説明

積層ポリエステルフィルム

【課題】 優れた遮光性を有し、ハードコート材の塗布性、密着性、意匠性に優れ、窓貼りフィルムに加工後も長期に渡り使用することのできるフィルムを提供する。
【解決手段】 中間層に染料を含有する少なくとも3層の共押出積層ポリエステルフィルムの少なくとも片方の表面にプライマー層を有し、当該プライマー層表面の絶対反射率が波長400〜800nmの範囲で極小値を1つ有し、当該極小値における絶対反射率が4.0%以上であることを特徴とする積層ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関するものであり、例えば自動車の窓、建築物の窓等のガラスに貼り合わせをして使用される窓貼り用として好適な積層ポリエステルフィルムであり、ハードコート層との外光反射による干渉ムラの軽減が求められる用途においても好適な積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の窓や建築物の窓等に、プライバシーの保護、意匠性、日照調整、ガラス飛散防止等の目的で張り合わされるフィルムには、透明性、耐光性、耐水性、耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れているポリエステルフィルムが良く用いられる。
【0003】
我々は3層以上の積層ポリエステルフィルムの内層に染料を含有させた複合フィルムを、遮光性を有する窓貼り用ポリエステルフィルムとして用いることを提案している(特許文献1)。
【0004】
ところで、これらの遮光フィルムは、通常片面にハードコート加工が施され、反対面には糊剤が塗布され、この上に離型用フィルムが貼られる層構成であることが多い。この窓貼り用遮光フィルムを作成する際には、傷つき防止、表面硬度等の性能を向上させるために、通常は溶剤系のハードコート加工、糊剤塗布加工を行う必要がある。このとき、ハードコート層表面に視認される干渉が強いと視認性、および意匠性が要求される。
【0005】
基材として用いるポリエステルフィルムとハードコート層との密着性を向上させるために、中間層として易接着のプライマー層が設けられる場合が一般的である。そのため、ポリエステルフィルム、易接着のプライマー層、ハードコート層の3層の屈折率を考慮しないと干渉ムラが発生してしまう。
【0006】
干渉ムラのあるフィルム使用すると、視認性の悪いものになってしまい、使用しづらいものとなったり、意匠性が悪いものになったりしてしまう。そのため干渉ムラ対策をすることが求められている。
【0007】
一般的には、干渉ムラを軽減させるためのプライマー層の屈折率は、基材のポリエステルフィルムの屈折率とハードコート層の屈折率の相乗平均付近と考えられ、この辺りの屈折率に調整することが理想的である。ポリエステルフィルムの屈折率が高いため、一般的にはプライマー層の屈折率を高く設計する必要がある。
【0008】
プライマー層の屈折率を高くして、干渉ムラを改善した例としては、例えば、プライマー層中に屈折率の高い金属キレート化合物と樹脂とを組み合わせる方法がある。この場合は、水溶液中での金属キレートの不安定さから、組み合わせによっては塗布液の安定性が十分でない場合があり、長時間の生産を行う場合、液交換作業の増加を招く可能性がある。また、金属キレート化合物を使用する場合は、耐湿熱処理をするとハードコート層との密着性が低下する場合がある(特許文献2)。また通常用いられる高屈折率材料はハードコート層等の表面機能層との密着性に劣るため、高屈折率材料と組み合わせても効果的に密着性を向上することができるプライマー層が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−264843号公報
【特許文献2】特開2005−97571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実状に鑑みなされたものであって、その解決課題は、優れた遮光性を有し、ハードコート材の塗布性、密着性、意匠性に優れ、例えば、窓貼りフィルムに加工された後も長期に渡り使用することのできるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の積層構成を有するポリエステルフィルムによれば、上記課題を高度に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、中間層に染料を含有する少なくとも3層の共押出積層ポリエステルフィルムの少なくとも片方の表面にプライマー層を有し、当該プライマー層表面の絶対反射率が波長400〜800nmの範囲で極小値を1つ有し、当該極小値における絶対反射率が4.0%以上であることを特徴とする積層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層ポリエステルフィルムによれば、優れた遮光性を有し、ハードコート材、の塗布性、密着性、意匠性に優れ、例えば、窓貼りフィルムに加工された後も長期に渡り使用することのできるフィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、少なくとも3層以上のポリエステル層が積層されたフィルムであることが必要であり、さらに詳しくは、全ての層が押出口金から共に溶融押し出しされる、いわゆる共押出法により押し出されたフィルムである。また、フィルムは未延伸の状態や一軸延伸フィルムではなくて、縦方向および横方向の二軸方向に延伸して配向させ、その後に熱固定を施したフィルムであることが必要である。このような積層フィルムは、両面に共押出表層を有し、その間には共押出中間層を有するが、この共押出中間層自体が積層構造となっていてもよい。
【0015】
ポリエステルフィルムが単層構成である場合には、添加した染料がフィルム表面に湧き出す現象(ブリードアウト)、およびそれが昇華する現象が発生しやすく、これによってフィルム製膜機の汚染されるため、生産自体ができない場合が多く、仮に作成できたとしても、その表層にはブリードアウトによるフィルム内部からの湧出物が存在して、それによって後加工に悪影響を及ぼすことが多いため、好ましくない。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、積層された各層に用いるポリエステルが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものである。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等が例示される。これらの中でもPETは物性とコストのバランスが良好であり、最も良く用いられるポリエステルである。
【0017】
本発明で用いるポリエステルは、合計で通常10モル%以内、好ましくは5モル%以内であれば第三成分を含有した共重合体であってもよい。共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
【0018】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。この中でも特にフィルムの輝度が高くなるという観点から、チタン化合物であることが好ましい。
【0019】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、その積層構造の共押出中間層の少なくとも1層に染料を含有する必要があり、当該染料は、可視光領域(380〜780nm)に吸収を持つことが好ましい。このような染料を含有させることによって、フィルム全体の可視光線透過率を3〜70%、さらには5〜50%の範囲とすることが好ましい。
【0020】
本発明で用いる染料は、ポリエステルに実質的に溶解することが好ましい。ここで言う実質的に溶解するとは、ポリエステルの溶融状態で混練りしたときに、凝集体などが残らずに均一に混ざることを意味し、これによって後述するように二軸配向後のフィルムヘーズが5.0%以下、好ましくは4.0%以下となることを指す。また、これらの染料は、ポリエステルの成型温度で分解が少ないものが好ましい。このような染料は化学構造的にはアントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、アゾメチン系、複素環系染料等が好ましく挙げられ、染色処方的には分散性染料、油溶性染料が好適である。また一般に顔料として分類されているものであっても、上記のように溶融ポリエステル中で溶解するものであれば、本発明では染料として用いることができる。この例としては、フタロシアニン系などの銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、クロムなどの金属イオンとの錯塩染料などを挙げることができる。
【0021】
上記の染料は、たとえばグレー調やブラウン調に調色するために、適宜選択して数種混合して使用されるのが一般的であり、これら染料のポリエステル中の含有量は、通常0.01〜10.0重量%、好ましくは0.05〜5.0重量%の範囲から適宜選ぶことができる。
【0022】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、共押出中間層に前述した染料のほかに、外光等による劣化防止のため、公知のポリエステルフィルムの製造工程で付加される熱に耐えうる紫外線吸収剤あるいはラジカルトラップ剤等を共存させることができる。しかし、これらの添加剤を添加してもフィルムに濁りを生じることなく、前述した範囲内のフィルムヘーズであることが好ましい。
【0023】
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤があるが、透明性の観点からは有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などが挙げられる。耐久性の観点からは環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系がより好ましい。また、紫外線吸収剤を2種類以上併用して用いることも可能である。
【0024】
本発明の積層ポリエステルフィルムのポリエステル層中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能であるが、透明性の観点から粒子を配合量が少ないことが好ましい。粒子を配合する場合、配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0025】
また、粒子を配合する場合、粒子の平均粒径は、通常3μm以下、好ましくは0.01〜1.5μmの範囲である。平均粒径が3μmを超える場合には、フィルムの透明性が悪化する場合や、粒子による粒々感が発生し視認性が悪化する場合がある。
【0026】
粒子の含有量は、平均粒径にも依存するが、粒子を含有するポリエステルフィルムの層において、通常1000ppm以下の範囲、好ましくは500ppm以下の範囲、さらに好ましくは50ppm以下の範囲(意図して含有しないこと)である。1000ppmを超える場合は、透明性が悪化する場合や、粒子による粒々感が発生し視認性が悪化する場合がある。
【0027】
フィルムの視認性を悪化させないで、かつ必要最小限の滑り性を確保するため、上記のような粒子を含有させることにより、フィルム表面の平均表面粗さRaを0.005〜0.050μmの範囲内とすることが好ましい。
【0028】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0029】
なお、本発明の積層ポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料、赤外線吸収剤等の公知の添加剤を公知の量だけ添加することも可能である。
本発明において、染料およびその他の添加剤を積層ポリエステルに添加する方法は、フィルムを溶融成型する際に、これらの粉体やペーストあるいは液体などとして添加する方法でもよいが、装置の汚染の問題や銘柄切り替えのしやすさを考慮すると、あらかじめ染料等のマスターバッチを作成しておき、フィルムの溶融成型時にこれらのマスターバッチをクリアーレジンで希釈しながら添加することが好ましい。また、これらの溶融成型の際には、ポリエステルに分散良く混練りしながら行うために、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
【0030】
また、共押出表層と共押出中間層の積層厚み構成に関しては、フィルム全体の濁り(フィルムヘーズ)を抑えるために、微粒子の添加された共押出表層はできるだけ薄いことが好ましい。一方で、中間層に存在する染料や他の添加剤がブリードアウトするのを防止するためには、共押出表層はむしろ厚い方が好ましい。これらを勘案して、フィルム全体の厚みに関わらず、共押出表層厚みは、通常片側0.5〜5.0μmの範囲が好適である。また、両表層の厚みは同じであっても、異なっていてもよいが、異なる場合にも両者ともに上記の厚み範囲内であることが好ましい。
【0031】
本発明における積層ポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10〜300μm、好ましくは15〜100μmの範囲である。
【0032】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。すなわち、先に述べたポリエステルのペレット状原料を乾燥し、単軸押出機を用いて多層ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法や液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0033】
また、本発明においては積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0034】
次に本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するプライマー層の形成について説明する。本発明におけるプライマー層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。製膜と同時に塗布が可能であるため、製造が安価に対応可能であることから、インラインコーティングが好ましく用いられる。
【0035】
インラインコーティングについては、以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては、特に縦延伸が終了した横延伸前にコーティング処理を施すことができる。インラインコーティングによりポリエステルフィルム上にプライマー層が設けられる場合には、製膜と同時に塗布が可能になると共に、延伸後のポリエステルフィルムの熱処理工程で、プライマー層を高温で処理することができるため、プライマー層上に形成され得る各種の表面機能層との密着性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。また、延伸前にコーティングを行う場合は、プライマー層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。すなわち、インラインコーティング、特に延伸前のコーティングにより、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造することができる。
【0036】
本発明におけるプライマー層表面の絶対反射率は、波長400〜800nmの範囲に極小値が1つ存在、より好ましくは波長500〜700nmの範囲に極小値が1つ存在するものである。また、その極小値の値が、好ましくは4.0〜6.5%、より好ましくは4.5〜6.2%の範囲である。波長400〜800nmの範囲にある極小値が1つではない場合、また、極小値の絶対反射率が上記の値を外れる場合は、ハードコート層等の表面機能層を形成後に干渉ムラが発生し、フィルムの視認性が低下したり、意匠性が低下したりする。
【0037】
本発明におけるプライマー層を形成するためには、金属酸化物および2種類以上の架橋剤を含有する塗布液から形成されたプライマー層と設けることが好ましい。
【0038】
金属酸化物は、主にプライマー層の屈折率調整のために使用するものである。特にプライマー層中に使用する樹脂の屈折率が低いために、高い屈折率を有する金属酸化物を使用することが好ましく、屈折率として1.7以上のものを使用することが好ましい。金属酸化物の具体例としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化亜鉛、アンチモンチンオキサイド、インジウムチンオキサイド等が挙げられ、これらを単独で使用しても良いし、2種類以上使用しても良い。これらの中でも酸化ジルコニウムや酸化チタンがより好適に用いられ、特に、耐候性の観点から酸化ジルコニウムがより好適に用いられる。
【0039】
金属酸化物は、使用形態によっては密着性が低下する懸念があるため、粒子の状態で使用することが好ましく、また、その平均粒径は透明性の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。
【0040】
架橋剤としては、種々公知の樹脂が使用できるが、例えばオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられる。架橋剤2種の選択では、オキサゾリン化合物由来の化合物、およびエポキシ化合物由来の化合物を含有することがハードコート層との密着性改良の観点から特に好ましい。
【0041】
本発明においては、プライマー層中にオキサゾリン化合物由来の化合物およびエポキシ化合物由来の化合物を含有することが好ましいが、これらはプライマー層上に設けられるハードコート層等の表面機能層との密着性を向上させることができる。オキサゾリン化合物由来の化合物、またはエポキシ化合物由来の化合物単独でも密着性を向上させることが出来ることを見いだしたが、これら2種類の化合物を併用することにより、さらに密着性を向上させることができ、特に湿熱試験後の密着性を改善できることを見いだした。
【0042】
本発明におけるオキサゾリン化合物由来の化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物およびオキサゾリン基が反応した結果得られる化合物のことである。分子内にオキサゾリン基を有する化合物としては、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、等のα,β−不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
【0043】
本発明におけるエポキシ化合物由来の化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物、およびエポキシ基が反応した結果得られる化合物のことである。分子内にエポキシ基を有する化合物としては、例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’,−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0044】
他の架橋剤としてメラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことである。例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0045】
イソシアネート系化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物、カルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネートまたは脂環族イソシアネートがより好ましい。
【0046】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール、エチルフェノールなどのフェノール系化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノールなどのアルコール系化合物、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物、ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミンなどのアミン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0047】
また、本発明におけるイソシアネート系化合物は単体で用いてもよいし、各種ポリマーとの混合物や結合物として用いてもよい。イソシアネート系化合物の分散性や架橋性を向上させるという意味において、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂との混合物や結合物を使用することが好ましい。
【0048】
カルボジイミド系化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、塗布層上に形成され得るハードコート層等の表面機能層との密着性の向上や、塗布層の耐湿熱性の向上のために用いられるものである。カルボジイミド系化合物は、分子内にカルボジイミド、あるいはカルボジイミド誘導体構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上有するポリカルボジイミド系化合物がより好ましい。
【0049】
カルボジイミド系化合物としては従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0050】
さらに本発明の効果を消失させない範囲において、ポリカルボジイミド系化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩、ヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
【0051】
なお、これら架橋剤は、乾燥過程や、製膜過程において、反応させて塗布層の性能を向上させる設計で用いている。できあがった塗布層中には、これら架橋剤の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
【0052】
本発明における積層ポリエステルフィルムにおいて、塗布面状の向上、塗布面上にハードコート層等の種々の表面機能層が積層されたときの干渉ムラの低減、透明性や密着性の向上等のために各種のポリマーを使用することが好ましい。
【0053】
ポリマーの具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル(ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。これらの中でもハードコート層等の表面機能層との密着性向上の観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0054】
また、プライマー層の屈折率をより調整しやすくするため、下記式で例示されるような、縮合多環式芳香族構造を有する化合物を併用することが好ましい。
【0055】
【化1】

【0056】
ポリエステルフィルム上への塗布性を考慮すると、縮合多環式芳香族を有する化合物は、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の高分子化合物が好ましい。特にポリエステル樹脂にはより多くの縮合多環式芳香族を導入することができるためより好ましい。
【0057】
縮合多環式芳香族をポリエステル樹脂に組み込む方法としては、例えば、縮合多環式芳香族に置換基として水酸基を2つあるいはそれ以上導入してジオール成分あるいは多価水酸基成分とするか、あるいはカルボン酸基を2つあるいはそれ以上導入してジカルボン酸成分あるいは多価カルボン酸成分として作成する方法がある。
【0058】
積層ポリエステルフィルム製造工程において、着色がしにくいという点で、プライマー層に含有する縮合多環式芳香族はナフタレン骨格を有する化合物が好ましい。また、プライマー層上に形成される各種表面機能層との密着性や、透明性が良好であるという点で、ポリエステル構成成分としてナフタレン骨格を組み込んだ樹脂が好適に用いられる。当該ナフタレン骨格としては、代表的なものとして、1,5−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0059】
なお、縮合多環式芳香族には、水酸基やカルボン酸基以外にも、硫黄元素を含有する置換基、フェニル基等の芳香族置換基、ハロゲン元素基等を導入することにより、屈折率の向上が期待でき、塗布性や密着性の観点から、アルキル基、エステル基、アミド基等の置換基を導入してもよい。
【0060】
また、本発明はプライマー層中に、固着性(ブロッキング)、滑り性改良を目的として上述の金属酸化物以外の粒子を含有しても良い。その平均粒径はフィルムの透明性の観点から好ましくは1.0μm以下の範囲であり、さらに好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.2μm以下の範囲である。粒子の具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、有機粒子等が挙げられる。
【0061】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、プライマー層には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等が含有されてもよい。
【0062】
本発明のプライマー層に用いられる金属酸化物の割合は、通常3〜70重量%の範囲、好ましくは5〜50重量%の範囲、さらに好ましくは5〜40重量%の範囲、特に好ましくは8〜30重量%の範囲である。金属酸化物の量が3重量%未満の場合はプライマー層の屈折率を十分に高くすることができないことにより、干渉ムラが軽減されない場合があり、70重量%を超える場合は、プライマー層の透明性が悪化する場合がある。
【0063】
本発明のプライマー層に用いられる架橋剤の割合は、架橋剤の合計で通常1〜70重量%の範囲、より好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは3〜40重量%の範囲である。1重量%未満の場合、ハードコート層等の表面機能層との密着性が低下する可能性が懸念され、70重量%を超える場合、プライマー層の屈折率が低くなることにより、ハードコート層等の表面機能層形成後の干渉ムラにより、視認性が良くない場合がある。
【0064】
本発明のプライマー層に用いられるオキサゾリン化合物由来の化合物を用いた場合の割合は、1〜50重量%の範囲、より好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは3〜20重量%の範囲である。1重量%未満の場合、ハードコート層等の表面機能層との密着性が低下する可能性が懸念され、50重量%を超える場合、プライマー層の屈折率が低くなることにより、ハードコート層等の表面機能層形成後の干渉ムラにより、視認性が良くない場合がある。
【0065】
本発明のプライマー層に用いられるエポキシ化合物由来の化合物を用いた場合の割合は、通常1〜50重量%の範囲、より好ましくは3〜30重量%の範囲、さらに好ましくは5〜20重量%の範囲である。これらの範囲より外れる場合は、ハードコート層等の表面機能層との密着性が低下する可能性が懸念される場合や、塗布面状が悪化する場合がある。
【0066】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するプライマー層に用いられうる縮合多環式芳香族を有する化合物は、その化合物中で縮合多環式芳香族の占める割合は、好ましくは5〜80重量%の範囲であり、より好ましくは10〜60重量%の範囲である。また、プライマー層全体に占める縮合多環式芳香族を有する化合物の割合は、好ましくは80重量%以下の範囲、より好ましくは5〜70重量%の範囲、さらに好ましくは10〜50重量%の範囲である。これらの範囲で使用することにより、プライマー層の屈折率の調整が容易となり、ハードコート層等の表面機能層を形成後の干渉ムラの軽減がしやすくなる。なお、縮合多環式芳香族の割合は、例えば、適当な溶剤または温水でプライマー層を溶解抽出し、クロマトグラフィーで分取し、NMRやIRで構造を解析、さらに熱分解GC−MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)や光学的な分析等で解析することにより求めることができる。
【0067】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、上述したプライマー層を設けた面と反対側の面にもプライマー層を設けることも可能である。例えば、ハードコート層等の表面機能層を形成する反対側にマイクロレンズ層、プリズム層、スティッキング防止層、光拡散層、ハードコート層、粘着層、印刷層等の機能層を形成する場合に、当該機能層との密着性を向上させることが可能である。反対側の面に形成するプライマー層の成分としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等のバインダーポリマー、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド化合物等の架橋剤等が挙げられ、これらの材料を単独で用いてもよいし、複数種を併用して用いてもよい。また、上述してきたような金属酸化物、オキサゾリン化合物由来の化合物、およびエポキシ化合物由来の化合物を含有するプライマー層(ポリエステルフィルムに両面同一のプライマー層)であってもよい。
【0068】
プライマー層中の成分の分析は、例えば、TOF−SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
【0069】
インラインコーティングによってプライマー層を設ける場合は、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固形分濃度が0.1〜50重量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は1種類のみでもよく、適宜、2種類以上を使用してもよい。
【0070】
本発明における積層ポリエステルフィルムに関して、ポリエステルフィルム上に設けられるプライマー層の膜厚は、通常0.04〜0.20μm、好ましくは0.07〜0.15μmの範囲である。膜厚が上記範囲より外れる場合は、表面機能層を積層後の干渉ムラにより、視認性が悪化する場合がある。
【0071】
本発明において、プライマー層を設ける方法はリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0072】
本発明において、ポリエステルフィルム上にプライマー層を形成する際の乾燥および硬化条件に関しては特に限定されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングによりプライマー層を設ける場合、通常、80〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0073】
一方、インラインコーティングによりプライマー層を設ける場合、通常、70〜280℃で3〜200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0074】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0075】
本発明におけるプライマー層は干渉ムラの発生を抑制するために、屈折率の調整がされたものであり、その屈折率は基材のポリエステルフィルムとハードコート層等の表面機能層の相乗平均付近に設計したものである。プライマー層の屈折率とプライマー層の反射率は密接な関係がある。
【0076】
本発明のポリエステルフィルムには、プライマー層の上にハードコート層等の表面機能層を設けるのが一般的である。ハードコート層に使用される材料としては、特に限定されないが、例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、テトラエトキシシラン等の反応性珪素化合物等の硬化物が挙げられる。これらのうち生産性および硬度の両立の観点より、活性エネルギー線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物の重合硬化物であることが特に好ましい。
【0077】
活性エネルギー線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物としては特に限定されるものでない。例えば、公知の活性エネルギー線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを一種類以上混合したもの、活性エネルギー線硬化性ハードコート材として市販されているもの、或いはこれら以外に本実施形態の目的を損なわない範囲において、その他の成分をさらに添加したものを用いることができる。
【0078】
活性エネルギー線硬化性の多官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されるものではないが、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ) アクリレート、1,6−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ヘキサン等の多官能アルコールの(メタ)アクリル誘導体や、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、そしてポリウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0079】
活性エネルギー線硬化性の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物に含まれるその他の成分は特に限定されるものではない。例えば、無機または有機の微粒子、重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤およびレベリング剤等が挙げられる。また、ウェットコーティング法において成膜後乾燥させる場合には、任意の量の溶媒を添加することができる。
【0080】
ハードコート層の形成方法は、有機材料を用いた場合にはロールコート法、ダイコート法等の一般的なウェットコート法が採用される。形成されたハードコート層には必要に応じて加熱や紫外線、電子線等の活性エネルギー線照射を施し、硬化反応を行うことができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中「部」とあるのは「重量部」を示す。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0082】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定方法
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0083】
(2)平均粒径の測定方法
TEM(日立製作所社製 H−7650、加速電圧100V)を使用してプライマー層を観察し、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
【0084】
(3)プライマー層の膜厚測定方法
プライマー層の表面をRuOで染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuOで染色し、プライマー層断面をTEM(日立製作所社製 H−7650、加速電圧100V)を用いて測定した。
【0085】
(4)ポリエステルフィルムにおけるプライマー層表面からの絶対反射率の評価方法
あらかじめ、ポリエステルフィルムの測定裏面に黒テープ(ニチバン社製ビニールテープVT―50)を貼り、分光光度計(日本分光社製 紫外可視分光光度計 V−570 および自動絶対反射率測定装置 AM−500N)を使用して同期モード、入射角5°、N偏光、レスポンス Fast、データ取区間隔1.0nm、バンド幅10nm、走査速度1000m/minでプライマー層面を波長範囲300〜800nmの絶対反射率を測定し、その極小値における波長(ボトム波長)と反射率を評価した。
【0086】
(5)干渉ムラの評価方法
ポリエステルフィルムのプライマー層側に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート72重量部、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート18重量部、五酸化アンチモン10重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカルズ社製)1重量部、メチルエチルケトン200重量部の混合塗液を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成した。得られたフィルムを3波長光域型蛍光灯下で目視にて干渉ムラを観察し、以下の様にランク評価した。
◎:干渉ムラが確認できない
○:薄くまばらな干渉ムラが確認される
△:薄いが線状の干渉ムラが確認できる
×:明瞭な干渉ムラが確認される
【0087】
(6)ハードコート層密着性の評価方法
より厳しい密着性の評価を行うために、上記(5)の評価で使用したハードコート液から五酸化アンチモンを除いた材料で検討した。すなわち、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80重量部、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート20重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカルズ社製)5重量部、メチルエチルケトン200重量部の混合塗液を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成した。得られたフィルムに対して、80℃、90%RHの環境下で100時間後、10×10のクロスカットをして、その上に18mm幅のテープ(ニチバン社製セロテープ(登録商標)CT−18)を貼り付け、180度の剥離角度で急激にはがした後の剥離面を観察し、以下の通りに剥離面積でランク評価した。
◎剥離面積:3%未満
○:剥離面積:3%以上10%未満
△:剥離面積:10%以上50%未満
×:剥離面積:50%以上
【0088】
(7)可視光線透過率
分光式測色計SE−2000(日本電色社製)を用いてD65光源で各波長の光線透過率を測定し、JIS−S3107に従って可視光線透過率を算出した。
【0089】
(8)フィルムの濁度(フィルムヘーズ)
JIS−K7105に準じ、濁度計NDH300A(日本電色社製)を用いてフィルムの濁度(ヘーズ)を測定した。
【0090】
(9)ハードコート層表面の鉛筆硬度
JIS−K5401に準じて、ハードコート層表面の鉛筆硬度で表示した。
【0091】
以下の実施例および比較例で用いたポリエステル原料の製造方法は次のとおりである。
<ポリエステルA>
ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール60部および酢酸マグネシウム・4水塩0.09部を反応器にとり、加熱昇温するとともにメタノールを留去し、エステル交換反応を行い、反応開始から4時間を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次いで、エチルアシッドフォスフェート0.04部、三酸化アンチモン0.04部を添加した後、100分で温度を280℃、圧力を15mmHgとし、以後も徐々に圧力を減じ、最終的に0.3mmHgとした。4時間後系内を常圧に戻し、実質的に微粒子を含まないポリエステルAを得た。このポリエステルの固有粘度は0.70であった。
【0092】
<ポリエステルB>
ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール60部および酢酸マグネシウム・4水塩0.09部を反応器にとり、加熱昇温するとともにメタノールを留去し、エステル交換反応を行い、反応開始から4時間を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次いで、平均粒径1.4μmのシリカ粒子を2.0部含有するエチレングリコールスラリーを反応系に添加し、さらにエチルアシッドフォスフェート0.04部、三酸化アンチモン0.04部を添加した後、100分で温度を280℃、圧力を15mmHgとし、以後も徐々に圧力を減じ、最終的に0.3mmHgとした。4時間後系内を常圧に戻しポリエステルBを得た。得られたポリエステルBのシリカ粒子含有量は1.0重量%であった。またこのポリエステルの固有粘度は0.70であった。
【0093】
<ポリエステルC>
ポリエステルAをベント付き二軸押出機に供して、三菱化学社製ダイアレジンレッドHS 3.0重量%、同ブルーH3G 5.5重量%、および同イエローF 1.5重量%の各濃度となるように混合して添加し、溶融混練りを行ってチップ化を行い、染料マスターバッチポリエステルCを作成した。
【0094】
プライマー層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・金属酸化物:(1A)
平均粒径15nmの酸化ジルコニウム粒子
・金属酸化物:(1B)
平均粒径15nmの酸化チタン粒子
【0095】
・オキサゾリン化合物:(2A)
オキサゾリン基およびポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリルポリマー エポクロスWS−500(日本触媒社製、1−メトキシ−2−プロパノール溶剤約38重量%を含有するタイプ)
・オキサゾリン化合物:(2B)
オキサゾリン基およびポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリルポリマー エポクロスWS−700(日本触媒社製、VOCフリータイプ)
【0096】
・エポキシ化合物:(3A)
ポリグリセロールポリグリシジルエーテルである、デナコールEX−521(ナガセケムテックス社製)。
・エポキシ化合物:(3B)
エポキシ樹脂である、デナコールEX−1410(ナガセケムテックス社製)。
【0097】
・縮合多環式芳香族を有するポリエステル樹脂:(4A)
下記組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)2,6−ナフタレンジカルボン酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸//(ジオール成分)エチレングリコール/ジエチレングリコール=92/8//80/20(mol%)
・ポリエステル樹脂:(4B)
下記組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)テレフタル酸/イソフタル酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸//(ジオール成分)エチレングリコール/1,4−ブタンジオール/ジエチレングリコール=56/40/4//70/20/10(mol%)
【0098】
・アクリル樹脂:(4C)
下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体
エチルアクリレート/n−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/N−メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/21/10/2/2(重量%)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)
・ウレタン樹脂(4D)
カルボン酸水分散型ポリエステルポリウレタン樹脂である、ハイドランAP−40(DIC社製)
【0099】
・ヘキサメトキシメチルメラミン(5)
・粒子:(6A) 平均粒径0.07μmのシリカ粒子
・粒子:(6B) 平均粒径0.12μmのシリカ粒子
【0100】
ハードコート層を構成する化合物例は以下のとおりである。
・ハードコート材:(混合塗液)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 72重量部
2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート 18重量部
五酸化アンチモン 10重量部
光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカルズ社製) 1重量部
メチルエチルケトン 200重量部
【0101】
実施例1:
ポリエステルA、Cの各チップを78.0:22.0の割合で、それぞれ中間層用レジンとして中間層用押出機に投入した。これとは別にポリエステルA、Bの各チップを93.0:7.0の割合で表層用レジンとして表層用押出機に投入した。それぞれの押出機はいずれもベント付きの異方向二軸押出機であり、レジンは乾燥することなしに290℃の溶融温度で押出しを行い、その後溶融ポリマーをフィードブロック内で合流して積層した。その後静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して3層構成の積層未延伸シートを得た。得られたシートを83℃で3.6倍縦方向に延伸した。ここで、一軸延伸フィルムの両面に、下記表1の塗布液1で示す固形分重量割合の水分散性塗布剤を、フィルム製膜後の厚みで0.10μmとなるように均一に塗布した。次いで、フィルムをテンターに導き93℃でフィルムを乾燥・予熱した後、横方向に3.8倍延伸し、225℃にて熱固定を行った。さらに幅方向に185℃で5%弛緩処理を行って、冷却した後、巻き取って二軸配向フィルムのロールを作成した。このフィルムの各層の厚みは2/21/2μmの構成で、総厚みは25μmであった。このフィルムの特性を下記表2に示す。得られたフィルムロールをスリッターに供し、所定幅にスリットしてフィルムロールを作成した。上記のフィルムロールを、コーターにセットして、上記の組成のハードコート材を塗布し、90℃で乾燥した後、高圧水銀灯により所定の条件下で硬化して5μmのハードコート層を形成した。得られた積層ポリエステルフィルムは、ハードコート層を積層後のフィルムには明瞭な干渉ムラはなく、また密着性も良好であった、このフィルムの特性を下記表2に示す。
【0102】
実施例2〜25:
実施例1において、塗布剤組成をそれぞれ表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、積層ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの特性を表2に示す。このフィルムロールを実施例1と同じスリッターに供し、所定幅にスリットしてフィルムロールを作成した。でき上がったポリエステルフィルムは表2に示すとおり、高い反射率を有し、ハードコート層を積層後の干渉ムラレベルが良好であった。密着性は、架橋剤を2種併用した塗布液1〜19を使ったフィルムが良好だった。架橋剤1種類のものでは、塗布液22でオキサゾリンを使ったフィルムが比較的良好だったが、塗布液21,23,24では、密着性が劣る結果だった。
【0103】
実施例26:
実施例1において、ポリエステルA、Cの各チップを95.5:4.5の割合で、それぞれ中間層用レジンとして中間層用押出機に投入し、塗布剤組成を塗布液3に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、積層ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの特性を表2に示す。このフィルムロールを実施例1と同じスリッターに供し、所定幅にスリットしてフィルムロールを作成した。でき上がったポリエステルフィルムは表2に示すとおり、高い反射率を有し、ハードコート層を積層後の干渉ムラレベルが良好で、密着性も良好なものであった。
【0104】
比較例1:
実施例1において、塗布剤組成をそれぞれ表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、積層ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの特性を表2に示す。このフィルムロールを実施例1と同じスリッターに供し、所定幅にスリットしてフィルムロールを作成した。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、表2に示すとおり、ハードコート層を積層後に明瞭な干渉ムラが観察でき不十分だった。密着性は、良好であった。
【0105】
比較例2:
実施例1において、中間層用レジンとしてポリエステルAを100%用いて、表層用レジンは実施例1と同様の物を用いる以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの特性を表2に示す。このフィルムロールを実施例1と同じスリッターに供し、所定幅にスリットしてフィルムロールを作成した。
しかしながらこのフィルムの中間層に染料が添加されていないため、遮光性がなく、本発明の範囲外である。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
上記表2中、フィルムヘーズ1は、プライマー層までのフィルムヘーズであり、フィルムヘーズ2は、ハードコート層までのフィルムヘーズである。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のフィルムは、例えば、窓貼りフィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層に染料を含有する少なくとも3層の共押出積層ポリエステルフィルムの少なくとも片方の表面にプライマー層を有し、当該プライマー層表面の絶対反射率が波長400〜800nmの範囲で極小値を1つ有し、当該極小値における絶対反射率が4.0%以上であることを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
プライマー層が、金属酸化物および2種類以上の架橋剤を含有する塗布液から形成されたプライマー層である請求項1記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
積層ポリエステルフィルム全体のヘーズが5.0%以下であり、可視光線透過率が3〜70%である請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルムからなる窓貼り用フィルム。

【公開番号】特開2013−95122(P2013−95122A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242931(P2011−242931)
【出願日】平成23年11月5日(2011.11.5)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】