説明

空気入りタイヤ、タイヤ劣化状態判定システムおよびタイヤ劣化状態判定方法

【課題】現在の空気入りタイヤのタイヤ劣化情報を知るこができる空気入りタイヤ、システムおよび方法を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤに、タイヤ劣化情報を記録するタイヤタグが設けられる。タイヤタグは、タイヤ空洞領域におけるタイヤ内圧およびタイヤ温度を測定して、断続的にタイヤ内圧データおよびタイヤ温度データを出力する測定ユニットと、現在のタイヤの劣化の程度を示すタイヤ劣化指標を算出する演算ユニットと、前記タイヤ劣化指標を読み出し可能に記録する記録ユニットと、を有する。前記演算ユニットは、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データが出力されるたびに、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データを用いて、前記タイヤ劣化指標を算出する。記録されたタイヤ劣化指標は、空気入りタイヤと別体の読取装置から読み出され、更生タイヤとしての適否の判定に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤタグが設けられた空気入りタイヤ、空気入りタイヤのタイヤ劣化の状態を判定するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、空気入りタイヤのタイヤ空気圧(内圧)をモニタリングして、異常なタイヤ空気圧の低下や異常なタイヤ温度の低下を検知して、ドライバーに警報を発するタイヤ空気圧モニタリングシステムが普及しつつある。
このシステムでは、空気入りタイヤに設けられた圧力センサで計測されたタイヤ空気圧の情報、さらには温度センサーを用いて計測されたタイヤ温度の情報をワイヤレスで車両に設けられた監視装置に送信する。監視装置では、タイヤ空気圧の情報およびタイヤ温度の情報から、空気入りタイヤのパンク等の異常の有無を監視し、必要に応じてドライバーに警報を発する。
当該システムでは、タイヤ空気圧の情報およびタイヤ温度の情報は、空気入りタイヤの現在のタイヤ空気圧等の監視のために用いるため、測定したタイヤ空気圧の情報およびタイヤ温度の情報は蓄積されない。すなわち、当該システムは、タイヤ空気圧およびタイヤ温度の履歴を残さない。このため、タイヤ空気圧の履歴およびタイヤ温度の履歴を得るには、監視装置にデータロガー等を接続して、タイヤ空気圧の情報およびタイヤ温度の情報を測定するたびに別途保存しなければならない。
【0003】
一方、空気入りタイヤのリサイクル使用の一環として、タイヤトレッドが完全に摩耗したタイヤを用いて更生タイヤを作製することも盛んに行われている。更生タイヤでは、所定のユーザによって使用された空気入りタイヤあるいは不特定のユーザによって使用された空気入りタイヤが回収される。これらの空気入りタイヤは、タイヤ構成部材の剥離等の欠陥が発生しているか否かを調べるためのシェアログラフィー検査が行われ、さらにパンクや外傷の有無を調べるための外観検査が行われる。これらの検査をパスした空気入りタイヤがリトレッドタイヤの台タイヤとして用いられる。リトレッドタイヤの作製は、摩耗したタイヤトレッドの残渣分を除去して台タイヤを作製した後、この台タイヤに新たなトレッドゴムを被せて加硫することにより行われる。
このようなリトレッドタイヤを作製する際、台タイヤが適切な強度を有するか否かを判定することは、非常に重要である。このため、シェアログラフィー検査および外観検査が行われる。しかし、これらの検査は、欠陥の有無を調べるものであるため、欠陥が発生していないが、タイヤのゴム部材が劣化し、欠陥が発生しそうな場合もある。このような場合、空気入りタイヤのゴム部材の酸化劣化に起因した劣化の程度やタイヤ温度によって受ける劣化の程度を知ることはできない。特に、不特定のユーザから持ち込まれた空気入りタイヤは、どのように使用され、タイヤ劣化がどの程度あるのか、知ることは全くできない。
【0004】
また、万が一、更生タイヤに上記欠陥等の不具合が発生すると、その不具合の発生の原因が、更生前のタイヤの使用(一次使用)によるタイヤ劣化の程度が大きかったことに起因するのか、あるいは、更生後のタイヤの使用(二次使用)によってタイヤ劣化が大きくなったことに起因するのか、不明であり、原因の特定を十分に行うことができない場合がある。
【0005】
尚、先行技術として、タイヤの内側に装着されるタイヤタグによってパラメータを測定するためのタイヤ電子維持システムが知られている(特許文献1)。このタイヤタグは、タイヤデータを測定し、呼掛要求、警戒状態に応答してまたは周期的基準で自動的に遠隔局へ測定データを送信する。このシステムは、タイヤタグのパラメータを測定し且つこの測定パラメータを表すデータ信号を発生させるための感知器を含んでいる。このシステムは、タイヤタグのパラメータを測定するために第一の周期的基準で感知器を作動させるために、この感知器に結合されているマイクロプロセッサも含んでいる。このマイクロプロセッサは、測定パラメータを表す発生されたデータ信号を記憶するための記憶装置を含んでいる。送信機及び受信機がマイクロプロセッサに結合されている。このマイクロプロセッサは、受信された送信が有効な呼掛信号であるか否かを第二の周期的基準で決定するために周期的且つ部分的に覚醒し、受信された送信が有効な呼掛信号であれば、完全に覚醒し、最後に記憶された測定パラメータを少なくとも送信することによって、送信機を経由して、有効な呼掛信号に応答する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−526217号公報
【0007】
上記システムでは、データ信号を記憶するが、空気入りタイヤの現在のタイヤ劣化の程度を求めて記録していない。このため、当該特許文献1を用いても、現在の空気入りタイヤの劣化の程度を知ることはできない。このため、更生タイヤに上記欠陥等の不具合が発生しても、原因の究明を十分に行うことができない場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、現在の空気入りタイヤのタイヤ劣化の程度を知るこができる空気入りタイヤ、システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、タイヤタグが設けられた空気入りタイヤである。
前記タイヤタグは、タイヤ空洞領域におけるタイヤ内圧およびタイヤ温度を測定して、断続的にタイヤ内圧データおよびタイヤ温度データを出力する測定ユニットと、
現在のタイヤの劣化の程度を示すタイヤ劣化指標を算出する演算ユニットと、
前記タイヤ劣化指標を読み出し可能に記録する記録ユニットと、を有する。
前記演算ユニットは、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データが出力されるたびに、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データを用いて、前記タイヤ劣化指標を算出する。
【0010】
本発明の別の一態様は、タイヤタグが設けられた空気入りタイヤと、前記タイヤタグと通信する通信装置とを有するシステムである。
前記タイヤタグは、タイヤ空洞領域におけるタイヤ内圧およびタイヤ温度を測定して、断続的にタイヤ内圧データおよびタイヤ温度データを出力する測定ユニットと、
現在のタイヤの劣化の程度を示すタイヤ劣化指標を算出する演算ユニットと、
前記タイヤ劣化指標を読み出し可能に記録する記録ユニットと、を有する。
前記演算ユニットは、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データが出力されるたびに、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データを用いて、前記タイヤ劣化指標を算出する。
前記通信装置は、前記記録ユニットに記録された前記タイヤ劣化指標を読み出して、前記空気入りタイヤ劣化の程度を判定する。
【0011】
本発明の更に別の一態様は、空気入りタイヤのタイヤ劣化の程度を判定する方法である。
空気入りタイヤには、前記空気入りタイヤと別体の通信装置と通信可能なタイヤタグが設けられる。
前記タイヤタグは、タイヤ空洞領域におけるタイヤ内圧およびタイヤ温度を測定して、断続的にタイヤ内圧データおよびタイヤ温度データを出力し、
前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データが出力されるたびに、出力された前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データの少なくとも1つを用いて、タイヤの劣化の程度を示すタイヤ劣化指標を算出して、前記タイヤ劣化指標を記録する。
前記通信装置は、記録されている前記タイヤ劣化指標の送信を前記タイヤタグに要求し、要求に応じて送信された前記タイヤ劣化指標に基いて、前記空気入りタイヤのタイヤ劣化の程度を判定する。
【発明の効果】
【0012】
上記空気入りタイヤ、システム及び方法によれば、現在の空気入りタイヤの劣化の程度を容易に知ることができる。特に、空気入りタイヤのトレッドが摩耗したとき、この空気入りタイヤを更生タイヤの台タイヤとして用いることができるか否かを、判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態である空気入りタイヤ及びこの空気入りタイヤに用いる読取装置を示す図である。
【図2】図1に示す空気入りタイヤに設けられるタイヤタグの回路構成を示す機能ブロック図である。
【図3】本実施形態の空気入りタイヤで行われるタイヤ劣化の程度を判定する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の空気入りタイヤ、タイヤ劣化状態判定方法およびタイヤ劣化状態判定システムについて詳細に説明する。
図1は、本発明の空気入りタイヤの一実施形態である空気入りタイヤ(以降、タイヤという)10及びこのタイヤ10に用いる読取装置16を示す図である。
タイヤ10は、一対の円環状のビードコア部材と、このビードコア部材にターンアップされたトロイダル状のカーカス部材と、カーカス部材のトロイダル状の径方向外側に設けられたベルト部材と、を骨格部材として有する。これらの骨格部材の周りに、トレッドゴム部材、サイドゴム部材、ビードフィラーゴム部材、インナーライナゴム部材を含むゴム部材が設けられる。
【0015】
本実施形態のタイヤ10は、タイヤ10とタイヤ10を装着したリムとの間のタイヤ空洞領域12に面するタイヤ内表面にタイヤタグ14が設けられている。
タイヤタグ14は、タイヤ空洞領域12のタイヤ空気圧(内圧)とタイヤ空洞領域12の雰囲気温度をタイヤ温度として測定し、タイヤ空気圧のデータ(以降、タイヤ空気圧データという)とタイヤ空洞領域の雰囲気温度のデータ(以降、タイヤ温度データという)を用いてタイヤの劣化の程度を示すタイヤ劣化指標を求め、タイヤタグ14に記録する。タイヤ空気圧データとタイヤ温度データが得られるたびに、タイヤ劣化の程度を示すタイヤ劣化指標が算出され、タイヤタグ14において、タイヤ劣化指標の更新が繰り返される。このようなタイヤ劣化指標は、逐次更新されるので、記録される劣化の程度は、現在のタイヤの情報である。したがって、タイヤ10が摩耗して使用ができない状態になったとき、図1に示す外部の読出装置16を用いて、タイヤタグ16に記録されているタイヤ劣化指標を読み出して、更生タイヤの台タイヤとして使用可能であるか否かの判定に用いることができる。タイヤ劣化指標は、測定により出力されるタイヤ温度データおよびタイヤ空気圧データをそれぞれ演算して累積加算したタイヤ劣化情報を用いて算出される。タイヤ劣化情報は、後述する累積温度シビアリティ(TTSN)、温度シビアリティ(TSN)および酸化シビアリティ(OXY)を含む。例えば、タイヤ劣化指標は、累積温度シビアリティ(TTSN)と酸化シビアリティ(OXY)とを用いて算出される指標である。
タイヤタグ14は、タイヤ10のタイヤ断面高さの30〜60%の高さの範囲のタイヤ内表面に設けられることが好ましい。タイヤ10の上記範囲は、ビード部に対応し、タイヤ10が負荷荷重によって受ける撓み変形および歪は小さく、上記範囲においてタイヤタグ14がタイヤ10から剥離し難い。
【0016】
以下、タイヤ10に設けられるタイヤタグ14について詳述する。
図2は、タイヤタグ14の回路構成を示す機能ブロック図である。タイヤタグ14は、例えば、フレキシブルシート基板に回路が平面的に構成され、タイヤ空気圧およびタイヤ温度を測定することができる送受信可能なタグである。
タイヤタグ14は、測定ユニット20と、演算ユニット22と、記録ユニット24と、通信ユニット26と、を有する。演算ユニット22は、図示されないマイクロプロセサ及び後述するソフトウェアを記録したROMを有し、マイクロプロセサを用いてソフトウェア処理を行うソフトウェアモジュールである。上記マイクロプロセサは、測定ユニット20におけるタイヤ空気圧およびタイヤ温度の測定、演算ユニット22における各種演算処理、および通信ユニット26における情報の通信を制御、管理する。
【0017】
測定ユニット20は、温度検出部28と空気圧検出部30を有する。
温度検出部28は、タイヤ10に付設される温度センサと、この温度センサの出力信号を所定の時間間隔で検出して得られるタイヤ温度のディジタル値をタイヤ温度データとして出力するディジタル出力回路と、を有する。タイヤ温度データの出力は、一定時間、例えば、60秒毎に行われる。
【0018】
空気圧検出部30は、タイヤ10のタイヤ空洞領域12に面して付設される空気圧センサと、この空気圧センサの出力信号を所定の時間間隔で検出して得られる空気圧のディジタル値をタイヤ空気圧データとして出力するディジタル出力回路と、を有する。タイヤ温度データの出力は、上記一定時間、例えば、60秒毎に行われる。
【0019】
演算ユニット22は、温度情報演算部32と、空気圧情報演算部34と、劣化情報管理部36と、を有する。
温度情報演算部32は、温度検出部28から送られたタイヤ温度データの温度の値を順次演算して積算した値を累積温度シビアリティ(TTSN)の値として、劣化情報管理部36に出力する。累積温度シビアリティTTSNは、例えば、タイヤ温度データをTiとしたとき、所定の係数をα(α>0)として、Σexp(Ti×α)として算出される。すなわち、タイヤ温度データTiが高くなるほど値が大きくなるexp(Ti×α)の値が以前のTTSNに加算される。このため、TTSNは時間と共に増大する。温度情報演算部32は、現在の累積温度シビアリティTTSNを記録ユニット24に記憶させる。新たに温度検出部28からタイヤ温度データが送られてくるとき、温度情報演算部32は、記憶されている累積温度シビアリティTTSNに、新たに演算されたexp(Ti×α)の値を加算することで新たな累積温度シビアリティTTSNを得て、記録ユニット24に記憶させる。
【0020】
また、温度情報演算部32は、温度検出部28から送られたタイヤ温度データの温度の値を用いて、温度シビアリティ(TSN)の値を算出し、劣化情報管理部36に出力する。温度シビアリティ(TSN)は、TSN=Σ(Ti×ni×ki/N)×βに代入して算出される。ここでniは、タイヤ温度データTi毎に測定開始後から検出した頻度の数であり、Nは、測定開始後からのタイヤ温度データの総数である。kiは、寄与係数であり、アレニウスの反応式に基づいて設定された係数であり、タイヤ温度データTiの値が高くなるほど、高くなる係数である。βは、所定の係数である。すなわち、温度シビアリティ(TSN)は、温度要因劣化情報を表す。
このような温度シビアリティTSNは、タイヤ温度データTiに頻度の数niを掛けて、さらに、重み付け係数として寄与係数kiを掛けたものを積算した後、タイヤ温度データの総数Nで割ることで、温度データの重み付け平均値を表す。したがって、上記した累積温度シビアリティTTSNと温度シビアリティTSNとは異なる。
温度情報演算部32は、現在の温度シビアリティTSNを記憶する。新たに温度検出部28からタイヤ温度データが送られてきたとき、温度情報演算部32は、送られてきたタイヤ温度データTiにkiを乗算し、この乗算した値を、記憶されている温度シビアリティTSNにN/βを乗算した値に加算し、この加算結果にβ/(N+1)で除算する。温度情報演算部32は、除算した結果を、新たな温度シビアリティTSNとして記録ユニット24に記憶させる。
【0021】
空気圧情報演算部34は、空気圧検出部30から送られるタイヤ空気圧データを所定の基準温度(例えば25度)におけるタイヤ空気圧データである温度換算空気圧データに換算すると共に、この温度換算空気圧データから単位時間あたりの空気圧変化率を算出して、算出結果のディジタル値を出力する。温度換算空気圧データの算出には周知であるボイルシャルルの法則を用いて、タイヤ空気圧データと温度検出部28から送られるタイヤ温度データとから求められる。
【0022】
さらに、空気圧情報演算部34は、後述する酸化シビアリティ(OXY)の値を算出し、この算出結果を劣化情報管理部36に出力する。空気圧情報演算部34は、現在の酸化シビアリティOXYを記録ユニット24に記憶させる。この後、タイヤ空気圧データおよびタイヤ温度データが送られてくると、空気圧情報演算部34は、記憶されている酸化シビアリティOXYを読み出して、得られた温度換算空気圧データと共に用いて、新たな酸化シビアリティOXYを算出し、この算出した新たな酸化シビアリティOXYを現在の酸化シビアリティOXYとして記録ユニット24に記憶させる。
【0023】
一般に、タイヤ10のタイヤ空洞領域に充填された空気は自然に流出して空気圧が低下するが、酸化シビアリティOXYは、この流出しようとしてタイヤのゴム部材を通過するする空気に触れてタイヤのゴム部材が酸化劣化するときのこの酸化劣化の程度を表す。すなわち、タイヤ空洞領域に充填された空気は、タイヤ空洞領域からタイヤ内表面を通過して、大気に接するタイヤ外表面に移動する、このとき、タイヤ10を構成するゴム部材を横切る。したがって、タイヤ内表面からタイヤ外表面に向けて移動する空気の移動量を示す情報、あるいは、空気中の酸素の移動量を示す情報を用いて、酸化シビアリティOXYが算出される。
【0024】
酸化シビアリティOXYは、例えば、現在測定されて得られた温度換算空気圧データの、前回測定されて得られた温度換算空気圧データからの低下量を逐次積算した値を用いることができる。
また、上記逐次積算した値に、充填した空気における酸素分率を乗算した値を酸化シビアリティOXYとして用いることができる。
また、上記温度換算空気圧データの上記低下量を体積(1気圧相当の体積)あるいはモルの低下量に換算し、この体積あるいはモルの低下量を逐次積算した値を酸化シビアリティOXYとして用いることができる。上記低下量から上記体積あるいはモルの低下量を換算する方法は、周知のボイルシャルルの法則の式が用いられる。
また、上記体積あるいはモルの低下量を逐次積算した値に、充填した空気における酸素分率を乗算した値を酸化シビアリティOXYとして用いることができる。
また、上記体積あるいはモルの低下量をタイヤ内表面の面積で割った値を単位面積当たりの空気透過量として求め、この空気透過量を逐次積算した値を酸化シビアリティOXYとして用いることができる。
また、上記単位面積当たりの空気透過量を逐次積算した値に、充填した空気における酸素分率を乗算した値を酸化シビアリティOXYとして用いることができる。
このように、酸化シビアリティOXYは、内圧要因劣化情報を表す。
【0025】
劣化情報算出部36は、温度情報演算部32で算出された累積温度シビアリティTTSNと、空気圧情報算出部34で算出された酸化シビアリティOXYとを統合して、後述するようなタイヤ劣化指標を求める。
このタイヤ劣化指標を用いて、タイヤ10が更生タイヤの台タイヤとして使用可能であるか否かを判定することができる。例えば、タイヤ劣化指標が設定されている閾値以下であるか否かによって、上記可否の判定に用いることができる。この判定で否定されたタイヤは、廃棄される。上記閾値を複数段階設定し、タイヤ10の現在の劣化の程度を段階的に区分けすることもできる。また、温度シビアリティTSNを用いて、タイヤの劣化の程度に関する要因を探ることもできる。
劣化情報算出部36は、求めたタイヤ劣化指標を記録ユニット24に記憶させる。
【0026】
劣化情報算出部36は、酸化シビアリティOXYの値と累積温度シビアリティTTSNの値とを用いて、下記式(1)によりタイヤ劣化指標Aを算出する。
【0027】
A=γ×{(OXY)2+(TTSN)21/2 (1)
ここで、γは所定の係数であり、上記式(1)では酸化シビアリティOXYの値を2乗した値に対して累積温度シビアリティTTSNの値を2乗した値を加算し、この加算結果の平方根を求め、この平方根の値に係数γを乗算した値をタイヤ劣化指標Aとする。
【0028】
また、劣化情報算出部36は、酸化シビアリティOXYの値と累積温度シビアリティTTSNの値とを用いて、下記式(2)によりタイヤ劣化指標Bを算出することもできる。
【0029】
B=θ×(OXY×TTSN)/2 (2)
ここで、θは所定の係数であり、上記(2)式では酸化シビアリティ(OXY)の値に対して累積温度シビアリティ(TTSN)の値を乗算した値を2で割り、この値に係数θを乗算した値をタイヤ劣化指標Bとする。
このように、演算ユニット22は、測定ユニット20から出力されたタイヤ内圧データおよびタイヤ温度データと、記録ユニット24に記録されているタイヤ劣化情報とを用いて、新たなタイヤ劣化情報を算出し、更に、このタイヤ劣化情報からタイヤ劣化指標を算出して、タイヤ劣化指標を記録ユニット24に記録させる。
【0030】
記録ユニット24は、上述したように累積温度シビアリティTTSN、温度シビアリティTSN、酸化シビアリティOXY、およびタイヤ劣化指標の他に、得られた過去の全タイヤ空気圧データ及び全タイヤ温度データを記憶する。記録ユニット24のメモリ容量に制限がある場合、大メモリ容量を要する全タイヤ空気圧データ及び全タイヤ温度データを記憶しなくてもよい。
記録ユニット24への各種データの送信は有線で行われてもよいし、無線で行われてもよい。
【0031】
通信ユニット26は、図1に示す読取装置16のタイヤ劣化指標の送信の要求指示に応じて、記録ユニット24に記憶されているタイヤ劣化指標を読み出し、読取装置16に送信する。タイヤ劣化指標の他に、累積温度シビアリティTTSN、温度シビアリティTSN、酸化シビアリティOXY、およびタイヤ温度データ、タイヤ空気圧データも読み出され、読取装置16に送信される。読取装置16では、タイヤ劣化指標を用いて、タイヤ10が更生タイヤの台タイヤとして使用可能であるか否かを判定することができる。
判定は、タイヤ劣化指標が設定されたレベルを超えるか否か等によって行われる。
このような読取装置16は、タイヤ10が車両の全輪に装着されている場合、すべてのタイヤ10から上記累積温度シビアリティTTSN、温度シビアリティTSN、酸化シビアリティOXY、およびタイヤ劣化指標を送信するように指示することもできる。
【0032】
通信ユニット26は、読取装置16から送信されるデータを受信して、記録ユニット24にデータを書き込み記録する。読取装置16によって記録されたデータは、後日読み出される。このようなデータとして、タイヤ製造日時、あるいは、ユニフォーミティ等の検査データの他、装着される車両番号、装着位置、装着時の車両走行距離等の基本情報が含まれる。これらのデータは、タイヤの劣化に程度を知るためにタイヤ劣化指標を読み出す毎に、同時に読み出され、読取装置16に送信される。
通信ユニット26の送受信は、無線で行われてもよいし、有線で行われてもよい。
【0033】
図3は、本実施形態のタイヤ10で行われるタイヤ劣化の状態を判定する方法のフローの一例を示す。
温度検出部28および空気圧検出部30は、タイヤ温度およびタイヤ空気圧を測定する(ステップS10)。温度検出部28および空気圧検出部30は、測定により得られるタイヤ温度データおよびタイヤ空気圧データを一定の間隔で出力し、温度情報演算部32および空気圧情報演算部34へ送る。
【0034】
温度情報演算部32および空気圧情報演算部34は、タイヤ温度データおよびタイヤ空気圧データを記録ユニット24に送り、記録ユニット24に記憶させる(ステップS20)。さらに、温度情報演算部32および空気圧情報演算部34は、タイヤ10の現在のタイヤ劣化情報を算出する。タイヤ劣化情報は、累積温度シビアリティTTSN、温度シビアリティTSN、酸化シビアリティOXYを含む。温度情報演算部32は、タイヤ温度データと、記録ユニッ24に記録されている累積温度シビアリティTTSNあるいは温度シビアリティTSNを用いて、新たな累積温度シビアリティTTSNあるいは温度シビアリティTSNを算出する(ステップS30)。また、空気圧情報演算部34は、空気圧検出部30から送られるタイヤ空気圧データを所定の基準温度(例えば25度)におけるタイヤ空気圧データである温度換算空気圧データに換算する。さらに、空気圧情報演算部34は、記録ユニット24に記憶されている酸化シビアリティOXYを読み出して、温度換算空気圧データと共に用いて、新たな酸化シビアリティOXYを算出する(ステップS30)。さらに、算出された累積温度シビアリティTTSNおよび酸化シビアリティOXYは、劣化情報管理部36に送られる。劣化情報管理部36は、上述した方法でタイヤ劣化指標を算出する(ステップS30)。
こうして算出されたタイヤ劣化指標は、累積温度シビアリティTTSN、温度シビアリティTSNおよび酸化シビアリティOXYとともに記録ユニット24に記憶される(ステップS40)。
【0035】
このようなタイヤ10は、タイヤの使用により摩耗でこれ以上使用できない場合、読取装置16が、タイヤ10のタイヤタグ14からタイヤ劣化指標、タイヤ劣化情報、タイヤ温度データおよびタイヤ空気圧データを読み出し、図示されないデータベースに保存させる(ステップS50)。
タイヤ10が車両に装着され、車両の各車輪にタイヤ10が装着されている場合、読取装置16は、装着されている全タイヤ10を一度に読み取る形態であってもよい。読取装置16は、車両の室内に設けられた表示画面を有する空気圧モニタリング装置であってもよい。この場合、空気圧モニタリング装置は、表示画面にタイヤの空気圧の情報とともにタイヤ劣化指標あるいはタイヤ劣化情報を表示することができ、ドライバーにタイヤの劣化の程度を教示することができる。
本実施形態では、タイヤ劣化情報、タイヤ劣化指標、タイヤ温度データおよびタイヤ空気圧データを読み出すが、少なくともタイヤ劣化指標を記録ユニット24に記憶させ、このタイヤ劣化指標を読取装置16が読み取るように構成することもできる。
データベースに保存されたタイヤ劣化指標は、データベースに接続されたコンピュータを用いて読み出され、このタイヤ劣化指標およびタイヤ劣化情報を用いてタイヤ10が更生可能であるか否かが判定される(ステップS60)。判定は、タイヤ劣化指標に基いて行われ、具体的には、予め設定された閾値とタイヤ劣化指標が比較される。この比較において、タイヤ劣化指標が閾値に比べて高い場合、タイヤ10は十分に劣化しており、更生タイヤとして用いることはできないと判断されて、廃棄される(ステップS70)。
なお、タイヤ劣化指標は、タイヤ劣化情報に基いて算出されるので、データベースでは、タイヤ劣化情報のみを保存し、タイヤ劣化情報から、コンピュータにおいてタイヤ劣化指標を算出し、このタイヤ劣化指標を用いて更生可能であるか否かを判定することもできる。
一方、上記比較において、タイヤ劣化指数がそれぞれ閾値以下である場合、タイヤ10は更生タイヤとして用いることができると判断され、タイヤの更生の処理が行われる。具体的には、シェアログラフィー検査及び外観検査が行われた後、タイヤ10を台タイヤとしてリトレッド処理が施される。この状態においても、タイヤタグ12は、タイヤ温度及びタイヤ空気圧の測定を続行する。
以上のように、タイヤ10は、タイヤ10が製造されて以降、半永久的に、タイヤ温度およびタイヤ空気圧の測定を続行し、タイヤ劣化指標を半永久的に算出する。
なお、ステップS70において更生タイヤとして用いることができないと判定されたタイヤに関して、データベースに保存されたタイヤ劣化情報のうち、タイヤ劣化指標に大きく寄与したタイヤ劣化情報を抽出して更生できない原因を探ることもできる。例えば、温度シビアリティTSNを用いて、温度要因がタイヤ劣化の要因となったか否かを判断することができる。
【0036】
タイヤタグ10は、以上のように、新たなタイヤ劣化指標を算出し更新して記憶するので、タイヤ10が摩耗して使用できなくなった場合、記録しているタイヤ劣化指標を読み出すだけで、このタイヤ劣化指標をタイヤ10が更生可能か否かの判定に用いることができる。すなわち、タイヤ10に関して、現在の空気入りタイヤの劣化の程度を知ることができる。
タイヤタグ14を有するタイヤ10が車両の各車輪に装着されている場合、各タイヤのタイヤ劣化指標のほかに過去の全タイヤ空気圧データおよび全タイヤ温度データを、読取装置16を経由してデータベースに取り込むことができる。このため、データベースに接続されたコンピュータを用いて、車両の全車輪のタイヤの劣化の程度を知ることができる。また、ユーザの使用条件等を知ることもできる。
本実施形態では、更生タイヤに用いることができるか否かの判定に用いるタイヤ劣化指標は、温度要因劣化情報である累積温度シビアリティTTSNと、内圧要因劣化情報である酸化シビアリティOXYを用いて算出されるが、累積温度シビアリティTTSNおよび酸化シビアリティOXYの一方を、タイヤ劣化指標として用いることもできる。また、温度シビアリティTSNをタイヤ劣化指標として用いることもできる。
【0037】
以上、本発明の空気入りタイヤ、タイヤ劣化状態判定システムおよびタイヤ劣化状態判定方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0038】
10 空気入りタイヤ
12 タイヤ空洞領域
14 タイヤタグ
16 読取装置
20 測定ユニット
22 演算ユニット
24 記録ユニット
26 通信ユニット
28 温度検出部
30 空気圧検出部
32 温度情報演算部
34 空気圧情報演算部
36 劣化情報管理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤタグが設けられた空気入りタイヤであって、
前記タイヤタグは、
タイヤ空洞領域におけるタイヤ内圧およびタイヤ温度を測定して、断続的にタイヤ内圧データおよびタイヤ温度データを出力する測定ユニットと、
現在のタイヤの劣化の程度を示すタイヤ劣化指標を算出する演算ユニットと、
前記タイヤ劣化指標を読み出し可能に記録する記録ユニットと、を有し、
前記演算ユニットは、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データが出力されるたびに、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データを用いて、前記タイヤ劣化指標を算出する、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記記録ユニットは、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データを用いて算出される現在の要因別のタイヤ劣化情報を記録し、
前記演算ユニットは、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データが出力されるたびに、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データと、前記記録ユニットに記録されている前記タイヤ劣化情報とを用いて、新たなタイヤ劣化情報を算出して、前記タイヤ劣化情報を前記記録ユニットに記録させる処理を行い、さらに、前記演算ユニットは、前記タイヤ劣化情報を用いて前記タイヤ劣化指標を算出する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記タイヤ劣化情報は、前記タイヤ温度データに所定の演算を加えて積算することにより得られる温度要因劣化情報、および、前記タイヤ内圧データから得られる内圧要因劣化情報のうち、少なくとも1つを含む、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記記録ユニットは、前記タイヤ温度データおよび前記タイヤ内圧データを、前記タイヤ劣化指標とともに記録する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記記録ユニットに記録された前記タイヤ劣化指標は、外部装置によって読み出されるように構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記記録ユニットは、外部装置から送信された情報を書き込み記録する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記測定ユニット、前記演算ユニットおよび前記記録ユニットは、タイヤ断面高さの30〜60%の高さの範囲のタイヤ内表面に設けられている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
タイヤタグが設けられた空気入りタイヤと、前記タイヤタグと通信する通信装置とを有するシステムであって、
前記タイヤタグは、
タイヤ空洞領域におけるタイヤ内圧およびタイヤ温度を測定して、断続的にタイヤ内圧データおよびタイヤ温度データを出力する測定ユニットと、
現在のタイヤの劣化の程度を示すタイヤ劣化指標を算出する演算ユニットと、
前記タイヤ劣化指標を読み出し可能に記録する記録ユニットと、を有し、
前記演算ユニットは、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データが出力されるたびに、前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データを用いて、前記タイヤ劣化指標を算出し、
前記通信装置は、前記記録ユニットに記録された前記タイヤ劣化指標を読み出して、前記空気入りタイヤ劣化の程度を判定する、ことを特徴とするタイヤ劣化状態判定システム。
【請求項9】
空気入りタイヤのタイヤ劣化の程度を判定する方法であって、
空気入りタイヤには、前記空気入りタイヤと別体の通信装置と通信可能なタイヤタグが設けられ、
前記タイヤタグは、
タイヤ空洞領域におけるタイヤ内圧およびタイヤ温度を測定して、断続的にタイヤ内圧データおよびタイヤ温度データを出力し、
前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データが出力されるたびに、出力された前記タイヤ内圧データおよび前記タイヤ温度データの少なくとも1つを用いて、タイヤの劣化の程度を示すタイヤ劣化指標を算出して、前記タイヤ劣化指標を記録し、
前記通信装置は、
記録されている前記タイヤ劣化指標の送信を前記タイヤタグに要求し、
要求に応じて送信された前記タイヤ劣化指標に基いて、前記空気入りタイヤのタイヤ劣化の程度を判定する、ことを特徴とするタイヤ劣化状態判定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−116417(P2012−116417A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269895(P2010−269895)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】