説明

積層ポリエステルフィルム

【課題】 従来両立し得ないと考えられてきた、密着性と帯電防止性能とを高度な水準で両立した積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルフィルムの少なくとも片面に厚さ0.01〜0.07μmの塗布層を有し、当該塗布層が、反応性乳化剤に由来する親水基を分子中に有するアクリル系樹脂と、オキサゾリン化合物と、4級アンモニウム基を有する化合物とを含有する塗布液から形成されたことを特徴とする積層ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた帯電防止性を有し、また各種の上塗り剤に対する密着性の優れた塗布層を有するポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性などに優れ、さまざまな分野で使用されている。
【0003】
特に近年、偏光板や位相差板やそれに準じた積層体等の光学部材の表面保護フィルムや、コンピュータやテレビなどの液晶ディスプレイ等に用いられるレンズシート等の光学フィルムの基材などに用いられることが増えている。
【0004】
かかる用途では、ポリエステルフィルム上に塗料、インキ、粘着剤、接着剤等の各種上塗り剤の加工が行われる。しかし、二軸延伸ポリエステルフィルムは、表面が高度に結晶配向されているため、これら各種上塗り剤との密着性に劣るという欠点を有している。
【0005】
このような密着性に関する問題点を解決する方法の一つとして、ポリエステルフィルムの表面に種々の樹脂を塗布し、易接着性能を持つ塗布層を設ける方法がある。
【0006】
また一方で、ポリエステルフィルムは、プラスチックフィルム共通の問題として、静電気が発生して帯電しやすいと言う特徴がある。そのためフィルム加工時あるいは加工製品の走行性不良や、周囲の埃等を引きつけるという問題や、光学フィルムとした際に、静電気により複数のフィルム同士が張り付き、フィルムがたわむことで画質にムラを起こすといった問題が生じる。ポリエステルフィルムの帯電の抑制についても、フィルム上に帯電防止性能を有する塗布層を設ける方法がある。
【0007】
しかし、従来の帯電防止性の塗布層は密着性に劣り、密着性と帯電防止性を十分な水準で両立したものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−1164号公報
【特許文献2】特開平8−143691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その解決課題は、従来両立し得ないと考えられてきた、密着性と帯電防止性能とを高度な水準で両立した積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題に関して鋭意検討を重ねた結果、特定の構成を採用することによれば、上記課題が容易に解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に厚さ0.01〜0.07μmの塗布層を有し、当該塗布層が、反応性乳化剤に由来する親水基を分子中に有するアクリル系樹脂と、オキサゾリン化合物と、4級アンモニウム基を有する化合物とを含有する塗布液から形成されたことを特徴とする積層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明よれば、従来両立し得ないと考えられてきた、密着性と帯電防止性能とを高度な水準で両立した積層ポリエステルフィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の積層ポリエステルフィルムの基材フィルムは、ポリエステルからなるものである。かかるポリエステルとは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸のようなジカルボン酸またはそのエステルとエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのようなグリコールとを溶融重縮合させて製造されるポリエステルである。これらの酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルは、通常行われている方法を任意に使用して製造することができる。
【0014】
例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとの間でエステル交換反応をさせるか、あるいは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接エステル化させるかして、実質的に芳香族ジカルボン酸のビスグリコールエステル、またはその低重合体を形成させ、次いでこれを減圧下、加熱して重縮合させる方法が採用される。その目的に応じ、脂肪族ジカルボン酸を共重合しても構わない。
【0015】
本発明のポリエステルとしては、代表的には、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられるが、その他に上記の酸成分やグリコール成分を共重合したポリエステルであってもよく、必要に応じて他の成分や添加剤を含有していてもよい。
【0016】
本発明におけるポリエステルフィルムには、フィルムの走行性を確保したり、キズが入ることを防いだりする等の目的で粒子を含有させることができる。このような粒子としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子、さらに、ポリエステル製造工程時の析出粒子等を用いることができる。
【0017】
用いる粒子の粒径や含有量はフィルムの用途や目的に応じて選択されるが、平均粒径(d50)に関しては、
通常0.01μm〜3μm、好ましくは0.02μm〜2.5μm、さらに好ましくは0.03μm〜2μmの範囲である。平均粒径が3.0μmを超えるとフィルムの表面粗度が粗くなりすぎたり、粒子がフィルム表面から脱落しやすくなったりすることがある。平均粒径が0.01μm未満では、表面粗度が小さすぎて、十分な易滑性が得られない場合がある。
【0018】
粒子含有量については、ポリエステルに対し、通常0.0003〜1.0重量%、好ましくは0.0005〜0.5重量%の範囲である。粒子含有量が0.0003重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、1.0重量%を超えて添加する場合には、フィルムの透明性が不十分な場合がある。なお、フィルムの透明性、平滑性などを特に確保したい場合には、実質的に粒子を含有しない構成とすることもできる。
また、適宜、各種安定剤、潤滑剤、帯電防止剤等をフィルム中に加えることもできる。
【0019】
なお、本発明で得られる積層ポリエステルフィルムのヘーズは10%以下であることが好ましい。より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。この範囲より大きいと、光学フィルム用途においては、外観上使用しがたくなる場合がある。
【0020】
本発明のフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、まず溶融押出によって得られたシートを、ロール延伸法により、70〜145℃で2〜6倍に延伸して、一軸延伸ポリエステルフィルムを得、次いで、テンター内で先の延伸方向とは直角方向に80〜160℃で2〜6倍に延伸し、さらに、150〜250℃で1〜600秒間熱処理を行うことでフィルムが得られる。さらにこの際、熱処理のゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に0.1〜20%弛緩する方法が好ましい。
【0021】
本発明におけるポリエステルフィルムは、単層または多層構造である。多層構造の場合は、表層と内層、あるいは両表層や各層を目的に応じ異なるポリエステルとすることができる。
【0022】
本発明の塗布層は、製膜したフィルムに後から塗布層を設ける、いわゆるオフラインコーティングと、フィルムの製膜中に塗布層を設ける、いわゆるインラインコーティングのいずれでも設けることができる。ただしインラインコーティング、特に塗布後に延伸を行う塗布延伸法により設けられることが好ましい。
【0023】
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから二軸延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、その後に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルムの何れかにコーティングする。特に塗布延伸法としては、一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と塗布層塗設を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、コーティング後に延伸を行うために、薄膜で均一なコーティングとなるために塗布層の特性が安定する。また、二軸延伸される前のポリエステルフィルム上を、まず塗布層を構成する樹脂層で被覆し、その後フィルムと塗布層を同時に延伸することで、基材フィルムと塗布層が強固に密着することになる。また、ポリエステルフィルムの二軸延伸は、テンタークリップによりフィルム端部を把持しつつ横方向に延伸することで、フィルムが長手/横手方向に拘束されており、熱固定において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかける事ができる。それゆえ、コーティング後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、塗布層の造膜性が向上し、また塗布層とポリエステルフィルムが強固に密着する。塗布層を設けたポリエステルフィルムとして、塗布層の均一性、造膜性の向上および塗布層とフィルムの密着は好ましい特性を生む場合が多い。ただし、塗布層として用いられる樹脂に耐熱性が必要となるため、使用する樹脂の選定には十分な検討が必要である。
【0024】
塗布延伸法の場合、用いる塗布液は、取扱い上、作業環境上、安全上の理由から水溶液または水分散液であることが望ましいが、水を主たる媒体としており、本発明の要旨を越えない範囲であれば、有機溶剤を含有していてもよい。
【0025】
本発明の塗布層は、反応性乳化剤に由来する親水基を分子中に有するアクリル系樹脂と、オキサゾリン系化合物と、4級アンモニウム基を有する化合物とを含有する塗布液を、フィルム上に塗布・乾燥・硬化することで得ることができる。なお、塗布液中には、その他の成分を含有していても構わない。
【0026】
得られる塗布層は、各成分が完全に反応していない場合は、各成分の未反応物と反応生成物との双方が含まれることとなり、反応生成物と未反応物の割合は、硬化条件等により適宜変更されうる。
【0027】
前述したように、従来の技術では、密着性と帯電防止性能とが十分な水準で両立しなかった。この原因は必ずしも明確ではないが、次のような理由があるものと考えられる。
【0028】
すなわち、塗布によって十分な帯電防止性能を得ようとすると、必要な帯電防止成分の量を得るために、塗布層を厚くする必要があるが、このような厚い塗布層では、密着性の試験方法として一般的に行われる、上塗り剤を加工した後に強制剥離試験を行った際、塗布層と上塗り層との界面での剥離以外に、塗布層自体の凝集破壊が起こりやすくなる。そのために十分な密着性を確保することができなかった。この凝集破壊を防ぐために、例えば架橋剤の使用によって塗布層自体の凝集力を高めると、塗布層中における帯電防止成分のネットワークを阻害し、帯電防止性能が低下する、あるいは凝集破壊を防ぐために塗布層を薄くすると、帯電防止成分の総量も減り、やはり帯電防止性能が低下するという堂々巡りに陥る。また、塗布層を厚くする代わりに、帯電防止成分が塗布層全体の有効成分に占める比率を高くした場合も、これらの成分が密着性に乏しい場合、やはり得られる塗布層が高い密着性を有することはできなかった。
【0029】
つまり、帯電防止性能と密着性を両立するためには、用いる材料の選定および塗布層の構成に、新たな組み合わせを見いだす必要があったのである。
【0030】
本発明において塗布層を形成するための塗布液に含有されるアクリル系樹脂とは、アクリル系、メタアクリル系のモノマーに代表されるような、炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーからなる重合体である。
【0031】
かかる炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸のような各種カルボキシル基含有モノマー類、およびそれらの塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキルフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような各種の水酸基含有モノマー類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種の(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドまたは(メタ)アクリロニトリル等のような種々の窒素含有ビニル系モノマー類、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンのような各種スチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類などが挙げられるが、特に本発明では、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのうちの一種以上を含有する共重合体であることが好ましい。
【0032】
またかかるモノマー類を重合してアクリル系樹脂を得るにあたり、本発明では、水中にモノマー類を分散し重合する乳化重合法を用いた、水分散体の形態で得ることが好ましい。モノマーを水分散するには乳化剤を用いるが、本発明においては、ノニオン性またはアニオン性の反応性乳化剤を用いることが好ましい。その他の乳化剤を用いて得られたアクリル樹脂では、得られる塗布層が十分な密着性を示さないことが多い。ここで言う反応性乳化剤とは、分子中にラジカル重合性の二重結合を持ち、アクリル系樹脂の重合の際に、樹脂中に共重合するような乳化剤を指す。ノニオン性であることが特に好ましく、その場合、親水基としてはアルキレンオキサイドを用いたものが好ましい。アニオン性の場合、親水基としては硫酸エステル塩が好ましい。
【0033】
得られたアクリル系樹脂水分散は、その平均分散粒径が、0.01〜0.2μmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.09μmである。平均分散粒径が上記範囲より大きいと、得られる塗布層の外観や密着性に劣る傾向がある。また上記範囲より小さいと、やはり密着性に劣る傾向がある。
【0034】
本発明において塗布層を形成するための塗布液に含有される、4級アンモニウム基を有する化合物としては、分子内に4級化されたアンモニウム基を有する化合物を指し、特に高分子化合物であることが好ましい。また水溶性化合物であることが好ましい。
【0035】
本発明では例えば、4級アンモニウム基と不飽和性二重結合を有する単量体を成分として含む重合体を用いることができる。
【0036】
かかる重合体の具体的な例としては、例えば下記式1または下記式2で示される構成要素を繰返し単位として有する重合体が挙げられる。これらの単独重合体や共重合体、さらに、その他の複数の成分を共重合していても構わない。
【0037】
【化1】

【0038】
上記式(1)中、Rは水素原子または炭素数が1〜3のアルキル基、Rは−O−または−NH−、Rは−R−または−R−A−R−(ただし、RおよびRは置換されていてもよい炭素数が1〜6のアルキレン基、Aは、−O−、−NH−または−N(CH−を表す)、R4、R5、R6はそれぞれが、水素原子または炭素数が1〜3のアルキル基、Xは1価の陰イオンである。
【0039】
【化2】

【0040】
上記式中、RおよびRはそれぞれ、水素原子または炭素数が1〜3のアルキル基、Xは1価の陰イオンである。
【0041】
上記式1で示される構成要素を持つ重合体は、得られる塗布層の透明性に優れ好ましい。ただし塗布延伸法においては、耐熱性に劣る場合があり、塗布延伸法に用いる場合、Xはハロゲンではないことが好ましい。
【0042】
上記式2で示される構成要素や、その他の4級アンモニウム塩基が高分子骨格内にある化合物は、耐熱性に優れており、塗布延伸法においても帯電防止性が得られやすい。
【0043】
また、本発明では、塗布層を形成するための塗布液にオキサゾリン化合物を含有する必要がある。
【0044】
本発明におけるオキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物を指し、原料モノマーの少なくとも一つとしてオキサゾリン基を含むモノマーを使用して合成することができる。かかるモノマー類としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,−オキサジン、4,4,6−トリメチル−2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4−アクリロイル−オキシメチル−2,4−ジメチル−2−オキサゾリン、4−メタクリロイル−オキシメチル−2,4−ジメチル−2−オキサゾリン、4−メタクリロイル−オシメチル−2−フェニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−(4−ビニルフェニル)−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、4−エチル−4−ヒドロキシメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4−エチル−4−カルボエトキシメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等を例示することができる。これらあるいはその他のオキサゾリン基含有モノマーの1種以上を使用することができる。
【0045】
また、本発明においては、オキサゾリン基を含有しない、その他の成分を共重合していることが好ましい。ここで、その他の成分とは、オキサゾリン基含有モノマーと共重合し得るモノマーであれば特に限定されない。例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン系モノマー等の、ビニル基を含有するモノマーを用い、ビニルオキサゾリンモノマーと共重合した樹脂は、反応性も高く、工業的に得やすい。
【0046】
また塗布液には、その他の架橋剤を含有しても構わない。
【0047】
塗布液の不揮発成分中の割合として、反応性乳化剤に由来する親水基を分子中に有するアクリル系樹脂の割合は、通常5〜70重量%、好ましくは15〜50重量%、4級アンモニウム基を有する化合物の割合は、通常10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、オキサゾリン系架橋剤の割合は、通常5〜60重量%、好ましくは10〜40重量%である。塗布層は最終的には、これらの成分の混合物およびその反応性生物の混合となる。
【0048】
塗布層を設けるための塗布液中には、必要に応じて上記述べた成分以外を含むことができる。例えば、界面活性剤、その他のバインダーや帯電防止剤、滑材、粒子、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等である。これらの添加剤は単独で用いてもよいが、必要に応じて二種以上を併用してもよい。
【0049】
塗布層の厚さは、最終的に得られるフィルム上の皮膜厚さとして、上限は0.07μmであり、好ましくは0.05μm以下である。また下限は0.01μm、好ましくは0.02μm以上である。塗布層の組成を前述のように限定した上で、塗布層の厚さを上記の範囲とした場合に、密着性と帯電防止性能が高い水準で両立される。
【0050】
塗布層の帯電防止性は、塗布層の表面固有抵抗により測られる。表面固有抵抗が低いほど、帯電防止性が良好であるといえる。表面固有抵抗が1×1013Ω以下であれば帯電防止性としては問題のないレベルと言え、1×1012Ω以下であれば、極めて良好な帯電防止性であると言える。
【0051】
ポリエステルフィルムに塗布液を塗布する方法としては、例えば、原崎勇次著、槙書店、1979年発行、「コーティング方式」に示されるような塗布技術を用いることができる。具体的には、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースロールコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カーテンコーター、カレンダコーター、押出コーター等のような技術が挙げられる。
【0052】
なお、塗布剤のフィルムへの塗布性、接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法は下記のとおりである。
【0054】
(1)ポリエステルの極限粘度の測定
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0055】
(2)ポリエステルフィルム中に添加する粒子の平均粒径(d50)
島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置SA−CP3型を用いてストークスの抵抗則にもとづく沈降法によって粒子の大きさを測定した。
【0056】
(3)塗布組成物の平均粒径
塗布組成物の水分散体を適当な濃度に希釈し、日機装製マイクロトラックUPAにて、個数平均の50%平均径を測定した。
【0057】
(4)塗布層厚み
包埋樹脂でフィルムを固定し断面をミクロトームで切断し、2%オスミウム酸で60℃、2時間染色して試料を調整した。得られた試料を、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM2010)で観察し、塗布層の厚みを測定した。フィルムの計15箇所を測定し、数値の大きい方から3点と、小さい方から3点を除いた9点の平均を塗布層厚みとする。
【0058】
(5)帯電防止性
日本ヒューレット・パッカード製高抵抗測定器:HP4339Bおよび測定電極:HP16008Bを使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、表面固有抵抗値を測定した。
【0059】
(6)接着性
サンプルの塗布層上に、下記に示すとおりの活性エネルギー線硬化樹脂組成物を、硬化後の厚さが7μmになるように塗布し、80℃に設定した熱風乾燥式オーブンにて1分間乾燥させた。次いで、120W/cmのエネルギーの高圧水銀灯を使用し、照射距離100mmにて約7秒間照射し硬化を行って、フィルム上に活性エネルギー線硬化樹脂層を設けた積層フィルムを得た。この時の活性エネルギー線の積算光量を、紫外線積算光量計UIT−250および受光器UVD−C365(ウシオ電機製)を用いて測定したところ、約110mJ/cmであった。得られた積層フィルムの活性エネルギー線硬化樹脂層に、1インチ幅に碁盤目が100個になるようクロスカットを入れ、その上に18mm幅のテープ(ニチバン製セロテープ(登録商標)CT−18)を貼り付け、急速剥離テストを実施し、剥離面積によりその密着性を評価した。判定基準は以下のとおりである。
◎:碁盤目剥離個数=0
○:1≦碁盤目剥離個数≦10
△:11≦碁盤目剥離個数≦20
×:21<碁盤目剥離個数
××:全面が剥離
硬化樹脂組成物:日本化薬製KAYARAD DPHAを80重量部、日本化薬製KAYARAD R−128Hを20重量部、チバスペシャルティケミカル製IRGACURE651を5重量部の混合物をトルエンで希釈し、濃度30重量%とした組成物
【0060】
(7)透明性
JIS K 7136(ISO14782)にしたがって、濁度計NDH2000(日本電色工業製)を用いてフィルムのヘーズを測定した。ヘーズが低いほど、透明性に優れているといえる。
【0061】
実施例、比較例中で使用したポリエステル原料は次のとおりである。
(ポリエステル1):実質的に粒子を含有しない、極限粘度0.66のポリエチレンテレフタレート
(ポリエステル2):平均粒径(d50)が1.6μmの非晶質シリカを0.3重量%含有する、極限粘度0.65のポリエチレンテレフタレート
また、塗布組成物としては以下を用いた。
(E1):下記式1−1の構成単位と、下記式1−2の構成単位とを重量比率で95/5の重量比率で共重合した、数平均分子量20000の高分子化合物
【0062】
【化3】

【0063】
【化4】

【0064】
(E2):下記式2−1の構成単位からなる高分子化合物
【0065】
【化5】

【0066】
(E3):下記式3−1の構成単位とアクリル酸エステルが共重合された構造を有する高分子化合物
【0067】
【化6】

【0068】
(A1):
反応性乳化剤としてアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートを存在下に、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、N−メチロールアクリルアミドを主成分として共重合した、ガラス転移点が50℃、酸価が14mgKOH、平均粒径が0.05μmであるアクリル樹脂
(C1):オキサゾリン基がアクリル系樹脂にブランチされたポリマー型架橋剤であるエポクロス WS−500(日本触媒製)
(C2):メトキシメチロールメラミンであるベッカミン J−101(日本資材製)。
(C3):ポリグリセロールポリグリシジルエーテルであるデナコールEX−521(ナガセケムテックス製)
(F1):平均粒径0.07μmのシリカゾル水分散体
(S1):界面活性剤サーフィノール465(エアープロダクツ製)
【0069】
比較例1:
ポリエステル1とポリエステル2とを重量比で
92/8でブレンドしたものをA層、ポリエステル1のみのものをB層の原料として、二台のベント式二軸押出機にそれぞれを供給し、285℃に加熱溶融し、A層を二分配して再外層(表層)、B層を中間層とする二種三層(A/B/A)の層構成で共押出し、静電密着法を用いて表面温度40〜50℃の鏡面冷却ドラムに密着させながら冷却固化させて、厚み構成比がA/B/A=3/94/3となる未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを85℃の加熱ロール群を通過させながら長手方向に3.7倍延伸し、一軸配向フィルムとした。次いでこのフィルムをテンター延伸機に導き、100℃で幅方向に4.0倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施した後、幅方向に2%の弛緩処理を行い、フィルム厚みが100μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このフィルムの特性を、下記表2に示す。
【0070】
実施例1:
比較例1と同様の工程において得られた一軸配向フィルムの片面に、下記表1に示すとおりの塗布液を塗布した。次いでこのフィルムをテンター延伸機に導き、その熱を利用して塗布組成物の乾燥を行いつつ、比較例1と同様の工程によって、フィルム厚みが100μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、表1に示す厚さの塗布層を設けた積層ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの特性を下記表2に示す。
実施例2〜5、比較例2〜6:
実施例1と同様の工程において、塗布液を表1に示すように変更し、フィルム厚みが100μmの基材フィルムの上に塗布層を設けた積層ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの特性を表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
ただし、表1中の重量比は、塗布液中における各成分の有効成分の重量比を表す。
【0073】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のフィルムは、優れた帯電防止性および各種の上塗り剤に対する密着性を必要とする用途における二軸延伸ポリエステルフィルムとして、好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に厚さ0.01〜0.07μmの塗布層を有し、当該塗布層が、反応性乳化剤に由来する親水基を分子中に有するアクリル系樹脂と、オキサゾリン化合物と、4級アンモニウム基を有する化合物とを含有する塗布液から形成されたことを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
塗布層の表面固有抵抗が1×1013Ω以下である請求項1記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルムヘーズが10%以下である請求項1または2記載の積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−232580(P2012−232580A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92521(P2012−92521)
【出願日】平成24年4月14日(2012.4.14)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】