説明

積層体並びにその製造方法及びその応用

【課題】 シャットダウン機能及び強度に優れた積層体並びにその製造方法及びそれを用いた二次電池を提供すること。
【解決手段】 基材層と、当該基材層の少なくとも1つの面に積層された閉塞層とを有する積層体であって、前記基材層は、多数の貫通孔を有するとともに、プラスチックAを含有し、前記閉塞層は、多数の貫通孔を有するとともに、プラスチックBと発泡剤とを含有し、さらに、前記プラスチックBは、前記プラスチックAより低い軟化温度を有し、かつ、前記発泡剤は、所定温度以上で膨張することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体並びにその製造方法及びそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高容量、高電圧、高エネルギー密度の達成が可能である電池として、種々の有機電解液二次電池が開発されている。この有機電解液二次電池(例えば、リチウムイオン電池)において、対向配置される正極と負極との間に、電解液とともにイオンの流通が可能である多孔性フィルムがセパレータとして設けられている。
【0003】
そして、有機電解液二次電池には、短絡による温度上昇により引火等が生じる危険性があるために、電池内部の温度がリチウム等の融点又は有機電解液の引火点になる前に、発熱の原因となる電池反応を停止させる必要がある。
【0004】
そこで、正極と負極との間のセパレータに種々の工夫を加えることが試みられている。例えば、熱溶融性材料含有のセパレータによるシャットダウン機能付与等が行われている(例えば、特許文献1、2及び3参照)。
【0005】
ここで、「熱溶融性材料含有のセパレータによるシャットダウン機能付与」とは、短絡によるジュール熱で電池が発熱して急激に温度上昇したときに、セパレータ、すなわち熱溶融性材料がある一定の温度以上で変形しセパレータの孔が塞がることにより、イオンの流通が妨げられて電池反応を停止させる機能を持たせることをいう。したがって、「熱溶融性材料含有のセパレータによるシャットダウン機能付与」により、電池内部の温度がリチウム等の融点又は有機電解液の引火点に至らずに、発火事故等を未然に防げることになる。
【0006】
しかしながら、温度上昇でシャットダウン機能が働いても温度上昇はすぐには止まらない。そのため、膜自体が溶融して隔離が損なわれることがあった。
さらに、セパレータの強度が不充分であるために、電池組立時や使用時にセパレータが破損して短絡が起こることがあった。
【0007】
このような問題点の改善策としてシャットダウン機能が働く温度の範囲を広げること及び強度を向上させることが提案されている(例えば、特許文献4、5及び6参照)。これらは多孔質膜や不織布基材に熱溶融性材料を積層する技術である。しかしながら、これらの技術では、シャットダウン機能が不充分な場合があった。さらに、短絡によるジュール熱で電池が発熱して急激に温度上昇したときにも、溶解による孔の閉塞を待っていたのでは、シャットダウン機能は迅速には働かなかった。
【特許文献1】特許2642206公報
【特許文献2】特開平6−212006号公報
【特許文献3】特開平8−138643号公報
【特許文献4】特公平4−1692号公報
【特許文献5】特開昭60−52号公報
【特許文献6】特開昭61−232560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するものであり、本発明の目的は、シャットダウン機能及び強度に優れた積層体を提供すること、並びに、その製造方法及びそれを用いた二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、基材層と、当該基材層の少なくとも1つの面に積層された閉塞層とを有する積層体であって、前記基材層は、多数の貫通孔を有するとともに、プラスチックAを含有し、前記閉塞層は、多数の貫通孔を有するとともに、プラスチックBと発泡剤とを含有し、さらに、前記プラスチックBは、前記プラスチックAより低い軟化温度を有し、かつ、前記発泡剤は、所定温度以上で膨張することを特徴とする。
【0010】
本発明の積層体によれば、基材層により強度が保持されるので、組立時や使用時に破損させることがなく、かつ、積層体自体が溶融して損なわれることもない。
【0011】
さらに、閉塞層にプラスチックBと発泡剤とを含有する閉塞層を積層させたことにより、プラスチックBがある一定の温度以上で溶融するとともに、発泡剤がある一定の温度以上で膨張するので、閉塞層を薄く形成できイオン等の流通を妨げることもなく、さらにある一定の温度以上になると迅速かつ充分なシャットダウン機能を得ることができる。
【0012】
なお、本明細書において、「シャットダウン機能」とは、イオンの流通を妨ぐだけでなく、その他のものの流通を妨ぐために、貫通孔を塞ぐ又は小さくする等の調整を行うことができる機能を意味してもよい。
【0013】
また、本発明の積層体は、前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルであることが好ましい。
【0014】
このように基材層にプラスチックBと熱膨張性マイクロカプセルとを含有する閉塞層を積層させたことにより、プラスチックBがある一定の温度以上で溶融するとともに、熱膨張性マイクロカプセルがある一定の範囲の温度で膨張するので、一定の範囲の温度で充分かつ迅速な優れたシャットダウン機能を得ることができる。
【0015】
また、本発明の積層体は、前記熱膨張性マイクロカプセルの殻成分は、アクリロニトリルを主成分として重合させた熱可塑性樹脂からなり、かつ、前記熱膨張性マイクロカプセルの内部成分は、ノルマルブタン、ノルマルペンタン及びノルマルヘキサンからなる群から選択される少なくとも1つからなることが好ましい。
【0016】
このように熱膨張性マイクロカプセルの殻成分にアクリロニトリルを主成分として重合させた熱可塑性樹脂を用いることにより、優れた耐熱性及び耐薬品性を有する熱膨張性マイクロカプセルを用いることができる。
【0017】
また、本発明の積層体は、前記プラスチックBは、ポリエチレンを含有することが好ましい。
【0018】
また、本発明の積層体は、前記プラスチックAは、ポリプロピレンを含有することが好ましい。
【0019】
また、本発明の積層体は、前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は、50℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0020】
熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が、50℃未満であると、低い温度でシャットダウン機能が発現するおそれがあり、一方、200℃を超えると、高い温度でもシャットダウン機能が発現しないおそれがある。
【0021】
また、本発明の積層体は、前記プラスチックBの軟化温度は、50℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0022】
プラスチックBの軟化温度が、50℃未満であると、低い温度でシャットダウン機能が発現するおそれがあり、一方、200℃を超えると、高い温度でもシャットダウン機能が発現しないおそれがある。
【0023】
また、本発明の積層体は、前記閉塞層の厚さは、5μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0024】
閉塞層の厚さが、5μm未満であると、シャットダウン機能が不充分となるおそれがあり、一方、200μmを超えると、イオン等の流通が不充分となり、また経済的にも不利となるおそれがある。
【0025】
また、本発明の積層体は、前記閉塞層は、熱膨張性マイクロカプセルをプラスチックB100重量部に対して5重量部以上80重量部以下で含有することが好ましい。
【0026】
熱膨張性マイクロカプセルが、プラスチックB100重量部に対して5重量部未満であると、シャットダウン機能が不充分となるおそれがあり、一方、80重量部を超えると、イオン等の流通が不充分となり、また経済的にも不利となるおそれがある。
【0027】
また、本発明の積層体は、前記熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径は、1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0028】
熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径が、1μm未満であると、シャットダウン機能が不充分となるおそれがあり、一方、20μmを超えると、イオン等の流通が不充分となるおそれがある。
【0029】
なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、粒子の最も長い直径と最も短い直径とを平均した値のことをいう。
【0030】
そして、本発明の積層体の製造方法は、多数の貫通孔を有するとともにプラスチックAを含有する基材層と、閉塞層とを有する積層体の製造方法であって、前記基材層の少なくとも1つの面に、前記プラスチックAより低い軟化温度を有するプラスチックBと、所定温度以上で膨張する発泡剤と、水溶性物質とを含有する樹脂組成液を塗布して樹脂層を形成する形成工程と、前記樹脂層から水溶性物質を溶解させることにより除去して閉塞層を形成する除去工程とを含むことを特徴とする。
【0031】
本発明の積層体の製造方法によれば、樹脂層から水溶性物質を溶解させることにより除去することにより、閉塞層に多数の貫通孔を形成することができるので、延伸により多数の貫通孔を形成した場合と比較して、優れた強度を得ることができる。
【0032】
さらに、本発明は、本発明の積層体がセパレータとして用いられた二次電池である。
【0033】
本発明の二次電池によれば、基材層により強度が保持されるので、電池組立時や使用時に破損させることがなく、かつ、積層体自体が高い温度で溶融して損なわれることもない。
【0034】
さらに、基材層にプラスチックBと発泡剤とを含有する閉塞層を積層させたことにより、プラスチックBがある一定の温度以上で溶融するとともに、発泡剤がある一定の温度以上で膨張するので、閉塞層を薄く形成できイオンの流通を妨げることもなく、さらにある一定の温度以上になると迅速かつ充分なシャットダウン機能を得ることができる。
【0035】
したがって、電池内部の温度がリチウム等の融点又は有機電解液の引火点に至らずに、発火事故等を未然に防ぐことができる。
【0036】
そして、本発明は、産業資材材料であり、例えば、熱時熱風遮断衣料、熱時熱又は煙遮断建材、工業濾過材料として用いられる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の積層体によれば、基材層により強度が保持されるので、組立時や使用時に破損させることがなく、かつ、積層体自体が溶融して損なわれることもない。
【0038】
さらに、基材層にプラスチックBと発泡剤とを含有する閉塞層を積層させたことにより、プラスチックBがある一定の温度以上で溶融するとともに、発泡剤がある一定の温度以上で膨張するので、閉塞層を薄く形成できイオン等の流通を妨げることもなく、さらにある一定の温度以上になると迅速かつ充分なシャットダウン機能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【0040】
図1は、ある一定の温度未満時の本発明の積層体の実施形態の一例を示す断面図であり、図2は、ある一定の温度以上時の図1に示す積層体を示す断面図である。
【0041】
積層体1aは、多数の貫通孔5を有する基材層2と多数の貫通孔8を有する閉塞層3aとを有する。
【0042】
基材層2は、プラスチックA4からなる。プラスチックA4は、強度に優れるものであり、かつ、高い温度でも溶融して変形しないものである。
【0043】
閉塞層3aは、プラスチックB6aと発泡剤7aとからなる。プラスチックB6aは、プラスチックA4より低い軟化温度を有し、ある一定の温度以上で溶融するものであり、発泡剤7aはある一定の温度以上で膨張するものである。
【0044】
したがって、積層体1aは、基材層2により強度が保持されるとともに、閉塞層3aの厚さが薄くてイオン等の流通を妨げることもなく、イオン等の流通が可能である貫通孔を有するものとなっている。
【0045】
一方、積層体1bは、多数の貫通孔5を有する基材層2と閉塞層3bとを有する。閉塞層3bは、溶融したプラスチックB6bと膨張した発泡剤7bとからなる。したがって、積層体1bは、基材層2により高い温度でも強度が保持されるとともに、充分な厚さがある閉塞層3bを形成したことにより優れたシャットダウン機能を有することになる。
【0046】
なお、積層体1aにおいて、貫通孔5に入った発泡剤7aがあれば、積層体1bにおいて、発泡剤7bは貫通孔5中で膨張して貫通孔5を塞ぐことになってもよい。さらに、積層体1bにおいて、溶融したプラスチックB6bは貫通孔5中に流れ込んで貫通孔5を塞ぐことになってもよい。
【0047】
上記基材層の厚さは、5μm以上であることが好ましい。
【0048】
上記閉塞層の厚さは、5μm以上200μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下であることがより好ましい。ある一定の温度以上時の閉塞層の厚さは、7μm以上1000μm以下であることが好ましく、7μm以上500μm以下であることがより好ましい。
【0049】
上記発泡剤の平均粒子径は、1μm以上20μm以下であることが好ましく、膨張時の発泡剤の平均粒子径は、2μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0050】
上記閉塞層は、発泡剤をプラスチックB100重量部に対して5重量部以上80重量部以下で含有することが好ましい。
【0051】
上記発泡剤の膨張開始温度は、50℃以上200℃以下であることが好ましく、70℃以上170℃以下であることがより好ましい。
上記プラスチックBの軟化温度は、50℃以上200℃以下であることが好ましく、70℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0052】
なお、上記プラスチックBの軟化温度は、上記発泡剤の膨張開始温度以上であってもよく、上記発泡剤の膨張開始温度以下であってもよく、上記発泡剤の膨張開始温度付近であってもよい。
【0053】
上記積層体の空孔率は、30%以上80%以下であることが好ましく、40%以上70%以下であることがより好ましい。空孔率が30%未満であると、イオン等の流通が悪くなるおそれがあり、一方、80%を越えると、強度が低くなるおそれがある。
【0054】
上記積層体の通気度(イオンの流通の尺度)としては、限定しないが、JIS P8117に準拠した方法(ガーレー試験機法)により測定した値が、1sec/100ccAir以上800sec/100ccAir以下であることが好ましい。通気度が1sec/100ccAircc未満であると強度が低くなるおそれがあり、一方、800sec/100ccAirを越えるとイオン等の流通が悪くなるおそれがある。ある一定の温度以上時の積層体の通気度としては、800sec/100ccAir以上であることが好ましい。
【0055】
上記プラスチックA及び/又はプラスチックBとしては、例えば、ポリエチレンやプロピレン等のオレフィン系樹脂、アセタール、アクリル、メチルメタクリレート、アセチルセルロース、ニトロセルロース、エチレン・アクリル、フッ素樹脂、ポリアクリルニトリル、ナイロン等のポリアミド、ポリブタジエン・アクリルニトリル、ポリブタジエン・スチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の飽和ポリエステル、ポリヒドロキシエーテル、ポリイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルキルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルメチルエーテル、ポリウレタン、アルキッド、カゼイン、シアノアクリレート、ジアリルフタレート、エポキシ及びその変性物、フラン、メラミンホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒド、フェノール・フルフラール、不飽和ポリエステル、ポリサルファイド、レゾルシノール・フェノールホルムアルデヒド、シリコーン、ユリアホルムアルデヒド等の熱硬化性樹脂、エポキシ−ノボラック、エポキシ−フェノリック、エポキシ−ポリサルファイド、エポキシ−シリコーン、フェノリック−ブチラール、フェノリック−ニトリル、フェノリック−ポリアミド、ポリアミド−エポキシ、ポリイミド−エポキシ、シリコーン−ビニルフェノリック、シリコーン−フェノリック、ビニルホルマール−フェノリック、ビニルブチラール−フェノリック等のアロイ等を挙げることができるが、好ましくはオレフィン系樹脂を挙げることができる。より好ましくはプラスチックAとして、ポリプロピレンを挙げることができ、プラスチックBとして、ポリエチレンを挙げることができる。
【0056】
上記発泡剤としては、例えば、重炭酸ソーダ、重炭酸ソーダとクエン酸等の有機酸との混合物、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸バリウム等のアゾ系発泡剤、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミド等のニトロソ系発泡剤、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルセミカルバジド等のスルホヒドラジド系発泡剤、トリヒドラジノトリアジン等を挙げることができる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上で併用されてもよい。
【0057】
上述した積層体においては、熱膨張性マイクロカプセルを含有する閉塞層を用いることとしてもよい。
【0058】
図3は、ある一定の温度未満時の本発明の積層体の実施形態の他の一例を示す断面図である。なお、図3においては、発泡剤を熱膨張性マイクロカプセルに変更した以外は、図1の積層体と同様の構成であるので、熱膨張性マイクロカプセルに関する部分のみを説明する。
【0059】
閉塞層13は、プラスチックB16と熱膨張性マイクロカプセル17とからなる。さらに、熱膨張性マイクロカプセル17は、内部成分17aと殻成分17bとからなる。殻成分17bはある一定の温度以上で溶融するものであり、内部成分17aはある一定の範囲の温度で膨張するものである。
【0060】
このような熱膨張性マイクロカプセル17を含有する閉塞層13を用いた場合には、殻成分17bがある一定の温度以上で溶融するとともに、内部成分17aがある一定の範囲の温度で膨張することにより、熱膨張性マイクロカプセル17がある一定の範囲の温度で膨張するので、一定の範囲の温度で充分かつ迅速な優れたシャットダウン機能を得ることができる。
【0061】
上記熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径は、1μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましい。また、膨張時の熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径は、2μm以上300μm以下であることが好ましく、2μm以上50μm以下であることがより好ましい。
上記閉塞層は、熱膨張性マイクロカプセルをプラスチックB100重量部に対して5重量部以上80重量部以下で含有することが好ましく、10重量部以上30重量部以下で含有することがより好ましい。
【0062】
上記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は、50℃以上200℃以下であることがより好ましく、70℃以上170℃以下であることが特に好ましい。
また、上記熱膨張性マイクロカプセルは、殻成分として熱可塑性樹脂を用い、この熱可塑性樹脂の軟化温度以下でガス状になる低沸点炭化水素をマイクロカプセル化したものであることが好ましい。
【0063】
上記熱膨張性マイクロカプセルの殻成分としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリル酸又はその塩等を重合させた熱可塑性樹脂等を挙げることができるが、好ましくはアクリロニトリルを主成分として重合させた熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0064】
上記熱膨張性マイクロカプセルの内部成分としては、低沸点炭化水素を使用することができ、具体例として、イソブタン、ノルマルブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、石油エーテル、ネオペンタン、プロパン、プロピレン、ブテン、メタンのハロゲン化物(塩化メチル、メチレンクロリド等)、テトラアルキルシラン等を挙げることができるが、好ましくはノルマルブタン、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサンを挙げることができる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上で併用されてもよい。
【0065】
さらに、上記熱膨張性マイクロカプセルは、低沸点炭化水素を10重量%以上20重量%以下で含むことが好ましい。
【0066】
そして、上記積層体としては、上述したように基材層/閉塞層の2層、閉塞層/基材層/閉塞層の3層、さらに3層より多層の積層構成であってもよい。さらに、これら以外の層が積層されてもよく、具体的には、帯電防止層、マット層、ハードコート層、易滑コート層、易接着層、粘着層等が挙げられる。
【0067】
さらに、基材層及び/又は閉塞層は、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、成形助剤等を含有してもよい。
【0068】
次に、本発明の積層体の製造方法の一例について説明する(図4参照)。
本発明の積層体1aの製造方法は、多数の貫通孔5を有するとともにプラスチックA4を含有する基材層2と、閉塞層3aとを有する積層体1aの製造方法であって、形成工程と、除去工程とを含むことを特徴とする。
【0069】
(1)形成工程
基材層2として、多数の貫通孔5を有するとともにプラスチックA4を含有するものを用いる(図4a参照)。一方、樹脂組成液として、プラスチックA4より低い軟化温度を有するプラスチックB6aと所定温度以上で膨張する発泡剤7aと水溶性物質9とを含有するものを作製する。例えば、プラスチックB6a、発泡剤7a及び水溶性物質9を、水等の溶媒に投入して、スーパーミキサー、リボンブレンダー、V−ブレンダー等の混合機により充分攪拌し均一に分散させて樹脂組成液を調製する。そして、上記樹脂組成液を、基材層2の少なくとも1つの面に塗布して樹脂層10を形成する(図4b参照)。樹脂組成液の塗布の方法としては、例えば、ロールコータ、フローコータ、スプレー、ディッピング、刷毛塗り等が挙げられる。なお、樹脂層10を、プラスチックB6aの軟化温度以上発泡剤7aの膨張開始温度以下の温度で加熱してもよい。
【0070】
(2)除去工程
回分法、向流多段法等の一般的な抽出法により、樹脂層10から水溶性物質9を、20℃以上50℃以下の水等を用いて洗浄して除去する(図4c参照)。すなわち、水溶性物質9を溶解させることにより除去することにより、多数の貫通孔8を有するとともにプラスチックB6aと発泡剤7aとを含有する閉塞層3aを形成する。なお、水以外にも、樹脂層10形成後に水溶性物質9を溶解し得るものであり、かつ、樹脂層10形成後にプラスチックB6aを溶解しないものを用いてもよい。
【0071】
上記樹脂組成液中のプラスチックBは、水分散性ポリマー及び/又は水溶性ポリマーであることが好ましい。なお、「水分散性ポリマー」とは、乳化剤等を用いて水系溶媒中に分散するポリマーを意味し、一方、「水溶性ポリマー」とは、乳化剤等を用いることなく、水系溶媒中に自己分散するポリマーを意味する。これらの中でも、水分散性ポリマーであることがより好ましい。乳化剤等を用いて分散するので、水等の溶解性が低く、樹脂層形成後の除去工程で溶解することがないからである。
【0072】
上記水溶性物質としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート、ポリエチレンオキサイド、ゼラチン、カチオン化澱粉、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、界面活性剤等を挙げることができるが、好ましくはポリビニルアルコール、ゼラチン、カチオン化澱粉、界面活性剤を挙げることができる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上で併用されてもよい。
【0073】
さらに、上記樹脂組成液中に、増粘剤(アクリル酸系アルカリ増粘剤)等を含有させてもよい。
【0074】
また、上記樹脂組成液中の水溶性物質の濃度は、1重量%以上30重量%以下であることが好ましい。
【0075】
上記樹脂組成液中の溶媒の濃度は、30重量%以上80重量%以下であることが好ましい。
【0076】
次に、本発明の二次電池の一例について説明する。
【0077】
本発明の二次電池は、本発明の積層体がセパレータとして用いられること以外は、通常の構成である。
【0078】
すなわち、正極活物質としてリチウムを含有する材料を用い、負極活物質としてリチウムをイオンとして吸蔵、放出可能である材料を用い、電解液としてリチウムとフッ素とを含有する化合物からなる電解質と有機溶剤とを含有する有機電解液を用いることができる。
【0079】
上記正極活物質として、例えば、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム等のリチウム金属酸化物等を挙げることができる。そして、正極活物質と、導電剤として活性炭、各種コークス、カーボンブラック、結着剤、溶剤等とを配合して、アルミニウム等の集電体に塗布、乾燥したものを正極とすることができる。
【0080】
上記負極活物質として、例えば、コークス、グラファイト、非晶質カーボン等を挙げることができる。そして、負極活物質と、結着剤、有機溶剤等とを配合して、銅箔等の集電体に塗布、乾燥したものを負極とすることができる。
【0081】
上記電解質として、例えば、LiClO、LiA、LiPF、LiBF、LiBr、LiCFSO等を挙げることができ、上記有機溶剤として、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。
【0082】
上記二次電池の構造として、例えば、正極、負極、セパレータを単層あるいは複層としたペーパー型電池や積層型電池、正極、負極、セパレータをロール状に巻いた円筒状電池等を挙げることができる。
【0083】
そして、二次電池にセパレータとして用いる本発明の積層体は、基材層と、当該基材層の少なくとも1つの面に積層された閉塞層とを有する積層体であって、上記基材層は、多数の貫通孔を有するとともに、ポリプロピレンを含有し、上記閉塞層は、多数の貫通孔を有するとともに、ポリエチレンと熱膨張性マイクロカプセルとを含有し、さらに、上記ポリエチレンは、上記ポリプロピレンより低い軟化温度を有することが好ましい。
このような本発明の二次電池によれば、ポリプロピレンを含有する基材層により強度が保持されるので、電池組立時や使用時に破損させることがなく、かつ、積層体自体が溶融して損なわれることもない。
【0084】
さらに、基材層にポリエチレンと熱膨張性マイクロカプセルとを含有する閉塞層を積層させたことにより、ポリエチレンがある一定の温度以上で溶融するとともに、熱膨張性マイクロカプセルがある一定の範囲の温度で膨張するので、閉塞層を薄く形成できイオンの流通を妨げることもなく、さらにある一定の温度以上になると迅速かつ充分なシャットダウン機能を得ることができる。
【0085】
したがって、電池内部の温度がリチウム等の融点又は有機電解液の引火点に至らずに、発火事故等を未然に防ぐことができる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
(1)形成工程
多数の貫通孔を有するとともにポリプロピレンからなる基材層(商品名:NFシート、トクヤマ(株)製;厚さ100μm、空孔率60%)を用いた。一方、水分散型低密度ポリエチレン(商品名:ケミパールM200、三井化学(株)製;固形分40重量%、軟化温度75℃)100gと熱膨張性マイクロカプセル(商品名:マツモトマイクロスフェアーF−80VS、松本油脂製薬(株)製;膨張開始温度150〜160℃、平均粒子径5〜8μm)20gとポリオキシエチレン系アルキルエーテル型界面活性剤(商品名:ノイゲンEA197、第一工業製薬(株)製;固形分50重量%)5gとアクリル酸系アルカリ増粘剤(商品名:ボンコート3750、大日本インキ化学工業(株)製)3gと苛性ソーダ(固形分5重量%)0.3gとをプロペラ式混合機により充分攪拌し均一に分散させて樹脂組成液とした。そして、樹脂組成液を、基材層の1つの面にバーコーターによりWet18g/cmで塗布して樹脂層を形成した。次に、樹脂層を、5分間130℃で加熱した。
(2)除去工程
樹脂層からポリオキシエチレン系アルキルエーテル型界面活性剤等を、60分間50℃の水に浸浸して除去した。次に、5分間100〜120℃で乾燥し、実施例1に係る積層体を得た。
【0088】
(実施例2)
(1)形成工程
多数の貫通孔を有するとともにポリプロピレンからなる基材層(商品名:NFシート)を用いた。一方、加熱溶融したポリエチレン(重量平均分子量Mw300000)100gとポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル10gとをプロペラ式混合機により混合し、さらに水(温度80℃)100gとを混合し、次いで高圧式乳化装置に通し、固形分50〜53重量%の水分散型ポリエチレン(乳化剤使用型)を得た。さらに、水分散型ポリエチレン(乳化剤使用型)100gと炭酸水素ソーダ5gとポリオキシエチレン系アルキルエーテル型界面活性剤(商品名:ノイゲンEA197)5gとアクリル酸系アルカリ増粘剤(商品名:ボンコート3750)3gと苛性ソーダ(固形分5重量%)0.3gとをプロペラ式混合機により充分攪拌し均一に分散させて樹脂組成液とした。そして、樹脂組成液を、基材層の1つの面にバーコーターによりWet18g/cmで塗布して樹脂層を形成した。次に、樹脂層を、5分間120℃で加熱した。
(2)除去工程
樹脂層からポリオキシエチレン系アルキルエーテル型界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル等を、60分間50℃の水に浸浸して除去した。次に、5分間100〜120℃で乾燥し、実施例2に係る積層体を得た。
【0089】
(比較例1)
熱膨張性マイクロカプセル20gに代えて、水分散型低密度ポリエチレン50gを使用した以外は、実施例1と同様に行って、比較例1に係る積層体を得た。
<積層体の評価>
(1)厚さ
積層体の厚さをダイアルゲージ(ピーコック(株)製)で測定した。その結果を表1に示す。
(2)空孔率
下記式によって空孔率を算出した。その結果を表1に示す。
空孔率=(1−100X/0.95Y)×100[%]
X:積層体の重さ[g/dm
Y:積層体の厚さ[μm]
(3)強度
JIS−K7127に規定された方法にしたがって、引張試験機((株)島津製作所製)を用いて、25℃、65%RHにて測定した。試料片は測定方向に長さ15cm、幅1.5cm、厚さ0.01cmの短冊状に切り出し、初期引張チャック間距離は10cmとし、引張速度は200mm/分とした。その結果を表1に示す。
(4)通気度
JIS P8117に準拠して測定した。測定装置としてB型ガーレーデンソメーター(東洋精機社製)を使用した。空気100ccが通過する時間を測定し通気度(ガーレー値)とした。
【0090】
さらに、6kg/600cmの荷重を載せて、1分間、2分間及び5分間150℃で保持した後の通気度を測定した。その結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1の結果から、実施例1に係る積層体は、初期の通気度が低く、かつ、150℃1分後の通気度が1200sec/100ccAir以上であり、充分かつ迅速な優れたシャットダウン機能を有するものであった。また、実施例2に係る積層体は、初期の通気度が低く、かつ、150℃2分後の通気度が900sec/100ccAirであり、充分かつ迅速な優れたシャットダウン機能を有するものであった。
【0093】
これに対して、比較例1に係る積層体は、150℃5分後の通気度も500sec/100ccAirであり、満足し得るものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】ある一定の温度未満時の本発明の積層体の実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】ある一定の温度以上時の図1に示す積層体を示す断面図である。
【図3】ある一定の温度未満時の本発明の積層体の実施形態の他の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の積層体の製造方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1 積層体
2 基材層
3、13 閉塞層
4、6、16 プラスチック
5、8 貫通孔
7 発泡剤
9 水溶性物質
10 樹脂層
17 熱膨張性マイクロカプセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、当該基材層の少なくとも1つの面に積層された閉塞層とを有する積層体であって、
前記基材層は、多数の貫通孔を有するとともに、プラスチックAを含有し、
前記閉塞層は、多数の貫通孔を有するとともに、プラスチックBと発泡剤とを含有し、
さらに、前記プラスチックBは、前記プラスチックAより低い軟化温度を有し、かつ、前記発泡剤は、所定温度以上で膨張することを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルである請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記熱膨張性マイクロカプセルの殻成分は、アクリロニトリルを主成分として重合させた熱可塑性樹脂からなり、かつ、前記熱膨張性マイクロカプセルの内部成分は、ノルマルブタン、ノルマルペンタン及びノルマルヘキサンからなる群から選択される少なくとも1つからなる請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記プラスチックBは、ポリエチレンを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記プラスチックAは、ポリプロピレンを含有する請求項1〜4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は、50℃以上200℃以下である請求項2〜5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記プラスチックBの軟化温度は、50℃以上200℃以下である請求項1〜6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
前記閉塞層の厚さは、5μm以上200μm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
前記閉塞層は、熱膨張性マイクロカプセルをプラスチックB100重量部に対して5重量部以上80重量部以下で含有する請求項2〜8のいずれかに記載の積層体。
【請求項10】
前記熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径は、1μm以上20μm以下である請求項2〜9のいずれかに記載の積層体。
【請求項11】
多数の貫通孔を有するとともにプラスチックAを含有する基材層と、閉塞層とを有する積層体の製造方法であって、
前記基材層の少なくとも1つの面に、前記プラスチックAより低い軟化温度を有するプラスチックBと、所定温度以上で膨張する発泡剤と、水溶性物質とを含有する樹脂組成液を塗布して樹脂層を形成する形成工程と、
前記樹脂層から水溶性物質を溶解させることにより除去して閉塞層を形成する除去工程とを含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の積層体がセパレータとして用いられた二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−187891(P2006−187891A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382998(P2004−382998)
【出願日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(000165088)恵和株式会社 (63)
【Fターム(参考)】