説明

積分球式濁度計

【課題】簡単な構造で校正やセル窓の洗浄を自動的に実現可能とした積分球式濁度計を提供する。
【解決手段】光源11からの光が一方のセル窓133を介して内部の試料水に照射され、かつ、試料水から発生した散乱光及び透過光が他方のセル窓133を介して出射する検出セル131と、他方のセル窓133から出射した散乱光及び透過光を捕集する積分球15とを備え、積分球15により捕集された散乱光及び透過光をそれぞれ光電変換して得た各検出電流の比に基づいて試料水の濁度を測定する積分球式濁度計に関する。各検出電流の比を校正するための校正用フィルタ138を、他方のセル窓133と積分球15の光入射口15Aとの間に着脱可能に配置し、また、セル窓133の内面に接触して移動する洗浄用のワイパー136Cを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料水の濁度を光学的に測定する積分球式濁度計に関し、詳しくは、濁度の測定精度を向上させるための洗浄・校正手段及び洗浄・校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積分球式濁度計は、検出セル内の試料水を透過した光を積分球内に導入し、受光素子により散乱光を光電変換した検出電流と透過光を光電変換した検出電流との比に基づいて試料水の濁度を測定するものとして知られている。
この積分球式濁度計によれば、色の影響が少なく、低濁度から高濁度までを高精度に測定することが可能である。
【0003】
この種の濁度計では、長期間の使用により検出セルのセル窓に試料水の汚れが付着したり、また、一時的であっても試料水中の気泡や微粒子がセル窓に付着することによって、セル窓の透過光量が減少する。更に、光源として用いられるタングステンランプ等の光量が長期の使用によって減少する等の理由により、濁度測定誤差が発生する。
従って上記の測定誤差を低減するために、検出セルブロックを分解してセル窓を洗浄したり、ゼロ校正やスパン校正を定期的に行う等のメンテナンスが必要とされている。
【0004】
なお、下記の特許文献1には、計測シリンダー内をブラシが回転及び上下動して計測シリンダーの内壁を洗浄する洗浄手段を備えたサンプリング形の濁度計等の水質測定装置が記載されている。
また、下記の特許文献2には、円柱形空洞部内を回転して空洞部内の周壁面に接触しつつ洗浄するワイパー部材を備えたプロセス用色度計、濁度計等のフローセル装置が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−243964号公報(段落[0015]〜[0022],[0036],[0037],[0049]、図1等)
【特許文献2】特開2002−131221号公報(段落[0005]〜[0007],[0017],[0018],[0026],[0027]、図1、図2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記各特許文献には、計測シリンダーやフローセルの内面をブラシやワイパー部材によって洗浄する技術が開示されており、セル窓の汚れを除去する手段については記載されているものの、積分球式濁度計においてスパン校正等を簡易な構成によって自動的に実現する手段は開示されていない。
すなわち、従来の積分球式濁度計では、通常、人手により周期的にゼロ校正・スパン校正を行っているが、例えばスパン校正時には校正用フィルタを検出セルと積分球との間に配置するといった作業が煩雑であり、これらの校正作業を自動化することが効率化、省力化の観点から強く望まれていた。
【0007】
そこで本発明の解決課題は、校正作業をセル窓の洗浄と共に容易かつ自動的に実現可能とした積分球式濁度計及びその洗浄・校正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した積分球式濁度計は、光源からの光が一方のセル窓を介して内部の試料水に照射され、かつ、試料水から発生した散乱光及び透過光が他方のセル窓を介して出射する検出セルと、
前記他方のセル窓から出射した散乱光及び透過光を捕集する積分球と、を備え、
積分球により捕集された散乱光及び透過光をそれぞれ光電変換して得た各検出電流の比に基づいて試料水の濁度を測定する積分球式濁度計において、
前記各検出電流の比を校正するための校正用フィルタを、前記他方のセル窓と積分球の入射口との間に着脱可能に配置したものである。
【0009】
請求項2に記載した積分球式濁度計は、請求項1において、セル窓の内面に接触して移動する洗浄用のワイパーを備えたものである。
【0010】
請求項3に記載した積分球式濁度計の洗浄・校正方法は、検出セル内にゼロ水または洗浄液を供給しながら請求項2記載のワイパーによりセル窓の内面を洗浄し、その後、検出セル内にゼロ水を供給して測定値のゼロ校正を行い、更に請求項1記載の校正用フィルタを用いてスパン校正を行うものである。
【0011】
請求項4に記載した積分球式濁度計の洗浄・校正方法は、請求項3において、ワイパーによる洗浄、ゼロ校正及びスパン校正を、濁度測定シーケンス内で自動的かつ周期的に実行するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セル窓内面の洗浄、ゼロ校正及びスパン校正を自動的に行うことができ、積分球式濁度計のメンテナンスや校正作業に伴う手間や労力を大幅に削減することができる。
また、洗浄手段、校正手段の構造が簡単であり、既存の濁度計に若干の部材を付加するだけで構成可能であるから、低コストにて提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は本発明の実施形態にかかる積分球式濁度計の全体構成図であり、主要部の内部構造を概略的に示したものである。
【0014】
図1において、10は検出器であり、この検出器10は、タングステンランプ等の光源11と、光源11の光軸上に配置されたコンデンサレンズ、ピンホール、コリメータレンズ等を有するレンズ部12と、検出セルブロック13と、このブロック13内に配置されて試料水が導入され、かつ検出光が透過する検出セル131と、検出セルブロック13の後段に配置された積分球15と、前記光軸に平行な透過光が入射する光トラップ16と、透過光を光電変換する受光素子17T及び散乱光を光電変換する受光素子17Rと、アンプ18T,18Rと、乾燥剤が収容される乾燥剤収容室19と、乾燥剤を通過した検出器10の内部空気を検出セル131のセル窓に噴射するためのポンプ20A,20Bと、を備えている。
なお、136は検出セル131の内部において前記セル窓の内面を清掃するワイパー部材、138は検出セルブロック13と積分球15との間の隙間に着脱配置される校正用フィルタ(標準散乱板)であり、これらの構成、作用については後述する。
【0015】
また、21はバルブ23を介して試料水が供給される配管、30は試料水中の気泡を除去する脱泡槽、24はオーバーフロー用のバルブ、31は気泡捕捉フィルタ、22は脱泡槽30内の試料水を前記検出セル131に導入するための配管、40はオプションとして取付可能な脱気装置である。
更に、50は、前記アンプ18R,18Tから出力される散乱光検出電流Iと透過光検出電流Iとの比(I/I)に所定の係数K(濁度標準液を用いて予め算出)を乗じて試料水の濁度を演算する変換器であり、演算された濁度を表示部51にディジタル表示するように構成されている。なお、この変換器50は、前記光源11の制御も行っている。
【0016】
次に、図2、図3は図1における主要部の構成図であり、主として校正用フィルタ138の着脱構造を説明するための図である。
検出セルブロック13の筐体132の側面には、ロータリーソレノイド137が取り付けられており、図3に示すように、上記ソレノイド137によってアーム139Aが所定角度回動し、その先端のアーム139Bが水平方向に移動可能となっている。アーム139Bの先端部には擦りガラス等からなる校正用フィルタ138が配置されており、アーム139Bが水平移動することにより、校正用フィルタ138が検出セルブロック13と積分球15の光入射口15Aとの間の隙間に移動して密着し、セル窓133とほぼ重なり合うものである。これにより、セル窓133から出射する光は、外部に漏れることなく校正用フィルタ138を通過して積分球15に入射するように構成されている。
【0017】
26は逆浸透膜またはメンブレンフィルタからなるゼロ水生成部であり、水道水が導入されてゼロ校正用のゼロ水を生成するためのものである。このゼロ水生成部26により生成されたゼロ水は電磁弁25に送られ、試料水またはゼロ水の何れかが電磁弁25を介して検出セル131内に導入されるようになっている。
なお、図1では、上記電磁弁25、ゼロ水生成部26等の図示を便宜上、省略してある。
【0018】
次いで、図4は、検出セル131内のワイパー部材136の構成を示すもので、図4(a)は内部正面図、図4(b)は内部側面図である。
図示するように、検出セル131の側面にはモータ135が固定され、その回転軸136Aには、検出セル131内においてアーム136Bが連結されている。このアーム136Bの先端部には合成樹脂製のワイパー136Cが固着されている。なお、図4において、134Aは試料水またはゼロ水等の供給口、134Bは排出口を示す。
【0019】
上記のように構成することにより、モータ135の回転に伴ってアーム136B及びワイパー136Cが回動または回転し、ワイパー136Cが、検出セル131の正面及び背面に配置されたセル窓133の内面に接触しながら移動することにより、セル窓133の内面に付着した汚れを除去することができる。また、セル窓133以外の部分であって、ワイパー136Cの移動経路上にある検出セル内面の汚れも、同様にして除去可能である。
なお、セル窓133の洗浄時には、電磁弁25により試料水をゼロ水に切り替えてゼロ水を検出セル131内に導入しながらワイパー136Cを回動させるものであるが、別途用意した洗浄液を検出セル131内に導入しても良い。
【0020】
次に、この実施形態の動作を説明する。
試料水の濁度測定時には、従来と同様に検出セル131内に試料水を供給し、変換器50が、積分球15により捕集した散乱光及び透過光の各検出電流の比(I/I)に係数Kを乗じて試料水の濁度を演算し、表示部51に表示する。このとき、前述した校正用フィルタ138は光路上から除去されている。
【0021】
また、一定周期もしくは適時に、電磁弁25により試料水をゼロ水または洗浄液に切り替えて検出セル131内に導入すると共に、これと同期させてモータ135を駆動することにより、セル窓133内面のワイパー洗浄を実行する。この洗浄動作により、セル窓133の内面の汚れは勿論のこと、検出セル131内に滞留しているゴミ等の不純物、浮遊物、気泡等を洗い流し、検出セル131内を清浄に保つことができる。
【0022】
更に、上記洗浄動作が終了したらモータ135を停止してワイパー136Cを止め、引き続きゼロ水を検出セル131内に供給しながらゼロ校正を行う。すなわち、積分球15により捕集された散乱光及び透過光をそれぞれ受光素子17R,17Tにより光電変換し、これによって得た各検出電流の比(I/I)に基づいて濁度を測定し、そのときの濁度がゼロとなるように変換器50を調整してゼロ校正を行う。
【0023】
次に、図2,図3に示したロータリーソレノイド137に通電してアーム139A,139Bを駆動し、校正用フィルタ138をセル窓133の光路上に配置する。
この状態で、検出セル131からセル窓133及び校正用フィルタ138を介して検出光を積分球15内に入射させ、変換器50により散乱光及び透過光の各検出電流の比(I/I)を演算する。
校正用フィルタ138として、例えば擦りガラス(43721−Dエドモンド)を使用した場合の、試験開始からの経過日数、各検出電流の比(I/I)、比(I/I)の誤差(試験開始時を0%とする)は、以下の表1に示すとおりである。
【0024】
【表1】

【0025】
表1によれば、日数が経過しても比(I/I)の誤差は最大でも1.2%とほとんどなく、校正用フィルタ138の特性が安定していることが判る。
従って、校正用フィルタ138を使用した場合の各検出電流の比(I/I)に基づき測定当初からの比(I/I)の誤差を求め、この誤差を濁度演算式の係数Kに含めることでスパン校正を行い、経時的な感度の低下を補正することができる。
【0026】
なお、試料水と検出器10内部との温度差によりセル窓133の外表面に結露が発生するのを防止するため、図1における乾燥剤収容室19内の乾燥剤を経た検出器10内の乾燥空気を、ポンプ20A,20Bによりセル窓133の外表面に噴射させて結露を防止することが望ましい。この結露防止動作は、ワイパー洗浄、ゼロ校正・スパン校正と同期させて行うか、あるいは必要に応じて適宜行えば良い。このように乾燥空気を検出器10の内部に循環させることにより、検出器10の内部全体の除湿も促進される。
【0027】
ワイパー洗浄及びゼロ校正・スパン校正の各処理は、一連の濁度測定シーケンスにおいて一定周期で行えば良く、電磁弁25やロータリーソレノイド137、モータ135の駆動制御、変換器50による校正演算等は、図示されていないコントローラのプログラムにより自動的に実行可能である。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、ゼロ校正・スパン校正及びセル窓の洗浄作業を自動的に行うことができ、メンテナンス作業の負担を軽減できると共に、従来の積分球式濁度計に付加する構造部材も簡単なもので済むため、低コストにて実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示す概略的な全体構成図である。
【図2】図1における主要部の側面図である。
【図3】図2における主要部の正面図である。
【図4】図1における検出セル内のワイパー部材の構成図である。
【符号の説明】
【0030】
10:検出器
11:光源
12:レンズ部
13:検出セルブロック
131:検出セル
132:筐体
133:セル窓
134A:供給口
134B:排出口
135:モータ
136:ワイパー部材
136A:回転軸
136B:アーム
136C:ワイパー
137:ロータリーソレノイド
138:校正用フィルタ
139A,139B:アーム
15:積分球
15A:光入射口
16:光トラップ
17R,17T:受光素子
18R,18T:アンプ
19:乾燥剤収容室
20A,20B:ポンプ
21,22:配管
23,24:バルブ
25:電磁弁
26:ゼロ水生成部
30:脱泡槽
31:気泡捕捉フィルタ
40:脱気装置
50:変換器
51:表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光が一方のセル窓を介して内部の試料水に照射され、かつ、試料水から発生した散乱光及び透過光が他方のセル窓を介して出射する検出セルと、
前記他方のセル窓から出射した散乱光及び透過光を捕集する積分球と、を備え、
積分球により捕集された散乱光及び透過光をそれぞれ光電変換して得た各検出電流の比に基づいて試料水の濁度を測定する積分球式濁度計において、
前記各検出電流の比を校正するための校正用フィルタを、前記他方のセル窓と積分球の光入射口との間に着脱可能に配置したことを特徴とする積分球式濁度計。
【請求項2】
請求項1に記載した積分球式濁度計において、
セル窓の内面に接触して移動する洗浄用のワイパーを備えたことを特徴とする積分球式濁度計。
【請求項3】
検出セル内にゼロ水または洗浄液を供給しながら請求項2記載のワイパーによりセル窓の内面を洗浄し、その後、検出セル内にゼロ水を供給して測定値のゼロ校正を行い、更に請求項1記載の校正用フィルタを用いてスパン校正を行うことを特徴とする積分球式濁度計の洗浄・校正方法。
【請求項4】
請求項3に記載した積分球式濁度計の洗浄・校正方法において、
ワイパーによる洗浄、ゼロ校正及びスパン校正を、濁度測定シーケンス内で自動的かつ周期的に実行することを特徴とする積分球式濁度計の洗浄・校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−153738(P2006−153738A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346849(P2004−346849)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】