説明

積層成形体の真空成形装置並びに真空成形方法

【課題】積層体を成形するために真空成形金型の成形面上に積層体を密接することにより非通気性空間部を形成するに際して、少なくとも積層体の成形面となって製品を形成する部位においては、クランプ機構の下降によって伸長しないようにして、積層体の薄肉化或いはシボ伸び現象を抑制するようにした。
【解決手段】真空成形金型2が真空吸引により積層体1を成形する際に、積層体リフト機構4が積層体1に当接した状態を保持しつつクランプ機構3と共に下降させるようにして、積層体1を真空成形金型2の外郭部2aに圧接させた状態で所要形状に成形するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアトリムの如き車両用内装部品における表皮材等の積層体を真空成形により成形するための積層成形体の真空成形装置並びに真空成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用内装部品、例えばドアトリムは、アームレスト等の凹凸を有して曲面形状に成形された芯材と、芯材の車室側に面する表面側を積層する表皮材としての積層体とを有して構成している。
【0003】
そして、表皮材の積層は、モールド成形等により芯材の成形と共に行う方法も用いられているが、これとは異なって、予め成形された芯材上に張設する方法も用いられている。
【0004】
このように予め成形された芯材に表皮材を張設する方法として、従来から真空成形方法が用いられている。
【0005】
この真空成形方法を用いる場合は、例えば芯材が主に木質系のような通気性材料にて構成されている場合に用いるもので、表皮材を予め成形した後芯材に張設する場合と芯材に直接張設する過程において芯材の形状に合うように表皮材を成形してしまう場合との二つの方法が用いられている。
【0006】
例えば、前者の方法として、図6及び図7に示す真空成形装置を用いて行うことが従来から知られていた(特許文献1乃至3を参照)。
【特許文献1】特開平8−183094号公報
【特許文献2】特開2001−347561号公報
【特許文献3】特開2001−310378号公報
【0007】
図6及び図7に示す従来の方法によれば、真空成形装置は、表皮材としての積層体aの端末部分をクランプ機構bにより把持することによって、積層体aを真空成形金型cの成形面d上にセットし(図6の状態)、その後、クランプ機構bを成形面dより下方に移動させることによって、積層体aを例えば真空成形金型cにおけるアームレスト部分に相当する山形凸部面eと外郭部fに密接させて、積層体aと成形面dとによって非通気性空間部gを区画形成し(図7の状態)、しかる後、真空成形金型cに形成された吸気孔(不図示)を通じて真空ポンプ(不図示)を用いて非通気性空間部g内を吸気することによって、積層体aを成形面dの形状に成形していくものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる従来の真空成形装置によれば、図7に示すように、積層体aを成形面dにおける山形凸部面eと外郭部fに密接させて非通気性空間部gを形成した際に、クランプ機構bによって積層体aの端末部分は、真空成形金型cの成形面dより相当下方に移動させる必要がある。
【0009】
このために、積層体aにおける山形凸部面eと外郭部fに密接している間Xが、伸長してしまい、そのまま成形した場合には、当該X部位部分が積層体aの一般部位の厚さより薄くなってしまうことになり、また、当該X部位部分を含め積層体aの表面にシボ模様が施されているような場合には、当該シボ模様部分が伸びてしまう所謂シボ伸びが起こって、製品不良となってしまうことになる。
【0010】
そこで、本発明は、積層体を成形するために真空成形金型の成形面上に積層体を密接することにより非通気性空間部を形成するに際して、少なくとも積層体の成形面となって製品を形成する部位においては、クランプ機構の下降によって伸長しないようにして、積層体の薄肉化或いはシボ伸び現象を抑制するようにした積層成形体の真空成形装置並びに真空成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る積層成形体の真空成形装置は、ドアトリムの如き車両用内装部品における表皮材等の積層体を真空成形により成形するための積層成形体の真空成形装置であって、前記積層体を真空吸引することにより所要の形状に成形する成形面を有する真空成形金型と、該真空成形金型の周囲部に配置され前記積層体の端末部を把持して前記真空成形金型上にセットすると共に真空成形金型に対して上下動可能に構成されたクランプ機構と、該クランプ機構により前記積層体を前記真空成形体側に移動させた際に前記クランプ機構及び前記真空成形金型の間に存して前記積層体の外側端部を突き上げて前記積層体の外側端部を前記真空成形金型の外郭部より離間させる積層体リフト機構とを有して構成しており、前記真空成形金型が真空吸引により前記積層体を成形する際に、前記積層体リフト機構が前記積層体に当接した状態を保持しつつ前記クランプ機構と共に下降させることにより、前記積層体を、前記真空成形金型の外郭部に圧接させた状態で所要形状に成形するように構成したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る積層成形体の真空成形方法は、ドアトリムのような車両用内装部品における表皮材等の積層体を真空成形により成形する積層成形体の真空成形方法であって、前記積層体の外側端部をクランプ機構により把持し離間させた状態で、真空成形金型上にセットし、次に、前記積層体における前記真空成形金型と前記クランプ機構との間に存する部分を積層体リフト機構により突き上げ当接させ、次に、かかる積層体の突き上げ当接状態を保持しつつ、前記クランプ機構と共に前記積層体リフト機構を下降させて、前記積層体を前記真空成形金型の外郭部に圧接させ、その後前記積層体を、真空成形金型の外郭部に圧接した状態で、真空成形金型により積層体を当該真空成形金型の成形面側に吸引することにより所要形状に成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成する本発明によれば、クランプ機構及び真空成形金型の間に存する積層体リフト機構が、クランプ機構により積層体を真空成形体側に移動させた際に、積層体の外側端部を突き上げて積層体の外側端部を真空成形金型の外郭部より離間させることができるために、たとえ積層体における積層体リフト機構とクランプ機構との間が伸長したとしても、積層体における積層体リフト機構から真空成形金型の成形面側においては、積層体リフト機構による突上げによってクランプ機構の下降による影響が及ばず、特に積層体の製品を形成する部位においては、積層体の薄肉化或いはシボ伸び現象を抑制することができることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明に係る実施の形態について、図を用いて説明する。
【0015】
図1は本発明における第1の実施例を採用した真空成形装置について、真空成形金型上に積層体をセットした状態を描画した概略縦断面図、図2は、同じく、クランプ機構を下降させて、表皮材を真空成形金型の山形凸部面に当接させた状態を描画した概略縦断面図、図3は同じくクランプ機構をさらに下降させて積層体と真空成形金型の成形面との間に非通気性空間部を形成した状態を描画した概略縦断面図、図4は図3に示す非通気性空間部内を吸気することによって積層体を成形面全体に吸着成形した状態を描画した概略断面図である。
【0016】
先ず、図1において、本発明に係る真空成形装置は、ドアトリムの如き車両用内装部品(不図示)における表皮材等の積層体1を真空成形により成形するための積層成形体(不図示)の真空成形装置であって、積層体1を真空吸引することにより所要の形状に成形する成形面を有する真空成形金型2と、真空成形金型2の周囲部に配置され積層体1の端末部を把持して真空成形金型2上にセットすると共に真空成形金型2に対して上下動可能に構成されたクランプ機構3と、クランプ機構3により積層体1を真空成形体側に移動させた際にクランプ機構3及び真空成形金型2の間に存して積層体1の外側端部を突き上げて積層体1の外側端部1aを真空成形金型2の外郭部2aより離間させる積層体リフト機構4と、積層体1を真空成形金型2の成形面2bに密着させて積層体1の成形を行う吸気ポンプ機構5を有して構成している。
【0017】
吸気ポンプ機構5は、成形面2bに開口した吸気孔(不図示)を通じて吸気作用を行う吸気ポンプ6を有して構成され、吸気ポンプ6は接続吸気パイプ5aを介して吸気孔に連通しており、接続吸気パイプ5aの中途部には開閉弁5bが設置されている。
【0018】
積層体1は、非通気性の合成樹脂シート、或いは非通気性の合成樹脂シート裏面にクッション層を裏打ちしたもの、例えばTPO(サーモプラスチックオレフィン)シート裏面にポリエチレンフォームが裏打ちされている積層シート材料等が使用されている。
【0019】
真空成形金型2は、自動車の内装部品用表皮材としての積層体、例えばドアトリム用表皮材を成形する成形面2bが形成されており、成形面2bは、たとえば前記ドアトリムを構成する不図示の芯材のアームレスト部を内装する山形凸部面2b−1を有している。
【0020】
クランプ機構3は、積層体1の外側端部1aを把持するクランプ部3aを有し、且つ、図示しない移動機構により真空成形金型2の成形面2bに対して上下動するように構成され、下方に移動した際には、積層体1の外側端部1aを成形面2bより更に下方まで移動させるようになっている。
【0021】
積層体リフト機構4は、本実施例においては、シリンダ装置により構成しており、成形面2bに対して上下動するロッド4aと、ロッド4aの先端部に設置されて積層体1の外側端部1aを突き上げる突き上げ片4bとを有して構成している。
【0022】
上記のように構成する真空成形装置において、真空成形金型2の成形面2bが吸気ポンプ機構5の真空吸引により積層体1を成形する際に、先ず、積層体1の外側端部1aをクランプ機構3のクランプ部3aにより把持し離間させた状態で、真空成形金型2上にセットする(図1に示す状態)。
【0023】
次に、積層体1における真空成形金型2とクランプ機構3との間に存する部分を積層体リフト機構4の突き上げ片4bにより突き上げ当接させる。この時、積層体1は成形面2bの山形凸部面2b−1の最頂部に当接することになる(図2に示す状態)。
【0024】
次に、かかる積層体1の突き上げ当接状態を保持しつつ、クランプ機構3と共に積層体リフト機構4のロッド4aを介して突き上げ片4bを下降させると共に、クランプ機構3のクランプ部3aを成形面2bの下方に移動させて、積層体1を真空成形金型2の外郭部2aに圧接させる。
【0025】
この際、積層体1が外郭部2aおよび山形凸部面2b−1の最頂部に密着することにより、積層体1と山形凸部面2b−1の最頂部および外郭部2aとの間で、密封された非通気性空間部7を形成し、この後、吸気ポンプ機構5の吸気ポンプ6により、吸気孔を介して、非通気性空間部7内を吸気する(図3に示す状態)。
【0026】
この結果、非通気性空間部7内が真空となり、積層体1は成形面2b側に吸着し、成形面2bの形状に倣った形状に成形されることになる(図4の状態参照)。
【0027】
このような状態を所定時間保持することによって、例えば成形前に加熱しておいた積層体1を冷却することによって、積層体1は真空成形金型2に成形されることになり、その後、クランプ機構3が上方に移動することにより積層体1が離型され、クランプ機構3の把持状態が外されることになり、成形積層体が完成する。
【0028】
そして、クランプ機構の情報移動と共に、積層体リフト機構4も上昇して、次の積層体1を成形すべく待機することになる。
【0029】
以上のように構成することにより、クランプ機構3及び真空成形金型2の間に存する積層体リフト機構4が、クランプ機構3により積層体1を真空成形金型2側に移動させて図2に示す状態となった際に、積層体1の外側端部1aを突き上げて真空成形金型2の外郭部2aより離間させることができるために、たとえ積層体1における積層体リフト機構4とクランプ機構3との間Yが伸長したとしても、積層体1における積層体リフト機構4から真空成形金型2の成形面2b側においては、積層体リフト機構4による突上げによってクランプ機構3の下降による影響が及ばず、特に積層体1の製品を形成する部位においては、積層体1の薄肉化或いはシボ伸び現象を抑制することができることになる。
【0030】
図5は本発明に係る第2の実施例を描画した概略断面図である。
【0031】
図5によれば、上記第1の実施例において、積層体リフト機構4をシリンダ装置により構成したことに代えて、例えばコイルばね4cを用いて構成するばね式により対応したものである。その他の構成は、第1の実施例と同様な構成を有して、同等の作用効果を奏するものである。
【0032】
なお、上記実施例においては、真空成形装置により積層体1を成形し、しかる後に、芯材に貼設する場合について説明したが、これに限定されるものではなく予め成形された芯材に、積層体1を成形しながら貼設するように構成した真空成形装置にも本発明は適用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明したように、本発明は、積層体を成形するために真空成形金型の成形面上に積層体を密接することにより非通気性空間部を形成するに際して、少なくとも積層体の成形面となって製品を形成する部位においては、クランプ機構の下降によって伸長しないようにして、積層体の薄肉化或いはシボ伸び現象を抑制するようにしたために、ドアトリムの如き車両用内装部品における表皮材等の積層体を真空成形により成形するための積層成形体の真空成形装置並びに真空成形方法等に好適であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明における第1の実施例を採用した真空成形装置について、真空成形金型上に積層体をセットした状態を描画した概略縦断面図である。
【図2】同じく、クランプ機構を下降させて、表皮材を真空成形金型の山形凸部面に当接させた状態を描画した概略縦断面図である。
【図3】同じくクランプ機構をさらに下降させて表皮材と真空成形金型の成形面との間に非通気性空間部を形成した状態を描画した概略縦断面図である。
【図4】同じく、図3に示す非通気性空間部内を吸気することによって積層体を成形面全体に吸着成形した状態を描画した概略断面図である。
【図5】本発明における第2の実施例を採用した真空成形金型上に積層体を真空成形する真空成形装置を描画した概略縦断面図である。
【図6】従来における真空成形装置について、真空成形金型上に積層体である車両用ドアトリムの表皮材をセットした状態を描画した概略縦断面図である。
【図7】同じく、クランプ機構をさらに下降させて表皮材と真空成形金型の成形面との間に非通気性空間部を形成した状態を描画した概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 積層体
2 真空成形金型
2a 外郭部
2b 成形面
2b−1 山形凸部面
3 クランプ機構
4 積層体リフト機構
4c コイルばね
5 吸気ポンプ機構
6 吸気ポンプ
7 非通気性空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアトリムの如き車両用内装部品における表皮材等の積層体を真空成形により成形するための積層成形体の真空成形装置であって、
前記積層体を真空吸引することにより所要の形状に成形する成形面を有する真空成形金型と、該真空成形金型の周囲部に配置され前記積層体の端末部を把持して前記真空成形金型上にセットすると共に真空成形金型に対して上下動可能に構成されたクランプ機構と、
該クランプ機構により前記積層体を前記真空成形体側に移動させた際に前記クランプ機構及び前記真空成形金型の間に存して前記積層体の外側端部を突き上げて前記積層体の外側端部を前記真空成形金型の外郭部より離間させる積層体リフト機構とを有して構成しており、
前記真空成形金型が真空吸引により前記積層体を成形する際に、前記積層体リフト機構が前記積層体に当接した状態を保持しつつ前記クランプ機構と共に下降させることにより、前記積層体を、前記真空成形金型の外郭部に圧接させた状態で所要形状に成形するように構成したことを特徴とする積層成形体の真空成形装置。
【請求項2】
ドアトリムのような車両用内装部品における表皮材等の積層体を真空成形により成形する積層成形体の真空成形方法であって、
前記積層体の外側端部をクランプ機構により把持し離間させた状態で、真空成形金型上にセットし、次に、前記積層体における前記真空成形金型と前記クランプ機構との間に存する部分を積層体リフト機構により突き上げ当接させ、次に、かかる積層体の突き上げ当接状態を保持しつつ、前記クランプ機構と共に前記積層体リフト機構を下降させて、前記積層体を前記真空成形金型の外郭部に圧接させ、その後前記積層体を、真空成形金型の外郭部に圧接した状態で、真空成形金型により積層体を当該真空成形金型の成形面側に吸引することにより所要形状に成形することを特徴とする表皮材等の積層体を真空成形により成形する積層成形体の真空成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−137507(P2010−137507A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318525(P2008−318525)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】