説明

積層インダクタ及び積層インダクタの製造方法

【課題】インダクタンス値が低下することなく、直流重畳特性の更なる向上を図ることができる積層インダクタを提供すること。
【解決手段】コイル12は、一端が積層体3の一の側面に引き出され且つ他端が積層体3の一の側面に対向する側面に引き出されると共に、軸心方向に見て、N体(Nは2以上の自然数)の導体11が重なっている第一領域12aと、N−1体の導体11が重なっている第二領域12bと、を含む。積層体3は、絶縁体13として、磁性体からなる複数の第一絶縁体15と、複数の第一絶縁体15に挟まれるように配置されると共に非磁性体からなる第二絶縁体17とが積層されてなる。第二絶縁体17は、コイル12を横断するように積層体3における軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられ、第一領域12aに対応する部分17aの厚みが第二領域12bに対応する部分17bの厚みよりも厚い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層インダクタ及び積層インダクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層インダクタとして、螺旋状のコイルを形成する導体と絶縁体とを積層してなる積層体を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された積層インダクタでは、非磁性体からなる絶縁体が、コイルを横断するように積層体におけるコイルの軸心方向に交わる面に沿って設けられている。非磁性体からなる絶縁体により磁気ギャップが形成されることとなり、直流重畳特性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−014549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された積層インダクタでは、非磁性体からなる絶縁体が積層体における前記コイルの軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられておらず、非磁性体からなる絶縁体が途切れた領域が存在する。このため、磁束が、非磁性体からなる絶縁体を迂回して、積層体における非磁性体からなる絶縁体が途切れた領域を通ることとなり、当該領域に磁束が集中し、磁気飽和が生じ易くなる。この結果、特許文献1に記載された積層インダクタでは、直流重畳特性を十分に向上できない懼れがある。
【0005】
本発明は、インダクタンス値が低下することなく、直流重畳特性の更なる向上を図ることができる積層インダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等の調査研究の結果、直流重畳特性の向上のために、非磁性体からなる絶縁体が積層体におけるコイルの軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられた構成の採用が考えられるが、当該構成を採用した場合、新たに以下の問題点を有することが判明した。
【0007】
積層インダクタでは、一般に、導体が接続されることにより形成されるコイルは、その一端が積層体の一の側面に引き出されると共に、その他端が積層体の上記一の側面に対向する側面に引き出される。このため、コイルは、コイルの軸心方向に見て、N体(Nは2以上の自然数)の導体が重なっている第一領域と、N−1体の導体が重なっている第二領域と、を含むこととなる。コイルの第一領域は、コイルの第二領域に比して導体数が多いことから、コイルの第一領域における磁束密度はコイルの第二領域における磁束密度よりも高くなる。
【0008】
非磁性体からなる絶縁体が積層体におけるコイルの軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられた構成において、非磁性体からなる絶縁体の厚みが、コイルの第一領域における磁束密度を考慮し、コイルの第一領域において磁気飽和が生じ難い厚みに設定されると、コイルの第二領域における磁束密度がコイルの第一領域における磁束密度よりも低いこともあって、インダクタンス値が低下する懼れがある。非磁性体からなる絶縁体の厚みが、コイルの第二領域における磁束密度を考慮し、コイルの第二領域において磁気飽和が生じ難い厚みに設定されると、コイルの第一領域における磁束密度はコイルの第二領域における磁束密度よりも高いため、コイルの第一領域において磁気飽和が生じ易く、直流重畳特性を十分に向上できない懼れがある。
【0009】
本発明は、これらの問題点を解消するために、螺旋状のコイルを形成する導体と絶縁体とが積層されてなる積層体を備えた積層インダクタであって、導体は、コイルが絶縁体の積層方向を軸心方向として形成されるように相互に接続され、コイルは、一端が積層体の一の側面に引き出され且つ他端が積層体の一の側面に対向する側面に引き出されると共に、上記軸心方向に見て、N体(Nは2以上の自然数)の導体が重なっている第一領域と、N−1体の導体が重なっている第二領域と、を含み、積層体は、絶縁体として、磁性体からなる複数の第一絶縁体と、複数の第一絶縁体に挟まれるように配置されると共に非磁性体からなる少なくとも1つの第二絶縁体とが積層されてなり、少なくとも1つの第二絶縁体は、コイルを横断するように積層体における上記軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられ、コイルの第一領域に対応する部分の厚みがコイルの第二領域に対応する部分の厚みよりも厚いことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る積層インダクタでは、非磁性体からなる少なくとも1つの第二絶縁体が、コイルを横断するように積層体におけるコイルの軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられ、コイルの第一領域に対応する部分の厚みがコイルの第二領域に対応する部分の厚みよりも厚くされている。このため、インダクタンス値が低下することなく、直流重畳特性の更なる向上を図ることができる。
【0011】
本発明は、絶縁体層と導体パターンとを交互に印刷して積層して、導体パターンの端部を接続しながら積層体内に螺旋状のコイルパターンを形成し、積層体を焼成する積層インダクタの製造方法であって、絶縁体層として磁性体層を印刷する工程と、絶縁体層として非磁性体層を印刷する工程と、を備え、非磁性体層を印刷する工程では、非磁性体層を、積層体の積層方向でN体(Nは2以上の自然数)の導体パターンが重なる領域側と積層体の積層方向でN−1体の導体パターンが重なる領域側とに、積層体の積層途中においてコイルパターンを横断し且つ積層体におけるコイルパターンの軸心方向に交わる面の全面にわたるように印刷しており、N体の導体パターンが重なる領域側に非磁性体層を印刷する回数を、N−1体の導体パターンが重なる領域側に非磁性体層を印刷する回数よりも多くしたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、絶縁体層と導体パターンとを交互に印刷して積層して、導体パターンの端部を接続しながら積層体内に螺旋状のコイルパターンを形成し、積層体を焼成する積層インダクタの製造方法であって、絶縁体層として磁性体層を印刷する工程と、絶縁体層として非磁性体層を印刷する工程と、を備え、非磁性体層を印刷する工程では、非磁性体層を、積層体の積層方向でN体(Nは2以上の自然数)の導体パターンが重なる領域側と積層体の積層方向でN−1体の導体パターンが重なる領域側とに、積層体の積層途中においてコイルパターンを横断し且つ積層体におけるコイルパターンの軸心方向に交わる面の全面にわたるように印刷しており、N体の導体パターンが重なる領域側に非磁性体層を印刷する厚みを、N−1体の導体パターンが重なる領域側に非磁性体層を印刷する厚みよりも厚くしたことを特徴とする。
【0013】
これら本発明に係る積層インダクタの製造方法によれば、非磁性体からなる絶縁体が、コイルを横断するように積層体におけるコイルの軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられ、コイルの第一領域に対応する部分の厚みがコイルの第二領域に対応する部分の厚みよりも厚くされた積層インダクタを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インダクタンス値が低下することなく、直流重畳特性の更なる向上を図ることができる積層インダクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る積層インダクタを示す斜視図である。
【図2】積層体の断面構成を説明するための図である。
【図3】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図4】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図5】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図6】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図7】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図8】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図9】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図10】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図11】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図12】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図13】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図14】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図15】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図16】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図17】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図18】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。
【図19】本実施形態に係る積層インダクタの製造方法の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る積層インダクタを示す斜視図である。図2は、積層体の断面構成を説明するための図である。
【0018】
積層インダクタ1は、略直方体形状の積層体3と、積層体3の長手方向(図中X方向)での両端部に配置された一対の端子電極5と、を備えている。積層体3は、後述する製造方法(印刷積層工法)により形成されており、導体11と絶縁体13とがそれぞれ複数積層されてなる積層体である。積層体3は、長手方向に互いに対向する一対の側面3a,3bを有している。積層インダクタ1は、積層体3内に、複数の導体11により形成される螺旋状のコイル12を有している。
【0019】
複数の導体11は、コイル12が絶縁体13の積層方向(図中Y方向)を軸心方向として形成されるように相互に接続されている。複数の導体11のうちコイル12の一端に位置する導体11は、その端が側面3aに引き出されて、露出している。複数の導体11のうちコイル12の他端に位置する導体11は、その端が側面3aに引き出されて、露出している。これにより、コイル12の一端が積層体3の側面3aに引き出されると共に、コイル12の他端が積層体3の側面3bに引き出されることとなる。各導体は、金属(たとえば、Ag、Pd、又はこれらの合金など)の焼結体からなる。
【0020】
コイル12は、その端が互いに対向する一対の側面3a,3bにそれぞれ引き出されているため、図2にも示されるように、当該コイル12の軸心方向に見て、N体(Nは2以上の自然数であり、本実施形態では「3体」である)の導体11が重なっている第一領域12aと、N−1体(本実施形態では「2体」である)の導体11が重なっている第二領域12bと、を含んでいる。
【0021】
各端子電極5は、導体11の側面3a,3bに露出した部分をすべて覆うように形成されており、導体11は端子電極5に物理的且つ電気的に接続される。これにより、コイル12、その両端において各端子電極5に接続されることとなる。各端子電極5は、導電性金属粉末(たとえば、Ag粉末、Ni粉末、又はCu粉末など)を含む導電性ペーストを積層体3の外表面の対応する箇所に付与し、焼き付けることによって形成される。必要に応じて、端子電極5の上にめっき層が形成されることもある。
【0022】
複数の絶縁体13は、磁性体からなる複数(本実施形態では、「2」)の第一絶縁体15と、非磁性体からなる少なくとも1つ(本実施形態では、「1」)の第二絶縁体17と、を含んでいる。積層体3は、第二絶縁体17が第一絶縁体15に挟まれるように配置されるように第一絶縁体15と第二絶縁体17とが積層されてなる。第一絶縁体15は、フェライト(たとえば、Ni−Cu−Zn系フェライト、Ni−Cu−Zn−Mg系フェライト、Cu−Zn系フェライト、又はNi−Cu系フェライトなど)からなる。第二絶縁体17は、フェライト(たとえば、Cu−Zn系フェライトなど)からなる。
【0023】
第二絶縁体17は、コイル12を横断するように積層体3におけるコイル12の軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられている。第二絶縁体17は、コイル12の第一領域12aに対応する部分17aと、コイル12の第二領域12bに対応する部分17bと、を含んでいる。第二絶縁体17の第一領域12aに対応する部分17aとコイル12の第二領域12bに対応する部分17bとの境界は、積層体3の幅方向での略中央に位置している。第二絶縁体17の第一領域12aに対応する部分17aの厚みは、コイル12の第二領域12bに対応する部分17bの厚みよりも厚く設定されている。
【0024】
続いて、図3〜図18を参照して積層インダクタ1の製造方法について説明する。積層インダクタ1は、印刷積層工法により製造される。図3〜図18は、本実施形態に係る積層インダクタの製造方法を説明するための図である。図3〜図18では、印刷積層工法により得られる中間体を、説明のため、一つの積層体3に対応する部分のみ図示している。
【0025】
まず、磁性体粉末(たとえば、Ni−Cu−Zn系フェライト粉末など)、バインダ及び溶剤などを混練して、第一絶縁体15の原料となる磁性体ペーストを生成する。非磁性体粉末(たとえば、Cu−Zn系フェライト粉末など)、バインダ及び溶剤などを混練して、第二絶縁体17の原料となる非磁性体ペーストを生成する。上述した導電性金属粉末、バインダ及び溶剤などを混練して、導体11の原料となる導電性ペーストを生成する。
【0026】
次に、得られた磁性体ペースト、非磁性体ペースト、及び導電性ペーストを用いて、これらを印刷積層工法により積層した中間体を形成する。本印刷工程では、磁性体ペースト及び非磁性体ペーストを複数回の印刷することにより、所望の厚みのグリーン層を形成する。一回の印刷により形成されるペースト膜の厚みは、たとえば3〜10μm程度である。
【0027】
磁性体ペーストをシート状に印刷して、磁性体グリーン層A11を形成する(図3参照)。磁性体グリーン層A11の表面の一部(図中、略左半分)を覆うように磁性体ペーストを複数回(たとえば、2回)印刷して、磁性体グリーン層A12を形成する(図4参照)。磁性体グリーン層A11の表面に導電性ペーストを印刷してコイル12の略1/4ターンに相当する導体パターンC11を形成する(図5参照)。このとき、導電性ペーストを、導体パターンC11の一端が磁性体グリーン層A11,A12の縁に引き出されるように印刷する。導体パターンC11の一部が表面に露出すると共に、磁性体グリーン層A11の表面の一部(図中、略右半分)を覆うように磁性体ペーストを複数回(たとえば、4回)印刷して、磁性体グリーン層A13を形成する(図6参照)。
【0028】
導体パターンC11の他端と一端が重なるように磁性体グリーン層A12,A13の表面に導電性ペーストを印刷してコイル12の略1/2ターンに相当する導体パターンC12を形成する(図7参照)。導体パターンC12の一部が表面に露出すると共に、磁性体グリーン層A12の表面を覆うように磁性体ペーストを複数回(たとえば、4回)印刷して、磁性体グリーン層A14を形成する(図8参照)。導体パターンC12の他端と一端が重なるように磁性体グリーン層A13,A14の表面に導電性ペーストを印刷してコイル12の略1/2ターンに相当する導体パターンC13を形成する(図9参照)。
【0029】
導体パターンC13の一部が表面に露出すると共に、磁性体グリーン層A13の表面を覆うように磁性体ペーストを複数回(たとえば、2回)印刷して、磁性体グリーン層A15を形成する(図10参照)。ここでは、磁性体ペーストの印刷回数が磁性体グリーン層A13,A14を形成するための印刷回数よりも少なく、磁性体グリーン層A15の厚みは、磁性体グリーン層A13,A14の厚みよりも薄い。詳細には、磁性体グリーン層A15を形成するための印刷回数は、磁性体グリーン層A13,A14を形成するための印刷回数の半分であり、磁性体グリーン層A15の厚みは、磁性体グリーン層A13,A14の厚みの略半分である。
【0030】
磁性体グリーン層A15の表面を覆うように非磁性体ペーストを複数回(たとえば、2回)印刷して、非磁性体グリーン層B11を形成する(図11参照)。ここでは、非磁性体グリーン層B11を形成するための印刷回数は、磁性体グリーン層A15を形成するための印刷回数と同じである。したがって、磁性体グリーン層A15の厚みと非磁性体グリーン層B11の厚みの和は、磁性体グリーン層A13,A14の厚みと略同じである。
【0031】
導体パターンC13の他端と一端が重なるように磁性体グリーン層A14と非磁性体グリーン層B11との表面に導電性ペーストを印刷してコイル12の略1/2ターンに相当する導体パターンC14を形成する(図12参照)。
【0032】
導体パターンC14の一部が表面に露出すると共に、磁性体グリーン層A14の表面を覆い且つ非磁性体グリーン層B11に接するように非磁性体ペーストを複数回(たとえば、3回)印刷して、非磁性体グリーン層B12を形成する(図13参照)。ここでは、非磁性体グリーン層B12を形成するための印刷回数は、非磁性体グリーン層B11を形成するための印刷回数よりも多い。したがって、非磁性体グリーン層B12の厚みは、非磁性体グリーン層B11の厚みよりも厚い。
【0033】
非磁性体グリーン層B12の表面を覆うように磁性体ペーストを印刷して、磁性体グリーン層A16を形成する(図14参照)。ここでは、磁性体グリーン層A16を形成するための印刷回数を一回とし、非磁性体グリーン層B12を形成するための印刷回数と磁性体グリーン層A16を形成するための印刷回数との和は、非磁性体グリーン層B11を形成するための印刷回数と磁性体グリーン層A15を形成するための印刷回数との和と同じであり、磁性体グリーン層A13,A14を形成するための印刷回数と同じである。したがって、非磁性体グリーン層B12の厚みと磁性体グリーン層A16の厚みとの和も、磁性体グリーン層A13,A14の厚みと略同じである。
【0034】
非磁性体グリーン層B12を形成するための印刷回数は、非磁性体グリーン層B11を形成するための印刷回数よりも多いことから、非磁性体グリーン層B12の厚みは、非磁性体グリーン層B11の厚みよりも厚い。非磁性体グリーン層B11と非磁性体グリーン層B12とは、互いに接して形成されており、磁性体グリーン層A14,A15の全面、すなわち、中間体の表面全体を覆うように形成されている。
【0035】
導体パターンC14の他端と一端が重なるように磁性体グリーン層A16と非磁性体グリーン層B11との表面に導電性ペーストを印刷してコイル12の略1/2ターンに相当する導体パターンC15を形成する(図15参照)。導体パターンC15の一部が表面に露出すると共に、非磁性体グリーン層B11の表面を覆うように磁性体ペーストを複数回(たとえば、4回)印刷して、磁性体グリーン層A17を形成する(図16参照)。
【0036】
導体パターンC15の他端と一端が重なるように磁性体グリーン層A16と磁性体グリーン層A17との表面に導電性ペーストを印刷してコイル12の略1/4ターンに相当する導体パターンC16を形成する(図17参照)。このとき、導電性ペーストを、導体パターンC16の他端が磁性体グリーン層A16,A17の縁(導体パターンC11が引き出された縁と反対側となる縁)に引き出されるように印刷する。中間体の表面全体を覆うように磁性体ペーストを印刷して、磁性体グリーン層A18を形成する(図18参照)。
【0037】
次に、印刷積層工法により得られた中間体をチップ単位に切断する。そして、各グリーンチップを所定の条件(たとえば、200〜600℃で且つ3〜6時間)で熱処理を実施して脱バインダを行った後、さらに、所定の条件(たとえば、800〜900℃で且つ3〜7時間)で焼成を行う。この焼成によって、磁性体グリーン層A11〜A15と磁性体グリーン層A16〜A18とはそれぞれ第一絶縁体15となり、非磁性体グリーン層B11,B12は第二絶縁体17となり、導体パターンC11〜C16は導体11(コイル12)となる。すなわち、積層体3が得られることとなる。積層体3は、たとえば、焼成後の長手方向の長さが1.6〜3.2mm、幅が0.8〜2.5mm、高さが0.8〜1.25mmとなる。各導体パターンC11〜C16は、たとえば、焼成後における幅が100〜400μm、厚みが15〜50μmとなる。
【0038】
次に、積層体3の両側面3a,3bを覆うように導電性ペーストを付与して、所定の条件(たとえば、600〜800℃で且つ0.5〜3時間)で熱処理を施すことにより導電性ペーストを積層体3に焼付けて、端子電極5を形成する。その後、端子電極5を覆うように、Niめっき及びSnめっき等の電気めっき処理を施すことによりめっき層を形成する。導電性ペーストは、たとえば上述した導電性金属粉末にガラスフリット及び有機ビヒクルを混合したものを用いることができる。
【0039】
これらの過程により、積層インダクタ1が得られる。
【0040】
以上のように、本実施形態では、非磁性体からなる第二絶縁体17が、コイル12を横断するように積層体3におけるコイル12の軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられている。このため、積層インダクタ1には、積層体3におけるコイル12の軸心方向に交わる面において、非磁性体からなる絶縁体が途切れる領域は存在しない。したがって、積層インダクタ1では、磁気飽和が生じ難く、直流重畳特性を向上することができる。
【0041】
積層インダクタ1では、コイル12は、その一端が積層体3の側面3aに引き出されると共に、その他端が積層体3の側面3bに引き出されている。このため、コイル12は、コイル12の軸心方向に見て、N体(本実施形態では、N=3)の導体11が重なっている第一領域12aと、N−1体の導体11が重なっている第二領域12bと、を含むこととなる。コイル12の第一領域12aは、コイル12の第二領域12bに比して導体11の数が多いことから、コイル12の第一領域12aにおける磁束密度はコイル12の第二領域12bにおける磁束密度よりも高い。
【0042】
本実施形態では、上述したコイル12の第一領域12aと第二領域12bとにおける磁束密度の違いが考慮され、第二絶縁体17は、コイル12の第一領域12aに対応する部分の厚みがコイル12の第二領域12bに対応する部分の厚みよりも厚くされている。コイル12の第一領域12aにおける磁束密度はコイル12の第二領域12bにおける磁束密度よりも高いため、コイル12の第一領域12aにおいてはコイル12の第二領域12bに比して磁気飽和が生じ易いが、上述したように、第二絶縁体17において、第一領域12aに対応する部分の厚みが第二領域12bに対応する部分の厚みよりも厚いので、コイル12の第一領域12aにおいて磁気飽和が生じ難くなり、直流重畳特性の向上に支障が生じることはない。
【0043】
本実施形態では、第二絶縁体17において、コイル12の第二領域12bに対応する部分の厚みがコイル12の第一領域12aに対応する部分の厚みよりも薄い。このため、コイル12の第一領域12aに比して磁束密度が低い第二領域12bにおいて、第二絶縁体17は支障にはならず、インダクタンス値の低下が抑制される。
【0044】
これら結果、積層インダクタ1では、インダクタンス値が低下することなく、直流重畳特性の更なる向上を図ることができる。直流重畳特性の更なる向上により、積層インダクタ1では、定格電流の向上も図ることができる。
【0045】
本実施形態に係る製造方法では、非磁性体グリーン層B11を中間体での積層方向で2体の導体パターンC12〜C14が重なる領域側に印刷形成し、非磁性体グリーン層B12を中間体での積層方向で3体の導体パターンC11〜C16が重なる領域側に印刷形成し、非磁性体グリーン層B11と非磁性体グリーン層B12とが、中間体の積層途中においてコイルパターンを横断し且つ中間体におけるコイルパターンの軸心方向に交わる面の全面にわたるように印刷形成されることとなる。そして、非磁性体グリーン層B12を形成するための印刷回数を非磁性体グリーン層B11を形成するための印刷回数よりも多く設定して、非磁性体グリーン層B12の厚みを非磁性体グリーン層B11の厚みよりも厚くしている。これにより、上述した製造方法では、第二絶縁体17の厚みが第一領域12aに対応する部分の厚みが第二領域12bに対応する部分の厚みよりも厚くされている積層インダクタ1を得ることができる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0047】
上述した実施形態では、非磁性体グリーン層B12を形成するための印刷回数が非磁性体グリーン層B11を形成するための印刷回数よりも多く設定されることにより、非磁性体グリーン層B12の厚みが非磁性体グリーン層B11の厚みよりも厚くされているが、これに限られない。たとえば、図19に示されるように、非磁性体グリーン層B11,B12を印刷する際に用いるスクリーン版として、版の厚みが異なる複数のスクリーン版を用い、厚みが薄いスクリーン版を用いて非磁性体グリーン層B11を一回の印刷で形成し、厚みが厚いスクリーン版を用いて非磁性体グリーン層B12を一回の印刷で形成してもよい。
【0048】
この場合、用いるスクリーン版の版厚みがことなることから、非磁性体グリーン層B12を印刷する厚みは、非磁性体グリーン層B12を印刷する厚みよりも厚くなる。図19に示された変形例においても、第二絶縁体17の厚みが第一領域12aに対応する部分の厚みが第二領域12bに対応する部分の厚みよりも厚くされている積層インダクタ1を得ることができる。図19に示された工程は、図10〜図15に示された工程に対応している。
【0049】
第二絶縁体17の数は、1体に限られることなく、2体以上でもよい。第二絶縁体17の数が2体以上である場合、少なくとも一つの第二絶縁体17において、第一領域12aに対応する部分の厚みが第二領域12bに対応する部分の厚みよりも厚ければよい。
【0050】
コイル12のターン数、すなわちコイル12の軸心方向に見て重なる導体11の数は、上述した値に限られない。
【符号の説明】
【0051】
1…積層インダクタ、3…積層体、3a,3b…側面、11…導体、12…コイル、12a…第一領域、12b…第二領域、13…絶縁体、15…第一絶縁体、17…第二絶縁体、17a…第一領域に対応する部分、17b…第二領域に対応する部分、A11〜A18…磁性体グリーン層、B11,B12…非磁性体グリーン層、C11〜C16…導体パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状のコイルを形成する導体と絶縁体とが積層されてなる積層体を備えた積層インダクタであって、
前記導体は、前記コイルが前記絶縁体の積層方向を軸心方向として形成されるように相互に接続され、
前記コイルは、一端が前記積層体の一の側面に引き出され且つ他端が前記積層体の前記一の側面に対向する側面に引き出されると共に、前記軸心方向に見て、N体(Nは2以上の自然数)の前記導体が重なっている第一領域と、N−1体の前記導体が重なっている第二領域と、を含み、
前記積層体は、前記絶縁体として、磁性体からなる複数の第一絶縁体と、前記複数の第一絶縁体に挟まれるように配置されると共に非磁性体からなる少なくとも1つの第二絶縁体とが積層されてなり、
前記少なくとも1つの第二絶縁体は、前記コイルを横断するように前記積層体における前記軸心方向に交わる面の全面にわたって設けられ、前記コイルの前記第一領域に対応する部分の厚みが前記コイルの前記第二領域に対応する部分の厚みよりも厚いことを特徴とする積層インダクタ。
【請求項2】
絶縁体層と導体パターンとを交互に印刷して積層して、前記導体パターンの端部を接続しながら積層体内に螺旋状のコイルパターンを形成し、前記積層体を焼成する積層インダクタの製造方法であって、
前記絶縁体層として磁性体層を印刷する工程と、前記絶縁体層として非磁性体層を印刷する工程と、を備え、
前記非磁性体層を印刷する工程では、前記非磁性体層を、前記積層体の積層方向でN体(Nは2以上の自然数)の前記導体パターンが重なる領域側と前記積層体の積層方向でN−1体の前記導体パターンが重なる領域側とに、前記積層体の積層途中において前記コイルパターンを横断し且つ前記積層体における前記コイルパターンの軸心方向に交わる面の全面にわたるように印刷しており、
N体の前記導体パターンが重なる領域側に前記非磁性体層を印刷する回数を、N−1体の前記導体パターンが重なる領域側に前記非磁性体層を印刷する回数よりも多くしたことを特徴とする積層インダクタの製造方法。
【請求項3】
絶縁体層と導体パターンとを交互に印刷して積層して、前記導体パターンの端部を接続しながら積層体内に螺旋状のコイルパターンを形成し、前記積層体を焼成する積層インダクタの製造方法であって、
前記絶縁体層として磁性体層を印刷する工程と、前記絶縁体層として非磁性体層を印刷する工程と、を備え、
前記非磁性体層を印刷する工程では、前記非磁性体層を、前記積層体の積層方向でN体(Nは2以上の自然数)の前記導体パターンが重なる領域側と前記積層体の積層方向でN−1体の前記導体パターンが重なる領域側とに、前記積層体の積層途中において前記コイルパターンを横断し且つ前記積層体における前記コイルパターンの軸心方向に交わる面の全面にわたるように印刷しており、
N体の前記導体パターンが重なる領域側に前記非磁性体層を印刷する厚みを、N−1体の前記導体パターンが重なる領域側に前記非磁性体層を印刷する厚みよりも厚くしたことを特徴とする積層インダクタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−142357(P2012−142357A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292709(P2010−292709)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】