説明

積層シ−ト、積層シート被覆金属板、及びスクリーンボード

【課題】反射型スクリーンとしての特性と、ホワイトボードとしての特性とを兼備し、エンボス転写性に優れ、エンボス戻り及び経年的な光黄変を抑制でき、金属板ラミネート後の折曲げ加工でクラックや割れを抑制できる積層シート、及び積層シート被覆金属板並びにスクリーンボード等の提供。
【解決手段】エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂を主成分とし所定以上の厚さを有するA層10、ソルビトール誘導体に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を主成分とし所定以上の厚さを有するB層20、並びに所定のPBT系樹脂及び所定のPTT系樹脂の少なくとも1種を合計で所定量以上含有するC層30を有し、B層がA層とC層との間に配されている積層シート100Aとし、該積層シートをラミネートした積層シート被覆金属板300A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶プロジェクターやビデオプロジェクター等の映像投影機器用の反射スクリーンとしての機能と、ホワイトボード用マーカーによる筆記及び消去を繰り返し実施できるホワイトボードとしての機能とを併せ持つ、スクリーンボード用に好適な積層シート、及び積層シート被覆金属板、並びにスクリーンボード等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、会議においては、OHP等で作成した資料をスクリーンに投影する事で、出席者への情報資料の共有化を図ると同時に、議論の内容を壁面に貼付した大判の紙に書き込む等の作業を実施して行くのが一般的であった。近年、パソコンに接続し、パソコン画面を直接投影できるプロジェクターが普及したこと、及び、大容量で小型のメモリー等の価格が低廉化したことや、インターネット接続手段の多様化により出張先でのインターネット利用が容易になったこと等から、かつてとは比較にならない豊富な情報量をプロジェクターにより表示する事が可能となった。また、プロジェクターを用いた情報資料の共有化も、より充実したものとなってきている。加えて、会議での議論の内容もその場で逐次パソコンに入力できることにより、リアルタイムでの記録と同時に、プロジェクターへの表示による全員への情報共有化を図ることができる。このように、会議に於けるプロジェクターと、そこから投影された映像を表示する反射型スクリーンの重要度は高まっている。
その一方で、会議の内容や様式によっては、議論の内容を壁面に吊るした紙に逐次筆記により書き込む、或いは、ホワイトボードに同様に書き込む方が効率的な場合もあり、ホワイトボードも会議の場所に不可欠のものであることに変わりはない。
【0003】
そこで、反射型スクリーン及びホワイトボードの設置場所の省スペース化の要請から、一枚のスクリーンボードに両者の機能を兼備させることが提案されている。一般にホワイトボードのような筆記ボードは、水性ペンやアルコール溶剤ペン等のホワイトボード用マーカーによる筆記性と、ホワイトボード用イレーザーによる消去性とが良好である事が求められる。一方、反射型スクリーンには、表面で光を反射することが求められるとともに、投影された映像の視認性を良好にするために、防眩性を備えていることが要求される。特に、最近の光照度の大きいプロジェクター用の反射型スクリーンでは、プロジェクターからの光の当たる中心が光ることにより画像が見えにくくなる現象(いわゆる光り玉)が問題となっている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されたシートは、紙を基材として、その表面に白色顔料を添加した芳香族ポリエステル等のポリマーからなる層を設けることにより、筆記ボード用シート及び映写スクリーン用シートとしての特性を得ている。
【0005】
また、特許文献2や特許文献3に開示された積層フィルムは、表層に極薄いフッ素樹脂からなる層を有する構成となっており、ホワイトボードとしての消字性に問題が出ないように配慮されている。また、反射型スクリーンとして「光り玉」が発生しないように、それ自体ではエンボス転写が容易でないフッ素樹脂シートの下に、エンボス付与可能層を設けることで、極薄いフッ素樹脂シートの表面側からエンボス版を押圧することによっても、光り玉が発生しない程度の表面凹凸を付与し得る構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−287091号公報
【特許文献2】国際公開2006/121070号パンフレット
【特許文献3】特開2009−297973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたシートは、表面光沢度を特定範囲に限定しているため、いわゆる「光り玉」の問題は発生しにくいと考えられる。しかし、表層が無機顔料を含む芳香族ポリエステル系樹脂から形成されているため、ホワイトボードとしての消字性が不足するおそれがある。また、屋内での使用においても、窓から入射する太陽光等によって芳香族ポリエステル系樹脂は次第に黄変劣化するが、かかる劣化を防止する措置に関しては記載されていない。さらに、基材として紙を用いることを前提とし、基材の裏面に粘着剤層を付与する形態にも言及している等、施工と撤去の簡便性に重点を置いている。すなわち、オフィスや会議室の作り付けの壁面材として半恒久的に使用することが考慮されておらず、このような用途には不向きである。また、折り曲げ加工等の二次加工も困難である。
【0008】
特許文献2や特許文献3に開示された積層フィルムにおいては、エンボス付与可能層としてPETGなどの非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂が例示されている。これらの材料はガラス転移温度が90℃以下程度であるため、エンボス転写自体は比較的容易であるが、金属板にラミネートしてスクリーンボード用積層シート被覆金属板とする際にエンボス戻りを生ずるおそれがある。また、表層のフッ素樹脂は紫外線の吸収率が低いため、地上に到達する太陽光等に長期間曝されることにより、フッ素樹脂層の基材側に配設されているPETG等の非晶性芳香族ポリエステル系樹脂が経年的に黄変劣化する可能性があり、この点で改善の余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、(1)反射型スクリーンとしての特性と、ホワイトボードとしての特性とが共に良好であるとともに、(2)一般的なエンボス加工装置でのエンボス転写性に優れ、(3)金属板へラミネートする際のエンボス戻りを抑制可能であり、(4)経年的な光劣化に起因する黄変を抑制可能であり、且つ、(5)金属板にラミネートした後の折り曲げ加工においてクラックや割れの発生を抑制可能な、積層シートを提供する事を課題とする。また、該積層シートを有する積層シート被覆金属板を提供する。また、該積層シート被覆金属板を有するスクリーンボード等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明について説明する。
【0011】
本発明の第1の態様は、A層、B層、及びC層を有する積層シートであって、A層が、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂を50質量%以上含有し、厚さ15μm以下である層であり、B層が、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を50質量%以上含有し、厚さ20μm以上である層であり、C層が、融点が215℃以上235℃以下であるポリブチレンテレフタレート系樹脂、及び、融点が215℃以上235℃以下であるポリトリメチレンテレフタレート系樹脂から選ばれる少なくとも一種を含有し、ポリブチレンテレフタレート系樹脂とポリトリメチレンテレフタレート系樹脂との合計量が、C層を構成する樹脂成分全体の70質量%以上100質量%以下である層であり、B層がA層とC層との間に配設されていることを特徴とする、積層シートである。
【0012】
【化1】

【0013】
ここで、本発明において「シート」とは、その厚みに関して一般的に「フィルム」と呼称される範囲と「シート」と呼称される範囲との両方を包含する概念である。便宜上本発明においては両者を「シート」と単一呼称する。従って、例えば「厚み10μmのフッ素樹脂シート」等、一般的には「フィルム」と呼称される厚みのものも、「シート」と呼称する。また、「間に配設され」とは、A層とC層との間に、B層が存在していることを意味し、B層とA層及び/又はC層との間に、他の層が介在していてもよいことを意味する。ここで、「他の層」としては、接着剤層や、後述するD層を例示することができる。
【0014】
本発明の第1の態様において、B層が含有する上記ポリカーボネート樹脂の、示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度が、100℃以上155℃以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の第1の態様において、A層の表面にエンボスが付与されていることが好ましい。
【0016】
本発明の第1の態様において、B層及びC層から選ばれる少なくとも一方の層が、白色顔料を含むことが好ましい。
【0017】
本発明の第1の態様において、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物が、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール(以下において、「イソソルビド」と言うことがある。)である事が好ましい。
【0018】
本発明の第1の態様において、B層とC層との間に、D層が配設されており、D層が、非晶性又は低結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を、D層を構成する樹脂成分全体に対して60質量%以上含有し、且つ、白色顔料を含有する層である構成としてもよい。
【0019】
本発明において、樹脂が「非晶性」であるとは、当該樹脂の示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/分で昇温した際に結晶融解ピークが観測されないことをいう。また、樹脂が「低結晶性」であるとは、当該樹脂の示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/分で昇温した際に、結晶融解ピークが観測されるものの、当該結晶融解ピークに対応する結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下であることをいう。
【0020】
上記D層を有する形態の本発明の第1の態様において、D層が含有する前記芳香族ポリエステル系樹脂が、テレフタル酸成分とジオール成分とを共重合してなるポリエステル系樹脂であって、ジオール成分が、該ジオール成分全体を100モル%として、20モル%以上40モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノール、及び、60モル%以上80モル%以下のエチレングリコールを含むことが好ましい。
【0021】
本発明において、「テレフタル酸成分」とは、ジオール成分と共重合した際にテレフタル酸由来の構造単位と同一の構造単位を与える成分を意味し、テレフタル酸のほか、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル等のテレフタル酸ジエステル;テレフタル酸モノメチル、テレフタル酸モノエチル等のテレフタル酸モノエステル;無水フタル酸等をも包含する概念である。
【0022】
上記D層を有しない形態の本発明の第1の態様において、B層とC層とが、共押出し製膜法により積層一体化されていることが好ましい。
【0023】
上記D層を有する形態の本発明の第1の態様において、B層とD層とC層とが、共押出し製膜法により積層一体化されていることが好ましい。
【0024】
本発明の第1の態様において、A層側の表面について、JIS K7105に準拠して測定した60度鏡面光沢度が30%以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る積層シートが、C層側の表面を接着面として金属板にラミネートされていることを特徴とする、積層シート被覆金属板である。
【0026】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係る積層シート被覆金属板を有することを特徴とする、スクリーンボード、ホワイトボード、反射型スクリーン、又は建築物内装材である。
【0027】
本発明において、「スクリーンボード」とは、反射型スクリーン及びホワイトボードの両方として使用可能な情報媒体を意味する。また、「建築物内装材」とは、建築物内部の人間から視認可能な部位に使用される内装材料を意味する。「建築物内部の人間から視認可能な部位」には、建築物の壁面、天井面及び床面等が含まれる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の第1の態様によれば、所定の順序で積層された各層が所定の構成を有することにより、(1)反射型スクリーンとしての特性と、ホワイトボードとしての特性とが共に良好であるとともに、(2)一般的なエンボス加工装置でのエンボス転写性に優れ、(3)金属板へラミネートする際のエンボス戻りを抑制可能であり、(4)経年的な光劣化に起因する黄変を抑制可能であり、且つ、(5)金属板にラミネートした後の折り曲げ加工においてクラックや割れの発生を抑制可能な、積層シートを提供することができる。
【0029】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様に係る積層シートが、所定の向きで金属板にラミネートされていることにより、(1)反射型スクリーンとしての特性と、ホワイトボードとしての特性とが共に良好であるとともに、(2)経年的な光劣化に起因する黄変を抑制可能であり、且つ、(3)折り曲げ加工においてクラックや割れの発生を抑制可能であるためパネル加工等の二次加工が容易な、積層シート被覆金属板を提供することができる。
【0030】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様に係る積層シート被覆金属板を有することにより、(1)反射型スクリーンとしての特性と、ホワイトボードとしての特性とが共に良好であるとともに、(2)経年的な光劣化に起因する黄変を抑制可能であり、従って(3)オフィスや会議室等、窓が多く太陽光が入射する建築物内部に備え付けた場合だけでなく作り付けた場合においても長期にわたって使用可能な、スクリーンボード、ホワイトボード、反射型スクリーン、及び建築物内装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の積層シートのエンボス付与前の層構成を模式的に説明する断面図である。(c)及び(d)は、本発明の積層シートのエンボス付与後の層構成を模式的に説明する断面図である。また、(e)及び(f)は、本発明の積層シート被覆金属板の層構成を模式的に説明する断面図である。
【図2】軟質PVCのシートにエンボス意匠を付与するために一般的に用いられるエンボス加工装置を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。また、以下において、特に断らない限り、「A〜B」とはA以上B以下を意味する。
【0033】
なお、以下の説明において「Xを主成分とするY」とは、YにおいてXが占める質量比率が50質量%以上であることを意味し、100質量%を包含する概念である。
また、以下の説明において、「無配向」とは、積層シートに何らかの性能を付与するために意図して延伸操作等の配向処理を行ったものではないということを意味し、押出し製膜時にキャスティングロールによる引き取りで発生する配向等まで存在していないという意味ではない。
【0034】
図1(a)〜(d)は、本発明の積層シート及び積層シート被覆金属板の層構成を模式的に説明する断面図である。図1(a)に、A層(10)、B層(20)、及びC層(30)の3層を有する、エンボス付与前の積層シート(100A)を示す。図1(b)に、A層(10)、B層(20)、D層(40)、及びC層(30)の4層を有するエンボス付与前の積層シート(100B)を示す。図1(c)に、図1(a)の積層シート(100A)にエンボスを付与した積層シート(200A)を示す。図1(d)に、図1(b)の積層シート(100B)にエンボスを付与した積層シート(200B)を示す。また、図1(e)に、エンボスを付与した積層シート(200A)をラミネートした積層シート被覆金属板(300A)を示す。図1(f)に、エンボスを付与した積層シート(200B)をラミネートした積層シート被覆金属板(300B)を示す。
以下、各層についてそれぞれ説明する。
【0035】
<A層(10)>
A層(10)は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂を主成分とする層である。A層(10)におけるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂の含有量は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。またA層は、本発明の積層シート、及び本発明の積層シート被覆金属板の最表面に位置する層である。A層の表面は、プロジェクターから投影された映像が表示される反射スクリーン面であると同時に、ホワイトボード用マーカーにより文字等任意の内容を筆記され、また筆記内容をイレーザーで消去される面である。
【0036】
A層(10)は、ホワイトボードとしての消字性を良好にする観点からは、表面の凝集エネルギーが小さいことが好ましい。また、積層シートをラミネートした樹脂被覆金属板の折り曲げ加工性を良好にする観点からは、A層(10)を構成する樹脂成分が熱可塑性樹脂からなることが好ましい。本発明においては、表面の凝集エネルギーが小さい熱可塑性樹脂であるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂をA層の主成分とすることにより、ホワイトボードとしての印字性と消字性とのバランスを良好なものとすることが可能となる。
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂としては、公知の材料を特に制限なく用いることができる。A層を構成し得るエチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂としては、例えば、旭硝子社製の商品名「アフロンCOP」、ダイキン工業社製の商品名「ネオフロンETFE」、デュポン社製の商品名「Tefzel」等を挙げることができる。
【0037】
上記したように、A層(10)はエチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂を主成分とする。ただし、表面凝集エネルギーが低く、かつ折り曲げ加工性も良いという特徴、さらには後述するB層との層間接着性や、耐候性を損なわない範囲で、その他の樹脂や添加剤をA層が含有していてもよい。
【0038】
本発明におけるA層(10)の厚みは、15μm以下であることが重要であり、10μm以下であることが更に好ましく、6μm以下であることが特に好ましい。また、2μm以上であることが好ましく、4μm以上であることが特に好ましい。
A層を形成するエチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂は、融点が約270℃と非常に高温であるため、A層が厚すぎると一般的なエンボス加工機における加熱温度の上限である約200℃程度では、エンボス転写が困難となる。
そこで、本発明においては、A層を極薄い層としておくと同時に、A層の下層として、エンボス転写性に優れた層である、後述するB層(20)を配置した積層シートとすることにより、エンボス版によりA層側の表面から押圧した際に、B層の変形に追随してA層も変形するため、A層の表面に良好なエンボス転写を得ることが可能となる。
すなわち、A層の厚みが上記上限値以下であることにより、A層表面へのエンボス転写が良好となる。よって、スクリーンボードとして用いた際に「光り玉」の発生を抑制でき、好適である。
加えて、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂は、後述するB層の主成分である特定構造を有するポリカーボネート樹脂等と比較して軟質であることから、積層シートの耐傷入り性をスクリーンボ―ドとしての実使用上充分な程度に良好とする観点からも、A層の厚みは上記上限値以下である事が好ましい。
また、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂は価格が高価である点からも、A層の厚みは上記上限値以下であることが好ましい。
一方、A層の厚みは、押出し製膜する際にピンホール欠陥の発生を抑制する観点から、上記下限値以上であることが好ましい。
【0039】
本発明の積層シートにA層(10)を設ける方法としては、例えば、A層を単層のシートとして製膜し、後工程において後述するB層(20)と積層する方法や、本発明の積層シートを、A層を含めて共押出しによって製膜する方法等を特に制限なく用いることができる。ただし、共押出しにおけるA層と他の層とで成形温度が異なること、及び、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂を成形するための設備に耐蝕性が必要となること等の観点からは、A層を単層のシートとして製膜し、後の工程において後述するB層と積層する方法が好ましい。
【0040】
A層を単層のシートとして製膜する方法は、特に限定されるものではない。ただし、厚さが15μm以下と極薄いA層のハンドリングを容易にする観点からは、例えば、(1)延伸PETフィルム等をキャリアーシートとして、該キャリアーシート上にTダイよりA層を構成する樹脂組成物を押出し、流下させて、A層とキャリアーシートとが仮密着した状態で巻き取り、後工程でA層に仮密着しているキャリアーシートを剥離させる方法や、(2)A層を構成する樹脂組成物と接着性を有しない樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂等)との共押出し製膜とし、仮密着した状態で巻き取り、後工程でA層に仮密着している樹脂層を剥離させる方法等を好ましく用いることができる。
【0041】
A層(10)を後工程において後述するB層(20)と積層する方法としては、各種の公知の方法を特に制限なく用いることができる。ただし、A層とB層との層間接着性をより強固なものとする観点からは、接着剤を使用し、A層とB層との間に接着剤層(50)を設けて積層することが好ましい。
A層とB層との間に接着剤層を設ける場合には、後述するようなB層の良好なエンボス転写性を利用してA層表面のエンボス転写性を良好にする観点から、A層とB層との積層に用いる接着剤層はなるべく薄いことが好ましい。
接着剤を用いる好ましい積層方法としては、溶剤コート型の熱硬化型接着剤を使用し、A層のB層と積層する側の表面、及び/又は、B層のA層と積層する側の表面に、乾燥膜厚が1μm〜3μmとなるように接着剤をコーターで塗工し、加熱乾燥により溶剤分を揮散させた後、A層とB層とを重ね合わせて接着積層する、いわゆるドライラミネート法を例示できる。ドライラミネート法を用いる場合、A層のハンドリング性を維持する観点から、ドライラミネート法によるA層とB層との積層が完了するまでは、前述のA層と仮密着させてある剥離可能なキャリアーシートとは剥離させないことが好ましい。
【0042】
ドライラミネート法に用いる熱硬化型接着剤としては、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂との接着性を有するものを、特に制限なく用いることができる。例えば、ポリエステル系樹脂やポリエーテル系樹脂等を主剤としてイソシアネート系架橋剤で硬化させるタイプのものを好ましく用いることができる。ドライラミネート用接着剤の中でも、紫外線による黄変の問題が少ないという観点から、脂肪族系のものを用いることがより好ましい。脂肪族ポリエステル系接着剤主剤の一例としては、東洋モートン社製の商品名「TM−K51」を挙げる事ができ、有機溶媒中で該主剤と、各種イソシアネート系架橋剤を混合する事で、ドライラミネート用接着剤を得る事ができる。
【0043】
ただし、A層とB層との接着積層の方法としては、上記した方法に限定されず、溶剤型、或いは無溶剤型の紫外線硬化型の接着剤や電子線・放射線硬化型接着剤等を用いても良い。また、B層のA層と積層する側の表面に、フッ素系樹脂との接着性を有し、且つ、B層との共押出し製膜を実施するに当たり、特別な困難を生ずるおそれのないホットメルト接着性の樹脂層を共押出製膜法により付与する方法を用いても良い。これらの場合も、エンボス転写性を良好にする観点から、接着剤層の厚みは乾燥膜厚で1μm〜3μmとすることが好ましい。
【0044】
A層の表面には、前述したとおり「光り玉」の防止と、良好な消字性を確保する観点から、エンボスが付与されていることが好ましい。
A層表面にエンボスを付与する為の艶消し用エンボス版としては、化粧シートや化粧シート被覆金属板の表面を艶消し意匠に仕上げるために用いられているものを使用することができ、一般に「梨地仕上げ」等に用いられるエンボス版がこれに該当する。本発明においては、最表層に位置するA層自体は、エンボス加工装置での加熱程度では、エンボス付与可能な程には軟化しない層であるため、一般的な化粧シートにエンボス転写した場合に比べると、光沢値が多少上昇する可能性はあるが、エンボス版自体の凹凸のピッチや深さ、表面仕上げの形状等を適宜選択する事により、後述するような好ましい範囲の表面光沢値を得ることが可能となる。
【0045】
本発明の積層シート、或いは、該積層シートをラミネートした積層シート被覆金属板における、A層側表面について、JIS K7105に準拠して測定した60度鏡面光沢度が30%以下であることが好ましい。60度鏡面光沢度は、25%以下である事が更に好ましく、20%以下である事が特に好ましい。また、60度鏡面光沢度は、7%以上であることが好ましく、10%以上であることが更に好ましく、15%以上であることが特に好ましい。
60度鏡面光沢度が上記上限値以下であることによって、A層表面における拡散反射性が高くなり、積層シートや積層シート被覆金属板をスクリーンボードの用途に用いた際に「光り玉」の発生を抑制できる。一方、60度鏡面光沢度が上記下限値以上であることによって、ホワイトボードとして用いた場合の消字性が良好となる。従って、A層表面を上記範囲の60度鏡面光沢度を有する表面とすることにより、スクリーンボードとしての拡散反射性と、ホワイトボードとしての消字性とを、いずれも良好な水準で両立させることができる。
例えば、前述したような方法で表面に転写するエンボスの形状を調整することにより、60度鏡面光沢度を上記の範囲とすることができる。
【0046】
<B層(20)>
B層(20)は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を主成分とする層である。B層における、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂の含有量は、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
前述の通りB層は、A層表面に良好なエンボス転写を得るために必要な層であり、且つ、転写されたエンボスの耐熱性を良好にする層である。また、B層を構成する樹脂成分として、光黄変性の低い樹脂成分を用いることにより、本発明の積層シート、及び、積層シート被覆金属板に、経時的な光黄変を抑制できるという特徴を付与する層である。
【0047】
【化2】

【0048】
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、生物起源物質を原料として糖質から製造可能なエーテルジオールである。とりわけイソソルビド(1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)は澱粉から得られるD−グルコースを水添してから脱水することにより安価に製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能である。これらの事情によりイソソルビドが最も好適に用いられる。
【0049】
B層のポリカーボネート樹脂を構成する、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ共重合成分としては、例えば、国際公開2004/111106号パンフレットに記載の脂肪族ジヒドロキシ化合物や、国際公開2007/148604号パンフレットに記載の脂環式ジヒドロキシ化合物を挙げることができる。すなわち、一般式HO−C2m−OH(mは2〜12の整数)で表わされる脂肪族ジヒドロキシ化合物や、特に制限されない脂環式ジヒドロキシ化合物を挙げることができる。
【0050】
上記脂肪族ジヒドロキシ化合物の中でも、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、及び1,6−ヘキサンジオールから選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物を含むことが好ましい。
【0051】
上記脂環式ジヒドロキシ化合物の中でも5員環構造又6員環構造を含むことが好ましく、特に6員環構造は共有結合によって椅子型又は舟型に固定されていてもよい。このような脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことによって、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高めることが可能となる。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下、好ましくは50以下、更に好ましくは30以下である。
【0052】
上記5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、一般式HOCH−R−CHOH、又は、HO−R−OHで表わされる脂環式ジヒドロキシ化合物(ただし、R及びRは、炭素数4〜20のシクロアルキル基又は炭素数6〜20のシクロアルコキシ基)を例示できる。中でも、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールが好ましく、シクロヘキサンジメタノール又はトリシクロデカンジメタノールが経済性や耐熱性などから最も好ましい。これら脂環式ジヒドロキシ化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
なお、シクロヘキサンジメタノールの中でも、工業的に入手が容易である、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0053】
B層を構成するポリカーボネート樹脂の、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の存在量全体を100モル%として、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上であり、また好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下である。上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合を上記下限値以上とすることにより、カーボネート構造に起因する着色等を抑制することができ、ポリカーボネート樹脂の可視光透過性を良好にすることが容易になる。そのため、B層(20)を透明層とし、その下に着色層を有する構成とする場合には、B層(20)の透明性を良好なものとすることが可能となる。また、B層(20)に着色顔料を添加して着色層とする場合には、不純物由来の着色の影響を受けることなく容易に希望する着色を得ることが可能となる。また、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合を上記上限値以下とすることにより、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位のみでポリカーボネート樹脂を構成する場合と比較して、成形加工性、機械強度、耐熱性等の適切な物性バランスを取ることがより容易になる。
【0054】
B層を構成するポリカーボネート樹脂において、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、上記脂肪族ジヒドロキシ化合物又は上記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とからなることが好ましい。
ただし、本発明の効果が大きく損なわれない範囲で、上記以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が共重合やポリマーブレンド等により少量含まれていてもよい。これにより、耐熱性や成形加工性を効率よく改善できることが期待できる。その含有量は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の存在量全体を100モル%として、10モル%以下であることが好ましく、8モル%以下であることがより好ましく、6モル%以下であることがさらに好ましい。
【0055】
B層を構成するポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121に準じて示差走査熱量測定(DSC)により加熱速度10℃/分で測定され、好ましくは100℃以上155℃以下、更に好ましくは105℃以上150℃以下、特に好ましくは110℃以上140℃以下である。また、B層を構成するポリカーボネート樹脂は通常単一のガラス転移温度を有する。上記ポリカーボネート樹脂の重合組成比を適宜調整することで、ガラス転移温度を上記範囲内に調整することが可能である。
【0056】
上記ポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度の前後で弾性率が顕著に変化する。よって、ガラス転移温度を上記範囲内とすることにより、積層シートの加熱軟化によるエンボス意匠の付与、及び、引き続いての冷却によるエンボス柄の固定が容易になるので、エンボス転写性が良好となる。さらに、上記範囲内のガラス転移温度を有する事により、エンボス耐熱性も良好となり、積層シート被覆金属板を作製するための一般的な樹脂シートの金属板へのラミネート方法、すなわち、金属板表面にラミネート用接着剤を塗工・焼付けした後、加熱された状態を維持したまま、ロールラミネーター等を用いて積層シートをラミネートする方法を用いても、エンボス戻りを抑制できる。すなわち、金属板へのラミネート後もエンボス形状の変化を抑制可能な、積層シート、及び該積層シートを有する積層シート被覆金属板とすることができる。
【0057】
B層を構成するポリカーボネート樹脂は、一般に行われる重合方法で製造することができ、ホスゲン法、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法のいずれでもよい。中でも、重合触媒の存在下に、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物とその他のジヒドロキシ化合物とを、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法が好ましい。エステル交換法とは、ジヒドロキシ化合物、炭酸ジエステル、塩基性触媒、及び、該触媒を中和させる酸性物質を混合し、エステル交換反応を行う重合方法である。
【0058】
炭酸ジエステルとしては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等を例示できる。中でもジフェニルカーボネートを好適に用いることができる。
このようにして得られた、本発明に用いる上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができる。なお、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定した値とする。還元粘度の下限は、通常0.30dL/g以上であり、0.35dL/g以上が好ましい。還元粘度の上限は、通常1.20dL/g以下であり、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。ポリカーボネート樹脂の還元粘度が上記下限値以上であることにより、成形品に良好な機械的強度を付与することが容易になる。また、ポリカーボネート樹脂の還元粘度が上記上限値以下であることにより、成形する際の良好な流動性を確保することが容易になるので、成形性や生産性を高めることが容易になる。
【0059】
B層を構成するポリカーボネート樹脂は、主鎖においてビスフェノールA由来の構造が主要な割合を占める一般的な芳香族ポリカーボネート樹脂とは異なり、紫外〜近紫外波長領域、例えば波長280nm〜400nmにおいて光吸収が殆ど起こらないので、これら波長域の光を受ける事による黄変劣化への耐性に優れる。よって、B層自体の光黄変を防止する目的においては、紫外線吸収剤を配合させる必要は特にない。ただし、B層を、着色顔料を添加しない、可視光透過性を有する層として用いる場合には、積層シートにおいてA層側より透過して来た外光が、更にB層をも透過し、該B層より金属板側に配置される層であるC層及び/又はD層の経年的な黄変劣化を招く事態を抑制する観点から、B層(20)内に紫外線吸収剤を配合させることが好ましい。
【0060】
B層(20)に必要に応じて添加する紫外線吸収剤は、公知のもの、例えば各種市販のものを特に制限なく使用できる。中でも、公知の芳香族ポリカーボネート樹脂への添加に通常用いられるものを好適に用いることができる。例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等のベンゾオキサジン系紫外線吸収剤;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシル)オキシ−フェノール等のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、を挙げることができる。紫外線吸収剤の融点としては、特に120℃〜250℃の範囲にあるものが好ましい。融点が120℃以上の紫外線吸収剤を使用することにより、紫外線吸収剤が時間経過とともに成形品表面に凝集するブリードアウト現象により成形体表面が汚れたり、口金や金属ロールを用いて成形する場合には、ブリードアウトによりそれらが汚れたりすることを防止し、成形品表面の曇りを減少させ改善することが容易になる。
より具体的には、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2 '−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル) −5−クロロベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3'−(3",4",5",6"−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5'−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤や、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシル)オキシ−フェノール等のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を好ましく使用でき、これらの中でも、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル) −6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシル)オキシ−フェノールが特に好ましい。これらの紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
本発明の積層シートにおいては、B層(20)及び後述するC層(30)の少なくとも一方に、白色顔料を含むことが好ましい。但し、B層とC層との間に、後述するD層(40)を設ける場合は、D層に白色顔料を含有させることにより、B層及びC層のいずれにも白色顔料を含まない構成としてもよい。
白色顔料としては、各種の公知の顔料を使用できる。ただし、特に隠蔽性の観点からは、酸化チタン顔料を主成分とするものであることが好ましい。白色顔料に占める酸化チタン顔料の含有量は、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
B層(20)に白色顔料を含む場合は、さらに色味の調整を無機系及び/又は有機系の各種有彩色顔料を添加して行うことができる。
B層(20)に白色顔料を含む場合の白色顔料の含有量としては、B層を構成する全樹脂100質量部に対して、20質量部〜60質量部の範囲で含有することが好ましい。より好ましくは25質量部〜55質量部、更に好ましくは30質量部〜50質量部である。白色顔料の含有量を上記範囲内とすることによって、本発明の積層シートの成形性を損なうことなく、本発明の積層シート被覆金属板を、ホワイトボードやスクリーンボードとして用いる際に好適な、白色の隠蔽性を有するものとすることが容易になる。
【0062】
B層(20)には紫外線吸収剤以外の添加成分として、一般的に熱可塑性樹脂へ添加されることのある各種添加剤を必要に応じて適宜な量添加しても良い。また、B層(20)は、上記したポリカーボネート樹脂を主成分とする層であれば、単層で構成されていてもよく、また例えば前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の含有量が異なる複数のポリカーボネート樹脂よりなる層を各々1層以上積層してなる多層構成であってもよい。
【0063】
B層(20)の厚みは、20μm以上であることが重要であり、積層シートのエンボス転写性をより良好にする観点からは、30μm以上であることがより好ましい。更に、B層のみを上記着色顔料の添加層とする場合には、積層シートにより良好な色味と隠蔽性を付与する観点から、B層の厚みを40μm以上とすることが特に好ましい。
また、B層の厚みは、120μm以下であることが好ましく、105μm以下とすることが特に好ましい。B層の厚みを上記上限値以下とすることにより、積層シート被覆金属板の折り曲げ加工等の二次加工性を良好にしながら薄肉化を図ることが可能となる。
【0064】
<C層(30)>
C層(30)は、融点が215℃以上235℃以下であるポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂、及び、融点が215℃以上235℃以下であるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系樹脂の少なくとも一方を含有し、上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂と上記ポリトリメチレンテレフタレート系樹脂との合計量が、層を構成する樹脂成分全体の70質量%以上100質量%以下である層である。
【0065】
C層は、積層シートをエンボス加工装置に通した際に、従来の軟質PVCと同様の温度まで加熱された場合においても、幅縮み、皺入り、溶融破断等が起こらないようにする役割を有する。したがって、エンボス加工装置でエンボス柄を転写する場合にシートが支持体なしでヒーターによって加熱される温度である160℃〜190℃程度までの加熱温度で弾性率が著しく低下しないことが好ましい。一方で、金属板にラミネートする際には従来の軟質PVCシートの場合と同程度の金属板の加熱温度で強固な密着力を得られることが望ましく、その点から、235℃程度に加熱された状態で高い弾性率を維持してはいないことが好ましく、したがって235℃を超える融点を有する結晶性ポリエステル系樹脂でないことが好ましい。
【0066】
融点の下限を215℃としているのは、従来の軟質PVCシートにエンボス加工装置でエンボス意匠を転写する場合にシートが支持体なしでヒーターによって加熱される温度が160℃〜190℃程度であるのに対し、C層(30)の樹脂成分として融点215℃未満のPBT系樹脂及び/又はPTT系樹脂を用いた場合は、160〜190℃という加熱温度で十分な張力を得ることが困難となり、加熱された積層シートの、幅縮み、皺入り、溶融破断を抑制する事が困難となるおそれがあるためである。また、融点の上限を235℃としているのは、融点がこれより高いPBT系樹脂及び/又はPTT系樹脂をC層(30)の主成分として用いた場合は、従来の軟質PVCよりなるシートを金属板にラミネートする場合と同様の温度条件では金属板との強固な密着力を得ることが困難になるためである。
【0067】
また、C層(30)の主成分をPBT系樹脂、及び/又は、PTT樹脂とする理由は、これら樹脂が上記好ましい融点範囲にあるためのみならず、結晶化速度が比較的速いことから、製膜工程とエンボス付与工程との間に特別な養生工程等を必要とせずに、製膜工程で高い結晶性を有するC層を得ることが容易になるためである。すなわち、エンボス付与工程での積層シートの、幅縮み、皺入り、及び溶融破断の防止性、並びに加熱金属への非粘着性を得ることが容易になるためである。
【0068】
ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂においても、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸の一部をイソフタル酸で置換することなどにより、上記範囲内の融点を有するものを得ることは可能である。しかしながらこの場合、結晶化速度が遅く、通常の押出し製膜ラインでは充分に結晶化したC層(30)を得ることが困難であり、養生工程等を必要とするため、C層に用いるには好ましくない。
【0069】
PBT系樹脂、及び/又は、PTT系樹脂を用いる他の理由としては、例えば結晶化した状態でもPET系樹脂に比べて良好な加工性を得られることが挙げられる。また、特にPBT系樹脂に関しては、近年、押出し製膜グレードなどの用途展開が活発になり、各種溶融粘度や融点を有するPBT樹脂原料を入手しやすくなったことも挙げられる。
【0070】
C層(30)の樹脂成分における上記のPBT系樹脂及び/又はPTT系樹脂の含有割合は、C層(30)における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、上記のPBT系樹脂、及び/又は、PTT系樹脂の割合(PBT系樹脂とPTT系樹脂を併用する場合はその合計の割合)が、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。含有割合が70質量%未満である場合は、C層が結晶化した状態でシートを得ても、好ましい溶融張力を得ることが困難になるおそれがある。
【0071】
また、PBT系樹脂、及び/又は、PTT系樹脂の含有割合は、C層(30)における樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、100質量%以下であることが重要であり、95質量%以下であることが更に好ましく、90質量%以下であることが特に好ましい。
ここで、含有割合が95質量%を超えても実用上特に支障はない。ただし、95質量%以下とすることにより、積層シートを金属板にラミネートする際の接着面側であるC層(30)の結晶性がより低くなるため、一般的な加熱条件における金属板との密着強度をより向上させることが可能となる。また、C層をB層(20)との2層共押出し製膜法、あるいはB層と後述するD層(40)とC層との3層共押出し製膜法を採用する場合でも、製膜後の積層シートに反りが生じる事態を抑制でき、二次加工性に優れた積層シートを製造することが容易になる。
【0072】
融点が215℃以上235℃以下の範囲にあるPBT系樹脂としては、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分が1,4−ブタンジオールの各単一成分を縮重合して得られた(意図せざる共重合成分は含まれていてもよい)ホモポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることができる。市販されている、このような組成のPBT樹脂としては、例えば三菱エンジニアリングブラスチックス社製の商品名「ノバデュラン 5020H」等を挙げることができる。
【0073】
また、融点が215℃以上235℃以下の範囲にあるPTT系樹脂としては、ホモポリトリメチレンテレフタレート樹脂を用いることができ、市販されているこのような組成のPTT樹脂としては、例えば旭化成ケミカルズ社製の商品名「バイオマックス PTT1002」等を挙げることができる。
【0074】
C層(30)に含有される上記PBT系樹脂及びPTT系樹脂以外の樹脂成分としては、非晶性若しくは低結晶性である芳香族ポリエステル系樹脂が好ましく用いられ、これらとしては、後述するD層(40)の主成分とするものと同一のものを用いることができる。これらの樹脂はホモPET樹脂のような結晶性の高い芳香族ポリエステル系樹脂ではないので、PBT系樹脂の結晶相より加工性に劣る樹脂の結晶相がC層(30)の加工性に悪影響を及ぼすおそれがない。よって、非晶性若しくは低結晶性である芳香族ポリエステル系樹脂を用いることにより、積層シート、及び該積層シートで被覆した金属板の加工性が低下する事態を抑制できる。
但し、本発明の効果を大きく損なわない程度において、非晶性若しくは低結晶性である芳香族ポリエステル系樹脂以外のその他の樹脂を含有することを妨げるものではない。
【0075】
C層(30)の厚みは、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。厚みが上記下限値以上であることによって、エンボス加工の際にC層が積層シートに張力を付与する機能を良好に発揮することが可能となる。C層(30)のみを上記着色顔料の添加層とする場合には、顔料による遮蔽の効果を良好に発揮する観点から、C層の厚みが40μm以上であることが特に好ましい。また、C層の厚みは、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。C層の厚みが上記上限値以下であることにより、本発明の積層シートの総厚みが厚くなりすぎることなく、積層シート被覆金属板の二次加工性を維持することが可能となる。
【0076】
本発明の積層シートにおいては、前述の通り、B層(20)及びC層(30)の少なくとも一方に、白色顔料を含むことが好ましい。B層とC層との間に、後述するD層(40)を設ける場合は、B層及びC層のいずれにも白色顔料を含まない構成を取ることができる一方で、例えばD層の着色のみでは下地の視覚的隠蔽効果が不足する場合などに、C層にもさらに顔料を含む構成を採ることもできる。
白色顔料としては、各種の公知の顔料を特に制限なく使用できるが、特に隠蔽性を良好にする観点から、酸化チタン顔料を主成分とするものであることが好ましい。白色顔料中の酸化チタン顔料の含有量は、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
C層(30)に白色顔料を含む場合は、さらに色味の調整を無機系及び/又は有機系の各種有彩色顔料を添加して行うことができる。
C層(30)に白色顔料を含む場合の含有量としては、C層を構成する全樹脂量100質量部に対して、20質量部〜60質量部の範囲で含有することが好ましい。より好ましくは25質量部〜55質量部、更に好ましくは30質量部〜50質量部である。かかる含有量の範囲で白色顔料を含むことによって、本発明の積層シートの成形性を損なうことなく、本発明の積層シート被覆金属板を、ホワイトボードやスクリーンボードとして用いる際に好適な、白色の隠蔽性を有するものとすることが可能となる。
【0077】
また、C層(30)が配設される目的の一つである、加熱金属との非粘着性をより強固にするため、適宜な量の滑剤を含有してもよい。滑剤としては、ポリエステル樹脂へ添加されることのある公知の滑剤を特に制限なく用いることができる。一例としては、モンタン酸系の滑剤である商品名「LICOWAX OP」(クラリアント・ジャパン社製)を挙げることができる。滑剤の含有量は、C層(30)の全樹脂量を基準(100質量%)として、0.2質量%〜3質量%とすることができる。
【0078】
また、エンボス加工の際における積層シートの張力をより強力なものとするため、C層(30)には、線状超高分子量アクリル系樹脂(例えば、三菱レイヨン社製の商品名「メタブレン P−531」等を挙げることができる。)や、フィブリル状に展開する易分散処理を施したポリテトラフルオロエチレン等の加工助剤(例えば、三菱レイヨン社製の商品名「メタブレン A−3000」等を挙げることができる。)を含有してもよい。これらの含有量も上記同様に0.2質量%〜3質量%とすることができる。
【0079】
さらに、エンボス加工の際における非粘着性や耐溶融破断性を得るために必要な結晶性を、押出し製膜ラインでの製膜の際にC層(30)に充分に付与するために、公知の各種の結晶核剤を添加して結晶化速度の向上を図ってもよい。また、一般的に熱可塑性樹脂へ添加することが知られている各種添加剤を必要に応じて適宜な量添加しても良い。
【0080】
<D層(40)>
本発明の積層シートは、A層(10)、B層(20)、及びC層(30)を有するシートであるが、さらにB層とC層との間に、非晶性又は低結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を、層を構成する樹脂成分全体の60質量%以上含み、且つ、白色顔料を含むD層(40)を有することができる。
D層の厚みは、本発明の積層シートにより良好な色味と隠蔽性を付与する観点から、40μm以上であることが好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。また、D層の厚みは、120μm以下であることが好ましく、105μm以下であることが特に好ましい。D層の厚みを上記上限値以下とすることにより、積層シート被覆金属板の折り曲げ加工等の二次加工性を良好にしながら薄肉化を図ることが可能となる。
【0081】
D層(40)に求められる機能は、着色顔料による積層シートの着色を容易に実施できるようにすること、及び、積層シートに着色顔料による良好な隠蔽性を付与することである。加えて、D層を有する構成においては、後述するように、B層(20)、D層(40)、及びC層(30)の3層を共押出し製膜法により積層一体化して、積層シートをより効率的に製造することが望まれる。
【0082】
(非晶性又は低結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂)
上記D層に求められる機能の観点から、D層(40)には、非晶性又は低結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を、D層の樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、60質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、75質量%以上含むことが更に好ましい。
【0083】
上記非晶性又は低結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂としては、前述の通り、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/分で昇温した際に結晶融解ピークが観測されないか、又は、結晶融解ピークが観測されるものの、当該結晶融解ピークに対応する結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下である芳香族ポリエステル系樹脂を使用することができる。
【0084】
非晶性又は低結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂としては、上記の結晶融解ピークや結晶融解熱量の条件を満たすものであれば、特に限定されるものではなく適宜選択することが可能である。ただし、原料入手の容易性の観点からは、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分が、該ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、20モル%以上40モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノール(1,4−CHDM)と、60モル%以上80モル%以下のエチレングリコールとを含む、共重合ポリエステル樹脂であることが好ましい。
ジオール成分が上記組成を有することにより、エンボス加工装置での加熱時における結晶化の進行を抑制可能になるので、本発明の積層シートにエンボス付与を特に好適に行なうことが可能となる。
【0085】
このとき、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、1,4−CHDMとエチレングリコールとの合計量が、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることが更に好ましく、94モル%以上であることが特に好ましい。
【0086】
上記組成範囲にある共重合ポリエステル樹脂の中でも、1,4−CHDMがジオール成分の30モル%付近の組成では、DSC(示差走査熱量測定)においても結晶化挙動が認められない、完全な非晶性を示す事が知られている。このような完全に非晶性のポリエステル系樹脂としては、PETG樹脂を例示することができる。PETG樹脂としては、例えば、イーストマンケミカル社製の商品名「イースターPETG 6763」等を挙げることができる。PETG樹脂は、多くの用途に用いられていることから原料の安定供給体制が確立されており、また、低コスト化が図られているため、D層(40)の主成分として好ましく用いることができる。
【0087】
ただし、D層(40)に使用可能な、非晶性又は低結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂としては、これに限定されるものではない。例えば、特定の条件では結晶性を示すが通常の押出し製膜条件やエンボス付与条件では非晶性樹脂として取り扱うことが可能な、イーストマンケミカル社の商品名「PCTG 5445」(ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分の約60モル%が1,4−CHDMで、約40モル%がエチレングリコールである共重合ポリエステル樹脂)等を用いることもできる。このほか、ネオペンチルグリコール共重合PET系樹脂で結晶性を示さないもの(例として、東洋紡社製の商品名「コスモスター SI−173」等)や、結晶性の低いもの、イソフタル酸を共重合したPET系樹脂やPBT系樹脂で結晶性の低いもの等、各種共重合成分の導入により結晶化を阻害した構造を有する共重合ポリエステル樹脂も、D層の主成分として用いることができる。しかし、D層を配置する目的である、着色の容易化と言う点からは、上記PETG樹脂をベースレジンとした顔料マスターバッチが、最も豊富に入手可能であるため、PETG樹脂を用いることが最も好ましい。
【0088】
D層(40)に含有する白色顔料としては、各種の公知の顔料を使用できるが、特に隠蔽性を良好にする観点から、酸化チタン顔料を主成分とするものであることが好ましい。D層に含有する白色顔料における酸化チタン顔料の含有量は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
D層(40)に白色顔料を含む場合は、さらに色味の調整を無機系及び/又は有機系の各種有彩色顔料を添加して行うことができる。
D層(40)に白色顔料を含む場合の含有量としては、D層を構成する全樹脂量100質量部に対して、20質量部〜60質量部の範囲で含有することが好ましい。より好ましくは25質量部〜55質量部、更に好ましくは30質量部〜50質量部である。かかる含有量の範囲で白色顔料を含むことによって、本発明の積層シートの成形性を損なうことなく、本発明の積層シート被覆金属板を、ホワイトボードやスクリーンボードとして用いる際に好適な水準の、白色の隠蔽性を有するものとすることが可能となる。
【0089】
<積層シートの製造方法>
本発明の積層シートの製造方法としては、各種公知の方法、例えばTダイを備えた押出機によるキャスト製膜法やインフレーション法等を採用することができる。
【0090】
本発明の積層シートを製造するには、押出し製膜時の温度設定範囲が類似している「B層(20)+C層(30)」の2層、或いは、「B層(20)+D層(40)+C層(30)」の3層を2台、或いは3台の押出機とマルチマニホールドダイを用いた共押出し製膜法で積層一体化する手法が最も効率的であり好ましい。しかる後に上述のA層の項で説明した方法により採取した、キャリアーシートと仮密着した状態で得られたA層をドライラミネート法によりB層側表面に接着積層する手法が、設備上の制約を受け難く、生産効率の観点からも好ましい。
【0091】
本発明においては、B層(20)とC層(30)間、或いは、B層(20)とD層(40)間及び、D層(40)とC層(30)間は、相互に熱融着性を有する組成で構成されていることから、各層を単独で製膜した後に、後工程で積層一体化して積層シートとすることも可能である。しかし、C層(30)は結晶化が進んだ状態で製膜されることから、エンボス加工装置中での160℃〜190℃の加熱において、B層(20)との間、或いは、D層(40)との間に良好な層間密着力を得ることが容易でないおそれがある。その点からも、少なくともB層(20)とC層(30)間、或いは、D層(40)とC層(30)間は、共押出し製膜法によりダイ内積層とすることが好ましい。
【0092】
本発明の積層シート(100A、100B)の全体での厚みは、通常55μm以上300μm以下の範囲であることが好ましく、80μm以上200μm以下の範囲であることが更に好ましい。積層シートの厚みが上記下限値以上であることにより、下地の視覚的隠蔽性が確保され、着色層に多量の顔料を添加する必要がないため、顔料の添加に起因する加工性の低下を抑制可能である。一方、積層シートの厚みが上記上限値以下であることにより、折り曲げ加工を施した部分の樹脂層に割れが発生する等の不具合が生じ難いため二次加工性が良好である。よって、軟質PVC樹脂被覆金属板の折り曲げ加工などの成形加工に従来から用いてきた成形金型をそのまま使用可能である。
【0093】
<エンボス凹凸の付与>
上記の方法により製造した積層シートは、A層(10)側表面にエンボス版により凹凸形状を付与することによって、スクリーンボード用に好適な積層シートとすることができる。本発明の積層シートは、軟質PVC樹脂シートにエンボス模様を付与するために一般的に用いられている各種エンボス加工装置によって、従来の軟質PVC樹脂シートと同様にA層側表面にエンボスを付与することができる。
【0094】
図2に、軟質PVCシートにエンボス模様を付与するために一般的に用いられているエンボス加工装置(400)の一例を示す。図示したエンボス加工装置(400)は、加熱ロール(410)、テイクオフロール(420)、赤外線ヒーター(430)、エンボスロール(440)、ニップロール(450)、及び冷却ロール(460)により構成される。このエンボス加工装置(400)においては、エンボス版として、ロール状のエンボスロール(450)を使用している。ただし、エンボス版は、エンボス意匠が形成された版であればその形状は特に限定されず、板状であっても、ロール状であっても、或いはベルト状であってもよい。なお、通常は表面にエンボス彫刻が施された金属ロールを使用する。
【0095】
本発明の積層シートは、C層(30)を有していることにより100℃〜140℃程度に加熱された加熱ロール(410)に対して非粘着性を有する。また、赤外線ヒーター(430)によるシート加熱温度である160℃〜190℃でも、積層シートの幅縮み、皺入り、破断等が抑制されている。また、B層(20)を有していることにより、良好な艶消しエンボスが付与されたスクリーンボード用積層シートを得ることができる。特に、エンボスロール(450)の温度をB層(20)の樹脂組成のガラス転移温度をやや下回る温度に適宜調整することが好ましい。かかる温度調整により、積層シートがエンボスロール(450)と接触した際、エンボスの付与とともに冷却によるエンボスの固定がなされることから、エンボス付与工程でのエンボス戻りを生じ難くし、良好な転写性を得ることが容易になる。
【0096】
<積層シート被覆金属板>
図1(e)及び図1 (f)に層構成を模式的に示したように、本発明の積層シート被覆金属板は、本発明の積層シートにおけるC層(30)側表面を接着面として、必要に応じて接着剤(60)を介して金属板(70)上にラミネートされた構成を有している。
【0097】
本発明の積層シート被覆金属板に用いる金属板(70)としては、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、アルミニウム・亜鉛合金メッキ鋼鈑、アルミニウム・マグネシウム・亜鉛合金メッキ鋼鈑、ステンレス鋼板等の各種鋼板やアルミニウム板、アルミニウム系合金板、チタン系合金板、マグネシウム系合金板等が使用でき、これらは通常の化成処理を施した後に使用してもよい。金属板(70)の厚さは、0.1mm〜10mmの範囲で選ぶことができる。これらの中でも、鋼板系の金属板を用いた場合は、本発明の積層シート被覆金属板に、反射型スクリーンとしての機能、及び、ホワイトボードとしての機能に併せて、マグネットボードとしての機能も併せ持たせる事ができる。
【0098】
本発明の積層シートを金属板(70)にラミネートする方法としては、特に制限はないが、従来の軟質PVC樹脂シートを金属板(70)にラミネートする際と同様の方法とすることが、既存設備を利用できる点から好ましい。
すなわち、接着剤(60)を用いたラミネートが好ましく用いられ、接着剤(60)として使用可能な接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等の一般的に使用される熱硬化型接着剤を挙げることができる。この中でも、積層シートのC層(30)が芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とすることから、ポリエステル系の接着剤を用いることが好ましい。
【0099】
本発明の積層シート被覆金属板を製造する方法としては、例えば、金属板(70)にリバースコーター、キスコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用して、積層シートを貼り合せる金属面に、乾燥後の接着剤膜厚が1μm以上10μm以下程度になるように熱硬化型接着剤を塗布した後、赤外線ヒーター及び/又は熱風加熱炉により塗布面の乾燥及び加熱を行って金属板(70)の表面温度を230℃以上250℃以下程度の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネーターを用いて積層シートのC層(30)側が接着面となるように被覆、冷却する方法を挙げることができる。
【0100】
本発明の積層シート被覆金属板によれば、(1)反射型スクリーンとしての特性と、ホワイトボードとしての特性とが共に良好であるとともに、(2)経年的な光劣化に起因する黄変を抑制可能であり、且つ、(3)折り曲げ加工においてクラックや割れの発生を抑制可能であるためパネル加工等の二次加工が容易な、積層シート被覆金属板とすることができる。
【0101】
また、本発明の積層シート被覆金属板を有するスクリーンボード、ホワイトボード、反射型スクリーン、及び建築物内装材によれば、(1)反射型スクリーンとしての特性と、ホワイトボードとしての特性とが共に良好であるとともに、(2)経年的な光劣化に起因する黄変を抑制可能であり従って(3)オフィスや会議室等、窓が多く太陽光が入射する建築物内部に備え付けた場合だけでなく作り付けた場合においても長期にわたって使用可能な、スクリーンボード、ホワイトボード、反射型スクリーン、及び建築物内装材とすることができる。
【実施例】
【0102】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために、以下に実施例を示す。なお、本発明は下記実施例によって何ら限定されるものではない。
【0103】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
<積層シートの製造>
A層を得るにあたっては、シリンダー直径φ65mmの1箇所にベント装置を有し、フッ素樹脂押出し用に防蝕処理が施された単軸押出機を使用した。A層のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂(旭硝子社製、「フルオンETFE」C−88AXP)を、315℃に設定したTダイより流下させ、押出しラミネートの要領で、巻き出し軸より巻き出した二軸延伸ポリエステルフィルム(帝人デュポンフィルム社製、「テトロンS」、厚み25μm)のコロナ処理面側にキャスティングロール(引き取りロール)上で接触、引き取りさせることで、薄膜フッ素樹脂層と二軸延伸ポリエステルフィルムとが仮密着した状態の積層シートとした。該積層シートをそのままの状態で巻き取り採取した。尚、接導管類やTダイもフッ素樹脂押出し用に防蝕処理が施されたものを用いている。A層の厚みの調整は、引き取り速度の調整で実施している。実施例1〜4、及び、比較例1〜4のA層の厚みを表1中に示した。
【0104】
一方、B層及び、C層は、シリンダー直径φ65mmの2箇所にベント装置を有する2台の同方向二軸混練押出機を夫々使用し、マルチマニホールドダイを用いた共押出し製膜法によって、Tダイより流出させた樹脂をキャスティングロール(引き取りロール)で引き取る方法により、B層及びC層の2層よりなる共押出し積層シートを得た。押出し機のシリンダー設定温度は、フィード側210℃、口金側240℃で、各押出し機について同様である。Tダイの設定温度は240℃を基準とし、厚み分布等製膜の状況に応じて適宜幅方向の温度設定の微調整を行った。各種接続導管類の設定温度は250℃とした。
B層の樹脂成分としては、ジヒドロキシ化合物としてイソソルビドと、脂環式ジヒドロキシ化合物である1,4−シクロヘキサンジメタノールとを用いて、溶融重合法により得たポリカーボネート樹脂(イソソルビド:1,4−シクロヘキサンジメタノール=70モル%:30モル%)のペレットを使用した。示差走査熱量測定で測定された該樹脂成分のガラス転移温度は約130℃であった。なお示差走査熱量測定はパーキンエルマー社製「Pyris1」を用いて行った。着色剤としては酸化チタン顔料を主成分とし、有機顔料の添加によりベージュ系に調色した顔料を用いた。上記ポリカーボネート系樹脂をベースレジンとして、ストランドダイを備えたシリンダー直径φ35mmの1箇所にベント装置を有する同方向二軸混練押出機により、濃度50質量%の顔料マスターバッチペレットを得た。該顔料マスターバッチペレットを、B層の樹脂組成分全体量100質量部に対して顔料成分量が30質量部となるように上記ポリカーボネート樹脂に混合してB層の組成物(組成物b−1)を得た。該組成物を上記Tダイより押出し製膜することによりB層を作製した。マスターバッチ作製時の混練押出機の設定温度は、フィード側210℃、口金側240℃で、ストランドダイの設定温度も240℃である。
実施例1〜4、及び比較例1、2、及び4で、全てB層は組成物b−1を用いており、厚みは全て60μmである。比較例3はB層を有さない構成であり、C層のみを単層で押出し製膜した後、A層とドライラミネート接着法により積層一体化している。
【0105】
C層の樹脂組成物は次のように得た。C層の樹脂成分の全量を基準(100質量%)として、224℃の融点を有する(ホモ)ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、「ノバデュラン 5020S」)が80質量%となり、非結晶性ポリエステル樹脂(イーストマン・ケミカル・カンパニー社製、「イースターPETG 6763」)が20質量%となるように、夫々の樹脂ペレットを混合して、C層の樹脂組成物(組成物c−1)を得た。該組成物を上記Tダイより押出し製膜することによりC層を作製した。尚、組成物c−1中には着色顔料は添加していない。
「イースターPETG 6763」は、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分の約30モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノール、約70モル%がエチレングリコールであり、他に数モル%のジエチレングリコールを含む。示差走査熱量測定で融点は観察されず、示差走査熱量測定で測定されたガラス転移温度は約78℃であった。実施例1〜4、及び比較例1〜3で、全てC層は組成物c−1を用いており、厚みは全て20μmである。比較例4はC層を有さない構成であり、B層のみを単層で押出し製膜した後、A層とドライラミネート接着法により積層一体化している。
【0106】
上記で得られた、A層と二軸延伸ポリエステルフィルムとの仮密着積層シート、及び、B層とC層との2層共押出し積層シートは、ドライラミネート接着法により接着積層して、A層、B層、及びC層を有する本発明のスクリーンボード用積層シートとした。
ドライラミネートは次のように行った。ポリエステル系接着剤の主剤(東洋モートン社製、「TM−K51」)の固形分100質量部に対して、イソシアネート系硬化剤(三井武田ケミカル社製、「タケネートA3」)を5質量部混合し、有機溶剤系の接着剤を得た。該接着剤を、B層とC層とからなる積層シートのB層側表面に、乾燥膜厚が約1μmとなるようにグラビアコーターにより塗工した。該接着剤を塗工した積層シートを、連続的に約80℃に設定された熱風乾燥炉に導入することで接着剤中の溶剤成分を揮散させた。引き続いて、一対の加圧ロール間で、上記接着剤を塗工した積層シートのB層側表面と、A層とA層に仮密着した二軸延伸ポリエステルフィルムとの2層より成るシートのA層側表面と、を重ね合わせ、押圧することにより積層一体化した。得られた積層シートを約40℃の養生室で24時間放置し、ドライラミネートを完了した。
尚、比較例2に関しては、A層を有しない構成となっているため、ドライラミネート法による接着積層は実施していない。
【0107】
<積層シートへのエンボス付与>
図2に示すような軟質塩化ビニル系シートへのエンボス付与に一般的に使用されているエンボス加工装置(400)を用いてエンボスによる凹凸の転写を行った。エンボス加工装置の工程概要としては、まず加熱ロール(410)を用いた接触型加熱によりシートの予備加熱を行う。続いて、赤外ヒーター(430)を用いた非接触型加熱により任意の温度までシートを加熱し、エンボスロール(450)によりA層側表面にエンボスによる凹凸を転写してエンボスシートとするものである。
【0108】
本実施例及び比較例のシートにエンボスによる凹凸を付与した工程を説明する。加熱ロール(410)は110℃に設定し、ついでエンボスロール(440)と接する直前のシート表面温度が180℃になるように赤外ヒーター(430)で加熱を行った。エンボスロール(440)は温水循環機により110℃に温調されている。なお、エンボスロールは、JIS B0601に規定のRmax(最大高さ)=19μm、RzJIS(10点平均粗さ)=16μmの梨地処理と呼ばれる艶消し外観を与える為の彫刻が施されたものを用いている。
【0109】
<積層シート被覆金属板の作製>
市販されているポリ塩化ビニル被覆金属板用のポリエステル系接着剤(東洋紡績社製、商品名「バイロン20SS」)を、積層シートを貼り合せる金属板(亜鉛メッキ鋼板、厚さ0.45mm)表面に塗布し、温度を80℃に設定したオーブン内を30秒で通過させて塗布面の乾燥を行い、乾燥後の接着剤膜の厚さを2〜4μm程度とした。次いで、温度を350℃に設定した熱風乾燥炉内を30秒で通過させて塗布面を加熱して、金属板の表面温度を235℃に昇温・保持した後、直ちに表面温度60℃に温度調節されたロールラミネーターを用い、ロール間の挟圧力50N/cmで積層シートのC層側表面が金属板の接着剤塗布面と対向する位置関係で積層シートを被覆し、その後常温まで冷却する事により、積層シート被覆金属板を得た。
【0110】
【表1】

【0111】
(実施例5〜9、比較例5〜7)
B層の樹脂組成物、及び厚みについて変更した場合の評価である。
A層の樹脂組成物・製法は、実施例1〜4及び、比較例1、3、4と同一であり、B層とのドライラミネート法による接着積層の条件も同一である。厚みは、実施例5〜9、比較例5〜7において全て4μmで同一である。また、C層の樹脂組成も実施例1〜4及び、比較例1〜3と同一であり、B層と共押出製膜により積層一体化する点についても同一である。C層の厚みは、実施例5〜9、比較例5〜7において全て20μmで同一である。
【0112】
実施例9に用いた組成物b−2は、ジヒドロキシ化合物としてイソソルビドと、脂環式ジヒドロキシ化合物である1,4−シクロヘキサンジメタノールとを用いて、共重合比率を50モル%:50モル%として溶融重合法で得たポリカーボネート樹脂のペレットを用い、樹脂組成物b−1と同一種類の着色顔料を上記同様の方法により、B層の樹脂組成分全体量100質量部に対して顔料成分量が30質量部となるように混合した組成物である。示差走査熱量測定で測定した該樹脂成分のガラス転移温度は約105℃であった。
比較例6に用いた組成物b−3は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、「ノバレックス7025A」)のペレットを樹脂成分として使用し、組成物b−1と同一の着色顔料を同量添加したものである。ただし、樹脂成分の最適溶融成型温度が比較的高温であり、顔料マスターバッチを作製する際の混練押出機の設定温度は、フィード側240℃、口金側280℃で、ストランドダイの設定温度も280℃としている。加えて、C層との共押出しによる積層シート作製の際も、組成物b−3を投入する側の押出し機は設定温度を上げ、接続導管やTダイの温度設定も280℃まで上げている。
比較例7に用いた組成物b−4は、非晶性ポリエステル樹脂(イーストマンケミカル社製、「PETG 6763」)を用いている。着色は実施例5〜9と類似色である市販のPETGをベースレジンとした顔料マスターバッチを購入し、これをB層の樹脂組成分全体量100質量部に対して顔料成分量が30質量部となるように混合した組成物である。押出し製膜の温度条件は実施例1〜4と同一である。該構成は、B層を備えずにD層を有する構成と考えることもできる。
これらへのエンボス加工装置によるエンボス凹凸の転写条件や、金属板へのラミネート条件等は全て同一である。実施例5〜9、及び比較例5〜7のB層の組成物、及びB層の厚みに関して、表2に示した。
【0113】
【表2】

【0114】
(実施例10、比較例8)
D層を含む構成に関する評価である。D層に用いた組成物d−1は、前述の比較例7でB層に用いた組成物b−4と同一である。実施例10、及び比較例8では、D層の組成と厚みは同一として、B層の厚みを変えている。また、D層を着色層として用いることに伴い、B層には組成物「b−5」を用いている。組成物b−5の樹脂成分は組成物b−1と同一であるが、組成物b−5は着色顔料を含まず、代わりにベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤(アデカ社製、「LA−31」)をb−5の樹脂成分全体100質量部に対して3質量部添加している。
B層、D層、C層の三層共押出し積層シートは次のように作製した。B層及びC層の樹脂組成物の押出し用として、シリンダー直径φ65mmの2箇所にベント装置を有する2台の同方向二軸混練押出機を夫々使用し、D層の樹脂組成物の押出し用として、シリンダー直径φ37mmの2箇所にベント装置を有する同方向二軸混練押出機を使用し、計3台の押出機によりマルチマニフォールドタイを用いた共押出し製膜法によって、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロール(引き取りロール)で引き取る方法により三層共押出し積層シートを得た。押出機のシリンダー設定温度は、フィード側210℃、口金側240℃で、各押出し機について同様である。Tダイの設定温度は240℃を基準とし、厚み分布等製膜の状況に応じて適宜幅方向の温度設定の微調整を行った。各種接続導管類の設定温度は250℃とした。
【0115】
実施例10、比較例8のA層は、実施例2と同一の組成物、厚みのものを用いており、A層の製膜方法、及び、積層シートのB層側表面へのドライラミネート接着の条件も実施例2と同一である。また、エンボス加工装置によるエンボス凹凸の転写条件や、金属板へのラミネート条件等も同一である。実施例10、及び比較例8の各層の厚みに関して、表3に示した。
【0116】
【表3】

【0117】
<積層シート、及び、積層シート被覆金属板の評価>
上記の実施例及び比較例で得た、積層シート及び積層シート被覆金属板について、以下の各項目を評価した。結果を表4、表5、及び表6にまとめて示した。
【0118】
(1)エンボス付与適性:エンボス転写性
図2に示すエンボス加工装置(400)でエンボス意匠を付与した積層シートのA層側表面を目視で観察し、綺麗にエンボス凹凸が転写されているものを「◎」、これに比べてやや転写が浅く不鮮明であるが実用上問題ない場合を「○」、転写が悪く、浅いエンボス意匠になっているもの、あるいは、エンボス意匠に無関係に単に表面が荒れているものを「×」で示した。また、エンボス加工装置で粘着や破断等のトラブルが発生し、エンボス転写が困難であったものも「×」として示したが、この場合は、それ以降の評価を実施していない。
【0119】
(2)エンボス耐熱性
金属板にラミネートする前の積層シートのA層側表面に付与されたエンボス凹凸を表面粗さ計(小坂研究所製「サーフコーダ」SE−40D)で測定しておき、該積層シートを金属板にラミネートした後に再度粗さ測定を実施し、ラミネートする前の最大高さをRy1(μm)、ラミネート後のそれをRy2(μm)としてエンボスの残存率を求めた(残存率:Ry2/Ry1×100(%))。
残存率が80%以上である場合を「◎」、残存率が80%未満であるが、視覚的には顕著な異常として認められない場合を「○」、残存率が80%未満であり、視覚的にもあきらかにエンボスの意匠感が低下している場合を「×」で示した。なお、前述の通り、エンボス加工装置で粘着や破断等のトラブルが発生したものに関しては、エンボス耐熱性の評価は実施していない。
【0120】
(3)表面光沢値(60度鏡面光沢度)の測定
スガ試験機社製の携帯光沢計(「ハンディーグロスメーター・CG1382」)により、JIS K7105に準拠して、積層シート被覆金属板のA層側表面の60度鏡面光沢度を測定した。n=5で測定し平均値を表4、5、6中に記載した。
【0121】
(4)「光り玉」の有無
液晶プロジェクター(「ELP−3500」、エプソン社製)で、約2mの距離から積層シート被覆金属板のA層側表面に画像、及び文字を投影し、「光り玉」の発生有無と、それに伴う画像や映像の視認性の低下の程度に関して目視評価した。「光り玉」が全く発生せず、投射像の視認性が極めて良好な場合を「◎」、僅かに「光り玉」が発生するものの、投射像の視認性は確保されているレベルのものを「○」、強い「光り玉」が発生し、それに起因して当該部分の投射像の視認が著しく困難な場合を「×」とした。
【0122】
(5)筆記性
コクヨ社製「PM−B102ND」ホワイトボード用マーカー黒色を用いて、積層シート被覆金属板のA層側表面に文字を書き込み、文字のはじきや滲みを目視観察し、はじき、滲みがなく筆記性が良好であると判断された場合を「○」、はじき、滲みにより筆記性が悪い場合を「×」とした。
【0123】
(6)消去性
上記筆記性評価で書き込んだ文字をコクヨ社製のホワイトボードイレーザーで消去し、消去状態を目視で観察した。マーカーイレーザーでの2回以内の拭き取りで文字が消去でき、黒い部分が残らない場合を「○」、2回以内の拭き取りでは黒い部分が残ってしまう場合を「×」とした。
【0124】
(7)鉛筆硬度
積層シート被覆金属板のA層側表面について、JIS K5600 5.4(1999)「引っかき硬度(鉛筆法)」に従い実施した。23℃の恒温室内で、80mm×60mmに切り出した樹脂被覆金属板の樹脂シート面に対し45°の角度を保ちつつ9.8Nの荷重を掛けた状態で線引きをできる治具を使用して線引きを行い、面状態を目視で判定し、5回の試行で5回とも傷が入らなかった鉛筆の硬度を表中に記載した。
【0125】
(8)折り曲げ加工性
積層シート被覆金属板に衝撃密着曲げ試験を行い、曲げ加工部のシートの面状態を目視で判定し、ほとんど変化がないものを「○」、若干クラックが発生したものを「△」、割れが発生したものを「×」として表示した。なお、衝撃密着曲げ試験は次のようにして行った。被覆金属板の長さ方向及び幅方向からそれぞれ50mm×150mmの試料を作製し、23℃で1時間以上保った後、折り曲げ試験機を用いて、積層シートが被覆された側が外側となるように180°(内曲げ半径2mm)に折り曲げ、その試料に直径75mm、質量5kgの円柱形の錘を50cmの高さから落下させた。
【0126】
(9)耐候性
積層シート被覆金属板を60mm×50mmに切り出して、サンシャインウェザーメーター・耐候性促進試験機(スガ試験機社製「S80」)を用いた試験に供した。条件は、ブラックパネル温度63℃で、照射102分、スプレー18分の120分を1サイクルとし、曝露500時間後の試料について、曝露前の試料を基準としてミノルタ社製の色彩色差計「CR−200」を用いて色差を測定した。色差が1.5以下のものを「◎」、1.5を超えるが3以下であるものを「○」、3を超えるものを「×」とした。
【0127】
<評価結果>
【0128】
【表4】

【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
<積層シート及び積層シート被覆金属板の評価結果のまとめ>
(実施例1〜4、比較例1〜4)
比較例1は、積層シート被覆金属板の最表面層となるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂からなる層が過剰に厚い場合である。比較例1では、エンボス加工装置での良好なエンボス転写が困難であり、その結果60度鏡面光沢度が高く、プロジェクターを照射した場合「光り玉」の発生により投射映像の視認性が悪化している。また、A層が厚いことにより鉛筆硬度も悪くなっている。比較例2はA層がない場合であり、本発明におけるB層の樹脂成分が持つ特徴として、エンボス転写性とエンボス耐熱性は良好であり、また鉛筆硬度も高い値を示しているが、ホワイトボードに用いるには消去性が不足している。
比較例3は、B層が存在しない場合であり、エンボス加工装置での粘着や破断等のトラブルは発生しなかったものの、エンボス転写自体ができていない。結果として60度鏡面光沢度は高く、反射型スクリーンとして用いた場合の視認性は悪い。比較例3の耐候性が悪いのは、光黄変性が抑制され、且つ、可視光線隠蔽性が充分に得られる程度の量の着色顔料が添加されたB層が存在しない為、A層を透過した紫外線がC層を黄変させること、及び、当該黄変がA層側表面から視認されることによる。比較例4はC層がない場合で、エンボス加工装置の加熱金属ロールへの粘着によりエンボス転写が困難であった。
【0132】
これらに対して、本発明の実施例1〜4では、エンボス転写性、エンボス耐熱性とも良好であり、「光り玉」が発生しないことから反射型スクリーンとしての適性を有している。また、筆記性や消字性も優れている点からホワイトボードとしての適正も有している。さらに、耐候性が良好であることから、交換が容易でない作り付けの壁面として施工した場合も経時的な光黄変のおそれがないことが判る。特に、A層の厚みが薄い実施例1及び2においては、鉛筆硬度及びエンボス転写性が実施例3及び4よりさらに優れている。A層の組成物は原料価格が高価であることも含めて、製膜や接着積層が困難にならない範囲で、可能な限り薄く用いることが好ましいことが判る。
【0133】
(実施例5〜9、比較例5〜7)
比較例5はB層の厚みが薄い場合で、D層が存在しない場合であり、エンボスの転写性が悪い結果となっている。そのため60℃光沢値が高く、「光り玉」の発生により反射型スクリーンとしての使用には不適であった。
比較例6は、B層の組成物として着色顔料を添加した芳香族ポリカーボネート系樹脂を用いたものであるが、製膜時点で既に、本発明の実施例に使用の組成物b−1を用いて製膜したシートより、やや黄色味が高いものとなっていた。原因としては顔料マスターバッチ作製時、及び、シート製膜時の温度が高いことが推測される。使用した顔料種自体は組成物b−1に用いたものと同一であるが、芳香族ポリカーボネート樹脂の製膜温度までの耐熱性はなかったものと思われる。エンボス転写性や耐熱性は良好であり、反射型スクリーンやホワイトボードとしての使用に問題はないものの、耐候性が悪い結果となっており、作り付けの壁面として用いるスクリーンボードの用途では、長期使用中に次第に黄変が進行するおそれがある。比較例7は、B層の組成物として着色顔料を添加したPETG樹脂を使用した場合であり、エンボス転写自体は良好であったが、エンボス耐熱性が不足しており金属板へのラミネート時にエンボス戻りを発生し、その結果として光沢値が上昇し、反射型スクリーンとしての特性を備えることができていない。また、製膜時の温度が比較例6より低いこともあり、B層に使用した組成物b−4は製膜時点では熱黄変を呈することはなかったが、耐候性評価の結果は悪く、芳香族ポリエステル系樹脂においても、長期使用では問題が出るおそれがある結果となっている。また、「光り玉」の発生により反射型スクリーンとして用いた場合の視認性が悪くなっている。
【0134】
一方、実施例5〜9においては、反射型スクリーンとしての適性、及び、ホワイトボードとしての適性に共に優れ、且つ、耐候性も良い結果が得られている。特に、B層の厚みが実施例5より厚くなっている実施例6〜8は、実施例5よりさらにエンボス転写性や「光り玉」の抑制の点で優れている。
実施例9は、B層の組成物として、ガラス転移温度が多少低い組成物b−2を用いた場合である。この場合も反射型スクリーンとしての適性、ホワイトボードとしての適性、及び、耐候性に問題は生じなかった。
【0135】
(実施例10、比較例8)
比較例8は、D層を有する構成であるが、B層の厚みが過度に薄い場合である。比較例8では、エンボス転写性に問題は生じなかったが、エンボス耐熱性が不足している。その結果、積層シート被覆金属板とした場合にエンボス戻りにより光沢値が上昇しており、反射型スクリーンとしての適性を有していない。
【0136】
実施例10においては、エンボス転写性が良好であり、B層の厚みを薄いものとしながら、反射型スクリーンとしての適性及びホワイトボードとしての適性について、共に良好な性能を付与できている。同時に、D層に市販の着色マスターバッチを用いて容易な着色ができるメリットが得られている。また、積層シート被覆金属板とすることができなかった比較例4を除いた全ての実施例、及び、比較例に関し、金属板として亜鉛メッキ鋼板を使用していることから、マグネットにより紙の資料をA層側表面に固定し、また取り除くことが容易に実施できることが確認できた。
【0137】
上記した実施例及び比較例の結果から、本発明によれば、(1)反射型スクリーンとしての特性と、ホワイトボードとしての特性とが共に良好であるとともに、(2)一般的なエンボス加工装置でのエンボス転写性に優れ、(3)金属板へラミネートする際のエンボス戻りを抑制可能であり、(4)経年的な光劣化に起因する黄変を抑制可能であり、且つ、(5)金属板にラミネートした後の折り曲げ加工においてクラックや割れの発生を抑制可能な、積層シートを提供できることが示された。また、(1)反射型スクリーンとしての特性と、ホワイトボードとしての特性とが共に良好であるとともに、(2)経年的な光劣化に起因する黄変を抑制可能であり、且つ、(3)折り曲げ加工においてクラックや割れの発生を抑制可能であるためパネル加工等の二次加工が容易な、積層シート被覆金属板を提供できることが示された。
【0138】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う積層シート、及び積層シート被覆金属板、並びにスクリーンボード及び建築内装材等もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0139】
10 A層
20 B層
30 C層
40 D層
50 ドライラミネート接着剤層
60 金属板ラミネート用接着剤層
70 金属板
100A、100B エンボス転写前の積層シート
200A、200B エンボス転写後の積層シート
300A、300B 積層シート被覆金属板
410 加熱ロール
420 テイクオフロール
430 赤外線ヒーター
440 エンボスロール
450 ニップロール
460 冷却ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A層、B層、及びC層を有する積層シートであって、
前記A層が、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂を50質量%以上含有し、厚さ15μm以下である層であり、
前記B層が、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を50質量%以上含有し、厚さ20μm以上である層であり、
前記C層が、融点が215℃以上235℃以下であるポリブチレンテレフタレート系樹脂、及び、融点が215℃以上235℃以下であるポリトリメチレンテレフタレート系樹脂から選ばれる少なくとも一種を含有し、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂と前記ポリトリメチレンテレフタレート系樹脂との合計量が、前記C層を構成する樹脂成分全体の70質量%以上100質量%以下である層であり、
前記B層が前記A層と前記C層との間に配設されていることを特徴とする、積層シート。
【化1】

【請求項2】
前記B層が含有する前記ポリカーボネート樹脂の、示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度が、100℃以上155℃以下である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記A層の表面にエンボスが付与されている、請求項1又は2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記B層及び前記C層から選ばれる少なくとも一方の層が、白色顔料を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項5】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物が、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトールである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項6】
前記B層と前記C層との間に、D層が配設されており、
前記D層が、非晶性又は低結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を、前記D層を構成する樹脂成分全体に対して60質量%以上含有し、且つ、白色顔料を含有する層である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項7】
前記D層が含有する前記芳香族ポリエステル系樹脂が、テレフタル酸成分とジオール成分とを共重合してなるポリエステル系樹脂であって、
前記ジオール成分が、該ジオール成分全体を100モル%として、20モル%以上40モル%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノール、及び、60モル%以上80モル%以下のエチレングリコールを含む、請求項6に記載の積層シート。
【請求項8】
前記B層と前記C層とが、共押出し製膜法により積層一体化されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項9】
前記B層と前記D層と前記C層とが、共押出し製膜法により積層一体化されている、請求項6又は7に記載の積層シート。
【請求項10】
前記A層側の表面について、JIS K7105に準拠して測定した60度鏡面光沢度が30%以下である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の積層シートが、前記C層側の表面を接着面として金属板にラミネートされていることを特徴とする、積層シート被覆金属板。
【請求項12】
請求項11に記載の積層シート被覆金属板を有することを特徴とする、スクリーンボード。
【請求項13】
請求項11に記載の積層シート被覆金属板を有することを特徴とする、ホワイトボード。
【請求項14】
請求項11に記載の積層シート被覆金属板を有することを特徴とする、反射型スクリーン。
【請求項15】
請求項11に記載の積層シート被覆金属板を有することを特徴とする、建築物内装材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−171158(P2012−171158A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34216(P2011−34216)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】