説明

穀物の種子を増大させる遺伝子、並びにその利用

【課題】本発明は、植物の粒形(頴花・果実・種子を含む)ひいては千粒重の増加に関する新規な遺伝子の単離・同定、並びに該遺伝子を利用した植物の粒の大きさ(果実・種子を含む)を増加させる育種方法を提供することを目的とする。
【解決手段】連鎖解析により、植物の粒の長さ(頴花・果実・種子を含む)、千粒重ひいては収量の増加に関するtgw6遺伝子の単離・同定に成功した。さらにこのtgw6の塩基配列から、カサラス型アレルには終止コドンが存在し、マチュアなタンパク質が作られないことが明らかになった。この日本晴型、カサラス型のTGW6タンパク質の機能を解析したところ、カサラス型のみが粒長、千粒重を増加させることが明らかになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物の種子を増大させる機能を有するイネ由来のタンパク質をコードするDNA、および該DNAを用いた穀物収量の増加方法、穀物収量の検出方法、種子収量が増加する穀物の育種方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界人口が爆発的に増え穀物の生産増が求められている。世界の年間人口増加率1.4%に対し、穀物生産増加率は1.0%と人口増加率に比べ低く、世界人口が80億を突破する2025年には穀物需要は50%上昇すると予想され、食糧不足も一層加速していると予想される。穀物生産量を上昇させるためには、収量増加と関与する遺伝子の特定と特定した遺伝子を利用した効率的な穀物育種が必須である。
【0003】
イネにおいて粒のサイズの拡大による千粒重の増大は収量増に直接結びつく。これまでに、イネにおいて種子(粒)の大きさに関わる遺伝子として、gw2(非特許文献1/Song et al., 2007)とgs3(非特許文献2/Fan et al.,2006)がポジショナルクローニング法により単離されている。しかし、これらの遺伝子は収量増に貢献しない。また、plastchron 1遺伝子を発現させ粒を拡大したトランスジェニック植物とその利用方法(特許文献1/特開2005-204621)及び遺伝子改変の方法により植物3量体Gタンパク質αサブユニット遺伝子を利用し巨大粒を結実させる方法が特許出願されている(特許文献2/特開2004-33199)。
【0004】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【特許文献1】特開2005-204621
【特許文献2】特開2004-33199
【非特許文献1】Song X.J. et al., (2007) Nature Genet. 39, 623-630
【非特許文献2】Fan C. et al., (2006) Theor. Appl. Genet. 112, 1164-1171
【非特許文献3】Ishimaru K., (2003) Plant Physiol. 133, 1083-1090
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物の粒形(頴花・果実・種子を含む)ひいては千粒重の増加に関する新規な遺伝子の単離・同定、並びに該遺伝子を利用した植物の粒の大きさ(果実・種子を含む)を増加させる育種方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、これまで穀類(植物)の収量増加のため、単子葉植物のモデルであるイネを用いて直接的に収量増加を担う遺伝子、すなわち千粒重の増加に関する遺伝子の探索を試みてきた。千粒重は複数の遺伝子の相互作用による量的形質として支配されている。農業生物資源研究所が作出した日本型イネの「日本晴」とインド型イネ「カサラス」2つの品種を交雑したF1個体に、日本晴を反復親とした戻し交雑と自殖を行なって得られた戻し交雑自殖系統群(BIL)98系統のBC2F7をQTL(Quantitative Trait Locus:量的形質座位)解析に用いた。98系統を農業生物資源研究所内の圃場に展開した。98系統を用いて、3年間の異なる環境条件下で千粒重に関するQTL解析を行った結果、千粒重を増加させる複数のQTLを検出した(図1)。特に第6染色体短腕約100cM近傍にカサラス型アレルで千粒重を増加させる効果の大きいQTL(tgw6;thousand-grain weight QTL6)を見いだすことに成功した(図1)。
【0007】
tgw6の存在を検証するために、返し戻し交雑とMAS(Marker-Assisted Selection(マーカー選抜))を用いて、TGW6準同質遺伝子系統を作製し、第6染色体短腕、約100cM近傍がカサラスに置換した準同質遺伝子系統(NIL(tgw6))及び日本晴(コントロール)を調査した。その結果、QTL(tgw6)の存在を確認し、tgw6は平均で10%の千粒重、15%の収量を増加させることがわかった。また玄米の長さが伸びることにより、千粒重が増加していた(非特許文献3/Ishimaru K., (2003) Plant Physiol. 133, 1083-1090)。
【0008】
本発明では4,000個体のNIL(tgw6)に日本晴を反復親とした戻し交雑と自殖を行なって得られたBC1F2について、それぞれCTAB法を用いてDNAを抽出し、染色体6番を網羅的に包含する27個の分子マーカーを用いて各個体の遺伝子型を決定した。その自殖後代BC2F2を1系統につき各10個体展開し、それぞれの個体について穂をサンプリング、乾燥並びに脱穀後、千粒重を調査した。分子マーカーによる遺伝子型と表現型(F2及びF3)を調査し、再度連鎖解析を行った。その結果分子マーカー(G025とG040)に挟まれる領域にtgw6が座乗することが明らかになった(図2)。tgw6座乗領域を詳細に特定するために、BC1F2集団を用いて高精度連鎖解析を行った結果、分子マーカー(G214とG232)に挟まれる約4.9Kbをtgw6として特定する事ができた(図2)。この領域において遺伝子予測を行ったところ、1個の遺伝子が予測された。このtgw6遺伝子について、カサラスと日本晴の塩基配列を決定したところ、塩基の違いが見出された(図3)。さらに、イネゲノム配列を検索し、イネにおけるtgw6遺伝子を解析したところ、イネゲノム中に他に2ヶのtgw6遺伝子が存在する事が判明した。
【0009】
シロイヌナズナ、イネにおける類似する遺伝子について遺伝的系統樹を作成した(図4)。tgw6遺伝子はアルカロイド(窒素原子を含み塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称)合成に関わるstrictosidine synthase遺伝子群と異なるグループに区別された。tgw6遺伝子とシロイヌナズナのstrictosidine synthase遺伝子であるAtSS1、AtSS2、AtSS3とのアミノ酸配列相同性を調べたところ、AtSS1、AtSS2、AtSS3とも相同性は約35%であり、アミノ酸レベルで相同性が低い事が判明した(図5)。イネでは通常アルカロイドは生産されない、またイネのみならず他の植物においてstrictosidine synthaseと収量の関連性を示す情報は存在しない。これらの理由によりtgw6遺伝子は異なる新規の作用を有していると考えられた。イネには、止葉における炭水化物生成と出穂前に蓄積した炭水化物の再転流による2種類のソースが存在する。収量を高めるには、シンク能の拡大に加えソース能を改良する必要がある。tgw6は炭水化物の再転流能(ソース能)を高め、その結果として粒のサイズ(粒長)ひいては個体当たりの収量を増加させる。本発明におけるtgw6遺伝子は粒長、千粒重の増加を介し収量特性を向上させる遺伝子として初めて特定されたものであり、tgw6遺伝子を利用することで収量増、生産性の向上に利用できる。即ち、本発明者らは、植物の粒形の増大に関与する新たな遺伝子を単離することに成功した。
【0010】
また、さらにこのTGW6タンパク質のアミノ酸配列から、カサラス型アレルで終止コドンが存在する箇所より後ろのアミノ酸配列を基に特異的なタンパク質を合成し、ウサギに投与することで、TGW6タンパク質に特異的な抗体を作出した。作出した抗体を用いて日本晴とNIL(tgw6)の葉から抽出した可溶性タンパク質20マイクログラムを用いてウエスタンブロッティング解析を行った。その結果、日本晴ではTGW6の大きさに想定するサイズのバンドが見られたがNIL(tgw6)ではバンドが見られなかった(図6)。このことからtgw6はカサラス型アレルではマチュアなタンパク質が作られないことが明らかになった。この日本晴型、カサラス型のTGW6タンパク質の機能を解析したところ、カサラス型のみが粒長、千粒重を増加させることが明らかになった。
【0011】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔26〕を提供するものである。
〔1〕 穀物の種子を増大させる機能を有するイネ由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA:
(a)配列番号:1に記載のDNAのコード領域内に終止コドンを生じる変異が挿入されることにより生じる5’末端側DNA断片;
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸のN末端側活性断片をコードするDNA;
(c)配列番号:1に記載のDNAのコード領域内に終止コドンを生じる変異が挿入されることにより生じる5’末端側DNA断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;および
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列のN末端側活性断片において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
〔2〕 配列番号:1に記載の第313番目の塩基グアニン(G)が欠損することにより生じる、前記〔1〕に記載のDNA。
〔3〕 下記(e)から(h)のいずれかである、前記〔1〕に記載のDNA:
(e)配列番号:3に記載のDNA;
(f)配列番号:4に記載のアミノ酸をコードするDNA;
(g)配列番号:3に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;および
(h)配列番号:4に記載のアミノ酸において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
〔5〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを保持する形質転換植物細胞。
〔6〕 植物がイネ、コムギ、オオムギ、エンバク、トウモロコシ、ハトムギ、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、チモシー、メドーフェスク、キビ、アワ、サトウキビである、前記〔5〕に記載の形質転換植物細胞。
〔7〕 前記〔5〕または〔6〕のいずれかに記載の形質転換細胞を含む形質転換植物体。
〔8〕 前記〔7〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
〔9〕 前記〔7〕または〔8〕のいずれかに記載の形質転換植物体の繁殖材料。
〔10〕 前記〔7〕または〔8〕のいずれかに記載の形質転換植物体の製造方法であって、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法。
〔11〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質。
〔12〕 前記〔1〕〜〔3〕に記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、穀物の収量を増加させる方法。
〔13〕 穀物の種子の収量増加が、穀物の種子を増大させることにより起こる前記〔12〕に記載の方法。
〔14〕 穀物がイネ、コムギ、オオムギ、エンバク、トウモロコシ、ハトムギ、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、チモシー、メドーフェスク、キビ、アワ、サトウキビである前記〔12〕または〔13〕に記載の方法。
〔15〕 被検植物について、配列番号:1に記載のDNA領域に相当する部位、またはその周辺配列に存在する変異を含むDNAマーカーを検出することを特徴とする、被検植物の種子の収量を検出する方法。
〔16〕 変異が一塩基多型である、前記〔15〕に記載の方法。
〔17〕 以下の工程(a)および(b)を含む、前記〔15〕に記載の方法:
(a)被検植物における配列番号:1に記載のDNA領域に相当する部位、またはその周辺配列に存在する多型部位の塩基種を決定する工程、
(b)(a)で決定された多型部位の塩基種において、配列番号:1またはその周辺配列と異なるアレルが検出された場合に、被検植物は種子の収量が多いと判定する工程。
〔18〕 多型部位が、配列番号:5に記載の塩基配列における、122位、136位と137位の間、409位、464位、628位、697位、801位、841位、942位、1345位から選択される少なくとも一つの多型部位に相当する部位である、前記〔17〕に記載の方法。
〔19〕 多型部位の塩基種の変異が、配列番号:5に記載の塩基配列における122位の塩基種のTからAへの変異、136位と137位の間への塩基種のTおよびCの挿入、409位の塩基種のCからGへの変異、464位の塩基種のGの欠損、628位の塩基種のTからCへの変異、697位の塩基種のCからTへの変異、801位の塩基種のTからGへの変異、841位の塩基種のGからTへの変異、942位の塩基種のTからCへの変異、1345位の塩基種のAからGへの変異である場合には、種子が増大すると判定する、前記〔18〕に記載の方法。
〔20〕 配列番号:5に記載のDNAとストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、被検植物の種子の収量を検出するためのプライマー。
〔21〕 前記〔18〕または〔19〕に記載の多型部位を含む領域を増幅するための、前記〔20〕に記載のプライマー。
〔22〕 配列番号:5に記載のDNAとストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、被検植物の種子の収量を検出するためのプローブ。
〔23〕 前記〔18〕または〔19〕に記載の多型部位を含む領域に特異的にハイブリダイズする、前記〔22〕に記載のプローブ。
〔24〕 以下の(a)および(b)に記載の工程を含む、種子の収量を増大させる機能を有する穀物を育種する方法:
(a)種子が増大した穀物と任意の機能を有する穀物とが交配された品種を作製する工程、
(b)前記〔15〕に記載の方法により、工程(a)で作製された植物の種子の収量を検出する工程。
〔25〕 穀物の収量を増大させる機能を有する植物を育種する方法であって、下記工程(a)〜(d)を含む穀物を育種する方法:
(a)植物Aと、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを有する他の植物Bを交雑させ、F1を作出する工程、
(b)前記F1と前記植物Aを交雑させる工程、
(c)前記DNAを有する植物を選抜する工程、
(d)工程(c)によって選抜された植物と、前記植物Aを交雑させる工程。
〔26〕 前記工程(c)の選抜が、植物ゲノム中の配列番号:1に記載のDNA領域に相当する部位、またはその周辺配列に存在する変異を含むDNAマーカーを利用して選抜される、前記〔25〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
連鎖解析により、植物の粒の長さ(頴花・果実・種子を含む)、千粒重ひいては収量の増加に関する遺伝子の単離・同定に成功した。また、該遺伝子を利用した植物の粒の長さ(花頴・果実・種子を含む)を増加させる育種手法も見出した。本発明は、植物の品種改良等の分野において有用である。
【0013】
〔発明の実施の形態〕
本発明は、穀物の種子収量に関する新規遺伝子tgw6、および該遺伝子を用いた穀物収量の増加方法、穀物収量の検出方法、種子収量が増加する穀物の育種方法を提供する。
【0014】
本発明において種子収量の増加とは、具体的には種子を増大させることによってもたらされる。本発明において種子が増大するとは、種子の粒長、千粒重が増加することをいい、該遺伝子の活性型タンパク質が発現しない植物体の種子と比較して、それぞれ30%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは15%、10%、5%以上のサイズの増加をいう。
【0015】
本発明者らにより穀物の種子収量との関係が明らかにされた、イネ日本晴のtgw6遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号:1に、これら遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2、ゲノムDNAの塩基配列を配列番号:5に示す。また、イネ日本晴のtgw6遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号:3に、これら遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
【0016】
イネカサラス型のtgw6遺伝子は、配列番号:1における313位のグアニン(G)の欠失によるフレームシフトでストップコドンが出現し、以降のアミノ酸全てが翻訳されない構造となっている。
【0017】
イネの量的形質遺伝子座(QTL)は、これまで本発明者によりイネの種子収量増加に関与する遺伝子座として、イネ第6染色体短腕、約100cM近傍の約30cMという広大な領域のいずれかの場所に存在するものとして知られていた(Ishimaru K., (2003) Plant Physiol. 133, 1083-1090)。本発明者らは、イネ第6染色体短腕、約100cM近傍におけるtgw6遺伝子の存在領域の絞り込みを行い、遂に単一の遺伝子として同定することに成功した。
【0018】
本発明は、穀物の種子を増大させる機能を有するイネ由来のtgw6遺伝子に関する。本発明のtgw6遺伝子としては、具体的には、穀物の種子を増大させる機能を有するイネ由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAが含まれる。
(a)配列番号:1に記載のDNAのコード領域内に終止コドンを生じる変異が挿入されることにより生じる5’末端側DNA断片;
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸のN末端側活性断片をコードするDNA;
(c)配列番号:1に記載のDNAのコード領域内に終止コドンを生じる変異が挿入されることにより生じる5’末端側DNA断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;および
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列のN末端側活性断片において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
【0019】
穀物の種子を増大させる機能が活性なTGW6タンパク質(以下、活性型TGW6タンパク質ということがある)は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列のC末端を欠失し、N末端活性断片を有するタンパク質である。このようなタンパク質の具体的な例としては、イネにおいて、配列番号:1に記載の第313番目の塩基グアニン(G)が欠損することにより生じるDNAによりコードされるタンパク質が挙げられる。より具体的な例としては、下記(e)から(h)のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質である。
(e)配列番号:3に記載のDNA;
(f)配列番号:4に記載のアミノ酸をコードするDNA;
(g)配列番号:3に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;および
(h)配列番号:4に記載のアミノ酸において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
【0020】
本発明において、本発明の遺伝子が由来する穀物植物としては、特に制限はないが、例えばイネ、コムギ、オオムギ、エンバク、トウモロコシ、ハトムギ、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、チモシー、メドーフェスク、キビ、アワ、サトウキビが挙げられる。本発明の遺伝子が由来する植物として、より好ましくは、イネを挙げることができる。
【0021】
本発明の「tgw6遺伝子」は、「TGW6タンパク質」をコードしうるものであれば、その形態に特に制限はなく、「tgw6遺伝子」には、cDNAの他、ゲノムDNA、化学合成DNAなども含まれる。また、tgw6遺伝子はTGW6タンパク質をコードするものであれば、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
【0022】
本発明の遺伝子のコード領域は、例えば、配列番号:5に記載の塩基配列における154位〜1206位の領域を挙げることができる。
【0023】
ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、植物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、tgw6遺伝子(例えば、配列番号:1、3または5のいずれかに記載のDNA)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより当該クローンを得、調製することが可能である。また、tgw6遺伝子に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRをおこなうことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、植物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0024】
さらに、tgw6遺伝子は広く穀物植物に存在すると考えられるため、tgw6遺伝子には、種々の植物に存在する相同遺伝子も含まれる。ここで「相同遺伝子」とは、種々の植物において、イネにおける活性型tgw6遺伝子産物と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子を指す。このようなタンパク質には、例えば、活性型TGW6タンパク質の変異体、アレル、バリアント、ホモログ、活性型TGW6タンパク質の部分ペプチド、または、他のタンパク質との融合タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明における活性型TGW6タンパク質の変異体としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のN末側活性断片と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:1、3または5に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のN末側活性断片と機能的に同等なタンパク質も、活性型TGW6タンパク質の変異体として挙げることができる。
【0026】
また、本発明における活性型TGW6タンパク質の変異体としては、配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなる天然由来のタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることが出来る。また、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然由来のDNAよりコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質も、活性型TGW6タンパク質の変異体として挙げることができる。
【0027】
本発明において、変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい(これは、保存的アミノ酸置換として知られている)。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)および親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)の二種類に大別することができる。また、その側鎖の構造に基づいて、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)などのようにアミノ酸を分類することもできる。さらに、例えば、変異マトリクス(mutational matrix)によってアミノ酸を分類することも周知である(Taylor 1986, J, Theor. Biol. 119, 205-218; Sambrook, J. et al., Molecular Cloning 3rd ed. A7.6-A7.9, Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)。この分類を以下に要約すると、脂肪族アミノ酸(L、I、V)、芳香族アミノ酸(H、W、Y、F)、荷電アミノ酸(D、E、R、K、H)、正荷電アミノ酸(R、K、H)、負荷電アミノ酸(D、E)、疎水性アミノ酸(H、W、Y、F、M、L、I、V、C、A、G、T、K)、極性アミノ酸(T、S、N、D、E、Q、R、K、H、W、Y)、小型アミノ酸(P、V、C、A、G、T、S、N、D)、微小アミノ酸(A、G、S)および大型(非小型)アミノ酸(Q、E、R、K、H、W、Y、F、M、L、I)が挙げられる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0028】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。さらに、標的アミノ酸残基は、共通した性質をできるだけ多く有するアミノ酸残基に変異させることがより好ましい。
【0029】
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、活性型TGW6タンパク質と同等の生物学的機能や生化学的機能を有することを指す。本発明において、活性型TGW6タンパク質の生物学的機能や生化学的機能としては、例えば穀物の種子を増大させる機能を挙げることができる。生物学的な性質には発現する部位の特異性や、発現量等も含まれる。
【0030】
相同遺伝子を単離するための当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, vol. 230, 1350-1354, 1985, Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487-491,1988)が挙げられる。即ち、当業者にとっては、tgw6遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号:1、3または5のいずれかに記載のDNA)もしくはその一部をプローブとして、またtgw6遺伝子に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、種々の植物からtgw6遺伝子の相同遺伝子を単離することは通常行いうることである。
【0031】
このような相同遺伝子をコードするDNAを単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4xSSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0032】
単離されたDNAの相同性は、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993) に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength =12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0033】
また本発明は、tgw6遺伝子を含むベクターならびに形質転換植物細胞を提供する。
【0034】
本発明のベクターとしては、形質転換体作製のために細胞内で本発明のDNAを発現させるベクター、例えば形質転換植物体作製のために植物細胞内で本発明のDNAを発現させるためのベクターが含まれる。植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えばプラスミド、ファージ、またはコスミドなどを例示することができる。
【0035】
また上記「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルス等が含まれる。
【0036】
本発明のベクターは、本発明のDNAを恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有してもよい。
【0037】
当業者においては、所望のDNAを有するベクターを、一般的な遺伝子工学技術によって、適宜、作製することが可能である。通常、市販の種々のベクターを利用することができる。
【0038】
本発明のベクターは、宿主細胞内において本発明のDNAを保持したり、発現させるためにも有用である。
【0039】
本発明におけるDNAは、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。即ち本発明は、本発明のDNAまたはベクターを保持する宿主細胞を提供する。該ベクターとしては、挿入したDNAを安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のDNAを内在性遺伝子を有する細胞内に導入および発現させる目的としてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でDNAを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))、植物個体であればpBINPLUSベクター(van Engelen, F.A. et al., (1995). pBINPLUS: an improved plant transformation vector based on pBIN19. Transgenic Res. 4, 288-290.)などを例示することができる。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法(Molecular Cloning, 5.61-5.63)により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる。
【0040】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。本発明のDNAを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。
【0041】
また、生体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、例えば、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(エレクトロポーレーション)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法などの当業者に公知の方法により生体内に導入する方法などが挙げられる。
【0042】
植物体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
また、植物体内へ本発明のDNAを導入する場合、DNAは、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法等を用いて、植物細胞に直接導入することもできるが、植物への遺伝子導入用プラスミドに組込み、これをベクターとして、植物感染能のあるウイルスあるいは細菌を介して、間接的に植物細胞に導入することもできる。かかるウイルスとしては、例えば代表的なウイルスとして、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルス、ジェミニウイルス等が挙げられ、細菌としては、アグロバクテリウム等が挙げられる。アグロバクテリウム法により、植物への遺伝子導入を行う場合には、市販のプラスミドを用いることができる。このようなベクターを用いて、植物体内へ本発明のDNAを導入する場合の方法としては、好ましくは、アグロバクテリウムを介して遺伝子を導入するリーフディスク法(Jorgensen, R.A. et al., (1996). Chalcone synthase cosuppression phenotypes in petunia flowers: comparison of sense vs. antisense constructs and single-copy vs. complex T-DNA sequences. Plant Mol. Biol. 31, 957-973.)が挙げられる。
【0043】
なおこれら上述の形質転換方法は、宿主となる植物などの種類(例えば単子葉植物、双子葉植物)に応じて適宜選択することが好ましい。
本発明において「植物」とは、特に制限されないが、例えばイネ、コムギ、オオムギ、エンバク、トウモロコシ、ハトムギ、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、チモシー、メドーフェスク、キビ、アワ、サトウキビ等を挙げることができる。
【0044】
また、本発明は、本発明のDNAまたは本発明のベクターを保持する植物細胞を提供する。さらに本発明は、本発明の植物細胞を含む形質転換植物体を提供する。本発明のDNAまたは本発明のベクターが導入される細胞には、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はない。
【0045】
本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。
【0046】
形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法、およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法などを挙げることができるが、特に制限されるものではない。いくつかの技術については既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0047】
本発明のDNAを含むベクターの導入により形質転換した植物細胞を効率的に選択するために、上記組み換えベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子を含む、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入することが好ましい。この目的に使用される選抜マーカー遺伝子は、例えば抗生物質カナマイシンまたはゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、および除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0048】
組み換えベクターを導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
【0049】
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えばイネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))の方法が挙げられる。
【0050】
なお、このように再生され、かつ栽培した形質転換植物体中の導入された外来DNAの存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって、または植物体中のDNAの塩基配列を解析することによって確認することができる。
【0051】
この場合、形質転換植物体からのDNAの抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に準じて実施することができる。
【0052】
再生させた植物体中に存在する本発明のDNAよりなる外来遺伝子を、PCR法を用いて解析する場合には、上記のように再生植物体から抽出したDNAを鋳型として増幅反応を行う。また、本発明のDNA、あるいは本発明により改変されたDNAの塩基配列に従って適当に選択された塩基配列をもつ合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、これらを混合させた反応液中において増幅反応を行うこともできる。増幅反応においては、DNAの変性、アニーリング、伸張反応を数十回繰り返すと、本発明のDNA配列を含むDNA断片の増幅生成物を得ることができる。増幅生成物を含む反応液を例えばアガロース電気泳動にかけると、増幅された各種のDNA断片が分画されて、そのDNA断片が本発明のDNAに対応することを確認することが可能である。
【0053】
一旦、ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAまたはベクターが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
このようにして作出された植物体は通常の穀物に比べて種子収量が増加することが期待される。
【0054】
上述のように、本発明のDNAもしくはベクターを植物細胞へ導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法もまた本発明に含まれる。
【0055】
本発明の種子収量が増加した植物体もしくはその種子は、育種法によっても作出することが可能である。
上記育種法としては、例えば、本発明のDNAを有する品種と交雑させることを特徴とする一般的な育種法(交雑育種法等)を挙げることができる。該方法によって、種子が増大した植物体もしくはその種子を作出することができる。
【0056】
育種法によって本発明の植物体もしくは種子を作製する際には、公知の種々の文献を参照して適宜実施することができる(細胞工学別冊・植物細胞工学シリーズ15「モデル植物の実験プロトコール」秀潤社、2001年、加藤鎌司著「2.1 イネ・コムギの交配」p.6-9; 高牟礼逸朗、佐野芳雄著「2. 交配法」p.46-48)。
【0057】
本発明の上記育種方法の好ましい態様としては、以下の(a)および(b)に記載の工程を含む方法である。
(a)種子が増大した穀物と任意の機能を有する穀物とが交配された品種を作製する工程、
(b)工程(a)で作製された植物の種子の収量を検出する工程
【0058】
本発明の植物体を育種する方法のより具体的な例としては、以下の(a)および(b)に記載の工程を含む方法が挙げられる。
(a)本発明のDNAを有する植物と交雑させる工程、
(b)前記DNAを有する植物改変体を選抜する工程
【0059】
本発明の上記植物体の作成方法を育種法によって実施する場合には、さらに具体的には、以下のような工程を含む方法を挙げることができる。
(a)植物Aと、本発明のDNAを有する他の植物Bを交雑させ、F1を作出する工程、
(b)前記F1と前記植物Aを交雑させる工程、
(c)前記DNAを有する植物を選抜する工程、
(d)工程(c)によって選抜された植物と、前記植物Aを交雑させる工程
【0060】
上記方法においては、本発明のDNAを有する植物Bと、種子収量を増加させたい植物もしくは種子を増大させたい植物(これら植物を「植物A」と記載する。)を交雑し、Bのもつ本発明のDNAが受け継がれ、かつ植物Aに近い個体を選抜し、これに植物Aによる交雑を重ねていく「戻し交雑」を行って、Bが有する本発明のDNAの形質を意図的に導入する。その際、一般的にゲノム育種に利用されるDNAマーカーを利用して本発明のDNAを有する植物を選抜することにより、上記「戻し交雑」による置換を効率的に行うことが可能である。その結果、育種期間の短縮に繋がり、また、余分なゲノム領域の混入を正確に除くことができる。通常、「戻し交雑」では、本発明のDNAと非常に強く連鎖する他のDNAに依存する形質がどうしても排除できないという現象が問題となることがあるが、本発明のDNAの近傍に存在するDNAマーカーを利用することにより、所望の植物の正確な選抜が可能となる。
【0061】
上記方法においては、必要に応じて、本発明のDNA以外のゲノム全域が目的の遺伝形質でホモ固定するまで、繰り返して行うことができる。即ち、本発明の好ましい態様のおいては、上記工程(d)によって交雑された個体について、一般的なDNAマーカーを利用して、本発明のDNAを有し、かつ、ゲノム構造が植物Aに近い植物個体を選抜することができる。さらに、この選抜された植物個体は、必要に応じて、「戻し交雑」(イネ品種Aと交雑)させることができる。
【0062】
特にDNAマーカーを利用したゲノム育種方法では、置換率の高い個体を選抜して次の交雑に進むことができるため、世代を進めるほどに選抜効率が良くなる。また、本方法では、少ない個体数を扱えば済むので、省スペースでの育種が可能になる。さらに、温室や人工気象室を利用して1年に複数回もの交雑が可能になる。
【0063】
上記工程(c)において、DNAマーカーを用いて選抜するとは、当該DNAマーカーを特徴付ける塩基配列(例えば、多型等)についての塩基種の情報を基に、選抜を行うことを言う。例えば、本発明のDNAの近傍に多型変異が存在する場合、当該多型変異と同一の多型変異を有する個体を選抜すること等を言う。
【0064】
本発明の育種方法は、好ましくは、DNAマーカーを利用した「ゲノム育種」方法である。該「ゲノム育種」は「マーカー育種」とも呼ばれる。
【0065】
本発明の育種方法において利用可能なDNAマーカーは、特に制限されず、一般的に知られている種々のDNAマーカーを好適に用いることができる。例えば、RFLP(制限酵素断片長多型)マーカー、SSR(単純反復配列)マーカー、SNP(一塩基多型)マーカー等を例示することができる。
【0066】
本発明者らは、カサラス由来のtgw6遺伝子をもつイネが種子を増大させる機能を有することを見出した。従って、日本晴型とカサラス型のtgw6遺伝子を判別することで被検植物の種子の収量を検出することができる。言い換えれば、日本晴型に対するカサラス型の変異部位をDNAマーカーとすることで、上記育種方法に使用することができる。
【0067】
上記の知見に基づき、本発明は、被検植物について、配列番号:1に記載のDNA領域に相当する部位、またはその周辺配列に存在する変異を含むDNAマーカーを検出することを特徴とする、被検植物の種子の収量を検出する方法を提供する。
【0068】
本発明において、配列番号:1に記載のDNA領域に「相当する部位」とは、種々の植物において、当該植物に存在する上記遺伝子の相同遺伝子における対応する部位をいう。
【0069】
本発明において「種子の収量を検出」とは、種子のサイズが増大するか否かを判定するための検査が含まれる。本発明の方法においては、上記配列番号:1に記載のDNA領域に相当する部位、またはその周辺配列、具体的には配列番号:5に記載のの遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域において、配列番号:1または5と同型の変異が検出された場合には、種子のサイズのサイズは増大しないと判定される。一方、上記配列番号:1または5の遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域において、配列番号:3と同型の変異が検出された場合には、種子のサイズが増大すると判定される。
【0070】
本発明の方法により、被検植物における変異を検出することで、実際に種子を観察しなくても、被検植物の種子のサイズが増大するか否かを判定することができる。
【0071】
本発明における「周辺配列」とは、通常、該遺伝子の近傍の染色体上の領域を指す。近傍とは、特に制限されるものではないが、通常、本発明の多型部位を含むDNA領域である。
【0072】
上記本発明の検出方法における「変異」の位置は、予め規定することは困難であるが、通常、上記遺伝子のORF中、あるいは上記遺伝子の発現を制御する領域(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域等)中に存在するが、これらに限定されるものではない。また、この「変異」とは、上記遺伝子の発現量を変化させる、mRNAの安定性等の性質を変化させる、あるいは上記遺伝子によってコードされるタンパク質の有する活性を変化させるような変異であることが多いが、特に制限されない。本発明の変異としては、例えば、塩基の付加、欠失、置換、挿入変異等を挙げることができる。
【0073】
本発明者らは、被検植物における、植物の種子収量を増加させる機能を有する植物由来のタンパク質をコードする配列番号:1、3または5のDNA領域において、植物の種子収量に対して有意に関連する多型変異を見出すことに成功した。
【0074】
本発明の種子収量を検出する方法における「多型部位」は、上記DNAのいずれかに記載の塩基配列もしくは該塩基配列の近傍DNA領域に存在する多型であれば、特に制限されない。具体的には、本発明の種子収量を検出する方法に利用可能な多型部位として、配列番号:5に記載の塩基配列における、122位、136位と137位の間、409位、464位(配列番号:1における313位に相当)、628位、697位、801位、841位、942位、1345位から選択される少なくとも一つの多型部位に相当する部位を挙げることができる(なお、本明細書においては、これらの多型部位を単に『本発明の多型部位』と記載する場合がある)。
【0075】
上記表中に示した多型部位の塩基種は配列表に示した配列に対して相補鎖側にある塩基種を示している場合があるが、本明細書において記載された前後配列を用いれば異同を確認することは当業者にとって容易であり、検出を行うにあたってはプラス鎖とマイナス鎖のどちらを調べても必然的にもう一方の結果を決定することができる。
【0076】
本発明の好ましい態様においては、上述した多型部位における塩基種の変異が、配列番号:5に記載の塩基配列における122位の塩基種のTからAへの変異、136位と137位の間への塩基種のTおよびCの挿入、409位の塩基種のCからGへの変異、464位の塩基種のGの欠損、628位の塩基種のTからCへの変異、697位の塩基種のCからTへの変異、801位の塩基種のTからGへの変異、841位の塩基種のGからTへの変異、942位の塩基種のTからCへの変異、1345位の塩基種のAからGへの変異である場合に、種子が増大すると判定される。
【0077】
以上のように、本発明により、種子収量に関連する遺伝子上の領域が明らかになったことにより、当業者に過度の負担を強いることなく、種子収量の検出を行うことができる。
【0078】
本発明の多型部位における塩基種の決定は、当業者においては種々の方法によって行うことができる。一例を示せば、本発明の多型部位を含むDNAの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。
【0079】
本発明の検出方法に供する「被検植物」としては、特に制限されないが、好ましくはイネ、さらに好ましくはイネの日本晴品種、カサラス品種が挙げられる。
【0080】
本発明の検出方法に供する被検試料は、通常、予め被検植物から取得された生体試料であることが好ましい。生体試料としては、例えばDNA試料を挙げることができる。本発明におけるDNA試料は、例えば被検植物の組織または細胞等から抽出した染色体DNA、あるいはRNAを基に調製することができる。
【0081】
即ち本発明は、通常、被検者由来の生体試料(予め被検植物から取得された生体試料)を被検試料として検査に供する方法である。
【0082】
当業者においては、公知の技術を用いて、適宜、生体試料の調製を行うことができる。例えば、DNA試料は、本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNAを鋳型としたPCR等によって調製することができる。
【0083】
本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。単離したDNAの塩基配列の決定は、当業者においては、DNAシークエンサー等を用いて容易に実施することができる。
【0084】
予め塩基のバリエーションが明らかにされている多型部位について、その塩基種を決定するための様々な方法が公知である。本発明の塩基種の決定方法は、特に限定されない。例えば、PCR法を応用した解析方法として、TaqMan PCR法、AcycloPrime法、およびMALDI-TOF/MS法等が実用化されている。またPCRに依存しない塩基種の決定法としてInvader法やRCA法が知られている。更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる。ここに述べた方法は、いずれも本発明における多型部位の塩基種の決定に応用できる。
【0085】
これらの方法はいずれも多量のサンプルを高速にジェノタイピングするために開発された方法である。MALDI-TOF/MSを除けば、通常、いずれの方法にも何らかの形で標識プローブなどを用意する必要がある。これに対して、標識プローブなどに頼らない塩基種決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。
【0086】
RFLPは、制限酵素の認識部位の変異、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内における塩基の挿入または欠失が、制限酵素処理後に生じる断片の大きさの変化として検出できることを利用している。検出対象となる多型を含む塩基配列を認識する制限酵素が存在すれば、RFLPの原理によって多型部位の塩基を知ることができる。
【0087】
また、CAPS (Cleaved Amplifeid Polymorphic Sequence)マーカーあるいはプライマーに変異を導入し、制限酵素サイトを作り出すdCAPS (derived CAPS)マーカーを使用することもできる。dCAPSマーカーは、PCRのプライマーにテンプレートのDNAとミスマッチを起こして、PCR産物上に制限酵素サイトを作り出すという手法である(特開2003-259898)。
【0088】
標識プローブを必要としない方法として、DNAの二次構造の変化を指標として塩基の違いを検出する方法も公知である。PCR-SSCPでは、1本鎖DNAの二次構造がその塩基配列の相違を反映することを利用している(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling.、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)。PCR-SSCP法は、PCR産物を1本鎖DNAに解離させ、非変性ゲル上で分離する工程により実施される。ゲル上の移動度は、1本鎖DNAの二次構造によって変動するので、もしも多型部位における塩基の相違があれば、移動度の違いとして検出することができる。
【0089】
その他、標識プローブを必要としない方法として、例えば、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis:DGGE法)等を例示することができる。DGGE法は、変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中で、DNA断片の混合物を泳動し、それぞれの不安定性の違いによってDNA断片を分離する方法である。ミスマッチのある不安定なDNA断片が、ゲル中のある変性剤濃度の部分まで移動すると、ミスマッチ周辺のDNA配列はその不安定さのために、部分的に1本鎖へと解離する。部分的に解離したDNA断片の移動度は、非常に遅くなり、解離部分のない完全な二本鎖DNAの移動度と差がつくことから、両者を分離することができる。
【0090】
更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる(細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」,秀潤社,2000.4/20発行,pp97-103「オリゴDNAチップによるSNPの解析」,梶江慎一)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNA(あるいはRNA)をハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズが検出される。多くのプローブに対する反応を同時に観察することができることから、例えば、多数の多型部位について同時に解析するには、DNAアレイは有用である。
【0091】
上記の方法以外にも、特定部位の塩基を検出するために、アリル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。アリル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、検出すべき多型部位が存在する領域にハイブリダイズする塩基配列で構成される。ASOを試料DNAにハイブリダイズさせるとき、多型によって多型部位にミスマッチが生じるとハイブリッド形成の効率が低下する。ミスマッチは、サザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等によって検出することができる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって、ミスマッチを検出することもできる。
【0092】
上記オリゴヌクレオチドのうち、配列番号:5に記載の塩基配列における、122位、136位と137位の間、409位、464位、628位、697位、801位、841位、942位、1345位から選択される少なくとも一つの多型部位に相当する部位のうち、いずれかの多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドは、種子収量を検出するための試薬(検査薬)として利用できる。これは遺伝子発現を指標とする検査、または遺伝子多型を指標とする検査に使用される。
【0093】
該オリゴヌクレオチドは、本発明の上記多型部位のいずれかの多型部位を含むDNAに特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、検出する遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における、上記植物の種子を増大させる機能を有する植物由来のタンパク質をコードするDNA塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
【0094】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明の上記配列番号:5に記載の塩基配列における、122位、136位と137位の間、409位、464位、628位、697位、801位、841位、942位、1345位から選択される少なくとも一つの多型部位に相当する部位のうち、いずれかの多型部位を含むDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
【0095】
本発明は、本発明の多型部位を含む領域を増幅するためのプライマー、および多型部位を含むDNA領域にハイブリダイズするプローブを提供する。
【0096】
本発明において、多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーには、多型部位を含むDNAを鋳型として、多型部位に向かって相補鎖合成を開始することができるプライマーも含まれる。該プライマーは、多型部位を含むDNAにおける、多型部位の3'側に複製開始点を与えるためのプライマーと表現することもできる。プライマーがハイブリダイズする領域と多型部位との間隔は任意である。両者の間隔は、多型部位の塩基の解析手法に応じて、好適な塩基数を選択することができる。たとえば、DNAチップによる解析のためのプライマーであれば、多型部位を含む領域として、20〜500、通常50〜200塩基の長さの増幅産物が得られるようにプライマーをデザインすることができる。当業者においては、多型部位を含む周辺DNA領域についての塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプライマーをデザインすることができる。本発明のプライマーを構成する塩基配列は、ゲノムの塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列のみならず、適宜改変することができる。
【0097】
本発明のプライマーには、ゲノムの塩基配列に相補的な塩基配列に加え、任意の塩基配列を付加することができる。例えば、IIs型の制限酵素を利用した多型の解析方法のためのプライマーにおいては、IIs型制限酵素の認識配列を付加したプライマーが利用される。このような、塩基配列を修飾したプライマーは、本発明のプライマーに含まれる。更に、本発明のプライマーは、修飾することができる。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーが各種のジェノタイピング方法において利用される。これらの修飾を有するプライマーも本発明に含まれる。
【0098】
本発明は、上記プライマーを有効成分として含有する、本発明の多型部位の検査薬またはキットも提供する。
【0099】
一方本発明において、多型部位を含む領域にハイブリダイズするプローブとは、多型部位を含む領域の塩基配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるプローブを言う。より具体的には、プローブの塩基配列中に多型部位を含むプローブは本発明のプローブとして好ましい。あるいは、多型部位における塩基の解析方法によっては、プローブの末端が多型部位に隣接する塩基に対応するように、デザインされる場合もある。従って、プローブ自身の塩基配列には多型部位が含まれないが、多型部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を含むプローブも、本発明における望ましいプローブとして示すことができる。
【0100】
言いかえれば、ゲノムDNA上の本発明の多型部位、または多型部位に隣接する部位にハイブリダイズすることができるプローブは、本発明のプローブとして好ましい。本発明のプローブには、プライマーと同様に、塩基配列の改変、塩基配列の付加、あるいは修飾が許される。例えば、Invader法に用いるプローブは、フラップを構成するゲノムとは無関係な塩基配列が付加される。このようなプローブも、多型部位を含む領域にハイブリダイズする限り、本発明のプローブに含まれる。本発明のプローブを構成する塩基配列は、ゲノムにおける本発明の多型部位の周辺DNA領域の塩基配列をもとに、解析方法に応じてデザインすることができる。
【0101】
本発明のプライマーまたはプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。本発明のプライマーまたはプローブの、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15〜100、一般に15〜50、通常15〜30である。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
【0102】
本発明のプローブの具体的な例としては、それぞれ配列番号:5に記載の塩基配列における122位の塩基種のTからAへの変異、136位と137位の間への塩基種のTおよびCの挿入、409位の塩基種のCからGへの変異、464位の塩基種のGの欠損、628位の塩基種のTからCへの変異、697位の塩基種のCからTへの変異、801位の塩基種のTからGへの変異、841位の塩基種のGからTへの変異、942位の塩基種のTからCへの変異、1345位の塩基種のAからGへの変異のいずれかの多型部位に相当する多型部位を含む領域にハイブリダイズするプローブであって、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するプローブが挙げられる。
【0103】
本発明はまた、本発明の種子収量を検出する方法に使用するための試薬(検査薬)を提供する。本発明の試薬は、前記本発明のプライマーおよび/またはプローブを含む。種子収量の検出においては上記、本発明の多型部位のいずれかに記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーおよび/またはプローブを用いる。
【0104】
本発明の試薬には、塩基種の決定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合わせることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の塩基種決定方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
【0105】
さらに、本発明における試薬の別の態様は、本発明の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、種子収量を検出するための試薬である。
【0106】
これらは本発明の多型部位を指標とする検査に使用される。これらの調製方法に関しては、当業者に公知の方法で行なうことができる。
【0107】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕 遺伝子クローニング
イネのtgw6を、日本晴とカサラスのゲノムDNAをテンプレートとして用いてPCRで増幅した。苗(seedling)から抽出したゲノムDNAもテンプレート(Gateway組換えのAttB部位を含む)としてPCR増幅に使用した。PCRはHifi Taq DNAポリメラーゼを使って標準的な条件で行った。1086bpのPCRフラグメントを増幅して、標準的な方法を用いて精製した。Tgw6の開始コドンの上流1749ベースをプロモーター領域として特定した。日本晴のプロモーター領域下にカサラスのtgw6を連列したものにNosターミネーターを連結しPUC19に導入した(PUC19-1)。またカサラスのプロモーター領域下にカサラスのtgw6を連列したものにNosターミネーターを連結しPUC19に導入した(PUC19-2)。
【0109】
〔実施例2〕 ベクターの構築
続いて、PUC19-1と2から制限酵素(HindIIIとEcoRI)を用いてインサートを切り出し、標準的な方法を用いて精製した。精製したインサートをpZH2B(イネ形質転換に使用されるバイナリーベクター)を制限酵素(HindIIIとEcoRI)で処理したものに導入した。このベクターは、T‐DNAボーダー内のCaMV35Sプロモーター領域下に機能的エレメントとしてmHPT(改変ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ)遺伝子とNOSターミネーターを含む。得られた発現ベクターをアグロバクテリウム株LBA4404に形質転換し、続いてイネ植物に形質転換した。形質転換されたイネ植物は成長することが確認できた。
【0110】
〔実施例3〕 評価及び結果
実施例2で得られた形質転換イネについて、試験を行なった。約15〜20の独立したT0イネ形質転換体を作出した。初代の形質転換体を成長させてT1種子を収穫するため、組織培養チャンバーから温室に移した。T1後代では3:1で導入遺伝子の存在/不存在に分類される、5つの事象が保持された。これらの各事象について、導入遺伝子(ヘテロ−及びホモ−接合体)を含む約10本のT1苗を用いて、導入遺伝子の発現をモニタリングすることにより選択を行なった。更に、最も良好なT1の事象について、1事象あたりより多くの個体を用いてT1世代と同じ方法で、T2世代で評価した。
【0111】
統計学的分析:T−テスト
2つのファクターANOVA(変異体の分析)を、植物の表現型の特性を全体的に評価するため、統計学的モデルとして使用した。T−テストを、本発明の遺伝子で形質転換した全ての事象の全ての植物を測定する全てのパラメーターについて行った。T−テストは、全ての形質転換事象にわたって遺伝子の効果をチェックするため、及びグローバルな遺伝子効果としても知られる遺伝子の全体的な効果を証明するために行った。真のグローバルな遺伝子効果についての有意性の閾値は、T−テストについて5%確率レベル以下にセットした。T1植物は直径30cmのポットに入った土に植えガラス室で栽培した。植え付けは6月12日に行い9月末に収穫した。ガラス室の温度は25度に制御されている。また、選択したT2植物(導入遺伝子を有する約5本)をグロースチャンバーに移した。選択したT2植物を、直径20cmのポットに入った土で以下の環境設定で育てた。明期=13時間、日光の強さ=20,000lux以上、日中の温度=28℃以上、夜間の温度=25℃、相対湿度=60‐70%。
【0112】
玄米のサイズの測定
植物から収穫した充実した種子を25度で2週間乾燥後、覆っている内穎と外穎を取り除き、玄米を得た。T1及びT2の評価の結果を、以下の表1に示す。TテストのP値は、T1及びT2の評価の両方において有意であり、導入遺伝子の存在は玄米の長さを有意に増加させることを示している。また、玄米の重さの比較を表2に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
〔実施例4〕
tgw6遺伝子のカサラス型アレルもしくはコシヒカリ型アレルをそれぞれ特異的に検出するプライマーを作出し、コシヒカリにカサラスの染色体断片を導入した染色体断片置換系統群の中から、準同質遺伝子系統(NIL)の選抜を行った。その結果、tgw6遺伝子の存在領域近傍のみカサラス型アレルを有すコシヒカリ(コシヒカリNILtgw6)を選抜できた(図7)。コシヒカリNILtgw6において粒長、粒重はコシヒカリに比べ有意に高くなっていた(表3)。この結果からカサラス型アレルのtgw6遺伝子を他の品種の収量特性の改良に利用できることが示された。
【0116】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】千粒重に関与するQTLの特定結果を示す図である。日本晴×カサラスのBILを用いて3年間異なる環境下のデータにより特定を行なった。
【図2】千粒重に関与するQTLの遺伝子特定結果を示す図である。
【図3】日本晴、カサラスのtgw6遺伝子の比較を示す図である。
【図4】tgw6に類似する遺伝子の系統樹である。
【図5】tgw6に類似する遺伝子のアミノ酸比較を示す図である。
【図6】特異的な抗体によりTGW6のマチュアタンパク質の確認結果を示す写真である。
【図7】コシヒカリNILtgw6の選抜の結果を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物の種子を増大させる機能を有するイネ由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA:
(a)配列番号:1に記載のDNAのコード領域内に終止コドンを生じる変異が挿入されることにより生じる5’末端側DNA断片;
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸のN末端側活性断片をコードするDNA;
(c)配列番号:1に記載のDNAのコード領域内に終止コドンを生じる変異が挿入されることにより生じる5’末端側DNA断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;および
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列のN末端側活性断片において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
配列番号:1に記載の第313番目の塩基グアニン(G)が欠損することにより生じる、請求項1に記載のDNA。
【請求項3】
下記(e)から(h)のいずれかである、請求項1に記載のDNA:
(e)配列番号:3に記載のDNA;
(f)配列番号:4に記載のアミノ酸をコードするDNA;
(g)配列番号:3に記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;および
(h)配列番号:4に記載のアミノ酸において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のDNAを保持する形質転換植物細胞。
【請求項6】
植物がイネ、コムギ、オオムギ、エンバク、トウモロコシ、ハトムギ、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、チモシー、メドーフェスク、キビ、アワ、サトウキビである、請求項5に記載の形質転換植物細胞。
【請求項7】
請求項5または6のいずれかに記載の形質転換細胞を含む形質転換植物体。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項9】
請求項7または8のいずれかに記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項10】
請求項7または8のいずれかに記載の形質転換植物体の製造方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質。
【請求項12】
請求項1〜3に記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、穀物の収量を増加させる方法。
【請求項13】
穀物の種子の収量増加が、穀物の種子を増大させることにより起こる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
穀物がイネ、コムギ、オオムギ、エンバク、トウモロコシ、ハトムギ、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、チモシー、メドーフェスク、キビ、アワ、サトウキビである請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
被検植物について、配列番号:1に記載のDNA領域に相当する部位、またはその周辺配列に存在する変異を含むDNAマーカーを検出することを特徴とする、被検植物の種子の収量を検出する方法。
【請求項16】
変異が一塩基多型である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
以下の工程(a)および(b)を含む、請求項15に記載の方法:
(a)被検植物における配列番号:1に記載のDNA領域に相当する部位、またはその周辺配列に存在する多型部位の塩基種を決定する工程、
(b)(a)で決定された多型部位の塩基種において、配列番号:1またはその周辺配列と異なるアレルが検出された場合に、被検植物は種子の収量が多いと判定する工程。
【請求項18】
多型部位が、配列番号:5に記載の塩基配列における、122位、136位と137位の間、409位、464位、628位、697位、801位、841位、942位、1345位から選択される少なくとも一つの多型部位に相当する部位である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
多型部位の塩基種の変異が、配列番号:5に記載の塩基配列における122位の塩基種のTからAへの変異、136位と137位の間への塩基種のTおよびCの挿入、409位の塩基種のCからGへの変異、464位の塩基種のGの欠損、628位の塩基種のTからCへの変異、697位の塩基種のCからTへの変異、801位の塩基種のTからGへの変異、841位の塩基種のGからTへの変異、942位の塩基種のTからCへの変異、1345位の塩基種のAからGへの変異である場合には、種子が増大すると判定する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
配列番号:5に記載のDNAとストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、被検植物の種子の収量を検出するためのプライマー。
【請求項21】
請求項18または19に記載の多型部位を含む領域を増幅するための、請求項20に記載のプライマー。
【請求項22】
配列番号:5に記載のDNAとストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、被検植物の種子の収量を検出するためのプローブ。
【請求項23】
請求項18または19に記載の多型部位を含む領域に特異的にハイブリダイズする、請求項22に記載のプローブ。
【請求項24】
以下の(a)および(b)に記載の工程を含む、種子の収量を増大させる機能を有する穀物を育種する方法:
(a)種子が増大した穀物と任意の機能を有する穀物とが交配された品種を作製する工程、
(b)請求項15に記載の方法により、工程(a)で作製された植物の種子の収量を検出する工程。
【請求項25】
穀物の収量を増大させる機能を有する植物を育種する方法であって、下記工程(a)〜(d)を含む穀物を育種する方法:
(a)植物Aと、請求項1〜3のいずれかに記載のDNAを有する他の植物Bを交雑させ、F1を作出する工程、
(b)前記F1と前記植物Aを交雑させる工程、
(c)前記DNAを有する植物を選抜する工程、
(d)工程(c)によって選抜された植物と、前記植物Aを交雑させる工程。
【請求項26】
前記工程(c)の選抜が、植物ゲノム中の配列番号:1に記載のDNA領域に相当する部位、またはその周辺配列に存在する変異を含むDNAマーカーを利用して選抜される、請求項25に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−115176(P2010−115176A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292285(P2008−292285)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度農林水産省受託研究「新農業展開ゲノムプロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】