説明

積層電池およびその製造方法ならびに車両

【課題】積層電池を容易に製造する方法、および、容易に製造されてなり温度変化に伴う不具合の生じ難い積層電池を提供すること。
【解決手段】正極活物質層と集電体とを含む正極と、負極活物質層と集電体とを含む負極と、を含む単電池要素が複数積層されてなる積層電池において、正極活物質層および負極活物質層を、各々シート状をなすようにし、集電体と別体で成形する。また、この正極活物質層および負極活物質層を、それぞれ、集電体に載置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極および負極を含む単電池要素が複数積層されてなる積層電池およびその製造方法、ならびに積層電池を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
積層電池は、正極および負極を含む単電池要素が複数積層されるとともに、各単電池要素が直列または並列に接続されたものである(例えば、特許文献1、2参照)。複数の単電池要素を直列に接続する場合には高電圧の電池を得ることができ、並列に接続する場合には高容量の電池を得ることができる。以下、必要に応じて、正極および負極を総称して電極と呼び、正極活物質層と負極活物質層とを総称して活物質層と呼び、正極合剤と負極合剤とを総称して電極合剤と呼ぶ。さらに、本明細書においては、集電体の両面に異なる活物質層(正極活物質層/負極活物質層)が積層されている積層電池をバイポーラ積層電池と呼び、集電体の両面に同じ活物質層(正極活物質層/正極活物質層、または、負極活物質層/負極活物質層)が積層されている積層電池をモノポーラ積層電池と呼ぶ。
【0003】
ところで積層電池の電極は、一般の電池と同様に、活物質層および集電体を含む。活物質層は集電体上に積層されている。活物質層を集電体に積層する方法として、一般的には、スラリー状の電極合剤を集電体上に塗布する方法が採用されている。
【0004】
近年、電子機器の小型化に伴い、電池にも小型化および軽量化が要求されている。このため集電体も、一般に、箔状やシート状等の比較的薄肉のものが用いられている。このように比較的薄肉の集電体にスラリー状の電極合剤を均一に塗布する作業は困難であった。特に積層電池においては、一つの集電体の両面に活物質層を積層するため、塗布作業は更に困難になり、熟練した技術や多大な労力や時間を必要としていた。このため積層電池を安価に製造することは非常に困難であった。
【0005】
特許文献1には、集電体上に活物質層を印刷形成することが提案されているが、このような方法によっても、積層電池の製造には依然として多大な労力および時間を必要としていた。
【0006】
また、集電体の両面に活物質層を積層することで、集電体に過大な応力が作用する場合がある。つまり、活物質層と集電体とは異なる材料からなるため、各々の線膨張係数は異なる。このため、電池の使用環境の変化や電池の充放電に伴って電池の温度が変化したり、充放電に伴って電池活物質の結晶構造が体積変化したりすると、集電体および活物質層がそれぞれ膨張または収縮し、集電体および/または活物質層に応力が集中する場合がある。応力集中が大きい場合には、電池の形状が変化する等、不具合が生じる可能性がある。特に積層電池の一種であるバイポーラ積層電池においては、集電体の一方の面に正極活物質層を形成し他方の面に負極活物質層を形成するため、集電体および活物質層に大きな応力が作用する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−71011号公報
【特許文献2】特開2007−335294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、積層電池を容易に製造する方法、容易に製造されてなり温度変化に伴う不具合の生じ難い積層電池、および、この積層電池を搭載した車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の積層電池は、正極活物質層と集電体とを含む正極と、負極活物質層と集電体とを含む負極と、を含む単電池要素が複数積層されてなる積層電池であって、
該正極活物質層および該負極活物質層は、各々シート状をなし、該集電体と別体で成形されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記課題を解決する本発明の積層電池の製造方法は、正極活物質層と集電体とを含む正極と、負極活物質層と集電体とを含む負極と、を含む単電池要素が複数積層されてなる積層電池を製造する方法であって、
該正極活物質層および該負極活物質層として、各々シート状をなすものを用い、
該集電体と別体で成形した該正極活物質層および該負極活物質層を、それぞれ、該集電体に載置する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
また、上記課題を解決する本発明の車両は、上述した本発明の積層電池を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層電池の製造方法においては、活物質層を集電体と別体のシート状に成形し、その後に集電体に載置することで、集電体と活物質層とを積層している。このため、本発明の製造方法によると、集電体に電極合剤を塗布する工程が不要となり、積層電池を容易に製造できる。活物質層はシート状なので、単に集電体に載置するだけで、集電体に積層できる。電極合剤を集電体上に塗布等する場合とは異なり、活物質層を集電体上で成形するのではなく集電体とは別体で成形するため、例えば、活物質層の製造ラインと、集電体と活物質層との積層ラインとを異なる場所に設けることも可能である。このため、積層電池の製造工数を低減でき、製造コストを低減でき、かつ、積層電池を大量生産することが可能である。
【0013】
なお、本発明でいう載置とは、活物質層を単に集電体の上または下に置くだけでなく、接着等の方法で集電体に固着することも含む概念である。接着剤としては導電性のものを用いれば良い。活物質層を集電体に固着する場合にも、集電体とは別体で成形した活物質層を集電体に積層することで、集電体上で活物質層を成形する場合に比べて、積層電池の製造工程を大きく簡略化でき、積層電池を容易に製造できる。
【0014】
さらに、本発明の積層電池における活物質層は、集電体と一体に成形されているのではなく、集電体に載置されているだけなので、集電体と活物質層とは互いに独立して膨張および収縮可能である。このため積層電池に温度変化が生じた場合や、電極層中の活物質の体積変化が生じた場合にも、集電体や活物質層に生じる応力集中を低減できる。活物質層を集電体に固着する場合にも、点状または線状に接着剤を塗布すれば、集電体と活物質層とを点状または線状に固着することが可能である。したがってこの場合にも、温度変化時や、電極層中の活物質の体積変化時には、活物質層および集電体の少なくとも一部が隣接する集電体または活物質層から独立して膨張または収縮可能であり、温度変化時における応力集中を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】硫黄変性PANをX線回折した結果を表すグラフである。
【図2】硫黄変性PANをラマンスペクトル分析した結果を表すグラフである。
【図3】硫黄変性ピッチをX線回折した結果を表すグラフである。
【図4】硫黄変性ピッチをラマンスペクトル分析した結果を表すグラフである。
【図5】実施例の製造方法で用いた反応装置を模式的に表す説明図である。
【図6】実施例1のバイポーラ積層電池を模式的に表す説明図である。
【図7】実施例2のモノポーラ積層電池を模式的に表す説明図である。
【図8】実施例1のバイポーラ積層電池の充放電試験の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の積層電池の構成について説明する。
【0017】
本発明の積層電池は、正極と負極とを含む単電池要素が電池内に複数積層されてなる。各単電池要素は直列に接続しても良いし、並列に接続しても良い。つまりバイポーラ積層電池であっても良いし、モノポーラ積層電池であっても良い。本発明の積層電池における複数の単電池要素を収容する容器は特に限定しない。例えば、単電池要素は、ラミネートフィルム製の容器に収容するラミネートセルであっても良いし、金属製の容器に収容する角型電池であっても良いし、コイン型の容器に収容するコイン型電池であっても良い。
【0018】
本発明の積層電池における正極活物質、負極活物質および電解質としては、一般の電池に使用される種々のものを使用できる。例えば、本発明の積層電池(より具体的には、積層電池における単電池要素)は、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、ナトリウムポリマー二次電池、リチウムイオンキャパシタ、ナトリウムイオンキャパシタ等に代表される既知の二次電池(蓄電池)またはキャパシタであれば良い。
【0019】
何れの場合にも、本発明の製造方法によると、活物質層を集電体と別体のシート状に成形し、シート状の活物質層を集電体に載置することで、積層電池を容易に製造できる。
【0020】
また、上述したように、従来の製造方法においては、不定形状の電極合剤を集電体上に塗布または印刷等して活物質層を成形する工程が非常に煩雑であった。これに対して本発明の製造方法においては、予めシート状に成形した活物質層を集電体に単に重ねるだけで良いため、例え活物質層を集電体に固着する工程を設けたとしても、集電体に活物質層を非常に容易に積層できる。よって本発明の製造方法によると、積層電池を容易に製造できる。
【0021】
また、本発明の積層電池においては、積層電池内で集電体と活物質層とが独立して存在し、一体となっていないため、集電体と活物質層とを点状または線状に固着すれば、集電体および活物質層はそれぞれ独立して変形(すなわち収縮または膨張)できる。このため温度変化時や活物質層の体積変化時に集電体および活物質層に作用する応力を低減できる。
【0022】
さらに、活物質層を集電体と別体で成形することで、活物質層を厚肉にすることも可能である。活物質層を厚肉にすれば、集電体の表面積に対する活物質の量(目付量)が多くなり、電池を高容量化することが可能である。なお、電極の厚さを厚くすると電気抵抗も増大する。しかし本発明の積層電池がバイポーラ積層電池であれば、集電体の面全体がリード線として機能するため、電気抵抗を低く抑えることが可能となる。
【0023】
なお、本発明の積層電池およびその製造方法においては、活物質層を集電体に単に載置するだけで活物質層を集電体に積層するため、活物質層には自身の形状を維持できる程度の剛性が要求される。具体的には、活物質層の剛性が、自身の形状をシート状に維持できる程度であれば、載置するのみで活物質層を集電体に積層可能である。このような本発明の製造方法によって、より容易に積層電池を製造するためには、活物質層の剛性を向上させれば良い。例えば、活物質層の少なくとも一部を、形状維持のための構造体(導電性基体)で構成するのが好ましい。導電性基体は、活物質と異なるものであっても良いが、後述するように活物質自体が剛性に優れるシート状をなす場合には、活物質が導電性基体を兼ねても良い。
【0024】
(正極)
正極活物質層は、全体としてシート状をなせば良く、正極活物質自身がシート状をなしても良いし、シート状をなす導電性の基体(第1の導電性基体)に正極活物質が一体化されても良い。なお、ここでいうシート状とは、肉厚や幅、長さを限定するものではなく、板状、帯状、フィルム状、柱状等を含む概念である。正極活物質層の形状は、積層電池の形状に応じて適宜設計すれば良い。
【0025】
本発明の積層電池がリチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池である場合、シート状の正極活物質としては、例えば、シート状の炭素源化合物(例えばポリアクリロニトリルシート)と硫黄とを高温下で接触させて得られる硫黄系正極活物質シート等が好ましく用いられる。この場合、シート状の硫黄系正極活物質自体が導電性基体としても機能する。その他、正極活物質とバインダ樹脂とを含む正極活物質シートを用いても良い。この場合、樹脂バインダとしては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン、カルボシキメチルセルロース、等の比較的硬質な樹脂、つまり、固化すると単独でフィルムシート状を成し得る樹脂を用いるのが好ましい。例えばバインダ樹脂としてポリイミド(PI)樹脂を用いる場合、先ず、PI前駆体またはイミド化済みのPIを溶媒に溶かしたものと正極活物質との混合物をフッ素樹脂シート等の剥離基材上に塗工し、乾燥させる。そして、剥離基材上に形成された固化物(PIと正極活物質とを含む正極活物質シート)を剥離基材から剥がすことで、導電性基体としても機能するシート状の正極活物質を得ることができる。必要に応じて、このシートに加熱等の加工を施しても良い。正極活物質の代わりに負極活物質を用いれば、同様に、シート状の負極活物質を得ることもできる。或いは、従来から一般的に使用されている各種正極活物質に、バインダ(結着材)、導電助剤および粘度調整用の溶媒を混合して得られる電極合剤スラリーを、正極用の導電性基体(第1の導電性基体)に塗工および/または充填したもの等を用いても良い。正極活物質として、具体的には、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LINi0.8Co0.15Al0.05、LiFePO等が挙げられる。
【0026】
第1の導電性基体は、正極の構造を維持するための要素であり、導電性があり正極の形状をシート状に維持できる程度の強度および剛性をもつ材料を使用すれば良い。例えば、ポリアクリロニトリルやピッチ等を高温で焼成した炭素繊維からなる炭素繊維シート(所謂カーボンペーパー;以下、本明細書において炭素繊維シートとはカーボンペーパーを含む炭素シート全般を指す)、や、ポリアセチレン等の導電性樹脂の繊維等を材料とする織布、不織布等を好ましく使用できる。或いは、発泡ニッケル等の金属多孔材等も好ましく使用できる。
【0027】
第1の導電性基体は織布、不織布を含む多孔材であっても良いし、金属板等の無孔材であっても良いが、正極活物質層を三次元的に補強するためには、多孔材であるのが好ましい。そして正極活物質層は、多孔材状の第1の導電性基体の細孔内に入り込んで第1の導電性基体と三次元的に一体化されるのが好ましい。
【0028】
第1の導電性基体に一体化する正極活物質としては、既知の種々の正極活物質を用いることができる。正極活物質は、バインダ樹脂、導電助剤、溶媒等を含む正極合剤の状態で、第1の導電性基体に塗布、含浸等させて、一体化すれば良い。なお、後述する硫黄系正極活物質は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池を高容量化でき、かつ、サイクル特性を向上させ得るため、特に好ましく使用できる。さらに、正極活物質に金属元素を含まないため、電池の軽量化が可能である等の利点もある。また、通常の金属箔集電体上に硫黄系正極合剤を塗工した後の乾燥工程では、金属と硫黄とが反応してしまうことがあるが、本発明では、集電体と電極層とを別体として扱うことで、別々に乾燥することができ、それらを重ねるだけで電極ができるため、集電体と硫黄が反応することがない、などの利点もある。
【0029】
導電助剤としては、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、炭素粉末、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛、アルミニウムやチタンなどの正極電位において安定な金属の微粉末等が例示される。
【0030】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride:PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、変性ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が例示される。
【0031】
溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアルデヒド、アルコール、水等が例示される。これら導電助剤、バインダおよび溶媒は、それぞれ複数種を混合して用いても良い。これらの材料の配合量は特に問わないが、例えば正極活物質100質量部に対して、導電助剤5〜100質量部程度、バインダ5〜20質量部程度を配合するのが好ましい。また、その他の方法として、正極合剤を乳鉢やプレス機などで混練しシート状またはフィルム状にし、この混合物をプレス機等で第1の導電性基体に圧着しても良い。
【0032】
(硫黄系正極活物質)
硫黄系正極活物質とは、上述したように、炭素源化合物と硫黄とを加熱処理することで得られる化合物である。炭素源化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ピッチ類、ポリイソプレン、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素、(以下、必要に応じてPAHと略する)、および、コーヒー豆や海藻等の植物系炭素材料が挙げられる。以下、炭素源化合物としてPANを用いた硫黄系正極活物質を硫黄変性PANと呼ぶ。炭素源化合物としてピッチ類を用いた硫黄系正極活物質を硫黄変性ピッチと呼ぶ。炭素源化合物としてPAHを用いて硫黄系正極活物質を硫黄変性PAHと呼ぶ。炭素源化合物としてポリイソプレンを用いたものを硫黄変性ゴムと呼ぶ。
【0033】
<炭素源化合物>
〔PAN〕
炭素源化合物としてPANを用いる場合、硫黄が本来有する高容量を維持でき、かつ、硫黄の電解液への溶出が抑制されるため、サイクル特性が大きく向上する。これは、硫黄系正極活物質中で硫黄が単体として存在するのでなくPANと結合等して固定された安定な状態で存在するためだと考えられる。硫黄変性PANは、硫黄をPANとともに加熱処理することで得られる。PANを加熱すると、PANが三次元的に架橋して縮合環(主として六員環)を形成しつつ閉環すると考えられる。このため硫黄は、閉環の進行したPANと結合した状態で硫黄系正極活物質中に存在していると考えられる。PANと硫黄とが結合することで、硫黄の電解液への溶出を抑制でき、サイクル特性を向上させ得ると考えられる。このときの加熱温度は、250以上500℃以下とすることが好ましく、250以上400℃以下とすることがより好ましく、300以上400℃以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
硫黄とPANとを加熱処理する際(熱処理工程と呼ぶ)には、硫黄を還流するのが好ましい。これは、炭素源化合物として後述するピッチ類等を用いる場合にも同様である。硫黄を還流する場合、混合原料の一部が気体となり、一部が液体となるように混合原料を加熱すれば良い。換言すると、混合原料の温度は、硫黄が気化する温度以上の温度であれば良い。ここで言う気化とは、硫黄が液体または固体から気体に相変化することを指し、沸騰、蒸発、昇華の何れによっても良い。参考までに、α硫黄(斜方硫黄、常温付近で最も安定な構造である)の融点は112.8℃、β硫黄(単斜硫黄)の融点は119.6℃、γ硫黄(単斜硫黄)の融点は106.8℃である。硫黄の沸点は444.7℃である。ところで、硫黄の蒸気圧は高いため、混合原料の温度が150℃以上になると、硫黄の蒸気の発生が目視でも確認できる。したがって、混合原料の温度が150℃以上であれば硫黄の還流は可能である。なお、熱処理工程において硫黄を還流する場合には、既知構造の還流装置を用いて硫黄を還流すれば良い。
【0035】
なお、混合原料中の硫黄の配合量が過大である場合にも、熱処理工程において炭素源化合物に充分な量の硫黄を取り込むことができる。このため、炭素源化合物に対して硫黄を過大に配合する場合には、熱処理工程後の被処理体(硫黄−炭素源化合物複合体)から単体硫黄を除去することで、上述した単体硫黄による悪影響を抑制できる。詳しくは、混合原料中の炭素源化合物と硫黄との配合比を、質量比で1:2〜1:10とする場合、熱処理工程後の被処理体を、減圧しつつ200℃〜250℃で加熱する(単体硫黄除去工程)ことで、炭素源化合物に充分な量の硫黄を取り込みつつ、残存する単体硫黄による悪影響を抑制できる。熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施さない場合には、この被処理体をそのまま硫黄系正極活物質として用いれば良い。また、熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施す場合には、単体硫黄除去工程後の被処理体を硫黄系正極活物質として用いれば良い。後述する硫黄変性ピッチ等に関しても同様である。
【0036】
炭素源化合物としてのPANは、粉末状であるのが好ましく、質量平均分子量が10〜3×10程度であるのが好ましい。また、PANの粒径は、電子顕微鏡によって観察した際に、0.5〜50μm程度であるのが好ましく、1〜10μm程度であるのがより好ましい。PANの分子量および粒径がこれらの範囲内であれば、PANと硫黄との接触面積を大きくでき、PANと硫黄とを信頼性高く反応させ得る。このため、電解液への硫黄の溶出をより信頼性高く抑制できる。
【0037】
硫黄系正極活物質に用いられる硫黄もまた、粉末状であるのが好ましい。硫黄の粒径については特に限定しないが、篩いを用いて分級した際に、篩目開き40μmの篩を通過せず、かつ、150μmの篩を通過する大きさの範囲内にあるものが好ましく、篩目開き40μmの篩を通過せず、かつ、100μmの篩を通過する大きさの範囲内にあるものがより好ましい。
【0038】
硫黄変性PANに用いるPAN粉末と硫黄粉末との配合比については特に限定しないが、質量比で、1:0.5〜1:10であるのが好ましく、1:0.5〜1:7であるのがより好ましく、1:2〜1:5であるのがさらに好ましい。
【0039】
硫黄変性PANは、元素分析の結果、炭素、窒素、及び硫黄を含み、更に、少量の酸素及び水素を含む場合もある。また、図1に示すように、硫黄変性PANをCuKα線によりX線回折した結果、回折角(2θ)20〜30°の範囲では、25°付近にピーク位置を有するブロードなピークのみが確認された。参考までに、X線回折は、粉末X線回折装置(MAC Science社製、型番:M06XCE)により、CuKα線を用いてX線回折測定を行った。測定条件は、電圧:40kV、電流:100mA、スキャン速度:4°/分、サンプリング:0.02°、積算回数:1回、測定範囲:回折角(2θ)10°〜60°であった。
【0040】
さらに硫黄変性PANを、室温から900℃まで20℃/分の昇温速度で加熱した際の熱重量分析による質量減は400℃時点で10%以下である。これに対して、硫黄粉末とPAN粉末の混合物を同様の条件で加熱すると120℃付近から質量減少が認められ、200℃以上になると急激に硫黄の消失に基づく大きな質量減が認められる。
【0041】
すなわち、硫黄変性PANにおいて、硫黄は単体としては存在せず、閉環の進行したPANと結合した状態で存在していると考えられる。
【0042】
硫黄変性PANのラマンスペクトルの一例を図2に示す。図2に示すラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトの1331cm−1付近に主ピークが存在し、かつ、200cm−1〜1800cm−1の範囲で1548cm−1、939cm−1、479cm−1、381cm−1、317cm−1付近にピークが存在する。上記したラマンシフトのピークは、PANに対する単体硫黄の比率を変更した場合にも同様の位置に観測される。このためこれらのピークは硫黄変性PANを特徴づけるものである。上記した各ピークは、上記したピーク位置を中心としては、ほぼ±8cm−1の範囲内に存在する。なお、本明細書において、「主ピーク」とは、ラマンスペクトルで現れた全てのピークのなかでピーク高さが最大となるピークを指す。
【0043】
参考までに、上記したラマンシフトは、日本分光社製 RMP−320(励起波長λ=532nm、グレーチング:1800gr/mm、分解能:3cm−1)で測定したものである。なお、ラマンスペクトルのピークは、入射光の波長や分解能の違いなどにより、数が変化したり、ピークトップの位置がずれたりすることがある。したがって正極活物質として硫黄変性PANを用いた正極のラマンスペクトルを測定すると、上記のピークと同じピーク、または、上記のピークとは数やピークトップの位置が僅かに異なるピークが確認される。
【0044】
〔ピッチ〕
本明細書において、ピッチ系類とは、種々のタール、石油および石炭類を蒸留することにより得られる固形物または半固形物、更にはこれらの材料と同様の構造および/または組成をもつ合成材料全般を指す。ピッチ類としては、具体的には、石炭ピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ(異方性ピッチ)、アスファルト、コールタール、コールタールピッチ、縮合多環芳香族炭化水素化合物の重縮合で得られる有機合成ピッチ、またはヘテロ原子含有縮合多環芳香族炭化水素化合物の重縮合で得られる有機合成ピッチ等が挙げられる。これらは縮合多環芳香族を含む炭素材料として知られている。
【0045】
ピッチ類の一種であるコールタールは、石炭を高温乾留(石炭乾留)して得られる黒い粘稠な油状液体である。コールタールを精製・熱処理(重合)することで、石炭ピッチを得ることができる。アスファルトは、黒褐色ないし黒色の固体あるいは半固体の可塑性物質である。アスファルトは、石油(原油)を減圧蒸留したときに釜残として得られるものと、天然に存在するものとに大別される。アスファルトはトルエン、二硫化炭素等に可溶である。アスファルトを精製・熱処理(重合)することで、石油ピッチを得ることができる。ピッチは、通常、無定形であり光学的に等方性である(等方性ピッチ)。等方性ピッチを不活性雰囲気中で熱処理することで、光学的に異方性のピッチ(異方性ピッチ、メソフェーズピッチ)を得ることができる。ピッチは、ベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶剤に部分的に可溶である。
【0046】
ピッチ類は様々な化合物の混合物であり、上述したように縮合多環芳香族を含む。ピッチ類に含まれる縮合多環芳香族は、単一種であっても良いし、複数種であっても良い。例えば、ピッチ類の一種である石炭ピッチの主成分は、縮合多環芳香族である。この縮合多環芳香族は、環の中に、炭素と水素以外にも、窒素や硫黄を含み得る。このため、石炭ピッチの主成分は、炭素と水素のみから成る縮合多環芳香族炭化水素と縮合環に窒素や硫黄等を含む複素芳香族化合物との混合物と考えられる。
【0047】
炭素源化合物としてピッチ類を用いる場合にも、炭素源化合物としてPANを用いる場合と同様に、硫黄が本来有する高容量を維持できかつ硫黄の電解液への溶出が抑制されるため、サイクル特性が大きく向上する。これは、硫黄系正極活物質中で硫黄が単体として存在するのでなく、硫黄がピッチ類のグラフェン層間に取り込まれているか、或いは、縮合多環芳香族の環に含まれる水素が硫黄に置換されてC−S結合となっているためだと推測される。
【0048】
炭素源化合物としてピッチ類を用いる場合、加熱温度は、200℃以上600℃以下であるのが好ましく、300℃以上500℃以下であるのがより好ましく、350℃以上500℃以下であるのがさらに好ましい。炭素源化合物としてピッチ類を用いる場合には、熱処理工程においてピッチ類の少なくとも一部と硫黄の少なくとも一部とが液体となる。換言すると、熱処理工程において、ピッチ類の少なくとも一部と硫黄の少なくとも一部とは、液状で接触する。このため、熱処理工程におけるピッチ類と硫黄との接触面積は大きく、ピッチ類と硫黄とが充分に結合し、かつ硫黄系正極活物質からの硫黄の脱離が抑制される。
【0049】
ピッチ類の粒径は特に限定しない。また、炭素源化合物としてピッチ類を用いる場合、硫黄の粒径もまた特に限定しない。ピッチ類と硫黄との混合割合についてもまた特に限定しないが、混合原料中のピッチ類と硫黄との配合比は、質量比で1:0.5〜1:10であるのが好ましく、1:1〜1:7であるのがより好ましく、1:2〜1:5であるのが特に好ましい。
【0050】
硫黄変性ピッチは、複数種の多環芳香族炭化水素を含む。ここでいう多環芳香族炭化水素(PAH)とは、上述した各種ピッチ類自体、および、上述した各種ピッチ類に含まれる各種多環芳香族炭化水素、からなる群から選ばれる少なくとも一種の炭素材料を指す。
【0051】
また、硫黄変性ピッチ(石炭ピッチ:硫黄=1:1、1:5、1:10)、単体石炭ピッチおよび単体硫黄をCuKα線によりX線回折した。回折条件は上記の硫黄変性PANと同じである。
【0052】
図3に示すように、回折角(2θ)10〜60°の範囲では、単体硫黄の主ピークは22°付近に存在し、単体石炭ピッチの主ピークは26°付近に存在した。石炭ピッチと硫黄との配合比が1:1である硫黄変性ピッチのピークは単一ピークであり、26°付近に存在した。石炭ピッチと硫黄との配合比が1:5である硫黄変性ピッチ、および石炭ピッチと硫黄との配合比が1:10である硫黄変性ピッチの主ピークは、22°付近に存在した。
【0053】
硫黄変性ピッチは熱安定性に優れる。硫黄変性ピッチを、室温から550℃まで10℃/分の昇温速度で加熱した際の熱重量分析による質量減少は550℃時点で25%程度である。参考までに、石炭ピッチの質量減少は550℃時点で約30%程度である。単体硫黄の場合、170℃付近から徐々に質量減少し、200℃を超すと急激に減少する。石炭ピッチもまた質量減少し難く、250℃〜450℃付近では石炭ピッチの方が硫黄変性ピッチより質量減少し難い傾向がある。450℃以上では石炭ピッチよりも硫黄変性ピッチの方が質量減少し難い傾向がある。
【0054】
硫黄変性ピッチのラマンスペクトルの一例を図4に示す。参考までに、このラマンスペクトルは、上述した硫黄変性PANのラマンスペクトルと同じ条件で測定したものである。
【0055】
図4に示すラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトの1557cm−1付近に主ピークが存在し、かつ、200cm−1〜1800cm−1の範囲内で1371cm−1、1049cm−1、994cm−1、842cm−1、612cm−1、412cm−1、354cm−1、314cm−1付近にそれぞれピークが存在する。これらのピークは、ピッチ類に対する単体硫黄の比率を変更した場合にも同様の位置に観測され、硫黄変性ピッチを特徴付けるピークである。正極活物質として硫黄変性ピッチを用いた本発明の正極のラマンスペクトルを測定すると、これらのピークと同じ、または、数やピークトップの位置が僅かに異なるピークが確認される。なお、硫黄変性ピッチのラマンスペクトルは、硫黄変性PANのラマンスペクトルとは異なる。
【0056】
硫黄変性ピッチを元素分析した結果、炭素、窒素、および硫黄が検出された。また、場合によっては、少量の酸素および水素が検出された。したがって、硫黄変性ピッチは、C、S以外に、窒素、酸素、硫黄化合物等の少なくとも一種を不純物として含有する。正極活物質として上述した硫黄変性PANおよび/または硫黄変性ピッチを含む場合、正極のラマンスペクトルには、上述した硫黄変性PANに由来するピークや硫黄変性ピッチに由来するピークが他のピークとともに認められる。
【0057】
〔PAH〕
炭素源化合物として、上述したピッチ類以外の多環芳香族炭化水素(Polycyclic aromatic hydrocarbon、PAH)を用いても良い。
【0058】
硫黄変性PAHは、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素(PAH)の少なくとも一種に由来する炭素骨格を持つ。PAHは、ヘテロ原子や置換基を含まない芳香環が縮合した炭化水素の総称であり、四員環、五員環、六員環、そして七員環からなるものがあるが、このうち、ピッチ類以外のPAHからなる炭素源化合物としては、ベンゼン環の構造である六員環が直鎖に3環以上連なった構造をもつアセン類、及び、3環以上の六員環が直鎖でなく折れ曲がった構造をもつ化合物などのうち少なくとも一種と硫黄とを用いることが好ましい。
【0059】
複数の芳香環が辺を共有しながら直鎖状に連なった多環芳香族炭化水素であるアセン類としては、2環のナフタレン、3環のアントラセン、4環のテトラセン、5環のペンタセン、6環のヘキサセン、7環のヘプタセン、8環のオクタセン、9環のノナセン、及び10環以上の芳香環が連なったものがあり、これらの群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。中でも安定性が高い3環〜6環のものが望ましい。
【0060】
また、3環以上の六員環が直鎖でなく折れ曲がった構造をもつ多環芳香族炭化水素としては、フェナントレン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、ピセン、ペリレン、トリフェニレン、コロネン、及びこれらより多くの環以上の芳香環が連なったものがあり、これらの群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。硫黄変性PAHは、硫黄変性ピッチと同様の方法で製造できる。
【0061】
熱処理工程では、PAHと硫黄とを反応させる。この反応は、PAHの量に対して硫黄の量を過大として反応させ、硫黄を高濃度で含む正極活物質とすることが望ましい。この熱処理工程の温度は、PAHの少なくとも一部と硫黄の少なくとも一部とが液体となる条件で行うことが望ましい。このようにすることで、PAHと硫黄との接触面積を充分に大きくでき、硫黄を充分に含みかつ硫黄の脱離が抑制された硫黄変性PAHを得ることができる。
【0062】
混合原料中のPAHと硫黄との配合比にも好ましい範囲が存在する。PAHに対する硫黄の配合量が過小であるとPAHに充分量の硫黄を取り込めず、PAHに対する硫黄の配合量が過大であると、硫黄変性PAH中に遊離の硫黄(単体硫黄)が多く残存して、非水電解質二次電池内の特に電解液を汚染するためである。混合原料中のPAHと硫黄との配合比は、質量比で、PAH:硫黄が1:0.5〜1:10であるのが好ましく、1:1〜1:7であるのがより好ましく、1:2〜1:5であるのが特に好ましい。
【0063】
なお、PAHに対する硫黄の配合量を過大とすれば、熱処理工程においてPAHに充分な量の硫黄を容易に取り込むことができる。そしてPAHに対して硫黄を必要以上の量で配合したとしても、熱処理工程後の被処理体から過剰の単体硫黄を除去する単体硫黄除去工程を行うことで、上述した単体硫黄による悪影響を抑制できる。詳しくは、混合原料中のPAHと硫黄との配合比を、質量比で1:2〜1:10とする場合、熱処理工程後の被処理体を、減圧しつつ200℃〜250℃で加熱する(単体硫黄除去工程)ことで、PAHに充分な量の硫黄を取り込みつつ、残存する単体硫黄による悪影響を抑制できる。熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施さない場合には、この被処理体をそのまま硫黄変性PAHとして用いれば良い。また、熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施す場合には、単体硫黄除去工程後の被処理体を硫黄変性PAHとして用いれば良い。
【0064】
硫黄変性PAHは、例えば、出発物質であるPAHとしてペンタセンを選択した場合には、ヘキサチアペンタセン類似の構造となっていると考えられるが、その構造は明らかではない。また、PAHとしてアントラセンを用いた硫黄正極活物質は、FT−IRスペクトルにおいて、1056cm−1付近と、840cm−1付近と、にそれぞれピークが存在し、アントラセンのFT−IRスペクトルとは全く異なっているので、FT−IRスペクトルで同定することが可能である。
【0065】
硫黄変性PAHを元素分析すると、硫黄(S)と炭素(C)とが大部分を占め、少量の酸素及び水素が検出される。硫黄(S)と炭素(C)の組成比は、原子比(S/C)で1/5以上の範囲で含まれていることが望ましい。この範囲より硫黄が少ないと、非水電解質二次電池用正極に用いた時に充放電特性が低下する場合がある。
【0066】
硫黄変性PAHは、第2の硫黄系正極活物質(硫黄変性PAN)をさらに含むことが望ましい。これは、上述した硫黄変性ピッチに関しても同様である。混合原料中にさらにPAN粉末を含む場合の熱処理工程は、前述した硫黄変性PANの製造方法と同様に行うことができる。第2の硫黄系正極活物質の混合量は特に限定的ではないが、コストの観点からは、正極活物質全体に0〜80質量%程度とすることが好ましく、5〜60質量%程度とすることがより好ましく、10〜40質量%程度とすることが更に好ましい。
【0067】
非水電解質二次電池のサイクル特性や容量を考慮すると、炭素源化合物としてPANを用いるのがより好ましい。また、コストを考慮するとピッチ類を用いるのがより好ましい。さらに、炭素源化合物として上記の複数種を併用しても良い。
【0068】
〔その他の硫黄系正極活物質〕
本発明の非水電解質二次電池における正極に用いられるその他の硫黄系正極活物質としては、硫黄変性ゴム、コーヒー豆や海草等の植物原料と硫黄を熱処理したもの、又はこれらの複合体等を挙げることができる。
【0069】
(負極)
負極もまた、全体としてシート状をなせば良く、正極と同様に構成できる。負極活物質は、正極活物質等の他の電池要素に応じて適宜選択すれば良い。例えば、正極活物質として上述した硫黄系正極活物質を用いるリチウムイオン二次電池またはナトリウムイオン二次電池の場合には、負極活物質として、ケイ素(Si)、スズ(Sn)および炭素(C)からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含むものを用いるのが好ましい。具体的には、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)、ソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)、Si、SiO、Sn、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)等を好ましく使用でき、より好ましくはSi、SiO、Sn、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)等が使用できる。これらの負極活物質は、容量が大きく、硫黄系正極活物質と組み合わせる負極活物質として優れている。
【0070】
なお、これらの負極活物質を硫黄系正極活物質と組み合わせて用いる場合には、Li、Na等の、イオン化して正極と負極との間を移動することで充放電に関与する物質(所謂電荷担体)が、正極および負極の何れにも含まれない。このため、電気化学的方法により負極に電荷担体をプリドープするか、または、予め負極の表面および/または内部に電荷担体(例えば金属Li等)を一体化しておくのが良い。負極に一体化またはプリドープする電荷担体の量は、正極活物質、負極活物質、電解液等の種類やその組み合わせ、電圧等の電池の使用条件に応じて種々に異なる。このため、製造する電池の構成に応じて適宜実測または計算すれば良い。
【0071】
硫黄系正極活物質と組み合わせる負極活物質としては、容量が大きく、かつ、非水電解質二次電池に優れたサイクル特性を付与できるSiO(xは0.4≦x≦1.6程度)を用いるのが特に好ましい。なお、xが下限値未満であると、Si比率が高くなるため充放電時の体積変化が大きくなりすぎてサイクル特性が低下する。またxが上限値を超えると、Si比率が低下してLiに対して不活性となる。このため、上記のxは0.5≦x≦1.5の範囲であることが好ましく、0.7≦x≦1.2の範囲であることがさらに望ましい。
【0072】
SiOは粒子状であるのが好ましく、その粒径は特に問わない。また、SiOは一次粒子であっても良いし二次粒子であっても良い。さらに、SiOは平均粒径1μm〜10μmの範囲にあることが望ましい。平均粒径が10μmより大きいと、非水電解質二次電池の充放電特性が低下する場合がある。また、平均粒径が1μmより小さいと、電極製造の際に凝集して粗大な粒子となる場合があるため、同様に非水電解質二次電池の充放電特性が低下する場合がある。なお、ここでいう平均粒径とは、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均粒子径を指す。また、電荷担体がLiではなくNaの場合には、SiO以外の負極活物質を用いるのが好ましい。SiOはNaに不活性だからである。SiO以外の負極活物質としては、具体的には、ハードカーボン、ソフトカーボン、および、Sn系の負極活物質(SnO、SnO等)が例示される。
【0073】
負極活物質層は、これらの負極活物質を用い、正極活物質層と同様に既知の方法で成形できる。例えば、負極活物質、緩衝剤(黒鉛等)、導電助剤、バインダ、および溶媒を混合した負極合剤を、第2の導電性基体に塗付することによって負極活物質層を作製できる。或いは、炭素繊維シート、負極活物質とバインダ樹脂とを含む樹脂含有負極活物質シート、リチウム箔、および、ナトリウム箔等、負極活物質かつ第2の導電性基体として機能するものを用いても良い。リチウム箔およびナトリウム箔としては、圧延処理や押し出し成形により50〜700μm程度の厚みに調厚したものや、銅箔などの基材の表面に蒸着させたもの(所謂金属薄膜)を好ましく用いることができる。
【0074】
第2の導電性基体は、第1の導電性基体と同じものであっても良いし、異なっていても良い。
【0075】
(集電体)
集電体は、積層電池用の集電体として一般に使用されている導電性材料からなるものを用いれば良い。例えば、正極活物質として硫黄変性PANを用いる場合には、正極電圧の上限が3V(対Li/Li電位)以下であるため、正極側に銅製の集電体を用いることができる。また、負極活物質としてLiTi12を用いる場合には、負極電圧が0.7V(対Li/Li電位)以上になるため、アルミニウム製の集電体を負極側に用いることができる。また、積層電池がナトリウム二次電池またはナトリウムイオン二次電池である場合には、ナトリウムとアルミニウムが合金化の反応を起こさないため、アルミニウム製の集電体を負極側に用いることができる。集電体は、一種の導電性材料のみからなる単層構造にすることもできるし、2種以上の導電性材料を用いた多層構造にすることもできる。これらの導電性材料は、箔状、メッシュ状、パンチングシート状、エキスパンドシート状等のシート状に成形するのが好ましい。
【0076】
特にステンレススチール(SUS)は、使用できる電位窓が広いために、種々の正極および負極に対応できる。特に積層電池がバイポーラ積層電池である場合には、集電体としてSUS製の集電体を用いれば、集電体の一方の面に正極活物質層を積層し、他方の面に負極活物質層を積層できる。つまり、一つの集電体を正極用および負極用に兼用できる。このため、集電体の使用量を半分にすることができ、積層電池を更に軽量化できる。また、SUSは抗張力が高い(1000N/mm以上)ため、SUS製の集電体は薄肉にできる利点もある。さらに、SUSは電気抵抗が比較的高い問題があるが、積層電池がバイポーラ積層電池であれば、単電池要素が直列に接続されるために集電体は面で集電する。このため、SUSの電気抵抗による影響を低減できる。さらに、SUSは高温に曝されても強度低下し難い。例えば、集電体に活物質層を接着する場合、接着材としてアセチレンブラック(AB)などの導電性フィラーを添加して導電性を付与したポリイミド(PI)樹脂を用いることが考えられる。PI前駆体をイミド化してPIにするには200〜300℃で加熱硬化処理する必要があるが、このような温度においてもSUSの強度は低下しないため、集電体として好ましく使用できる。なお、SUSとしては、一般に流通している安価なもの(例えば、CrおよびNiを含むSUS304、Cr、NiおよびMoを含むSUS316等)を用いることができる。他の導電性接着材としては、ポリアミドイミド(PAI)樹脂や、硬化させるとPIになるポリイミド前駆体等の材料に、AB等の導電性フィラーを分散させたものを用いることができる。
【0077】
このようにして得た集電体の少なくとも一方の面には、活物質層が載置される。上述したように、本発明でいう載置とは、活物質層を単に集電体の上または下に置くだけでなく、接着等の方法で集電体に固着することも含む概念である。しかし何れの場合にも、活物質層はシート状であるため、集電体に容易に積層できる。
【0078】
なお、本発明の積層電池における複数の単電池要素は、活物質層が集電体に単に載置されただけで固着されていない場合にも、従来の電池と同様に電池ケースに収容すれば、電池ケースの内部で互いに密着する。つまり、コインセル、角型セルおよびラミネートセルを含む一般的な電池において、単電池要素は加圧された状態で電池ケースの内部に収容されている。このため、集電体と活物質層とが互いに固着されていない場合にも、本発明の積層電池における各単電池要素は充分に機能する。また、負極活物質として、Li等の電荷担体を吸蔵した時に大きく膨張する合金系負極活物質を用いる場合には、負極への初回電荷担体吸蔵時(初回充電時)に負極活物質層が大きく膨張する。このため、電池ケースの内部圧力が高まり、集電体と活物質層との密着性が増す。このため、各単電池要素はより信頼性高く電気的に接続する。このような合金系負極活物質としては、Si、SiO(ここでx=0.4〜1.6を示す。)、Sn、SnO、SnO、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)等を挙げることができる。換言すると、このような合金系負極活物質は、集電体と活物質層とを固着しない場合に特に好ましく用いることができる。
【0079】
特に、初期不可逆容量の大きな活物質(例えばリチウムイオン二次電池におけるSiO負極活物質)を用いる場合には、初回充電時または初回放電時に活物質層が大きく膨張し、その後の放電時または充電時にも活物質層の厚さは完全には元に戻らない。このため、電池ケース内の圧力を高い状態で維持できる利点がある。
【0080】
(電解液)
積層電池が非水電解質二次電池である場合、電解液としては、有機溶媒に電解質を溶解させたものを用いる。有機溶媒としては、ジメトキシエタン(DME)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルエーテル、ガンマ−ブチロラクトン、アセトニトリル等の非水系溶媒から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましい。
【0081】
電解質としては、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiI、LiClO等のアルカリ金属塩を用いることができる。電解液における電解質の濃度は、0.5mol/l〜1.7mol/l程度であれば良い。なお、本明細書においては便宜的に電解液と呼んでいるが、電解液は液状に限定されない。つまり、積層電池がリチウムポリマー二次電池等のポリマー二次電池である場合等、電解液が固体状(例えば高分子ゲル状)をなす場合もある。また、電荷担体がLiではなくNaである場合には、NaPF、NaBF、NaAsF、NaCFSO、NaI、NaClO等のナトリウム塩を電解質に用いることができる。
【0082】
(その他)
本発明の積層電池は、上述した負極、正極、電解液以外にも、セパレータ等の部材を備えても良い。セパレータは、正極と負極との間に介在し、正極と負極との間のイオンの移動を許容するとともに、正極と負極との内部短絡を防止する。積層電池が密閉型であれば、セパレータには電解液を保持する機能も求められる。セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、PAN、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、ガラス等から選ばれる少なくとも一種を材料とする薄肉かつ微多孔性または不織布状の膜を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の積層電池およびその製造方法について具体的に説明する。
【0084】
(実施例1)
〔1〕混合原料
硫黄粉末として、篩いを用いて分級した際に粒径50μm以下となるものを準備した。PAN粉末として、電子顕微鏡で確認した場合に粒径が0.2μm〜2μmの範囲にあるものを準備した。硫黄粉末0.4gとPAN粉末0.1gとを乳鉢で混合・粉砕して、混合原料を得た。
【0085】
〔2〕装置
図5に示すように、反応装置1は、反応容器2、蓋3、熱電対4、アルミナ保護管40、2つのアルミナ管(ガス導入管5、ガス排出管6)、不活性ガス配管50、不活性ガスを収容したガスタンク51、トラップ配管60、水酸化ナトリウム水溶液61を収容したトラップ槽62、電気炉7、電気炉に接続されている温度コントローラ70を持つ。
【0086】
反応容器2としては、有底筒状をなすガラス管(石英ガラス製)を用いた。後述する熱処理工程において、反応容器2には混合原料9を収容した。反応容器2の開口部は、3つの貫通孔を持つガラス製の蓋3で閉じた。貫通孔の1つには、熱電対4を収容したアルミナ保護管40(アルミナSSA−S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。貫通孔の他の1つには、ガス導入管5(アルミナSSA−S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。貫通孔の残りの1つには、ガス排出管6(アルミナSSA−S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。なお、反応容器2は、外径60mm、内径50mm、長さ300mmであった。アルミナ保護管40は、外径4mm、内径2mm、長さ250mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6は、外径6mm、内径4mm、長さ150mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6の先端は、蓋3の外部(反応容器2内)に露出した。この露出した部分の長さは3mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6の先端は、後述する熱処理工程においてほぼ100℃以下となる。このため、熱処理工程において生じる硫黄蒸気は、ガス導入管5およびガス排出管6から流出せず、反応容器2に戻される(還流する)。
【0087】
アルミナ保護管40に入れた熱電対4の先端は、間接的に反応容器2中の混合原料9の温度を測定した。熱電対4で測定した温度は、電気炉7の温度コントローラ70にフィードバックした。
【0088】
ガス導入管5には不活性ガス配管50を接続した。不活性ガス配管50は不活性ガスを収容したガスタンク51に接続した。ガス排出管6にはトラップ配管60の一端を接続した。トラップ配管60の他端は、トラップ槽62中の水酸化ナトリウム水溶液61に挿入した。なお、トラップ配管60およびトラップ槽62は、後述する熱処理工程で生じる硫化水素ガスのトラップである。
【0089】
〔3〕熱処理工程
混合原料9を収容した反応容器2を、電気炉7(ルツボ炉、開口幅φ80mm、加熱高さ100mm)に収容した。このとき、ガス導入管5を介して反応容器2の内部にアルゴンを導入した。このときの不活性ガスの流速は100ml/分であった。不活性ガスの導入開始10分後に、不活性ガスの導入を継続しつつ反応容器2中の混合原料9の加熱を開始した。このときの昇温速度は5℃/分であった。混合原料9が約200℃になるとガスが発生した。混合原料9が300℃になった時点で加熱を停止した。その後3時間、混合原料9の温度を300℃で維持した。したがって、この熱処理工程において、混合原料9は300℃にまで加熱された。その後、混合原料9を自然冷却し、混合原料9が室温(約25℃)にまで冷却された時点で反応容器2から生成物(すなわち、熱処理工程後の被処理体)を取り出した。
【0090】
〔4〕単体硫黄除去工程
熱処理工程後の被処理体に残存する単体硫黄(遊離の硫黄)を除去するために、以下の工程をおこなった。
【0091】
熱処理工程後の被処理体を乳鉢で粉砕した。粉砕物0.15gをガラスチューブオーブンに入れ、真空吸引しつつ250℃で3時間加熱した。このときの昇温温度は10℃/分であった。この工程により、熱処理工程後の被処理体に残存する単体硫黄が蒸発・除去され、単体硫黄を含まない(または、ほぼ含まない)硫黄系正極活物質を得た。
【0092】
<積層電池の作製>
〔1〕正極活物質層
硫黄変性PAN、KBおよびPIを、硫黄変性PAN:KB:PI=60:20:20(質量比)となるよう秤量した。これらの材料に分散剤としてN−メチル−2−ピロリドン(キシダ化学製バッテリーグレード)を使用して粘度調整を行いながら自転公転ミキサー(シンキー製ARE−250)を用いて攪拌および混合を行い、均一なスラリーを作製した。
【0093】
得られたスラリーを厚さ120μmのカーボン不織布(東レ株式会社製カーボンペーパーTGP−H−030)の表面にアプリケーターを使用して塗工し、200℃で5時間乾燥して正極活物質層を得た。このカーボン不織布は、本発明の積層電池における第1の導電性基体である。この正極活物質層に含まれる硫黄変性PANの量は13.056mgであった。硫黄変性PAN1mg当たりの容量を0.6mAhとすると、この正極活物質層の容量は7.8336mAhであった。なお、この正極活物質層は、20mm×20mmの矩形に切り出して使用する。このため、正極の容量は1.958mAh/cmである。
【0094】
〔2〕負極活物質層
SiOとして、0.9≦x≦1.1、平均粒径5μmの粉末状のものを用いた。
【0095】
上記したSiO、KB、PIを、SiO:KB:PI=80:5:15(質量比)となるよう秤量した。これらの材料に分散剤としてN−メチル−2−ピロリドン(キシダ化学製バッテリーグレード)を加えて粘度調整を行いながら、自転公転ミキサー(シンキー製ARE−250)を用いて、攪拌および混合を行い、均一なスラリーを作製した。
【0096】
得られたスラリーを厚さ120μmのカーボン不織布(東レ株式会社製カーボンペーパーTGP−H−030)の表面にアプリケーターを使用して塗工し、200℃で5時間乾燥して負極活物質層を得た。このカーボン不織布は、本発明の積層電池における第2の導電性基体である。なお、この負極活物質層に含まれるSiOの量は7.508mgであった。SiO1mg当たりの容量を1.500mAhとすると、この負極活物質層の容量は11.262mAhであった。なお、この負極活物質層もまた20mm×20mmの矩形に切り出して使用する。このため、負極の容量は2.816mAh/cmである。
【0097】
<積層電池の作製>
実施例1の積層電池はバイポーラ積層電池である。正極活物質層および負極活物質層としては上記の手順で成形したものを用い、ラミネートセルを作製した。以下、実施例1
のバイポーラ積層電池の構成を、図6を用いて説明する。
【0098】
図6に示すように、実施例1のバイポーラ積層電池は3つの単電池要素100(第1単電池要素100a、第2単電池要素100b、第3単電池要素100c)を含む。各単電池要素100は、正極102、セパレータ103および負極104で構成されている。セパレータ103は、ポリプロピレン微多孔質膜の矩形状シート(Celgard2400、22mm×22mm、厚さ25μm)製である。正極102は、集電体105と、集電体105の表面に積層されている正極活物質層120とからなる。
集電体105は、ステンレススチール製である。負極104は、集電体105と、集電体105の表面に積層されている負極活物質層140とからなる。
【0099】
より具体的には、実施例1のバイポーラ積層電池は、3つの正極活物質層120(第1正極活物質層120a、第2正極活物質層120b、第3正極活物質層120c)と、3つの負極活物質層140(第1負極活物質層140a、第2負極活物質層140b、第3負極活物質層140c)と、4つの集電体105(第1集電体105a、第2集電体105b、第3集電体105c、第4集電体105d)と、3つのセパレータ103(第1セパレータ103a、第2セパレータ103b、第3セパレータ103c)とを含む。これらは、図6中下から上に向けて、第1集電体105a、第1正極活物質層120a、第1セパレータ103a、第1負極活物質層140a、第2集電体105b、第2正極活物質層120b、第2セパレータ103b、第2負極活物質層140b、第3集電体105c、第3正極活物質層120c、第3セパレータ103c、第3負極活物質層140c、第4集電体105dの順に載置され積層されている。実施例1のバイポーラ積層電池においては、各層は単に重ねただけで固着していない。
【0100】
第1単電池要素100aは、第1集電体105a、第1正極活物質層120a、第1セパレータ103a、第1負極活物質層140aおよび第2集電体105bで構成されている。第2単電池要素2bは、第2集電体105b、第2正極活物質層120b、第2セパレータ103b、第2負極活物質層140bおよび第3集電体105cで構成されている。第3単電池要素3cは、第3集電体105c、第3正極活物質層120c、第3セパレータ103c、第3負極活物質層140cおよび第4集電体105dで構成されている。第1単電池要素100a、第2単電池要素100bおよび第3単電池要素100cは、直列に接続されている。第1集電体105aおよび第4集電体105dの一端は、ラミネートセルの外部に延出し、図略の集電リードに溶接されている。
【0101】
なお、隣り合う集電体105の間には絶縁層106を挟み込んだ。絶縁層106は、シリコーン樹脂製であり、略額縁状をなす。絶縁層106は正極活物質層120、セパレータ103および負極活物質層140の外周を周方向に覆っている。絶縁層106もまた、集電体105と別体で成形され、集電体上に載置されている。
【0102】
また、各負極活物質層140の表面には、Li源として、厚さ50μmのLi箔(金属Li)を載置した。このLi源の量は、負極の全容量、正極の初期不可逆容量および負極のカーボン不織布の充放電容量を補い得る量である。
【0103】
2枚一組のアルミニウムラミネートフィルム(宝泉社製)の一方の上に、各単電池要素100を上記した順に積層した。このとき、集電体105上に絶縁層106を載置し、その内部に正極活物質層120、セパレータ103および負極活物質層140を載置した状態で、絶縁層106の内部に非水電解液を注入した。そして、絶縁層106の上層にさらに集電体105を載置することで各単電池要素100をシールした。
【0104】
3つの単電池要素100を積層した後に、ラミネートフィルムの他方をかぶせ、2つのラミネートフィルムの4辺をシールした。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:DMC=3:7(体積比)で混合した混合溶媒に、LiPFを1モルの濃度で溶解したものを用いた。以上の工程で、ラミネートセル107内に3つの単電池要素が積層された実施例1のバイポーラ積層電池を得た。
【0105】
なお、実施例1のバイポーラ積層電池における各単電池要素100は、集電体105および絶縁層106によって液密に区画されている。このため、実施例1のバイポーラ積層電池では、集電体105および絶縁層106によって単電池要素100間での液絡が抑止されている。
【0106】
(実施例2)
実施例2の積層電池は、モノポーラ積層電池である。実施例2の積層電池は、正極活物質層、負極活物質層、集電体およびセパレータを積層した順序と、各単電池要素を並列に接続したこと、および、絶縁層を持たないこと以外は実施例1のバイポーラ積層電池と同じものである。
【0107】
<積層電池の作製>
実施例2のモノポーラ積層電池の構成を、図7を用いて説明する。
【0108】
図7に示すように、実施例2のモノポーラ積層電池は3つの単電池要素100(第1単電池要素100a、第2単電池要素100b、第3単電池要素100c)を含む。各単電池要素100は、正極102、セパレータ103および負極104で構成されている。正極102は、集電体105と、集電体105の表面に積層されている正極活物質層120とからなり、負極104は、集電体105と、集電体105の表面に積層されている負極活物質層140とからなる。
【0109】
実施例2のモノポーラ積層電池において、3つの正極活物質層120、3つの負極活物質層140、4つの集電体105および3つのセパレータ103は、図7中下から上に向けて、第1集電体105a、第1正極活物質層120a、第1セパレータ103a、第1負極活物質層140a、第2集電体105b、第2負極活物質層140b、第2セパレータ103b、第2正極活物質層120b、第3集電体105c、第3正極活物質層120c、第3セパレータ103c、第3負極活物質層140c、第4集電体105dの順に載置され積層されている。実施例2のモノポーラ積層電池においても、各層は単に重ねただけで固着していない。
【0110】
第1単電池要素100aは、第1集電体105a、第1正極活物質層120a、第1セパレータ103a、第1負極活物質層140aおよび第2集電体105bで構成されている。第2単電池要素2bは、第2集電体105b、第2負極活物質層140b、第2セパレータ103b、第2正極活物質層120bおよび第3集電体105cで構成されている。第3単電池要素3cは、第3集電体105c、第3正極活物質層120c、第3セパレータ103c、第3負極活物質層140cおよび第4集電体105dで構成されている。第1単電池要素100a、第2単電池要素100bおよび第3単電池要素100cは、並列に接続されている。
【0111】
<充放電試験>
上記の手順で作製した実施例1の積層電池について、室温(25℃)にて充放電試験を行った。充放電試験は以下のように行った。先ず0.1Cで3Vまで放電を行い、次いで、0.1Cで9.0Vまで充電を行った。これを1サイクルとして5サイクルの途中まで繰り返した。充放電試験の結果を図8に示す。
【0112】
実施例1の積層電池は、3Vの単電池要素3つを直列に接続してなるものである。図8に示すように、実施例1の積層電池は3〜9Vで充放電可能であったため、バイポーラ積層電池として機能していることがわかる。また、図8に示すように、この硫黄変性PAN正極とSiO負極とを用いた単層のリチウムイオン二次電池は1〜3Vで充放電作動するものであるが、実施例1のようにバイポーラ積層電池にすることで3〜9Vという高電圧化が可能になる。
【0113】
また、図8に示すように、実施例1のバイポーラ積層電池の可逆容量は500mAh/g以上であり、充分に高容量であった。
【符号の説明】
【0114】
1:反応装置 2:反応容器 3:蓋 4:熱電対
5:ガス導入管 6:ガス排出管 7:電気炉
100:単電池要素 105:集電体 120:正極活物質層
103:セパレータ 140:負極活物質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と集電体とを含む正極と、負極活物質層と集電体とを含む負極と、を含む単電池要素が複数積層されてなる積層電池であって、
該正極活物質層および該負極活物質層は、各々シート状をなし、該集電体と別体で成形されていることを特徴とする積層電池。
【請求項2】
前記正極活物質層は、正極活物質と第1の導電性基体とが一体化されてなるシート状をなし、
前記負極活物質層は、負極活物質と第2の導電性基体とが一体化されてなるシート状をなす請求項1に記載の積層電池。
【請求項3】
前記正極活物質層は、正極活物質とバインダ樹脂とを含む樹脂含有正極活物質シート、および、シート状をなす炭素源化合物を硫黄とともに加熱して得られる硫黄系正極活物質シートから選ばれる少なくとも一種からなる請求項1に記載の積層電池。
【請求項4】
前記負極活物質層は、炭素繊維シート、負極活物質とバインダ樹脂とを含む樹脂含有負極活物質シート、リチウム箔、および、ナトリウム箔から選ばれる少なくとも一種からなる請求項1または請求項3に記載の積層電池。
【請求項5】
前記第1の導電性基体および前記第2の導電性基体は多孔材である請求項2に記載の積層電池。
【請求項6】
前記積層電池はバイポーラ積層電池であり、
少なくとも一つの前記集電体の一方の面に前記正極活物質層が積層され、該集電体の他方の面に前記負極活物質層が積層されている請求項1〜請求項5の何れか一つに記載の積層電池。
【請求項7】
前記集電体はステンレススチール製である請求項1〜請求項6の何れか一つに記載の積層電池。
【請求項8】
正極活物質層と集電体とを含む正極と、負極活物質層と集電体とを含む負極と、を含む単電池要素が複数積層されてなる積層電池を製造する方法であって、
該正極活物質層および該負極活物質層として、各々シート状をなすものを用い、
該集電体と別体で成形した該正極活物質層および該負極活物質層を、それぞれ、該集電体に載置する工程を含むことを特徴とする積層電池の製造方法。
【請求項9】
前記正極活物質層として、正極活物質と第1の導電性基体とが一体化されてなるシート状をなすものを用い、
前記負極活物質層として、負極活物質と第2の導電性基体とが一体化されてなるシート状をなすものを用いる請求項8に記載の積層電池の製造方法。
【請求項10】
前記正極活物質層として、正極活物質とバインダ樹脂とを含む樹脂含有正極活物質シート、および、シート状をなす炭素源化合物を硫黄とともに加熱して得られる硫黄系正極活物質シートから選ばれる少なくとも一種を用いる請求項8に記載の積層電池の製造方法。
【請求項11】
前記負極活物質層として、炭素繊維シート、正極活物質とバインダ樹脂とを含む樹脂含有負極活物質シート、リチウム箔、および、ナトリウム箔から選ばれる少なくとも一種を用いる請求項8または請求項10に記載の積層電池の製造方法。
【請求項12】
前記第1の導電性基体および前記第2の導電性基体は多孔材である請求項9に記載の積層電池の製造方法。
【請求項13】
前記積層電池はバイポーラ積層電池であり、
少なくとも一つの前記集電体の一方の面に前記正極活物質層を載置し、該集電体の他方の面に前記負極活物質層を載置する請求項8〜請求項12の何れか一つに記載の積層電池の製造方法。
【請求項14】
前記集電体はステンレススチール製である請求項8〜請求項13の何れか一つに記載の積層電池の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項7の何れか一つに記載の積層電池を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−110081(P2013−110081A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256508(P2011−256508)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】