説明

積層フィルムおよびそれを用いた成型用シート

【課題】
本発明は、これらの問題を鑑み、離型性、成形性、印刷性に優れ、更には、コーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに製造可能な積層フィルムを提供しようとするものである。
【解決手段】
ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)と、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える層(B層)とを少なくとも有する積層フィルムであって、
該積層フィルムは、少なくとも一方の最表層にA層を有し、
該A層は、ポリオレフィン樹脂を含み、A層に含まれるポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂との質量比が、ポリエステル樹脂/ポリオレフィン樹脂=99.9/0.1〜50/50であって、
100℃で100%伸長時の応力が、0.5〜5MPaであることを特徴とする積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性、成形性、印刷性に優れた積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
離型性を有するフィルムは、各種表面保護フィルム、および転写箔などで幅広く用いられている。表面保護フィルムとは、主として建材用や光学用途用の樹脂部品、金属製品、ガラス製品等の被着体へ貼付して使用し、これらの輸送、保管や加工時の傷付きまたは異物混入を防ぐ役割を果たしている。これらの表面保護フィルムは、保護フィルムとして使用している間は被着体との適度な密着性が、製品使用時には保護フィルムを容易に取り外せるような適度な離型性が求められており、被着体が立体的な形状を持つ成形体等の保護の場合は、密着性、離型性に加えて表面保護フィルムの成型性が求められる。
【0003】
また、転写箔とは、基材であるフィルムの片面に、順次、易接着層、離型層/クリア層、印刷層および接着層などを積層して構成されているものであり(離型層、クリア層間で剥離)、これら転写箔の転写方法としては、転写装置を用いて加熱ロールで被転写物に転写する、いわゆるホットスタンピング方法や、射出成形機やブロー成形機の金型に接着層が成形樹脂と接するように転写材をセッティングした後、成形樹脂を射出またはブローし、成形と同時に転写し、冷却後金型より成形品を取り出すインモールド成形に代表される、いわゆる成形同時転写方法などが一般的に知られている。インモールド成形法は成形と転写を同時に行えるため、複雑な絵柄の付与に非常に有用であり、家庭用電化製品、自動車部材、台所用品、化粧容器、玩具類および文具類などに使用されるプラスチック成形品で広く使用されている。
【0004】
このように、各種表面保護フィルム、および転写箔などで用いられるフィルムは、成型性、離型性が必要とされているため、成型性の良好なフィルム(ポリエステル樹脂からなるフィルムなど)に離型性を付与させたフィルムがよく用いられている。
離型性を付与させる方法としては、離型性の良好な樹脂をフィルムにコーティングする方法(特許文献1)、ポリエステルフィルムなどの基材フィルム上に、離型性の良好なポリオレフィン系樹脂を押出ラミネートにより積層させる方法(特許文献2)、ポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂をブレンドして共押出する方法(特許文献3)、ポリエステルフィルムの表層に離型剤(ワックス)を含有させる方法(特許文献4)などが開示されており、各種フィルムの離型性向上が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−138668号公報
【特許文献2】特開2000−037827号公報
【特許文献3】特開2009−132806号公報
【特許文献4】特開2007−76026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1ではコーティング工程が、特許文献2では押出ラミ工程がフィルム製造時に必要となるため、製造コストが高くなるといった問題があった。
【0007】
また、特許文献3については、ポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂をドライブレンドした後に押出成形でフィルムを作製するため、製造コストは抑えられるが、単層構成のため、成型性と離型性の両立が困難であった。
【0008】
特許文献4については、製造コストが抑えられ、成型性、離型性がともに優れているが、一部の成型条件下(高温、長時間)では、ポリエステルフィルムに含有される離型剤(ワックス)のブリードアウトが発生し、離型性の低下や、保護体、被転写体の外観不良が見られる場合があった。
【0009】
本発明は、これらの問題を鑑み、離型性、成形性、印刷性に優れ、更には、コーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに製造可能な積層フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
1) ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)と、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える層(B層)とを少なくとも有する積層フィルムであって、
該積層フィルムは、少なくとも一方の最表層にA層を有し、
該A層は、ポリオレフィン樹脂を含み、A層に含まれるポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂との質量比が、ポリエステル樹脂/ポリオレフィン樹脂=99.9/0.1〜50/50であって、
100℃で100%伸長時の応力が、0.5〜5MPaであることを特徴とする積層フィルム。
2) 前記A層の結晶性パラメータΔTcgが11℃以下であることを特徴とする、前記1)に記載の積層フィルム。
3) 前記ポリオレフィン樹脂が、変性ポリオレフィン樹脂及びその他のポリオレフィン樹脂からなることを特徴とする、前記1)又は2)に記載の積層フィルム。
4) 前記変性ポリオレフィン樹脂と前記その他のポリオレフィン樹脂との質量比が、変性ポリオレフィン樹脂/その他のポリオレフィン樹脂=0.1/99.9〜40/60であることを特徴とする、前記3)に記載の積層フィルム。
5) 前記1)〜4)のいずれかに記載の積層フィルムを含む成型用シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、離型性、成形性、印刷性に優れた積層フィルムを、コーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに得ることができる。より具体的には、離型性については、被転写体との離型性に優れるため離型工程での剥離痕が発生しにくい。成形性については、深絞り性に優れているため、複雑な表面形状への追従が可能である。印刷性については、印刷インクに含有される溶剤、特に酢酸エチル、メチルエチルケトンなどに対しての耐溶剤性に優れるため、各種印刷インクを用いることができる。本発明の積層フィルムは、インモールド転写などの加飾工法で転写箔として好適に用いられ、自動車内外装部品、浴室パネル、家電製品用部品、包装容器などの用途で好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、離型性、成形性、印刷性に優れ、更には、コーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに製造可能な積層フィルムについて鋭意検討した結果、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)と、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える層(B層)とを少なくとも有する積層フィルムであって、該積層フィルムは、少なくとも一方の最表層にA層を有し、該A層は、ポリオレフィン樹脂を含み、A層に含まれるポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂との質量比が、ポリエステル樹脂/ポリオレフィン樹脂=99.9/0.1〜50/50であって、100℃で100%伸長時の応力が、0.5〜5MPaであることを特徴とする積層フィルムとすることで、かかる課題を一気に解決することを究明したものである。
以下、本発明の積層フィルムについて具体的に説明する。
【0013】
(ポリエステル樹脂)
本発明の積層フィルムのA層及びB層の主成分であるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とグリコール成分とで基本的に構成されるポリマーからなる。
【0014】
かかるジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、マロン酸、1,1−ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバチン酸、デカメチレンジカルボン酸などを用いることができる。
【0015】
また、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、スピログリコールなどの脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノール−A、ビスフェノール−Sなどの芳香族グリコールといったようなグリコール成分やポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体等を用いることができる。
【0016】
本発明の積層フィルムのA層及びB層の主成分であるポリエステル樹脂は、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合PET(PETG)、スピログリコール共重合PET、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリヘキサメチレンテレフタレート(PHT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレンナフタレート(PPN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリヒドロキシベンゾエート(PHB)等が挙げられる。これらのポリエステルは、2種類以上を併用することもできる。
【0017】
(積層フィルム)
本発明の積層フィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)と、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える層(B層)とを少なくとも有し、少なくとも一方の最表層にA層を有する構成であることが重要である。後述するように、本発明のA層は印刷性に優れるため、本発明の積層フィルムを成型用シートとして使用した際に、A層上に他の層を形成しても層に劣化が生じにくい利点がある。そのため、本発明の積層フィルムは、少なくとも一方の最表層にA層を有することが重要である。
【0018】
ここで、結晶性パラメータΔTcgとは、積層フィルムの各層を削り取った粉末を示差走査熱量測定(DSC)した際に、昇温過程で見られる冷結晶化温度(Tc)とガラス転移温度(Tg)との差である。
【0019】
本発明の積層フィルムにおけるA層は、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層を指す。なお、一般にΔTcgの値が小さいほど結晶化しやすい。A層の結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である事により、A層の印刷性が向上する事になるため、該A層を少なくとも一方の最表層に有する本発明の積層フィルムの印刷性が向上する事となる。そのため、積層フィルムのA層の側にメチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチルなどの有機溶媒が接触しても、有機溶媒の侵食による積層フィルムの平面性悪化を防ぐことが可能となる。そのため、有機溶剤が含有されている印刷インクを積層フィルムのA層に印刷したり、有機溶媒に溶解されているクリア層を積層フィルムのA層にコーティングしたりしても、積層フィルムの平面性が保たれ、保護体、被転写体の外観不良を防ぐことができる。
【0020】
一方で、本発明の積層フィルムにおけるB層は、ポリエステル樹脂を主成分とする、ΔTcgが35℃を超える層を指す。本発明の積層フィルムはこのようなB層を少なくとも有するため、本発明の積層フィルムの成形性は低下することがなく、本発明の積層フィルムを成形体保護フィルムや転写箔として用いる場合に、成形体や被転写体への高い追従性が保持される。
【0021】
本発明の積層フィルムは、A層のΔTcgが35℃以下であることが重要であるが、印刷性を高める点から、A層のΔTcgは25℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましく、11℃以下が特に好ましい。A層のΔTcgが11℃以下の場合、印刷性が特に優れることから、A層のΔTcgは11℃以下が特に好ましい。また、ΔTcgの下限としては、製膜性の観点から7℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
【0022】
また、本発明の積層フィルムは、B層のΔTcgが35℃を超えることが重要であるが、成形性を高める点から、B層のΔTcgは50以上がより好ましく、70℃以上が特に好ましい。また、ΔTcgの製膜性の観点から、上限としては、90℃以下が好ましい。
【0023】
本発明の積層フィルムのA層の結晶性パラメータΔTcgを35℃以下とし、積層フィルムの印刷性を向上させるための方法としては、A層の主成分であるポリエステル樹脂として、高結晶性のポリエステル樹脂(以下、高結晶性ポリエステル樹脂という)を使用して、積層フィルムを無延伸で製膜する方法などがある。またB層の結晶性パラメータΔTcgを35℃を超える値とするための方法としては、B層の主成分であるポリエステル樹脂として、高結晶性ポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂(以下、その他のポリエステル樹脂という)を使用する方法などが挙げられる。中でも、A層と、B層を容易に積層でき、かつ積層フィルムの成形性も良好になる点から、本発明の積層フィルムは、高結晶性ポリエステル樹脂を主成分とする層(A層)と、その他のポリエステル樹脂を主成分とする層(B層)とを、無延伸状態で共押出により積層する方法により得ることが好ましく用いられる。
【0024】
ここで、A層の主成分のポリエステル樹脂として好適な、高結晶性ポリエステル樹脂とは、結晶化パラメータΔTcgが35℃以下の樹脂を指す。具体的には、高結晶性ポリエステル樹脂としては、PPT、PBT、PPNおよびPBNなどが挙げられる。これらの中でも、結晶性、コストの点からPBTが最も好ましい。
【0025】
一方で、B層の主成分のポリエステル樹脂として好適な、その他のポリエステル樹脂とは、結晶化パラメータΔTcgが35℃を越える樹脂を指す。具体的には、その他のポリエステル樹脂としては、PET、1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合PET(PETG)、スピログリコール共重合PET、およびこれらを組み合わせた状態が好ましく挙げられるが、詳細は後述する。なお、本発明における「ΔTcgが35℃を超える樹脂」とは、結晶化パラメータΔTcgが観測されない樹脂も含まれることとする。
【0026】
(A層)
本発明の積層フィルム中の、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)は、層としてのΔTcgを35℃以下にするために、該ポリエステル樹脂が高結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0027】
ここで、A層がポリエステル樹脂を主成分とするとは、A層の全成分100質量%に対して、ポリエステル樹脂が50質量%以上99.9質量%以下の態様を意味する。よってA層について好ましくは、A層の全成分100質量%に対して、高結晶性ポリエステル樹脂が50質量%以上99.9質量%以下の態様である。
【0028】
高結晶性ポリエステル樹脂は、A層の全成分100質量%に対して70質量%以上99.9質量%以下含有されることがより好ましく、90質量%以上99.9質量%以下含有されることが特に好ましい。これらの高結晶性ポリエステル樹脂が、層の全成分100質量%に対して50質量%未満であると、該層のΔTcgを35℃以下にすることができない場合があり、そのため該層を有する積層フィルムの印刷性が不十分となる場合がある。
【0029】
(B層)
本発明の積層フィルム中の、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える層(B層)は、層としてのΔTcgを35℃より大きくするために、該ポリエステル樹脂がその他のポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0030】
ここで、B層がポリエステル樹脂を主成分とするとは、B層の全成分100質量%に対して、ポリエステル樹脂が50質量%以上100質量%以下の態様を意味する。よってB層について好ましくは、B層の全成分100質量%に対して、その他のポリエステル樹脂が50質量%以上100質量%以下の態様である。
【0031】
その他のポリエステル樹脂は、B層の全成分100質量%に対して70〜100質量%含有されることがより好ましく、90〜100質量%含有されることが特に好ましい。これらのその他のポリエステル樹脂が、層の全成分100質量%に対して50質量%未満であると、該層のΔTcgを35℃を越える値にすることができない場合があり、そのため該層を有する積層フィルムの成形性が不十分となる場合がある。
【0032】
なお、本発明における「ΔTcgが35℃を超える層」とは、層のΔTcgが観測されない場合も含まれることとする。
【0033】
本発明の積層フィルムのB層に好適に用いられる、その他のポリエステル樹脂としては、前述の通り、PET、1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合PET(PETG)、スピログリコール共重合PET、およびこれらを組み合わせた状態が好ましく挙げられる。なおB層は、ポリエステル樹脂を主成分として、かつ結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える限りは特に限定されないため、B層としては高結晶性ポリエステル樹脂を含有しても構わない。そのためB層の主成分であるポリエステル樹脂は、その他のポリエステル樹脂と高結晶性ポリエステル樹脂との併用が好ましく。B層として特に好ましくは、その他のポリエステル樹脂であるPET、1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合PET(PETG)、およびスピログリコール共重合PETからなる群より選ばれる少なくとも1つをB層全体の50質量%以上99質量%未満含み、高結晶性ポリエステル樹脂である、PPT、PBT、およびPPNからなる群より選ばれる少なくとも1つをB層全体の1質量%以上50質量%以下含む態様である。
【0034】
1つの層に2種類以上のポリエステル樹脂を組み合わせる方法としては、例えば、2種類以上のポリマーペレットを配合して押出機に供給し、押出機内で混練して任意の成分構成のポリエステルを得る方法(ドライブレンド法)、2種類以上のモノマーを用いて重合することによって任意の成分のポリエステルを得る方法(共重合法)、ドライブレンド法と共重合法を組み合わせた方法といったような公知の方法によって得ることができる。ポリマーの製造コスト、生産性および耐熱性の観点より、ドライブレンド法を用いることが好ましい。
【0035】
(製造時の反応触媒、着色防止剤)
本発明の積層フィルムのA層やB層の主成分となるポリエステル樹脂を製造する際には、従来から用いられている反応触媒および着色防止剤を使用することができる。反応触媒としては、例えばアルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物等を用いることができる。好ましくは、ポリエステル樹脂の製造が完結する以前の任意の段階において、反応触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物またはチタン化合物を添加することが好ましい。反応触媒を添加する方法としては、例えば、反応触媒の粉体をそのまま添加する方法や、ポリエステル樹脂の出発原料であるグリコ−ル成分中に反応触媒を溶解させて添加する方法等を用いることができる。
【0036】
前記アンチモン化合物としては、特に限定されないが、例えば、三酸化アンチモンなどのアンチモン酸化物、酢酸アンチモンなどを用いることができる。
前記チタン化合物としては、特に限定されないが、テトラエチルチタネート、テトラブチルチタネートなどのアルキルチタネート化合物、またチタンと珪素、ジルコニウムおよびアルミニウムから選ばれる元素との複合酸化物などが好ましく使用できる。
【0037】
また、着色防止剤としては、例えばリン化合物等を用いることができる。かかるリン化合物の含有方法としては、重合時に添加する方法、押出機にポリマーと共に供給して添加する方法のいずれでも構わない。一般に重合時に多量のリン化合物を添加すると重合反応を阻害することから、ポリエステル樹脂と共に押出機に供給する方法が好ましい。
【0038】
(ポリエステル樹脂の粘度)
本発明の積層フィルムに用いられるポリエステル樹脂の固有粘度は、それぞれ0.6〜1.3dl/gの範囲にあるものを使用することが好ましい。さらに好ましくは0.65〜1.2dl/g、特に好ましくは0.7〜1.1dl/gの範囲である。固有粘度が0.6dl/g未満であると、積層フィルムの成形性が低下する場合がある。また、固有粘度が1.3dl/gを越えると、生産性が低下したり、積層フィルムの厚み斑が顕著となり、結果として積層フィルムにも厚み斑が生じやすい。
【0039】
(ポリオレフィン樹脂)
本発明の積層フィルム中の、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)は、ポリオレフィン樹脂を含み、A層に含まれるポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂との質量比が、ポリエステル樹脂/ポリオレフィン樹脂=99.9/0.1〜50/50であることが重要である。A層がポリオレフィン樹脂を含有し、A層のポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂との質量比を上記範囲とすることで、本発明の積層フィルムの離型性、成形性、印刷性を良好にすることができる。より好ましくは、A層に含まれるポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂との質量比が、ポリエステル樹脂/ポリオレフィン樹脂=99/1〜60/40であり、特に好ましくは、ポリエステル樹脂/ポリオレフィン樹脂=95/5〜70/30である。
【0040】
本発明の積層フィルム中の、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)に含まれるポリオレフィン樹脂は、その一部が変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。つまり、A層に含有させるポリオレフィン樹脂としては、変性ポリオレフィン樹脂とその他のポリオレフィン樹脂とを併用することが好ましい。A層に含まれるポリオレフィン樹脂として、変性ポリオレフィン樹脂とその他のポリオレフィン樹脂とを併用すると、A層の主成分であるポリエステル樹脂との相溶性が向上するために好ましい。
【0041】
(変性ポリオレフィン樹脂とその他のポリオレフィン樹脂の割合)
A層に含有されるポリオレフィン樹脂として、変性ポリオレフィン樹脂とその他のポリオレフィン樹脂とを併用する場合には、変性ポリオレフィン樹脂とその他のポリオレフィン樹脂の質量比が、変性ポリオレフィン樹脂/その他のポリオレフィン樹脂=0.1/99.9〜40/60であることが好ましく、より好ましくは0.5/99.5〜30/70、特に好ましくは1/99〜25/75である。質量比0.1/99.9(=変性ポリオレフィン樹脂/その他のポリオレフィン樹脂)より変性ポリオレフィン樹脂の割合が小さいと、A層中のポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂との相溶性が悪化し、積層フィルムの透明性が不十分になる場合がある。また、質量比40/60(=変性ポリオレフィン樹脂/その他のポリオレフィン樹脂)より変性ポリオレフィン樹脂の割合が大きいと、押出時に変性ポリオレフィン樹脂の分解が起こったり、ゲル状物が発生したりする場合がある。
【0042】
(変性ポリオレフィン樹脂)
本発明における変性ポリオレフィン樹脂とは、ポリオレフィン樹脂の片末端、両末端及び内部の少なくともいずれかに一つ以上の極性基を含有するポリオレフィン樹脂のことを指す。ここで、極性基とは、酸素原子、窒素原子など電気陰性度の大きな原子を含む官能基であり、具体的には、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などの官能基、およびそれら官能基を含む置換基である。
【0043】
かかる変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メチルメタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体などのような極性基を含有するポリオレフィン系共重合樹脂を挙げることができる。また別の変性ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、その他α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、ブロック共重合体等のポリオレフィン系樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸によって変性、もしくは樹脂の酸化分解によって変性させた、変性ポリオレフィン樹脂を使用することができる。
【0044】
なお、α−オレフィンモノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1などが挙げられ、このようなα−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体としては、例えば、プロピレン共重合体では、プロピレンと上記α−オレフィンモノマー中からプロピレンを除く、1種以上のα−オレフィンモノマーとのランダムに共重合されたポリマーであって、公知の方法によりプロピレンを除く1種以上のα−オレフィンモノマーを2〜15質量%の範囲で共重合したポリプロピレンである。
【0045】
これらの変性ポリオレフィン樹脂としては、不飽和ジカルボン酸による変性、もしくは樹脂の酸化分解により変性されたポリオレフィン樹脂であることが好ましく、不飽和ジカルボン酸により変性された変性ポリオレフィン樹脂がより好ましい。具体的には低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリメチルペンテン、その他α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、ブロック共重合体等のポリオレフィン系樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸で変性した変性ポリオレフィン樹脂であることが、A層の主成分であるポリエステル樹脂との相溶性の点から好ましい。不飽和ジカルボン酸としては、無水マレイン酸が特に好ましく、つまりポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸で変性した変性ポリオレフィン樹脂が特に好ましい。
【0046】
このような不飽和ジカルボン酸による変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、三洋化成(株)製“ユーメックス”、三井化学(株)製“アドマー”、三菱化学(株)製“モディック”、東洋化成(株)製“トーヨータック”などの各種樹脂が挙げられる。また、樹脂の酸化分解により変性された変性ポリオレフィン樹脂としては、三洋化成(株)製“ビスコール”、“サンワックス”などが挙げられる。
【0047】
(変性ポリオレフィン樹脂の酸価)
本発明の積層フィルム中のA層に含有されるポリオレフィン樹脂に変性ポリオレフィン樹脂が含有される場合、変性ポリオレフィン樹脂の酸価は、1〜80であることが好ましく、より好ましくは2〜60、特に好ましくは3〜40である。変性ポリオレフィン樹脂の酸価が1未満であると、A層に含有されるポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂の相溶性が不十分な場合があり、また、変性ポリオレフィン樹脂の酸価が80を超えると、変性ポリオレフィン樹脂の耐熱性が不十分となり、押出時に変性ポリオレフィン樹脂の分解が起こったり、ゲル状物が発生したりする場合がある。なお、ここでの酸価はJIS K0070(1992年式)による値である。
【0048】
(変性ポリオレフィン樹脂の分子量)
変性ポリオレフィン樹脂の数平均分子量は、1,000〜100,000が好ましく、より好ましくは2,000〜40,000である。数平均分子量が1,000未満では、樹脂の耐熱性が不十分となり、100,000以上では、A層に含有されるポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂の相溶性が不十分な場合がある。なお、ここでの数平均分子量はGPCによってポリスチレン換算で求めることができる。
【0049】
(変性ポリオレフィン樹脂の融点)
変性ポリオレフィンの融点は、110〜170℃の範囲が好ましく、より好ましくは120〜165℃、さらに好ましくは130℃〜160℃である。変性ポリオレフィンの融点が100℃より低い場合、積層フィルムの耐熱性が不十分な場合があり、変性ポリオレフィンの融点が170℃を超える場合、A層に含有されるポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂の相溶性が不十分な場合がある。
【0050】
(その他のポリオレフィン樹脂)
その他のポリオレフィン樹脂は、変性ポリオレフィン樹脂以外のポリオレフィン樹脂を意味するものとする。その他のポリオレフィン樹脂として具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー等のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
【0051】
また、その他のポリオレフィン樹脂として、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1などのα−オレフィンモノマーからなる重合体、該α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、該α−オレフィンモノマーからなるブロック共重合体なども使用することができる。
【0052】
このようなα−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体としては、例えば、プロピレン共重合体では、プロピレンと上記α−オレフィンモノマー中からプロピレンを除く、1種以上のα−オレフィンモノマーとのランダムに共重合されたポリマーであって、公知の方法によりプロピレンを除く1種以上のα−オレフィンモノマーを2〜15質量%の範囲で共重合したポリプロピレンである。
【0053】
また、前述のα−オレフィンモノマーからなるブロック共重合体としては、例えば、プロピレン・エチレン・ブロック共重合体では、99〜70質量%の範囲のプロピレンと1〜30質量%の範囲のエチレン及び/又はα−オレフィンとからなる共重合体部分と1〜30質量%の範囲のプロピレンと99〜70質量%の範囲のエチレンとからなる共重合体部分とがブロック的に共重合したものを使用することができる。それぞれの共重合成分組成、各ブロックの分子量などは重合段階で制御できる。一般には、特開昭59−115312号に示されるように2段以上の重合方法によって得ることができる。例えば、プロピレン・ブロック共重合体の融点は145〜165℃の範囲である。融点は99〜70質量%の範囲のプロピレンと1〜30質量%の範囲のエチレン及び/又はα−オレフィンとからなる共重合体部分のプロピレン成分量で変化させることができる。また、プロピレン・エチレン・ブロック共重合体中のエチレン量及び/又はα−オレフィン成分の量は、フィルムの耐衝撃性の点で5〜20質量%が好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。
本発明において、ポリオレフィン樹脂の製造方法は、特に限定されものではなく、公知の方法を用いることができ、例えば、ポリプロピレン樹脂においては、ラジカル重合、チーグラー・ナッタ触媒を用いた配位重合、アニオン重合、メタロセン触媒を用いた配位重合などいずれの方法でも用いることができる。
【0054】
(その他のポリオレフィン樹脂のMFR、粘度)
その他のポリオレフィン樹脂は、JIS−K7210(1999)に則って230℃、荷重2.16kgの条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が、1〜100g/10分であることが好ましく、2〜80g/10分であることがより好ましく、4〜60g/10分であることがさらに好ましい。特に好ましくは10〜40g/10分である。その他のポリオレフィン樹脂のMFRが1〜100g/10分の範囲であれば適当な結晶性を有し、本発明の積層フィルムの寸法安定性、耐湿性、表面平滑性が良好となる。また、結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える層(B層)との均一積層性が向上し、フローマークを抑制することができる。
【0055】
その他のポリオレフィン樹脂のMFRが1g/10分より小さいと、溶融粘度が高すぎて押出性が低下しやすくなる。また、その他のポリオレフィン樹脂のMFRが100g/10分を超えると結晶性が高すぎるため、製膜性が大幅に低下したり、積層フィルムの機械特性が大きく低下したりすることがある。また、A層の結晶化が進みすぎ、粗面化することで印刷精度の低下の恐れがある。
【0056】
また、その他のポリオレフィン樹脂の極限粘度[η]は、適当な結晶性を有する点から1.4〜3.2dl/gが好ましく、さらに好ましくは1.6〜2.4dl/gである。[η]が1.4dl/gより小さくなると結晶性が高すぎるため、積層フィルムの脆化を招く懸念があり、3.2dl/gを超えると結晶性が著しく下がり、積層フィルムの耐熱性が低下する場合がある。
【0057】
(その他のポリオレフィン樹脂の融点)
その他のポリオレフィン樹脂は、インク乾燥温度での耐熱性や成形性の点から融点が100〜170℃の範囲が好ましく、より好ましくは120〜165℃、さらに好ましくは130℃〜160℃である。変性ポリオレフィンの融点が100℃より低い場合、積層フィルムの耐熱性が不十分な場合があり、変性ポリオレフィンの融点が170℃を超える場合、積層フィルムの押出性が低下する場合がある。
【0058】
(変性ポリオレフィン樹脂とその他のポリオレフィン樹脂の組合せ)
本発明の積層フィルムのA層を構成するポリオレフィン樹脂が、変性ポリオレフィン樹脂及びその他のポリオレフィン樹脂から構成される場合、変性ポリオレフィン樹脂としては、不飽和ジカルボン酸で変性されたポリプロピレン、エチレン−ポリプロピレン共重合体、及びポリメチルペンテンが、耐熱性、離型性の点から好ましく、中でも、無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、及びポリメチルペンテンが特に好ましい。また、その他のポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、及びポリメチルペンテンが耐熱性、製膜性の点から好ましい。また、エチレン−プロピレン共重合体のエチレン含有率は、耐熱性、製膜性の点からエチレン−プロピレン共重合体100質量%において1〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは、2〜10質量%である。
【0059】
つまり、本発明の積層フィルムの、B層を構成する変性ポリオレフィン樹脂とその他のポリオレフィン樹脂の組合せとしては、その他のポリオレフィン樹脂としてポリプロピレン、エチレン−ポリプロピレン共重合体、またはポリメチルペンテンを使用し、変性ポリオレフィン樹脂として、その他のポリオレフィン樹脂として使用した樹脂を無水マレイン酸で変性させたものを使用した態様が特に好ましい。
【0060】
(積層フィルムの厚み)
本発明の積層フィルムの厚みは、好ましくは10〜600μmの範囲であり、より好ましくは20〜400μm、特に好ましくは40〜300μmである。積層フィルムの厚みが10μmより薄いと、フィルムの剛性、生産安定性および平面性が低下し、さらには成形時にしわなどが入りやすくなり好ましくない。また、積層フィルムの厚みが600μmを超えると、取扱性や成形性の悪化を引き起こす場合がある。
【0061】
本発明の積層フィルムは、印刷性、転写性および成形性の全てを良好にする点から、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)の1層単位の厚みが、積層フィルムの全厚み100%に対して0.1%〜30%の範囲かつ2μm〜120μmであることが好ましく、積層フィルムの全厚み100%に対して0.2%〜20%の範囲かつ4μm〜80μmであることがさらに好ましい。A層の厚みが薄すぎると、耐薬品性、耐熱性が不十分となり、印刷性や転写性が低下する場合がある。一方、A層の厚みが厚すぎると、成形性が不十分な場合がある。また、結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える層(B層)は、1層単位の厚みが積層フィルムの全厚み100%に対して70〜99.9%かつ10μm〜500μmであることが好ましく、80〜99.8%かつ20μm〜400μmであることがさらに好ましい。B層他のポリエステル層の厚みが薄すぎると、成形性が不十分な場合があり、B層の厚みが厚すぎると、耐熱性が低下し、印刷性や転写性が不十分な場合がある。
【0062】
(表面処理)
本発明の積層フィルムは、コロナ放電処理などの表面処理を施すことにより、本発明の積層フィルムを転写箔として使用する際のクリア層など、各種コート剤の塗工性を向上させることが可能である。また、必要に応じてエンボス加工などの成形加工、印刷などを施して使用することもできる。
【0063】
(含有粒子等)
本発明の積層フィルムの各層には、目的や用途に応じて各種の粒子を含有することができる。含有する粒子は、A層、B層に含有されるポリエステル樹脂、及びポリオレフィン樹脂に不活性なものであれば特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。これらの粒子を2種以上添加しても構わない。かかる粒子の含有量は、各層の全成分100質量%に対して0.01〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは0.05〜3質量%である。
【0064】
本発明の積層フィルムに易滑性を付与することが粒子含有の目的であるときは、製造コストや生産性の点より、表面の層のみに粒子を含有することが好ましい。一般に易滑性はフィルム表面の形状に大きな影響を受けるので、表面の層に粒子を含有させることで、易滑性を得ることができる。
【0065】
前記無機粒子の種類としては、特に限定されないが、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの各種硫酸塩、カオリン、タルクなどの各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどの各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの各種酸化物、フッ化リチウムなどの各種塩を使用することができる。
【0066】
また有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウムなどのテレフタル酸塩などが使用される。
【0067】
架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸などのビニル系モノマーの単独重合体または共重合体が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子も好ましく使用される。
【0068】
重合系内で生成させる内部粒子としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等を反応系内に添加し、さらにリン化合物を添加する公知の方法で生成される粒子などが使用される。
【0069】
本発明の積層フィルムの各層には、必要に応じて公知の添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、ポリシロキサンなどの消泡剤、顔料または染料などの着色剤を適量含有することができる。
【0070】
(帯電防止剤)
本発明の積層フィルムの各層には、帯電防止剤を含有することが好ましい。かかる帯電防止剤としては、アニオン系、カチオン系、非イオン系、両性などの各種公知の帯電防止剤を用いることが可能である。中でも特に耐熱性などの点からはアニオン系帯電防止剤であるアルキルスルホン酸ナトリウムまたはアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。また、これらの帯電防止剤を重合時に添加する際には、併せて酸化防止剤を添加することが、取扱性などの点から好ましい。かかる酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などの各種公知のものを用いることができる。これらの化合物は、複数の化合物を混合して用いてもよい。
【0071】
(破断伸度、応力)
本発明の積層フィルムは、100℃での100%伸長時の応力が0.5〜5MPaであることが重要である。80〜120℃の低温で本発明の積層フィルムを成形する場合、UV硬化型などの塗剤を用いる際に塗剤の分解ガスによる発泡を抑制できたり、本発明の積層フィルムを転写箔として用いる場合、転写時の加熱による被転写体の基材樹脂変形が抑制できる点から好ましい。本発明に用いられる積層フィルムは、低温でも転写箔として良好な成形追従性を持たせるため、100℃での100%伸張時の応力が、0.5〜5MPaであることが必要であり、好ましくは0.5〜4MPa、より好ましくは0.5〜3MPaである。100℃での100%伸長時の応力が5MPaを超える場合、転写箔として被転写体に転写する際に成形追従性が不十分な場合がある。また、100℃での100%伸長時の応力が0.5MPa未満の場合、加熱時の積層フィルムの寸法安定性が不十分な場合がある。
【0072】
本発明の積層フィルムを、100℃での100%伸長時の応力が0.5〜5MPaの範囲にするための方法としては、積層フィルムのB層の主成分であるポリエステル樹脂として1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合PET(PETG)を含有する方法、B層の主成分であるポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)とポリブチレンテレフタレート(PBT)をブレンドして用いる方法など、積層フィルムに特定の組成、構造を持たせる方法が挙げられる。
【0073】
また、本発明の積層フィルムは、100℃での破断伸度が500%以上であることが好ましく、より好ましくは700%以上、さらに好ましくは1,000%以上である。100℃での破断伸度が500%未満の場合、転写箔として被転写体に転写する際に成形追従性が不十分な場合がある。なお、100℃での破断伸度は大きいほどよいが、印刷層や各種塗工面にクラックを生じさせない値として、1500%が実質的に各種表面保護フィルム、転写箔用途で用いられる上限である。
【0074】
(積層フィルムの製造方法)
本発明の積層フィルムは、公知の方法によって製造することができるが、フィルムの取扱性、生産性、製造コストなどの面で共押出法が好ましく用いられる。なお共押出法によって製造することにより、本発明の積層フィルムについてA層とB層が直接積層された態様とすることが容易に可能となる。
【0075】
共押出法は、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)、結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える層(B層)を構成する各樹脂を複数の押出機から一つのダイに供給し、同時に押出して積層フィルムを製造する方法であり、Tダイ法とインフレーション法がある。本発明の積層フィルムはTダイ法およびインフレーション法のいずれによっても製造できるが、生産性の面から、Tダイ法が好ましく用いられる。
【0076】
Tダイ法としては、シングルマニホールドダイを用いるラミナーフロー方式、マルチマニホールドダイを用いるダイ内積層方式、デュアルスロットダイを用いるダイ外積層方式などが代表的な方法である。本発明の積層フィルムは、いずれの方式によっても製造できるが、幅方向への積層厚みのムラが小さく、生産性が良い点より、ラミナーフロー方式およびダイ内積層方式を好ましく用いることができる。また、A層とB層を積層させる場合に各層の粘度差が大きいときは、ダイ内積層方式を特に好ましく用いることができる。
【0077】
Tダイ法によって製造する場合、ダイスから共押出した多層フィルムをキャストドラムに引き取ることにより、本発明の積層フィルムを製造することができる。
【0078】
(成型用シート)
本発明の積層フィルムは成型用シートとして好適に使用される。本発明の積層フィルムを転写箔などの成型用シートとして使用する際には、積層フィルムの結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)面上にさらに、クリア層/印刷層/接着層をこの順で設けた態様の成型用シートとして使用することができる。ここで、クリア層/印刷層/接着層からなる積層膜は、転写により成形樹脂に塗膜を形成する塗膜形成用の積層構造膜である。
【0079】
本発明の積層フィルムは、深絞り転写箔フィルムに要求される成形性と印刷性の両方を満足する積層フィルムであり、さらに、例えば特開2004−188708号のような従来の貼り合わせフィルムに比べてコストに優れる積層フィルムである。これらの理由より、本発明の積層フィルムは、成型用シートであって、さらにその中でも形状の複雑な部品表面、例えば自動車内外装部品、建材用化粧フィルム、浴室パネル、家電製品部品、OA製品部品などの転写箔用シートとして好ましく用いる事ができる。
【0080】
クリア層の素材としては種々のものを用いる事ができ、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂共重合体を用いることが好ましい。クリア層の形成方法としては、例えばロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法などのコート法、また、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷などの印刷法がある。
【0081】
クリア層は、本発明の積層フィルムを成型用シートの一態様である転写箔フィルムとして使用した場合に、本発明の積層フィルムを剥離させた後の被転写体の表面を形成するので、積層フィルムを剥離後、熱硬化、紫外線硬化、あるいは熱線硬化することができる樹脂をクリア層として使用しても構わない。また、クリア層には耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤、紫外線反射剤を添加しても構わない。
【0082】
印刷層の素材としては種々のものを用いる事ができ、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂などが用いられる。また、好ましくは柔軟な被膜を作製することができる樹脂のバインダーが用いられ、適切な色の顔料又は染料を着色剤として含有する着色インキを用いる事が特に好ましい。
【0083】
印刷層の形成方法は種々の方法を用いる事ができ、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法を用いることが好ましい。特に多色刷りや階調色彩を必要とする場合はオフセット印刷法やグラビア印刷法が好ましく用いられる。また、単色の場合はグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。印刷法は図柄に応じて、全面的に形成する場合や部分的に形成する場合がある。
【0084】
成形樹脂への接着性を付与する目的で設ける接着層の素材としては、感熱タイプあるいは感圧タイプを用いることが好ましい。成形樹脂がアクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂を用いる事が好ましい。また、成形樹脂がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを用いる事が好ましい。成形樹脂がポリプロピレン系樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、環化ゴム、クマロンインデン系樹脂を用いる事が好ましい。
【0085】
成形樹脂への接着性を付与する目的で設ける接着層の形成方法は種々の方法を用いられ、例えばロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法などのコート法、また、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷などの印刷法が用いられる。
【0086】
成形樹脂としては、特に限定されないが、例えば、自動車内外装部品に用いられる場合は、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル・スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂などが用いられる。
【0087】
また、目的に応じて、クリア層、耐候層、難燃層、防汚層、抗菌層などをコーティングや共押出、熱ラミネート、ドライラミネートなどの手法により本発明の積層フィルムA層面上に形成することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、諸特性は以下の方法により測定した。
【0089】
(1)100℃での100%伸長時の応力、および100℃での破断伸度
積層フィルムを長手方向および幅方向に長さ100mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、初期引張チャック間距離20mmとし、引張速度を200mm/分として、フィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ引張試験を行った。測定は予め100℃に設定した恒温層中にフィルムサンプルをセットし、60秒間の予熱の後で引張試験を行った。サンプルが100%伸長したとき(チャック間距離が40mmとなったとき)にフィルムにかかる荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×10mm)で除した値を求めた。
【0090】
また、同様の測定条件で長手方向と幅方向にそれぞれ引張試験を行い、サンプルが破断したときの伸度の長手方向と幅方向の平均値を100℃での破断伸度とした。
【0091】
なお、測定は応力、破断伸度ともに各サンプル、各方向に5回ずつ行い、その平均値で評価を行った。
【0092】
(2)フィルム厚みおよび層厚み
積層フィルムの全体厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、フィルムから切り出した試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、平均値を求めた。
【0093】
積層フィルムの各層の層厚みを測定する際は、ライカマイクロシステムズ(株)製金属顕微鏡LeicaDMLMを用いて、フィルムの断面を倍率100倍の条件で透過光を写真撮影し、写真中の任意の場所5ヶ所について積層フィルムの各層の層厚みを測定し、平均値を求めた。
【0094】
(3)離型性1
各実施例に記載の条件で転写箔を作製後、転写箔を長手方向および幅方向に長さ100mm×幅25mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルの積層フィルムA層とクリア層との界面の一部を剥離させた後、引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、積層フィルム側、クリア層側をそれぞれチャックに挟んだ後、剥離試験を行い、剥離時の荷重の平均値を求めた。なお、初期チャック間距離100mm、引張速度300mm/分、室温下とし、フィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ試験を行った。また、測定は各サンプル、各方向に5回ずつ行い、その平均値で評価を行った。評価基準は以下の通りである。A、またはBであれば合格レベルである。
A:0.5N/25mm未満
B:0.5N/25mm以上、1.0N/25mm未満
C:1.0N/25mm以上
(4)離型性2
剥離試験の前に、100℃で10分間サンプルを加熱した以外は、(3)と同様の方法で評価を行った。
【0095】
(5)成形性
実施例で作成した転写箔からなるカップ型成型物について、以下の基準で成形性を評価した。つまり、成形後のカップ型成型物中の転写箔の状態を目視で観察し、以下の基準で判定した。AまたはBであれば合格レベルである。
A:コーナーがシャープに成形されている。
B:コーナーに少し丸みがある。
C:金型形状と著しく形状が異なる。
【0096】
(5)固有粘度
オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から[式1]により計算した。
固有粘度: ηsp /C=[η]+K[η]2 ・C ・・・[式1]
ここで、ηsp =(溶液粘度/溶媒粘度)−1、Cは溶媒100mlあたりの溶解ポリマー質量(1.2g/100ml)、Kはハギンス定数(0.343とした)である。また、溶液粘度および溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0097】
(6)酸価
JIS K0070(1992年式)に沿って、樹脂をキシレンに加熱溶解した後、フェノールフタレインを指示薬としてKOH溶液により滴定して求めた。
【0098】
(7)MFR
JIS−K7210(1999年式)に沿って、230℃、荷重2.16kgの条件下で測定した。
【0099】
(8)印刷性
フィルム表面に酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン
を各々3ml滴下させて6時間放置した後、溶剤をきれいに拭き取って、表面状態を下記
の評価基準の通り目視で観察し判定した。AとBであれば合格レベルである。なお、フィルムの各面で評価結果が異なる場合は、下記評価基準での評価結果がより良好な面を採用するものとする。
A:すべての溶剤に対して、白化、収縮、変形、溶剤の痕跡が認められないもの。
B:いずれかの1〜2種類の溶剤に対して、白化、収縮、変形が認められるもの。
C:いずれか3種類以上の溶剤に対して、白化、収縮、変形が認められるもの。
【0100】
(9)各層の結晶性パラメータΔTcg
積層フィルムから、各層を削り取るなどして、それぞれの層について試料5mgを採取し、Seiko Instrument(株)製示差走査熱量分析装置DSCII型を用い、−30℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温した際の吸熱融解曲線のピーク温度を融点(Tm)とした。また、同様の測定条件で、ガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tc)を測定して、[式2]から結晶性パラメータ(ΔTcg)を算出した。また、TgやTcが2箇所以上観測される場合は、最も曲線ピーク(Tc)、もしくは曲線変化(Tg)が大きく観測される値を採用した。
結晶性パラメータ: ΔTcg=Tc−Tg ・・・[式2]
実施例および比較例には、以下の原料を使用した。
【0101】
[ポリエチレンテレフタレートA(PET−A)]
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール60質量部の混合物に、酢酸マグネシウム0.09質量部、三酸化アンチモン0.03質量部を添加して、常法により加熱昇温してエステル交換反応を行った。次いで、エステル交換反応生成物に、リン酸85%水溶液0.020質量部を添加した後、重縮合反応槽に移行した。次いで、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1mmHgの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行い、示差走査型熱量測定(窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分)より求めた融点が257℃、固有粘度0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。
【0102】
[1,4−シクロへキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートB(PET−B)]
イーストマン・ケミカル社製“6763”(融点なし、固有粘度0.72)を用いた。1,4−シクロへキサンジメタノールのジオールモノマー100モル%中の共重合割合(1,4−シクロへキサンジメタノールの割合)は、30モル%であった。
【0103】
[ポリブチレンテレフタレート(PBT)]
東レ(株)社製“トレコン”(登録商標)1200S(融点224℃、固有粘度1.26dl/g)を用いた。
【0104】
[エチレン−プロピレン共重合体A(EPC)]
プライムポリマー(株)社製“Y−2045GP”(MFR=24、エチレン基4質量%含有)を用いた。
【0105】
[ポリプロピレン(PP)]
住友化学(株)社製“R101”(MFR=19)を用いた。
【0106】
[ポリメチルペンテン単位を主成分とするポリオレフィン樹脂(PMP)]
ポリメチルペンテン単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂(融点:225℃、ビカット軟化温度:153℃)を用いた。
【0107】
[無水マレイン酸変性ポリプロピレン(変性PP)]
三井化学(株)社製“アドマーQE800”を用いた。
【0108】
[無水マレイン酸変性した、ポリメチルペンテン単位を有するポリオレフィン樹脂(変性PMP)]
ポリメチルペンテン単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂(融点:225℃、ビカット軟化温度:153℃)に、無水マレイン酸基を10質量%含有させた樹脂(融点:210℃)を用いた。
【0109】
(実施例1)
PET−A、PBTを表の割合で混合し(層B)、ベント式二軸押出機(L/D=36)に供給して275℃で溶融させた後に、真空ベント部2ヶ所を通過させた。次いで、樹脂を濾過精度30μmのリーフディスクフィルターを通過させた後、マルチマニホールド式ダイに供給した。
【0110】
また、PBT、PMP、変性PMPを表の割合で混合し(層A)、ベント式二軸押出機(L/D=36)に供給した。供給された樹脂を270℃で溶融させた後に、真空ベント部2ヶ所を通過させた。次いで、樹脂を、濾過精度30μmのリーフディスクフィルターを通過させた後、マルチマニホールド式ダイに供給した。
【0111】
ダイ内にてそれぞれの樹脂がマニホールドを通過した後、2種の樹脂をA層/B層/A層となるように積層し、スリット状のダイからフィルム状に押出した。押出されたフィルムの両端部に針状エッジピニング装置を用いて静電印加を行い、キャスティングドラムに密着させて、冷却固化した。A層1層あたりの層厚みが10μm(なお、A層は2層共に同じ厚みである。)、フィルムの全厚みが100μmの本発明の積層フィルムを得た。
【0112】
得られた本発明の積層フィルムの一方のA層上にクリア層、印刷層および接着層をこの順に形成し、転写箔である本発明の成型用シートを得た。
【0113】
クリア層としては、紫外線硬化型アクリル系樹脂(BASFジャパン社製“LAROMER”(登録商標)LR8983)を用いて、厚さ60μmの層を形成した。
【0114】
印刷層としては、ポリウレタン系樹脂グラビアインキ(大日精化工業(株)社製“ハイラミック”(登録商標)、主要溶剤:トルエン/メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール、インキ:723B黄/701R白)を用いて、厚さ70μmの層を形成した。
【0115】
接着層としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合樹脂フィルム(オカモト(株)社製ABSフィルム“ハイフレックス”(登録商標))を用いて、厚さ100μmの層を形成した。
【0116】
次に、得られた転写箔を、真空成形機を用い、直径50mm カップ凹金型で、温度100℃、絞り比1.0の条件でカップ型成形体を作製した。この際、接着層が内側の最表層になるようなカップ型成形体とした。
【0117】
続いて、280℃に加熱したアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合樹脂(東レ(株)社製ABS樹脂“トヨラック”(登録商標)930)を前記カップ型成形体に注入した。ABSが冷却固化後、カップ型成形体にABS共重合樹脂を注入したカップ型成形物を金型から取り出し、積層フィルムを引き剥がした後、波長365nmの紫外線を用いてカップ型成形物のクリア層を硬化させた。
【0118】
本例で作成した積層フィルムの離型性、成形性、印刷性はいずれも良好であった。
【0119】
(実施例2〜12、14)
積層フィルムの組成を表のように変えた以外は、実施例1と同様にした。本例で作成した積層フィルムの離型性、成形性はいずれも良好であった。
【0120】
(実施例13)
積層フィルムの構成をA層/B層の2層にした以外は、実施例1と同様にした。本例で作成した積層フィルムの離型性、成形性はいずれも良好であった。
【0121】
(比較例1)
フィルム組成をPET−A(B層)単層にした以外は、実施例1と同様にした。本例で作製した積層フィルムは、A層を有しないため、離型性、印刷性が不十分であった。
【0122】
(比較例2)
積層フィルムの組成を表のように変えた以外は、実施例1と同様にした。本例で作製した積層フィルムはA層のΔTcgが大きく、成形性が不十分であった。
【0123】
(比較例3)
積層フィルムの組成を表のように変えた以外は、実施例1と同様にした。本例で作製した積層フィルムはB層のΔTcgが小さく、成形性が不十分であった。
【0124】
(比較例4)
積層フィルムの組成を表のように変えた以外は、実施例1と同様にした。本例で作製した積層フィルムはA層にポリオレフィン系樹脂を含有しないため、離型性が不十分であった。
【0125】
(比較例5)
A層に、カルナウバワックスをA層の総質量100質量%に対し1質量%含有させた以外は、実施例1と同様にした。本例で作製した積層フィルムは加熱しない状態での離型性、成形性、印刷性が良好であったが、100℃、10分間加熱後の離型性が不十分であった。
【0126】
(比較例6)
PET−Aを(B層)、ベント式二軸押出機(L/D=36)に供給して275℃で溶融させた後に、真空ベント部2ヶ所を通過させた。次いで、樹脂を濾過精度30μmのリーフディスクフィルターを通過させた後、マルチマニホールド式ダイに供給した。
【0127】
また、PET−A、PP、変性PPを表の割合で混合し(層A)、ベント式二軸押出機(L/D=36)に供給した。供給された樹脂を270℃で溶融させた後に、真空ベント部2ヶ所を通過させた。次いで、樹脂を、濾過精度30μmのリーフディスクフィルターを通過させた後、マルチマニホールド式ダイに供給した。
【0128】
ダイ内にてそれぞれの樹脂がマニホールドを通過した後、2種の樹脂をB層/A層/B層となるように積層し、スリット状のダイからフィルム状に押出した。押出されたフィルムの両端部に針状エッジピニング装置を用いて静電印加を行い、表面が梨地加工されたキャスティングドラムに密着させて、冷却固化した。キャスティングドラムの表面温度は55℃に調整した。A層1層あたりの層厚みが40μm、フィルムの全厚みが400μmのポリエステルフィルムを得た。
【0129】
次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、予熱温度を110℃、延伸温度を105℃で長手方向に3.3倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却化した。次いでテンター式横延伸機にて予熱温度95℃、延伸温度120℃で幅方向に3.3倍延伸し、そのままテンター内にて幅方向に4%のリラックスを掛けながら温度240℃で5秒間の熱処理を行い、層A1層あたりの厚みが4.0μm、フィルムの全厚みが40μmの二軸延伸積層フィルムを得た。
【0130】
積層フィルム作製後は、実施例1と同様にして転写箔を作製し、真空成形を行った。本例で作製した積層フィルムは応力が高く、成形性が不十分であった。
【0131】
【表1−1】

【0132】
【表1−2】

【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によれば、離型性、成形性、印刷性に優れ、更には、コーティング、押出ラミネートなどの工程を含まずに製造可能な積層フィルムを得ることができるため、印刷および成形して用いるインモールド転写箔、さらに自動車内外装部品、浴室パネル、家電製品用部品、包装容器などの印刷の転写加工を行うための転写箔として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃以下である層(A層)と、ポリエステル樹脂を主成分とする、結晶性パラメータΔTcgが35℃を超える層(B層)とを少なくとも有する積層フィルムであって、
該積層フィルムは、少なくとも一方の最表層にA層を有し、
該A層は、ポリオレフィン樹脂を含み、A層に含まれるポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂との質量比が、ポリエステル樹脂/ポリオレフィン樹脂=99.9/0.1〜50/50であって、
100℃で100%伸長時の応力が、0.5〜5MPaであることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記A層の結晶性パラメータΔTcgが11℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂が、変性ポリオレフィン樹脂及びその他のポリオレフィン樹脂からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記変性ポリオレフィン樹脂と前記その他のポリオレフィン樹脂との質量比が、変性ポリオレフィン樹脂/その他のポリオレフィン樹脂=0.1/99.9〜40/60であることを特徴とする、請求項3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルムを含む成型用シート

【公開番号】特開2011−194702(P2011−194702A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63666(P2010−63666)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】