説明

積層反射体、認証カード、バーコードラベル、認証システム、及び、認証領域形成システム

【課題】位相差フィルムに部分的に分子配向の緩和を生じさせて認証情報の潜像を形成するに際して、複雑な工程を不要とし、かつ表面への凹凸の発生により潜像が可視化されてしまうことのない積層反射体を提供する。
【解決手段】 観察波長λに対する位相差Δnd
m×λ/4−λ/16≦Δnd≦m×λ/4m+λ/16(mは正の奇数)
となるように設定された位相差フィルム10と、この位相差フィルム10の背面側に積層される金属反射板11とを有する積層反射体1であって、位相差フィルム10に予め所定の認証情報を形成した認証領域10aを、その位相差Δnd2
n×λ/4−λ/8≦Δnd2≦n×λ/4+λ/8(nは0又は正の偶数、ただしn<m)
となるように形成し、さらに、位相差フィルム10の正面側に光拡散層12を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪意を持って偽造や書き換えなどの行為をなす第三者や偽造製品を販売する第三者に対し、その隠密性と認識性により、真贋判定の容易な認証情報を有する積層反射体及びこの積層反射体を用いた認証カード、バーコードラベル、認証システム、及び、認証領域形成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレジットカードやIDカードには認証情報が記録されており、その真贋の判別が、カードの背面に設けられた磁気記録部や前面に貼り合わせたホログラム等により行われてきた。例えば、ホログラム画像による認証は、下記特許文献1,2にあげる米国特許に開示されている。
【0003】
また、下記特許文献3に開示されるパスポートでは、高分子液晶材料から形成される層に偏光板を介さない目視では視認不能な潜像を形成して、その下面に反射層を形成する。そして、偏光を照射して反射光を偏光板を介して観察することによって、潜像として形成されたパターンの認証を行う方法を開示している。
【0004】
また、位相差フィルムに潜像を形成する手段としては、下記特許文献4に開示されるように、位相差フィルムにガラス転移点以上の熱を部分的に付与して、その部分の位相差(分子の配向度)を低下させる方法や、位相差フィルムを溶解又は膨潤させうる薬液を塗布することにより、その部分の位相差を低下させる方法がある。
【0005】
さらに、下記特許文献5に開示される光学素子は、位相差層の光学軸の方位角を変えて潜像を形成し、偏光板を介した観察で認証を行う方法がある。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5574790号
【特許文献2】米国特許第5393099号
【特許文献3】特開2001−232978号公報
【特許文献4】特開平8−334618号公報
【特許文献5】特表2001−525080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に開示されるクレジットカード等の認証の場合、ホログラム部分の偽造が問題になってきている。ホログラムパターンの場合、μmオーダーの凹凸にアルミニウム等の高反射率の金属薄膜を形成して製造する。また、ホログラムパターンは目視可能であり、切削装置があれば、模造が可能となる場合がある。
【0008】
前記特許文献3の場合、潜像の形成は、サーモトロピックな高分子液晶層への熱過程などを用いて作製することが開示されている。この方式の場合、高分子液晶の配向手段が圧力等の外力によるので、充分な配向性を得るためには高い圧力での加圧や十分な「ずり応力」が必要である。従って、加熱パターンに応じた位相差の変調された潜像を得るためには、液晶の配向は面内に複屈折を持つようにする必要があり、そのためには遅相軸が面内の特定方向を持つように液晶状態で液晶に十分な「ずり応力」をかける必要がある。そのため、加熱下で基材や液晶層自体に圧力がかかるため、基材の変形や液晶層へのダメージの発生などの問題があり、例えば、押し当てた刻印が凹凸のパターンとなって偏光板を用いなくても潜像が可視化され見えてしまうという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献4に開示される方法でも潜像を作ることはできるが、位相差フィルムの位相差の解消を行なおうとすると、位相差フィルムの温度をガラス転移点以上に加熱して、さらに所定時間以上保持する必要がある。位相差フィルムのガラス転移点以上の加熱により、前述したように位相差フィルムの分子配向の緩和が生じ、表面形状への凹凸の発生によって、潜像が可視化されて見えてしまうという問題があった。これは、非接触状態での加熱を行った場合も同様であり、無圧力の下でも配向緩和によってフィルムの恒久的な変形が生じる。
【0010】
さらに薬液を塗布する場合も同様で、位相差フィルムの分子配向緩和が生じるということは、位相差フィルムを形成する高分子に対し高度な自由度を与える必要があり、結果として緩和に伴って表面形状の変形が生じることとなっていた。薬液塗布の場合、薬液自体の滲入でこれを制御できるものの、表面からの滲入であるため、形状緩和を伴わない程度の場合、位相差を十分に小さくすることができない。すなわち、潜像のコントラストを大きくできないという問題があった。さらに、薬液膨潤の場合、位相差フィルムの厚さ方向への滲入と同時に幅方向への広がりも生じるので、位相差の変化した部分と変化していない部分で形成される潜像の解像度が得られないという問題があった。
【0011】
特許文献5に開示される方法の場合、光配向膜を形成し、所定の方向を向いた偏光紫外線をマスクを介してあるいは走査して照射した後、さらに他の方向を向いた偏光紫外線を照射して、重合性液晶もしくは液晶高分子薄膜を形成し、これを配向・固定させる工程が必要であって、非常に複雑な工程を有する。このとき、液晶の配向方向を決定する光配向膜は高価であり、さらに重合性液晶や液晶高分子も比較的高価である。さらに、異なる方向の偏光方向を持つ一様な強い偏光紫外線光源を2つ用意する必要があるが、効率が低く装置自体も高価である。液晶層は、一般的に塗工工程によって作製されるが、液晶自体の複屈折の大きさが大きいため、一定の位相差を得ようとすると薄膜の厚み制御が困難であった。
【0012】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、位相差フィルムに部分的に分子配向の緩和を生じさせて認証情報の潜像を形成するに際して、複雑な工程を不要とし、かつ表面への凹凸の発生により潜像が可視化されてしまうことのない積層反射体、及び、この積層反射体を用いた認証カード、バーコードラベル、認証システム、及び、認証領域形成システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため本発明に係る積層反射体は、
観察波長λに対する位相差Δndがm×λ/4(mは正の奇数)となるように設定された位相差フィルムと、
この位相差フィルムの背面側に積層される反射手段とを有する積層反射体であって、
位相差フィルムに予め所定の認証情報を形成した認証領域を、前記位相差Δndとは異なる位相差Δnd2となるように形成し、さらに、
位相差フィルムの正面側に光拡散層を形成したことを特徴とするものである。
【0014】
この構成による積層反射体の作用・効果を説明する。積層反射体は、位相差フィルムと、この位相差フィルムの背面側に積層される反射手段と、位相差フィルムの正面側に形成される光拡散層を有する。位相差フィルムには予め所定の認証情報に基づく認証領域を形成するようにしている。位相差フィルムは、観察波長λに対する位相差Δndがm×λ/4(mは正の奇数)となるように設定されている。そこで、例えば、この位相差フィルムの遅相軸に対し45゜の偏光方向を持つ直線偏光(観察光)を偏光板を介して入射すると、前記の位相差を有することから直線偏光が円偏光に変換される。この円偏光は、位相差フィルムの背面側に設けた反射手段により、反対の極性の円偏光に変換されて反射される。この反射光が再度位相差フィルムを透過することで、元の直線偏光と略直交する角度の直線偏光となる。従って、偏光板を透過することができず黒い表示となる。すなわち、位相差フィルムの非認証領域については黒表示が観察される。
【0015】
一方、認証情報が形成される認証領域については、非認証領域の位相差Δndとは異なる位相差Δnd2となるように形成されている。認証領域の形成は、例えば、その部分をガラス転移点以上の温度に加熱することで、配向緩和が生じ、元の位相差Δndよりも小さな位相差Δnd2に変化する。従って、先ほどと同じ直線偏光を入射させると、非認証領域で得られる円偏光よりも楕円率の小さな楕円偏光となるため、反射手段で反射したときの偏光の反転は小さくなる。従って、再び位相差フィルムを透過した偏光は、元の直線偏光とは直交する態様にはならないため、非認証領域からの反射光に比べて認証領域からの反射光の方が透過率が高くなる。従って、認証領域に形成されている認証情報を視認することができる。また、認証情報は、偏光板を用いることにより確認できるものであり、通常光により(偏光板のない状態で)確認することはできない。
【0016】
また、位相差フィルムの正面側には、光拡散層が形成されている。例えば、非認証領域を加熱し、スタンプで押圧することにより、特に非認証領域と認証領域の境界部分で凹凸が生じ、これが通常光下においても見えてしまうことがある。そこで、光拡散層を形成することで、そのような凹凸を実質的に見えないようにすることができる。その結果、位相差フィルムに部分的に分子配向の緩和を生じさせて認証情報の潜像を形成するに際して、表面への凹凸の発生により潜像が可視化されてしまうことのない積層反射体を提供することができる。
【0017】
本発明に係る位相差フィルムの前記位相差Δnd1は、±λ/16の誤差で製造されることが好ましい。
【0018】
誤差が±λ/16を超えると、前述の観察方法において、非認証領域における反射光が偏光板を透過する量が大きくなり、認証領域とのコントラストが小さくなる。誤差を±λ/16に抑えることで、所定のコントラストを得ることができ、観察時における認証情報を認識(あるいは読み取り)しやすくなる。
【0019】
本発明に係る認証領域における位相差Δnd2がn×λ/4(nは0又は正の偶数、ただしn<m)となるように設定されていることが好ましい。
【0020】
このような位相差Δnd2に設定し、先ほどと同じ直線偏光を位相差フィルムに入射すると、位相差フィルムを透過した偏光も直線偏光であるから、反射手段における反射において偏光変換が生じない。従って、反射手段により反射され再度位相差フィルムを透過してきた反射光は、入射時と同じ偏光方向の直線偏光となるため、ほとんど偏光板を透過することになる。すなわち、非認証領域はほとんど反射光が透過しないのに対して、認証領域はほとんど反射光が透過するため、最大のコントラストを得ることができ、認証情報を容易に認識することができる。
【0021】
本発明に係る認証領域の位相差Δnd2は、±λ/8の誤差で製造されることが好ましい。
【0022】
誤差が±λ/8を超えると、前述の観察方法において、偏光板を透過する反射光の量が減り、非認証領域とのコントラストが小さくなる。誤差を±λ/8に抑えることで、所定のコントラストを得ることができ、観察時における認証情報を認識しやすくなる。
【0023】
特に、前記認証領域の位相差Δnd2は、λ/8以下であることが好ましい。位相差の大きさの制御のしやすさという観点から、前述した式において、m=1、n=0とし、位相差Δnd2の誤差がλ/8以下とするのがよい。これにより、所望の位相差の認証領域を簡単に形成することができ、かつ、コントラストも確保することができる。
【0024】
本発明に係る認証領域は、認証情報に対応した加熱パターンを有するスタンプを位相差フィルムに押圧させるか、ごく近傍に配置させることで、位相差フィルムの配向を熱的に緩和することにより形成されることが好ましい。
【0025】
認証情報を有する認証領域の形成は加熱パターンを暴露することで行うことができる。例えば、予めパターン化された高温領域を有するスタンプを位相差フィルムに押圧するか、位相差フィルムのごく近傍に配置させることで配向を熱的緩和する方法である。形成されたパターンは、所定の認証情報を表わすことになる。予め、スタンプを用意しておけばよく、例えば特許文献5の構成に比べると、簡素な工程により認証領域を形成可能である。
【0026】
本発明に係る認証領域は、認証情報に対応してパターン化された光線を位相差フィルムに露光させるか、光線を位相差フィルムに対して走査することで所定のパターンを露光形成させて、位相差フィルムの配向を熱的に緩和することにより形成されることが好ましい。
【0027】
加熱パターンを暴露する他の方法として、パターン化された光線を位相差フィルムに露光するか、光線を位相差フィルムに走査することで、加熱パターンを形成しながら露光する方法がある。このように光線の有する熱エネルギーにより、位相差フィルムの配向を熱的に緩和することができる。位相差フィルムに露光する光線は、少なくとも位相差フィルムや反射手段に吸収されて熱に変化する必要があり、これらにより吸収可能な波長を有する光線を使用することがより好ましい。例えば、赤外線レーザー、炭酸ガスレーザー、YAGレーザーなどが使用される。
【0028】
本発明に係る認証領域に対する加熱温度は、位相差フィルムのガラス転移点(Tg)以上の温度であることが好ましい。配向の熱的緩和の観点から言うと、加熱温度は通常はTg+20℃以上、好ましくは。Tg+30℃以上である。さらに好ましくは、TG+50℃以上である。かかる熱的緩和過程では、加熱により位相差フィルムを構成する分子がより動ける状態となり、その配向状態に変化が生じ、よりランダムな配向状態となる。特に、Tgを大きく超える温度での加熱であれば、この熱的緩和過程において位相差フィルムは非常に軟らかい状態になり、配向状態の変化に伴って表面状態も変化し凹凸が形成される。これにより、認証情報を形成することができる。
【0029】
本発明に係る認証情報の例としては、1次元もしくは2次元バーコードにより形成されるものがある。通常のバーコードラベルは、印刷工程により作製されるが、通常光下において容易に視認可能である。視認可能な状態では、バーコード暗号の位置の特定、情報の読み取りが容易となり、簡単に複製されてしまう。かかるバーコード情報を本発明による積層反射体を用いて構成すれば、情報の複製を困難にすることができる。
【0030】
本発明において、光拡散層の光拡散要素の大きさが認証領域に形成されるパターンの大きさよりも小さいことが好ましい。特に、非認証領域と認証領域の境界部分に凹凸が形成されることがあり、通常光下においても認証情報が見えてしまうことがある。そこで、光拡散層を設けているが、光拡散層における光拡散要素がパターンよりも大きいと、凹凸形状を実質的に見えなくさせるという効果(隠蔽効果)が得られなくなる。そこで、光拡散要素の大きさは、パターンの大きさよりも小さくすることが好ましい。
【0031】
本発明に係る光拡散要素は、光拡散層の表面の凹凸形状、及び/又は、光拡散層に分散した粒子状物であり、その大きさは前記パターンの大きさの1/4よりも小さいことが好ましい。
【0032】
光拡散要素の大きさは、パターンの大きさよりも小さいほど効果があるが、特に1/4よりも小さくすることで隠蔽効果をより発揮させることができる。
【0033】
本発明に係る光拡散層は、位相差フィルムの正面側に密着して形成することにより、より隠蔽効果を発揮することができる。
【0034】
本発明に係る光拡散層は、透明な樹脂と、それに分散した透明な微粒子との混合物により形成されることが好ましい。かかる構成により、光を散乱させることができ、凹凸形状を隠蔽することができる。
本発明に係る反射手段が、回折格子でできた位相型ホログラムで構成されることが好ましい。かかる位相型ホログラムを用いることで、偽造困難性を高めることができる。
【0035】
本発明に係る積層反射体は、認証カードに設けることができる。認証カードとしては、例えば、プリペイドカード、クレジットカード、IDカードなどがあげられる。また、パターンが1次元もしくは2次元のバーコードであるバーコードラベルに設けることもできる。これらの認証カードの真贋を証明するために、接着剤や粘着剤を用いて本発明に係る積層反射体を貼り付けて使用することができる。
【0036】
本発明に係る積層反射体を利用して認証システムを構成することができ、
積層反射体に対して光を照射する光源と、
積層反射体からの反射光を読み取るための受光部と、
積層反射体と受光部の間に配置される直線偏光板とを有し、この直線偏光板の吸収軸が積層反射体を構成する位相差フィルムの光学軸とは異なる角度となるように設定されることを特徴とするものである。
【0037】
この認証システムを用いることにより、潜像として形成されている認証情報を可視化することができる。読み取り用の光源としては、観察波長を有する光を出力するものを用いる。光源と積層反射体の間には、必要に応じて偏光板を配置し、直線偏光に変換する。レーザー光源のように直線偏光の振動を有する光源の場合は、上記偏光板を配置する必要はない。また、積層反射体と受光部の間の光路中に直線偏光板を配置し、その吸収軸が位相差フィルムの光学軸とは異なるように設定されている。従って、既に述べてきたように、認証領域からの反射光と、非認証領域からの反射光とでコントラストが生じ、直線偏光板を介して受光部により認証情報を読み取ることができる。直線偏光板がない状態では、認証情報は潜像のままであり、受光部による読み取りを行うことはできない。
【0038】
本発明において、前記角度を略45゜とすることで、大きなコントラストを得ることができ、認証情報の読み取りをし易くすることができる。
【0039】
本発明において、受光部と積層反射体の間に配置されるピンホール又はスリットと、
このピンホール又はスリットを介して積層反射体に形成されている認証情報を走査する走査手段とを備え、
前記受光部により走査された認証情報を受光するように構成することが好ましい。
【0040】
認証情報の読み取りは、積層反射体からの反射光をピンホール又はスリットを介して受光部で受光することでも行うことができる。この場合、ピンホール又はスリットを積層反射体に対して相対的に移動させることで、認証情報を走査読み取りすることができる。例えば、ピンホール又はスリットを積層反射体に対して移動させるか、ピンホール又はスリットを固定して積層反射体を移動させることで、認証情報を走査読み取りすることができる。
【0041】
本発明に係る積層反射体に認証領域を形成するために用いられる認証領域形成システムは、位相差変化が可能な温度以上に加熱可能な加熱手段を有することを特徴とするものである。加熱手段の具体例としては、既に述べてきたように加熱パターンを有するスタンプや、レーザーなどの光線を用いた露光手段などがあげられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
<積層反射体の構成>
本発明に係る積層反射体の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、積層反射体1の断面構造を示す模式図である。図1において、位相差フィルム10の背面側には金属反射板11(反射手段に相当)が積層され、位相差フィルム10の正面側にはカバーコート層12(光拡散層に相当)が形成される。また、位相差フィルム10と金属反射板11とを貼り付けるための第1粘着剤層13が設けられると共に、金属反射板11の背面側にも第2粘着剤層14が設けられる。
【0043】
位相差フィルム10は、その位相差Δndが次式(1)となるように作製される。
【0044】
m×λ/4−λ/16≦Δnd≦m×λ/4+λ/16・・・(1)
(λは観察波長:mは正の奇数)
上記式において、±λ/16は製造誤差を表している。
【0045】
位相差フィルム10には、認証情報が形成される認証領域10aと、それ以外の非認証領域10bが形成される。認証領域10aには、認証をするための認証情報が潜像として記録される。認証情報は、通常光下では観察することはできないが、特別な環境下において観察可能となるように形成されている。上記(1)式は、非認証領域10bにおける位相差Δndであり、認証領域10aにおける位相差Δndは、次式(2)となるように形成される。認証領域10aの形成方法については、後述する。
【0046】
n×λ/4−λ/8≦Δnd≦n×λ/4+λ/8・・・(2)
(λは観察波長:nは0又は正の偶数、ただしn<m)
認証領域10aのより好ましい位相差Δndは、次式(3)で表わされる。
【0047】
Δnd≦λ/8・・・(3)
すなわち、式(2)において、n=0とした場合に相当する。
【0048】
<観察原理>
次に、認証情報を観察する場合の原理について、図2を参照しながら説明する。まず、位相差フィルム10に対して所定の偏光方向を有する直線偏光L1を入射させる。位相差フィルム10の遅相軸xと進相軸yを図2に示しているが、偏光方向が遅相軸xに対して所定の角度傾斜した状態で入射させる。最も好ましくは、偏光方向が遅相軸xに対して45゜傾斜した状態で入射させることである。以下の説明は、45゜に設定しているものとして説明する。また、位相差フィルム10の非認証領域10bにおける位相差Δndはλ/4(m=0すなわち、1/4波長板)であるものとして、認証領域10aにおける位相差Δnd2は0(n=0)であるものとして説明する。
【0049】
図2に示すように、非認証領域10bでは、直線偏光L1が入射して位相差フィルム10を透過すると円偏光L2に変換される。この円偏光L2が金属反射板11により反射されると、反対極性の円偏光L3となる。この円偏光L3が再び位相差フィルム10を透過すると、直線偏光L4の反射光として出射されるが、この反射光の偏光方向は、入射光の偏光方向に対して直交した方向となっている。そこで、観察用の偏光板2をその吸収軸が反射光の偏光方向と一致するように配置すると、反射光は偏光板2を通過することができない。従って、非認証領域10bは黒表示として観察される。
【0050】
次に、認証領域10aでは、同じ直線偏光L1が入射しても位相差がないため、金属反射板11における反射前後においても同じ直線偏光L2’,L3’のままであり、偏光方向も変わらない。かかる直線偏光L3’は位相差フィルム10から出射された後も入射時と同じ偏光方向の直線偏光L4’である。従って、反射光は、観察用の偏光板2に吸収されず透過するので、図2に示すように認証領域10aに形成された潜像「N」が可視化された状態で観察することができる。
【0051】
また、上記式(2)の範囲であれば、認証領域10aに入射された直線偏光L1は、認証領域10aを透過すると楕円偏光となるが、非認証領域10bにおける円偏光に比べると楕円率は小さくなる。従って、金属反射板11における反転の程度は非認証領域10bの場合と比べると、小さくなる。従って、その反射光の大部分が偏光板2を透過することができる。
【0052】
非認証領域10bの位相差を式(1)の範囲となるとなるように製作し、かつ、認証領域10aの位相差を式(2)(3)の範囲となるように製作することで、認証領域10aと非認証領域10bにおけるコントラストを十分に確保することができる。従って、認証情報を容易に読み取ることができる。式(1)に関して言えば、誤差が±λ/16のレベルであると、反射光のうちごく一部が偏光板2を透過することになるが、認証情報の読み取りに関しては問題となるレベルではないと考えられる。また式(2)に関して言えば、誤差が±λ/8のレベルであると、反射光のうち一部が偏光板2を透過しないことになるが、認容の読み取りに関しては問題となるレベルではないと考えられる。
【0053】
なお、位相差フィルム10の製造にあたり、位相差Δndの大きさを制御し易いのはm=1(すなわち、1/4波長板とする場合)であり、n=0とする場合である。この場合、認証領域10aの位相差Δnd2は式(3)で表わすことができる。
【0054】
<位相差フィルムの具体例>
位相差フィルムとしては、高分子素材を一軸または二軸延伸処理してなる複屈折性フィルム、液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。延伸処理は、例えばロール延伸法、長間隙沿延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法などにより行うことができる。延伸倍率は、一軸延伸の場合には1.1〜3倍程度が一般的である。位相差フィルムの厚さも特に制限されないが、一般的には10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0055】
前記高分子材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルビニルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリカーボネイト、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、セルロース系重合体、またはこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、ブレンド物などがあげられる。これら高分子素材は延伸等により配向物(延伸フィルム)となる。
【0056】
前記液晶ポリマーとしては、例えば、液晶配向性を付与する共役性の直線状原子団(メソゲン)がポリマーの主鎖や側鎖に導入された主鎖型や側鎖型の各種のものなどがあげられる。主鎖型の液晶性ポリマーの具体例としては、屈曲性を付与するスペーサ部でメソゲン基を結合した構造の、例えばネマチック配向性のポリエステル系液晶性ポリマー、ディスコティックポリマーやコレステリックポリマーなどがあげられる。側鎖型の液晶性ポリマーの具体例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートまたはポリマロネートを主鎖骨格とし、側鎖として共役性の原子団からなるスペーサ部を介してネマチック配向付与性のパラ置換環状化合物単位からなるメソゲン部を有するものなどがあげられる。これら液晶性ポリマーは、例えば、ガラス板上に形成したポリイミドやポリビニルアルコール等の薄膜の表面をラビング処理したもの、酸化ケイ素を斜方蒸着したものなどの配向処理面上に液晶性ポリマーの溶液を展開して熱処理することにより行われる。
【0057】
<認証領域の形成>
次に、位相差フィルム10に認証領域10aを形成する方法を説明する。異なる位相差となるようにする代表的な方法は、加熱パターンを暴露する方法である。位相差フィルム10に対して、ガラス転移点(Tg)以上の温度に加熱することで、配向の熱的緩和により実質上、元の位相差よりも小さな位相差に変化する。図2には、「N」の文字(加熱パターンに相当)が認証情報として形成されているが、この文字に対応する加熱パターンを暴露することで、認証領域10aを形成可能である。
【0058】
例えば、図3に示すように、パターン形状5aを有するスタンプ5を加熱し、そのパターン形状5aを位相差フィルム10に押し付けることで、配向の熱的緩和を生じさせて認証領域10aを形成できる。あるいは、同じスタンプ5を押圧するのではなく、位相差フィルム10のごく近傍に配置することで熱的緩和を生じさせることもできる。一例として、位相差フィルム20μm、反射層にAlを20μmとPETを100μm、スタンプ5の温度を180℃、押し付ける時間を0.1秒とした場合に良好な認証領域が形成できる。
【0059】
高温のスタンプ5を用いる代わりに、光線の熱エネルギーを利用して配向の熱的緩和を生じさせることもできる。すなわち、予めパターン化された光線を位相差フィルム10に対して露光することで、熱的緩和を生じさせることができる。例えば、図4に示すように、パターン形状3aが形成されたマスク3を用意し、このマスク3を介して光源4により露光することで、熱的緩和を生じさせ潜像を形成できる。また、マスク3を用いるのではなく、図5に示すように、光線を位相差フィルム10に対して走査することで、認証情報を形成することも可能である。図5では、レーザー光源6、光変調素子7、ポリゴンミラー8、fθレンズ9からなる光学系を用いて、光線を走査することで、認証情報を形成できる。認証情報の電子化データを光変調素子7に送ることで、レーザー光を光変調させ認証情報の内容に応じた強弱を生じさせることができる。なお、レーザー光は位相差フィルム10の主走査方向Aにのみ走査されるので、位相差フィルム10自身を主走査方向Aと直交する副走査方向Bに移動させることで、二次元の認証領域10aを形成することができる。ポリゴンミラー8の代わりにガルバノミラーを用いても良く、この場合、フィルムの走査にかかわらずパターンを形成できる。
【0060】
位相差フィルム10を露光させるための光線は、少なくとも、位相差フィルム10や金属反射板11に吸収されて熱エネルギーに変換させる必要がある。従って、これら位相差フィルム10や金属反射板11が吸収可能な波長を有する光線を使用することが好ましい。例えば、赤外線レーザーが好適である。レーザーの方式としては、炭酸ガスレーザーやYAGレーザーなどが好適である。一例として、位相差フィルム20μm、金属反射板にAlを20μm とPETを100μm、レーザーを炭酸ガスレーザー30W級、出力45%、スキャンスピード3000mm/秒とした場合に良好な認証領域が形成できる。
【0061】
以上のような熱的緩和を生じさせるためには、位相差フィルム10をガラス転移点(Tg)以上に加熱する必要がある。熱的緩和の観点から言うと、通常はTg+20℃以上、好ましくはTg+30℃以上、より好ましくはTg+50℃以上である。このような熱的緩和工程においては、加熱によって、位相差フィルム10を構成する分子は、より動ける状態となり、その配向状態に変化が生じ、よりランダムな配向状態となる。また、Tgを大きく超える温度での加熱であるので、熱的緩和工程においては位相差フィルム10は非常に柔らかい状態となり、配向状態の変化に伴って表面状態も変化して凹凸が生じる。
【0062】
特に、図3に示したような加熱スタンプ5を押圧して認証領域10aを形成する場合に、上記の点は顕著となる。スタンプ5によって押し付けられた部分は、押し込み圧力により一旦凹み、スタンプ5のパターン部の側面に余剰樹脂が押し出される。次に、スタンプ5が位相差フィルム10から離れる際に、これらの樹脂が引っ張られ、凹凸はより顕著になる。レーザーなどの非接触型熱源を用いた場合も、位相差フィルム10自体の応力緩和によって凹凸が生じてしまう。
【0063】
このような凹凸が生じてしまうと、特定の観察波長λを有する観察光を用いなくても、認証情報が読み取れてしまう可能性がある。通常光下の反射光により認証情報を解読されてしまうと、偽造等を容易に許す結果となってしまうので、凹凸が生じたとしても、これを隠蔽させるような手段を講じることが必要とされる。そこで、本発明では、位相差フィルム10の正面側に光拡散層を形成するようにしている。
【0064】
<光拡散層の構成>
本発明では、位相差フィルム10の正面側に光拡散層を形成し、凹凸を外部から実質的に見えないようにして、不可視性を高めている。光拡散層は、これを形成するために用いられる光拡散要素により、凹凸の特に境界を曖昧な状態にする。また、位相差フィルム10に形成された凹凸を光拡散層12の平坦化効果によって、実質的に不可視化するものである。従って、光拡散層12は、位相差フィルム10に対して密着した状態で設けられることが好ましい。単に、光拡散性と隠蔽性の観点からいえば、光拡散層12を認証領域10aから離した状態で設けるのがよいが、認証情報の読み取りの解像度の点から言うと、光拡散層12を認証領域10aから離すよりも、密着させる方が好ましい。
【0065】
光拡散層12の光拡散要素は、光拡散層12の表面に形成される微細凹凸形状か、光拡散層12の内部に分散される粒子状物である。これら光拡散要素により、認証領域10aの凹凸の境界を散乱させて見えにくくすることができる。
【0066】
光拡散層12としては表面に微細凹凸を形成する場合の例としては、低屈折率の透明樹脂中に高屈折率の透明粒子を分散させた表面微細凹凸の塗布硬化層や気泡を分散させた透明樹脂による表面微細凹凸の塗布硬化層、基材表面を溶媒を介し膨潤させてクレイズを発生させ表面微細凹凸構造としたものや不規則な凹凸面を有する透明樹脂層、あるいはそれらの層を透明な支持基材、とりわけ、透明フィルムに設けたものなどがあげられる。
【0067】
前記の不規則な凹凸面は、基材やその上に設けた透明樹脂の塗布層の表面に粗面化処理したロールや金型等の粗面形状を転写する機械的方式又は/及び化学的処理方式などの適宜な方式で形成することができる。前記の透明粒子には例えば平均粒径が0.5〜30μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等の導電性のこともある無機系粒子や、架橋又は未架橋ポリマー等の有機系粒子などの適宜なものを1種又は2種以上用いうる。なお光拡散層は、図1の例の如く単層物として形成することもできるし、透明フィルム等の透明な支持基材に表面微細凹凸層12bを設けたものなどの複層物として形成することもできる。
【0068】
認証領域10aに形成される凹凸を見えにくくするためには、光拡散層12の厚みを位相差フィルム10の認証領域10aに形成された凹凸の最大高さH(図6参照)よりも大きくするほうがよい。この凹凸を平坦化することにより、通常光下でのパターンを見えにくくする。このとき、凹凸自体の存在を見えにくくするため、位相差フィルム10の屈折率と光拡散層12の屈折率とは、できるだけ近い方が好ましい。これにより、界面反射の大きさを小さくすることができ、通常光による反射光の観察で凹凸の存在を見えにくくすることができる。両者の屈折率の差は、0.1以下とするのが好ましく、0.05以下とするのがより好ましく、0.03以下とするのが更に好ましい。
【0069】
光拡散層12の光拡散要素の大きさは、加熱パターンの大きさよりも小さくすることが好ましい。加熱パターンの大きさは、図3においてWで示されており、文字の場合は、その文字線幅であり、バーコードの場合はバーの幅である。加熱パターンの大きさよりも光拡散要素が大きいと、隠蔽効果を発揮することが難しい。さらに好ましくは、光拡散要素の大きさは、加熱パターンの大きさの1/4以下にすることである。かかる範囲とすることで、隠蔽効果をより発揮することができる。
【0070】
光拡散層12の形成方法(製造方法)については、特定の方法に限定されるものではない。例えば、透明樹脂に透明な微粒子を分散した混合物を、予め加熱パターンを形成した位相差フィルム10の表面に塗布硬化する方法、予め加熱パターンを形成した位相差フィルム10に透明な樹脂を塗布し、予め光拡散要素の凹凸を形成した型を押し当てて硬化させた後、型を引き剥がす方法などである。かかる光拡散層12の形成により、加熱パターン(認証情報)は偏光板を使用することにより初めて観察可能となる。
【0071】
光拡散層12の材質については、特に限定されるものではなく、例えば、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などが用いられるが、乾燥や硬化過程で樹脂収縮が大きいと、下層の位相差フィルム10の形状が反映されてしまい、光拡散層12の形成効果が小さくなるので好ましくない。従って、樹脂分はできるだけ多い方が収縮が小さくてよい。より好ましくは、無溶剤がよい。また、硬化収縮が小さいほうが好ましい。硬化収縮は、10%以下、好ましくは8%以下、更に好ましくは5%以下である。
【0072】
位相差フィルム10の材質については既に述べた通りであるが、延伸によって一定の位相差が形成される熱可塑性樹脂が好ましい。また、ガラス転移点(Tg)が低すぎると、加熱パターンの安定性が低くなり好ましくない。また、Tgが高すぎると、加熱緩和性が低くなり好ましくない。好ましいTgの範囲は、90℃以上180℃以下である。例をあげると、ポリカーボネート樹脂、ノルボルネン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などである。従って、熱硬化型樹脂や熱架橋型樹脂あるいはUV硬化型樹脂は好ましくない。また、加熱温度で着色しない材料が好ましい。
【0073】
位相差フィルム10と金属反射板11とを貼り付ける手段として粘着剤や接着剤が用いられるが、これらの材料については特に限定されるものではない。観察波長λに対して透明であればよい。また、耐熱性については高い方が好ましく、加熱パターンの暴露で位相差フィルム10と金属反射板11との間に剥がれ、変形、変色などが生じないものであれば何でも良い。
【0074】
粘着剤としては、例えば、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性や接着性の粘着特性を示すものが好ましい。具体的な例としては、アクリル系ポリマーやシリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーを適宜ベースポリマーとして調製された粘着剤などがあげられる。
【0075】
また、光拡散層12や位相差フィルム10は透明な材質が好ましいが、これは認証情報の読み取りを行うための観察波長λに関して透明であればよいという意味である。従って、観察波長λ以外の波長に関して光吸収があってもかまわなく、観察波長λ以外の波長で光拡散層12の表面に適宜の形状・模様を印刷してもよい。このような表面印刷は、認証情報の不可視化の点で好ましい。
【0076】
<金属反射板>
金属反射板11の材質については、特に限定されるものではない。好ましくは、アルミニウム、ステンレス、銅、クロムなどの金属箔が例としてあげられる。認証領域10aの形成を良好に行うためには、金属箔の厚みは厚い方がよい。また、熱拡散性と熱容量が大きい方が加熱パターンに暴露する際に、位相差フィルム10の熱的緩和される領域が一定の範囲にとどまるため好ましい。特に、金属反射板11(金属箔)の背面に裏打ちとしての樹脂基材(PETフィルム等)を設けると、その収縮が小さくなり好ましい。また、樹脂基材により剛性が高くなり、位相差フィルム10の熱的緩和に伴う収縮変形の影響が小さくなり好ましい。金属箔は重く折れやすいため、樹脂基材を裏打ちすることで、そのような欠点を補うことができる。特に、アルミニウムのような強度の弱い金属の場合、樹脂基材の裏打ちは有効である。ステンレスの場合は、必ずしも樹脂基材を必要としない。また、金属反射板11の表面形状は鏡面よりも拡散面となっていることが好ましい。その方が、パターン形状を不明瞭化することができる。なお、図6に示すように、金属反射板のかわりに反射層が微細な凹凸の回折格子で構成される位相型ホログラムにすることもできる。ここで、反射層37はホログラム形成層38に蒸着されている。この場合、通常の状態では、ホログラムの絵柄が見えている。
【0077】
<使用例>
次に、本発明に係る積層反射体の使用例を説明する。なお、認証領域10aに形成される認証情報の内容については、特に限定されるものではなく、任意の文字・数字・記号・図形、あるいはこれらの任意の組み合わせにより構成することができる。また、所定の認証用のパターンの正像だけでなく、反転像を形成してもよい。認証情報は、1次元バーコードや2次元バーコードとして用いてもよい。
【0078】
積層反射体の用途については、例えば、プリペイドカード、クレジットカード、IDカード、バーコードラベル、認証ラベル、パスポート、運転免許証、各種許可証(カード)等の認証カード等がある。これらの真贋を証明すべき対象物に対して、接着剤(例えば、粘着剤)を用いて貼り付けることで使用できる。なお、図1の断面構造では、予め粘着剤層を形成している構成を示している。
【0079】
<積層反射体の製造工程>
次に、図1に示す積層反射体1の製造工程を図7により説明する。製造工程は大きく分けて4工程K1〜K4で構成されている。また、積層反射体1を製造するために、位相差フィルム10(1/4波長板)のロール20と、第1粘着剤層13を形成するための粘着剤ロール21と、金属反射板11を積層するための金属箔ロール22と、第2粘着剤層14を形成するための粘着剤ロール23とが予め用意される。これら各ロールから引き出されたシート状の材料は、貼り合わせローラ24により貼り合わせられ積層される。
【0080】
第1工程K1では、認証情報が潜像として形成される。図例では、レーザー光を照射することで潜像を形成する例を示している。すなわち、レーザー光源25(加熱手段に相当)と光走査手段26を用いて認証情報の潜像を露光形成する。第2工程K2では、光拡散層12を形成するための表面層を塗布する工程が行われる。微粒子と透明樹脂の混合物を塗布装置27を用いて位相差フィルム10の表面に塗布する。第3工程K3では、UV露光装置28を用いて塗布された光拡散層の架橋硬化が行われる。第4工程K4ではラベラー加工が行われる。
【0081】
<認証システムの構成>
次に、本発明に係る積層反射体1を用いて認証を行うための認証システムについて、図8の模式図により説明する。読み取り用の光源30と、偏光板31、ハーフミラー32が光軸に沿って配置され、光源30から照射された光線は、偏光板31により特定の偏光方向の直線偏光とされ、ハーフミラー32をそのまま通過して積層反射体1に入射される。偏光板31の吸収軸は位相差フィルム10の遅相軸と所定の角度(好ましくは45゜)をなすように配置される。
【0082】
積層反射体1の金属反射板11で反射された反射光は、ハーフミラー32で90゜反射した後、観察用の偏光板33に入射される。この偏光板33の吸収軸は、位相差フィルム10の遅相軸と所定の角度(好ましくは45゜)をなすように配置される。偏光板33に隣接して受光部34が配置され、例えば、2次元CCDセンサーにより構成される。読み取り装置35は、受光部34により受光した信号を処理し、表示部36に読み取った認証情報を表示させる。表示部36は、例えば、液晶表示モニターが使用される。
【0083】
偏光板31,33の吸収軸と、位相差フィルム10の遅相軸とは、異なる角度に設定されるが、上述のように45゜とするのが理想的である。好ましくは、45゜±5゜とするのがよい。この範囲内であれば、非認証領域10bの黒表示部の透過率が理想的には3%以内になるからであり、これにより、コントラストを確保することができる。
【0084】
光源30の種類については、特に限定されるものではなく、白熱電灯、冷陰極管や熱陰極管、ハロゲンランプ、キセノンランプなどの複数の発光波長を有する光源や、ナトリウムランプやレーザーのような単色光源を用いることができる。複数の発光波長を有する光源の場合、単色光化のためにカラーフィルターを組み合わせて用いることができる。また、発光波長に関しては、可視光線をはじめ、紫外線、赤外線などどの波長の光も用いることができる。ただし、位相差フィルム10や光拡散層12、粘着剤に吸収される波長の光の場合、信号が減衰するため好ましくない。また、受光部34の波長に対する検出特性が最適となるように光源30の波長を選択することができる。
【0085】
偏光板31については、直線偏光板と1/4波長板とを組み合わせた円偏光板を介して円偏光を積層反射体1に入射させるようにしてもよい。また、光源30がレーザーのような直線偏光の振動を有する場合は、光源30の前に配置する偏光板31は必ずしも必要ない。
【0086】
図9は、認証システムの別実施形態を示す図である。図8と異なる点のみを説明する。この実施形態では、偏光板33と受光部34の間にスリット37が配置される。受光部34は、例えば、1次元のCCDラインセンサーにより構成される。スリット37のスリット形成方向及び受光部34におけるラインセンサーの並び方向がB方向であるとすると、積層反射体1を図9の矢印C方向に移動することで、認証情報を走査することができる。スリット37の代わりにピンホールを用いても走査系を構成することができる。
【0087】
<別実施形態>
本発明に係る認証情報は、特定の形態の情報に限定されるものではない。例えば、文字、数字、記号、これらの任意の組み合わせにより認証情報とすることができる。また、適宜の形状、図形、模様、意匠、これらの任意の組み合わせ、また、これらと文字、数字等の組み合わせにより認証情報を構成してもよい。
【0088】
積層反射体が使用される対象は特定の物品に限定されるものではない。例えば、認証カードに貼り付けたりやバーコードラベルとして使用することができる。認証カードとしては、クレジットカード、プリペイドカード、IDカードの他、運転免許証、社員証、パスポート、任意の会員証などに応用することができる。また、1次元もしくは2次元バーコードラベルとして使用することができる。かかるバーコードラベルは、任意の物品(商品)に対して貼り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】積層反射体の断面構造を示す図
【図2】認証領域を可視化する原理を説明する図
【図3】加熱スタンプによる認証領域の形成方法を示す図
【図4】マスクを用いた光線による認証領域の形成方法を示す図
【図5】光線走査による認証領域の形成方法を示す図
【図6】反射層として位相型ホログラムを用いた場合の構成例を示す図
【図7】積層反射体の製造工程を示す図
【図8】認証システムの構成例を示す図
【図9】認証システムの別構成例を示す図
【符号の説明】
【0090】
1 積層反射体
2 偏光板
5 スタンプ
10 位相差フィルム
10a 認証領域
10b 非認証領域
11 金属反射板
12 光拡散層
13 第1粘着剤層
14 第2粘着剤層
20 フィルムロール
21 粘着剤ロール
22 金属箔ロール
23 粘着剤ロール
30 光源
31 偏光板
32 ハーフミラー
33 偏光板
34 受光部
35 読み取り装置
36 表示部
37 反射層
38 ホログラム形成層
K1,K2,K3,K4 工程
x 遅相軸
y 進相軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察波長λに対する位相差Δndがm×λ/4(mは正の奇数)となるように設定された位相差フィルムと、
この位相差フィルムの背面側に積層される反射手段とを有する積層反射体であって、
位相差フィルムに予め所定の認証情報を形成した認証領域を、前記位相差Δndとは異なる位相差Δnd2となるように形成し、さらに、
位相差フィルムの正面側に光拡散層を形成したことを特徴とする積層反射体。
【請求項2】
位相差フィルムの前記位相差Δnd1は、±λ/16の誤差で製造されることを特徴とする請求項1に記載の積層反射体。
【請求項3】
前記認証領域における位相差Δnd2がn×λ/4(nは0又は正の偶数、ただしn<m)となるように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層反射体。
【請求項4】
前記認証領域の位相差Δnd2は、±λ/8の誤差で製造されることを特徴とする請求項3に記載の積層反射体。
【請求項5】
前記認証領域の位相差Δnd2は、λ/8以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層反射体。
【請求項6】
前記認証領域は、認証情報に対応した加熱パターンを有するスタンプを位相差フィルムに押圧させるか、ごく近傍に配置させることで、位相差フィルムの配向を熱的に緩和することにより形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層反射体。
【請求項7】
前記認証領域は、認証情報に対応してパターン化された光線を位相差フィルムに露光させるか、光線を位相差フィルムに対して走査することで所定のパターンを露光形成させて、位相差フィルムの配向を熱的に緩和することにより形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層反射体。
【請求項8】
前記認証領域に対する加熱温度は、位相差フィルムのガラス転移点以上の温度であることを特徴とする請求項6又は7に記載の積層反射体。
【請求項9】
前記認証情報は、1次元もしくは2次元バーコードにより形成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層反射体。
【請求項10】
光拡散層の光拡散要素の大きさが認証領域に形成されるパターンの大きさよりも小さいことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層反射体。
【請求項11】
前記光拡散要素は、光拡散層の表面の凹凸形状、及び/又は、光拡散層に分散した粒子状物であり、その大きさは前記パターンの大きさの1/4よりも小さいことを特徴とする請求項10に記載の積層反射体。
【請求項12】
前記光拡散層は、位相差フィルムの正面側に密着して形成されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の積層反射体。
【請求項13】
前記光拡散層は、透明な樹脂と、それに分散した透明な微粒子との混合物により形成されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層反射体。
【請求項14】
前記反射手段が、回折格子でできた位相型ホログラムで構成されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の積層反射体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層反射体を有する認証カード。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層反射体を有するバーコードラベル。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層反射体に対して光を照射する光源と、
積層反射体からの反射光を読み取るための受光部と、
積層反射体と受光部の間に配置される直線偏光板とを有し、この直線偏光板の吸収軸が積層反射体を構成する位相差フィルムの光学軸とは異なる角度となるように設定されることを特徴とする認証システム。
【請求項18】
前記角度は、略45゜であることを特徴とする請求項17に記載の認証システム。
【請求項19】
受光部と積層反射体の間に配置されるピンホール又はスリットと、
このピンホール又はスリットを介して積層反射体に形成されている認証情報を走査する走査手段とを備え、
前記受光部により走査された認証情報を受光するように構成した請求項17又は18に記載の認証システム。
【請求項20】
請求項1〜14のいずれか1項の積層反射体に認証領域を形成するため、位相差変化が可能な温度以上に加熱可能な加熱手段を有することを特徴とする認証領域形成システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−1130(P2007−1130A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183587(P2005−183587)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(390003562)株式会社ニトムズ (64)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】