説明

積層電極膜

【課題】 液晶ディスプレイ、発光ダイオード、有機ELディスプレイ、タッチパネルなどの表示デバイスに用いられる透明酸化物層とAg合金薄膜層との密着性を向上させた積層電極膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 透明酸化物層1とAg合金薄膜層2とが積層された積層電極膜であって、Ag合金薄膜層2は、In:0.1〜1.5質量%を含み、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有し、透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との接合界面に、In酸化物3が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示用デバイスに用いられる積層電極膜であって、透明酸化物層とAg合金薄膜層とが積層される積層電極膜に関する。
【背景技術】
【0002】
表示用デバイス、特に液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオード(LED)及び有機ELディスプレイなどに用いられる透過型電極層又は反射型電極層では、透明酸化物層と金属薄膜層とが積層された積層電極膜が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、有機EL素子において、発光源である有機活性層の下部に形成され、銀などの光反射性を有する導電材料を用いて形成された反射層と該反射層の上にITOなどの光透過性を有する導電材料を用いて形成された透過層とを積層した第1電極と、有機活性層の上部に形成され、銀とマグネシウムとの混合物からなる半透過層とITOなどの光透過性を有する導電材料を用いて形成された透過層とを積層した第2電極とが開示されている。
【0004】
また、最近では、表示用デバイスとして、タッチパネルに注目が集まっている。例えば、抵抗膜式タッチパネルでは、PETフィルムに積層された上部透明電極とガラス基板に積層された下部透明電極とがスペーサを介して貼り合せられた構造を有しており、指又はペンなどの押圧力が加わると上部透明電極と下部透明電極とが接触し通電する構造を有している。このタッチパネルでは、画面の外枠で上部及び下部の透明電極とAg合金薄膜層とが積層された構造を有することになる。
【0005】
ここで、Ag合金としては、特許文献2に銀を主成分として、チタン、ジルコニウム、ハウニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリデブン、タングステン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、及びスズなどを添加した合金が提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、銀を主成分として、アルミニウム、インジウム、錫、ビスマス、ガリウム、亜鉛、ストロンチウム、カルシウム、ゲルマニウム、マグネシウム、アンチモン、リチウム、リンなどを添加した合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−80341号公報
【特許文献2】特開2004−2929号公報
【特許文献3】国際公開第2006/132414号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の技術においても、以下の課題が残されている。
すなわち、液晶ディスプレイ、発光ダイオード、有機ELディスプレイ、タッチパネルなどの表示デバイスでは歩留りの向上及び長寿命化のため、透明酸化物層とAg合金薄膜層との密着性においてさらに高い信頼性が要求されている。
【0009】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、液晶ディスプレイ、発光ダイオード、有機ELディスプレイ、タッチパネルなどの表示デバイスに用いられる透明酸化物層とAg合金薄膜層との密着性を向上させた積層電極膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、透明酸化物層とAg合金薄膜層との接合界面に特定の酸化物を形成させることによって、透明酸化物層とAg合金薄膜層との密着性が向上することを見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
【0011】
第1の発明に係る積層電極膜は、透明酸化物層とAg合金薄膜層とが積層された積層電極膜であって、前記Ag合金薄膜層は、In:0.1〜1.5質量%を含み、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有し、前記透明酸化物層と前記Ag合金薄膜層との接合界面に、In酸化物が形成されていることを特徴とする。
【0012】
この積層電極膜では、透明酸化物層とAg合金薄膜層との接合界面にIn酸化物が形成されているので、Ag合金薄膜層の一成分であるInを含有すると共に透明酸化物層と同様に酸化物であるIn酸化物が上記接合界面に介在することで、透明酸化物層とAg合金薄膜層との密着性を向上させることができる。
【0013】
第2の発明に係る積層電極膜は、第1の発明の積層電極膜において、前記透明酸化物層が、インジウム・スズ酸化物(ITO),亜鉛・アルミニウム酸化物(AZO),ガリウム・亜鉛酸化物(GZO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)からなる群から選ばれた少なくとも一つの酸化物からなることを特徴とする。
【0014】
第1及び第2の発明に係る積層電極膜は、前記透明酸化物層と前記Ag合金薄膜層とを積層する工程と、積層された前記透明酸化物層と前記Ag合金薄膜層とに熱処理を施して前記透明酸化物層と前記Ag合金薄膜層との接合界面に、In酸化物を形成する工程によって、製造することができる。
すなわち、この積層電極膜の製造方法では、積層された透明酸化物層とAg合金薄膜層とに熱処理を施して透明酸化物層とAg合金薄膜層との接合界面にIn酸化物を形成する工程を有しているので、良好な導電性を維持しつつ積層状態のままでIn酸化物を接合界面に形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
本発明の積層電極膜によれば、透明酸化物層とAg合金薄膜層との接合界面にIn酸化物が形成されるので、透明酸化物層とAg合金薄膜層との密着性が向上し、表示デバイスの歩留り及び長寿命化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る積層電極膜の一実施形態において、積層電極膜を示す概略的な構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る積層電極膜およびその製造方法の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量%である。
【0018】
本実施形態の積層電極膜は、図1に示すように、例えばガラス基板等の基板上に形成され、透明酸化物層1とAg合金薄膜層2とが積層された積層電極膜であって、Ag合金薄膜層2は、In:0.1〜1.5質量%を含み、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有し、透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との接合界面に、In酸化物3が形成されている。
【0019】
上記透明酸化物層1としては、インジウム・スズ酸化物(ITO),亜鉛・アルミニウム酸化物(AZO),ガリウム・亜鉛酸化物(GZO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)を用いることができる。特に、Ag合金薄膜層2との密着性の観点からは、Inを含有するITOが最も望ましい。なお、透明酸化物層1の厚みは、0.5〜300nmが好ましい。また、透明酸化物層1は、本実施形態では一層の構造としているが、多層化しても構わない。
【0020】
この透明酸化物層1は、スパッタによって形成することができる。なお、他の製法として、ゾルゲル法、CVD法によっても形成することができるが、膜の均一性の観点からスパッタ法による成膜が好ましい。このスパッタリングは、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、例えば到達真空度5.0×10−5Pa、スパッタ圧力0.5Pa、酸素分圧0.01Paで行うことができる。
この透明酸化物層1の比抵抗は、5×10−3Ω・cm以下が望ましく、波長550nmでの透過率が90%以上有することが望ましい。
【0021】
上記Ag合金薄膜層2に含有されるInは、透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との接合界面においてIn酸化物3を形成させるために必要となるが、Inの含有量が0.1質量%未満であると、上記接合界面に十分なIn酸化物3を形成することができなくなる。一方、Inの含有量が1.5質量%を超えると、Ag合金薄膜層2の比抵抗が上昇してしまう。これらの理由から、Inの含有量範囲は、0.1〜1.5質量%に設定される。なお、比抵抗及び膜の密着性の観点から、0.2〜1.0質量%がより望ましい。
【0022】
また、Ag合金薄膜層2に、さらにCa,Sn,Ga,Cu,Mg,Ce,Eu,の内の1種または2種以上を合計で1.5重量%以下含有させても構わない。これらの含有量を上記範囲に設定した理由は、1.5質量%を超えてこれらの元素を含有すると、膜の比抵抗が上昇するため好ましくないからである。
【0023】
このAg合金薄膜層2は、スパッタ法により成膜することができる。スパッタ法では、AgIn合金スパッタリングターゲットを用いることができる。Ag合金薄膜層2の厚みは、用途によって相違するが、透過型積層電極膜に用いる場合には、0.5〜20nmが望ましく、反射型、タッチパネル用積層電極膜の場合には、50〜300nmが望ましい。
【0024】
上記AgIn合金スパッタリングターゲット中のAgIn合金結晶粒の平均粒径は、150〜400μmが望ましい、好ましくは200〜350μmである。AgIn合金結晶粒の平均粒径が、150μmより小さいと、結晶粒径のばらつきが大きくなり、大電力のスパッタ中に、異常放電が発生しやすくなり、スプラッシュが発生するようになる。一方、AgIn合金結晶粒の平均粒径が400μmより大きくなると、ターゲットがスパッタにより消耗するのに伴い、各々の結晶粒の結晶方位の違いによるスパッタレートの差に起因して、スパッタ表面の凹凸が大きくなるため、大電力でのスパッタ中に、異常放電が発生し易くなり、スプラッシュが発生し易くなる。
【0025】
ここで、スパッタリングターゲットの平均粒径は、60mmの線分を、格子状に20mm間隔で縦横に合計4本引き、それぞれの直線で切断された結晶粒の数を数える。線分の端の結晶粒は、0.5個とカウントする。平均切片長さ:L(μm)を、L=60000/(M・N)(ここで、Mは実倍率、Nは切断された結晶粒数の平均値である)で求める。求めた平均切片長さ:L(μm)から、試料の平均粒径:d(μm)を、d=(3/2)・Lで算出する。
【0026】
透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との接合界面に形成されるIn酸化物3としては、In,InO,InO、またはこれらが混合されたインジウムの酸化物である。
In酸化物3は、Ag合金中のInが酸化して形成される。このIn酸化物3によって、水分又は酸素が存在するような環境でも透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との密着性を維持することができる。
【0027】
本実施形態の積層電極膜を製造する方法は、透明酸化物層1とAg合金薄膜層2とを積層する工程と、積層された透明酸化物層1とAg合金薄膜層2とに熱処理を施して透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との接合界面に、In酸化物3を形成する工程とを有している。すなわち、上述した方法で透明酸化物層1とAg合金薄膜層2とを成膜し積層した後、熱処理により、透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との接合界面においてAg合金中のInが酸化してIn酸化物3が形成される。
【0028】
例えば、In酸化物3は、透明酸化物層1とAg合金薄膜層2とを積層した後、窒素雰囲気中で250℃の熱処理を行うことによって形成することができる。また、この熱処理は、上記各層の積層後、直ちに行うこともできるが、表示デバイスの製造過程のいずれかにおいて実施することもできる。また、他の処理と併用して行うことも可能である。
【0029】
このIn酸化物3は次に方法によって、存在を確認することができる。
エックス線光電子分光法(XPS)により、積層電極膜の表面から厚み方向に深さ方向分析を行い、AgIn合金層と透明酸化物層との界面付近において、InとOとの光電子の強度を他の元素の光電子強度と比較することにより、その領域がほぼInとOのみで構成されると判断されるとき、これをIn酸化物3であるとする。
【0030】
また、Ag合金薄膜層2の比抵抗は、次の方法によって測定する。
30mm角のガラス基板上にスパッタリングにより透明酸化物層1を100nm及びAg合金薄膜層2を100nm積層し、四探針法により、Ag合金薄膜層2表面に探針を接触させて、膜のシート抵抗を測定し、これに膜厚の値を掛けて算出した。
【0031】
このように本実施形態の積層電極膜では、透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との接合界面にIn酸化物3が形成されているので、Ag合金薄膜層2の一成分であるInを含有すると共に透明酸化物層1と同様に酸化物であるIn酸化物3が上記接合界面に介在することで、透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との密着性を向上させることができる。
また、この積層電極膜の製造方法では、積層された透明酸化物層1とAg合金薄膜層2とに熱処理を施して透明酸化物層1とAg合金薄膜層2との接合界面にIn酸化物3を形成する工程を有しているので、良好な導電性を維持しつつ積層状態のままでIn酸化物3を接合界面に形成することができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明に係る積層電極膜の実施例を作製し、評価した結果を説明する。
まず、30mm角のガラス基板上に表1に記載の透明酸化物層をスパッタ法により、厚み100nm成膜した。この際のスパッタ条件は次のとおりである。
スパッタ装置:アルバック社製、SIH−450H
ターゲットサイズ:直径152.4mm×厚さ6mm
到達真空度:5×10−5Pa
ガス全圧(アルゴン+酸素):0.5Pa
酸素分圧:0.01Pa
スパッタ電力:直流100W
ターゲット−基板間距離:70mm
【0033】
次に、透明酸化物層上に、Ag合金薄膜層として表1に記載のAgIn薄膜をスパッタ法により、厚み100nm成膜した。この際のスパッタ条件は次のとおりである。
スパッタ装置:アルバック社製、SIH−450H
ターゲットサイズ:直径152.4mm×厚さ6mm
到達真空度:5×10−5Pa
ガス全圧(アルゴンのみ):0.5Pa
スパッタ電力:直流250W
ターゲット−基板間距離:70mm
【0034】
この後、上記のように積層した膜を大気中で、温度250℃、10分、熱処理し、インジウム・スズ酸化物(透明酸化物層)とAgIn薄膜(Ag合金薄膜層)との接合界面にIn酸化物を形成させ、実施例1〜5を作製した。これら実施例1〜5におけるIn酸化物は、XPSによる深さ方向分析によって確認した。その結果および実施例1〜5の各層の組成を表1に示す。
【0035】
なお、比較のため、Inの含有量を本発明の範囲より少なくした比較例1および本発明の範囲より多くした比較例2を同様に作製した。また、上記熱処理を行っていないものを従来例として作製した。これら比較例および従来例についても、実施例と同様に評価し、各層の組成を表1に併せて示す。
【0036】
これら実施例、比較例および従来例について、次の高温高湿条件で長時間保管し、その後、テープ剥がれ試験を行った。
[高温高湿条件]
温度85℃
湿度80%
時間100時間
【0037】
[テープ剥がれ試験]
テープ剥がれ試験は、高温高湿試験後の積層電極膜上に格子状にカッタで切り目をつけ、1mm角のマス目を100マス描いた。その後、住友3M社製のテープ(375S)を一旦マス目に貼り付けてから、ゆっくりと引き剥がし、テープに粘着して剥がれず、基板側に残ったマス目を計数することによって行った。80マス〜100マスを◎(非常に良好)と評価し、50マス〜79マスを○(良好)と評価し、50マス未満を×(不良)と評価した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
これらの評価結果からわかるように、Inの含有量が本発明の範囲より少ない比較例1と熱処理を施していない従来例とは、In酸化物が上記接合界面に検出されず、密着性が不十分であるのに対し、本発明の実施例1〜5は、いずれもIn酸化物が上記接合界面から検出されたと共に良好な密着性を有し、AgIn薄膜(Ag合金薄膜層)の導電率も良好な結果が得られている。
【0040】
以上より、本発明の実施例1〜5の積層電極膜は、良好な密着性と導電性とを有しており、高い信頼性が得られることから、液晶ディスプレイ、発光ダイオード、有機ELディスプレイ、タッチパネルなどの表示デバイスに用いられる電極膜として好適であることがわかる。
【0041】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、基板上に透明酸化物層、Ag合金薄膜層の順に積層しているが、逆にAg合金薄膜層、透明酸化物層の順に積層しても構わない。また、Ag合金薄膜層の上下に透明酸化物層を積層した三層構造としても構わない。さらに、基板上に積層電極膜を直接形成しているが、他の層などを介して積層しても構わない。
【符号の説明】
【0042】
1…透明酸化物層、2…Ag合金薄膜層、3…In酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明酸化物層とAg合金薄膜層とが積層された積層電極膜であって、
前記Ag合金薄膜層は、In:0.1〜1.5質量%を含み、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成を有し、
前記透明酸化物層と前記Ag合金薄膜層との接合界面に、In酸化物が形成されていることを特徴とする積層電極膜。
【請求項2】
請求項1に記載の積層電極膜において、
前記透明酸化物層が、インジウム・スズ酸化物,亜鉛・アルミニウム酸化物,ガリウム・亜鉛酸化物、インジウム・亜鉛酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一つの酸化物からなることを特徴とする積層電極膜。

【図1】
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【公開番号】特開2012−221668(P2012−221668A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84957(P2011−84957)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】