説明

積層体およびその製造方法

【課題】 帯電防止能の優れたフィルムまたはシートの積層体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 合成樹脂からなるフィルムまたはシートの少なくとも片面に、微細な長繊維を含む層が積層されている積層体である。また、前記長繊維が、1nm〜10μmの繊維径と、繊維径に対して100倍以上の長さを有する。さらにまた、前記長繊維が網目構造を形成している。また、前記長繊維が水素結合形成可能な官能基を有する直鎖状高分子および導電性高分子から選ばれる少なくとも一種である。
また、溶融押出法で合成樹脂のフィルムまたはシートを形成した後、エレクトロスピニング法により長繊維層を含む層を、該フィルムまたはシート上に形成し、縦方向および/又は横方向に延伸することを特徴とする積層体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂を主体とするフィルムまたはシートを含む積層体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、合成樹脂を主体とするフィルムまたはシートの表面性を改良しようというものであり、特に、表面の帯電防止能や印刷適性、耐ブロッキング性、密着性などの基本性能の飛躍的な向上を可能とする微細な繊維を含む層を有する積層体である。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂を主体とするフィルムまたはシートは一般に熱可塑性合成樹脂を溶融後、押出成形によって製造されるもので、包装用品や各種基材、保護シートなど幅広く工業的に使用されている。しかし、合成樹脂単体では表面の帯電防止能や印刷適性、耐ブロッキング性、密着性が不十分で様々な技術が用いられている。
フィルムやシートの帯電防止能をもたすために、合成樹脂中にポリスルホン酸系高分子や4級アンモニウム塩を有する有機化合物などを添加して帯電防止能をもたせることが一般的である。しかし、合成樹脂中にこのような化合物を添加してフィルムやシートを形成すると、表面にブリードアウト(析出)する量によって帯電防止能が大きく異なる。また、ブリードアウト量は帯電防止剤の添加量や種類、成形後の保管条件(温度・湿度・時間)などで大きく異なるため、厳密に帯電防止能を制御することができない。また、ブリードアウト量が多すぎると、印刷適性が悪化したり、他の基材との密着性が低下したり、耐ブロッキング性が悪くなる。
【0003】
また、帯電防止能を持たせるために、帯電防止能を有する高分子(ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール)を表層に設ける技術があるが、これら高分子素材は一般に高価であったり、多層化することが困難であり、また、着色してフィルムやシートの透明性を阻害するといった問題点がある。
フィルムやシートの耐ブロッキング性を改良するために、シリカ粉末やプラスチックピグメントなどのアンチブロッキング剤を高分子樹脂に添加する。しかし、アンチブロッキング剤を添加すると、アンチブロッキング剤が光学的干渉を誘発し、フィルム表面で光が散乱し、フィルムやシートの透明性が悪化したり、曇り度(ヘーズ)が大きくなる。そのため、耐ブロッキング性と透明性は両立しない物性となり、用途に応じてアンチブロッキング剤の種類や添加量を工夫しなければならず、妥協した品質で製品を提供しているのが実情である。
【0004】
上記のようなフィルムやシートの帯電防止能を高める技術としては、例えば、特許文献1〜3に記載されているように特定の帯電防止剤をフィルム表面に塗布して帯電防止能を付与させるものが公開されているが、帯電防止能と耐ブロッキング性や印刷適性を両立できていない。
また、金属被覆短繊維が基体繊維の表面に金属被覆を設けた後に該基体繊維の結晶化温度以上および融解温度未満の温度で加熱処理したものであることを特徴とする導電性樹脂組成物が開示されているが(特許文献4)、このような導電性繊維を混練してフィルムやシートを成形したものは、透明性が低下したり、着色があるばかりでなく、非常にコストが高くなるといった問題がある。
【0005】
一方、近年、半導体などの固体物理学の分野では、ナノテクノロジーの研究、開発が盛んに行われている。その1つとして、最近、質量分析法で用いられているエレクトロスプレー法という技術を、ナノファイバーのようなミクロンオーダー以下の繊維からなる不織布の製造技術に応用することが研究されるようになっている。例えば、非特許文献1,2には、それ単独で不織布にしたり、織り布や不織布を基材としてその表面にナノファイバーの層を形成してフィルターを作ろうとする技術が紹介されているが、フィルムの上に繊維を形成して帯電防止能あるいは導電性を付与するという概念は存在しない。エレクトロスプレー法を用いたナノファイバーやそれを利用した薄膜コーティング技術が紹介されている。特許文献1には、静電気アシスタンスの手段によって基材に不可能な導電率エンハンサーを含有する組成物が開示されている。この技術は、電圧印加条件下で溶液を油滴にして噴霧して基材表面を均一にコーティングする方法であり、基材表面を液滴で覆った後に乾燥して均一な皮膜を得ようとするものであり、そこには本発明のフィルムやシートの表面に微細な長繊維を形成し機能を発揮させる概念は存在しない。
【0006】
エレクトロスプレー法とは、2〜20kV程度の高電圧を高分子溶液の入ったノズルの先端と基盤上との間に加え、荷電した高分子をノズルの先端から噴射して基盤上にデポジットさせる方法であり、この方法による不織布の製造法はエレクトロスピニング法と呼ばれている。
エレクトロスピニングの方法は特許文献5が最初と言われており、その歴史は古いが、工業的に検討された例は近年までになかった。しかし、1970年代後半から精力的に研究されている応用分野としては人工血管や人工臓器が挙げられる(特許文献6〜12)。また、1990年代初頭にアメリカで、生物兵器用のガスフィルターを製造するための軍事研究の1つとして研究されており、Donaldson Company においてガスタービンや自動車用のエアフィルターとして実用化されている(非特許文献4)。その他にもエレクトロスピニング技術に関する様々な報告がなされている。例えば、特許文献13には、EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)やPVA(ポリビニルアルコール)の水性溶液からエレクトロスピニングし、EVOHやPVAのナノファイバー体を製造する方法が開示されている。また、特許文献14には、ノズルを多数配列して工業的に製造可能な装置の提案がなされている。非特許文献5にはノズルに間に補助電極を設置して生産性を向上させる方法が記載されている。 また、導電性高分子をエレクトロスピニングして導電性繊維を得る方法が特許文献15に記載されている。
しかしながら、従来技術では、エレクトロスピニングによりフィルターや人工血管など多孔質構造体という概念しかなく、エレクトロスピニング技術をフィルムやシートに応用するという概念は考えられていないのが実情である。
【特許文献1】特開2004−244605号公報
【特許文献2】特開2004−181708号公報
【特許文献3】特開2004−175821号公報
【特許文献4】特開2002−358826号公報
【特許文献5】米国特許第1975504号公報
【特許文献6】米国特許第4044404号公報
【特許文献7】米国特許第4323525号公報
【特許文献8】米国特許第4552707号公報
【特許文献9】米国特許第4842505号公報
【特許文献10】米国特許第4904272号公報
【特許文献11】米国特許第5866217号公報
【特許文献12】米国特許US2003/0215624号公報
【特許文献13】米国特許US2003/0190383号公報
【特許文献14】米国特許6555945号公報
【非特許文献1】繊維学会誌 Vol.59,No.1p3(2003)
【非特許文献2】高分子論文集,Vol.59,No.11,pp.706-709(Nov.,2002)
【非特許文献3】Journal of Polymer Science:Partb:Polymer Physics,Vol.37,3488-3493(1999)
【非特許文献4】International Nonwovens Technical Conference (Joint INDA TAPPI Conference),Atlanta,Georgia,September 24-26, 2002.
【非特許文献5】Polymer Preprint 2003,44(2),59-60
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決するものである。即ち、全く新しい概念による帯電防止能の高いフィルムやシートを基材とする積層体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の実施様態を含む。
本発明の第1は、合成樹脂からなるフィルムまたはシートの少なくとも片面に、微細な長繊維を含む層が積層されていることを特徴とする積層体である。
また、前記長繊維が、1nm〜10μmの繊維径と、繊維径に対して100倍以上の長さを有することが好ましい。
さらにまた、前記長繊維が網目構造を形成していることが好ましい。
また、前記長繊維が水素結合形成可能な官能基を有する直鎖状高分子および導電性高分子から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
本発明の第2は、溶融押出法で合成樹脂のフィルムまたはシートを形成した後、エレクトロスピニング法により長繊維層を含む層を、該フィルムまたはシート上に形成し、縦方向および/又は横方向に延伸することを特徴とする積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、表面の帯電防止能や印刷適性、耐ブロッキング性、密着性などの基本性能の飛躍的な向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の積層体は、セルロース繊維を主体とする紙支持体の片面又は両面に、微細な長繊維を含む層(以下、長繊維層という)が積層されているものである。
【0011】
本発明において、フィルムまたはシートに含まれる熱可塑性樹脂としては、各種熱可塑性合成樹脂を用いて溶融成形できるものであれば特に限定されない。合成樹脂の種類としては、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリブテン、環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレーとのようなポリエステル類、ナイロン6やナイロン6,6、メタキシレン系ナイロンなどのポリアミド類などが好適に使用される。これらの合成樹脂類以外のポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、スチレン−ブタジンエン、アクリルスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルファン、ポリイミド、ポリアセタール、液晶高分子、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコールなども使用できる。上記合成樹脂は、他のモノマーや添加剤などで変性したものでもかまわないし、二種類以上の合成樹脂を混合してもかまわない。
これらの中でも、ポリプロピレンやポリエチレン、環状オレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6やナイロン6,6、ポリスチレンが好適に使用できる。
【0012】
本発明における「微細な長繊維」とは、0.3nm〜10μmの繊維径と、繊維径に対して100倍以上の長さを有する繊維が好ましい。より好ましい繊維径は1nm〜5μmであり、さらに好ましい繊維径は10nm〜2μmである。繊維径に対して200倍以上の長さがより好ましく、500倍以上がさらに好ましい。繊維径が0.1nm未満の繊維を製造しようとすると、高分子鎖一本の直径(およそ0.2nm)に近づき、エレクトロスピニング過程で高分子鎖が断裂し高分子が分解され、結果として繊維径が短くなるため好ましくない。高分子鎖が断裂を防ぐには、高分子鎖が2本以上、好ましくは5本以上、より好ましくは10本以上が束になって一本の繊維を形成させるのが効果的である。繊維径が10μmより大きいと、フィルムやシートに積層された場合、微細な網目構造というより、ほとんど均一に平面的に覆われてしまい、通常の塗工との差がなく、耐ブロッキング性や滑り性に劣るうえ、非経済的であるので好ましくない。
繊維の長さが100倍未満になると繊維が網目構造を形成しにくくなり帯電防止能が劣り好ましくない。
本発明における帯電防止能は、電気抵抗の低い合成樹脂を細い網目状に形成し、それぞれの繊維が必ず他の繊維と交点を有することにより、通常では達成不可能な少ない塗布量で帯電防止能を発揮できる。また、非常に細い繊維で空隙の多い網目構造であるため、耐ブロッキング性が飛躍的に向上する。
【0013】
また、長繊維は、径方向の断面形状が、円形や楕円、扁平、星形などの様々な形状を有していてよいが、少ない層の厚みで平滑性を得るには、高いアスペクト比(フィルムやシートの表面に対する水平方向の径/垂直方向の径)を有する平板状の断面を有するようなものが好ましい。長繊維の形状が複雑になるほど、長繊維の比表面積が大きくなる。長繊維の比表面積が大きいほど、帯電防止能が向上する。
また、長繊維の繊維径、即ち、長繊維の断面の外周をすべて含む円で近似した繊維径は、紙支持体のセルロース繊維の繊維径よりも小さければ特に制限はないが、好ましくは1nm〜10μm、より好ましくは10nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。長繊維の繊維径がこの範囲内であると、帯電防止能に優れ耐ブロッキング性が良好となる。また、繊維径が200nm以下、好ましくは100nm以下であれば、繊維径が光の波長より小さいものとなるため、散乱がなく透明の長繊維の層が得られ、フィルムやシートの透明性や曇度(ヘーズ)が低下せず好ましい。
また、長繊維の繊維長は、特に制限はないが、繊維直径に対して100倍以上、好ましくは200倍以上、より好ましくは500倍以上の長さを有するものであれば、長繊維同士が接しやすくなるので好ましい。繊維直径が100倍未満だと繊維同士が接しにくくなり、帯電防止能の効果が小さくなるため好ましくない。
【0014】
長繊維層の塗布量は、0.001g/m〜1g/mにすることが好ましい。より好ましくは0.005g/m〜0.5g/mである。さらに好ましくは0.01g/m〜0.1g/mである。長繊維層の塗布量をこの範囲内とすることにより、紙支持体表面の細孔や凹凸等を解消し、表面平滑性を改善することができる。
塗布量が、0.001g/m以下になると、長繊維どうしの接触が不足し帯電防止能が低下する可能性がある。また、1g/mを超えると、透明性が低下したり曇度が大きくなる可能性がある。
長繊維の断面形状は球形又は楕円状のものが好ましい。長繊維が扁平な場合は長繊維同士の接触面積が増加し帯電防止能が向上するため、扁平な長繊維の方が好ましい。
また、ヘーズ値は、10以下が好ましい。中でも5以下が好ましい。
【0015】
長繊維を構成する材料(長繊維材料)としては、水および/又は有機溶剤を加えて溶液または乳化物とすることができる高分子や、加熱状態で溶融して液体状態を示す高分子、さらには常温で液体状態を示す高分子であれば特に制限はなく、分子量にすれば、数千のオリゴマーから百万にも及ぶ超高分子まで使用出来る。これらの長繊維材料は、本発明の積層体の製造において、主に、水溶液や水乳化物の形態で利用されるが、アルコールやトルエン、メチルエチルケトン(MEK)、キシレン、酢酸エチルなどの有機溶剤に溶解した有機溶剤溶液や有機溶剤乳化物の形態で利用されてもよい。
【0016】
また、水を加えて溶液とすることができる高分子としては、エーテル基、エポキシ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基等の親水性基を有する天然又は合成の水溶性高分子、水分散型のエマルジョン樹脂等が好ましく用いられる。
【0017】
本発明の水溶性高分子としては、水素結合性官能基を有する高分子樹脂が挙げられ、例えば、水酸基、カルボン酸、アミノ基、スルホン酸、アミド基などを有する高分子が好適である。例えば酸化デンプン、デキストリン等のデンプン類;ポリビニルアルコール及びその誘導体類;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、パルプ繊維を溶解したセルロースそのもの等の天然又は合成のセルロース;ゼラチン、カゼイン、でんぷん;ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリロイルモルホリン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリ−N−ビニルホルムアミドなどがある。これらの中でも、ポリビニルアルコール及びその誘導体、並びにデンプン類などが安価であり、いろいろな目的にあった性状の長繊維が得られるため好ましい。
中でも、直鎖状高分子が、 ポリビニルアルコール誘導体やセルロース誘導体がエレクトロスピンニングにより成形しやすいため、好ましい。
また、ポリアニリンやポリアセチレン、ポリアズレン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリベンズチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリイミダゾール、ポリベンヅイミダゾールなどの導電性高分子が、ポリアニリンやポリチオフェンが水溶性高分子との相溶性に優れるため、好適に使用できる。また、これら導電性高分子に水酸基やアミノ基、カルボン酸、スルホン酸などの置換基を導入した高分子を使用してもかまわない。
【0018】
また、フィルムやシートと長繊維層の密着性を向上させるため、フィルムやシートと長繊維層の間にアンカー層を設けても良い。アンカー層はポリウレタンやポリエチレンイミン、オキサゾリン基含有重合体、ポリアミドポリ尿素樹脂などが好適に使用される。
【0019】
これらの長繊維材料はそれぞれ単独で用いてもよく、また、目的に応じて2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の長繊維材料を混合して用いることにより、その相溶性や、製造時に用いられる溶剤(水又は有機溶剤)に対する溶解度の差等を調節して、得られる長繊維の親水性や疎水性、モルホロジー(長繊維の繊維径、繊維長、断面形状、繊維表面の形状など)を調節することができる。
【0020】
また、長繊維は、上述のような繊維材料の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、長繊維材料を溶液又は乳化物とした際の該溶液又は乳化物の粘性や表面張力、導電率を変化させるため、長繊維材料と溶媒の比率である固形分濃度や長繊維の分子量を調整したり、NaCl、ポリリン酸塩等の無機塩、各種カルボン酸のナトリウム塩やアンモニウム塩などの有機塩、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などの界面活性剤、ポリカルボン酸やスルホコハク酸、ポリエチレングリコールなどの濡れ剤、消泡剤、さらには導電率を調整するためにスチレンスルフォン酸塩や第4級のカチオンやアミン化合物等の添加物、カップリング剤や架橋剤などの耐水化剤を含んでもよい。
【0021】
本発明の積層体は、下記の方法により製造することができる。
【0022】
≪積層体の製造方法≫
本発明の積層体の製造方法は、上述したエレクトロスピニングを用いた方法であり、オリフィスを備えた容器内に充填された長繊維の原料溶液に接する電極と、前記オリフィスに対向配置された電極板との間に電圧を印加しながら、前記オリフィスから前記原料溶液を噴射し、前記電極板上に配置された紙支持体表面に、長繊維を含む層を形成することを特徴とする。
エレクトロスピニングでは、オリフィスの先端に滲み出た液滴が対向に配置された電極板との間に印加された電圧による電場により帯電する。液滴の表面張力が液滴表面に乗った電荷による反発力より大きい場合は液の吐出は起こらないが、液の表面張力にうち勝つ電荷密度にまで電圧を上げると吐出が始まる。吐出した液滴からは溶媒の蒸発が始まり液体の表面積が小さくなる結果、液体表面の電荷密度がさらに大きくなって吐出力が加速され安定な連続吐出がえられる。吐出される液はオリフィスの直径よりも細い状態で一本の連続的な状態になる。そして、ある長さまで連続な状態が続くと細い液体の状態は不安定になりフラッシュ的に広がりながら、溶媒の蒸発が起こり細い長繊維が網目状に電極上に着地する。
オリフィスの内径は10μm〜10mm、さらに好ましくは100μm〜1mmである。細径のオリフィスは粘性の低い溶液を扱い、広いものは高粘度の溶液に好適である。また、エレクトロスピニングではこれらのオリフィス径よりも細い径の長繊維が得られるため、オリフィスのつまりなどのトラブルを引き起こしにくい。
【0023】
オリフィスと電極板との距離は、好ましくは数ミリから数十センチに設定する。この距離を変化させることによって、長繊維の繊維径や繊維長、網目構造の形態などを変化させることが出来る。
例えば、オリフィスと電極板との距離が遠いほど、得られる長繊維の繊維径が小さくなり、繊維長が長くなる。一方、該距離が近いほど、得られる長繊維の繊維径が大きくなり、繊維長が小さくなる。もちろん、原料溶液の表面張力や粘度あるいは導電性と印加する電圧との間には一定の関係があるため、電極間距離だけで繊維径と繊維長が決まるわけではない。例えば、オリフィスと電極間の距離を一定にした場合、一般的に、表面張力を低くしたり粘度を小さくすると細い繊維径の長い繊維長が得られる。また、表面張力が一定であれば、印加電圧が高いほど細い繊維径と長い繊維長が得られる。
【0024】
まず、上述した長繊維材料及び任意の添加物に溶剤を加えてあるいは加熱して原料溶液7を得る。 原料溶液7の粘度は、1cps〜10000cpsとすることが好ましく、10cps〜1000cpsとすることがより好ましい。
原料溶液は、長繊維材料及び任意の添加物が完全に溶解し、溶剤と完全に混合した溶液の形態であってもよく、溶解した液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として溶剤中に分散した乳化物の形態であってもよい。
オリフィスと電極版の間に印加する電圧は、好ましくは1kV〜500kV、より好ましくは2kV〜200kV、さらに好ましくは5kV〜100kVとする。電圧が500kVを越えると、電極間で短絡しやすくなるおそれがあるばかりでなく、装置からの漏電や放電現象が発生しやすくなり、装置の絶縁のために大掛かりの装置となる。電圧が1kV以下になるとエレクトロスピニング現象が発生しにくい。
エレクトロスピニング時に流れるオリフィス一本あたりの電流としては、0.1μA〜500μAが好ましく、より好ましくは1μA〜200μA、さらに好ましくは5μA〜100μAである。この電流値は溶液を供給していないときの電流値(リーク電流)とエレクトロスピニング時の電流値との差である。0.1μAより小さい場合は、エレクトロスピニングが不安定となり、繊維の形状が変形したり、ベッドと呼ばれる塊を形成したり、ひどいときには粒子状に形成されるため好ましくない。また、電流値が500μAを超える場合は、電圧を変化させても電界の変化が小さくなるため、安定的な製造が困難となるばかりか、放電する可能性が高くなる。特に5kV以上の電圧で放電が起きるとフィルムやシートに孔が空いたり、ひどいときには燃えたりする可能性がある。
【0025】
オリフィスから出た帯電した原料溶液は、電極板に近づくに従い電荷密度が高くなる。そして、原料溶液の粘度又は表面張力と静電的な力が競争し、静電的な力が勝つと、原料溶液が細かく分裂し一気に乾燥し細い長繊維を形成する。
原料溶液の表面張力については特に制限はないが、10〜70ダインであり、好ましくは20〜60ダイン、さらに好ましくは30〜50ダインである。
原料溶液の導電率については1μS/m〜10mS/mが好ましく、より好ましくは10μS/m〜5mS/m、さらに好ましくは50μS/m〜2μSである。導電率が1μS/m未満であると、エレクトロスピニングとならずに液滴で噴霧されやすい。また、10mS/mより大きくなると、エレクトロスピニングが発現せずに一本の太い液体で噴霧される。
一般に、原料溶液の導電率が100μS/m、特に500μS/m以上になるとエレクトロスピニング現象が不安定になりやすい。これは液体の導電率が大きいとオリフィスから出た原料溶液表面に電荷が集中せずに、原料溶液内部に電荷が分散してしまい、粘度や表面張力が打ち勝ちエレクトロスピニング現象が発現しないと考えられる。しかし、 印加電圧が5kV以上で電流値が5μAであり、かつ溶液の表面張力が20〜60ダイン/m、溶液の供給量が10μl/sec以上、オリフィスの内径が0.1mm以上である場合には、むしろ伝導率が高い方がエレクトロスピニング現象が安定することを見出した。
【0026】
本発明の積層体の製造方法について一例を挙げる。
合成樹脂を溶融押出法でTダイより出てきたフィルムまたはシート表面にエレクトロスピニングで長繊維層を形成させる。その後冷却ロールを通過させ、合成樹脂の融点よりわずかに低い温度で縦方向に延伸する。次に横方向に延伸してフィルムを製造する。エレクトロスピニングによる長繊維形成は縦延伸と横延伸の間で行っても良いし、横延伸後に行っても良い。
長繊維層を形成した後に延伸工程を施す場合、長繊維が延伸により切断されたり、長繊維同士の接点が減少し帯電防止能が低下する懸念があったが、驚くべきことに、延伸によって帯電防止能が低下しないばかりか、むしろ帯電防止能が向上することを見出した。エレクトロスピンにより製造される長繊維は完全に真っ直ぐには形成されず、かなり曲がった状態で形成している。そのため、延伸工程で長繊維が切断されることなく延伸できるものと推察される。さらに延伸により長繊維同士の接触がより強固になるため帯電防止能が向上するものと考えられる。さらに予期せぬ効果として、延伸により合成樹脂表面との密着性が向上することがわかった。
【0027】
また、本発明においては、長繊維層を合成樹脂フィルムまたはシート表面に形成した後に、ロールのニップ間を通して平滑化したり、加熱された平滑な鏡面に、積層体の長繊維層側をあてて乾燥して平滑な面を得たりすることも出来る。
また、長繊維を支持体上の特定の場所にのみ形成して、特定の部分だけに特異な物性を付与するようなことも出来る。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を限定するものではない。また、特に断らない限り実施例中の部は質量部を示す。
【0029】
<実施例1>
ポリビニルアルコール(クラレ社製 、商標:PVA117)の2%水溶液(導電率10μS/m、表面張力48ダイン/cm)を50ccの容量を持つ容器(プラスティック製)の中に入れ、ポンプを使用して、内径0.2mmのガラス管(外径5mm)にシリコーンチューブを介して接続した。ガラス管の先端の断面は円錐状に加工した。このガラス管の先端から30cm離れた位置にステンレス製のロールを置き、その上に、OPPフィルム(厚さ25μm、片面コロナ処理、王子製紙社製、商標:PY101)のコロナ処理面が表になるように接地した。ステンレス製のロールを高電圧源のプラス、ガラス管の中に銅線を入れて、銅線はアースした。ガラス管とロール間に、ロールを回転(60rpm)させながら13kVの電圧をかけ、OPP表面に長繊維層を形成した。この時の電流値は5〜10μAであり、流量は5μl/secであった。長繊維層の塗布量は固形分換算で0.1g/mであった(塗布量は液消費量から算出した。以下、同様に算出した)。得られた長繊維積層OPPフィルムを150℃で10kg/cm、30分間熱ブレスして積層体を得た。
【0030】
<実施例2>
実施例1記載のポリビニルアルコール水溶液100質量部にポリエチレングリコール(分子量10万)を0.1質量部を加えた水溶液(導電率12μS/m、表面張力42ダイン/cm)を用いて実施例1と同様に微細長繊維層を形成した。このときの電圧は25kV、流量は50μ/sec、電流値は10〜20μAであった。また、長繊維層の塗布量は0.1g/mだった。得られた長繊維積層OPPフィルムを150℃で10kg/cm、30分間熱ブレスして積層体を得た。
【0031】
<実施例3>
ポリビニルアルコール水溶液の代わりにポリアニリンのN−メチル−2−ピロリドンの溶液(濃度2%、酢酸0.02%含有)としたこと以外は実施例1と同様にフィルム積層体を製造した。ポリアニリンの塗布量は固形分換算で0.05g/mであった。得られた長繊維積層OPPフィルムを150℃で10kg/cm、30分間熱ブレスして積層体を得た。
【0032】
<実施例4>
ポリビニルアルコール水溶液の代わりにポリチオフェンの水性エマルジョン溶液(固形分0.5%、pH2.2、商標:デナトロンP502RG、ナガセケムテック社製)としたこと以外は実施例1と同様にフィルム積層体を製造した。ポリチオフェンの塗布量は固形分換算で0.01g/mだった。得られた長繊維積層OPPフィルムを150℃で10kg/cm、30分間熱ブレスして積層体を得た。
【0033】
<実施例5>
ポリチオフェンの水性エマルジョン溶液(固形分0.5%、pH2.2、商標:デナトロンP502RG、ナガセケムテック社製)とポリビニルアルコール(クラレ社製 、PVA117)の2%水溶液を4:1で混合した溶液を50mlの容量を持つ容器(プラスティック製)の中に入れ、ポンプを使用して、内径0.2mmのガラス管(外径5mm)にシリコーンチューブを介して接続した。ガラス管の先端の断面は円錐状に加工した。このガラス管の先端から30cm離れた位置にステンレス製のロールを置き、その上に、PPペレット(商標:ノバテックF203T、 MFR2.5g/10min、日本ポリプロ社製)をTダイ溶融押出機でキャスト成形した。無延伸のPPシート(厚さ360μm、片面コロナ処理)のコロナ処理面が表になるように接地した。ステンレス製のロールを高電圧源のプラス、ガラス管の中に銅線を入れて、銅線はアースした。ガラス管とロール間に、ロールを回転(60rpm)させながら13kVの電圧をかけ、OPP表面に長繊維層を形成した。この時の電流値は5〜10μAであり、流量は5μl/secであった。長繊維層の塗布量は固形分換算で0.12g/mであった。そして、東洋精機製のラボ用二軸延伸機を用いて、161℃にて、縦3倍、横4倍の倍率で延伸してフィルム積層体を得た。延伸倍率から計算すると長繊維層の塗布量は0.01g/mであった。
電子顕微鏡で表面を観察したところ、長繊維層の直径はおよそ200〜500nmであり、長さはほとんど50μm以上あり、繊維同士の交点が多数あることが観察できた。
【0034】
<比較例1>
PPペレット(商標:ノバテックF203T、 MFR2.5g/10min、日本ポリプロ社製)100部に、樹脂練り込み型帯電防止剤(商標:エレクトロストリッパーTS−2B、非イオン界面活性剤、花王社製)0.2部を二軸混練機により200℃で混練して帯電防止剤入りPPペレットを作製した。帯電防止剤を含むPPペレットをTダイ溶融押出機でキャスト成形して、厚さ360μのOPPシートを作製し、東洋精機社製のラボ用二軸延伸機を用いて、161℃にて、縦3倍、横4倍の倍率で延伸して帯電防止剤を含むOPPフィルムを得た。
【0035】
<比較例2>
コロナ処理面したOPPフィルムに(厚さ25μm)のコロナ処理面に帯電防止剤エタノール溶液(商標:エマゾールL−10(F)、花王社製、固形分1%)をメイヤーバーで塗布し、110℃ 、1分間乾燥してフィルム積層体を製造した。塗布量は0.1g/mであった。
【0036】
<比較例3>
コロナ処理面したOPPフィルムに(厚さ25μm)のコロナ処理面に、ポリチオフェンの水性エマルジョン溶液(固形分0.5%、pH2.2、商標:デナトロンP502RG、ナガセケムテック社製)とポリビニルアルコール(クラレ社製 、商標:PVA117)の2%水溶液を4:1で混合した溶液をメイヤーバーで固形分として0.1g/mになるように塗布し、110℃、1分間乾燥し、さらに150℃で10kg/cm、30分間熱ブレスして積層体を得た。
【0037】
<評価方法>
〔表面抵抗と帯電防止能〕
電圧100Vで表面抵抗を測定した(アドバンテスト社製 R8340A ディスチャージ60秒)。環境条件は23℃、30%RHとした。
1012を越えると : 帯電防止能が劣るレベル。
1011Ω〜1012Ω : 帯電防止能があるレベル。
1010Ω〜1011Ω : 帯電防止能に優れるレベル。
1010Ω以下 : 帯電防止能に非常に優れる。
10Ω以下 : 帯電防止能および導電性がともに良好である。
〔耐ブロッキング性〕
積層体を10cm角にサンプリングし、長繊維層を積層した面と反対面を重ね合わせ、5kgの重りを載せ、50℃50%RHで24時間おいた。
○: サンプルを取り出し、親指と人指し指で抵抗なくフィルム同士がずれる。
×: フィルムの巻取りがブロッキングして、後加工時にフィルムが引き出せな
かったり、袋状に加工したフィルム同士を重ねあわせて保管したときにく
っついてしまい商品価値を低下せしめる。
【0038】
〔密着性〕
ウレタン系接着剤(商標:タケラックA−971、固形 50%、武田薬品工業社製)36質量部とイソシアネート系接着剤(商標:タケネートA−3、固形分75%、武田薬品工業社製)3質量部を酢酸エチル61部に添加した後、攪拌し、接着剤塗料(固形分20%、ウレタン系接着剤/イソシアネート系接着剤=90質量部/10質量部)を作製した。
接着用塗料を、各実施例及び比較例の積層体上に、乾燥した後の固形分が10g/mになるようにメイヤーバーで塗布し、70℃で20秒間乾燥して接着剤層を形成した。
接着剤層と25μm厚さのナイロンフィルム(商標:ON−25、ユニチカ社製)のコロナ処理面を重ね合せ、25gf/cmの荷重で40℃、24時間エージング処理を行い、各実施例および比較例の積層体とナイロンフィルムの積層体を得た。
ナイロンフィルムとの積層体を15mm巾でスリットし、180°ピール強度(U字強度、オーバーコート層とガスバリアー層間の接着強度)を測定した。
引張速度は30m/minで、測定点数は7点として最大値と最小値を除いた5点の平均値を密着強度とした。
密着強度は、40℃、24時間エージングしたサンプルを40℃、90%RHに24時間放置したものも測定した。
密着強度は、0.5N/15mm以上であれば必要上十分な強度を有するが、1N/15mm以上であれば良好である。
【0039】
〔印刷適性〕
グラビア印刷機にて、溶剤系インキ(商標:ユニビアNT、大日本インキ社製)を用いて、各実施例および比較例の積層体の表面に印刷を施した。なお、積層体は40℃、60%RHで一週間エージングしたものを用いた。
○ :グラビアの網点面積率が95%以上で欠陥のないもの、
× :グラビアの網点面積率が80%以下のもの。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果から、帯電防止能、耐ブロッキング性、密着性および印刷適性が、非常に優れていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなるフィルムまたはシートの少なくとも片面に、微細な長繊維を含む層が積層されていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記長繊維が、1nm〜10μmの繊維径と、繊維径に対して100倍以上の長さを有する請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記長繊維が網目構造を形成している請求項1および/又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記長繊維が水素結合形成可能な官能基を有する直鎖状高分子および導電性高分子から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
溶融押出法で合成樹脂のフィルムまたはシートを形成した後、エレクトロスピニング法により長繊維層を含む層を、該フィルムまたはシート上に形成し、縦方向および/又は横方向に延伸することを特徴とする積層体の製造方法。

【公開番号】特開2006−123360(P2006−123360A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314975(P2004−314975)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】