説明

積層光学フィルム

【課題】厚み方向のリターデーションRthを考慮し、波長によるReの変化が小さい、または低波長におけるリターデーションを小さくなる光学フィルムを提供することにある。
【解決手段】固有複屈折が正のフィルムAと、固有複屈折が負のフィルムBとを遅相軸を直交させ、積層した積層光学フィルム、又はリターデーションの異なる固有複屈折が負のフィルムBの遅相軸を直交させ、積層した積層光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板保護フィルムや位相差フィルム等の光学材料に使用される光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の液晶テレビに代表される薄型ディスプレイ市場の拡大に伴い、より鮮明な画像をより低価格で得たいという要求が高まっている。これを実現するために重要となるのが、各種光学フィルムであり、位相差フィルムはその代表である。
最近、色再現性の要求が特に高まりつつあり、液晶表示装置用の偏光板保護フィルム及び位相差フィルムに関して、その位相差が光の波長により変化が小さいものが求められている。これまで利用されている位相差フィルムでは、固有複屈折が正のポリマーフイルムとしてはポリカーボネートフィルム、固有複屈折が負のフィルムとして、光学用にスチレン系のフィルムが開発されている(特許文献1)。
しかしながらリターデーションの波長による変化について十分な考慮がなされていなかった。また設計時の厚み方向のリターデーションRthの考慮もされていなかった。
【0003】
【特許文献1】特開平3−24502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、厚み方向のリターデーションであるRthを考慮しながら、波長によるリターデーションの変化を小さくする、または低波長におけるレタデーションを小さく光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、固有複屈折が正負のフィルムを直交させて張り合わせることで、波長によるリターデーションを均一に、または低波長におけるリターデーションが小さくなる光学フィルムを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
1.固有複屈折が正のフィルムAと、スチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)とを含む樹脂組成物からなる固有複屈折が負のフィルムBとを積層した積層光学フィルム、
2.固有複屈折が正のフィルムAの遅相軸とスチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)とを含む樹脂組成物からなる固有複屈折が負のフィルムBの遅相軸が直交している1.に記載の積層光学フィルム、
【0006】
3.リターデーションが異なり、スチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)とを含む樹脂組成物からなり、固有複屈折が負のフィルムBを積層した積層光学フィルム、
4.リターデーションが異なり、スチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)とを含む樹脂組成物からなり、固有複屈折が負のフィルムBの遅相軸が直交している3.に記載の積層光学フィルム、
5.波長400nmのときのリターデーションをRe(400)、波長550nmのときのリターデーションをRe(550)、波長800nmのときのリターデーションをRe(800)としたき、
(Re(400)/Re(550))<1.10 かつ (Re(400)/Re(800))<1.18である1.〜4.のいずれか1つに記載の積層光学フィルム、
6.厚み方向リターデーション(Rth)が−500nm以上500nm以下である1.〜5.のいずれか1つに記載の積層光学フィルム、
【0007】
7.前記スチレン系樹脂(B−1)が、スチレン−メタクリル酸共重合体である1.〜6.のいずれか1つに記載の積層光学フィルム、
8.前記スチレン−メタクリル酸共重合体中のメタクリル酸の共重合割合が、0.1〜50質量%である1.〜6.のいずれか1つに記載の積層光学フィルム、
9.前記スチレン系樹脂(B−1)が、スチレン−無水マレイン酸共重合体である1.〜6.のいずれか1つに記載の積層光学フィルム、
10.前記スチレン−無水マレイン酸共重合体中の無水マレイン酸の共重合割合が、0.1〜50質量%である1.〜6.又は9.のいずれか1つに記載の積層光学フィルム、
11.1.〜10.のいずれか1つに記載の積層光学フィルムからなる偏光板保護フィルム、
12.1.〜10.のいずれか1つに記載の積層光学フィルムからなる位相差フィルム、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、波長によるリターデーションの変化が小さく、または低波長におけるリターデーションが小さくなる光学フィルムを得られるので、液晶テレビに代表される薄型ディスプレイ市場に有用なフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、リターデーションが異なる固有複屈折が正又は負のフィルムの遅相軸を直交させた積層光学フィルムである。
遅相軸とはフィルム面内の屈折率が最大となっている方向を示す。直交とは、双方のフィルムの遅相軸が90°になっていることが理想であるが、フィルム内の平均的な方向の遅相軸の方向が90°±5°以内にあわせることを言う。
3次元の屈折率で考えた場合、固有複屈折の正負は、フィルムを延伸させた時、延伸した方向の屈折率が大きくなる材料からなるフィルムが正、延伸した方向と垂直方向に屈折率が大きくなる材料からなるフィルムが負となる。
本発明は厚み方向のリターデーションRthを調整しつつ、波長によるRe変化をちいさく、又は 低波長におけるリターデーションが小さくなる光学フィルムを得られる。
【0010】
1.固有複屈折が正のフィルムAを構成する材料
本発明における固有複屈折が正のフィルムAを構成する材料としては、セルロースエステル、例えば、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、プロピオニルセルロース、ブチルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース、ノルボルネン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、PVA樹脂等が挙げられる。
ここで、ノルボルネン系樹脂は、ノルボルネン系単量体を単量体成分として含む樹脂をいい、ノルボルネン系単量体とは、その構造中にノルボルネン骨格を有する単量体をいう。ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体もしくは開環共重合体、またはそれらの水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体もしくは付加共重合体またはそれらの水素添加物などを挙げることができる。なかでも、ノルボルネン系単量体の重合体の水素添加物は、製膜性が良く、機械的強度、耐熱性、透明性に優れるので、好適に用いることができる。
本発明においては、光学フィルムの分野で一般に用いられているポリカーボネート樹脂をそのまま用いることができる。好ましくは芳香族ポリカーボネートであり、更に好ましくは、ポリビスフェノールAカーボネートである。その理由はリターデーションの波長分散性が、固有複屈折が負である下記のフィルムとの波長分散性のバランスから、積層フィ
ルムが設計しやすい点にある。
【0011】
2.固有複屈折が負のフィルムBを構成する材料
本発明における固有複屈折が負のフィルムBを構成する材料としては、スチレン系樹脂(B−1)、アクリル系樹脂(B−2)が挙げられる。
本発明において、スチレン系樹脂(B−1)とは、少なくともスチレン系単量体を単量体成分として含む重合体をいう。ここで、スチレン系単量体とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体をいう。
スチレン系単量体の具体例としては、スチレンの他に、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレンなどのビニル芳香族化合物単量体などが挙げられ、代表的なものはスチレンである。
【0012】
スチレン系樹脂(B−1)は、スチレン系単量体成分に他の単量体成分を共重合したものでよい。共重合可能な単量体としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられ、これらの2種以上を共重合してもよい。
このような他の単量体成分の共重合割合は、スチレン系単量体成分に対して、50質量%以下であることが好ましい。
【0013】
スチレン系樹脂(B−1)としては、特に、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体が、耐熱性、透明性等の光学材料に求められる特性を有しているため好ましい。
また、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体は、メタクリル酸メチルを単量体成分として含む重合体との相溶性が高いことから、アクリル系樹脂(B−2)としてメタクリル酸メチルを単量体成分として含む重合体を用いる場合に特に好ましい。
【0014】
スチレン−アクリロニトリル共重合体の場合、共重合体中のアクリロニトリルの共重合割合は1〜40質量%であることが好ましい。さらに好ましい範囲は1〜30質量%であり、とりわけ好ましい範囲は1〜25質量%である。共重合体中のアクリロニトリルの共重合割合が1〜40質量%の場合、透明性に優れるため好ましい。
スチレン−メタクリル酸共重合体の場合、共重合体中のメタクリル酸の共重合割合が0.1〜50質量%であることが好ましい。より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1〜30質量%である。共重合体中のメタクリル酸の共重合割合が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%以下の範囲であれば透明性に優れるので好ましい。
【0015】
スチレン−無水マレイン酸共重合体の場合、共重合体中の無水マレイン酸の共重合割合が0.1〜50質量%であることが好ましい。より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1質量%〜30質量%である。共重合体中の無水マレイ
ン酸の共重合割合が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%以下の範囲であれば透明性に優れるので好ましい。
これらの中でも、耐熱性の観点から、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体が特に好ましい。
スチレン系樹脂(B−1)として、組成、分子量など異なる複数種類のスチレン系樹脂を併用することもできる。
スチレン系樹脂(B−1)は、公知のアニオン、塊状、懸濁、乳化または溶液重合方法により得ることができる。また、スチレン系樹脂(B−1)は、共役ジエンやスチレン系単量体のベンゼン環の不飽和二重結合が水素添加されていてもよい。水素添加率は核磁気共鳴装置(NMR)によって測定できる。
【0016】
本発明においてアクリル系樹脂(B−2)とは、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの誘導体を単量体成分として含む重合体をいう。
アクリル系樹脂(B−2)としては、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体が好適な例として挙げられる。
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体(B−2)の具体例としては、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルより選ばれる1種以上の単量体を重合したもの等が挙げられる。
【0017】
ここで、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体には、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステル以外の単量体が共重合されたものも含まれる。
アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸酸アルキルエステルと共重合可能なメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステル以外の単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類等が挙げられる。これらは一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0018】
メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステル以外の単量体成分を共重合する場合、その共重合割合は、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステルに対して、50質量%未満であることが好ましい。さらに好ましくは40質量%以下であり、とりわけ好ましくは30質量%以下である。50質量%未満であると全光線透過率などの光学特性に優れるため好ましい。
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体の中でも、メタクリル酸メチルの単独重合体または、メタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体が、耐熱性、透明性等光学材料に求められる特性を有しているため好ましい。
【0019】
メタクリル酸メチルと共重合させる単量体としては、特にアクリル酸アルキルエステル類が、耐熱分解性に優れ、これを共重合させて得られるメタクリル系樹脂の成形加工時の流動性が高いため好ましい。メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から0.1質量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15質量%以下であることが好ましい。0.2質量%以上14質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以上12質量%以下であることがとりわけ好ましい。
アクリル酸アルキルエステル類の中でも、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが、少量メタクリル酸メチルと共重合させるだけでも前述の成形加工時の流動性の改良効果が著しく得られるため好ましい。
【0020】
また、本発明においてはアイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体の質量平均分子量は、5万〜20万であることが好ましい。重合体の質量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上が好ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下が好ましい。さらに好ましい範囲は7万〜15万である。
【0021】
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体を製造する方法として、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができる。光学用途としては微小な異物の混入はできるだけ避けることが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が好ましい。
溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調製した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0022】
重合反応に用いられる開始剤としては、ラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物を用いることができる。
特に、90℃以上の高温下で重合を行わせる場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤などが好ましい。具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。
これらの開始剤は、例えば、0.005〜5質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0023】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤としては、ラジカル重合において一般に用いられる任意のものが使用でき、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。
これらの分子量調節剤は、重合体の重合度が好ましい範囲内に制御されるような濃度範囲で添加する。
【0024】
アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体(B−2)の中でも、メタクリル酸メチル単独重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体が好ましく、成形加工時の流動性と耐熱性をバランスよく兼ね備えているという点で、とりわけ、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体が好ましい。
また、アクリル系樹脂(B−2)の別の好適な例としては、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルと、他の2種類以上の単量体とを共重合させた3元以上の共重合体が挙げられる。
【0025】
メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルと共重合させる他の単量体成分と
しては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン及びp−t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド等のマレイミド類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル及び(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる
【0026】
3元以上の共重合体の中でも特に好適なものとして、耐熱アクリル系樹脂が好適に挙げられる。
本発明において、耐熱アクリル系樹脂とは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位及び下記一般式[1]で表される化合物単位を含む共重合体である。
【0027】
【化1】

(式中、XはOまたは、N−Rを示す。Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子またはアルキル基またはアリール基またはシクロアルカン基である。)
【0028】
耐熱アクリル系樹脂の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルが挙げられる。なかでも、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0029】
耐熱アクリル系樹脂の第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレン、などが挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。
耐熱アクリル系樹脂の第三の単量体成分である一般式[1]で表される単位のうち、XがOであるものとしては、無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位が挙げられる。これらのなかでも、無水マレイン酸が最も好ましい。また、XがN−Rであるものとしては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド
単量体が挙げられる。
【0030】
耐熱アクリル系樹脂を構成する単量体単位の共重合割合は、耐熱性、光弾性係数の点から、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が40質量%以上90質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が5質量%以上40質量%以下、上記一般式[1]で表される化合物単位5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
より好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が42質量%以上83質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が12質量%以上40質量%以下、上記一般式[1]で表される化合物単位が5質量%以上18質量%以下である。
さらに好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が45質量%以上78質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が16質量%以上40質量%以下、上記一般式[1]で表される化合物単位が6質量%以上15質量%以下である。
また、上記一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合に対する芳香族ビニル化合物単位の割合が1倍以上3倍以下であることが好ましい。
【0031】
耐熱アクリル系樹脂には、上記した必須構成単量体成分に加え、必要に応じ共重合可能な他の単量体を共重合して得られた耐熱アクリル樹脂も包含される。ここで用いられる共重合可能な他の単量体として、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3‐ブタジエン、2‐メチル‐1,3‐ブタジエン(イソプレン)、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン、1,3‐ペンタジエン、1,3‐ヘキサジエン等の共役ジエン等が挙げられ、これらの2種以上を共重合することも可能である。
【0032】
耐熱アクリル系樹脂を製造する方法としては、ラジカル開始剤を使用した塊状重合が適した方法であるが、溶液重合、乳化重合を用いることも可能である。
水系懸濁重合は、無水マレイン酸を単量体成分として用いる場合には、その水溶性が高いため、終始安定な懸濁系を保つことが困難であり、推奨されない。
一般的なラジカル開始剤の中で、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)のようなアゾ系開始剤、及び過酸化系開始剤のうち、ベンゾイルパーオキサイドを該耐熱アクリル系樹脂の重合に使用した場合、得られるポリマーが着色することがある。
【0033】
過酸化系開始剤としてラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを使用すると、耐熱アクリル樹脂(B−3)の着色はない。もっとも、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを使用したポリマーは、耐水性が低く、熱水に浸漬した場合の重量増加が大きく、表面が白化することがある。
したがって、耐熱アクリル系樹脂の重合には、ラウロイルパーオキサイドのようなジアシルパーオキサイドを適用することが好ましい。
耐熱アクリル系樹脂の好ましい重合方法としては、特公昭63−1964号公報に記載の方法が挙げられる。
耐熱アクリル系樹脂のメルトインデックス(ASTM D1238;I条件)は、成形品の強度の観点から10g/10分以下であることが好ましい。より好ましくは6g/10分以下、さらに好ましくは3g/10分以下である。
【0034】
また、3元以上の共重合体の別の好適な例として、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位及び6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体が挙げられる。この6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体は、耐熱性に優れると共に、これから得られる成形体のレタデーション設計が容易であることから、光学材料
に適している。
この6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル、第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物の具体例としては、前述の耐熱アクリル系樹脂において例示したものを用いることができる。
【0035】
また、6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体の第三の単位である6員環構造の酸無水物単位は、不飽和カルボン酸単量体及び、必要に応じて不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他の単量体成分と重合させ、共重合体とした後、かかる共重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコールおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることにより生成することができる。この場合、典型的には共重合体を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の6員環構造の酸無水物単位が生成される。
【0036】
6員環構造の酸無水物単位を生成するための不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。
6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体は、特公平02−26641号公報、特開2006−266543号公報、特開2006−274069号公報、特開2006−274071号公報、特開2006−283013公報、特開2005−162835公報に記載の方法を参照して、組成比を決定し、製造、評価することができる。
【0037】
本発明においては、組成、分子量など異なる複数種類のアクリル系樹脂(B−2)を併用することができる。
本発明においては、固有複屈折が負のフィルムBを構成する材料として、前述したスチレン系樹脂(B−1)、アクリル系樹脂(B−2)それぞれを単独で用いてもよいが、フィルムBを構成する材料として、スチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)の両方を含む樹脂組成物を用いると、フィルムBの光学設計、例えば、面内レタデーションの制御など、が容易になるので好ましい。
この場合、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体はスチレン系樹脂(B−1)との相溶性が高いので、アクリル系樹脂(B−2)として、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体を用いることが特に好ましい。
【0038】
樹脂組成物中のスチレン系樹脂(B−1)の含有量は、樹脂組成物全体に対して0.1〜99.9質量%であることが好ましく、0.2〜90質量%であることがさらに好ましく、20〜80質量%であることがとりわけ好ましい。アクリル系樹脂(B−2)の含有量は、樹脂組成物全体に対して0.1〜99.9質量%であることが好ましく、10〜99.8質量%であることがさらに好ましく、20〜80質量%であることがとりわけ好ましい。
【0039】
また、スチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)の含有量の合計は、樹脂組成物に対して70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがとりわけ好ましい。
さらに、スチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)の質量比((B−1)/(B−2))は、スチレン系樹脂(B−1)、アクリル系樹脂(B−2)の種類にも依存するが、0.1/99.9〜99.9/0.1であることが好ましく、20/80〜80/20であることがさらに好ましく、40/60〜60/40であることがとりわけ好
ましい。
【0040】
本発明においては、フィルムA、フィルムBを構成する材料に、本発明の目的を損なわない範囲で、前述した以外の他の重合体を混合することができる。混合することができる重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられる。
フィルムBに(B−1)、(B−2)以外の他の重合体を混合する場合、その割合は、(B−1)、(B−2)の合計100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。
【0041】
また、本発明においては、フィルムA、フィルムBを構成する材料に、本発明の目的を損なわない範囲で紫外線吸収剤を配合することができる。
混合することができる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
これらの中でも、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、ラクトン系化合物は、これを添加した樹脂組成物の光弾性係数の絶対値を小さくする効果があり好ましい。最も好ましくはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。これらは単独で用いても、2種以上併用して用いても構わない。
【0042】
紫外線吸収剤が、20℃における蒸気圧(P)が1.0×10−4Pa以下である場合に成形加工性に優れ好ましい。さらに好ましい範囲は蒸気圧(P)が1.0×10−6Pa以下であり、とりわけ好ましい範囲は蒸気圧(P)が1.0×10−8Pa以下である。ここで、成型加工性に優れるとは、例えばフィルム成形時に、紫外線吸収剤のロールへの付着が少ないことなどを示す。紫外線吸収剤がロールへ付着すると、例えば成形体表面へ付着し外観、光学特性を悪化させるため、光学用材料として好ましくないものとなる。
【0043】
紫外線吸収剤が、融点(Tm)が80℃以上である場合に成形加工性に優れ好ましい。さらに好ましい範囲は融点(Tm)が130℃以上であり、とりわけ好ましい範囲は融点(Tm)が160℃以上である。
紫外線吸収剤が、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の重量減少率が50%以下である場合に成形加工性に優れ好ましい。さらに好ましい範囲は重量減少率が15%以下であり、とりわけ好ましい範囲は重量減少率が2%以下である。
【0044】
本発明におけるフィルムA、フィルムBは、380nmにおける分光透過率が5%以下で、かつ、400nmにおける分光透過率が65%以上であることが好ましい。紫外領域である380nmの分光透過率が低いほど偏光子や液晶素子の劣化を防ぎ、可視領域である400nm分光透過率が高いほど色再現性に優れるため、光学フィルムとして好ましく用いることができる。フィルムの分光透過率をこの範囲内に設計するには、紫外線吸収剤の量が、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%より多いと、380nmにおける分光透過率が小さくなり、10質量%より少ないと光弾性係数の増加が小さく、成型加工性、機械強度も向上するため好ましい。紫外線吸収剤の量のより
好ましい範囲は、0.3質量%以上8質量%以下、さらに好ましい範囲は0.5質量%以上5質量%以下である。
紫外線吸収剤の量は、核磁気共鳴装置(NMR)によりプロトンNMRを測定し、ピークシグナルの積分値の比から求める方法や、または良溶媒を用い樹脂から抽出後、ガスクロマトグラフ(GC)で測定する方法等により定量できる。
【0045】
また本発明においては、フィルムA、フィルムBを構成する材料に、本発明の目的を損なわない範囲で各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。配合することができる添加剤としては、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
このような添加剤としては、例えば、二酸化珪素等の無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸,ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤、離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン,ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤などが挙げられる。
【0046】
3.フィルムA、Bの製造
本発明におけるフィルムA、Bを構成する材料となる樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて、樹脂成分、必要に応じて耐加水分解抑制剤や上記その他の成分を添加して溶融混練して製造することができる。
本発明におけるフィルムA、Bは、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、押し出し成形、発泡成形等、公知の方法で成形することが可能であり、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。
【0047】
また、例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを押し出し成形することができる。押し出し成形により成形品を得る場合は、混合、配合すべき成分は事前に混合、配合されていても良く、また押し出し成形時に混合、配合することもできる。
また、フィルムA、Bの成形は、上記溶融法だけでなく、良溶媒、例えば、クロロホルム等の溶媒を用いキャスト成形によることも可能である。
さらに必要に応じて、未延伸フィルムを機械的流れ方向(MD)に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向(TD)に横一軸延伸することができる。例えば、工業的には、ロール延伸またはテンター延伸による一軸延伸法、ロール延伸とテンター延伸の組み合わせによる逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸フィルムを製造することができる。
本発明において、フィルムA、Bの厚みは、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは5μm以上である。
【0048】
4.積層光学フィルムの製造
本発明の、固有複屈折が正のフィルムAと、固有複屈折が負のフィルムBとの積層は、工業的に通常用いられる方法を採用することができる。
例えば、フィルムA、Bそれぞれを接着剤を用いて貼り合わせる、いわゆるドライラミネーション法や、一方フィルムに、溶融状態の他方のフィルムを構成する樹脂組成物を、T−ダイを用いて押出して積層する、いわゆるT−ダイ法、同時に溶融させる共押出し法等が挙げられる。また積層させる材料のうち、片方の材料を特に薄くしたい場合はコーティングの手法が有効である。
【0049】
また正の固有複屈折のフィルムAと負の固有複屈折のフィルムBを張り合わせ後、延伸するとそれぞれの遅相軸が自動的に直交させることができる。フィルムの厚みと延伸倍率を考慮することで、所望の積層フイルムが得られる。
フィルムAとフィルムBとを接着剤を用いて貼り合わせる場合は、光学的に等方性の接着剤を用いるのが好ましく、かかる接着剤としては、ポリビニルアルコール系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤などが挙げられる。接着性が悪い場合は、適宜、コロナ処理、プラズマ処理、コーティング処理などの易接着処理を施してから、フィルム同士が接着される。粘着剤の厚みは通常15μm〜30μmである。
本発明の積層光学フィルムには、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【0050】
5.フィルムのレタデーション
本発明において、平面方向のリタデーション(Re)と厚み方向のリタデーション(Rth)を次のように定義する。
Re=(nx−ny)×d、
Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d
ここで、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはそれと垂直方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率である。また、dはフィルムの厚さ(nm)である。
Reの波長分散の測定は白色光源を利用し、それを分光することで、各波長のReを算出する。
【実施例】
【0051】
次に実施例によって本発明を具体的に説明する。
本発明および実施例で用いた評価法を説明する。
(1)評価方法
(I)分子量の測定
GPC(東ソー(株)製GPC−8020、検出RI、カラム昭和電工製Shodex
K−805、801連結)を用い、溶媒はクロロホルム、測定温度40℃で、市販標準ポリスチレン換算で質量平均分子量を求める。
【0052】
(II)面内リターデーション(Re)及び厚み方向リターデーション(Rth)
(面内レタデーション(Re)の測定)
大塚電子(株)社製複屈折測定装置RETS−100を使用し、測定面が測定光と垂直になるように試料を配置した、23℃で回転検光子法により面でリターデーション(Re)を測定・算出する。光源は白色光を用い、分光により各波長のReを得る。
(厚み方向リターデーション(Rth)
Metricon社製レーザー屈折計Model2010を用いて、23℃で光学フィルムの平均屈折率nを測定する。そして、平均屈折率nとフィルム厚さd(nm)を大塚電子(株)社製複屈折測定装置RETS−100に入力し、23℃で厚み方向リターデーション(Rth)を測定・算出する。
【0053】
(2)原料の準備
(I)固有複屈折が正のフィルムA−10、A−20の準備
A−10として、市販のポリカーボネート樹脂フィルム(三菱エンプラ製 ユーピロンフィルム)をインストロン製恒温槽付き引張試験機にて延伸し、所望のリターデーションのサンプルを得た。
またA−20として、市販のCOP樹脂(シクロオレフィン樹脂)フィルム(JSR製
アートンフィルム)をインストロン製恒温槽付き引張試験機にて延伸し、所望のリター
デーションのサンプルを得た。
【0054】
(II)固有複屈折が負のフィルムB−10、B−20の準備
i)スチレン−無水マレイン酸共重合体(B−1)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン91.7質量部、無水マレイン酸8.3質量部の比率で合計100質量部を準備した。(ただし、両者は混合しない。)メチルアルコール5質量部、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部をスチレンに混合し、第1調合液とした。0.95kg/hr.の速度で連続して内容積4Lのジャケット付き完全混合重合機に供給した。
【0055】
一方、70℃に加熱した無水マレイン酸を、第二調合液として0.10kg/hr.の速度で同一重合機へ供給し、111℃で重合を行った。重合転化率が54%となったところで、重合液を重合機から連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出し、スチレン−無水マレイン酸共重合体(B−1)を得た。
得られたスチレン−無水マレイン酸共重合体(B−1)は無色透明で、中和滴定による組成分析の結果、スチレンの共重合割合85質量%、無水マレイン酸単位15質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、2.16kg荷重のメルトフローレート値は2.0g/10分であった。
【0056】
ii)アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む重合体(B−2)
メタクリル酸メチル89.2重量部、アクリル酸メチル5.8重量部、及びキシレン5重量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.0294重量部、及びn−オクチルメルカプタン0.115重量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、アクリル系樹脂(B−2)(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体)ペレットを得た。得られた共重合体のアクリル酸メチルの共重合割合は6.0%、重量平均分子量は145,000、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃3.8kg荷重のメルトフロー値は1.0g/分であった。
【0057】
(フィルムB−10、B−20の製造)
表1に記載の樹脂又は樹脂組成物を用い、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)を用いて、スクリュー回転数、押し出し機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を表1に示す条件に調整し押し出し成形をすることにより未延伸フィルムを得た。フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に垂直な方向をTD方向とした。
そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1に示す条件で1軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、一軸延伸フィルムを得た。
フィルムの組成、押し出し成形条件、フィルムの厚み、面内リターデーション(Re)、厚み方向リターデーション(Rth)を表1に示す。
【0058】
[実施例]
上記で得られたフィルムA−10、A−20、B−10、B−20を用い、これらを遅相軸が直交となるように、厚み約20μmのアクリル系粘着剤で貼り合わせることにより
積層し、本発明に該当する実施例の積層光学フィルムを製造した。
表1により得られた積層フィルムは単体フィルムに比較し、波長に対してReの変化を小さくしたり、低波長におけるReを小さくすることが可能である。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の積層光学フィルムは、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、タッチパネル、太陽電池に用いられる透明基盤等や、その他、光通信システム、光交換システム、光計測システム等の分野における、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなど様々な光学素子を製造するたに使用できる。
特に、本発明の積層光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルムや、1/4波長板、1/2波長板等の位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルムを製造するために好適に用いることができる。
とりわけ、本発明の積層光学フィルムは、波長によるReの変化を小さくおさえるため、または、低波長におけるReが小さくおさえることができるため、色味のつきにくい光学設計に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有複屈折が正のフィルムAと、スチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)とを含む樹脂組成物からなる固有複屈折が負のフィルムBとを積層した積層光学フィルム。
【請求項2】
固有複屈折が正のフィルムAの遅相軸とスチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)とを含む樹脂組成物からなる固有複屈折が負のフィルムBの遅相軸が直交している請求項1に記載の積層光学フィルム。
【請求項3】
リターデーションが異なり、スチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)とを含む樹脂組成物からなり、固有複屈折が負のフィルムBを積層した積層光学フィルム。
【請求項4】
リターデーションが異なり、スチレン系樹脂(B−1)とアクリル系樹脂(B−2)とを含む樹脂組成物からなり、固有複屈折が負のフィルムBの遅相軸が直交している請求項3に記載の積層光学フィルム
【請求項5】
波長400nmのときのリターデーションをRe(400)、波長550nmのときのリターデーションをRe(550)、波長800nmのときのリターデーションをRe(800)としたき、
(Re(400)/Re(550))<1.10 かつ (Re(400)/Re(800))<1.18 である請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層光学フィルム。
【請求項6】
厚み方向リターデーション(Rth)が−500nm以上500nm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層光学フィルム。
【請求項7】
前記スチレン系樹脂(B−1)が、スチレン−メタクリル酸共重合体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層光学フィルム。
【請求項8】
前記スチレン−メタクリル酸共重合体中のメタクリル酸の共重合割合が、0.1〜50質量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層光学フィルム。
【請求項9】
前記スチレン系樹脂(B−1)が、スチレン−無水マレイン酸共重合体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層光学フィルム。
【請求項10】
前記スチレン−無水マレイン酸共重合体中の無水マレイン酸の共重合割合が、0.1〜50質量%である請求項1〜6又は9のいずれか1項に記載の積層光学フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層光学フィルムからなる偏光板保護フィルム。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層光学フィルムからなる位相差フィルム。

【公開番号】特開2008−268913(P2008−268913A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67315(P2008−67315)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】