説明

積層フィルム

【課題】ロール状にして長期間保管した場合に、外観上の不具合のない積層フィルムを提供すること。
【解決手段】熱可塑性重合体からなる層を少なくとも2層有する積層フィルムであって、該熱可塑性重合体からなる層の内、少なくとも2層は、熱可塑性重合体aからなる層であり、該熱可塑性重合体aからなる層の内、少なくとも1層は、赤外線吸収剤を0.01〜1.5質量%含む層であり、可視光領域の光線透過率が90%以上であることを特徴とする積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板保護フィルムや位相差フィルムなどの表示装置に用いられる光学フィルムに好適な積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は、省スペース、省エネルギーであることから、TV、パソコンなどへの液晶ディスプレイの利用が増大している。特に、TVの大画面化、高画質化が進み、また使用場所の拡大、汎用化、および多様化により液晶ディスプレイは、より高品質であることが求められ、表示機能、視認機能のさらなる向上が求められている。
液晶表示装置の表示性能を向上させる部材として、位相差フィルムが重要な役割を果たしている。位相差フィルムには、様々なものが知られているが、製造効率に優れることから、樹脂フィルムを延伸により配向させて得られる延伸フィルムが広く用いられてきている。
位相差フィルムとして、いろいろな積層構造を有するフィルムが提案されている。(特許文献1、特許文献2など)。
このような積層構造体を共押出法などの方法により、連続的に製造する場合、各層の膜厚を制御するため、製造された積層構造体中の各層の厚さを製造ラインにおいて測定することが必要となる。
そこで、本出願人は、脂環式構造含有重合体からなる層(A層)とビニル芳香族系重合体、アクリル系重合体、ポリオレフィン、ポリエステルおよびポリカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層(B層)との層間に、特定のABS樹脂からなる層(C層)を有する積層構造体を提案している(特許文献3)。特許文献3によれば、表面平滑性と外観が良好であり、層間剥離強度が大きく、層間剥離を起こすことなく共延伸などの後加工が可能で、且つ膜厚の調整が容易である等の効果を奏することが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−40258号公報
【特許文献2】特開2004−133313号公報
【特許文献3】特開2006−330604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献3に記載の積層構造体をロール状に巻き取って長期間保管した場合に、ロールの一部に帯状の模様が発生したり、カールや面状が不良になったりする等外観上の不具合が発生し、さらなる改善が必要であることがわかった。
そこで、本発明の目的は、前記の事情に鑑み、ロール状にして長期間保管した場合に、外観上の不具合のない積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、積層フィルムを構成する熱可塑性重合体のうち、同じ熱可塑性重合体を含む層について、赤外線吸収剤を特定量含むようにすることにより、上記目的を達成することを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば、以下の態様を含む。
(1)熱可塑性重合体からなる層を少なくとも2層有する積層フィルムであって、該熱可塑性重合体からなる層の内、少なくとも2層は、熱可塑性重合体aからなる層であり、該熱可塑性重合体aからなる層の内、少なくとも1層は、赤外線吸収剤を0.01〜1.5質量%含む層であり、可視光領域の光線透過率が90%以上である、ことを特徴とする積層フィルム。
(2)前記赤外線吸収剤を含む層を少なくとも2層有し、該層はそれぞれ、赤外線吸収帯域が異なる赤外線吸収剤を含有するものである前記(1)記載の積層フィルム。
(3)前記熱可塑性重合体aを含む層の内、少なくとも1層は、赤外線吸収剤を含まない層である前記(1)記載の積層フィルム。
(4)前記赤外線吸収剤を含む層の厚みの標準偏差が1.0μm以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の積層フィルム。
(5)前記熱可塑性重合体aが、アクリル樹脂、スチレン樹脂、又は脂環式構造を有する樹脂のいずれかである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の積層フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層フィルムは、複数の熱可塑性重合体からなる層を赤外線吸収帯域が重ならない構成にすることにより、各層の厚みをより精度よく制御することが可能となる。加えて、本発明の積層フィルムを、ロール状にして長期間保管しても外観上の不具合がなく、さらに、長期間保管後にロール状からシート状に取り出した際にカール・巻き癖等がないので、LCDなどの表示装置に用いられる偏光板保護フィルムや位相差フィルムなどの光学フィルムに用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の積層フィルムは、少なくとも2層有する積層フィルムであって、該熱可塑性重合体からなる層の内、少なくとも2層は、熱可塑性重合体aを含む層であり、該熱可塑性重合体aを含む層の内、少なくとも1層は、赤外線吸収剤を0.01〜1.5質量%含む層であり、可視光領域の光線透過率が90%以上である。
【0009】
本発明の積層フィルムに用いる熱可塑性重合体としては、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーが挙げられる。
前記熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーとしては透明であれば特に制限されない。
熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノルボルネン樹脂、スチレン樹脂などが挙げられる。
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、水添スチレン−イソプレン共重合体などの芳香族ビニル−共役ジエン系ブロック共重合体、エチレン−プロピレンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、エチレン系アイオノマー樹脂などが挙げられる。
【0010】
本発明では、熱可塑性重合体を含む層の内、少なくとも2層は、熱可塑性重合体aを含む層である。
熱可塑性重合体aとしては、前記熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーに例示されるものを適宜使用できるが、共押出の熱安定性、成型加工性、各樹脂同士の接着性の観点から、アクリル樹脂、スチレン樹脂、脂環式構造を有する樹脂が好ましい。
【0011】
アクリル樹脂は、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの重合繰り返し単位を主成分とする樹脂である。本発明においては、メタクリル酸エステルの重合繰り返し単位を主成分とする樹脂が好ましく、メタクリル酸エステルの単独重合体や、メタクリル酸エステルとその他の単量体との共重合体が挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸アルキルエステルが用いられる。共重合体とする場合は、メタクリル酸エステルと共重合するその他の単量体としては、アクリル酸エステルや、芳香族ビニル化合物、ビニルシアン化合物などが用いられる。
【0012】
スチレン樹脂は、芳香族ビニル単量体由来の構造を繰り返し単位の一部又は全部に有する樹脂である。ポリスチレン、又は、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-クロロスチレン、p-ニトロスチレン、p-アミノスチレン、p-カルボキシスチレン、p-フェニルスチレンなどのスチレン系単量体と、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、酢酸ビニルなどのその他の単量体との共重合体などを挙げることができる。本発明においては、ポリスチレン、又はスチレンと無水マレイン酸との共重合体を好適に用いることができる。
【0013】
脂環式構造を有する樹脂は、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造のごとき脂環式構造を有する樹脂である。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。脂環式構造を有する樹脂中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を有する樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、フィルムの透明性および耐熱性が向上するので好ましい。
【0014】
脂環式構造を有する樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いられる。ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いられる。
【0015】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが拳げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが拳げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0016】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、80℃以上であることが好ましく、100〜250℃であることがより好ましい。
【0017】
本発明において、熱可塑性重合体aからなる層の内、少なくとも1層は、赤外線吸収剤を0.01〜1.5質量%含有する層である。
赤外線吸収剤としては、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ノフタロシアニン系化合物、ナフトキノン系化合物、ジイモニウム系化合物、アミニウム系化合物、アントラキノン系化合物、ジチオール系錯体などが挙げられる。中でも、吸収帯域が狭い点で、ジイモニウム系化合物が好ましい。
本発明においては、上記赤外線吸収剤以外に、熱可塑性重合体aと異なる赤外線吸収帯域を有する熱可塑性重合体を、赤外線吸収剤として使用してもよい。具体的には、ポリアクリロニトリル樹脂などが挙げられる。
【0018】
本発明において、赤外線吸収剤を含む層の赤外線吸収剤の含有量は、0.01〜1.5質量%、好ましくは0.05〜1.0質量%である。赤外線吸収剤の含有量が、前記範囲より少ないと、熱可塑性重合体と混合する際の赤外線吸収剤の添加量を制御することが困難となり、各層の厚みの変化を測定しているのか、赤外線吸収剤の添加量のばらつきを測定しているのか区別がつかなくなってしまう。逆に赤外線吸収剤の含有量が、前記範囲より多いと、フィルムの着色が強くなったり、二軸押出機などで赤外線吸収剤と熱可塑性重合体を混練するときの押出安定性が悪くなったりして生産性が低くなる。
熱可塑性重合体aと赤外線吸収剤とを混合させる方法としては、熱可塑性重合体aと赤外線吸収剤とを押出機で溶融混練する方法や、熱可塑樹脂aと赤外線吸収剤とを溶液状態で混合させる方法などが挙げられるが、特に制限されない。
【0019】
本発明において、「赤外線吸収帯域」は、赤外線領域(2〜5μm)の吸収率が5〜60%、好ましくは10〜40%である領域をさす。赤外線領域の吸収率は、市販の分光光度計(例えば、日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計V−670)を用いて測定することができる。
本発明において、「異なる赤外線吸収帯域を有する」は、(1)吸収ピーク波長は同じだが、吸収帯域が異なる場合;(2)吸収帯域が同じだが、吸収ピーク波長が異なる場合;(3)吸収ピーク波長及び吸収帯域が異なる場合;のいずれかを意味する。前記(1)〜(3)の中で、(2)、(3)が好ましく、(3)がより好ましい。
【0020】
本発明において、前記赤外線吸収剤を含む層を少なくとも2層有し、該層は、それぞれ、赤外線吸収帯域が異なる赤外線吸収剤を含む層であることが好ましい。各層に含有される赤外線吸収剤をそれぞれ赤外線吸収帯域が異なるものとすることにより、フィルムを構成する熱可塑性重合体が変更されても、赤外線吸収剤の吸収波長は変わらないので、煩雑な厚み測定装置の調整が簡略化され、各層の厚みをより高精度に測定することができる。また、各層を高精度に測定できることから、巻きシワ、巻きこぶなどフィルムの面状に影響を大きく与える弾性率の高い層などの厚みを特に均一にするなどして、面状を改善することができる。
【0021】
本発明において、前記熱可塑性重合体aからなる層の内、少なくとも1層は、赤外線吸収剤を含まない層であることが好ましい。熱可塑性重合体aからなる層の内、少なくとも1層は、赤外線吸収剤を含まない層とすることにより、例えば、赤外線吸収剤を含まない層が外層にある場合には、赤外線吸収剤が析出するのを防ぎ、キャストロールの汚染を防ぐことができる。加えて、フィルム成形時の熱により揮発して、赤外線吸収剤の含有量が変化することを防止できる。一方、赤外線吸収剤を含まない層が内層にある場合、赤外線吸収剤により発生する気泡をフィルム内部に滞留させ、フィルムの面状が悪化することを防ぐことができる。また、積層フィルムの最外層を赤外線吸収剤を含まない層とすることにより、外層に用いられる熱可塑性重合体の熱履歴を減らすことができ、フィッシュアイ、ダイラインなどを減らすことができる。
【0022】
本発明の積層フィルムは、熱可塑性重合体aからなる層のみで構成されていてもよいし、他の熱可塑性重合体からなる層を有していてもよい。他の熱可塑性重合体は、先に述べた熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーから適宜選択することができる。
本発明の積層フィルムの層数は、少なくとも2層有していれば、特に制限されないが、通常は3〜5層である。
本発明の積層フィルムにおいて、熱可塑性重合体からなる層は、熱可塑性重合体や赤外線吸収剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。
【0023】
本発明の積層フィルムの厚みは、得られる積層フィルムの使用目的などに応じて適宜決定することができる。積層フィルムの厚みは、10〜500μm、好ましくは30〜400μmである。
【0024】
本発明においては、赤外線吸収剤を含む層の厚みの標準偏差が1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。赤外線吸収剤を含む層の厚みの標準偏差を前記範囲とすることにより、ロール状態での巻きコブ、巻きシワを減らすことができる。またロールから巻き出したシートの巻き癖、カールを減らすことができる。
【0025】
本発明の積層フィルムの製造方法に特に制限はなく、例えば、熱可塑性重合体aからなる層と、他の熱可塑性重合体からなる層を別々に製膜し、それらを積層することにより得ることができ、あるいは、共押出により製膜して積層フィルムを得ることもできる。これらの方法の中で、共押出による製膜は、効率よく積層フィルムを製造することができるので、好適に実施することができる。共押出においては、複数の押出機を用いて、熱可塑性重合体aからなる層、他の熱可塑性重合体からなる層を多層ダイから押し出すことにより製膜することができる。共押出する際の温度は、熱可塑性重合体のガラス転移温度よりも80〜180℃高い温度にすることが好ましい。押出機での溶融温度が過度に低いと熱可塑性重合体の流動性が不足するおそれがあり、逆に溶融温度が過度に高いと熱可塑性重合体が劣化する可能性がある。ここでいうガラス転移温度は、一番高いガラス転移温度を指す。
【0026】
本発明の積層フィルムは、可視光領域の光線透過率が90%以上、好ましくは92%以上である。可視光領域の光線透過率が90%以上であることにより、液晶表示装置(LCD)やプラズマディスプレイ装置(PDP)などの表示装置に用いられる光学フィルムに使用することができる。また、赤外線吸収剤を添加したフィルムをカーナビゲーション用LCDに使用することにより、内部のLCD基板の外光による温度上昇を抑えたり、PDPに使用することによりPDPで発生する近赤外線を遮蔽することができる。
【0027】
本発明の積層フィルムは、そのまま、又は延伸加工、ラミネート加工、塗工などの公知のフィルム加工を施すことにより、種々の光学フィルムに使用することができる。
具体的には、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、透明導電性フィルム、タッチパネル用基板、光拡散シート、プリズムシート、PDP前面板などが挙げられる。
位相差フィルムとして使用する場合は、通常本発明の積層フィルムを延伸加工する。延伸加工の方法は、特に制限はなく、縦一軸延伸、横一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、斜め延伸など従来公知の方法を適用しうる。
【実施例】
【0028】
本発明を、実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
実施例及び比較例において、赤外線吸収剤は以下のものを使用した。
赤外線吸収剤1:ポリアクリロニトリル(三井化学社製、バレックス)、吸収ピーク波長1060〜1085nm。
赤外線吸収剤2:ジイモニウム化合物(長瀬ケムテックス社製、NIR−IM2)、吸収ピーク波長950〜1125nm。
【0030】
実施例及び比較例で行った評価方法は、以下のとおりである。
【0031】
(光線透過率)
ロール状に巻き取ったフィルムロールから、5cm×5cmのサイズで切り出し、濁度計(日本電色工業社製、NDH2000)を用いて全光線透過率を測定する。
【0032】
(厚さ、その標準偏差)
製造ラインにおいて、インライン赤外線膜厚計(クラボウ社製、商品名RX−200)を用いて測定した。測定間隔は幅方向5mm間隔で、ラインスピードは5m/分とする。波長3.75、2.47及び4.40μmにおける吸収を、各層に対応する吸収として記録する。併せて、積層フィルムの総厚を反映する波長として、波長2.37μmにおける吸収も併せて記録する。加えて、1.07μmにおける吸収を赤外線吸収剤を含む層の吸収として記録する。別途、各層それぞれについて、厚さ30〜200μmの標準品5点を作成し、各波長での吸収を測定し検量線を求め、これに基づいて各層の膜厚を計算する。さらに、総厚の検量線作成のため、総厚30〜200μmの標準品を数点作成し、波長2.37μmにおける吸収を測定し検量線を求め、これに基づいて総厚を計算する。赤外線吸収剤を含む層について、厚さ30〜200μmの標準品5点を作成し、1.07μmでの吸収を測定し検量線を求め、これに基づいて赤外線吸収剤を含む層の膜厚を計算する。
標準偏差は、各層について全測定値から算出する。
【0033】
(フィルム外観)
ロール状に巻き取った積層フィルムを、一般倉庫(温度15〜25℃、相対湿度30〜60%)に一ヶ月間保管し、保管後のロール状に巻き取ったフィルムの外観を目視で観察する。
【0034】
(カール)
一般倉庫に一ヶ月保管後のフィルムを広げて、カールの有無を目視で観察する。判定は全幅×1mのシートを切り出し、平板の上に広げ、以下の基準で行う。
強:フィルムの周囲が2cm以上平板から浮き上がっているところがある。または、フィルムの周囲が0.5cm以上平板から浮き上がっているところが全周囲の75%を超える。
中:フィルムの周囲が2cm以上平板から浮き上がっているところがある。または、フィルムの周囲が0.5cm以上平板から浮き上がっているところが全周囲の50%を超える。
弱:フィルムの周囲が0.5cm以上平板から浮き上がっているところが全周囲の25%を超える。
なし:フィルムの周囲が0.5cm以上平板から浮き上がっているところが全周囲の25%以下である。
【0035】
(面状)
一般倉庫に一ヶ月保管後のフィルムを広げて、フィルムの面状を目視で観察する。
【0036】
(ヒートショック試験)
得られた積層フィルムをA4サイズに切り出し、これを、350mm×250mmのガラス板に、粘着剤を使用して貼合する。この貼合品を、ヒートショック試験機(エスペック社製、冷熱衝撃試験機TSA−201S−W)を用いて、ヒートショック試験を行い、ヒートショック試験後のフィルムの4角の剥がれ具合を目視で評価した。
ヒートショック試験は、65℃で3分保持と、−30℃で3分保持を1サイクルとして、100サイクル行った。
【0037】
(実施例1)
アクリル樹脂1(旭化成ケミカルズ社製、デルペット80NH)99.9質量部と赤外線吸収剤1 0.1質量部とを二軸押出機を用いて混練し、アクリル樹脂組成物1を得た。
アクリル樹脂組成物1と、アクリル樹脂2(住友化学社製、スミペックスHT25X)とを、それぞれ押出機で溶融させ、共押出用のダイ(ダイス幅1850mm)に供給した。供給された溶融樹脂はダイスリップを通過し、冷却ロール及び巻き取りロール(直径600mm)に巻き取り、平均厚さ80μm、幅1450mm、長さ3200mのアクリル樹脂2/アクリル樹脂組成物1/アクリル樹脂2の三層構成の積層フィルム1とした。
巻き取った積層フィルム1について、評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム1の、アクリル樹脂2層の厚さの標準偏差は0.21μm、アクリル樹脂組成物1層の厚さの標準偏差は0.33μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.14μmであった。積層フィルム1の可視光領域の光線透過率は90%であった。
【0038】
(実施例2)
ノルボルネン樹脂1(日本ゼオン社製、ゼオノア1430)99.95質量部と、赤外線吸収剤2 0.05質量部とを二軸押出機を用いて混練し、ノルボルネン樹脂組成物1を得た。
ノルボルネン樹脂組成物1と、ノルボルネン樹脂2(日本ゼオン社製、ゼオノア1600R)とを、それぞれ押出機で溶融させ、共押出用のダイに供給した。供給された溶融樹脂はダイスリップを通過し、冷却ロール及び巻き取りロール(直径600mm)に巻き取り、平均厚さ130μm、幅1450mm、長さ2000mのノルボルネン樹脂2/ノルボルネン樹脂組成物1/ノルボルネン樹脂2の三層構成の積層フィルム2とした。
巻き取った積層フィルム2について、評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム2の、ノルボルネン樹脂2層の厚さの標準偏差は0.23μm、ノルボルネン樹脂組成物1層の厚さの標準偏差は0.34μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.16μmであった。積層フィルム2の可視光領域の光線透過率は92%であった。
【0039】
(実施例3)
アクリル樹脂3(住友化学社製、スミペックスHT55X)99.5質量部と赤外線吸収剤1 0.5質量部とを二軸押出機を用いて混練し、アクリル樹脂組成物2を得た。
アクリル樹脂2(住友化学社製、スミペックスHT25X)99.5質量部と赤外線吸収剤2 0.5質量部とを混練して、アクリル樹脂組成物3を得た。
アクリル樹脂1と、アクリル樹脂組成物2と、アクリル樹脂組成物3とを、それぞれ押出機で溶融させ、共押出用のダイに供給した。供給された溶融樹脂はダイスリップを通過し、冷却ロール及び巻き取りロール(直径600mm)に巻き取り、平均厚さ80μm、幅1450mm、長さ3200mのアクリル樹脂1/アクリル樹脂組成物2/アクリル樹脂組成物3の三層構成の積層フィルム3とした。
巻き取った積層フィルム3について、評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム3の、アクリル樹脂1層の厚さの標準偏差は0.19μm、アクリル樹脂組成物2層の厚さの標準偏差は0.22μm、アクリル樹脂組成物3層の厚さの標準偏差は0.24μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.16μmであった。積層フィルム3の可視光領域の光線透過率は90%であった。
【0040】
(実施例4)
水添スチレン系熱可塑性エラストマー(水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、旭化成ケミカルズ社製、タフテックH1052)99質量部と赤外線吸収剤1 1質量部とを二軸押出機を用いて混練して、水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物1を得た。
ノルボルネン樹脂1と、水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物1と、スチレン樹脂1とを、それぞれ押出機で溶融させ、共押出用のダイに供給した。供給された溶融樹脂はダイスリップを通過し、冷却ロール及び巻き取りロール(直径600mm)に巻き取り、平均厚さ100μm、幅1450mm、長さ2600mのノルボルネン樹脂1/水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物1/スチレン樹脂1の三層構成の積層フィルム4とした。
巻き取った積層フィルム4について、評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム4の、ノルボルネン樹脂1層の厚さの標準偏差は0.23μm、水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物1層の厚さの標準偏差は0.05μm、スチレン樹脂1層の厚さの標準偏差は0.25μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.25μmであった。積層フィルム4の可視光領域の光線透過率は90%であった。
【0041】
(実施例5)
アクリル樹脂2(住友化学社製、スミペックスHT25X)99.99質量部と赤外線吸収剤2 0.01質量部とを二軸押出機を用いて混練し、アクリル樹脂組成物4を得た。
アクリル樹脂2と、スチレン樹脂1(ノバケミカル社製、ダイラークD332)と、アクリル樹脂組成物4とを、それぞれ押出機で溶融させ、共押出用のダイに供給した。供給された溶融樹脂はダイスリップを通過し、冷却ロール及び巻き取りロール(直径600mm)に巻き取り、平均厚さ160μm、幅1450mm、長さ1600mのアクリル樹脂2/スチレン樹脂1/アクリル樹脂組成物4の三層構成の積層フィルム5とした。
巻き取った積層フィルム5について、評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム5の、アクリル樹脂2層の厚さの標準偏差は0.23μm、スチレン樹脂1層の厚さの標準偏差は0.31μm、アクリル樹脂組成物4層の厚さの標準偏差は0.26μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.27μmであった。積層フィルム5の可視光領域の光線透過率は90%であった。
【0042】
(実施例6)
水添スチレン系熱可塑性エラストマー(水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、旭化成ケミカルズ社製、タフテックH1052)99.5質量部と赤外線吸収剤1 0.5質量部とを二軸押出機を用いて混練し、水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物2を得た。
ノルボルネン樹脂3(日本ゼオン社製、ゼオノア1020R)と、水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物2と、スチレン樹脂1とを、それぞれ押出機で溶融させ、共押出用のダイに供給した。供給された溶融樹脂はダイスリップを通過し、冷却ロール及び巻き取りロール(直径600mm)に巻き取り、平均厚さ240μm、幅1450mm、長さ1100mのノルボルネン樹脂3/水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物2/スチレン樹脂1/水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物2/ノルボルネン樹脂3の五層構成の積層フィルム6とした。
巻き取った積層フィルム6について、評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム6のノルボルネン樹脂3層の厚さの標準偏差は0.23μm、水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物2層の厚さの標準偏差は0.05μm、スチレン樹脂1層の厚さの標準偏差は0.15μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.18μmであった。積層フィルム6の可視光領域の光線透過率は91%であった。
【0043】
(比較例1)
実施例1において、アクリル樹脂組成物1のかわりに、アクリル樹脂1を用いた他は、実施例1と同様にして共押出、巻き取りを行い、幅1450mm、長さ3200mのアクリル樹脂2/アクリル樹脂1/アクリル樹脂2の三層構成の積層フィルム1Rとした。
巻き取った積層フィルム1Rについて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム1Rの、アクリル樹脂2層の厚さの標準偏差は2.37μm、アクリル樹脂1層の厚さの標準偏差は1.15μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.20μmであった。積層フィルム1Rの可視光領域の光線透過率は90%であった。
【0044】
(比較例2)
実施例2において、ノルボルネン樹脂組成物1のかわりに、ノルボルネン樹脂1を用いた他は、実施例2と同様にして共押出、巻き取りを行い、幅1450mm、長さ2000mのノルボルネン樹脂2/ノルボルネン樹脂1/ノルボルネン樹脂2の三層構成の積層フィルム2Rとした。
巻き取った積層フィルム2Rについて、実施例2と同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム2Rの、ノルボルネン樹脂2層の厚さの標準偏差は2.40μm、ノルボルネン樹脂1層の厚さの標準偏差は2.40μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.20μmであった。積層フィルム2Rの可視光領域の光線透過率は92%であった。
【0045】
(比較例3)
実施例3において、アクリル樹脂組成物2のかわりにアクリル樹脂3、アクリル樹脂組成物3のかわりにアクリル樹脂2を用いた他は、実施例3と同様にして共押出、巻き取りを行い、幅1450mm、長さ3200mのアクリル樹脂1/アクリル樹脂3/アクリル樹脂2の三層構成の積層フィルム3Rとした。
巻き取った積層フィルム3Rについて、実施例3と同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム3Rの、アクリル樹脂1層の厚さの標準偏差は1.33μm、アクリル樹脂3層の厚さの標準偏差は1.26μm、アクリル樹脂2層の厚さの標準偏差は1.14μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.21μmであった。積層フィルム3Rの可視光領域の光線透過率は91%であった。
【0046】
(比較例4)
実施例4において、水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物1のかわりに水添スチレン系熱可塑性エラストマー1を用いた他は、実施例4と同様にして共押出、巻き取りを行い、幅1450mm、長さ2600mのノルボルネン樹脂1/水添スチレン系熱可塑性エラストマー1/スチレン樹脂1の三層構成の積層フィルム4Rとした。
巻き取った積層フィルム4Rについて、実施例4と同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム4Rの、ノルボルネン樹脂1層の厚さの標準偏差は1.20μm、水添スチレン系熱可塑性エラストマー1層の厚さの標準偏差は1.23μm、スチレン樹脂1層の厚さの標準偏差は1.3μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.23μmであった。積層フィルム4Rの可視光領域の光線透過率は90%であった。
【0047】
(比較例5)
実施例5において、アクリル樹脂組成物4のかわりに、アクリル樹脂2を用いた他は、実施例5と同様にして共押出、巻き取りを行い、幅1450mm、長さ1600mのアクリル樹脂2/スチレン樹脂1/アクリル樹脂2の三層構成の積層フィルム5Rとした。
巻き取った積層フィルム5Rについて、実施例5と同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム5Rの、アクリル樹脂2層の厚さの標準偏差は1.33μm、スチレン樹脂1層の厚さの標準偏差は0.90μm、アクリル樹脂2層の厚さの標準偏差は0.1.45μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.23μmであった。積層フィルム5Rの可視光領域の光線透過率は90%であった。
【0048】
(比較例6)
実施例6において、水添スチレン系熱可塑性エラストマー組成物2のかわりに、水添スチレン系熱可塑性エラストマー1を用いた他は、実施例6と同様にして共押出、巻き取りを行い、平均厚さ240μm、幅1450mm、長さ1100mのノルボルネン樹脂3/水添スチレン系熱可塑性エラストマー1/スチレン樹脂1/水添スチレン系熱可塑性エラストマー1/ノルボルネン樹脂3の五層構成の積層フィルム6Rとした。
巻き取った積層フィルム6Rについて、評価を行った。結果を表1に示す。なお、積層フィルム6Rのノルボルネン樹脂3層の厚さの標準偏差は2.89μm、水添スチレン系熱可塑性エラストマー1層の厚さの標準偏差は0.22μm、スチレン樹脂1層の厚さの標準偏差は2.55μm、積層フィルム全体の厚さの標準偏差は0.33μmであった。積層フィルム6Rの可視光領域の光線透過率は92%であった。
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性重合体からなる層を少なくとも2層有する積層フィルムであって、
該熱可塑性重合体からなる層の内、少なくとも2層は、熱可塑性重合体aからなる層であり、
該熱可塑性重合体aからなる層の内、少なくとも1層は、赤外線吸収剤を0.01〜1.5質量%含む層であり、
可視光領域の光線透過率が90%以上である、
ことを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記赤外線吸収剤を含む層を少なくとも2層有し、該層はそれぞれ、赤外線吸収帯域が異なる赤外線吸収剤を含有するものである請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記熱可塑性重合体aからなる層の内、少なくとも1層は、赤外線吸収剤を含まない層である請求項1記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記赤外線吸収剤を含む層の厚みの標準偏差が1.0μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記熱可塑性重合体aが、アクリル樹脂、スチレン樹脂、又は脂環式構造を有する樹脂のいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。

【公開番号】特開2008−224829(P2008−224829A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59981(P2007−59981)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】