説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】 マーチングモジュラス加硫を呈するキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤを製造するに際し、タイヤケーシングの過加硫を抑制しながらキャップトレッドコンパウンドの加硫度を最適化し、それによってタイヤの耐久性を保持しつつ操縦安定性の向上を可能にした空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】 振動式加硫試験機により測定される95%加硫時間T95と30%加硫時間T30とがT95/T30≧3.5の関係を満たすキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤを製造する方法において、加硫機によるタイヤの加硫が終了し、該タイヤを金型から取り出した後、該タイヤをトレッド表面側からのみ加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーチングモジュラス加硫を呈するキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤを製造する方法に関し、更に詳しくは、タイヤケーシングの過加硫を抑制しながらキャップトレッドコンパウンドの加硫度を最適化し、それによってタイヤの耐久性を保持しつつ操縦安定性の向上を可能にした空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤのキャップトレッドコンパウンドとして、シリカ高配合のコンパウンドが多用されている。シリカ高配合のコンパウンドは、所謂マーチングモジュラス加硫を呈し、加硫時間を長くしてもリバージョンを生じずに、いつまでもトルクが上がり続ける傾向がある。そのため、キャップトレッドコンパウンドが最適な加硫度に到達するまで加硫機による加硫を継続すると、その加硫時間が長くなるばかりでなく、タイヤケーシングが過加硫になるという問題がある。
【0003】
ところで、加硫機による加硫時間を短縮する方法として、ポストキュアインフレーション工程においてタイヤ全体を加熱することが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。この場合、ポストキュアインフレーション工程において加硫を進行させることを前提として加硫機による加硫時間を短縮することが可能になる。
【0004】
しかしながら、マーチングモジュラス加硫を呈するキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤにおいて、ケーシングにはキャップトレッドとは異なるコンパウンドが使用されているので、ポストキュアインフレーション工程においてタイヤ全体を加熱した場合、タイヤケーシングが過加硫になることは避けられない。そして、タイヤケーシングが過加硫になると、タイヤの耐久性が低下することになる。
【特許文献1】特開平6−238669号公報
【特許文献2】特開平9−193159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、マーチングモジュラス加硫を呈するキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤを製造するに際し、タイヤケーシングの過加硫を抑制しながらキャップトレッドコンパウンドの加硫度を最適化し、それによってタイヤの耐久性を保持しつつ操縦安定性の向上を可能にした空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤの製造方法は、振動式加硫試験機により測定される95%加硫時間T95と30%加硫時間T30とがT95/T30≧3.5の関係を満たすキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤを製造する方法において、加硫機によるタイヤの加硫が終了し、該タイヤを金型から取り出した後、該タイヤをトレッド表面側からのみ加熱することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、マーチングモジュラス加硫を呈するキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤを製造するに際し、加硫機によるタイヤの加硫が終了し、該タイヤを金型から取り出した後、該タイヤをトレッド表面側からのみ加熱するので、タイヤケーシングの過加硫を抑制しながらキャップトレッドコンパウンドの加硫度を最適化することができる。そして、タイヤケーシングの過加硫を抑制することはタイヤの耐久性の低下を防止し、キャップトレッドコンパウンドの加硫度を最適化することは操縦安定性の向上に寄与する。従って、タイヤの耐久性を保持しつつ操縦安定性を向上することが可能になる。
【0008】
マーチングモジュラス加硫を呈するキャップトレッドコンパウンドとは、振動式加硫試験機により測定される95%加硫時間T95と30%加硫時間T30とがT95/T30≧3.5の関係を満たすキャップトレッドコンパウンドである。このような加硫特性を呈するコンパウンドとしては、主としてシリカ配合コンパウンドを挙げることができるが、シリカを含まないコンパウンドの中にもマーチングモジュラス加硫を呈するものがある。上記加硫特性はJIS K6300−2に基づくものである。ここで、加硫温度は例えば160℃に設定すれば良い。また、加硫曲線が上昇し続けてトルクの最大値が実測できない場合、最大トルクの特定時間は60分とする。
【0009】
本発明において、タイヤをトレッド表面側から加熱する際の加熱温度t1は加硫機の金型温度t2に対してt2≧t1≧t2−20℃の関係を満足することが好ましい。このような加熱温度t1を選択することにより、キャップトレッドコンパウンドの加硫度を短時間で最適化することができる。
【0010】
タイヤをトレッド表面側から加熱する際の加熱方法は、ガスの噴き付け、赤外線の照射、又は、発熱体の接触であることが好ましい。いずれの場合も、タイヤのトレッド表面のみを選択的に加熱することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、振動式加硫試験機により測定される95%加硫時間T95と30%加硫時間T30とがT95/T30≧3.5の関係を満たし、マーチングモジュラス加硫を呈するキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤを製造する場合に適用される。
【0012】
上記加硫特性を呈するコンパウンドとしては、シリカ配合コンパウンド等を使用することができる。シリカ配合コンパウンドにおいて、ゴム100重量部に対するシリカの配合量は30重量部〜100重量部であると良い。勿論、キャップトレッドコンパウンドには、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、充填剤、軟化剤等のゴム業界で一般的に使用される添加剤を配合することができる。
【0013】
ここで、シリカ系コンパウンド及びカーボン系コンパウンドの典型的な加硫特性について説明する。図1はシリカ系コンパウンド及びカーボン系コンパウンドの加硫時間とトルクとの関係を示すグラフである。但し、加硫温度は160℃である。図1において、シリカ系コンパウンドは、30%加硫時間T30が4.5分であり、95%加硫時間T95が17分であり、その比T95/T30が3.8である。一方、カーボン系コンパウンドは、30%加硫時間T30が4.5分であり、95%加硫時間T95が9分であり、その比T95/T30が2.0である。
【0014】
図2はシリカ系コンパウンド及びカーボン系コンパウンドの加硫時間と300%伸長時モジュラス(M300)との関係を示すグラフである。但し、加硫温度は160℃である。図2に示すように、カーボン系コンパウンドでは加硫時間がある程度経過すると300%伸長時モジュラスが殆ど変化しなくなるが、シリカ系コンパウンドでは加硫時間が長くなるほど300%伸長時モジュラスが増大する。
【0015】
図3はシリカ系コンパウンド及びカーボン系コンパウンドの加硫時間と20℃での硬度(HS)との関係を示すグラフである。但し、加硫温度は160℃である。図3に示すように、カーボン系コンパウンドでは加硫時間がある程度経過すると20℃での硬度が殆ど変化しなくなるが、シリカ系コンパウンドでは加硫時間が長くなるほど20℃での硬度が増大する。
【0016】
図1〜図3から判るように、シリカ系コンパウンドは、マーチングモジュラス加硫を呈し、加硫時間が長くなるほど300%伸長時モジュラスや硬度が増大する。つまり、シリカ系コンパウンドをキャップトレッドコンパウンドに用いた場合、加硫時間が長くなるほど操縦安定性が向上する。しかしながら、加硫時間を長くすることはタイヤの生産コストを増大させると共にタイヤケーシングの過加硫を招くため好ましくない。
【0017】
そこで、本発明では、加硫機によるタイヤの加硫が終了し、タイヤを金型から取り出した後、そのタイヤをトレッド表面側からのみ加熱する。加硫機によるタイヤの加硫では、タイヤから気泡(ポーラス)が完全に消失する最短時間の指標であるブローポイントまで加硫を進行させると良い。
【0018】
一方、タイヤをトレッド表面側から加熱する際の加熱温度t1は加硫機の金型温度t2に対してt2≧t1≧t2−20℃の関係を満足すると良い。つまり、金型温度t2はコンパウンド物性を引き出すための最適な温度に設定されるため、加熱温度t1は金型温度t2以下とする。また、加熱温度t1が金型温度t2−20℃を下回ると、短時間で効果的に加硫度を増加させることが困難になる。
【0019】
タイヤをトレッド表面側から加熱する際の加熱方法としては、ガスの噴き付け、赤外線の照射、又は、発熱体の接触等を選択することができる。いずれの場合も、タイヤのトレッド表面のみを選択的に加熱することが可能である。
【0020】
ガスの噴き付けの場合、加熱温度t1に設定された高温ガスをタイヤのトレッド表面に噴き付ける。ガスの種類は特に限定されるものではないが、例えば、加熱された空気を使用することができる。ガスの噴き付けは、環状のトレッド表面を取り囲むように配置された複数のノズルから行っても良く、或いは、タイヤ周上の1箇所に配置されたノズルからガスを噴射しながらタイヤを回転させても良い。
【0021】
赤外線の照射の場合、トレッド表面に赤外線を照射し、トレッド表面温度が加熱温度t1となるように赤外線の強度を調整する。赤外線の照射は、環状のトレッド表面を取り囲むように配置された赤外線の照射装置から行うと良い。
【0022】
発熱体の接触の場合、トレッド表面に対して発熱体を直接接触させ、その発熱体の温度を加熱温度t1に設定する。発熱体は、環状のトレッド表面を取り囲むように配置すると良い。
【0023】
上述のようにマーチングモジュラス加硫を呈するキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤを製造するに際し、加硫機によるタイヤの加硫が終了し、該タイヤを金型から取り出した後、該タイヤをトレッド表面側からのみ加熱することにより、タイヤケーシングの過加硫を抑制しながらキャップトレッドコンパウンドの加硫度を最適化することができるので、タイヤの耐久性を保持しつつ操縦安定性を向上することができる。
【実施例】
【0024】
マーチングモジュラス加硫を呈するキャップトレッドコンパウンドを用いたタイヤサイズ195/55R15の空気入りタイヤを製造するにあたって、加硫機中での加硫時間を10分としてタイヤの加硫を終了し、該タイヤを金型から取り出した後の処理だけを異ならせた従来例、比較例、実施例の方法によりそれぞれタイヤを得た。
【0025】
従来例では、タイヤを金型から取り出した後、そのまま放置した。比較例では、タイヤを金型から取り出した後、設定温度120℃の保温箱に10分間収容した。実施例では、タイヤを金型から取り出した後、そのトレッド表面をヒータにより10分間加熱した。その際、加硫機の金型温度180℃に対してヒータによる加熱温度を170℃に設定した。実施例及び従来例の方法におけるトレッド表面温度と経過時間との関係は図4の通りであった。
【0026】
キャップトレッドコンパウンドとしては、ゴム100重量部に対するシリカの配合量が70重量部であるシリカ配合コンパウンドを用いた。このシリカ配合コンパウンドについて、ロータレスレオメータを用いて160℃での加硫特性を調べたところ、30%加硫時間T30が4分であり、95%加硫時間T95が18分であり、100%加硫時間T100が40分であり、比T95/T30が4.5であった。
【0027】
上述した従来例、比較例、実施例の方法により得られたタイヤについて、キャップトレッド及びカーカス層での加硫度を求め、その結果を表1に示した。各部位の加硫度は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど加硫度が大きいことを意味する。
【0028】
また、従来例、比較例、実施例の方法により得られたタイヤについて、操縦安定性を評価し、その結果を表1に併せて示した。操縦安定性については、試験タイヤを車両に装着し、空気圧200kPaの条件でテストドライバーによるフィーリング評価を行った。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど操縦安定性が優れていることを意味する。
【0029】
更に、従来例、比較例、実施例の方法により得られたタイヤについて、キャップトレッドの物性とケーシングの剥離力を調べ、その結果を表1に併せて示した。キャップトレッドの物性としては、20℃での硬度(HS)、20℃での300%伸長時モジュラス(M300)、100℃での300%伸長時モジュラス(M300)を測定した。ケーシングの剥離力としては、カーカス層間の剥離力及びベルト層間の剥離力を測定した。各物性値は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど物性値が大きいことを意味する。
【0030】
【表1】

【0031】
この表1から明らかなように、実施例の方法により得られたタイヤは、従来例との対比において、キャップトレッドコンパウンドの加硫度が大きく、その物性が良好であり、操縦安定性が優れていると共に、ケーシングの剥離力が十分に保持されていた。一方、比較例の方法により得られたタイヤは、操縦安定性について若干の改善効果が認められるものの、ケーシングの剥離力が大きく低下していた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】シリカ系コンパウンド及びカーボン系コンパウンドの加硫時間とトルクとの関係を示すグラフである。
【図2】シリカ系コンパウンド及びカーボン系コンパウンドの加硫時間と300%伸長時モジュラス(M300)との関係を示すグラフである。
【図3】シリカ系コンパウンド及びカーボン系コンパウンドの加硫時間と20℃での硬度(HS)との関係を示すグラフである。
【図4】実施例及び従来例の方法におけるトレッド表面温度と経過時間との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動式加硫試験機により測定される95%加硫時間T95と30%加硫時間T30とがT95/T30≧3.5の関係を満たすキャップトレッドコンパウンドを用いた空気入りタイヤを製造する方法において、加硫機によるタイヤの加硫が終了し、該タイヤを金型から取り出した後、該タイヤをトレッド表面側からのみ加熱することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記タイヤをトレッド表面側から加熱する際の加熱温度t1が前記加硫機の金型温度t2に対してt2≧t1≧t2−20℃の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記タイヤをトレッド表面側から加熱する際の加熱方法が、ガスの噴き付け、赤外線の照射、又は、発熱体の接触であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記キャップトレッドコンパウンドがシリカ配合コンパウンドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−6617(P2008−6617A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176905(P2006−176905)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】