
【0057】
幾つかの実施形態では、酸化マグネシウム系層106の厚さは、各層毎に、それら中間で焼結工程を行うことによって形成されるか、又は数層を塗布し、続いて中間焼結工程および更なる層の塗布を行うことによって形成される。別の方法では、数層の塗布は、中間焼結工程を伴わなくてもよい。
【0058】
いずれの場合も、ある種の実施形態では、本発明に従った前記方法は、更に、酸化マグネシウム系層106の全密度部を焼結する工程708を含んでいてもよい。一実施形態では、例えば、粒径、モルホロジー及び各層106の組成に応じて、焼結温度は、約900℃〜約1300℃の範囲であり、焼結時間は、約2時間〜約8時間の範囲とすることができる。
【0059】
このように、本願に記載される物品、皮膜及び方法は、乾燥または湿潤合成ガス化学種に曝露される際、金属、セラミックス又は他の固体物質を、腐食から保護する。物品、皮膜及び方法は、また、金属の硫化に対する保護を提供し、基板に、耐コークス化性を付与する。皮膜は、また、HO及び合成ガスのシフト反応を抑制する。
【0060】
図8を参照すると、広い温度範囲および湿潤環境で予備被覆された基板102を腐食から保護する方法のある種の実施形態は、セラミック酸化物系層106の実施においてナノサイズ酸化物材料を製造する工程を含む。一実施形態では、例えば、未ドープMgO、及び例えば10体積%のZrO、CeO又はCoOをドープされたMgOのナノサイズ粒子を製造することができる。ZrOドーピングは、MgOの耐変態性を向上することが期待され、一方、CeOドーピングは、化学的接着性および熱膨張こう配を付与することができ、更に、CoOドーピングは、不活性環境下で、MgO皮膜の焼結温度を低減することが可能性である。
【0061】
本発明のある種の実施形態に従ったナノサイズ酸化物材料の製造工程は、水酸化アンモニウム溶液を調製する工程800と、金属カチオン溶液802を調製する工程802と、これら溶液を結合してゼラチン状沈殿物を形成する工程804とから成ることができる。これら溶液は、蠕動ポンプを使用してマグネティクスターラーで撹拌することによって、工程804において結合されてもよい。金属カチオン溶液は、水酸化アンモニウム溶液に、約3滴/秒の速度で添加されることができる。
【0062】
ナノサイズ酸化物材料の製造工程は、更に、沈殿物を粉体に変換する工程706を含んでいてもよい。より詳しくは、ある種の実施形態においては、ゼラチン状沈殿物は、エタノールで洗浄され、濾過され、そして予備加熱乳鉢および乳棒で粉砕することによって溶媒を除去する。得られた材料は、オーブン中、約130℃の温度で一晩乾燥する。乾燥ケーキは、約400℃〜約600℃の温度範囲で炉内で焼成されることにより、所望の結晶相形成が達成される。
【0063】
工程808で上澄み液を単離するためには、焼成粉末は、水中に分散し、超音波処理を行って(約40nmを超える)大きな凝集粒子を除去し、次いで、上部の懸濁液をデカンテーションにて除去し、底部溶液を廃棄する。一実施形態では、溶液のpHを調節した後、溶液を、約9時間超音波処理し、約48時間放置することによって、凝集粒子を除去する。最終的には、上澄み液は、工程810で、最終粉末に変換される。特に、上澄み液は、乾燥され、軟質凝集粒子を、乳鉢及び乳棒で粉砕し、次いで、微細スクリーンを通して篩い分けすることによって、所望の最終粉末を得る。最終粉末は、表面積、結晶サイズ、粒径、凝集、化学的および相純度に従って特徴づけられ、グリーンセラミック酸化物系皮膜層106の塗布に供する懸濁液またはスラリーの成分としての好適性を確保する。
【0064】
一実施形態では、ナノ及びミクロンサイズ酸化物の合成は、標準共沈殿法により達成されたが、前記方法の幾つかの改良法を使用することもできる。個々の単一酸化物またはドープ酸化物組成物を調製するための手順は、図8のフロー図に示す。
【0065】
未ドープMgO、及び(一実施例では)MgO中にZrO、CeO又はCoOを10体積%ドープされたドープMgOのナノサイズ粒子は、共沈殿法により調製された。幾つかの場合、ZrOドーピングは、MgOの耐変態性を向上させ、CeOドーピングは、化学的接着性および熱膨張こう配を付与し、CoOドーピングは、不活性環境で、MgOの焼結温度を低下させることができる。
【0066】
MgO系ナノサイズ材料を合成する工程では、単一またはドープ酸化物組成物に応じて、金属カチオン硝酸塩の原液を、攪拌下で、水酸化アンモニウム溶液と混合した。ゼラチン状沈殿物は、エタノールで洗浄し、乾燥した。乾燥ケーキは、空気炉内で、250℃〜600℃の温度範囲で焼成して、所望の結晶相を形成した。焼成粉末は、水中に分散し、超音波処理を行って大きな凝集粒子(>400nm)を除去し、次いで、上部の懸濁液をデカンテーションにより除去し、底部溶液を廃棄した。上澄み液は、乾燥され、軟質凝集粒子を、乳鉢及び乳棒で粉砕し、次いで、微細メッシュスクリーンを通して篩い分けすることによって、所望の最終粉末を得る。
【0067】
硝酸塩溶液、ナノ及びミクロン懸濁液(スラリー)は、接着コートの塗布のために調製された。所望のカチオン錯体(所望の最終酸化物の前駆体)の水溶液は、高純度硝酸塩結晶を、脱イオン水に溶解することにより調製する。溶液のpHは、多数の硝酸塩前駆体の安定性を保持するように、調整される。粘度は、良好な接着性および均一皮膜を付与するように、過去の経験に基づいて調整する。予め分散された市販のXUS結着剤を、合金面の湿潤剤として使用することもできる。単層または多層コートは、展開マトリックスに従って、浸漬コーティングにより塗布される。得られた皮膜は、900℃以下で焼結を行う前に、不活性ガス(N、H又はAr)雰囲気下で40℃未満の温度で乾燥される。これら皮膜は、空気中で焼成され、耐腐食性および化学的安定性を比較した。
【0068】
一実施形態では、ナノ及びミクロンサイズMgO系材料の懸濁液(スラリー)は、ナノ及びミクロンサイズ粒子の有機溶媒系懸濁液を形成することにより調製された。ナノ及びサブミクロンサイズMgO系材料は、メチルアルコール又はトルエンーエチルアルコール、及び他の極性または非極性溶媒に分散した。分散剤としてポリビニルブトラールを使用してトルエン系溶媒混合物中に20〜40%含有させたMgO系懸濁液を形成した。各成分を、ナルゲン容器中で、容器に半分充填されたイットリウム安定化ジルコニウム又はアルミナ媒体と混合した。超音波法によりスラリーを脱気し、次いで、スラリーを供給窒素中を流通させて、気泡を除去した。MgOを含有量60%まで添加した溶媒粘度は、5〜20cps、但し200cps以下の範囲であった。溶媒系懸濁液の長所は、コーティング応用分野及び焼成セクションにおいて記載される。
【0069】
並行して、ナノ及びミクロンサイズMgO及びドープMgO系材料の水系懸濁液の調製を行った。酸化物のナノ及びサブミクロン粒子の懸濁液(スラリー)は、酸化物粒子を、一連の公知の水溶性有機バインダー及び分散剤(ポリビニルアルコール:市販化学薬剤「Darvin−C」)に分散させる実験を行うことにより調製した。酸化物を5〜20重量%含有させた安定な水性懸濁液は、市販の分散剤「Igepal−520」を使用して調製した。懸濁液のレオロジーは、2%有機濃度において粘度を600〜1200cpsの範囲に保持して調査した。
【0070】
MgO系懸濁液の皮膜は、ビーカー内に充填された溶液又はスラリー浴内に浸漬することによって、合金の未調整または調整面に自動浸漬コーティング法によって塗布した。この際、コーター速度を、浸漬および引出し速度0.4x10−4m/sに制御するように注意を払って、均一なグリーン皮膜を得た。溶液中保持時間、懸濁液粘度および基板浸漬面により、塗布皮膜の品質、厚み及びグリーン接着性が決定される。
【0071】
本発明は、その精神及び特徴から逸脱することなく、他の特定形態で実施することが可能である。上記された実施形態は、全ての点で、単に例示であり、本発明を限定するものではないと考えるべきである。それ故、本発明の権利範囲は、前述の記載よりむしろ添付請求の範囲によって示される。請求の範囲の意味および等価論の意味および範囲内の全ての変更は、本発明の権利範囲に包含されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、本発明の実施形態に従った、基板、接着層および酸化マグネシウム系層から成る物品の断面である。
【図2】図2は、図1で示す物品の写真である。
【図3a】図3aは、石炭由来合成ガス環境下で遭遇するのと同様な条件下における酸化マグネシウムの安定性に関する熱力学的計算のグラフ表示である。
【図3b】図3bは、石炭由来合成ガス環境下で遭遇するのと同様な条件下における酸化マグネシウムの安定性に関する熱力学的計算のグラフ表示である。
【図4a】図4aは本発明に従った物品の他の実施形態を示す断面図である。
【図4b】図4bは本発明に従った物品の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明のある種の実施形態に従った、金属基板を保護する方法を示すフロー図である。
【図6】図6は、ハイネス230(Haynes230;登録商標)スーパー合金基板、酸化ニッケル接着層および酸化マグネシウム層に関する、温度範囲おける相対熱膨張係数を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明のある種の実施形態に従った、種々の環境下において、物品に、耐腐食性および耐脆化性を付与する方法を示すフロー図である。
【図8】図8は、本発明に従った、セラミック酸化物系層を実施するためのナノサイズ酸化物材料の製造方法を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の熱膨張係数を有する固体基板と、第2の熱膨張係数を有する少なくとも1つの酸化マグネシウム系層と、前記基板と前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層との間に配置され、第1及び第2の熱膨張係数の実質的に中間の第3の熱膨張係数を有する接着層とから成ることを特徴とする、保護皮膜を有する物品。
【請求項2】
固体基板がセラミックから成る請求項1に記載の物品。
【請求項3】
セラミック基板が、アルミニウム、酸化アルミニウム、ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、スピネル、SiO、SiC、Si、ムライト、クォーツ、及びこれらの組み合わせから成る群より選択された一つから成る請求項2に記載の物品。
【請求項4】
固体基板が金属から成る請求項1に記載の物品。
【請求項5】
金属基板が、鉄系金属、非鉄系金属、ステンレス鋼、合金、スーパー合金、及びハイネス(Haynes)230(登録商標)スーパー合金から成る群から選択された一つから成る請求項4に記載の物品。
【請求項6】
金属基板が、化学的エッチングされた接着面、粗面化接着面、サンドブラストされた接着面、及び予備酸化接着面の少なくとも一つを有する請求項4に記載の物品。
【請求項7】
金属基板が、化学的洗浄および超音波処理の1つにより調整された面を有する請求項4に記載の物品。
【請求項8】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が、更に、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化チタニウム、酸化鉄および酸化アルミニウムから成る群より選択されたドーパントを含有する請求項1に記載の物品。
【請求項9】
前記ドーパントが、約0モル%〜約20モル%の範囲の濃度を有する請求項8に記載の物品。
【請求項10】
前記ドーパントが、約1nm〜約10μmの粒径を有する請求項8に記載の物品。
【請求項11】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が、約1℃から約1300℃の温度範囲で安定である請求項1に記載の物品。
【請求項12】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が、気密シールに供するトップコートと、本質的に酸化マグネシウムからなり、前記トップコートの下側に隣接して配置された少なくとも1つの中間コートとから成る請求項1に記載の物品。
【請求項13】
前記トップコートが、接着層およびトップコート間に熱膨張係数こう配を付与する酸化マグネシウムドーパントの濃度を有する請求項12に記載の物品。
【請求項14】
前記トップコートが、酸化セリウム投与酸化マグネシウム、酸化イットリウム投与酸化マグネシウム、酸化アルミニウム投与酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム投与酸化マグネシウム、酸化鉄投与酸化マグネシウム、酸化ニッケル投与酸化マグネシウム、酸化チタニウム投与酸化マグネシウム及び単一酸化マグネシウムから成る群より選択された材料を含有する請求項12に記載の物品。
【請求項15】
前記少なくとも1つの中間コートが、酸化マグネシウムナノ粒子から成る第1の中間コートと、酸化マグネシウムマイクロ粒子から成り、前記第1の中間コートに実質的に下側に隣接する第2の中間コートとから成る請求項12に記載の物品。
【請求項16】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が約3ミクロン〜約60ミクロンの範囲の深さを有する請求項1に記載の物品。
【請求項17】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が約1ミクロン〜約200ミクロンの範囲の深さを有する請求項1に記載の物品。
【請求項18】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が約10ミクロン〜約20ミクロンの範囲の深さを有する請求項17に記載の物品。
【請求項19】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が実質的に非孔性である請求項1に記載の物品。
【請求項20】
前記接着層が、酸化ランタン投与酸化マグネシウム、酸化セリウム投与酸化マグネシウム、酸化チタニウム投与酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化チタニウム、酸化アルミニウム、酸化ニッケル投与酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム投与酸化マグネシウム、酸化セリウム投与酸化マグネシウム、酸化アルミニウム投与酸化マグネシウム、ニッケル投与酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄投与酸化マグネシウム、酸化銅投与酸化マグネシウム、及び酸化ストロンチウム投与酸化マグネシウムから成る群より選択される請求項1に記載の物品。
【請求項21】
前記接着層が、更に、結着剤および界面活性剤の少なくとも1つを有する請求項1に記載の物品。
【請求項22】
第1の熱膨張係数を有する固体基板を提供する工程と、第2の熱膨張係数を有する少なくとも1つの酸化マグネシウム系層を提供する工程と、第1及び第2の熱膨張係数の実質的に中間の第3の熱膨張係数を有する接着層を選択する工程と、前記固体基板を、前記接着層で被覆する工程と、前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層を、前記接着層に塗着する工程とから成ることを特徴とする金属基板を保護する方法。
【請求項23】
前記固体基板が金属から成る請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記固体基板がセラミックから成る請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記金属基板を被覆する工程が、更に、金属基板と接着層との物理的接着性を向上させるための金属基板の接着面を調整する工程を含む請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記物理的接着性を向上させる接着面を調整する工程が、化学的エッチング、粗面化、サンドブラスト仕上、及び予備酸化の少なくとも1つに接着面を供する工程から成る請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記物理的接着性を向上させるための接着面を調整する工程が、前記面の化学的洗浄、及び前面の超音波処理の1つから成る請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記金属基板を被覆する工程が、浸漬コーティング、刷毛塗り、スプレー、スピンコーティング及び湿潤の少なくとも1つの方法によって金属基板を接着層で被覆する工程から成る、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記金属基板を接着層で被覆する工程が、硝酸塩溶液、コロイダル懸濁液及びスラリーの1つに金属基板を浸漬する工程を含む請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記硝酸塩溶液、コロイダル懸濁液及びスラリーが、ナノサイズ粒子およびミクロンサイズ粒子の少なくとも1つを含む請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記金属基板を被覆する工程が接着層を焼結する工程を含む請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層を前記接着層に塗着する工程が、浸漬コーティング、刷毛塗り、スプレー、スピンコーティング及び湿潤の少なくとも1つの方法によって、前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層で前記接着層を処理する工程から成る請求項22に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層を前記接着層に塗着する工程が、更に、前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層を焼結する工程を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
前記金属基板を接着層で被覆する工程が、空気、水素およびアルゴンの1つの雰囲気中で被覆基板を焼結する工程を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が焼結助剤を含有する請求項22に記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が耐変態助剤を含有する請求項22に記載の方法。
【請求項37】
第1の熱膨張係数を有する金属基板を提供する工程と、第2の熱膨張係数を有する少なくとも1つの酸化マグネシウム系層を提供する工程と、第1及び第2の熱膨張係数の実質的に中間の第3の熱膨張係数を有する接着層を選択する工程と、前記接着層で前記金属基板を被覆する工程と、前記接着層に前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層を塗着する工程により製造されたことを特徴とする物品。
【請求項38】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が、気密シールに供するトップコートと、本質的に酸化マグネシウムから成る、前記トップコートの下側に隣接して配置した少なくとも1つの中間コートとから成る請求項37に記載の物品。
【請求項39】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が焼結助剤を含有する請求項37に記載の物品。
【請求項40】
前記少なくとも1つの酸化マグネシウム系層が耐変態助剤を含有する請求項37に記載の物品。

【図1】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−536587(P2009−536587A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552419(P2008−552419)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際出願番号】PCT/US2007/002113
【国際公開番号】WO2007/087423
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508011511)セラマテック・インク (29)
【Fターム(参考)】