説明

空気入りラジアルタイヤおよびその非破壊検査方法

【課題】 非破壊検査においてタイヤを構成するゴム層同士の境界が識別可能な空気入りタイヤおよびそのタイヤの非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】 一対のビード部10と、少なくとも2枚のカーカスプライからなるカーカス12と、少なくとも2層のベルト層15と、トレッド部20と、サイドウォール部30とを備える空気入りラジアルタイヤ1である。少なくとも2枚のカーカスプライのコーティングゴムに金属微粉体が混入され、かつ、各カーカスプライ毎に金属微粉体の濃度が異なる。あるいは、少なくとも2層のベルト層のコーティングゴムに金属微粉体が混入され、かつ、各ベルト層毎に金属微粉体の濃度が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤおよびその非破壊検査方法に関し、詳しくは非破壊検査においてゴム層同士の境界が識別可能な空気入りラジアルタイヤおよびその非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りラジアルタイヤは、内圧を充填したとき作用する径方向の張力はカーカスが負担し、また周方向の張力はベルト層が実質上一手に負担するところから、カーカスおよびベルト層が不均一に形成されているときは、その影響が顕著にタイヤ性能に現れる。タイヤの外観上特に異常は認められなくても、例えば、ベルト層において、周上コード配列角度にばらつきがあったり、コードの打ち込み密度がばらついていたり、あるいはベルト層が周方向に向かって蛇行している場合があり、このような場合にはタイヤ性能に悪影響を及ぼすこととなる。
【0003】
かかる観点から、製造されたタイヤに対し非破壊検査が一般に行われており、例えば、特許文献1では、カーカスとベルト層に含まれる繊維コード層のうちの少なくとも一方に、金属フィラメントの1本または少数本を加えた混合繊維コードを繊維コードの少なくとも一部として用い、これによりX線など放射線照射による非破壊検査を行うことができるようにしたことが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、加硫済のタイヤの品質検査をレーザを使用して行うレーザ式非破壊検査機において得られた画像データの管理方法が開示されている。
【特許文献1】特開平8−258507号公報
【特許文献2】特開平11−14547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のX線などの放射線照射による非破壊検査では、スチールコードとゴムとの境界については良好に識別することができ、例えば、カーカスのビードコアでの折り返し高さや、スチールベルトのコード構造等については精度の高い検査が可能であったが、ゴム層とゴム層の境界を見ることはできなかった。このようにタイヤ性能に重大な影響を及ぼすゴム分割について非破壊検査では識別不能であるということは、真に品質の高いタイヤのみをユーザーに提供する上で問題であった。
【0006】
そこで本発明の目的は、非破壊検査においてタイヤを構成するゴム層同士の境界が識別可能な空気入りラジアルタイヤおよびそのタイヤの非破壊検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、タイヤを構成する各ゴム層に所定の条件下で金属微粉体を混入することにより上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部と、該ビード部に夫々埋設されたビードコアの周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止された、少なくとも2枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部外周にて下層から上層に順次位置する少なくとも1層のベルト層およびトレッド部と、該カーカスのサイド部に位置するサイドウォール部とを備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記少なくとも2枚のカーカスプライのコーティングゴムに金属微粉体が混入され、かつ、各カーカスプライ毎に金属微粉体の濃度が異なることを特徴とするものである。
【0009】
これにより、放射線照射による非破壊検査において各カーカスプライに混入された金属微粉体の濃度の差によりカーカスプライ同士間の境界を良好に認識することができるようになり、タイヤの高品質化に寄与することとなる。
【0010】
本発明の他の空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部と、該ビード部に夫々埋設されたビードコアの周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止された、少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部外周にて下層から上層に順次位置する少なくとも2層のベルト層およびトレッド部と、該カーカスのサイド部に位置するサイドウォール部とを備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記少なくとも2層のベルト層のコーティングゴムに金属微粉体が混入され、かつ、各ベルト層毎に金属微粉体の濃度が異なることを特徴とするものである。
【0011】
これにより、放射線照射による非破壊検査において各ベルト層に混入された金属微粉体の濃度の差によりベルト層同士間の境界を良好に認識することができるようになり、タイヤの高品質化に寄与することとなる。
【0012】
また、本発明の非破壊検査方法は、上記空気入りラジアルタイヤに放射線を照射することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非破壊検査において、製造された全てのタイヤについて性能に重要な影響を及ぼすゴム層間の境界面を判定することでが可能となることで、真に品質の高いタイヤのみをユーザーへ提供することができるようになる。本発明は、特に、カーカスプライの枚数およびベルトの層数の多いトラックやバス、産業車輛、建設車輛、航空機等に装着される重荷重用において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1に、本発明の一好適実施形態の重荷重用空気入りラジアルタイヤの片側部分断面図を示す。図示するように、本発明のタイヤ1は、一対のビード部10に夫々埋設されたビードコア11の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止された、少なくとも2枚のカーカスプライからなるカーカス12と、そのクラウン部外周にて下層から上層に順次位置する少なくとも2層(図示する例では4層)のベルト層15およびトレッド部20と、サイド部に位置するサイドウォール部30とを備えている。
【0015】
ここで、本発明においては、図示するカーカス12の複数枚のカーカスプライのコーティングゴムに金属微粉体を混入し、かつ、各プライ毎に金属微粉体の濃度が異なるようにすることにより、放射線照射による非破壊検査において各カーカスプライに混入された金属微粉体の濃度の差によりカーカスプライ同士間の境界を良好に認識することができるようになる。
【0016】
同様に、ベルト15の4層のベルト層のコーティングゴムに金属微粉体を混入し、かつ、各ベルト層毎に金属微粉体の濃度が異なるようにすることにより、放射線照射による非破壊検査において各ベルト層に混入された金属微粉体の濃度の差によりベルト層同士間の境界を良好に認識することができるようになる。
【0017】
混入すべき金属微粉体の種類は特に限定されるべきものではなく、X線等の放射線照射により検知可能なもので、かつ、ゴム組成物に影響を及ぼすことのないものであればよい。例えば、鉄、ニッケル、アルミニウム、銅等の金属またはこれらの合金の微粉体を適宜用いることができる。
【0018】
かかる金属微粉体の粒径は、好ましくは1.0mm以下である。この粒径が1.0mm以下であれば金属微粉体を混入しない従来の場合と同等の耐久性を確保することができる。しかし、1.0mmを超えるとカーカスプライ同士間またはベルト層同士間の境界面でのセパレーションが発生し易くなる。なお、金属微粉体の粒径が0.1mm以下であるとゴム組成物との混練が容易ではなくなるため、好ましくは0.1mm以上とする。
【0019】
また、カーカスプライまたはベルト層への金属微粉体の混入量は、好ましくは10重量%以下である。この混入量が10重量%以下であれば粒径の場合と同様に金属微粉体を混入しない従来の場合と同等の耐久性を確保することができる。しかし、10重量%を超えるとカーカスプライ同士間またはベルト層同士間の境界面でのセパレーションが発生し易くなる。
【0020】
本発明においては、カーカスプライに金属微粉末を混入する場合も、ベルト層に金属微粉末を混入する場合も、いずれの場合も隣接層間で金属微粉末の濃度を変えることが肝要である。その変え方は隣接間で徐々に濃度を変動させても、あるいは濃淡が交互となるようにしてもよく、要は、層間の境界を良好に認識することができるように濃度を変えればよい。
【0021】
なお、本発明に係るカーカスプライおよびベルト層のゴム組成物においては、加硫促進剤、硫黄、カーボンブラック等の他の充填剤、老化防止剤、軟化剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等のゴム業界で通常使用される配合剤を通常の配合量にて、適宜選択して配合することができる。
【0022】
本発明の非破壊検査方法は、上述の空気入りラジアルタイヤにX線等の放射線を照射することにより行う。装置としては、タイヤの非破壊検査方法において既知の装置を使用することができ、例えば、CTスキャン等のX線検査装置を好適に使用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
タイヤのベルト層に混入する鉄微粉末の濃度が5重量%と1重量%で交互となるようにして、重荷重用空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ:APR 46X17R20/30PR)を作製した。次いで、このタイヤに対し、CTスキャンのX線検査装置Toshiba(株)製、装置名:To−スキャナ24500・TIREで非破壊検査を実施した。その結果、各ベルト層に混入された金属微粉体の濃度の差によりベルト層同士間の境界を良好に認識することができた。
【0024】
次に、ベルト層に混入する金属微粉体の濃度および粒径と、ベルト層間のセパレーションとの関係について次の検討を行った。先ず、下記の表1に示す粒径を有する金属微粉体を同表に示す濃度で混入したベルト層A〜Eを試作した。次いで、これらベルト層A〜Eを同種同士で積層し、常法に従い加硫した後のセパレーション性を評価した。得られた結果を図2に示す。図2中、x軸線上は金属微粉体が混入されていない従来のベルト層の現行レベルの場合である。図2より、ベルト層に混入する金属微粉体の濃度および粒径がベルト層間のセパレーション性に影響を及ぼすことが分かる。
【0025】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一好適実施形態の重荷重用空気入りラジアルタイヤの片側部分断面図である。
【図2】混入する金属微粉体の濃度および粒径を変動させたベルト層とセパレーション性との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 タイヤ
10 ビード部
11 ビードコア
12 カーカス
15 ベルト層
20 トレッド部
30 サイドウォール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、該ビード部に夫々埋設されたビードコアの周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止された、少なくとも2枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部外周にて下層から上層に順次位置する少なくとも1層のベルト層およびトレッド部と、該カーカスのサイド部に位置するサイドウォール部とを備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記少なくとも2枚のカーカスプライのコーティングゴムに金属微粉体が混入され、かつ、各カーカスプライ毎に金属微粉体の濃度が異なることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
一対のビード部と、該ビード部に夫々埋設されたビードコアの周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止された、少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部外周にて下層から上層に順次位置する少なくとも2層のベルト層およびトレッド部と、該カーカスのサイド部に位置するサイドウォール部とを備える空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記少なくとも2層のベルト層のコーティングゴムに金属微粉体が混入され、かつ、各ベルト層毎に金属微粉体の濃度が異なることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
重荷重用である請求項1または2記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記金属微粉体の粒径が1.0mm以下である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記金属微粉体が10重量%以下で混入されている請求項1〜4のうちいずれか一項記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項記載の空気入りラジアルタイヤに放射線を照射することを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項7】
前記放射線がX線である請求項6記載の非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−76414(P2006−76414A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261882(P2004−261882)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】