説明

積層反射膜

【課題】夏期のように赤外線カットが必要な時期には十分な反射効率を有し、冬期のように赤外線による暖房効果が必要な時期には十分に反射効率を低下させることができる感温調光機能を有する積層反射膜を提供すること。
【解決手段】積層反射膜は、結晶融解温度もしくはガラス転移温度が75℃以上である熱可塑性樹脂(a)を主成分とする層(A層)と、結晶融解温度が70℃以下である熱可塑性樹脂(b)を主成分とする層(B層)とを有する積層体であり、A層とB層との2層あたりの反射率差(ΔR2)が1.0%以上である。この積層体の20℃における反射率と100℃における反射率との反射率差(ΔR)は30%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造の反射膜に関し、特に、温度変化に伴って反射効率が変化する温度センサー機能を有する積層反射膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の赤外線を反射する熱線反射膜は、フィルム上に酸化けい素、酸化チタンあるいは銀等を蒸着して構成したものが中心であったが、反射効率がフィルムの温度にかかわらず一定であるので、一旦窓等に熱線反射膜を貼り付けてしまうと、冬期等の赤外線による暖房効果が必要な時期でも赤外線を反射してしまうという欠点があった。また、金属膜では吸収があるため反射率には限界があった。
【0003】
この欠点を改善したものとして、ガラス転移温度に依存する屈折率の差を利用した温度センサー機能を有する熱線反射膜が開示されている(例えば特許文献1参照)。この熱線反射膜は、ガラス転移温度が異なる2種以上の層を屈折率が相対的に高・低と繰り返すように交互に積層させたものであり、温度変化に伴って反射効率を変化させることができる。この熱線反射膜によれば、夏期等の赤外線のカットが必要な時期には十分な反射効率を有し、冬期等の赤外線による暖房効果が必要な時期には反射効率を低下させることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3374979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の熱線反射膜では、温度変化に伴う反射効率の変化が十分ではなく、さらに優れた反射効率変化を実現できる温度センサー機能を有するフィルムが求められていた。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、夏期のように赤外線カットが必要な時期には十分な反射効率を有し、冬期のように赤外線による暖房効果が必要な時期には十分に反射効率を低下させることができる、より優れた感温調光機能を有する積層反射膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積層反射膜は、結晶融解温度もしくはガラス転移温度が75℃以上である熱可塑性樹脂(a)を主成分とする層(A層)と、結晶融解温度が70℃以下である熱可塑性樹脂(b)を主成分とする層(B層)とを有する積層体であり、A層とB層との2層あたりの波長1500nmにおける反射率差(ΔR2)が1.0%以上であることを特徴とする。
本発明においては、該積層体の20℃における反射率と100℃における反射率との反射率差(ΔR)が30%以上であることが好ましい。
【0008】
本発明においては、20℃における前記熱可塑性樹脂(a)と前記熱可塑性樹脂(b)との屈折率差(Δn20)と、100℃における前記熱可塑性樹脂(a)と前記熱可塑性樹脂(b)との屈折率差(Δn100)との変化量(Δn)が、0.03以上0.20以下であることが好ましい。
【0009】
また、前記熱可塑性樹脂(b)は、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキサイド、ポリ酢酸ビニル、エチレンビニルアセテート共重合体、及びポリオレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、前記熱可塑性樹脂(a)は、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂からなる群より選ばれることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記A層および前記B層の厚みは、1層あたり1μm以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明において、前記A層と前記B層とは交互に積層してなることが好ましい。
【0012】
また、前記A層と前記B層のそれぞれの厚みが、隣り合う層の厚みに対してその変化量が±40%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層反射膜は、高温においては屈折率差が大きくなって熱線を効率良く反射し、低温においては屈折率差が小さくなって熱線の反射を少なくすることができる。すなわち、優れた温度センサー機能および熱線反射量調節機能を備えた、優れた感温調光機能を有している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳しく説明する。
本発明の積層反射膜は、熱可塑性樹脂を主成分とした層を2種類以上有する積層体である。すなわち、結晶融解温度もしくはガラス転移温度が75℃以上である熱可塑性樹脂(a)を主成分とする層(A層)と、結晶融解温度が70℃以下である熱可塑性樹脂(b)を主成分とする層(B層)とを有する積層体である。
この積層反射膜は、A層とB層とが交互に積層してなることが好ましい。
【0015】
(積層体の反射の仕組み)
例えば、本発明の積層反射膜が、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した積層体であって、各層の厚みがλ/4である場合には、その反射率(R)は以下の(式1)で表される。
【0016】
【数1】

【0017】
式中、nは基板の屈折率、nは高屈折率層を形成する高屈折率材料の屈折率、nは低屈折率層を形成する低屈折率材料の屈折率、Pは高屈折率層または低屈折率層の層数を示す。この式によれば、層数が多ければ多いほど反射率も高くなることがわかる。
【0018】
一般に、積層反射膜の1層の厚みをd、材料の屈折率をn、積層反射膜の反射波長をλとすると、反射波長は下記(式2)で表される。
【0019】
【数2】

【0020】
(式2)から明らかなように、1層の厚みd、または材料の屈折率nの値を調整することによって、反射波長λの値を変えることができる。
【0021】
また、一般に、材料の屈折率をnとすると、Lorentz−Lorenzの式より下記(式3)が知られている。
【0022】
【数3】

【0023】
式中、Mは材料(樹脂)の分子量、ρは分子反射率、Rは積層反射膜の反射率を表す。
したがって、屈折率(n)の温度(T)依存性は、下記(式4)で示される。
【0024】
【数4】

【0025】
式中、α=−dρ/dTであり、熱膨張係数である。
(式4)から、屈折率の温度依存性は熱膨張係数に比例することがわかる。
【0026】
高屈折率層および低屈折率層を形成する熱可塑性樹脂の選択は、積層反射膜の使用環境等を考慮して、それに応じた結晶融解温度等を有する熱可塑性樹脂を選択することが好ましい。
【0027】
本発明において、高屈折率の熱可塑性樹脂(a)は、結晶融解温度もしくはガラス転移温度が75℃以上であることが必要であり、好ましくは90℃以上、より好ましくは110℃以上である。熱可塑性樹脂(a)の結晶融解温度もしくはガラス転移温度が75℃以上であれば、温度が上昇した時に屈折率の低下を抑えることができる。
【0028】
熱可塑性樹脂(a)としては、屈折率が高く、かつガラス転移温度が高い材料が好ましく、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂のような熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。透明性という観点からは、アクリル系樹脂を用いることが特に好ましい。
【0029】
アクリル系樹脂としては、特に限定されることなく使用することができるが、屈折率の観点からは、ポリメチルメタクリレート、ポリボルニルメタクリレート、ポリ(N−アリルメタクリルアミド)、ポリフェニルメタクリレート、アクリルスチレン共重合体が好ましい。
【0030】
本発明において、低屈折率の熱可塑性樹脂(b)は、結晶融解温度が70℃以下であることが必要であり、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下である。熱可塑性樹脂(b)の結晶融解温度が70℃以下であれば、温度上昇時に屈折率を十分に低下させることができる。すなわち、特定の熱可塑性樹脂(a)及び特定の熱可塑性樹脂(b)を使用することによって、温度が上昇した時に、熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)との屈折率差を十分に大きくすることができる。したがって、高温においては屈折率差が大きく熱線を効率よく反射し、低温においては屈折率差が小さく熱線の反射効率が小さくなり、良好な温度センサー機能を有することになる。
【0031】
熱可塑性樹脂(b)としては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキサイド、ポリ酢酸ビニル、エチレンビニルアセテート共重合体(屈折率や加工性の観点から、ビニルアセテート含有量が10%以上60%以下であることが好ましく、20%より多く60%以下であることがより好ましい)、ポリオレフィンなどが好ましく使用される。中でも、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキサイド、エチレンビニルアセテート共重合体がより好ましい。
【0032】
積層反射膜を構成する各層には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記以外の樹脂を含有してもよく、また、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、およびその他の添加剤等を含有してもよい。
【0033】
本発明においては、20℃における熱可塑性樹脂(a)の屈折率と熱可塑性樹脂(b)の屈折率との屈折率差(Δn20)と、100℃における熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)の屈折率との屈折率差(Δn100)、との変化量(Δn100−Δn20)、すなわち屈折率差の変化量(Δn=Δn100−Δn20)が0.03以上であることが好ましく、より好ましくは0.04以上である。一方、上限については特に限定しないが、一般的には0.20以下である。この屈折率差の変化量(Δn)が0.03以上であれば、積層反射膜の良好な反射特性を実現することができ、積層反射膜の20℃における反射率と100℃における反射率との反射率差(ΔR)が30%以上を実現する上で好ましい。以下に反射率差(ΔR)について説明する。
【0034】
本発明の積層反射膜は、20℃における反射率と100℃における反射率との反射率差(ΔR)が30%以上を満たすことが好ましく、更に好ましくはΔRが40%以上、特に好ましくは50%以上である。積層反射膜の反射率差(ΔR)が30%以上を満たすならば、高温において反射率が高く、低温において反射率が低い積層反射膜が得られ、夏期等の赤外線の遮蔽が必要な時期には十分な反射率を有し、冬期等の赤外線による暖房効果が必要な時期には反射率が低下する反射膜を提供することができる。したがって、本発明の熱線反射膜は、感温調光フィルムに好適である。
【0035】
更に、本発明においては、高屈折率層と低屈折率層との2層あたりの反射率差(ΔR2)が1.0%以上であることが必要であり、好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.5%以上である。2層あたりの反射率差(ΔR2)が1.0%以上であれば、良好な反射特性を有する好適な熱線反射膜を提供することができる。
なお、反射率差(ΔR2)の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、5%以下であることが好ましく、更に好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0036】
なお、2層あたりの反射率差(ΔR2)は、上述の反射率差(ΔR)を用いて、下記(式5)に基づいて算出する。但し、層数は高屈折率層または低屈折率層の層数(n)である。
【0037】
【数5】

【0038】
本発明の積層反射膜は、熱可塑性樹脂(a)を主成分とするA層と、熱可塑性樹脂(b)を主成分とするB層とを交互に積層してなることが好ましい。所定の温度における屈折率が相対的に高い層と相対的に低い層とを交互に積層することにより、温度による屈折率差の変化により、赤外線の波長域である800nm〜1600nmにおいて、反射効率が高温では相対的に高く、低温では相対的に低くすることができる。
【0039】
本発明の積層反射膜は、反射特性の観点から、1層あたりの厚みが1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.6μm以下である。なお、厚みの下限値としては、実用上30nm以上であることが好ましい。
【0040】
また、A層とB層のそれぞれの厚みは、隣り合う層との厚みに対して、その変化量が±40%以下であることが好ましく、±30%以下が更に好ましく、±20%以下が特に好ましい。A層とB層のそれぞれの厚みが隣り合う層の厚みに対して、その変化量が±40%以下であり、より均一な厚みにすることによって、温度変化による反射率差が顕著に現れるので好ましい。
【0041】
本発明においては、結晶融解温度の低い熱可塑性樹脂(すなわち70℃以下の熱可塑性樹脂)を低屈折率材料として、ガラス転移温度等の高い熱可塑性樹脂(すなわち結晶融解温度またはガラス転移温度が75℃以上の熱可塑性樹脂)を高屈折率材料として選択する。特に結晶融解温度が低い熱可塑性樹脂の屈折率が高温において相対的に低くなる場合には、反射効率は高温で高くなる。
【0042】
(積層反射膜の製造方法)
本発明の積層反射膜は、例えば、熱可塑性樹脂(a)を押出機Aに供給し、熱可塑性樹脂(b)を押出機Bに供給し、この2台の押出機から、それぞれの流路を通って、熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)が、マルチマニホールドダイ、フィードブロック、スクエアミキサー、スタティックミキサー等を用いて積層され、この積層溶融体がT型口金等を介してシート状に溶融押出しされた後、キャスティングドラム上で冷却固化して未延伸の積層体を形成することができる。
【0043】
スクエアミキサーとは、断面形状が長方形の流路を通過した熱可塑性樹脂を、四角形状の流路によって4分割し、この4分割した熱可塑性樹脂を、上下に積み重ねて合流させる合流部を備えた筒体のことである。例えば、スクエアミキサーを用いて溶融体を積層する工程を繰り返すことにより、何層もの積層体を得ることができる。
【0044】
例えば、熱可塑性樹脂(a)と熱可塑性樹脂(b)の2種類の樹脂をそれぞれの押出機から溶融押出しして得られたA層およびB層の2層の積層溶融体を、スクエアミキサーを用いて4分割した後、合流積層すれば、すなわち、1回の分岐・合流工程を行えば、8層の積層溶融体になる。この積層数は、(初期の層数)×4のn乗となる。但し、nは、分岐・合流工程の繰り返し回数である。例えば、2層の積層溶融体が、スクエアミキサー内を2回通過するようにさせると、初期の層数=2、n=2となるので、2×4=32層の積層溶融体を得る。例えば2層の積層溶融体(分配比が1:1)をスクエアミキサーを用いて等断面積の流路に分配(分岐)することができるので、スクエアミキサー内の通過を複数回繰り返せば、等分配(等断面積)の流路を繰り返し得ることができる。
【0045】
本発明においては、積層構造の最表層として他の層(例えば、C層)を設けてもよい。この場合には、C層を形成する樹脂を押出機Cから押出してピノールを用いて積層溶融体と合流させ、最表層を形成することができる。これによれば、内部の積層溶融体の積層構造に影響を及ぼさずに最表層を設けられるので好ましい。例えば、最表層のみに粒子を添加すれば、反射性能を低下させることなく、光拡散性および易滑性を付与することができる。
【0046】
本発明において、積層反射膜として要求される層数は、10層以上であることが好ましく、十分な反射効果を発揮するためには30層以上が好ましく、更に好ましくは60層以上である。
【0047】
本発明の構成を満たせば、高温においては屈折率差が大きくなって熱線を効率よく反射し、低温においては屈折率差が小さくなって熱線の反射を小さくすることができる積層反射膜を実現することができる。

【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例において使用された各種測定値及び評価方法は、下記に示す方法で測定し、評価を行って求めた。
【0049】
(1)反射率の測定
分光光度計(日立製作所社製、U−4000)に積分球を取り付け、波長1500nmにおける反射率を測定した。なお、測定前のアルミナ白板の反射率が100%になるように光度計を設定した。
【0050】
(2)積層反射膜の厚み測定
積層反射膜全体の厚みは、シックネスゲージ(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0051】
(3)各層の厚み測定
電界放出型走査電子顕微鏡(日立製作所社製、FE−SEM S−4500型)を用いて、積層反射膜の断面を観察し、各層の厚みを測定した。
【0052】
(4)屈折率の測定
アッベ屈折計(アタゴ社製、NAR−2T)を用い、20℃および100℃のそれぞれにおいて、屈折率を測定した。
【0053】
(5)ガラス転移温度(Tg)および結晶融解温度(Tm)の測定
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC−7)を用いて、ガラス転移温度(Tg)、結晶融解温度(Tm)を測定した。
【0054】
[実施例1]
熱可塑性樹脂(a)としてアクリルスチレン共重合体(大日本印刷社製、クリアパクトTI300、MFR:3.0、Tg:92℃、屈折率:1.544)を用い、熱可塑性樹脂(b)としてポリカプロラクトン(ダイセル化学工業社製、セルグリーン PH7、MFR:1.7、Tg:−60℃、Tm:55℃、 屈折率:1.504)を用いた。熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)の各物性を表1に示す。A層およびB層の交互積層となるように、合計層数が64層の積層反射膜を形成した。積層反射膜の各層の厚みは0.250μmであり、積層反射膜の総厚みは16μmであった。
得られた積層反射膜について、20℃および100℃における反射率をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0055】
[実施例2]
熱可塑性樹脂(a)としてポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、スミペックスMG5、MFR:5.0、Tg:110℃、屈折率:1.492)を用い、熱可塑性樹脂(b)としてエチレンビニルアセテート共重合体(三井デュポンポリケミカル社製、エバフレックスV421、エチレン:ビニルアセテート=72%:28%、MFR:4.0、Tg:0℃、Tm:70℃、屈折率:1.489)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、積層反射膜を作製した。なお、使用した熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)の各物性を表1に示す。
得られた積層反射膜について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0056】
[実施例3]
熱可塑性樹脂(a)としてポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、スミペックスMG5、MFR:5.0、Tg:110℃、屈折率:1.492)を用い、熱可塑性樹脂(b)としてエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体(明成化学工業社製、アルコックスEP20、Tm:45℃、屈折率:1.486)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層反射膜を作製した。なお、使用した熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)の各物性を表1に示す。
得られた積層反射膜について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0057】
[比較例1]
熱可塑性樹脂(b)としてポリ乳酸(ネイチャーワークス社製、NW4060D、MFR:3.0、Tg:55℃、屈折率:1.467)を用いた以外は実施例2と同様にして、積層反射膜を作製した。なお、使用した熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)の各物性を表1に示す。
得られた積層反射膜について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0058】
[比較例2]
熱可塑性樹脂(b)としてポリヒドロキシエチルメタクリレート(Tg:55℃、屈折率:1.512)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層反射膜を作製した。なお、使用した熱可塑性樹脂(a)および熱可塑性樹脂(b)の各物性を表1に示す。
得られた積層反射膜について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0059】
【表1】



【0060】
【表2】



【0061】
表1および表2から、熱可塑性樹脂(a)のガラス転移温度若しくは結晶融解温度が75℃以上であり、熱可塑性樹脂(b)の結晶融解温度が70℃以下であり、かつ、ΔR2が1.0%以上である実施例1〜3の積層反射膜は、20℃の屈折率差と100℃の屈折率差との変化量(Δn)が0.03以上、0.20以下の範囲内であり、また、20℃における反射率と100℃における反射率との反射率差(ΔR)が30%以上であり、高い反射率差を有する反射特性を有するものであることが分かった。
【0062】
一方、本発明外の熱可塑性樹脂(b)を使用し、ΔR2が1.0%未満である比較例1〜2の積層反射膜は、反射率差(ΔR)が、それぞれ、23%および25%であり、30%を満たすものではなかった。
【0063】
以上の説明から明らかなように、本発明の積層反射膜は優れた温度センサー機能および熱線反射量調節機能を備えた、優れた感温調光機能を有する反射膜であり、積層反射膜の厚みが薄くても優れた効果を発揮しうるものである。
本発明によれば、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層させて形成することができ、また、各層の厚みを任意に変化させて積層することもできるので、反射波長範囲が広い積層反射膜を提供することができる。また、温度による屈折率差を変化させることができるので、高温になるほど屈折率差が大きくなるように設計すれば、低温では反射率が小さく、高温では反射率が大きい積層反射膜を提供することができる。したがって、本発明の積層反射膜を用いれば、夏期等の赤外線の遮蔽が必要な時期には十分な反射効率を有し、冬期等の赤外線による暖房効果が必要な時期には反射効率を低下させることができる。
【0064】
また、本発明の積層反射膜は、反射光波長を任意の数値に設定することができるので、赤外線領域の光を反射する熱線反射フィルムの用途以外にも、可視光領域の特定波長の光を反射するフィルム等の用途に適用可能であり、例えば、液晶ディスプレー等に使用可能なカラーフィルターや、紫外線カットフィルム等にも応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の積層反射フィルムは、熱線反射フィルム用途、あるいは、可視光領域の特定波長の光を反射するフィルム等の用途の分野に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶融解温度もしくはガラス転移温度が75℃以上である熱可塑性樹脂(a)を主成分とする層(A層)と、結晶融解温度が70℃以下である熱可塑性樹脂(b)を主成分とする層(B層)とを有する積層体であり、該A層と該B層との2層あたりの波長1500nmにおける反射率差(ΔR2)が1.0%以上であることを特徴とする積層反射膜。
【請求項2】
前記積層体が、20℃における反射率と100℃における反射率との反射率差(ΔR)が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層反射膜。
【請求項3】
20℃における前記熱可塑性樹脂(a)と前記熱可塑性樹脂(b)との屈折率差(Δn20)と、100℃における前記熱可塑性樹脂(a)と前記熱可塑性樹脂(b)との屈折率差(Δn100)との変化量(Δn)が、0.03以上0.20以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層反射膜。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(b)が、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキサイド、ポリ酢酸ビニル、エチレンビニルアセテート共重合体、及び、ポリオレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の積層反射膜。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(a)が、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の積層反射膜。
【請求項6】
前記A層および前記B層の厚みが、1層あたり1μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層反射膜。
【請求項7】
前記A層と前記B層とが交互に積層してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層反射膜。
【請求項8】
前記A層と前記B層のそれぞれの厚みが隣り合う層の厚みに対して±40%以内の変化量であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層反射膜。


【公開番号】特開2011−141325(P2011−141325A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−579(P2010−579)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】