説明

種結晶保持体及びこれを用いた単結晶の製造方法

【課題】高品質で且つ空隙の発生が十分に抑制される単結晶を形成することができる種結晶保持体の製造方法及びこれを用いた単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】基材9と、基材9の上に接合部11を介して接合される種結晶10とを備える種結晶保持体8の製造方法であって、基材9上に気相法により種結晶10と同一材料からなる多結晶体を接合部11として形成する接合部形成工程と、接合部11において種結晶10を接合させる接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面を得る接合部表面粗さ減少工程と、接合部11の平滑化面に種結晶10を接合させる種結晶接合工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種結晶保持体及びこれを用いた単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素や窒化アルミニウムなどの化合物半導体は、広いバンドギャップを有することから、発光素子、高耐圧・高周波電源ICなどへの利用が期待されている。特に、窒化アルミニウム単結晶は、窒化ガリウムとの格子不整合が2.4%と小さいことから、窒化ガリウム系半導体を成長させる際の成長用基板としても期待されている。
【0003】
このような化合物半導体単結晶の製造方法としては、種々のものが知られており、中でも、昇華法は、一般的に成長速度が大きいため、バルク結晶の作製に対して有力な方法としてよく用いられている。昇華法は、成長容器を加熱して、成長容器の底部および蓋部に温度差を設け、底部に載置した原料を昇華させ、その昇華ガスを、底部より温度の低い蓋部に固定した種結晶にて再結晶させることで結晶を成長させる方法である。
【0004】
種結晶を成長容器の蓋部に固定する方法として、蓋部に、結晶成長の条件で安定な金属およびそのケイ化物、炭化物、窒化物を介して種結晶を固定する方法が知られている(下記特許文献1)。
【0005】
また種結晶と黒鉛台座との間に金属材料を挟み、種結晶の上に加圧部材を配置し、加圧部材で種結晶を加圧しながら金属材料をその融点以上の温度で加熱処理した後、冷却することによって種結晶を黒鉛台座に固定する方法も知られている(下記特許文献2)。
【0006】
さらに蓋状部材に、炭化ケイ素からなる多結晶層を介して、炭化ケイ素の種結晶を設けることにより種結晶を蓋状部材に固定する方法も知られている(下記特許文献3)。この方法では、蓋状部材に設けたフック状部材により種結晶が非接着で機械的に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平11−510781号公報
【特許文献2】特開2005−247681号公報
【特許文献3】特開2002−201097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1〜3では、得られる単結晶において、以下の課題が生じていた。
【0009】
即ち、特許文献1,2記載の方法では、得られる単結晶において、ひずみやクラックが生じる場合があり、高品質の単結晶を得ることができなかった。
【0010】
また特許文献3記載の方法では、得られる単結晶において空隙が生じる場合があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高品質で且つ空隙の発生が十分に抑制される単結晶を形成することができる種結晶保持体の製造方法及びこれを用いた単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため、特許文献1〜3において上記課題が生じる原因について検討した。まず特許文献1、2記載の発明では、種結晶とそれに接合される金属等とが異なる材料で構成され、両者の熱膨張係数が異なっている。このため、種結晶から結晶を成長させる際、金属等が高温に加熱されると、種結晶にひずみが生じ、その結果、種結晶に設けられる成長結晶にもひずみが生じるのではないかと本発明者らは考えた。
【0013】
また特許文献3記載の発明では、種結晶が、フック状部材によって蓋状部材に非接着で機械的に保持されているため、蓋状部材と多結晶層との間に隙間が生じやすい。このことから、単結晶を成長させる際、多結晶層よりも蓋状部材の方が低温となるため、多結晶層の裏面から蓋状部材に向かって昇華が起こり、この現象が、種結晶、成長結晶にまで引き続き起こり、その結果、成長結晶内に空隙が発生するのではないかと考えた。そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、下記発明により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0014】
即ち本発明は、基材と、前記基材の上に接合部を介して接合される種結晶とを備える種結晶保持体の製造方法であって、前記基材上に気相法により前記種結晶と同一材料からなる多結晶体を前記接合部として形成する接合部形成工程と、前記接合部において前記種結晶を接合させる接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面を得る接合部表面粗さ減少工程と、前記接合部の前記平滑化面に前記種結晶を接合させる種結晶接合工程とを含むことを特徴とする種結晶保持体の製造方法である。
【0015】
この発明によれば、接合部が、基材の上に気相法により形成されることによって得られるため、接合部が緻密に形成されるとともに接合部と基材との密着性が向上し、接合部に空隙が生じることが十分に防止される。また、種結晶は、接合部の接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面とされてから、接合部の平滑化面に接合される。このため、種結晶と接合部との間の隙間を十分に小さくすることが可能となる。このため、上記製造方法によって得られる種結晶保持体を、単結晶の原料を収容した成長容器内に設置し、成長容器で単結晶の原料を昇華させると、種結晶保持体の種結晶から結晶が成長する。このとき、接合部と基材との密着性が向上しており、接合部に空隙が生じることが十分に防止される。加えて、種結晶は、接合部の接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面とされてから、接合部の平滑化面に接合されるため、種結晶と接合部との間の隙間を十分に小さくすることが可能となる。このため、種結晶が基材側から昇華することが十分に防止され、種結晶中に空隙が発生することも十分に防止される。その結果、種結晶から成長する成長結晶においても、空隙が発生することが十分に防止される。また、接合部は、種結晶と同一材料からなる多結晶体で構成されるため、接合部と種結晶との間の熱膨張係数の差が十分に小さくなる。このため、接合部が加熱されても、種結晶に印加されるひずみを十分に小さくすることが可能となり、得られる成長結晶においても、ひずみを十分に小さくすることが可能となる。その結果、高品質の単結晶を得ることができる。
【0016】
上記製造方法は、前記接合部表面粗さ減少工程と前記種結晶接合工程との間に、前記種結晶のうち前記接合部と接合する接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面を得る種結晶表面粗さ減少工程をさらに含むことが好ましい。
【0017】
この場合、接合部の接合予定面、及び種結晶の接合予定面のいずれも平滑化されることになるため、接合部と種結晶との密着性をより向上させることができる。従って、種結晶において昇華ガスの発生がより十分に防止され、種結晶中における空隙の発生をより十分に抑制することができる。その結果、得られる単結晶において、昇華による空隙の発生をより十分に抑制することができる。
【0018】
また本発明は、上記製造方法で得られた種結晶保持体を、単結晶の原料を収容する成長容器内に設置する種結晶保持体設置工程と、前記原料を昇華させ、前記種結晶保持体の前記種結晶から結晶を成長させる結晶成長工程とを含むことを特徴とする単結晶の製造方法である。
【0019】
この発明によれば、種結晶保持体として、上述した種結晶保持体が用いられるため、単結晶成長を行っている間、種結晶が基材側から昇華することが十分に防止され、種結晶中に空隙が発生することも十分に防止される。その結果、種結晶から成長する成長結晶においても、空隙が発生することが十分に防止される。また、接合部は、種結晶と同一材料からなる多結晶体で構成されるため、接合部と種結晶との間の熱膨張係数の差が十分に小さくなる。このため、接合部が加熱されても、種結晶に印加されるひずみを十分に小さくすることが可能となり、得られる成長結晶においても、ひずみを十分に小さくすることが可能となる。その結果、高品質の単結晶を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高品質で且つ空隙の発生が十分に抑制される単結晶を形成することができる種結晶保持体の製造方法及びこれを用いた単結晶の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る単結晶の製造方法を実施する製造装置の一例を示す切断面端面図である。
【図2】昇華法により基材上に接合部を形成するための接合部製造装置の一例を示す切断面端面図である。
【図3】基材と接合部との積層体を示す断面図である。
【図4】本発明に係る種結晶保持体の製造方法により得られる種結晶保持体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
まず本発明に係る単結晶の製造方法を実施する製造装置の一例について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る単結晶の製造装置を示す切断面端面図である。図1に示すように、窒化アルミニウム単結晶の製造装置(以下、単に「製造装置」と呼ぶ)100は、窒化アルミニウム単結晶の原料1を収容する成長容器2と、成長容器2を包囲する反応管3と、反応管3の周囲に設けられる加熱装置4とから構成されている。
【0024】
反応管3は、筒状の反応管本体部3aと、反応管本体部3aの側面に接続され、成長容器2から排出されたガスを希釈する希釈ガスを反応管本体部3a内に導入するガス導入管3bとを備えている。反応管3は、例えば黒鉛、タングステン又は炭化タンタルで構成されている。希釈ガスは、成長容器2から排出されるガスを希釈可能なものであればよく、このような希釈ガスとしては、窒素ガス及びアルゴンガスなどが挙げられる。
【0025】
成長容器2は、筒状の原料収容部2aと、原料収容部2aの外周面に突設され、溝2bを形成する環状部材2cと、原料収容部2aを覆うドーム状のキャップ部材2dとを有している。
【0026】
原料収容部2aの内部には、窒化アルミニウム単結晶の原料1を収容するルツボ5が収容されている。また原料収容部2aには、窒素ガスを導入するガス導入管2fが反応管3の本体部3aを貫通して原料収容部2aに接続されている。ガス導入管2fの先端にはガス導入口2hが形成されている。
【0027】
キャップ部材2dには、支持部材7の先端に固定した種結晶保持体8を挿入するための挿入口2gが形成されている。ここで、種結晶保持体8は、支持部材7に固定される基材9と、種結晶10と、基材9及び種結晶10を接合する接合部11とで構成されている。ここで、支持部材7及び基材9は例えば黒鉛又はタングステンで構成される。種結晶10は通常、窒化アルミニウム単結晶で構成されるが、炭化ケイ素又は炭化ケイ素の単結晶上に窒化アルミニウム単結晶膜を成長させたもので構成されてもよい。接合部11は、例えば種結晶10と同一材料からなる多結晶体で構成される。多結晶体は窒化アルミニウム単結晶体の集合体である。
【0028】
キャップ部材2dは、その内側に原料収容部2aの上端部を挿入可能となっている。またキャップ部材2dの端部は、環状部材2cの溝2bに挿入可能となっている。そして、キャップ部材2dの内側に原料収容部2aの上端部を挿入し、キャップ部材2dの端部を環状部材2cの溝2bに挿入することで、単結晶成長領域6が形成されるとともに、ガス排出路2eが形成される。
【0029】
ここで、ガス排出路2eは、ガス排出路2eの出口が入口よりも加熱装置4に近い位置に設けられている。即ちガス排出路2eは、原料収容部2aの外側に設けられている。このため、ガス排出路2eにおいては、入口から出口に向かうにつれて温度が高くなる。
【0030】
単結晶成長領域6は、原料収容部2aの上端と、キャップ部材2dの内壁面とによって形成されるものであり、ガス排出路2e及び原料収容部2aよりも上方に設けられている。そして、ガス排出路2eは、原料が配置されるルツボ(原料配置部)5よりも高い位置で且つ単結晶配置領域6よりも低い位置に配置されている。即ち、ガス排出路2eは、ルツボ5と単結晶配置領域6との間に配置されている。
【0031】
加熱装置4は、ガス排出路2eの温度を、単結晶成長領域6よりも高い温度とすることが可能となっている。具体的に、加熱装置4は、図1に示すように、複数の独立したリング状のヒータ4a、4b、4cを備えている。これらの複数のヒータ4a、4b、4cは、成長容器2の下部から上部に向かって順次配置され、各ヒータ4a、4b、4cにおける発熱量を独立して調整することが可能である。ヒータ4a,4b,4cはそれぞれ、蛇行状であることが好ましい。ヒータ4a,4b,4cのそれぞれは、複数(例えば2つ)に分割されていてもよい。ここで、ヒータ4aは、原料1の温度を調整するためのものである。従って、ヒータ4aは、ルツボ5を包囲するように配置されている。ヒータ4bはガス排出路2eの温度を調整するためのものである。従って、ヒータ4bはガス排出路2eを包囲するように配置されている。またヒータ4cは単結晶成長領域6を加熱するためのものである。従って、ヒータ4cは、単結晶配置領域6を包囲するように配置されている。従って、ヒータ4bの発熱量をヒータ4cの発熱量よりも大きくすれば、ガス排出路2eの温度を、単結晶成長領域6の温度よりも高くすることが可能となる。
【0032】
なお、原料収容部2a及びキャップ部材2dは通常、黒鉛で構成される。但し、原料収容部2a及びキャップ部材2dの内壁面は、原料1の昇華時に生成されるアルミニウムガスによる腐食を抑制する観点からは、炭化タンタル(TaC)、窒化ジルコニウム(ZrN),窒化タングステン(WN),窒化タンタル(TaN)などの材料でコーティングされることが好ましく、中でも、アルミニウムガスに対する耐腐食性に特に優れることから、炭化タンタルでコーティングされることが好ましい。
【0033】
次に、上記製造装置100を用いた単結晶の製造方法について説明する。
【0034】
まず棒状の支持部材7の先端に固定する種結晶支持体8の製造方法について説明する。種結晶支持体8は、上述したように、支持部材7の先端に固定される基材9と、種結晶10と、基材9と種結晶10とを接合する接合部11とを備えている。
【0035】
(接合部形成工程)
まず基材9上に、気相法により多結晶体を形成する。気相法としては、昇華法、水素化物堆積法(Hydride Vapor Phase Epitaxy,HVPE)、MOCVD法、熱蒸着法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、レーザーアブレーション法、プラズマ法及びスパッタ法などが挙げられる。中でも、単結晶の成長速度が大きいことから、昇華法が好ましく用いられる。多結晶体の厚さは通常1〜5000μmであり、好ましくは20〜500μmである。
【0036】
図2は、昇華法により基材上に接合部を形成するための接合部製造装置の一例を示す切断面端面図、図3は、基材及び接合部の積層体を示す断面図、図4は、種結晶保持体を示す断面図である。図2に示すように、接合部製造装置20は、発熱体14と、発熱体14を包囲する断熱材13と、断熱体13の周囲に巻回される加熱コイル16とを備えている。発熱体14は、原料15を収容する原料収容部14aと、原料収容部14aを密閉する蓋体14bとで構成されている。断熱材13も断熱材本体部13aと、断熱材本体部13aに設けられる蓋体13bとを有している。また断熱材13には、発熱体14の蓋体14bを露出させるように形成される貫通孔13cと、発熱体14の原料収容部14aの底部を露出させるように形成される貫通孔13dとが形成されている。貫通孔13cは、放射温度計を挿入し、蓋体14bから放射される赤外線によって蓋体14bの温度を計測するためのものである。貫通孔13dは、放射温度計を挿入し、原料収容部14aの底部から放射される赤外線によって底部の温度を計測するためのものである。
【0037】
そして、接合部製造装置20において、断熱材13の蓋体13bを外し、発熱体14の蓋体14bを外した状態にする。そして、発熱体14の蓋体14bには、原料収容部14aを蓋体14bで密閉した場合に原料15に対向する面に基材9を固定する。基材9の固定は、例えば基材9を発熱体14の蓋体14bとして発熱体14の上に嵌め合せて載置したり、発熱体14の蓋体14bに機械的に嵌め合せたりすることによって行うことができる。
【0038】
そして、原料収容部14aに原料15を収納した後、蓋体14bで原料収容部14aを密閉する。続いて、断熱材本体部13aを蓋体13bで密閉する。
【0039】
そして、加熱コイル16に電流を印加して磁界を発生させることにより発熱体14を発熱させる。このとき、断熱材13の貫通孔13c、13dの各々に放射温度計を挿入し、発熱体14の蓋体14b、発熱体14の原料収容部14aの底部の温度を計測しながら、原料15が昇華する温度まで原料15を加熱する。このとき、発熱体14の蓋体14bの温度が、発熱体14の原料収容部14aの底部の温度よりも低くなるようにする。すると、原料15が昇華し、昇華したガスにより基材9の表面上に、種結晶10と同一材料からなる多結晶体が析出する。こうして基材9上に接合部11が形成され、基材9及び接合部11の積層体が得られる(図3)。
【0040】
次に、断熱材13の蓋体13bを取り外し、続いて発熱体14の蓋体14bを取り外す。そして、蓋体14bから、基材9及び接合部11の積層体を取り外す。
【0041】
(接合部表面粗さ減少工程)
次に、接合部11の接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面を形成する。ここで、接合部11の接合予定面の表面粗さを減少させるには、例えば接合部11の接合予定面に対して研削又は研磨などを行えばよい。中でも、研削が加工速度が大きいことから好ましいが、表面粗さは研磨の方が低くなるので、両者を併用しても良い。また接合部11の接合予定面の表面粗さは、平滑化面の算術表面粗さRaが0.05〜2μmとなるまで減少させることが好ましく、0.2〜1μmとなるまで減少させることがより好ましい。
【0042】
一方、種結晶10を用意する。種結晶10としては通常、窒化アルミニウム(AlN)が用いられるが、炭化ケイ素(SiC)を使用することも可能である。種結晶10の厚さは通常は100〜2000μmであり、好ましくは200〜1000μmである。
【0043】
そして、上記積層体の接合部11の平滑化面に種結晶10を重ね合わせ、この状態で接合部11及び種結晶10を熱処理する。こうして接合部11と種結晶10とが接合し、種結晶保持体8が得られる(図4)。このとき、熱処理の温度は、接合部11と種結晶10とが接合する温度であればよいが、通常1800〜2100℃、好ましくは1900〜2000℃とする。また接合部11及び種結晶10の熱処理は、加圧しながら行うことが好ましい。この場合、加圧しないで熱処理を行う場合に比べて種結晶10を接合部11により強固に接合することができる。このときの加圧圧力は通常、5〜200kPaであり、好ましくは10〜50kPaである。
【0044】
(種結晶表面粗さ減少工程)
なお、接合部11及び種結晶10を熱処理する前に、種結晶10のうち接合部11との接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面を形成することが好ましい。この場合、接合部11と種結晶10との密着性をより向上させることができる。
【0045】
種結晶10の接合予定面の表面粗さを減少させるには、例えば種結晶10の接合予定面に対して研削又は研磨などを行えばよい。中でも、研削が加工速度が大きいことから好ましい。また種結晶10の接合予定面の表面粗さは、平滑化面の算出表面粗さRaが0.05〜2μmとすることが好ましく、0.2〜1μmとすることがより好ましい。
【0046】
こうして種結晶保持体8が得られた後は、図1に示すように、まず成長容器2において、原料収容部2a内に配置したルツボ5に窒化アルミニウム単結晶の原料1を収容する。
【0047】
(種結晶保持体設置工程)
一方、棒状の支持部材7の先端に、上記のようにして得られた種結晶保持体8を固定する。このとき、種結晶保持体8の基材9を支持部材7の先端に固定する。そして、種結晶保持体8を支持した支持部材7を、キャップ部材2dの挿入口2gに、種結晶保持体8側から挿入する。このとき、種結晶10は、成長容器2内の単結晶成長領域6に配置される。具体的には、種結晶10は、原料1側に面した表面が原料収容部2aの底面2iから所定の距離離れた位置に配置されるように単結晶成長領域6に配置される。
【0048】
他方、成長容器2内にガス導入管2fのガス導入口2hを経て窒素ガスを導入しながら、加熱装置4を作動させる。このとき、例えばリング状ヒータ4bの発熱量を、ヒータ4aよりも大きくし、ヒータ4aの発熱量をヒータ4cよりも大きくする。これにより、ガス排出路2eの温度が原料1及び単結晶成長領域6の温度よりも高くなり、原料1の温度が単結晶成長領域6の温度よりも高くなる。
【0049】
(結晶成長工程)
こうして、加熱装置4により、窒化アルミニウム単結晶の原料1が加熱されて昇華すると、原料1から昇華した昇華ガスとガス導入口2hから導入された窒素ガスとの混合ガスが、種結晶10において冷却されることで再結晶して固相になり種結晶10に結晶12が成長する。こうして窒化アルミニウム単結晶が得られる。
【0050】
上記製造方法によれば、接合部11が、基材9の上に気相法により形成されることによって得られるため、接合部11が緻密に形成されるとともに接合部11と基材9との密着性が向上し、接合部11に空隙が生じることが十分に防止される。また、種結晶10は、接合部11の接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面とされてから、接合部11の平滑化面に接合される。このため、種結晶10と接合部11との間の隙間を十分に小さくすることが可能となる。このため、上記製造方法によって得られる種結晶保持体8を、窒化アルミニウム単結晶の原料1を収容した成長容器2内に設置し、成長容器2内に単結晶の原料1を収容して昇華させると、種結晶保持体8の種結晶10から結晶12が成長する。このとき、接合部11と基材9との密着性が向上しており、接合部11に空隙が生じることが十分に防止される。加えて、種結晶10は、接合部11の接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面とされてから、接合部11の平滑化面に接合されるため、種結晶10と接合部11との間の隙間を十分に小さくすることが可能となる。このため、種結晶10が基材9側から昇華することが十分に防止され、種結晶10中に空隙が発生することも十分に防止される。その結果、種結晶10上に成長する成長結晶においても、空隙が発生することが十分に防止される。また、接合部11は、種結晶10と同一材料からなる多結晶体で構成されるため、接合部11と種結晶10との間の熱膨張係数の差が十分に小さくなる。このため、接合部11が加熱されても、種結晶10に印加されるひずみを十分に小さくすることが可能となり、得られる成長結晶においても、ひずみを十分に小さくすることが可能となる。その結果、高品質の単結晶を得ることができる。
【0051】
特に、上記実施形態において、接合部11の表面粗さを減少させた後で且つ種結晶10を接合部11に接合する前に、種結晶10のうち接合部11と接合する接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面を形成すると、接合部11の接合予定面、及び種結晶10の接合予定面のいずれも平滑化されるため、接合部11と種結晶10との密着性をより向上させることができる。従って、種結晶10において昇華ガスの発生がより十分に防止され、種結晶10中における空隙の発生をより十分に抑制することができる。その結果、得られる単結晶において、昇華による空隙の発生をより十分に抑制することができる。
【0052】
さらに結晶12を成長させている間は、ガス導入管3bから反応管本体部3a内に希釈ガスを導入することが好ましい。この場合、成長容器2のガス排出路2eから排出されるガス中の窒化アルミニウムが希釈され、反応管本体部3aの内壁に窒化アルミニウム粒子が析出することを抑制することができる。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、窒化アルミニウム単結晶が、密閉していない成長容器2内で製造されているが、窒化アルミニウム単結晶は、密閉された成長容器内で製造されてもよい。
【0054】
また上記実施形態は、単結晶が窒化アルミニウムの場合について説明したが、本発明は、炭化ケイ素などの単結晶においても適用可能である。この場合、接合部11としては、炭化ケイ素の多結晶体が使用され、種結晶10としては、炭化ケイ素の単結晶が使用される。
さらに上記実施形態では、ガス排出路2eが、原料が配置されるルツボ(原料配置部)5よりも高い位置で且つ単結晶配置領域6よりも低い位置に配置されているが、ガス排出路2eは、ルツボ5と単結晶配置領域6との間に配置されていればよく、原料が配置されるルツボ(原料配置部)5よりも低い位置で且つ単結晶配置領域6よりも高い位置に配置されていてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
黒鉛製の基材を準備した。次に、図2に示す接合部製造装置20において、断熱材13の蓋体13bを外し、発熱体14の蓋体14bを外した状態にした。そして、基材9は、発熱体14の蓋体14bに基材9を嵌め合せることによって固定した。
【0057】
そして、原料収容部14aに窒化アルミニウムからなる原料15を収納した後、蓋体14bで原料収容部14aを密閉した。続いて、断熱材本体部13aを蓋体13bで密閉した。
【0058】
そして、断熱材13の周りに窒素ガスを500sccmの流量で流しながら、加熱コイル16に電流を印加して磁界を発生させることにより発熱体14を発熱させた。発熱体14の内部の圧力は400Torrとした。このとき、断熱材13の貫通孔13c、13dの各々に放射温度計を挿入し、発熱体14の蓋体14b、発熱体14の原料収容部14aの底部の温度を計測しながら、原料15が昇華する温度まで原料15を加熱した。このとき、発熱体14の蓋体14bの温度を2100℃、発熱体14の原料収容部14aの底部の温度を2200℃とし、発熱体14の蓋体14bの温度が、発熱体14の原料収容部14aの底部の温度よりも小さくなるようにした。この状態を20時間保持した。
【0059】
こうして、基材9の表面上に、窒化アルミニウムからなる多結晶体を得た。
【0060】
次に、断熱材13の蓋体13bを取り外し、続いて発熱体14の蓋体14bを取り外した。そして、蓋体14bから、基材9及び接合部11の積層体を取り外した。
【0061】
一方、種結晶10を用意した。種結晶10としては、窒化アルミニウム(AlN)を用いた。
【0062】
そして、接合部11及び種結晶10のいずれについても、研削により平滑化を行い、平滑化面の算術表面粗さRaが0.3μmとなるようにした。
【0063】
そして、上記積層体の接合部11に種結晶10を重ね合わせた後、種結晶10の上に、種結晶10に2×10Paの圧力が印加されるようにタングステンからなる重りを載せた。そして、窒素ガス気流中、大気圧下、接合部11及び種結晶10を2000℃で24時間保持することにより熱処理を行った。こうして接合部11と種結晶10とが接合し、種結晶保持体8を得た。
【0064】
こうして得られた種結晶保持体8を用いて、図1に示す製造装置により、窒化アルミニウム単結晶を製造した。具体的には、黒鉛からなる支持部材7を、キャップ部材2dの支持部挿入口2gに挿入した状態で支持部材7の先端に、機械的な嵌め合せによって種結晶保持体8を固定した。
【0065】
次に、キャップ部材2dで原料収容部2aを覆った。このとき、ガス導入管2fから窒素ガスを導入し、ガス導入管3bからは希釈ガスとして窒素ガスを導入した。そして、昇華法により結晶成長を行った。
【0066】
結晶成長の条件は以下の通りとした。即ち、成長容器2内の圧力、成長時間、窒素ガスの流量、希釈ガスの流量、原料部温度、中間部温度および成長部温度はそれぞれ下記の通りとした。

成長容器2内の圧力:200Torr
成長時間 :300時間
窒素ガス流量 :1SLM
希釈ガスの流量 :1SLM
原料部温度 :2300℃
中間部温度 :2350℃
成長部温度 :2200℃

【0067】
(比較例1)
種結晶を、カーボン系接着剤(ST−201、日清紡ケミカル株式会社製)を用いて基材に固定することによって種結晶保持体を作製したこと以外は実施例1と同様にして単結晶の製造を行った。なお、カーボン系接着剤は、フェノール樹脂及びカーボンを溶剤中に溶解させてなるものとした。
【0068】
(比較例2)
種結晶を、窒化アルミニウム系接着剤を用いて基材に固定することによって種結晶保持体を作製したこと以外は実施例1と同様にして単結晶の製造を行った。なお、窒化アルミニウム系接着剤は、窒化アルミニウムを、水からなる溶剤中に溶解させてなるものとした。
【0069】
実施例1、比較例1及び比較例2で得られた種結晶保持体について、種結晶及び基材を横切るように切断し、その断面を目視にて観察したところ、以下の結果が得られた。
【0070】
即ち、実施例1の種結晶保持体においては、種結晶と接合部との界面、接合部と基材との界面の各々において空隙の存在は認められなかった。
【0071】
これに対し、比較例1では、種結晶の裏面(基材側の面)昇華が顕著であった。即ち、種結晶において大きな空隙の存在が認められた。また比較例2でも、種結晶の裏面(基材側の面)昇華が見られた。即ち、種結晶において空隙の存在が認められた。
【0072】
また得られた単結晶を切断してその断面を目視にて観察し、成長結晶における空隙の有無を調べた。結果を表1に示す。
【0073】
さらに、得られた単結晶について、X線回折により窒化アルミニウムの(0002)面のロッキングカーブを測定し、そのピークの半値幅(FWHM)を求めた。結果を表1に示す。
【表1】

【0074】
表1に示す結果より、実施例1では、得られた単結晶において、空隙の存在が認められず、FWHMの値も小さかったことから結晶性の高い結晶が得られていることが分かった。
【0075】
従って、本発明に係る種結晶保持体の製造方法によれば、高品質で且つ空隙の発生が十分に抑制される単結晶を形成することができることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
8…種結晶保持体
9…基材
10…種結晶
11…接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
基材の上に接合部を介して接合される種結晶とを備える種結晶保持体の製造方法であって、
前記基材上に気相法により前記種結晶と同一材料からなる多結晶体を前記接合部として形成する接合部形成工程と、
前記接合部において前記種結晶を接合させる接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面を得る接合部表面粗さ減少工程と、
前記接合部の前記平滑化面に前記種結晶を接合させる種結晶接合工程とを含む
ことを特徴とする種結晶保持体の製造方法。
【請求項2】
前記接合部表面粗さ減少工程と前記種結晶接合工程との間に、前記種結晶のうち前記接合部と接合する接合予定面の表面粗さを減少させて平滑化面を得る種結晶表面粗さ減少工程をさらに含む請求項1に記載の種結晶保持体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の種結晶保持体の製造方法で得られた種結晶保持体を、単結晶の原料を収容する成長容器内に設置する種結晶保持体設置工程と、
前記原料を昇華させ、前記種結晶保持体の前記種結晶から結晶を成長させる結晶成長工程とを含む、
ことを特徴とする単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−116679(P2012−116679A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265875(P2010−265875)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】