積層基板の溝加工方法
【課題】薄膜太陽電池等の積層基板における金属膜に溝を形成する際に、良好な絶縁性を維持し、かつ溝の端部不良を抑える。
【解決手段】この積層基板の溝加工方法は、基板上に形成された金属薄膜の一部を除去して溝を形成するための方法であって、レーザビーム照射工程と、レーザビーム走査工程と、を備えている。レーザビーム照射工程は、金属薄膜の溝予定ライン上に、矩形のレーザビームを照射する。レーザビーム走査工程は、レーザビームを、ビーム重なり率が60%を越え85%以下の範囲になるように溝予定ラインに沿って走査する。
【解決手段】この積層基板の溝加工方法は、基板上に形成された金属薄膜の一部を除去して溝を形成するための方法であって、レーザビーム照射工程と、レーザビーム走査工程と、を備えている。レーザビーム照射工程は、金属薄膜の溝予定ライン上に、矩形のレーザビームを照射する。レーザビーム走査工程は、レーザビームを、ビーム重なり率が60%を越え85%以下の範囲になるように溝予定ラインに沿って走査する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝加工方法、特に、集積型薄膜太陽電池等の積層基板における金属薄膜の一部を除去して溝を形成するための積層基板の溝加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜太陽電池を製造する方法として、例えば特許文献1に示されるような方法が提供されている。この特許文献1に記載された製造方法では、ガラス等の基板上にモリブデン(Mo)膜からなる下部電極膜が形成され、その後、下部電極膜が短冊状に分割される。次に、下部電極膜上にCIGS膜等のカルコパイライト構造化合物半導体膜を含む化合物半導体膜が形成される。そしてさらに、これらの半導体膜の一部がストライプ状に除去されて短冊状に分割され、これらを覆うように上部電極膜が形成される。そして最後に、上部電極膜の一部がストライプ状に剥離されて短冊状に分割される。
【0003】
また、薄膜太陽電池の基板上に形成された金属膜を分離するための加工方法が特許文献2に示されている。この特許文献2に示された方法は、以下の通りである。
【0004】
まず、金属膜を含む積層膜の表面に照射されるレーザビームの加工スポットの形状が、マスクを用いて略矩形状に整形される。次に、レーザビームの加工スポットを、一定の重ね合わせ率で積層膜に対して移動させる。その際、レーザビームのエネルギ強度分布の中心を、略矩形状の加工スポットの中心に対して移動方向に偏芯させるようにしている。
【0005】
また、特許文献3においても、特許文献2と同様に、矩形状のレーザビームを被加工物に照射するとともに一定の方向に所定の重なり率で走査し、スクライブ加工を行う装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−33498号公報
【特許文献2】特開2006−305601号公報
【特許文献3】特開昭62−168688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薄膜太陽電池パネルには金属膜としてのMo膜が形成される。そして、隣接する素子同士を絶縁するために、Mo膜の一部を剥離して溝を形成する必要がある。このMo膜は比較的硬度の高い材質であるために、特許文献2及び特許文献3に示されるように、レーザビームを所定の重なり率で照射して溝を形成する方法が提案されている。例えば、特許文献2では、レーザビームの重なり率を10〜60%の範囲で移動させてレーザ加工を行うことが記載されており、また特許文献3では、重なり率を約7%又は約10%でレーザ加工を行うことが記載されている。
【0008】
しかし、従来のレーザ加工方法を用いて低いレーザ出力でMo膜の剥離加工を行うと、形成された溝のエッジ部分に盛り上がりが形成されて端部不良が生じる。また、逆に高いレーザ出力で加工を行うと、溝のエッジ部分の盛り上がりを抑えることができるが、溶融したMoとその酸化物が溝内部に溶け出す。この場合は、絶縁性が低下してしまう。
【0009】
本発明の課題は、薄膜太陽電池等の積層基板における金属膜に溝を形成する際に、良好な絶縁性を維持し、かつ溝の端部不良を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る積層基板の溝加工方法は、基板上に形成された金属薄膜の一部を除去して溝を形成するための方法であって、レーザビーム照射工程と、レーザビーム走査工程と、を備えている。レーザビーム照射工程は、金属薄膜の溝予定ライン上に、矩形のレーザビームを照射する。レーザビーム走査工程は、レーザビームを、ビーム重なり率が60%を越え85%以下の範囲になるように溝予定ラインに沿って走査する。
【0011】
ここでは、レーザビーム走査工程において、例えばレーザの繰り返し周波数を上げることによってレーザビームの重なり率を60%〜85%にしている。このため、金属薄膜を確実に除去して十分な絶縁性を保てるとともに、溝のエッジ部分の高さを抑えることができる。また、重なり率が低い従来の加工方法に比較して、レーザの出力幅を大きくすることができる。
【0012】
第2発明に係る積層基板の溝加工方法は、第1発明の溝加工方法において、レーザビームの繰り返し周波数は80kHz以上140kHz以下である。
【0013】
第3発明に係る積層基板の溝加工方法は、第1又は第2発明において、金属薄膜はモリブデン薄膜である。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明では、レーザビームを適切な重なり率で走査して溝加工を行うので、溝予定ラインの金属薄膜を確実に除去して良好な絶縁性を得ることができ、しかも溝のエッジ部分の高さを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態によるレーザ加工方法を実施するためのレーザ加工装置。
【図2A】パルス繰り返し周波数20kHz−出力1.5Wの実験例1の実験データを示す図。
【図2B】パルス繰り返し周波数20kHz−出力1.9Wの実験例2の実験データを示す図。
【図2C】パルス繰り返し周波数20kHz−出力2.2Wの実験例3の実験データを示す図。
【図3A】パルス繰り返し周波数40kHz−出力3.2Wの実験例4の実験データを示す図。
【図3B】パルス繰り返し周波数40kHz−出力3.4Wの実験例5の実験データを示す図。
【図3C】パルス繰り返し周波数40kHz−出力3.6Wの実験例6の実験データを示す図。
【図4A】パルス繰り返し周波数80kHz−出力7.0Wの実験例7の実験データを示す図。
【図4B】パルス繰り返し周波数80kHz−出力8.5Wの実験例8の実験データを示す図。
【図5A】パルス繰り返し周波数120kHz−出力11.0Wの実験例9の実験データを示す図。
【図5B】パルス繰り返し周波数120kHz−出力12.5Wの実験例10の実験データを示す図。
【図6】パルス繰り返し周波数160kHz−出力15.0Wの実験例11の実験データを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[レーザ加工装置]
本発明の一実施形態によるレーザ加工装置を図1に示す。このレーザ加工装置は、Mo薄膜付きのガラス基板にレーザビームを照射するとともに、溝予定ラインに沿ってレーザビームを照射し、溝予定ラインのMo薄膜を除去するものである。レーザ加工装置は、レーザ発振器等を含むレーザヘッド1と、光学系2と、走査機構3と、を備えている。
【0017】
レーザヘッド1はパルスレーザビームを出射する。レーザヘッド1に設けられたレーザ発振器は、YAGレーザ、IRレーザ等の周知のパルスレーザ光の発振器であれば、特に限定されるものではない。ここでは、波長が1064nm、パルス幅30〜200nsのレーザビームが出射される。
【0018】
光学系2は、第1レンズ5、第2レンズ6、第3レンズ7、及び矩形コアファイバ8を有している。矩形コアファイバ8は、レーザヘッド1側に配置された第1レンズ5と走査機構3側に配置された第2レンズ6との間に配置されている。この光学系2においては、第1レンズ5を通過したレーザビームは矩形コアファイバ8に導入される。そして、矩形コアファイバ8から出射された矩形状のレーザビームは、第2レンズ6で平行光にされ、さらに第3レンズ7で集光されて基板に照射される。もちろん、1つのレンズによって直接ガラス基板G上にレーザビームを集光するようにしてもよい。
【0019】
走査機構3は、X方向に移動可能な走査ステージ10と、X方向と直交するY方向に所定のピッチ毎に移動可能なピッチ送りステージ11と、を有している。そして、ピッチ送りステージ11にガラス基板Gを載置し、各ステージ10,11を移動させることにより、ガラス基板Gとレーザビームとの相対位置を自在に変更することができる。加工時の走査ステージ10の移動速度は、図示しない制御部により制御され、これによりレーザビームが所定の重なり率でガラス基板G上に照射されることになる。
【0020】
[レーザ加工方法]
ガラス基板5のMo膜を剥離する場合は、レーザヘッド1から出射されたパルスレーザビームは、光学系2によって、ビーム形状が矩形にされ、さらに集光されてガラス基板5の溝予定ライン上に照射される(レーザビーム照射工程)。次に、このパルスレーザビームは、走査ステージ10を移動することによって溝予定ラインに沿って走査される(レーザビーム走査工程)。そして、1つの溝加工が終了すれば、ピッチ送りステージ11が1ピッチだけ送られ、同様の処理によって別の溝が加工される。
【0021】
以上のレーザビーム照射工程及びレーザビーム走査工程によって、溝予定ラインのMo膜が溶融除去される。
【0022】
[実験例]
以下に、Mo薄膜付きのガラス基板に対してパルスレーザビームを照射及び走査し、Mo薄膜を所定の幅で除去した実験例を示す。以下の実験におけるレーザ加工条件は次の通りである。
【0023】
ビーム形状:45×46μmの矩形で均質ビーム
走査速度(固定):1000mm/s
また、Mo薄膜付きガラス基板は、ガラス基板の厚みが1.1mm、Mo薄膜の厚みは40nmである。
【0024】
各実験例に関連する図を図2〜図6に示している。各図において、(a)はレーザ顕微鏡で加工部を観察した写真であり、(b)は加工部及びその周辺の横断面図である。(b)において、「高さ(左)」は溝エッジ部分のうち左側エッジ部の盛り上がり高さを、「高さ(右)」は溝エッジ部分のうち右側エッジ部の盛り上がり高さを示し、「高さ(max)」は盛り上がり高さの最大値を示ししている。「高さ」の単位は、すべて「μm」である。
【0025】
<実験例1〜3>
繰り返し周波数が20kHzで、重なり率が「0」の場合の実験例1〜3を図2A、図2B、図2Cに示している。実験例1〜3はレーザ出力が異なっており、それぞれのレーザ出力は1.5W,1.9W,2.2Wである。
【0026】
出力が1.5Wでは、出力不足のために、Mo膜を除去することができなかった。出力が1.9Wでは、Mo膜は除去されるが、溝エッジ部分の最大高さが約1.8μmであり、高い盛り上がりが観察された。また、出力が2.2Wでは、溝エッジ部分の最大高さは約0.7μmであり、低いが、溝内部が変色しており、溶融又は酸化したMoが残っている。このため、絶縁不良を招くことになる。
【0027】
<実験例4〜6>
繰り返し周波数が40kHz、すなわち重なり率を44%にした場合の実験例4〜6を図3A、図3B、図3Cに示している。実験例4〜6はレーザ出力が異なっており、それぞれのレーザ出力は3.2W,3.4W,3.6Wである。
【0028】
出力が3.2W及び3.4Wでは、溝部のMoは除去されているが、溝エッジ部分の最大高さがいずれも約0.9μmであり、高い盛り上がりが観察された。また、出力が3.6Wでは、溝エッジ部分の最大高さは約0.7μmであり、盛り上がりは低いが、溝内部が変色しており、溶融したMoが残っている。このため、絶縁不良を招くことになる。
【0029】
<実験例7,8>
繰り返し周波数が80kHz、すなわち重なり率を72%にした場合の実験例7,8を図4A、図4Bに示している。実験例7,8のレーザ出力は、それぞれ7.0W,8.5Wである。
【0030】
ここでは、いずれの出力においても、Mo膜は除去され、かつ溝部分に変色が見あたらない。また、溝エッジ部分の最大高さはいずれも約0.5μmであって、エッジ部分の盛り上がりは低い。さらに、レーザ出力の幅は1.5W(8.5−7.0)であって、幅広い出力マージンが得られる。
【0031】
<実験例9,10>
繰り返し周波数が120kHz、すなわち重なり率を82%にした場合の実験例9,10を図5A、図5Bに示している。実験例9,10のレーザ出力は、それぞれ11.0W,12.5Wである。
【0032】
ここでは、いずれの出力においても、Mo膜は除去され、かつ溝部分に変色が見あたらない。また、溝エッジ部分の最大高さは約0.4μmあるいは約0.3μmであって、エッジ部分の盛り上がりは低い。さらに、レーザ出力の幅は1.5W(12.5−11)であって、幅広い出力マージンが得られる。
【0033】
<実験例11>
繰り返し周波数が160kHz、すなわち重なり率を86%にした場合の実験例11を図6に示している。この例では、レーザ出力は15.0Wである。
【0034】
ここでは、図6(c)に示すように、溝加工部の周囲に大きなクラックが発生しており、Mo膜が剥がれかけて浮き上がっている。
【0035】
<まとめ>
以上の実験結果から、ビーム重なり率が60%以下で低出力ではエッジ部分の盛り上がり高さが高くなり、ビーム重なり率が60%以下で高出力では溝部分にMoが残ることがわかった。また、ビーム重なり率が85%以上では、エッジ部分のMoが浮き上がる傾向があることがわかった。このMoの浮き上がりは、基板(ガラス)とMoの熱膨張が異なることに起因していると考えられる。
【0036】
以上から、溝部分のMoが除去されて変色せず、エッジ部分の高さが0.5μm以下になり、しかもMo膜が剥がれたり、浮き上がったりしないレーザ加工条件は以下の範囲であることがわかる。
【0037】
ビーム形状:矩形で強度分布が均質であること。
【0038】
ビーム重なり率:60%を越え85%以下
[特徴]
以上のように本実施形態では、レーザビーム走査工程において、レーザビームの重なり率を60%を越え85%以下としているので、Mo膜を確実に除去して十分な絶縁性を保てるとともに、溝のエッジ部分の盛り上がり高さを抑えることができる。
【0039】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 レーザヘッド
2 光学系
3 走査機構
8 矩形コアファイバ
10 走査ステージ
11 ピッチ送りステージ
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝加工方法、特に、集積型薄膜太陽電池等の積層基板における金属薄膜の一部を除去して溝を形成するための積層基板の溝加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜太陽電池を製造する方法として、例えば特許文献1に示されるような方法が提供されている。この特許文献1に記載された製造方法では、ガラス等の基板上にモリブデン(Mo)膜からなる下部電極膜が形成され、その後、下部電極膜が短冊状に分割される。次に、下部電極膜上にCIGS膜等のカルコパイライト構造化合物半導体膜を含む化合物半導体膜が形成される。そしてさらに、これらの半導体膜の一部がストライプ状に除去されて短冊状に分割され、これらを覆うように上部電極膜が形成される。そして最後に、上部電極膜の一部がストライプ状に剥離されて短冊状に分割される。
【0003】
また、薄膜太陽電池の基板上に形成された金属膜を分離するための加工方法が特許文献2に示されている。この特許文献2に示された方法は、以下の通りである。
【0004】
まず、金属膜を含む積層膜の表面に照射されるレーザビームの加工スポットの形状が、マスクを用いて略矩形状に整形される。次に、レーザビームの加工スポットを、一定の重ね合わせ率で積層膜に対して移動させる。その際、レーザビームのエネルギ強度分布の中心を、略矩形状の加工スポットの中心に対して移動方向に偏芯させるようにしている。
【0005】
また、特許文献3においても、特許文献2と同様に、矩形状のレーザビームを被加工物に照射するとともに一定の方向に所定の重なり率で走査し、スクライブ加工を行う装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−33498号公報
【特許文献2】特開2006−305601号公報
【特許文献3】特開昭62−168688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薄膜太陽電池パネルには金属膜としてのMo膜が形成される。そして、隣接する素子同士を絶縁するために、Mo膜の一部を剥離して溝を形成する必要がある。このMo膜は比較的硬度の高い材質であるために、特許文献2及び特許文献3に示されるように、レーザビームを所定の重なり率で照射して溝を形成する方法が提案されている。例えば、特許文献2では、レーザビームの重なり率を10〜60%の範囲で移動させてレーザ加工を行うことが記載されており、また特許文献3では、重なり率を約7%又は約10%でレーザ加工を行うことが記載されている。
【0008】
しかし、従来のレーザ加工方法を用いて低いレーザ出力でMo膜の剥離加工を行うと、形成された溝のエッジ部分に盛り上がりが形成されて端部不良が生じる。また、逆に高いレーザ出力で加工を行うと、溝のエッジ部分の盛り上がりを抑えることができるが、溶融したMoとその酸化物が溝内部に溶け出す。この場合は、絶縁性が低下してしまう。
【0009】
本発明の課題は、薄膜太陽電池等の積層基板における金属膜に溝を形成する際に、良好な絶縁性を維持し、かつ溝の端部不良を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る積層基板の溝加工方法は、基板上に形成された金属薄膜の一部を除去して溝を形成するための方法であって、レーザビーム照射工程と、レーザビーム走査工程と、を備えている。レーザビーム照射工程は、金属薄膜の溝予定ライン上に、矩形のレーザビームを照射する。レーザビーム走査工程は、レーザビームを、ビーム重なり率が60%を越え85%以下の範囲になるように溝予定ラインに沿って走査する。
【0011】
ここでは、レーザビーム走査工程において、例えばレーザの繰り返し周波数を上げることによってレーザビームの重なり率を60%〜85%にしている。このため、金属薄膜を確実に除去して十分な絶縁性を保てるとともに、溝のエッジ部分の高さを抑えることができる。また、重なり率が低い従来の加工方法に比較して、レーザの出力幅を大きくすることができる。
【0012】
第2発明に係る積層基板の溝加工方法は、第1発明の溝加工方法において、レーザビームの繰り返し周波数は80kHz以上140kHz以下である。
【0013】
第3発明に係る積層基板の溝加工方法は、第1又は第2発明において、金属薄膜はモリブデン薄膜である。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明では、レーザビームを適切な重なり率で走査して溝加工を行うので、溝予定ラインの金属薄膜を確実に除去して良好な絶縁性を得ることができ、しかも溝のエッジ部分の高さを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態によるレーザ加工方法を実施するためのレーザ加工装置。
【図2A】パルス繰り返し周波数20kHz−出力1.5Wの実験例1の実験データを示す図。
【図2B】パルス繰り返し周波数20kHz−出力1.9Wの実験例2の実験データを示す図。
【図2C】パルス繰り返し周波数20kHz−出力2.2Wの実験例3の実験データを示す図。
【図3A】パルス繰り返し周波数40kHz−出力3.2Wの実験例4の実験データを示す図。
【図3B】パルス繰り返し周波数40kHz−出力3.4Wの実験例5の実験データを示す図。
【図3C】パルス繰り返し周波数40kHz−出力3.6Wの実験例6の実験データを示す図。
【図4A】パルス繰り返し周波数80kHz−出力7.0Wの実験例7の実験データを示す図。
【図4B】パルス繰り返し周波数80kHz−出力8.5Wの実験例8の実験データを示す図。
【図5A】パルス繰り返し周波数120kHz−出力11.0Wの実験例9の実験データを示す図。
【図5B】パルス繰り返し周波数120kHz−出力12.5Wの実験例10の実験データを示す図。
【図6】パルス繰り返し周波数160kHz−出力15.0Wの実験例11の実験データを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[レーザ加工装置]
本発明の一実施形態によるレーザ加工装置を図1に示す。このレーザ加工装置は、Mo薄膜付きのガラス基板にレーザビームを照射するとともに、溝予定ラインに沿ってレーザビームを照射し、溝予定ラインのMo薄膜を除去するものである。レーザ加工装置は、レーザ発振器等を含むレーザヘッド1と、光学系2と、走査機構3と、を備えている。
【0017】
レーザヘッド1はパルスレーザビームを出射する。レーザヘッド1に設けられたレーザ発振器は、YAGレーザ、IRレーザ等の周知のパルスレーザ光の発振器であれば、特に限定されるものではない。ここでは、波長が1064nm、パルス幅30〜200nsのレーザビームが出射される。
【0018】
光学系2は、第1レンズ5、第2レンズ6、第3レンズ7、及び矩形コアファイバ8を有している。矩形コアファイバ8は、レーザヘッド1側に配置された第1レンズ5と走査機構3側に配置された第2レンズ6との間に配置されている。この光学系2においては、第1レンズ5を通過したレーザビームは矩形コアファイバ8に導入される。そして、矩形コアファイバ8から出射された矩形状のレーザビームは、第2レンズ6で平行光にされ、さらに第3レンズ7で集光されて基板に照射される。もちろん、1つのレンズによって直接ガラス基板G上にレーザビームを集光するようにしてもよい。
【0019】
走査機構3は、X方向に移動可能な走査ステージ10と、X方向と直交するY方向に所定のピッチ毎に移動可能なピッチ送りステージ11と、を有している。そして、ピッチ送りステージ11にガラス基板Gを載置し、各ステージ10,11を移動させることにより、ガラス基板Gとレーザビームとの相対位置を自在に変更することができる。加工時の走査ステージ10の移動速度は、図示しない制御部により制御され、これによりレーザビームが所定の重なり率でガラス基板G上に照射されることになる。
【0020】
[レーザ加工方法]
ガラス基板5のMo膜を剥離する場合は、レーザヘッド1から出射されたパルスレーザビームは、光学系2によって、ビーム形状が矩形にされ、さらに集光されてガラス基板5の溝予定ライン上に照射される(レーザビーム照射工程)。次に、このパルスレーザビームは、走査ステージ10を移動することによって溝予定ラインに沿って走査される(レーザビーム走査工程)。そして、1つの溝加工が終了すれば、ピッチ送りステージ11が1ピッチだけ送られ、同様の処理によって別の溝が加工される。
【0021】
以上のレーザビーム照射工程及びレーザビーム走査工程によって、溝予定ラインのMo膜が溶融除去される。
【0022】
[実験例]
以下に、Mo薄膜付きのガラス基板に対してパルスレーザビームを照射及び走査し、Mo薄膜を所定の幅で除去した実験例を示す。以下の実験におけるレーザ加工条件は次の通りである。
【0023】
ビーム形状:45×46μmの矩形で均質ビーム
走査速度(固定):1000mm/s
また、Mo薄膜付きガラス基板は、ガラス基板の厚みが1.1mm、Mo薄膜の厚みは40nmである。
【0024】
各実験例に関連する図を図2〜図6に示している。各図において、(a)はレーザ顕微鏡で加工部を観察した写真であり、(b)は加工部及びその周辺の横断面図である。(b)において、「高さ(左)」は溝エッジ部分のうち左側エッジ部の盛り上がり高さを、「高さ(右)」は溝エッジ部分のうち右側エッジ部の盛り上がり高さを示し、「高さ(max)」は盛り上がり高さの最大値を示ししている。「高さ」の単位は、すべて「μm」である。
【0025】
<実験例1〜3>
繰り返し周波数が20kHzで、重なり率が「0」の場合の実験例1〜3を図2A、図2B、図2Cに示している。実験例1〜3はレーザ出力が異なっており、それぞれのレーザ出力は1.5W,1.9W,2.2Wである。
【0026】
出力が1.5Wでは、出力不足のために、Mo膜を除去することができなかった。出力が1.9Wでは、Mo膜は除去されるが、溝エッジ部分の最大高さが約1.8μmであり、高い盛り上がりが観察された。また、出力が2.2Wでは、溝エッジ部分の最大高さは約0.7μmであり、低いが、溝内部が変色しており、溶融又は酸化したMoが残っている。このため、絶縁不良を招くことになる。
【0027】
<実験例4〜6>
繰り返し周波数が40kHz、すなわち重なり率を44%にした場合の実験例4〜6を図3A、図3B、図3Cに示している。実験例4〜6はレーザ出力が異なっており、それぞれのレーザ出力は3.2W,3.4W,3.6Wである。
【0028】
出力が3.2W及び3.4Wでは、溝部のMoは除去されているが、溝エッジ部分の最大高さがいずれも約0.9μmであり、高い盛り上がりが観察された。また、出力が3.6Wでは、溝エッジ部分の最大高さは約0.7μmであり、盛り上がりは低いが、溝内部が変色しており、溶融したMoが残っている。このため、絶縁不良を招くことになる。
【0029】
<実験例7,8>
繰り返し周波数が80kHz、すなわち重なり率を72%にした場合の実験例7,8を図4A、図4Bに示している。実験例7,8のレーザ出力は、それぞれ7.0W,8.5Wである。
【0030】
ここでは、いずれの出力においても、Mo膜は除去され、かつ溝部分に変色が見あたらない。また、溝エッジ部分の最大高さはいずれも約0.5μmであって、エッジ部分の盛り上がりは低い。さらに、レーザ出力の幅は1.5W(8.5−7.0)であって、幅広い出力マージンが得られる。
【0031】
<実験例9,10>
繰り返し周波数が120kHz、すなわち重なり率を82%にした場合の実験例9,10を図5A、図5Bに示している。実験例9,10のレーザ出力は、それぞれ11.0W,12.5Wである。
【0032】
ここでは、いずれの出力においても、Mo膜は除去され、かつ溝部分に変色が見あたらない。また、溝エッジ部分の最大高さは約0.4μmあるいは約0.3μmであって、エッジ部分の盛り上がりは低い。さらに、レーザ出力の幅は1.5W(12.5−11)であって、幅広い出力マージンが得られる。
【0033】
<実験例11>
繰り返し周波数が160kHz、すなわち重なり率を86%にした場合の実験例11を図6に示している。この例では、レーザ出力は15.0Wである。
【0034】
ここでは、図6(c)に示すように、溝加工部の周囲に大きなクラックが発生しており、Mo膜が剥がれかけて浮き上がっている。
【0035】
<まとめ>
以上の実験結果から、ビーム重なり率が60%以下で低出力ではエッジ部分の盛り上がり高さが高くなり、ビーム重なり率が60%以下で高出力では溝部分にMoが残ることがわかった。また、ビーム重なり率が85%以上では、エッジ部分のMoが浮き上がる傾向があることがわかった。このMoの浮き上がりは、基板(ガラス)とMoの熱膨張が異なることに起因していると考えられる。
【0036】
以上から、溝部分のMoが除去されて変色せず、エッジ部分の高さが0.5μm以下になり、しかもMo膜が剥がれたり、浮き上がったりしないレーザ加工条件は以下の範囲であることがわかる。
【0037】
ビーム形状:矩形で強度分布が均質であること。
【0038】
ビーム重なり率:60%を越え85%以下
[特徴]
以上のように本実施形態では、レーザビーム走査工程において、レーザビームの重なり率を60%を越え85%以下としているので、Mo膜を確実に除去して十分な絶縁性を保てるとともに、溝のエッジ部分の盛り上がり高さを抑えることができる。
【0039】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 レーザヘッド
2 光学系
3 走査機構
8 矩形コアファイバ
10 走査ステージ
11 ピッチ送りステージ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された金属薄膜の一部を除去して溝を形成するための積層基板の溝加工方法であって、
前記金属薄膜の溝予定ライン上に、矩形のレーザビームを照射するレーザビーム照射工程と、
前記レーザビームを、ビーム重なり率が60%を越え85%以下の範囲になるように溝予定ラインに沿って走査するレーザビーム走査工程と、
を備えた積層基板の溝加工方法。
【請求項2】
前記レーザビームの繰り返し周波数は80kHz以上140kHz以下である、請求項1に記載の積層基板の溝加工方法。
【請求項3】
前記金属薄膜はモリブデン薄膜である、請求項1又は2に記載の積層基板の溝加工方法。
【請求項1】
基板上に形成された金属薄膜の一部を除去して溝を形成するための積層基板の溝加工方法であって、
前記金属薄膜の溝予定ライン上に、矩形のレーザビームを照射するレーザビーム照射工程と、
前記レーザビームを、ビーム重なり率が60%を越え85%以下の範囲になるように溝予定ラインに沿って走査するレーザビーム走査工程と、
を備えた積層基板の溝加工方法。
【請求項2】
前記レーザビームの繰り返し周波数は80kHz以上140kHz以下である、請求項1に記載の積層基板の溝加工方法。
【請求項3】
前記金属薄膜はモリブデン薄膜である、請求項1又は2に記載の積層基板の溝加工方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【公開番号】特開2012−20303(P2012−20303A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158748(P2010−158748)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】
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