説明

積み重ねられた複数の層を有する有機発光ダイオードデバイスおよび有機発光ダイオードデバイス

【課題】殊にOLEDディスプレイに使用されるOLEDデバイスの効率および寿命を改善すること。
【解決手段】積み重ねられた複数の層を有する有機発光ダイオード(OLED organic light emitting diode)デバイスにおいて、発光ポリマ層が、この層に隣接する2つの層の間で測定すると、80ナノメートル以上の厚さを有するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積み重ねられた複数の層を有する有機発光ダイオード(OLED organic light emitting diode)デバイスおよび有機発光ダイオードデバイスに関する。本発明は、米国特許第11/186,201号に優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオード(OLED)デバイスは、通例以下のものから構成される。すなわち、(1)基板に配置された透明アノード;(2)ホール注入層("HIL" hole injection layer);(3)電子注入および発光層(放射層);および(4)カソードから構成されるのである。順方向バイアスが加わる場合、ホールがアノードからHILに注入され、また電子がカソードから放射層に注入される。2つのキャリアはつぎに反対側の電極に向かって輸送され、互いに再結合可能になる。この箇所は再結合ゾーンと称される。放射層におけるホールと電子との再結合によって励起子が形成され、これが光を放射するのである。
【0003】
OLEDの放射層は通例、溶剤に溶ける1つ以上の有機化合物(例えばモノマまたはポリマ)から構成される。有機溶液は、湿潤剤、架橋剤、側基などの別の成分を含むことができる。放射層は、HILまたは別の下部層にこの有機溶液をデポジットして(焼成または架橋により)この溶液の乾燥を可能するかまたは発生させて薄膜にすることによって作製される。有機溶液は、インクジェット印刷のような選択的なデポジット法またはスピンコーティングのように非選択的なデポジット法を使用してデポジットすることができる。
【0004】
OLEDピクセルから形成されるディスプレイは、パッシブマトリクスまたはアクティブマトリクスのいずれかとすることが可能である。アクティブマトリクスディスプレイは、各OLEDピクセル内にスイッチング素子を含めることによって作製されるため、個別にアクティブ化また非アクティブ化状態にすることができる。パッシブマトリクスディスプレイはピクセル内部のスイッチング素子を有しておらず、その代わりに行毎のスキャンまたは多重化によって駆動される。このため、アクティブマトリクスまたは他のディスプレイに比べて、パッシブマトリクスディスプレイは駆動のためにより一層高い電圧を要する。ディスプレイのさらに多くの行をアドレッシングしなければならない場合、この高い駆動電圧はふつう増大する。このように高い駆動電圧は、放射ポリマの性能を劣化しがちであり、また殊に時間の経過と共に寿命を短くしてしまうのである。
【0005】
PPVおよびポリフルオレンベースの発光ポリマおよび一般的には任意のクラスの高分子発光材料に伴う問題の1つは、殊にパッシブディスプレイアプリケーションに対する多重化された動作の元で、商業的に魅力のある多くのアプリーションにとってこれらの寿命が短すぎることである。今日までOLEDデバイスは、良好な明所視効率(photopic efficiency)が得られ、また妥当な低電圧(<10V)しか必要としない70〜80nmのオーダの厚さを有する発光ポリマ(LEP Light Emitting Polymer)によって作製されている。しかしながら極めてわずかな例外を除いて、これらのデバイスの構造は要求される寿命を有しないのである。
【0006】
したがって殊にOLEDディスプレイという特定のアプリケーションに対してOLEDデバイスの効率および寿命を改善しなければならないのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、殊にOLEDディスプレイに使用されるOLEDデバイスの効率および寿命を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、本発明および請求項13に記載した有機発光ダイオードデバイスによって解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の請求項1に記載された第1の形態の有機発光ダイオード("OLED")デバイスは、積み重ねられた複数の層を有しており、これらの層には発光ポリマ層が含まれており、この発光ポリマ層は、この層に隣接する2つの層の間で測定すると、80ナノメートル以上の厚さを有する。
【0010】
1実施形態において、上記の発光ポリマ層は、この層に隣接する2つの層で測定すると、有利には80〜200ナノメートルの厚さを有している。ただしここでは境界も含まれる。
【0011】
1実施形態において、上記のOLEDデバイスにはカソード層およびホール注入層が含まれており、ここでこのカソード層は上記の発光ポリマ層に隣接しており、ホール注入層も上記の発光ポリマ層に隣接している。上記の厚さはこのカソード層とホール注入層との間で測定される。
【0012】
1実施形態において上記のOLEDデバイスには付加的にアノード層が含まれている。
【0013】
有利な実施形態において上記のホール注入層および発光ポリマ層は少なくとも1つの有機材料を使用して形成される。
【0014】
上記の発光ポリマ層は有利には、選択的デポジッション法および非選択的デポジション法のうちの少なくとも1つを使用して形成されており、上記の選択的デポジション法には殊に有利にはインクジェット印刷が含まれ、また上記の非選択的デポジション法にはスピンコーティングが含まれる。
【0015】
1実施形態において上記のデバイスはOLEDディスプレイを作製するために使用され、ここでこのOLEDディスプレイは有利には実質的にパッシブマトリクスまたはアクティブマトリクス形である。
【0016】
1実施形態において発光ポリマ層とホール注入層とを合わせた厚さは固定のままであり、発光ポリマ層の厚さが増大するのに伴ってホール注入層の厚さが減少する。
【0017】
本発明の請求項13に記載された第2の形態の有機発光ダイオード("OLED")デバイスは、
− 基板と、
− この基板に配置された第1電極と、
− pドーピング領域、nドーピング領域および発光領域を有する発光ポリマ層と、
− この発光ポリマ層に配置された第2電極とを有する。
【0018】
1実施形態において上記のpドーピング領域は、ホール注入層として動作する。
【0019】
1実施形態において上記のnドーピング領域は、電子注入層として作動する。
【0020】
有利な1実施形態において上記発光ポリマ層には解離可能な塩(dissociable salt)が含まれる。
【0021】
殊に有利な1実施形態では、上記の発光ポリマ層に加えられるバイアスにより、上記の解離可能な塩においてイオンが移動することによって上記のnドーピングされた領域およびpドーピングされた領域が形成される。
【実施例】
【0022】
本発明の少なくとも1つの実施形態において提示されるのは「厚い」発光ポリマ(LEP light emitting polymer)層であり、これは80ナノメートル以上の厚さを有しており、また実施形態によっては80〜200ナノメートルの厚さを有する。厚いLEP層を利用するOLEDは、薄い相当品よりも良好な明所視効率を示し、また寿命が伸びることが実験的に示されている。厚いLEPのいくつかのアプリケーションに含まれるのは、低多重化レートのパッシブマトリクスディスプレイ、低輝度ディスプレイ、およびデバイスの寿命にわたって12〜20ボルトまたはそれ以上を供給することのできる製品(例えば110Vまたは220Vの交流で電力供給される照明製品)であるが、これに限定されない。本発明の別の実施形態において、(ふつうHIL層およびLEP層から構成される)「有機積層」(organic stack)の全体的な厚さは、LEP層厚を増大させる一方でHIL層厚を減少させることによって固定のままにされる。
【0023】
LEPの厚さを増大させると、所要の駆動電圧もふつう増大する。このことは付加的なストレスをデバイスにかけるため、効率を低下させ寿命を短くすると予想することができる。予想されるこのような性能の低下を回避するため、また低電圧のアプリケーションの多くは厚いLEP層よりも薄いLEP層を要求するという理由から、厚いLEP層を使用することはふつうではない。しかしながら上で述べたようにまた以下に示すように厚いLEP層により、予想とは反するが実際に効率が増大し、寿命が伸びるのである。
【0024】
厚いLEP層はまた以下の特性を示すことも可能である。すなわち、
− 漏れ電流を格段に低減することができる。漏れ電流の低減は、電流が通らなければならない経路が比較的大きいこと(比較的厚いLEP層)によって得られる可能性がある。このことは(材料の欠陥に起因する)漏れ電流に対する経路が存在する可能性を低くする傾向がある。LEP層における漏れ電流を実質的に少なくすることによって、HIL層の厚さを少なくすることができる。この材料は、表面欠陥を良好にカバーするためにふつうはかなり厚くされる(>100nm)。しかしながら例えば100ナノメートルまたはそれ以下にHIL層の厚さを低減する場合に、デバイスの比較的長い寿命が得られることが示されている。
【0025】
有機層の全体的な厚さを一定に保ちながらLEPの厚さを増大させることによって、デバイスの性能をさらに改善することができる。
【0026】
− LEPの格段に良好な湿潤性、これによってピンホールの数が低減される;
− 薄い層と比べて大きく異なるTg(ガラス転移温度)、これによって良好なプロセス条件が得られる。Tgが高ければ、分子秩序形成をなお回避しながら、LEP層を高い温度で処理(焼成)することができる。LEP層内での分子秩序形成は、漏れ電流の増大に結びつき得る。それは、秩序形成された材料においては、導電性に対する経路がより一層定められるからである。
【0027】
図1には、LEP層の厚さの異なるデバイスのセットに対し、電流密度に対するデバイスの明所視効率が示されている。ここでは相異なる5つの厚さ、すなわち20ナノメートル(nm),40nm,60nm,75nmおよび105nmのLEP層を利用して、パッシブマトリクスOLEDディスプレイを作製した。これらのOLEDデバイスに対し、上記のLEP層の厚さの違いを除いた他のすべての材料およびプロセス条件は一定に保たれたままである。テストした各OLEDデバイスは、そのLEP層に対して、市販のSY(Super Yellow)発光ポリマを使用しており、これはポリビニレンプロピレン(polyvinylenepropylene)ベースである。これらのOLEDデバイスは、ガラス基板、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide)アノード層,60ナノメートルのHIL層("PEDOT:PSSから構成される、以下を参照されたい)、SYを使用したさまざまな厚さのLEP層、および3ナノメートルのバリウムおよび200ナノメートルのアルミからなるカソード層を使用して作製されている。
【0028】
図1(a)では各OLEDデバイスの輝度が、LEP層の厚さ毎に電流密度に対してプロットされている。LEP層の厚さが増すのに伴って、輝度も短調に増加することが示された。105nmでは最も良好な輝度の結果が観測された。
【0029】
図1(b)に示したように(Cd/Aで測定される)明所視効率も、LEP層の厚さが増大するのに伴って増している。LEP層の厚さが増大するのに伴って明所視効率が増すことを示すこのような傾向は、ホール−電子の再結合がより多く発生しているか、および/またはこれらの再結合のうちのより多くが発光形で行われているかである。殊に「放射性」の再結合ゾーン(発光を生じさせる再結合が行われるエネルギーバンド)は移動してLEP層の界面から離れると考えられている(以下の説明を参照されたい)。ホール/電子注入および/または輸送のアンバランスに起因して、LEP層と他の層との界面における再結合はクエンチング効果となって、結果的に非放射性の再結合になり得る。これらのクエンチング効果は、再結合ゾーンの移動によって低減されるため、再結合の比較的多くが実質的に放射性である。この原因と結果は確実にはわからないが、これにより、明所視効率の増大を説明するための考えられ得るメカニズムの1つが得られる。本発明はおそらく、さまざまな実施形態において、電荷の注入および/または輸送のアンバランスが存在し得る任意のLEP層に適用可能である。
【0030】
図2には、相異なるLEP厚を有するデバイスのセットに対し、電圧対電流密度曲線が示されている。図2は、LEP層の厚さが増大するのに伴って所定の電流密度を得るために必要な電圧が増大することを示している。図2にはまた負の電圧がこのデバイスに加えられる場合、漏れ電流が小さくなることが示されている。
【0031】
図1(a)−1(b)についてテストされたのと同じ5つのOLEDデバイスがここでも使用されて図2の曲線が得られた。各ディスプレイを通して所定の電流を流すために必要な順方向電圧もLEP厚の増大に伴って大きくなる。これは予想されたことである。それは、LEP層を介する抵抗も、厚さの増大に伴って大きくなることが推定されるからである。またこのことはアプリケーションによっては有害ではない。上記のように駆動電圧を増大させることは、寿命を縮めて効率を低下させることになると予想されたが、そうではないことが示された。電荷のアンバランスを補正しまたホールと電子との効率的な再結合を可能にするという明らかな効果は、OLEDデバイスが過酷に駆動されるという、性能に対する負の影響よりも勝っているのである。
【0032】
図3にはデバイスのセットに対し、LEP厚さに対するデバイス寿命が示されている。(図1(a)〜(b)および2)の結果を得るために使用されたのと)同じデバイスのセットの50%寿命時の輝度を観察した。105nmのLEPベースのディスプレイに対して初期輝度の半分に達するのに要する時間は約300時間である。その一方、40nmのLEPベースのデバイスに対して初期輝度の半分に達するのに要する時間はわずかに約100〜150時間である。これは、デバイスの実効的な寿命が伸びたと見なすことができる。
【0033】
本発明の別の形態では、厚いLEP層を使用することによって、電気化学OLED("EC-OLED" electro-chemical OLED)を作製することができる。ここでこれは、解離可能な塩をLEPに加え、また仕事関数がデバイスの動作にクリティカルでない非反応性金属電極を使用することによって行われる。LEP厚膜の厚さの数分の1は、アノードにおいてpドーピングになり、別の数分の1はカソードにおいてnドーピングになる。この場合に中央のさらに別の数分の1がLEP層になる。これはスイッチング速度がクリティカルでない照明アプリケーションに最適である。
【0034】
図4には本発明の少なくとも1つの実施形態による有機電子デバイスの断面図が示されている。有機電子デバイス405は、一層大きなOLEDディスプレイのサブピクセルまたはOLEDピクセルを表し得る。図4に示したように有機電子デバイス405には、基板408に配置された第1電極411が含まれている。この明細書および特許請求の範囲内で使用される「に配置される」のいう語句は、層が物理的に接触接続している場合および層が1つ以上の中間層によって分離されている場合を含んでいる。第1電極411は、ピクセル式のアプリケーションに対してパターニングすることが可能であり、または例えばバックライトアプリケーションまたは一般的の照明のようなパターニングしないことも可能である。電子デバイス405がトランジスタの場合、第1電極は、例えばこのトランジスタのソースおよびドレイン端子になり得る。
【0035】
ここでは1つ以上の有機材料がデポジットされて、有機積層416の1つ以上の有機層が形成される。有機積層416は第1電極411に配置される。有機積層416にはホール注入(導電性ポリマ)層(HIL)417および発光ポリマ(LEP)層420が含まれている。第1電極411がアノードの場合、HIL417は第1電極411に配置される。択一的には第1電極がカソードの場合、アクティブ電子層420は、第1電極411に配置され、HIL417がLEP層420に配置される。電子デバイス405はまた有機積層416に配置された第2電極423を含んでいる。図4に示したのとは別の層を付け加えることができ、これらの別の層は、バリア層、電荷輸送層、および第1電極411と有機積層416との間および/または有機積層416と第2電極423との間および/またはLEP層420とHIL417との間のとの界面層などである。本発明によるこれらの層のうちのいくつかを以下に一層詳しく説明する。対象となる層の「厚さ」は、図示の断面におけるその層の垂直方向における間隔または長さであり、これは対象となる層のすぐ上にある層の底部から、対象となる層のすぐ下の層の最上部との間で測定される。
【0036】
基板408:
基板408は、有機および金属層を配置してこれを支持可能な任意の材料とすることすることが可能である。基板408は、透明または不透明とすることができる(例えば、不透明の基板は上面発光形デバイスに使用される)。基板408を通過し得る光の波長を変調またはフィルタリングすることにより、このデバイスによって放出される光の色を変更することができる。基板408は、ガラス、石英、シリコン、プラスチック、またはステンレススチールから構成することができ、有利には基板408は薄い、フレキシブルガラスからなる。基板408の有利な厚さは、使用される材料と、デバイスのアプリケーションに依存する。基板408はシートまたは連続したフィルムの形態とすることが可能である。この連続したフィルムは、例えば、殊にプラスチック、金属および金属化されたプラスチックホイルに有利なロールツーロール製造プロセスに使用可能である。基板にはトランジスタまたは別のスイッチング素子を組み込んでこのデバイスの動作を制御することもできる。単一の基板408はふつう、何らかのパターンに配置構成されるデバイス405のように多くのピクセル(デバイス)を含む比較的大きなOLEDディスプレイを作製するのに使用される。
【0037】
第1電極411:
1構成において第1電極411はアノードとして作動する(アノードは、ホール注入層として使用されかつ約4.5eVよりも大きな仕事関数を有する材料を含む導電性層である)。典型的なアノード材料には含まれるのは、金属(例えば白金、金、パラジウム、インジウムなど);酸化金属(例えば酸化鉛、酸化スズ、ITO(酸化インジウムスズ)など);黒鉛;ドーピングされた無機半導体(例えばシリコン、ゲルマニウム、ガリウム、ヒ素化合物など);ドーピングされた導電性ポリマ(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなど)である。
【0038】
第1電極411は、デバイス内で生成される光の波長に対して透明、半透明または不透明とすることが可能である。第1電極411の厚さは、約10nm〜約1000nmであり、有利には約50nm〜約200nmであり、さらに有利には約100nmである。第1電極層411は通例、薄膜をデポジションするために当該技術分野において公知の任意の手法を使用して作製可能であり、これには例えば、真空蒸着、スパッタリング、電子ビームデポジション、または化気相成長などがある。
【0039】
択一的な構成において第1電極層411はカソードとして作動する(カソードは、電子注入層として使用されかつ仕事関数の小さい材料を含む導電性層である)。アノードの代わりのカソードは、例えば上面発光形OLEDの場合、基板408にデポジットされる。典型的なカソード材料は以下の「第2電極423」の節で挙げられる。図1(a)〜(b),2および3に示した実験結果を得るのに使用された構成において、第1電極411は、ITOからなるアノードであった。
【0040】
HIL 417:
時としてホール輸送層(HTL hole transfer layer)として扱われることもあるHIL417は、電子移動度よりも格段に大きなホール移動度を有し、第1電極411から、実質的に均一な有機ポリマ層420にホールを効率的に輸送するために使用される。HIL417はポリマまたは低分子材料製である。例えばHIL417は、低分子または高分子の両方の形態のカルバゾール誘導体または第3アミン、導電性ポリアニリン("PANI" polyaniline)、またはPEDOT:PSS(HC Starck社製のBaytron Pとして入手可能ポリスチレンスルホン酸("PSS" polystyrenesulfonic acid)およびポリエチレンジオキシチオフェン("PEDOT" polyethylenedioxythiopheneの溶液)から作製することができる。HIL417は約5nm〜1000nm、有利には約20nm〜約500nm、さらに有利には約50〜250nmの厚さを有する。
【0041】
HIL417は、選択的なデポジション法または非選択的なデポジション法を使用して形成することができる。選択的なデポジション法の例に含まれるのは、例えばインクジェット印刷、フレックス印刷(flex printing)およびスクリーン印刷である。非選択的なデポジションの例に含まれるのは、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、ウェブコーティング、およびスプレーコーティングである。ホール注入材料は、第1電極311にデポジットされ、つぎに乾燥が可能となって薄膜になる。乾燥した材料が、ホール輸送層である。図1(a)〜(b),2および3に示された実験結果を得るために使用した構成において、HIL417はPEDOT:PSS溶液(例えばHC Starck社から入手可能なもの)であり、これは乾燥されて200ナノメートルの薄膜になる。
【0042】
LEP層420:
有機LED(OLED)に対し、LEP層420は光を放射する少なくとも1つの有機材料を含む。これらの有機発光材料は一般に2つのカテゴリに分けられる。ポリマ発光ダイオードないしはPLED(polymeric light emitting diode)と称されるOLEDの第1カテゴリは、LEP層420の一部としてポリマを使用する。ポリマには実質的に有機物または有機金属化合物とすることができる。ここでは有機という語には有機金属化合物材料も含まれる。有利にはこれらのポリマは、トルエンまたはキシレンなどの有機溶剤において溶媒和して、デバイスにスピン(スピンコーティング)される。しかしながら別のデポジション法も可能である。LEP層420にポリマアクティブ電子材料を使用するデバイスは殊に有利である。オプションではLEP層420は、光の吸収に応じてその電気特性を変える光応答性材料を含むことができる。光応答性材料は、検出器および光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光パネルにしばしば使用される。
【0043】
LEP層420の有機発光ポリマは、例えば、共役結合形の繰り返し単位(conjugated repeating unit)を有するELポリマ、殊に隣接する繰り返し単位が共役結合形にボンディングされているELポリマとすることができ、これら例えば、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリチオフェンビニレン、またはポリpフェニレンビニレンまたはその族、コポリマ、誘導体、またはこれらの混合物である。さらに具体的にいうと、有機ポリマは、例えば、ポリフルオレン;白、赤、青、黄または緑の光を放射し、また2−置換または2,5−置換ポリpフェニレンビニレン(2-, or 2, 5- substituted poly-p-pheneylennevinylene)であるポリpフェニレンビニレン;ポリスピロポリマ;またはこれらの族、コポリマ、誘導体またはこれらの混合物である。
【0044】
有機電子デバイス405が有機太陽電池または有機光検出器の場合、有機ポリマは光のの吸収に応じてその電気特性が変わる光応答性材料である。光応答性材料は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する。
【0045】
有機電子デバイス405が有機トランジスタの場合、有機ポリマは、例えばポリマおよび/またはオリゴマ半導体とすることが可能である。ポリマ半導体は、例えばポリチオフェン、ポリ(3−アルキル)チオフェン、PTV(polythienylenevinylene)、ポリ(パラフェニレンビニレン)、またはポリフルオレンまたはこれらの族、コポリマ、誘導体またはこれらの混合物を含み得る。
【0046】
ポリマに加え、LEP層420に存在する発光材料として、蛍光によってまたはリン光によって放射する比較的小さい有機分子を使用することが可能である。溶剤または懸濁液として塗布されるポリマ材料とは異なり、低分子発光材料は有利には蒸着、昇華、有機気相デポジション法によってデポジットされる。PLED材料と比較的小さい有機分子との組み合わせも、アクティブ電子層として使用可能である。例えば、PLEDは、小さな有機分子によって化学的に誘導する(derivatize)か、または小さな有機分子は単純に混合されて、LEP層420が形成される。
【0047】
光を放射するアクティブ電子材料に加えて、LEP層420は、電荷を輸送することの可能な材料を含むことができる。電荷輸送材料に含まれるのは、荷電キャリアを輸送することの可能な低分子またはポリマが含まれる。例えば、ポリチオフェン、誘導されたポリチオフェン、オリゴマポリチオフェン、誘導されたオリゴマポリチオフェン、ペンタセン、C60を含む組成物、誘導されたC60を含む組成物を使用可能である。LEP層420は、ヒ化ガリウムまたはシリコンなどのように半導体を含むことも可能である。
【0048】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、LEP層420は80nm以上の厚さを有しており、有利には80〜200nmである。このことを表すため、また本発明の別の実施形態を表すために使用される「LEP層の厚さ」とは、第2電極423の底部と、HIL417の最上部との間の垂直方向の間隔のことである。比較的厚いLEP層420は、明所視効率を増大させ、またデバイス420の寿命を伸ばすことが示された。本発明の別の実施形態では、有機積層における複数の層、すなわちLEP層420とHIL417とを合わせた厚さは一定に保たれる。例えば、有機積層において複数の層を合わせた厚さは、275ナノメートルに固定したと仮定する。LEP層420の厚さが150ナノメートルである場合、HIL417は125ナノメートルになる。同様にLEP層420の厚さが165ナノメートルであるとする、HIL417は110ナノメートルになるのである。
【0049】
HIL417およびLEP層420などのすべての有機層は、有機溶液をデポジットすることによって、またはスピンコーティングないしは別のデポジット法によって、インクジェット印刷することができる。この有機溶液は任意の「液体」または圧力を加えれば流れる変形可能な質量体とすることができ、また溶液、インク、ペースト、エマルジョン、分散液などを含むことができる。上記の液体は、デポジットした液滴の粘性、接触角、濃化、親和力、乾燥、希釈などに作用するさらなる物質を含むか、補うことができる。
【0050】
第2電極(423)
1実施形態において第1電極411および第2電極423に電位が加えられる場合、第2電極423はカソードとして機能する。この実施形態において、アノードとして使用される第1電極411と、カソードとして使用される第2電極423とに電位が加えられる場合、光子がアクティブ電子層420から放出され、第1電極411および基板408を通過する。
【0051】
カソードとして機能する多くの材料が当業者には公知であるが、最も有利にはアルミニウム、インジウム、銀、金、マグネシウム、カルシウムおよび/またはバリウムの配合物または化合物または合金が使用される。アルミニウム、アルミニウム合金、およびマグネシウムおよび銀の化合物またはこれらの合金も使用可能である。
【0052】
有利には第2電極423の厚さは約10〜約1000ナノメートル(nm)であり、さらに有利には約50〜500nmであり、最も有利には約100nm〜300nmである。通常の知識を有する当業者には第1電極材料をデポジットすることができる多くの手法が公知であるが、真空デポジット法、例えば物理蒸着法(PVD physical vapor deposition)が有利である。(図示しない)他の層、例えばバリア層およびゲッタ層もこの電子デバイスを保護するために使用可能である。これらのような層は、この技術分野にはよく知られており、ここでは特に説明しない。
【0053】
薄膜の洗浄および中和、フォトレジストおよびマスクの追加などのような別のステップを上記のカソードのデポジションの前に行うことができる。しかしながらこれらは本発明の新しい様相には特に関係しないため、特に挙げない。金属線を付加してアノード線と電源を接続するなどの(図示しない)他のステップも作業フローには含まれる。また、例えばOLEDを作製した後、このOLEDは封入されて、環境によるダメージまたは環境への露出から層が保護される。これらの他のプロセスステップは当業者には公知であるが、、本発明の主題ではない。
【0054】
本発明の別の形態では、厚いLEP層により、電気化学OLED(EC−OLED)が作製可能になる。電気化学的に安定な解離可能な塩、例えばリチウムトリフラート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、またはリチウムバッテリ、薄膜バッテリまたはエレクトロクロミック装置に使用される塩をLEP層に加えることができる。バイアスの元でホールはLEP層に注入され、これによってLEPは酸化される。その一方で塩から発生し負に帯電したイオンは拡散して、正に帯電したLEPを安定化する。これによってLEP厚膜の薄い層は、pドーピングになり、ドーピングされていないLEP領域に効率的にホールを輸送することができる。同時に別の電極では、電子がLEP層に注入され、これによってLEPが還元される一方、塩から発生し正に帯電したイオンが拡散して、負に帯電したLEPが安定化される。したがってLEP厚膜の薄い層はnドーピングになり、ドーピングされていないLEP領域に電子を効率的に輸送することができる。in-situで形成されるこれらのpドーピングされた層およびnドーピングされた層は、HILおよびETLとして作動し、これに対して中間の領域はLEP層であり、ここで再結合と光の放射が行われる。仕事関数がこのデバイスの動作にクリティカルでない非反応性金属電極をこのタイプのデバイスに使用可能である。
【0055】
EC−OLED積層が図5に示されている。電極411および423は、例えば、非反応性金属電極である。図5において図4の相当する部分と同じ番号が付された要素は、以下の変更を除けば、図4に関連して説明した通りである。上で説明したようにLEP層420は、3つの領域に分けられる。すなわち、LEP領域420Lと、pドーピングされた層420pと、nドーピングされた層420nである。このような分離は、慣用のものよりも厚いLEP層420から出発して、(例えば)解離可能な塩をLEP層420に加えることによって得られる。ここでこの層は、例えば80ナノメートル以上の厚さ、有利には80〜200ナノメートルの厚さ(ただし境界を含む)を有する。第1電極411がアノードであり、第2電極423がカソードであると仮定し、これらの電極411および423にバイアスに加えると、以下が発生する。すなわち、LEP層420と第1電極411との間の界面でLEP層420にホールが注入され、その一方で第2電極423との界面においてLEP層420に電子が注入されるのである。これによって逆に帯電したイオンは拡散してこれらの界面から消えることになる。したがって負に帯電したイオンは(ホールが存在することに起因して)拡散して第1電極411における界面から消え、多数荷電キャリアとしてのホールによって占められている領域420pを形成する。同様に正に帯電したイオンも拡散して(電子が存在することに起因して)第2電極423における界面から消え、多数荷電キャリアとしての電子によって占められている領域420nを形成する。領域420LはLEP領域のままであるのに対して、420pはHIL層として、420nはETL(electron transport layer)として作動する。少なくとも1つの実施形態においてバイアスが加わっていない場合であっても、pドーピングされた領域420pおよび/またはnドーピングされた領域420nがLEP層420に存在することができる。これによって図4に示した別個のHIL層417が不要になるのである。
【0056】
本発明のさらに別の実施形態において厚いLEP層を利用して、アクティブマトリクスOLEDディスプレイを作製することもできる。これは、多重化したバイアスの代わりにDC条件の下でパッシブマトリクスOLEDディスプレイになされたテストに基づいている。DCの結果を解釈すると、アクティブマトリクス設定において類似の性能という納得のいく見込みになると予想される。ここでは各OLEDピクセルは、その固有のスイッチングメカニズムによって個別に制御される。低電圧で動作する場合、アクティブマトリクスディスプレイは近似的に80nm〜150nmの厚いLEP層を使用することができるが、LEPを駆動するために必要な、より一層高い電圧をサポートするための手法が発見されないかぎり、おそらくあまり厚くはならない。アクティブマトリクスディスプレイそのものは、パッシブマトリクスディスプレイよりも低い電圧で動作するため、またスイッチング作用の電力消費はわずかであるため、全体的な電力消費は、パッシブマトリクスディスプレイによるものほどの大きな要因にはならない。
【0057】
上ではOLEDデバイス内に組み込まれる比較的厚いLEP層の実施形態を説明したが、上記のコンセプトは、アクティブ電子層を使用する別の電子デバイスにも適用可能である。例えば太陽電池については、光応答層(すなわちアクティブ電子層)を厚いフィルムポリマから構成することができる。上で説明したOLEDデバイスは、例えばエリア照明、一般照明、工業照明および医用照明、背面照明、コンピュータディスプレイ、車両内の情報ディスプレイ、テレビジョンモニタ、電話機、プリントおよびイルミネーションサインに使用可能である。
【0058】
電子デバイス製造の分野において通常の知識を有するものであれば、上記の説明、図および実施例から、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を逸脱することなく本発明の実施形態に変更を加えられることがわかるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】一連のデバイスに対して相異なるLEP層厚毎に、電流密度に対するデバイスの輝度(a)および電流密度に対する明所視効率(b)を示す線図である。
【図2】相異なるLEP厚を有する一連のデバイスに対して電圧対電流密度曲線を示す線図である。
【図3】LEP厚に対するデバイス寿命を示す線図である。
【図4】本発明の少なくとも1つの実施形態による有機電子デバイスの断面図である。
【図5】本発明の少なくとも1つの実施形態による電気化学有機電子デバイスの断面図である。
【符号の説明】
【0060】
405 有機電子デバイス、 408 基板、 411 第1電極、 416 有機積層、 417 ホール注入層、 420 発光ポリマ層、 420L LEP領域、 420p pドーピングされた層、 420n nドーピングされた層、 423 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積み重ねられた複数の層を有する有機発光ダイオード(OLED organic light emitting diode)デバイスにおいて、
発光ポリマ層は、当該層に隣接する2つの層の間で測定すると、80ナノメートル以上の厚さを有することを特徴とする
有機発光ダイオードデバイス。
【請求項2】
前記の発光ポリマ層は、当該層に隣接する2つの層の間で測定した場合、80ナノメートル〜200ナノメートルの厚さを有する、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
さらにカソード層およびホール注入層を有しており、
該カソード層は前記発光ポリマ層に隣接しており、
前記ホール注入層も前記発光ポリマ層に隣接しており、
前記の厚さは、当該のカソード層とホール注入層との間で測定される、
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記の発光ポリマ層とホール注入層とを合わせた厚さは固定のままであり、
発光ポリマ層の厚さが増大するのに伴ってホール注入層の厚さが減少する、
請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
さらにアノード層を有する、
請求項1から4までのいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記のホール注入層および/または発光ポリマ層は、少なくとも1つの有機材料を使用して形成される、
請求項1から5までのいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記の発光ポリマ層は、選択的なデポジション法および非選択的なデポジション法のうちの少なくとも1つを使用して形成される、
請求項1から6までのいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記の選択的なデポジション法にはインクジェト印刷が含まれる、
請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記の非選択的なデポジション法にはスピンコーティングが含まれる、
請求項7または8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスは、OLEDディスプレイを作製するために使用される、
請求項1から9までのいずれか1項の記載のデバイス。
【請求項11】
前記OLEDディスプレイは、実質的にパッシブマトリクス形である、
請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記OLEDディスプレイは、実質的にアクティブマトリクス形である、
請求項10または11に記載のデバイス。
【請求項13】
有機発光ダイオード(OLED organic light emitting diode)デバイスにおいて、
基板と、
当該基板に配置された第1電極と、
pドーピング領域、nドーピング領域、および発光領域を有する発光ポリマ層と、
当該発光ポリマ層に配置された第2電極とを有することを特徴とする
有機発光ダイオードデバイス。
【請求項14】
前記pドーピング領域は、ホール注入層として作動する、
請求項13に記載のOLEDデバイス。
【請求項15】
前記nドーピング領域は、電子注入層として作動する、
請求項13または14に記載のOLEDデバイス。
【請求項16】
前記発光ポリマ層には解離可能な塩が含まれる、
請求項13から15までのいずれか1項に記載のOLEDデバイス。
【請求項17】
前記の発光ポリマ層に加えられるバイアスにより、前記の解離可能な塩にてイオンが移動することよって前記のnドーピング領域およびpドーピング領域が形成される、
請求項16に記載のOLEDデバイス。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−27763(P2007−27763A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197183(P2006−197183)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(599133716)オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (586)
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
【住所又は居所原語表記】Wernerwerkstrasse 2, D−93049 Regensburg, Germany
【Fターム(参考)】