説明

積層フィルム、フィルムロールおよびその製造方法

【課題】平滑性に優れたポリエステルフィルムが、良好な品位で巻取られたフィルムロールを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルムの片面に樹脂層が形成されてなる積層フィルムが巻取られてなるフィルムロールであり、ポリエステルフィルムの表面粗さSRzが1.0〜4.0μmであり、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ポリビニルアルコール5〜500質量部と、架橋剤1〜50質量部とを含有し、フィルムロールの表層の巻硬度が500以上であることを特徴とするフィルムロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面平滑性に優れたポリエステルフィルムが、良好な巻き姿で巻取られたフィルムロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルフィルムは、優れた機械的特性や耐熱性、耐薬品性を有することから、工業分野をはじめ、各種産業分野において広く使用されている。たとえば電子・電機分野においては、プリント配線板、フレキシブルプリント配線板、多層プリント配線板などの製造のための工程材料や、液晶ディスプレー用部品である偏光板や位相差板の保護材料などの用途に広く用いられており、特に工程材料の需要は近年著しい伸びを示している。
【0003】
このような用途においては、近年、フィルム表面の平滑化への要求が高くなり、フィルム表面の突起の微小化や、突起数の低減がなされてきている。ところが、フィルム表面を平滑化することにより、フィルムの滑り性が低下し、巻取り時にフィルム層間の空気が抜けにくくなる。したがって、フィルムの製造・加工工程中の巻取り、巻返し、スリット等において巻取り速度を向上すると、フィルムにシワが発生したり、抜け残った層間の空気に起因するニキビと呼ばれる気泡状の突起がロール表面に残るなどの支障を生じ、製造・加工速度を上げることができなかった。
【0004】
層間の空気抜けが良好でないフィルムを巻取る際は、一般的に、フィルムに負荷する張力や、コンタクト・ローラーによりフィルムロールに負荷する接圧を高くすることにより、空気抜けを促すことができる。しかし、巻取り時の張力や接圧を高くし過ぎると、ロール内に残留応力が生じるため、巻取り後、経時的にロール形状が変化し、フィルムにシワが生じる原因となる。また、ブロッキングを誘発する問題もある。
【0005】
ポリエステルフィルムの滑り性を改善する方法としては、酸化ケイ素、カオリン、タルク、炭化カルシウムあるいはアルミナ等の種々のフィラーの粒子を添加する方法が一般的である。フィルム表面を平滑化する際にも、フィラーの粒子を微小化する方法が提案されているほか、フィルムを複層とし、フィルム表面の一方にのみ粒径の大きなフィラーを添加することにより空気抜けを促進させる方法があるが、複層フィルムを生産するためには特別な生産設備が必要になるほか、フィルム表面の粒子が脱落したりするなどの問題もある(特許文献1)。
【0006】
微小粒子を含有する塗膜をフィルム表面に設ける方法が知られているが、やはり塗膜表面の粒子が脱落したりするなどの問題があり、さらには高温高湿度下でフィルムがブロッキングを起こしやすくなるなどの問題もある(特許文献2)。
【0007】
また、フィルムの一方の表面に凹凸を有する塗膜層を設けることでフィルムの滑り性や巻取り時の層間の空気抜けを改善する方法も示されているが、フィルムがブロッキングを起こしやすくなるなどの問題もある(特許文献3)。
【0008】
上記のように、表面が平滑なフィルムは、巻取り時の層間における空気抜けの遅さに起因する種々の問題により、巻取り品位を低下させずに巻取り速度を上げることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−234166号公報
【特許文献2】特開平8−290540号公報
【特許文献3】特許第4399941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記問題を解決し、平滑性に優れたポリエステルフィルムが、良好な品位で巻取られたフィルムロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはこのような課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステルフィルムの片面に、特定組成の樹脂層を形成することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)ポリエステルフィルムの片面に樹脂層が形成されてなる積層フィルムであり、ポリエステルフィルムの表面粗さSRzが1.0〜4.0μmであり、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ポリビニルアルコール5〜500質量部と、架橋剤1〜50質量部とを含有し、積層フィルムが速度100〜400m/分で巻取られてなるフィルムロールの表層の巻硬度が500以上であることを特徴とする積層フィルム。
(2)ポリエステルフィルムの片面に樹脂層が形成されてなる積層フィルムが巻取られてなるフィルムロールであり、ポリエステルフィルムの表面粗さSRzが1.0〜4.0μmであり、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ポリビニルアルコール5〜500質量部と、架橋剤1〜50質量部とを含有し、フィルムロールの表層の巻硬度が500以上であることを特徴とするフィルムロール。
(3)ポリエステルフィルムの表面粗さSRaが5〜20nmであることを特徴とする(2)記載のフィルムロール。
(4)ポリエステルフィルムの表面粗さSPcが30〜250pks/mmであることを特徴とする(2)または(3)記載のフィルムロール。
(5)上記(2)記載のフィルムロールを製造するための方法であって、表面粗さSRzが1.0〜4.0μmであるポリエステルフィルムの片面に、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ポリビニルアルコール5〜500質量部と、架橋剤1〜50質量部とを含有する樹脂層が形成された積層フィルムを、速度100〜400m/分で巻取ることを特徴とするフィルムロールの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層フィルムやフィルムロールを構成するフィルムは、表面粗さSRzが1.0〜4.0μmであるので高い平滑性を有し、また、片面に特定の樹脂層が形成されているので良好な巻取り性を有している。しかも良好な巻取り性を発現するにあたって、粗大なフィラーを必要とせず、フィラーの脱落などの問題を生じない。また、フィルムを複層で生産するための特別な設備も必要としない。また本発明のフィルムロールは特定の樹脂層を含むため、高温高湿度下保存してもブロッキングを起こすことがない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムの片面に樹脂層が形成されてなるものであり、またフィルムロールは、ポリエステルフィルムの片面に樹脂層が形成されてなる積層フィルムが巻取られたものである。
【0015】
本発明において、ポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸又はそのエステル形成性誘導体と、ジオール又はそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。
かかるポリエステルの好ましい具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等や、それらの共重合体が挙げられる。
上記ポリエステルに共重合することができる成分としては特に限定されず、酸成分としてイソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンや乳酸などが挙げられる。また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等が挙げられる。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3官能化合物等を少量用いてもよい。これらの共重合成分は2種以上併用してもよい。また、2種以上のポリエステルをブレンドして用いてもよい。
本発明において、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートが特に好ましい。
【0016】
ポリエステルの固有粘度は0.55〜0.80であることが好ましく、0.60〜0.75であることがより好ましい。固有粘度が上記範囲未満であると、フィルムの製膜時に切断が起こり易く、安定に生産するのが困難であり、得られたフィルムの強度も低い。一方、固有粘度が上記範囲を超える場合には、フィルムの生産工程において樹脂の溶融押出時に剪断発熱が大きくなり、熱分解やゲル化物が増加してフィルム中の表面欠点、異物、表面粗大突起が増加したり、押出し機にかかる負荷が大きくなり、生産速度を犠牲にせざるを得なかったり、フィルムの厚み制御も難しくなる等、フィルムの生産性が低下する。また、あまりに固有粘度の高いものは、重合時間や重合プロセスが長く、コストを押し上げる要因ともなる。
【0017】
ポリエステルの重合方法は特に限定されず、例えば、エステル交換法、直接重合法等が挙げられる。エステル交換触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiの酸化物、酢酸塩等が挙げられる。また、重縮合触媒としては、Sb、Ti、Ge酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。
重合後のポリエステルは、モノマーやオリゴマー、副生成物のアセトアルデヒド等を含有しているため、減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合することが好ましい。
ポリエステルの重合においては必要に応じ、添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられ、熱安定剤としては、リン系化合物等が挙げられ、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0018】
本発明において、上記ポリエステルから構成されるポリエステルフィルムは、表面粗さSRzが1.0〜4.0μmであることが必要である。SRzがこの範囲より高いと、平滑性フィルムとしての要求を満たすことができない。一方、SRzがこの範囲より低いと、製造工程中および巻返し、スリット等でフィルムが巻取られる際に、ロールに巻込まれる空気がフィルム間に比較的厚い層を成し、ロールの巻硬度を低下させるとともに、巻取り後の経時的な空気抜けによりシワを生じる原因となりやすい。
なお、表面粗さSRzは、十点平均粗さであり、基準長さの区間における最も高い山頂から5番目までの山頂の5点の高さの絶対値の平均値と、最も深い谷底から5番目までの谷底の5点の深さの絶対値の平均値との和であり、凹凸の高さ方向の大きさをあらわす。
【0019】
また、本発明においてポリエステルフィルムは、表面粗さSRaが5〜20nmであることが好ましい。SRaがこの範囲より高いと、平滑性フィルムとしての要求を満たすことができないことがある。一方、SRaがこの範囲より低いと、滑り性が低下してフィルムの製造工程中のロール走行時や巻取り、巻返し、スリット等で支障を及ぼし、フィルム表面にすり傷が入ったり、巻きシワの発生や静電気が発生したりし易い。また、フィルムが巻取られる際には巻込まれる空気が均一に抜けず、シワや気泡状のニキビといった外観不良の原因となることがある。
なお、表面粗さSRaは、中心線平均粗さであり、ある基準長さの区間においてその区間の粗さ曲線の平均値に対してフィルム表面の基準長さの区間における山谷の高さおよび深さの絶対値の平均値であり、山谷の高さと量からなる粗さの評価である。
【0020】
さらに、本発明においてポリエステルフィルムは、表面粗さSPcが30〜250pks/mmであることが好ましい。SPcがこの範囲を超えると、平滑性フィルムとしての要求を満たすことができないことがある。一方、SPcがこの範囲未満であると、製造工程中および巻返し、スリット等でフィルムが巻取られる際に、ロールに巻込まれる空気がフィルム間に比較的厚い層を成し、ロールの巻硬度を低下させるとともに、巻取り後の経時的な空気抜けによりシワを生じる原因となりやすい。また、滑り性が低下してフィルムの製造工程中のロール走行時や巻取り、巻返し、スリット等で支障を及ぼし、フィルム表面にすり傷が入ったり、巻きシワの発生や静電気が発生したりし易い。また、フィルムが巻取られる際には巻込まれる空気が均一に抜けず、シワや気泡状のニキビといった外観不良の原因となる。
なお、表面粗さSPcは、ピークカウントであり、ある基準長さの区間においてその区間の粗さ曲線の平均値に対して任意の高さ(ピークカウントレベル)を持つ突起の数をあらわす。本発明においてはピークカウントレベルを1.0μmとした。
【0021】
上記表面粗さを達成するための方法は特に限定されないが、ポリエステル中に粗面化物質を含有させる方法が好ましい。粗面化物質としては、例えば、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム、カオリナイト、二酸化チタン、シリカアルミナ等の無機粒子や、シリコーンやポリメタクリル酸メチル、エチルビニルベンゼン等の有機粒子が挙げられ、単独または2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
粗面化物質の平均粒径は特に限定されないが、2.0μm以下であることが好ましく、0.05〜1.5μmであることが特に好ましい。また、平均粒径の異なる2種以上を併用することもできる。
粗面化物質の種類や粒子径、含有量を選択することによって、表面粗さを適宜調整することができる。
【0022】
本発明において、ポリエステルフィルムの厚みには、特に制限は無いが、通常厚みが6〜190μmのフィルムを用いた場合に有効であり、特に厚みが薄いために曲げに弱く、シワの発生しやすい厚みが6〜25μmのフィルムを用いた場合に特に有効である。
【0023】
ポリエステルフィルムの製造方法の一例を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
まず、十分に乾燥されたポリエステルを押出機に供給し、十分に可塑化され、流動性を示す温度以上で溶融し、必要に応じて選ばれたフィルターを通過させ、その後Tダイを通じてシート状に押出す。このシートをポリエステルのガラス転移点(Tg)以下に温度調節した冷却ドラム上に密着させて未延伸フィルムを得る。
本発明ではこうした未延伸フィルムを用いてもよいし、得られた未延伸フィルムを一軸延伸により一軸配向、もしくは二軸延伸し二軸配向させたものでもよい。延伸方法としては、特に限定はされないが逐次二軸延伸法や同時二軸延伸法を用いることができる。
一軸延伸法では、未延伸フィルムをポリエステルのTg〜Tgより50℃高い温度の範囲で長手もしくは巾方向にそれぞれ2〜6倍程度の延伸倍率となるよう延伸する。
同時二軸延伸法では、未延伸フィルムをポリエステルのTg〜Tgより50℃高い温度の範囲で長手および巾方向にそれぞれ2〜4倍程度の延伸倍率となるよう二軸延伸する。同時二軸延伸機に導く前に、1〜1.2倍程度の予備縦延伸を施しておいてもよい。
また、逐次二軸延伸法では、上記未延伸フィルムをロール、赤外線等で加熱し、長手方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。延伸は2個以上のロール周速差を利用し、ポリエステルのTg〜Tgより40℃高い温度の範囲で2.5〜4.0倍とするのが好ましい。縦延伸フィルムは続いて連続的に、巾方向に横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとする。横延伸はポリエステルのTg〜Tgより40℃高い温度で開始し、最高温度はポリエステルの融点(Tm)より(100〜40)℃低い温度であることが好ましい。横延伸の倍率は最終的なフィルムの要求物性に依存し調整されるが、3.5倍以上、さらには3.8倍以上とするのが好ましく、4.0倍以上とするのがより好ましい。
長手方向と巾方向に延伸後、さらに、長手方向および/または巾方向に再延伸することにより、フィルムの弾性率を高めたり寸法安定性を高めたりすることもできる。
延伸に続き、ポリエステルのTmより(50〜10)℃低い温度で数秒間の熱固定処理と、熱固定処理と同時にフィルム幅方向に2〜10%の弛緩することが好ましい。熱固定処理後、フィルムのTg以下に冷却して二軸延伸フィルムを得る。
【0024】
本発明において、ポリエステルフィルムは、1種の層からなる単層フィルムでも、また2種以上の層を積層してなる多層フィルムであってもよい。多層フィルムは、例えば、それぞれの層を構成するポリエステルを別々に溶融して押出し、固化前に積層融着させた後、二軸延伸、熱固定する方法、2種以上の層を別々に溶融、押出してフィルム化し、未延伸状態又は延伸後、両者を積層融着させる方法などによって製造することができるが、プロセスの簡便性から、複層ダイスを用い、固化前に積層融着させることが好ましい。
【0025】
本発明において、表面平滑性に優れたポリエステルフィルムを巻取り速度を上げて巻取っても、ロールの巻取り品位を低下させないために、ポリエステルフィルムの片面には樹脂層が形成されること必要であり、この樹脂層は、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールと架橋剤とを含有することが必要である。
【0026】
樹脂層に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂は、オレフィン成分を主成分とし、酸変性成分により変性された樹脂である。オレフィン成分としては、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが好ましく、これらの混合物であってもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0027】
酸変性成分としては、不飽和カルボン酸成分が挙げられ、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、後述する樹脂の水性分散化において、樹脂を安定的に分散するために、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。これらの酸変性成分は酸変性ポリオレフィン樹脂中に2種類以上含まれていてもよい。
酸変性ポリオレフィン樹脂における酸変性成分の割合は、1〜10質量%であることが好ましく、2〜9質量%であることが特に好ましい。酸変性成分が1質量%未満の場合は、樹脂層に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂中の極性基の割合が少なくなるため、ポリエステルフィルムとの十分な密着性が得られず、被着体を汚染することがある。さらに後述する樹脂の水性分散化において、樹脂を安定的に分散するのが困難になる傾向がある。一方、酸変性成分の割合が10質量%を超える場合は、極性基の割合が多くなるため樹脂層とポリエステルフィルムとの密着性が十分にはなるが、樹脂層と被着体との密着性も同時に高くなるため、被着体との離型性が低下する傾向がある。
【0028】
また、ポリエステルフィルムとの密着性をさらに向上させる理由から、酸変性ポリオレフィン樹脂は、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分を含有することが好ましい。側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、ポリエステルフィルムとの密着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがさらに好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。
側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分は、酸変性成分と同様、分子内に極性基を有している。そのため側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分を酸変性ポリオレフィン樹脂中に含めることによって、ポリエステルフィルムとの密着性が高くなる一方、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分量が多すぎると、オレフィン由来の樹脂の性質が失われ、被着体との離型性が低下する可能性がある。酸変性ポリオレフィン樹脂中における、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分の割合は、1〜40質量%であることが好ましく、2〜35質量%であることがより好ましく、3〜30質量%であることがさらに好ましく、6〜18質量%であることが特に好ましい。
なお、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を用いても、ポリエステルフィルムとの密着性以外に樹脂層が有する離型性を損ねることがない。
【0029】
本発明に用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂には、その他のモノマーが、少量、共重合されていてもよい。その他のモノマーとして、例えば、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0030】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する各成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されない。共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。
【0031】
酸変性ポリオレフィン樹脂の融点は80〜150℃であることが好ましく、90〜130℃がより好ましい。融点が150℃を超える場合は、ポリエステルフィルム表面への樹脂層形成時に高温処理が必要となる場合がある。一方、融点が80℃未満では離型性が低下する。
【0032】
酸変性ポリオレフィン樹脂のビカット軟化点は、50〜130℃であることが好ましく、53〜110℃がより好ましく、55〜90℃がより好ましい。ビカット軟化点が50℃未満の場合は、ポリエステルフィルム上に形成された樹脂層が溶融しやすくなるため、被着体との密着性が高くなり離型性が低下する。一方、130℃を超える場合はポリエステルフィルム表面への樹脂層形成時に高温下での処理が必要となる。
【0033】
酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートは、190℃、2160g荷重において1〜1000g/10分であることが好ましく、1〜500g/10分であることがより好ましく、1〜100g/10分であることがさらに好ましい。特に、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量%中に含まれる酸変性成分の割合が10質量%以上の場合には、メルトフローレートは1〜30g/10分であることが好ましい。メルトフローレートが1g/10分未満の場合は、後述する分散安定性の優れた水性分散体の製造が困難となる。一方、メルトフローレートが1000g/10分を超える場合は、樹脂層とポリエステルフィルムとの密着性が低下する場合がある。
【0034】
本発明に用いることができる酸変性ポリオレフィン樹脂としては、三井・デュポン ポリケミカル社製の酸変性ポリオレフィン樹脂であるニュクレルシリーズの「AN42115C」、「N1050H」、「N1110H」や、日本ポリエチレン社製の酸変性ポリエチレン樹脂であるレクスパールシリーズの「A210K」などの商品が挙げられる。
また、側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和成分を含む酸変性ポリオレフィン樹脂としては、アルケマ社製の無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂であるボンダインシリーズの「LX−4110」、「HX−8210」、「HX−8290」、「TX−8030」などの商品が挙げられる。
【0035】
本発明において、樹脂層は、上記酸変性ポリオレフィン樹脂とともに、ポリビニルアルコールを含有することが必要である。樹脂層において、ポリビニルアルコールが、酸変性ポリオレフィン樹脂中に分散することによって、酸変性ポリオレフィン樹脂が有する離型性を適度に軽減して発揮させると同時に、ポリビニルアルコール自体が有する密着性を発揮することができる。また、架橋剤と併用することで、樹脂層の表面に微小突起を形成するため易滑性を著しく向上させることができる。
【0036】
ポリビニルアルコールの種類は、特に限定されないが、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化したものなどが挙げられる。
ポリビニルアルコールは、後述のように液状物として使用する場合のために、水溶性を有していることが好ましい。
ポリビニルアルコールの平均重合度は、特に限定されるものではなく、例えば、300〜5,000であり、樹脂層を形成するためのコート液の安定性向上の観点からは、300〜2,000であることが好ましい。
【0037】
本発明においてポリビニルアルコールとして市販のものを使用することができ、例えば、日本酢ビ・ポバール社「J−ポバール」の「JC−05」、「VC−10」、「ASC−05X」、「UMR−10HH」;クラレ社「クラレポバール」の「PVA−103」、「PVA−105」や、「エクセバール」の「AQ4104」、「HR3010」;電気化学工業社の「デンカ ポバール」の「PC−1000」、「PC−2000」などが挙げられる。
【0038】
ポリビニルアルコールの含有量は、熱処理温度(乾燥温度)による離型性への影響がより低くなることから、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上であり、また、樹脂層のコート液の安定性を良好に保ち、塗布斑を生じにくくするために500質量部以下であることが必要である。ポリビニルアルコールの含有量は、10〜400質量部であることが好ましく、20〜300質量部であることがより好ましい。
【0039】
本発明において、樹脂層は、上記酸変性ポリオレフィン樹脂やポリビニルアルコールとともに架橋剤を含有することが必要である。架橋剤を含むことにより樹脂層の凝集力を向上させて相手材に移行しにくくさせたり、耐水性を向上させることができる。
架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物等が好ましく、特に、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物が効果的である。これらの架橋剤は組み合わせて使用してもよい。
架橋剤の添加量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1〜50質量部であることが必要であり、2〜30質量部であることがより好ましく、2〜10質量部であることがさらに好ましい。
【0040】
架橋剤として用いるカルボジイミド化合物は、分子中に1つ以上のカルボジイミド基を有しているものであれば特に限定されるものではない。カルボジイミド化合物は、1つのカルボジイミド部分において、酸変性ポリオレフィン樹脂の酸変性部分における2つのカルボキシル基とエステルを形成し、架橋を達成する。
カルボジイミド化合物の具体例として、例えば、p−フェニレン−ビス(2,6−キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン−ビス(t−ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン−1,4−ビス(メチレン−t−ブチルカルボジイミド)などのカルボジイミド基を有する化合物や、カルボジイミド基を有する重合体であるポリカルボジイミドが挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさから、ポリカルボジイミドが好ましい。
ポリカルボジイミドの市販品としては、日清紡社製のカルボジライトシリーズが挙げられ、具体的には、水溶性タイプの「SV−02」、「V−02」、「V−02−L2」、「V−04」;エマルションタイプの「E−01」、「E−02」;有機溶液タイプの「V−01」、「V−03」、「V−07」、「V−09」;無溶剤タイプの「V−05」が挙げられる。
【0041】
架橋剤として用いるオキサゾリン化合物は、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有しているものであれば、特に限定されるものではない。オキサゾリン化合物は、2つのオキサゾリン部分のそれぞれにおいて、酸変性ポリオレフィン樹脂の酸変性部分における1つのカルボキシル基とアミドエステルを形成し、架橋を達成する。オキサゾリン化合物の具体例として、例えば、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレン−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレン−ビス(2−オキサゾリン)、ビス(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィドなどのオキサゾリン基を有する化合物や、オキサゾリン基含有ポリマーが挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさからオキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。
オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズが挙げられ、具体的には、水溶性タイプの「WS−500」、「WS−700」;エマルションタイプの「K−1010E」、「K−1020E」、「K−1030E」、「K−2010E」、「K−2020E」、「K−2030E」などが挙げられる。
【0042】
本発明において、樹脂層は、粗面化物質として無機粒子および/または有機粒子を含有していてもよいが、必ずしも含んでいる必要はない。通常、フィルムに滑り性を付与するために、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデン等の無機粒子や、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンワックス等の有機粒子、界面活性剤等が添加されていることが多い。これらの粒子は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.5量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましく、含んでいないことが特に好ましい。
【0043】
本発明において、樹脂層は、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリビニルアルコールと架橋剤とを液状媒体中に含有してなる液状物を、ポリエステルフィルムに塗布したのち乾燥する方法によって、工業的に簡便に形成することができる。以下、この液状物を樹脂層形成用液状物という。
【0044】
本発明において、樹脂層形成用液状物を構成する液状媒体は、水性媒体であることが好ましい。水性媒体とは、水と両親媒性有機溶剤とを含み、水の含有量が2質量%以上である溶媒を意味し、水のみでもよい。
両親媒性有機溶剤とは、20℃における有機溶剤に対する水の溶解性が5質量%以上である有機溶剤をいう(20℃における有機溶剤に対する水の溶解性については、例えば「溶剤ハンドブック」(講談社サイエンティフィク、1990年第10版)等の文献に記載されている)。
両親媒性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール(以下「IPA」と略称する)等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類、そのほか、アンモニアを含む、ジエチルアミン、トリエチルアミン(以下「TEA」と略称する)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−ジエタノールアミン等の有機アミン化合物、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどのラクタム類等を挙げることができる。
【0045】
樹脂層形成用液状物は、酸変性ポリオレフィン樹脂の液状物に、ポリビニルアルコールや架橋剤を添加することにより、調製することができる。
酸変性ポリオレフィン樹脂の液状物としては、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を用いることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂を水性分散化する方法は、特に限定されないが、例えば、国際公開第02/055598号に記載された方法が挙げられる。
水性媒体中の酸変性ポリオレフィン樹脂の分散粒子径は、他の成分との混合時の安定性および混合後の保存安定性の点から、数平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。このような粒径は、国際公開第02/055598号に記載の製法により達成可能である。なお、酸変性ポリオレフィン樹脂の数平均粒子径は動的光散乱法によって測定される。
水性分散体の固形分含有率は、特に限定されるものではないが、水性分散体の粘性を適度に保つためには、1〜60質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。
【0046】
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、ポリビニルアルコールと、架橋剤とを混合して得られる樹脂層形成用液状物の固形分含有率は、積層条件、目的とする厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではない。しかし、液状物の粘性を適度に保ち、かつ、均一な樹脂層を形成させるためには、2〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましい。
樹脂層形成用液状物には、その性能が損なわれない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤などを添加することもできる。
【0047】
本発明において、上記樹脂層形成用液状物をポリエステルフィルムに塗布する方法としては、公知の方法、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等を挙げることができる。
本発明においては、樹脂層形成用液状物をポリエステルフィルムの製造工程中に塗布し、ポリエステルフィルムと共に乾燥、配向延伸および熱固定処理する工程を含むことが好ましい。製造工程中に塗布することにより、ポリエステルフィルム表面の配向結晶化の程度が小さい状態で樹脂層を塗布することができるため、ポリエステルフィルムと樹脂層の密着力が向上する。また、ポリエステルフィルムを緊張した状態で樹脂層により高温の熱処理できることで、ポリエステルフィルムの品位を低下させることなく、離型性や残存接着力を向上させることができる。さらに、オフラインでの塗布に比べると、製造工程を簡略化することができるばかりか、樹脂層を薄膜化によりコスト面でも有利である。なお、逐次二軸延伸法を採用する場合には、一軸方向に延伸された基材ポリエステルフィルムに前記液状物を塗布し、その後、基材ポリエステルフィルムを前記方向と直交する方向にさらに延伸することが、簡便さや操業上の理由から好ましい。
【0048】
本発明において、樹脂層の厚みは、0.01〜1μmであることが好ましく、0.03〜0.7μmであることがより好ましく、0.05〜0.5μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚みが0.01μm未満であると、十分な離型性が得られず、1μmを超えると、離型性は飽和して改善しないばかりか、凝集力を低下させ、相手材に移行しやすくなる。
【0049】
本発明では、ポリエステルフィルムの表面粗さを上記範囲にし、かつ、その片面に樹脂層を形成することにより、樹脂層表面の平滑性を著しく向上させることができる。理由は不明であるが、樹脂層は、ポリエステルフィルムの表面にてナノオーダーの微小突起を形成することが確認できており、その結果、相手材の表面が一定以上の凹凸を有していれば、樹脂層表面の凹凸を少なくしても十分な滑り性が得られるものと思われる。また、微小突起の効果により、樹脂層表面が平滑な状態で種々のロールを通過した際のスリ傷の発生も少ない。
【0050】
樹脂層側の表面形状は特に限定されないが、表面粗さSRa(中心線平均粗さ)が10nm以下、表面粗さSRz(十点平均粗さ)が3.5μm以下、表面粗さSPc(ピークカウント)が100pks/mm以下あることが好ましく、SRaが1〜5nm、SRzが3.0μm以下、SPcが50pks/mm以下であることが特に好ましい。
【0051】
本発明において、ポリエステルフィルムの滑り性は、樹脂層を積層することで顕著に向上する。通常、滑り性の指標となる、樹脂層とポリエステルフィルムとの間の静摩擦係数が0.4を超えると、操業上の不具合が発生し易いが、本発明において積層フィルムは、静摩擦係数0.4未満の値を容易に達成することができる。特に静摩擦係数が0.35以下であれば操業上の問題は発生せずより好ましく、0.3以下であれば滑り性に優れた易滑性フィルムと言え、最も好ましい。
【0052】
本発明のフィルムロールは、ポリエステルフィルムの片面に樹脂層が形成されてなる積層フィルムが巻取られたものである。フィルムロールの巻芯として、円筒状紙管、プラスチック製円筒管あるいは金属製円筒管を用いることができる。
【0053】
本発明において、積層フィルムは、速度100〜400m/分で巻取られる。巻取り速度がこの範囲より低いと操業性が低下する。一方、巻取り速度がこの範囲より高いと、積層フィルムを巻取る際に、ロール内に巻込まれる空気の量が増え、さらに巻込まれた空気が十分に抜ける前に、その上に数十枚のフィルムが巻かれて厚いフィルム層が形成されることで、ロール内に空気が抜け残ったり、また、抜ける際にロール形状が変化したりすることで、フィルムロールの品位や外観を低下させることがある。
【0054】
本発明のフィルムロールの巻長には特に制限はないが、本発明では平滑性フィルムの巻取り性を向上し、より高速での巻取りを可能にすることから、1000m以上の巻長のロールにおいて、工業的な効果を得ることができ、とくに4000m以上の巻長のロールにおいて特に有効である。
またフィルムロールの幅には特に制限はないが、フィルムの巻取り性がロール品位により顕著に影響する800mm以上の広幅のフィルムにおいて特に有効である。
【0055】
本発明のフィルムロールは、表層の巻硬度を500以上とすることができる。表層の巻硬度が500未満では、ロール内のフィルム層間に含まれる空気の量が多く、ロールの移動などのハンドリングに際して、フィルムが軸方向にずれることがあるほか、長期間の保存などに際して、空気が抜けたり、フィルムの自重による荷重がかかったりすることでロールが型崩れしやすくなる。表層の巻硬度の上限は特にないが、800以上になるように硬く巻くことよる効果はない。
【実施例】
【0056】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0057】
(1)表面粗さ
TAYLOR/Hobson社製タリサーフCCI6000を使用し、下記の条件で表面粗さSRa(中心線平均粗さ、nm)、表面粗さSRz(十点平均粗さ、μm)、表面粗さSPc(ピークカウント、個/mm)を測定し、10点平均して求めた。
測定長:0.9mm×0.9mm
カットオフ:ロバストガウシアンフィルタ、0.25mm
ピークカウントレベル:1.0μm
【0058】
(2)巻硬度
巻硬度の測定にはPERCEQ社製PAROTESTER2を用い、ロール周方向の任意の位置で、幅方向端部から40mmの位置より80mm間隔で各ロール10点測定し、平均値で評価した。
【0059】
(3)外観
フィルムロールの外観は、ロールに巻込まれた空気からなる気泡状のニキビであって、長径が1mm以上の大きさのものが目視できたロールを×、目視できなかったロールを○と評価した。
【0060】
実施例1
<酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造>
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの(アルケマ社製ボンダインLX−4110、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸=91/7/2質量%、MFR:5g/10分)、90.0gのIPA、3.0gのTEAおよび147.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとし、系内温度を140〜145℃に保って、60分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)した。これによって、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を得た(固形分濃度:20質量%、IPA:30質量%)。数平均粒子径は100nm以下であった。
【0061】
<樹脂層形成用液状物U−1の製造>
上記方法で製造した酸変性ポリオレフィン樹脂LX−4110の水性分散体と、ポリビニルアルコール水溶液(日本酢ビ・ポバール社製VC−10、重合度1,000、固形分濃度10質量%)と、オキサゾリン化合物の水性溶液(日本触媒社製エポクロスWS−700、固形分濃度25質量%)とを、各成分の固形分質量比率が100:300:5になるように混合し、その後、水で希釈して固形分8質量%の液状物U−1を得た。
【0062】
<積層フィルムの製造>
シリカ粒子(日揮触媒社製OSCAL、粒径1.2μm)を含有量が0.030質量%になるように添加したポリエチレンテレフタレート(日本エステル社製UT−UBR、重合触媒三酸化アンチモン、固有粘度0.62、ガラス転移温度78℃、融点255℃)をスクリュー径90mmの押出機に投入して280℃で溶融後、厚みが380μmとなるよう調整してTダイ出口より押出し、急冷固化して未延伸フィルムを得た。
この未延伸シートをロール式縦延伸機で85℃の条件下、3.5倍に延伸し、その後、樹脂層形成用液状物U−1を、120メッシュのグラビアロールで2.5g/mとなるように塗布後、50℃の熱風乾燥炉で20秒通過させた。その後連続的にシート端部をフラット式延伸機のクリップに把持させ、100℃の条件下、横4.5倍に延伸を施し、その後、横方向の弛緩率を3%として、230℃で3秒間の熱処理を施して、厚さ25μmの2軸延伸ポリエステルフィルム上に樹脂層が形成された積層フィルムを得た。
【0063】
<フィルムロールの巻取り>
表面にハードクロムメッキを施した炭素繊維強化プラスチックを最大高さSRmaxが7μmとなるように粗面加工した接圧ローラを用いて、厚み25μm、巾800mmの上記積層フィルムを、巻取り張力12kgf/m、巻取り接圧12kgf/m、巻取り速度200m/分の条件で、長さ500mのロールを巻取った。接圧ロールの摩擦係数は0.3であり、フィルムの抱き角度は120゜とした。
【0064】
実施例2、3
積層フィルムの製造工程において、シリカ粒子の含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、フィルムロールを巻取った。なお、巻取りは、100m/分(実施例2)、300、400m/分(実施例3)の速度で行った。
【0065】
実施例4
樹脂層形成用液状物の製造工程において、酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール、オキサゾリン化合物の各成分の固形分質量比率が、100:43:7.1となるように混合し、その後、水で希釈して固形分8質量%の液状物U−2を製造し、また積層フィルムの製造工程において、シリカ粒子(扶桑化学社製SP−1B、粒径1.0μm)の含有量が0.069質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、フィルムロールを巻取った。なお、巻取りは、200m/分の速度で行った。
【0066】
実施例5
樹脂層形成用液状物の製造工程において、酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール、オキサゾリン化合物の各成分の固形分質量比率が、100:20:5となるように混合し、その後、水で希釈して固形分8質量%の液状物U−3を製造した以外は、実施例1と同様にして、フィルムロールを巻取った。なお、巻取りは、200m/分の速度で行った。
【0067】
実施例6
樹脂層形成用液状物の製造工程において、酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール、オキサゾリン化合物の各成分の固形分質量比率が、100:500:5となるように混合し、その後、水で希釈して固形分8質量%の液状物U−4を製造した以外は、実施例1と同様にして、フィルムロールを巻取った。なお、巻取りは、200m/分の速度で行った。
【0068】
比較例1
積層フィルムの製造工程において、ポリエステルフィルムに樹脂層形成用液状物を塗布しない以外は、実施例1と同様にして、フィルムロールを巻取った。なお、巻取りは、50、100、200m/分の速度で行った。
【0069】
比較例2
積層フィルムの製造工程において、シリカ粒子(水澤化学社製ミズカシルP73、粒径2.3μm)の含有量が0.055質量%となるように変更し、またポリエステルフィルムに樹脂層形成用液状物を塗布しない以外は、実施例1と同様にして、フィルムロールを巻取った。なお、巻取りは、300m/分の速度で行った。
【0070】
比較例3、4
積層フィルムの製造工程において、シリカ粒子の粒径と含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、フィルムロールを巻取った。なお、巻取りは、300m/分(比較例3)、100m/分(比較例4)の速度で行ない、また比較例4において、シリカ粒子は日揮触媒社製OSCAL(粒径0.16μm)を用いた。
【0071】
比較例5
樹脂層形成用液状物の製造工程において、酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール、オキサゾリン化合物の各成分の固形分比率が、100:600:5となるように混合し、その後、水で希釈して固形分8%の液成物U−4を製造したところ、製造後約2時間でゲル状にポリビニルアルコールが析出し、フィルムに均一に塗布することができなかった。
【0072】
実施例、比較例で製造した積層フィルムの構成とフィルムロールの評価結果とを表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例1〜6では、いずれも100〜400m/分の速度で、巻硬度が550〜720であるフィルムロールを巻取ることができ、ロール表面にニキビはなく、外観に優れるものであった。実施例のフィルム間で表面平滑性に優劣があったが、いずれも平滑性フィルムとしての要求を満たすレベルであった。
【0075】
比較例1において、樹脂層を形成していないポリエステルフィルムを200m/minの速度で巻取って得られたロールは、ロール内フィルム層間に残った空気の層のためロール表面の巻硬度300とやわらかく、巻取ったロールを装置から外す際に、作業者がロールに触れることで容易にフィルムがずれて、ロール形状が崩れた。また、ロール全幅のフィルム層間に空気層が存在した。
またフィルムを100m/分の速度で巻取って得られたロールも、ロール内フィルム層間に残った空気の層のためロール表面の巻硬度440とやわらかく、巻取ったロールを装置から外す際にフィルムがずれてロール形状が崩れた。また、ロール表面でニキビが確認された。
巻速度を50m/分に低下することで、巻硬度500以上のロールを得ることができたが、ロール表面にニキビが確認された。
【0076】
比較例2、3において、表面平滑性に劣るフィルムを用いた場合、300m/分の速度で巻硬度500以上のロールを得ることができ、ロール表面にニキビも確認されなかったが、このフィルムは、表面平滑性の要求を満たすものではなかった。
【0077】
比較例4のフィルムは表面平滑性において特に優れていたが、100m/分の速度で巻取って得られたロールは、ロール内フィルム層間に残った空気の層のためロール表面の巻硬度480とやわらかく、また、ロール表面にもサイズは比較的小さいものの、ニキビが確認された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの片面に樹脂層が形成されてなる積層フィルムであり、ポリエステルフィルムの表面粗さSRzが1.0〜4.0μmであり、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ポリビニルアルコール5〜500質量部と、架橋剤1〜50質量部とを含有し、積層フィルムが速度100〜400m/分で巻取られてなるフィルムロールの表層の巻硬度が500以上であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
ポリエステルフィルムの片面に樹脂層が形成されてなる積層フィルムが巻取られてなるフィルムロールであり、ポリエステルフィルムの表面粗さSRzが1.0〜4.0μmであり、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ポリビニルアルコール5〜500質量部と、架橋剤1〜50質量部とを含有し、フィルムロールの表層の巻硬度が500以上であることを特徴とするフィルムロール。
【請求項3】
ポリエステルフィルムの表面粗さSRaが5〜20nmであることを特徴とする請求項2記載のフィルムロール。
【請求項4】
ポリエステルフィルムの表面粗さSPcが30〜250pks/mmであることを特徴とする請求項2または3記載のフィルムロール。
【請求項5】
請求項2記載のフィルムロールを製造するための方法であって、表面粗さSRzが1.0〜4.0μmであるポリエステルフィルムの片面に、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、ポリビニルアルコール5〜500質量部と、架橋剤1〜50質量部とを含有する樹脂層が形成された積層フィルムを、速度100〜400m/分で巻取ることを特徴とするフィルムロールの製造方法。



【公開番号】特開2013−86263(P2013−86263A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225399(P2011−225399)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】