説明

積層押出樹脂板の製造方法

【課題】外観が良好でタックマークを発生せず、さらに反り変形が抑制された積層押出樹脂板の製造方法を提供すること。
【解決手段】最も熱変形温度の高い樹脂と最も熱変形温度の低い樹脂とが、10℃以上の熱変形温度の差を有する2種以上の熱可塑性樹脂をそれぞれ押出機1、2で溶融混練して、ダイ3から共押出成形し、少なくとも3本の冷却ロール51、52、53で冷却して積層押出樹脂板6を得る押出樹脂板の製造方法であって、最も熱変形温度の高い樹脂以外の樹脂からなる層が最終冷却ロール53に接触するように、溶融樹脂を、最終冷却ロール53と最終冷却ロール53より1つ手前の冷却ロール52との間に挟み込み、冷却ロール間で圧着し成形して積層押出樹脂板6を得、ヒーター7によって、積層押出樹脂板6を構成する2種以上の熱可塑性樹脂の熱変形温度の中で最も高い熱変形温度以上で、積層押出樹脂板6の両面のうち少なくとも一方の面を加熱することを特徴とする積層押出樹脂板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層押出樹脂板の製造方法に関し、より詳細には、外観が良好で剥離マーク(タックマーク)を発生せず、さらに反り変形が抑制された積層押出樹脂板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる押出樹脂板は、照明のカバー、看板、建材、タッチパネル用基板、液晶ディスプレイ前面板、導光板など、広い範囲で利用されている。一般に、熱可塑性樹脂からなる押出樹脂板を製造する場合、ダイから押し出された溶融樹脂を2本以上の冷却ロールに巻きかけ、これらのロール間に挟み込んで冷却しながら板状に成形する。このように成形すると外観が良好な押出樹脂板が得られるが、冷却ロールに挟み込んで、冷却・成形を行うと、得られる押出樹脂板に反り変形を生じる場合がある。
【0003】
単層の押出樹脂板について、反り変形を生じないようにするために、例えば、特許文献1および2には、最終ロールから剥離した後に、単層の押出樹脂板の両面をヒーターで加熱する方法が開示されている。
【0004】
多層の押出樹脂板(積層押出樹脂板)においては、反り変形を抑制するために、最終冷却ロールの温度を高く設定する場合がある。しかし、熱変形温度(Th)の低い樹脂からなる層が最終冷却ロールに接触する場合、冷却ロールから樹脂が均一に剥がれ難くなり、剥離マーク(タックマーク)と称するロール剥離時の衝撃による幅方向の線が発生しやすくなるという問題がある。
【0005】
したがって、外観が良好でタックマークを発生せず、さらに反り変形が抑制された積層押出樹脂板を製造する方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−9538号公報
【特許文献2】特開平6−246828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、外観が良好でタックマークを発生せず、さらに反り変形が抑制された積層押出樹脂板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)最も熱変形温度の高い樹脂と最も熱変形温度の低い樹脂とが、10℃以上の熱変形温度の差を有する2種以上の熱可塑性樹脂をそれぞれ押出機で溶融混練して、ダイから共押出成形し、少なくとも3本の冷却ロールで冷却して積層押出樹脂板を得る積層押出樹脂板の製造方法であって、
最も熱変形温度の高い樹脂以外の樹脂からなる層が最終冷却ロールに接触するように、溶融樹脂を、最終冷却ロールと最終冷却ロールより1つ手前の冷却ロールとの間に挟み込み、冷却ロール間で圧着し成形して積層押出樹脂板を得、
ヒーターによって、積層押出樹脂板を構成する2種以上の熱可塑性樹脂の熱変形温度の中で最も高い熱変形温度以上で、積層押出樹脂板の両面のうち少なくとも一方の面を加熱することを特徴とする積層押出樹脂板の製造方法。
(2)前記積層押出樹脂板の最終冷却ロールとの非接触面を加熱する(1)に記載の製造方法。
(3)前記ヒーターによる加熱が、積層押出樹脂板を構成する熱可塑性樹脂の熱変形温度の中で最も高い熱変形温度をMaxThとする場合、MaxTh〜(MaxTh+50℃)の範囲で行われる(1)または(2)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、10℃以上の熱変形温度の差を有する2種以上の熱可塑性樹脂を用いた積層押出樹脂板であって、外観が良好でタックマークを発生せず、さらに反り変形が抑制された積層押出樹脂板が得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施態様に係る積層押出樹脂板の製造方法を示す概略説明図である。
【図2】図1において、破線で囲んだ部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る積層押出樹脂板の製造方法は、2種以上の熱可塑性樹脂をそれぞれ押出機で溶融混練して、ダイから共押出成形し、少なくとも3本の冷却ロールで冷却して積層押出樹脂板を得る工程(押出成形工程)を含む。
【0012】
押出成形工程では、まず、2種以上の熱可塑性樹脂が、それぞれ押出機で溶融混練される。熱可塑性樹脂としては、溶融加工可能な樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、直鎖低密度ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、セルロースアセテート樹脂、エチレン−ビニルアセテート樹脂、アクリル樹脂、アクリル−アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリル−塩素化ポリエチレン樹脂、エチレン−ビニルアルコール樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、脂環構造含有エチレン性不飽和単量体単位を含有する樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの汎用またはエンジニアリングプラスチックの他に、ポリ塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン、エチレン−アクリル酸エチル樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレン・ブタジエンブロックポリマー、エチレン−プロピレンゴム、ポリブタジエン樹脂、アクリル系ゴムなどのゴム状重合体が挙げられる。
【0013】
本発明に係る積層押出樹脂板の製造方法においては、これらの熱可塑性樹脂の中から、最も熱変形温度の高い樹脂と最も熱変形温度の低い樹脂とが、10℃以上、好ましくは10℃〜60℃、より好ましくは15℃〜50℃の熱変形温度の差を有する2種以上の熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)は、ASTM D−648に準拠して測定される温度である。このような熱可塑性樹脂の組み合わせとしては、ポリカーボネート樹脂とメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂、アクリル樹脂と耐熱性を改良したアクリル樹脂(耐熱アクリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂と耐熱アクリル樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂とポリカーボネート樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂と耐熱アクリル樹脂との組み合わせなどが挙げられる。耐熱アクリル樹脂とは、メタクリル酸メチルにマレイン酸やイミド系化合物を共重合させた樹脂である。
【0014】
ポリカーボネート樹脂としては、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法、溶融エステル交換法で反応させて得られるものの他、カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法により重合させたもの、または環状カーボネート化合物を開環重合法により重合させて得られるものなどが挙げられる。
【0015】
二価フェノールとしては、例えばハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
中でもビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群より選ばれた少なくとも1種のビスフェノールより得られる単独重合体または共重合体が好ましく、特に、ビスフェノールAの単独重合体、および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンから選択される少なくとも1種の二価フェノールとの共重合体が好ましい。
【0017】
カーボネート前駆体としては、例えばカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0018】
メタクリル樹脂またはアクリル樹脂(以下、(メタ)アクリル樹脂と記載する場合がある)とは、単量体単位としてメタクリル酸メチルまたはアクリル酸メチル単位を50重量%以上含む重合体である。メタクリル酸メチルまたはアクリル酸メチル単位の含有量は、好ましくは70重量%以上であり、100重量%であってもよい。メタクリル酸メチル単位が100重量%の重合体は、メタクリル酸メチルを単独で重合させて得られるメタクリル酸メチル単独重合体であり、アクリル酸メチル単位が100重量%の重合体は、アクリル酸メチルを単独で重合させて得られるアクリル酸メチル単独重合体である。
【0019】
(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル酸メチルまたはアクリル酸メチルと、該メタクリル酸メチルまたはアクリル酸メチルと共重合し得る他の単量体との共重合体であってもよい。
【0020】
メタクリル酸メチルと共重合し得る他の単量体としては、例えばメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル類などが挙げられる。このようなメタクリル酸エステル類としては、例えばメタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどが挙げられる。また、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸、アクリル酸などの不飽和酸類、クロロスチレン、ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン類、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどのアルキルスチレン類などの置換スチレン類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなども挙げられる。このような単量体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
アクリル酸メチルと共重合し得る他の単量体としては、例えばアクリル酸メチル以外のアクリル酸エステル類などが挙げられる。このようなアクリル酸エステル類としては、例えばアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどが挙げられる。また、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル類、メタクリル酸、アクリル酸などの不飽和酸類、クロロスチレン、ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン類、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどのアルキルスチレン類などの置換スチレン類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなども挙げられる。このような単量体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、(メタ)アクリル樹脂は、ゴム状重合体を添加して樹脂組成物としてもよい。これにより、成形時に割れ難くなるので、収率を向上させることができる。ゴム状重合体としては、例えばアクリル系多層構造重合体、5〜80重量部のゴム状重合体にエチレン性不飽和単量体を95〜20重量部の割合でグラフト重合させたグラフト共重合体などが挙げられる。
【0023】
アクリル系多層構造重合体としては、例えばゴム弾性の層またはエラストマーの層を20〜60重量部の割合で内在し、最外に硬質層を有するものが挙げられ、最内層として硬質層をさらに有していてもよい。
【0024】
ゴム弾性の層またはエラストマーの層は、ガラス転移点(Tg)が25℃未満のアクリル系重合体の層であり、例えば低級アルキルアクリレートおよびメタクリレート、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、ヒドロキシ低級アルキルアクリレート、ヒドロキシ低級メタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸などのモノエチレン性不飽和単量体の1種以上をアリルメタクリレートや多官能単量体などで架橋させた重合体からなる。
【0025】
硬質層は、Tgが25℃以上のアクリル系重合体の層であり、炭素数1〜4個のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを単独または主成分とし、他のアルキルメタクリレートやアルキルアクリレート、スチレン、置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの共重合可能な単官能単量体の重合体からなり、さらに多官能単量体を加えて重合させた架橋重合体でもよい。上述したゴム状重合体としては、例えば特公昭55−27576号公報、特開平6−80739号公報、特開昭49−23292号公報などに記載されているものを用いることができる。
【0026】
5〜80重量部のゴム状重合体にエチレン性不飽和単量体を95〜20重量部の割合でグラフト重合させたグラフト共重合体において、前記ゴム状重合体としては、例えばポリブタジエンゴム、アクリロニトリル/ブタジエン共重合体ゴム、スチレン/ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴム、ポリブチルアクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリ−2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル系ゴム、およびエチレン/プロピレン/非共役ジエン系ゴム等が挙げられる。また、前記エチレン性単量体としては、例えばスチレン、アクリロニトリル、アルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、アクリル系不飽和単量体が好ましく、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。上述したグラフト共重合体としては、例えば特開昭55−147514号公報、特公昭47−9740号公報などに記載されているものを用いることができる。
【0027】
ゴム状重合体の添加量は、(メタ)アクリル酸メチル系樹脂100重量部に対して、0〜100重量部であるのが好ましく、3〜50重量部であるのがより好ましい。ゴム状重合体の添加量があまり多いと、押出板の剛性が低下するので好ましくない。
【0028】
なお、熱可塑性樹脂には、目的に応じて、例えば光拡散剤や艶消し剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、耐衝撃剤、高分子型帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、滑剤、染料、顔料などを添加してもよい。
【0029】
熱可塑性樹脂を溶融混練する温度は、特に限定されず、用いる熱可塑性樹脂の融点を考慮して適宜設定すればよい。
【0030】
押出機で溶融混練された溶融樹脂は、ダイから共押出成形し、少なくとも3本の冷却ロールで冷却して積層押出樹脂板に成形される。以下、図1を参照して、本発明に係る積層押出樹脂板の製造方法を詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の一実施態様に係る積層押出樹脂板の製造方法を示す概略説明図である。図1に示すように、熱可塑性樹脂を押出機1、2に投入して、上述のように溶融混練を行う。なお、図1では、2台の押出機を使用しているが、押出機の数は、樹脂層の積層数や用いる樹脂の種類によって3台以上用いてもよく、適宜変更すればよい。
【0032】
溶融混練された樹脂は、ダイ3に供給され、ダイ3から板状の溶融樹脂4として共押出される。図1に示すように、2台の押出機を用いた場合は、押出機1、2それぞれにおいて熱可塑性樹脂が溶融混練され、ダイ3から共押出されて積層一体化された板状の溶融樹脂4が得られる。
【0033】
押出機1、2としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機などが挙げられる。ダイ3としては、Tダイ、マルチマニホールドダイなどが用いられる。Tダイを用いる場合、通常、フィードブロックと組み合わせて用いられる。
【0034】
ダイ3から押出された溶融樹脂4は、冷却ユニット5で成形・冷却される。図1では、冷却ユニット5は、ほぼ水平方向に対向配置された3本の冷却ロール51、52、53を備える。冷却ロール51、52、53は、溶融樹脂4を引き取る方向に沿って順に第1の冷却ロール51、第2の冷却ロール52、および最終冷却ロール53である。これらの冷却ロール51、52、53は、少なくとも1つのロールがモーターなどの回転駆動手段(図示せず)に接続されており、各ロールが所定の周速度で回転するように構成されている。
【0035】
冷却ロール51、52、53としては、特に限定されず、従来の押出成形で使用されている通常の冷却ロールを採用することができる。具体例としては、ドリルドロール、スパイラルロール、金属弾性ロール、ゴムロールなどが挙げられる。冷却ロール51、52、53の表面状態は、例えば鏡面であってもよく、模様や凹凸などを有していてもよい。なお、図1においては、3本の冷却ロールが用いられているが、4本、5本など3本以上であれば特に限定されない。
【0036】
溶融樹脂4は、最終冷却ロール53と最終冷却ロール53より1つ手前の冷却ロール(第2の冷却ロール)52との間に挟み込まれて、目標厚みの間隙をもって圧着される。このように圧着されることにより、表面荒れが抑制され、外観が良好な積層押出樹脂板6が得られる。積層押出樹脂板6の厚みは特に限定されず、例えば、積層押出樹脂板6は、好ましくは300〜2000μm、より好ましくは500〜1500μmである。
【0037】
溶融樹脂4を、最終冷却ロール53と第2の冷却ロール52との間に挟み込むとき、最も熱変形温度の高い樹脂以外の樹脂からなる層が、最終冷却ロール53に接触するように挟み込まれる。図2は、図1の破線で囲んだ部分の拡大図を示す。図2に示すように、例えば、溶融樹脂4が2種の熱可塑性樹脂の層からなる場合、最終冷却ロール53に接触する樹脂層42を構成する熱可塑性樹脂は、最終冷却ロール53と接触しない樹脂層41を構成する熱可塑性樹脂よりも低い熱変形温度を有する。
【0038】
溶融樹脂4が3層以上の層からなる場合、最も熱変形温度の高い樹脂からなる層は、最終冷却ロール53に接触する樹脂層42以外であれば、中間層であってもよく、第2の冷却ロール52に接触する層(表層)であってもよい。
【0039】
冷却ロール51、52、53の表面温度(Tr)は、各冷却ロール51、52、53に接触する樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)を考慮して設定される。各冷却ロール51、52、53に接触する樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)に対して、好ましくは(Th−20℃)≦Tr≦(Th+20℃)、より好ましくは(Th−15℃)≦Tr≦(Th+10℃)、さらに好ましくは(Th−10℃)≦Tr≦(Th+5℃)の範囲に設定される。表面温度(Tr)が(Th−20℃)よりも低い温度になると、ロールから樹脂が剥がれやすくなり、タッチミスが発生しやすくなる傾向にある。また、表面温度(Tr)が(Th+20℃)よりも高い温度になると、ロールから樹脂が均一に剥がれ難くなり、タックマークが発生しやすくなる。
【0040】
本発明に係る積層押出樹脂板の製造方法においては、成形後(すなわち、最終冷却ロールから剥離後)、ヒーター7によって、積層押出樹脂板6を構成する熱可塑性樹脂の熱変形温度の中で最も高い熱変形温度以上で、積層押出樹脂板6の少なくとも一方の面を加熱する。このように、ヒーターで加熱することにより、積層押出樹脂板6の上下面における冷却速度の差を小さくできるため、反りが抑制された積層押出樹脂板6が得られる。通常、積層押出樹脂板6は、最終冷却ロール53から剥離後、走行ロール(図示せず)の上を流れる。積層押出樹脂板6の下面(最終冷却ロール53との接触面)は、蓄熱された走行ロールに接触するため、積層押出樹脂板6の上面よりも冷却速度が遅くなる。したがって、より冷却されやすい積層押出樹脂板6の上面(すなわち、最終冷却ロール53との非接触面)を加熱することが好ましい。
【0041】
ヒーター7は、積層押出樹脂板6を加熱することができれば、特に限定されず、例えば遠赤外線ヒーター、熱風ヒーター(熱風発生器)などが挙げられる。加熱は、積層押出樹脂板6を構成する熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)の中で最も高い熱変形温度(MaxTh)以上で行われ、好ましくはMaxTh〜(MaxTh+50℃)、より好ましくは(MaxTh+5℃)〜(MaxTh+30℃)の範囲で加熱される。また、加熱される時間は、特に限定されず、好ましくは1〜500秒、より好ましくは5〜300秒である。なお、加熱時間とは、積層押出樹脂板6の表面上のある地点がヒーター7で加熱され始め、該地点がヒーター7の外部に出て加熱されなくなるまでの時間のことをいう。
【0042】
本発明に係る積層押出樹脂板の製造方法によれば、上記のように、10℃以上の熱変形温度の差を有する2種以上の熱可塑性樹脂を用い、特定の条件で冷却ロールに挟み込んで圧着・成形して得られた積層押出樹脂板を加熱するため、外観が良好でタックマークを発生せず、さらに反り変形が抑制された積層押出樹脂板が得られる。このようにして得られた積層押出樹脂板は、照明のカバー、看板、建材、タッチパネル用基板、液晶ディスプレイ前面板、導光板など、広い範囲で利用される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例および比較例で使用した押出装置の構成は、以下の通りである。
押出機1:スクリュー径130mm、一軸、ベント付きの押出機(日立造船(株)製)。
押出機2:スクリュー径50mm、一軸、ベント付きの押出機(日立造船(株)製)。
ダイ(I):Tダイ(樹脂吐出口幅1650mm、リップ間隔1mm(日立造船(株)製))とフィードブロック(樹脂吐出口幅150mm、2種3層分配(日立造船(株)製))との組み合わせ。
ダイ(II):Tダイ(樹脂吐出口幅1650mm、リップ間隔1mm(日立造船(株)製))とフィードブロック(樹脂吐出口幅150mm、2種2層分配(日立造船(株)製))との組み合わせ。
冷却ユニット:横型、面長1800mm、径350mmφの冷却ロール3本
【0045】
実施例および比較例で使用した樹脂は、以下の通りである。
ポリカーボネート樹脂(PC):住友ダウ(株)製の「カリバー301−10」(熱変形温度=140℃)
メタクリル樹脂(PMMA):メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル=98/2(質量比)の共重合体(熱変形温度=100℃)
耐熱アクリル樹脂:(株)日本触媒製の「アクリピュアAX1−MR1000」(熱変形温度=120℃)
【0046】
(実施例1〜4および比較例1〜8)
表1に記載の樹脂を、それぞれ第1押出機および第2押出機内で溶融混練し、Tダイが取り付けられたフィードブロックに供給し、共押出成形を行った。なお、押出機1に投入された樹脂が、中間層(3層構造の場合)または主層(2層の場合)を形成し、押出機2に投入された樹脂が、両表層(3層構造の場合)または表層(2層の場合)を形成した。
【0047】
次いで、押出された溶融樹脂を、3本の冷却ロールを有する冷却ユニットで冷却・成形し、表1に記載の総厚み(目標値)を有する2層(実施例1、比較例1および2)または3層(実施例1、比較例1および2以外)の積層押出樹脂板を作製した。なお、実施例1〜4では、最終冷却ロールから剥離後、さらに積層押出樹脂板の上面(最終冷却ロールとの非接触面)を、ヒーター(日立造船(株)製の遠赤パネルヒーター)によって、表1に記載の温度で10秒間加熱した。
【0048】
実施例1〜4および比較例1〜8で得られた積層押出樹脂板を、幅275mm×長さ400mmの大きさに切り出し、定盤の上に置いた状態で4角の浮き上がりの程度を、隙間ゲージを用いて測定した。得られた4角の測定値を平均して反り量(mm)とした。なお、ヒーター照射側(積層押出樹脂板の上面)に角部分が浮き上がっている場合を負(−)の値で示し、逆に浮き上がっている場合を正(+)の値で示した。また、外観は目視にて評価した。これらの結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、実施例1〜4で得られた積層押出樹脂板は、いずれも表面荒れやタックマークが存在せず外観が良好であり、かつ反りの程度も非常に小さかった(±0.5mm以下)。
【0051】
一方、比較例1、3、5および7では、溶融樹脂を、最終冷却ロールと最終冷却ロールの1つ手前の冷却ロールとの間に挟み込んで圧着(成形)しているが、最終冷却ロールから剥離した後に加熱していないため、反りの程度が著しく大きかった。比較例2および4では、溶融樹脂を、最終冷却ロールと最終冷却ロールの1つ手前の冷却ロールとの間に挟み込んで圧着せず、さらに最終冷却ロールから剥離した後に加熱もしていないため、積層押出樹脂板の表面は荒れ、かつ反りの程度も著しく大きかった。比較例6および8では、最終冷却ロールから剥離した後に加熱する代わりに、最終冷却ロールの温度を高く設定しているため、反りの程度は良好であるが、積層押出樹脂板にタックマークが発生した。
【符号の説明】
【0052】
1、2 押出機
3 ダイ
4 溶融樹脂
41、42 樹脂層
5 冷却ユニット
51、52、53 冷却ロール
6 積層樹脂板
7 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最も熱変形温度の高い樹脂と最も熱変形温度の低い樹脂とが、10℃以上の熱変形温度の差を有する2種以上の熱可塑性樹脂をそれぞれ押出機で溶融混練して、ダイから共押出成形し、少なくとも3本の冷却ロールで冷却して積層押出樹脂板を得る積層押出樹脂板の製造方法であって、
最も熱変形温度の高い樹脂以外の樹脂からなる層が最終冷却ロールに接触するように、溶融樹脂を、最終冷却ロールと最終冷却ロールより1つ手前の冷却ロールとの間に挟み込み、冷却ロール間で圧着し成形して積層押出樹脂板を得、
ヒーターによって、積層押出樹脂板を構成する2種以上の熱可塑性樹脂の熱変形温度の中で最も高い熱変形温度以上で、積層押出樹脂板の両面のうち少なくとも一方の面を加熱することを特徴とする積層押出樹脂板の製造方法。
【請求項2】
前記積層押出樹脂板の最終冷却ロールとの非接触面を加熱する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ヒーターによる加熱が、積層押出樹脂板を構成する熱可塑性樹脂の熱変形温度の中で最も高い熱変形温度をMaxThとする場合、MaxTh〜(MaxTh+50℃)の範囲で行われる請求項1または2に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−121271(P2012−121271A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275127(P2010−275127)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(507403263)エスカーボシート株式会社 (22)
【Fターム(参考)】