説明

積層型電池

【課題】耐久性及び耐熱性に優れる積層型リチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極、セパレータ、及び集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極がこの順で積層されてなる電池要素を有する積層型電池であって、少なくとも一の正極活物質層及びセパレータが耐熱性材料を含む事を特徴とする。正極活物質層及びセパレータに耐熱性の高い材料を配置する事によって、短絡等による発熱・温度上昇を十分抑制する事が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型電池、特にリチウムイオン二次電池に関するものである。特に、本発明は、内部短絡や外部短絡時の電池温度上昇を抑制して、耐久性及び耐熱性に優れる積層型電池、特にリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するという環境の観点、さらには燃費の観点から、ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池自動車が製造・販売され、新たな開発が続けられている。これらのいわゆる電動車両においては、放電・充電ができる電源装置の活用が不可欠である。しかしながら、これらの自動車用の大型機器用電池は、電池内部で発生した熱の放熱効果が小さいため、電池内部での温度上昇が激しく、セパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などにより、耐久性が著しく低下するという問題がある。また、内部短絡時または外部短絡時に電池内に流れる電流により電池温度が上昇し、上記したようなセパレータの溶融、電解液や正極からのガス発生により電池内部の温度はさらに上昇するため、上記問題はさらに加速されてしまう。
【0003】
従来の電池では、低コストで捲回可能なポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)微多孔膜がセパレータとして用いられている。これらのセパレータは、異常発熱時に150℃ぐらいで収縮するという特性があり、異常発熱時に電極周縁部が剥き出しになり、これが電極間ショートを誘発するという問題があった。
【0004】
また、従来の捲回型電池では、セパレータに対して捲回時に破れない強度が必要とされており、引っ張り強度の弱い不織布を用いる事は出来なかった。そこで、非水系二次電池用セパレータとして、不織布状シートと多孔性無機フィラーを含み、電解液に膨潤しこれを保持することができる有機高分子からなる多孔膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、上記特許文献1に開示されている多孔膜などの従来のセパレータにおいては、電解液の保持性能、短絡防止性、機械物性などが考慮されているものの、上記したような異常発熱時に収縮してしまう恐れがあった。なお、従来のPEやPP微多孔膜セパレータを、これまでのものよりも収縮することを想定して大きくすることは可能であるが、これらのセパレータの収縮率が20%程度と大きいため、これまでのものよりも収縮することを想定して大きいものを用いると電池のエネルギー密度が格段に低下してしまうという問題があった。
【0005】
上記問題を解消するために、セパレータを融点が150℃以上である繊維集合体で構成した電池が報告された(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−7279号公報
【特許文献2】特開2006−59717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示されたセパレータを有する電池を用いると、電池内部温度が200℃程度にまで達してもセパレータの収縮は防止できるものの、電池内部の温度上昇自体を十分抑えるには至らず、特に大型の電池では、内部の過度の温度上昇により、セパレータの構成部材が溶けたり、電解液や活物質が劣化・分解するという問題が生じる。上記問題に加え、上記したような現象は発熱反応であるため、上記現象は内部の温度上昇を加速してしまい、悪循環が生じる。このため、特許文献2に記載の電池がハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池自動車用の大型機器用電池に適用された場合には、電池内部での温度上昇を十分抑制しきれず、セパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などの現象が生じるという問題を十分回避できない。このため、電池の耐久性の問題が依然として残っているのが現状である。
【0007】
しがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、電池耐久性に優れた積層型電池を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、電池内部短絡、電池外部短絡時の発熱による温度上昇を抑制することが可能でかつ電池特性に優れた積層型電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、積層型電池の構成部材のうち、セパレータに加えて、さらに正極活物質層に耐熱性材料を使用することによって、電池内部の温度上昇を相乗的に抑制することができ、これによりこのような積層型電池をハイブリッド自動車、電気自動車などの大型の電池に使用しても、内部の過度の温度上昇を有効に抑制でき、ゆえにセパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などの現象を軽減・防止することができることを知得し、これにより本発明を完成した。
【0010】
すなわち、上記目的は、集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極、セパレータ、及び集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極がこの順で積層されてなる電池要素を有する積層型電池であって、少なくとも一の正極活物質層及びセパレータが耐熱性材料を含む、積層型電池によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、正極活物質層及びセパレータに耐熱性の高い電池材料を配置することによって、電池内部短絡、電池外部短絡時の発熱による温度上昇を十分抑制することが可能となる。したがって、本発明の積層型電池は優れた耐久性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
本発明の第一は、集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極、セパレータ、及び集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極がこの順で積層されてなる電池要素を有する積層型電池であって、少なくとも一の正極活物質層及びセパレータが耐熱性材料を含む、積層型電池である。本発明は、正極活物質層及びセパレータの双方に耐熱性材料を使用することを特徴とする。これにより、電池内部の温度上昇を抑制・防止することにより、セパレータの構成部材が溶けたり、電解液や活物質が劣化・分解したりすることを効果的に抑制・防止する。同時に、従来、上記現象により誘発される内部の温度上昇のさらなる加速をも有効に抑制・防止する。したがって、本発明の積層型電池は、電池内部の過度の温度上昇を引き起こさないので、ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池自動車用の大型機器用電池に適用する場合であっても、電池内部での温度上昇を十分抑制・防止して、セパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などの現象が解消されうる。また、本発明の積層型電池は、内部短絡、外部短絡時の電池温度上昇をも有効に抑制・防止するため、耐久性、耐熱性に優れた電池であり、上記問題により従来適用するにいたらなかった大型の電池への適用が期待できる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図1のバイポーラ型の積層型ラミネート外装リチウムイオン二次電池(バイポーラ電池)を例にとって詳細に説明する。しかしながら、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0015】
図1は、本発明の積層型電池の好ましい実施形態であるバイポーラ電池の全体構造を模式的に表わした概略断面図である。図1に示されるように、バイポーラ電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の電池要素21が、外装であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。この電池要素21は、正極活物質層13と、負極活物質層15とが集電体11のそれぞれの面に形成されたバイポーラ電極が、セパレータを用いて形成した電解質層17(本明細書中では、本発明の特徴をより明確に記載するために、電解質層を「セパレータ」とも称する)を介して積層される構造を有する。この際、一のバイポーラ電極の正極活物質層13と前記一のバイポーラ電極に隣接する他のバイポーラ電極の負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各バイポーラ電極および電解質層17が積層されている。
【0016】
そして、隣接する正極活物質層13、セパレータ17及び負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、バイポーラ電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層19の外周には、隣接する集電体11間を絶縁するための絶縁層31が設けられている。なお、電池要素21の最外層に位置する集電体(最外層集電体)(11a、11b)には、片面のみに、正極活物質層13(正極側最外層集電体11a)または負極活物質層15(負極側最外層集電体11b)のいずれか一方が形成されており、本明細書中では、これらは「単電池層」に包含される。
【0017】
さらに、図1に示されるバイポーラ電池10では、正極側最外層集電体11aが延長されて正極タブ25とされ、外装であるラミネートシート29から導出している。一方、負極側最外層集電体11bが延長されて負極タブ27とされ、同様にラミネートシート29から導出している。
【0018】
本発明の積層型電池は、図1に示されるように、集電体11の表面に正極活物質層13が形成されてなる正極、セパレータ17、及び集電体11の表面に負極活物質層15が形成されてなる負極から構成される単電池層19が複数積層されてなる構造を有し、単電池層19中、少なくとも一の正極活物質層及び少なくとも一のセパレータに耐熱性材料が使用される。この際、単電池層の積層数は、特に制限されず、所望の用途(例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用途など)や所望の容量などによって適宜選択される。例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用途の場合には、積層数は、通常、1〜100であり、好ましくは5〜50、より好ましくは10〜30である。また、耐熱性材料が使用される正極活物質層(本明細書中では、「耐熱性正極活物質層」とも称する)と、耐熱性材料が使用されるセパレータ(本明細書中では、「耐熱性セパレータ」とも称する)は、同一の単電池層に存在する場合であってもあるいは異なる単電池層に存在する場合であってもいずれでもよいが、好ましくは同一の単電池層中に存在する。
【0019】
また、本発明の積層型電池において、耐熱性正極活物質層及び耐熱性セパレータのそれぞれの配置位置は、特に制限されないが、電池内部の温度上昇、特に電池内部短絡、電池外部短絡時の発熱による温度上昇を有効に抑制できる位置であることが好ましい。例えば、本発明の積層型電池が正極、セパレータ及び負極がこの順でそれぞれ3層以上積層されてなる電池要素を有する場合、すなわち、本発明の積層型電池は単電池層が3層以上積層されてなる電池要素を有する場合には、最上下層以外の単電池層の少なくとも一における正極活物質層及びセパレータ、即ち、図1中の最上層正極活物質層13a以外の少なくとも一の正極活物質層、および最上下層電解質層(セパレータ)17a,17b以外の少なくとも一のセパレータが、耐熱性材料を含むことが好ましい。一般に、積層型電池を構成する電池要素では、内部短絡や外部短絡時に電池温度が上昇するが、このような場合でも、最上下層の単電池層付近では、ラミネートシート29を介して外部に効率よく放熱が行なわれ、熱上昇が起こりにくいが、中央付近の単電池層では、最上下層付近に比して、熱が中にこもりやすく放熱が起こりにくい。このため、特に中央付近で熱の上昇が顕著に起こる。したがって、最上下層以外の単電池層の正極活物質層及びセパレータに耐熱性材料を使用することによって、セパレータの構成部材の溶解;電解液や活物質の劣化・分解;これらの現象により誘発される内部の温度上昇のさらなる加速が有効に抑制・防止できる。上記したような構造を有する積層型電池は、耐熱性が向上し、特に高温保存時での耐久性が向上して、セパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などの諸問題を有効に抑制・防止できるため、電池寿命に優れかつ電池特性に優れた電池が構築できる。
【0020】
上述したように、最上下層以外の単電池層の少なくとも一の正極活物質層及び少なくとも一のセパレータに耐熱性材料を使用する場合の、耐熱性材料を使用する正極活物質層及びセパレータの位置は、特に制限されないが、電池要素の少なくとも中央の単電池層における正極活物質層及びセパレータが耐熱性材料を含むことが好ましい。これは、中央付近で熱の上昇が起こりやすいことを考慮したものであり、放熱効果が最も少なく熱上昇が最も起こりやすい中央付近の単電池層の正極活物質層及びセパレータに耐熱性材料を使用することによって、セパレータの構成部材の溶解;電解液や活物質の劣化・分解;これらの現象により誘発される内部の温度上昇のさらなる加速をより有効に抑制・防止できる。したがって、上記したような構造を有する積層型電池は、耐熱性がより向上し、特に高温保存時での耐久性がより向上して、内部短絡や外部短絡時の電池温度上昇をより有効に抑制できる。また、特に高温保存時での耐久性が向上して、セパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などの諸問題を有効に抑制・防止できる。このため、電池寿命に優れかつ電池特性により優れた電池が構築できる。なお、本明細書において、「電池要素の中央の単電池層における正極活物質層及びセパレータ」とは、電池要素の厚み方向の真ん中に位置する単電池層の正極活物質層及びセパレータを意味する。例えば、電池要素が5つの単電池層から構成される場合には、真ん中の単電池層、即ち、最上層から3番目の単電池層の正極活物質層及びセパレータとなる。また、6つの単電池層から構成される場合には、最上層から3及び4番目の単電池層の正極活物質層及びセパレータが電池要素の中央の単電池層における正極活物質層及びセパレータに該当する。
【0021】
このため、耐熱性材料は、電池要素の中央の単電池層における正極活物質層及びセパレータでは少なくとも使用され、当該位置付近の正極活物質層及びセパレータでも使用されることが好ましい。より好ましくは、本発明の積層型電池がn(nは5以上の整数である)以上の単電池層から構成される場合には、最上層を1層目として、耐熱性材料は、n/4(小数点は繰り上げ)層目から3n/4(小数点繰り上げ)層目までの単電池層の正極活物質層及びセパレータに少なくとも使用されることが好ましく、3n/10(小数点は繰り上げ)層目から7n/10(小数点繰り上げ)層目までの単電池層の正極活物質層及びセパレータに少なくとも使用されることがより好ましく、7n/20(小数点は繰り上げ)層目から13n/20(小数点繰り上げ)層目までの単電池層の正極活物質層及びセパレータに少なくとも使用されることが最も好ましい。このような温度上昇が特に大きい位置の正極活物質層及びセパレータに耐熱性材料が使用されていれば、セパレータの構成部材の溶解;電解液や活物質の劣化・分解;これらの現象により誘発される内部の温度上昇のさらなる加速をより有効に抑制・防止できる。その結果、上記したような構造を有する積層型電池は、耐熱性が向上し、特に高温保存時での耐久性が向上して、セパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などの諸問題を有効に抑制・防止できるため、電池寿命に優れかつ電池特性に優れた電池となりうる。なお、n/4(小数点繰り上げ)層目から3n/4(小数点繰り上げ)層目までの単電池層が複数存在する場合、耐熱性材料は、上記複数の単電池層の正極活物質層および/またはセパレータすべてに使用されてもあるいは上記複数の単電池層の正極活物質層および/またはセパレータの一部に使用されてもよいが、好ましくはすべてである。また、上記場合において、耐熱性材料は、同一の単電池層の正極活物質層及びセパレータに使用されてもあるいは異なる単電池層の正極活物質層及びセパレータに使用されてもいずれでもよいが、好ましくは同一の単電池層の正極活物質層及びセパレータに使用される。
【0022】
上記に代えてまたは上記に加えて、本発明では、電池要素の中央の単電池層に向かって正極活物質層及びセパレータの耐熱性が高くなるように、耐熱性材料を正極活物質層及びセパレータに配置することが好ましい。上述したように、電池要素の中央付近で特に熱の上昇が起こり、最上下層は放熱効果が高いため最上下層に向かって温度の上昇が起きにくい。このため、上記したような配置によると、温度上昇の起こりやすさに比例して耐熱性材料を配置できるため、電池の耐熱性をより有意に向上させて、セパレータの構成部材の溶解;電解液や活物質の劣化・分解;これらの現象により誘発される内部の温度上昇のさらなる加速;ならびに内部短絡や外部短絡時の電池温度上昇をより有効に抑制できる。その結果、上記したような構造を有する積層型電池は、耐熱性が向上し、特に高温保存時での耐久性が向上して、セパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などの諸問題を有効に抑制・防止できる。したがって、本発明の積層型電池は、電池寿命に優れかつ電池特性に優れた電池となりうる。この際、正極活物質層及びセパレータへの、耐熱性材料の各配置量の勾配は、温度上昇の起こりやすさなどを勘案して適宜設定されればよいが、例えば、電池要素がn(nは5以上の整数である)以上の単電池層から構成される場合には、中央(nが奇数である場合には、(n+1)/2層目;nが偶数である場合には、n/2及び(n/2)+1層目)の正極活物質層での耐熱性材料を100質量部とすると、次の2層(nが奇数である場合には、[(n+1)/2]−1及び[(n+1)/2]+1層目;nが偶数である場合には、(n/2)−1及び(n/2)+2層目)中の正極活物質層への添加量が50〜99質量部、より好ましくは80〜90質量部となるように、耐熱性材料の量を最上下層側に向かって段階的に減らしていくことが好ましい。この際、nが偶数である場合には、n/2層目及び(n/2)+1層目における正極活物質層への耐熱性材料の添加量は、それぞれ、同じであってもあるいは異なる量であってもよく、また、異なる場合においては、それぞれが上記したような割合で、耐熱性材料の量を最上下層側に向かって段階的に減らしていけばよく、この場合においても、耐熱性材料の添加量の減少度合いは上下方向それぞれにおいて、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。また、上記場合におけるセパレータへの耐熱性材料の添加量に関しては、中央のセパレータでの耐熱性材料を100質量部とすると、次の2層(nが奇数である場合には、[(n+1)/2]−1及び[(n+1)/2]+1層目;nが偶数である場合には、(n/2)−1及び(n/2)+2層目)中のセパレータへの添加量が80〜99質量部、より好ましくは85〜99質量部となるように、耐熱性材料の量を最上下層側に向かって段階的に減らしていくことが好ましい。この際、nが偶数である場合には、n/2層目及び(n/2)+1層目におけるセパレータへの耐熱性材料の添加量は、それぞれ、同じであってもあるいは異なる量であってもよく、また、異なる場合においては、それぞれが上記したような割合で、耐熱性材料の量を最上下層側に向かって段階的に減らしていけばよく、この場合においても、耐熱性材料の添加量の減少度合いは上下方向それぞれにおいて、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。上記場合において、正極活物質層及びセパレータ中の耐熱性材料の勾配は、次の2層への耐熱性材料の添加量が、それぞれ、前の2層を100質量部としたときに、上記範囲内であることが好ましい。
【0023】
または、本発明では、最上下層以外のすべての電池要素における正極活物質層及びセパレータが耐熱性材料を含むこともまた好ましい。上述したように、最上下層は図1に示されるように外部と近接しているため電池使用時または短絡時の放熱効果が高いものの、電池内部は放熱効果が少ないため、高温状態に保持され、これにより上記したような現象が起こり、電池耐久性が劣化してしまう。しかしながら、本発明によるように、最上下層以外のすべての電池要素における正極活物質層及びセパレータに耐熱性材料を配置すれば、上記電池使用時または短絡時の電池内部の熱上昇を抑えられるため、電池耐久性を向上することができる。ゆえに、上記したような構造を有する積層型電池は、耐熱性が向上し、特に高温保存時での耐久性が向上して、セパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などの諸問題を有効に抑制・防止できるため、電池寿命に優れかつ電池特性に優れた電池となりうる。この際、各単電池層における正極活物質層の耐熱性材料の存在量は、同一であってもあるいは異なる量であってもいずれでもよいが、後者の場合には、上述したように電池要素の中央の単電池層における正極活物質層及びセパレータに向かって耐熱性が高くなるように耐熱性材料が配置されることが好ましく、この場合の各層中の耐熱性材料の量は上述と同様の量が適用できる。同様にして、セパレータについても、各単電池層のセパレータに存在する耐熱性材料の量は、同一であってもあるいは異なるものであってもよく、後者の場合には、上述したように、電池要素の中央におけるセパレータに向かって耐熱性が高くなるように耐熱性材料が配置されることが好ましく、この場合の各層中の耐熱性材料の量は上述と同様の量が適用できる。
【0024】
本発明において、正極活物質層に使用できる耐熱性材料は、上記したように、電池内部での温度上昇を抑制・防止できるものである。本明細書では、正極活物質層に使用できる耐熱性材料とは、200℃以上の熱分解温度を有するものが好ましい。内部短絡、外部短絡時の電池温度上昇の抑制効果を考慮すると、正極活物質層に使用できる耐熱性材料は、200℃以上であり、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上の熱分解温度を有することが好ましい。このような熱分解温度を有する耐熱性材料であれば、放熱効果の小さい中央付近の正極活物質層であっても、温度上昇を有効に抑制・防止できるからである。なお、本明細書において、熱分解温度は、DSC(示差走査熱分析:Differential Scanning Calorimetry)法を用いて正極満充電状態でかつ電解液共存下で正極材料について測定した値であり、具体的には下記方法によって測定した値を意味する。
【0025】
<熱分解温度の測定方法>
正極(集電体Al箔)、対極Li金属、電解液1M LiPF/PC+ECを用いコイン型セルを作製する。電池作製後満充電状態の電圧で12時間保持し、セルを解体する。解体後、集電箔から上記正極を剥がしとり、正極材料をアルミ缶に封入する。上記アルミ缶を示差走査熱量計で熱分解温度を測定する。測定条件は窒素雰囲気条件で昇温速度は10℃/minで行なう。
【0026】
本発明において使用される正極活物質層に使用できる耐熱性材料は、上記したように200℃以上の熱分解温度を有し電池内部での温度上昇を抑制・防止できるものであれば特に制限されないが、上記熱分解温度を有するものであるものが好ましく、より好ましくは上記熱分解温度を有する正極活物質である。具体的には、LiFePO(熱分解温度:400℃以上)、LiMnPO(熱分解温度:400℃以上)、LiNiPO(熱分解温度:400℃以上)、LiCoPO(熱分解温度:400℃以上)等の、遷移金属燐酸化物;LiMn(熱分解温度:300℃)等の、遷移金属酸化物;LiNi1/3Mn1/3Co1/3(熱分解温度:250℃)等の、複合遷移金属酸化物などが挙げられる。これらのうち、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiFePOが好ましく使用される。これらの耐熱性材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、複数の正極活物質層に耐熱性材料が使用される場合には、耐熱性材料は、各正極活物質層で同一のものが使用されてもあるいは異なるものが使用されてもよい。
【0027】
正極活物質層への耐熱性材料の配合量は、上記したように電池内部での温度上昇を抑制・防止できるものであれば特に制限されない。通常、耐熱性材料の配合量は、正極活物質層を形成する材料全量(固形分換算)に対して、10〜60質量%が好ましく、より好ましくは15〜50質量%、最も好ましくは25〜45質量%である。このような範囲にあれば、耐熱性材料は、正極活物質層中で十分耐熱性を発揮できる。複数の正極活物質層に耐熱性材料が使用される場合には、耐熱性材料の量は、各正極活物質層で同一のものが使用されてもあるいは異なるものが使用されてもよい。
【0028】
本発明において、耐熱性材料の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、電池内部での温度上昇の抑制・防止効果を考慮して、適当な形状を選択するのが望ましい。なお、上記でいう正極活物質の平均粒径を測定する際には、粒子の形状が一様でないこともあることから、絶対最大長で表すものとし、篩い分けする場合には篩い目(メッシュスルーサイズまたはメッシュパスサイズ)を用いてもよい。ここで、絶対最大長とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さをとるものをいう。
【0029】
本発明に係る耐熱性材料の大きさは、上記したように電池内部での温度上昇を抑制・防止できるものであれば特に制限されない。例えば、耐熱性材料が粒状である場合には、電池内部での温度上昇の抑制・防止効果を考慮すると、耐熱性材料の平均粒径は、0.01〜50μm、より好ましくは1〜20μmの範囲であるのが好ましいが、必ずしもこれらの範囲に制限されるものではない。なお、耐熱性材料が2次粒子である場合には該2次粒子を構成する1次粒子の平均粒径は、特に制限されるものではないが、通常0.01〜1μmの範囲であるのが望ましい。ただし、製造方法にもよるが、耐熱性材料が凝集、塊状などにより2次粒子化したものでなくても良いことはいうまでもない。かかる正極活物質の平均粒径および1次粒子の粒径は、例えば、SEM(走査電子顕微鏡)観察、TEM(透過電子顕微鏡)観察により測定することができる。
【0030】
以下、耐熱性材料を用いて本発明に係る正極活物質層を製造する好ましい方法を記載する。しかしながら、本発明は、下記方法に限定されるものではない。
【0031】
正極活物質層の構成材料(正極材料ともいう)としては、上記耐熱性材料(正極活物質)のほか、電子伝導性を有する導電材、バインダ等を含有するものであってもよい。上記耐熱性材料として好適に使用される遷移金属とリチウムとの複合酸化物(リチウム−遷移金属複合酸化物)自体は電子伝導性を有するものでないことから、電子伝導性を有する導電材およびバインダが通常用いられる。
【0032】
本発明では、上記耐熱性材料に加えて、通常使用されている公知の正極活物質を併用して、正極活物質層を製造してもよい。併用することによって、反応性の向上、容量の増大などが達成できる。このような場合の上記他の正極活物質の混合比は、本発明に係る正極活物質層の耐熱性が損なわれない程度であることが好ましく、通常、合計重量(耐熱性材料と他の正極活物質との合計重量)に対して、50重量%以下であることが好ましい。
【0033】
上記したように耐熱性材料と公知の正極活物質とを併用する場合に使用できる他の正極活物質としては、特に制限されるべきものではなく、従来公知のリチウムイオン電池で使用される正極活物質を用いることができる。具体的には、LiCoOなどのLi・Co系複合酸化物;LiNiOなどのLi・Ni系複合酸化物;LiCr、LiCrOなどのLi・Cr系複合酸化物;LiFeOなどのLi・Fe系複合酸化物;遷移金属とリチウムの硫酸化合物;V、MnO、TiS、MoS、MoOなどの遷移金属酸化物や硫化物;PbO、AgO、NiOOH、ならびにこれらの遷移金属の一部を他の元素により置換したものなどが併用できるなど、Li金属酸化物から選択し使用できるが、これらの材料に限定されるものではない。これら他の正極活物質は、反応性、サイクル耐久性に優れ、低コストな材料である。そのためこれらの材料を電極に用いることにより、電池に優れた出力特性を付与することができる。また、上記場合の他の正極活物質の平均粒径としては、その製造方法にもよるが、正極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、0.1〜20μmの範囲であるのが望ましいといえるが、必ずしもこれらの範囲に制限されるものではない。なお、該正極活物質が2次粒子である場合には該2次粒子を構成する1次粒子の平均粒径は、特に制限されるものではないが、通常0.1〜5μmの範囲であるのが望ましい。ただし、製造方法にもよるが、正極活物質が凝集、塊状などにより2次粒子化したものでなくても良いことはいうまでもない。かかる正極活物質の平均粒径および1次粒子の粒径は、例えば、SEM(走査電子顕微鏡)観察、TEM(透過電子顕微鏡)観察により測定することができる。また、他の正極活物質の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、充放電特性などの電池特性を向上し得る最適の形状を適宜選択するのが望ましい。なお、上記でいう正極活物質の平均粒径を測定する際には、粒子の形状が一様でないこともあることから、絶対最大長で表すものとし、篩い分けする場合には篩い目(メッシュスルーサイズまたはメッシュパスサイズ)を用いてもよい。ここで、絶対最大長とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さをとるものをいう。また、上記他の正極活物質の密度は、正極活物質の種類(組成)や形状(構造)等によって決定されるものであり、例えば、ピクノメータにより測定することができる。
【0034】
本発明に係る正極活物質層の形成に用いることのできる導電材としては、特に制限されるべきものではなく、従来公知のリチウムイオン電池で使用される導電材を用いることができる。具体的には、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボンファイバー(VGCF)、金属粉末材料等が挙げられる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0035】
導電材の平均粒径は、特に制限されるべきものではない。高出力化、高容量化を達成するには、0.1μm以下とするのが望ましい。なお下限値に関しては特に規定されないが、製造容易性などの点から、1nm以上とするのがよい。取り扱い容易性の観点からは25〜50nm程度の範囲である。かかる導電材の平均粒径は、例えば、SEM観察、TEM観察により測定することができる。なお、上記でいう導電材の平均粒径を測定する際には、粒子の形状が一様でないこともあることから、絶対最大長で表すものとし、篩い分けする場合には篩い目(メッシュスルーサイズまたはメッシュパスサイズ)を用いてもよい。また、導電材の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、充放電特性などの電池特性を向上し得る最適の形状を適宜選択するのが望ましい。また、上記導電材の密度は、導電材の種類(組成)や形状(構造)等によって決定されるものであり、例えば、ピクノメータにより測定することができる。
【0036】
上記導電材の正極材料全量に対する配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して、最適比の活物質と導電材量となるように決定すべきである。
【0037】
また、本発明に係る正極活物質層の形成に用いることのできるバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、SBR、ポリイミドなどが挙げられる。ただし、これらに限られるわけではない。上記バインダの正極材料全量に対する配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して決定すべきである。
【0038】
本発明に係る正極活物質層の形成に、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)、高分子ゲル電解質(ホストポリマー、電解液など)などをさらに使用してもよい。
【0039】
上記高分子ゲル電解質は、イオン伝導性を有する固体高分子電解質に、従来公知の非水電解質リチウムイオン電池で用いられる電解液を含んだものであるが、さらに、リチウムイオン伝導性を持たない高分子の骨格中に、同様の電解液を保持させたものも含まれるものである。
【0040】
ここで、高分子ゲル電解質に含まれる電解液(電解質支持塩および可塑剤)としては、特に制限されるべきものではなく、従来既知の各種電解液を適宜使用することができるものである。例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種類のリチウム塩(電解質支持塩)を含み、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエーテル類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトニトリル等のニトリル類;プロピオン酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;酢酸メチル、蟻酸メチルの中から選ばれる少なくともから1種類または2種以上を混合した、非プロトン性溶媒等の可塑剤(有機溶媒)を用いたものなどが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0041】
イオン伝導性を有する固体高分子電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、これらの共重合体のような公知の固体高分子電解質が挙げられる。
【0042】
高分子ゲル電解質に用いられるリチウムイオン伝導性を持たない高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。なお、PAN、PMMAなどは、どちらかと言うとイオン伝導性がほとんどない部類に入るものであるため、上記イオン伝導性を有する高分子とすることもできるが、ここでは高分子ゲル電解質に用いられるリチウムイオン伝導性を持たない高分子として例示したものである。
【0043】
上記イオン伝導性を高めるための電解質支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩、またはこれらの混合物などが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0044】
高分子ゲル電解質中のホストポリマーと電解液との比率(質量比)は、使用目的などに応じて決定すればよく、好ましくは2:98〜90:10の範囲であるが、かかる範囲を外れる場合でも適用し得る。
【0045】
本発明の正極材料における高分子電解質(ホストポリマー、電解液など)、リチウム塩等の配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して決定すべきである。
【0046】
正極活物質層の厚さは、特に限定するものではなく、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して決定すべきである。一般的な正極活物質層の塗膜厚さは10〜200μm程度であり、この範囲であれば本発明でも十分に利用可能であるが、本発明の正極材料の持つ機能を有効に発現するには、好ましくは20〜150μm、より好ましくは50〜120μmである。これは、一般的な民生用のリチウムイオン電池は、単位体積当たりのエネルギー量の向上を競っており、電極活物質層の厚さは厚くなる傾向にある一方、電極集電体や本発明のセパレータを有する電解質層はどんどん薄くする方向に進んでいる(如何に活物質を多く入れ、他の成分は取り除くかという方向に進んでいる)が、本発明では、これらを踏まえたうえで、更に異常時安全性を備えてなる電池を提供する観点から、発熱する電極活物質層の厚さを決定すればよい。
【0047】
また、本発明において、セパレータに使用できる耐熱性材料は、上記したように、電池内部での温度上昇を抑制・防止できるものである。本明細書では、セパレータに使用できる耐熱性材料とは、100〜200℃の温度範囲で1時間加熱した際の熱収縮率が前記温度範囲内のすべての領域において0〜30%であることが好ましい。内部短絡、外部短絡時の電池温度上昇の抑制効果を考慮すると、セパレータに使用できる耐熱性材料は、100〜200℃の温度範囲で1時間加熱した際の熱収縮率が、前記温度範囲内のすべての領域において、0〜30%であり、0〜25%、0〜20%、0〜10%、0〜5%である材料の順で好ましい。このような熱収縮率を有する耐熱性材料であれば、異常発熱時の収縮を防止して電池の電極間ショートの誘発を効果的に防ぎ、また、放熱効果の小さい中央付近のセパレータであっても、温度上昇を有効に抑制・防止できるからである。なお、本明細書において、熱収縮率は、100〜200℃の温度範囲で1時間加熱した際の縦方向熱収縮率及び縦方向熱収縮率双方を意味し、具体的には下記方法によって測定した縦方向熱収縮率及び縦方向熱収縮率双方が上記所定の範囲に入ることを意味する。
【0048】
<熱収縮率の測定方法>
セパレータを縦横10cm角に切断し、熱風循環型オーブンで100〜200℃間の所定温度(100、120、150、180、200℃)に2時間保持し、その後、上記セパレータを十分冷却し、セパレータ縦横の寸法測定を行った。熱収縮率は以下のように定義した。
【0049】
【数1】

【0050】
ただし、Lは、乾燥前のセパレータ縦寸法であり;Lは、乾燥後のセパレータ縦寸法であり;Lは、乾燥前のセパレータ横寸法であり;およびLは、乾燥後のセパレータ横寸法である。
【0051】
本発明において使用されるセパレータに使用できる耐熱性材料は、上記したように電池内部での温度上昇を抑制・防止できるものであれば特に制限されないが、上記熱収縮率を有するものであるものが好ましい。このような耐熱性材料としては、アラミド(熱収縮率:1%以下)、ポリイミド(PI)(熱収縮率:1%以下)、アラミドとポリイミドとの共重合体(熱収縮率:1%以下)、セラミック(熱収縮率:1%以下)、ポリエチレンテレフタレート(PET)(熱収縮率:3%)、セルロース材料(熱収縮率:1%以下)、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系セパレータに絶縁性粒子(例えば、アルミナ)を担持させたもの(熱収縮率:1%以下)などが使用できる。これらのうち、アラミド、セラミックが好ましく使用される。これらの耐熱性材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、複数のセパレータに耐熱性材料が使用される場合には、耐熱性材料は、各セパレータで同一のものが使用されてもあるいは異なるものが使用されてもよい。
【0052】
セパレータへの耐熱性材料の配合量は、上記したように電池内部での温度上昇を抑制・防止できるものであれば特に制限されない。通常、耐熱性材料の配合量は、セパレータを形成する材料全量に対して、0.5〜30質量%が好ましく、より好ましくは1〜20質量%、最も好ましくは2〜10質量%である。このような範囲にあれば、耐熱性材料は、セパレータ中で十分耐熱性を発揮できる。複数のセパレータに耐熱性材料が使用される場合には、耐熱性材料の量は、各セパレータで同一のものが使用されてもあるいは異なるものが使用されてもよい。
【0053】
セパレータに使用できる耐熱性材料は、いずれの形態で使用されてもよく、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なる。例えば、繊維状、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、繊維状、球状(粉末状)であり、繊維状が最も好ましい。以下、耐熱性材料による繊維集合体から本発明に係るセパレータを製造する好ましい方法を記載する。しかしながら、本発明は、下記方法に限定されるものではない。
【0054】
上記形態において、セパレータに用いることのできる繊維集合体としては、特に制限されるものではなく、不織布、織布、編布、さらにこれらを組み合わせたものなどが挙げられる。上記繊維集合体の形態(形状)としては、電池用セパレータとして利用できる形態(形状)であれば、特に制限されるものではなく、例えば、シート状、袋状などが挙げられる。すなわち、不織布シート、織布シート、編布シート、袋状不織布(不織布袋)、袋状織布(織布袋)、袋状編布(編布袋)などの繊維集合体が利用できる。とりわけ、生産性が良く、安価で大量に生産できる点で、不織布シート、袋状不織布(不織布袋)が有利である。袋状不織布(不織布袋)では、ハンドリング性が向上するほか、電池要素の電極、セパレータ間のずれ防止効果の面でも優れている。
【0055】
本発明では、上記耐熱性材料に加えて、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(ナイロン)などの従来公知のセパレータ用の樹脂材料を併用して、セパレータを製造してもよい。併用することによって、セパレータの材質に求められる化学的な反応安定性(反応不活性)、耐薬品性、電位をかけた時の耐性、機械的特性、電解液の保持性能、短絡防止性などを付与できる。このような場合の上記他の樹脂材料の混合比は、本発明に係るセパレータの耐熱性が損なわれない程度であることが好ましく、通常、合計重量(耐熱性材料と他の樹脂材料との合計重量)に対して、50重量%以下であることが好ましい。
【0056】
上記繊維集合体を構成する繊維の太さ(繊維径)としては、十分な耐熱性が発揮できる太さであれば特に制限されるものではない。通常、繊維の太さ(繊維径)は、5〜10μm程度であれば使用可能であるが、セパレータを薄膜化して電池出力の向上に寄与することを特に目的とする場合には、繊維径(φ)が5μm以下、より好ましくは1〜5μmの極細繊維を用いることが望ましい。すなわち、φ5μm以下の極細繊維を用いる事によって、従来繊維(φ5μm程度)で作製した不織布(厚さ20μm〜30μm)よりも薄い不織布(φ1μmで厚さ5μm程度)などの繊維集合体を作製することができ、電池の出力が大幅に向上する。また、太さの異なる、φ5μm以下の極細繊維(例えば、ポリイミド繊維)と、φ5μm以上の従来繊維(PE、PP系繊維)とを適当な配合比率で用いて繊維集合体を作製してもよい。
【0057】
上記繊維集合体により構成されるセパレータの厚さとしては、電池の種類や用途などに応じて適宜決定されるものであり、特に制限されるべきものではなく、通常5〜200μm程度であれば使用可能である。また、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)や燃料電池自動車などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、5〜200μm、好ましくは20μm以下であることが望ましい。セパレータの厚さが、かかる範囲にあることで、保持性、抵抗が増大するのを抑制することができる。また、セパレータに微粒が食い込むことによって発生する短絡の防止と、高出力のために電極間を狭くすることが望ましいという理由から、厚さ方向の機械的強度と高出力性の確保という効果がある。また電池を複数接続する場合には、電極面積が増大することから、電池の信頼性を高めるために上記範囲のなかでも厚形のセパレータを用いることが望ましい。一方、よりセパレータを薄膜化し、電極間距離を狭めることで、この間の抵抗をより小さくすることができ、ひいては電池出力の向上に寄与することを目的とする場合には、セパレータの厚さは、20μm以下、好ましくは10〜20μmである。こうした薄膜化セパレータでは、電極にゴミやバリがあるとショートを誘発し易いことが分かったが、これらは、電極表面をブラシすることで簡単かつ確実に予防することができることできることがわかった。すなわち、薄膜化セパレータを用いても、ゴミやバリによるショートなどの問題なく使用することができる。なお、セパレータの厚さの下限値は、特に規定されないが、ハンドリングの観点から、上記したように10μm程度であることが望ましい。一方、セパレータの厚さが20μmを超える場合には、電池出力が低下する。ただし、20μmを超える場合でも、上記したように電池の用途によっては利用できる場合もある。
【0058】
ここで、繊維集合体により構成されるセパレータとしては、以下に例示するような、シート状などの各種形態(形状)に加工された繊維集合体により、シート状、袋状などの各種形態(形状)に構成されたセパレータが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。(1)シート状の繊維集合体をそのままセパレータとして用いる形態、(2)シート状の繊維集合体を2枚以上積層ないし貼り合せてセパレータとして用いる形態、(3)図3A〜Cに示すように、2枚の方形のシート状の繊維集合体101a、101bを周縁部の一部、例えば、その4辺の内のコーナー部のみを熱溶着ないし熱融着(アラミド繊維やポリイミド繊維が熱融着可能なように400〜600℃程度とするのがよい。)するなどして熱溶着点103にて接合して袋状のセパレートとして用いる形態、(4)2枚の方形のシート状の繊維集合体の周縁部同士の4辺の内の3辺の周縁部全体を貼り合せたり、熱溶着ないし熱融着するなどして接合して袋状のセパレートとして用いる形態、(5)袋状に加工した繊維集合体をそのまま袋状のセパレータとして用いる形態、などが挙げられる。なお、図3A〜Gに示すように、セパレータ101を袋状にして(図3B、C参照)、電極(非バイポーラ電極の正極若しくは負極、またはバイポーラ電極;図3Dは、集電体105の両面に正極活物質層107を形成した正極109を例示した。)を収納している場合には、当該袋状のセパレータ101は、電極(非バイポーラ電極の正極若しくは負極、またはバイポーラ電極)109を挟んで両面に位置するため、こうした場合のセパレータ101の厚さや目付けは、電極の片面側のセパレータ部分101a、101bごとに適用するものとする(図3G参照のこと)。
【0059】
繊維集合体により構成されるセパレータの目付けは、セパレータの単位面積あたりの重さで表される物性値の1つである。かかるセパレータの目付けとしては、電池の異常発熱時におけるセパレータの収縮を防止するという本発明の効果に影響を及ぼさない範囲内であれば特に制限されるものではなく、通常10g/m以下あることが望ましい。セパレータの目付けが10g/mを超える場合には、電解液、ゲル電解質ないし固体電解質の保持性能が低下するおそれがある。なお、ここで目付けに関してはセパレータ厚さ及び後述する空孔率を満たしていれば必ずしも上記数値を満たす必要はなく、目安としての数値である。
【0060】
繊維集合体により構成されるセパレータの空孔率は、セパレータにどれだけ孔が空いているかを示す物性値の1つである。かかるセパレータの空孔率としては、電池の異常発熱時におけるセパレータの収縮を防止するという本発明の効果に影響を及ぼさない範囲内であれば特に制限されるものではないが、イオン伝導性の観点から、好ましくは40%以上である。空孔率が大きく透気度が非常に小さい(≒0)不織布などの繊維集合体をセパレータとして用いる事で、電池の出力が向上する。また、空孔率が上記範囲内であれば、電解質(電解液)の抵抗による出力低下の防止と、微粒がセパレータの空孔(微細孔)を貫くことによる短絡の防止という理由から出力と信頼性の両方を確保するという効果がある。セパレータの空孔率が40%未満の場合には、電解質の保持性が悪化し、電解液、ゲル電解質ないし固体電解質の保持性能や電池の出力が低下するおそれがある。また、セパレータの空孔率の上限は、短絡防止性、機械物性などの観点から、60%以下であることが望ましい。ただし、セパレータの空孔率が上記範囲を外れる場合であっても、電池の用途等によっては十分な電池の出力が得られるため利用できる場合もある。なお、セパレータの空孔率は、原材料樹脂の密度と最終製品のセパレータの密度から体積比として求められる値である。
【0061】
上記繊維集合体により構成されるセパレータのガーレー値は、セパレータの透気度を示す物性値の1つである。かかるセパレータのガーレー値としては、電池の異常発熱時におけるセパレータの収縮を防止するという本発明の効果に影響を及ぼさない範囲内であれば特に制限されるものではなく、通常10秒以下であることが望ましい。セパレータのガーレー値が高い場合、前述の空孔率が40%以上であっても、例えば空孔の形状が複雑な為イオンの移動が阻害されている恐れがある、前述の空孔率60%以下で機械強度が十分保たれていれば、下限値に制限はない。ただし、セパレータのガーレー値が上記範囲を外れる場合であっても、電池の用途によっては利用できる場合もある。すなわち、現行のPEないしPP多孔膜製セパレータは、機械的特性や短絡防止の観点から、ガーレー値が通常200〜300秒程度(但し、多孔膜セパレータの孔の大きさによっても異なる)であり、透過度が低くなっている。なお、セパレータのガーレー値は、JIS P8117に準拠し、0.879g/mm圧で100ccの空気が膜を透過する秒数を示す。
【0062】
上記繊維集合体により構成されるセパレータ(特に不織布セパレータ)のかさ密度は、含浸させる電解質(液体電解液、ゲル電解質、固体電解質)により十分な電池特性を得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。すなわち、あまり不織布セパレータ等のかさ密度が大きすぎると、電解質層中の非電解質材料が占める割合が大きくなりすぎ、電解質層におけるイオン伝導度などを損なうおそれがある。
【0063】
本発明の上記セパレータを構成する繊維集合体の製造方法としては、公知の不織布、織布、編布の製造方法により製造可能であり、織布、編布では、織機・編み機にかけて織ったり、編んだりする方法が広く適用できる。織り方により、平織・綾織・模沙織、編物はジャガード・トリコットなどにすることができる。また、不織布では、例えば、湿式(例えば、湿式の抄紙方式)、乾式、スパンボンド法、ウオーターニードル法などで製造できる。かかる不織布は、紡口から押し出された糸が数万本幅広く並べ、重ねられ、強度を出すためと繊維の固定に熱プレス・高圧水流法などにより、シート状に出来上がったものであり、基本的には長繊維不織布の場合、繊維はほぼ縦方向に並んでおり、横糸に相当する糸はない。短繊維の不織布の場合も繊維を色々な製法によりほぼ縦方向に繊維は並べられ、貼布剤用など一部にはクロスレイヤー方式で縦と横糸を混ぜ合わせたものも製造可能である。このように、不織布とは正に生産性が良く、安価で大量に生産できる点で有利である。また、短繊維不織布の場合は接着剤が不織布の強度を上げるのに有用である。
【0064】
上述したように、本発明に係る正極活物質層及びセパレータは、セパレータの構成部材の溶解;電解液や活物質の劣化・分解;これらの現象により誘発される内部の温度上昇のさらなる加速が有効に抑制・防止できる。したがって、上記したような構造を有する積層型電池は、耐熱性が向上し、特に高温保存時での耐久性が向上して、セパレータのシャットダウン、正極活物質の分解によるガスの発生、及び電解液のガス化による極間距離増大により引き起こされる抵抗の増大などの諸問題を有効に抑制・防止できるため、電池寿命に優れかつ電池特性に優れた電池が構築でき、当該電池は、異常発熱時であっても高い安全性が求められる各種電池に幅広く利用できるものである。
【0065】
よって、本発明に係る電池は、上述した正極活物質層及びセパレータを用いてなることを特徴とする電池であればよく、他の構成要件に関しては、何ら制限されるべきものではない。本発明の正極活物質層及びセパレータを用いることで、上記したような効果が達成できる。また、セパレータに耐熱性材料を使用することによって、特に電池が異常発熱した際のセパレータの収縮を効果的に抑制・防止できるため、かかるセパレータ収縮による電極間ショートを防止することもできる。
【0066】
かかる電池としては、例えば、電池を使用形態で区別する場合には、1次電池および2次電池のいずれの使用形態にも適用し得るものである。例えば、車両搭載用電源として用いるような場合には、2次電池が適している。
【0067】
本発明の電池の形態・構造は、積層型(扁平型)電池であるが、積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。本発明では、従来、引っ張り強度の問題や異常発熱時の収縮の問題で使用できなかった不織布セパレータを電池用セパレータとして適用することができる。積層型電池では、捲回型電池のような引っ張り強度が必要とされないため、耐熱性が高い熱硬化性樹脂繊維による繊維集合体で構成された不織布セパレータを積層型電池用セパレータとして用いることで、製造段階でセパレータが引っ張られて裂ける恐れもなく、生産性(歩留まり)が高く、異常時信頼性が高い電池となる。
【0068】
電池外装材で区別した場合、使用用途や上記形態・構造などに応じて、積層型電池によく使われる高分子−金属を複合したラミネートフィルム(例えば、アルミラミネートフィルム外装材)に代表されるラミネート外装電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。特に、電池の薄型、軽量化などの観点からは、ラミネート外装電池が望ましい。一方、電池強度の観点からは、円筒缶(外装)電池が優れているが、ラミネート外装電池でも、例えば、車両に搭載した場合に受ける振動や衝撃に対して十分な耐振動・衝撃性を備えることができるようになっている。
【0069】
また、電池内の電解質層で区別した場合、電解液(液体電解質)型電池、ゲル電解質型電池、固体(固体高分子)電解質型電池のいずれにも適用し得るものである。本発明では、上述した本発明のセパレータに、こうした各種電解質ないし電解質溶液(架橋前の前駆体溶液を含む)を含浸、塗布、スプレー(吹き付け)などの手法を用いて、セパレータに保持、積層等させることができる。ゲル電解質型電池及び固体電解質型電池を称してポリマー電池というが、こうしたポリマー電池では、液漏れが生じにくいので、液絡の問題が無く信頼性が高く、かつ簡易な構成で出力特性に優れた電池を形成することができる点では有利である。この点は、ポリマー電池の中でも、特に固体電解質型電池で顕著である。
【0070】
電池の電極材料ないし電極間を移動する金属イオンで見た場合には、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、ラニッケルカドミウム二次電池、ニッケル水素電池など特に制限されるべきものではなく、従来公知のいずれの電極材料等にも適用し得るものである。好ましくは、リチウムイオン二次電池である。これは、リチウムイオン二次電池では、セル(単電池層)の電圧が大きく、高エネルギー密度、高出力密度が達成でき、車両の駆動電源用や補助電源用等として好適に利用できるほか、携帯電話などの携帯機器向けのリチウムイオン電池にも十分に適用可能なためである。更に、正極活物質としてリチウム−遷移金属複合酸化物を用いた電池では、反応性、サイクル耐久性に優れ、低コストな材料であるから、これらの材料を正極電極に用いることにより、出力特性により優れた電池を形成することができる点では有利である。
【0071】
したがって、以下の説明では、本発明に係る正極活物質層及びセパレータを用いてなるバイポーラ型の積層型ラミネート外装リチウムイオン二次電池(以下、単にバイポーラ電池とも略記する)につき図面を用いてごく簡単に説明するが、決してこれらに制限されるべきものではない。すなわち、上述した正極活物質層及びセパレータ以外の構成要件に関しては何ら制限されるべきものではない。
【0072】
まず、バイポーラ電池では、共に、正極(例えば、正極集電体アルミ箔+正極活物質層の塗膜)と負極(例えば、負極集電体銅箔+負極活物質層の塗膜)とを、セパレータを用いて形成した電解質層を介して対峙するように積層した発電要素(積層型)を、ラミネート外装(例えば、アルミラミネートフィルムパック)に収納し封止した電池の形態が一般的である。ただし、これらに何ら制限されるものではなく、例えば、正極集電体アルミ箔及び負極集電体銅箔の正極及び負極タブ部分の取り出し方向は、同じ辺(方向)から取り出してもよいし、正極タブと負極タブとをそれぞれ対峙する辺(方向)から取り出してもよい。
【0073】
なお、バイポーラ電極(最上下層の単電池層を含む)の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、バイポーラ電池では、よりセパレータを薄膜化して電池出力の向上に寄与することができることから、電池全体の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保でき易く、バイポーラ電極の積層回数を少なくして、より薄型化を図ることができる点で有利である。また、本発明のバイポーラ電池では、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、電極積層体部分を電池外装材(好ましくは高分子−金属を複合したラミネートフィルム)に減圧封入し、電極リードを電池外装材の外部に取り出した構造とするのがよい。このバイポーラ電池の基本構成は、複数積層した単電池層(単セル)が直列に接続された構成ともいえるものである。以下、各構成要素につきまとめて説明する。
【0074】
[電極集電体]
本発明で用いることのできる電極集電体としては、特に制限されるものではなく、従来公知のものを利用することができる。例えば、アルミニウム箔、ステンレス(SUS)箔、ニッケルとアルミニウムのクラッド材、銅とアルミニウムのクラッド材、SUSとアルミニウムのクラッド材あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく使える。また、金属表面に、アルミニウムを被覆させた集電体であってもよい。また、場合によっては、2つ以上の金属箔を張り合わせた集電体を用いてもよい。複合集電体を用いる場合、正極集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、SUS、チタンなどの導電性金属を用いることができるが、アルミニウムが特に好ましい。一方、負極集電体の材料としては、例えば、銅、ニッケル、銀、SUSなどの導電性金属を用いることができるが、SUS及びニッケル等が特に好ましい。また、複合集電体においては、正極集電体と負極集電体とは、互いに直接あるいは第三の材料からなる導電性を有する中間層を介して電気的に接続していれば良い。また、正極集電体及び負極集電体には、平板(箔)のほか、ラスプレート、すなわちプレートに切目を入れたものをエキスパンドすることにより網目空間が形成されるプレートにより構成されているものを用いることもできる。
【0075】
集電体の厚さは共に、特に限定されないが、通常は5〜50μm程度である。集電体を薄くすると、同じ体積内にたくさんのセルを詰め込むことができるため、電池体積当たりの容量及び出力を高めることができる。このことから、集電体厚さを上記範囲内で薄くするのが、安全性と電池性能の双方に優れた電池を提供することができる。
【0076】
[負極活物質層]
負極活物質層に関しては、負極材料活物質を含む。この他にも、電子伝導性を高めるための導電材、バインダ、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)、高分子ゲルないし固体電解質(ホストポリマー、電解液など)などが含まれ得る。負極活物質の種類以外は、基本的に上記正極活物質層について既に説明した内容と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0077】
負極活物質としては、従来公知の溶液系のリチウムイオン電池でも使用される負極活物質を用いることができる。具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、アモルファスカーボン、コークスおよびメソフェーズピッチ系炭素繊維、グラファイト、非晶質炭素であるハードカーボンなどの炭素材料から選ばれてなる少なくとも1種を主材料とする負極活物質を用いることが望ましいが、特に限定されない。この他にも金属酸化物(特に遷移金属酸化物、具体的にはチタン酸化物)、金属(特に遷移金属、具体的にはチタン)とリチウムとの複合酸化物などを用いることもできる。
【0078】
さらに、負極活物質層に含まれる電解質には、被膜形成材が含まれていてもよい。これにより、電池の充放電サイクルに伴う容量低下を抑制することができる。被膜形成材としては、特に限定されず、例えば、特開2000−123880号公報に記載されているような被膜形成材など従来公知のものを用いることができる。
【0079】
負極活物質層の塗膜厚さは、特に限定するものではなく、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して決定すべきである。一般的な負極活物質層の塗膜厚さは20〜200μm程度であり、この範囲であれば本発明でも十分に利用可能であるが、好ましくは30μm以下である。これは、一般的な民生用のリチウムイオン電池は、単位体積当たりのエネルギー量の向上を競っており、活物質層の塗膜厚さは厚くなる傾向にある一方、集電体や本発明のセパレータを有する電解質層はどんどん薄くする方向に進んでいる(如何に活物質を多く入れ、他の要素は取り除くかという方向に進んでいる)が、本発明では、これらを踏まえたうえで、更に異常時安全性を備えてなる電池を提供する観点から、発熱する電極活物質層の厚さを決定すればよい。
【0080】
なお、本発明では、少なくとも一の正極活物質層に耐熱性材料を使用することが必須の構成要件であるが、負極活物質層にも、耐熱性材料が使用されてよい。
【0081】
[電解質層]
電解質層に関しては、本発明のセパレータを用いて形成されているものであれば、特に制限されるものではなく、その使用目的に応じて、イオン伝導性に優れる電解液含有セパレータを電解質層として用いることができるほか、ポリマー電解質と称される高分子ゲル電解質等をセパレータに含浸、塗布、スプレーなどして形成した電解質層も好適に利用することができる。
【0082】
(a)電解液含有セパレータ
本発明のセパレータに染み込ませることのできる電解液としては、既に説明した本発明の正極活物質層の項の高分子ゲル電解質に含まれる電解液(電解質塩および可塑剤)と同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略するが、電解液の好適な1例を示せば、電解質として、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBOB、LiCFSOおよびLi(CFSOの少なくとも1種類を用い、溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランおよびγ−ブチルラクトンよりなるエーテル類から少なくとも1種類を用い、前記電解質を前記溶媒に溶解させることにより、電解質の濃度が0.5〜2モル/リットルに調整されているものであるが、本発明はこれらに何ら制限されるべきものではない。
【0083】
本発明では、上記した本発明に係るセパレータが少なくとも一の単電池層で使用されるが、セパレータを複数枚重ねて使用する場合には、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、本発明のセパレートと従来公知のPEやPPなどのセパレータとを重ねて利用してもよい。例えば、上記電解液を吸収保持する本発明のセパレータと、電解液を吸収保持するポリマーからなる多孔性シート(例えば、ポリオレフィン系微多孔質セパレータなど)や既存の不織布セパレータなどを併用することもできる。有機溶媒に対して化学的に安定であるという性質を持つ上記ポリオレフィン系微多孔質セパレータは、電解質(電解液)との反応性を低く抑えることができるという優れた効果を有するためである。上記ポリオレフィン系微多孔質セパレータなどの多孔性シートの材質としては、例えば、PE、PP、PP/PE/PPの3層構造をした積層体などが挙げられる。既存の不織布セパレータの材質としては、例えば、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンなど従来公知のものを用いることができる。
【0084】
上記セパレータに含浸などにより保持させる電解液量は、セパレータの保液能力範囲まで含浸、塗布などさせればよいが、当該保液能力範囲を超えて含浸させてもよい。これは、例えば、バイポーラ電池の場合、電解質シール部に樹脂を注入して電解質層からの電解液の染み出しを防止できるため、該電解質層のセパレータに保液できる範囲であれば含浸可能である。同様に、非バイポーラ電池の場合、電池要素を電池外装材に封入して電池外装材内部からの電解液の染み出しを防止できるため、該電池外装材内部に保液できる範囲であれば含浸可能である。該電解液は、真空注液法などにより注液した後、完全にシールすることができるなど、従来公知の方法でセパレータに電解液を含浸させることができる。
【0085】
(b)ゲル電解質層
本発明のゲル電解質層では、本発明のセパレータに高分子ゲル電解質を含浸、塗布などにより保持させてなるものである。
【0086】
高分子ゲル電解質としては、既に説明した正極活物質層の項の高分子ゲル電解質と同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0087】
また、高分子ゲル電解質は、電解質層のほか、正極活物質層、負極活物質層にも含まれ得るが、その際には、同一の高分子ゲル電解質を使用してもよく、層によって異なる高分子ゲル電解質を用いてもよい。
【0088】
ところで、現在好ましく使用される高分子ゲル電解質用のホストポリマーは、PEO、PPOのようなポリエーテル系高分子である。このため、高温条件下における正極側での耐酸化性が弱い。従って、酸化還元電位の高い正極材料を使用する場合には、負極活物質層の容量が、高分子ゲル電解質層を介して対向する正極活物質層の容量より少ないことが好ましい。負極活物質層の容量が対向する正極活物質層の容量より少ないと、充電末期に正極電位が上がり過ぎることを防止できる。ここでいう正極活物質層および負極活物質層の容量は、正極活物質層および負極活物質層を製造する際の理論容量として、製造条件から求めることができる。完成品の容量を測定装置で直接測定してもよい。ただし、負極活物質層の容量を対向する正極活物質層の容量と比べて少ないと、負極電位が下がりすぎて電池の耐久性が損なわれる恐れがあるので充放電電圧に注意する必要がある。例えば、一のセル(単電池層)の平均充電電圧を使用する正極活物質の酸化還元電位に対して適切な値に設定して、耐久性が低下しないように注意する。
【0089】
電池を構成する電解質層の厚さは、特に限定するものではないが、基本的には本発明のセパレータの厚さと略同等かあるいは若干厚い程度であり、通常5〜30μm程度であれば使用可能である。コンパクトな電池を得るためには、電解質層としての機能が確保できる範囲で極力薄くすることが好ましく、セパレータと同様に薄膜化して電池出力の向上に寄与するためには、電解質層の厚さは、15μm以下、好ましくは5〜10μmである。
【0090】
尚、本発明では、上記電解質層の電解液中には、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、従来公知の各種添加剤を含有していてもよい。
【0091】
[絶縁層]
絶縁層は、主にバイポーラ型電池の場合に用いられる。この絶縁層は、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こるのを防止する目的で、各電極の周囲に形成されてなるものである。本発明では、必要に応じて、電極の周囲に絶縁層を設けてもよい。これは、車両駆動用ないし補助用電源として利用するような場合には、電解液による短絡(液絡)を完全に防止する必要がある。さらに、電池への振動や衝撃が長期にわたり負荷される。そのため、電池寿命の長期化の観点からは、絶縁層を設置することがより長期間の信頼性、安全性を確保する上で望ましく、高品質の大容量電源を提供できる点で望ましいためである。
【0092】
該絶縁層としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよく、例えば、エポキシ樹脂、ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミドなどが使用できるが、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
【0093】
[正極および負極端子板]
正極および負極端子板は、必要に応じて使用すればよい。例えば、バイポーラ型のリチウムイオン電池の場合では、積層(ないし捲回)構造によっては、最外部の集電体から電極端子を直接取り出しても良く、この場合には正極および負極端子板は用いなくともよい。
【0094】
正極および負極端子板を用いる場合には、端子としての機能を有するほか、薄型化の観点からは極力薄い方がよいが、積層されてなる電極、電解質および集電体はいずれも機械的強度が弱いため、これらを両側から挟示し支持するだけの強度を持たせることが望ましい。さらに、端子部での内部抵抗を抑える観点から、正極および負極端子板の厚さは、通常0.1〜2mm程度が望ましいといえる。
【0095】
正極および負極端子板の材質は、従来公知のリチウムイオン電池で用いられる材質を用いることができる。例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金などを利用することができる。耐蝕性、作り易さ、経済性などの観点からは、アルミニウムを用いることが好ましい。
【0096】
正極端子板と負極端子板との材質は、同一の材質を用いてもよいし、異なる材質のものを用いてもよい。さらに、これら正極および負極端子板は、材質の異なるものを多層に積層したものであってもよい。
【0097】
[正極および負極リード]
正極および負極リードに関しては、従来公知のリチウムイオン電池で用いられるリードと同様のものを用いることができる。なお、電池外装材(電池ケース)から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆しておくのが好ましい。
【0098】
[電池外装材(電池ケース)]
リチウムイオン電池では、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、電池の発電要素である電池積層体を電池外装材ないし電池ケースに収容するのが望ましい。軽量化の観点からは、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅などの金属(合金を含む)の両面をポリプロピレンフィルム等の絶縁体(好ましく耐熱性の絶縁体)で被覆した高分子−金属複合ラミネートフィルムなど、従来公知の電池外装材を用いて、その周辺部の一部または全部を熱融着にて接合することにより、電池積層体を収納し密封した構成とするのが好ましい。この場合、上記正極および負極リードは、上記熱融着部に挟まれて上記電池外装材の外部に露出される構造とすればよい。また熱伝導性に優れた高分子−金属複合ラミネートフィルムなどを用いることが、自動車の熱源から効率よく熱を伝え、電池内部を電池動作温度まですばやく加熱することができる点で好ましい。高分子−金属複合ラミネートフィルムとしては、特に制限されるべきものではなく、高分子フィルム間に金属フィルムを配置し全体を積層一体化してなる従来公知のものを使用することができる。具体例としては、例えば、高分子フィルムからなる外装保護層(ラミネート最外層)、金属フィルム層、高分子フィルムからなる熱融着層(ラミネート最内層)のように配置し全体を積層一体化してなるものが挙げられる。詳しくは、外装材に用いられる高分子−金属複合ラミネートフィルムは、上記金属フィルムの両面に、高分子フィルムとして、まず耐熱絶縁樹脂フィルムを形成し、少なくとも片面側の耐熱絶縁樹脂フィルム上に熱融着絶縁性フィルムが積層されたものである。かかるラミネートフィルムは、適当な方法にて熱融着させることにより、熱融着絶縁性フィルム部分が融着して接合し熱融着部が形成される。上記金属フィルムとしては、アルミニウムフィルム等が例示できる。また、上記絶縁性樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテトラフタレートフィルム(耐熱絶縁性フィルム)、ナイロンフィルム(耐熱絶縁性フィルム)、ポリエチレンフィルム(熱融着絶縁性フィルム)、ポリプロピレンフィルム(熱融着絶縁性フィルム)等が例示できる。ただし、本発明の外装材は、これらに制限されるべきものではない。こうしたラミネートフィルムでは、超音波溶着等により熱融着絶縁性フィルムを利用して1対ないし1枚(袋状)のラミネートフィルムの熱融着による接合を、容易かつ確実に行うことができる。なお、電池の長期信頼性を最大限高めるためには、ラミネートシートの構成要素である金属フィルム同士を直接接合してもよい。金属フィルム間にある熱融着性樹脂を除去もしくは破壊して金属フィルム同士を接合するには超音波溶着を用いることができる。
【0099】
次に、本発明の電池の用途としては、様々な用途に幅広く利用可能である。例えば、服ポケットや鞄等に入れて持ち歩くなど、比較的身近に所持することが多いことからその安全性が求められる携帯電話や携帯パソコンなどの携帯電子機器用電源として好適に利用することができる。更に、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)や燃料電池自動車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、高エネルギー密度、高出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。この場合には、本発明の非バイポーラまたはバイポーラ型のリチウムイオン二次電池を複数個接続して構成した組電池とすることが望ましい。すなわち、本発明では、上記リチウムイオン電池を複数個、並列接続または直列接続または並列−直列接続または直列−並列接続の少なくとも一つを用いて組電池(車両用サブモジュール)とすることができる。これにより、種々の車両用ごとの容量・電圧の要望を基本の電池の組み合わせで対応が可能になる。その結果、必要エネルギー、出力の設計選択性を容易にすることが可能になる。そのため種々の車両用ごとに異なる電池を設計、生産する必要がなく、基本となる電池の大量生産が可能となり、量産化によるコスト削減が可能となる。以下に、当該組電池(車両用サブモジュール)の代表的な実施形態につき、図面を用いて簡単に説明する。
【0100】
図4に、本発明のバイポーラ電池(24V、50mAh)を2直20並に接続した組電池(42V1Ah)の模式図を示す。並列部分のタブは銅のバスバー56、58で接続し、直列部分はタブ48、49同士を振動溶着して接続した。直列部分の端部を端子62、64に接続して、正負の端子を構成している。電池の両側には、バイポーラ電池41の各層の電圧を検知する検知タブ60を取り出し、それらの検知線53を組電池51の前部に取り出している。詳しくは、図4に示す組電池51を形成するには、バイポーラ電池41を5枚並列にバスバー56で接続し、5枚並列にしたバイポーラ電池41をさらに電極タブ同士を接続して2枚直列にし、これらを4層積層して並列にバスバー58で接続して金属製の組電池ケース55に収納する。このように、バイポーラ電池41を任意の個数直並列に接続することによって、所望の電流、電圧、容量に対応できる組電池51を提供することができる。該組電池51には、正極端子62、負極端子64が金属製の組電池ケース55の側面前部に形成されており、電池を直並列に接続後、例えば、各バスバー56と各正極端子62、負極端子64とが端子リード59で接続されている。また、該組電池51には、電池電圧(各単電池層、更にはバイポーラ電池の端子間電圧)を監視するために検知タブ端子54が金属製の組電池ケース55の正極端子62及び負極端子64が設けられている側面前部に設置されている。そして、各バイポーラ電池41の電圧検知タブ60が全て検知線53を介して検知タブ端子54に接続されている。また、組電池ケース55の底部には、外部弾性体52が取り付けられており、組電池51を複数積層して複合組電池を形成するような場合に、組電池51間距離を保ち、防振性、耐衝撃性、絶縁性、放熱性などを向上することができる。
【0101】
また、この組電池51には、使用用途に応じて、上記検知タブ端子54以外にも各種計測機器や制御機器類を設けてもよい。さらにバイポーラ電池1の電極タブ(48、49)同士や検知タブ60と検知線53とを連結するためには、超音波溶接、熱溶接、レーザ溶接または電子ビーム溶接により、または、リベットのようなバスバー56、58を用いて、またはカシメの手法を用いて、連結するようにしてもよい。さらにバスバー56、58と端子リード59等とを連結するためにも、超音波溶接、熱溶接、レーザ溶接または電子ビーム溶接を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0102】
上記外部弾性体52にも、本発明の電池で用いた樹脂群と同様の材料を用いることができるが、これらに制限されるものではない。
【0103】
また、本発明の組電池では、本発明のバイポーラ電池と、該バイポーラ電池と正負極電極材料を同一とし該バイポーラ電池の構成単位数を直列することにより電圧を同一にした本発明の非バイポーラ電池とを並列に接続したものであってもよい。すなわち、組電池を形成する電池は、本発明のバイポーラ電池と非バイポーラ電池(但し、全ての電池が必ずしも本発明の電池でなくともよい)とを混在させても良い。これにより、出力重視のバイポーラ電池と、エネルギー重視のバイポーラ型でない電池の組み合わせでお互いの弱点を補う組電池ができ、組電池の重量・サイズを小さくすることができる。それぞれのバイポーラ電池とバイポーラ型でない電池をどの程度の割合で混在させるかは、組電池として要求される安全性能、出力性能に応じて決める。
【0104】
以上のように、本発明の幾つかの好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られるものではなく、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。例えば、上記では、バイポーラ型(内部直列接続タイプ)のリチウムイオン二次電池(バイポーラ電池)を例にとって説明してきたが、本発明の電池の技術的範囲がバイポーラ電池のみに制限されることはなく、例えば、本発明は、図2に示されるようなバイポーラ型ではない(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池(非バイポーラ電池)30についても同様にして適用しうる。バイポーラ型電池では、通常の電池に比べて単電池の電圧が高く、容量、出力特性に優れた電池を構成できるため、バイポーラ型リチウムイオン二次電池が本発明において特に好ましい。または、本発明の組電池は、バイポーラ電池と非バイポーラ電池を並列に連結した組電池であってもあるいは記の組電池(車両用サブモジュール)を少なくとも2以上直列、並列、または直列と並列の複合接続した複合組電池(車両用組電池)であってもよい。
【0105】
また、本発明の車両は、本発明の積層型電池および組電池を搭載することを特徴とするものである。これにより、高出力でかつ耐久性に優れた自動車が得られ、また、軽く小さい電池にすることでスペース要望の大きな車両要望に合致できる。電池のスペースを小さくすることで、車両の軽量化も達成できる。積層型電池および組電池を、例えば自動車ならばハイブリット車、電気自動車に用いることによりとなる
図5に示したように、複合組電池70を、車両(例えば、電気自動車等)に搭載するには、電気自動車80の車体中央部の座席(シート)下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、電池を搭載する場所は、座席下に限らず、車両の床下、シートバック裏、後部トランクルームの下部でも良いし、車両前方のエンジンルームでも良い。
【0106】
なお、本発明では、複合組電池だけではなく、使用用途によっては、組電池を車両に搭載するようにしてもよいし、これら複合組電池と組電池を組み合わせて搭載するようにしてもよい。また、本発明の複合組電池または組電池を駆動用電源や補助電源として搭載することのできる車両としては、上記の電気自動車、燃料電池自動車やこれらのハイブリッド車が好ましいが、これらに制限されるものではない。また、本発明の組電池および/または複合組電池を、例えば、駆動用電源や補助電源等として搭載することのできる車両としては、ハイブリッド車(ガソリンエンジンと本発明の組電池および/または複合組電池とをハイブリッド化したもの)、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、燃料電池自動車、ハイブリッド燃料電池自動車等が好ましいが、これらに制限されるものではない。
【実施例】
【0107】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0108】
実施例1
1.正極(1)の作製
粒径20μmのニッケル−マンガン−コバルト酸リチウム(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)(熱分解温度:250℃)、アセチレンブラック、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を重量比で80:10:10となるように混合した。さらに、この混合物に、粘度が4000cPになるように、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて、正極用スラリーを作製した。
【0109】
正極集電体であるAl箔(厚さ20μm)の両面に、上記で調製された正極用スラリーを自走型ドクターブレードで塗布し、ホットプレートにて120℃程度で加熱乾燥した後、塗布膜厚65μmになるようにプレスを行ない、正極を作製した。
【0110】
2.負極の作製
粒径20μmのハードカーボン、PVdFを重量比90:10となるように混合して、これにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて、負極用スラリーを作製した。負極集電体であるCu箔(膜厚10μm)の両面に、上記で調製された負極用スラリーを自走型ドクターブレードで塗布し、塗布膜厚75μmになるようにプレスを行ない、負極を作製した。
【0111】
3.電解液の作製
EC(エチレンカーボネート)+PC(プロピレンカーボネート)の混合溶媒(体積比=1:1)に、1MのLiPFを溶かして、これを電解液として用いた。
【0112】
4.電池の作製
上記1.で作製した正極(1)と上記2.で作製した負極とを、リチウムイオン電池用アラミド製セパレータ(熱収縮率:1%以下)(膜厚30μm)を介して対面させて電池素子を形成し、この電池素子を5層積層して、電池要素を得た。
【0113】
このようにして得られた電池要素を三方シール済みの外装材アルミラミネートに挿入した。次に、このアルミネート内に、上記3.で調製したリチウムイオン電池用電解液を注入し、外装材からタブが出るように真空シールを行ない、密封積層型ラミネート外装リチウムイオン二次電池を得た。
【0114】
実施例2
1.正極(1)の作製
実施例1の1.に記載の方法と同様にして、正極(1)を作製した。
【0115】
2.正極(2)の作製
粒径20μmのコバルト酸リチウム(LiCoO)、アセチレンブラック、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を重量比で80:10:10となるように混合した。さらに、この混合物に、粘度が4000cPになるように、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて、正極用スラリーを作製した。なお、本工程で使用されたコバルト酸リチウム(LiCoO)の熱分解温度は、190℃である。
【0116】
正極集電体であるAl箔(厚さ20μm)の両面に、上記で調製された正極用スラリーを自走型ドクターブレードで塗布し、ホットプレートにて120℃程度で加熱乾燥した後、塗布膜厚65μmになるようにプレスを行ない、正極(2)を作製した。
【0117】
3.負極の作製
実施例1の2.に記載の方法と同様にして、負極を作製した。
【0118】
4.電解液の作製
実施例1の3.に記載の方法と同様にして、電解液を作製した。
【0119】
5.電池の作製
上記1.及び2.で作製した正極(1)及び(2)、ならびに上記3.で作製した負極とを、リチウムイオン電池用のアラミド製セパレータ(膜厚30μm)及びリチウムイオン電池用のポリエチレン(PE)製セパレータ(膜厚30μm)を介して、以下のように対面させて電池素子を形成し、この電池素子を5層積層して、電池要素を得た:
1,5層目の電池素子に、正極(2)、PE製セパレータ;
2,4層目の電池素子に、正極(2)、アラミド製セパレータ;および
3層目の電池素子に、正極(1)、アラミド製セパレータ。
【0120】
このようにして得られた電池要素を三方シール済みの外装材アルミラミネートに挿入した。次に、このアルミネート内に、上記4.で調製したリチウムイオン電池用電解液を注入し、外装材からタブが出るように真空シールを行ない、密封積層型ラミネート外装リチウムイオン二次電池を得た。
【0121】
比較例1
1.正極(2)の作製
実施例2の2.に記載の方法と同様にして、正極(2)を作製した。
【0122】
2.負極の作製
実施例1の2.に記載の方法と同様にして、負極を作製した。
【0123】
3.電解液の作製
実施例1の3.に記載の方法と同様にして、電解液を作製した。
【0124】
4.電池の作製
上記1.で作製した正極(2)と上記2.で作製した負極とを、リチウムイオン電池用のポリエチレン(PE)製セパレータ(膜厚30μm)を介して対面させて電池素子を形成し、この電池素子を5層積層して、電池要素を得た。
【0125】
このようにして得られた電池要素を三方シール済みの外装材アルミラミネートに挿入した。次に、このアルミネート内に、上記3.で調製したリチウムイオン電池用電解液を注入し、外装材からタブが出るように真空シールを行ない、密封積層型ラミネート外装リチウムイオン二次電池を得た。
【0126】
比較例2
1.正極(2)の作製
実施例2の2.に記載の方法と同様にして、正極(2)を作製した。
【0127】
2.負極の作製
実施例1の2.に記載の方法と同様にして、負極を作製した。
【0128】
3.電解液の作製
実施例1の3.に記載の方法と同様にして、電解液を作製した。
【0129】
4.電池の作製
上記1.で作製した正極(2)及び上記2.で作製した負極とを、リチウムイオン電池用のアラミド製セパレータ(膜厚30μm)及びリチウムイオン電池用のポリエチレン(PE)製セパレータ(膜厚30μm)を介して、以下のように対面させて電池素子を形成し、この電池素子を5層積層して、電池要素を得た:
1,2,4,5層目の電池素子に、PE製セパレータ;
3層目の電池素子に、アラミド製セパレータ。
【0130】
このようにして得られた電池要素を三方シール済みの外装材アルミラミネートに挿入した。次に、このアルミネート内に、上記3.で調製したリチウムイオン電池用電解液を注入し、外装材からタブが出るように真空シールを行ない、密封積層型ラミネート外装リチウムイオン二次電池を得た。
【0131】
評価方法
実施例1及び2、ならびに比較例1及び2でそれぞれ得られた電池について、0.5Cで初回充電放電後、満充電状態(4.2V)で1週間エージングした。1週間エージング後の容量を、25℃で1Cの電流で確認した(初期容量)。次に、保存試験を、満充電(4.2V)で60日間行ない、上記60日目の容量を、25℃で1Cの電流で同様にして確認した(60日目の容量)。60日目の容量を初期容量で除した割合(%)を、「初期に対する容量利用率(%)」(下記表1中では、「耐久試験の容量維持率(%)」)として、算出した。結果を下記表1及び図7に示す。また、下記表1において、比較例1の容量利用率を1とした場合の各実施例及び比較例の相対維持率を合わせて示す。
【0132】
【表1】

【0133】
上記表1中、実施例1及び2の結果と、比較例2の結果とを比較することによって、正極活物質層及びセパレータの双方に耐熱性材料が配置された本発明の積層型電池は、セパレータにのみ耐熱性材料が配置された比較例2の積層型電池に比して、高温保存時の容量利用率が有意に向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】バイポーラ電池である、第1実施形態の電池の概要を示す断面図である。
【図2】バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池の概要を示す断面図である。
【図3A】袋状のセパレータを作製するために用意した2枚の方形シート状の繊維集合体(不織布)を一部重ねて表した平面概略図である。
【図3B】図3Aで用意した2枚の方形シート状の繊維集合体(不織布)を重ねて熱融着して作製した袋状のセパレータの様子を模式的に表した平面概略図である。
【図3C】図3BのX−X線断面概略図である。
【図3D】図3B、Cの袋状のセパレータに収納するために用意した正極の様子を模式的に表した平面概略図である。
【図3E】図3DのY−Y線断面概略図である。
【図3F】図3B、Cの袋状のセパレータに図3D、Eの正極を収納した様子を模式的に表した平面概略図である。
【図3G】図3FのZ−Z線断面概略図である。
【図4】本発明のバイポーラ電池を2直20並に接続した組電池の一例を示す模式図である。図4(a)は組電池の平面図であり、図4(b)は組電池の正面図であり、図4(c)は組電池の右側面図であって、これら図4(a)〜(c)では、いずれもバイポーラ電池を直列と並列の混合に接続した様子がわかるように外部ケースを透過して組電池内部を表わしたものである。
【図5】本発明の組電池を搭載する自動車の概略図である。
【図6】評価法において、実施例1,2ならびに比較例1,2の電池の初期に対する容量利用率(%)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0135】
10 バイポーラ電池、
11 集電体、
13 正極活物質層、
13a 最上層正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層(セパレータ)、
17a,17b 最上下層電解質層(セパレータ)、
19 単電池層、
21 電池要素、
25 正極タブ、
27 負極タブ、
29 ラミネートシート、
30 バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池、
31 絶縁層、
33 正極集電体、
35 負極集電体、
41 バイポーラ電池、
42 集電体、
43 正極活物質層、
44 負極活物質層、
45 バイポーラ電極、
45a 電極積層体の最上層の電極、
45b 電極積層体の最下層の電極、
50 電池外装材(外装パッケージ)、
51 組電池、
52 外部弾性体、
53 検知線、
54 検知タブ端子、
55 組電池ケース、
56、58 バスバー、
59 端子リード、
62 正極端子、
64 負極端子、
70 複合組電池、
80 電気自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極、セパレータ、及び集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極がこの順で積層されてなる電池要素を有する積層型電池であって、少なくとも一の正極活物質層及びセパレータが耐熱性材料を含む、積層型電池。
【請求項2】
前記積層型電池は単電池層が3層以上積層されてなる電池要素を有し、かつ最上下層以外の単電池層の少なくとも一における正極活物質層及びセパレータが耐熱性材料を含む、請求項1に記載の積層型電池。
【請求項3】
前記積層型電池は単電池層が3層以上積層されてなる電池要素を有し、かつ電池要素の少なくとも中央の単電池層における正極活物質層及びセパレータが耐熱性材料を含む、請求項2に記載の積層型電池。
【請求項4】
電池要素の中央の単電池層に向かって正極活物質層及びセパレータの耐熱性が高くなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層型電池。
【請求項5】
前記積層型電池は単電池層が3層以上積層されてなる電池要素を有し、かつ最上下層以外のすべての単電池層における正極活物質層及びセパレータが耐熱性材料を含む、請求項3または4に記載の積層型電池。
【請求項6】
前記正極活物質層で使用される耐熱性材料は、200℃以上の熱分解温度を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層型電池。
【請求項7】
前記セパレータで使用される耐熱性材料は、100〜200℃の温度範囲で1時間加熱した際の熱収縮率が前記温度範囲内のすべての領域において0〜25%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層型電池。
【請求項8】
バイポーラ型リチウムイオン二次電池である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層型電池。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層型電池を用いた組電池。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層型電池、または請求項9に記載の組電池をモータ駆動用電源として搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−335294(P2007−335294A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167498(P2006−167498)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】