説明

積層アクリル樹脂フィルム、偏光子保護フィルム、偏光板および液晶ディスプレイ

【課題】 光学特性に優れ、透明性、無欠点性、耐熱性及び靭性に優れ、加工適性に優れた積層アクリル樹脂フィルム、該フィルムを用いた偏光板保護フィルム、偏光板および液晶ディスプレイを提供すること。
【解決手段】 下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂αとアクリル弾性体粒子βとを含有する積層アクリル樹脂フィルムであって、アクリル弾性体粒子βを含有する層をB層とし、アクリル弾性体粒子βを含有しない層をA層としたとき、A層とB層とが厚み方向に交互に少なくとも3層以上に積層されるとともに、いずれの表面についても少なくとも1μmの厚みを有するA層で構成され、かつA層の総厚みがフイルム総厚みの30%以下である積層アクリル樹脂フィルムとする。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層アクリル樹脂フィルム、該フィルムを用いた偏光板保護フィルム、偏光板および液晶ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂フィルムは、透明性や表面光沢性および耐光性に優れているため、液晶ディスプレイ用シートまたはフィルム、導光板などの光学材料、車両用内装材および外装材、自動販売機の外装材、電化製品、建材用内装および外装材等の表面表皮に使われたり、ポリカーボネート、塩化ビニルなどの表皮保護等の広範な分野で使用されている。
【0003】
近年これらの樹脂フィルムは、例えば、自動車のナビゲーションシステム、ハンディカメラなどの普及により、使用範囲が屋外や自動車の車内などの耐候性、耐熱性が要求される過酷な使用環境条件下へ拡大してきている。このような過酷な環境条件下で使用する場合、アクリル樹脂を基板とするシートまたはフィルムは優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が低いために変形が生じるという問題があった。また、コーティングを行った後の乾燥工程や蒸着、スパッタといった加工工程において、耐熱性が低いために平面性が悪化したり、加工速度を大きくした時に高温での工程張力によって片伸びが発生しやすいという問題があった。また、もう一つの問題として、破断伸度や耐衝撃性に代表される靱性が低いために加工時等の搬送工程で割れやすいという問題があった。アクリル樹脂フィルムの耐熱性を改良する目的で、下記構造式(1)で示されるグルタル酸無水物単位を有するフィルムが開示されている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
【化1】

【0005】
しかし、単にアクリル樹脂フィルムの組成の調整によって耐熱性を向上させると、柔軟性が不足し、曲げ応力によって割れやすくなり、加工時に必要な十分な靱性が得られない。
【0006】
また、アクリル樹脂フィルムの耐熱性と靱性を同時に改良する目的で、メタクリル酸メチル単位、下記構造式(2)で示されるグルタル酸無水物単位およびスチレン系単位を含むアクリル樹脂に架橋弾性体を含有させたフィルムが開示されている(特許文献3参照)。
【0007】
【化2】

【0008】
しかし、このフィルムはアクリル樹脂にスチレン単位が含まれるため耐熱性および透明性が十分ではなく、生産性を高めるために高速かつ高温高張力で加工を行った場合に平面性が悪化したり、光学用フィルムなど高い光線透過率が求められる用途では性能が不十分であるといった問題が発生する。また、この架橋弾性体が、溶融製膜の押出過程で凝集し、その凝集体を核としてフィルム表面部分が変形し、表面欠点となり、偏光板用途として使用できないものとなることがある。
【特許文献1】特開平7−268036号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2004−2711号公報(第1頁)
【特許文献3】特開2000−178399号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した従来のフィルムの問題を解決し、光学等方性に優れるだけでなく、透明性、無欠点性、耐熱性及び靱性に優れ、加工性に優れた積層アクリル樹脂フィルム、該フィルムを用いた偏光板保護フィルム、偏光板および液晶ディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂αとアクリル弾性体粒子βとを含有する積層アクリル樹脂フィルムであって、アクリル弾性体粒子βを5質量%以下含有する層をA層とし、アクリル弾性体粒子βを7〜40%含有する層をB層としたとき、A層とB層とが厚み方向に交互に少なくとも3層以上に積層されるとともに、いずれの表面についても少なくとも1μmの厚みを有するA層で構成され、かつA層の総厚みがフイルム総厚みの30%以下である積層アクリル樹脂フィルムであることを特徴とする。
【0011】
【化3】

【0012】
上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0013】
また本発明は、上記の積層アクリル樹脂フィルムを用いてなる偏光子保護フィルムや偏光板、液晶ディスプレイであることも好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、光学等方性に加え、透明性、無欠点性、耐熱性、靱性、加工性に優れた積層アクリル樹脂フィルム、該フィルムを用いた偏光板保護フィルム、偏光板および液晶ディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂αとアクリル弾性体粒子βとを含有する積層アクリル樹脂フィルムであって、アクリル弾性体粒子βを5質量%以下含有する層をA層とし、アクリル弾性体粒子βを7〜40%含有する層をB層としたとき、A層とB層とが厚み方向に交互に少なくとも3層以上に積層されるとともに、いずれの表面についても少なくとも1μmの厚みを有するA層で構成され、かつA層の総厚みがフイルム総厚みの30%以下である積層アクリル樹脂フィルムである。
【0016】
【化4】

【0017】
上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0018】
また、本発明のフィルムは層数としては3層以上であることが好ましいが、より好ましくは5層以上であり、さらに好ましくは9層以上である。層数が3層より少ない場合、十分な透明性と無欠点性が得られないことがある。特に、本発明者らの各種の知見によれば、層数の上限は、特に限定されるものではなく、例えば、数十層程度でも構わないが、生産面の点などから3〜30層程度とするのが良い。このようなことから、本発明者らの知見によれば、好ましい層数の範囲は3〜30層、より好ましくは5〜15層である。
【0019】
また、A層のアクリル弾性体粒子βの含有量は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%であり、さらに好ましくは0質量%(含有しないこと)である。含有量が5質量%を超えると、十分な透明性と、無欠点性が得られないことがある。一方、B層のアクリル弾性体粒子βの含有量は、好ましくは7〜40質量%、より好ましくは12〜25質量%である。7質量%未満の場合は十分な靭性が得られないし、40質量%を超えると弾性体の凝集により欠点頻度が悪化したり、耐熱性が低下する傾向にある。
【0020】
また、積層アクリル樹脂フィルムの表面(表面と裏面の両表面)はA層で構成されるが、この表面のA層はいずれの表面についても、その厚みは1μm以上であることが好ましく、より好ましくは2μm以上である。また、A層の総厚みのフイルム総厚みに対する比率は、30%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下である。
【0021】
A層のいずれかの面の、表層部分のA層の厚みが1μmに満たない場合は、表層の積層厚みが不十分で、透明性、無欠点性に不足が生じる。一方、A層の総厚みの、フイルム総厚みに対する比率が30%を超える場合は、靭性が不足し、耐折り曲げ性やスリット性が不十分となる。
【0022】
また、全てのA層、またはB層は、耐引裂き性を発揮するために、それぞれ同一の厚みを有していることが好ましいが、上記の積層数、積層比を満たす範囲で、各層の厚みの最大、最小の差が、各層平均厚みの30%以内であれば、性能上特に問題はなく使用しうる。なお、各層の積層厚みの測定法については、電子顕微鏡等による断面観察で粒子濃度の変化状態やポリマーの違いによるコントラストの差から界面を認識し、各層の厚さを求める。本法で困難な場合は、積層ポリマーを剥離後、薄膜段差測定機を用いて積層厚さを求める。
【0023】
また、層構成については、例えば、ABABA、ABABABAなどの規則的順列で積層されることが好ましい。2種類の樹脂からなる場合、それらが交互に積層された構造を有することが好ましい。ここで、フィルムの両表層を構成する層は、偏光板保護フィルムとしての使用上の観点からA層であること必要である。B層が表層に位置する場合は、B層に含有されるアクリル弾性体粒子の影響で、透明性、無欠点性が悪化傾向となる。
【0024】
また、例えばアクリル樹脂αの種類が異なるアクリル樹脂α’を含む層をA’層、アクリル弾性体粒子βとは種類の異なるアクリル弾性体粒子β’を含有する層をB’層とした場合でも、ABA’B’Aや、BAB’ABA’のように、交互に積層されることが望ましい。
【0025】
当該グルタル酸無水物単位のアクリル樹脂αに対する含有量としては、20〜40質量%が好ましく、より好ましくは25〜35質量%である。20質量%以上とすることによって、優れた耐熱性や光学等方性や耐薬品性を得ることができ、また後述するようにガラス転移温度の高いアクリル樹脂とすることができる。一方、40質量%以下とすることで、靱性の低下を防ぐことができる。
【0026】
特に耐熱性の点からは、上述の構造式(1)において、R、Rは水素またはメチル基が好ましく、とりわけメチル基が好ましい。
【0027】
またアクリル樹脂αは、ビニルカルボン酸アルキルエステル単位を含むことが好ましい。アクリル樹脂の基本構成単位としてビニルカルボン酸アルキルエステル単位を採用することにより、熱や水に対して安定なアクリル樹脂とすることができる。
【0028】
ビニルカルボン酸アルキルエステル単位としては例えば、下記一般式(3)で表されるものを挙げることができる。ただし、Rは水素原子または炭素数1〜5の脂肪族もしくは脂環式炭化水素、Rは炭素数1〜5の脂肪族炭化水素を示す。
【0029】
【化5】

【0030】
ビニルカルボン酸アルキルエステル単位の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上併存してもよい。中でも、熱安定性に優れる点で(メタ)アクリル酸メチルが最も好ましい。
【0031】
また、アクリル樹脂αの質量平均分子量としては、8万〜15万が好ましい。8万以上とすることで、アクリル樹脂フィルムの機械的強度を維持することができる。また15万以下とすることで、樹脂の着色を防ぐことができる。
【0032】
また、アクリル樹脂αのガラス転移温度(Tg)としては、120℃以上であることが耐熱性の面で好ましい。また、加工のし易さの点からは、160℃以下とすることが好ましい。
【0033】
ガラス転移温度を上記範囲内とするには、前述のようにアクリル樹脂αに対する前記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位の含有量については、この構造単位で表される構成量をポリマー組成全体に対する質量に換算して20〜40質量%とするのが好ましい。ここでいうガラス転移温度は、示差走査熱量測定器(例えばPerkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定される。
【0034】
また、当該アクリル樹脂αのアクリル樹脂フィルムに対する含有量としては、60〜90質量%とすることが重要である。60質量%以上とすることで、透明性等、アクリル樹脂αの特性を活かしたアクリル樹脂フィルムを得ることができる。一方、上限値は、後述するアクリル弾性体粒子βの添加量の下限値に対応する。
【0035】
次に、本発明の積層アクリル樹脂フィルムは、アクリル弾性体粒子βを含有することが重要である。アクリル樹脂フィルムにアクリル弾性体粒子βが含有され、分散されていることにより、アクリル樹脂フィルムとして優れた靱性を得ることができる。
【0036】
アクリル弾性体粒子βを構成するゴム質重合体は、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分を必須成分とし、その他に好ましく含まれる成分として、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分、ブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを挙げることができる。
【0037】
これらのなかでも、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分から構成されるものが好ましい。
【0038】
また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴム弾性体も好ましく、例えば、アクリル成分およびシリコーン成分から構成されるゴム弾性体、アクリル成分およびスチレン成分から構成されるゴム弾性体、アクリル成分および共役ジエン成分から構成されるゴム弾性体、アクリル成分、シリコーン成分およびスチレン成分から構成されるゴム弾性体などが挙げられる。
【0039】
また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位、ブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分を含むものも好ましい。
【0040】
なかでも、アクリル酸アルキルエステル単位と芳香族ビニル系単位との組み合わせが好ましい。アクリル酸アルキルエステル単位、中でもアクリル酸ブチルは靱性向上に極めて効果的であり、これに芳香族ビニル系単位、例えばスチレンを共重合させることによってアクリル弾性体粒子βの屈折率を調節することができる。
【0041】
アクリル弾性体粒子βとアクリル樹脂αの屈折率差が0.01以下であることが好ましい。これにより、アクリル樹脂フィルムとしての透明性を得ることができる。このような屈折率条件を満たすためには、アクリル樹脂αの各単量体単位組成比を調整する方法、および/またはアクリル弾性体粒子βに使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成比を調整する方法などにより、屈折率差を小さくすることができ、透明性に優れたアクリル樹脂フィルムを得ることができる。特に、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステルにスチレンなどの芳香族ビニル系単位を共重合し、その共重合比率を調整することによって、アクリル樹脂Aとの屈折率差が小さなアクリル弾性体粒子を得ることができる。
【0042】
アクリル弾性体粒子βの平均粒子径としては、70〜300nmとすることが重要であり、好ましくは100〜200nmである。70nm未満の場合は靱性の改良効果十分ではなく、300nmより大きい場合は、耐熱性が低下してしまう。
【0043】
アクリル弾性体粒子βのアクリル樹脂フィルムに対する含有量としては、7〜40質量%とすることが好ましく、より好ましくは12〜20質量%である。7質量%未満の場合は靱性の改良効果が十分ではなく、40質量%を超える場合は、耐熱性が低下する傾向にある。
【0044】
また、本発明の積層アクリル樹脂フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの他の熱可塑性樹脂、フェノール系、メラミン系、ポリエステル系、シリコーン系、エポキシ系などの熱硬化性樹脂をさらに含有していてもよい。また、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤あるいは酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤あるいは可塑剤、モンタン酸、その塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系あるいはリン系やシリコーン系の非ハロゲン系の難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有していてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加するのが好ましい。具体的には、アクリル樹脂αおよびアクリル弾性体粒子β以外の樹脂や添加剤のアクリル樹脂フィルムに対する総含有量としては10質量%以下とするのが好ましい。
【0045】
本発明の積層アクリル樹脂フィルムは、破断伸度が15%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。ここでいう破断伸度は、フィルムの長手方向にサンプリングした初期長さ50mm、幅10mmのサンプルについて、速度300m/分で引っ張り試験を行った時にフィルムが破断する伸度として測定される。破断伸度が低いことは靱性に劣ることを意味し、15%未満の場合、例えばフィルム搬送工程でフィルム割れが発生したり、高速でのスリットが困難となるといった問題が発生する。破断伸度の上限は限定しないが、40%もあれば十分に実用に供しうる。
【0046】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、フィルム長手方向のシャルピー衝撃強度が60kJ/m・100μm以上であることが好ましく、より好ましくは90kJ/m・100μm以上である。シャルピー衝撃強度を60kJ/m・100μm以上とすることで、高速でのスリットにも耐えるフィルムとすることができる。シャルピー衝撃強度の大きなアクリル樹脂フィルムを得るためには、光学特性を悪化させない範囲でアクリル弾性体粒子の平均粒子径を大きくすることが有効である。
【0047】
本発明の積層アクリル樹脂フィルムは、その全光線透過率が91%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、アクリル樹脂αの屈折率を小さくすることが有効である。
【0048】
また、本発明の積層アクリル樹脂フィルムは、透明性を表す指標の1つであるヘイズ値(濁度)においても、1.5%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0%以下である。かかるヘイズ値を達成するには、前述のようにアクリル樹脂αとアクリル弾性体粒子βとの屈折率差を小さくすることが有効である。
【0049】
また、表面の粗さも表面ヘイズとしてヘイズ値に影響するため、アクリル弾性体粒子βの粒子径や添加量を前記範囲内に抑えたり、製膜時の冷却ロール、カレンダーロール、ドラム、ベルト、溶液製膜における塗布基材の表面粗さを小さくすることも有効である。
【0050】
本発明の積層アクリル樹脂フィルムは、その優れた透明性、耐熱性、耐光性、靱性を活かして、電気・電子部品、光学フィルター、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0051】
上記成形品の具体的用途としては、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【0052】
次に、本発明の積層アクリル樹脂フィルムを製造する方法について説明する。
【0053】
前記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂αは基本的には以下に示す方法により製造することができる。
【0054】
次の一般式(4)で表される不飽和カルボン酸単量体と次の一般式(5)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体とを重合させ、共重合体(a)とする。
【0055】
【化6】

【0056】
ただし、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0057】
【化7】

【0058】
ただし、Rは水素または炭素数1〜5の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基を、Rは炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基を示す。
【0059】
共重合体(a)を生成する重合方法としては、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を用いることができ、不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合が特に好ましい。
【0060】
共重合体(a)を生成する重合温度としては、樹脂への着色を防ぎ良好な色調のものとするという観点から、95℃以下とすることが好ましく、より好ましくは85℃以下であり、さらに好ましくは75℃以下である。また、重合温度の下限としては、重合速度を考慮した生産性の面からは、50℃以上が好ましく、より好ましくは60℃以上である。また、重合収率あるいは重合速度を向上させる目的で、重合進行に従い重合温度を昇温してもよいが、この場合も当該工程を通じて上限温度は95℃以下に制御することが好ましく、重合開始温度も75℃以下の比較的低温で行うことが好ましい。
【0061】
また共重合体(a)を生成する重合時間としては、生産効率の点からは60〜360分間が好ましく、より好ましくは90〜180分間である。
【0062】
アクリル樹脂αの分子量は共重合体(a)の分子量によって決まるので、前述のようにアクリル樹脂αをその好ましい質量平均分子量の範囲内(8万〜15万)とする上で、共重合体(a)の分子量も、質量平均分子量で8万〜15万とすることが好ましい。
【0063】
共重合体(a)の分子量は、例えば、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤、あるいはアルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤の添加量を調節することにより、制御することができる。特に、重合の安定性、取り扱いの容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を調節する方法を好ましく採用することができる。
【0064】
ここで使用するアルキルメルカプタンとしては例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0065】
共重合体(a)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱すると、共重合体(a)内において隣接する2単位の不飽和カルボン酸単位同士のカルボキシル基から脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールが脱離して、1単位の前記グルタル酸無水物単位が生成される。
【0066】
共重合体(a)を加熱して脱水および/または脱アルコールさせる、すなわち分子内環化反応を行う方法としては例えば、ベントを有する加熱した押出機にを用いる方法や、不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱脱揮できる装置を用いる方法が生産性の観点から好ましい。
【0067】
具体的な装置としては例えば、“ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、とりわけ二軸押出機を用いることが、連続生産性、反応時の温度、時間、せん断速度のコントロールが容易で、かつ品質安定性の面で好ましい。また、押出機のスクリューの長さ/直径比(L/D)としては、40以上であることが好ましい。L/Dを40以上とすることで、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保することができ、L/Dが40以上の押出機を用いることによって、未反応の不飽和カルボン酸単位の残存量を減少させ、加熱成形加工時の反応の再進行による成形品内の気泡発生の少ないポリマーを得ることができ、成形滞留時の色調の悪化を抑制することができる。
【0068】
また、これらに窒素などの不活性ガスが導入可能な構造を有した装置であることがより好ましい。酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄味が増す傾向にあるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましいからである。例えば二軸押出機に、窒素などの不活性ガスを導入する方法としては、ホッパーの上部および/または下部より配管を繋ぎ、10〜100L/分程度の不活性ガスを流す方法などが挙げられる。
【0069】
分子内環化反応のために加熱する温度としては、当該反応を円滑に進行させるという点から、180〜300℃が好ましく、より好ましくは200〜280℃である。
【0070】
分子内環化反応のために加熱する時間としては、所望する共重合組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、1〜60分間が好ましく、より好ましくは2〜30分間、さらに好ましくは3〜20分間である。
【0071】
また、分子内環化反応のために加熱する際に、酸性触媒、アルカリ性触媒、塩系触媒のうち1種以上を添加することも好ましい。酸性触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類等が挙げられる。塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。中でも、アルカリ金属を含有する塩基性触媒または塩系触媒が、比較的少量の添加量で優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられ、とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウムが好ましく使用することができる。
【0072】
これらの触媒の添加量としては、共重合体(a)100質量部に対し、0.01〜1質量部程度が好ましい。0.01質量部以上とすることで、当該触媒としての実効を得ることができ、1質量部以下とすることで、その触媒保有の色が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼしたり透明性が低下するのを防ぐことができる。
【0073】
アクリル樹脂αまたはその前駆体中にアクリル弾性体粒子βを含有、分散せしめるに際し、アクリル弾性体粒子βを、その表層に60℃以上のガラス転移温度を有するアクリル系樹脂を積層するかまたはビニル系単量体をグラフト共重合せしめた状態で行うことが好ましい。そうすることで、ゴム質の重合体からなるアクリル弾性体粒子β同士の接着・凝集を防ぎ、その取扱い性が向上し、アクリル樹脂α中での分散性も向上する。
【0074】
その表層に60℃以上のガラス転移温度を有するアクリル系樹脂を積層した態様(以下、「コア・シェル型」とも呼ぶ)のアクリル弾性体粒子βにおいて、シェル(殻)部分を構成する「60℃以上のガラス転移温度を有するアクリル系樹脂」としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位や不飽和カルボン酸系単位を含有するものが好ましい。これらをシェル部分に含有するコア・シェル型のアクリル弾性体粒子βを、例えば前記共重合体(a)に添加して加熱する際に、マトリックス樹脂との親和性が良く分散性が向上する。また当該加熱により、シェル部分においても分子内環化反応が進行し、シェル部分とマトリックス樹脂が同化することになるので、シェル部分によりアクリル樹脂フィルムの透明性が阻害されるのを防ぐことができる。また、マトリックス樹脂内においてアクリル弾性体粒子βが強固に保持されることになるので、耐衝撃性等の機械特性も向上する。
【0075】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位の原料となる単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましく使用される。
【0076】
また、不飽和カルボン酸系単位の原料となる単量体としては、(メタ)アクリル酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましく使用される。
【0077】
コア・シェル型のアクリル弾性体粒子βにおける、コアとシェルとの質量比としては、双方の総和に対して、コア(ゴム質重合体)が50〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜80質量%である。
【0078】
コア・シェル型のアクリル弾性体粒子βの市販品としては例えば、三菱レイヨン社製“メタブレン”、鐘淵化学工業社製“カネエース”、呉羽化学工業社製“パラロイド”、ロームアンドハース社製“アクリロイド”、ガンツ化成工業社“スタフィロイド”およびクラレ社製“パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
また、ビニル系単量体をグラフト共重合せしめた態様(以下、「グラフト共重合型」とも呼ぶ。)アクリル弾性体粒子βにおいて、ビニル系単量体としては、ビニル基を有する不飽和カルボン酸エステル系単量体、ビニル基を有する不飽和カルボン酸系単量体、芳香族ビニル系単量体等を採用することができる。また、アクリル弾性体粒子βを構成するゴム質重合体やマトリックス樹脂との相性に合わせて他のビニル系単量体を共重合せしめてもよい。
【0080】
アクリル弾性体粒子βに付与するビニル系単量体の量としては、ゴム質重合体:ビニル系単量体の質量比で、(10〜80):(20〜90)が好ましく、より好ましくは(20〜70):(30〜80)、さらに好ましくは(30〜60):(40〜70)である。ビニル系単量体を20質量%以上とすることで、本態様の実効を得ることができる。一方、ビニル系単量体を90質量%以下とすることで、衝撃強度が低下するのを抑えることができる。
【0081】
グラフト共重合型のアクリル弾性体粒子βにおいては、グラフト共重合していないビニル系単量体由来の成分を含んでいてもよいが、衝撃強度の観点からは、グラフト率は10〜100%であることが好ましい。ここで、グラフト率とは、ゴム質重合体に付与したビニル系単量体のうちグラフト共重合したものの質量割合である。また、グラフトしていない共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には特に制限はないが、0.1〜0.6dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられる。
【0082】
アクリル弾性体粒子βをグラフト共重合型とする方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合などの重合法を採用することができる。
【0083】
尚、コア・シェル型あるいはグラフト共重合型のアクリル弾性体粒子βの粒子径、含有量および屈折率は、シェル部分やグラフト共重合体部分を除外したゴム質重合体を対象として評価する。粒子径については、例えば透過型電子顕微鏡による断面観察などからシェル部分やグラフト共重合部分を除外して評価できる。また、含有量は、アクリル樹脂を溶解するアセトンなどの溶媒に溶解させたあとの不溶成分から評価することができる。
【0084】
アクリル樹脂αあるいはその前駆体にアクリル弾性体粒子βやその他の添加剤を配合する方法としては例えば、アクリル樹脂αとその他の添加成分を予めブレンドした後、通常200〜350℃にて、一軸または二軸押出機により均一に溶融混練する方法を採用することができる。
【0085】
また、アクリル樹脂αの前駆体である共重合体(a)にアクリル弾性体粒子βやその他の添加剤を添加し、二軸押出機等による前述の分子内環化反応と同時に、アクリル弾性体粒子βやその他の添加剤の溶融混練による配合を行うことができる。
【0086】
溶融混練において、アクリル弾性体粒子βに付与したシェル部分等の不飽和カルボン酸単量体単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体単位の環化反応も同時に行うことができる。
【0087】
また、後述する溶液製膜の場合には、アクリル樹脂αとアクリル弾性体粒子βとを溶解あるいは分散する溶媒中で混合した後に溶媒を除く方法を用いることができる。
【0088】
また特に溶液製膜においては、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成する樹脂は、異物を取り除く目的で濾過することが好ましい。異物を除去することにより、樹脂の着色を防ぎ、光学用途フィルムとして有用に使用できる。テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤に溶解した樹脂を、25℃以上100℃以下の温度にて、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網等のフィルターで濾過することができる。
【0089】
本発明の積層アクリル樹脂フィルムは、溶融製膜にて製膜することができる。溶融製膜としては、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法などがあり、特にT−ダイ法を好ましく採用できる。溶液製膜としては、ポリマーフィルム上キャスト法、キャスティングドラム法、金属ベルト上キャスト法などがあり、特にポリマーフィルム上キャスト法を好ましく採用できる。以下、それぞれの製造方法を例に説明する。
【0090】
溶融製膜には、単軸あるいは二軸の押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。そのスクリューのL/Dとしては、25〜120とすることが着色を防ぐために好ましい。本発明のアクリル樹脂フィルムを製造するための溶融押出温度としては、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。溶融剪断速度としては、1,000s−1以上5,000s−1以下が好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下で、あるいは窒素気流下で溶融混練を行うことが好ましい。
【0091】
A層を構成するアクリル樹脂αと、B層を構成するアクリル弾性体粒子βを含有するアクリル樹脂αを、ペレットなどの形態で用意する。ペレットは、必要に応じて、事前乾燥を熱風中あるいは減圧下で行い、押出機に供給される。押出機内において、融点以上に加熱溶融された樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量を均一化され、フィルタ等を介して異物や変性した樹脂をろ過される。さらに、樹脂はダイにて目的の形状に成形された後、吐出される。
【0092】
4層以上の多積層フィルムを得るための方法としては、2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出された樹脂を、口金内部で積層するマルチマニホールドダイや口金以前に積層するフィールドブロックやスタティックミキサー等を用いて多層に積層する方法等を使用することができる。また、これらを任意に組み合わせても良い。
【0093】
T−ダイ法は、溶融した樹脂をギアーポンプで計量した後にTダイ口金から吐出させ、静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などでドラムなどの冷却媒体上に密着させて冷却固化し、フィルムを得ることができる。特に厚みムラが少なく、ヘイズの小さなフィルムを得るには、プレスロール法が好ましい。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0095】
[測定方法]
(1)各成分組成
アクリル樹脂フィルムにアセトンを加え、4時間還流し、この溶液を9,000rpmで30分間、遠心分離し、アセトン可溶成分とアセトン不溶成分とに分離した。アセトン可溶成分を60℃で5時間減圧乾燥し、各成分単位定量を行って、アクリル樹脂αの各成分組成とした。
【0096】
各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられるが、ここではプロトン核磁気共鳴法で求める。H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0097】
(2)質量平均分子量(絶対分子量)
ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて測定した。
【0098】
(3)シャルピー衝撃強度
JIS K7111(2006)に従った。フィルム長手方向にサンプリングしたノッチなし試験片を用い、その長さ50mm、幅10mmにて行った。測定は別個のサンプルについて10回以上行い、平均値を用い、厚み100μmあたりに換算した。
【0099】
(4)全光線透過率、ヘイズ
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、589.3nm、23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ(曇度)(%)を測定した。全光線透過率はJIS−K7361(1997)、ヘイズはJIS K7136(2000)に従った。
【0100】
測定は別個のサンプルについて10回以上行い、平均値を用いた。
【0101】
(5)耐折り曲げ性
フィルム長手方向に幅10mm、長さ200mmのサンプリングを行い、両端10mmを粘着テープで貼り合わせループを形成し、ラミネーター((株)NBSリコー製ラミパッカーLPD650)を用い、25℃のゴムロール間を1回通過させることによって180回折り曲げを行い、以下の判定を行った。
【0102】
◎ :全く割れず、折り目もなかった。
【0103】
○ :折り目が入ったが割れなかった。
【0104】
× :フィルムの一部または全面に割れが発生した。
【0105】
(6)スリット性
東レエンジニアリング(株)製1,300mm幅二軸スリッターを用い、フェザー安全剃刀(株)製片刃(FAS−10)での空中カットで、長さ500mのフィルムについて、張力15kg/m、50m/分の条件でスリットを行い、スリット後の端面を目視観察して以下の判定を行った。
【0106】
◎:端面が直線であり、目視判定で0.5mm以上の周期の端面乱れが観察されない。
【0107】
○:スリット可能であったが、端面が不揃いな部分が存在し、目視で周期0.5mm以上、振幅1mm以上5mm未満の端面乱れが観察される。
【0108】
×:スリット中にフィルムが破断しスリット不可能であったか、スリット可能であっても、端面が不揃いな部分が存在し、目視で周期0.5mm以上、振幅5mm以上の端面乱れが観察される。
【0109】
(7)欠点頻度・大きさ
透過型の欠点検出器を用いて1mのフィルム面内の欠点を検出した。検出された欠点を顕微鏡で観察し欠点の直径を求めた。ここで欠点の直径とは、欠点が円形の場合はその直径を示し、円形でない場合は欠点の範囲を下記方法により顕微鏡で観察して決定し、その最大径(外接円の直径)とする。欠点の範囲は、欠点が気泡や異物の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の透過光で観察したときの影の大きさである。欠点が、ロール傷の転写や擦り傷など、表面形状の変化の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の反射光で観察して大きさを確認する。なお、反射光で観察する場合に、欠点の大きさが不明瞭であれば表面にアルミや白金を蒸着して観察してもよい。上記のようにして直径を求めた欠点のうち、直径が5μm以上の欠点の数を求める。この1mあたりの直径5μm以上の欠点の数を100で割り、10cm四方あたりの直径5μm以上の欠点の数、すなわち欠点頻度(個/10cm四方)を求めた。
【0110】
◎ :欠点頻度が0.1個/10cm四方未満
○ :欠点頻度が0.1個/10cm四方以上、1個/10cm四方未満
× :欠点頻度が1個/10cm四方以上
[実施例]
(1)アクリル樹脂の調製
まず、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を、次の様にして調整した。
【0111】
メタクリル酸メチル20質量部、
アクリルアミド80質量部、
過硫酸カリウム0.3質量部、
イオン交換水1,500質量部
を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら、単量体が完全に重合体に転化するまで、70℃に保ち反応を進行させた。得られた水溶液を懸濁剤とした。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、上記懸濁剤0.05質量部をイオン交換水165質量部に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら400rpmで撹拌した。
【0112】
次に、下記仕込み組成の混合物質を、反応系を撹拌しながら添加した。
【0113】
メタクリル酸 :27質量部
メタクリル酸メチル :73質量部
t−ドデシルメルカプタン : 1.2質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル: 0.4質量部
添加後、70℃まで昇温し、内温が70℃に達した時点を重合開始時点として、180分間保ち、重合を進行させた。その後、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体を得た。この共重合体の重合率は97%であり、質量平均分子量は13万であった。
【0114】
上記共重合体に添加剤(NaOCH)を0.2質量%配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル樹脂αを得た。
【0115】
(2)アクリル弾性体粒子(コア・シェル型アクリル弾性体粒子)の調製
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に、初期調整溶液として、
脱イオン水120質量部、
炭酸カリウム0.5質量部、
スルホコハク酸ジオクチル0.5質量部、
過硫酸カリウム0.005質量部
を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、
アクリル酸ブチル53質量部、
スチレン17質量部、
メタクリル酸アリル(架橋剤)1質量部
を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、ゴム質重合体を得た。
【0116】
次いで、
メタクリル酸メチル21質量部、
メタクリル酸9質量部、
過硫酸カリウム0.005質量部
の混合物を引き続き70℃で90分かけて連続的に添加し、更に90分間保持して、シェル層を重合させた。
【0117】
この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、コア・シェル型のアクリル弾性体粒子βを得た。電子顕微鏡で測定したアクリル弾性体粒子のゴム質重合体部分の平均粒子径は140nmであった。
【0118】
(3)アクリル樹脂αとアクリル弾性体粒子βとの配合
アクリル樹脂αとアクリル弾性体粒子βとを、各実施例・比較例において表1に示すような組み合わせで配合し、2軸押出機(日本製鋼社製TEX30、L/D=44.5)を用いて、スクリュー回転数150rpm、シリンダ温度280℃で混練し、ペレット状のアクリル樹脂組成物を得た。
【0119】
(4)製膜
各実施例・比較例において、表1に示すように溶融製膜にて製膜を行った。両製膜方法は、次のようにして行った。
【0120】
(実施例1)
A層を形成するアクリル樹脂α(樹脂Aと呼ぶ)、B層を形成するアクリル樹脂αとアクリル弾性体粒子βの混合組成物(混合比;80質量部:20質量部、樹脂Bと呼ぶ)を80℃で8時間減圧乾燥し、ベント付きの65mmφの一軸押出機2台を用いて吐出し、それぞれギアポンプおよびフィルターを介した後、1段目のフィードブロックにて樹脂AとBを合流させて積層樹脂を形成し、樹脂Aを5層、樹脂Bを4層からなる厚み方向に交互に積層された構造(以降、交互になる層をそれぞれA層、B層と呼ぶ)として合計9層となるようなフィードブロックを用いた。積層厚み比は、A:B=1:3になるよう吐出量にて調整した。
【0121】
このようにして得られた計9層からなる積層体をTダイに供給しシート状に成形した後スリット間隙0.5mmのTダイ(設定温度270℃)を介して押出し、表面仕上げ1Sのステンレス製ポリシングロール(70℃)に両面を完全に接着させるようにして冷却してフィルム厚み40μmのアクリル樹脂フィルムを得た。
【0122】
このフィルムについての詳細製造条件、及びフィルム特性は表1、2の通りである。
【0123】
(実施例2〜12、比較例1〜9)
実施例1と同様にして、表1のように、樹脂混合比、積層比、積層数、積層方法を変えて、フィルム厚み40μmのアクリル樹脂フィルムを得た。それぞれの詳細製造条件とフィルム特性を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の積層アクリル樹脂フィルムは、その優れた透明性、無欠点性、耐熱性、靱性を活かして、偏光板に用いられる偏光子保護フィルムとして好適に用いられる他、電気・電子部品、光学フィルター、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0127】
上記成形品の具体的用途としては、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、これら各種の用途にとって極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂αとアクリル弾性体粒子βとを含有する積層アクリル樹脂フィルムであって、アクリル弾性体粒子βを5質量%以下含有する層をA層とし、アクリル弾性体粒子βを7〜40質量%含有する層をB層としたとき、A層とB層とが厚み方向に交互に少なくとも3層以上に積層されるとともに、いずれの表面についても少なくとも1μmの厚みを有するA層で構成され、かつA層の総厚みがフイルム総厚みの30%以下である積層アクリル樹脂フィルム。
【化1】

上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【請求項2】
A層とB層とが5層以上積層されている、請求項1記載の積層アクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
ヘイズ値が1.5%以下である、請求項1または2記載の積層アクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の積層アクリル樹脂フィルムを用いてなる偏光子保護フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の偏光子保護フィルムを用いてなる偏光板。
【請求項6】
請求項5に記載の偏光板を用いてなる液晶ディスプレイ。

【公開番号】特開2009−160891(P2009−160891A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2821(P2008−2821)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】