説明

積層フィルムおよび積層セラミック電子部品の製造方法

【課題】 スラリー状のセラミック原料をシート化し、セラミックグリーンシートを製造する際の工程フィルムとして好ましく用いられ、厚みの薄いセラミックグリーンシートを安定して均一な厚みで製造しうる、帯電防止性および剥離性に優れた積層フィルムを提供すること。
【解決手段】 本発明の積層フィルムは、合成樹脂で構成してあるコア層と、前記コア層の少なくとも片面に形成してあり、縮合反応型剥離性バインダおよび導電性高分子を含有する導電性離型層とを有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムおよび積層セラミック電子部品の製造方法に係り、さらに詳しくは、スラリー状のセラミック原料をシート化し、セラミックグリーンシートを製造する際の工程フィルムとして好ましく用いられ、帯電防止性および剥離性に優れた積層フィルムと、その積層フィルムを用いて電子部品を製造する積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサや、セラミック多層基板などの積層セラミック電子部品は、通常、セラミックグリーンシートを積層、圧着し、熱処理して、セラミックや電極を焼結させる工程を経て製造されている。
積層セラミック電子部品の製造に用いられるセラミックグリーンシートは、一般に、セラミック粉末を、分散媒(溶媒)、分散剤、バインダ、可塑剤などと所定の割合で配合し、ビーズミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、サンドミルなどの媒体型分散機を用いて混合・解砕することにより製造したセラミックスラリーを、ドクターブレード法などの方法により工程フィルム(キャリアフィルムとも呼ばれる)に所定の厚さのシートに成形した後、乾燥させることにより製造されている。そして、工程フィルムとしては、粒径が数μmの無機粉末や有機粉末などをフィラーとして含有するポリエチレンテレフタレートの合成樹脂シートが一般的に用いられている。フィラーは、工程フィルムの強度や走行性(滑り性)を改善するために添加されている。
【0003】
ところで、近年、積層セラミックコンデンサをはじめとする種々の積層セラミック電子部品に対しては、他の電子素子に対するのと同様に、小型化、高性能化が求められるようになっている。そして、そのためには、積層セラミック電子部品の製造に用いられるセラミックグリーンシートを薄くすることが必要になり、近年は、その製造工程において、厚みが3μm以下の極めて薄いセラミックグリーンシートが要望されている。
【0004】
しかしながら、前述のような粒径が数μmのフィラーを含有する工程フィルムの表面には、フィラーによる高い突起があるため、セラミックグリーンシートに、例えば、深さ0.3〜2μm程度の凹部や、ピンホールが形成されてしまうという問題点がある。そして、グリーンシートに凹部やピンホールが存在すると、最終的に得られる積層セラミックコンデンサなどにおいて、内部電極同士の短絡や信頼性の低下などの問題が発生する。このように、セラミックグリーンシートが薄層化すると、工程フィルム表面の凹凸の影響を受けやすくなる。
【0005】
そこで、工程フィルムに配合されているフィラー量を低減し、工程フィルム表面の凹凸を可能な限り低く抑えることで、凹凸の影響を小さくすることが考えられる。しかし、フィラー量を低減することで、工程フィルムの強度が低下し、工程フィルムの走行時に工程フィルムが損傷を受けやすくなる。特に表面が平滑化された工程フィルムでは、ローラー等との接触面積が増大し、工程フィルムの走行性が低下するため、工程フィルムが損傷を受けやすい。また、ローラーとの接触面積が増大するため、巻き出し時、巻き取り時に帯電しやすくなる。帯電による静電気のため、セラミックスラリーの塗布が不均一になったり、あるいは異物の混入を招く。また、帯電による静電気が放電することのより、セラミックグリーンシートや工程フィルムが劣化するおそれもある。
【0006】
特許文献1(特開2002−121075号)には、かかる工程フィルムとして、表面に離型層が配設され、セラミックスラリー塗布面に高さ1μm以上の突起が実質的に存在しない積層フィルムが開示されている。しかし、この積層フィルムでは、帯電防止性が不充分であり、上記した静電気に起因する諸問題を解決することはできない。
【0007】
また、特許文献2(特許第3870785号)には、工程フィルムとして、セラミックスラリー塗布面に離型層が形成され、該面の最大高さRmaxが0.2μm以下である積層フィルムが開示されている。さらに特許文献2では、積層フィルムの少なくとも一方の面に帯電防止層を設けてもよい旨が記載されている。しかし、特許文献2では、離型層の形成と帯電防止層の形成を分けて行う必要があり、製造工程が煩雑となる。
【0008】
さらに特許文献3(特開2007−152930号)には、ポリエステルフィルムと、その上に形成された帯電防止コーティング層と、帯電防止層上に積層されたシリコーン樹脂離型層とを有する帯電防止ポリエステルフィルムが開示されている。しかし、この帯電防止フィルムでも、特許文献2と同様に、離型層の形成と帯電防止層の形成を分けて行う必要があり、製造工程が煩雑となる。
【0009】
また、特許文献4(特開2007−190717号)には、基材フィルムの少なくとも一方の面に、カーボンナノファイバーを含む帯電防止性剥離剤層を有する剥離フィルムが開示されている。この剥離フィルムでは、カーボンナノファイバーを使用しているため導通経路が形成されやすい。しかし、ファイバーであるため、1μm程度の長さがあり、塗工した際にファイバーが突起を形成しやすく、剥離フィルム表面の平滑性が損なわれる。このため、かかる剥離フィルムをグリーンシートの製造に使用すると、グリーンシートに凹部やピンホールが発生する。また、帯電防止性剥離剤層を形成するための塗布液は、その塗工前に塗布液中の異物を除去するためにろ過されるが、カーボンナノファイバーの塗布液では、カーボンナノファイバーがフィルターに捕捉されやすく、作業効率が低下する。
【特許文献1】特開2002−121075号
【特許文献2】特許第3870785号
【特許文献3】特開2007−152930号
【特許文献4】特開2007−190717号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、スラリー状のセラミック原料をシート化し、セラミックグリーンシートを製造する際の工程フィルムとして好ましく用いられ、厚みの薄いセラミックグリーンシートを安定して均一な厚みで製造しうる、帯電防止性および剥離性に優れた積層フィルムを提供することを目的としている。さらに、本発明の他の目的は、その積層フィルムを工程フィルムとして用いて行われる積層セラミック電子部品の製造方法であって、薄層化された誘電体層を持ちながら、短絡不良が少ない電子部品を製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
(1)合成樹脂で構成してあるコア層と、前記コア層の少なくとも片面に形成してあり、縮合反応型剥離性バインダおよび導電性高分子を含有する導電性離型層とを有する積層フィルム。
(2)前記縮合反応型剥離性バインダが、縮合反応により形成された架橋構造を有する(1)に記載の積層フィルム。
(3)前記縮合反応型剥離性バインダが、アミノアルキッド樹脂である(1)または(2)に記載の積層フィルム。
(4)前記アミノアルキッド樹脂が、シリコーン変性されたアミノアルキッド樹脂である(3)に記載の積層フィルム。
(5)前記導電性高分子が、ポリピロールである(1)に記載の積層フィルム。
(6)前記導電性離型層における導電性高分子と縮合反応型剥離性バインダとの質量比(導電性高分子/縮合反応型剥離性バインダ)が、1/4〜1/1である(1)に記載の積層フィルム。
(7)前記コア層の最大山高さ(Rp)が200nm以下である(1)に記載の積層フィルム。
(8)前記合成樹脂がポリエチレンテレフタレートである(1)に記載の積層フィルム。
(9)前記コア層が実質的にフィラーを含まない、(1)に記載の積層フィルム。
(10)縮合反応型剥離性バインダの前駆体および導電性高分子を含有する導電性離型層形成用塗布液をろ過した後に、合成樹脂で構成してあるコア層の少なくとも片面に塗布、乾燥し、縮合反応型剥離性バインダの前駆体を縮合反応し硬化する(1)に記載の積層フィルムの製造方法。
(11)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の積層フィルムが巻回してあるロールから積層フィルムを引き出す工程と、
前記積層フィルムの表面にグリーンシートを形成する工程と、
前記積層フィルムの表面から前記グリーンシートを剥がして積層して積層体を得る工程と、
前記積層体を焼成する工程とを有する積層セラミック電子部品の製造方法。
(12)前記グリーンシートの表面に電極パターン層を形成する工程をさらに有する(11)に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セラミックグリーンシートの塗工時に好ましく用いられ、厚みの薄いセラミックグリーンシートを安定して均一な厚みで製造しうる積層フィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層フィルムの概略断面図、
図2は図1に示す積層フィルムを用いてグリーンシートを形成する工程を示す概略図、
図3は図2の続きの工程を示す概略図、
図4は積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【0014】
積層フィルム
本発明の一実施形態に係る積層フィルム20は、図1にその概略断面図を示したように、コア層22の少なくとも一方の面に導電性離型層24が設けられてなる。
コア層22としては、従来よりグリーンシート製造用のキャリアシート(積層フィルム)に用いられていた各種の樹脂シートが特に限定されることなく使用できる、延伸操作の容易な熱可塑性樹脂シートであることが好ましい。
【0015】
熱可塑性樹脂シートは、熱によって溶融もしくは軟化するシートの総称であって、特に限定されるものではない。熱可塑性樹脂シートの代表的なものとして、ポリエステルシート、ポリプロピレンシートやポリエチレンシートなどのポリオレフィンシート、ポリ乳酸シート、ポリカーボネートシート、ポリメチルメタクリレートシートやポリスチレンシートなどのアクリル系シート、ナイロンなどのポリアミドシート、ポリ塩化ビニルシート、ポリウレタンシート、フッ素系シート、ポリフェニレンスルフィドシートなどを用いることができる。
【0016】
熱可塑性樹脂シートは、ホモポリマーでも共重合ポリマーであってもよい。これらのうち、機械的特性、寸法安定性、透明性などの点で、ポリエステルシート、ポリプロピレンシート、ポリアミドシートなどが好ましく、更に、機械的強度、汎用性などの点で、ポリエステルシートが特に好ましい。
【0017】
ポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称である。好ましいポリエステルとして、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレン−2,6−ナフタレート、エチレン−α,β−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4'−ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成成分を主要構成成分とするものを用いることができる。これら構成成分は、1種のみ用いても、2種以上併用してもよいが、中でも品質、経済性などを総合的に判断すると、エチレンテレフタレートを主要構成成分とするポリエステル、すなわち、ポリエチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。また、積層フィルムに熱や収縮応力などが作用する用途に用いられる場合においては、耐熱性や剛性に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレートが更に好ましい。
【0018】
また、これらポリエステルには、更に他のジカルボン酸成分やジオール成分が一部、好ましくは20モル%以下共重合されていてもよい。
コア層22をポリエステルで構成する場合、ポリエステルの極限粘度(25℃のo−クロロフェノール中で測定)は、0.4〜1.2dl/gが好ましく、より好ましくは0.5〜0.8dl/gの範囲にあるものが、成形性に優れ、好ましく用いられる。
【0019】
更に、コア層22中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、フィラー、帯電防止剤、核剤などが、その特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。また、コア層22中に、無機フィラー、例えば、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、ゼオライト、酸化チタン、金属微粉末あるいは有機フィラーなどを添加してもよい。これらフィラーを配合することで、シートの強度および滑り性(易滑性)が向上する。しかし、フィラーを配合することで、シートの表面平滑性が損なわれることがあるため、本発明では、シートへのフィラーの配合量を可能な限り低減することが好ましく、特にフィラーを実質的に含有しないシートであることが好ましい。フィラーを実質的に含有しないシートは、一般に強度、滑り性が低いため、シートの走行時、延伸時、巻き取り時、巻き出し時に損傷するおそれがある。このため、コア層22は、内層と表層の2層以上の複合体シートであってもよい。コア層は、例えば、内層部にフィラーを有し、表層部にフィラーを実質的に含有しない複合体シートなどでもよい。また、上記した複合体シートは、内層部と表層部が異種のポリマーであっても同種のポリマーであってもよい。
【0020】
「フィラーを実質的に含まない」とは、株式会社菱化システムのMicromap System(光学干渉式三次元非接触表面形状測定システム)を使用し、コア層表面の測定を行った結果、Ra10nm以下、Rp200nm以下の表面性を有するものを言う。
【0021】
コア層22の表面における最大山高さ(Rp)は、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。最大山高さ(Rp)を特定することで、積層フィルムの表面に形成されるグリーンシートのピンホールや局所的薄肉部分を効果的に防止できることは、本願発明者により初めて見出された。なお、最大山高さ(Rp)は、JIS B0601により定義される。コア層22にフィラーが含まれる場合には、フィラーによる凸部の影響で、コア層22の表面における最大山高さ(Rp)を所定値以下にすることが困難になる。特に、コア層22に粒径が200nmよりも大きなフィラーが配合された場合には、最大山高さ(Rp)を所定値以下にすることが困難になる。したがって、本発明のコア層22は、前述したように、実質的にフィラーを含まないことが好ましい。
【0022】
また、本発明の積層フィルム20におけるコア層22は、二軸配向シートであることが好ましい。二軸配向シートとは、一般に、未延伸状態のシート(原反シート)を長手方向および幅方向に各々2.5〜5倍程度延伸され、その後、熱処理が施されて、結晶配向が完了されたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。このような二軸配向シートは、後述するインラインプロセスによって、導電性離型層と同時に形成されてもよい。
【0023】
コア層22の厚みは、特に限定されるものではなく、適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは1〜500μm、より好ましくは5〜300μm、最も好ましくは9〜210μmである。
【0024】
積層フィルム20は、コア層22の少なくとも一方の面に導電性離型層24が設けられてなる。導電性離型層24は、セラミックスラリーの塗布面側に設けられれば充分であるが、積層フィルム20の強度、帯電防止性、走行性、滑り性を向上するために、コア層22の両面に設けられていても良い。
【0025】
導電性離型層24は、導電性高分子および縮合反応型剥離性バインダを含有する。
導電性高分子とは、重合体自体が導電性を有する高分子であり、金属粒子やカーボンブラックなどの導電性添加材により導電性を付与した導電性樹脂組成物を含まない。このような導電性樹脂組成物を使用すると、導電性離型層24上に形成されたセラミックグリーンシートに導電性添加材が移行し、焼成して得られるセラミック層の絶縁性や誘電特性を損なうおそれがある。また、導電性添加材によって、導電性離型層24表面に凹凸が形成される。このような凹凸が存在することで積層フィルム表面の平滑性が損なわれ、グリーンシートの凹部やピンホールが形成される。
【0026】
本発明で使用する導電性高分子としては、各種の導電性高分子が特に制限されることなく使用でき、たとえばポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセンなどが用いられる。これらの中でも、特に優れた導電性や汎用性などの観点から、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンが好ましく、特にポリピロールが好ましい。
【0027】
ポリピロールは、代表的には、下記式にて示される構造を有する導電性高分子であり、一般にはドープ剤が添加されている。ドープ剤としては、たとえば有機スルホン酸等が用いられる。
【化1】

【0028】
縮合反応型剥離性バインダは、縮合反応により形成され架橋構造を有する剥離性の高分子である。ここで、剥離性の高分子としては、剥離剤として知られているアルキッド樹脂系重合体、シリコーン系重合体、長鎖アルキル系重合体、フッ素系重合体、アクリル系重合体、ポリオレフィン系重合体、及びこれらのシリコーン変性物、フルオロ変性物などがあげられる。これらの剥離性の高分子は、それ自体が剥離剤として作用を示すとともに、前記した導電性高分子のバインダとしても機能する。縮合反応により形成される高分子とは、脱水や脱アルコールを伴う縮合反応により架橋された重合体である。縮合反応系の高分子は、メトキシ基、エトキシ基、シラノール基、OH基、メチロール基、イソシアネート基、エポキシ基、(メタ)アクリレート基などを有する前駆体を、脱水や脱アルコールを伴う縮合反応により架橋して得られる。また、縮合反応時に架橋剤を添加することもできる。たとえば、メトキシ基を有する前駆体を、シラノール基を有する架橋剤で架橋してもよい。また、縮合反応時には、必要に応じ、適宜な硬化触媒を用いても良い。これらの中でも、本発明においては、アルキッド樹脂系剥離剤が縮合反応型剥離性バインダとして好ましく用いられる。
【0029】
アルキッド樹脂系剥離剤としては、一般に架橋構造を有するアルキッド樹脂が用いられる。架橋構造を有するアルキッド樹脂層の形成は、例えばアルキッド樹脂、架橋剤及び所望により硬化触媒を含む熱硬化性樹脂組成物からなる層を加熱硬化させる方法を用いることができる。
【0030】
アルキッド樹脂としては特に制限はなく、従来アルキッド樹脂として知られている公知のものの中から適宜選択して用いることができる。このアルキッド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応によって得られる樹脂であって、二塩基酸と二価アルコールとの縮合物又は不乾性油脂肪酸で変性したものである不転化性アルキッド樹脂、及び二塩基酸と三価以上のアルコールとの縮合物である転化性アルキッド樹脂があり、本発明においては、いずれも使用することができる。また、本発明においては、シリコーン変性したアルキッド樹脂が特に好ましく用いられる。
【0031】
前記離型層の靱性を強靱なものとするためや、濡れ性を良好なものとするためにアクリル樹脂を配合しても良い。さらにこのアクリル樹脂の一部をシリコーン変性したものを用いても良い。アクリル樹脂としては例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル等を用いることが出来る。
【0032】
該アルキッド樹脂の原料として用いられる多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、マンニット、ソルビットなどの四価以上の多価アルコールを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
また、多塩基酸としては、例えば無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメット酸などの芳香族多塩基酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族飽和多塩基酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水シトラコン酸などの脂肪族不飽和多塩基酸、シクロペンタジエン−無水マレイン酸付加物、テルペン−無水マレイン酸付加物、ロジン−無水マレイン酸付加物などのディールズ・アルダー反応による多塩基酸などを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
一方、変性剤としては、例えばオクチル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、エレオステアリン酸、リシノレイン酸、脱水リシノレイン酸、あるいはヤシ油、アマニ油、キリ油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、大豆油、サフラワー油及びこれらの脂肪酸などを用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、アルキッド樹脂は、シリコーン変性されたアルキッド樹脂でもよい。本発明では、これらアルキッド樹脂の中でも、特にシリコーン変性されたアルキッド樹脂が好ましく用いられる。本発明においては、アルキッド樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
架橋剤としては、メラミン樹脂、尿素樹脂などのアミノ樹脂のほか、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂を例示することができる。これらの中でも、特にアミノ樹脂により架橋されたアミノアルキッド樹脂が好ましく用いられる。本発明においては、架橋剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
特に好ましく用いられるアルキッド樹脂系剥離剤においては、前記アルキッド樹脂と架橋剤との割合は、固形分質量比で70:30ないし10:90の範囲が好ましい。アルキッド樹脂の割合が上記範囲より多いと硬化物は十分な架橋構造が得られず、剥離性の低下が生じる原因となる。一方、アルキッド樹脂の割合が上記範囲より少ないと硬化物は硬くて脆くなり、剥離性が低下する。アルキッド樹脂と架橋剤のより好ましい割合は、固形分質量比で65:35ないし10:90であり、特に60:40ないし20:80の範囲が好ましい。
【0037】
アルキッド樹脂系剥離剤においては、硬化触媒として酸性触媒を用いることができる。この酸性触媒としては特に制限はなく、従来アルキッド樹脂の架橋反応触媒として知られている公知の酸性触媒の中から適宜選択して用いることができる。このような酸性触媒としては、例えばp−トルエンスルホン酸やメタンスルホン酸などの有機系の酸性触媒が好適である。この酸性触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量は、前記アルキッド樹脂と架橋剤との合計100質量部に対し、通常0.1〜40質量部、好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部の範囲で選定される。
【0038】
導電性高分子を用いた導電層を塗布により形成する場合、導電性高分子は溶媒に溶解しないため、一般的には導電性高分子の分散液を用いる。しかし、導電性高分子のみの分散液を塗布、乾燥しただけでは、耐スクラッチ性等の機械物性が極めて低く、剥離性もない。そこで、本発明にあるように、縮合反応型剥離性バインダの前駆体溶液に導電性高分子を分散混合することで、均一な塗布液を得ることができる。前記塗布液を塗布、乾燥、加熱し、前駆体の縮合反応により縮合反応型剥離性バインダが架橋構造を形成すると、導電性高分子と縮合反応型剥離性バインダとが均一に混合された導電性離型層が得られる。この導電性剥離層は導電性、耐スクラッチ性等の機械物性、耐溶剤性、剥離性に優れている。
【0039】
剥離性高分子は、付加反応により形成することもできるが、付加反応は不純物により阻害される。このため、導電性高分子やドープ剤が存在する混合物系においての付加反応は、極めて困難である。
【0040】
導電性離型層24における導電性高分子と縮合反応型剥離性バインダとの質量比(導電性高分子/縮合反応型剥離性バインダ)は、好ましくは1/4〜1/1、さらに好ましくは1/3〜1/1である。導電性高分子と縮合反応型剥離性バインダとの質量比を上記範囲とすることで、特に帯電防止性、剥離性に優れた導電性離型層が得られる。一方、導電性高分子の配合量が過剰であると、剥離性が悪化し、また剥離性バインダの配合量が過剰であると導電性が低下することがある。
【0041】
導電性離型層24の電気抵抗は低いほど帯電防止効果は大きいが、電気抵抗が低すぎる場合には、電気が急激に流れすぎ好ましくない。したがって、導電性離型層24の電気抵抗は、好ましくは10Ω/□〜1011Ω/□である。
【0042】
また、導電性離型層24は適度な剥離性を有する。剥離性は純水に対する接触角で評価され、好ましい導電性離型層24の純水に対する接触角は90°以上であり、より好ましくは95°以上である。
【0043】
このような導電性離型層24の厚みは、特に限定はされないが、好ましくは0.01〜2μm、さらに好ましくは0.05〜1μm、特に好ましくは0.05〜0.2μmである。
【0044】
このような導電性離型層24は、セラミックスラリーの塗布適性も高く、セラミックスラリーを塗布しても、ハジキや塗布ムラが発生せず、均一な厚みのセラミックグリーンシートが得られる。また、得られたセラミックグリーンシートの剥離性も良好であり、導電性離型層24上に形成されたセラミックグリーンシートを破断することなく、積層フィルム20から剥離することができる。さらに、導電性離型層24は、耐スクラッチ性にも優れる。一般にセラミックスラリーを塗布する前に、積層フィルム20表面のゴミを除去するために、クリーニングクロス処理が行われる。本発明の積層フィルム20によれば、クリーニングクロス処理を施しても導電性離型層24の脱落は起こらない。
【0045】
本発明の積層フィルム20の製法は、特に限定はされない。たとえば、後述するような縮合反応型剥離性バインダの前駆体および導電性高分子を含有する導電性離型層形成用塗布液をろ過した後に、合成樹脂で構成してあるコア層の少なくとも片面に塗布、乾燥し、縮合反応型剥離性バインダの前駆体を縮合反応し硬化することで、本発明の積層フィルムを得ることができる。
【0046】
しかし、製造の容易性や積層フィルム20の品質向上の観点から、いわゆるインラインプロセスにより製造することも好ましい。インラインプロセスによれば、コア層22と導電性離型層24とを同時に形成でき、プロセスが簡素化され、また均一な厚みで均質な導電性離型層24が得られる。さらに、インラインプロセスによれば、導電性離型層24により、帯電防止性、剥離性、滑り性が付与されるため、巻き取り時や走行時における積層フィルム20の損傷も低減される。
【0047】
インラインプロセスでは、まず縮合反応型剥離性バインダの前駆体と導電性高分子とを含む塗布液を準備する。この塗布液には、架橋剤が含まれていても良く、また縮合反応触媒(硬化触媒)が含まれていても良い。硬化触媒は、縮合反応型剥離性バインダの前駆体の性質に応じて適宜に選択される。塗布液は、上記の各成分および必要に応じて適宜量の溶剤を混合して調製される。塗布液の調製後、異物を取り除くためろ過を行う。
【0048】
また、別に結晶配向前の樹脂シート(原反シート)を準備する。原反シートは、樹脂原料を溶融押し出し後、冷却固化したシートであり、結晶配向性を有しない。原反シートはロール状に巻き取られていても良く、また樹脂原料を溶融押し出し後、冷却固化したシートを巻き取ることなく用いても良い。
【0049】
インラインプロセスでは、例えば、原反シートを長手方向に延伸し、一軸延伸されたシートに連続的に塗布液を塗工する。塗布されたシートは段階的に加熱されたゾーンを通過しつつ乾燥され、幅方向に延伸される。更に、連続的に加熱ゾーンに導かれ結晶配向を完了させてコア層22を形成すると同時に塗布液の縮合反応を行い、導電性離型層24を形成する。なお、長手方向に延伸し、塗布液の塗工後、幅方向に延伸する方法が一般的であるが、幅方向に延伸し、塗工後、長手方向に延伸する方法、塗工後、長手方向と幅方向に同時に延伸する方法など各種の方法を用いることができる。長手方向および幅方向への延伸倍率は特に限定はされないが、一般的には2.5〜5倍程度である。また、加熱ゾーンにおける加熱温度は、コア層22を形成する樹脂の性質および剥離性高分子となる前駆体の反応温度により様々であるが、一般的には150〜250℃程度である。
【0050】
また、塗布液を塗工する前に、シートの表面(上記例の場合では、一軸延伸シート)にコロナ放電処理などを施し、シート表面の濡れ張力を、好ましくは47mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上とするのが、塗布液の塗工性や、シートと塗膜との接着性を向上させることができるので好ましい。更に、イソプロピルアルコール、ブチルセロソルブ、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶媒を塗布液中に若干量含有させて、濡れ性やシートとの接着性を向上させることも好適である。
【0051】
シートへの塗布液の塗工方法は各種の塗工方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。
【0052】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、上述した積層フィルム20を用いて、図4に示す積層セラミックコンデンサ2を製造する方法について説明する。まず、図4に示す積層セラミックコンデンサ2を説明する。
【0053】
図4に示すように、積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体4と、第1端子電極6と第2端子電極8とを有する。コンデンサ素体4は、誘電体層10と、内部電極層12とを有し、誘電体層10の間に、これらの内部電極層12が交互に積層してある。交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の一方の端部の外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の他方の端部の外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある。
【0054】
誘電体層10の材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。各誘電体層10の厚みは、特に限定されないが、数μm〜数百μmのものが一般的である。特に本実施形態では、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、特に好ましくは1.0μm以下に薄層化されている。
【0055】
端子電極6および8の材質も特に限定されないが、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。端子電極6および8の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
【0056】
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、通常、縦(0.6〜5.6mm、好ましくは0.6〜3.2mm)×横(0.3〜5.0mm、好ましくは0.3〜1.6mm)×厚み(0.1〜1.9mm、好ましくは0.3〜1.6mm)程度である。
【0057】
次に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。まず、焼成後に図4に示す誘電体層10を構成することになるセラミックグリーンシートを製造するために、誘電体ペースト(グリーンシート用ペースト)を準備する。誘電体ペーストは、誘電体原料(セラミック粉体)と有機ビヒクルとを混練して得られる有機溶剤系ペーストで構成される。
【0058】
誘電体原料としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。誘電体原料は、通常、平均粒子径が0.4μm以下、好ましくは0.1〜3.0μm程度の粉体として用いられる。なお、きわめて薄いグリーンシートを形成するためには、グリーンシート厚みよりも細かい粉体を使用することが望ましい。
【0059】
有機ビヒクルとは、バインダ樹脂を有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いられるバインダ樹脂としては、本実施形態では、ポリビニルブチラール樹脂が用いられる。そのポリビニルブチラール樹脂の重合度は、1000以上1700以下であり、好ましくは1400〜1700である。また、樹脂のブチラール化度が64%より大きく78%より小さく、好ましくは64%より大きく70%以下であり、その残留アセチル基量が6%未満、好ましくは3%以下である。
【0060】
ポリビニルブチラール樹脂の重合度は、たとえば原料であるポリビニルアセタール樹脂の重合度で測定されることができる。また、ブチラール化度は、たとえばJISK6728に準拠して測定されることができる。さらに、残留アセチル基量は、JISK6728に準拠して測定されることができる。
【0061】
有機ビヒクルに用いられる有機溶剤は、特に限定されず、たとえばテルピネオール、アルコール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエンなどの有機溶剤が用いられる。本実施形態では、有機溶剤としては、好ましくは、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤とを含み、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤との合計質量を100質量部として、芳香族系溶剤が、10質量部以上20質量部以下含まれる。芳香族系溶剤の含有量が少なすぎると、シート表面粗さが増大する傾向にあり、多すぎると、ペースト濾過特性が悪化し、シート表面粗さも増大して悪化する。
【0062】
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが例示される。芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸ベンジルなどが例示される。
【0063】
バインダ樹脂は、予め、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールの内の少なくとも一種類以上のアルコール系溶剤に溶解濾過させて溶液にしておき、その溶液に、誘電体粉体およびその他の成分を添加することが好ましい。高重合度のバインダ樹脂は溶剤に溶け難く、通常の方法では、ペーストの分散性が悪化する傾向にある。本実施形態の方法では、高重合度のバインダ樹脂を上述の良溶媒に溶解してから、その溶液にセラミック粉体およびその他の成分を添加するために、ペースト分散性を改善することができ、未溶解樹脂の発生を抑制することができる。なお、上述の溶剤以外の溶剤では、固形分濃度を上げられないと共に、ラッカー粘度の経時変化が増大する傾向にある。
【0064】
誘電体ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、帯電除剤、誘電体、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されても良い。
この誘電体ペーストを用いて、たとえば図2に示すように、ドクターブレード装置30などにより、図1に示す積層フィルム20を巻回してある第1供給ロール20aから巻き解した積層フィルム20の表面(導電性離型層24の形成面)に、グリーンシート10aを形成する。積層フィルム20の表面に形成されたグリーンシート10aは、乾燥装置32で乾燥された後に、積層フィルム20と共に、第2供給ロール20bとして巻き取られる。
【0065】
グリーンシート10aの乾燥温度は、好ましくは50〜100°Cであり、乾燥時間は、好ましくは1〜20分である。乾燥後のグリーンシート10aの厚みは、乾燥前に比較して、5〜25%の厚みに収縮する。乾燥後のグリーンシートの厚みは、1μm以下が好ましい。
【0066】
次に、図3に示すように、第2供給ロール20bから巻き解されたグリーンシート10a付き積層フィルム20は、スクリーン印刷装置34にて電極ペースト層12aが所定パターンで形成され、その後に、乾燥装置36で乾燥された後に、積層フィルム20と共に、第3供給ロール20cとして巻き取られる。
【0067】
電極ペースト層12aを形成するための電極ペーストは、各種導電性金属や合金からなる導電体材料、あるいは焼成後に上記した導電体材料となる各種酸化物、有機金属化合物、またはレジネート等と、有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0068】
電極ペーストを製造する際に用いる導体材料としては、NiやNi合金さらにはこれらの混合物を用いる。このような導体材料は、球状、リン片状等、その形状に特に制限はなく、また、これらの形状のものが混合したものであってもよい。また、導体材料の平均粒子径は、通常0.1〜2μm、好ましくは0.2〜1μm程度のものを用いればよい。
【0069】
有機ビヒクルは、バインダおよび溶剤を含有するものである。バインダとしては、例えばエチルセルロース、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、または、これらの共重合体などが例示されるが、特にポリビニルブチラールなどのブチラール系が好ましい。
【0070】
バインダは、電極ペースト中に、導体材料(金属粉体)100質量部に対して、好ましくは8〜20質量部含まれる。溶剤としては、例えばテルピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等公知のものはいずれも使用可能である。溶剤含有量は、ペースト全体に対して、好ましくは20〜55質量%程度とする。
【0071】
接着性の改善のために、電極ペーストには、可塑剤が含まれることが好ましい。可塑剤としては、フタル酸ベンジルブチル(BBP)などのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。可塑剤は、電極ペースト中に、バインダ100質量部に対して、好ましくは10〜300質量部、さらに好ましくは10〜200質量部である。なお、可塑剤または粘着剤の添加量が多すぎると、電極層12aの強度が著しく低下する傾向にある。また、電極層12aの転写性を向上させるために、電極ペースト中に、可塑剤および/または粘着剤を添加して、電極ペーストの接着性および/または粘着性を向上させることが好ましい。
【0072】
第3供給ロール20cは、次に、積層装置へと送られる。そこで、図示省略してあるが、巻き解された電極ペースト層12a付きグリーンシート10aは、積層フィルム20から剥がされて、所定のサイズに切断されて交互に積層される。
【0073】
なお、グリーンシート10aが形成された積層フィルム20とは別の積層フィルムの表面に電極ペースト層12aを形成し、当該電極ペースト層12aを、グリーンシート10aの表面に転写することにより当該グリーンシート10aの表面に電極パターン層12aを形成しても良い。
【0074】
その後、積層体を所定サイズに切断し、グリーンチップを形成する。このグリーンチップは、脱バインダ処理、焼成処理が行われ、そして、誘電体層を再酸化させるため、熱処理が行われる。
脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよいが、内部電極層の導電体材料にNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、特に下記の条件で行うことが好ましい。
【0075】
昇温速度:5〜300℃/時間、
保持温度:200〜400℃、
保持時間:0.5〜20時間、
雰囲気 :加湿したNとHとの混合ガス。
【0076】
焼成条件は、下記の条件が好ましい。
昇温速度:50〜500℃/時間、
保持温度:1100〜1300℃、
保持時間:0.5〜8時間、
冷却速度:50〜500℃/時間、
雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス等。
【0077】
ただし、焼成時の空気雰囲気中の酸素分圧は、10−2Pa以下、特に10−2〜10−8 Paにて行うことが好ましい。前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にあり、また、酸素分圧があまり低すぎると、内部電極層の電極材料が異常焼結を起こし、途切れてしまう傾向にある。
【0078】
このような焼成を行った後の熱処理は、保持温度または最高温度を、好ましくは1000℃以上、さらに好ましくは1000〜1100℃として行うことが好ましい。熱処理時の保持温度または最高温度が、前記範囲未満では誘電体材料の酸化が不十分なために絶縁抵抗寿命が短くなる傾向にあり、前記範囲をこえると内部電極のNiが酸化し、容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応してしまい、寿命も短くなる傾向にある。熱処理の際の酸素分圧は、焼成時の還元雰囲気よりも高い酸素分圧であり、好ましくは10−3Pa〜1Pa、より好ましくは10−2Pa〜1Paである。前記範囲未満では、誘電体層10の再酸化が困難であり、前記範囲をこえると内部電極層12が酸化する傾向にある。
【0079】
このようにして得られた焼結体(素子本体4)には、例えばバレル研磨、サンドプラスト等にて端面研磨を施し、端子電極用ペーストを焼きつけて端子電極6,8が形成される。端子電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、端子電極6,8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、端子電極用ペーストは、上記した電極ペーストと同様にして調製すればよい。
【0080】
このようにして製造された図4に示す積層セラミックコンデンサ2は、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
また、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2の製造方法によれば、積層フィルム20の表面に形成されるグリーンシート10aが、たとえば1μm以下程度にきわめて薄い場合でも、グリーンシート10aのピンホールや局所的薄肉部分を効果的に防止することができる。そのため、薄層化された誘電体層を持ちながら、短絡不良が少ない積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0082】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記組成の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。また、本発明の積層フィルムは、液晶ディスプレイにおいて、偏光板等の光学シートの加工、実装する工程で前記光学シートを保護するプロテクトフィルムや、表面実装用チップ状電子部品において、製造工程で搬送するときに用いるキャリア包装体及びカバーフィルムに使用することもできる。
【0083】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、以下の実施例および比較例において、各種物性評価は、以下のように行った。
【0084】
(コア層および導電性離型層表面の最大山高さ(Rp))
JIS B0601に準じ、下記の条件で測定、解析を行った。
株式会社菱化システムのMicromap System(光学干渉式三次元非接触表面形状測定システム)を使用し測定を行った。
【0085】
<測定条件>
Optics Setup
Wavelength :W5600A
Objective :50×
Body Tube :1×Body
Relay Lens :No Reray
Camera :Sony XC−ST30 1/3”
Measurement Setup
Mode :Wave560M
Averages :1
Format
Data Format:640×480
Data Point :307200
Sampling X :1
Sampling Y :1
サンプルの測定箇所を変えて、10カ所測定した。測定領域は、1回の測定で94μm×71μmである。
【0086】
<解析>
Micromapで測定後、解析ソフトSX−Viewerを用いて最大山高さRpを求めた。10カ所測定した中の最も大きな数値を最大山高さとした。なお、最大山高さは平均面からZ軸方向に最も高い点(山頂)の高さを表す。
【0087】
(電気抵抗)
導電性離型層の電気抵抗をハイレスタ(商品名、三菱化学(株)製)を用いて測定した。
【0088】
(接触角)
導電性離型層上に純水2μlを滴下し、接触角計(協和界面科学(株)製)を用いて接触角を測定した。
【0089】
(塗布適性)
導電性離型層上に誘電体スラリーを塗布、乾燥し、スラリーのハジキおよび塗布ムラの有無を目視にて観察した。ハジキ、塗布ムラが観察されなかったものを良好とし、観察されたものを不良と評価した。
【0090】
(剥離性)
導電性離型層上に誘電体スラリーを塗布、乾燥し、誘電体グリーンシートを作成した。積層フィルムとグリーンシートとの積層体を1cm×4cmのサイズに切り出し、グリーンシート端部にセロハン粘着テープを貼着し、セロハン粘着テープを剥離した。グリーンシートが破断することなくセロハン粘着テープとともに剥離されたものを良好とし、グリーンシートが破断したものを不良と評価した。
【0091】
(グリーンシート凹部)
グリーンシートのピンホール、局所的薄肉部分について以下のように評価した。上記で剥離したグリーンシートの支持シートに接していた面を、上記コア層および導電性離型層表面最大高さと同様の条件でMicromap System を用いて観察し、100nmを超えるへこみを数えた。
【0092】
(耐スクラッチ性)
導電性離型層表面をべンコット(小津産業(株))で擦った。導電性離型層の脱落がないものを良好とし、導電性離型層が脱落したものを不良と評価した。
【0093】
また、導電性離型層を形成するための塗布液の成分は下記のとおりである。
縮合反応型剥離性バインダ前駆体:シリコーン変性アミノアルキッド樹脂前駆体(テスファインTA31−209E、日立化成ポリマー(株)製、固形分45質量%)
なお、シリコーン変性アミノアルキッド樹脂前駆体(TA31−209E)は、縮合反応により縮合反応型剥離性バインダであるシリコーン変性アミノアルキッド樹脂を生成する。
導電性高分子:ポリピロール分散液(CDP−310M、日本カーリット(株)製、固形分10質量%)
縮合反応触媒:p−トルエンスルホン酸
【0094】
(実施例1)
[導電性離型層形成用塗布液の調製]
縮合反応型剥離性バインダ前駆体(テスファインTA31−209E、固形分濃度45質量%)100質量部、導電性高分子(ポリピロール分散液、CDP−310M)450質量部、縮合反応触媒:p−トルエンスルホン酸4質量部、メチルエチルケトン1220質量部およびトルエン1230質量部を混合し、0.8μmメッシュのフィルターを用いてろ過し、導電性離型層形成用塗布液を調製した。
【0095】
[積層フィルムの作成]
フィラーを含有しないポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製、厚み38μm、Rp:80nm)をコア層とし、該コア層の片面にコロナ処理を施し、上記で得た導電性離型層形成用塗布液を塗工し、乾燥した。その後、120℃で60秒間加熱し、導電性離型層形成用塗布液に含まれる縮合反応型剥離性バインダ前駆体を縮合反応させ、コア層上に厚さ150nmの導電性離型層を有する積層フィルムを作成した。導電性離型層の「導電性高分子/縮合反応型剥離性バインダ(質量比)」は、1/1である。
得られた積層フィルムを用いて上記物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例2)
[導電性離型層形成用塗布液の調製]
縮合反応型剥離性バインダ前駆体(TA31−209E)100質量部、導電性高分子(ポリピロール分散液、CDP−310M)225質量部、縮合反応触媒p−トルエンスルホン酸:3質量部、メチルエチルケトン960質量部およびトルエン965質量部を混合し、0.5μmメッシュのフィルターを用いてろ過し、導電性離型層形成用塗布液を調製した。
[積層フィルムの作成]
上記で得た導電性離型層形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。導電性離型層の「導電性高分子/縮合反応型剥離性バインダ(質量比)」は、1/2である。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例3)
[導電性離型層形成用塗布液の調製]
縮合反応型剥離性バインダ前駆体(TA31−209E)100質量部、導電性高分子(ポリピロール分散液、CDP−310M)150質量部、縮合反応触媒p−トルエンスルホン酸3質量部、メチルエチルケトン870質量部およびトルエン880質量部を混合し、0.8μmメッシュのフィルターを用いてろ過し、導電性離型層形成用塗布液を調製した。
[積層フィルムの作成]
上記で得た導電性離型層形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。導電性離型層の「導電性高分子/縮合反応型剥離性バインダ(質量比)」は、1/3である。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例4)
[導電性離型層形成用塗布液の調製]
縮合反応型剥離性バインダ前駆体(TA31−209E)100質量部、導電性高分子(ポリピロール分散液、CDP−310M)113質量部、縮合反応触媒p−トルエンスルホン酸3質量部、メチルエチルケトン830質量部およびトルエン835質量部を混合し、0.8μmメッシュのフィルターを用いてろ過し、導電性離型層形成用塗布液を調製した。
[積層フィルムの作成]
上記で得た導電性離型層形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。導電性離型層の「導電性高分子/縮合反応型剥離性バインダ(質量比)」は、1/4である。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例1)
[塗布液の調製]
ポリエステルポリウレタン(UR1400、東洋紡社製、固形分30質量%)100質量部、硬化剤(コロネート2030、日本ポリウレタン社製、固形分50質量%)9質量部、導電性高分子(ポリピロール分散液、CDP−310M)173質量部、メチルエチルケトン720質量部およびトルエン720質量部を混合し、0.8μmメッシュのフィルターを用いてろ過し、塗布液を調製した。
[積層フィルムの作成]
上記で得た塗布液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。塗膜中の「導電性高分子/ポリエステルポリウレタン架橋物(質量比)」は、1/2である。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例2)
[塗布液の調製]
ポリエステルポリウレタン(UR1400、東洋紡社製、固形分30質量%)100質量部、硬化剤(コロネート2030、日本ポリウレタン社製、固形分50質量%)9質量部、剥離剤(シリコーンオイルKF100、信越化学(株)製、固形分100質量%)5質量部、メチルエチルケトン720質量部およびトルエン720質量部を混合し、0.8μmメッシュのフィルターを用いてろ過し、塗布液を調製した。
[積層フィルムの作成]
上記で得た塗布液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例3)
[塗布液の調製]
付加重合性シリコーン樹脂前駆体(KS847、信越化学(株)製、固形分30質量%)100質量部、導電性高分子(ポリピロール分散液、CDP−310M)150質量部、付加重合触媒(CAT−PL−50T、信越化学(株)製)4質量部、メチルエチルケトン620質量部およびトルエン630質量部を混合し、0.8μmメッシュのフィルターを用いてろ過し、塗布液を調製した。
[積層フィルムの作成]
上記で得た塗布液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。塗膜中の「導電性高分子/付加重合シリコーン樹脂(質量比)」は、1/2である。結果を表1に示す。
【0102】
(比較例4)
[導電性離型層形成用塗布液の調製]
縮合反応型剥離性バインダ前駆体(TA31−209E)100質量部、カーボンファイバー(ジェムコ社製CNF−T 固形分3%)250質量部、縮合反応触媒p−トルエンスルホン酸3質量部、メチルエチルケトン700質量部、トルエン700質量部を混合し、0.8μmメッシュのフィルターを用いてろ過し、導電性離型層形成用塗布液を調製した。
[積層フィルムの作成]
上記で得た導電性離型層形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。塗膜中の「カーボンファイバー/縮合反応型剥離性バインダ(質量比)」は、1/6である。結果を表1に示す。
【0103】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層フィルムの概略断面図を示す。
【図2】図2は図1に示す積層フィルムを用いてグリーンシートを形成する工程を示す概略図を示す。
【図3】図3は図2の続きの工程を示す概略図を示す。
【図4】図4は積層セラミックコンデンサの概略断面図を示す。
【符号の説明】
【0105】
2…積層セラミックコンデンサ
4…コンデンサ素体
6…第1端子電極
8…第2端子電極
10…誘電体層
10a…グリーンシート
12…内部電極層
12a…電極ペースト層
20…積層フィルム
20a…第1供給ロール
20b…第2供給ロール
20c…第3供給ロール
22…コア層
24…導電性離型層
30…ドクターブレード装置
32…乾燥装置
34…スクリーン印刷装置
36…乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂で構成してあるコア層と、前記コア層の少なくとも片面に形成してあり、縮合反応型剥離性バインダおよび導電性高分子を含有する導電性離型層とを有する積層フィルム。
【請求項2】
前記縮合反応型剥離性バインダが、縮合反応により形成された架橋構造を有する請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記縮合反応型剥離性バインダが、アミノアルキッド樹脂である請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記アミノアルキッド樹脂が、シリコーン変性されたアミノアルキッド樹脂である請求項3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記導電性高分子が、ポリピロールである請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記導電性離型層における導電性高分子と縮合反応型剥離性バインダとの質量比(導電性高分子/縮合反応型剥離性バインダ)が、1/4〜1/1である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記コア層の表面の最大山高さ(Rp)が200nm以下である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記合成樹脂がポリエチレンテレフタレートである請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記コア層の表面が実質的にフィラーを含まない、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項10】
縮合反応型剥離性バインダの前駆体および導電性高分子を含有する導電性離型層形成用塗布液をろ過した後に、合成樹脂で構成してあるコア層の少なくとも片面に塗布、乾燥し、縮合反応型剥離性バインダの前駆体を縮合反応し硬化する請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の積層フィルムが巻回してあるロールから積層フィルムを引き出す工程と、
前記積層フィルムの表面にグリーンシートを形成する工程と、
前記積層フィルムの表面から前記グリーンシートを剥がして積層して積層体を得る工程と、
前記積層体を焼成する工程とを有する積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記グリーンシートの表面に電極パターン層を形成する工程をさらに有する請求項11に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−83271(P2009−83271A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255587(P2007−255587)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】