説明

積層体ならびに反射防止物品および撥水性物品

【課題】ナノ凹凸構造を表面に有するにも関わらず、高い耐擦傷性を示す積層体ならびにこれを備えた反射防止物品および撥水性物品を提供する。
【解決手段】光透過性基材11と、光透過性基材11上に積層された、ナノ凹凸構造を表面に有する表層12とを有する積層体10であって、光透過性基材11のtanδ(損失正接)が、20℃、1Hzにおいて0.15以上である積層体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ凹凸構造を表面に有する積層体ならびにこれを備えた反射防止物品および撥水性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ凹凸構造を表面に有する表層が形成された積層体は、ナノ凹凸構造において空気の屈折率から表層の材料の屈折率へと連続的に屈折率が変化することによって、反射防止性能を発現することが知られている。また、該積層体は、ナノ凹凸構造によるロータス効果によって、超撥水性能を発現することも可能である。
【0003】
該積層体が良好な反射防止性能を発現するためには、ナノ凹凸構造において隣り合う凸部または凹部の間隔が可視光線の波長以下である必要がある。しかし、このようなナノ凹凸構造を有する表層は、同じ活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いて形成された平滑なハードコート層等に比べて耐擦傷性に劣り、使用中の耐久性に問題がある。
【0004】
ハードコート層の耐擦傷性を向上させる方法としては、ハードコート層にシリコーンオイルを含ませる方法が提案されている(特許文献1)。
また、耐擦傷性と耐衝撃性を両立させるために、ハードコート層を形成する基材に、ゴム粒子を分散させた(メタ)アクリル系樹脂を用いる方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、特許文献1、2に記載の方法は、耐擦傷性をある程度は向上できるものの、必ずしも十分なものではない。例えば、表層のナノ凹凸構造を構成する微細突起が折れたり曲がったりして、反射防止性能が損なわれる場合がある。そのため、ナノ凹凸構造を表面に有する積層体の用途が限定されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−234073号公報
【特許文献2】特開2007−030307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ナノ凹凸構造を表面に有するにも関わらず、高い耐擦傷性を示す積層体ならびにこれを備えた反射防止物品および撥水性物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構成の積層体が非常に優れた効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の積層体は、光透過性基材と、該光透過性基材上に積層された、ナノ凹凸構造を表面に有する表層とを有する積層体であって、前記光透過性基材のtanδ(損失正接)が、20℃、1Hzにおいて0.15以上であることを特徴とする。
【0009】
前記光透過性基材および前記表層は、(メタ)アクリレート系樹脂からなることが好ましい。
本発明の反射防止物品は、本発明の積層体を備えたものであることを特徴とする。
本発明の撥水性物品は、本発明の積層体を備えたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層体ならびにこれを備えた反射防止物品および撥水性物品は、ナノ凹凸構造を表面に有するにも関わらず、高い耐擦傷性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の積層体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の積層体の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、ナノ凹凸構造は、凸部または凹部の平均間隔(周期)が可視光線の波長以下、つまり380nm以下の構造を意味する。
また、光透過性は、光を透過することを意味する。
また、活性エネルギー線は、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)、X線、α線、β線、γ線等を意味する。
また、可視光線は、波長が380〜780nmの光を意味する。
また、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0013】
<積層体>
本発明の積層体は、光透過性基材と、該光透過性基材の少なくとも一方の表面に積層された、ナノ凹凸構造を表面に有する表層とを有する。
図1および図2は、本発明の積層体の一例を示す断面図である。積層体10は、光透過性基材11と、光透過性基材11上に積層された、ナノ凹凸構造を表面に有する表層12とを有する。
【0014】
(光透過性基材)
光透過性基材11は、光を透過する成形体である。
光透過性基材11のtanδ(損失正接)は、20℃、1Hzにおいて0.15以上であり、0.4以上が好ましい。tanδが0.15以上であれば、積層体10の表面における摩擦等のエネルギーをうまく分散でき、表層12の傷付きを低減(耐擦傷性を向上)できる。tanδは、良好な耐擦傷性を得られる貯蔵弾性率と損失弾性率とのバランスの点から、2以下が好ましい。
【0015】
tanδは、貯蔵弾性率を損失弾性率で除した値であり、動的粘弾性測定によって求められる。具体的には、厚さ200μmの光透過性基材を、幅5mmの短冊状に打ち抜いた試験片について、市販の粘弾性測定装置を用い、引張モード、チャック間:2cm、測定周波数:1Hzにて、−50℃から100℃まで2℃/分の昇温速度で測定し、tanδを求め、20℃におけるtanδの値を判断に用いる。
【0016】
光透過性基材11の材料は、光透過性基材11のtanδが20℃、1Hzにおいて0.15以上となる材料であればよい。光透過性基材11の材料としては、(メタ)アクリレート系樹脂、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、(メタ)アクリレート−スチレン共重合体、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、これらの複合物(ポリメチルメタクリレートとポリ乳酸との複合物、ポリメチルメタクリレートとポリ塩化ビニルとの複合物等)、ガラス等が挙げられる。
【0017】
光透過性基材11の材料としては、透明性の点から、(メタ)アクリレート系樹脂が好ましく、tanδが0.15以上の材料を設計しやすい点から、後述する光透過性基材形成用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物がより好ましい。
【0018】
光透過性基材11は、板状、シート状、フィルム状のいずれであってもよい。
光透過性基材11の表面は、密着性、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性等の特性の改良を目的に、コーティング、コロナ処理等が施されていてもよい。
光透過性基材11の厚さは、特に限定されない。なお、表層12を設ける工程の生産性、取り扱い性の観点からは、光透過性基材11は、曲げることが可能なフィルム状が好ましく、厚さが5μm以上500μm以下のものがより好ましい。
【0019】
(表層)
表層12の表面は、図1および図2に示すように、反射防止性能や超撥水性能を発現するナノ凹凸構造を有する。具体的には、表層12の表面には、凸部13および凹部14が等間隔で形成されている。図1の凸部13の形状は、円錐状または角錐状であり、図2の凸部13の形状は釣鐘状である。なお、ナノ凹凸構造の凸部13の形状は、これらに限定されず、高さ方向と直交する方向の凸部13の断面積が最表面から深さ方向に連続的または断続的に増加するような形状とすることが好ましい。また、より微細な複数の突起が合一して1つの凸部13を形成していてもよい。すなわち、図1および図2における凸部13以外の形状であっても、空気の屈折率から表層12の材料の屈折率へと連続的または断続的に屈折率を増大し、低反射率と低波長依存性とを両立させた反射防止性能を示すような形状であればよい。
【0020】
隣り合う凸部13の間隔(図1では、隣り合う凸部13の中心点(頂点13a)の間隔w1である。)または隣り合う凹部14の間隔は、良好な反射防止性能を発現するためには、可視光線の波長以下、すなわち380nm以下である必要がある。w1が380nm以下であれば、可視光線の散乱を抑制できる。よって、積層体10を反射防止物品等の光学用途に好適に用いることができる。
【0021】
凸部13の高さまたは凹部14の深さ(図1では、凹部14の中心点(底点14a)から凸部の中心点(頂点13a)までの垂直距離d1である。)は、最低反射率や特定波長の反射率の上昇を抑制する点から、60nm以上が好ましく、90nm以上がより好ましい。また、凸部13の高さまたは凹部14の深さの上限は、製造可能な範囲であればよく、特に制限されない。モールドを用い、モールドのナノ凹凸構造を転写する方法によって表層12のナノ凹凸構造を形成する場合、正確に転写が行われるためには、凸部13の高さまたは凹部14の深さは、2μm未満であることが好ましい。
【0022】
ナノ凹凸構造において、凸部13の高さ/間隔で表されるアスペクト比(d1/w1)は、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上が最も好ましい。該アスペクト比が0.5以上であると、光反射の低減効果が良好に得られ、また入射角依存性を小さくできる。該アスペクト比の上限は、製造可能な範囲であればよく、特に制限されない。モールドを用い、モールドのナノ凹凸構造を転写する方法によって表層12のナノ凹凸構造を形成する場合、正確に転写が行われるためには、凸部13のアスペクト比は、5以下であることが好ましい。
良好な反射防止性能を発現するナノ凹凸構造の形状については、特開2009−031764公報等に記載されており、本発明においてもそれらと同様の形状を採用できる。
【0023】
表層12の材料としては、透明性の点から、(メタ)アクリレート系樹脂が好ましく、耐擦傷性の良好な表層12を形成しやすい点から、後述する表層形成用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物がより好ましい。
【0024】
表層12の厚さは、5〜30μmが好ましく、8〜20μmがより好ましい。表層12が適度に薄ければ、通常の紫外線照射で後述する表層形成用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化が十分に進行し、良好な耐擦傷性が得られる。表層12が適度に厚ければ、表層12の破断を抑えることができる。
【0025】
表層12が後述する表層形成用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる場合、表層12にナノ凹凸構造を良好に形成するためには、硬化物は、架橋密度が高く、高弾性とすることが好ましい。高架橋密度の硬化物では、引張伸度を出すことは難しく、引張破断伸度は5%以下である。そのため、表層12が薄すぎると、積層体10に加重を加えた際に表層12が引張破断してしまい、亀裂が目視で確認できる傷となって残ってしまう。一方、表層12が厚すぎると、積層体10に掛かる応力が光透過性基材11によってうまく分散されず、表層12が傷付いてしまう。
【0026】
光透過性基材11の変形に対して表層12が良好に追従するためには、光透過性基材11と表層12とが十分に密着していることが好ましい。また、光透過性基材11と表層12との密着が十分であれば、ずり変形による界面剥離が生じ難くなる。光透過性基材11と表層12との間は、明確な界面が存在しない混合状態とすることが好ましい。光透過性基材11の表面の硬化を不十分にすることや、表層12を構成する表層形成用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を光透過性基材11へ浸透させることによって、明確な界面を存在させず、良好な密着性を出すことができる。なお、明確な界面が存在しない場合の光透過性基材11および表層12の厚さは、光透過性基材11と表層12との間の混合部分の中間位置を界面として測定する。また、表層12を形成するときに熱をかけることによって、密着性を改善することもできる。
【0027】
(作用効果)
以上説明した積層体10にあっては、光透過性基材11のtanδ(損失正接)が、20℃、1Hzにおいて0.15以上であるため、積層体10の表面における摩擦等のエネルギーをうまく分散でき、表層12の傷付きを低減できる。よって、ナノ凹凸構造を表面に有するにも関わらず、高い耐擦傷性を示す。
【0028】
<積層体の製造方法>
積層体10は、例えば、下記の工程(I)〜(II)を有する方法によって製造できる。
(I)光透過性基材11を製造する工程。
(II)光透過性基材11上に表層12を形成する工程。
【0029】
〔工程(I)〕
光透過性基材11の製造方法は、特に限定されない。光透過性基材11の製造方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、セルキャスト成形法、溶液流延法、熱硬化法、乾燥硬化法、紫外線硬化法等が挙げられる。
【0030】
光透過性基材11が光透過性基材形成用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(以下、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)とも記す。)の硬化物である場合、光透過性基材11の製造方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
光透過性基材11の形状に応じた型を用意し、必要に応じてガスケット等を介して、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)を型の間に挟み、型の片側または両側から活性エネルギー線を照射する方法。
【0031】
具体的には、下記の方法(i)、(ii)等が挙げられる。
(i)連続するフィルムを型とし、フィルムの上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)を流延し、その上にさらに別のフィルムを重ね、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)に活性エネルギー線を照射し、硬化物からシート状物を剥離する方法。
(ii)エンドレスベルトの上に後述の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)を流延し、その上にエンドレスベルトと同一方向および同速度で移送されるフィルムを重ね、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)に活性エネルギー線を照射し、硬化物からフィルムを連続的に剥離するとともに、硬化物をエンドレスベルトから連続的に剥離する方法。
【0032】
フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)フィルム等が挙げられる。PETフィルムの市販品としては、東洋紡エステルフィルムE5001(東洋紡績社製)、コスモシャインA4100(東洋紡績社製)等が挙げられる。フィルムの厚さは、通常、0.01〜3mmである。
エンドレスベルトとしては、ステンレス板等が挙げられる。
【0033】
活性エネルギー線としては、装置のコスト、生産性等の点から、可視光線または紫外線が好ましく、紫外線がより好ましい。紫外線の照射量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)に含まれる活性エネルギー線重合開始剤の量に合わせて適宜決定すればよい。紫外線を照射する雰囲気は、酸素を含む雰囲気であってもよく、窒素雰囲気であってもよい。積算光量は、200〜4000mJ/cmが好ましい。
光透過性基材11を連続的に製造する場合、光透過性基材11は、紙管、プラスチックコア等のロールに巻いた状態にして回収できる。
【0034】
(光透過性基材形成用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)は、活性エネルギー線を照射することで重合反応が進行し、硬化する樹脂組成物である。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)は、重合反応性モノマー成分、ポリマー成分、活性エネルギー線重合開始剤、必要に応じてその他の成分を含む。
【0035】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)の粘度は、製造方法に合わせて最適な適宜調整すればよい。例えば、粘度が50mPa・s以下の場合は、グラビアコーティングで均一塗布できる。200mPa・s以上の場合は、上述した方法(i)、(ii)に適用できる。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)の粘度は、25℃において回転式B型粘度計で測定される粘度である。
【0036】
(重合反応性モノマー成分)
重合反応性モノマー成分は、硬化反応によって硬化物からなる光透過性基材11を形成できるものであればよく、特に限定されない。重合反応性モノマー成分としては、例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソ−プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−メチル−2アダマンチル(メタ)アクレート、2−エチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。これらの中でも、透明性の点で、メチルメタクリレートが好ましい。
【0038】
多官能(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、オクタエチレングリコール、ノナエチレングリコール、デカエチレングリコール、ウンデカエチレングリコール、ドデカエチレングリコール、トリデカエチレングリコール、テトラデカエチレングリコール、ペンタデカエチレングリコール、ヘキサデカエチレングリコール;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサプロピレングリコール、ヘプタプロピレングリコール、オクタプロピレングリコール、ノナプロピレングリコール、デカプロピレングリコール、ウンデカプロピレングリコール、ドデカプロピレングリコール、トリデカプロピレングリコール;ブチレングリコール、ジブチレングリコール、トリブチレングリコール、テトラブチレングリコール、ペンタブチレングリコール、ヘキサブチレングリコール、ヘプタブチレングリコール、オクタブチレングリコール、ノナブチレングリコール、デカブチレングリコール、ウンデカブチレングリコール等のポリアルキレングリコール残基に(メタ)アクリル酸を付加してなるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ポリアルキレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の低分子量ジオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テレフタル酸等の二塩基酸またはその無水物等の酸成分との反応物であるポリエステルジオール残基に(メタ)アクリル酸を付加してなるポリエステルジ(メタ)アクリレート;ポリアルキレングリコール、低分子量ジオールと、炭酸ジメチル等の炭酸エステルとの反応物であるポリカーボネートジオール残基に(メタ)アクリル酸を付加してなるポリカーボネートジ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の複数の重合性二重結合と水酸基を有するモノマー;多官能ウレタン(メタ)アクリレート、多官能エポキシ変性(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。これらの中でも、光透過性基材11のtanδ(損失正接)を20℃、1Hzにおいて0.15以上とする点から、ポリブチレングリコールジメタクリレートが好ましく、ノナブチレングリコールジメタクリレートがより好ましい。
【0039】
多官能(メタ)アクリレートの市販品としては、アクリエステルPBOM(三菱レイヨン社製);ブレンマーPDE−600、ブレンマーPDP−700、ブレンマーPDT−650、ブレンマー40PDC1700B、ブレンマーADE−600(日油社製);NKエステルA−600、NKエステルA−1000、NKエステルAPG−700、NKエステル14G、NKエステル23G(新中村化学工業社製);Ebecryl(登録商標)シリーズ(ダイセル・サイテック社製);アロニックス(登録商標)シリーズ(東亞合成社製);KAYARAD(登録商標)シリーズ(日本化薬社製)等が挙げられる。
【0040】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)の硬化物のTgを室温付近とすることにより、20℃、1Hzにおけるtanδを0.15以上とすることができる。具体的には、多官能(メタ)アクリレートの割合を、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)(100質量%)のうち、50質量%以上100質量%以下とすることが好ましい。
【0041】
(ポリマー成分)
ポリマー成分は、光透過性基材11の厚さ精度、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)の操作性、光透過性基材11の透明性等を向上させる成分である。
ポリマー成分は、重合反応性モノマー成分に溶解するものであれば、特に限定されない。ポリマー成分としては、例えば、単官能(メタ)アクリレートおよび/または多官能(メタ)アクリレートの共重合体;単官能(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリレートおよび/または共重合可能なコモノマーの(共)重合体等が挙げられる。
【0042】
重合体は、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合等の方法で製造される。重合時に重合開始剤、連鎖移動剤を用いてもよい。
重合開始剤としては、例えば、過酸化ベインゾイル、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物系重合開始剤;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤等が挙げられる。
連鎖移動剤としては、n−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;αメチルスチレンダイマー等が挙げられる。
【0043】
(活性エネルギー線重合開始剤)
活性エネルギー線重合開始剤は、活性エネルギー線を照射することで開裂して、重合反応性モノマー成分の重合反応を開始させるラジカルを発生する化合物であればよく、特に限定されない。活性エネルギー線重合開始剤の種類や量は、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)に活性エネルギー線を照射する雰囲気等に応じて適宜決定すればよい。
【0044】
活性エネルギー線重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、メチルフェニルグリオキシレート、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−フェニル−1,2−プロパン−ジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2−クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2−メチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジメトキシフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0045】
(溶媒)
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)は、必要に応じて溶媒で希釈されていてもよい。特に、高粘度で均一塗布が難しい場合は、コーティング方法に適した粘度となるよう適宜調整することが好ましい。
溶媒は、乾燥方法等に応じて適当な沸点を有するものを選択すればよい。溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0046】
(その他の成分)
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)は、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、近赤外線吸収剤等の添加剤を含んでいてもよい。
各種添加剤は、積層体10の表層12に添加してもよいが、経時的なブリードアウトによって、性能の低下が懸念される。光透過性基材11に添加することで、ブリードアウトを抑制、防止することが可能となる。
【0047】
帯電防止剤を添加することで、埃等が付着しにくい積層体10を得ることができる。帯電防止剤としては、例えば、ポリチオール系、ポリチオフェン系、ポリアニリン系等の導電性高分子、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の無機物微粒子、特開2007−070449号公報に例示されるようなリチウム塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。これらの中でも、積層体10の透明性を損なわず、比較的安価で、安定した性能を発揮するパーフルオロアルキル酸リチウム塩が好ましい。
帯電防止剤の量は、光透過性基材原料中の重合反応性モノマー成分100質量部に対し、0.5〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。帯電防止剤の量が0.5質量部以上であれば、積層体10の表面抵抗値を下げ、埃付着防止性能を発揮する。帯電防止剤の量が20質量部以下であれば、積層体10のコストを抑えることができる。
【0048】
近赤外線吸収剤を添加することで、積層体10に断熱効果を付与できる。また、プラズマディスプレイ等に用いた場合、各種家電の赤外線リモコンの誤作動を防止できる。近赤外線吸収剤としては、例えば、ジイモニウム系色素、フタロシアニン系色素、ジチオール系金属錯体系色素、置換ベンゼンジチオール金属錯体系色素、シアニン系色素、スクアリウム系色素等の有機系の近赤外線吸収剤;導電性アンチモン含有錫酸化物微粒子、導電性錫含有インジウム酸化物微粒子、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子等の無機系の近赤外線吸収剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0049】
〔工程(II)〕
表層12の形成方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
(α)ナノ凹凸構造の反転構造を有するモールドと、光透過性基材11との間に表層形成用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(以下、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)とも記す。)を挟み、活性エネルギー線を照射することによって活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)を硬化させ、その硬化物からモールドを剥離することによって、硬化物からなる、ナノ凹凸構造を表面に有する表層12を形成する方法。
(β)光透過性基材11上に活性エネルギー線硬化性組成物(B)をコーティングし、該コーティング層にモールドの転写面を圧接してナノ凹凸構造を転写し、離型した後、活性エネルギー線照射によりコーティング層を硬化させる方法。
【0050】
ナノ凹凸構造を表面に有する表層12の形成方法、モールドの製造方法等については、例えば、特開2009−031764号公報等に記載の公知技術を採用すればよい。
例えば、まず、表層12のナノ凹凸構造に対応する反転構造が形成されたモールドを製造し、該モールドを用いて、モールドの表面のナノ凹凸構造(反転構造)が転写された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)の硬化物を形成する方法が好ましい。
【0051】
モールドにナノ凹凸構造を形成する方法としては、電子ビームリソグラフィ法やレーザ光干渉法によってナノ凹凸構造を形成する方法、アルミニウムの表面を陽極酸化して陽極酸化ポーラスアルミナを形成する等が挙げられる。モールドとしては、モールドの大面積化やロール形状のモールドを簡便に作製できるという点から、陽極酸化ポーラスアルミナからなるモールドが好ましい。
【0052】
陽極酸化ポーラスアルミナは、アルミニウムの陽極酸化皮膜(アルマイト)のことであり、該酸化皮膜には多数の細孔が形成されている。
陽極酸化ポーラスアルミナは、例えば、下記工程(a)〜(e)を経て製造できる。工程(a)〜(b)は省略することもできるが、細孔の規則性向上のためには行う方が好ましい。
【0053】
(a)アルミニウムを電解液中、定電圧下で陽極酸化して酸化皮膜を形成する工程。
(b)酸化皮膜を除去し、陽極酸化の細孔発生点を形成する工程。
(c)アルミニウムを電解液中、再度陽極酸化し、細孔発生点に細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)細孔の径を拡大させる工程。
(e)前記工程(c)と工程(d)を繰り返し行う工程。
【0054】
陽極酸化ポーラスアルミナからなるモールドの表面(転写面)は、硬化物との分離が容易になるように、離型剤で処理されていてもよい。処理方法としては、例えば、シリコーン系ポリマーまたはフッ素ポリマーをコーティングする方法、フッ素化合物を蒸着する方法、フッ素系シランカップリング剤またはフッ素シリコーン系シランカップリング剤をコーティングする方法等が挙げられる。
【0055】
陽極酸化ポーラスアルミナからなるモールドの形状は、平板状、円柱状、円筒形状等が挙げられる。円柱状または円筒形状のモールドは、円柱状または円筒形状のアルミニウム、または円柱状または円筒形状の支持体の表面にアルミニウム層を有する材料を母材として、上述の工程を行なって得られる。円柱状の場合はそのまま、円筒形状の場合は内部に軸心をはめ込んでより生産性が高いロール形状のモールドとして使用することができる。
【0056】
また、上述の工程により得られた陽極酸化ポーラスアルミナを原盤としてレプリカを作製し、該レプリカをモールドとして用いることもできる。レプリカの作製方法としては、例えば原盤上にニッケル、銀等による薄膜を無電界めっき、スパッタ法等により形成し、次にこの薄膜を電極として電気めっき法(電鋳法)等により例えばニッケルを堆積させた後、このニッケル層をマスタリング基板から剥離させてレプリカとする方法等がある。
【0057】
(表層形成用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)は、活性エネルギー線を照射することで重合反応が進行し、硬化する樹脂組成物である。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)は、重合反応性モノマー成分、活性エネルギー線重合開始剤、必要に応じてその他の成分を含む。
【0058】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)の25℃における粘度は、モールドへ流し込んで硬化させる場合、その作業性を考慮すると、10000mPa・s以下が好ましく、5000mPa・s以下がより好ましく、2000mPa・s以下が特に好ましい。なお、粘度が10000mPa・s以上であっても、モールドへ流し込む際にあらかじめ活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)を加温して粘度を下げることが可能ならば、作業性を損なうことなく用いることができる。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)の70℃における粘度は、5000mPa・s以下が好ましく、2000mPa・s以下がより好ましい。
【0059】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)の25℃における粘度は、ベルト状やロール状のモールドを用いて連続生産する場合、その作業性を考慮すると、100mPa・s以上が好ましく、150mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上が特に好ましい。これら範囲には、モールドを押し当てる工程でモールドの幅を超えて脇へ漏れ難くしたり、その硬化物の厚さを任意に調整し易くしたりする点で意義がある。
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)の粘度は、所定の温度において回転式B型粘度計で測定される粘度である。
【0060】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)の粘度は、重合反応性モノマー成分の種類や量を調節することで調整できる。具体的には、水素結合等の分子間相互作用を有する官能基や化学構造を含む重合反応性モノマー成分を多量に用いると、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)の粘度は高くなる。また、分子間相互作用のない低分子量の重合反応性モノマー成分を多量に用いると、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)の粘度は低くなる。
【0061】
重合反応性モノマー成分や活性エネルギー線重合開始剤としては、公知の成分を採用できる。重合反応性モノマー成分としては、例えば、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー等が挙げられる。ラジカル重合性結合を有する単官能または多官能モノマー成分としては、各種の(メタ)アクリレートおよびその誘導体、カチオン重合性結合を有するモノマー成分としては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマーが挙げられる。ナノ凹凸構造を表面に有する表層12の形成に適した重合反応性モノマー成分や活性エネルギー線重合開始剤としては、例えば、特開2009−031764号公報の段落[0018]以降に記載の各種の化合物を採用できる。
【0062】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)は、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0063】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)の硬化物が柔らかいと、硬化物からモールドを剥離する際または剥離した後に、ナノ凹凸構造の凸部13同士が寄り添ってしまう場合がある。ナノの領域においては、マクロの領域においては問題にならないような表面張力でも顕著に働く。すなわち、表面自由エネルギーを下げようと、ナノ凹凸構造の凸部13同士で寄り添い、表面積を小さくしようとする力が働く。この力が硬化物の硬さを上回ると、凸部13同士が寄り添いくっついてしまう。そのようなナノ凹凸構造では、所望の反射防止性能や超撥水性能等を発揮できない場合がある。
以上の点から、硬化物の引張弾性率は、1GPa以上が好ましい。このような硬化物を形成できる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)を用いれば、凸部13同士が寄り添うことを回避し易くなる。
【0064】
<用途>
本発明の積層体は、表層にナノ凹凸構造を有する機能性物品として最適である。そのような機能性物品としては、例えば、本発明の積層体を備えた反射防止物品や撥水性物品が挙げられる。特に、本発明の積層体を備えたディスプレイや自動車用部材が、機能性物品として好適である。
本発明の積層体は、上述した用途以外にも、例えば、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、偏光分離素子等の光学用途や、細胞培養シートの用途にも適用できる。
【0065】
機能性物品において、積層体を貼り付ける部分が立体形状である場合は、あらかじめそれに応じた形状の光透過性基材を用い、その光透過性基材の上に表層を形成して積層体を得た後、この積層体を機能性物品の所定部分に貼り付ければよい。
また、機能性物品が画像表示装置である場合は、その表面に限らず、その前面板に対して本発明の積層体を貼り付けてもよいし、前面板そのものを本発明の積層体から構成してもよい。
【0066】
(反射防止物品)
本発明の反射防止物品は、本発明の積層体を備える。この反射防止物品は、高い耐擦傷性および良好な反射防止性能を発現する。反射防止物品としては、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、陰極管表示装置等の画像表示装置、レンズ、ショーウィンドー、眼鏡レンズ等の対象物の表面に、本発明の積層体を貼り付けたものが挙げられる。
【0067】
(撥水性物品)
本発明の撥水性物品は、本発明の積層体を備える。この撥水性物品は、高い耐擦傷性および良好な撥水性を有するとともに、優れた反射防止性能を発現する。撥水性物品としては、例えば、窓材、屋根瓦、屋外照明、カーブミラー、車両用窓、車両用ミラーの表面に、本発明の積層体を貼り付けたものが挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例において、特に断りがない限り「部」は「質量部」を意味する。また、各種測定および評価方法は以下の通りである。
【0069】
(1)モールドの細孔の測定:
陽極酸化ポーラスアルミナからなるモールドの一部の縦断面に、白金を1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−7400F)を用いて加速電圧:3.00kVで観察し、隣り合う細孔の間隔(周期)および細孔の深さを測定した。具体的にはそれぞれ10点ずつ測定し、その平均値を測定値とした。
【0070】
(2)ナノ凹凸構造の凹凸の測定:
積層体の縦断面に、白金を10分間蒸着し、(1)の場合と同じ装置および条件にて、隣り合う凸部または凹部の間隔および凸部の高さを測定した。具体的にはそれぞれ10点ずつ測定し、その平均値を測定値とした。
【0071】
(3)光透過性基材の粘弾性測定:
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)を光硬化させて厚さ200μmのフィルムに成形し、このフィルムを幅5mmの短冊状に打ち抜いたものを試験片とし、粘弾性測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、DMS110)を用い、引張モード、チャック間:2cm、測定周波数:1Hzにて、−50〜100℃まで2℃/分の昇温速度で測定し、tanδを求めた。
【0072】
(4)耐擦傷性の評価:
磨耗試験機(新東科学社製、HEIDON)に1cm四方のキャンバス布を装着し、100gの荷重をかけて、往復距離:50mm、ヘッドスピード:60mm/sの条件にて積層体の表層側の表面を1000回擦傷した。その後、外観を目視にて観察し、以下の基準により評価した。
「○」:4本以下の傷が確認される。
「×」:5本以上の傷が確認される。
【0073】
(5)密着性の評価
JIS K 5400に準拠し、碁盤目剥離試験を行い、密着性を評価した。基盤には厚さ2mmのアクリル板を用いた。碁盤目は10×10の100マスによって行い、100マス中で剥離が起こらなかった数を評価した。
【0074】
〔製造例〕
純度99.99%のアルミニウム板を、羽布研磨および過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨し、鏡面化した。
工程(a):
このアルミニウム板を、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流:40V、温度:16℃の条件で30分間陽極酸化した。
工程(b):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に6時間浸漬して、酸化皮膜を除去した。
【0075】
工程(c):
酸化皮膜を除去したアルミニウム板を、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流:40V、温度:16℃の条件で30秒間陽極酸化した。
工程(d):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸に8分間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
工程(e):
工程(c)および工程(d)を合計で5回繰り返し、平均間隔:100nm、深さ:180nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得た。
【0076】
得られた陽極酸化ポーラスアルミナを脱イオン水で洗浄し、次いで表面の水分をエアーブローで除去し、フッ素系剥離材(ダイキン工業社製、オプツールDSX)を固形分0.1質量%になるように希釈剤(ハーベス社製、HD−ZV)で希釈した溶液に10分間浸漬し、20時間風乾して、細孔が表面に形成されたモールドを得た。
【0077】
〔調製例〕
エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、NKエステルATM−4E)の80部、シリコーンジアクリレート(信越化学工業社製、x−22−1602)の15部、2−ヒドロキシエチルアクリレートの5部、活性エネルギー線重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(日本チバガイギー社製、DAROCURE 1173)の0.5部および2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(日本チバガイギー社製、DAROCURE TPO)の0.5部を混合して、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)を得た。
【0078】
〔実施例1〕
(工程(I))
冷却管、温度計および撹拌機を備えた反応器に、ポリブチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン社製、アクリエステルPBOM)(以下、PBOMと記す。)の20部、メチルメタクリレート(以下、MMAと記す。)の80部および連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン(関東化学社製)(以下、n−OMと記す。)の1部を仕込み、撹拌しながら加熱を開始した。
反応器内の温度が80℃になった時点で、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、V−65)(以下、V−65と記す。)の0.018部を添加した。
次いで、反応器内の温度を100℃に昇温して120分間保持した後、多量の氷水によって室温まで急冷して、ポリマー成分を得た。
【0079】
得られたポリマー成分の50部とPBOMの50部とからシラップ組成物を調製した。シラップ組成物の100部に対して離型剤としてスルホ琥珀酸ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウム500ppmを添加し、活性エネルギー線重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンの0.3部を添加し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)を得た。表1に配合量を示す。
【0080】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(A)を、厚さ188μmのPETフィルム(東洋紡績社製、コスモシャインA4100)の上に流延した後に、流延された活性エネルギー線重合性組成物(A)の表面をもう一枚のPETフィルムで挟み込んでケミカルランプの下を0.13m/分で通過させ、ピーク照度:4.0mW/cm、積算光量:3700mJ/cmで光を照射して硬化させた。硬化物をPETフィルムから剥離し、65℃の空気炉で3分熱処理して熱重合させ、厚さ200μmの光透過性基材を得た。
【0081】
(工程(II))
モールドの細孔側の表面に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)を流し込み、その上に光透過性基材を押し広げながら重ねた。光透過性基材の側から高圧水銀灯を用いて積算光量:2000mJ/cmで紫外線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(B)を硬化した。その後、硬化物からモールドを剥離して、ナノ凹凸構造を表面に有する積層体を得た。
【0082】
この積層体の表面には、モールドのナノ凹凸構造が転写されており、図1に示すような、隣り合う凸部13の間隔w1が100nm、凸部13の高さd1が180nmである略円錐形状のナノ凹凸構造が形成されていた。得られた積層体は高い耐擦傷性および高い密着性を示した。結果を表2に示す。
【0083】
〔比較例1〕
光透過性基材としてPETフィルム(東洋紡績社製、コスモシャインA4100)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表2に示す。
【0084】
〔比較例2〕
PBOM、MMA、n−OM、V−65の配合量および重合時間を表1に示す配合量および時間とした以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表2に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の積層体は、ナノ凹凸構造を表面に有する場合であっても、優れた耐擦傷性を有しており、壁、屋根等の建材用途;家屋、自動車、電車、船舶等の窓材や鏡;人が手で触れうるディスプレイ等に利用可能であり、工業的に極めて有用である。
【符号の説明】
【0088】
10 積層体
11 光透過性基材
12 表層
13 凸部
13a 凸部の頂点
14 凹部
14a 凹部の底点
w1 隣り合う凸部の間隔
d1 凹部の底点から凸部の頂点までの垂直距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材と、
該光透過性基材上に積層された、ナノ凹凸構造を表面に有する表層と
を有する積層体であって、
前記光透過性基材のtanδ(損失正接)が、20℃、1Hzにおいて0.15以上である、積層体。
【請求項2】
前記光透過性基材および前記表層が、(メタ)アクリレート系樹脂からなる、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層体を備えた、反射防止物品。
【請求項4】
請求項1または2に記載の積層体を備えた、撥水性物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−220675(P2012−220675A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85526(P2011−85526)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】