説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】生産性及び品質に優れるタイヤの製造方法の提供。
【解決手段】本発明に係るタイヤの製造方法は、カーカス、ベルト、ビード及びサイドウォールを構成するための複数の部材を組み合わせて未加硫の第一組合せ部材26を得る工程と、この第一組合せ部材26に未加硫のトレッド部材12をステッチングするステッチング工程と、このステッチング工程で得られたローカバーが加硫成形される加硫工程とを備えている。このステッチング工程では、このトレッド部材12がベルト部材28、30の半径方向外側に位置している。このトレッド部材12は外周面に溝18、20を備えている。この溝18、20がタイヤ周方向に延びている。この溝18,20が延びる位置に対応する内周面の位置にベルト部材28、30の端部28a、30aが位置して、このトレッド部材12がステッチングされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの製造方法では、トレッド、サイドウォール、インナーライナー等を構成する複数の部材が組み合わされて、未加硫のローカバー(グリーンタイヤ)が得られる。このローカバーが、金型に入れられて所定の温度と圧力とで加硫成型される。この加硫成型を経て空気入りタイヤが得られる。
【0003】
図6(a)及び図6(b)には、複数の部材を組み合わせて、ローカバーを得る工程の一部が示されている。この図の左右方向がタイヤ軸方向であり、上下方向がタイヤ半径方向であり、紙面に垂直な方向がタイヤ周方向である。図6(a)には、インナーライナーを構成するインナーライナー部材2、カーカスを構成するカーカス部材4、サイドウォールを構成するサイドウォール部材6、ビードを構成するビード部材8が組み合わされた第一組合せ部材10と、この第一組み合せ部材10に載置されるトレッド部材12とが示されている。
【0004】
ステッチングローラ14がトレッド部材12を第一組合せ部材10に押し付ける。このステッチングローラ14が軸方向中央から軸方向端部に向かって移動しつつ押し付けられる。図6(b)では、トレッド部材12の一方の端部が、第一組合せ部材10にステッチングされている。このトレッド部材12の一方の端部から他方の端部までが第一組合せ部材10にステッチングされて、トレッド部材12の内周面が第一組合せ部材10の外周面に接合される。この様にしてローカバーが得られる。得られたローカバーが金型に入れられて加硫成型され、タイヤが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−89262公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外周面にベルト部材が積層された第一組合せ部材でのステッチングでは、この第一組合せ部材とトレッド部材とを十分に密着させるために、時間がかけられる。このステッチングは、タイヤの生産性を低下させている。
【0007】
本発明の目的は、生産性及び品質に優れるタイヤの製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るタイヤの製造方法は、
カーカス、ベルト、ビード及びサイドウォールを構成するための複数の部材を組み合わせて未加硫の第一組合せ部材を得る工程と、この第一組合せ部材に未加硫のトレッド部材をステッチングするステッチング工程と、このステッチング工程で得られたローカバーが加硫成形される加硫工程とを備えている。
このステッチング工程では、このトレッド部材がベルト部材の半径方向外側に位置している。このトレッド部材は外周面に溝を備えている。この溝がタイヤ周方向に延びている。この溝が延びる位置に対応する内周面の位置にベルト部材の端部が位置して、このトレッド部材がステッチングされる。
【0009】
好ましくは、この製造方法では、上記トレッド部材の軸方向外側部分に溝が形成されている。上記ベルト部材の端部は、軸方向から半径方向に曲げられている第一組合せ部材の曲面に位置している。好ましくは、このトレッド部材の軸方向外側部分の厚みT2が中央部分の厚みT1より厚くされている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るタイヤの製造方法では、ベルト部材の端部でのステッチング不良が抑制される。この製造方法では、効率良くトレッド部材が第一組合せ部材にステッチングされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法に使用されるトレッド部材の一部が示された説明図である。
【図2】図2は、図1のトレッド部材の一部の断面が示された説明図である。
【図3】図3は、図2の矢印IIで示された部分拡大図である。
【図4】図4は、図1のトレッド部材がステッチングされる状態の説明図である。
【図5】図5は、本発明の他の実施形態に係るタイヤの製造方法に使用されるトレッド部材及び第一組合せ部材の一部が示された説明図である。
【図6】図6は、従来のステッチングが示された説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0013】
図1には、本発明に係るタイヤの製造方法に使用されるトレッド部材16の一部が示されている。このトレッド部材16は、未加硫ゴムからなる。トレッド部材16の形状は、長尺の帯状である。図1の矢印Yの方向が、トレッド部材16の長手方向である。矢印Zの方向が、トレッド部材16の厚み方向である。矢印Xがトレッド部材16の幅方向である。
【0014】
トレッド部材16は、幅方向中央に位置する中央部16aと中央部16aの幅方向外側に位置する一対の端部16bとからなる。このトレッド部材16は、溝18及び溝20を備えている。この溝18及び溝20は、端部16bに位置している。溝18及び溝20は、トレッド部材16の長手方向に延びている。溝18と溝20とは、平行に延びている。溝20は、溝18の幅方向外側に位置している。
【0015】
図2の両矢印T1は、トレッド部材16の中央部16aの厚みを示している。両矢印T2は、トレッド部材16の端部16bの厚みを示している。この厚みT2は、端部16bにおける最大厚みである。この中央部16aが一定の厚みT1で形成されている。端部16bの厚みは、中央部16aから幅方向外側に向かって徐々に厚くなって厚みT2に至る。その後、幅方向外側に向かって厚みT2から徐々に薄くなっている。
【0016】
図2の点P1は、断面において溝18の最も深い位置を示している。一点鎖線L1は、点P1を通る厚み方向の直線である。点P2は、断面において溝20の最も深い位置を示している。一点鎖線L2は、点P2を通る厚み方向の直線である。点P3は、トップトレッド16の内周面22と直線L1との交点である。この点P3は、溝18が延びる位置に対応する内周面22の位置である。点P4は、トップトレッド16の内周面22と直線L2との交点である。この点P4は。溝20が延びる位置に対応する内周面22の位置である。溝18及び溝20が延びる位置に対応する内周面22の部分は、溝や凹みが形成されていない。この内周面22の部分は、平坦にされている。
【0017】
図3の両矢印D1は溝18の深さを示している。両矢印D2は溝20の深さを示している。この深さD1及びD2は、厚み方向に測られる。深さD1及びD2は、溝18及び溝20の最も深い位置での深さを示している。両矢印W1は、溝18の幅を示している。この幅W1は、トップトレッド16の外周面24と溝18の壁面とが交わる一方の稜から他方の稜までの直線距離として測られる。両矢印W2は、溝20の幅を示している。この幅W2は、トップトレッド16の外周面24と溝20の壁面とが交わる一方の稜から他方の稜までの直線距離として測られる。この深さD1、D2、幅W1及びW2は、第一組合せ部材26に載置されるまえに、図1の帯状の形態で測定される。
【0018】
このタイヤの製造方法は、未加硫ゴム部材を含む第一組合せ部材26を得る工程(STEP1)と、この第一組合せ部材26に未加硫のトレッド部材16をステッチングしてローカバーを得るステッチング工程(STEP2)と、このローカバーを金型で所定の温度及び圧力で加硫成型してタイヤを得る加硫工程(STEP3)とを備えている。
【0019】
この第一組合せ部材26を得る工程(STEP1)では、複数の部材が組み合わされて第一組合せ部材26が得られる。この複数の部材として、例えば、インナーライナーを構成するためのインナーライナー部材、カーカスを構成するためのカーカス部材、ビードを構成するためのビード部材、サイドウォールを構成するためのサイドウォール部材等を含む。
【0020】
図4には、この第一組合せ部材26の一部が示されている。図6の第一組み合せ部材10と同様に半径方向に突状の外周面を備えている。この第一組合せ部材26は、第一ベルトプライと第二ベルトプライとを構成する第一ベルト部材28と第二ベルト部材30とを含んでいる。このベルト部材としての、第一ベルト部材28及び第二ベルト部材30は、第一組合せ部材26の半径方向の最も外側に位置している。ここでは、第二ベルト部材30の半径方向外側に第一ベルト部材28が積層されている。
【0021】
このステッチング工程(STEP2)では、トレッド部材12が第一ベルト部材28と第二ベルト部材30との半径方向外側に配置される。図示されないが、ステッチングローラで、トレッド部材が第一組合せ部材26に押し付けられてステッチングされる。このステッチング工程では、トレッド部材12の内周面22の点P3の位置が、第一ベルト部材の端部28aに位置している。トレッド部材12の内周面22の点P4が、第二ベルト部材の端部30aに位置している。第一組合せ部材26にトレッド部材12がステッチングされてローカバーが得られる。
【0022】
この加硫工程(STEP3)では、このローカバーが金型に入れられて、所定の温度及び圧力で加硫成形される。この加硫成形により未加硫のゴム部材が架橋ゴムに変化する。この様にして、タイヤが得られている。
【0023】
この第一ベルト部材28の端部28aがトレッド部材12の溝18の位置に対応する内周面22の部分に位置する。端部28aが位置する部分で、トレッド部材12は大きく屈曲させられる。このトレッド部材12は、溝18を備えているので、端部28aが位置する部分で、容易に屈曲する。このトレッド部材12の内周面22は、第一組合せ部材26の外周面に密着し易い。第一ベルト部材28aの密着不良が抑制される。第一ベルト部材28aのステッチング時間を短くし得る。
【0024】
この溝18は、外周面24に形成されている。この端部28aの位置が幅方向において溝18に対する位置がずれても、トレッド部材12は端部28aの位置で屈曲し易い。第一組合せ部材26とトレッド部材16との間に隙間が生じ難い。内周面22に溝が形成される場合に比べ、位置がずれても密着不良が抑制されている。このタイヤの製造方法は、生産性及び品質に優れている。
【0025】
ステッチング工程を経て得られたローカバーは、金型に入れられて、所定の温度及び圧力で加硫成型される。このトレッド部材12は、この金型形状により、厚みT2が厚みT1より厚くされている。溝18及び溝20を備えているので、厚い端部16bを、容易に屈曲することができる。
【0026】
トレッド部材16を屈曲し易くする観点から、この溝18の深さD1及び溝20の深さD2は0.5mm以上が好ましく、0.7mm以上が更に好ましい。一方で、この深さD1及びD2が浅いトレッド部材16は加硫後に傷が残り難い。この観点から、2.0mm以下が好ましく、1.5mm以下が更に好ましく、1.0mm以下が特に好ましい。
【0027】
この溝18の幅W1及び溝20の幅W2が大きいトレッド部材16は、屈曲し易い。この観点から、3mm以上が好ましく、4mm以上が更に好ましく、5mm以上が特に好ましい。一方で、この溝の幅W1及びW2が小さいトレッド部材16は、加硫後に傷が残り難い。この観点から、9mm以下が好ましく、8mm以下が更に好ましく、7mm以下が特に好ましい。
【0028】
ここでは、第一ベルト部材28と第二ベルト部材30を備えるものを例に説明したが、ベルト部材の数は1であっても良いし、3以上であってもよい。
【0029】
図5には、他の実施形態に係るトレッド部材31と第一組合せ部材32とが示されている。この第一組合せ部材32は、ベルト部材34を備えている。図5の点P5は、トレッド部材31の溝36の最も深い位置を示している。点P6は、溝36の位置に対応する内周面38の位置である。このベルト部材34の端部34aは、タイヤ軸方向から半径方向に曲げられている第一組合せ部材32の曲面に位置している。この端部34aに、トレッド部材31の点P6が位置してステッチングされる。
【0030】
第一組合せ部材32の曲面に端部34aが位置しても、トレッド部材31が溝36を有することで、この曲面に沿って密着し易い。このように、ベルト部材34の端部34aが第一組合せ部材32の曲面に位置している場合にも、このタイヤの製造方法は、生産性及び品質に優れている。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0032】
[実施例1]
図1の基本構成のトレッド部材をステッチングしたローカバーを得た。このトレッド部材の端部に、2つの溝が形成されている。幅方向内側の溝の深さD1は1.0mmとされて、幅方向外側の溝の深さD2は0.7mmとされた。この溝の幅はいずれも6mmとされた。ここでのステッチング時間は9.6秒であった。このローカバーは、2枚のベルト部材を備えている。ベルト部材の軸方向端部は、それぞれトレッド部材の溝の位置に対応した内周面に位置している。このローカバーが加硫されて実施例1の空気入りタイヤを得た。
【0033】
[比較例1]
トレッド部材に溝を備えないこととステッチング時間を14.2秒とした他は、実施例1と同様にしてローカバーを得た。このローカバーが加硫されて空気入りタイヤを得た。
【0034】
[実施例2から4]
幅方向内側の溝の深さD1と外側の溝の深さD2とを表1に示されるようにして、ステッチング時間を表1に示されるようにした他は、実施例1と同様にして、空気入りタイヤを得た。実施例3及び4では、外観傷残りの防止の観点から、実施例1よりもステッチング時間が長くなっている。
【0035】
[実施例5から7]
実施例2から4のステッチング時間を表2に示すように変更した他は、実施例2から4と同様にして、空気入りタイヤを得た。
【0036】
[品質評価]
得られた空気入りタイヤについて、エアー残りが評価された。具体的には、ステッチング部分が切断されて、ベルト端部のエアー残りが目視検査された。得られた空気入りタイヤについて、傷の有無が検査された。具体的には、トレッド部材の溝の位置に、凹凸等の傷が残っていないか、外観の目視検査がされた。このエアー残りと傷の有無との結果が表1及び表2に示されている。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1及び表2に示されるように、実施例の製造方法では、比較例の製造方法に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【符号の説明】
【0040】
2・・・インナーライナー
4・・・カーカス
6・・・サイドウォール
8・・・ビード
10・・・第一組合せ部材
12、31・・・トレッド部材
14・・・ステッチングローラ
16・・・トレッド部材
18、20・・・溝
22・・・内周面
24・・・外周面
26・・・第一組合せ部材
28・・・第一ベルト部材
30・・・第二ベルト部材
32・・・第一組合せ部材
34・・・ベルト部材
36・・・溝
38・・・内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカス、ベルト、ビード及びサイドウォールを構成するための複数の部材を組み合わせて第一組合せ部材を得る工程と、
この第一組合せ部材にトレッド部材をステッチングするステッチング工程と、
このステッチング工程で得られたローカバーが加硫成形される加硫工程とを備えており、
このステッチング工程では、このトレッド部材がベルト部材の半径方向外側に位置しており、このトレッド部材が外周面に溝を備えており、この溝がタイヤ周方向に延びており、この溝が延びる位置に対応する内周面の位置にベルト部材の端部が位置して、このトレッド部材がステッチングされるタイヤの製造方法。
【請求項2】
上記トレッド部材の軸方向外側部分に溝が形成されており、
上記ベルト部材の端部が軸方向から半径方向に曲げられている第一組合せ部材の曲面に位置している請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記トレッド部材の軸方向外側部分の厚みT2が中央部分の厚みT1より厚くされている請求項1又は2に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−39695(P2013−39695A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176626(P2011−176626)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】