説明

積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト、及び、積層セラミックコンデンサの製造方法

【課題】セラミックグリーンシートとの接着性に優れ、かつ、シートアタック現象の起こりにくい積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト、及び、積層セラミックコンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】 ペースト用バインダー樹脂、有機溶剤及び金属粉末を含有する、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂からなるセラミックグリーンシート上に塗工して用いられる積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストであって、前記ペースト用バインダー樹脂は、変性ポリビニルアセタールを含有し、前記有機溶剤は、脂肪族炭化水素又はナフテン系炭化水素と、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオールアセテート、酢酸2−エチルヘキシル、ヘキサン酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種とを含有する積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートとの接着性に優れ、かつ、シートアタック現象の起こりにくい積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト、及び、積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型の電子部品、例えば、積層セラミックコンデンサは、一般に次のような工程を経て製造される。まず、ポリビニルブチラール樹脂やポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に可塑剤、分散剤等を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミル等により均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム又はSUSプレート等の支持体面に流延成形する。これを加熱等により、溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0003】
次に、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得、この積層体中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する工程を経て積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
このとき用いられる導電ペーストとしては、通常、電極を構成する銅、銀、パラジウムやニッケル等の導電性金属材料、エチルセルロース等のバインダー樹脂、及び、ターピネオール等の有機溶剤からなるものが使用されている。しかし、このような導電ペーストをセラミックグリーンシート上に塗工すると、導電ペースト中の有機溶剤が、セラミックグリーンシートに含まれるバインダー成分を溶解するシートアタック現象と呼ばれる現象が発生していた。加えて、近年では、積層セラミックコンデンサに更なる高容量化が求められており、よりいっそうの多層化、薄膜化が検討されているが、このような薄膜化が進んだ積層セラミックコンデンサにおいて、シートアタック現象に起因するセラミック層の穴や皺が発生した場合、所望の電気特性が得られないという問題があった。
【0005】
これに対して、例えば、特許文献1には、導電ペーストに使用する有機溶剤として、脂肪族炭化水素、脂肪族高級アルコール及び芳香族炭化水素からなる混合溶剤を用いることが記載されている。また、特許文献2には、ヘキサン酸エチル、酢酸2−エチルヘキシル等の特定の溶剤を使用した導電ペーストが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1において用いられる混合溶剤は、シートアタック現象を防止するために脂肪族炭化水素の含有量を75〜95重量%にすることが必須とされていることから、エチルセルロース以外のバインダー樹脂に対する溶解性が低下し、例えば、ポリビニルアセタール樹脂や、ポリビニルアセタール樹脂とエチルセルロースとの混合樹脂等のセラミックグリーンシートとの接着性に優れる樹脂をバインダー樹脂として使用できないという問題があった。
また、特許文献2の導電ペーストを用いた場合においても、乾燥工程における温度上昇により、セラミックグリーンシートのバインダー成分に対する溶解度が増すため、特に2μm以下のセラミックグリーンシートを用いる場合は、シートアタックを効果的に防止することができなかった。
【0007】
従って、バインダー樹脂として、セラミックグリーンシートとの接着性に優れるポリビニルアセタール樹脂を使用可能で、かつ、シートアタック現象の起こりにくい積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストが求められていた。
【特許文献1】特開平11−273987号公報
【特許文献2】特開2005−116504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、セラミックグリーンシートとの接着性に優れ、かつ、シートアタック現象の起こりにくい積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト、及び、積層セラミックコンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ペースト用バインダー樹脂、有機溶剤及び金属粉末を含有する、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂からなるセラミックグリーンシート上に塗工して用いられる積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストであって、前記ペースト用バインダー樹脂は、変性ポリビニルアセタールを含有し、前記有機溶剤は、脂肪族炭化水素又はナフテン系炭化水素と、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオールアセテート、酢酸2−エチルヘキシル、ヘキサン酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種とを含有する積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストである。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストにおいて、ペースト用バインダー樹脂として変性ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤として特定の炭化水素系溶剤と脂肪酸エステル系溶剤とを用いることで、ペースト用バインダー樹脂の溶解性が低下することがなく、セラミックグリーンシートとの接着性を向上させることができ、かつ、セラミックグリーンシート上に塗工したときにもシートアタック現象が起こりにくくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストでは、有機溶剤として、脂肪族炭化水素又はナフテン系炭化水素(以下、併せて炭化水素系溶剤ともいう)と、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオールアセテート、酢酸2−エチルヘキシル、ヘキサン酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種(以下、脂肪酸エステル系溶剤ともいう)とを含有するものを用いる。
【0012】
一般に、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂としては、セラミックグリーンシートを高強度とするため、高い水素結合性が得られるよう、後述するように水酸基量が28mol%以上のポリビニルアセタールが主に用いられる。
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストは、上述した特定の炭化水素系溶剤と脂肪酸エステル系溶剤とを併用することにより、乾燥工程における高温下においても、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂である高水酸基量のポリビニルアセタールをほとんど溶解しないのに対して、ペースト用バインダー樹脂である比較的水酸基量の低い変性ポリビニルアセタールについては優れた溶解性を有する。これにより、本発明では、ペースト用バインダー樹脂の溶解性を確保しつつ、シートアタック現象の発生を抑制できるものと考えられる。
【0013】
上記炭化水素系溶剤としては、例えば、n−へキサン、n−へプタン、イソパラフィン、ミネラルスピリッツ等が挙げられる。
上記炭化水素系溶剤としては、炭化水素系溶剤以外の有機溶剤と揮発性が大きく異ならないものが好ましく、その沸点の好ましい下限は100℃、好ましい上限は250℃である。100℃未満であると、揮発性が大きいことから、粘度が変化しやすく、取扱性が低下することがあり、250℃を超えると、乾燥しにくく、残留溶剤が多くなるために、焼成時にデラミネーションが発生してしまう。
【0014】
上記有機溶剤は、上記炭化水素系溶剤以外にジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオールアセテート、酢酸2−エチルヘキシル、ヘキサン酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種を含有する。このような脂肪酸エステル系溶剤を含有することにより、ペースト用バインダー樹脂として用いる変性ポリビニルアセタール樹脂の溶解性が向上し、得られる内部電極は、セラミックグリーンシートとの接着性に優れるものとすることができる。
【0015】
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストにおける上記炭化水素系溶剤及び脂肪酸エステル系溶剤の含有量の好ましい下限は30重量%、好ましい上限は80重量%である。30重量%未満であると、ペーストの粘度が高くなりすぎるため、扱いにくく、スクリーン印刷等によるパターン形成ができないことがある。80重量%を超えると、固形分濃度が低く、充分な導電性が得られないことがある。
【0016】
また、上記有機溶剤中の炭化水素系溶剤の割合の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は30重量%である。5重量%未満であると、シートアタック防止効果が認められず、30重量%を超えると、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶解性が低下することがある。より好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は20重量%である。
【0017】
上記有機溶剤には、ペースト用バインダー樹脂の溶解性を改善するために、ターピネオール、エチルアルコール、ブチルアルコール等を添加してもよい。このような溶剤の有機溶剤中における割合の好ましい下限は1重量%、好ましい上限は30重量%である。1重量%未満であると、ペースト用バインダー樹脂の溶解性が改善されず、30重量%を超えると、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂を溶解してしまう。より好ましい下限は5重量%、より好ましい上限は20重量%である。
【0018】
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストは、主にセラミックグリーンシート用バインダー樹脂からなるセラミックグリーンシート上に塗工して用いられるものであるが、上記セラミックグリーンシート用バインダー樹脂は、後述するように水酸基量が28mol%以上のポリビニルアセタールからなることが好ましく、上記有機溶剤は、上記セラミックグリーンシート用バインダー樹脂を溶解する温度が40℃以上であることが好ましい。上記有機溶剤の上記セラミックグリーンシート用バインダー樹脂に対する溶解温度が40℃以上であれば、乾燥工程における高温雰囲気下において、上記セラミックグリーンシート用バインダー樹脂を溶解する前に上記有機溶剤が揮発するため、セラミックグリーンシートへのダメージを抑制し、ショートや電気特性の悪化を防止することができる。より好ましい温度は45℃以上である。
【0019】
本発明において、上記ペースト用バインダー樹脂としては、変性ポリビニルアセタールを含有するものを用いる。これにより、本発明を用いて得られる内部電極は、セラミックグリーンシートとの接着性に優れるものとなる。
なお、上記ペースト用バインダー樹脂としては、変性ポリビニルアセタール以外に他の樹脂を併用して用いても良く、例えば、従来積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストに用いられるエチルセルロースの他、アクリル樹脂、ポリビニルアセタールも用いることができる。
【0020】
上記変性ポリビニルアセタールの重合度としては特に限定されないが、好ましい下限は300、好ましい上限は2400である。300未満であると、得られる積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストは、塗工時の塗膜強度が劣り、クラック等が入りやすくなることがあり、2400を超えると、積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストの粘度が高くなりすぎ、ハンドリング性が悪化する恐れがある。
【0021】
上記変性ポリビニルアセタールとしては、エチレン含有量が1〜20mol%、ケン化度が80mol%以上の変性ポリビニルアルコールをアセタール化してなるものを用いることが好ましい。
【0022】
上記変性ポリビニルアルコールのエチレン単位含有量の好ましい下限は1mol%、好ましい上限は20mol%である。1mol%未満であると、得られる積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストの金属粉末の分散性が低下することがあり、20mol%を超えると、上記変性ポリビニルアルコールの水溶性が低下するため、アセタール化反応が困難になったり、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤への溶解性が低下するため、積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト作製に支障が出たり、経時粘度安定性が悪化したりすることがある。
【0023】
上記変性ポリビニルアルコールのケン化度の好ましい下限は80mol%である。80mol%未満であると、変性ポリビニルアルコールの水溶性が低下するため、アセタール化反応が困難になることがある。また、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤への溶解性が低下するため、積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストの作製に支障が出たり、経時粘度安定性が悪化したりすることがある。
【0024】
上記変性ポリビニルアルコールをアセタール化する方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、塩酸等の酸触媒の存在下で上記変性ポリビニルアルコールの水溶液に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0025】
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストにおける上記変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量の好ましい下限は1重量%、好ましい上限は10重量%である。1重量%未満であると、セラミックグリーンシートとの接着性が不充分となることがあり、10重量%を超えると、粘度が高くなりすぎ、取扱性が悪くなることがある。
【0026】
上記金属粉末としては充分な導電性を示すものであれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅やこれらの合金等からなる粉末等が挙げられる。これらの金属粉末は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストにおける上記金属粉末の含有量の好ましい下限は30重量%、好ましい上限は80重量%である。30重量%未満であると、得られる内部電極の導電性が不充分となることがあり、80重量%を超えると、内部電極の成膜性能が低下することがある。
【0028】
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0029】
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストを製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記ペースト用バインダー樹脂、有機溶剤、金属粉末及び必要に応じて添加する各種添加剤をブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0030】
また、本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストと、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂からなるセラミックグリーンシートとを用いて積層セラミックコンデンサを作製することができる。
上記セラミックグリーンシート用バインダー樹脂としては、水酸基量が28mol%以上のポリビニルアセタール樹脂が主に用いられる。水酸基量が28mol%以上であることにより、高い水素結合性が得られることからセラミックグリーンシートを薄層化することが可能となり、さらに上記有機溶剤に対するダメージ、すなわち、シートアタック現象を抑制することができる。より好ましくは30mol%以上である。また、上記ポリビニルアセタール樹脂のなかでも、ポリビニルブチラール樹脂が好適に用いられる。
本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストと、水酸基量が28mol%以上のポリビニルアセタールからなるセラミックグリーンシートとを用いる積層セラミックコンデンサの製造方法もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ペースト用バインダー樹脂として変性ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤として特定の炭化水素系溶剤と脂肪酸エステル系溶剤とを用いることで、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶解性が低下することがなく、セラミックグリーンシートとの接着性を向上させることができ、かつ、セラミックグリーンシート上に塗工したときにもシートアタック現象が起こりにくい積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト、及び、積層セラミックコンデンサの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に本発明の実施例を挙げて更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1〜3)
(1)変性ポリビニルアセタールの調製
重合度1700、エチレン含有量10mol%、ケン化度88mol%の変性ポリビニルアルコール193gを純水2900gに加え、90℃の温度で約2時間攪拌することにより溶解した。得られた溶液を28℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸20gとn−ブチルアルデヒド115gとを添加し、液温を20℃に下げてこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、5時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、変性ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d(ジメチルスルホキサイド)に溶解し、13C−NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いてアセタール化度を測定したところ、ブチラール化度は65モル%であった。
【0034】
(2)積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストの調製
金属粉末としてのニッケル粉(三井金属社製、「2020SS」)100重量部に対して、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂7重量部と、表1の組成の有機溶剤60重量部とを混合した後、3本ロールで混練して積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストを得た。
【0035】
(実施例4〜6)
重合度1700、エチレン含有量5mol%、ケン化度98mol%の変性ポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様にして変性ポリビニルアセタール樹脂を調製した。なお、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂のブチラール化度は75mol%であった。
次いで、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は、実施例1〜3と同様にして積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストを得た。
【0036】
(比較例1〜4)
炭化水素系溶剤を添加せず、表1の組成比になるようにしたこと以外は実施例1〜6と同様にして積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストを作製した。
【0037】
<評価>
実施例1〜6及び比較例1〜4で作製した積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストについて、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0038】
(1)シートアタック性
実施例1〜6及び比較例1〜4で作製した積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストについて以下の方法によりシートアタック現象の発生の有無を評価した。
【0039】
(セラミックグリーンシートの作製)
ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製、エスレックB「BM−2」、重合度850、水酸基量31mol%)10重量部を、トルエン30重量部とエタノール15重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、可塑剤としてジブチルフタレート3重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(堺化学工業製「BT−01(平均粒径0.1μm)」)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。得られたスラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚みが約1μmになるように塗布し、常温で1時間風乾し、熱風乾燥機、80℃で3時間、続いて120℃で2時間乾燥させてセラミックグリーンシートを得た。
【0040】
得られたセラミックグリーンシートの片面に積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストを乾燥後の厚みが約1μmになるようにスクリーン印刷法により印刷し、乾燥させて導電ペースト層を形成した。セラミックグリーンシートの表面(印刷面)及び裏面(ポリエステルフィルム面)を目視及び拡大顕微鏡で観察し、以下の基準により評価を行った。
【0041】
〇:皺やクラックは認められなかった
×:皺やクラックが認められた
【0042】
(2)溶解性
表1に示されるような、積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストの作製に使用した配合組成の各有機溶剤10gに対して、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂としてポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製、エスレックB「BM−2」)0.5gを添加し、各温度での溶解性を目視にて観察した。白濁しなくなった温度を、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂を溶解する温度とした。
【0043】
(3)ショート発生率
(1)で得られた導電ペースト層を形成したセラミックグリーンシートを100枚積重ね、更に積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストを印刷していないセラミックグリーンシートを重ねた後、70℃、圧力150kg/cm、10分間の熱圧着条件で圧着して、セラミックグリーンシート積層体を得た。得られたセラミックグリーンシート積層体を窒素雰囲気で、昇温速度3℃/分で450℃まで昇温し、5時間保持後、更に昇温速度5℃/分で1350℃まで昇温した後、10時間保持してセラミック焼成体を得た。
得られたセラミック焼成体にバレル研磨を施した後、Agを主成分とする外部電極用の導電ペーストを前記セラミック焼結体の両端部に塗布・焼付けて外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを作製した。得られた積層セラミックコンデンサ各々1000個について、LCRメータ(ヒューレット・パッカード社製)を用いて静電容量を測定し、短絡不良の割合を計測した。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、上述の構成よりなるので、セラミックグリーンシートとの接着性に優れ、かつ、シートアタック現象の起こりにくい積層セラミックコンデンサ用導電ペースト、及び、積層セラミックコンデンサの製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペースト用バインダー樹脂、有機溶剤及び金属粉末を含有する、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂からなるセラミックグリーンシート上に塗工して用いられる積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストであって、
前記ペースト用バインダー樹脂は、変性ポリビニルアセタールを含有し、
前記有機溶剤は、脂肪族炭化水素又はナフテン系炭化水素と、ジヒドロターピネオールアセテート、ターピネオールアセテート、酢酸2−エチルヘキシル、ヘキサン酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種とを含有する
ことを特徴とする積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト。
【請求項2】
変性ポリビニルアセタールは、エチレン含有量が1〜20mol%、ケン化度が80mol%以上の変性ポリビニルアルコールをアセタール化してなるものであることを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト。
【請求項3】
有機溶剤は、セラミックグリーンシート用バインダー樹脂を溶解する温度が40℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペースト。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電ペーストと、水酸基量が28mol%以上のポリビニルアセタールからなるセラミックグリーンシートとを用いることを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。

【公開番号】特開2007−116083(P2007−116083A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100474(P2006−100474)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】