説明

空気ばね用保護カバー及びそれを取付けた空気ばね

【課題】空気ばねに対して強固に取付けることが可能な空気ばね用保護カバーを提供することを目的とする。
【解決手段】弾性体からなり、筒状に形成されたカバー本体13と、カバー本体13を空気ばねの上面板1に装着した状態で締め付けて固定する締付バンド14とを備え、カバー本体13の内周面に、上面板1の外周面に形成された溝部12に嵌合可能な突条部15が突出形成され、カバー本体13の外周面に、締付バンド14を係合可能な凹状の係合部16が形成された構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等に用いられる空気ばね用保護カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両等に用いられる空気ばねとしては、車両の車体に取り付けられる上面板と、その下方で台車側に配置される下面板と、上面板及び下面板にわたって配備されるゴム製の可撓部材(ベローズ)と、下面板と台車との間に介装される弾性ストッパとを備えたものが知られている。弾性ストッパは、一般的に、ゴム層と鋼板とを交互に積層してなる積層ゴム構造のものが用いられる。
【0003】
ところで、上記空気ばねを搭載した車両を降雪の多い寒冷地で走行させる場合、空気ばねに付着した氷雪が可撓部材と擦れ合うことで空気ばねの耐久性に影響を及ぼすという問題が生じていた。空気ばねに付着した氷雪を除去するために、温水や蒸気を空気ばねに吹きかけたり融雪剤を使用して空気ばねに付着した氷雪を溶かすことも可能ではあるが、この場合には温水や蒸気、あるいは融雪剤によって可撓部材の劣化を促進するという問題が生じていた。
【0004】
上記問題を解決するため、従来、空気ばねを氷雪等から保護する空気ばね用保護カバーが使用されている。この空気ばね用保護カバーは空気ばねに対して可撓部材の周囲を取り囲むように着脱自在に設けられる。具体的には、特許文献1に記載されているように、弾性体によって筒状に形成され、その上端部を空気ばねの上面板上端に形成された段差部に嵌め込んで使用する構成の保護カバーが知られている。
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の空気ばねにおいては、保護カバーを外した状態では上面板の上端に隙間が生じ、その隙間から雨水等が侵入しやすくなり、空気ばねの耐久性に影響を及ぼすおそれが生じる。このような問題を解決するものとして、図6記載の空気ばね及び空気ばね用保護カバーが知られている。
【0006】
すなわち、空気ばねの上面板21の外周面に環状の溝部22が形成される。一方、空気ばね用保護カバーは、弾性体からなる筒状のカバー本体23と、カバー本体23を上面板21に装着した状態で締め付けて固定する締付バンド24とを備えている。カバー本体23は、上端と下端とで開口に径差を有する円筒状に形成され、カバー本体23の上端部が上面板21に装着され、下端部が弾性ストッパ25に装着される。
【0007】
カバー本体23の上端部の内周面には溝部22に係合可能な環状の突条部26が形成されている。カバー本体23は、突条部26を溝部22に係合させた状態で締付バンド24によって上面板21に強固に取り付けられる。これにより、可撓部材27は、カバー本体23によって完全に覆われて保護される。また、空気ばねから空気ばね用保護カバーを外した状態では、上面板21の外周面に溝部22が現れるのみで、空気ばねの内部に雨水が侵入するような隙間が生じることもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭64−50160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図6記載の空気ばね用保護カバーにおいては、締付バンドが金属製又は合成樹脂製の細長い帯状部材から構成されており、上面板に巻きつける際に上面板に対して傾きやすくなる。締付バンドを上面板に対して傾いた状態で締め付けると、カバー本体にかかる締付力が不均一となり、空気ばねが変位を繰り返すうちに上面板からカバー部材が外れる危険性が生じていた。
【0010】
そこで、本発明においては、上記問題に鑑み、空気ばねに対して強固に取付けることが可能な空気ばね用保護カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る空気ばね用保護カバーは、弾性体からなり、筒状に形成されたカバー本体と、前記カバー本体を空気ばねの上面板に装着した状態で締め付けて固定する締付バンドとを備え、前記カバー本体の内周面に、前記上面板の外周面に形成された溝部に嵌合可能な突条部が突出形成され、前記カバー本体の外周面に、前記締付バンドを係合可能な凹状の係合部が形成されたことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、締付バンドを適正な姿勢でカバー本体に巻き付け可能とする凹状の係合部に係合することにより、締付バンドを上面板に対して傾くことなく適正な姿勢で取り付けることが可能となる。したがって、カバー本体にかかる締付バンドの締付力を全周にわたって均一化することが可能となり、空気ばね用保護カバーを空気ばねに対して強固に取り付けることができる。
【0013】
カバー本体における突条部と係合部との位置関係については特に制約はない。ただ、突条部と係合部とを、カバー本体の内周面と外周面とにおいて同じ高さの範囲内に形成し、カバー本体を側面視したときに、突条部及び係合部のうち幅の狭い方が、幅の広い方に完全に重なるように形成するのが締付バンドの締付力を突条部に直接作用させることができる点で好ましい。
【0014】
ただ、突条部が形成された位置に合わせてカバー本体の同じ高さで締付バンドを締め付ける構成は、前述のように従来から採用されている。すなわち、図6で説明したように、突条部よりも幅の狭い締付バンドを、カバー本体に形成された突条部と同じ高さの範囲内で締め付けるようにした構成はすでに公知である。そして、図6記載の空気ばね用保護カバーは、空気ばねに対してより強固に取り付けることができると考えられていた。
【0015】
ところが、実際には、図6における空気ばね用保護カバーは、カバー本体が上面板から外れやすくなるという問題が生じていた。この問題について、本発明者が種々検討した結果、締付バンドが上面板に対して傾きやすく、この状態で締付バンドを締め付けると突条部にかかる締付力が場所によって不均一となり、空気ばねが変位を繰り返すうちに、締付力の弱い部分から突条部が溝部から飛び出しやすくなっていたのが原因と考えられた。
【0016】
これに対して本発明においては、カバー本体に係合部を形成し、かつ、突条部及び係合部のうちいずれか一方の幅を他方の幅よりも狭く形成するとともに、前記一方をカバー本体の高さ方向において前記他方が形成された範囲内に設けるようにしている。これによって、締付バンドの締付力をカバー本体の全周にわたって均一に突条部に向けて作用させることが可能となる。その結果、突条部と溝部との嵌合を強固にすることができ、空気ばねに対して空気ばね用保護カバーをより強固に取り付けることができる。
【0017】
本発明に係る空気ばね用保護カバーを取り付けた空気ばねは、空気ばね用保護カバーが空気ばねに対して強固に取り付けられているため、空気ばねが水平方向の変位を繰り返しても空気ばね用保護カバーが空気ばねから外れるおそれがない。したがって、空気ばねの耐久性を良好に維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る空気ばね用保護カバーは、カバー本体の外周面に締付バンドを係合可能な凹状の係合部を形成したため、空気ばねに対して強固に取付けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の空気ばね及び空気ばね用保護カバーの実施形態を示す縦断面図
【図2】図1の一部拡大図
【図3】図2における係合部とは別の態様を示す図
【図4】図2における突条部及び溝部とは別の態様を示す図
【図5】締付バンドの一態様を示す平面図
【図6】従来の空気ばね及び空気ばね用保護カバーを示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係る空気ばね用保護カバー及びそれを取付けた空気ばねの実施形態を示す縦断面図であり、図2はその一部拡大図である。空気ばねは、車両の車体に取り付けられる上面板1と、その下方で台車側に配置される下面板2と、上面板1と下面板2とに亘って配される筒状の可撓部材3と、下面板2と台車との間に介装される弾性ストッパ4とを備えている。なお、本実施形態においては、可撓部材3として、上下両端部に開口を有するゴム製ベローズを使用している。
【0021】
図1に示すように、上面板1は、金属製で円盤状の支持プレート5を備えており、支持プレート5の中央部は下面板に向かって円筒状に突出形成されている。また、支持プレート5の下面において中央部よりも半径方向外側の部分は保護ゴム層7で覆われており、中央部に可撓部材3の上端部が嵌め込まれる。
【0022】
弾性ストッパ4は、加硫ゴムからなるゴム層8と、鋼板からなる補強層9とが交互に積層されており、その上端及び下端には金属製の頂板10及び底板11がゴム層8に接着されている。弾性ストッパ4は、肉厚の円筒状に形成されている。下面板2は、金属材料によって円盤状に形成されており、弾性ストッパ4の頂板10にボルト、ナット等の締結部材によって固定される。下面板2に可撓部材3の下端部が嵌め込まれる。
【0023】
上記構成の空気ばねにおいて、上面板1の外周面は保護ゴム層7から形成されており、図2に示すように、この上面板1の外周面に環状の溝部12が形成される。一方、空気ばねに取り付けられる空気ばね用保護カバーは、筒状に形成されたカバー本体13と、カバー本体13を上面板1に装着した状態で締め付けて固定する締付バンド14とを備えている。
【0024】
カバー本体13はゴム膜等の可撓性を有する材料によって構成されており、筒状部13aと、その下端に連設される襞部13bとを備えている。襞部13bは円環状で半径方向の断面形状が波状に形成されており、襞部13bの中央には弾性ストッパ4のゴム層8に嵌着可能な開口が形成されている。筒状部13aの上端開口は上面板1の外周面に装着可能に形成される。すなわち、カバー本体13の上端部は上面板1に装着され、カバー本体13の下端部は弾性ストッパ4のゴム層8に装着される。これにより、可撓部材3がカバー本体13によって完全に覆われて保護される。
【0025】
図2に示すように、カバー本体13の上端部内周面には環状の突条部15が半径方向内方に向かって突出形成されており、突条部15は溝部12に嵌合可能とされている。カバー本体13は、突条部15が溝部12に嵌合するようにして上面板1の外周面に装着され、その状態でカバー本体13の表面側から締付バンド14で締め付けることにより、上面板1に固定される。突条部15はカバー本体13の内周面の全周にわたって形成され、溝部12は上面板1の外周面の全周にわたって形成される。両者とも形成面において全周にわたって連続して環状に形成するのが好ましいが、断続的に形成することも可能である。
【0026】
カバー本体13の外周面には、締付バンド14を係合可能な凹状の係合部16が形成される。係合部16は、突条部15と同様、カバー本体13上において環状に形成される。係合部16及び突条部15は、カバー本体13の中心軸を中心として同心円上にそれぞれ形成される。さらに、上面板1において環状に形成される溝部12についても、空気ばねの中心軸を中心として同心円状に形成される。
【0027】
上記構成により、カバー本体13の突条部15を溝部12に嵌合した状態で、カバー本体13の係合部16に締付バンド14を係合させることで、締付バンド14を上面板1に対して傾くことなく水平に取り付けることが可能となる。したがって、この姿勢のまま締付バンド14を締め付けることで、カバー本体13にかかる締付バンド14の締付力を均一化することが可能となり、空気ばね用保護カバーを空気ばねに対して強固に取り付けることができる。
【0028】
係合部16は、係合した締付バンド14がガタつかず、適正な姿勢になるように形成される。具体的には、係合部16を締付バンド14がちょうど嵌合可能な大きさに形成することができる。また、係合部16の側面のうち、少なくとも一面をスロープ状とし、徐々に締め込んだ締付バンド14が係合部16の底面に到達したときに位置決めされるように形成することも可能である。
【0029】
本実施形態においては、係合部16は、カバー本体13の外周面上に凹状に形成されているが、これに限らず、例えば、図3に示すように、カバー本体13の外周面の上端に段差部17を形成しておき、カバー本体13の突条部15を溝部12に嵌合した状態で、溝部12の側壁の一部と段差部17とによって凹状の係合部16が構成されるようにすることも可能である。
【0030】
カバー本体13における突条部15および係合部16の形成位置および大きさの関係については、両者のうちいずれか一方の幅を他方の幅よりも狭く形成し、かつ、前記一方をカバー本体の高さ方向において前記他方が形成された範囲内に設けるようにするのが好ましい。
【0031】
本実施形態では、図2に示すように、係合部16の幅Xを突条部15の幅Yよりも狭く形成し、かつ、係合部16をカバー本体の高さ方向において突条部15が形成された範囲内(高さT1〜T2の範囲内)に設けている。これにより、締付バンド14の締付力をカバー本体13の全周にわたって均一に突条部15に向けて作用させることが可能となる。その結果、突条部15と溝部12との嵌合を強固にすることができ、空気ばねに対して空気ばね用保護カバーをより強固に取り付けることができる。
【0032】
なお、図4に示すように、係合部16の幅Xを突条部15の幅Yよりも広く形成することも可能である。この場合は、幅の狭い突条部15をカバー本体の高さ方向において係合部16が形成された範囲内(高さT3〜T4の範囲内)に設ければよい。これによっても、上記と同様に、締付バンド14の締付力をカバー本体13の全周にわたって均一に突条部15に向けて作用させることが可能となる。
【0033】
締付バンド14としては、カバー本体13を締め付け可能であれば、特に制限なく使用することができる。一例として、ジュビリー(登録商標)バンドを用いることができる。ジュビリーバンドは、一端に筒状のハウジングが固定された金属製又は合成樹脂製のバンドから構成される。
【0034】
ハウジングの内部には、表面にウォームネジ山が形成されたスクリューが回転自在に配置されている。スクリューは回転軸の方向がバンドの長さ方向に一致するように設けられる。一方、バンドの他端には、スクリューのウォームネジ山に噛合可能な複数の溝部が形成されている。そして、バンドの他端をハウジング内に導入してスクリューと溝部を噛合させつつ、スクリューを回転させることにより締付バンドを締め込むことが可能となる。
【0035】
締付バンド14の別の態様としては、例えば、図5に示すように、金属製又は合成樹脂製の帯状材を円状に湾曲させ、両端部を半径方向外方に折曲して互いに相対する折曲部18,18を形成し、両方の折曲部に貫通穴を形成してボルト及びナット等の締結部材19を用いて締め込むようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 上面板
2 下面板
3 可撓部材
4 弾性ストッパ
5 支持プレート
6 ビード受部
7 保護ゴム層
8 ゴム層
9 補強層
10 頂板
11 底板
12 溝部
13 カバー本体
14 締付バンド
15 突条部
16 係合部
17 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体からなり、筒状に形成されたカバー本体と、前記カバー本体を空気ばねの上面板に装着した状態で締め付けて固定する締付バンドとを備え、前記カバー本体の内周面に、前記上面板の外周面に形成された溝部に嵌合可能な突条部が突出形成され、前記カバー本体の外周面に、前記締付バンドを係合可能な凹状の係合部が形成されたことを特徴とする空気ばね用保護カバー。
【請求項2】
前記突条部及び係合部のうちいずれか一方の幅が他方の幅よりも狭く形成され、かつ、前記一方は、前記カバー本体の高さ方向において前記他方が形成された範囲内に設けられたことを特徴とする請求項1記載の空気ばね用保護カバー。
【請求項3】
請求項1又は2記載の空気ばね用保護カバーを取付けたことを特徴とする空気ばね。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−172819(P2012−172819A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37951(P2011−37951)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】