説明

積層セラミック部品用導電性ペーストおよびその製造方法

【課題】 積層セラミック部品の内部電極において、パラジウムの消費量を相対的に減少させることができる導電性ペースト、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 内部電極材料であり、銀およびパラジウムからなる金属粉末に、固溶しにくいジルコニウムもしくはチタンの酸化物膜を被覆させ、セラミック共材の粉末を添加すると共に固溶しにくいジルコニウムもしくはチタンの有機化合物のアルコラートからなる液状添加物を添加する。これによって導電性ペーストが焼結する温度領域を相対的により高温の領域に移動させることが可能となるため、前記金属粉末のパラジウムの含有比率を低下させ、相対的に低コストの銀の含有量を増加させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック部品において導体膜を形成するために用いられる導電性ペーストに関するもので、とくに焼成温度の高い積層型圧電セラミック部品の内部電極形成に用いるために好適な導電性ペースト、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀(Ag)やパラジウム(Pd)などによる金属粒子をバインダと共に有機溶剤に分散溶解してなる導電性ペーストは、セラミックシートとともに積層され、積層コンデンサ、インダクタ、圧電アクチュエータなどの内部電極形成のために多く用いられている。特許文献1では、パラジウムが被覆された銀の粒子とパラジウム粉末の混合物にバインダを加え、ペースト状とした導電性ペーストについて記述されている。特許文献1の記述によると、銀粒子の表面をパラジウムによって被覆することにより、導電性ペーストの耐熱性を向上させると共に、銀粒子とパラジウム粒子の分離が生じない導電性ペーストを提供することが可能である。
【0003】
また特許文献2は積層セラミックコンデンサの内部電極形成のために用いられる導電性ペーストに関するものであり、銀やパラジウム粉末からなる金属粒子と共に、有機チタン化合物、およびピンニング作用をおよぼすロジウム(Rh)などの金属の有機化合物からなる添加剤を、有機バインダおよび溶剤に添加する技術が開示されている。このうち有機チタン化合物の添加により、形成される内部電極とその上下に存在するセラミック誘電体層との間の接着力を高める効果が得られると共に、ピンニング作用によって内部電極とセラミック誘電体層との間の焼成収縮の差に起因する応力の発生が軽減され、層間剥離が減少する効果が得られる。特許文献2の記述によると、これらの効果によって電気特性発現の安定性に優れ、信頼性の高い積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【0004】
さらに特許文献3も、同じく積層セラミックコンデンサの内部電極形成のために用いられる導電性ペーストに関するものであり、上下のセラミック誘電体層の主要構成材料と同系統の組成の粒子である共材を、導電性ペースト中に添加する技術が開示されている。特許文献3の記述によると、共材の添加によって焼成中のセラミック誘電体層と内部電極の間での隙間の発生を防止することができ、そのため積層セラミックコンデンサの耐湿性を向上させる効果が得られる。
【0005】
【特許文献1】特開昭56−42910号公報
【特許文献2】特開平7−176209号公報
【特許文献3】特開2004−200450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら以上記した従来の積層セラミック部品における内部電極の形成においては以下の問題があった。一般に積層セラミック部品はセラミック層と内部電極とが交互に積層されて形成される。このうち内部電極は1層あたり数μmの厚さであるが、積層セラミック部品ではこの内部電極が多い場合には数百層も必要となる。このため、積層セラミック部品の製造コストの中では電極材料の価格が占める割合が高く、内部電極の低コスト化が課題となっていた。とくにパラジウムは他の電極材料に比較して高価であるため、他の材料への置換等による使用量の低減化が求められている。
【0007】
前記特許文献1においては、導電性ペーストを構成する電極材料のうち、銀粒子の表面をパラジウムにより被覆することにより、銀:パラジウムの含有量の比率を重量比で10:90から約35:65に改善したことが実施例に記載されているが、パラジウム含有量については更なる低減が必要である。特許文献2には銀:パラジウムの含有量の比率が重量比で70:30とした場合が記載されているが、実施例に示された焼成温度は900℃と低くなっており、この場合は生成される積層セラミック部品の用途が特定のものに限定されるという問題がある。また特許文献3には電極材料として安価なニッケル(Ni)を使用した場合について実施例に記載されているが、焼成の結果については記述がなく、この導電性ペーストが使用できる焼成温度の上限については不明である。
【0008】
一般に広い用途で使用できる積層セラミック部品においては、特許文献2に記載された900℃より高い焼成温度、好適には1050℃程度での焼成条件に耐えうる導電性ペーストが必要である。しかし従来の条件のままで焼成温度を1050℃にまで上昇させた場合には、電極材料のうち相対的に融点の低い銀の割合が多いために、焼成による内部電極の断裂である焼き切れが高い頻度で発生し、そのために連続した電極膜を形成できずに静電容量などの諸特性が劣化してしまうという課題があった。この現象はとくに圧電セラミック製品の場合において顕著であり、特性劣化のない製品を歩留まりよく得る方法が求められていた。
【0009】
従って、本発明の目的は、1050℃程度以上の焼成温度において使用可能であって、かつ電極材料として高価なパラジウムの含有量の割合を減少させた、積層セラミック部品用の導電性ペースト、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明においては、銀粉末とパラジウム粉末の混合物、銀とパラジウムの合金からなる粉末、銀粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物、銀粉末とパラジウム粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物のいずれかにより構成される金属粉末と、有機バインダとを、溶剤中に分散させてなる導電性ペーストにおいて、以下の施策を実施する。即ち、前記の金属粉末に固溶しにくい酸化物膜を被覆させると共に、前記の金属粉末に積層セラミック材料の粉末、および固溶しにくい液状添加物を共に添加する。これによって導電性ペーストが焼結する温度領域を相対的により高温の領域に移動させることができ、そのため1050℃程度以上の焼成温度においても焼き切れを起こすことなく連続した安定な内部電極を形成することができる。この措置によって積層セラミック部品の静電容量などの諸特性の維持が可能である。
【0011】
以上の施策は下記の通り説明される。まず第1の改良として、電極材料となる金属粉末に固溶しにくい酸化物膜を被覆しておくことにより、焼成過程における金属粉末間での固体拡散による焼結を、かなりの程度にわたり抑制する。ただし、この被覆を極度に強固なものにしてしまうと、金属粉末どうしの接触が伴わないために結果として金属粒子がほとんど焼結しないことになり、導体としての機能が損なわれてしまう。そのためには酸化物膜の被覆には適度な脆弱さを兼ね備えさせる必要があるが、その場合は今度は固体拡散による焼結を抑制する効果が小さくなってしまう。従って、金属粉末への酸化物膜の被覆のみでは高温焼成に対応するには不十分であり、次の改良と組み合わせる必要がある。
【0012】
なお、このような適度な脆弱さを有して金属粉末に固溶しにくい酸化物膜としては、その電極材料に対する被覆量を適量範囲に制御した、チタン酸化物膜、ジルコニウム酸化物膜、もしくはチタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)の各酸化物の混合酸化物膜が好適であり、電極材料である銀やパラジウム、およびそれらの合金からなる金属粉末の表面に、これらの酸化物膜を特定の量の範囲で被覆して用いることが好ましい。またこれらの酸化物膜は、メカノケミカル法により形成することができる。
【0013】
次に第2の改良として、導電性ペーストに内部電極の上下に位置するセラミック層と同系統のセラミック材料であるセラミック共材を添加することにより、金属粒子間の接触を部分的に阻害し、これによって焼成過程における金属粉末間での固体拡散による焼結を適度に抑え込むこととする。ただし、セラミック共材は一般に数ミクロンのサイズであり、また形状が一般に分散しやすい形状(たとえば球状)ではないことから、導電性ペースト中に完全に均一分散させることは事実上困難である。このために十分にセラミック共材が行き渡らない領域では電極材料となる金属粉末の焼結が進行してしまい、結果として内部電極の一部に焼き切れが発生する場合がある。
【0014】
そこで第3の改良として、金属粉末に固溶しにくいアルコラートなどの液状添加物を添加する。この添加物は液状であるために導電性ペースト中に分散しやすく、ペースト中の各領域の金属粉末に対して均一に作用することができる。ただし、液状であることから添加量が多すぎると、導電性ペーストの粘度特性に影響を与えてしまい、製造工程において印刷厚さのコントロール性を損なったり、被印刷体であるセラミック誘電体層のシートに過剰なアタックを行う可能性がある。また、添加量が多ければ揮発成分の蒸発による減量が大きくなるため、印刷工程後の乾燥時にその密度が大幅に下がることにもなる。従って添加量を誤ると内部電極に断裂が生じる危険性があり、そのため適量範囲を逸脱して添加することはできない。この液状添加物の焼成過程で析出・生成する粒子は微粒子であるために焼結抑制の効果はさほど強くはないが、上述のセラミック共材による作用が行われなかった未分散領域における収縮の駆動力を抑えるためには有効に作用する。
【0015】
なお、このような金属粉末に固溶しにくい液状添加物としては、その添加量を適量範囲に制御した有機チタン化合物アルコラート、有機ジルコニウム化合物アルコラート、もしくはこれら有機金属化合物アルコラートの混合物の使用が好適である。
【0016】
以上記したように、導電性ペーストの焼成時にそれぞれ異なる特徴を有する3種類の改良を同時に適切な範囲で実施することで、それぞれ単独の実施では実現できない、総合的な効果を得ることができる。
【0017】
即ち、本発明は、銀粉末とパラジウム粉末の混合物、銀とパラジウムの合金からなる粉末、銀粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物、銀粉末とパラジウム粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物のいずれかである金属粉末と、有機バインダとを、溶剤中に分散させてなる導電性ペーストであって、前記金属粉末には酸化物膜が被覆されており、前記溶剤にはセラミック粉末、および液状添加物が共に添加されてなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストである。
【0018】
また、本発明は、前記酸化物膜が、チタン酸化物および/またはジルコニウム酸化物からなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストである。
【0019】
さらに、本発明は、前記酸化物膜が、前記金属粉末100重量部に対して0.2〜1重量部の割合で含まれてなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストである。
【0020】
さらに、本発明は、前記酸化物膜が、メカノケミカル法によって前記金属粉末表面に被覆形成されてなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストである。
【0021】
さらに、本発明は、前記セラミック粉末が、前記金属粉末100重量部に対して15〜40重量部の割合で含まれてなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストである。
【0022】
さらに、本発明は、前記液状添加物が、有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物を含有してなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストである。
【0023】
さらに、本発明は、前記液状添加物に含まれる前記有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物がアルコラートであることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストである。
【0024】
さらに、本発明は、前記液状添加物に含まれる前記有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物のアルコラートにおいて、前記アルコラートに含まれるチタンとジルコニウムの合量が、前記金属粉末100at%に対して原子数比で1.0×10-3〜6.0×10-3at%の割合で含まれてなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストである。
【0025】
さらに、本発明は、銀粉末とパラジウム粉末の混合物、銀とパラジウムの合金からなる粉末、銀粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物、銀粉末とパラジウム粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物のいずれかである金属粉末に酸化物膜を被覆し、前記金属粉末および有機バインダを溶剤中に分散させ、セラミック粉末および液状添加物を、前記溶剤に共に添加することを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法である。
【0026】
さらに、本発明は、前記酸化物膜が、チタン酸化物および/またはジルコニウム酸化物からなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法である。
【0027】
さらに、本発明は、前記酸化物膜が、前記金属粉末100重量部に対して0.2〜1重量部の割合であることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法である。
【0028】
さらに、本発明は、前記酸化物膜を、メカノケミカル法によって前記金属粉末表面に被覆形成することを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法である。
【0029】
さらに、本発明は、前記セラミック粉末を、前記金属粉末100重量部に対して15〜40重量部の割合で前記溶剤に添加することを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法である。
【0030】
さらに、本発明は、前記液状添加物が、有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物を含有してなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法である。
【0031】
さらに、本発明は、前記液状添加物に含まれる前記有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物がアルコラートであることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法である。
【0032】
さらに、本発明は、前記液状添加物に含まれる前記有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物のアルコラートを、前記アルコラートに含まれるチタンとジルコニウムの合量が、前記金属粉末100at%に対して原子数比で1.0×10-3〜6.0×10-3at%の割合で、前記溶剤に添加することを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、銀粉末とパラジウム粉末の混合物、銀とパラジウムの合金からなる粉末、銀粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物、銀粉末とパラジウム粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物のいずれかである金属粉末と、有機バインダとを、溶剤中に分散させてなる導電性ペーストにおいて、前記金属粉末に固溶しにくい酸化物膜を被覆させ、積層セラミック部品の各セラミック層を構成する材料と同種のセラミック共材の粉末を添加し、それと共に前記金属粉末に固溶しにくい液状添加物を添加することとする。これにより、導電性ペーストが焼結する温度領域を相対的により高温の領域に移動させることが可能となるため、パラジウムの含有比率がより低く、相対的に融点の低い銀の含有量が多い金属粉末を使用したり、内部電極の塗布厚さをより薄くした場合においても、焼成時に内部電極が焼き切れを起こすことなく連続した電極膜を形成することができる。従って、静電容量などの諸特性を維持することが可能な積層セラミック部品用の導電性ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の実施の形態による積層セラミック部品用導電性ペーストについて説明する。
【0035】
本発明における積層セラミック部品用の導電性ペーストは、電極材料である銀粉末とパラジウム粉末の混合物、銀とパラジウムの合金からなる粉末、銀粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物、銀粉末とパラジウム粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物のいずれかである金属粉末を、有機バインダと共に溶剤に混合したものである。そして、これらの金属粉末を用いると共に、さらにチタン酸化物もしくはジルコニウム酸化物からなる酸化物膜による金属粉末の表面被覆、セラミック共材の添加、および液状添加物である有機金属化合物アルコラートの添加を適切な条件で実施したものである。これにより、従来例の特許文献2に開示された条件である、銀:パラジウム=70:30(単位:重量%)の含有比率よりもさらにパラジウム含有量を減少させた、銀:パラジウム=85:15(単位:重量%)の含有比率において良好な特性を有する内部電極を形成することができる。
【0036】
また、銀とパラジウムの含有比率を前記従来例と同じ銀:パラジウム=70:30(単位:重量%)とした場合には、従来よりも内部電極の層厚さを減少させても形成した内部電極の諸特性はやはり良好であり、この方法において、積層セラミック部品の内部電極におけるパラジウムの使用量を減少させることが同様に可能である。以上記したパラジウム使用量の削減を可能にする積層セラミック部品用導電性ペーストの作製条件については、本発明の具体的な実施例1〜3に基づいて以下で説明する。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
本発明における積層セラミック部品用導電性ペーストを、以下の方法にて作製した。まず、銀粉末とパラジウム粉末とをV型混合機により所定の時間混合して、金属粉末を作製した。そして、粒径を調製することにより金属粉末とは帯電量に差が生じるようにしたジルコニウム酸化物粉末と、前記金属粉末とを所定の割合で回転容器に投入することで、両者の間にメカノケミカル反応を生じさせて金属粉末表面にジルコニウム酸化物膜を被覆させた。
【0038】
次に、内部電極の上下に形成されるセラミック層と同種の組成の粉末であるセラミック共材と、酸化物膜が被覆した金属粉末とを、有機バインダを溶剤に溶解したバインダ液に所定の比率で混合し、この混合体を3本ロールミルにより混練し、粒子状物質の付着が装置のローラ表面に見られなくなるまでの時間混練することで、ペースト状にした。
【0039】
さらに、液状添加物である有機ジルコニウム化合物(アルコラート)を前記ペーストに所定量添加し、その後に両者が充分なじみ合うまでヘラを用いて攪拌を行った。
【0040】
上記の作業手順により、混合比率が銀:パラジウム=85:15(単位:重量%)である銀とパラジウムの金属粉末に対して、ジルコニウム酸化物膜の被覆量、セラミック共材の添加量、有機ジルコニウム化合物(アルコラート)の添加量の各条件を変化させて含有量の条件の異なる複数種類の導電性ペーストを作製した。そしてそれらを内部電極としてチタン酸ジルコン酸鉛系(Pb[(Mn1/3Sb2/3),Zr,Ti]O3)のセラミック層と交互に5回積層した後に乾燥させて裁断し、焼成することで、5層構造のピエゾアクチュエータのテストピースを作製して評価を行った。テストピースは一般的な圧電セラミック部品の製造条件を適用して作製している。ここで評価結果を左右する内部電極の厚さは乾燥工程後に6μmとなるように定め、また焼成条件はまず室温から100℃/hで昇温し、1100℃にて2時間放置後、100℃/hにて室温まで降温させる条件とした。この条件にて作製したテストピースの焼成後の内部電極の厚さは3〜5μmであった。
【0041】
以上の方法により条件を変えて作製したテストピースは、いずれも外形寸法が30mm×6mm×3mmである。これら各テストピースの評価項目は、導電性ペーストの印刷性(にじみ、かすれの発生の有無)、セラミック層へのアタック(セラミック層の変形の有無)、内部電極の焼き切れ(電極の焼き切れが全体の10%以内かどうか)、およびアクチュエータとしての静電容量(設計値の98%を下回らないかどうか)の4項目である。これらのうち印刷性、アタック、焼き切れの3項目は目視検査であり、このうち印刷性はテストピースの内部電極層が面状に見えるように素子を剥離させ、走査型電子顕微鏡にて剥離面を観察して評価した。またアタック、焼き切れについてはテストピースを研磨して断面を露出させ、光学顕微鏡にてその断面を観察して判定を行った。焼き切れについてはテストピースの断面に露出した内部電極のうち、全長の90%以上が観察された場合を合格とした。各条件において評価項目ごとにテストピースを3個ずつ評価し、1個でも不良がある場合には不合格とした。
【0042】
条件を変えて作製したテストピースの評価結果を表1および表2に示す。金属粉末表面に被覆させたジルコニウム酸化物膜の被覆量については6通り、セラミック共材の添加量については8通り、有機ジルコニウム化合物(アルコラート)の添加量については6通りの条件にてサンプルを作製し、評価を行った。評価したサンプルの条件は合計で78通りである。各表では4つの評価項目全てにおいて合格の場合を○、1項目でも不合格の場合を×と表記している。また評価が×の場合には、最も顕著であった不合格の項目名を、印刷性(導電性ペーストの印刷性)、アタック(セラミック層へのアタック)、切れ(内部電極の焼き切れ)、容量(設計値に対する静電容量)と表内に記載した。このうち表1は有機ジルコニウム化合物(アルコラート)の添加量の条件を固定した場合の結果、表2はセラミック共材の添加量の条件を固定した場合の結果である。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表1および表2の結果から、前記金属粉末100重量部に対してジルコニウム酸化物膜の被覆量を0.2〜1.0重量部、セラミック共材の添加量を15〜40重量部とし、また有機ジルコニウム化合物(アルコラート)の添加量を前記金属粉末100at%に対して原子数比で1.0×10-3〜6.0×10-3at%とした場合に良好な評価結果が得られることが分かる。なお液状添加物である有機ジルコニウム化合物(アルコラート)の添加量を原子数比にて表現した理由は、焼成時に同化合物が析出する際には金属分子状となって、電極を形成する金属粉末表面に付着するためである。一方、ジルコニウム酸化物、積層セラミック用材料はいずれも酸化物粒子であることから、重量部にて表現している。
【0046】
なお上記の評価結果においては、セラミック共材の添加量が15〜20重量部の場合に限り、ジルコニウム酸化物膜の被覆量が1.2重量部の場合であっても良好な結果が得られているが、この場合は同被覆量が1.0重量部以下の場合に比較しての経済的な利点はとくに見あたらない。また評価結果が合格となる範囲内ではあるものの、表1においてセラミック共材の添加量が30重量部を越えた場合には、設計値に対する静電容量の値がやや低下する傾向が見られた。これは、セラミック共材の添加による焼結の抑制が進んだために、内部電極の連続性がそれ以外の場合よりも低くなったことに関係していると考えられる。
【0047】
(実施例2)
上記の実施例1において選択したジルコニウム系の化合物を用いる代わりに、金属粉末表面に被覆させる固溶しにくい酸化物膜、および溶剤に添加する液状添加物として、チタン系の化合物を用いて同様の評価を行った結果、やはり同等の結果が得られた。また、チタン系の化合物とジルコニウム系の化合物を混合して用いた場合にも同等の結果が得られた。いずれの場合もチタン系の化合物のみの場合と同様に、前記酸化物膜の被覆量の合量が0.2〜1.0重量部、また前記液状添加物の合量が原子数比で1.0×10-3〜6.0×10-3at%とした場合に良好な結果が得られている。
【0048】
(実施例3)
金属粉末の組成比が銀:パラジウム=70:30(単位:重量%)である、特許文献2に記載の従来例と同じ組成比の銀とパラジウムの金属粉末に対して、本発明において提案されている金属粉末への酸化物膜の被覆、セラミック共材の粉末の添加、液状添加物の添加の3項目の改良を同様に適用した。この方法にて作製されたテストピースでは、上記表1および表2の結果と同等の良好な結果が得られた。とくにこの組成の場合には、導電性ペーストを薄塗りとした場合であっても内部電極が焼き切れを起こすことがなく、連続性の高い良好な内部電極を得ることができた。この実施例3における、薄塗りの場合の積層後の乾燥工程後の内部電極の厚さは4μmであり、また焼成後の内部電極の厚さは2〜3μmであった。この場合は薄塗りによって導電性ペーストの使用量を従来よりも減少させることができるため、上記の実施例1の場合よりも内部電極におけるパラジウムの含有比率が高いにも関わらず、やはり製品のコストダウンを図ることが可能である。
【0049】
なお、上記実施の形態に関する説明は、本発明に係る積層セラミック部品用導電性ペーストにおいて、導電性ペーストが焼結する温度領域を、相対的により高温の領域に移動させる手段を提供し、それによって、一般に高価なパラジウムの使用量を低減させて低コスト化を達成する方法について説明するためのものである。従って、これにより特許請求の範囲に記載の発明を限定し、あるいは請求の範囲を減縮するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉末とパラジウム粉末の混合物、銀とパラジウムの合金からなる粉末、銀粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物、銀粉末とパラジウム粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物のいずれかである金属粉末と、有機バインダとを、溶剤中に分散させてなる導電性ペーストであって、
前記金属粉末には酸化物膜が被覆されており、
前記溶剤にはセラミック粉末、および液状添加物が共に添加されてなることを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペースト。
【請求項2】
前記酸化物膜が、チタン酸化物および/またはジルコニウム酸化物からなることを特徴とする、請求項1に記載の積層セラミック部品用導電性ペースト。
【請求項3】
前記酸化物膜が、前記金属粉末100重量部に対して0.2〜1重量部の割合で含まれてなることを特徴とする、請求項2に記載の積層セラミック部品用導電性ペースト。
【請求項4】
前記酸化物膜が、メカノケミカル法によって前記金属粉末表面に被覆形成されてなることを特徴とする、請求項3に記載の積層セラミック部品用導電性ペースト。
【請求項5】
前記セラミック粉末が、前記金属粉末100重量部に対して15〜40重量部の割合で含まれてなることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の積層セラミック部品用導電性ペースト。
【請求項6】
前記液状添加物が、有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物を含有してなることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の積層セラミック部品用導電性ペースト。
【請求項7】
前記液状添加物に含まれる前記有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物がアルコラートであることを特徴とする、請求項6に記載の積層セラミック部品用導電性ペースト。
【請求項8】
前記液状添加物に含まれる前記有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物のアルコラートにおいて、前記アルコラートに含まれるチタンとジルコニウムの合量が、前記金属粉末100at%に対して原子数比で1.0×10-3〜6.0×10-3at%の割合で含まれてなることを特徴とする、請求項7に記載の積層セラミック部品用導電性ペースト。
【請求項9】
銀粉末とパラジウム粉末の混合物、銀とパラジウムの合金からなる粉末、銀粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物、銀粉末とパラジウム粉末と銀とパラジウムの合金からなる粉末の混合物のいずれかである金属粉末に酸化物膜を被覆し、
前記金属粉末および有機バインダを溶剤中に分散させ、
セラミック粉末および液状添加物を、前記溶剤に共に添加することを特徴とする、積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法。
【請求項10】
前記酸化物膜が、チタン酸化物および/またはジルコニウム酸化物からなることを特徴とする、請求項9に記載の積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法。
【請求項11】
前記酸化物膜が、前記金属粉末100重量部に対して0.2〜1重量部の割合であることを特徴とする、請求項10に記載の積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法。
【請求項12】
前記酸化物膜を、メカノケミカル法によって前記金属粉末表面に被覆形成することを特徴とする、請求項11に記載の積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法。
【請求項13】
前記セラミック粉末を、前記金属粉末100重量部に対して15〜40重量部の割合で前記溶剤に添加することを特徴とする、請求項9ないし12のいずれか1項に記載の積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法。
【請求項14】
前記液状添加物が、有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物を含有してなることを特徴とする、請求項9ないし13のいずれか1項に記載の積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法。
【請求項15】
前記液状添加物に含まれる前記有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物がアルコラートであることを特徴とする、請求項14に記載の積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法。
【請求項16】
前記液状添加物に含まれる前記有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物のアルコラートを、前記アルコラートに含まれるチタンとジルコニウムの合量が、前記金属粉末100at%に対して原子数比で1.0×10-3〜6.0×10-3at%の割合で、前記溶剤に添加することを特徴とする、請求項15に記載の積層セラミック部品用導電性ペーストの製造方法。

【公開番号】特開2008−103522(P2008−103522A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284631(P2006−284631)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】