説明

積層構造体の保護層の金属層に対する被覆率の測定方法、及びこの測定方法を利用した配線付基板の製造方法

【課題】積層構造体の保護層の被覆率を評価する工程を有する配線形成方法において、金属の酸化溶解が発生しない評価法含む配線の製造方法の提供と大画面、高精細な画像表示装置を歩留まりよく容易に製造すること。
【解決手段】基板上に下地としての金属層とその上の保護層とを具備する積層構造体を形成する工程、該保護層の被覆性を評価する工程を有する配線形成方法において、積層構造体を溶存酸素が含有しているアルカリ溶液に浸漬し、電位を変化させながら印加した時、下地を構成する金属表面での還元反応に伴う電流を計測し、計測結果から保護層の被覆率を求める配線の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層を保護層で被覆した構造を含む積層構造体における金属層上の保護層の被覆率を測定する方法、並びに、この測定方法によって保護層の被覆率測定がなされた配線付基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報や画像を伝達するための手段としての画像表示装置には、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(以下、FPDと記す)が多用されるようになってきている。さらに、画像表示装置では、表示面積の大型化、高精細化が進んでいる。この大型化、高精細化に伴い、金属配線長が長くなり、さらなる品質確保が必要となっている。
【0003】
特に、電子放出素子、有機EL等の電流注入素子を用いたFPDでは、配線を低抵抗とするために、液晶層を2つのパネルで挟持した構造からなる液晶ディスプレイ部分より厚く、太い配線が必要である。そのような場合においても、配線上を覆って形成する酸化防止層や絶縁層等の保護層の被覆率を良くすることが求められる。その為、製造工程において配線における保護層の被覆率を求め、その結果に基づいて、あるいはその結果をフィードバックすることで製品の製造歩留りを向上させることが有効である。例えば、保護層中でのピンホール等の被覆不良部分の発生を効率よく発見して、不良品を確実に排除して歩留り向上を図る必要がある。中でも、大面積の画像表示を行なう装置に用いる配線付基板では、配線面積が大きくなり、被覆不良部分の発生個数が多くなる場合も想定される。そこで、基板段階での不良品の摘出精度を上げることが重要となる。
【0004】
保護層の被覆率検査方法として、特許文献1には、アルカリ性電解液中で分極測定を行なうことによる異種金属積層構造の表面層被覆率評価法が開示されている。しかし下地金属自体の酸化により発生する電流変化を計測している為、下地の溶解が発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−168692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現状では基板上に下地としての金属層を形成し、この金属層をパターニングして配線層とした後に金属層の上に保護層を形成する。しかし保護層のカバレッジが悪い場合、後工程にて露出した配線層の溶解、又は酸化などが発生し抵抗値上昇や配線断線の不具合へと至ることがあった。これにより例えば画像表示装置の製造においては、歩留まりを低下させてしまう問題があった。
【0007】
特許文献1には、前記のように、被覆率評価法が開示されているが、計測にて下地金属の酸化溶解が発生し配線ダメージが発生してしまう為、検査のために基板をサンプリングして、その結果を全体に反映させる必要がある。また、検査のためにサンプリングした基板は、評価後に再使用することができない。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を解決するもので、金属層を保護層で被覆した積層構造体での保護層の被覆率を金属層へダメージを与えることなく測定して、その被覆性を評価するための測定方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、この測定方法を用いて測定された保護層被覆率を有する配線付基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る保護層の金属層に対する被覆率の測定方法は、金属層と、該金属層を被覆する保護層とを有する積層構造体における該保護層の該金属層に対する被覆率を測定する方法において、
溶存酸素が含有しているアルカリ性電解液を前記保護層の表面に接触させ、かつ前記金属層を電極として電位を変化させながら印加して該金属層表面での還元反応に伴う電流を計測する工程と、
前記電流値から前記保護層の前記金属層に対する被覆率を求める工程と
を有することを特徴とする被覆率の測定方法である。
【0010】
本発明にかかる配線付基板の製造方法は、基板上に、配線と、該配線を被覆する保護層とを有する積層構造体が形成された配線付基板の製造方法において、
基板上に、金属からなる配線と、該配線上の保護層とを具備する積層構造体を形成する工程と、
前記保護層の前記金属層に対する被覆率を測定する工程と、
を有し、
前記被覆率を測定する工程が、
溶存酸素が含有しているアルカリ性電解液を前記保護層の表面に接触させ、かつ前記金属層を電極として電位を変化させながら印加して該金属層表面での還元反応に伴う電流を計測する工程と、
前記電流値から前記保護層の前記金属層に対する被覆率を求める工程と
を有することを特徴とする配線付基板の製造方法である。
【0011】
本発明の配線付基板の製造方法は、配線付基板における保護層の被覆率に基づいてその被覆性を評価し、再生が必要とされる配線付基板を再生する工程を更に有することができる。本発明の配線の製造方法は、また、保護層の被覆性の評価結果を、基板上での積層構造体の形成工程における形成条件の修正に反映させる工程を更に有することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る保護層の金属層に対する被覆率を測定する方法によれば、溶存酸素を含有するアルカリ性電解液を保護層表面と接触させるので、金属層側ではカソード反応が生じ、金属の酸化溶解が発生せず、測定後の積層構造体は、目的とする用途に利用可能である。
【0013】
本発明の配線付基板の製造方法によれば、保護層の金属層に対する被覆率が測定された配線付基板を組立工程などの後工程に利用可能である。すなわち、保護層被覆率が判明しているので、目的用途に応じた保護層被覆率を有する配線付基板を選別して、組立工程などの後工程、例えば画像表示装置の組立工程などに提供することができる。その結果、画像表示装置等の製造歩留まりの向上を効果的に達成することが可能となる。
【0014】
更に、保護層被覆率に基づく配線付基板の品質がその目的用途に合わない場合は、得られた配線付基板を再生して、目的とする保護層被覆率のものすることも可能であり、配線付基板の製品歩留まりの向上を図ることができる。
【0015】
また、測定された保護層被覆率を、積層構造体の形成条件の修正のためにフィードバックすることで、配線付基板の製造歩留まりの向上を図ることも可能である。
【0016】
従って、本発明によれば、大画面、高精細な画像表示装置を歩留まりよく、容易に製造する際に必要とされる保護層被覆率の測定方法及びそれを用いた配線付基板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る配線付基板の形成方法の一例を示す工程説明図である。
【図2】配線の状態を模式的に示す拡大図で、(a)はリアプレートの平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【図3】本発明に係る配線のカソード分極曲線である。
【図4】配線の保護層被覆率とカソード電流曲線である。
【図5】本発明に係る配線付基板の形成方法の一例を示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明に係る金属層の保護層による被覆率の測定方法について説明する。
【0019】
通常電気化学測定では、主反応が電解液中の溶存酸素により妨害される場合は、N2バブリンブ、真空脱気等によって溶存酸素が除去される。本発明では、むしろ電解液中の溶存酸素の反応を利用する。
【0020】
本発明に係る金属層の保護層による被覆率の測定方法では、積層構造体の金属層上に設けられた測定対象の保護層表面全体が溶存酸素を含有するアルカリ性電解液と接触した状態として、金属層を電極とし、電位を変化させながら印加する。このように、保護層表面全体が溶存酸素を含有するアルカリ性電解液と接触した状態とすることで、保護層により区分された金属層とアルカリ性電解液との電気的な接続可能となる。そして、保護層形成時に発生したピンホール等の被覆不良部分において、金属層の表面とアルカリ性電解液とが接触した部分の大きさに応じて電流値が増大する。その際、アルカリ性電解液は溶存酸素を含んでおり、金属層側では以下のカソード反応が起きる。
【0021】
カソード反応:O2+2H2O+4e- → 4OH-
従って、アルカリ性電解液と接触する金属面積に応じて溶存酸素の反応量が増加する為、電流値が増加する。この電流値の増加を測定することで保護層の被覆率を算出することができる。
【0022】
なお、従来例の被覆率評価法では下地金属層の酸化溶解に伴う電流値を計測しているため、計測により配線ダメージが発生してしまい、評価した後に配線付基板を使用することができない。そこで本発明では、溶存酸素を含有するアルカリ性電解液に接触した金属層側でカソード反応となるように電位をスキャンすることによって保護層被覆率の測定を行なう。その結果、溶存酸素を含むアルカリ性電解液が、保護層のピンホールなどの被覆不良部にて金属層表面と接触した場合でも上記のカソード反応が起き、金属層の溶解は発生しない。
【0023】
上述した測定対象の保護層表面全体が溶存酸素を含有するアルカリ性電解液と接触した状態は、積層構造体をアルカリ性電解液に浸漬する方法、適切な構造の容器を用いて、積層構造体の有する保護層表面に部分的にアルカリ性電解液を接触させる方法など、積層構造体の構造に応じて適宜選択できる。
【0024】
アルカリ性電解液としては、溶存酸素を含有するアルカリ性電解液が用いられる。溶存酸素をアルカリ性電解液に含有させるための方法としては、種々の方法を利用することができる。例えば、酸素をアルカリ性電解液に通気して溶存酸素として取り込ませる方法が利用できる。酸素の通気は、酸素ボンベからの酸素を、散気孔などを配置した配管を通してアルカリ性電解液中に通気する方法により行なうことができる。通気における酸素の流量や通気時間は、目的とする溶存酸素量が得られるように選択すればよい。例えば、1Lのアルカリ性電解液に対して、2L/min程度の流量で、20分でおおよそ7〜8ppmの酸素飽和が得られる。
【0025】
アルカリ性電解液中の溶存酸素量は、溶存酸素メータ(DOメータ)を用いて確認することができる。例えば、溶存酸素計OM-51(堀場製作所)などを用いることができる。
【0026】
保護層の被覆率の測定の開始時点での溶存酸素量は、測定に必要な溶存酸素量があればよく、アルカリ性電解液の組成、測定温度、圧力などに応じて選択することができる。例えば、溶存酸素の含有率は、6ppm以上、より好適には飽和に近い7ppm以上から飽和濃度までとすることができる。
【0027】
被覆率測定に使用するアルカリ性電解液は溶存酸素が含有したアルカリ性電解液であり、その調製には、KOH、NaOH、TMAH等のイオン化してアルカリ性の電解液が形成でき、かつ、保護層被覆率の測定に利用しえるものが使用できる。電解液中の電解質の濃度は1重量%以下で十分であるが、好適には0.5重量%程度が良い。pHは12程度となる。
【0028】
積層構造体の金属層を電極とし利用し、電圧を変化させながら印加する。電圧の印加には、アルカリ性電解液中に参照電極と対極を設けて、対極と金属層との間に電圧を印加する方法が利用できる。
【0029】
印加電圧を変化させながら印加することにより、電圧の変化に応じた電流値が得られる。
まず溶液中に参照電極と積層構造体の金属層間の自然電位を測定する。その自然電位より卑方向に電圧をスキャンする。
【0030】
電圧の変化には、単位時間当たり電圧を変化させるスキャン方式が利用できる。定常状態を測定するためにはスキャン速度は遅い方が良く、スキャン速度は50mv/sec以下とすると、測定における繰り返し再現性が良い。遅くすると測定時間が伸びる為下限は1mV/sec以上での測定が良い。金属層がカソード反応となるように所定の速度で電位を卑側にスキャンすることで、アルカリ溶液中の溶存酸素が保護層のピンホール部にて接した金属層表面の面積に応じて反応量が増加する為、電流値が増加する。
【0031】
図3に積層構造体の金属がCuの場合のカソードの分極曲線を示す。金属の種類により電圧スキャン範囲、及び被覆率決定時の電圧は適宜決定するが、Cuの場合は−0.6〜−0.7V(vs.Ag/AgCl)時点での電流値が金属の被覆率を反映した値になっている。-0.8V以上では酸化銅の還元ピークがでることがある為、自然電位より−0.8Vまで電圧をスキャンする。-0.6V以下では電流値の差が小さいことから、−0.7V時点の電流値にて被覆率を判定している。
【0032】
図4は配線の保護層被覆率とカソード電流との関係を示す曲線である。図4はCu配線上に絶縁物としてのレジストを塗布パターニングして所望の被覆率を有する基板を作成し分極曲線を測定し-0.7V時点の電流値をプロットした検量線である。これにより、積層構造体の金属がCuの場合について、電流値を測定することにより保護層の被覆率が導きだせる。
【0033】
金属層の構成材料としては、アルカリ性電解液に溶解しない金属、例えばCu、Ag、Au、Pd、Pt等、あるいはこれらの2種以上の合金等が使用できる。Alなどはアルカリに溶解する為、不適である。保護層もアルカリ性電解液に溶解せず、かつアルカリ性電解に対して耐性のある、すなわち、反応性が無いかあるいは測定反応が可能な程度にアルカリ性電解液に対する反応性が低い絶縁物などの材料、例えばSiO2、SiN、TiN、TaN、Ta25、アモルファスSi等が使用できる。膜厚はカバレッジできる膜厚であれば良いが、50nm以上、1μm以下程度である。
【0034】
次に、上述した保護層の被覆率の測定方法を用いた本発明の配線付基板の製造方法について説明する。本発明に係る配線付基板の製造方法によれば、保護層被覆率の測定値を有する配線付基板を得ることができる。
【0035】
図1に、本発明に係る配線付基板の製造方法の一例を示す。まず、図1(a)から図1(b)に示されるように、基板1上に下地としての金属層2を形成する。金属層2は配線パターン形成用として設けられるものであり、種々の方法により形成することができる。金属層2の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法等の気相法による成膜手法(ドライ成膜手法)あるいは無電解、電解めっき等の液体中での成膜手法(ウエット成膜手法)などを挙げることができる。また、導電性の合金膜や導電性金属の積層膜として金属層を形成することもできる。更には、導電ペースト、導電インク等を塗布して焼成することで得られる導電性の膜として金属層を形成することもできる。厚さは0.5〜40μm程度とすることができる。
【0036】
金属層の構成材料としては、アルカリ性電解液に溶解しない金属、例えばCu、Ag、Au、Pd、Pt等、あるいはこれらの2種以上の合金等が使用できる。
【0037】
なお、図1(b)に示すように、金属層2の形成に際しては、基板1と金属層2の良好な密着性を得るために、基板1に密着層3を形成してからその上に金属層2を形成することができる。密着層3としては、例えばスパッタ法、蒸着法等のドライ成膜手法で付設したTaNやTiN等の膜を用いることができる。
【0038】
基板1としては、プリント基板として用いる場合には、ガラスエポキシ(例えば、パナソニック電工製の「FR−4」)、紙フェノール等の材質を使用することができる。また、FPD用基板として用いる場合には、青板ガラスやフロートガラスとして知られるアルカリ含有ガラス(例えば、日本板硝子製の商品名「U.F.F Glass」)を使用できる。また、ホウケイ酸ガラスとして知られる無アルカリガラス(例えば、コーニング製の商品名「#7059」)等も使用することができる。
【0039】
その後、所望の配線パターン4を形成するために、金属層2の表面にレジストを塗布し、露光現像して、図1(c)に示されるように、所望のレジストパターン5を形成する。レジストは、後に使用するエッチング液に耐性があれば良いが、通常のフォトレジスト(例えば、東京応化製の商品名「PMER−P−LA」)、又はドライフィルム(例えば、旭化成製の商品名「SUNFORT AQ−5038」)が使用できる。
【0040】
その後、エッチング液内に浸漬して、図1(d)に示されるように、レジストパターン5に沿った領域以外の金属層2の不要箇所をエッチング除去し、所望の配線パターン4を形成する。
【0041】
エッチング液としては、金属層2がCu層であれば塩化銅エッチング液、硫酸過酸化水素エッチング液(例えば、日本パーオキサイド製の商品名「ハイエッチャント」)等、金属層2がAg層であればPAN系(リン酸―酢酸―硝酸系)エッチング液(例えば、関東化学製の商品名「SEA−1」)が利用できる。さらに、金属層2が、Pd層であればヨウ素系のエッチング液、金属層2がPt層であれば王水(硝酸と塩酸)系が使用できる。また、これと同時又は別途行うドライエッチング等により、レジストパターン5に沿った領域以外の領域である不要箇所の金属層2及び密着層3も除去する。
【0042】
次いで、フォトレジストのレジストパターン5の場合は指定の剥離液(例えば、東京応化製の商品名「剥離液104」)、ドライフィルムのレジストパターン5の場合は水酸化ナトリウム溶液にて除去する。
【0043】
そして、図1(e)に示されるように、得られた配線パターン4上を覆って保護層6を形成する。保護層6は、例えばスパッタ法、蒸着法、CVD法等のドライ成膜手法を用いて形成することができる。
【0044】
保護層構成用材料としては、アルカリ性電解液に溶解せず、かつアルカリ性電解に対して耐性のある、すなわち、反応性が無いかあるいは測定反応が可能な程度に低い絶縁物などの材料、例えばSiO2、SiN、TiN、TaN、Ta25、アモルファスSi等が使用できる。
【0045】
その後、保護層6の被覆性を評価する工程を行う。この被覆性の評価は、保護層6の金属層2の被覆率の測定と、得られた測定結果に基づく被覆性の評価により行なわれる。保護層の被覆率測定は、上述した測定方法により行なう。例えば、図1(f)に示すように、保護層6まで形成された配線パターン付基板をアルカリ性電解液7に浸漬する。なお、基板1及び基板1上に形成された積層構造体において、保護層6により被覆された配線パターン4以外の部分について、アルカリ性電解液に対して非接触とすべき部分については、アルカリ性電解液に対して耐性のある保護層を必要に応じて設ける。
【0046】
次に、この状態で、対向電極8と、基板1の有する金属層2との間に電位を印加して、電位を自然電位よりスキャンして分極曲線を測定し、この結果より被覆率を測定する。この被覆率の測定により、保護層6が有するピンホール等の被覆不良箇所の定量化が可能となる。
【0047】
以上の各工程を経て、測定された保護層被覆率を有する配線付基板を得ることができる。
【0048】
求めた被覆率を基に、保護層6で覆われた配線パターン4を有する基板の目的用途に応じた品質を判定することができる。判定の基準は、基板、金属層及び保護層の構成材料、基板の目的用途によって設定されたピンホール等の被覆不良箇所の発生割合や個数に応じて設定可能である。すなわち、目的用途に応じた配線パターンへの要求仕様に基づいて判定基準を設定することができ、例えば、被覆率は95%以上が良く、より好適には98%以上が良い。画像表示装置用の配線パターンの場合で、金属層がCu層であり、保護層がTaN層の場合にも、被覆率は95%以上が良く、より好適には98%以上が良い。
【0049】
さらに保護層の被覆率を求めた後に良品基板を選別することや、保護層の被覆率を配線形成装置の条件の修正に反映することも可能となり、配線付基板を利用する後工程の歩留まりや、配線付基板自体の歩留まりの向上を図ることができる。
【0050】
図2に配線付基板の一例を示す。図2に示された配線付基板は、画像形成装置の電子放出素子が配列された側の基板であり、電子放出素子34を選択的に作動させるための下配線35と上配線36とを有する。基板1上に設けられた下配線35は保護層6で覆われており、この保護層6上に上配線36が設けられている。さらに上配線36上にも保護層6が設けられている。このような構造の基板においては、被覆率測定時点で配線を選択的に通電することで個別配線における被覆率の評価が可能となり、基板面内での被覆率分布がわかる。分布を測定することで被覆率悪化の原因となっている装置の構成や製造工程がより判明しやすくなり、配線形成装置の条件の修正に反映することも容易となる。
【0051】
本発明にかかる製造方法が適用可能な配線付基板としては、プリント基板、FPD用基板、特に液晶表示パネル、フィールドエミッションデイスプレイ、有機ELパネル等に使用する配線付基板を挙げることができる。本発明の製造方法で作成した配線基板を、複数の画像形成素子を備える画像表示装置に用いることにより、良好な表示性能を有する画像表示装置を製造することができる。ここで、画像形成素子とは、液晶表示パネルの場合は、液晶表示素子である。フィールドエミッションデイスプレイの場合は、電子放出素子と蛍光体を有するフィールドエミッション表示素子である。有機ELパネルの場合は、有機EL表示素子である。
【実施例】
【0052】
実施例1
図1で説明した方法で、ガラス基板上にCu配線、保護層としてTaNを形成した複数の配線基板A,Bの保護層被覆率を計測する。
【0053】
まず、縦300mm、横350mm、厚さ2.8mmの長方形の青板ガラスの基板1上に、スパッタ装置にて、密着層3としてのTaNを10nm、金属層2としてのCuを3μm成膜した[図1(b)]。その後、以下に示す条件を用いて、上記金属層2上にレジストパターン5を形成した[図1(c)]。この際使用したレジストは東京応化製の厚膜ポジレジスト「PMER P−LA100」あり、膜厚は5μm狙いで以下の条件で塗布、露光、現像を行なった。
【0054】
レジストパターン形成条件:
イ)塗布条件: スピンコート(1200rpm、40sec)、5μm
ロ)プリベーク:110℃、2min
ハ)露光条件:600mJ/cm2
ニ)現像条件
・現像液:ロームアンドハース製「MICROPOSIT MF−CD26 DEVELOPER
・温度:23℃
・時間:95sec
レジストパターン5の形成後のエッチングでは、エッチング液として日本パーオキサイド製「ハイエッチャント」を5倍希釈して使用した。エッチング液内に基板を浸漬して180secのエッチングを行ない、銅の配線パターン4を得た[図1(d)]。次に、以下に示す条件を用いて、密着層3としてのTaNの不要部分を以下のドライエッチング条件にて除去した後、さらにレジストパターン5を以下の条件で剥離した。
・ドライエッチング条件:
イ)ガス比:SF6:Ar=7:3
ロ)ガス圧:10mtorr
ハ)パワー:1.5kW
ニ)時間:20sec
・レジストパターン剥離条件:
イ)剥離液:東京応化製「剥離液104」
ロ)剥離液温度:50℃
ハ)処理時間:25分
その後、保護層6として、配線パターン4上にスパッタにてTaNを200nm成膜した。[図1(e)]。
【0055】
その後、保護層6の被覆率を評価するために、上記保護層6まで形成された配線パターン付基板を飽和まで溶存酸素を溶け込ませた0.5重量%のKOH液に浸漬する。基板の配線を対向電極8とし、参照電極9としてAg/AgCl電極、対極にPtメッシュ板を浸漬した[図1(f)]。基板上の配線に電位を印加して、電位を自然電位より-0.8Vまで50mV/secの速度でスキャンして分極曲線を測定した。この結果より保護層の被覆率を定量化する。
【0056】
図3に基板Aの分極曲線の結果を示す。又、図4に金属層がCuにおける保護層の被覆率と-0.7V印加時の電流値の関係を示す。図4を元に基板Aの配線パターンの被覆率は95%と算出できる。
【0057】
一方、基板Bの被覆率は98.7%となった。この構造における被覆率の合格基準は98%以上としているため、基板Bは合格、基板Aは不合格と選別し合格の基板Bのみ後工程に投入した。以上により保護層6の被覆率を求めた後に良品基板を選別することで後工程の歩留まりが向上した。
【0058】
実施例2
図5に示す工程に従って配線付基板の製造を以下のようにして行なった。
【0059】
最初に、めっきを利用して配線パターン4を形成した。まず、縦300mm、横350mm、厚さ2.8mmの長方形の青板ガラスの基板1を用意した[図5(a)]。この基板1上に、スパッタ装置にて、密着層3としてのTaNを10nm、導電性シード層2としてのCuを1μm成膜した[図5(b)]。
【0060】
次に、導電性シード層2上にめっき浴にて電解銅めっきを実施し、40μmの銅膜10を成膜した[図5(c)]。
【0061】
以下に電解めっき条件を示す。
イ)めっき液の組成(いずれもめっき液1リットル中の含有量)
・硫酸銅:80g
・硫酸:180g
・塩素:50mg
・ポリエチレングリコール:0.4ml
・ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド2ナトリウム塩:1.5μl
ロ)めっき液の温度:20℃
ハ)電流密度:3.0A/dm2
ニ)めっき時間:3500sec
その後、実施例1と同様にして、レジストパターン5を形成した後、エッチング液内に基板を浸漬して2400secのエッチングを行ない、銅の配線パターン4を得た[図5(e)]。さらに、実施例1と同様に密着層3としてのTaNの不要部分、レジストパターン5を除去した後、保護層6のTaNを200nm成膜した。[図5(f)]。
【0062】
その後、保護層6の被覆率を評価するために、上記保護層6まで形成された配線パターン付基板を飽和まで溶存酸素を溶け込ませた0.5重量%のTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)液に浸漬する。基板の配線を対向電極8とし、参照電極9としてAg/AgCl電極、対極にPtメッシュ板を浸漬した。[図5(g)]。
【0063】
基板上の配線逐次に電位を印加して、電位を自然電位より-0.7Vまで50mV/secの速度でスキャンして基板面内の分極曲線を各々測定し保護層の被覆率を、実施例1と同様にして定量化した。その結果、基板上部において保護層の被覆率が92%であることが判明した。この構造における被覆率の合格基準は98%以上としているため、基板上部のみを保護層の再形成工程に投入し保護層6のTaNをさらに200nm成膜したところ、被覆率は98.2%となり、後工程への投入が可能となった。
【0064】
以上により保護層6の被覆率を求めた後に、被覆率が悪い基板を修正して投入できることで、後工程の歩留まりが向上した。
【0065】
実施例3
金属層1はPd、保護層6はSiO2にて保護層6の被覆率の結果を保護層形成条件の修正に反映した例を示す。実施例1と同様に配線パターン4を形成した後、保護層6としてSiO2をCVDにて成膜した後に抜き取りにて保護層6の被覆率を測定した。結果、通常被覆率は90%以上であるが、84%の被覆率であった、更に基板周辺部の被覆率が悪いこともわかった。
原因を調査したところ、保護層6を形成するCVD装置内で基板上にパーティクルが付着した為、保護層6内にピンホールが多数発生し被覆率が悪化したことが判明した。よってCVD装置内の清掃を実施することでパーティクルが抑えられ、被覆率も通常通り94%まで回復した。又、金属層2側に原因がある場合は金属層2形成工程の条件修正を実施する。
【0066】
以上により保護層の被覆率の結果を保護層形成条件の修正に反映することで安定的に製造工程をコントロールでき、歩留りが向上した。
【0067】
比較例
比較例として保護層の被覆性を評価する工程を特許文献1に記載の方法により行なう以外は実施例1と同様にして被覆率の計測を実施した。すなわち、保護層6まで形成された配線パターン付基板をKOH液に浸漬した後に、基板上の配線に電位を印加して、アノード分極曲線を測定した。この結果、計測にて保護層ピンホール部にて露出している金属層としてのCuが酸化、溶解し、配線にダメージが発生してしまい、評価した後に基板を後工程に投入することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、金属層を保護層で被覆した積層構造体での保護層の被覆率を金属層へダメージを与えることなく測定して、その被覆性を評価するための測定方法を提供することができる。更に、本発明によれば、この測定方法を用いて直接測定された保護層被覆率を有する配線付基板を提供することができきる。
【符号の説明】
【0069】
1:基板
2:金属層
3:密着層
4:配線パターン
5:レジストパターン
6:保護層
7:電解液
8:対向電極
9:参照電極
10:銅膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と、該金属層を被覆する保護層とを有する積層構造体における該保護層の該金属層に対する被覆率を測定する方法において、
溶存酸素が含有しているアルカリ性電解液を前記保護層の表面に接触させ、かつ前記金属層を電極として電位を変化させながら印加して該金属層表面での還元反応に伴う電流を計測する工程と、
前記電流値から前記保護層の前記金属層に対する被覆率を求める工程と
を有することを特徴とする被覆率の測定方法。
【請求項2】
基板上に、配線と、該配線を被覆する保護層とを有する積層構造体が形成された配線付基板の製造方法において、
基板上に、金属からなる配線と、該配線上の保護層とを具備する積層構造体を形成する工程と、
前記保護層の前記金属層に対する被覆率を測定する工程と、
を有し、
前記被覆率を測定する工程が、
溶存酸素が含有しているアルカリ性電解液を前記保護層の表面に接触させ、かつ前記金属層を電極として電位を変化させながら印加して該金属層表面での還元反応に伴う電流を計測する工程と、
前記電流値から前記保護層の前記金属層に対する被覆率を求める工程と
を有することを特徴とする配線付基板の製造方法。
【請求項3】
前記保護層の被覆率により配線付基板を選別する工程を含む請求項2に記載の配線付基板の製造方法。
【請求項4】
前記保護層の被覆率により配線付基板を選別し、前記保護層の再形成工程に投入する請求項2に記載の配線付基板の製造方法。
【請求項5】
前記保護層の被覆率の結果を前記金属層及び前記保護層形成条件の修正に反映させる請求項2〜4のいずれか1項に記載の配線付基板の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−159465(P2012−159465A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20935(P2011−20935)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】