説明

積極的にトー調整するための装置

【課題】車体緩衝器の流体流れを調整ユニットの外部シリンダの調整のために利用することができる、積極的にトー調整するための装置を提供すること。
【解決手段】車体2と車軸の間に配置された2つの液圧式車体緩衝器7,8を備え、該液圧式車体緩衝器7,8が液圧管路17〜20を介してトー調整のための液圧式調整ユニット6に作用連結されて成る、車輪を積極的にトー調整するための装置において、液圧式車体緩衝器7、8を差動シリンダとして形成するとともに、該液圧式車体緩衝器7,8のシリンダの外側に絞りを配置し、液圧式車体緩衝器7,8のシリンダ内を案内される分離ピストン10,14の一方の側から絞りを介して液圧式調整ユニット6へ圧液を移送できるように構成し、液圧式調整ユニット6から液圧管路17〜20を介して分離ピストン10,14の他方の側へ圧液を移送できるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載した特徴を有する、原動機付き車両(以下単に「車両」という。)の車軸に配置した車輪を積極的にトー調整するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車輪のトー操向は、操向装置に連結されたトーコントロールアームによって、あるいは車軸システムの弾性運動学的なコントロールアーム角度調節装置によって、あるいはこの両装置の組み合わせによって実現される。
【0003】
さらに、積極的にトー操向するための装置を特に車両の後車軸に備え付けることが知られている。このようなトー操向は、1980年代の終わりから使用されている。しかしながら、電子式システムがこの時点ではまだ存在しなかったため、以前のシステムは電子式ドライブダイナミックコントロール装置に接続されていなかった。
【0004】
新しい技術水準では、車両の積極的なトー操向を行うための装置が使用される。この装置では、トーコントロールアームが調整ユニットによって置き換えられ、このような調整ユニットは、同様に中央で連結部材を介して両側のトーコントロールアームに連結可能となっている。調整ユニットは、車両の走行状態に依存して、この車軸の車輪のトーを調整するものである。トーコントロールアームとしての調整ユニットの使用のほかに、車体又は後車軸補助フレームの中央に配置された、後車軸の積極的なトー制御のための液圧式調整ユニットを実現することが可能である。その際、後車軸の異なる2つの操舵戦略が存在する。すなわち、一方では、低速走行時、特に車両の駐車時に、前輪と反対方向に後輪を操舵し、他方では、高速走行時、特にレーンチェンジ又はコーナリングの時に、前輪と同じ方向に後輪を操舵する。
【0005】
コーナリング時に車両によって加えられる車体運動(バンキング、ローリング)を、トー調整又はキャンバ調整のための調整ユニットの調整運動に役立てるように、積極的にトー調整及び/又はキャンバ調整するための装置を形成することができる。そのために、車体と車軸の間に配置された車体緩衝器の少なくとも1個が、トー調整ユニット及び/又はキャンバ調整ユニットのための駆動装置を形成するように、調整ユニットに作用連結されている。それによって、この車軸に配置された車両の車輪の積極的な調整装置には、車体の運動からのみエネルギーが供給される。車体緩衝器はのバンキング又はローリングの際に圧液の流れを生じる。
【0006】
この場合、圧液の押しのけはトーコントロールアームを調整する調整ユニットを駆動する。積極的なトー制御及び/又はキャンバ制御の機能が必要でないとき、例えばCO2測定の際に基礎となる直進走行時には、調整ユニットは中立位置にある。この場合、調整ユニットはエネルギーを必要としない。1本の車軸上の2個の車体緩衝器が同じように圧縮されるときにも、調整ユニットは操作されない。この場合、テレスコープ式消振緩衝器としての車体緩衝器が車体振動及び車輪振動の振動エネルギーを熱に変換すると有利である。これが直進走行の際にもコーナリングの際にも可能であると合目的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の根底をなす課題は、直進走行の際にもコーナリングの際にも緩衝機能を維持することができ、しかも車体緩衝器の流体流れを、調整ユニットの外部シリンダの調整のために利用することができる、積極的にトー調整するための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、請求項1の特徴を有する装置によって解決される。また、従属請求項は、有利な発展形態に関するものである。
【0009】
積極的にトー調整するための本発明に係る装置は、車体と車軸の間に配置された2つの液圧式車体緩衝器を備え、この車体緩衝器は液圧管路を介してトー調整のための液圧式調整ユニットに作用連結され、したがって、コーナリングの際に車両によって加えられる車体運動(バンキング、ローリング)を、トー制御又はキャンバ制御のための調整ユニットの適切な調整運動に役立てることができる。それによって、この車軸に配置された車両の車輪の積極的な調整装置に、車体の運動だけからエネルギーを供給することができる。そのために、装置は、差動シリンダとして形成され、かつ車体緩衝器のシリンダの外側に配置された絞りを備えた車体緩衝器を備えている。
【0010】
圧液は分離ピストンの一方の側から又はシリンダの一方のチャンバから、この絞りを経て、分離ピストンの他方の側又はシリンダの他方のチャンバ内へ案内される。絞りはシリンダの外側に設けられ、それによって圧液は一方のチャンバから絞りを経て他方のチャンバに流れることができるだけでなく、一方のチャンバから絞りを経て調整ユニットに流れ、そして、そこから戻し液圧管路を経てシリンダの対応するチャンバに戻すことが可能である。これは、消振緩衝器としての車体緩衝器が、同じように圧縮される直進走行時だけでなく、コーナリング時、すなわち車体緩衝器が調整ユニットを駆動するときにも緩衝するという利点がある。
【0011】
絞りと調整ユニットに至る液圧管路との間に配置された方向制御弁を設けることができる。この方向制御弁は第1の切換位置と第2の切換位置を有し、第1の切換位置では分離ピストンの一方の側から絞りを経て分離ピストンの他方の側に圧液を直接供給可能であり、第2の切換位置では分離ピストンの一方の側から絞りを経て調整ユニットに圧液を供給可能である。すなわち、方向制御弁は、直進走行時の純粋な緩衝作用と、調整ユニットの駆動時の流量利用とを切り換える働きをする。
【0012】
緩衝位置においては、圧液は調整ユニットには案内されず、分離ピストンの一方の側から絞りを経て分離ピストンの他方の側へ直接流れる。操舵運動が実施され、それによって車両のバンキング又はローリングが予想されるときには、方向制御弁が操作され、それによって圧液が絞りによって減衰されて車体緩衝器から調整ユニットへ流れ、そこから再び車体緩衝器に戻される。
【0013】
絞りと方向制御弁はできるだけ差動シリンダの近くに設けられる。これは、一方ではコンパクトな構造を可能にし、他方では長い管路のマイナスの影響を回避することができる。したがって、シリンダから絞りまでの圧液の流路は、絞りから調整ユニットまでの流路よりも短い。同じことが方向制御弁についても当てはまる。したがって、方向制御弁は絞りの近くに配置される。そして、絞りと方向制御弁を、車体緩衝器のシリンダ上に直接配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】概略的に示した車両の車軸領域を後側から見た図である。
【図2】絞りと方向制御弁を備えた車体緩衝器の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
次の図面の説明において、上側、下側、左側、右側、前側、後側等の用語は、それぞれの図で選択された、装置及びその構成部品の例示的な図示及び位置に関係している。これらの用語は限られたケースで理解できない場合がある。すなわち、いろいろな作動位置においてあるいは鏡像対称的な設計等によって、これらの関係が変化し得る。
【0017】
図は、一実施形態であり、車両の車輪用トー調整ユニットに基づいて本発明を示している。
【0018】
図1には車両の車軸上に配置された車輪1を積極的にトー調整するための装置の実施形態が示されており、車輪1は車軸、特に後車軸上に配置され、この車軸は車体2、特に車軸支持体21に固定されている。
【0019】
車輪1は車輪支持体21に固定され、この車輪支持体21には1本のトーコントロールアーム4と少なくとも2本の車輪コントロールアーム3が配置されている。車軸については、これを剛体の軸として又は半剛体の軸として、特にトーションビーム軸としてあるいは半独立懸架軸として形成することができる。車輪1の車輪コントロールアーム3には、それぞれ車体緩衝器7,8が配置されている。この車体緩衝器7,8は、車両の車体運動、例えば車両のコーナリングの際の車両の車体運動を減衰するものである。
【0020】
また、両車輪1のトーコントロールアーム4は調整ユニット6に作用連結されており、この調整ユニット6により、適切な調整運動によって車輪1のトーが調整されるようになっている。さらに、この調整ユニット6は、車体緩衝器7,8が調整ユニット6用の駆動装置を形成するように、車体緩衝器7,8の少なくとも1つに連結されている。なお、液圧式調整ユニット6の制御が制御装置を介して行われると有利である。この制御装置は、車両のすべての走行力学的データ又は安全上重要なデータをあらかじめ評価し、その際積極的なトー操向装置に接続された車輪1の最適な車輪位置を決定するものである。
【0021】
好ましくは、電気で作動させることができる圧力発生ユニット27が設けられており、この圧力発生ユニット27は、調整ユニット6に接続されているかあるいは調整ユニット6と液圧式車体緩衝器7,8を接続する液圧管路17,18,19,20に接続されている。車両の所望な旋回円の縮小又は制動距離の短縮を行うために、電気的に発生したこの液圧により、車体緩衝器7,8によって供されるエネルギーなしに、トー調整を行うことができる。
【0022】
調整ユニット6と車体緩衝器7,8は、液圧式車体緩衝器7,8として又は液圧式調整ユニット6として形成されている。各液圧式車体緩衝器7,8は公知のごとく、シリンダ26の形状をしたケーシングを備え、このシリンダ内にロッド9,13が挿入されている(図2)。
【0023】
ケーシング内部には分離ピストン10,14が設けられており、この分離ピストンは、ロッド9、13の他端に取付けられ、シリンダ26内で移動可能となっている。この分離ピストン10,14により、車体緩衝器7,8のシリンダ26が2つのチャンバ11,12又は15,16に分割され、このチャンバ11,12には圧液が充填されている。この各チャンバ11,12又は15,16には液圧管路17,18又は19,20が接続されている。この液圧管路17,18,19,20は調整ユニット6のチャンバに接続されており、調整ユニット6のこのチャンバは、調整ピストンによって互いに分離されている。また、ピストンロッド30は、調整ユニット6のケーシングを貫通している。車輪のトーコントロールアーム4は、ピストンロッド30に連結され、このピストンロッド30によって操作される。
【0024】
このような装置を備えた車両がカーブを走行すると、その際生じる車両の傾斜すなわち車体2の傾斜に基づいて、一方の車体緩衝器7,8においてロッド9,13が車体緩衝器7,8内に押し込まれる(矢印a)。同時に、他方の車体緩衝器8,7では車体2が持ち上げられる。それによって、車体緩衝器8,7のロッド13,9が車体緩衝器8,7から更に突出する(矢印b)。その結果、車体緩衝器7,8の分離ピストン10又は14を摺動させることによって車体緩衝器7,8内の圧液が調整ユニット6の一方のチャンバに押し込まれる。これにより、ピストンロッド30が移動し、トーコントロールアーム4が操作される。
【0025】
図1から明らかなように、液圧管路17,18又は19,20は、それぞれボックスとして示した機能モジュールを通過している。
【0026】
次に、図2に基づいてこの機能モジュールを説明する。
【0027】
図2には図1の図面の左側の車体緩衝器7が示されており、ここで、車体緩衝器7は差動シリンダとして形成されている。すなわち、車体緩衝器7は、ピストン面の一方の側にのみピストンロッド9を備えている。それによって、車体緩衝器7は、異なる大きさの2つの作用面を有する。ピストン側の一方の面はその全体が作用し、ピストンロッド9側の他方の面は環状面だけが作用する。このシリンダ26内には、両側のチャンバ11,12を互いに分離する分離ピストン10だけでなく、車体緩衝器7の圧縮時に車体緩衝器7内に入るピストンロッド容積を吸収するための補償室22が更に設けられている。
【0028】
伸長側と圧縮側の弁を内蔵する単管減衰器又は二管減衰器の場合と異なり、圧液は図面において上側のチャンバ12から絞り23だけを経て下側のチャンバ11に達することができる。チャンバ12からチャンバ11までの圧液の流路をできるだけ短くするために、絞り23は車体緩衝器7の近傍に設けられている。これは、付加的に設けられる方向制御弁24についても当てはまる。圧液が絞り23からこの方向制御弁24に流入する。方向制御弁24は、4つのポートと2つの切換位置を有する4/2方向制御弁である。
【0029】
この方向制御弁24は、電気的に又は液圧で操作可能である。図示した位置では、方向制御弁24は、圧液が上側チャンバ12から絞り23と方向制御弁24を通ってチャンバ11に案内される切換位置にある。すなわち、方向制御弁は、例えば直進走行時に所望されるような緩衝位置にある。方向制御弁24を第2の切換位置に移動させることにより、圧液は上側チャンバ12から方向制御弁24の両ポート25を経て、図1に示した調整ユニット6に供給されるかあるいはこの調整ユニット6からチャンバ11に戻される。この切換位置においても、絞り23を介して液体の流れが絞られる。これは緩衝と同等の作用をする。絞り23と方向制御弁24は例示的な実施形態である。絞り23は調節可能に形成することができる。本例では絞りは一定の横断面積を有する。
【0030】
図1の他方の車体緩衝器8も、図2の図示と同様に、絞り23と方向制御弁24を備えている。
【符号の説明】
【0031】
1 車輪
2 車体
3 車輪コントロールアーム
4 トーコントロールアーム
5 補助フレーム
6 調整ユニット
7 車体緩衝器
8 車体緩衝器
9 ロッド
10 分離ピストン
11 チャンバ
12 チャンバ
13 ロッド
14 分離ピストン
15 チャンバ
16 チャンバ
17 液圧管路
18 液圧管路
19 液圧管路
20 液圧管路
21 車輪支持体
22 補償室
23 絞り
24 方向制御弁
25 ポート
26 シリンダ
27 圧力発生ユニット
28 液圧管路
29 液圧管路
30 ピストンロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体(2)と車軸の間に配置された2つの液圧式車体緩衝器(7,8)を備え、該液圧式車体緩衝器が液圧管路(17,18,19,20)を介してトー調整のための液圧式調整ユニット(6)に作用連結されて成る、原動機付き車両の車軸に配置された車輪を積極的にトー調整するための装置において、
前記液圧式車体緩衝器(7、8)を差動シリンダとして形成するとともに、該液圧式車体緩衝器(7,8)のシリンダ(26)の外側に絞り(23)を配置し、前記液圧式車体緩衝器(7,8)の前記シリンダ(26)内を案内される分離ピストン(10,14)の一方の側から前記絞り(23)を介して前記液圧式調整ユニット(6)へ圧液を移送できるように構成し、さらに、前記液圧式調整ユニット(6)から液圧管路(17,18,19,20)を介して前記分離ピストン(10,14)の他方の側へ圧液を移送できるように構成したことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記絞り(23)と前記液圧式調整ユニット(6)に至る前記液圧管路(17,18,19,20)との間に方向制御弁(24)を配置し、該方向制御弁(24)が第1の切換位置と第2の切換位置を有し、第1の切換位置では圧液を前記分離ピストン(10,14)の一方の側から前記絞り(23)を経て前記分離ピストン(10,14)の他方の側に直接供給可能とし、第2の切換位置では圧液を前記分離ピストン(10,14)の一方の側から前記絞り(23)を経て前記液圧式調整ユニット(6)に供給可能としたことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記シリンダ(26)から前記絞り(23)までの圧液の流路を、前記絞り(23)から前記液圧式調整ユニット(6)までの流路よりも短く設定したことを特徴とする請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
前記方向制御弁(24)から前記シリンダ(26)間での圧液の流路を、前記方向制御弁(24)から前記液圧式調整ユニット(6)までの流路よりも短く設定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記絞り(23)を前記シリンダ(26)上に直接配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記方向制御弁(24)を前記シリンダ(26)上に直接配置したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−37435(P2011−37435A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181596(P2010−181596)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(504258871)ベンテラー アウトモビールテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (60)
【氏名又は名称原語表記】Benteler Automobiltechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Elsener Strasse 95, D−33102 Paderborn, Germany
【Fターム(参考)】