説明

積層型光電変換装置の製造方法

【課題】高性能の積層型光電変換装置を製造工程を融通性を高めつつ生産効率を改善し得る製造方法を提供する。
【解決手段】光電変換ユニットを複数含み、相対的に光入射側の前方光電変換ユニット3内の逆導電型層33がシリコン複合層を少なくとも一部具備する、積層型光電変換装置の製造方法であって、プラズマCVD工程を有し、シリコン複合層形成工程と、その直後の工程として、一旦大気中に取り出し該シリコン複合層の最外表面を大気に暴露する工程を有し、その直後の工程として、後方光電変換ユニット4の結晶質の一導電型層形成工程を有し、前記後方光電変換ユニットの結晶質の一導電型層形成工程のパワー密度/製膜圧力は、前記シリコン複合層形成工程のパワー密度/製膜圧力の0.01倍以上0.8倍未満である製造方法によって、解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型光電変換装置の製造方法に関し、高性能の光電変換装置を提供するのみならず、製造工程の融通性を高めかつ生産効率を改善し得る製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光電変換装置の低コスト化、高効率化を両立するために資源面での問題もほとんど無い薄膜光電変換装置が注目され、開発が精力的に行われている。薄膜光電変換装置は、太陽電池、光センサ、ディスプレイなど、さまざまな用途への応用が期待されている。
薄膜光電変換装置の一つである非晶質シリコン光電変換装置は、低温で大面積のガラス基板やステンレス基板上に形成できることから、低コスト化が期待できる。
【0003】
薄膜光電変換装置は、一般に表面が絶縁性の基板上に順に積層された第一電極と、1以上の半導体薄膜光電変換ユニットと、及び第二電極とを含んでいる。そして1つの薄膜光電変換ユニットはp型層とn型層でサンドイッチされたi型層からなる。ここで、光電変換ユニットまたは薄膜太陽電池は、それに含まれるp型とn型の導電型層が非晶質か結晶質かにかかわらず、その主要部を占めるi型の光電変換層が非晶質のものは非晶質光電変換ユニットまたは非晶質薄膜太陽電池と称され、i型層が結晶質のものは結晶質光電変換ユニットまたは結晶質薄膜太陽電池と称される。
【0004】
また、光電変換装置の変換効率を向上させる方法として、2つ以上の光電変換ユニットを積層した、通称タンデム型と呼ばれる構造を採用した光電変換装置が知られている。この方法においては、光電変換装置の光入射側に大きなバンドギャップを有する光電変換層を含む前方光電変換ユニットを配置し、その後ろに順に小さなバンドギャップを有する光電変換層を含む後方光電変換ユニットを配置することにより、入射光の広い波長範囲にわたって光電変換を可能にし、これによって装置全体としての変換効率の向上が図られている。(本願では、相対的に光入射側に配置された光電変換ユニットを前方光電変換ユニットと呼び、これよりも相対的に光入射側から遠い側に隣接して配置された光電変換ユニットを後方光電変換ユニットと呼ぶ。)
【0005】
さらに、積層された複数の光電変換ユニットの間に光透過性及び光反射性の双方を有し且つ導電性の中間反射層を介在させる構造を有する積層型の光電変換装置が近年提案されている。この場合、中間反射層に到達した光の一部が反射し、中間反射層よりも光入射側に位置する前方光電変換ユニット内での光吸収量が増加し、その前方光電変換ユニットで発生する電流値を増大させることができる。例えば、非晶質シリコン光電変換ユニットと結晶質シリコン光電変換ユニットからなるハイブリッド型光電変換装置に中間反射層を挿入した場合、非晶質シリコン層の膜厚を増やすことなく非晶質シリコン光電変換ユニットによって発生する電流を増加させることができる。もしくは、同一の電流値を得るために必要な非晶質シリコン層の膜厚を薄くできることから、非晶質シリコン層の膜厚増加に応じて顕著となる光劣化による非晶質シリコン光電変換ユニットの特性低下を押さえることが可能となる。
【0006】
特許文献1には、「光入射側から見て、一導電型層と、実質的に真性半導体の光電変換層と、逆導電型層の順に配置され、かつプラズマCVD法にて形成される光電変換ユニットを複数含む積層型光電変換装置の製造方法であって、光入射側に配置された前方光電変換ユニット内の逆導電型層と、該前方光電変換ユニットの後方側に隣接して配置される後方光電変換ユニット内の一導電型層のうち、片方もしくは両方にシリコンと酸素の非晶質合金中にシリコン結晶相が混在するシリコン複合層を少なくとも一部具備した導電型層を形成する工程を有し、且つ前記シリコン複合層の一部が形成された後に一旦大気中に取り出し、該シリコン複合層の最外表面を大気に暴露し、その後同一導電型の残りのシリコン複合層を形成する工程を有する製造方法とする」発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−277303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数の発電ユニットを積層した光電変換装置の製造方法においては、特許文献1では、大気暴露最表面層とその直上に形成される層は、大気暴露界面を有するものの、同一条件にて形成された同一層であり、比較例11では大気暴露最表面層の上に、大気暴露最表面層と異なる層を形成した場合、すなわち、大気暴露面が、発電ユニット界面である場合、光電変換効率が低下すると記載されている。
【0009】
先行例1においては、実際の製造方法において、発電ユニット間で大気暴露を可能とし、各発電ユニットを別のプラズマCVD装置を用いて形成することが可能としているが、大気暴露後に最初に形成する層は、大気暴露最表面層と同一である必要がある。すなわち、後方ユニットを形成するCVD装置には、大気暴露面である前方光電変換ユニット最後方層であるシリコン複合層を形成する設備が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一は、光入射側から見て、一導電型層と、実質的に真性半導体の光電変換層と、逆導電型層とが、この順に配置されてなる光電変換ユニットを複数含み、相対的に光入射側に配置された前方光電変換ユニット内の逆導電型層は、シリコンと酸素の非晶質合金中にシリコン結晶相が混在するシリコン複合層を少なくとも一部具備した逆導電型層である積層型光電変換装置の製造方法であって、一導電型層と、実質的に真性半導体の光電変換層と、逆導電型層とをそれぞれプラズマCVD法で形成する工程を有し、少なくとも、前記前方光電変換ユニットの逆導電型層のシリコン複合層を形成する工程と、その直後の工程として、一旦大気中に取り出すことによって該シリコン複合層の最外表面を大気に暴露する工程を有し、その直後の工程として、後方光電変換ユニットの結晶質の一導電型層を形成する工程を有し、前記後方光電変換ユニットの結晶質の一導電型層を形成する工程のパワー密度/製膜圧力は、前記前方光電変換ユニットの逆導電型層のシリコン複合層を形成する工程のパワー密度/製膜圧力の0.01倍以上0.8倍未満の範囲であることを特徴とする、積層型光電変換装置の製造方法である。
【0011】
なお、「大気に暴露する工程」とは、前工程から真空度を低めて大気圧にする工程や、前工程における設定温度を調節して大気暴露する周りの温度に近づける工程や、大気圧から真空度を高めて後方光電変換ユニットの結晶質の一導電型層を形成する工程の真空度に到達させる工程や、大気暴露する周りの温度から後方光電変換ユニットの結晶質の一導電型層を形成する工程の設定温度に到達させる工程をも含まれるような広い概念の工程である。
【0012】
本発明の第二は、前方光電変換ユニット逆導電型のシリコン複合層形成時の水素流量/SiHガス流量に対し、その上に形成される後方ユニットの一導電型層形成時の水素流量/SiHガス流量が、前方光電変換ユニットの逆導電型層であるシリコン複合層形成時の水素流量/SiHガス流量に比べ、0.1倍以上1.2倍以下の範囲において形成される工程を有する、請求項1に記載の積層型光電変換装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、大気暴露後、後方光電変換ユニットを形成する工程で、前方光電変換ユニットのシリコン複合層の続きを形成するプロセスを全く必要としないという効果を有する。
【0014】
例えば、後方光電変換ユニットの一導電型層と、光電変換層と、逆導電型層とをそれぞれ別の製膜室で形成するCVD装置を用い形成する場合は、後方一導電型層を形成する前に、逆導電型層形成室に基板を運び入れる必要が無くなり、生産性が大きく向上する。
【0015】
また例えば、後方光電変換ユニットの一導電型層と、真性半導体の光電変換層と、逆導電型層とを全て同じ製膜室内で形成するCVD装置を用い形成する場合は、後方一導電型層を形成する前に、前方電変換ユニットの逆導電型層を形成する必要が無くなることにより、「逆導電型層であるシリコン複合層中の逆導電型を付与するために用いられる不純物が、後方光電変換ユニットの一導電型層及び、さらに後方の光電変換層にまで混入する場合が有る」等の従来の課題そのものが無くなる。
【0016】
前記のどちらの手法のCVD装置を用いても、後方光電変換ユニットを形成するCVD装置にシリコン複合層を形成する設備が不要となり、製造設備の簡素化が可能である。
【0017】
本発明によって、前方光電変換ユニットと後方光電変換ユニットの境界である、前方光電変換ユニットの逆導電型層と後方光電変換ユニットの一導電型層の間での大気取出しを、容易にすることができる。
【0018】
本発明は、当業者の常識とは逆行する方向のパラメーターを選択して完成された発明である。
【0019】
当業者にとってはこれまで、大気暴露最表面層と、大気暴露後その直上に形成する層は、同一条件で形成される同一導電型層が望ましいとされてきた。
【0020】
一方結晶質の光電変換ユニットにおいては、当業者は、光電変換ユニットの一導電型層は結晶質であり、「一導電型層の膜品質である結晶性を十分に確保するため、高パワー密度での形成が必須である」との常識を有していた。
【0021】
また「n型結晶質層に比べて、p型結晶質層の方が結晶化しにくい」という既成概念があり、p型結晶質層形成条件をn型結晶質層形成条件よりも低パワー密度にする方向を、決して試さなかった。
【0022】
また、別の常識として、低パワー密度にすることは、遅い製膜速度につながることから、「形成プロセスに要する時間が延びるという欠点がある」方向を決して試さなかった。
【0023】
今回、当業者が決して行わない方向にあえて実験検討したところ、驚くべきことに、顕著な効果が現れた。
【0024】
CVD工程には、製膜温度、製膜圧力、電極間距離、ガス流量比、パワー密度、等、それぞれ独立、あるいは密接に関連するパラメータが存在する。
【0025】
検討すべきパラメータが複数ある中、本発明では、パワー密度/製膜圧力というパラメータが、他の条件よりも支配的パラメータであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0026】
プラズマCVD法においては一般的に、製膜圧力を小さくする方向は、パワー密度を上げる方向と矛盾しない。従って、本発明のパワー密度/製膜圧力というパラメータは、本発明の完成後に振り返ってみると、結果として、パワー密度の大小をより実質的に表す指標といえる。
【0027】
パワー密度だけでは先行技術との区別が難しかったが、パワー密度/製膜圧力というパラメータを選択することによって、先行技術との区別をつけることができた。このように、パワー密度/製膜圧力というパラメータは、先行技術との区別がつく、しかも、妥当性のあるパラメータである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例による積層型光電変換装置の構造断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下において本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお本願の図において、厚さや長さなどの寸法関係については図面の明瞭化と簡略化のため適宜変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。また、各図において、同一の参照符号は同一部分または相当部分を表している。
【0030】
図1に、本発明の実施形態の一例による積層型光電変換装置の断面図を示す。透明基板1上に、透明電極層2、前方光電変換ユニット3、後方光電変換ユニット4、および裏面電極層5の順に配置されている。
【0031】
基板側から光を入射するタイプの光電変換装置にて用いられる透明基板1には、ガラス、透明樹脂等から成る板状部材やシート状部材が用いられる。透明電極層2はSnO、ZnO等の導電性金属酸化物から成ることが好ましく、CVD、スパッタ、蒸着等の方法を用いて形成されることが好ましい。透明電極層2はその表面に微細な凹凸を有することにより、入射光の散乱を増大させる効果を有することが望ましい。
【0032】
裏面電極層5としては、Al、Ag、Au、Cu、PtおよびCrから選ばれる少なくとも一つの材料からなる少なくとも一層の金属層をスパッタ法または蒸着法により形成することが好ましい。また、光電変換ユニットと金属電極との間に、ITO、SnO、ZnO等の導電性酸化物からなる層を形成しても構わない(図示せず)。
【0033】
透明電極2の後方に、複数の光電変換ユニットから成る光電変換半導体層が配置される。図1のように2つの光電変換ユニットが積層された構造の場合、光入射側に配置された前方光電変換ユニット3には相対的にバンドギャップの広い材料、例えば非晶質シリコン系材料による光電変換ユニットなどが用いられる。その後方に配置された後方光電変換ユニット4には、それよりも相対的にバンドギャップの狭い材料、例えば結晶質を含むシリコン系材料による光電変換ユニットや、非晶質シリコンゲルマニウム光電変換ユニットなどが用いられる。
【0034】
各々の光電変換ユニットは、一導電型層、実質的に真性な光電変換層であるi型層、および逆導電型層から成るpin接合によって構成されるのが好ましい。このうちi型層に非晶質シリコンを用いたものを非晶質シリコン光電変換ユニット、結晶質を含むシリコンを用いたものを結晶質シリコン光電変換ユニットと呼ぶ。なお、非晶質あるいは結晶質のシリコン系材料としては、半導体を構成する主要元素としてシリコンのみを用いる場合だけでなく、炭素、酸素、窒素、ゲルマニウムなどの元素をも含む合金材料であってもよい。
【0035】
図1の構造で、前方光電変換ユニット、後方光電変換ユニットそれぞれの光入射側の一導電型層31、41はp型層であり、これに対応して逆導電型層33、43はn型層である。導電型層の主要構成材料としては、必ずしもi型層と同質のものである必要はなく、例えば非晶質シリコン光電変換ユニットのp型(またはn型)層に非晶質シリコンカーバイドを用い得るし、n型(またはp型)層に結晶質を含むシリコン層(微結晶シリコンとも呼ばれる)また非晶質合金中にシリコン結晶相を含むシリコン複合層も用い得る。
【0036】
二種類の導電型層は光電変換ユニット内に拡散電位を生じさせる役割を果たし、この拡散電位の大きさによって薄膜光電変換装置の特性の一つである開放端電圧(Voc)が左右される。しかし、これらの導電型層は光電変換には寄与しない不活性な層であり、ここで吸収される光はほとんど発電に寄与しない。従って、導電型層は十分な拡散電位を生じさせる範囲内で可能な限り薄くあるいは透明なものとすることが好ましい。
【0037】
本発明では、シリコンと酸素の非晶質合金中にシリコン結晶相を含むことを特徴としたシリコン複合層を積層型光電変換装置における中間反射層として用いる。中間反射層として機能させるためには、前方光電変換ユニット3内の光電変換層32と後方光電変換ユニット4内の光電変換層42との間のいずれかの位置に配置させる必要がある。
【0038】
また、このシリコン複合層は光電変換ユニット内の導電型層の一部もしくは全てを兼ねることができる。よって、前方光電変換ユニット3における逆導電型層33から後方光電変換ユニット4における一導電型層41までの領域の中に、最低1層以上の逆導電型あるいは一導電型のシリコン複合層を配置すればよい。
【0039】
またシリコン複合層が導電型層を兼ねることができるため、上記導電型層33,43のすべてをシリコン複合層に置き換えるのが最も単純な構造となるが、逆導電型層33のみの一部もしくは全てが、シリコン複合層であってもよい。
またこれに限らず、従来技術による導電型材料(例えば導電型微結晶シリコンや、屈折率の高い導電型酸化シリコンなど)との多層構造とし、多層構造全体で逆導電型層33あるいは一導電型層41を成すこともできる。また、屈折率などの物性値の異なるシリコン複合層同士を積層した多層構造や、物性値を積層方向に連続的に変化させたシリコン複合層を用いてもよい。
【0040】
本発明におけるシリコン複合層の形成条件の一例を具体的に述べると以下のようである。反応ガスとして、SiH、CO、H、PH(またはB)を用い、H/SiH比が大きいいわゆる微結晶作製条件で、かつCO/SiH比が2以上の範囲を用いてプラズマCVD法で作製できる。このときのプラズマCVDの条件は、例えば容量結合型の平行平板電極を用いて、電源周波数10〜100MHz、パワー密度50〜500mW/cm、製膜圧力50〜1500Pa、基板温度150〜250℃である。CO/SiH比を増加させると膜中酸素濃度が単調に増加する。
【0041】
本発明の特徴は、このシリコン複合層を形成した後に一旦基板を大気中に取り出すこと、その後、直上に後方光電変換ユニットの一導電型層以降を形成するという工程を有することであるが、その具体的実施形態の一例を図1で示した2段積層型光電変換装置における光電変換ユニット部の形成手順として以下に説明する。
【0042】
すなわち、この光電変換装置では、ガラスなどの透明絶縁基板1上に透明導電性酸化膜(TCO)からなる透明電極2が形成された基板を、まず第一のプラズマCVD装置に導入する。ここでは透明電極2上へ前方光電変換ユニット3に含まれる一導電型層31、実質的に真性半導体の光電変換層32と形成した後、シリコン複合層を含む逆導電型層33がプラズマCVD法で順次堆積される。
【0043】
その後、基板が第一プラズマCVD装置から大気中に取り出され、それによって逆導電型シリコン複合層33の表面が大気に暴露される。大気に暴露される際基板は冷却された状態である必要はなく、安全な状況であれば例えば基板温度100℃以上の高温のまま暴露されてもかまわない。
【0044】
なお、「大気に暴露する工程」とは、前工程から真空度を低めて大気圧にする工程や、前工程における設定温度を調節して大気暴露する周りの温度に近づける工程や、大気圧から真空度を高めて後方光電変換ユニットの結晶質の一導電型層を形成する工程の真空度に到達させる工程や、大気暴露する周りの温度から後方光電変換ユニットの結晶質の一導電型層を形成する工程の設定温度に到達させる工程をも含まれるような広い概念の工程である。前記のとおり、大気に暴露される際基板を冷却された状態としない場合には、「大気に暴露する工程」には、大気暴露する周りの温度に近づける工程が含まれない。
【0045】
また、「直後の工程として」との文言は、工程の順番として直後という意味であって、工程同士の間の時間間隔を特段制限するものではない。
【0046】
大気暴露される前のシリコン複合層33は、600nmの波長の光に対する屈折率が2.5以下、あるいは膜中酸素濃度が25原子%以上とすることが好ましい。屈折率と膜中酸素濃度の関係は比較的高い相関がある。屈折率の低い方が先に述べた中間反射層としての機能や効果が高まることは言うまでもない。ここでシリコン複合層の屈折率として600nmの波長の光での値を指標とした理由は以下の点が挙げられる。積層型光電変換装置の一つである、非晶質シリコン系光電変換ユニットと結晶質シリコン系光電変換ユニットを2段積層したハイブリッド型光電変換装置において、非晶質シリコン系光電変換ユニットの分光感度電流の立下りと、結晶質シリコン系光電変換ユニットの分光感度電流の立ち上りは600nm付近の波長で交錯する。600nm付近の光を良く反射する膜、即ち、600nmの光に対する屈折率が小さい膜が、前方光電変換ユニットの発電電流を増加するのに好適となる。なお、屈折率は例えば分光エリプソメトリ法などを用いて評価可能である。
【0047】
一方、膜中酸素濃度の高い膜を用いることで、本発明の特徴である大気暴露の工程を経ても光電変換特性の影響は少なくなる。これは既に述べたようにシリコン複合層が酸素含有膜であるため、大気暴露による酸化などの表面変質の影響が小さいためである。なお、シリコン複合層中の酸素濃度は、例えば、ウェットエッチング、プラズマエッチング、イオンスパッタリングなどで検知する深さを変化させながら、SIMS、ESCA、EPMA、オージェ電子分光法などで組成を分析可能である。
【0048】
また、シリコン複合層全体の膜厚は20nm以上130nm以下とすることで、中間反射層としての機能や効果が大きくなるため好ましい。
【0049】
その後、基板が第二のプラズマCVD装置に導入され、後方光電変換ユニット4に含まれる一導電型層41、実質的に真性半導体の光電変換層42、逆導電型層43がプラズマCVD法で順次堆積される。ここで第一のプラズマCVD装置と第二のプラズマCVD装置は同一の装置でもかまわないが、別々の装置とした方が生産効率を高めるという点ではより好ましい。
【0050】
第二のプラズマCVD装置で形成する後方光電変換ユニットの一導電型層は、第一CVD装置で形成するシリコン複合層形成時のパワー密度/製膜圧力の0.01倍から0.8倍の範囲で形成されることにより、シリコン複合層直上に後方光電変換ユニットの一導電型層を形成しても、前方光電変換ユニットと後方光電変換ユニットの良好な接続が可能である。0.8倍を上回ると、シリコン複合層と、前方光電変換ユニットの逆導電型層であるシリコン複合層と、後方光電変換ユニットの一導電型層の良好な接続が出来ない。また、パワー密度/製膜圧力の0.01倍を下回った場合、一導電型層の結晶化が十分に進まず、後方光電変換ユニットの性能が低下する。
【0051】
また、パワー密度/製膜圧力が小さいことは、製膜速度が小さいことと等価であり、生産効率を高めるという点では、後方光電変換ユニットの一導電型層は前方光電変換ユニットの逆導電型層であるシリコン複合層の0.1倍〜0.8倍のパワー密度/製膜圧力の範囲で形成されるのがより好ましい。
【0052】
図1で示した光電変換装置は、光電変換ユニット3および4を2段積層した比較的シンプルな光電変換装置であるが、本発明は光電変換ユニットを3段以上積層したタンデム型光電変換装置にも適用し得る。例えば光入射側から第一光電変換ユニット、第二光電変換ユニット、第三光電変換ユニットの順に配置された3段積層型光電変換装置において、第一光電変換ユニットと第二光電変換ユニットを、それぞれ前方光電変換ユニットと後方光電変換ユニットと見なし、両者の境界近傍に導電型のシリコン複合層を設けても良い。あるいは第二光電変換ユニットと第三光電変換ユニットを、それぞれ前方光電変換ユニットと後方光電変換ユニットと見なし、両者の境界近傍に導電型のシリコン複合層を設けても良い。むろん、第一光電変換ユニットと第二光電変換ユニットの境界近傍および第二光電変換ユニットと第三光電変換ユニットの境界近傍の両方にシリコン複合層を設けた構造でも良い。3段積層型光電変換装置としては、例えば第一光電変換ユニットに非晶質シリコン光電変換ユニット、第二光電変換ユニットに非晶質シリコンゲルマニウムあるいは結晶質シリコン系光電変換ユニット、第三光電変換ユニットに非晶質シリコンゲルマニウムあるいは結晶質シリコン系光電変換ユニットを適用する場合などが挙げられるが、組み合わせはこの限りではない。
【0053】
さらに、図1の例では透明基板を用いる実施形態を示したが、本発明は透明でない基板を含めた任意の基板上に、裏面電極層、後方光電変換ユニット、前方光電変換ユニット、透明電極層を順次積層され、基板とは逆の方向から光が入射されるタイプの積層型光電変換装置にも適用可能であり、後方および前方光電変換ユニットの境界近傍に導電型のシリコン複合層を中間反射層として配置することによって、同様の効果が得られる。
【0054】
なお、本発明が奏する効果を説明するために、以下のパラメーターを用いている。以下で示す「表」の中では、以下の単位を用いている。
CVD法における製膜圧力(Paの単位)。
CVD法における製膜時の希釈倍率は、製膜時のシランガスを水素ガスで希釈する倍率をいい、Hの流量を、SiHで除した(割った)値である。例えば、H/SiH=300/1を、300と表す。シランガスを先に書いて表すことも有るが、希釈倍率の意味は同じであって、(SiH/H=1/300)を300と表す。
CVD法におけるパワー密度(W/cmの単位)。
パワー密度/製膜圧力は、W/cmをPaで除した(割った)値で示している。
【実施例】
【0055】
以下においては、上述の実施の形態に対応する積層構造を含む積層型光電変換装置の製造方法の実施例として、非晶質シリコン光電変換ユニットと結晶質シリコン光電変換ユニットとが積層された2スタック型スーパーストレート構造の積層型光電変換装置を挙げ、従来技術による比較例と比較しつつ詳細に説明する。各図において同様の部材には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、本発明はその趣旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
まず、表1,2に比較例、及び本発明を用いた実施例の主要な要素である、前方光電変換ユニット逆導電型層であるシリコン複合層、大気暴露後、これに隣接して形成される後方光電変換ユニットの一導電型層の主な製膜条件を示す。また、表3に比較例、及び実施例を用いて作成した光電変換装置の光電変換特性の相対値を示す。相対値は、実施例1を1とした場合の各々の比較例、実施例の相対値である。
【0057】
(比較例1)
図1と同様の積層型光電変換装置を作製した。まず、透明なガラス基板1上にSnO2を主成分とする透明電極層2を形成した。その後、透明電極層付きの基板を第一プラズマCVD装置に導入し、昇温した後に、非晶質シリコン光電変換ユニット3のうちのp型非晶質シリコンカーバイド層31、i型非晶質シリコン光電変換層32、n型シリコン複合層33を、それぞれ15nm、300nm 、50nmの厚さで形成した。
【0058】
n型シリコン複合層33は以下の条件で形成した。
製膜時のガスの流量比をSiH/CO/PH/H=1/4/0.028/300とし製膜圧力を850Paとした。電源周波数は13.56MHz、パワー密度111mW/cm、基板温度180℃で製膜した。
このときn 型シリコン複合層33の、600nmの光に対する屈折率は2.0であった。
【0059】
n型シリコン複合層33の製膜を終え、真空排気を行った後、直ちに基板1を第一プラズマCVD装置のアンロードチャンバーに移送し、速やかに窒素ガスを満たした後に、大気中に取り出した。
【0060】
それから約24時間大気中に放置された後に、第二プラズマCVD装置において、後方光電変換ユニットである結晶シリコン光電変換ユニット4のp型微結晶シリコン層41を、製膜時のガスの流量比はSiH/B/H=1/0.0028/222とし製膜圧力を850Paとした。電源周波数は13.56MHz、パワー密度111mW/cm、基板温度180℃で製膜した。
【0061】
その後、第二プラズマCVD装置から基板を大気中に取り出すことなく、ノンドープのi型結晶質シリコン光電変換層42、n型微結晶シリコン層43を、それぞれ15nm、2.5μm、15nmの厚さで形成した。その後、裏面電極層5として厚さ90nmのAlドープされたZnOと厚さ300nmのAgをスパッタ法にて順次形成した。
【0062】
以上の膜形成工程を経て、非晶質シリコンユニットと結晶質シリコンユニットとを積層した2スタック型の積層型光電変換装置を形成した。光電変換装置の素子として完成させるためには、他にも素子分離のための工程や電極取り出し部形成などの工程などを行う必要があるが、本発明と直接係わる内容ではないため、詳細はここでは省略する。
【0063】
結果を表1に整理する。
【0064】
【表1】

【0065】
シリコン複合層の、製膜圧力は850Paであり、希釈倍率(製膜時のガスの流量比(SiH/H=1/300)を300と表す。)パワー密度111mW/cmは、0.111W/cmで表に表す。パワー密度/製膜圧力は、0.111W/cmを850Paで除した(割った)値であり、0.111/850=0.000131=1.31E−4と表す。
後方光電変換ユニットである結晶シリコン光電変換ユニット4のp型微結晶シリコン層41の、製膜圧力は850Paであり、希釈倍率(製膜時のガスの流量比(SiH/H=1/222)を222と表す。)パワー密度111mW/cmは、0.111W/cmで表に表す。パワー密度/製膜圧力は、0.111W/cmを850Paで除した(割った)値であり、0.111/850=0.000131=1.31E−4と表す。
以下の実施例、比較例でも、表に記載の内容は、上記と同様の内容とする。
【0066】
【表2】

【0067】
表2における(後方の一導電型層のパワー密度/製膜圧力)/(前方の逆導電型層のパワー密度/製膜圧力)とは、(後方光電変換ユニット一導電型層のパワー密度/製膜圧力)を(前方光電変換ユニット逆導電型層のパワー密度/製膜圧力)で除した(割った)値を表す。
表2における希釈倍率比とは、(後方光電変換ユニット一導電型層の希釈倍率)/(前方光電変換ユニット逆導電型層の希釈倍率)すなわち、(後方光電変換ユニット一導電型層の希釈倍率)を、(前方光電変換ユニット逆導電型層の希釈倍率)で除した(割った)値を表す。
以下の実施例、比較例でも、表に記載の内容は、上記と同様の内容とする。
【0068】
【表3】

【0069】
表3に記載の、Vocとは、実施例1の開放端電圧を1とした開放端電圧の相対値である。Jscとは、実施例1の短絡電流密度を1とした短絡電流密度の相対値である。FFとは、実施例1の曲性因子を1とした曲性因子の相対値である。Effとは実施例1の変換効率を1とした変換効率の相対値である。
以下の実施例、比較例でも、表に記載の内容は、上記と同様の内容とする。
【0070】
(実施例1)
同様に図1に示す積層型光電変換装置を作製した。比較例1と異なるのは、n型シリコン複合層33の形成時のガス流量比をSiH/CO/PH/H=1/2.5/0.025/300とし製膜圧力を750Paとし、パワー密度を221mW/cmとしたところである。
このときのn型シリコン複合層33の、600nmの光に対する屈折率も2.0であった。
【0071】
CO2流量比の実施例との相違は、パワー密度を変えた際に、SiHとCO流量比の最適割合が変化するためこれを補うためである。それ以外は、後方光電変換ユニットである結晶シリコン光電変換ユニット4のp型微結晶シリコン層41形成条件も含め、比較例1と同様の作製方法である。
【0072】
比較例1および実施例1において作製された光電変換装置において、ソーラーシミュレーターを用いてAM1.5の光を100mW/cmの光量で25℃のもとで照射することによって光電変換特性を測定した。実施例1の光電変換効率を1とした場合の相対値を表3に示す。実施例1の変換効率を1とした場合の、比較例1の変換効率の相対値は0.05と、大きく変換効率が低下した。
【0073】
実施例2では、n型シリコン複合層3の製膜時のガスの流量比をSiH/CO/PH/H=1/2.6/0.013/300とし製膜圧力を750Paとした。電源周波数は27.12MHz、パワー密度232mW/cm、基板温度200℃で製膜した。n型シリコン複合層33形成後、実施例1と同様に、速やかに大気中に取り出し、その後実施例1と同様に24時間以上大気暴露後、第二プラズマCVD装置において、後方光電変換ユニット4のp型微結晶シリコン層41を、製膜時のガスの流量比はSiH/B/H=1/0.0029/225とし製膜圧力を850Paとし、電源周波数は13.56MHz、パワー密度89mW/cm、基板温度160℃ で製膜した。
その後の工程は、光電変換性能測定含め、全て、実施例1と同じである。この場合においても、良好な光電変換効率が得られ、実施例1と同じ変換効率となった。
【0074】
実施例3は、実施例2の、第二プラズマCVD装置での後方光電変換ユニット4のp型微結晶シリコン層41の形成条件を、製膜時のガスの流量比はSiH/B/H=1/0.0031/194とし製膜圧力を1200Paとし、電源周波数は13.56MHz、パワー密度89mW/cm、基板温度160℃とした点のみが異なる。この場合においても、光電変換効率は、実施例1と比較し同じであった。
【0075】
比較例2は、実施例2の、n型シリコン複合層3の製膜時の製膜圧力を、1260Paとし、第二プラズマCVD装置での後方光電変換ユニット4のp型微結晶シリコン層41の形成条件を、製膜時のガスの流量比はSiH/B/H=1/0.013/400とし製膜圧力を1260Paとし、電源周波数は13.56MHz、パワー密度185mW/cm、とした点が異なる。この場合においては、良好な光電変換効率が得られず、実施例1、2、3の変換効率を1とした場合の、比較例2の変換効率の相対値は0.04と、大きく変換効率の低下が起こった。
【0076】
比較例1、2と実施例1,2,3の違いは、前方光電変換ユニットの逆導電型層である複合シリコン層と、後方光電変換ユニット一導電型層の形成条件が異なる。主に異なるパラメータはシリコン複合層形成時のパワー密度と製膜圧力である。
【0077】
表2に各々の実施例、比較例で用いた条件の逆導電型層シリコン複合層と後方光電変換ユニット一導電型層パワー密度/製膜圧力の比を示す。
【0078】
比較例1は大気暴露面を境に隣接する逆導電型層シリコン複合層と後方光電変換ユニット一導電型層のパワー密度、製膜圧力は同じである。これは、当業者が有する「大気暴露最表面層と、大気暴露後その直上に形成する層は、同一条件で形成されることが望ましい」という概念に基づくものである。
【0079】
一方実施例1,2,3は、大気暴露面を境に隣接する逆導電型層シリコン複合層と後方光電変換ユニット一導電型層のパワー密度、製膜圧力を大きく変え、パワー密度/製膜圧力を、逆導電型層シリコン複合層>後方光電変換ユニット一導電型層とした場合である。
【0080】
比較例2は、パワー密度/製膜圧力を、逆導電型層シリコン複合層>後方光電変換ユニット一導電型層とした場合としつつ、後方光電変換ユニット一導電型層/逆導電型層シリコン複合層と後方光電変換ユニット=約0.8とした場合である。この場合でも良好な光電変換効率は得られない。
【0081】
このことから、大気暴露面を境に隣接する逆導電型層シリコン複合層と後方光電変換ユニット一導電型層は、同一条件、および近い条件(パワー密度/製膜圧力の比で0.8程度)では、良好な光電変換効率は得られないこと、
逆導電型層シリコン複合層に比べ、0.2〜0.5倍のパワー密度/製膜圧力で、後方光電変換ユニット一導電型層を形成した場合に良好な光電変換効率が得られることが分かわかる。
【符号の説明】
【0082】
1 透明基板
2 透明電極層
3 前方光電変換ユニットである非晶質シリコン光電変換ユニット
31前方光電変換ユニット内の一導電型層である、p型非晶質シリコンカーバイド層
32前方光電変換ユニット内の光電変換層である、i型非晶質シリコン光電変換層
33前方光電変換ユニット内の逆導電型層である、シリコン複合層を含むn型層
4 後方光電変換ユニットである結晶質シリコン光電変換ユニット
41後方光電変換ユニット内の一導電型層である、p型層
42後方光電変換ユニット内の光電変換層である、ノンドープのi型結晶質光電変換層
43後方光電変換ユニット内の逆導電型層である、n型層
5裏面電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入射側から見て、
一導電型層と、
実質的に真性半導体の光電変換層と、逆導電型層とが、この順に配置されてなる光電変換ユニットを複数含み、相対的に光入射側に配置された前方光電変換ユニット内の逆導電型層は、シリコンと酸素の非晶質合金中にシリコン結晶相が混在するシリコン複合層を少なくとも一部具備した逆導電型層である積層型光電変換装置の製造方法であって、一導電型層と、実質的に真性半導体の光電変換層と、逆導電型層とをそれぞれプラズマCVD法で形成する工程を有し、少なくとも、前記前方光電変換ユニットの逆導電型層のシリコン複合層を形成する工程と、その直後の工程として、一旦大気中に取り出すことによって該シリコン複合層の最外表面を大気に暴露する工程を有し、その直後の工程として、後方光電変換ユニットの結晶質の一導電型層を形成する工程を有し、前記後方光電変換ユニットの結晶質の一導電型層を形成する工程のパワー密度/製膜圧力は、前記前方光電変換ユニットの逆導電型層のシリコン複合層を形成する工程のパワー密度/製膜圧力の0.01倍以上0.8倍未満の範囲であることを特徴とする、積層型光電変換装置の製造方法。
【請求項2】
前方光電変換ユニット逆導電型のシリコン複合層形成時の水素流量/SiHガス流量に対し、その上に形成される後方ユニットの一導電型層形成時の水素流量/SiHガス流量が、0.1倍以上1.2倍以下の範囲において形成される工程を有する、請求項1に記載の積層型光電変換装置の製造方法。

【図1】
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