説明

積層体

【課題】 本発明の目的は、フレキシブルプリント配線板やHDD用サスペンションの製造に好適に用いられる、金属箔とポリイミド樹脂層の接着力に優れ、良好なエッチング形状得ることが容易な積層体を提供することにある。
【解決手段】 本発明の積層体は、金属箔とポリイミド樹脂層を含み、該ポリイミド樹脂層は、ポリイミド樹脂の前駆体溶液が金属箔上に直接塗布されて形成されたものであって、該前駆体溶液が硬化したポリイミド樹脂は下記一般式(1)で表される構造の部分を50重量以上含むものであり、ポリイミド樹脂層全体の線膨張係数が10〜30ppm/Kの範囲内にあり、さらに前記金属箔とポリイミド樹脂層の接着力が0.5kN/m以上である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板や、TAB等の回路基板や、HDD用サスペンション等の製造に好適に用いられる積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルプリント配線板やHDD用サスペンション等に用いられる、金属とポリイミド樹脂等の耐熱性高分子からなる積層体が、種々提案されている。
例えば、特開昭60−243120号公報(特許文献1)等には、特定の構造を有するポリイミド化合物と銅等の金属箔からなるフレキシブルプリント基板とその製造方法が提案されている。しかしながら、そこに開示された方法では、金属箔と絶縁層であるポリイミド化合物との接着力に関しては、何ら注意が払われていない。その結果、金属箔をエッチング加工して回路形成した際に、回路が剥がれやすいなどの問題が発生した。
【0003】
また、特開平9−174756号公報(特許文献2)等には、m−トリジン及び、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパンから選ばれるジアミノ化合物とピロメリット酸二無水物とを反応させて得られるポリイミドが、導電性金属箔面に直接積層形成された、平坦性や寸法安定性に優れたポリイミド−金属箔複合フィルムが提案されている。しかし、これらの発明においても、やはりポリイミドと金属箔の接着力に関しては、何ら関心が払われていない。
【0004】
また、特開平1−244841号公報(特許文献3)や特開2002−240193号公報(特許文献4)等には、金属箔と同等の線膨張係数を有し、反ったり剥がれたりしにくい、いわゆる低熱膨張性ポリイミドを用い、該低熱膨張性ポリイミドと金属箔との接着力を高めるために、低熱膨張性ポリイミドと金属箔の双方に接着しやすいポリイミドと低熱膨張性ポリイミドからなる複数層のポリイミドが金属箔上に形成された積層体が提案されている。しかしながら、これらの発明に開示された複数のポリイミド樹脂層を形成するためには、特殊な生産設備を必要とするか、さもなくば繰り返し塗工を行わなければならず、そのため生産性が著しく低下するという問題があった。
【0005】
また近年、アルカリ系薬液等によるポリイミドのエッチング加工が提案されているが(特許文献4等)、このような多層構造のポリイミドをエッチングする場合には、それぞれの層を構成するポリイミドのエッチング速度を完全に一致させることが困難であり、そのため、良好なエッチング形状を得難いという問題があった。
【0006】
このため、金属箔と同等の線膨張係数を示しつつ、良好な金属箔との接着力を示すポリイミド樹脂層が直接金属箔に形成された積層体の開発が待ち望まれてきた。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−243120号公報
【特許文献2】特開平9−174756号公報
【特許文献3】特開平1−244841号公報
【特許文献4】特開2002−240193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フレキシブルプリント配線板やHDD用サスペンションの製造に好適に用いられる、反ったり、ポリイミド樹脂層が剥がれたりすることがなく、しかも金属箔とポリイミド樹脂層の接着力に優れ、良好なエッチング形状得ることが容易な、金属箔とポリイミド樹脂層からなる積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等はかかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造のポリイミド樹脂を直接金属箔上に塗膜してポリイミド樹脂層を形成することで、接着性や平坦性に優れた金属箔とポリイミド樹脂層を含む積層体を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
本発明によれば、以下に示す積層体が提供される。
〔1〕 少なくとも1層の金属箔と少なくとも1層のポリイミド樹脂層を含む積層体において、前記ポリイミド樹脂層のうち1層は、ポリイミド樹脂の前駆体溶液が金属箔上に直接塗布されて形成されたものであって、該前駆体溶液が硬化したポリイミド樹脂は下記一般式(1)で表される構造の部分を50重量部以上含むものであり、ポリイミド樹脂層全体の線膨張係数が10〜30ppm/Kであり、さらに前記金属箔とポリイミド樹脂層の接着力が0.5kN/m以上であることを特徴とする積層体。
【化4】

{一般式(1)中、x及びyはモル比率を表し、x+y=100であって、40≦x≦90、10≦y≦40である。}
〔2〕 該少なくとも1層のポリイミド樹脂層が、ポリイミド樹脂の前駆体溶液が金属箔上に直接塗布されて形成された単一層であって、該前駆体溶液が硬化したポリイミド樹脂が下記一般式(1)で表される構造の部分を50重量部以上含むものであることを特徴とする前記〔1〕に記載の積層体。
【化5】

{一般式(1)中、x及びyはモル比率を表し、x+y=100であって、60≦x≦90、10≦y≦40である。}
〔3〕 該一般式(1)のポリイミド樹脂が下記一般式(2)で表されるポリイミド樹脂であることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の積層体。
【化6】

{式(1)中、x及びyはモル比率を表し、x+y=100であって、60≦x≦90、10≦y≦40である。}
〔4〕 該金属箔が銅箔であることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の積層体。
〔5〕 該金属箔がステンレス箔であることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の積層体。
〔6〕 該ポリイミド樹脂層の上に、スパッタリング法により厚さ0.01〜3μmの導体層が形成されていることを特徴とする前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の積層体。
〔7〕 スパッタリング法により形成された導体層の上に、電解メッキ法により0.1〜50μmの銅層が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の積層体。
〔8〕 スパッタリング法により形成された導体層が、ニッケル/クロム合金もしくはニッケル/クロム/銅合金からなるスパッタリング層と、銅からなるスパッタリング層が逐次に形成されたものであることを特徴とする請求項6又は7に記載の積層体。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明の積層体は、金属箔と特定のポリイミド樹脂層で積層体が構成され、ポリイミド樹脂層全体の線膨張係数が10〜30ppm/Kであり、金属箔とポリイミド樹脂層の接着力が1kN/m以上であることにより、300℃の半田浴に浸漬させても、膨れ・剥がれ等の異常が発生しない。また、アルカリ系薬液によるポリイミド樹脂のエッチング加工が容易である。
請求項2に係る発明の積層体は、特定のポリイミド樹脂層が単一層として形成されていることにより、生産性に優れており、ポリイミドのエッチング加工もより容易に行うことができる。
請求項3に係る発明の積層体は、特定のポリイミド樹脂を用いることにより、金属箔とポリイミド樹脂の接着力を容易に得ることが可能となり、更にはポリイミドの機械強度が向上する。
請求項4に係る発明の積層体は、金属箔が導電性に優れた銅箔であることにより、フレキシブルプリント配線板やTABなどの回路基板として好適なものである。
請求項5に係る発明の積層体は、金属箔がバネ特性を有するステンレス箔であることにより、支持体にバネ特性を必要とするハードディスクドライブ用サスペンション等の製造に好適なものである。
請求項6に係る発明に係る積層体は、ポリイミド樹脂層の上に、スパッタリング法で厚さ0.01〜3μmの導体層が形成されていることにより、金属箔/ポリイミド樹脂層/導体層からなる積層体にすることが可能であり、例えば、金属箔が銅箔の場合には、両面導体フレキシブルプリント配線板を得ることが可能であり、金属箔がステンレス箔の場合には、配線付のハードディスクドライブ用サスペンションの配線形成を容易に行うことができる。
請求項7に係る発明の積層体は、スパッタリング法により形成された導体層の上に、電解メッキ法により0.1〜50μmの銅層が形成されていることにより、より容易な回路形成を可能にする。
請求項8に係る発明の積層体は、導体層が、特定のスパッタリング層と、銅からなるスパッタリング層が逐次に形成されたものであることにより、必要とする導電性を維持したまま、スパッタリング層とポリイミド樹脂層の接着性を高めることを容易にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の積層体について詳細に説明する。
本発明の積層体は、少なくとも1層の金属箔と少なくとも1層のポリイミド樹脂層を含む。該金属箔は電気を通す機能や支持体としての機能を有し、ポリイミド樹脂層は絶縁層としての機能を有する。
ここで、少なくとも1層の金属箔と少なくとも1層のポリイミド樹脂層を含むとは、例えばポリイミド樹脂層上に、更に一層の金属箔等をラミネートして両面金属箔張積層体を得ることなどを目的に、他のポリイミド系樹脂層を設けることも本発明の範囲に属する意味である。但し、生産性を向上させる等の観点からは一般式(1)で表されるポリイミド樹脂の単一層と単一層の金属箔とからなることが好ましい。
【0012】
本発明に用いられる金属箔としては、銅箔、ステンレス箔、アルミニウム箔、ニクロム箔等任意の金属箔が用いられる。これらの中でも、好ましい金属箔としては、銅箔とステンレス箔が挙げられる。
銅箔は、電気伝導度に優れ、塩化第二鉄水溶液等の薬液でエッチング加工することにより容易に回路を形成することができる。
ここでいう銅箔としては、圧延銅箔や電解銅箔といった種類があり、更にはニッケル、シリコン、ベリリウム、ジルコニウム等の他の金属が10%以内の範囲で含まれる、いわゆる銅合金箔も含まれる。本発明において、金属箔として銅箔を用いる場合、主としてフレキシブルプリント配線板やテープオートメイティッドボンディング(TAB)等の回路基板に好適に用いられる積層体を得ることができる。
【0013】
他の好ましい金属箔の例としては、ステンレス箔が挙げられる。ステンレス箔は、バネ特性に優れ、塩化第二鉄水溶液等を用いて容易にエッチング加工をすることができる。特に、金属箔としてステンレス箔を用いた本発明の積層体は、ステンレス箔の優れたバネ特性を活用したものであり、ハードディスクドライブ用サスペンション等の部品として好適なものである。
【0014】
本発明における金属箔の厚みは任意であるが、好ましくは5〜40μmであり、より好ましくは8〜30μmである。金属箔の厚みが5μm未満であると、その上にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布し、硬化してポリイミド層を形成する際に、しわの発生や金属箔の破断といった問題が起こりやすくなる。一方、40μm超であると、それをエッチング加工する場合にファインパターンへのエッチングを行ない難いという問題や、積層体全体の剛性が大きくなり過ぎ、例えばHDDサスペンション等に用いた場合に要求されるバネ特性が得難いという問題等が発生する。
【0015】
本発明の積層体のポリイミド樹脂層のうち少なくとも1層は、ポリイミド樹脂の前駆体溶液が金属箔上に直接塗布されて形成されたものであり、該前駆体溶液は、硬化すると下記一般式(1)で表される構造の部分を50重量部以上含むものであり、好ましくは70重量部であり、より好ましくは80重量部であり、特に好ましくは100重量部である。即ち、該前駆体溶液が硬化することにより得られるポリイミド樹脂層は、一般式(1)で表されるものであることが特に好ましい。該ポリイミド樹脂層は金属箔との接着力に優れ、良好なエッチング形状得ることが容易である。
【0016】
【化7】

【0017】
一般式(1)中、x及びyはモル比率を表し、x+y=100であって、40≦x≦90、10≦y≦60である。
【0018】
一般式(1)で表されるポリイミド樹脂は、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物から合成することができ、ジアミン化合物としては4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル及び一般式(3)で示されるビスアミノフェノキシベンゼンをその合計がジアミン化合物全体の50重量%以上、テトラカルボン酸二無水物としては無水ピロメリット酸をテトラカルボン酸二無水物全体の50重量%以上用いて合成される。
即ち、本発明の積層体の少なくとも1層を構成するポリイミド樹脂は、これらのジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を有機溶媒中で重合反応させることにより、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸とし、このポリイミド前駆体を金属箔上に直接塗布してから、イミド化反応させることにより得られるものである。
【0019】
【化8】

【0020】
一般式(1)のポリイミド樹脂の合成には、必須である4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル及びビスアミノフェノキシベンゼン以外に、機械強度、弾性率の向上やエッチング性の調整等を目的に、ジアミン化合物全体の50重量%以内の範囲で他のジアミン化合物を併用することができる。
併用できるジアミン化合物としては特に制約はないが、例示すれば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノトルエン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルなどが挙げられる。
【0021】
また、テトラカルボン酸二無水物に関しても、必須成分である無水ピロメリット酸以外に、やはり機械強度、弾性率の向上やエッチング性の調整等を目的に、50重量%以内の範囲で、他のテトラカルボン酸二無水物を併用できる。
併用できるテトラカルボン酸二無水物についても特に制約はないが、例示すれば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0022】
本発明に用いられるポリイミド樹脂としては、下記一般式(2)で示されるものが好ましく使用される。該ポリイミド樹脂は、金属箔との接着力に優れ、機械強度にも優れている。
【0023】
【化9】

【0024】
一般式(1)中x及びyはモル比率を表し、x+y=100であって、40≦x≦90、10≦y≦60である。
【0025】
前記一般式(2)で示されるポリイミドはビスアミノフェノキシベンゼンとして、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いることで得ることができる。
【0026】
本発明の積層体を構成するポリイミド樹脂は、上記ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を用いた、極性有機溶媒中での溶液重合反応による前駆体のポリアミック酸の合成と、こうして得られる前駆体溶液を金属箔に塗布した後の硬化により得ることができる。
【0027】
重合反応に用いる極性有機溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等を好適に用いることができる。
【0028】
本発明においては、ポリイミド樹脂の前駆体溶液が金属箔上に直接塗布される。該前駆体樹脂溶液の塗布には、ダイコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、カーテンフローコーター、バーコーター等任意のコーターを用いることができる。
【0029】
前駆体樹脂溶液の硬化は、極性有機溶媒を乾燥させてからイミド化反応させることにより行う。極性有機溶媒の乾燥は、乾燥炉中で50℃以上、好ましくは100℃以上の温度で行う。イミド化反応は、200℃以上で行うことが好ましく、300℃以上で行うことがより好ましい。
【0030】
本発明の積層体を構成するポリイミド樹脂層は、ポリイミド樹脂の前駆体溶液が金属箔上に直接塗布されて形成された単一層であることが、生産性に優れていることから好ましい。但し、本発明のポリイミド樹脂層は、金属箔上に塗布するポリイミド樹脂が一般式(1)で表されるポリイミド樹脂でさえあれば、複数のポリイミド樹脂が層状に重ね合わされて形成されていても差し支えない。そのような複数のポリイミド樹脂からなるポリイミド樹脂層は、ポリイミド樹脂の塗布と硬化を繰り返し行うことで得ることができる。または、ポリイミド前駆体樹脂溶液の塗布と溶媒の乾燥のみを繰り返し行った後、イミド化反応を一括して行うことも可能である。更には、多層ダイを用いて複数のポリイミド前駆体樹脂溶液を一括で塗布して、溶媒乾燥及びイミド化反応を行うこともできる。
【0031】
本発明の積層体は、前述した金属箔とポリイミド樹脂層とからなるため、ポリイミド樹脂層全体の線膨張係数が特定範囲内にあり、金属箔とポリイミド樹脂層とが特定範囲の接着力を有するものである。次に、この線膨張係数と接着力について説明する。
【0032】
本発明の積層体においては、ポリイミド樹脂層全体の線膨張係数が10〜30ppm/Kの範囲内にあり、15〜25ppm/Kの範囲内にあることが好ましい。該膨張係数が10〜30ppm/Kであるということは、線膨張係数が金属箔と同等であることを意味し、かかるポリイミド樹脂層からなる積層体はカールすることが殆どなく、エッチング等による回路形成が容易で、エッチング後の寸法変化率も小さい。これに対し、線膨張係数が10ppm/K未満でも、30ppm/K超でも、積層体のカールが大きくなり、金属箔や導体層からのエッチング等による回路形成を施すことが難しくなるとともに、エッチング後の寸法変化率が大きくなるため、ファインパターンを形成し難くなる。
【0033】
更に、本発明の積層体においては、前記金属箔とポリイミド樹脂層の接着力が0.5kN/m以上であり、1kN/m以上であることが好ましい。該接着力が0.5kN/m未満では、金属箔のエッチング加工を施した際や半田付け等の高温処理を行った際に、膨れや剥がれ等の不具合が発生する虞がある。
【0034】
本発明における線膨張係数、接着力は次のように測定される。
金属箔とポリイミド樹脂層の接着力の測定は、金属箔を2mmの幅の直線状回路にエッチング加工した後、ポリイミド樹脂フィルム側を厚さ1mmのアルミ板に両面テープで裏打ちし、回路を180°方向に5cm/分の速さで引っ張り、その剥離強度を測定する。
【0035】
線膨張係数は、島津製作所製サーモメカニカルアナライザー「TMA−50」を用いて、室温から250℃まで昇温し、更にその温度で10分間保持した後、10℃/分の速度で冷却して、降温時の240℃から100℃までの平均の線膨張率として求める。
【0036】
本発明の積層体の好ましい形態としては、金属箔−ポリイミド樹脂層の構成に加えて、更にそのポリイミド樹脂層表面への金属スパッタリングや、更にはそのスパッタリングにより形成された導体層上への電解メッキにより導体が形成された構成の積層体が挙げられる。かかる構成により、金属箔と反対側のポリイミド面上に導体層が形成され、その面での配線形成が可能となる。
【0037】
ポリイミド表面に金属スパッタリングにより導体層を設ける場合には、銅、ニッケル、クロム、チタン、モリブデン、タングステン等の任意の金属を導体層として設けることが可能であり、それらの金属成分からなる合金の導体層を設けることも可能である。
また、異なる成分の複数の導体層を重ねて形成しても何ら差し支えなく、ポリイミドとの高い接着力を発現させるために、ニッケルとクロムの合金もしくはニッケル、クロム及び銅の3成分からなる合金のスパッタリングによる導体層をポリイミド樹脂上に形成した後、更に導体層の導電性を高めるために銅スパッタリングを行うことが好ましい。
【0038】
また、このような金属スパッタリングによる導体層を形成する前に、ポリイミド樹脂表面にプラズマ処理、コロナ処理、UV処理、薬液処理等の任意の表面を施しても何ら差し支えない。
【0039】
金属スパッタリングによりポリイミド樹脂層上に形成された導体層上に、より導電性を高めるために更に電解メッキにより厚い銅層を形成することも可能である。電解メッキに用いるメッキ液としては、硫酸銅水溶液を主成分としたメッキ液が好適に用いられる。
【0040】
本発明の積層体の金属箔及びスパッタリングや電解メッキにより形成した導体層は、塩化第二鉄水溶液等のエッチング液を用いたいわゆるサブトラクティブ法によるエッチングで、回路パターン等を形成して、フレキシブルプリント配線板等に用いることが可能である。その場合、通常導体層としては5μm以上の厚いものが用いられる。
【0041】
また、導体層をシード層として、その上に感光性のメッキレジストパターンを形成し、セミアディティブ法による回路形成も本発明の積層体を用いることで可能である。その場合、導体層としては、通常5μm未満の薄いものが好適に用いられる。
【0042】
更には、金属箔としてステンレス箔を用い、ポリイミド樹脂層の反対側の面にスパッタリング導体層もしくはその上に更に電解メッキが施された導体層が形成された材料を用い、該ステンレス箔を塩化第2鉄水溶液等でエッチング加工し、導体層を上記サブトラクティブ法ないしはセミアディティブ法で回路形成を行って、HDDサスペンション用の部材を得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0044】
なお、本実施例で用いる略号の意味は、以下の通りである。
DADMB:4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル
APB−m:1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン
APB−p:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
DAPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
PMDA:無水ピロメリット酸
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0045】
ポリイミド前駆体溶液A〜Eを次のように合成した。
<合成例1>
攪拌棒を備えたセパラブルフラスコ中で、DADMB0.075モル(15.92g)及びAPB−m0.025モル(7.31g)を254gのDMAcに溶解させた。その後、攪拌しながらPMDA0.099モル(21.59g)を添加して、重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体溶液Aを得た。
【0046】
<合成例2>
攪拌棒を備えたセパラブルフラスコ中で、DADMB0.080モル(16.98g)、APB−p0.010モル(2.92g)及びAPB−m0.010モル(2.92g)を241gのDMAcに溶解させた。その後、攪拌しながらPMDA0.09モル(19.63g)及びBPDA0.009モル(2.65g)を添加して、重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体溶液Bを得た。
【0047】
<合成例3>
攪拌棒を備えたセパラブルフラスコ中で、DADMB0.09モル(19.11g)及びAPB−m0.01モル(2.92g)を247gのDMAcに溶解させた。その後、攪拌しながらPMDA0.099モル(21.59g)を添加して、重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体溶液Cを得た。
【0048】
<合成例4>
攪拌棒を備えたセパラブルフラスコ中で、APB−m0.1モル(29.24g)を288gのDMAcに溶解させた。その後、攪拌しながらPMDA0.099モル(21.59g)を添加して、重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体溶液Dを得た。
【0049】
<合成例5>
攪拌棒を備えたセパラブルフラスコ中で、DADMB0.075モル(15.92g)及びDAPE0.025モル(5.01g)を241gのDMAcに溶解させた。その後、攪拌しながらPMDA0.099モル(21.59g)を添加して、重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体溶液Eを得た。
【0050】
実施例1
厚さ12μmの電解銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製CF−T9箔)に、合成例1で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液Aを硬化後25μmの厚さになるように塗布し、110℃で10分及び130℃で20分乾燥した後、更に160℃、200℃、250℃、320℃、380℃各2分の熱処理(イミド化反応)を行い、ポリイミド樹脂層と電解銅箔からなる積層体を得た。
【0051】
得られた積層体はほぼ平坦なものであり、ポリイミド樹脂層と銅箔の接着力は1.5kN/mであった。また、300℃の半田浴に浸漬させたところ、膨れ・剥がれ等の異常の発生は確認されなかった。
また、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して得られたポリイミドフィルム(ポリイミド樹脂層全体)の線膨張係数は24ppm/Kであった。
【0052】
実施例2
ポリイミド前駆体樹脂溶液Aの代わりに、合成例2で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液Bを用い、ポリイミド樹脂層の厚みを12μmとした以外は実施例1と同様に行い、ポリイミド樹脂層と電解銅箔からなる積層体を得た。
得られた積層体はほぼ平坦で、ポリイミド樹脂層と銅箔の接着力は1.2kN/mであり、300℃の半田浴浸漬においても、膨れ・剥がれ等の異常は見受けられなかった。
また、銅箔をエッチング除去して得られたポリイミドフィルム(ポリイミド樹脂層全体)の線膨張係数は22ppm/Kであった。
【0053】
実施例3
ポリイミド前駆体樹脂溶液Aの代わりに、合成例3で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液Cを用い、厚さ12μmの電解銅箔の代わりに、厚さ20μmのステンレス箔を用いた以外は、実施例1と同様に行い、ポリイミド樹脂層とステンレス箔からなる積層体を得た。
得られた積層体はほぼ平坦で、ポリイミド樹脂層とステンレス箔の接着力は1.1kN/mであり、300℃の半田浴浸漬においても、膨れ・剥がれ等の異常は見受けられなかった。
また、銅箔をエッチング除去して得られたポリイミドフィルムの線膨張係数は17ppm/Kであった。
【0054】
実施例4
厚さ20μmのステンレス箔(東洋精箔・株式会社製、SUS304、テンションアニール処理品)に、合成例1で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液Aを硬化後10μmの厚さになるように塗布し、110℃4分、130℃4分乾燥した後、更に160℃、200℃250℃、320℃、380℃の各温度で2分の熱処理(イミド化反応)を行い、ポリイミド樹脂層とステンレス箔からなる積層体を得た。
【0055】
更に得られた積層体のポリイミド樹脂層上に、真空スパッタリング装置を用いてスパッタリングを行い、厚さ20nmのニッケル80%、クロム20%の比率の合金層及び厚さ300nmの銅層を逐次形成し、ステンレス/ポリイミド/スパッタリング導体層からなる積層体を形成した。
【0056】
得られた積層体のポリイミド樹脂層とステンレスとの接着力は1.8kN/mであり、ポリイミドフィルム(ポリイミド樹脂層全体)の線膨張係数は21ppm/Kであった。
また、スパッタリング導体層上に電解メッキ法により、導体厚さ8μmとなるように銅を厚付けした後、ポリイミド樹脂層と銅の接着力を測定したところ、1.1kN/mであり、また積層体を300℃の半田浴に浸漬しても、膨れ・剥がれ等の異常は確認されなかった。
【0057】
実施例4
厚さ15μmのステンレス箔(東洋精箔・株式会社製、SUS304、テンションアニール処理品)に、合成例3で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液Aを硬化後6μmの厚さになるように塗布し、110℃4分、130℃4分乾燥した後、更に160℃、200℃250℃、320℃、380℃の各温度で2分の熱処理を行い、ポリイミド樹脂層とステンレス箔からなる積層体を得た。
【0058】
更に得られた積層体のポリイミド樹脂層上に、真空スパッタリング装置を用いてスパッタリングを行い、厚さ20nmのニッケル40%、クロム10%、銅50%の比率の合金層及び厚さ300nmの銅層を逐次形成した後、更に電解メッキ法により、導体厚さ8μmとなるように銅を厚付けしてステンレス/ポリイミド/導体層からなる積層体を形成した。
【0059】
得られた積層体のステンレスとポリイミド樹脂層の接着力は1.6kN/m、ポリイミド樹脂層と導体の接着力は1.0kN/mであり、ポリイミドフィルム(ポリイミド樹脂層全体)の線膨張係数は18ppm/Kであった。また積層体を300℃の半田浴に浸漬しても、膨れ・剥がれ等の異常は確認されなかった。
【0060】
比較例1
合成例4で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液Dを用いた以外は実施例1と同様に、ポリイミド樹脂層と電解銅箔からなる積層体を得た。
得られた積層体のポリイミド樹脂層と電解銅箔の接着力は1.5kN/mと比較的高いものであったが、ポリイミドフィルム(ポリイミド樹脂層全体)の線膨張係数が45ppm/Kと高かったため、ポリイミドを内側に曲率半径約2cmのカールが発生した。
【0061】
比較例2
合成例5で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液Eを用いた以外は実施例3と同様に、ポリイミド樹脂層とステンレス箔からなる積層体を得た。
得られた積層体はほぼ平坦であり、ポリイミドフィルム(ポリイミド樹脂層全体)の線膨張係数は23ppm/Kであった。しかしながら、ポリイミド樹脂層とステンレスの接着力が0.2kN/mと低く、300℃の半田浴浸漬において、膨れの発生が確認された。
【0062】
線膨張係数、金属箔とポリイミド樹脂層の接着力の測定は、前述したように行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の金属箔と少なくとも1層のポリイミド樹脂層を含む積層体において、前記ポリイミド樹脂層のうち1層は、ポリイミド樹脂の前駆体溶液が金属箔上に直接塗布されて形成されたものであって、該前駆体溶液が硬化したポリイミド樹脂は下記一般式(1)で表される構造の部分を50重量部以上含むものであり、ポリイミド樹脂層全体の線膨張係数が10〜30ppm/Kであり、さらに前記金属箔とポリイミド樹脂層の接着力が0.5kN/m以上であることを特徴とする積層体。
【化1】

{一般式(1)中、x及びyはモル比率を表し、x+y=100であって、60≦x≦90、10≦y≦40である。}
【請求項2】
該少なくとも1層のポリイミド樹脂層が、ポリイミド樹脂の前駆体溶液が金属箔上に直接塗布されて形成された単一層であって、該前駆体溶液が硬化したポリイミド樹脂が下記一般式(1)で表される構造の部分を50重量部以上含むものであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【化2】

{一般式(1)中、x及びyはモル比率を表し、x+y=100であって、60≦x≦90、10≦y≦40である。}
【請求項3】
該一般式(1)のポリイミド樹脂が下記一般式(2)で表されるポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【化3】

{一般式(2)中、x及びyはモル比率を表し、x+y=100であって、60≦x≦90、10≦y≦40である。}
【請求項4】
該金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
該金属箔がステンレス箔であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
該ポリイミド樹脂層の上に、スパッタリング法により厚さ0.01〜3μmの導体層が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
スパッタリング法により形成された導体層の上に、電解メッキ法により0.1〜50μmの銅層が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
スパッタリング法により形成された導体層が、ニッケル/クロム合金もしくはニッケル/クロム/銅合金からなるスパッタリング層と、銅からなるスパッタリング層が逐次に形成されたものであることを特徴とする請求項6又は7に記載の積層体。

【公開番号】特開2006−248142(P2006−248142A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70658(P2005−70658)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(501058180)株式会社エー・エム・ティー・研究所 (6)
【Fターム(参考)】