説明

積層体の圧縮賦形装置およびプリフォームの製造方法およびプリプレグ成形体の製造方法

【課題】長尺の梁部材を賦形するにあたり、その長手方向で積層体の厚みが変わっても同一の金型にて賦形できる積層体の圧縮賦形装置およびプリフォームの製造方法およびプリプレグ成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】相対する金型間における金型賦形面の間隔を調整するスキマ調整手段を有し、前記スキマ調整手段がシート状のスキマ調整部材と前記スキマ調整部材を積層体と金型賦形面の間に配置する挿入手段とを有するとともに、前記積層体が強化繊維および結着性物質を含むことを特徴とする積層体の圧縮賦形装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の圧縮賦形装置およびプリフォームの製造方法およびプリプレグ成形体の製造方法に関する。さらに詳しくは、繊維強化複合材料(以下、FRPという)を成形する際に用いるプリフォームにおいて長手方向に積層枚数が変化しても、同一の金型で賦形するための積層体の圧縮賦形装置およびプリフォームの製造方法およびプリプレグ成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維を強化繊維として用いたFRPは、軽量でかつ高い耐久性を有するものであることから、自動車や航空機などを構成する各種の構成部材として理想的な材料である。このFRPの成形方法としては、強化繊維基材を複数枚積層し、金型で挟み加圧することにより賦形し、所定の形状に成形する方法が知られている。
【0003】
強化繊維基材としては、例えば強化繊維をシート状に複数本引き揃え、エポキシ樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させ、シート状に成形したプリプレグシートが用いられている。このプリプレグシートを複数枚積層し、金型内で加圧・加熱して硬化させ成形する。
【0004】
また、マトリクス樹脂が含浸されていない、ドライな強化繊維基材を用いたFRPの成形も行われている。これはResin Transfer Molding(以下、RTMという)成形方法や真空RTM成形方法などと呼ばれる成形方法であり、層間接着樹脂が付加された強化繊維基材を複数枚積層し、金型で賦形したプリフォームと呼ばれる成形品を製作した後、このプリフォームに低粘度の液状マトリクス樹脂を注入し、硬化させるものである。
【0005】
なかでも、I型やH型の断面形状を持つ梁部材を製造する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。これは積層体を所定の断面形状に金型にて賦形した後、金型を開き積層体を所定量移動させ、再度賦形するということを繰り返し、長尺の成形品を成形する装置である。このような装置を用いることで、長手方向に一様な断面形状を持つ梁部材の成形を、その梁部材の全長分の大型の金型を用いることなく、小さな金型にて製造することができる。
【0006】
しかしながら、例えば片持ちの構造物を考えた場合、一般的にそれを支える梁部材は根元にいくほど剛性が高くなることが求められる。そのため、長尺の積層体成形品では積層枚数(積層体成形品の厚み)を増すことでこれに対応している。一方、上記従来技術は、一定形状・一定厚みの断面にて順次成形するものであるため、このような成形品の厚み変化には対応できなかった。
【特許文献1】特開2001−191418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記した従来技術の問題点を解決しようとするものであり、積層枚数が変化しても、同一の金型で賦形するための積層体の圧縮賦形装置およびプリフォームの製造方法およびプリプレグ成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用するものである。すなわち、
(1)相対する金型間における金型賦形面の間隔を調整するスキマ調整手段を有し、前記スキマ調整手段がシート状のスキマ調整部材と前記スキマ調整部材を積層体と金型賦形面の間に配置する挿入手段とを有するとともに、前記積層体が強化繊維および結着性物質を含むことを特徴とする積層体の圧縮賦形装置。
【0009】
(2)前記金型が発熱体と温度調節機構を有する加熱手段と、加圧機構と面圧検出機構を有する加圧手段とを有することを特徴とする前記(1)に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【0010】
(3)金型賦形面に曲面が含まれていることを特徴とする前記(1)もしくは(2)に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【0011】
(4)型締めと型開きを交互に繰り返す手段と、この開閉動作にあわせて積層体を搬送する搬送手段とを有することを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置。
【0012】
(5)前記スキマ調整部材は、1枚または複数枚のシート状部材からなることを特徴とする前記(1)から(4)のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置。
【0013】
(6)前記シート状部材の積層枚数を増減することにより、前記スキマ調整部材の厚みを段階的に変化させることを特徴とする前記(5)に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【0014】
(7)前記スキマ調整部材が、長手方向に段階的に厚みの変化する帯状を成していることを特徴とする前記(1)から(6)のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置。
【0015】
(8)前記スキマ調整部材を搬送する、巻出ボビンと巻取ボビンを備えた搬送手段を有しており、金型を挟み上流側に巻出ボビン、下流側に巻取ボビンが配置されていることを特徴とする前記(7)に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【0016】
(9)積層体の厚みのプロファイルを記録する厚み記録手段と、前記搬送手段による前記積層体の搬送量を記録する移動量記録手段と、前記厚み記録手段と前記移動量記録手段に記録された値に基づき前記スキマ調整部材の搬送手段によるスキマ調整部材の搬送量を演算する演算手段を有することを特徴とする前記(8)に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【0017】
(10)前記積層体がプリプレグであり、前記(1)から(9)のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置を用いて製造されたことを特徴とする繊維強化複合材料。
【0018】
(11)前記積層体がドライ基材であり、前記(1)から(9)のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置を用いて製造されたことを特徴とするプリフォーム。
【0019】
(12)前記(11)に記載のプリフォームにマトリクス樹脂が含浸されてなることを特徴とする繊維強化複合材料。
【0020】
(13)強化繊維と結着性物質を含む積層体を、シート状のスキマ調整部材と一体に賦形し、かつ、前記積層体の厚みの増減に応じ前記スキマ調整部材の厚みを調整することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【0021】
(14)積層体の厚みの増減に応じた厚みの前記スキマ調整部材を前記積層体の厚みごとにそれぞれ貼り付け、前記積層体と前記スキマ調整部材を一体に金型内に搬送し、圧縮賦形することを特徴とする前記(13)に記載のプリフォームの製造方法。
【0022】
(15)金型賦形面に前記スキマ調整部材を取り付けておき、前記積層体を金型内に搬送し、圧縮賦形するプリフォームの製造方法であって、かつ、前記積層体の厚みの増減に応じ前記スキマ調整部材を入れ替えることを特徴とする前記(13)に記載のプリフォームの製造方法。
【0023】
(16)前記積層体を、屈曲部を有する形状に賦形することを特徴とする前記(13)から(15)のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【0024】
(17)帯状の積層体を金型内に間欠的に搬送し、順次賦形するプリフォームの製造方法であって、かつ、前記積層体の厚みが長手方向で異なっていることを特徴とする前記(13)から(16)のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【0025】
(18)前記スキマ調整部材が長手方向で段階的に厚みの異なる帯状体であり、積層体の厚みの増減に応じ、対応する厚みの部分が賦形面にくるように前記スキマ調整部材を搬送し賦形することを特徴とする前記(13)から(17)のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【0026】
(19)前記スキマ調整部材が複数枚のシート状部材からなり、前記シート状部材の積層枚数を増減させることにより前記スキマ調整部材の厚みを調整することを特徴とする前記(13)から(18)のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【0027】
(20)前記(13)から(19)のいずれかに記載の方法で得られたプリフォームにマトリクス樹脂を含浸させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【0028】
(21)強化繊維と結着性物質を含む積層体を、シート状のスキマ調整部材と一体に賦形し、かつ、前記積層体の厚みの増減に応じ前記スキマ調整部材の厚みを調整することを特徴とするプリプレグ成形体の製造方法。
【0029】
(22)積層体の厚みの増減に応じた厚みの前記スキマ調整部材を前記積層体の厚みごとにそれぞれ貼り付け、前記積層体と前記スキマ調整部材を一体に金型内に搬送し、圧縮賦形することを特徴とする前記(21)に記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【0030】
(23)金型賦形面に前記スキマ調整部材を取り付けておき、前記積層体を金型内に搬送し、圧縮賦形するプリプレグ成形体の製造方法であって、かつ、前記積層体の厚みの増減に応じ前記スキマ調整部材を入れ替えることを特徴とする前記(21)に記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【0031】
(24)前記積層体を、屈曲部を有する形状に賦形する前記(21)から(23)のいずれかに記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【0032】
(25)帯状の積層体を金型内に間欠的に搬送し、順次賦形するプリプレグ成形体の製造方法であって、かつ、前記積層体の厚みが長手方向で異なっていることを特徴とする前記(21)から(24)のいずれかに記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【0033】
(26)前記スキマ調整部材が長手方向で段階的に厚みの異なる帯状体であり、積層体の厚みの増減に応じ、対応する厚みの部分が賦形面にくるようにスキマ調整部材を搬送し賦形することを特徴とする前記(21)から(25)のいずれかに記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【0034】
(27)前記スキマ調整部材が1枚または複数枚のシート状部材からなり、前記シート状部材の積層枚数を増減させることによりスキマ調整部材の厚みを調整することを特徴とする前記(21)から(26)のいずれかに記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明の積層体の圧縮賦形装置およびプリフォームの製造方法およびプリプレグ成形体の製造方法によれば、賦形面の間隔が略均一な金型においても、賦形面と積層体のスキマをスキマ調整部材にて調整することにて、部分的に厚み(積層枚数)が異なる積層体でも、均一にかつ高い繊維体積含有率(=Vpf)にて賦形することができる。
【0036】
また、賦形面に曲面が含まれる場合、凸面側の賦形面に対し凹面側の賦形面の曲率は積層体の厚み分大きくなる。よって、積層体の厚みが異なると同一の金型では賦形できないが、スキマ調整部材を金型賦形面と積層体の間に充填することで厚みの異なる積層体を同一の金型で賦形できる。特に、金型の開閉にあわせて積層体を搬送し順次賦形することで、長手方向に略同一の断面形状を持つ積層体を賦形する際に、その長手方向に積層の厚みが異なっても、同一の金型にて賦形することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明で用いる「強化繊維」としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などが挙げられる。強化繊維はその形態として、織物、編み物、組み物、不織布、一方向に引き揃えられた強化繊維シートなど、シート状に成形されていることが好ましい。
【0038】
本発明で用いる「結着性物質」は、上記強化繊維に付着し、強化繊維同士を結着することで、強化繊維をシート状に形態安定化し「強化繊維シート」とするものであり、例えば、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ナイロン、ポリウレタンなどの熱可塑性樹脂、また、例えばエポキシ、フェノール、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0039】
上記「強化繊維シート」は、粉末状の結着性物質を強化繊維に散布し、部分的に結着させ形態安定化させた、いわゆるドライな強化繊維基材でもよいし、強化繊維全面に結着性物質を含浸し形態安定化させた、いわゆるプリプレグでもよい。
【0040】
本発明における「積層体」は、上記「強化繊維シート」を複数枚積層したものである。
【0041】
本発明における「スキマ調整部材」は、金型の賦形面と積層体の間に介在し、積層体の厚みの変化により必要となる金型賦形面の変更に代え、積層体の厚み変化によって生じる金型賦形面と積層体とのスキマを埋め、金型による賦形の圧力を積層体に伝えるシート状物である。そのため、金型による賦形の際の圧力に耐え、かつ賦形後には積層体成形品と分離可能なことが求められる。その一例としては、離型紙やフッ素樹脂(例えば「テフロン(登録商標)」)シート、シリコーン樹脂シート、フッ素樹脂(例えば「テフロン(登録商標)」)やシリコーン樹脂を含浸したグラスシートなどが挙げられる。また、「スキマ調整部材」は単一のシート状部材で形成したもののほか、複数枚のシート状部材で形成したものも好適に用いることができる。
【0042】
また、本発明の「プリフォーム」は、上記ドライな強化繊維基材を複数枚積層した積層体を、最終製品の形状を考慮して、マトリックス樹脂を注入する前のドライな状態を維持したまま、成形すべき形状に賦形したものである。
【0043】
以下、本発明の積層体の圧縮賦形装置およびプリフォームの製造方法およびプリプレグ成形体の製造方法の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0044】
図1は、本発明における平板のプレスの一例を示す概略図である。上型1aと下型1bで積層体2を狭持し積層体2を賦形する。また、成形の際には、単に圧力をかけるのみでなく、積層体2に圧力をかけつつ熱も加えることが、必要に応じて行われる。そのため、前記金型は発熱体と温度調節機構を有する加熱手段と、加圧機構と面圧検出機構を有する加圧手段とを有することが好ましい。また、金型の材質としては金属のみでなく、樹脂やFRP、セラミックスなど、成型の際に加えられる圧力・熱に耐えられる材質であればいずれでもかまわず、加工の容易性や精度、コストなどの要求から適宜選択される。
【0045】
ここで図1(A)に示すように、積層体2の積層枚数が部分的に異なると、厚い部分では圧力が高く、薄い部分では圧力が低くなってしまう。よって、図1(B)に示すように、スキマ調整部材3を金型賦形面4と積層体2の間に挿入しスキマを埋めることで、均一な圧力にて加圧できるようにする。スキマ調整部材3は積層体2にあらかじめ張り付けておき、積層体2と一体に金型にセットしてもよいし、逆に金型賦形面4の方に取り付けておき、相当する位置に積層体2の位置をあわせて加圧してもよい。また、スキマ調整部材3の厚みは、賦形時の圧力が均一になるよう適宜選択される。例えばプリプレグでは、積層枚数に応じた厚みのスキマ調整部材厚みにすればよい。また、ドライな強化繊維基材は一般的に嵩高であるため、加圧・圧縮して繊維体積含有率(Vpf)を高めている。このVpfが均一になるように賦形することが重要であり、求められるVpfに応じ、積層体2の圧縮量を加味したスキマ調整部材3の厚みが選択される。なお、スキマ調整部材3の厚みの調整は、厚みの異なるスキマ調整部材3を複数準備しておき適宜選択してもよいし、薄いシート状部材を1枚または複数枚積層してスキマ調整部材3を形成し、シート状部材の積層枚数を増減させてスキマ調整部材3の厚みを調整してもよい。また、薄いシート状部材を積層してスキマ調整部材3を形成する場合には、あらかじめ所定枚数積層したスキマ調整部材3をいくつか準備しておき入れ替えるほか、積層体2の厚みの変化に応じその都度シート状部材を追加,取り外しして枚数を増減させてもよい。
【0046】
なお、繊維体積含有率(Vpf)は被測定体表面の垂直方向に101.3kPaの圧力をかけた状態で計測した厚みを基に計算される。圧力付与の方法としては、被測定体をフィルムなどのシート材で覆い、内部を真空とすることで大気圧を付与する方法や、平板と圧子(例えば直径25mmの円板)の間に被測定体を挟み込み、圧子にその面積に応じた力を付与する方法が挙げられるが、本発明に記載の厚さ、およびVpfに関する記載は、真空による方法を想定している。
【0047】
また、積層体2は強化繊維基材のみを積層するのではなく、内部にコア材を入れたサンドイッチ材としてもよい。この場合も、コア材による厚みの変動により生じる金型賦形面4と積層体2とのスキマをスキマ調整部材3にて調整することにより、均一に賦形できる。
【0048】
このように積層体2の厚みに応じて、スキマ調整部材3を挟みこむことにより金型賦形面4と積層体2のスキマを調整することで、均一に加圧・成形することができ、品位良く積層体2を賦形できる。
【0049】
次に図2を用い、屈曲部を持つ積層体成形品の例としてL字型の断面を持つ積層体2の賦形について説明する。図2(A)は長手方向に垂直な断面図であり、紙面垂直方向に一様な断面形状にて金型賦形面4が構成されている。図2(B)はL字型の角部の拡大図である。積層体2を金型にて屈曲させる場合、屈曲部を直角に折り曲げることはできず、多少の丸みをつけねばならない。このように本発明において屈曲部とは積層体2を折り曲げた部分であり、断面において直線部と、直線部に挟まれた曲面部とを有する。図2(B)にて示すと、屈曲部の内側を形成する上型1aでは、角部はrの丸みをつけてある。それに対向する下型1bの角部は、上型1aの角部の丸みrに積層体2の厚みtを足したRの丸みをつける。
【0050】
つまり、R=r+tである。このように、成形する積層体成形品の厚みに応じて、金型賦形面4の丸みをあわせなければならない。一方、上記図2(B)の金型を用い、tよりもΔtだけ薄い積層体2を成形する場合を考える。この場合、下型1bを基準に考えると、上型1aの角部の丸みrは上記式で求められる丸みよりもΔtだけ小さいこととなる。そのため、図2(C)に示すように、L字型の角部において直線部よりスキマが狭くなるため、角部において積層体成形品のつぶれが生じてしまう。また逆に上記図2(B)の金型を用い、tよりもΔtだけ厚い積層体2を成形する場合を考える。この場合、下型1bを基準に考えると、上型1aの角部の丸みrは上記式で求められる丸みよりもΔtだけ大きいこととなる。そのため、図2(D)に示すように、L字型の角部において直線部よりスキマが広くなるため、角部において圧力が不足し、成形不良が生じてしまう。このように金型と積層体2の厚みが合っていないと均一な圧力で加圧することはできず、Vpfにムラができてしまう。
【0051】
このような不具合を解消するため、本発明では図3(A)に示すように、金型をもっとも厚みのある積層体成形品にあわせて製作する。次に、積層体2の厚みの薄いものを成形する際には、図3(B)に示すように、厚みの薄くなった分、スキマ調整部材3を金型賦形面4と積層体2の間に充填し、加圧時のトータルの厚みを金型の設計上の厚み(もっとも厚みのある積層体成形品の厚み)にあわせる。このようにして、同一の金型で厚みの異なる積層体成形品の製造が可能となる。
【0052】
なお、上記スキマ調整部材3に関しても、スキマ調整部材3の厚みに対して屈曲部の曲率半径が小さいと、屈曲部において大きな内外周差を生じる。そのため、屈曲部の外周側では伸ばされ内周側では座屈し、図6(A)に示すような折れ曲がりを生じ、積層体2に均一な圧力付与ができなくなる。そのような場合、図6(B)に示すようにスキマ調整部材3を複数の薄いシート材で形成し、屈曲部における内側と外側での距離の差をシート間のズレにより吸収させることで、折れ曲がり(厚みの差)を生じさせず、積層体2への均一な圧力付与を実現できる。
【0053】
なお、断面形状としては上記に示したL字型のみでなく、T字型、H字型、コの字型、Z字型など屈曲部を有する断面形状、および半円形など曲面を有する断面形状であれば、上述の課題が生じ、本発明を好適に用いることができる。
【0054】
また、長尺の積層体2を賦形する方法として、図4に示すように、金型の型締めおよび型開きの動作を交互に繰り返し、この動作に合わせて、型開き時に長尺の積層体2を搬送することにより、連続的に長尺の積層体成形品を製造することが可能である。この場合、長尺の積層体2が成形型を通過するのに伴い、L字型の折り曲げ位置が、次第に狙いの位置からずれて、2つの側面の長さが異なってくる場合があり、これを防止する手段として、成形型の前後で積層体2、およびL字型積層体成形品を狙いの中心位置に導く導入ガイド6と排出ガイド7を設置することが好ましい。
【0055】
次に、図4の賦形装置5を用い、長手方向で厚み(積層枚数)の異なる積層体2の賦形について述べる。金型の奥行き長さは、長いほど少ない回数で長尺の成形品を成形できるが、あまり長いと装置の大型化を招くので、その長さは、設備生産性と設備費および作業性を考慮し、適宜選定される。金型にて賦形された積層体2はこの金型の奥行き長さ分搬送され、次の部分が賦形される。これを繰り返し長尺の成形品を製造する。なお、1回の搬送量は正確に金型の奥行き長さではなく、若干短く設定しオーバーラップ部分を作ってもよい。次に、積層体2の厚み(積層枚数)が変わる部分であるが、あらかじめ積層体2にスキマ調整部材3を貼附して賦形する方法では、特別の工夫なく一定の搬送量で賦形を繰り返していけばよい。一方、金型にスキマ調整部材3を取り付け賦形する方法では、金型内では積層体2は一定の厚みであることが好ましく、積層体2の厚みの切り替わり部分が金型の端部にくるように搬送することが好ましい。そして、積層体2の積層枚数(厚み)が切り替わるたびに、スキマ調整部材3の厚みを変更する。このように賦形することで、長手方向で積層枚数が異なる長尺の積層体2であっても、均一な加圧力で品位よく賦形できる。
【0056】
また、本発明におけるスキマ調整手段8の一例を図5に示す。スキマ調整手段は巻出ボビン9と巻取ボビン10、および、巻出ボビン9に巻き取られているスキマ調整部材3からなる。すなわち、金型を挟み上流側に巻出ボビン9、下流側に巻取ボビン10が配置されている。ここでスキマ調整部材3は長尺の帯状体としてあり、巻出ボビン9から巻き出され、金型賦形面4を覆い、巻取ボビン10に巻き取られる。スキマ調整部材3の幅は、金型賦形面の奥行き長さと同一かもしくは若干長く選定される。その場合、1回の型締めでは一定厚みにて賦形される。スキマ調整部材3はその長手方向に段階的に厚みを変えて構成されており、スキマ調整部材3を巻き取り、金型賦形面4を覆っているスキマ調整部材3を異なる厚みの部分に切り替えることにより、金型賦形面4と積層体2のスキマを調整する。例えば、2段階に厚みの変わる積層体2の例を述べると、図5(A)に示すように、積層体2の厚みの厚い部分ではスキマ調整部材3の薄い部分3bを金型賦形面4と積層体2の間に介在させ賦形する。次に、積層体2を紙面垂直方向に搬送し、図5(B)に示すように、積層体2の厚みの薄い部分に切り替わった際には、スキマ調整部材3を巻取ボビン10に巻き取り、スキマ調整部材3の厚い部分3aが金型賦形面4に位置するよう移動させる。なお、この場合、スキマ調整部材3は連続的につながっており、積層体2のもっとも厚い部分の賦形においても、金型賦形面4と積層体2の間にスキマ調整部材3が介在するようにしてある。
【0057】
また、上記スキマ調整部材3は薄いシート状部材を1枚または複数枚積層して形成してもよく、スキマ調整部材3の長手方向で積層枚数を変えることでスキマ調整部材3の厚みを調整できる。さらに、薄いシート状部材を1枚または複数枚積層してスキマ調整部材3を形成することにより、屈曲部における内側と外側での距離の差をシート間のズレにより吸収させることができる。その場合、各シート状部材は縫糸による縫合など、シート間のズレを許容するような方法で固定されていることが好ましい。また、スキマ調整部材3の表層は全長に渡り連続したシート状部材で形成されていることが、搬送時の引っかかりなどがなく好ましい。
【0058】
積層体成形品は、その求められる剛性のプロファイルに基づき積層枚数が設計される。この積層枚数の切り替わり位置をあらかじめ紙媒体や電子媒体など積層体2の厚みのプロファイルを記録する厚み記録手段に記録しておき、積層体2の搬送量を記録する移動量記録手段に記録された積層体2の搬送量と比較し、厚み記録手段と移動量記録手段に記録された値に基づきスキマ調整部材3の搬送手段によるスキマ調整部材3の搬送量を演算手段にて演算し、積層枚数の切り替わり位置にてスキマ調整部材3の厚みを切り替えることで、長手方向で積層体2の積層枚数が異なる長尺の積層体成形品であっても、均一な加圧力で品位よく成形できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、金型による賦形であれば、強化繊維基材に限らず、紙やフィルムなどを用いた積層体の賦形にも応用することができ、さらにその応用範囲はこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明における平板状の積層体の賦形の一例を示す概略図であり、(A)はスキマ調整部材を入れる前の図であり、(B)はスキマ調整部材を金型賦形面と積層体の間に挿入した例を示す図である。
【図2】本発明における屈曲部を有する積層体の賦形の一例を示す概略図であり、(A)は長手方向に垂直な断面図であり、(B)〜(D)はL字型の角部の拡大図であり、角部のスキマを説明する図である。
【図3】本発明における屈曲部を有する積層体の賦形を示す概略図であり、(A)は、金型をもっとも厚みのある積層体成形品にあわせて製作した図であり、(B)は、積層体の厚みの薄いものを成形する際の積層体の賦形を示す概略図である。
【図4】本発明における屈曲部を有する長尺の積層体を賦形する装置の一例を示す概略図である。
【図5】本発明におけるスキマ調整手段の一例を示す概略図であり、(A)は、積層体の厚みの厚い部分を成形する際の積層体の賦形を示す図であり、(B)は、積層体の厚みの薄い部分に切り替わった際の積層体の賦形を示す図である。
【図6】本発明におけるスキマ調整部材の一例を示す概略図であり、(A)は、スキマ調整部材の厚みに対し屈曲部の曲率半径が小さい場合を示す図であり、(B)は、スキマ調整部材を複数枚の薄いシート状物で形成した例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1a:上型
1b:下型
2:積層体
3:スキマ調整部材
3a:スキマ調整部材の厚い部分
3b:スキマ調整部材の薄い部分
4:金型賦形面
5:賦形装置
6:導入ガイド
7:排出ガイド
8:スキマ調整手段
9:巻出ボビン
10:巻取ボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する金型間における金型賦形面の間隔を調整するスキマ調整手段を有し、前記スキマ調整手段がシート状のスキマ調整部材と前記スキマ調整部材を積層体と金型賦形面の間に配置する挿入手段とを有するとともに、前記積層体が強化繊維および結着性物質を含むことを特徴とする積層体の圧縮賦形装置。
【請求項2】
前記金型が発熱体と温度調節機構を有する加熱手段と、加圧機構と面圧検出機構を有する加圧手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【請求項3】
金型賦形面に曲面が含まれていることを特徴とする請求項1もしくは2に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【請求項4】
型締めと型開きを交互に繰り返す手段と、この開閉動作にあわせて積層体を搬送する搬送手段とを有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置。
【請求項5】
前記スキマ調整部材は、1枚または複数枚のシート状部材からなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置。
【請求項6】
前記シート状部材の積層枚数を増減することにより、前記スキマ調整部材の厚みを段階的に変化させることを特徴とする請求項5に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【請求項7】
前記スキマ調整部材が、長手方向に段階的に厚みの変化する帯状を成していることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置。
【請求項8】
前記スキマ調整部材を搬送する、巻出ボビンと巻取ボビンを備えた搬送手段を有しており、金型を挟み上流側に巻出ボビン、下流側に巻取ボビンが配置されていることを特徴とする請求項7に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【請求項9】
積層体の厚みのプロファイルを記録する厚み記録手段と、前記搬送手段による前記積層体の搬送量を記録する移動量記録手段と、前記厚み記録手段と前記移動量記録手段に記録された値に基づき前記スキマ調整部材の搬送手段によるスキマ調整部材の搬送量を演算する演算手段を有することを特徴とする請求項8に記載の積層体の圧縮賦形装置。
【請求項10】
前記積層体がプリプレグであり、請求項1から9のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置を用いて製造されたことを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項11】
前記積層体がドライ基材であり、請求項1から9のいずれかに記載の積層体の圧縮賦形装置を用いて製造されたことを特徴とするプリフォーム。
【請求項12】
請求項11に記載のプリフォームにマトリクス樹脂が含浸されてなることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項13】
強化繊維と結着性物質を含む積層体を、シート状のスキマ調整部材と一体に賦形し、かつ、前記積層体の厚みの増減に応じ前記スキマ調整部材の厚みを調整することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項14】
積層体の厚みの増減に応じた厚みの前記スキマ調整部材を前記積層体の厚みごとにそれぞれ貼り付け、前記積層体と前記スキマ調整部材を一体に金型内に搬送し、圧縮賦形することを特徴とする請求項13に記載のプリフォームの製造方法。
【請求項15】
金型賦形面に前記スキマ調整部材を取り付けておき、前記積層体を金型内に搬送し、圧縮賦形するプリフォームの製造方法であって、かつ、前記積層体の厚みの増減に応じ前記スキマ調整部材を入れ替えることを特徴とする請求項13に記載のプリフォームの製造方法。
【請求項16】
前記積層体を、屈曲部を有する形状に賦形することを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項17】
帯状の積層体を金型内に間欠的に搬送し、順次賦形するプリフォームの製造方法であって、かつ、前記積層体の厚みが長手方向で異なっていることを特徴とする請求項13から16のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項18】
前記スキマ調整部材が長手方向で段階的に厚みの異なる帯状体であり、積層体の厚みの増減に応じ、対応する厚みの部分が賦形面にくるように前記スキマ調整部材を搬送し賦形することを特徴とする請求項13から17のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項19】
前記スキマ調整部材が複数枚のシート状部材からなり、前記シート状部材の積層枚数を増減させることにより前記スキマ調整部材の厚みを調整することを特徴とする請求項13から18のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項20】
請求項13から19のいずれかに記載の方法で得られたプリフォームにマトリクス樹脂を含浸させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項21】
強化繊維と結着性物質を含む積層体を、シート状のスキマ調整部材と一体に賦形し、かつ、前記積層体の厚みの増減に応じ前記スキマ調整部材の厚みを調整することを特徴とするプリプレグ成形体の製造方法。
【請求項22】
積層体の厚みの増減に応じた厚みの前記スキマ調整部材を前記積層体の厚みごとにそれぞれ貼り付け、前記積層体と前記スキマ調整部材を一体に金型内に搬送し、圧縮賦形することを特徴とする請求項21に記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【請求項23】
金型賦形面に前記スキマ調整部材を取り付けておき、前記積層体を金型内に搬送し、圧縮賦形するプリプレグ成形体の製造方法であって、かつ、前記積層体の厚みの増減に応じ前記スキマ調整部材を入れ替えることを特徴とする請求項21に記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【請求項24】
前記積層体を、屈曲部を有する形状に賦形する請求項21から23のいずれかに記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【請求項25】
帯状の積層体を金型内に間欠的に搬送し、順次賦形するプリプレグ成形体の製造方法であって、かつ、前記積層体の厚みが長手方向で異なっていることを特徴とする請求項21から24のいずれかに記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【請求項26】
前記スキマ調整部材が長手方向で段階的に厚みの異なる帯状体であり、積層体の厚みの増減に応じ、対応する厚みの部分が賦形面にくるようにスキマ調整部材を搬送し賦形することを特徴とする請求項21から25のいずれかに記載のプリプレグ成形体の製造方法。
【請求項27】
前記スキマ調整部材が1枚または複数枚のシート状部材からなり、前記シート状部材の積層枚数を増減させることによりスキマ調整部材の厚みを調整することを特徴とする請求項21から26のいずれかに記載のプリプレグ成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−179130(P2008−179130A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326846(P2007−326846)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】